特許第6472359号(P6472359)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6472359水系印刷転写固定システムのための低い剥離力を有するアンダーコート層
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472359
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】水系印刷転写固定システムのための低い剥離力を有するアンダーコート層
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20190207BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20190207BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20190207BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20190207BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20190207BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20190207BHJP
   C09D 183/12 20060101ALI20190207BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20190207BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   B41M5/00 132
   B41M5/00 100
   B41J2/01 123
   B41J2/01 101
   B41J2/01 121
   C09D7/40
   C09D201/00
   C09D183/04
   C09D5/02
   C09D183/12
   C09D11/326
   C09D5/00 D
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-184790(P2015-184790)
(22)【出願日】2015年9月18日
(65)【公開番号】特開2016-74206(P2016-74206A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2018年8月27日
(31)【優先権主張番号】14/504,707
(32)【優先日】2014年10月2日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グーチン・ソン
(72)【発明者】
【氏名】スーシア・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ゴードン・シスラー
(72)【発明者】
【氏名】エドワード・ジー・ザルツ
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−115854(JP,A)
【文献】 特開2012−196893(JP,A)
【文献】 特開2012−051124(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/050751(WO,A1)
【文献】 特開2012−091505(JP,A)
【文献】 特開2012−171216(JP,A)
【文献】 特開2006−274449(JP,A)
【文献】 特開2011−001675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00 − 5/52
B41J 2/01 − 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの親水性ポリマーと;
少なくとも1つの界面活性剤と;
少なくとも1つの吸湿剤と;
少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤と;
水とを含み、
前記少なくとも1つの親水性ポリマーは、ワックス状トウモロコシデンプンであり、前記少なくとも1つの非反応性シリコーンはポリエーテル修飾されたポリシロキサンである、インクジェットプリンタ用の犠牲コーティング組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤が、組成物の合計重量に対して0.001重量%〜2重量%の範囲の量で存在する、請求項1に記載の犠牲コーティング組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、少なくとも70%のジメチル,メチル(ポリエチレンオキシドアセテートで保護された)シロキサンを含む、請求項1に記載の犠牲コーティング組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1つの親水性ポリマーは、90重量%より多いアミロペクチンを含むワックス状トウモロコシデンプンから選択される、請求項1に記載の犠牲コーティング組成物。
【請求項5】
脱イオン水溶液の20℃での前記少なくとも1つの親水性ポリマーの粘度は3cpsから800cpsの範囲であり、前記溶液は、前記少なくとも1つの親水性ポリマー及び前記溶液中の脱イオン水の合計重量に対して5%の親水性ポリマーを含む、請求項1に記載の犠牲コーティング組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つの吸湿剤は、グリセリン、ソルビトール、ビニルアルコール、グリコール、キシリトール、マルチトール、ポリマーポリオール、グリセリルトリアセテート、グリコウリル、イオン性液体、及びこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の犠牲コーティング組成物。
【請求項7】
少なくとも1つの親水性ポリマーと;
少なくとも1つの界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウムと;
少なくとも1つの吸湿剤と;
少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤と;
水とを含
前記少なくとも1つの親水性ポリマーは、ワックス状トウモロコシデンプンであり、前記少なくとも1つの非反応性シリコーンはポリエーテル修飾されたポリシロキサンである、インクジェットプリンタ用の犠牲コーティング組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤が、組成物の合計重量に対して約0.001重量%〜約2重量%の範囲の量で存在する、請求項7に記載の犠牲コーティング組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、少なくとも約70%のジメチル,メチル(ポリエチレンオキシドアセテートで保護された)シロキサンを含む、請求項7に記載の犠牲コーティング組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1つの親水性ポリマーが、さらに、ポリ(ビニルピロリジノン)(PVP)、ポリ(エチレンオキシド)、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸セルロース、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール)のコポリマー、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)、ポリ(アクリル酸)、ポリメタクリレート、アクリルポリマー、無水マレイン酸コポリマー、スルホン酸化ポリエステルのうちの少なくとも1つを含む、請求項7に記載の犠牲コーティング組成物。
【請求項11】
前記少なくとも1つの親水性ポリマーは、さらに、ポリビニルアルコール、ビニルアルコールとアルケンモノマーのコポリマーのうちの少なくとも1つを含む、請求項7に記載の犠牲コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、間接的なインクジェットプリンタ(例えば、インクジェットプリンタ)とともに使用するための犠牲コーティング組成物、例えば、間接的なインクジェットプリンタの中間転写体の上で使用するための犠牲コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクによる間接的な印刷では、中間画像形成表面(ブランケットの形態であってもよい)に水性インクが吐出される。画像が媒体基材(例えば、紙シート)に転写固定される前に、ブランケットの上でインクが乾燥してもよく、または部分的に乾燥してもよい。優れた印刷品質を確保するために、ブランケットに吐出されるインク液滴は、乾燥の前に広がり、十分に融着することが望ましい。そうでなければ、インク画像は、ザラザラになったり、欠損したりするようである。広がらないと、印刷ヘッド中の欠けたインクジェットまたはうまく動かないインクジェットが、インク画像に縞模様を生じさせることもある。水性インクの広がりは、高エネルギー表面を有する材料によって促進され、従って、インクの広がりを促進するために、高い表面自由エネルギーを有するブランケットを使用することが望ましい。
【0003】
しかし、中間画像形成表面でインクが乾燥した後、または部分的に乾燥した後にブランケットから媒体基材へのインク画像の転写を促進するためには、比較的低い表面エネルギーを有する表面を有するブランケットが好ましい。低表面エネルギー材料は、インクの望ましい広がりを与えずに、画像受け入れ表面上での個々のインク液滴の「球状化」を促進する傾向がある。
【0004】
従って、間接的な画像転写プロセスに最適なブランケットは、濡れたインクの望ましい広がりおよび融着、乾燥または部分的に乾燥したインクの画像転写といった、濡れた画像の品質についての両課題に取り組まなければならない。第1の課題(濡れた画像の品質)は、水系インクを広げ、表面を濡らすような高表面エネルギーブランケットを好む。第2の課題(画像の転写)は、インクが乾燥したとき、インクがブランケット表面への最低限の引力を有し、媒体表面に転写することができるような低表面エネルギーのブランケットを好む。これら2つの矛盾する要求は、間接的な印刷プロセスにおける濡れ、剥離および転写という全プロセスを非常に困難なものにする場合がある。
【0005】
間接的なインクジェット印刷に加え、オフセットリソグラフィーは、今日、一般的な印刷方法であり、同様の課題を有し、本明細書に開示されるプロセスおよび組成物が想定される。典型的なリソグラフィープロセスでは、印刷プレートは、平板状、円柱形の表面またはベルトなどであってもよく、疎水性で親油性の材料から作られる「画像領域」と、親水性材料から作られる「非画像領域」を有するように作られる。画像領域は、印刷材料またはマーキング材料(例えば、インク)によって占められる最終的な印刷物(すなわち、標的基材)の領域に対応する領域であり、一方、非画像領域は、前記マーキング材料によって占められない最終的な印刷物の領域に対応する領域である。親水性領域は、一般的に湿し液と呼ばれる水系流体(例えば、水および少量のアルコールと、表面張力を下げるための他の添加剤および/または界面活性剤を含む)を受け入れ、この水系流体で簡単に濡れる。疎水性領域は、湿し液をはじき、インクを受け入れ、一方、親水性領域の上に作られる湿し液は、インクを拒絶する流体「剥離層」を形成する。従って、印刷プレートの親水性領域は、最終印刷物の印刷されていない領域、つまり「非画像領域」に対応する。
【0006】
インクを基材(例えば、紙)に直接転写してもよく、または、中間体表面、例えば、オフセット印刷システムのオフセット(またはブランケット)シリンダに塗布してもよい。オフセットシリンダは、基材のテクスチャに適合させることができる表面を有する適合させることが可能なコーティングまたはスリーブで覆われており、表面の山から谷までの深さは、画像形成プレート表面の山から谷までの深さよりもいくらか大きくてもよい。また、オフセットブランケットシリンダの表面粗さは、欠陥(例えば、斑点)のない基材に対し、もっと均一な印刷材料の層を運ぶのに役立つ。十分な圧力を使用し、オフセットシリンダから基材へと画像を転写させる。オフセットシリンダとインプレッションシリンダとの間で基材を挟むことで、この圧力が与えられてもよい。
【0007】
乾燥または無水のリソグラフィーまたはドライオグラフィーと呼ばれる、ある変形例において、プレートシリンダが、疎水性のシリコーンゴムでコーティングされ、物理的にパターン形成され、印刷画像のネガ画像を作成する。印刷材料は、すでに記載した従来のリソグラフィープロセスまたは「ウェット型」リソグラフィープロセスの場合のように、最初に湿し溶液を塗布することなく、プレートシリンダに直接塗布される。印刷材料は、インクを含み、ある程度の揮発性溶媒添加物を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。インクは、画像領域の上に優先的に堆積し、潜像を生成する。インク配合物中に溶媒添加剤が使用される場合、シリコーンゴム表面に対して優先的に拡散してもよく、それにより、印刷材料を拒絶し得る剥離層を生成する。シリコーンゴムの低表面エネルギーが、印刷材料の拒絶に加わる。潜像は、上述のように、再び、基材に転写されてもよく、または、オフセットシリンダに転写されてもよく、その後、基材に転写されてもよい。
【0008】
上述のインクジェット印刷技術およびリソグラフィー印刷技術は、特定の欠点を有する場合がある。例えば、従来のリソグラフィーシステムを可変印刷のために変更しようとする試みにおいて直面する問題の1つは、画像形成プレートまたはベルトからのインク転写効率が比較的低いことである。例えば、ある場合には、「再画像形成可能な」表面に塗布されるインクの約半分が、画像受け入れ媒体基材に実際に転写され、インクの他の半分は、プレートまたはベルト表面から洗浄され、除去される必要がある。この比較的低い効率に、従来リソグラフィー技術の変更を用い、可変データ印刷において、画像ごとのゴースト発生を避けるように、プレートまたはベルトの表面のインクを完全に拭き取るために、顕著な量の洗浄を必要とする場合があるという洗浄の問題が合わさる。
【0009】
さらに、汚染することなくインクを再生利用することができない限り、インクの有効費用は二倍になる。しかし、従来、非常に粘度が高いインクを再生利用することは非常に困難であり、それによって、印刷の有効費用が高くなり、インク廃棄に関連する費用が追加される。提案されるシステムは、インクの無駄を減らし、関連する費用を減らすために、十分に高い転写比率を与えるという点で、基準を満たしていない。印刷領域と非印刷領域との十分な分離、基材への転写能の増加を含め、プレートまたはベルト表面への最適な広がりを与えるインク組成物において、あるバランスを見出さなければならない。
【0010】
上述の課題のバランスをとるための潜在的な解決策を得るために、種々の手法が調べられてきた。これらの手法としては、例えば、ブランケット材料の選択、インクの設計および補助液を用いる方法が挙げられる。ブランケット材料の選択に関し、最適な剥離特性を与えることが知られている材料としては、シリコーン型、フルオロシリコーン、フルオロポリマー、例えば、Teflon(登録商標)、Viton(登録商標)および特定のハイブリッド材料が挙げられる。これらの材料は、比較的表面エネルギーが低い場合があるが、濡れ性が悪い場合がある。または、ポリウレタンおよびポリイミドを使用して濡れ性が高くなるが、インク剥離特性が犠牲になる。インクの主な性能属性は、印刷ヘッド内での性能であるため、これらの課題に対処するためにインク組成を調節することは、非常に困難であることがわかっている。例えば、インクの表面張力が高すぎる場合、適切に吐出されない場合がある。しかし、インクの表面張力が低すぎる場合、インクヘッドの全面に垂れる場合がある。
【0011】
提案されてきた1つの解決策は、濡れ性を高める犠牲コーティング、例えば、ポリビニルアルコールまたはデンプンを含む犠牲コーティングをブランケットに塗布することである。犠牲コーティング組成物を、中間転写体(ブランケット)に塗布してもよく、これを乾燥させ、固体膜を作成する。コーティングは、基材である中間転写体よりも表面エネルギーが高くてもよく、および/または親水性が高くてもよい。インク液滴を、犠牲コーティング組成物の上に画像状のパターンで放出してもよく、次いで、インクを少なくとも部分的に乾燥させ、ブランケットの上にインクパターンを作成してもよい。最後に、インクパターンおよび犠牲コーティング組成物を、ブランケットから基材(例えば、紙)に転写してもよい。
【0012】
しかし、ポリビニルアルコールおよびデンプンは、両方とも公知の接着剤である。従って、ポリビニルアルコールおよび/またはデンプンを含む犠牲コーティング組成物は、ブランケットをコーティングした場合、高い剥離力を有する場合がある。この高い剥離力によって、ポリビニルアルコールまたはデンプンに由来する犠牲コーティング組成物がブランケットに接着するため、紙が詰まり、および/または印刷プロセス中にインクが剥がれる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ブランケットに対して望ましくないほどの接着を起こさないポリビニルアルコールまたはデンプンに由来する犠牲コーティング組成物を実行するために、有利な特性(例えば、間接的な印刷プロセスで使用するための良好な濡れた画質)を維持しつつ、このような犠牲コーティング組成物で観察される高い剥離力を下げることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本明細書には、少なくとも1つの親水性ポリマーと;少なくとも1つの界面活性剤と;少なくとも1つの吸湿剤と;少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤と;水とを含む、犠牲コーティング組成物が開示される。
【0015】
特定の実施形態において、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、組成物の合計重量に対して約0.001%〜約2%、例えば、約0.01%〜約1%、約0.05%〜約0.5%、または約0.1%〜約0.3%の範囲の量で存在してもよい。特定の実施形態において、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、ポリエーテル修飾されたポリシロキサンおよび非反応性シリコーングリコールコポリマーから選択されてもよい。特定の例示的な実施形態において、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、少なくとも約80%のジメチル,メチル(ポリエチレンオキシドアセテートで保護された)シロキサンを含んでいてもよく、または、特定の実施形態において、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、約20%未満のポリエチレングリコールモノアリルエーテルアセテートを含んでいてもよい。
【0016】
本明細書には、(1)ポリシロキサンゴムおよびフッ素化ポリマーのうち少なくとも1つを含む第1基材と;(2)第1基材の上部にあり、少なくとも1つの親水性ポリマー;少なくとも1つの界面活性剤;少なくとも1つの吸湿剤;少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤;および水を含む犠牲コーティングを含む第2の基材とを含む、ブランケット材料とを含む、転写固定印刷に適したブランケット材料も開示される。
【0017】
さらに、本明細書には、(1)中間転写体を備えるインクジェット印刷装置にインク組成物を提供する工程と;(2)中間転写体に犠牲コーティング組成物を塗布し、この犠牲コーティング組成物が、少なくとも1つの親水性ポリマー;少なくとも1つの界面活性剤;少なくとも1つの吸湿剤;少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤;および水を含む工程と;(3)犠牲コーティング組成物の上に画像状のパターンにインク液滴を放出する工程と;(4)インクを少なくとも部分的に乾燥させ、中間転写体の上にインクパターンを作成する工程と;(5)インクパターンおよび犠牲コーティング組成物を、中間転写体から基材へと転写する工程とを含む、間接的な印刷プロセスも開示される。特定の実施形態において、基材は、紙であり、特定の実施形態において、インクパターンは、乾燥インクの合計重量を基準として、約5%未満の水または溶媒を含む。
【0018】
以下の一般的な概要および以下の詳細な記載は、単なる例示であり、本開示の制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本明細書の実施例1に記載されるように、サンプルAでコーティングされた2つのブランケットと、サンプルBでコーティングされた2つのブランケットについて測定したときの剥離力を比較した棒グラフである。
図2図2は、本明細書の実施例1に記載されるように、サンプルCでコーティングされたブランケットと、サンプルDでコーティングされたブランケットについて測定したときの剥離力を比較した棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書には、(i)親水性ポリマー、例えば、ポリビニルアルコール、ビニルアルコールとアルケンモノマーのコポリマー、(ii)デンプンからなる群から選択される少なくとも1つのバインダーと;少なくとも1つの界面活性剤と;少なくとも1つの吸湿剤と;少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤と;および水とを含む犠牲コーティング組成物が開示される。
【0021】
さらに、本明細書には、少なくとも1つの親水性ポリマーと;少なくとも1つの界面活性剤と;少なくとも1つの吸湿剤と;少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤と;水とを含む、犠牲コーティング組成物も開示される。特定の例示的な実施形態において、少なくとも1つの親水性ポリマーは、加水分解度が約95%未満のポリビニルアルコール、またはポリビニルアルコールコポリマー、例えば、ポリ(ビニルアルコール−コ−エチレン)から選択されてもよい。
【0022】
本明細書に開示される犠牲コーティング組成物は、すでに開示されている犠牲剥離組成物よりもかなり低い剥離力を有するだろう。理論によって束縛されることを望まないが、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、犠牲コーティング組成物が堆積すると、犠牲コーティング組成物とブランケットとの剥離力を下げるのに役立つと考えられる。犠牲コーティング組成物は、ブランケットをコーティングしたとき、これを乾燥させ、フッ素化ポリマーから作られるブランケットに対する良好な濡れ能を示し、かなり小さな剥離力を示す膜を生成し得る。犠牲コーティング組成物の剥離力は、本明細書で引きはがし力とも呼ばれるが、当該技術分野で知られる任意の手段によって測定されてもよい。例えば、サンプル基材(例えば、紙)をLab Master(登録商標)Slip and Friction機に取り付け、室温、180°で、剥離力を測定してもよい。
【0023】
本明細書で使用する場合、剥離力は、犠牲コーティング組成物(乾燥していてもよく、または部分的に乾燥していてもよい)を中間転写体(例えば、ブランケット)から分離するのに必要な力であると定義されてもよい。剥離力は、例えば、g/cmで測定されてもよい。特定の実施形態において、本明細書に開示する犠牲コーティング組成物は、剥離力が約20g/cm未満、例えば、約10g/cm〜約20g/cm、約15g/cm〜約20g/cm、または約15g/cm〜約17g/cmであってもよい。特定の例示的な実施形態において、本明細書に開示する犠牲コーティング組成物は、剥離力が約15g/cm未満、例えば、約12g/cm未満、約10g/cm未満、または約10g/cmであってもよい。少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤の添加によって、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤を含まない犠牲コーティング組成物と比較して、犠牲コーティング組成物の剥離力が下がるだろう。例えば、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤が存在すると、犠牲コーティング組成物の剥離力が、少なくとも約2分の1、例えば、少なくとも約3分の1に下がるだろう。
【0024】
本明細書で開示するように、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、組成物の合計重量に対し、犠牲コーティング組成物中に約0.001重量%〜約2重量%の範囲の量で存在していてもよい。例えば、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、組成物の合計重量に対し、犠牲コーティング組成物中に約0.01重量%〜約1重量%、約0.05重量%〜約0.5重量%または約0.1〜約0.3重量%の量で存在していてもよい。ある例示的な実施形態において、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、組成物の合計重量に対し、犠牲コーティング組成物中に約0.045重量%の量で存在していてもよい。
【0025】
本明細書で使用する場合、「非反応性シリコーン剥離剤」という用語は、一般的に本明細書に開示する犠牲コーティング組成物中の他の成分との重合反応または他の様式での化学的な相互作用をしないシリコーン系ポリマーを指す。少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、分子あたり、複数のオルガノシロキサン基またはポリオルガノシロキサン基を含んでいてもよい。この用語は、限定されないが、オルガノシロキサン基のみ、またはポリオルガノシロキサン基のみをポリマー鎖に実質的に含み、その骨格が、ポリマー鎖中にオルガノシロキサン基およびポリオルガノシロキサン基を含むポリマーを含んでいてもよい。本明細書に開示する少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、少なくとも1つの修飾された側鎖および/または少なくとも1つの修飾された末端基も含んでいてもよい。特定の実施形態において、少なくとも1つの側鎖は、例えば、ポリエーテル、アラルキル、フルオロアルキル、長鎖アルキル、長鎖アラルキル、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミドおよびフェニル修飾された側鎖から選択されてもよい。特定の実施形態において、非反応性シリコーン剥離剤は、二重に修飾された末端基、例えば、ポリエーテル修飾された末端基およびポリエーテル−メトキシ修飾された末端基から選択される二重に修飾された末端基を有していてもよい。
【0026】
本明細書で使用する場合、「非反応性シリコーン剥離剤」という用語は、70%より多いポリエーテル修飾されたポリシロキサンまたはポリエーテル修飾された有機ポリシロキサン化合物、例えば、ポリエーテル修飾されたメチルアルキルポリシロキサンコポリマー、ポリエーテルトリシロキサン、ポリエーテル−ポリメチルシロキサンコポリマー、ジメチル,メチル(ポリエチレンオキシドアセテートで保護された)シロキサン、ヘプタメチルトリシロキサン、シリコーングリコールコポリマーなどを含んでいてもよい。
【0027】
本明細書に開示する特定の実施形態において、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、ポリエーテル修飾されたポリシロキサンから選択される。特定の実施形態において、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、非反応性シリコーングリコールコポリマーから選択される。少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、少なくとも約70%のジメチル,メチル(ポリエチレンオキシドアセテートで保護された)シロキサン(例えば、CAS番号70914−12−4)を含んでいてもよい。特定の例示的な実施形態において、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、約20%未満のポリエチレングリコールモノアリルエーテルアセテート(例えば、CAS番号27252−87−5)を含んでいてもよい。
【0028】
少なくとも1つのバインダーは、親水性ポリマー、例えば、ポリビニルアルコールおよびポリビニルアルコールコポリマーおよびデンプンから選択されてもよい。例えば、特定の実施形態において、少なくとも1つのバインダーは、加水分解度が約95%未満のポリビニルアルコールおよびポリビニルアルコールコポリマーから選択されてもよく、またはポリ(ビニルアルコール−コ−エチレン)から選択されてもよい。ポリビニルアルコールに由来する犠牲コーティング組成物は、デンプンに由来する犠牲コーティング組成物と比較して、乾燥したとき、または部分的に乾燥したとき、ブランケットに対する濡れ能がかなり良く、連続した均一な薄膜をかなり容易に作成するだろう。さらに、ポリビニルアルコールに由来する犠牲コーティング組成物は、デンプンに由来する犠牲コーティング組成物と比較して、優れた機械特性を有するだろう。本明細書に開示するポリビニルアルコールに由来する犠牲コーティング組成物は、インクの広がりをもっと均一に制御し、それによって、改良された画質(例えば、改良された液滴均一性、ラインの鮮明さなど)が得られるだろう。さらに、ポリビニルアルコールに由来する犠牲コーティング組成物は、デンプンに由来する犠牲コーティング組成物と比較して、もっと長い貯蔵寿命を有するだろう。しかし、ポリビニルアルコールおよびデンプンは、両方とも、犠牲コーティング組成物に使用するために環境的に優しいと考えられる。
【0029】
少なくとも1つの親水性ポリマーは、本開示の組成物においてバインダーとして作用してもよい。少なくとも1つの親水性ポリマーの例としては、ポリ(ビニルピロリジノン)(PVP)、PVPのコポリマー、ポリ(エチレンオキシド)、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸セルロース、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール)のコポリマー、ポリ(エチレングリコール)のジブロックコポリマー、ポリ(エチレングリコール)のトリブロックコポリマー、ポリビニルアルコール(PVOH)、PVOHのコポリマー、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)、ポリ(アクリル酸)、ポリメタクリレート、アクリルポリマー、無水マレイン酸コポリマー、スルホン酸化ポリエステル、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0030】
少なくとも1つの親水性ポリマーは、3000〜300,000の適切な重量平均分子量を有していてもよい。一実施形態において、少なくとも1つの親水性ポリマーは、中間転写体の上で犠牲コーティングを作成するのに適切な粘度を与えることができる。例えば、約5重量%の少なくとも1つの親水性ポリマーのDI水溶液は、20℃で、粘度は、約2cp〜約800cp、例えば、約3cp〜約500cp、または約10cp〜約100cpであってもよく、重量%は、少なくとも1つの親水性ポリマーと水の合計重量に対する。
【0031】
少なくとも1つの親水性ポリマーは、優れた濡れた膜形成特性および良好な水保持特性を有する。少なくとも1つの親水性ポリマーは、水および親水媒体に100%の溶解度を有することができる。親水性ポリマーとして、このポリマーから作られるコーティング膜は、良好な水保持特性を示すことができ、ブランケット上でのインクの広がりを補助することができ、例えば、液体コーティング組成物を基材の上で半分乾燥させるか、または乾燥させた後、均一な膜形成特性を有することができる。それに加え、実施形態の少なくとも1つの親水性ポリマー系配合物の貯蔵寿命は、ある種のポリマー(例えば、デンプン)と比較して、比較的長いだろう。親水性ポリマーの機械特性は、デンプンと比較したとき、顕著に良好であろう。
【0032】
適切な親水性ポリマーのさらなる例としては、ポリビニルアルコールコポリマー、例えば、ポリ(ビニルアルコール−コ−エチレン)が挙げられるだろう。一実施形態において、ポリ(ビニルアルコール−コ−エチレン)は、エチレン含有量が約5mol%〜約30mol%の範囲であってもよい。ポリビニルコポリマーの他の例としては、ポリ(アクリル酸)−ポリ(ビニルアルコール)コポリマー、ポリビニルアルコール−アクリル酸−メタクリル酸メチルコポリマー、ポリ(ビニルアルコール−コ−アスパラギン酸)コポリマーなどが挙げられる。
【0033】
本明細書で開示する特定の例示的な実施形態において、ポリビニルアルコールの加水分解度は、約75%〜約95%の範囲であってもよい。ポリビニルアルコールの名目上の分子量は、約8,000〜約30,000の範囲であってもよい。特定の実施形態において、4%ポリビニルアルコール溶液の約20℃での粘度は、約3cp〜約30cpの範囲である。特定の例示的な実施形態において、少なくとも1つのバインダーは、ポリビニルアルコールコポリマー、例えば、エチレン含有量が約5〜約30モル%の範囲のポリ(ビニルアルコール−コ−エチレン)から選択されてもよい。
【0034】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つのポリビニルアルコールの加水分解度は、約75%〜約95%、例えば、約80%〜約90%、または約85%〜約88%の範囲であってもよい。少なくとも1つのポリビニルアルコールの名目上の分子量は、約8,000〜約30,000の範囲であってもよい。ポリビニルコポリマーは、例えば、エチレン含有量が約5〜約30モル%の範囲のポリ(ビニルアルコール−コ−エチレン)であってもよい。4%ポリビニルアルコール溶液の20℃での粘度は、約3cp〜約30cpの範囲であってもよい。
【0035】
ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルの加水分解によって、部分的に加水分解されたもの(約87%〜約89%)、中程度に加水分解されたもの(約91%〜約95%)、完全に加水分解されたもの(約98%〜約98.8%)、または過剰に加水分解されたもの(約99.3%を超える)から、製造されてもよい。特定の例示的な実施形態において、本開示の組成物で使用されるポリビニルアルコールは、加水分解度が約75%〜約95%、例えば、約85%〜約90%、または約87%〜約89%の範囲である。
【0036】
ポリビニルアルコールまたはそのコポリマーは、任意の適切な分子量を有していてもよい。一実施形態において、重量平均分子量は、約8,000〜約50,000、例えば、約10,000〜約40,000、または約13,000〜約23,000の範囲である。
【0037】
一実施形態において、ポリビニルアルコールは、中間転写体の上で犠牲コーティングを作成するのに適切な粘度を与えることができる。例えば、約4重量%ポリビニルアルコール脱イオン水溶液において、20℃で、粘度は、約2cp〜約30cp、例えば、約3cp〜約15cp、または約3cp〜約5cpの範囲であってもよく、重量%は、ポリビニルアルコールと水の合計重量に対する。
【0038】
ポリビニルアルコールの機械特性は、特定の実施形態において、デンプンと比較したとき、優れているだろう。さらに、ポリビニルアルコールは、親水性ポリマーであり、良好な水保持特性を有する。親水性ポリマーとして、ポリビニルアルコールから作られるコーティング膜は、優れた水保持特性を示し、従って、ブランケットの上でのインクの広がりを補助する。その優れた広がり性に起因して、ポリビニルアルコールを用いて配合されたコーティングは、合計固体保持量の程度の顕著な低下を達成するだろう。これにより、コーティング膜の性能を改良しつつ、実質的な費用の節約を与えるだろう。それに加え、ポリビニルアルコール系配合物の貯蔵寿命は、顧客の所に到達するのに十分に長くてもよく、ポリビニルアルコールも、環境的に優しいと考えられる。
【0039】
親水性ポリマーとして、ポリビニルアルコールは、優れた水保持特性を示す。特定の実施形態において、最適なコーティングレオロジーを与え得る限り、低粘度グレードのポリビニルアルコール、例えば、Sekisui(登録商標)Celvol 103、107、502、203および205ポリビニルアルコールを使用してもよいことが想定される。以下の表1は、本明細書に開示する犠牲コーティング組成物の特定の実施形態に使用可能な特定の例示的なポリビニルアルコールを列挙する。
【0040】
【表1】
【0041】
想定され得る他のポリビニルコポリマーとしては、エチレン含有量が約1〜約30モル%の範囲のポリ(ビニルアルコール−コ−エチレン)が挙げられる。
【0042】
ポリビニルアルコールを含有するコーティング組成物の化学構造を、その下にある中間転写体表面から犠牲コーティングの濡れ能および剥離特徴を微細に調節することができる。このことは、例えば、1つ以上の吸湿性材料および/または1つ以上の界面活性剤をコーティング組成物に使用することによって達成されてもよい。
【0043】
特定の実施形態において、本明細書に開示する犠牲コーティング組成物は、デンプンから選択される少なくとも1つのバインダーと;少なくとも1つの界面活性剤と;少なくとも1つの吸湿性材料と;少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤と;水とを含んでいてもよい。特定の実施形態において、デンプンは、非イオン性ワックス状トウモロコシデンプンおよびカチオン性ワックス状トウモロコシデンプンのうち少なくとも1つから選択されてもよい。約25℃でのデンプンの粘度は、デンプンの固形濃度約4%で、約1000cp未満であってもよい。
【0044】
任意の適切な吸湿剤を使用してもよい。吸湿剤は、その周囲から水を吸収することができる物質、例えば、保水剤を含んでいてもよい。一実施形態において、吸湿性材料は、可塑剤としても官能化された化合物であってもよい。従って、本明細書で使用する場合、「吸湿性可塑剤」という用語は、官能基化され、可塑剤としての特徴を有し得る吸湿性材料を指す。特定の実施形態において、少なくとも1つの吸湿性材料は、グリセロール/グリセリン、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ポリマーポリオール、例えば、ポリデキストロース、グリセリルトリアセテート、ビニルアルコール、グリコール、例えば、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ブチレングリコール、尿素およびα−ヒドロキシ酸(AHA)から選択される吸湿性可塑剤であってもよい。本明細書に開示する特定の実施形態において、少なくとも1つの吸湿性材料は、グリセロール、グリセリン、ソルビトール、グリコール、例えば、ポリエチレングリコールおよびこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。1種類の吸湿性材料を使用してもよい。または、複数の吸湿性材料、例えば、2種類、3種類またはそれより多い吸湿性材料を使用してもよい。
【0045】
任意の適切な界面活性剤を使用してもよい。適切な界面活性剤の例としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、およびこれらの混合物が挙げられる。非イオン性界面活性剤は、HLB値が約4〜約14の範囲であってもよい。1種類の界面活性剤を使用してもよい。または、複数の界面活性剤、例えば、2種類、3種類またはそれより多い界面活性剤を使用してもよい。例えば、値が約4〜8の低HLBの非イオン性界面活性剤と、値が約10〜約14の高HLBの非イオン性界面活性剤との混合物は、良好な濡れ性能を示し、これを使用してもよい。
【0046】
特定の実施形態において、少なくとも1つの界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)(ドデシル硫酸ナトリウムとしても知られる)であってもよい。本明細書で開示するように、少なくとも1つの界面活性剤は、二級アルコールエトキシレートおよび二級分枝鎖アルコールエトキシレートから選択されてもよい。特定の例示的な実施形態において、少なくとも1つの界面活性剤は、HLB値が約12のTergitol(登録商標)15−s−7およびHLB値が約13のTergitol(登録商標)TMN−6から選択されてもよい。
【0047】
適切な界面活性剤は、アニオン性、非イオン性およびカチオン性の界面活性剤を含んでいてもよい。特定の実施形態において、少なくとも1つのアニオン性界面活性剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、Dextrol OC−40、Strodex tredox PK 90、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸カリウム、ミレス硫酸ナトリウムおよびジオクチルスルホコハク酸ナトリウムを使用してもよい。特定の実施形態において、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、例えば、Surfynol 104シリーズ、Surfynol 400シリーズ、Dynol 604、Dynol 810、Envirogem(登録商標)360、二級アリールアルコールエトキシレートシリーズ、例えば、Tergitol(登録商標)15−s−7、Tergitol(登録商標)15−s−9、TMN−6、TMN−100xおよびTergitol(登録商標)NP−9およびTriton X−100などを使用してもよい。特定の実施形態において、カチオン性界面活性剤、例えば、Chemguard S−106A、Chemguard S−208MおよびChemguard S−216Mを使用してもよい。フッ素化界面活性剤またはシリコーン界面活性剤、特定の実施形態において、例えば、PolyFox(登録商標)TMPF−136A、156Aおよび151N、Chemguard S−761pおよびS−764p、Silsurf(登録商標)A008、Siltec C−408、BYK 345、346、347、348および349およびポリエーテルシロキサンコポリマー、例えば、TEGO Wet−260、270および500などを使用してもよい。ある種の両性フッ素化界面活性剤、例えば、アルキルベタインフルオロ界面活性剤およびアルキルアミンオキシドフルオロ界面活性剤、例えば、Chemguard S−500およびChemguard S−111も、特定の実施形態において使用するために想定される。以下の表2は、犠牲コーティング組成物に組み込まれてもよい、本明細書に開示する犠牲コーティング組成物で使用することが考えられ得る例示的な界面活性剤を列挙する。
【0048】
【表2】
【0049】
本明細書で開示する実施形態は、フッ素化ポリマー基材に対する良好な濡れ能、良好なインク保持性、濡れ性および広がり性、およびさらに改良された転写特性を有する。
【0050】
本明細書で開示する特定の実施形態において、少なくとも1つの親水性ポリマー;少なくとも1つの吸湿剤;少なくとも1つの界面活性剤、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤;および水を含む成分を混合することによって、犠牲コーティング組成物が作られてもよい。
【0051】
さらに、本明細書には、ポリシロキサンゴムまたはフッ素化ポリマーで作られる第1基材と、少なくとも1つの親水性ポリマー;少なくとも1つの吸湿剤;少なくとも1つの界面活性剤および少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤を含む組成物を含む犠牲コーティングとを含む、転写固定プロセスに適したブランケット材料も開示される。
【0052】
さらに、本明細書には、少なくとも1つの親水性ポリマー;少なくとも1つの吸湿剤;少なくとも1つの界面活性剤および少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤を含む組成物を含む犠牲コーティングを用い、ブランケットをコーティングするプロセス、例えば、ブランケットを用いる転写固定印刷プロセスが開示される。特定の実施形態において、少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤を含む本明細書に開示する犠牲コーティング組成物の調製は、犠牲コーティング組成物を調製する工程と、ブランケット、例えば、フルオロシリコーンブランケットを犠牲コーティング組成物でコーティングする工程の少なくとも2つの工程を含む。
【0053】
本明細書で使用する場合、乾燥した層または乾燥したコーティングとの言及は、液体担体のすべてまたはかなりの部分が乾燥プロセスによって組成物から除去された後、親水性組成物の配置を指す。本明細書に記載されるように、間接的なインクジェットプリンタは、親水性組成物の層を塗布するために、液体担体(例えば、水)を用い、中間転写体表面の上に親水性組成物の層を作成する。液体担体は、親水性組成物を画像受け入れ表面に運び、画像受け入れ表面の上に均一な親水性組成物の層を作成するための機構として使用される。
【0054】
最初に、犠牲コーティング組成物は、中間転写体に塗布され、これが乾燥され、または半分乾燥され、膜を生成する。コーティングは、通常は低表面エネルギー材料、例えば、ポリシロキサン、例えば、ポリジメチルシロキサンまたは他のシリコーンゴム材料、フルオロシリコーン、Teflon(登録商標)、ポリイミドまたはこれらの組み合わせであるである基材である中間転写体よりも高い表面エネルギーおよび/または高い親水性を有することができる。
【0055】
乾燥プロセスによって、水性インクの粘度を高めてもよく、水性インクの稠度を、低粘度の液体から高粘度の接着性材料へと変える。乾燥プロセスは、インクの厚みも小さくするだろう。特定の実施形態において、乾燥プロセスは、インクが、インク重量の約5重量%未満の水または他の溶媒、例えば、約2重量%未満の水、またはさらに約1重量%未満の水または他の溶媒を含むように、十分な水を除去してもよい。
【0056】
本明細書に開示する特定の実施形態において、少なくとも1つの親水性ポリマー;少なくとも1つの吸湿剤;少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤および少なくとも1つの界面活性剤を含む成分を混合することによって、犠牲コーティング組成物を製造してもよい。
【0057】
犠牲コーティングの成分を任意の適切な様式で混合し、中間転写体にコーティング可能な組成物を作成することができる。上述の成分に加え、混合物は、他の成分、例えば、溶媒および殺生物剤を含んでいてもよい。例えば、殺生物剤は、Acticides(登録商標)CT、Acticides(登録商標)LA 1209およびActicides(登録商標)MBSを任意の適切な濃度、例えば、約0.1重量%〜約2重量%で含んでいてもよい。適切な溶媒の例としては、水、イソプロパノール、MEK(メチルエチルケトン)およびこれらの混合物が挙げられるだろう。
【0058】
これらの成分を任意の適切な量で混合してもよい。例えば、少なくとも1つの親水性ポリマーを、コーティング混合物の合計重量を基準として、約0.5重量%〜約30重量%、または約1重量%〜約10重量%、または約1.5重量%〜約5重量%の量で加えてもよい。少なくとも1つの界面活性剤は、コーティング混合物の合計重量を基準として、約0.1重量%〜約4重量%、または約0.3重量%〜約2重量%、または約0.2重量%〜約0.5重量%の量で存在していてもよい。少なくとも1つの吸湿剤は、コーティング混合物の合計重量を基準として、約0.5重量%〜約30重量%、または約5重量%〜約20重量%、または約10重量%〜約15重量%の量で存在していてもよい。少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤は、約0.01%〜約1%、または約0.05%〜約0.5%、または約0.1%〜0.3%の量で存在していてもよい。
【0059】
本開示の組成物を使用し、任意の適切な基材の上に犠牲コーティングを作成することができる。限定されないが、浸漬コーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スタンプ印刷、ダイ押出成型コーティング、フレキソコーティングおよびグラビアコーティング、および/またはブレード技術を含め、任意の適切なコーティング方法を使用してもよい。例示的な実施形態において、適切な方法を使用し、中間転写体を液体犠牲コーティング組成物でコーティングすることができ、例えば、アニロックスローラーを用い、または空気噴霧デバイス、例えば、エアブラシまたは自動化された空気/液体噴霧器をスプレーコーティングに使用してもよい。別の例において、プログラム可能なディスペンサを使用し、コーティング材料を塗布し、フローコーティングを行うことができる。
【0060】
本明細書に開示する特定の実施形態において、最初に、犠牲コーティング組成物を濡れたコーティングとして中間転写体に塗布または配置してもよい。特定の実施形態において、濡れたコーティングを、使用する材料またはプロセスに依存して、乾燥または硬化に適した温度で加熱してもよい。例えば、濡れたコーティングを、約30℃〜約200℃の範囲の温度で約0.01秒〜約100秒、例えば、約0.1秒〜約60秒加熱してもよい。
【0061】
特定の例示的な実施形態において、乾燥プロセスおよび硬化プロセスの後、犠牲コーティングは、厚みが約0.01マイクロメートル〜約10マイクロメートル、例えば、約0.02マイクロメートル〜約5マイクロメートル、または約0.05マイクロメートル〜約1マイクロメートルの範囲であってもよい。
【0062】
一実施形態において、犠牲コーティングは、中間転写体の主要な表面の一部を覆ってもよい。中間転写体の主要な外側表面は、例えば、ポリシロキサン、フルオロ−シリコーン、フルオロポリマー、例えば、Viton(登録商標)、Teflon(登録商標)などを含んでいてもよい。
【0063】
本明細書で開示するように、当該技術分野で知られているプロセスと比べて、本明細書で開示する実施形態によって達成される特定の利点が存在する。例えば、本明細書に開示するような少なくとも1つの非反応性シリコーン剥離剤を含む犠牲コーティング組成物は、例えば、剥離力を下げることによって、転写融合印刷プロセス中の犠牲層の性能を高めるだろう。さらに、性能を高める能力によって、処理費用が下がるだろう。本明細書に開示する特定の転写プロセスによれば、犠牲コーティング組成物は、印刷プロセス中に紙が詰まる可能性を下げてもよく、さらに、例えば、中間転写体の洗浄の必要性を下げることによって、改良された印刷効率を可能にするだろう。本明細書に開示する犠牲コーティング組成物は、転写温度でレオロジー特性を独立して制御してもよく、また、粘度の上昇を最低限にしつつ、犠牲組成物層の固体保持量を高めてもよい。
【0064】
特段の指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用されるあらゆる数字は、そのように述べられているか否かにかかわらず、あらゆる場合に「約」という用語で修正されていると理解すべきである。本明細書および特許請求の範囲で使用される正確な値は、任意の特定の終点の範囲内にあるあらゆる範囲および部分的な範囲を使用するように、本開示のさらなる実施形態を形成することも理解すべきである。実施例に開示される数値範囲の正確さを確保するための努力がはらわれた。しかし、任意の数値は、固有に、それぞれの測定技術で見出される標準偏差から生じる特定の誤差を含む場合がある。
【0065】
本明細書で使用する場合、「その(the)」「1つの(a)」または「1つの(an)」の使用は、「少なくとも1つ」を意味し、矛盾する内容が明らかに示されていない限り、「たった1つ」に限定されるべきではない。
【0066】
上の説明および以下の実施例は両方とも例示的であり、単なる説明であり、制限的であることを意図していないことが理解されるべきである。それに加え、工程が開示されている場合、明示的に述べられていない限り、その工程が、その順序で行われる必要はないことを注記しておく。
【0067】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、制限的であることを意図しておらず、むしろ本開示の実施形態を説明するものである。
【0068】
他の実施形態は、明細書および本開示の実施を考慮すれば、当業者には明らかであろう。
【実施例】
【0069】
以下の実施例は、本開示を限定することを意図していない。
【0070】
実施例1
実施例1A−ポリビニルアルコール溶液の調製
固体含有量が約5%〜約30%のポリビニルアルコール(PVOH)溶液を、脱イオン水を用いて調製した。塊の生成を避けるために、攪拌しつつ、PVOH粉末を冷水に加えた。粉末が完全に分散したら、混合物を、ポリマーが溶解する温度(使用するPVOHのグレードによって、約85℃〜約98℃の範囲)まで加熱した。PVOHが完全に溶解するまで、この温度で混合を続けた。材料のグレードおよび攪拌システムの効率に依存して、完全な溶解を達成するのに、ある程度の時間がかかるだろう。
【0071】
実施例1B−ポリビニルアルコールに由来するアンダーコート組成物
2種類の犠牲コーティング組成物を調製した。組成物にシリコーン剥離剤を入れることなく、サンプルAをコントロール組成物として製造し、サンプルBは、約0.045%のDow Corning(登録商標)57添加剤(非反応性シリコーングリコールコポリマーを含む液体シリコーン剥離剤)を含んでいた。コントロールサンプルA犠牲コーティングを、4.5%のPVOH 203、15%のグリセロール、0.3%のSLSおよび80.2%の脱イオン水を含む溶液を混合することによって調製した。4.5%のPVOH 203、15%のグリセロール、0.3%のSLS、0.045%のDow Corning(登録商標)57添加剤および80.155%の脱イオン水を含む溶液を混合することによって、実験サンプルBの犠牲コーティングを調製した。
【0072】
実施例1C−デンプンに由来する犠牲コーティング組成物
デンプンの糊化は、水および熱存在下、デンプン分子の分子間結合を破壊し、水素結合部位(ヒドロキシル水素および酸素)がもっと多くの水と係合することができるようにするプロセスである。これにより、デンプン顆粒が不可逆的に溶解する。
【0073】
固体含有量が約5%〜約35%のデンプン溶液を、脱イオン水を用いて調製した。次いで、この溶液を約93℃〜約98℃まで加熱し、この温度で約15〜約20分間維持した。
【0074】
2種類のデンプンに由来する犠牲コーティング組成物を調製した。サンプルCは、組成物にシリコーン剥離剤を入れずに、コントロール組成物として製造し、サンプルDは、約0.045%のDow Corning(登録商標)57添加剤を含んでいた。4.5%のCargill Caliber 180デンプン、15%のグリセロール、0.3%のSLSおよび80.2%の脱イオン水を含む溶液を混合することによって、コントロールサンプルCの犠牲コーティングを調製した。4.5%のCargill Caliber 180デンプン、15%のグリセロール、0.3%のSLS、0.045%のDow Corning 57添加剤および80.155%の脱イオン水を含む溶液を混合することによって、実験サンプルDの犠牲コーティングを調製した。
【0075】
実施例1D−コーティングプロセス
フッ素化ポリマーFKMエラストマーDaikin G621から、アミノシラン AO700を架橋剤として用い、ブランケット基材を製造した。最初に、流れる熱水を用いて洗浄し、次いで、IPAで拭き取った。次いで、このブランケットをホットプレートに置き、50℃に設定した。ブランケットの表面温度が約50℃に達した後、アニロックスロール(165Q13)を用い、このブランケットに対し、犠牲コーティング組成物溶液を手動でコーティングした。ブランケットをホットプレートに約1分間放置し、コーティングした薄い膜を乾燥させた。サンプルA、サンプルB、サンプルCおよびサンプルDのすべてについて、このプロセスを繰り返した。
【0076】
実施例1E−光学顕微鏡画像
犠牲コーティング組成物に対するインクの良好な濡れ性および広がり性を有するために、この薄い膜が連続かつ均一であることを確保することが望ましく、このことは、虹効果から観察することができる。G621ブランケット基材にコーティングされた膜の光学顕微鏡(OM)画像を撮影した。コントロール(サンプルAおよびC)およびDow Corning(登録商標)を含む配合物57添加剤剥離剤(サンプルBおよびD)のOM画像は、すべて優れた膜均一性を示した。
【0077】
実施例1F−剥離力測定
配合物の剥離力を測定するために、コーティングプロセス中、Xerox(登録商標)Digital Color Elite Gloss(DCEG)紙の1.5インチ幅の試験片を、上述のような乾燥した膜の上部で加圧した。別のアニロックスロールを使用し、紙を前後に5回、穏やかに加圧した。次いで、サンプル紙をLab Master(登録商標)Slip and Friction機に取り付けた。室温で、「デモ」モードを使用し、180°で剥離力を測定した。それぞれのサンプルについて3回ずつ行った。
【0078】
実施例1G−剥離力測定の結果
剥離剤(例えば、Dow Corning(登録商標)57添加剤)を加えることによって、図1および図2に示すように、剥離力は、潤滑剤を含まないコントロールと比較して、約3分の1の低下を示した。
【0079】
図1は、PVOHに由来する犠牲コーティング組成物(コントロールサンプルA 対 実験サンプルB)について、2種類のG621ブランケット(繰り返し1および繰り返し2)で測定した剥離力を示す棒グラフである。
【0080】
図2は、Cargill Cailber 180デンプンに由来する配合物(コントロールサンプルCおよび実験サンプルD)について、G621ブランケットで測定した剥離力を示す棒グラフである。
【0081】
Cargill Caliber 180デンプンをバインダーとして含み、シリコーン剥離剤を加えなかったサンプルCは、引きはがし力が約15g/cm〜約17g/cmの範囲であった。サンプルA(シリコーン剥離剤を加えなかったPVOHに由来する配合物)は、引きはがし力が約28g/cm〜約30g/cmの範囲であった。サンプルAの高い引きはがし力から、ブランケットから適切に剥離し得ない組成物が得られ、印刷プロセス中に紙詰まりを起こす場合がある。サンプルBで示されるように、Dow Corning(登録商標)57添加剤は、PVOHに由来する配合物の引きはがし力を約28g/cm〜約30g/cmから約10g/cmの引きはがし力まで下げ、これは、サンプルCとして調製された、引きはがし力が約15〜約17g/cmの範囲のデンプンに由来する組成物よりもかなり低い。さらに、サンプルDで示されるように、Dow Corning(登録商標)57添加剤は、デンプンに由来する配合物の引きはがし力を、約15g/cm〜約17g/cmから約7g/cm未満の引きはがし力まで下げた。
図1
図2