特許第6472391号(P6472391)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472391
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】パーキンソン病の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20190207BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20190207BHJP
   A61K 31/277 20060101ALI20190207BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20190207BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20190207BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20190207BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   A61K31/198ZMD
   A61K31/197
   A61K31/277
   A61K31/12
   A61P25/16
   A61K47/18
   A61K9/08
【請求項の数】11
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-562555(P2015-562555)
(86)(22)【出願日】2014年3月13日
(65)【公表番号】特表2016-512230(P2016-512230A)
(43)【公表日】2016年4月25日
(86)【国際出願番号】IL2014050261
(87)【国際公開番号】WO2014141261
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年3月9日
(31)【優先権主張番号】61/779,357
(32)【優先日】2013年3月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513119196
【氏名又は名称】ニューロダーム リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NEURODERM LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ヤコビ−ゼエビ,オロン
【審査官】 茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/066538(WO,A1)
【文献】 特表2012−527447(JP,A)
【文献】 NYHOLM D,Eur. J. Neurol.,2012年 6月,Vol. 19, No. 6,pp. 820-826
【文献】 PHARMACOKINETICS OF LEVODOPA/CARBIDOPA INFUSION WITH AND WITHOUT ORAL CATECHOL-O-METHYL 以下備考,INTERNET CITATION [ONLINE],2010年 1月,TRANSFERASE (COMT) INHIBITORS,URL,https://clinicaltrials.gov/archive/NCT00906828/2010_01_15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/327
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 25/16
CAplus/REGISTRY/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキンソン病の治療用医薬を製造するための、カルビドパ、レボドパ、ならびに、エンタカポンおよびトルカポンから選択されるCOMT阻害薬の使用であって、
前記医薬が、組み合わせて投与される、単一の非経口組成物と経口組成物とを含むこと、
ならびに
前記非経口組成物が、カルビドパおよびレボドパを含み、皮下投与用として製剤化されて実質的に持続投与され、前記経口組成物が前記COMT阻害薬を含むことを特徴とする使用。
【請求項2】
COMT阻害薬がエンタカポンである請求項1の使用。
【請求項3】
前記非経口組成物がアルギニンをさらに含む請求項1または2の使用。
【請求項4】
前記非経口組成物におけるカルビドパおよびレボドパとアルギニンとのモル比が1:2〜1:3.5である請求項3の使用。
【請求項5】
前記非経口組成物が(i)アルギニン、0.1〜2重量%のカルビドパおよび4〜8重量%のレボドパを含むか、または(ii)アルギニン、0.6〜1.5重量%のカルビドパおよび6重量%のレボドパを含む請求項4の使用。
【請求項6】
前記非経口組成物の投与が0.1〜1000μL/時間/部位の速度で行われるか、2〜10mL/24時間/部位の量で行われるか、レボドパ80〜800mg/日およびカルビドパ20〜200mg/日の用量で行われるか、またはレボドパ240〜360mg/日/部位およびカルビドパ60〜90mg/日/部位の速度で行われる請求項5の使用。
【請求項7】
前記非経口組成物の投与が4〜6mL/24時間/部位の量で行われる請求項6の使用。
【請求項8】
前記非経口組成物が(i)アルギニン、1〜4重量%のカルビドパおよび6〜16重量%のレボドパを含むか、または(ii)アルギニン、1.5〜2.5重量%のカルビドパおよび12重量%のレボドパを含む請求項4の使用。
【請求項9】
前記非経口組成物の投与が0.2〜2000μL/時間/部位の速度で行われるか、10〜24mL/24時間/部位の量で行われるか、レボドパ600〜4000mg/日およびカルビドパ60〜500mg/日の用量で行われるか、またはレボドパ800〜1600mg/日/部位およびカルビドパ200〜400mg/日/部位の速度で行われる請求項8の使用。
【請求項10】
前記非経口組成物の投与が12〜16mL/24時間/部位の量で行われる請求項9の使用。
【請求項11】
前記医薬が、パーキンソン病患者に対して、レボドパの血中濃度を実質的に変動させることなく増加させるためのものである請求項1〜10のいずれか1項の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レボドパおよびカルビドパの非経口投与と、エンタカポンまたはトルカポンなどのCOMT阻害薬の経口投与との併用によるパーキンソン病などの神経疾患または運動障害疾患の治療方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病は、神経伝達物質であるドパミンの脳内濃度の低下を特徴とする変性疾患である。レボドパ(L−ドパまたはL−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン)は、ドパミンの直前の代謝性前駆物質であり、ドパミンとは異なり血液脳関門を通過できるため、脳内のドパミン濃度の回復によく用いられる。過去40年間、レボドパはパーキンソン病の治療において最も有効な治療法であり続けている。
【0003】
しかし、レボドパは血漿中の半減期が短いことから、現行の最も一般的な標準治療を行っていてもパルス状のドパミン作動性刺激が生じるという問題がある。したがって、長期にわたってレボドパ治療を受けている患者においては、運動症状の日内変動やジスキネジアを合併して、深刻な身体障害が現れることがある。レボドパ/ドパミンをより持続的かつ生理的な方法で最終的に脳内へ送達できる治療方法があれば、運動性合併症を抑えながら標準薬であるレボドパの効用が得られるため、そのような方法がパーキンソン病などの神経疾患または運動障害性疾患を患う患者から切望されている(Olanow,Mov.Dis.,2008,23(Suppl.3),S613−S622)。徐放性の経口レボドパ製剤は既に開発されているが、その効果は標準的なレボドパ錠剤を超えるには至っていない。また、レボドパの持続投与も、携帯型ポンプやパッチを用いた十二指腸内投与または点滴によって試みられてはいるが、このような処置は、特に十二指腸内投与においては、侵襲性が極めて高く非常に不便である。
【0004】
レボドパからドパミンへの代謝性変化は、芳香族L−アミノ酸脱炭酸酵素という体内に遍在する酵素によって触媒される。この酵素が特に高濃度で存在する部位は、腸管粘膜、肝臓、脳および脳毛細血管である。レボドパは脳以外の部位でも代謝されるため高用量の投与を要するが、その結果、脳以外の部位でのドパミン濃度が高くなり、患者によっては望ましくない副作用が生じることがある。したがって、通常、レボドパの投与は、カルビドパまたはベンセラジドなどのドパ脱炭酸酵素阻害薬の経口投与との併用で行われる。これにより、臨床応答に必要なレボドパ用量を60〜80%減らせるため、脳以外の部位でのレボドパからドパミンへの変換が抑えられ、レボドパによる副作用をある程度防ぐことができる。
【0005】
脳以外の部位におけるレボドパの別の代謝経路として、モノアミンオキシダーゼ(MAO)やカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ(COMT)による代謝経路が挙げられる(レボドパはCOMTによって3−メトキシ−4−ヒドロキシ−L−フェニルアラニン(3−O−メチルドパ(3−OMD))に変換され、代謝産物である3−OMDは、血液脳関門の通過においてレボドパと競合する)。したがって、例えばモクロベミド、ラサギリン、セレギリンもしくはサフィナミドによるMAO阻害、または例えばエンタカポンもしくはトルカポンによるCOMT阻害により、レボドパの効果が増強される。エンタカポンは短時間で消失し、その消失は二相性を示す。β相における半減期は約0.4〜0.7時間であり、γ相における半減期は約2.4時間であることから、エンタカポンは通常1日6〜8回投与される。トルカポンは、レボドパを含む3つのカテコールアミンよりもCOMTに対する親和性が高く、末梢神経系および中枢神経系に存在するCOMTの触媒中心に結合して、COMTによるレボドパの3−O−メチル化を阻止する。したがって、トルカポンはレボドパの生物学的利用率を向上させて、中枢神経系におけるレボドパひいてはドパミンの消失を抑制する。
【0006】
レボドパの代謝経路阻害薬には、レボドパと併用して投与した際に血中のレボドパ濃度を増加させる効果があることは十分に立証されている。また、このような阻害薬とレボドパが配合された各種製剤が開示されている。例えば、現在入手可能な経口剤としては、レボドパとカルビドパとを含有するシネメット(SINEMET(登録商標))および徐放性シネメットCR錠剤や、レボドパとベンセラジドとを含有するマドパー(MADOPAR(登録商標))錠剤が挙げられる。さらに、レボドパとカルビドパとを配合した皮下投与用、好ましくは持続皮下投与用の製剤が、国際公開第2010/134074号および国際公開第2012/066538号に開示されている。なお、これらの文献の内容はすべて、本明細書で全開示されているものとして、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0007】
さらに別の経口剤としては、レボドパ、カルビドパおよびエンタカポンを含有するスタレボ(STALEVO(登録商標))錠剤が挙げられ、また同成分を含有する製剤として、例えば皮下投与用製剤が前述の国際公開第2012/066538号に開示されている。またこの文献には、シネメットの経口投与と併用する、エンタカポン単独またはエンタカポンとカルビドパとの持続皮下投与も開示されている。
【0008】
Nyholmら(European Journal of Neurology,2012,19,820−826)では、200mgのエンタカポンの経口投与と併用して、患者の至適用量の80%相当量でレボドパとカルビドパの腸内注入を行えば、エンタカポンを投与せずにレボドパとカルビドパの至適用量を投与した場合と実質的に同等レベルの血中レボドパ濃度を維持できることが示されている。言いかえれば、Nyholmらは、エンタカポンの経口投与により、レボドパとカルビドパの初回用量を20%減らしても所望の血中レボドパ濃度を維持できることを示している。
【0009】
しかし、開示されている上述の様々な製剤は、副作用の発生率が比較的高く、血中レボドパ濃度が変動するという問題があるため、パーキンソン病の治療として最適なものとは言えない。したがって、パーキンソン病などの運動障害性疾患の治療方法として、患者の血中レボドパ濃度を一定に保つことで脳内のドパミン作動性刺激が一定に保たれると同時に、高用量のレボドパ投与により末梢のレボドパ濃度が高くなることが原因の副作用を抑えられる治療方法が現在もなお緊急に求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様において、本発明は、パーキンソン病の治療方法であって、それを必要とする対象にカルビドパまたはその薬学的に許容される塩とレボドパまたはその薬学的に許容される塩とを含有する医薬組成物を非経口投与すること、ならびにエンタカポンまたはトルカポンなどのカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬を経口投与することを含む方法を提供する。
【0011】
別の態様において、本発明は、パーキンソン病の治療において組み合わせて使用するための、カルビドパまたはその薬学的に許容される塩、レボドパまたはその薬学的に許容される塩、およびCOMT阻害薬に関し、カルビドパおよびレボドパ(またはこれらの塩)は単一の非経口組成物として製剤化され、前記COMT阻害薬は経口組成物として製剤化される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】1Aおよび1Bは、in vitroおよびex vivoにおけるレボドパの安定性に対するカルビドパの効果を示した図である。1Aは、6重量%のレボドパおよびアルギニンを含み、カルビドパを含まない溶液、ならびに6重量%のレボドパおよびアルギニンを含み、各種濃度(2%、1.5%、1%、0.5%)のカルビドパを含む溶液の物理的安定性を調べたin vitro試験の結果である。この結果より、空気存在下において、暗黄色への変色がカルビドパによって用量依存的に抑制されている(右側の小型バイアル)こと、ならびに空気が存在しない条件下(ヘッドスペース内に窒素が充填されている場合)においては、この変色が0.5%のカルビドパで十分に抑制されている(図の左側の大型バイアル)ことが分かる。1Bは、7重量%のレボドパおよびアルギニンを含み、カルビドパを含まない溶液、ならびに7重量%のレボドパおよびアルギニンを含み、2重量%のカルビドパを含む溶液を、5×5cmのブタの新鮮な全層皮膚の皮下組織に持続投与した結果である。右図から、カルビドパ含有レボドパ製剤の使用により酸化が阻害されることが分かる。
【0013】
図2】レボドパ溶液を投与したブタにおいて、該レボドパ溶液に1%のカルビドパが含まれることにより、局所的なレボドパがもたらす皮下投与毒性の程度および範囲が減少することを示した図である。
【0014】
図3】3A〜3Cは、ブタにおけるレボドパの薬物動態に対するカルビドパの作用を示した図である。3Aは、種々の量のカルビドパと6%のレボドパとの持続皮下投与を開始した後のレボドパの血漿濃度を示した図である。3Bは、レボドパ/カルビドパ製剤の持続皮下投与開始後の定常状態における血漿中レボドパ濃度と製剤中のカルビドパ濃度との相関を示した図である。3Cは、レボドパ/カルビドパ製剤の持続皮下投与開始後の定常状態における血漿中カルビドパ濃度と製剤中のカルビドパ濃度との相関を示した図である。
【0015】
図4】4Aおよび4Bは、シネメット(100/25、レボドパ/カルビドパ)を経口投与した後のブタ血漿中のレボドパ(LD、ng/mL)濃度におけるエンタカポン(E)および/またはカルビドパ(CD)(40mg/24時間)の持続皮下(SC)投与の効果(4A)と、シネメットを経口投与した後のブタ血漿中のLD濃度におけるCD(40mg/24時間)および/またはLD(140mg/24時間)の持続皮下投与の効果(4B)を示した図である。
【0016】
図5】ブタへの持続皮下投与(0.16mL/時間)開始から24時間後における、レボドパがもたらす局所的皮下投与毒性に対するカルビドパの効果を示した図である。
【0017】
図6】ヒトボランティアにおいて、レボドパ(360mg/24時間)およびカルビドパ(90mg/24時間)の持続皮下投与時のレボドパ(LD)、カルビドパ(CD)および3−O−メチルドパ(3−OMD)それぞれの血漿濃度に対するエンタカポン(2時間おきに200mg)の経口投与の効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上述したように、レボドパと、レボドパの代謝経路を阻害する活性物質とを併用投与することは公知であり、市販のパーキンソン病治療剤の1つであるスタレボは、実際、レボドパ、カルビドパおよびエンタカポンを組み合わせてなる製剤である。これら3成分を共に経口投与することは利点もあるが、経口投与によって血中のレボドパ濃度が変動することや、(例えば消化管内で錠剤が溶解した後などに)カルビドパと同じ溶液中に存在するエンタカポンによってカルビドパの生物学的利用率が低下することから、この投与経路特有の欠点もいくつかある。このことは、Ahtilaら(Clin Neuropharmacol.,1995,18(1),46−57)により明確に示されている。この文献において、高用量のエンタカポン(400mgおよび800mg)と共にレボドパとカルビドパを経口投与した場合、カルビドパの最高濃度到達時間(Tmax)に影響はないが、血中の総カルビドパ量が減少することが報告されている。また一方で、Ahtilaらは、レボドパとカルビドパの経口投与にエンタカポンを追加することによって、総レボドパ量が最大で約33%(エンタカポンの用量が400mgの場合)増加することも示している。
【0019】
前述の文献においては、カルビドパとエンタカポンを別々に投与する方法、すなわち、それぞれ別の投与経路を用いて投与するか、患者の体のそれぞれ別の部位に投与するかのいずれかの方法が有用である可能性が示唆されている。実際、本発明者らおよび国際公開第2012/066538号によって既に示されているように、シネメット(レボドパ/カルビドパ、100/25mg)の経口投与と併用して、エンタカポン単独で、または(別々の組成物として製剤化された)エンタカポンとカルビドパとを組み合わせて皮下投与すると、血中のレボドパ濃度は増加した。特に、シネメットと併用してエンタカポンとカルビドパを持続的に皮下投与すると、エンタカポンとカルビドパが相乗的に働いてレボドパの血漿中薬物動態に作用することが示されている。
【0020】
また別の方法として前述のNyholmらにおいて開示されている方法では、エンタカポンの経口投与と併用して、レボドパとカルビドパを組み合わせて腸内注入により投与しており、この場合、エンタカポンの経口投与により、レボドパおよびカルビドパの初回投与量を20%減らしつつ所望の血中レボドパ濃度を維持できることが示されている。Nyholmらによれば、この開示した投与経路を用いた場合、レボドパ濃度が最大で33%増加する可能性がある。
【0021】
本発明において、レボドパとカルビドパとを含む組成物の持続皮下投与と併用して、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ阻害薬、特にエンタカポンの経口投与をパーキンソン病患者に対して行った場合、予想外にも、血中のレボドパ濃度が40%以上も高くなる(より具体的には約420ng/mLから約620ng/mLに増加)と共に実質的に変動することなく一定に保たれることから、パーキンソン病患者に対するレボドパの初回投与量を大幅に減らしてレボドパの副作用を抑制することが可能であることが明らかになった。さらに、本明細書に提示した実験データにおいて、レボドパをカルビドパと共に投与した場合にレボドパによる局所的な副作用が軽減されることから、レボドパとカルビドパとを含む単一の組成物を皮下投与した場合、それらを別々に投与した場合には得られない利点があることが示されている。
【0022】
これらの知見は、COMT阻害薬の経口投与と併用して、レボドパと、カルビドパなどのドパ脱炭酸酵素阻害薬とを、例えば皮下などの非経口投与、特に持続非経口投与を行うことによって、別の用法を用いるどの先行技術よりも血中のレボドパ濃度が顕著に高くなることを示したものであり、本明細書に示す用法により、上記2つの阻害薬の阻害能力を最大限に利用できることを示唆している。
【0023】
したがって本発明は、レボドパまたはその薬学的に許容される塩とドパ脱炭酸酵素阻害薬またはその薬学的に許容される塩とを組み合わせた非経口(例えば持続的非経口)投与と、COMT阻害薬の経口投与との併用を含む、パーキンソン病などの神経疾患または運動障害性疾患の治療方法を提供する。この方法により、レボドパの高い血漿濃度が得られるため、脳内のドパミン作動系の実質的に持続的な刺激が可能になり、また、COMT阻害薬の経口投与の用法を1日5〜8回投与から1日2〜3回投与に低減すること、ならびに/またはレボドパおよび/もしくはCOMT阻害薬の1日用量を低減することも可能になると考えられる。
【0024】
神経疾患は生体の神経系の障害であり、本明細書において「運動障害性疾患」は、異常な随意運動もしくは不随意運動または運動緩慢を引き起こす神経系の症状を表す。
【0025】
本明細書に開示した治療方法により治療可能な神経疾患または運動障害性疾患には、パーキンソン病、続発性パーキンソン症候群、下肢静止不能症候群、ハンチントン病、シャイ−ドレーガー症候群、ジストニアなどの他に、脳損傷(例えば、一酸化炭素中毒、マンガン中毒などが挙げられるが、これらに限定されない)により生じた種々の症状が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態において、本発明の方法の治療対象となる神経疾患はパーキンソン病である。
【0026】
本明細書において「ドパ脱炭酸酵素阻害薬」とは、芳香族L−アミノ酸脱炭酸酵素によるレボドパからドパミンへの末梢性代謝を阻害するカルビドパおよびベンセラジドなどの薬物を意味する。特定の一実施形態において、本明細書に開示した治療方法で用いられるドパ脱炭酸酵素阻害薬は、カルビドパまたはその薬学的に許容される塩である。
【0027】
本明細書において「カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬」とは、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼによるレボドパから3−O−メチルドパ(3−OMD)への分解を阻害して、循環液中のレボドパの半減期を延長させる薬物を意味する。COMT阻害薬としては、例えば、末梢でのみ有効なエンタカポンや、末梢神経系、中枢神経系のいずれにも有効なトルカポンおよびニテカポンが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に開示した治療方法において投与される好ましいCOMT阻害薬は、エンタカポンまたはトルカポンである。COMT阻害薬の投与量は、投与後にCOMT活性が実質的に安定して阻害されることによって、投与したレボドパの半減期が延長されると共に、血漿中レボドパ濃度のパルス状変動が実質的に低減されて血漿中レボドパ濃度のトラフ値の低下が回避できるように決定される。
【0028】
本明細書に開示した治療方法において、治療対象に非経口投与されるレボドパと、カルビドパなどのドパ脱炭酸酵素阻害薬との組み合わせは、それぞれ別々の医薬組成物(本明細書における「非経口組成物」)として、一方の組成物がレボドパまたはその薬学的に許容される塩を含み、もう一方の組成物がドパ脱炭酸酵素阻害薬またはその薬学的に許容される塩を含むという形で製剤化されていてもよく、また、これら2つの活性成分を含む単一の医薬組成物(本明細書における「非経口組成物」)として製剤化されていてもよい。特定の一実施形態においては、レボドパとドパ脱炭酸酵素阻害薬との組み合わせは、治療対象に非経口投与される単一の医薬組成物として製剤化され、エンタカポンまたはトルカポンなどのCOMT阻害薬は、前記対象に経口投与される医薬組成物(本明細書における「経口組成物」)として製剤化される。
【0029】
本明細書において「医薬組成物」とは、本明細書に開示されている活性成分を少なくとも1つ含み、1以上の薬学的に許容される担体または1以上の薬学的に許容される賦形剤と共に製剤化された組成物を意味する。本明細書において「薬学的に許容される担体」および「薬学的に許容される賦形剤」とは、医薬投与に適合するあらゆる溶媒、分散媒、防腐剤、酸化防止剤、コーティング剤、等張化剤および吸収遅延剤などを意味する。医薬活性物質に対するこのような媒体および薬剤の使用は、当該技術分野で周知である。また上記組成物は、治療効果を補助、付加または増強する機能を提供するその他の活性化合物を含んでいてもよい。「薬学的または薬理学的に許容される」には、必要に応じて動物またはヒトに投与した場合に副作用、アレルギー反応などの有害反応を誘発しない分子化合物および組成物が包含される。ヒトに投与する製剤は、例えば米国食品医薬品局生物製剤室(Office of Biologics)の規格で定められた無菌性、発熱性、安全性および純度に関する基準を満たしていなければならない。
【0030】
したがって本発明は、一態様において、パーキンソン病などの神経疾患または運動障害性疾患の治療方法であって、それを必要とする対象にカルビドパまたはその薬学的に許容される塩とレボドパまたはその薬学的に許容される塩とを含有する医薬組成物を非経口投与すること、ならびに前記対象にCOMT阻害薬を経口投与することを含む方法を提供する。別法においては、カルビドパまたはその薬学的に許容される塩とレボドパまたはその薬学的に許容される塩とがそれぞれ別々の医薬組成物として、一方の組成物がカルビドパまたはその薬学的に許容される塩を含み、もう一方の組成物がレボドパまたはその薬学的に許容される塩を含む形で非経口投与される。
【0031】
前記非経口組成物は、非経口の投与経路であれば、いずれの経路によって投与されてもよい。例えば、皮下、経皮的、皮内、静脈内、筋肉内、気管内、鼻腔内、髄腔内、胃内または十二指腸内に投与してもよく、前記対象の体の1以上の部位に投与してもよい。特定の実施形態において、前記非経口組成物は実質的に持続的に投与される。例えば、前記対象に対して、実質的に持続的に皮下、経皮的、皮内、胃内または十二指腸内に投与される。前記非経口組成物の持続投与は、例えば輸液ポンプまたは皮膚パッチを用いて行うことができる。皮膚パッチとは、前記非経口組成物の経皮投与または皮下投与に適したデバイス、すなわち、前記組成物を患者の皮膚または粘膜から血流へと送りこむことができるデバイスのことである。本発明の方法において好適に使用される皮膚パッチは、投与する非経口組成物を1以上含む区画を1以上有していてもよく、このような皮膚パッチは、例えば、前述の国際公開第2012/066538号に記載されている。
【0032】
本発明の方法において投与されるレボドパと、カルビドパなどのドパ脱炭酸酵素阻害薬との重量比は、レボドパおよびドパ脱炭酸酵素阻害薬が単一の非経口組成物として製剤化されているか、それぞれ別々の非経口組成物として製剤化されているかにかかわらず、併用投与されるCOMT阻害薬と協同してレボドパを治療効果のある血漿濃度で維持することができるものであればよい。ある実施形態において、レボドパとカルビドパとの重量比(レボドパ:カルビドパ)は約20:1〜約1:1である。
【0033】
ある実施形態において、前記非経口組成物はさらにアルギニンを含む。このような実施形態のうち、特定の実施形態において、前記非経口組成物に含まれるカルビドパとレボドパの合計量とアルギニンとのモル比は約1:2〜約1:3.5である。既に本発明者らによって示されると共に、国際公開第2010/134074号および国際公開第2012/066538号で開示されているように、上記のようなアルギニンを含む組成物は、アルギニンを使用していないものやアルギニン以外の塩基性アミノ酸(例えばリジン、ヒスチジン)を使用したものより顕著な安定性を示す。
【0034】
アルギニンを使用した実施形態のうち、いくつかの特定の実施形態において、本発明の方法における非経口組成物は、(i)アルギニン、約0.1〜2重量%のカルビドパおよび約4〜8重量%のレボドパを含むか、または(ii)アルギニン、約0.6〜1.5重量%のカルビドパおよび約6重量%のレボドパを含む。このような組成物の投与は、約0.1〜1000μL/時間/部位の速度で行ってもよく、約2〜10mL/24時間/部位、例えば約4〜6mL/24時間/部位の量で行ってもよく、レボドパ約80〜800mg/日およびカルビドパ約20〜200mg/日の用量で行ってもよく、レボドパ約240〜360mg/日/部位およびカルビドパ約60〜90mg/日/部位の速度で行ってもよい。上記のような非経口組成物のうち、さらに特定の非経口組成物は、皮下、経皮的、皮内、静脈内、筋肉内、気管内、鼻腔内または髄腔内に投与される。
【0035】
アルギニンを使用した実施形態のうち、別の特定の実施形態において、前記非経口組成物は、(i)アルギニン、約1〜4重量%のカルビドパおよび約6〜16重量%のレボドパを含むか、または(ii)アルギニン、約1.5〜2.5重量%のカルビドパおよび約12重量%のレボドパを含む。このような組成物の投与は、約0.2〜2000μL/時間/部位の速度で行ってもよく、約10〜24mL/24時間/部位、例えば約12〜16mL/24時間/部位の量で行ってもよく、レボドパ約600〜4000mg/日およびカルビドパ約60〜500mg/日の用量で行ってもよく、レボドパ約800〜1600mg/日/部位およびカルビドパ約200〜400mg/日/部位の速度で行ってもよい。上記のような非経口組成物のうち、さらに特定の非経口組成物は、胃内または十二指腸内に投与される。
【0036】
ある特定の実施形態において、本発明の方法における非経口組成物は、アルギニン、レボドパおよびカルビドパを含み、該非経口組成物におけるレボドパとアルギニンとのモル比は約1:1.5〜約1:2.5から選択され、該非経口組成物の25℃におけるpHは約8.5〜10、すなわち約8.5、約8.6、約8.7、約8.8、約8.9、約9.0、約9.1、約9.2、約9.3、約9.4、約9.5、約9.6、約9.7、約9.8、約9.9または約10である。このような組成物は、例えば、カルビドパを約1〜20重量%またはそれ以上、好ましくは少なくとも約1重量%、約2重量%、約4重量%または約6重量%含有していてもよく、レボドパを少なくとも約1重量%、好ましくは約2重量%、約3重量%、約4重量%、約5重量%または約6重量%含有していてもよい。このような組成物のうち、さらに特定の組成物は、薬学的に許容される賦形剤、例えばN−メチルピロリドン、ポリビニルピロリドン、プロピレングリコールまたはこれらの組み合わせをさらに含有していてもよく、さらに水を含有していてもよい。特定の実施形態において、このような非経口組成物の25℃におけるpHは約8.5〜9.8である。
【0037】
ある特定の実施形態において、本発明の方法における非経口組成物はアルギニン、カルビドパおよび少なくとも約4重量%のレボドパ、さらに必要に応じてメグルミンを含有し、該非経口組成物の25℃におけるpHは約9.1〜9.8、すなわち約9.1、約9.2、約9.3、約9.4、約9.5、約9.6、約9.7または約9.8である。このような組成物における活性成分すなわちカルビドパおよびレボドパと、アルギニンとのモル比は、約1:1.8〜約1:3.5であってもよく、約1:2.2〜約1:2.5であってもよい。このような組成物のうち、さらに特定の組成物は、レボドパを約4〜12重量%もしくは約5〜30重量%、かつ/またはカルビドパを約1〜6重量%もしくは約1〜2重量%含有する。
【0038】
いくつかの実施形態において、前記非経口組成物は、上記で定義されるようにアルギニン、カルビドパおよび少なくとも約4重量%のレボドパを含有すると共に、さらにメグルミンを含有する。このような組成物のうち、ある特定の組成物は、活性成分とアルギニンとのモル比が約1:1.1〜約1:1.9であり、かつ/または活性成分とメグルミンとのモル比が約1:0.3〜約1:1.2、約1:0.3〜約1:1.5、約1:0.4もしくは約1:1.1である組成物である。上記実施形態における、また別の特定の組成物は、約2.0〜11重量%のメグルミンおよび/または約10〜35重量%のアルギニンを含有する組成物である。
【0039】
さらに特定の実施形態において、前記非経口組成物は、上記の実施形態のいずれかに定義されるようにアルギニン、カルビドパおよび少なくとも約4重量%のレボドパ、さらに必要に応じてメグルミンを含有すると共に、さらに酸化物の形成を阻害する薬剤を少なくとも1つ含有する。酸化物の形成を阻害する薬剤としては、例えば、アスコルビン酸もしくはその薬学的に許容される塩(例えば、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸カリウム、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビルなど)、L−システイン、N−アセチルシステイン(NAC)、グルタチオン(GSH)、Na−EDTA、Na−EDTA−Ca、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0040】
本発明において、上記の実施形態のいずれかに定義されるようにアルギニン、カルビドパおよび少なくとも約4重量%のレボドパ、さらに必要に応じてメグルミンを含有する非経口組成物は、亜硫酸水素ナトリウムをさらに含有していてもよい。
【0041】
ある特定の実施形態において、本発明の方法における非経口組成物は、約6重量%のレボドパ、約0.6〜1.4重量%のカルビドパ、約15〜16重量%のアルギニン、および約0.5重量%のアスコルビン酸を含有し、さらに約0.4重量%のL−システインおよび/または約0.5重量%のNACを含有していてもよく、該非経口組成物のpHは約9.4〜9.6である。
【0042】
別の特定の実施形態において、本発明の方法における非経口組成物は、約12〜15重量%のレボドパ、約1.2〜4重量%のカルビドパ、約32〜42重量%のアルギニンまたはメグルミン、および約1.0〜1.3重量%のアスコルビン酸ナトリウムを含有し、さらに約0.1〜0.5重量%のL−システインおよび/またはNACおよび/またはシステイン−HClを含有していてもよく、該非経口組成物のpHは約9.6〜9.8である。
【0043】
本発明において、上記のいずれかの組成を有する非経口組成物は、COMT阻害薬を含有する経口組成物と共に投与される。COMT阻害薬の投与量は、例えば約10〜1600mg/日、約50〜400mg/日、約100〜600mg/日、約400〜1200mg/日、約1000〜1400mg/日、または約1200〜1600mg/日とすることができる。この経口組成物の投与回数は、1日1回、2回、3回、4回、5回のいずれでもよい。特定の実施形態において、前記COMT阻害薬は現在推奨されている投与回数より少ない回数、例えば1日2〜3回で投与されるか、または現在推奨されている1日投与量より少ない用量で投与される。
【0044】
ある実施形態において、前記経口組成物はエンタカポンを含有し、約200〜600mg、例えば、約200mg、約250mg、約300mg、約350mg、約400mg、約450mg、約500mg、約550mgまたは約600mgの用量で1日2回または3回、前記非経口組成物と併用して投与される。このような実施形態のうち、さらに特定の実施形態において、前記経口組成物は、約350〜450mg、例えば約400mgの用量で1日2回投与される。
【0045】
別の実施形態において、前記経口組成物はトルカポンを含有し、約50〜200mg、例えば、約50mg、約75mg、約100mg、約125mg、約150mg、約175mgまたは約200mgの用量で1日1回、2回または3回、前記非経口組成物と併用して投与される。このような実施形態のうち、さらに特定の実施形態において、前記経口組成物は、約75〜125mg、例えば約100mgの用量で1日2回投与される。
【0046】
前記COMT阻害薬の経口組成物の剤形は、任意の適切な剤形であってよい。例えば、前記経口組成物を丸剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、水性もしくは油性の懸濁剤、分散可能な散剤もしくは顆粒剤、乳剤、シロップ剤またはエリキシル剤として製剤化してもよい。この経口製剤は、例えば、1回量当たり約200〜600mg、約50〜200mg、または100mgの前記COMT阻害薬を含んでいてもよい。場合によっては、前記経口製剤は徐放製剤であってもよく、すなわち、前記COMT阻害薬が制御放出(持続放出、延長放出もしくは長期放出)または遅延放出されるように製剤化されていてもよい。
【0047】
本発明の方法で使用される様々な医薬組成物は、慣用の方法によって、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,19th Ed.,1995に記載の方法と同様にして調製してもよい。前記組成物は、例えば、液体担体、微粉化した固体担体またはその両方と1以上の活性成分とを均一かつ密に会合させた後、必要であれば所望の形態に製剤化することにより調製することができる。前記組成物は液体、固形、半固形のいずれの形態でもよく、また、薬学的に許容される充填剤、担体、希釈剤もしくは補助剤、またはその他の不活性成分もしくは賦形剤をさらに含有していてもよい。一実施形態において、本発明の医薬組成物はナノ粒子として製剤化される。
【0048】
本発明の方法で使用される非経口組成物は、レボドパおよびカルビドパなどのドパ脱炭酸酵素阻害薬、さらに必要に応じてアルギニンおよび/またはメグルミンおよび/または1以上の酸化防止剤をそれぞれ上記した量で混合して、混合粉体として調製してもよい。また、この混合粉体に水を加えて懸濁液としてもよい。また、この懸濁液を例えば約60〜90℃、より具体的には約72±5℃に加熱し(例えば、あらかじめ加熱した水を加える方法、懸濁液を湯浴(例えば72±5℃)中に十分な時間(例えば、約3分間、約5分間、約10分間またはそれ以上)静置する方法、あるいはそのいずれも行う方法によって加熱し)、必要に応じて撹拌しながら溶液を得た後、この溶液を冷却して組成物を調製してもよい。容器のヘッドスペースに窒素を供給してもよい。例えば、得られた混合物を湯浴から取り出して室温(RT)になるまで冷却した後、窒素雰囲気下、酸化防止剤を加えて撹拌してもよい。上記のような調製方法、例えば、最初にレボドパ、カルビドパおよびアルギニンの各粉末を混合し、次いでこれに水を加えて懸濁液としたものを加熱するという方法においては、各成分の水懸濁液をそれぞれ作製した後でこれらを組み合わせるという段階的な調製方法などと比べると、より安定した溶液が得られる。
【0049】
前記非経口組成物を、例えば、ナイロン製またはポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製のメンブレンを有する孔径0.2μmのフィルターなどを用いて滅菌してもよい。いくつかの実施形態において、前記組成物が、特定の酸化防止剤(例えばアスコルビン酸またはその塩、特に亜硫酸水素ナトリウムなど)を用いてカルビドパとレボドパとを含む組成物として調製される場合、該組成物中に含まれる望ましくない副産物(例えば毒性の副産物)や夾雑物(例えばヒドラジン)の量は少なくなる。別の実施形態において、前記組成物が上記したようにあらかじめ加熱した水を加えて調製される場合、あらかじめ加熱した水を加えずに調製した製剤と比較して、該組成物中に含まれる望ましくない副産物の量は少なくなる。さらなる実施形態において、上記とは別の調製方法を用いた場合、レボドパおよび/またはカルビドパが溶解しない可能性がある。上記の調製方法によれば、熱水の添加や加熱を行わずに調製した製剤より安定した製剤を提供できる。
【0050】
前記COMT阻害薬の経口組成物は、医薬組成物の製造において当該技術分野で公知の任意の方法に従って調製すればよく、また、製薬上見栄えがよく口当たりのよい製剤を提供するために甘味料、香料、着色料および保存料から選択される1以上の成分をさらに含有していてもよい。錠剤は、錠剤の製造に適した無毒で薬学的に許容される賦形剤と混合した活性成分(すなわちCOMT阻害薬)を含む。賦形剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウムなどの不活性の希釈剤;トウモロコシデンプンまたはアルギン酸などの造粒剤および崩壊剤;デンプン、ゼラチンまたはアラビアゴムなどの結合剤;ならびにステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクなどの滑沢剤などが挙げられる。錠剤はコーティングされていなくてもよいが、消化管での崩壊および吸収を遅延させ、より長い時間にわたって持続した作用が提供されるように、公知の方法によってコーティングされていてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリンなどの遅延物質を用いることができる。また、米国特許第4,256,108号、第4,166,452号および第4,265,874号に記載の方法により錠剤をコーティングして、浸透圧を利用する放出制御型の治療用錠剤としてもよい。また前記経口組成物は、水中油型乳剤の形態であってもよい。
【0051】
前記経口組成物は、前記COMT阻害薬が即時放出または制御放出されるように製剤化されていてもよい。このような制御放出組成物は、制御放出マトリックスとして製剤化されてもよく、例えば、溶解用液(in vitro)または消化管液(in vivo)と接触した親水性ポリマーが膨潤して形成するゲルを通して可溶性の活性物質が拡散するという仕組みにより該活性物質の放出が制御される制御放出マトリックス錠剤として製剤化されてもよい。このようなゲルを形成するポリマーとして、多くのポリマーが報告されており、例として、セルロース誘導体、具体的にはヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロースまたはメチルヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースエーテルが挙げられる。これらのエーテルには種々の商用グレードがあり、その中には極めて高い粘度を示すものがある。別の実施形態において、前記組成物は、制御放出を目的としてマイクロカプセル化(前記COMT阻害薬の小液滴をコーティングまたはメンブレンで包み込んで数μm〜数mmの粒子を形成させる)された活性成分を含有する。
【0052】
その他に想定される製剤としては、生分解性ポリマーを用いたデポ(持効性)システムが挙げられ、このシステムにおいては、生分解性ポリマーが分解するにつれて、活性成分が徐々に放出される。最も一般的な生分解性ポリマーは、乳酸、グリコール酸またはこれらの2つの分子の組み合わせから作られる易加水分解性のポリエステルである。これらのモノマーから作られるポリマーとしては、ポリ(D,L−ラクチド)(PLA)、ポリ(グリコリド)(PGA)およびコポリマーであるポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLG)が挙げられる。
【0053】
本明細書に開示した治療方法のねらいは、レボドパと、カルビドパなどのドパ脱炭酸酵素阻害薬とを併用投与すると共にCOMT活性を実質的に安定して阻害することにより、投与したレボドパの半減期を延長させることおよび血漿中レボドパ濃度のパルス状変動を実質的に低減させることであり、その結果、治療を受けた対象の血漿中レボドパ濃度が一定に保たれるため、脳内のドパミン作動性刺激が一定に保たれると同時に、高用量のレボドパ投与により血漿中のレボドパ濃度が高くなることが原因の副作用を抑えられる。本発明の方法において想定される、レボドパ、ドパ脱炭酸酵素阻害薬およびCOMT阻害薬の投与は、通常、患者の状態に応じて決められた期間(例えば数日間、数週間、数ヶ月間ひいては数年間)、医師が適切であると判断した方法で行うことができる。
【0054】
別の一態様において、本発明は、神経疾患または運動障害性疾患の治療において組み合わせて使用するための、ドパ脱炭酸酵素阻害薬またはその薬学的に許容される塩、レボドパまたはその薬学的に許容される塩、およびCOMT阻害薬(例えばエンタカポンまたはトルカポン)に関し、前記ドパ脱炭酸酵素阻害薬またはその薬学的に許容される塩と、レボドパまたはその薬学的に許容される塩は非経口組成物としてそれぞれ別々にまたは組み合わせて製剤化され、前記COMT阻害薬は経口組成物として製剤化される。
【0055】
このような態様のうち、特定の一態様において、本発明は、パーキンソン病の治療において組み合わせて使用するための、カルビドパ、レボドパおよびCOMT阻害薬(より具体的にはエンタカポンまたはトルカポン)に関し、カルビドパおよびレボドパは上述したような単一の非経口組成物として製剤化され、前記COMT阻害薬は上述したような経口組成物として製剤化される。
【0056】
ある実施形態において、前記非経口組成物は、皮下、経皮的、皮内、静脈内、筋肉内、気管内、鼻腔内、髄腔内、胃内または十二指腸内に投与される組成物として製剤化される。このような非経口組成物のうち、特定の非経口組成物は実質的に持続的な投与に適している。
【0057】
また、本明細書において、
(i)上述したような非経口組成物、すなわち、例えば経皮投与、皮内投与または皮下投与、好ましくは持続非経口投与を目的として製剤化された非経口投与用の医薬組成物であって、ドパ脱炭酸酵素阻害薬(例えばカルビドパ)またはその薬学的に許容される塩(例えばそのメグルミン塩もしくはアルギニン塩)とレボドパまたはその薬学的に許容される塩(例えばそのメグルミン塩もしくはアルギニン塩)とを含有する非経口組成物;
(ii)上述したような経口組成物、すなわち経口投与用に製剤化された医薬組成物であって、COMT阻害薬(例えばエンタカポンまたはトルカポン)を含有する経口組成物;
ならびに
(iii)パーキンソン病などの神経疾患または運動障害性疾患の治療を目的とした上記医薬組成物を併用投与するための使用説明書
を含むキットも想定される。
【0058】
本明細書において開示したキットに含まれる非経口組成物は、液体、もしくは液体製剤に再構成可能な凍結乾燥粉末であってもよく、また、皮膚パッチの一部を形成するものであってもよく、かつ/または、経皮、静脈内、皮下、皮内、筋肉内、胃内もしくは十二指腸内などの任意の適切な非経口投与経路により持続的に投与されるものであってもよい。前記キットに含まれる経口組成物は、上述したように前記COMT阻害薬が即時放出または制御放出されるように製剤化されていてもよく、また、上述した剤形のいずれかの形態で製剤化されていてもよい。
【0059】
ある実施形態において、開示したキットに含まれる非経口組成物および経口組成物のいずれか一方または両方が、患者または医師による使用に適した1以上の容器、すなわち、プレフィルドカートリッジに入った状態で提供されてもよい。本明細書において、例えば、カルビドパ、レボドパおよびアルギニンを含有する非経口の液体組成物が充填されたプレフィルドカートリッジ、ならびにCOMT阻害薬(例えばエンタカポンまたはトルカポン)の経口組成物(例えば1以上の錠剤または丸剤)、さらに必要に応じて使用説明書を含むキットが提供される。
【0060】
これまで本発明について一般的に説明してきたが、以下の実施例を参照することにより本発明をより容易に理解できるだろう。ただし、以下の実施例は、本発明の一部の態様および実施形態を説明する目的で提示されているものに過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0061】
<実施例1:皮下投与用溶液/製剤の調製>
A.2%カルビドパ溶液/製剤を以下の通り調製した。カルビドパ[ASSIA社]にあらかじめ加熱した0.1%亜硫酸水素ナトリウム溶液を添加し、さらにアルギニン(Merck社)を最終モル比がCD(カルビドパ):Arg(アルギニン)=1:1.2になるように添加して、完全に溶解するまで60℃で撹拌を続けた。加熱をやめて、得られた調製物を室温まで放冷した。得られた溶液のpHは8.5であった。この溶液を0.22μm滅菌PVDFメンブレンを用いて濾過した。
【0062】
B.10%トルカポン溶液/製剤を以下の通り調製した。トルカポン(Synfine Research社)に適量の水を添加し、撹拌しながら最終モル比が1:1になるようにアルギニンをゆっくり添加し、完全に溶解するまで撹拌を続けて、10%のトルカポンを含む溶液を調製した。冷却後、得られた溶液のpHは7.8であった。
【0063】
C.エンタカポン(Suven Life Sciences社)に適量の水を添加して30〜35℃で撹拌し、最終モル比が1:1になるようにアルギニンをゆっくり添加し、完全に溶解するまで撹拌を続けて、10%のエンタカポンを含む溶液を調製した。冷却後、得られた溶液のpHは6.9であった。低濃度(6%)の溶液のpHは7.8であった。調製したエンタカポン溶液を希釈することにより、2重量%、3重量%または4重量%のエンタカポン製剤とすることができる。
【0064】
エンタカポンは濃度が1%を超えると、ヒスチジンやグルタミン酸などのアルギニン以外のアミノ酸の存在下では溶解せず、また種々のpHのバッファーにも溶解しなかった。
【0065】
D.7%レボドパ/2%カルビドパ溶液を以下の通り調製した。アルギニンにあらかじめ加熱した0.1%亜硫酸水素ナトリウム溶液を添加し、最終モル比がLD:Arg=1:2になるようにレボドパを添加して、完全に溶解するまで75〜80℃で撹拌を続けた。60℃に冷却した後、最終モル比がCD(カルビドパ):Arg(アルギニン)=1:1.2になるようにカルビドパおよびアルギニンを添加して、完全に溶解するまで60℃で撹拌を続けた。冷却後、約12.5%のアルギニンをさらに添加した。得られた溶液のpHは約9.2であった。
【0066】
E.7重量%レボドパ溶液を以下の通り調製した。アルギニンにあらかじめ加熱した0.1%亜硫酸水素ナトリウム溶液を添加し、最終モル比がLD:Arg=1:2になるようにレボドパを添加して、完全に溶解するまで75〜80℃で撹拌を続けた。冷却後、得られた溶液のpHは約9.4であった。
【0067】
F.2%または4%のエンタカポンまたはトルカポン溶液は、エンタカポンまたはトルカポンを1当量のメグルミンを含むpH8.23の溶液に溶解して調製した(エンタカポン/トルカポン:メグルミンのモル比=1:1)。
【0068】
<実施例2:製剤調製手順>
レボドパ(LD)製剤およびカルビドパ(CD)製剤は以下の通り調製することができる。しかし、表Aに示すように、調製方法は、各組成物の物理的安定性および化学的安定性に大きな影響を及ぼす。
【0069】
方法1(L−アルギニン溶液)
L−アルギニンおよびNa−Bis(Na−bisulfate)を水に溶解してLD粉末およびCD粉末に加え、これを75℃で13分間加熱撹拌して粉末を完全に溶解させた。このLD/CD溶液を室温で10分間放冷した。
【0070】
方法2(すべての粉末を合わせる)
すべての粉末(LD、CDおよびL−アルギニン)を量り取り、これにNa−Bisを含む水を加えた。この懸濁液を75℃で13分間加熱撹拌して粉末を完全に溶解させた。このLD/CD溶液を室温で10分間放冷した。
【0071】
方法3(あらかじめ加熱したNa−Bis溶液を用いないこと以外は方法2と同じ)
すべての粉末(LD、CDおよびL−アルギニン)を量り取り、これに水を加えた。この懸濁液を75℃で13分間加熱撹拌して粉末を完全に溶解させた。このLD/CD溶液を室温で10分間放冷した。
【0072】
方法4(段階的に調製)
LDおよび適量のL−アルギニンを量り取り、これに水およびNa−Bis溶液を加えた。この懸濁液を75℃で7分間加熱して粉末を完全に溶解させた後、室温で7分間放置した。CDおよび適量のL−アルギニンを量り取り、先に調製したLD/アルギニン溶液に60℃で加えて完全に溶解させた。最後に、さらにL−アルギニンを追加した。
【0073】
方法5(あらかじめ加熱したNa−Bis溶液を用いないこと以外は方法4と同じ)
LDおよび適量のL−アルギニンを量り取り、これに水を加えた。この懸濁液を75℃で7分間加熱して粉末を完全に溶解させた後、室温で7分間放置した。CDおよび適量のL−アルギニンを量り取り、先に調製したLD/アルギニン溶液に60℃で加えて完全に溶解させた。最後に、さらにL−アルギニンを追加した。
【0074】
冷却後、それぞれの方法によって得られた製剤はすべて3つのバイアルに分注し、各製剤の3つのバイアルに水、Na−Bis溶液またはNa−Bis−Arg溶液を加えた。各製剤の物理的安定性および化学的安定性を評価し、表A1およびA2に示した。
【表1】
−沈殿なし、+沈殿あり
【0075】
各製剤のHPLC分析用のサンプリングは、調製終了時および5日間室温で放置した後に行った。5日間室温で放置した後の回収率を算出して、T=0の値と比較した。
【0076】
表A1およびA2の結果から、調製方法が製剤の物理的安定性および化学的安定性に大きな影響を及ぼすことが明確に示された。方法3の製剤は他の製剤と比べて極めて高い安定性を示した。
【表2】
[a]2回目の試験の回収率が1回目の試験の値より低くなっているが、これはサンプリング時に技術的問題が生じたためである。
[b]2回目の試験の回収率が1回目の試験の値より低くなっているが、これはサンプリング時に技術的問題が生じたためである。
【0077】
<実施例3:レボドパ組成物およびレボドパ/カルビドパ組成物の長期安定性に対するアルギニンの効果>
レボドパ、カルビドパおよびアルギニンを含む液体製剤を実施例2に記載した手順で調製し、アルギニンおよび/またはアミノ糖(例えばメグルミン)および/または糖類(例えばデキストロース)および/または塩基(水酸化ナトリウム)またはアルギニン以外の塩基性アミノ酸(例えばリジン、ヒスチジン)をそれぞれ異なる濃度で含む各種製剤の比較検討を行った。結果を表Bに示す。
【表3】
*Lys−リジン;His−ヒスチジン;Arg−アルギニン;Dex−デキストロース;Meg−メグルミン;NA−データなし
【0078】
表Bより、レボドパおよびカルビドパが高濃度(>2.5%)である場合、アルギニンとのモル比が<1:2.5であれば、安定した溶液が形成されるが、その他の塩基性アミノ酸を用いた場合では同じ条件下でもLDは溶解しないことが分かる。モル比がLD/CD:アルギニン=1:<2である場合、メグルミンなどの対イオンを用いなければ、LD/CD溶液は長期安定性を有することができない。また、メグルミンを用いることにより、LD/CDに対するアルギニンのモル比を下げることが可能である。
【0079】
液体製剤を以下の通り調製した。すべての粉末(LD、CDおよびL−アルギニン)を量り取り、あらかじめ73±3℃に加熱した水を加えた。この懸濁液を73±3℃の水浴に移し、10分間撹拌して完全に溶解させた。このLD/CD溶液を室温で10分間放冷した。次いで、アスコルビン酸を加えた。得られた溶液をガラスバイアルに分注し、25℃および−20℃それぞれの温度で指定の期間保存した。凍結したバイアルは、分析前に室温に置いて、完全に解凍させた。次いで、各製剤を撹拌して、安定性の分析に供した。
【0080】
表C1〜C6に、25℃および−20℃における長期の物理的安定性および化学的安定性に対するL−アルギニンの効果を示す。詳細には、これらの表は、LD/CDに対するアルギニンのモル比と安定性の間には相関があることを示しており、総じて、アルギニンを多く含む組成物ほど長期安定性を有している。LD/CD:アルギニンのモル比が1:≧2.1である溶液は、室温でも−20±5℃でも少なくとも1ヶ月間は安定した状態を保つことができる。このような溶液は、固形分の濃度が極めて高い(総固形分>45%)場合においても安定性を示す。
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【0081】
LD/CDを6/1.5%および5.4/1.5%の割合で含み、各種濃度のL−アルギニンを含む製剤に酢酸(100%)または乳酸(85%)を添加し、各溶液の物理的安定性に対するpHおよびL−アルギニン濃度の影響を検討した(表D)。
【表10】
*OK沈殿なし;+/−ごくわずかに粒子が認められる;+わずかに沈殿が認められる;++多量の沈殿が認められる
【0082】
表Dより、アスコルビン酸を添加した場合、アスコルビン酸ナトリウムを添加した場合よりpHが0.1〜0.15単位低くなり、さらにその他の有機酸を添加した場合は、製剤のpHがさらに低くなることが分かる。しかし、物理的安定性試験の結果によると、pHが<9.15±0.5の場合、総じて製剤が安定していないことが分かる。アスコルビン酸ナトリウムを含む製剤は、L−アルギニン濃度が同じであればアスコルビン酸を含む製剤より安定していると考えられる。したがって、十分な量のL−アルギニンが含まれていない製剤においては、過剰な酸によって沈殿が生じる可能性があることが示唆される。
【0083】
表Eに、表Dで示した安定性試験で使用したLD/CD/アルギニンを6/1.5/14.8%の割合で含む製剤における、調製から3週間後の物理的安定性および化学的安定性を示す。
【表11】
【0084】
<実施例4:カルビドパを含むレボドパ製剤のin vitroおよびex vivoにおける安定性>
レボドパ製剤に対するカルビドパの効果を調べた。0重量%、0.5重量%、1重量%、1.5重量%または2重量%のカルビドパ(CD)と一定濃度のアルギニンとを含むレボドパ(LD)製剤を調製した。各製剤の物理的安定性および化学的安定性を評価し、表Fに示した。
【表12】
【0085】
図1Aに示した実験結果より、空気存在下において、暗黄色への変色がカルビドパによって用量依存的に抑制されていることが分かる。一方、空気が存在しない条件下(ヘッドスペース内に窒素が充填されている場合)においては、この変色は0.5%のCDで十分に抑制されている。よって、CDはin vitroでLDの酸化を阻害することが示唆される。表Fに示した実験結果より、カルビドパはレボドパの化学的安定性にさほど影響を与えないことが分かる。また、この実験結果より、沈殿を防ぐためにはアルギニンと有効成分全体との比が重要であること、すなわち、製剤の物理的安定性はアルギニンの相対濃度によって決まることも分かる。
【0086】
別の実験において、0%、0.5%、1%または2%のCDとそれぞれ異なる濃度のアルギニンとを含むLD製剤を調製した。各製剤の物理的安定性および化学的安定性を評価し、その結果を表Gに示した。
【表13】
【0087】
表Gに示すように、L−アルギニンが十分な濃度で含まれている場合、いずれの製剤もex vivoにおいて、解凍後少なくとも1ヶ月間室温で安定した状態を保っていた。
【0088】
レボドパ製剤の安定性に対するカルビドパの効果を図1に示す。2%CDを含む7%LD/アルギニン溶液またはCDを含まない7%LD/アルギニン溶液を、5×5cmのブタの新鮮な全層皮膚に37℃、0.08mL/時間で18時間持続的に投与した。図1の右側は、黒色の副産物が生成されていないことを示しており、この結果より、CDがex vivoにおいてLDの酸化を阻害すること、ならびにCDがo−キノン類およびメラニンの生成を阻害する可能性があることが示唆される。
【0089】
<実施例5:レボドパを含むカルビドパ製剤の安定性>
カルビドパの安定性に対するレボドパの効果を調べた。その結果を表Hに示す。
【0090】
表Hより、LDが存在すると、CDは酸化や分解の影響を受けにくく、より安定していることが分かる。LDが存在しない場合、酸素存在下では、保持時間(R.T.)4.82、5.65、12.7、13.53および14.55に示される不純物の面積が顕著に大きくなっており、酸素が存在しない条件下であってもR.T.4.82および13.53に示される不純物の面積は大きくなっていた。これより、LDがCDの分解を防いでいる可能性が考えられる。
【表14】
【0091】
<実施例6:カルビドパを含むレボドパ製剤の毒性および薬物動態>
レボドパの局所的毒性に対するカルビドパの効果をブタを用いて調べた。6%のLDおよび0%、0.5%または1%のCDを含み、アルギニンをそれぞれ13.5%、14.2%または14.8%含む溶液をブタに0.16mL/時間で24時間持続的に皮下投与した。各製剤の投与には、それぞれ2匹のブタを使用した。皮膚サンプルは8±1日後に採取した。図2より、in vivoにおいて1%のカルビドパの存在により、レボドパによる毒性の程度および範囲が減少することが分かる。
【0092】
レボドパおよびカルビドパの薬物動態に対するカルビドパの作用を調べた。6%のLDおよび0%、0.5%、1%または2%のCDを含み、アルギニンをそれぞれ13.5%、14.2%、14.8%または16.5%含む溶液をブタに0.16mL/時間で24時間持続的に皮下投与した。図3より、CDがLDの薬物動態に対して大きく作用することが分かる。このCDの作用は、±0.3%〜±1.2%の濃度範囲において用量依存性および線形性を示した。
【0093】
<実施例7:皮下投与後の血漿中レボドパ濃度>
この実験における目的は、ブタを対象として、カルビドパ、レボドパもしくはエンタカポンまたはこれらの組み合わせの持続皮下投与とLD/CDの経口投与を併用して行い、その後の血漿中のLD(レボドパ)濃度を測定することである。
【0094】
体重約22kgのランドレース×ラージホワイト交雑種雌性ブタに対して、表Iに示す処置を1日目の15:00に開始した。すなわち、LD/CD(100/25)の経口投与と併用して、上記した方法で製剤化した、カルビドパ、レボドパもしくはエンタカポンまたはこれらの組み合わせとアルギニンとを含む試験製剤を皮膚パッチ(Omnipod(登録商標))を用いて速度0.08mL/時間で持続的に皮下投与した。
【0095】
表Iは、各群の処置方法を示す。使用した製剤は実施例1および2と同様の方法で調製した。
【表15】
【0096】
3回目の経口投与後、所定の時点で血液サンプルを採取し、レボドパ、カルビドパおよび3−OMDの血漿中濃度をHPLC−ECDにより分析した。
【0097】
図4は、エンタカポン(200mg/24時間)およびCD(40mg/24時間)を(それぞれ別の組成物として)それぞれ単独で、または両者を組み合わせて持続皮下投与すると共に、シネメット(経口剤100/25、LD/CD)を経口投与した場合の経口投与終了後のブタ血漿中の平均レボドパ濃度(図4A)と、LD(140mg/24時間)およびCD(40mg/24時間)をそれぞれ単独で、または両者を組み合わせて持続皮下投与すると共に、シネメット(経口剤100/25、LD/CD)を経口投与した場合の経口投与終了後のブタ血漿中の平均レボドパ濃度(図4B)とを示す(上記と同様に皮下投与製剤はすべてアルギニンを含有する)。
【0098】
実験結果より、CDおよびエンタカポンをそれぞれ単独で持続皮下投与した場合の血漿中のレボドパ(LD)濃度を合算して得られたLDの血漿中薬物動態(PK)と比較すると、エンタカポン(200mg/24時間)およびCD(40mg/24時間)を共に持続皮下投与した場合、エンタカポンとCDはLDの血漿中PK(ng/mL)に対して相乗効果を示すことが分かる(図1Aおよび表2(CとB+Dとの比較))。また実験結果より、CDおよびLDをそれぞれ単独で持続皮下投与した場合の血漿中のLD濃度を合算して得られたLDの血漿中PKと比較すると、LD(140mg/24時間)およびCD(40mg/24時間)を共に持続皮下投与した場合、LDとCDはLDの血漿中PK(ng/mL)に対して相加効果を示すことが分かる(図1Bおよび表2(EとD+Fとの比較))。さらに実験結果より、LD/CDの経口投与を行わなくても、LDとCDとの持続皮下投与で十分に血漿中のレボドパ濃度を持続的に一定に保つことができることが示唆される(図4Bの点線および表Jの「E−A」)。表Jに、LD/CDの経口投与終了から6.5時間後および8時間後の血漿中レボドパ濃度を示す。
【表16】
*E−エンタカポン;CD−カルビドパ;LD−レボドパ;NA−データなし
【0099】
図5は、レボドパ/カルビドパ/アルギニンの配合製剤およびレボドパ/アルギニン製剤の適用部位の組織生検を示す。レボドパ/カルビドパ/アルギニン製剤を投与した場合、組織の炎症や損傷の所見は認められなかった。レボドパ/アルギニン製剤の投与部位では、組織の黒変が幾分か認められる。特定の理論に縛られるものではないが、レボドパ(アルギニン)製剤と共にカルビドパおよびアルギニンを投与することにより、レボドパの酸化による刺激性の副産物の生成が妨げられ、局所組織がレボドパによる局所損傷から守られること、およびカルビドパが強力な酸化防止剤であることが考えられる。
【0100】
<実施例8:その他のカルビドパ製剤およびレボドパ/カルビドパ製剤の例示>
表KおよびLに、その他のカルビドパ製剤およびレボドパ/カルビドパ製剤の例を提示するが、本発明はこれらに限定されない。
【表17】
【表18】
【0101】
<実施例9:カルビドパおよびレボドパの持続皮下投与ならびにエンタカポンの経口投与を行った場合のレボドパ、カルビドパおよび3−O−メチルドパそれぞれの血漿濃度>
この実験における目的は、ヒトボランティアを対象にして、カルビドパおよびレボドパの持続皮下投与とエンタカポンの経口投与を併用して行い、その後のレボドパ(LD)、カルビドパ(CD)および3−O−メチルドパ(3−OMD)それぞれの血漿濃度を測定することである。
【0102】
単一施設無作為化二重盲検プラセボ対照試験を18〜40歳の健康な白人男性ボランティア6名を対象に行った。LD(6%)/CD(1.5%)は、240μL/時間(24時間に換算すると、360mgのLDおよび90mgのCDに相当)の速度で投与した。エンタカポン(200mg)は、LD/CDの点滴開始の15時間後から2時間おきに経口投与した。所定の時点における血漿中のLD、CDおよび3−OMDそれぞれの濃度を定量した。
【0103】
図6に示すように、実験結果から、エンタカポンの経口投与により、エンタカポン投与開始から9時間以内にLDの血漿濃度がLD/CDの持続皮下投与で到達可能なレベルから50%増大したことが分かる。LDの血漿濃度は、LD/CD点滴開始から24時間後すなわちエンタカポン投与開始から9時間後の試験終了時までに定常状態には達しなかった。3−OMDの血漿濃度は顕著に低下した。これらの結果から、通常、LD/CDの経口投与と併用して行われる処置として、200mgのエンタカポンを1日6〜8回投与しているが、その代わりとして、400mgのエンタカポンを例えば1日2回または3回投与することも可能であることが示唆される。
【0104】
等価物
本発明の特定の実施形態について説明してきたが、これまでの明細書の内容は例示的なものであり、本発明を限定するものではない。上記内容を鑑みれば、本発明の多くの変形は当業者にとって自明であろう。本発明の全範囲は、特許請求の範囲とその等価物の全範囲、および本明細書と上述の変形を参照することによって決定されるものである。
【0105】
別段の指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用されている成分量および反応条件などを表す数値は、いずれも「約」が付されているものと理解される。別段の記載がない限り、本明細書および特許請求の範囲で特定の数値が記載されている箇所において、「約」は、特定の数値に対して許容される誤差範囲(例えば最大5%または10%)が想定されることを意味するものとする。
【0106】
参照による援用
本明細書に引用されているすべての特許、公開特許出願、ウェブサイトおよびその他の参考資料の全内容は、それぞれ参照によりその全体が明示的に本明細書に組み込まれる。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6