特許第6472488号(P6472488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6472488甲状腺刺激ホルモンレセプターに対する抗体のバイオアッセイ法及び測定キットとこれらに用いる新規の遺伝子組み換え細胞
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472488
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】甲状腺刺激ホルモンレセプターに対する抗体のバイオアッセイ法及び測定キットとこれらに用いる新規の遺伝子組み換え細胞
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20190207BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20190207BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20190207BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20190207BHJP
【FI】
   C12Q1/06ZNA
   G01N33/53 N
   !C12N15/12
   !C07K14/705
【請求項の数】6
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-137696(P2017-137696)
(22)【出願日】2017年7月14日
(62)【分割の表示】特願2015-194010(P2015-194010)の分割
【原出願日】2010年6月24日
(65)【公開番号】特開2017-192396(P2017-192396A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2017年8月10日
(31)【優先権主張番号】特願2009-155183(P2009-155183)
(32)【優先日】2009年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(72)【発明者】
【氏名】荒木 直比呂
【審査官】 北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−204225(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/045292(WO,A1)
【文献】 特表2006−520203(JP,A)
【文献】 特表2005−507245(JP,A)
【文献】 特表2007−531514(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/139080(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0224645(US,A1)
【文献】 ASSAY and Drug Development Technologies,2009年 6月,Vol.7, No.3,p.304-307,発行日不明
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−1/70
C12N 15/00−15/90
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウムに反応して発光するタンパク質であるカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞を含有することを特徴とする、被験者由来の生物試料を用いる甲状腺疾患の診断用キット。
【請求項2】
甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cGMPに比較しcAMPに高い感受性を示すcAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウムに反応して発光するタンパク質であるカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞、抗TSH抗体および/またはTSHR刺激性抗体を含有することを特徴とする、被験者由来の生物試料を用いる甲状腺疾患の診断用キット。
【請求項3】
cAMP依存性カルシウムチャンネルが、マウス嗅上皮細胞由来のCNGカルシウムチャンネルであって、460番目のシステインのトリプトファンへの置換および583番目のグルタミン酸のメチオニンへの置換を含む改変CNGカルシウムチャンネルである、請求項1−2のいずれかに記載のキット。
【請求項4】
TSHRが、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するTSHRであり、cAMP依存性カルシウムチャンネルが、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する改変CNGカルシウムチャンネルであり、カルシウム感受性タンパク質が、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する改変アポイクオリンである、請求項1−3のいずれかに記載のキット。
【請求項5】
甲状腺疾患が甲状腺機能亢進症または甲状腺機能低下症である、請求項1−4のいずれかに記載のキット。
【請求項6】
甲状腺疾患がバセドウ病および/または橋本病である、請求項1−4のいずれかに記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネルおよびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞、該細胞を含む組成物、該組成物の甲状腺疾患診断への使用、並びに該組成物を用いた甲状腺疾患の診断方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
下垂体によって産生される甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、甲状腺に存在する甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)に結合し、甲状腺ホルモンの分泌を促す。甲状腺ホルモンは、全身の新陳代謝を高めるホルモンであるため、このホルモンの作用の異常な亢進または異常な低下によって心身に様々な影響が及ぼされ、甲状腺疾患が惹起される。例えば、バセドウ病では、体内にTSHR刺激型抗体(TSAb:Thyroid stimulating antibody)が産生され、それがTSHの代わりにTSHRを過剰に刺激するために、甲状腺機能が亢進し、甲状腺腫大、眼球突出、頻脈等の症状が出現する。一方、甲状腺機能低下症の中には、TSHR結合阻害型抗体(TSBAb:Thyroid stimulation blocking antibody)が産生され、甲状腺機能が低下し、体重増加、うつ状態、全身の疲れ等の症状が出現する疾患も存在する。
これまで、血中におけるこれら自己抗体(TSAbおよびTSBAb)の測定がバセドウ病および甲状腺機能低下症の診断に利用されてきている。
代表的な測定方法としては、ラジオアイソトープ標識したTSHまたはTSHRに対するモノクローナル抗体を用い、患者血清中の自己抗体とTSHRとの結合に対し競合阻害させることで結合抗体量を測定するラジオレセプターアッセイ法(TBII法)、または、TSHRに結合する抗体をブタ甲状腺細胞等に作用させ、甲状腺細胞におけるcAMPの濃度の上昇を、ラジオアイソトープ標識cAMPを用いて測定することによりTSAbの量を測定するバイオアッセイ法(TSAb法)が報告されている(非特許文献1および非特許文献2)。
【非特許文献1】Methods in Enzymology, 74, 405〜420(1981)
【非特許文献2】J Clin Endocrinol Metab. 1986 May;62(5):855-62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、特別な技術や設備を要するラジオアイソトープを使用せずに、従来法に比較し簡便に操作できる、TSAbおよび/またはTSBAbの測定用組成物および甲状腺疾患診断用組成物等を提供することである。また、本発明の更なる目的は、該組成物を用いた甲状腺疾患の診断方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)にTSHR刺激型抗体(TSAb)が結合することで生成されるcAMPが惹起する、カルシウムイオンの細胞内への流入量を、カルシウム感受性タンパク質を用いて測定した。それにより、本発明者はラジオアイソトープを用いずに、TSAbの量を測定することに成功した。さらに、同様の原理を用いて、TSHR結合阻害型抗体(TSBAb)の量を測定することにも成功し、本発明を完成させた。
【0005】
即ち、本発明は、甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞、並びに該細胞を含む組成物およびキットに関する。
また、本発明は、TSHR、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞を含む、生物試料中のTSHR刺激性の抗体量および/またはTSHR結合阻害型の抗体量の測定用、甲状腺疾患の診断用、甲状腺疾患を発症する危険性の高いヒトの判定用、または甲状腺疾患の治療を受けているヒトの治療効果の判定用の組成物およびキットに関する。
さらに、本発明は、下記工程(1)、(2)および(3)または(1´)、(2)および(3):
(1)甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞、カルシウム感受性タンパク質の発光基質、Ca2+不含の培地またはCa2+およびMg2+不含の培地、TSHおよび被験者の血液由来のサンプルを含む混合物を調製する;または
(1´)甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞、カルシウム感受性タンパク質の発光基質、Ca2+不含の培地またはCa2+およびMg2+不含の培地および被験者の血液由来のサンプルを含む混合物を調製する;
(2)(1)または(1´)で調製した混合物にCa2+含有溶液を添加する;および
(3)該細胞より発生するカルシウム感受性タンパク質の発光を測定する、
を含む、甲状腺疾患の判定方法、甲状腺疾患を発症する危険性の高いヒトの判定方法または甲状腺疾患に対する治療の有効性を判定する方法に関する。
さらに、また、本発明は、下記工程(1)〜(3):
(1)甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞、カルシウム感受性タンパク質の発光基質、Ca2+含有培地、TSHおよび被験者の血液由来のサンプルを含む混合物を調製する;
(2)(1)で調製した混合物にフォルスコリン含有溶液を添加する;および
(3)該細胞より発生するカルシウム感受性タンパク質の発光を測定する、
を含む、甲状腺機能低下症の判定方法、甲状腺機能低下症を発症する危険性の高いヒトの判定方法または甲状腺機能低下症に対する治療の有効性を判定する方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ラジオアイソトープを使用することに伴う煩雑な操作を要せず、簡便且つ安全な操作で、生物試料中のTSHR刺激型抗体(TSAb)の量およびTSHR結合阻害型抗体(TSBAb)の量を測定することができ、甲状腺疾患を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ヒトTSHR、改変CNGチャンネルおよび改変イクオリンを発現するCHO細胞株から発せられる発光が、ウシ由来TSH(bTSH)の濃度に依存的であることを示す図である。
図2】低用量のbTSHにおける、ヒトTSHR、改変CNGチャンネルおよび改変イクオリンを発現するCHO細胞株から発せられる発光量を示す図である。
図3】ヒトTSHR、改変CNGチャンネルおよび改変イクオリンを発現するCHO細胞株から発せられる発光量に対する、イクオリン発光基質の濃度および培養時間の影響を示す図である。
図4】ヒトTSHR、改変CNGチャンネルおよび改変イクオリンを発現するCHO細胞株から発せられる発光量に対する、導入するTSHR発現プラスミド量の影響を示す図である。
図5】ヒトTSHR、改変CNGチャンネルおよび改変イクオリンを発現するCHO細胞株の細胞濃度と発光量の関係を示す図である。
図6】ヒトTSHR、改変CNGチャンネルおよび改変イクオリンを発現するCHO細胞株の細胞濃度と発光量の関係を、各ブランク値を1とした相対値で表した図である。
図7】ヒトTSHR、改変CNGチャンネルおよび改変イクオリンを発現するCHO細胞株から発せられる発光量に対する、添加するCaCl2の濃度の影響を示す図である。
図8】本発明に係るキットが、TSHR刺激型抗体(TSAb)を定量できることを示す図である。
図9】本発明に係るキットが、TSHR結合阻害型抗体(TSBAb)を検出できることを示す図である。
図10】本発明に係るキットが、細胞の脱感作を利用して、TSHR結合阻害型抗体(TSBAb)を検出できることを示す図である。
図11】本発明に係るキットが、従来品(甲状腺刺激性自己抗体キット TSAbキット「ヤマサ」(登録商標))より高感度でTSHR刺激型抗体(TSAb)を検出できることを示す図である。
図12】ヒトTSHR、改変CNGチャンネルおよび改変イクオリンを発現するCHO細胞株から発せられる発光量の経時変化を示す図である。
図13】阻害型抗体の濃度依存性を示す図である。
図14】フォルスコリン溶液添加による阻害型抗体の検出の濃度依存性を示す図である。
図15】刺激型抗体(TSAb)の培養時間による発光量の変化を示した図である。
図16】阻害型抗体(TSBAb)の培養時間による発光量の変化を示した図である。
図17】フォルスコリン添加による阻害型抗体(TSBAb)の培養時間による発光量の変化を示した図である。
図18】プラスミドpmCNGα2を示した図である。
図19】プラスミドpcDNA mt s AEQを示した図である。
図20】本発明に係るキットを用いて測定した健常人48例のTSAb値のヒストグラムを示す図である。
図21】本発明に係るキットを用いて測定した各種甲状腺疾患由来の血清サンプル中のTSAb値の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞、および該細胞を含む組成物を提供する。
【0009】
甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が結合する受容体であればよく、アデニル酸シクラーゼを活性化してcAMPを増加させる受容体を含む。TSHRの由来は哺乳類であれば特に限定されず、例えば、ヒト、マウス、ウシ、ラット、ブタであり得る。また、TSHRは、適宜、そのアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が改変(付加、置換、欠失等)されてもよく、または、TSHRは、天然のTSHRに対して、アミノ酸配列の相同性が、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質であって、TSHが結合し、アデニル酸シクラーゼを活性化してcAMPを増加させる機能を有するタンパク質であってもよい。
TSHRは、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質であり得る。さらに、TSHRは、配列番号1に示されるアミノ酸配列との相同性が、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質であって、TSHが結合し、アデニル酸シクラーゼを活性化してcAMPを増加させる機能を有するタンパク質であり得る。
あるいは、TSHRは、TSHRに類縁する受容体、例えば、黄体ホルモン受容体、卵胞刺激ホルモン受容体、ヒト絨毛性ゴナドトロピン受容体等とTSHRとのキメラタンパク質であり得る。これらキメラタンパク質は、TSHRのアミノ酸残基8−89または8−165以外の部分を、黄体ホルモン受容体、卵胞刺激ホルモン受容体、ヒト絨毛性ゴナドトロピン受容体の適切な部分と置換することにより作成してもよい。例えば、TSHR−黄体ホルモン受容体キメラタンパク質を作成するために、TSHRのアミノ酸残基90−165をLH−CG受容体のsegment Mc2と置換し、さらに、TSHRのアミノ酸残基261−370をLH−CG受容体のsegment Mc4と置換してもよい。
また、本発明において、TSHは哺乳類由来であれば特に限定されず、例えば、ヒト、マウス、ウシ、ラット、ブタ由来であり得る。TSHは、適宜、そのアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が改変(付加、置換、欠失等)されてもよく、天然のTSHに対して、アミノ酸配列の相同性が、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質であって、TSHRに結合し、アデニル酸シクラーゼを活性化してcAMPを増加させる機能を有するタンパク質であってもよい。
【0010】
cAMP依存性カルシウムチャンネルは、cAMPの濃度変化に応答してカルシウムイオンの細胞への流入量を変化させるチャンネルであり、cAMPの濃度増加に応答して細胞内へのカルシウムイオン流入量を増大させるチャンネルを含む。cAMP依存性カルシウムチャンネルの例としては、CNG(cyclic nucleotide gated ion channel)カルシウムチャンネルがある。場合によりそのアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が改変(付加、置換、欠失等)されていてもよく、例えば、cGMPに比較しcAMPにより感受性を示すように改変(置換、付加、欠失を含む)されてもよい。CNGカルシウムチャンネルは、天然のCNGカルシウムチャンネルに対して、アミノ酸配列の相同性が、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質であって、cAMPの濃度増加に応答して細胞内へのカルシウムイオン流入量を増大させるタンパク質あり得る。改変の例としては、マウスCNGカルシウムチャンネルにおける460番目のシステインのトリプトファンへの置換、マウスCNGカルシウムチャンネルにおける583番目のグルタミン酸のメチオニンへの置換、ウシCNGカルシウムチャンネルにおける537番目のトレオニンのセリン、メチオニン、バリンまたはアラニンへの置換、およびそれらの組合せ等が挙げられる。上記に挙げた置換は、その由来とする動物種に限定されず、他の動物種の対応する部位でのアミノ酸の置換にも適用される。例えば、ウシCNGカルシウムチャンネルにおける537番目のトレオニンに対応するマウスCNGカルシウムチャンネルのトレオニンを、セリン、メチオニン、バリンまたはアラニンへ置換することができる。置換は、1以上の位置で行うことができ、例えば、マウスCNGカルシウムチャンネルにおける460番目のシステインのトリプトファンへの置換を行うと共に、583番目のグルタミン酸のメチオニンへの置換を行うこともできる。
CNGカルシウムチャンネルは、α−サブユニットおよび/またはβ−サブユニットからなることができる。その構成は任意であり、例えば、α2サブユニット、α3サブユニット、α4サブユニットおよびβ1bサブユニットからなる群から選択される少なくとも1つのサブユニットからなる構成をとることができる。そして、サブユニットは、それぞれ上記のように改変され得る。
CNGカルシウムチャンネルの由来は哺乳類であれば特に限定されず、例えば、ヒト、マウス、ウシ、ラット、ブタであり得る。CNGカルシウムチャンネルは、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質であり得る。さらに、CNGカルシウムチャンネルは、配列番号2に示されるアミノ酸配列との相同性が、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質であって、cAMPの濃度増加に応答して細胞内へのカルシウムイオン流入量を増大させるタンパク質であり得る。
【0011】
カルシウム感受性タンパク質は、カルシウムに応答して構造が変化するタンパク質を含み、カルシウムを感受して発光するタンパク質、所謂カルシウムセンサーとして機能するタンパク質を含む。
カルシウム感受性タンパク質の例としては、イクオリン(aequorin)、cameleon(インビトロジェン)、Case12(Evrogne社)、クライチン、オベリン、マイトロコミン、ミネオプシン、ベルボイン、カルシウムに感受性のあるカルモジュリンとそれに結合するミオシン軽鎖キナーゼの一部の配列と二つの色の異なるGFPを結合したタンパク質、GFPのアミノ酸配列の144番と146番の間にカルモジュリンを結合したカルシウム感受性タンパク質、および特開2002−153279に記載されているプローブナンバーG3−85、A1−2のタンパク質、または、存在する場合には、これらのアポタンパク質(例えば、アポイクオリン)が挙げられる。
カルシウム感受性タンパク質は、適宜目的に応じそのアミノ酸配列が改変(付加、置換、欠失等)されてもよく、発光量を増加させる為および/またはSN比を良くする為に改変されてもよい。改変には、アミノ酸配列における、1個または数個のアミノ酸の付加、置換、欠失が含まれる。カルシウム感受性タンパク質には、天然のカルシウム感受性タンパク質のアミノ酸配列との相同性が、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質であってカルシウムを感受して発光するタンパク質が含まれる。例えば、カルシウム感受性タンパク質は、その遺伝子をヒト型のコドン頻度に最適化し、ミトコンドリア移行シグナルを有するように改変され得る。
カルシウム感受性タンパク質は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質であり得る。さらに、カルシウム感受性タンパク質は、配列番号3に示されるアミノ酸配列との相同性が、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質であって、カルシウムを感受して発光するタンパク質であり得る。
【0012】
本発明に係る甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞において、甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質は、それぞれ、細胞に一過性または安定的に発現する。細胞は、特に限定されず、CHO細胞、HEK293細胞、3T3細胞等の細胞株であり得る。例えば、本発明に係る甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞は、TSHRが配列番号1で示されるアミノ酸配列を有し、cAMP依存性カルシウムチャンネルが、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する改変CNGカルシウムチャンネルであり、カルシウム感受性タンパク質が、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する改変アポイクオリンであり、各タンパク質を安定的に発現させたCHO細胞であり得る。さらに、例えば、本発明に係る甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞は、TSHR、cAMP依存性カルシウムチャンネル、カルシウム感受性タンパク質のそれぞれが、配列番号1−3のいずれか1つのアミノ酸配列に対して、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、それぞれが、甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、またはカルシウム感受性タンパク質の機能を保持したタンパク質を安定的に発現させたCHO細胞であり得る。
また、甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質からなる群から選択される1以上のタンパク質を天然に発現する細胞を用いてもよく、該細胞に発現していないタンパク質を一過的または安定的に発現させることで、本発明に係る甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞を調製することもできる。このような例として、FRTL−5またはNthy−ori 3−1等のTSHRを内在的に発現する甲状腺由来の細胞に、cAMP依存性カルシウムチャンネルおよびカルシウム感受性タンパク質を、それぞれ、一過性または安定的に強制発現させた細胞、CNGカルシウムチャンネルを内在的に発現する嗅組織由来の細胞に、TSHRおよびカルシウム感受性タンパク質を、それぞれ、一過性または安定的に強制発現させた細胞が挙げられる。
【0013】
本発明に係る甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞は凍結保存することができる。凍結保存は、細胞凍結保存液にて、適切な温度、例えば−20℃または−80℃で保存され得る。細胞凍結保存液は、限定はされないが、セルバンカー(登録商標)(日本全薬工業)、バンバンカー(登録商標)(株式会社リンフォテック)、Cellvation(登録商標)(CELOX LABORATORIES, Inc.)、CryoStor(登録商標)(BIOLIFE SOLUTIONS)等が含まれる。同一ロットの細胞を大量に凍結保存することにより、組成物間またはキット間での細胞に由来する測定誤差を大幅に抑制することができ、測定結果の再現性を良好なものとすることができる。また、本発明に係る甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞は、凍結保存し、それを温浴等で解凍した後にも、ヒト血中に存在するTSHR刺激型抗体(TSAb)およびTSHR結合阻害型抗体(TSBAb)を検出するのに十分な感受性を保持する。また、解凍後に適切な容器に播種し、培養を約2時間程度行うだけで、TSAbおよびTSBAbの検出のために添加される試薬や、ヒト血液由来の成分により、細胞の状態が悪くなることはない。
【0014】
本発明に係る甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞を含む組成物(例えば、本発明に係る甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞を含む水溶液)は、TSHR刺激性の抗体の量および/またはTSHR結合阻害型の抗体の量の測定用、甲状腺疾患の診断用、甲状腺疾患を発症する危険性の高いヒトの判定用、および/または甲状腺疾患の治療を受けているヒトの治療効果の判定用に使用され得る。
本明細書において、甲状腺疾患には、甲状腺機能亢進症および甲状腺機能低下症が含まれ、甲状腺機能亢進症にはバセドウ病が含まれ、甲状腺機能低下症には橋本病が含まれる。本明細書において、橋本病は、血中においてTSBAbが陽性である甲状腺機能低下症、甲状腺腫のない萎縮性甲状腺炎、TSBAbにより惹起される萎縮性甲状腺炎、粘液水腫を含む。
甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞については、上記で説明したとおりである。
TSHR刺激性の抗体(TSAb)は、TSHRのアゴニストとして作用し得る抗体であり、バセドウ病患者の血中に見出さられ得る。
TSHR結合阻害型の抗体(TSBAb)は、TSHRに結合し、TSHRのアンタゴニストとして作用し得る抗体であり、例えば、TSHのTSHRへの結合を競合阻害する抗体を含む。TSHR結合阻害型の抗体(TSBAb)は、甲状腺機能低下症の患者の血中、例えば、橋本病の患者の血中に見出さられ得る。
【0015】
生物試料中に存在するTSHR刺激性の抗体(TSAb)またはTSHR結合阻害型の抗体(TSBAb)は、以下の作用機構を利用して測定され得る。
(1)生物試料中にTSHR刺激性の抗体(TSAb)が存在する場合
TSAbは本発明に係る細胞上のTSHRに作用することによりcAMPを増加させる。これにより、CNGカルシウムチャンネルが活性化され、カルシウムの細胞内流入が増加するので、カルシウム感受性タンパク質が発光する。つまり、サンプル中のTSAbの存在は、カルシウム感受性タンパク質の発光というアウトプットとして表れる。
(2)生物試料中にTSHR結合阻害型の抗体(TSBAb)が存在する場合
(a)TSHとの競合阻害を利用する方法
TSBAbは、TSHと共に添加されることにより、TSHのTSHRへの結合を競合阻害する。これにより、TSHの作用を阻害し、cAMPの濃度の増加を抑制することにより、CNGカルシウムチャンネルを介するカルシウムの流入の増加も抑制され、カルシウム感受性タンパク質の発光が抑制される。つまり、サンプル中のTSBAbの存在は、カルシウム感受性タンパク質の発光の抑制というアウトプットとして表れる。
(b)CNGカルシウムチャンネルの脱感作を利用する方法
TSBAbは、TSHと共に添加されることにより、TSHのTSHRへの結合を競合阻害する。これにより、TSHの作用を阻害し、cAMPの濃度の増加を抑制する。ここで、もし、TSBAbが存在しなければ、TSHの作用によりcAMPの濃度が増加し、CNGカルシウムチャンネルが活性化されるが、一定時間後に、該CNGカルシウムチャンネルは脱感作し、新たに添加されるフォルスコリン(または、cAMPの濃度を増加させる薬剤)に応答しない。よって、サンプルにTSBAbが存在しなければ、カルシウムの細胞内流入は起こらず、カルシウム感受性タンパク質の発光の抑制というアウトプットとして表れる。一方、サンプル中にTSBAbが存在すれば、CNGカルシウムチャンネルは脱感作が起こらず、カルシウム感受性タンパク質の発光は抑制されない。
【0016】
本発明の一つの実施態様においては、上記の作用機構を利用し、本発明に係る組成物を用いることで、生物試料中におけるTSHR刺激性の抗体および/またはTSHR結合阻害型の抗体を検出することができ、2つの生物試料におけるTSHR刺激性の抗体および/またはTSHR結合阻害型の抗体の濃度を比較することができ、または、2つの生物試料におけるTSHR刺激性の抗体および/またはTSHR結合阻害型の抗体の相対量を測定することができる。さらには、本発明に係る組成物を用いることで、生物試料中におけるTSHR刺激性の抗体および/またはTSHR結合阻害型の抗体の濃度を測定することもできる。
本明細書において、生物試料には、血液および血液から調製された試料等の生物由来の試料が含まれ、例えばヒトの血液、ヒトの血液から調製された試料、イヌの血液、イヌの血液から調製された試料、ネコの血液、ネコの血液から調製された試料が含まれる。
【0017】
本発明に係る組成物を用いることでヒトの血中におけるTSHR刺激性の抗体および/またはTSHR結合阻害型の抗体を測定できることから、被験者が甲状腺疾患に罹患しているか否かを診断することができる。
上記の(1)で説明した作用機構を利用した場合、本発明に係る組成物を用いてバセドウ病を診断することができる。例えば、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられるカルシウム感受性タンパク質の発光量と、被験者の血液試料と同量の正常人の血液試料(標準品)を添加した細胞から発せられるカルシウム感受性タンパク質の発光量を測定することにより、バセドウ病を診断することができる。この場合、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量が、正常人の血液試料(標準品)を添加した細胞から発せられる発光量より高ければ、被験者の血中におけるTSHR刺激性の抗体(TSAb)の濃度が正常人に比較し高いと判断でき、被験者はバセドウ病であると診断できる。
また、予め、多数の正常人集団、例えば、50〜100人の正常人の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)を測定し、その平均値と標準偏差(SD)を算出してもよい。被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量が、正常人集団の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)の平均値+nSD(例えば、n=1、2、3、4または5)より高ければ、被験者の血中におけるTSHR刺激性の抗体の濃度が正常人に比較し高いと判断でき、被験者はバセドウ病であると診断することができる。
本願明細書および請求の範囲において、「正常人の血液由来のサンプル」から得られる値とは、特に断りの無い限り正常人の血液試料(標準品)の測定値または正常人集団の測定値から予め得られた値等であり得る。
【0018】
あるいは、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)/正常人の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)X100(%)を算出してもよい(算出値を算出値Aとする)。予め、多数の正常人集団および多数の未治療バセドウ病患者集団、例えば、それぞれ50〜100人の集団の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)を測定し、バセドウ病の有病正診率および/または正常人であることの無病正診率が、それぞれ、例えば、80%以上、90%以上、92%以上、94%以上、96%以上または98%以上であるカットオフ値を設定してもよい。算出値Aがカットオフ値より高い場合、被験者はバセドウ病であると診断することができる。カットオフ値は、年齢、性別等の対象となる集団の性質により適宜設定できるが、例えば、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%または200%とすることができる。
さらに、また、抗体(TSAb)の標準品(例えば、NIBSC 90/672または65/122)をもちい、濃度を段階希釈して検量線を作成してもよい。当該検量線を参考にして、測定した被験者の血液試料を添加した細胞から発せられるカルシウム感受性タンパク質の発光量から、実際の抗体(TSAb)の血中濃度を算出し、予め測定した多数の正常人集団および多数の未治療バセドウ病患者集団、例えば、それぞれ50〜100人の集団の抗体(TSAb)の血中濃度、または文献等で報告されている公知データと比較することにより、被験者がバセドウ病であるか否か診断することもできる。例えば、正常人集団の(TSAb)の血中濃度の平均値+nSD(例えば、n=1、2、3、4または5)より高ければ、被験者はバセドウ病であると診断することができる。
発光量の測定については、一定時間の積算値を測定することが好ましく、例えば、5秒間、10秒間、15秒間、20秒間、30秒間、40秒間、50秒間、1分間の積算値を測定することができる。
【0019】
また、上記の(2)(a)で説明した作用機構を利用する場合、本発明に係る組成物を用いて、甲状腺機能低下症(橋本病を含む)を診断できる。例えば、被験者の血液試料を添加した細胞におけるTSHにより惹起されるカルシウム感受性タンパク質の発光量と、被験者の血液試料と同量の正常人の血液試料(標準品)を添加した細胞におけるTSHにより惹起されるカルシウム感受性タンパク質の発光量を測定することにより、甲状腺機能低下症を診断することができる。この場合、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量が、正常人の血液試料(標準品)を添加した細胞から発せられる発光量より低ければ、被験者の血中におけるTSHR阻害型の抗体(TSBAb)の濃度が正常人に比較し高いと判断でき、被験者は甲状腺機能低下症であると診断できる。
また、予め、多数の正常人集団、例えば、50〜100人の正常人の血液試料を添加した細胞におけるTSHにより惹起されるカルシウム感受性タンパク質の発光量(積算値)を測定し、その平均値と標準偏差(SD)を算出してもよい。被験者の血液試料を添加した細胞におけるTSHにより惹起される発光量が、正常人集団の血液試料を添加した細胞におけるTSHにより惹起される発光量(積算値)の平均値−nSD(例えば、n=1、2、3、4または5)より低ければ、被験者の血中におけるTSHR阻害型の抗体(TSBAb)の濃度が正常人に比較し高いと判断でき、被験者は甲状腺機能低下症であると診断することができる。
あるいは、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)/正常人の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)X100(%)を算出してもよい(算出値を算出値Bとする)。予め、多数の正常人集団および多数の未治療甲状腺機能低下症患者集団、例えば、各50〜100人の集団の血液試料に起因する発光量(積算値)を測定し、甲状腺機能低下症の有病正診率および/または正常人であることの無病正診率が、それぞれ、例えば、80%以上、90%以上、92%以上、94%以上、96%以上または98%以上であるカットオフ値を設定して、算出値Bがカットオフ値より低い場合、被験者は甲状腺機能低下症であると診断することもできる。カットオフ値は、年齢、性別等の対象となる集団の性質により適宜設定できるが、例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%とすることができる。
【0020】
さらに、また、既知濃度の抗体(TSBAb)の標準品をもちい、濃度を段階希釈して検量線を作成してもよい。当該検量線を参考にして、測定した被験者の血液試料を添加した細胞におけるTSHにより惹起されるカルシウム感受性タンパク質の発光量から、実際の抗体(TSBAb)の血中濃度を算出し、予め測定した多数の正常人集団および多数の未治療甲状腺機能低下症患者集団、例えば、それぞれ各50〜100人の集団の抗体(TSBAb)の血中濃度、または文献等で報告されている公知データと比較することにより、被験者が甲状腺機能低下症であるか否か診断することもできる。例えば、正常人集団の(TSBAb)の血中濃度の平均値+nSD(例えば、n=1、2、3、4または5)より高ければ、被験者は甲状腺機能低下症であると診断することもできる。
発光量の測定については、一定時間の積算値を測定することが好ましく、例えば、5秒間、10秒間、15秒間、20秒間、30秒間、40秒間、50秒間、1分間の積算値を測定することができる。
また、上記の(2)(b)で説明した作用機構を利用する場合、本発明に係る組成物を用いて、甲状腺機能低下症(橋本病を含む)を診断できる。例えば、被験者の血液試料を添加した細胞におけるフォルスコリンにより惹起されるカルシウム感受性タンパク質の発光量と、被験者の血液試料と同量の正常人の血液試料(標準品)を添加した細胞におけるフォルスコリンにより惹起されるカルシウム感受性タンパク質の発光量を測定することにより、甲状腺機能低下症を診断することができる。この場合、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量が、正常人の血液試料(標準品)を添加した細胞から発せられる発光量より高ければ、被験者の血中におけるTSHR阻害型の抗体(TSBAb)の濃度が正常人に比較し高いと判断でき、被験者は甲状腺機能低下症であると診断できる。
また、予め、多数の正常人集団、例えば、50〜100人の正常人の血液試料を添加した細胞におけるフォルスコリンにより惹起されるカルシウム感受性タンパク質の発光量(積算値)を測定し、その平均値と標準偏差(SD)を算出してもよい。被験者の血液試料を添加した細胞におけるフォルスコリンにより惹起される発光量が、正常人集団の血液試料を添加した細胞におけるフォルスコリンにより惹起される発光量(積算値)の平均値+nSD(例えば、n=1、2、3、4または5)より高ければ、被験者の血中におけるTSHR阻害型の抗体(TSBAb)の濃度が正常人に比較し高いと判断でき、被験者は甲状腺機能低下症であると診断することもできる。
【0021】
あるいは、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)/正常人の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)X100(%)を算出し(算出値を算出値Cとする)てもよい。予め、多数の正常人集団および多数の未治療甲状腺機能低下症患者集団、例えば、各50〜100人の集団の血液試料に起因する発光量(積算値)を測定し、甲状腺機能低下症の有病正診率および/または正常人であることの無病正診率が、それぞれ、例えば、80%以上、90%以上、92%以上、94%以上、96%以上または98%以上であるカットオフ値を設定して、算出値Cがカットオフ値より高い場合、被験者は甲状腺機能低下症であると診断することもできる。カットオフ値は、年齢、性別等の対象となる集団の性質により適宜設定できるが、例えば、150%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%または900%とすることができる。
さらに、また、既知濃度の抗体(TSBAb)の標準品をもちい、濃度を段階希釈して検量線を作成してもよい。測定した被験者の血液試料を添加した細胞におけるフォルスコリンにより惹起されるカルシウム感受性タンパク質の発光量から、実際の抗体(TSBAb)の血中濃度を算出し、予め測定した多数の正常人集団および多数の未治療甲状腺機能低下症患者集団、例えば、それぞれ各50〜100人の集団の抗体(TSBAb)の血中濃度、または文献等で報告されている公知データと比較することにより、被験者が甲状腺機能低下症であるか否か診断することもできる。例えば、正常人集団の(TSBAb)の血中濃度の平均値+nSD(例えば、n=1、2、3、4または5)より高ければ、被験者は甲状腺機能低下症であると診断することもできる。
発光量の測定については、一定時間の積算値を測定することが好ましく、例えば、5秒間、10秒間、15秒間、20秒間、30秒間、40秒間、50秒間、1分間の積算値を測定することができる。
【0022】
また、本発明に係る組成物を利用して、甲状腺疾患を発症する危険性の高いヒト、例えば、バセドウ病または甲状腺機能低下症を発症する危険性の高いヒトを判定することができる。
例えば、健康診断のときに、本発明に係る組成物を用いて血中のTSHR刺激性の抗体の濃度が、バセドウ病患者の数値よりも低く、正常人の数値よりも高ければ、バセドウ病を発症する危険性の高いヒトと判定でき、血中のTSHR結合阻害型の抗体の濃度が甲状腺機能低下症の数値よりも低く、正常人の数値よりも高ければ、甲状腺機能低下症を発症する危険性の高いヒトと判定できる。また、健康診断のときに、本発明に係る組成物を用いて血中のTSHR刺激性の抗体の濃度が経時的に徐々に増加していれば、バセドウ病を発症する危険性の高いヒトと判定でき、血中のTSHR結合阻害型の抗体の濃度が、経時的に徐々に増加していれば、甲状腺機能低下症を発症する危険性の高いヒトと判定できる。
【0023】
また、さらに、本発明に係る組成物を利用して、甲状腺疾患の治療を受けているヒト、例えば、バセドウ病または甲状腺機能低下症を発症し、その治療を受けているヒトの治療の有効性を判断できる。
例えば、本発明に係る組成物を用いて、治療の前と後の両方で同一個体より採取した血液サンプルにおける、TSHR刺激性の抗体またはTSHR結合阻害型の抗体の濃度、当該濃度の経時変化を測定することにより、治療の有効性の有無を判定でき、本発明に係る組成物を用いて血中のTSHR刺激性の抗体の濃度が治療前に比較し治療後に低下していれば、バセドウ病の治療が有効であったと判定でき、血中のTSHR結合阻害型の抗体の濃度が、治療後に比較し治療前に低下していれば、甲状腺機能低下症の治療が有効であったと判定できる。
【0024】
本発明は、本発明に係る甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞を含む組成物に加えて、細胞培養液、検出液、カルシウム感受性タンパク質の発光基質またはその水溶液、抗体分離液、細胞培養用プレートまたは試験管、TSHまたはその水溶液、抗TSH抗体および正常人IgGコントロール血清からなる群から選択される少なくとも1つを含み得るキットを提供する。 例えば、キットを構成する物質、組成物を個別に梱包し、それらを纏めて一つの箱等の容器に入れて、キットを作成することができる。
本発明に係る甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞は、適宜調製され得、例えば、3X10cells/ml〜3X10cells/mlの濃度として調製される。本発明に係る細胞は、例えば、3X10cells/mlの濃度で水溶液に懸濁して調製され得る。細胞培養用プレートとして96穴プレートを用いる場合、細胞は、96穴プレートの1wellあたり、例えば、3X10cells〜3X10cellsで播種されることができる。
細胞培養液は、本発明に係る細胞を維持できるものであれば限定されず、Ca2+不含またはCa2+、Mg2+不含であり得る。
検出液は、CaCl2、トリパンブルー、イクオリンを発光させうるカルシウムと置換可能な陽イオン(例えば、カドミウムイオン、ストロンチウムイオン)、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、硫酸イオンおよび/または炭酸イオンを含み得る。CaCl2およびトリパンブルーの濃度は、当業者が適宜設定でき、例えば、CaCl2の濃度は9〜18mM、トリパンブルーの濃度は、0.001〜0.010%である。例えば、検出液は、9mM CaCl2、0.002%トリパンブルーを含む水溶液である。カルシウム感受性タンパク質の発光量を測定する時のCaCl2の最終濃度は、3〜6mMとすることができる。また、例えば、検出液にカルシウムと置換可能な陽イオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、硫酸イオンおよび/または炭酸イオンを溶解させることで、検出液がカルシウムと置換可能な陽イオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、硫酸イオンおよび/または炭酸イオンを含み得る。
カルシウム感受性タンパク質の発光基質は、イクオリンの発光基質であるセレンテラジンまたはセレンテラジンの誘導体を含み、セレンテラジンの誘導体には、ViviRen(登録商標、プロメガ社)が含まれる。ViviRenの濃度は適宜設定されることができ、例えば、0.6〜30mMである。例えば、カルシウム感受性タンパク質の発光基質の水溶液は、4mM ViviRen(Promega)水溶液である。カルシウム感受性タンパク質の発光量を測定する時のViviRenの最終濃度は、0.24〜12μMとすることができる。
抗体分離液は、血液サンプルより、TSHR刺激性の抗体およびはTSHR結合阻害型の抗体を回収できればよく、PEG6000を10〜30%含むことができる。例えば、抗体分離液は、PEG6000を30%含む水溶液であり得る。
細胞培養用プレートの例としては、ルミノメーターで発光量を測定できるものであり、細胞培養ができる96穴プレートが挙げられる。
試験管は、特に限定されず、当業者が適宜選択できる。例えば、カルシウム感受性タンパク質から発せられる発光を測定する装置に適した試験管を用いることができる。
TSHは、TSHRのアゴニストとして使用できるものであればよく、ポジティブコントロールとして使用され得る。TSHは、限定はされないが、ウシ由来のTSHであり得る。TSHは当業者が適宜調製でき、0.01〜100mU/mlで調整され得る。例えば、ウシ由来TSHは、1mU/mlの水溶液として調製される。カルシウム感受性タンパク質の発光量を測定する時のウシ由来TSHの最終濃度は、0.6μU/ml〜6mU/mlとすることができる。例えば、カルシウム感受性タンパク質の発光量を測定する時のウシ由来TSHの最終濃度は、100μU/mlである。また、TSHの代わりに、またはTSHに加えて、TSAbを使用してもよい。TSAbはモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であり得る。
正常人IgGコントロール血清は、ネガティブコントロールとして使用され得るものであり、当業者が適宜調製できる。
【0025】
抗TSH抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。抗TSH抗体は適切な哺乳動物由来の抗体であり得、マウス抗TSH抗体、ラット抗TSH抗体、ウサギ抗TSH抗体、ヤギ抗TSH抗体が含まれる。抗TSH抗体は、当業者により適宜改変され得る。また、抗原となるTSHも適宜選択され、抗原となるTSHには、ヒトTSH、マウスTSH、ラットTSH、ウサギTSH、ネコTSH、イヌTSHが含まれる。本発明のキットに用いられる抗TSH抗体の例としては、ヤギ抗ヒトTSHポリクローナル抗体が挙げられる。抗TSH抗体の濃度は、当業者が適宜設定できる。例えば、キットに梱包される抗TSH抗体溶液の濃度を、0.01μg/ml〜100μg/mlとしてもよい。カルシウム感受性タンパク質の発光量を測定する時の抗TSHモノクローナル抗体の最終濃度は、例えば、0.05〜5.48μg/mlであり得る。
甲状腺機能低下症の患者の中には血中のTSH量が高値である患者が存在する。この場合、TSHにより細胞においてカルシウム感受性タンパク質が発光するので、甲状腺機能低下症の患者であるにもかかわらず、バセドウ病と診断され得る。しかしながら、当該TSH量が高値である甲状腺機能低下症の患者由来の血液試料を抗TSH抗体と共に本発明に係る細胞に添加することで、患者由来のTSHが中和されるので、当該患者をバセドウ病と誤って診断することを回避できる。 また、抗TSH抗体を患者由来の血液試料と共に本発明の細胞に添加した場合と、抗TSH抗体を添加せずに患者由来の血液試料を本発明の細胞に添加した場合のカルシウム感受性タンパク質から発せられる発光量を比較することにより、患者の血中におけるTSH量に関する情報を得ることができる。当該情報と患者の臨床症状を併せることにより、医師は甲状腺疾患をより正確に診断できる。
【0026】
また、本発明のキットは、さらに、甲状腺疾患の患者の血清、例えば、バセドウ病患者および/または甲状腺機能低下症患者の血清含み、これら血清は、甲状腺疾患の診断、該疾患発症の危険性の判定、該疾患の治療の有効性の判定において、対照または濃度算出用の標準品として使用することができる。
【0027】
さらに、本発明のキットは、アデニル酸シクラーゼを活性化する物質、例えば、フォルスコリンを含み得る。被験者の血液由来のサンプルをTSHと共に細胞に添加し、一定時間培養した後に、フォルスコリンを添加することにより、該サンプル中のTSHR結合阻害型の抗体の存在、不存在を判定できる。また、該サンプル中のTSHR結合阻害型の抗体の濃度を測定することもでき、これにより、甲状腺機能低下症(例えば、橋本病)を診断し、甲状腺機能低下症(例えば、橋本病)を発症する危険性を有するヒトを判定し、甲状腺機能低下症(例えば、橋本病)の治療を受けた患者の治療効果を判断することができる。
【0028】
本発明に係る組成物またはキットは、また、患者の臨床症状および/または他の検査結果を考慮して、医師がバセドウ病および/または甲状腺機能低下症を診断するための診断補助にも有用である。例えば、甲状腺機能亢進症を示す患者の血液試料中のTSHR刺激型抗体(TSAb)の量を本発明に係る組成物またはキットを用いて測定することは、バセドウ病と破壊性甲状腺機能亢進症(例えば、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎)との鑑別診断に有用であり得る。
【0029】
本発明は、また、下記工程(A)〜(C):
(A)甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞、カルシウム感受性タンパク質の発光基質、Ca2+不含の培地、および被験者の血液由来のサンプルを含む混合物を調製する;
(B)(A)で調製した混合物にCa2+含有溶液を添加する;および
(C)該細胞より発生するカルシウム感受性タンパク質の発光を測定する、
を含む、バセドウ病の判定方法、を提供する。
上記方法の工程(A)で使用するCa2+不含の培地は当業者が適宜選択でき、Ca2+、Mg2+不含の培地であり得る。
上記方法の工程(B)で使用するCa2+含有溶液は当業者が適宜選択でき、例えば、CaCl2溶液であり得る。Ca2+含有溶液はさらにカルシウムと置換可能な陽イオン(例えば、カドミウムイオン、ストロンチウムイオン)、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、硫酸イオンおよび/または炭酸イオンを含んでもよい。
上記方法の工程(A)で調製される混合物は、さらに、抗TSH抗体を含んでもよい。上記方法の工程(A)で調製される混合物が抗TSH抗体を含むことにより、血中のTSH量が高値である甲状腺機能低下症の患者を誤ってバセドウ病を判定することが回避され得る。
上記方法の工程(A)に記載した物質をいかなる順番で添加するかは、当業者が適宜設定できる。
例えば、本発明は、下記工程:
(1)甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞を、カルシウム感受性タンパク質の発光基質を添加したCa2+不含の培地中で培養する工程;
(2)被験者の血液由来のサンプルを培養細胞に添加し、さらに培養する工程;および
(3)培養細胞にCaCl2溶液を添加し、該細胞より発生するカルシウム感受性タンパク質の発光を測定する工程を含む、バセドウ病の判定方法を提供する。
当該方法において、細胞は、凍結保存されていてもよく、その場合には、温浴等の穏やかな操作により解凍され得る。解凍された細胞はカルシウム感受性タンパク質の発光基質を添加したCa2+、Mg2+不含の培地中で培養されてもよい。カルシウム感受性タンパク質の発光基質には、セレンテラジンおよびViviRen(登録商標)が含まれる。
Ca2+不含の培地は、細胞を維持できるものであればよく、例えば、130mM NaCl, 5mM KCl, 20mM HEPES, 1mM MgCl2, 4.8mM NaHCO3, 5% PEG6000, pH 7.4が使用される。また、Ca2+不含の培地は、Ca2+及びMg2+不含の培地であり得る。細胞は、適切な容器に、適切な濃度で播種すればよく、例えば、ルミノメーターに対応できる96穴プレートに3〜30X10個/mlで90μl/ウェルで播種される。工程(1)における培養時間は2時間以上であればよく、2−8時間で設定されることができ、例えば3時間である。一般的に、継代によるダメージから回復させ、イクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量を増加させるために、培養は細胞播種後12−24時間程度されることが通常であるが、本発明では、2時間程度の培養であっても、添加物による細胞死が惹起されず、カルシウム感受性タンパク質が強い発光を示すことが確認された。例えば、カルシウム感受性タンパク質としてイクオリンを採用し、そのDNA配列のコドンをヒト型に最適化し、ミトコンドリア移行シグナルを付加すること、さらには、カルシウム感受性タンパク質の発光基質としてViviRen(登録商標)を採用することにより、細胞播種後2時間程度であっても、カルシウム感受性タンパク質からの強い発光を検出することができることが確認された。
工程(2)において添加される血液由来のサンプルは、被験者等の血液にPEG水溶液を加え、沈殿画分を回収することにより調製される。PEG水溶液の例としては、30% PEG6000が使用される。また、場合により、バセドウ病患者の血液由来のサンプルを陽性対照として、および/または、正常人由来の血液サンプルを陰性対照として使用し、工程(2)においてそれぞれ細胞に添加することもできる。工程(2)における培養時間は、限定はされないが、30−60分間とすることができ、例えば、30分間とすることができる。これにより、細胞内にcAMPが蓄積され、サンプル添加後の培養が無い場合に比較し、CaCl2溶液の添加直後からより安定した強い発光を測定することができる。
工程(2)および工程(3)の培養時間が、合計約4時間以内であれば、時間が短いので無菌的な培養である必要はない。
工程(2)において、さらに抗TSH抗体を培養細胞に添加してもよい。抗TSH抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。抗TSH抗体は適切な哺乳動物由来の抗体であり得、マウス抗TSH抗体、ラット抗TSH抗体、ウサギ抗TSH抗体、ヤギ抗TSH抗体が含まれる。抗TSH抗体は、当業者が適宜改変され得る。また、抗原となるTSHも適宜選択され、抗原となるTSHには、ヒトTSH、マウスTSH、ラットTSH、ウサギTSH、ネコTSH、イヌTSHが含まれる。本発明の方法に用いられる抗TSH抗体の例としては、ヤギ抗ヒトTSHポリクローナル抗体が挙げられる。
工程(3)において使用するCaCl2含有溶液はさらにカルシウムと置換可能な陽イオン(例えば、カドミウムイオン、ストロンチウムイオン)、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、硫酸イオンおよび/または炭酸イオンを含んでもよい。CaCl2溶液に含まれ得るCa2+、カルシウムと置換可能な陽イオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、硫酸イオンおよび炭酸イオンの濃度は、細胞を維持でき、そして、イクオリン等のカルシウム感受性タンパク質が適切に発光するように、当業者により適宜設定され得る。
工程(3)において、イクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光はCaCl2溶液の添加後すぐに行われ、当業者により周知の方法で測定できる。例えば、攪拌と測定が自動で連続してできるルミノメーター(PerkinElmer社、ARVO-Sx)を使用し、攪拌後15−30秒間の発光値を積算して発光量を測定することができる。発光量の測定に使用できる装置は、当業者が適宜選択できる。
【0030】
上記方法を実施した結果、被験者の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量が、正常人の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量に比較して高ければ、バセドウ病と判定することができる。また、血中の抗体濃度を求め、バセドウ病患者および/または正常人の標準的な抗体濃度と比較することにより、バセドウ病であるか否かを判定することができる。
【0031】
例えば、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量と、被験者の血液試料と同量の正常人の血液試料(標準品)を添加した細胞から発せられる発光量を測定し、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量が、正常人の血液試料(標準品)を添加した細胞から発せられる発光量より高ければ、被験者の血中におけるTSHR刺激性の抗体(TSAb)の濃度が正常人に比較し高いと判断でき、被験者はバセドウ病であると判定できる。
また、予め、多数の正常人集団、例えば、50〜100人の正常人の血液試料を添加した場合の発光量(積算値)を測定し、その平均値と標準偏差(SD)を算出してもよい。被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量が、正常人集団の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)の平均値+nSD(例えば、n=1、2、3、4または5)より高ければ、被験者の血中におけるTSHR刺激性の抗体の濃度が正常人に比較し高いと判断でき、被験者はバセドウ病であると判定することができる。
【0032】
さらに、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)/正常人の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)X100(%)を算出し(算出値を算出値Dとする)てもよい。予め、多数の正常人集団および多数の未治療バセドウ病患者集団、例えば、それぞれ50〜100人の集団の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)を測定し、バセドウ病の有病正診率および/または正常人であることの無病正診率が、それぞれ、例えば、80%以上、90%以上、92%以上、94%以上、96%以上または98%以上であるカットオフ値を設定して、算出値Dがカットオフ値より高い場合、被験者はバセドウ病であると判定することもできる。カットオフ値は、年齢、性別等の対象となる集団の性質により適宜設定できるが、例えば、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%または200%とすることができる。
さらに、また、抗体(TSAb)の標準品(例えば、NIBSC 90/672または65/122)を用い、濃度を段階希釈して検量線を作成してもよい。当該検量線を参考にして、測定した被験者の血液試料を添加した細胞におけるカルシウム感受性タンパク質の発光量から、実際の抗体(TSAb)の血中濃度を算出し、予め測定した多数の正常人集団および多数の未治療バセドウ病患者集団、例えば、それぞれ50〜100人の集団の抗体(TSAb)の血中濃度、または文献等で報告されている公知データと比較することにより、被験者がバセドウ病であるか否か判定することもできる。例えば、正常人集団の(TSAb)の血中濃度の平均値+nSD(例えば、n=1、2、3、4または5)より高ければ、被験者はバセドウ病であると判定することもできる。
【0033】
また、上記方法を実施した結果、被験者の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量が、正常人の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量に比較して高く、バセドウ病患者の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量に比較して低ければ、バセドウ病を発症する危険性の高いヒトであると判定することができる。あるいは、血中の抗体濃度を求め、バセドウ病患者および/または正常人の標準的な抗体濃度と比較することにより、バセドウ病を発症する危険性の高いヒトであるか否かを判定することができる。
さらに、工程(2)において、被験者の血液由来のサンプルとして、同一のバセドウ病患者の治療前と治療後のサンプルを添加し、細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量を比較することで、該治療の有効性を判定できる。試験をした結果、治療前よりも治療後のサンプルの方がイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量が低ければ、治療が有効であったと判定できる。
【0034】
本発明は、また、下記工程(A)〜(C):
(A)甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞、カルシウム感受性タンパク質の発光基質、Ca2+不含の培地、TSHまたは刺激型のTSAbモノクローナル抗体、および被験者の血液由来のサンプルを含む混合物を調製する;
(B)(A)で調製した混合物にCa2+含有溶液を添加する;および
(C)該細胞より発生するカルシウム感受性タンパク質の発光を定量する、
を含む、甲状腺機能低下症の判定方法、を提供する。
上記方法の工程(A)で使用するCa2+不含の培地は当業者が適宜選択でき、Ca2+、Mg2+不含の培地であり得る。
上記方法の工程(B)で使用するCa2+含有溶液は当業者が適宜選択でき、例えば、CaCl2溶液であり得る。また、Ca2+含有溶液はさらにカルシウムと置換可能な陽イオン(例えば、カドミウムイオン、ストロンチウムイオン)、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、硫酸イオンおよび/または炭酸イオンを含んでもよい。
上記方法の工程(A)に記載した物質をいかなる順番で添加するかは、当業者が適宜設定できる。
例えば、本発明は、下記工程:
(1)甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞を、カルシウム感受性タンパク質の発光基質を添加したCa2+不含の培地中で培養する工程;
(2)被験者の血液由来のサンプルを、TSHと共に培養細胞に添加し、さらに培養する工程;および
(3)培養細胞にCaCl2溶液を添加し、該細胞より発生するカルシウム感受性タンパク質の発光を測定する工程を含む、甲状腺機能低下症(例えば、橋本病)の判定方法を提供する。
工程(1)−(3)は、上記バセドウ病の判定方法を参考にして当業者により適宜実施され得る。
場合により、工程(2)において、正常人の血液由来のサンプルが陰性対照として、および/または、甲状腺機能低下症患者の血液由来のサンプルが陽性対照として使用され、それぞれ細胞に添加され得る。また、工程(2)における培養時間は、限定はされないが、30−120分間とすることができ、例えば、30分間とすることができる。さらに、工程(2)において、TSHはウシ由来TSHであり得、場合により、TSHの代わりに、またはTSHに加えて、TSAbを添加することができる。TSAbはモノクローナル抗体であり得る。
【0035】
上記方法を実施した結果、被験者の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量が、正常人の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量に比較して低ければ、甲状腺機能低下症と判定することができる。また、血中の抗体濃度を求めることにより、甲状腺機能低下症患者および/または正常人の標準的な抗体濃度と比較することにより、甲状腺機能低下症であるか否かを判定することができる。
例えば、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量と、被験者の血液試料と同量の正常人の血液試料(標準品)を添加した細胞から発せられる発光量を測定し、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量が、正常人の血液試料(標準品)を添加した細胞から発せられる発光量より低ければ、被験者の血中におけるTSHR阻害型の抗体(TSBAb)の濃度が正常人に比較し高いと判断でき、被験者は甲状腺機能低下症であると判定できる。
また、予め、多数の正常人集団、例えば、50〜100人の正常人の血液試料を添加した細胞におけるTSHによるカルシウム感受性タンパク質の発光量(積算値)を測定し、その平均値と標準偏差(SD)を算出してもよい。被験者の血液試料を添加した細胞におけるTSHによる発光量が、正常人集団の血液試料を添加した細胞におけるTSHによる発光量(積算値)の平均値−nSD(例えば、n=1、2、3、4または5)より低ければ、被験者の血中におけるTSHR阻害型の抗体(TSBAb)の濃度が正常人に比較し高いと判断でき、被験者は甲状腺機能低下症であると判定することもできる。
【0036】
さらに、被験者の血液試料を添加した場合の発光量(積算値)/正常人の血液試料を添加した場合の発光量(積算値)X100(%)を算出し(算出値を算出値Eとする)てもよい。予め、多数の正常人集団および多数の未治療甲状腺機能低下症患者集団、例えば、各50〜100人の集団の血液試料に起因する発光量(積算値)を測定し、甲状腺機能低下症の有病正診率および/または正常人であることの無病正診率が、それぞれ、例えば、80%以上、90%以上、92%以上、94%以上、96%以上または98%以上であるカットオフ値を設定して、算出値Eがカットオフ値より低い場合、被験者は甲状腺機能低下症であると判定することもできる。カットオフ値は、年齢、性別等の対象となる集団の性質により適宜設定できるが、例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%とすることができる。
さらに、また、既知濃度の抗体(TSBAb)の標準品をもちい、濃度を段階希釈して検量線を作成してもよい。当該検量線を参考にして、測定した被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量から、実際の抗体(TSBAb)の血中濃度を算出し、予め測定した多数の正常人集団および多数の未治療甲状腺機能低下症患者集団、例えば、それぞれ各50〜100人の集団の抗体(TSBAb)の血中濃度、または文献等で報告されている公知データと比較することにより、被験者が甲状腺機能低下症であるか否か判定することもできる。例えば、正常人集団の(TSBAb)の血中濃度の平均値+nSD(例えば、n=1、2、3、4または5)より高ければ、被験者は甲状腺機能低下症であると判定することもできる。
また、上記方法を実施した結果、被験者の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量が、正常人の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量に比較して低く、甲状腺機能低下症患者の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリンの発光量に比較して高ければ、甲状腺機能低下症を発症する危険性の高いヒトと判定することができる。あるいは、血中の抗体濃度を求め、甲状腺機能低下症患者および/または正常人の標準的な抗体濃度と比較することにより、甲状腺機能低下症を発症する危険性の高いヒトであるか否かを判定することができる。
さらに、また、工程(2)において、被験者の血液由来のサンプルとして、同一の甲状腺機能低下症患者の治療前と治療後のサンプルを添加し、細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量を比較することで、該治療の有効性を判定できる。試験をした結果、治療前よりも治療後のサンプルの方がイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量が高ければ、治療が有効であったと判定できる。
【0037】
本発明は、さらにまた、下記工程(A)〜(C):
(A)請求項1−10のいずれかに記載の細胞、カルシウム感受性タンパク質の発光基質、Ca2+含有培地、TSHまたは刺激型のTSAbモノクローナル抗体、および被験者の血液由来のサンプルを含む混合物を調製する;
(B)(A)で調製した混合物にフォルスコリンを添加する;および
(C)該細胞より発生するカルシウム感受性タンパク質の発光を定量する、
を含む、甲状腺機能低下症の判定方法、を提供する。
上記方法の工程(A)で使用するCa2+含有培地は当業者が適宜選択でき、例えば、CaCl2を含有する培地であり得る。また、Ca2+含有培地はさらにカルシウムと置換可能な陽イオン(例えば、カドミウムイオン、ストロンチウムイオン)、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、硫酸イオンおよび/または炭酸イオンを含んでもよい。Ca2+含有培地に含まれうるCa2+、カルシウムと置換可能な陽イオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、硫酸イオンおよび炭酸イオンの濃度は、細胞を維持でき、そして、イクオリン等のカルシウム感受性タンパク質が適切に発光するように、当業者により適宜設定され得る。
上記方法の工程(A)に記載した物質をいかなる順番で添加するかは、当業者が適宜設定できる。
例えば、本発明は、下記工程:
(1)甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)、cAMP依存性カルシウムチャンネル、およびカルシウム感受性タンパク質を発現する細胞を、カルシウム感受性タンパク質の発光基質を添加したCa2+含有培地中で培養する工程;
(2)被験者の血液由来のサンプルを、TSHと共に培養細胞に添加し、さらに培養する工程;および
(3)培養細胞にフォルスコリンを添加し、該細胞より発生するカルシウム感受性タンパク質の発光を測定する工程を含む、甲状腺機能低下症(例えば、橋本病)の判定方法を提供する。
工程(1)−(3)は、上記バセドウ病の判定方法を参考にして当業者により適宜実施され得る。
場合により、工程(2)において、正常人の血液由来のサンプルが陰性対照として、および/または、甲状腺機能低下症患者の血液由来のサンプルが陽性対照として使用され、それぞれ細胞に添加され得る。また、工程(2)における培養時間は、限定はされないが、10−120分間とすることができ、例えば、10分間とすることができる。さらに、工程(2)において、TSHはウシ由来TSHであり得、場合により、TSHの代わりに、またはTSHに加えて、TSAbを添加することができる。TSAbはモノクローナル抗体であり得る。
工程(3)において、フォルスコリンの濃度は当業者により適宜設定され得る。
【0038】
上記方法を実施した結果、被験者の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量が、正常人の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量に比較して高ければ、甲状腺機能低下症と判定することができる。また、血中の抗体濃度を求めることにより、甲状腺機能低下症患者および/または正常人の標準的な抗体濃度と比較することにより、甲状腺機能低下症であるか否かを判定することができる。
例えば、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量と、被験者の血液試料と同量の正常人の血液試料(標準品)を添加した細胞から発せられる発光量を測定し、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量が、正常人の血液試料(標準品)を添加した細胞から発せられる発光量より高ければ、被験者の血中におけるTSHR阻害型の抗体(TSBAb)の濃度が正常人に比較し高いと判断でき、被験者は甲状腺機能低下症であると判定できる。
また、予め、多数の正常人集団、例えば、50〜100人の正常人の血液試料を添加した場合の発光量(積算値)を測定し、その平均値と標準偏差(SD)を算出してもよい。被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量が、正常人集団の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)の平均値+nSD(例えば,n=1、2、3、4または5)より高ければ、被験者の血中におけるTSHR阻害型の抗体(TSBAb)の濃度が正常人に比較し高いと判断でき、被験者は甲状腺機能低下症であると判定することもできる。
【0039】
さらに、被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)/正常人の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量(積算値)X100(%)を算出し(算出値を算出値Fとする)てもよい。予め、多数の正常人集団および多数の未治療甲状腺機能低下症患者集団、例えば、各50〜100人の集団の血液試料に起因する発光量(積算値)を測定し、甲状腺機能低下症の有病正診率および/または正常人であることの無病正診率が、それぞれ、例えば、80%以上、90%以上、92%以上、94%以上、96%以上または98%以上であるカットオフ値を設定して、算出値Fがカットオフ値より高い場合、被験者は甲状腺機能低下症であると判定することもできる。カットオフ値は、年齢、性別等の対象となる集団の性質により適宜設定できるが、例えば、150%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%または900%とすることができる。
さらに、また、既知濃度の抗体(TSBAb)の標準品をもちい、濃度を段階希釈して検量線を作成してもよい。当該検量線を参考にして、測定した被験者の血液試料を添加した細胞から発せられる発光量から、実際の抗体(TSBAb)の血中濃度を算出し、予め測定した多数の正常人集団および多数の未治療甲状腺機能低下症患者集団、例えば、それぞれ各50〜100人の集団の抗体(TSBAb)の血中濃度、または文献等で報告されている公知データと比較することにより、被験者が甲状腺機能低下症であるか否か判定することもできる。例えば、正常人集団の(TSBAb)の血中濃度の平均値+nSD(例えば、n=1、2、3、4または5)より高ければ、被験者は甲状腺機能低下症であると判定することもできる。
【0040】
また、上記方法を実施した結果、被験者の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量が、正常人の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量に比較して高く、甲状腺機能低下症患者の血液由来のサンプルを添加した細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量に比較して低ければ、甲状腺機能低下症を発症する危険性の高いヒトと判定することができる。あるいは、血中の抗体濃度を求め、甲状腺機能低下症患者および/または正常人の標準的な抗体濃度と比較することにより、甲状腺機能低下症を発症する危険性の高いヒトであるか否かを判定することができる。
さらに、また、工程(2)において、被験者の血液由来のサンプルとして、同一の甲状腺機能低下症患者の治療前と治療後のサンプルを添加し、細胞より発生するイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量を比較することで、該治療の有効性を判定できる。試験をした結果、治療前よりも治療後のサンプルの方がイクオリン等のカルシウム感受性タンパク質の発光量が低ければ、治療が有効であったと判定できる。
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
1.凍結細胞の構築方法の詳細
ヒト甲状腺由来のcDNA ライブラリーからPCR法によりヒト甲状腺刺激ホルモンレセプターのcDNA配列(Genbank No.NM_000369)(配列番号5)を増幅し、pUC18にクローニングした。pUC18にクローン化したhTSHR cDNAをBamH1で切り出し、pZeoSV2ベクター(Invitrogen)にリクローニングし、pZeoSV2 hTSHRを作成した。
マウス臭上皮細胞由来のcDNAライブラリーからサイクリックヌクレオチド依存型のカルシウムチャンネル(Genbank No. BC048775)(配列番号4)をPCR法で増幅し(1994bp)発現ベクター(pCMVSPORT, Invitrogen)にクローニングしてpmCNGα2(図18)を作成した。更に、cAMPに対する選択性と感度を上昇させるために、460番目のシステイン(C)をトリプトファン(W)に、583番目のグルタミン酸(E)をメチオニン(M)にアミノ酸置換を導入した改変サイクリックヌクレオチド依存型のカルシウムチャンネル(配列番号6)を発現するコンストラクトpmCNGα2MWを点変異PCR法により作成した。また、オリゴDNA伸長法によってヒト型のコドン頻度に最適化し、ミトコンドリア移行シグナルを有する合成アポイクオリンcDNA配列(676bp)(配列番号7)を、KpnI, NheIで制限酵素処理し、KpnI, NheIで処理したpcDNA3.1(Invitrogen)にクローニングし、アポイクオリン発現ベクターpcDNA mt sAEQ(図19)を作成した。
CHO細胞株を10cm2シャーレに細胞濃度1.0x105 cells/mlで播種した。翌日、シャーレあたり1μgのpZeoSV2 hTSHR、2μgのpmCNGα2MW, 2μgのpcDNA mt sAEQをFuGENE6TM(ロッシュ社)を用いて遺伝子導入した。翌日、シャーレに400μLのベルセン溶液(EDTA)を添加し、細胞をシャーレより剥がし、10 mLの5% cFCS を含むDMEM/F12 培地に懸濁した。得られた懸濁液を1000回転で5分間遠心分離後、ペレットを2-5×106 cells/mLの濃度で1mLのセルバンカーに溶解させ-80℃で保存した。
【0043】
2.凍結細胞をもちいたbovine TSH (bTSH)の濃度依存曲線と最低検出感度
1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのサンプルバッファー(130mM NaCl, 5mM KCl, 20mM HEPES, 1mM MgCl2, 4.8mM NaHCO3, 5% PEG6000, pH 7.4)に懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのサンプルバッファーを加えて7.5μL 4mM ViviRen (Promega社)を添加し、90μL/wellで96穴プレートに播種した。37℃ CO2で3時間培養後、PBSで段階希釈したbTSHを10μL添加し(n=6)、30分培養した後、3mM CaCl2液を50μL/wellで添加しルミノメーター(PerkinElmer社、ARVO-Sx、以下、実施例において同機種を使用した)で発光量を測定した。図1にbTSHの濃度依存曲線を示した。
【0044】
低濃度域について拡大した図2で示したようにブランク値の+3SDの値を有意に分離できるbTSHの最低検出感度は、0.16μU/mLで、あった。また、イクオリンは、発光反応を利用しているため、本法では、高いブランク/シグナル比(S/N比)100μU/mL bTSH S/N比、約45倍(9000000/200000)が得られた。
【0045】
低濃度域について拡大した図2で示したようにブランク値の+3SDの値を有意に分離できるbTSHの最低検出感度は、0.16μU/mLで、既存のヤマサ醤油のキットの最低検出感度 1μU/mL(長田篤雄、他:ホルモンと臨床, 41:1023,1993)よりも一桁高感度であった。
また、イクオリンは、発光反応を利用しており、本法の100μU/mL bTSH S/N比、約45倍(9000000/200000)という高いブランク/シグナル比(S/N比)は、ヤマサキット(100μU/mL bTSH SN=7)に比べて大きく改善した。
【0046】
3.再現性の検討
ヒトバセドウ患者由来のTSAb標準品、MRC Research standard B 1966 Long-acting Thyroid Stimulator (NIBSC・Nasional Institute for Biological Standards and Control, code 65/122)を正常人血清で希釈し、H(1.88 mU LAST/ml) M(1.25 mU LAST/ml) L(0.94 mU LAST/ml)のコントロール検体を作成した。 作成した50μLのコントロール血清に150μLの30% PEG6000を加えて撹拌後、4℃で5分間静置した。4℃ 3000rpm 20分間遠心後、得られた沈殿を400μLサンプルバッファーに溶解させサンプル液とした。1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのサンプルバッファーに懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのサンプルバッファーを加えて7.5μL 4mM ViviRenを添加し、80μL/wellで96穴プレートに播種した。37℃ CO2で3時間培養後、調整したサンプルを20μL添加し(n=2)、30分培養した後、9mM CaCl2液を50μL添加しルミノメーターで発光量を測定した。LMHサンプルを6サンプル同時に精製及び測定した場合(同時再現性)、異なる10日に独立して精製及び測定を行った場合(日差再現性)、異なる製造ロットについて同一の日にLMHサンプルを精製及び測定した場合(異ロット間再現性)を比較した。測定サンプルに加えてヤマサキットで別途値づけしたH(576 TSAb%), M(342 TSAb%),L(197 TSAb%)をプレート内に加えて検量線を書き、得られた回帰直線からもとめた値をサンプル濃度(ヤマサキット換算TSAb %)とした(ヤマサTSAb% = 検体の値/正常人血清の値×100(%))。
【表1】
本法では、測定系が高感度でS/N比が高いことから高い再現性が得られることが確認された。また、本法での、異なるロット間のCVは、5-6%と再現性が高いことが分かった。ライン化されたCHO細胞と最適化された遺伝子導入条件により、異ロット間差が少ない測定系を構築できた。
既存のヤマサ醤油のTSAbキットの再現性のCV値は、10-15%であることが報告されており、本法の高い再現性が確認された。
また、既存のキットは、ブタ組織由来の甲状腺細胞を凍結させて製造しているため、組織が由来するブタの個体差によるロット間のばらつきが大きいことが問題であった(異ロット間CV 10-19 %)ところ、本法は、異なるロット間でも再現性が高いことが分かった。
【0047】
4.イクオリン発光基質(Viviren)の添加後の培養時間の検討
1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのサンプルバッファーに懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのサンプルバッファーを加えて7.5μL 4mM ViviRenを添加し、添加後、30分、1,2,3,4,5,6,7,8時間後、90μL/wellで96穴プレートに播種した。PBSで段階希釈したb TSHを10μL添加し、30分培養した後、9mM CaCl2液を50μL/wellで添加しルミノメーターで発光量を測定した。
Viviren添加後2時間で発光量は、プラトーに達することがわかった(図3参照)。
【0048】
5.トランスフェクションするレセプタープラスミド量の検討
CHO細胞を10cm2シャーレに1×105 cells/mL濃度のCHO細胞を10mL播種し、1日培養後、3ug pcDNA mt sAEQ, 1ug pmCNGα2MWと0〜1ugのpZeoSV2 TSHRプラスミドを混合し、600μL DMEM/F12、18μL Fugene6(ロッシュ社)を混合し、トランスフェクションを行った。さらに一晩培養後、培地を除去し、10mL PBSで洗った後、800μLのベルセンを加えて37℃ 5分間培養した後10mLのDMEM/F12 cFCSに懸濁した。1000rpm 5分間遠心した後、沈殿を10mLのDMEM/F12 cFCSに溶解させ、6.5μLの4mM Vivirenを添加し、37℃で3時間培養した後、PBSに置換し、90μL/wellで96wellプレートに播種した。bTSHの濃度系列を添加後、30分後に3mM CaCl2液を50μL/wellで添加しルミノメーターで発光量を測定した。
最適な発光量を得るには、受容体プラスミドについて1ug/plate量のトランスフェクションが必要であることが明らかになった(図4参照)。
【0049】
6.細胞濃度の最適化
1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのサンプルバッファーに懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのサンプルバッファーを加えた。細胞濃度を3×103 cells/mL〜3×105 cells/mL濃度に調整した細胞系列を作成し、7.5μL 4mM ViviRenを添加し、90μL/wellで96穴プレートに播種した。37℃ CO2で3時間培養後、PBSで段階希釈したb TSHを10μL添加し、30分培養した後、9mM CaCl2液を50μL/wellで添加しルミノメーターで発光量を測定した。
図5および図6に示すように細胞濃度に依存して発光量は増加した。各ブランク値を1とした相対値換算では、3×105 cells/mLが最適な濃度であることが明らかになった。
【0050】
7.CaCl2検出液の添加濃度の検討
1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのサンプルバッファーに懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのサンプルバッファーを加えて7.5μL 4mM ViviRenを添加し、90μL/wellで96穴プレートに播種した。37℃ CO2で3時間培養後、PBSで段階希釈したb TSHを10μL添加し、30分培養した。最終濃度0〜30mM のCaCl2検出液を50μL/wellで添加しルミノメーターで発光量を測定した。
バックグラウンド(0)での値が低く、サンプルで発光量が高い3〜6mM のCaCl2濃度が最適であることが明らかになった(図7参照)。
【0051】
8.刺激型抗体コントロール血清を用いた希釈直線性の検討
1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのサンプルバッファーに懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのサンプルバッファーを加えて7.5μL 4mM ViviRenを添加し、80μL/wellで96穴プレートに播種した。37℃ CO2で3時間培養した。30% PEG6000で精製し希釈した陽性コントロール血清系列(ロッシュ社NIBSC 90/672準拠, 40IU/mL, 13 IU/mL, 8 IU/mL, 4IU/mL)のIgG分画を、それぞれサンプルバッファーにて1/2, 1/4, 1/8, 1/16, 1/32 倍に希釈し、20μL添加した。30分培養後、9mM CaCl2液を50μL/wellで添加しルミノメーターで発光量を測定した。
図8に示したように、直線性をもって発光量が増加することが確認された。
【0052】
9.TSHRに対する阻害型抗体(TSBAb)の検出法の検討
1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのサンプルバッファーに懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのサンプルバッファーを加えて7.5μL 4mM ViviRenを添加し、90μL/wellで96穴プレートに播種した。37℃ CO2で3時間培養後、30% PEG6000で精製した甲状腺機能低下症患者由来のTSHRに対する阻害型抗体(TSBAb)分画及び正常人血清由来のIgG分画を10μL添加し、さらに同時にbTSHを10μL/wellで100μU〜2.5μU/mLの最終濃度となるように添加し、30分培養した後、9mM CaCl2液を50μL/wellで添加しルミノメーターで発光量を測定した。
甲状腺機能低下症患者由来の抗体分画では、2.5〜10μU/mL bTSH存在下で、90%以上の発光量が阻害されることが明らかになった(図9参照)。100μU/mL bTSHでは、50%程度阻害が見られ、競合させるbTSHの濃度に応じて競合阻害が認められることが分かった(図9参照)。
阻害型抗体を検出する場合、bTSH共存下でのシグナルの低下をみるのが一般的だが、これまでの方法は、S/N比が5-10倍と低く、S/N比が低いと測定レンジが狭くなる欠点が知られていたところ、本法は、bTSHの有無でのS/N比が50倍と測定レンジが広いため阻害型抗体を高感度で検出することができる。
【0053】
10.細胞の脱感作でTSHRに対する阻害型抗体(TSBAb)を検出する方法の検討
1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのサンプルバッファーに懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのカルシウムを含むDMEM/F12 cFCS培地を加えて7.5μL 4mM ViviRenを添加し、90μL/wellで96穴プレートに播種した。37℃ CO2で3時間培養後、30% PEG6000で精製した機能低下症患者由来のTSHRに対する阻害型抗体(TSBAb)分画及び正常人血清由来のIgG分画を10μL添加した。さらに同時にbTSHを10μL/wellで100μU〜2.5μU/mLの最終濃度となるように添加し、30分培養した後、10-4M Forskoin溶液を50μL/wellで添加しルミノメーターで発光量を測定した。
図10から、5μU以下のbTSH濃度では、脱感作が十分でなく、阻害型抗体と正常人との差はみられないが、100μU bTSH存在下では、正常人血清で発光量が低下し、阻害型抗体の存在下で発光量の増加が認められ、本方法により、脱感作をもちいて阻害抗体の有無を検出できることが分かった。
【0054】
[本法での阻害型抗体有無による発光のメカニズム]
この条件では、正常人血清のような阻害型抗体がない場合、bTSHを細胞に添加した時点で培地中にカルシウムが存在するため、bTSH添加直後に発光反応がおこる。これに対して、阻害型抗体(TSBAb)が存在する場合、TSBAbがbTSHの作用を阻害し、発光反応はおこらない。この状態で、つづけてアデニレートサイクラーゼを活性化するForskolinを添加するとTSH受容体を介さないでcAMPが生成され発光する。しかしTSBAbがない場合、細胞はbTSHによって一度アデニレートサイクラーゼの活性化を介して発光反応がおこっていて脱感作されているため、二度目の刺激であるForskolinをさらに添加しても発光しない。これに対してTSBAbが存在する場合、阻害抗体によりbTSHはアデニレートサイクラーゼを活性化していない。したがって、つづけてForskolinを添加すればcAMPが生成され発光反応がおこる。
【0055】
[考察]
これまでの阻害型抗体を検出する方法は、正常人に対して%阻害率で表記されている。しかし、%阻害率で表す場合、90%以上の高濃度域で定量性がない問題があった。
細胞の脱感作作用とフォルスコリンを用いる本方法では、正常人に対して増加する発光量で表記できるため、上値が規定されず、高濃度域でも直線性を持って阻害型抗体の有無を検出できる。
【0056】
11.刺激型抗体標準品を用いた既存キットとの感度比較
1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのサンプルバッファーに懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのサンプルバッファーを加えて7.5μL 4mM ViviRenを添加し、90μL/wellで96穴プレートに播種した。MRC Research standard B 1966 (NIBSC 65/122)を正常人血清で希釈し、濃度系列を作成した。作成した50μLのコントロール系列に150μLの30% PEG6000を加えて撹拌後、4℃で5分間静置した。4℃ 3000rpm 20分間遠心後、得られた沈殿を50μLサンプルバッファーに溶解させサンプル液とした。37℃ CO2で3時間培養後、サンプル液を10μL添加し、30分培養した。9mM のCaCl2検出液を50μL/wellで添加しルミノメーターで発光量を測定した。
別途、既存のヤマサ社のブタ甲状腺を用いたキットにて測定した値を示した。既存のヤマサキットでは、0.94 mU LAST/mLで200 TSAb %となり、それ以下の濃度は感度以下で検出できないが、本法では、0.94mU LAST/mLで2018 TSAb%、0.06 mU LAST/mL でも242 TSAb %で検出できることが分かり、既存のキットに比べて刺激型抗体について約16倍高感度で検出できることが分かった(図11参照)。
【0057】
12.凍結細胞を用いたキットの発光の経時変化の検討
1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのサンプルバッファー(130mM NaCl, 5mM KCl, 20mM HEPES, 1mM MgCl2, 4.8mM NaHCO3, 5% PEG6000, pH 7.4)に懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのサンプルバッファーを加えて7.5μL 4mM ViviRen (Promega社)を添加し、90μL/wellで96穴プレートに播種した。37℃ CO2で3時間培養後、30%PEG6000で精製したH(高値)、M(中値)、L(低値)のサンプルを10μL添加し(n=6)、30分培養した後、9mM CaCl2液を50μL/wellで添加し、3秒撹拌後、13秒間経時的にルミノメーターで発光量を測定した。その結果、図12に示すように、CaCl2液添加直後から比較的安定した発光が観察された。
【0058】
13.TSHRに対する阻害型抗体(TSBAb)の定量性の検討
(1)bTSHとの競合阻害を利用してTSHRに対する阻害型抗体(TSBAb)を検出する方法
1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのサンプルバッファー(130mM NaCl, 5mM KCl, 20mM HEPES, 1mM MgCl2, 4.8mM NaHCO3, 5% PEG6000, pH 7.4)に懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのサンプルバッファーを加えて7.5μL 4mM ViviRen (Promega社)を添加し、37℃ CO2で3時間培養後、30%PEG6000で精製した機能低下症患者由来の阻害型抗体を希釈したサンプル系列10μLと細胞液90μLを混合し、30分培養した後、9mM CaCl2液を50μL/wellで添加しルミノメーターで発光量を測定した。
図13に示されるように、本凍結細胞を用いて、TSHRに対する阻害型抗体(TSBAb)が定量的に検出された。
(2)細胞の脱感作を利用してTSHRに対する阻害型抗体(TSBAb)を検出する方法の濃度依存性
1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのサンプルバッファー(3mM CaCl2, 130mM NaCl, 5mM KCl, 20mM HEPES, 1mM MgCl2, 4.8mM NaHCO3, 5% PEG6000, pH 7.4)に懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのサンプルバッファーを加えて7.5μL 4mM ViviRen (Promega社)を添加し、90μL/wellで96穴プレートに播種した。30%PEG6000で精製した機能低下症患者由来の阻害型抗体を希釈したサンプル系列を10μL添加し、さらに、10μL/wellのbTSH溶液を最終濃度100μL/mLとなるように添加し、37℃ CO2で30分間培養後、10-4M フォルスコリン溶液を50μL/wellで添加しルミノメーターで発光量を測定した。
図14に示されるように、本凍結細胞を用いて、TSHRに対する阻害型抗体(TSBAb)が濃度依存的に検出された。
【0059】
14.TSHRに対する刺激型抗体(TSAb)または阻害型抗体(TSBAb)の作用時間(培養時間)の検討
(1)刺激型抗体(TSAb)を検出する方法
1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのサンプルバッファー(130mM NaCl, 5mM KCl, 20mM HEPES, 1mM MgCl2, 4.8mM NaHCO3, 5% PEG6000, pH 7.4)に懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのサンプルバッファーを加えて7.5μL 4mM ViviRen (Promega社)を添加し、90μL/wellで96穴プレートに播種した。30%PEG6000で精製した高値(H)、中値(M)、低値(L)、正常人(N)血清サンプルを10μL添加し、30分から1.5時間培養後、9mM CaCl2液を50μL/wellで添加しルミノメーターで発光量を測定した。
図15に示されるように、本発明に係る細胞と刺激型抗体(TSAb)の作用時間は30分〜1時間で、発光量はプラトーに達した。
(2)bTSHとの競合阻害を利用してTSHRに対する阻害型抗体(TSBAb)を検出する方法における作用時間の検討
1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのサンプルバッファー(130mM NaCl, 5mM KCl, 20mM HEPES, 1mM MgCl2, 4.8mM NaHCO3, 5% PEG6000, pH 7.4)に懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのサンプルバッファーを加えて7.5μL 4mM ViviRen (Promega社)を添加し、90μL/wellで96穴プレートに播種し、3時間培養した。30%PEG6000で精製した機能低下症患者由来の血清サンプル、及び正常人血清サンプルを10μL添加し、さらに10μL/wellのbTSH溶液を最終濃度10μU/mLとなるように加え、10分から2時間培養後、9mM CaCl2液を50μL/wellで添加しルミノメーターで発光量を測定した。
図16に示されるように、本発明に係る細胞と阻害型抗体(TSBAb)と競合させるbTSHの作用時間は30分で、発光量はプラトーに達した。
(3)細胞の脱感作を利用してTSHRに対する阻害型抗体(TSBAb)を検出する方法
1で調製した凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLのCO2 independent medium(Cat No.18045、インビトロジェン社)に懸濁して、1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に10mLのCO2 independent mediumに加えて7.5μL 4mM ViviRen (Promega社)を添加し、90μL/wellで96穴プレートに播種し、3時間培養した。30%PEG6000で精製した機能低下症患者由来の血清サンプル、及び正常人血清サンプルを10μL添加し、さらに10μL/wellのbTSH溶液を最終濃度100μU/mLとなるように加え、10分から2時間培養後、10-4Mのフォルスコリン溶液を50μL/wellで添加しルミノメーターで発光量を測定した。
図17に示されるように、本発明に係る細胞と阻害型抗体(TSBAb)と競合させるbTSHの作用時間は10分で、発光量はプラトーに達した。
【0060】
15.各種甲状腺疾患患者サンプルでの測定
1で調製した凍結細胞、および以下に記載する、細胞培養液、細胞洗浄液、ViviRen、カルシウム溶液、ヤギ抗hTSH抗体、コントロール血清および96穴プレートを含む本発明が提供するバセドウ病診断キットを用いて、各種甲状腺疾患患者群での血清中のTSAb活性について検討した。具体的には、臨床上の確定診断がついた、未治療バセドウ病患者 198例、機能低下症患者 18例、健常人 48例、機能性結節 2例、出産後甲状腺炎 6例、無痛性甲状腺炎 22例、亜急性甲状腺炎 22例の血清を用いた(表2参照)。50μLの患者血清に150μLの30% PEG6000を加えて撹拌後、4℃で5分間静置した。4℃ 3000rpm 20分間遠心後、得られた沈殿を400μLの細胞培養液(5%PEG6000、CO2インディペンデント培地(calcium chloride, D-calcium pantothenate, L-glutamine, phenolred不含、インビトロジェン社))に溶解させサンプル液とした。サンプル液を10μL/wellで96穴プレートに添加した(n=2)。凍結細胞1ml(3x10cells/ml)を温浴で溶解させ10mLの細胞洗浄液(CO2インディペンデント培地)に懸濁した。1000rpm 5分遠心後、得られた沈殿に12mLの細胞培養液を加え細胞液を調整した。細胞液に7.5μLの 4mM ViviRenを添加し、90μL/wellで96穴プレートに播種した。4時間培養後、3mMのカルシウム溶液を100μL添加しルミノメーターで発光量を測定した。機能低下症患者の中には、血清中のhTSHが高値となる患者が存在するため、hTSHの作用を中和するために、細胞培養液に、ヤギ抗hTSHポリクローナル抗体(ライフサイエンス社)を1.2μL添加した条件で測定を行った。NIBSC 65/122を健常人血清で希釈 (1.874 mU LATS /mL)したコントロール血清の測定値を1800とした一点検量線により、各患者での測定値を算出した。また、同一の患者血清について、既存キット(TSAbキット、ヤマサ社)を用いて、キット添付書に従い測定を行った。
健常人の血清中TSAb値から、TSAb値のカットオフを設定した。図20に健常人 48例での血清中のTSAb値の度数分布を示した。健常人の平均値は、124±34で正規分布を示した。平均値+3SD=180をカットオフと設定した。
各甲状腺疾患のTSAb値を図21に示した。未治療バセドウ病では、198例中195例が陽性(98%)、機能低下症では、3例が陽性、無痛性甲状腺炎、出生後甲状腺炎では1例が陽性を示した。表3において、未治療バセドウ病患者198例で、既存キットとのバセドウ病の陽性率を検討した。既存キットの陽性率は、68%、本発明が提供するキットでは、98%であったことから、既存キットに比べて、バセドウ病の検出感度が著しく向上していることがわかった。
【表2】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、操作が簡便でかつ安全なTSHレセプター抗体の測定方法および測定キットを提供することが可能になり、甲状腺疾患の診断が可能となる。
【0062】
本出願の優先権主張の基礎となる出願は日本国特許出願:特願2009−155183であり、引用によりその全内容が本出願に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]