特許第6472387号(P6472387)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6472387-アーク溶接制御方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472387
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】アーク溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20190207BHJP
   B23K 9/073 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   B23K9/12 305
   B23K9/12 304B
   B23K9/073 545
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-556834(P2015-556834)
(86)(22)【出願日】2015年1月8日
(86)【国際出願番号】JP2015050383
(87)【国際公開番号】WO2015105151
(87)【国際公開日】20150716
【審査請求日】2017年11月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-3217(P2014-3217)
(32)【優先日】2014年1月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】井手 章博
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−160059(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/164833(WO,A1)
【文献】 特開平11−226732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
B23K 9/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プッシュ送給速度設定値で設定された送給速度で正送回転するプッシュ側送給モータ及び正送回転と逆送回転とを周期的に繰り返すプル側送給モータによるプッシュプル送給制御によって溶接ワイヤを送給し、短絡期間とアーク期間とを発生させて溶接を行うアーク溶接制御方法において、
前記プル側送給モータの平均送給速度を検出し、前記プッシュ送給速度設定値をこの検出された前記プル側送給モータの前記平均送給速度に修正する、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項2】
溶接終了時に、前記修正された前記プッシュ送給速度設定値を記憶する、
ことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プッシュ送給速度設定値で設定された送給速度で正送回転するプッシュ側送給モータ及び正送回転と逆送回転とを周期的に繰り返すプル側送給モータによるプッシュプル送給制御によって溶接ワイヤを送給し、短絡期間とアーク期間とを発生させて溶接を行うアーク溶接制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
【0003】
溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この溶接方法においては、溶接ワイヤの正送状態と逆送状態とを5ms程度ごとに高速に切り換える必要がある。このために、送給モータを溶接トーチの先端近くに設置して、送給モータから溶接トーチの先端までの送給経路を短くすることが行われる。しかし、溶接トーチの先端近くには設置スペースの問題から小容量の送給モータしか設置することができないために、送給トルクが不足する場合がある。これを解決するために、送給モータを2個使用し、一方の送給モータ(プッシュ側)を送給経路の上流に設置し、もう一方の送給モータ(プル側)を送給経路の下流である溶接トーチの先端近くに設置して、プッシュプル送給制御系を構成するようにしている。このプッシュプル送給制御系では、プッシュ側送給モータは正送状態で定速制御され、プル側送給モータは正送と逆送とを周期的に繰り返す送給制御が行われる。以下、この溶接方法について説明する。
【0005】
図3は、プッシュプル制御系を採用して送給速度の正送と逆送とを周期的に繰り返す溶接方法における波形図である。同図(A)はプル送給速度設定信号Fr(実線)及びプル送給速度Fw(破線)の波形を示し、同図(B)は溶接電流Iwの波形を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの波形を示し、同図(D)はプッシュ送給速度Pwの波形を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0006】
同図(A)に示すように、プル送給速度設定信号Fr及びプル送給速度Fwは、0よりも上側が正送期間となり、下側が逆送期間となる。正送とは溶接ワイヤを母材に近づける方向に送給することであり、逆送とは母材から離反する方向に送給することである。プル送給速度設定信号Frは、正弦波状に変化しており、正送側にシフトした波形となっている。溶接ワイヤの先端は、このプル送給速度Fwで正逆送されている。プル送給速度設定信号Frの平均値は正の値となっているので、溶接ワイヤは平均的には正送されている。同図(D)に示すように、プッシュ送給速度Pwは予め定めたプッシュ送給速度設定信号(図示は省略)に基づいて正送状態で定速制御されている。プル送給速度設定信号Frの平均値とプッシュ送給速度設定信号とは等しくなるように設定されている。
【0007】
同図(A)の実線で示すように、プル送給速度設定信号Frは、時刻t1時点では0であり、時刻t1〜t2の期間は正送加速期間となり、時刻t2で正送の最大値となり、時刻t2〜t3の期間は正送減速期間となり、時刻t3で0となり、時刻t3〜t4の期間は逆送加速期間となり、時刻t4で逆送の最大値となり、時刻t4〜t5の期間は逆送減速期間となる。そして、時刻t5〜t6の期間は再び正送加速期間となり、時刻t6〜t7の期間は再び正送減速期間となる。例えば、正送の最大値は50m/minであり、逆送の最大値は−40m/minであり、正送の期間は5.4msであり、逆送の期間は4.6msである。この場合は、1周期は10msとなり、短絡期間とアーク期間とが100Hzで繰り返されることになる。この場合のプル送給速度Fwの平均値は約4m/min(溶接電流平均値は約150A)となる。
【0008】
同図(A)の破線で示すように、プル送給速度Fwは実際の送給速度であり、プル送給速度設定信号Frよりも遅れて立ち上がり、遅れて立ち下る正弦波となる。プル送給速度Fwは、時刻t11時点では0であり、時刻t11〜t21の期間は正送加速期間となり、時刻t21で正送の最大値となり、時刻t21〜t31の期間は正送減速期間となり、時刻t31で0となり、時刻t31〜t41の期間は逆送加速期間となり、時刻t41で逆送の最大値となり、時刻t41〜t51の期間は逆送減速期間となる。そして、時刻t51〜t61の期間は再び正送加速期間となり、時刻t61〜t71の期間は再び正送減速期間となる。このようになるのは、プル送給モータの過渡特性及び送給経路の送給抵抗のためである。
【0009】
消耗電極式アーク溶接には定電圧制御の溶接電源が使用される。溶接ワイヤと母材との短絡は、時刻t21のプル送給速度Fwの正送最大値の前後で発生することが多い。同図では、正送の最大値の後の正送減速期間中の時刻t22で発生した場合である。時刻t22において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に増加する。
【0010】
同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは、時刻t31からは逆送期間になるので、溶接ワイヤは逆送される。この逆送によって短絡が解除されて、時刻t32においてアークが再発生する。アークの再発生は、時刻t41のプル送給速度Fwの逆送の最大値の前後で発生することが多い。同図では、逆送の最大値の前の逆送加速期間中の時刻t32で発生した場合である。したがって、時刻t22〜t32の期間が短絡期間となる。
【0011】
時刻t32においてアークが再発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、短絡期間中の最大値の状態から変化を開始する。
【0012】
時刻t32〜t51の期間中は、同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは逆送状態であるので、溶接ワイヤは引き上げられてアーク長は次第に長くなる。アーク長が長くなると、溶接電圧Vwは大きくなり、定電圧制御されているので溶接電流Iwは小さくなる。したがって、時刻t32〜t51のアーク期間中の逆送期間中は、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは次第に大きくなり、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に小さくなる。
【0013】
そして、次の短絡が、時刻t61〜t71のプル送給速度Fwの正送減速期間中の時刻t62に発生する。時刻t32〜t62の期間がアーク期間となる。時刻t51〜t62の期間中は、同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは正送状態であるので、溶接ワイヤは正送されてアーク長は次第に短くなる。アーク長が短くなると、溶接電圧Vwは小さくなり、定電圧制御されているので溶接電流Iwは大きくなる。したがって、時刻t51〜t62のアーク期間中の正送期間中は、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは次第に小さくなり、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に大きくなる。
【0014】
上述したように、溶接ワイヤの正送と逆送とを繰り返す溶接方法では、定速送給の従来技術では不可能であった短絡とアークとの繰り返しの周期を所望値に設定することができるので、スパッタ発生量の削減、ビード外観の改善等の溶接品質の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】日本国特許第5201266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したように、従来技術では、プッシュ側送給モータはプッシュ送給速度設定信号に基づいて定速制御されており、プル側送給モータはプル送給速度設定信号Frに基づいて正送と逆送とを周期的に繰り返すように送給制御されている。溶接ワイヤの先端は、プル送給速度Fwで正送と逆送とを繰り返している。上述したように、周期的に変化するプル送給速度設定信号Frの波形とプル送給速度Fwの波形とは、プル側送給モータの過渡特性及び送給経路の送給抵抗(以下、まとめて送給抵抗の変動という)の影響によってずれが生じる。使用するプル側送給モータの種類が異なると過渡特性が異なる。また、使用する溶接トーチの種類が異なると送給経路の送給抵抗が異なる。さらには、溶接を繰り返して行なっていると、次第に送給経路が磨耗して送給抵抗が変化する。これらの送給抵抗の変動に伴ってプル送給速度設定信号Frの波形とプル送給速度Fwの波形とのずれが変化する。すなわち、プル送給速度設定信号Frが同一のままで変化していなくても、プル送給速度Fwは送給抵抗の変動に伴って変化することになる。このような状態になると、定速値であるプッシュ送給速度Pwとプル送給速度Fwの平均値とにズレが生じ、溶接ワイヤの送給状態が不安定になり、溶接状態が悪くなる。
【0017】
そこで、本発明では、プッシュプル送給制御によって溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返す溶接において、送給抵抗が変動しても、溶接ワイヤの送給状態を安定に維持することができるアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、
プッシュ送給速度設定値で設定された送給速度で正送回転するプッシュ側送給モータ及び正送回転と逆送回転とを周期的に繰り返すプル側送給モータによるプッシュプル送給制御によって溶接ワイヤを送給し、短絡期間とアーク期間とを発生させて溶接を行うアーク溶接制御方法において、
前記プル側送給モータの平均送給速度を検出し、前記プッシュ送給速度設定値をこの検出された前記プル側送給モータの前記平均送給速度に修正する、
ことを特徴とするものである。
【0019】
本発明は、溶接終了時に、前記修正された前記プッシュ送給速度設定値を記憶する、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、送給抵抗が変動して、プル側送給モータの平均送給速度が変動しても、これに追従してプッシュ送給速度設定値が修正されるために、プル側送給モータの平均送給速度と等しくなるようにプッシュ側送給モータの送給速度が制御される。この結果、常に、プル側送給モータの平均送給速度とプッシュ側送給モータの送給速度とが等しい状態となり、溶接ワイヤの送給状態は安定になる。このために、本発明では、プッシュプル送給制御によって溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返す溶接において、送給抵抗が変動しても、溶接ワイヤの送給状態を安定に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
図2】本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を説明するための図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
図3】従来技術において、プッシュプル制御系を採用して送給速度の正送と逆送とを周期的に繰り返す溶接方法における波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0024】
電源主回路MCは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路MCは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の駆動信号Dvによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0025】
リアクトルWLは、上記の出力電圧Eを平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば200μHである。
【0026】
プッシュ側送給モータPMは、後述するプッシュ送給制御信号Pcを入力として、プッシュ送給速度Pwで定速制御される。プッシュ側送給モータPMはエンコーダ(図示は省略)を備えており、このエンコーダからプッシュ送給速度検出信号Pdが出力される。
【0027】
プル側送給モータWMは、後述するプル送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接ワイヤ1をプル送給速度Fwで送給する。プル側送給モータWMはエンコーダ(図示は省略)を備えており、このエンコーダからプル送給速度検出信号Fdが出力される。
【0028】
溶接ワイヤ1は、上記のプッシュ側送給モータPMに結合されたプッシュ側送給ロール6及び上記のプル側送給モータWMに結合されたプル側送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0029】
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
【0030】
電圧誤差増幅回路EAは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Eaを出力する。この回路によって、溶接電源は定電圧制御される。
【0031】
溶接開始回路STは、トーチスイッチのオン又はオフに対応してHighレベル又はLowレベルになる溶接開始信号Stを出力する。この溶接開始信号StがHighレベルになると溶接が開始され、Lowレベルになると停止される。
【0032】
駆動回路DVは、この溶接開始信号St及び上記の電圧誤差増幅信号Eaを入力として、溶接開始信号StがHighレベルのときは、電圧誤差増幅信号Eaに基づいてPWM変調制御を行い、上記のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力する。
【0033】
平均送給速度設定回路FARは、予め定めた平均送給速度設定信号Farを出力する。プル平均送給速度検出回路FADは、上記のプル送給速度検出信号Fdを入力として、この信号の平均値を算出して、プル平均送給速度検出信号Fadを出力する。送給誤差増幅回路EFは、このプル平均送給速度検出信号Fad及び上記のプッシュ送給速度検出信号Pdを入力として、プル平均送給速度検出信号Fad(+)とプッシュ送給速度検出信号Pd(−)との誤差を増幅して、送給誤差増幅信号Efを出力する。
【0034】
プッシュ送給速度設定回路PRは、上記の平均送給速度設定信号Far、後述するプッシュ送給速度修正信号Ps及び上記の溶接開始信号Stを入力として、以下の処理を行ない、プッシュ送給速度設定信号Prを出力する。
1)初期値が平均送給速度設定信号Farの値であるプッシュ送給速度設定信号Prを出力する。
2)溶接開始信号StがHighレベル(開始)からLowレベル(停止)に変化したときは、その時点におけるプッシュ送給速度修正信号Psの値をプッシュ送給速度設定信号Prに上書き記憶する。
【0035】
プッシュ送給速度修正回路PSは、このプッシュ送給速度設定信号Pr及び上記の送給誤差増幅信号Efを入力として、溶接中はPs=Pr+∫Ef・dtの演算によって修正を行い、プッシュ送給速度修正信号Psとして出力する。送給誤差増幅信号Efが正の値のときは、プッシュ送給速度検出信号Pdの値がプル平均送給速度検出信号Fadの値よりも小さい場合であるので、プッシュ送給速度修正信号Psは増加するように修正される。逆に、送給誤差増幅信号Efが負の値のときは、プッシュ送給速度修正信号Psは減少するように修正される。修正は、下限値と上限値とによって設定された変化範囲内で行なわれる。
【0036】
プッシュ送給制御回路PCは、このプッシュ送給速度修正信号Ps及び上記の溶接開始信号Stを入力として、溶接開始信号StがHighレベル(開始)のときはプッシュ送給速度修正信号Psの値に相当するプッシュ送給速度Pwで溶接ワイヤ1を送給するためのプッシュ送給制御信号Pcを上記のプッシュ側送給モータPMに出力し、溶接開始信号StがLowレベル(停止)のときは送給停止指令となるプッシュ送給制御信号Pcを出力する。
【0037】
プル送給速度設定回路FRは、上記の平均送給速度設定信号Farを入力として、平均送給速度設定信号Farに対応して記憶されている正送と逆送とを周期的に繰り返す送給速度パターンのプル送給速度設定信号Frを出力する。このプル送給速度設定信号Frが0以上のときは正送期間となり、0未満のときは逆送期間となる。
【0038】
プル送給制御回路FCは、このプル送給速度設定信号Fr及び上記の溶接開始信号Stを入力として、溶接開始信号StがHighレベル(開始)のときはプル送給速度設定信号Frの値に相当するプル送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するためのプル送給制御信号Fcを上記のプル側送給モータWMに出力し、溶接開始信号StがLowレベル(停止)のときは送給停止指令となるプル送給制御信号Fcを出力する。
【0039】
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を説明するための図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)はプル送給速度設定信号Frの時間変化を示し、同図(B)はプル送給速度検出信号Fdの時間変化を示し、同図(C)はプル平均送給速度検出信号Fadの時間変化を示し、同図(D)はプッシュ送給速度修正信号Psの時間変化を示し、同図(E)はプッシュ送給速度検出信号Pdの時間変化を示す。同図において、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの時間変化は図3と同一であるので図示は省略している。以下、同図を参照して説明する。
【0040】
同図(A)に示すように、プル送給速度設定信号Frは、溶接中の5周期分の波形であり、各周期ともに予め定めた同一の正弦波状の波形である。正の値のときが正送指令となり、負の値のときが逆送指令となる。
【0041】
同図(B)に示すように、プル送給速度検出信号Fdは、プル送給速度設定信号Frからずれて正弦波状に変化する波形であり、3周期目以降の波形がそれ以前の波形よりも平均値が小さくなるように変化している。これは、3周期目の開始時点である時刻t1から送給抵抗が変動して大きくなったためである。
【0042】
これに応動して、同図(C)に示すように、プル平均送給速度検出信号Fadは、時刻t1までは一定値であり、時刻t1から次第に小さくなり、4周期目が開始される時刻t2以降は時刻t1以前の値よりも小さな値で一定値となる。同図(D)に示すプッシュ送給速度修正信号Ps及び同図(E)に示すプッシュ送給速度検出信号Pdは、時刻t1以前は同図(C)に示すプル平均送給速度検出信号Fadと等しくなっている。時刻t1から送給抵抗が大きくなるように変動したために、プル平均送給速度検出信号Fadは小さくなり、この結果、Pd<Fadの状態となる。このために、図1のプッシュ送給速度修正回路PSによって、同図(E)に示すプッシュ送給速度修正信号Psが修正されて小さくなる。これに伴って、同図(D)に示すように、プッシュ送給速度検出信号Pdも時刻t1から小さくなる。このようにして、同図(E)に示すように、プッシュ送給速度修正信号Psは、時刻t1から小さくなり、時刻t2以降は一定値となる。そして、同図(D)に示すように、プッシュ送給速度検出信号Pdも、時刻t1から小さくなり、時刻t2以降は一定値となる。
【0043】
したがって、送給抵抗が変動して、プル送給速度Fwの平均値が変動しても、これに追従してプッシュ送給速度修正信号Psが修正されるために、プル送給速度Fwの平均値と等しくなるようにプッシュ送給速度Pwが制御される。この結果、常に、プル送給速度Fwの平均値とプッシュ送給速度Pwとが等しい状態となり、溶接ワイヤの送給状態は安定になる。
【0044】
上記において、プッシュ送給速度修正信号Psの修正を、プル送給速度設定信号Fr又はプル送給速度検出信号Fdの周期と同期して行い、所定周期ごとに修正するようにしても良い。また、上記においては、プル送給速度設定信号Frが正弦波状に変化する場合を例示したが、台形波状、三角波状等に変化するようにしても良い。
【0045】
上述した実施の形態1によれば、プル側送給モータの平均送給速度を検出し、プッシュ送給速度設定値をこの検出されたプル側送給モータの平均送給速度に修正する。これにより、送給抵抗が変動して、プル側送給モータの平均送給速度(プル送給速度Fwの平均値)が変動しても、これに追従してプッシュ送給速度設定値が修正(プッシュ送給速度修正信号Ps)されるために、プル側送給モータの平均送給速度と等しくなるようにプッシュ送給モータの送給速度(プッシュ送給速度Pw)が制御される。この結果、常に、プル側送給モータの平均送給速度とプッシュ送給モータの送給速度とが等しい状態となり、溶接ワイヤの送給状態は安定になる。このために、本実施の形態では、プッシュプル送給制御によって溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返す溶接において、送給抵抗が変動しても、溶接ワイヤの送給状態を安定に維持することができる。
【0046】
さらに、実施の形態1によれば、溶接終了時に、修正された前記プッシュ送給速度設定値を記憶することができる。すなわち、溶接が終了した時点における最終的に修正されたプッシュ送給速度設定値を記憶することができる。これにより、次の溶接においては、修正済みの適正なプッシュ送給速度設定値で溶接を開始することができるので、溶接品質の安定化をさらに図ることができる。
【0047】
さらに、実施の形態1によれば、プッシュ送給速度設定値の修正値に変化範囲を設けている。すなわち、修正値に上限値と下限値を設定して、変化範囲を制限している。この変化範囲は、溶接状態が安定となる範囲として設定される。これにより、修正によって溶接状態が不安定状態になることを抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、プッシュプル送給制御によって溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返す溶接において、送給抵抗が変動しても、溶接ワイヤの送給状態を安定に維持することができるアーク溶接制御方法を提供することができる。
【0049】
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、開示された発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
本出願は、2014年1月10日出願の日本特許出願(特願2014−003217)に基づくものであり、その内容はここに取り込まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 プル側送給ロール
6 プッシュ側送給ロール
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
E 出力電圧
EA 電圧誤差増幅回路
Ea 電圧誤差増幅信号
ED 出力電圧検出回路
Ed 出力電圧検出信号
EF 送給誤差増幅回路
Ef 送給誤差増幅信号
ER 出力電圧設定回路
Er 出力電圧設定信号
FAD プル平均送給速度検出回路
Fad プル平均送給速度検出信号
FAR 平均送給速度設定回路
Far 平均送給速度設定信号
FC プル送給制御回路
Fc プル送給制御信号
Fd プル送給速度検出信号
FR プル送給速度設定回路
Fr プル送給速度設定信号
Fw プル送給速度
Iw 溶接電流
MC 電源主回路
PC プッシュ送給制御回路
Pc プッシュ送給制御信号
Pd プッシュ送給速度検出信号
PM プッシュ側送給モータ
PR プッシュ送給速度設定回路
Pr プッシュ送給速度設定信号
PS プッシュ送給速度修正回路
Ps プッシュ送給速度修正信号
Pw プッシュ送給速度
ST 溶接開始回路
St 溶接開始信号
Vw 溶接電圧
WL リアクトル
WM プル側送給モータ
図1
図2
図3