(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472456
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】車両のロール安定化のためのスタビライザ及びそのようなスタビライザを動作させる方法
(51)【国際特許分類】
B60G 21/055 20060101AFI20190207BHJP
B60G 17/015 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
B60G21/055
B60G17/015 Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-550723(P2016-550723)
(86)(22)【出願日】2015年1月20日
(65)【公表番号】特表2017-506187(P2017-506187A)
(43)【公表日】2017年3月2日
(86)【国際出願番号】EP2015050990
(87)【国際公開番号】WO2015128115
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2017年10月11日
(31)【優先権主張番号】102014203388.8
(32)【優先日】2014年2月25日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500045121
【氏名又は名称】ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】フュスル・アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】フライ・ローマン
(72)【発明者】
【氏名】エンゲル・ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】アマン・ノトカー
(72)【発明者】
【氏名】エア・メーズト
(72)【発明者】
【氏名】マーイア・ウルリヒ
【審査官】
高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−186073(JP,A)
【文献】
特開2009−040244(JP,A)
【文献】
特開平05−254206(JP,A)
【文献】
特表2008−508839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(100)のロール安定化のためのスタビライザ(105)であって、
第1スタビライザ部(110)及び第2スタビライザ部(115)を有し、前記第1スタビライザ部(110)は、前記車両(100)の第1サスペンション部(120)と連結されており、前記第2スタビライザ部(115)は、前記車両(100)の第2サスペンション部(125)と連結されており;
少なくとも一つの電気モータ(135)を有し、当該電気モータは、前記第2サスペンション部(125)から前記第1サスペンション部(120)を非連動にするために、制御信号を用いて前記第2スタビライザ部(115)に対して前記第1スタビライザ部(110)を回転させる構成とされており、
制御装置(900)を有し、当該制御装置(900)が、前記第1サスペンション部(120)及び/又は前記第2サスペンション部(125)の往復運動を表す往復運動信号を読み取るように形成されている読取ユニット(905)と、当該読取ユニット(905)と接続された生成ユニット(910)とを有し、
前記生成ユニット(910)は、磁界方向制御のアルゴリズムに基づきながら前記往復運動信号を用いて前記制御信号を生成する、
特徴を有するスタビライザ(105)。
【請求項2】
請求項1に記載の少なくとも一つのスタビライザ(105)を有する車両(100)。
【請求項3】
請求項1に記載のスタビライザ(105)を動作させる方法(800)であって、以下の:
前記往復運動信号を読取るステップ(805)と、
前記往復運動信号を用いるとともに磁界方向制御のアルゴリズムを用いて前記制御信号を生成するステップ(810)であって、前記第2サスペンション部(125)から前記第1サスペンション部(120)を非連動にするために、前記電気モータ(135)により前記第2スタビライザ部(115)に対して前記第1スタビライザ部(110)を回転させるようにするステップと、
を有する方法(800)。
【請求項4】
請求項3に記載の方法(800)において、
前記生成のステップ(810)では、さらに、前記制御信号を求めるためにd/q変換が行われることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法(800)において、
前記読み取るステップ(805)では、さらに、ロータ角度信号を読み取り、当該ロータ角度信号は、前記電気モータ(135)のロータの角度を表し、前記生成するステップ(810)では、前記ロータ角度信号を用いて前記d/q変換を行うことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項3乃至5のいずれか一項に記載の方法(800)において、
前記生成するステップ(810)では、さらに、前記電気モータ(135)の磁束密度及びトルクを用いて、又は、前記磁束密度と前記トルクとの間の関係を用いて前記制御信号を求めることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれか一項に記載の方法(800)において、
前記生成するステップ(810)では、さらに、状態観測器システムに基づいて前記制御信号を求めることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項3乃至7のいずれか一項に記載の方法(800)の全てのステップを実行する及び/又は制御するように構成されている制御装置(900)。
【請求項9】
請求項3乃至7のいずれか一項に記載の方法(800)の全てのステップを実行するように作成されているコンピュータプログラム。
【請求項10】
機械で読み取り可能な記録媒体であって、当該媒体上に保存された請求項9に記載のコンピュータプログラムを保持する記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のロール・スタビライゼーション(ロール安定化)(Wankstabilisierung)のためのスタビライザ、そのようなスタビライザを動作させる方法、それに対応した制御装置及びそれに対応したコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のアクティブ・ロール・スタビライゼーション(アクティブ・ロール安定化)により、カーブ走行時の高いロール剛性と、車輪の片側の励振(Anregung)および両側交互の励振における非連動性(Entkopplung)との間の相反性を解消することができる。これは、ドライバにとっての快適性と安全性とが得られることを意味する。この場合、パッシブ型のスタビライザが、アクティブ型のスタビライザに置き換えられていることがある。このアクティブ・ロール・スタビライゼーションは、例えば二つのスタビライザ半部と一つのアクティブ構成要素とを備え、当該アクティブ構成要素が、二つのスタビライザ半部をアクティブに互いに逆向きに回転させる構成とされている。
【0003】
上記のアクティブ構成要素は、油圧モータか電気モータかによるトランスミッションユニットとして構成することができる。今日、量産型のアクティブ・ロール安定化システムは、アクティブ・ロール・システム(Active Roll System)(ARS)とも呼ばれ、例えば油圧モータを具備して構成されている。
【0004】
このような油圧式のシステムを電気モータに置き換えることは、動的応答性(Stelldynamik)、車両における取り付け及び消費の点でメリットがあり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした背景のもと、本発明は、改善された、独立請求項に係る車両のロール安定化のためのスタビライザ、そのようなスタビライザを動作させる方法、それに対応した制御装置、そして最後には、それに対応したコンピュータプログラム製品を提供する。有利な構成は、従属請求項及び以下の記載により与えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本着想は、車両のロール安定化のためのスタビライザを提供し、当該スタビライザは、以下の特徴を有する:
第1スタビライザ部及び第2スタビライザ部:ここで、第1スタビライザ部は、車両の第1サスペンション部に連結されているか又は連結可能とされており、第2スタビライザ部は、車両の第2サスペンション部に連結されているか又は連結可能とされている;
少なくとも一つの電気モータ:当該電気モータは、第2サスペンション部から第1サスペンション部を非連動にする(連結を断って独立にする)(Entkoppeln)ために、第2スタビライザ部に対して第1スタビライザ部を制御信号により回転させる構成とされており、制御信号は、磁界方向制御(feldorientierte Regelung)のアルゴリズムにより求められた信号である。
【0007】
車両は、乗用車や商用車といった二本の軌跡を残す自動車を意味するものでもよい。スタビライザ部は、二つの分割された回転バーの一部分を意味するものでもよい。第1サスペンション部は、回転バーを介して第2サスペンション部に接続可能とされている。第1及び第2サスペンション部とは、それぞれ例えば車両のコイルオーバー、コントロールアーム、特にトランスバースコントロールアームのことであってもよい。第1及び第2スタビライザ部の間に、電気モータが配置されていてもよい。当該電気モータは、第1及び第2スタビライザ部が、概ね車両の横軸線に対応するとしてよい共通回転軸線周りに、それぞれ別々の方向に回転させられる構成とされていてよい。このとき、電気モータは、磁界方向制御に基づいて制御することができる。ベクトル制御とも呼ばれる磁界方向制御のアルゴリズムは、例えば電気モータ内部の導線ループにおける交番電圧および交番電流といった正弦波形ないし正弦波形に略等しい交番量(Wechselgroesse)が、一周期内の一位相角に直された瞬時値(um einen Phasenwinkel innerhalb einer Periode bereinigten Momentanwert)において調節されるという制御の考え方を実行するためのアルゴリズムであると解することができる。ここで、検出された交番量は、交番量の周波数で回転する電気モータ内の座標系にそれぞれ写すことができ、これにより、上記交番量から、例えば制御技術の手法を適用することが可能な一定不変量(Gleichgroesse)を得ることができる。
【0008】
本着想は、車両用のスタビライザが、二つの部分からなる回転バーを有することができ、これらの回転バーの部分が、電気モータにより互いに回転相対運動させられることができるという知見に基づく。二つの回転バー部分がこのように互いに逆向きに回転させられることで、例えば、車両の片側における車輪の往復動(上下動)を通して回転バーに引き起こされる捩じれ力を相殺することができ、これにより、車輪の往復動が車両の一方の側から車両の他方の側へと伝わることが防止され、その結果、車両のローリングが防止される。
【0009】
有利な仕方で、電気モータは、このとき、磁界方向制御に基づいて或いは磁界方向制御のアルゴリズムを用いて制御されるように構成することができる。これにより、電気モータが高い回転数においてもなお十分に高いトルクを有するようにできるので、車両走行速度が大きいときの素早い車輪の往復動に追従するようになる。好ましくは、電気モータには、トランスミッション、とりわけ遊星ギヤトランスミッションが設けられている。電気モータ・トランスミッションは、コンパクトな構成ユニットに収納されていることが好ましい。
【0010】
さらに、本着想は、ここに記載された実施形態による少なくとも一つのスタビライザを有する車両を提供する。このようなスタビライザが装備された車両は、高い走行安全性と高い走行快適性の長所を提供する。
【0011】
ここに記載された実施形態によるスタビライザを動作させる方法は、以下のステップを有する:
往復運動(上下動)信号を読み取るステップ。ここでは、往復運動信号は、第1サスペンション部及び/又は第2サスペンション部の往復運動を表すものである。
磁界方向制御のアルゴリズムを用いるとともに往復運動信号を用いて制御信号を生成するステップ。これにより、電気モータにより第2スタビライザ部に対して第1スタビライザ部を回転動作させ、第2サスペンション部に対して第1サスペンション部を非連動にする。
【0012】
本着想の実施形態により、上記生成のステップでは、さらに、制御信号を求めるためにd/q変換が行われる。d/q変換により、三相交流機械におけるU,V,W軸といった三相量を、d軸及びq軸による二軸座標系に移行させることができる。ここで、互いに直交するd軸及びq軸による座標系は、三相交流機械のロータと一緒に回転する。従って、ロータ回転数が一定のとき、回転する場が、時間的に一定の二つの量d及びqの形式で数学的に記述でき、電気モータ制御の回転数・位置精度が改善される。
【0013】
読取りのステップでは、さらに、ロータ角度信号を読み取ることができる。ロータ角度信号は、電気モータのロータの角度を表すものでもよい。最後に、生成のステップでは、ロータ角度信号を用いてd/q変換を行うことができる。ロータ角度信号を用いると、ロータの正確な位置を求めることができ、これにより、d/q座標系が正しい角速度と位相状態でロータとともに一体回転することが保証される。例えば、ロータ角度信号は、電気モータに取り付けられたホール・センサないし光学センサといった類のセンサにより検出することができる。代替的に、ロータ角度信号は、ステータ巻線における電気モータの力を解析するといったフィードバックにより、無センサでも得ることができる。
【0014】
本着想の他の実施形態は、生成のステップで、さらに電気モータの
磁束密度及びトルクを用いて制御信号を求めようというものである。代替的
に、トルクと
磁束密度との関係を用いて制御信号を求めることができる。例えば、トルクと
磁束密度は、d/q変換のd軸及びq軸を用いて表されていてもよく、PIコントローラにより形成することができる。
【0015】
さらに、生成のステップでは、状態観測器システムに基づいて制御信号を求めることができる。状態観測器システムとは、観測された参照システム(Referenzsystem)の既知の入力量と出力量とから、観測可能でない量(例えば、仮想的な制御量)を再構築するように構成されている数学的なシステムと捉えることができる。このような状態観測器システムは、電気モータの理想的なモデルと実際の状態との間のずれを修正するように、内部制御回路(innerer Regelkreis)として機能することができる。例えば、状態観測器システムは、ルーエンバーガー観測器(制御対象モデルのための状態観測器の並列接続回路についてのデービッド・ルーエンバーガー(David Luenberger)の理論によるもの。)であってもよい。こうして、ロータの速度ないし回転角を検出する際の精度を高めることができる。
【0016】
最後に、本着想は、ここに述べた実施形態による方法の全てのステップを実行するように構成されている制御装置を提供する。
【0017】
制御装置は、ここでは、センサ信号を処理し、それに基づいて制御信号及び/又はデータ信号を出力する電気的な装置と捉えることができる。制御装置は、インターフェースを有していてもよく、当該インターフェースは、ハードウェア的及び/又はソフトウェア的に形成されていてよい。ハードウェア的な構成では、インターフェースは、例えば、制御装置の様々な機能を内包したいわゆるシステムASICの一部であってもよい。しかしながら、インターフェースが固有の集積回路とされているか或いは少なくとも部分的に分離された素子からなるというのでもよい。ソフトウェア的な構成では、インターフェースは、例えば、他のソフトウェアモジュールとは別にマイクロコントローラ上に存在するソフトウェアモジュールとされていてもよい。
【0018】
プログラムコードを有するコンピュータプログラム製品も有利である。プログラムコードは、半導体メモリ、ハードディスク或いは光学メモリといった、機械により読み取り可能な媒体上に保存されていてよく、プログラムがコンピュータないし装置上で実行されるときに、上述の実施形態による方法を実施するのに用いられる。
【0019】
本発明を添付の図面に基づいて例により詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例によるスタビライザを有する車両の概略図である。
【
図2】カーブ走行時における従来のスタビライザを有する車両の概略図である。
【
図3】油圧でロール安定化を行う従来のスタビライザの概略図である。
【
図4】油圧でロール安定化を行う従来のスタビライザに用いる油圧モータの概略図である。
【
図5】本発明の実施例によるスタビライザの概略図である。
【
図6】ブラシレスDC制御(ブラシレスDCドライブ)による電気モータの特性曲線の概略図である。
【
図7】本発明の実施例に係るFOR制御(FORドライブ)による電気モータの特性曲線の概略図である。
【
図8】本発明の実施例に係るスタビライザを動作させる方法のフロー図である。
【
図9】本発明の実施例に係るスタビライザを動作させる方法を実施する制御装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好ましい実施形態の以下の記載において、別々の図面に示された、似た働きをする部材には、同じか類似の符号を用い、これらの部材の説明を繰り返すことは省く。
【0022】
図1は、本発明の実施例によるスタビライザ105を有する車両100の概略図を示す。スタビライザ105は、第1スタビライザ部110と第2スタビライザ部115とを有する二分割された回転バーとして構成されている。本実施例では、第1スタビライザ部110の端部は、車両100の第1サスペンション部120に接続されており、第2スタビライザ部115の端部は、車両100の第2サスペンション部125に接続されている。例えば、スタビライザ部110,115の端部は、ヒンジ式に支持されたスタビライザーリンクとして形成されている。サスペンション部120,125は、例えば、対向した位置にある車両100のトランスバースコントロールアームである。スタビライザ部110,115は、それぞれ車体支持部130によって共通の回転軸線D−D周りに回転自在に車両100のシャシに固定されている。回転軸線D−Dは、本実施例では、例えば、車両100の横軸線に相当する。
【0023】
車両100の車両中心に臨むスタビライザ部110,115の一端部は、アクチュエータとしての共通の電気モータ135にそれぞれ機械的に連結されている。電気モータ135は、制御信号を用いて、スタビライザ部110,115を回転軸線D−D周りにそれぞれ別々の方向へ回転させる構成とされている。ここで、制御信号は、磁界方向制御に基づいて求められた信号である。スタビライザ部110,115を反対向きに回転させることにより、サスペンション部120,125は、いわば機械的に相互に連結が切り離される(互いに非連動にされる)。
【0024】
本発明の実施例によれば、車両100は、装置140を有して構成されており、当該装置140は、電気モータ135に接続されていて制御信号を供給するように形成されている。
【0025】
車両の快適さは、とりわけ、いわゆる倣い特性(Kopierverhalten)に左右される。倣いとは、車両の一方の側の車輪の往復動が、スタビライザによる両輪の結合を介して、車両の他方の側の車輪に伝えられるという意味である。これにより、車両は、ロールが引き起こされる可能性があり、それが快適さを損なわせることになりかねない。
【0026】
このようなローリングを防ぐために、油圧式であれ、電気機械式であれ、ロール・スタビライザ・システムは、両側車輪を相互に非連動に構成することができる。
【0027】
電気機械式のシステムの両スタビライザ半部110,115は、例えば、遊星ギヤトランスミッションと電気モータ135とを介して互いに連結されている。路面の凸凹の上を通るときなどのように、車輪が一方側で垂直方向の往復動により励振させられると、電気モータ135は、両輪を相互に非連動にするために、できるだけ素早く車輪の動きに追従しなければならない。そのために、従来のアクティブ・システムは、例えば、できるだけしなやかに設けられたスタビライザを有している。
【0028】
この場合、スタビライザのしなやかさの度合いは、例えばスタビライザ自身によって、或いは、ゴム部材といった追加の部材によって、スタビライザ背部(Stabilisatorruecken)やスタビライザの関節レバー(Anlenkungshebel)において調節される。
【0029】
車輪の往復動の動的成分は、上記のようにしなやかに形成されたスタビライザによって吸収することができるので、この動きの成分が電気モータに達することはない。
【0030】
他方、このようなスタビライザは、カーブ走行時には、調節システムにより実行された動作が車輪に遅れて伝えられるように作用する可能性がある。
【0031】
かなり硬いスタビライザは、調節運動がそのまま車輪に伝えられるため、車両がカーブを走行する際に発生するローリングが、本着想において略取り除かれるように作用することができる。
【0032】
しなやかなスタビライザを用いることや、例えばゴムから製造された然るべき部材をスタビライザ背部及び/又はスタビライザ脚部に用いること、或いはスタビライザを特殊な態様にすることは、特に取り付けや耐久性に関して、追加の手間がかなりかかる可能性がある。さらに、例えば、追加部材とスタビライザとの間に、接続に用いられる追加的な境界部(インターフェース)が、必要となる可能性がある。スタビライザの耐久性を確保するために、スタビライザは、最低限の硬さを有していなければならず、つまり、スタビライザは、所定の直径を下回るものであってはならない。
【0033】
この問題点を回避するために、本発明の実施例による電気的なロール安定化は、磁界方向制御による電気モータ135を有している。これにより、高い回転数領域に亘って十分な加速トルクが利用可能になる。
【0034】
図2は、カーブ走行時における従来のスタビライザ200を有した車両100の概略図を示す。
図1とは異なり、
図2に示された車両100は、一体型の回転バーとして構成された電気モータ無しのスタビライザ200を有して構成されている。車両100のボディは、カーブ走行中に作用する遠心力によって、カーブ外側に向かって傾き、そのために、車両100のカーブ外側の車輪205がスプリングを押し縮めている。
【0035】
カーブ外側の車輪205がスプリングを押し縮めることで、スタビライザ200が回転運動させられ、この回転運動が、カーブ外側の車輪205と対向する位置に配置された、車両100のカーブ内側の車輪210の負荷を軽減し或いは持ち上げるように作用する。これにより、車両100の傾斜角は、カーブを走り抜ける際に軽減されることができる。逆に、カーブ外側の車輪205が再びスプリングを伸ばす場合は、カーブ内側の車輪210がスタビライザ200の逆向きの回転運動により下げられる。
【0036】
図3は、油圧式でロール安定化を行う従来のスタビライザ300の概略図を示す。
図3には、スタビライザ300の平面図が示されている。
図1に示されたスタビライザ100と同じように、
図3に示されたスタビライザ300は、二分割された回転バーが二つのスタビライザ部110,115を有して形成されている。
図1とは異なり、スタビライザ300は、二つのスタビライザ部110,115を回転させるために、電気モータの代わりに油圧モータ305を有している。スタビライザ部110,115は、それぞれ、車両中心とは反対側の端部領域において、レバー310へと略車両長手方向に屈曲されており、これをバー脚部と称することができる。レバー310は、
図3に不図示のサスペンション部にそれぞれ接続されるように形成されている。回転軸線D−Dに沿って延びるスタビライザ300の部分的な区間は、スタビライザ背部と称することができる。スタビライザ背部は、車体支持部130によって、回転軸線D−D周りに回転自在に支持されている。
【0037】
図4は、油圧式でロール安定化を行う従来のスタビライザ内で用いる油圧モータ305の概略図を示す。油圧モータ305は、ステータ400とロータ405を有する。ロータ405は、ステータ400内で回転軸線D−D周りに回転自在に設けられている。ステータ400は、例えば、二つのステータベーン410を有して形成されている。ロータ405は、例えば、二つのロータベーン415を有して形成されている。ステータベーン410とロータベーン415には、それぞれシール部材420が組み込まれている。各ステータベーン410と各ロータベーン415との間の空洞は、ここでは作動室420として機能する。ロータ405は、
図4に不図示のスタビライザ部と機械的に連結されるように形成されている。
【0038】
図5は、本発明の実施例によるスタビライザ105の概略図を示す。
図5には、スタビライザ105が上面視して示されている。スタビライザ105は、
図3に示されたスタビライザ300に似た構成とされている。
図1とは異なり、
図5に示された電気モータ135には、遊星ギヤトランスミッション500が直列に接続されている。トランスミッション500は、例えば、電気モータ135のロータの回転運動を、スタビライザ部110,115の回転軸線D−D周りの互いに反対向きの二つの回転運動に変換するように構成されている。
【0039】
図6は、ブラシレスDC制御(BLDC;“ブラシレスの直流”)による電気モータの特性曲線600を表したグラフを示す。ここで、グラフの縦軸は、電気モータのトルクをニュートン・メートルで表し、グラフの横軸は、1分間あたりの電気モータの回転数を表す。
図6に示されたグラフより、電気モータのトルクは、回転数が増加していくと最初は一定であることが分かる。しかしながら、回転数n1に対応する第1の出力バーテックス(Leistungseckpunkt)以降、トルクは、モータ回転数が増加するにつれて線形的に低下する。回転数n2に対応する第2出力バーテックス以降は、トルクはついにゼロに等しくなる。これは、システムが、特定の回転数以降、車両の車輪の動きに追随できるようにするための加速能力をもはや有さなくなることを意味する。そのため、システムは硬直し、車両の両輪は、もはや互いに非連動状態にならない。
【0040】
図7は、本発明の実施例のFOR制御(FOR=磁界方向制御)による電気モータの特性曲線700を表したグラフを示す。電気モータは、例えば
図1及び2に示された電気モータ135である。磁界方向制御により電気モータの制御を行うと、対応する特性曲線700から分かるように、電気モータは、
図6に示されたブラシレスDC制御に比べると、より高い回転数n3においてもまだなおモータトルクを有している。これにより、片側における車両の車輪往復動を補償することができる。
【0041】
図6と異なり、特性曲線700は、回転数の増加に伴い第1出力バーテックス以降に線形的に低下することはなく、近似的に線形或いは曲線形で低下し、その結果、電気モータは、回転数n3に対応する第3出力バーテックス以降もまだ十分に高いトルクを有することになっている。
【0042】
従来のロール安定化システムは、ブラシレスDC制御を有していることが多い。ブラシレスDC制御と比較すると、磁界方向制御によるERCシステム(electro−mechanical roll control;“電気機械式ロール安定化”)の制御は、車両走行速度がより大きいときに現れるような、より大きな車輪の励振の強さ(Radanregungspegel)を相殺し、その結果、走行快適性を増すことができる。
【0043】
図8は、本発明の実施例によるスタビライザを動作させる方法800のフロー図を示す。方法800は、往復運動信号の読取りステップ805を有する。ここで、往復運動信号は、第1サスペンション部及び/又は第2サスペンション部の往復運動を表す。さらに、方法800は、第2サスペンション部から第1サスペンション部を非連動にするために第1スタビライザ部を第2スタビライザ部に対して電気モータにより回転させるよう、磁界方向制御に基づき且つ往復運動信号を用いて制御信号を生成するステップ810を有する。
【0044】
図9は、本発明の実施例によるスタビライザを動作させる方法を実施する制御装置900のブロック図を示す。制御装置900は、例えば
図1に示された装置140である。制御装置900は、往復運動信号を読み取るように形成されている読取ユニット905を有する。ここで、往復運動信号は、第1サスペンション部及び/又は第2サスペンション部の往復運動を表す。読取ユニット905は、生成ユニット910と接続されており、当該生成ユニットは、第2サスペンション部から第1サスペンション部を非連動にするように第1スタビライザ部を第2スタビライザ部に対して電気モータにより回転させるべく、磁界方向制御に基づきながら往復運動信号を用いて制御信号を生成するように構成されている。
【0045】
記載され且つ図に示された実施例は、単に例として選択されているものである。異なる実施例は、全て或いは個々の特徴に関して互いに組み合わせることができる。また、一実施例が他の実施例の特徴により補完されてもよい。
【0046】
さらに、本発明による方法のステップは、繰り返され、さらには、上記の順番とは異なる順番で実施されてもよい。
【0047】
一実施例が第1の特徴と第2の特徴の間を“及び/又は”で結び合わせたものを有する場合、実施形態による実施例が、第1の特徴も第2の特徴も有するか、或いは、実施形態による実施例が、第1の特徴か第2の特徴のいずれかを有すると解することができる。
【符号の説明】
【0048】
100 車両
105 スタビライザ
110 第1スタビライザ部
115 第2スタビライザ部
120 第1サスペンション部
125 第2サスペンション部
130 車体支持部
135 電気モータ
140 制御信号を生成する装置
200 従来のスタビライザ
300 油圧によるロール安定化のためのスタビライザ
305 油圧モータ
310 レバー
400 ステータ
405 ロータ
410 ステータベーン
415 ロータベーン
420 作動室
500 トランスミッション
600 ブラシレスDC制御(ブラシレスDCドライブ)による電気モータの特性曲線
700 FOR制御(FORドライブ)による電気モータの特性曲線
800 スタビライザを動作させる方法
805 往復運動信号の読取り
810 制御信号の生成
900 制御装置
905 読取ユニット
910 生成ユニット