特許第6472511号(P6472511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6472511磁気回路において非磁性の材料を備えた領域を有するピストンポンプ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472511
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】磁気回路において非磁性の材料を備えた領域を有するピストンポンプ
(51)【国際特許分類】
   F02M 37/08 20060101AFI20190207BHJP
   F04B 17/04 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   F02M37/08 F
   F04B17/04
【請求項の数】21
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-514829(P2017-514829)
(86)(22)【出願日】2015年8月13日
(65)【公表番号】特表2017-528645(P2017-528645A)
(43)【公表日】2017年9月28日
(86)【国際出願番号】EP2015068699
(87)【国際公開番号】WO2016041709
(87)【国際公開日】20160324
【審査請求日】2017年3月16日
(31)【優先権主張番号】102014218594.7
(32)【優先日】2014年9月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シアメンド フロー
(72)【発明者】
【氏名】フランク ニッチェ
(72)【発明者】
【氏名】トアステン アルガイアー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス プリッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルター モイラー
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−045933(JP,A)
【文献】 特開平11−006477(JP,A)
【文献】 特開昭58−126481(JP,A)
【文献】 特開昭64−087867(JP,A)
【文献】 特開昭50−160810(JP,A)
【文献】 特開昭60−153466(JP,A)
【文献】 特開昭58−178863(JP,A)
【文献】 特開平10−068366(JP,A)
【文献】 特開2005−240861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/08
F04B 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有するカップ状のハウジング(2)と、該ハウジング(2)の内部に配置された少なくとも1つのソレノイドコイル(5)と、該ソレノイドコイル(5)の内部に配置されたシリンダ(4)と、該シリンダ(4)内に配置されたピストン(6)と、該ピストン(6)のためのストッパ(9)を有するアーマチュアプレート(3)であって、前記開口を塞ぐように配置された板状のアーマチュアプレート(3)と、を備えたピストンポンプ(1)であって、前記ピストン(6)は、前記ソレノイドコイル(5)により形成された磁界により前記ストッパ(9)に向かう方向に移動可能であり、前記磁界に基づいて、当該ピストンポンプ(1)内に磁気回路が形成可能である、ピストンポンプ(1)において、
前記磁気回路は、前記ピストン(6)のストッパ側の反転点において、非磁性の材料を有する少なくとも1つの領域(15)を有しており、
前記磁気回路は、前記アーマチュアプレート(3)の外周面と前記ハウジングの前記開口の内周面との間に、前記少なくとも1つの領域(15)を有していることを特徴とする、ピストンポンプ(1)。
【請求項2】
前記ピストン(6)、前記シリンダ(4)、前記ハウジング(2)、前記アーマチュアプレート(3)および前記ストッパ(9)は、前記磁気回路の構成要素である、請求項1記載のピストンポンプ(1)。
【請求項3】
前記非磁性の材料は、1.1よりも小さい比透磁率μを有する、請求項1又は2記載のピストンポンプ(1)。
【請求項4】
前記領域(15)は、非磁性の材料から成っている、請求項1からまでのいずれか1項記載のピストンポンプ(1)。
【請求項5】
前記非磁性の材料は、固体状態である、請求項1からまでのいずれか1項記載のピストンポンプ(1)。
【請求項6】
前記領域(15)は、フィルムである、請求項1からまでのいずれか1項記載のピストンポンプ(1)。
【請求項7】
前記領域(15)は、非磁性のフィルムである、請求項記載のピストンポンプ(1)。
【請求項8】
前記領域(15)は、コーティングである、請求項1からまでのいずれか1項記載のピストンポンプ(1)。
【請求項9】
前記領域(15)は、クロム層または窒化物層である、請求項記載のピストンポンプ(1)。
【請求項10】
前記領域(15)は、処理された表面である、請求項1からまでのいずれか1項記載のピストンポンプ(1)。
【請求項11】
前記領域(15)は、窒化処理された表面である、請求項10記載のピストンポンプ(1)。
【請求項12】
前記ピストン(6)の、前記アーマチュアプレート(3)に面した端面(10)および/または前記アーマチュアプレート(3)の前記ストッパ(9)は、成形部を有している、請求項1から11までのいずれか1項記載のピストンポンプ(1)。
【請求項13】
前記成形部は、前記ピストン(6)の全長Lの2%よりも大きく、かつ/または前記ピストン(6)の全長Lの10%よりも小さな深さTを有しており、前記ピストン(6)の前記全長Lは、前記ピストン(6)の、前記アーマチュアプレート(3)に面した前記端面(10)から該端面(10)とは反対の側に位置する端面(14)までの間隔である、請求項12記載のピストンポンプ(1)。
【請求項14】
前記成形部は、少なくとも1つの溝(17)により形成されている、請求項12または13記載のピストンポンプ(1)。
【請求項15】
前記成形部は、少なくとも1つの環状または直線状の溝(17)により形成されている、請求項14記載のピストンポンプ(1)。
【請求項16】
2つの溝(17)の間に形成される角度βは、0°〜180°の範囲にある、請求項14または15記載のピストンポンプ(1)。
【請求項17】
2つの溝(17)の間に形成される角度βは、22°〜90°の範囲にある、請求項16記載のピストンポンプ(1)。
【請求項18】
前記成形部は、少なくとも1つの段部(19)により、または少なくとも1つの斜面により、形成されている、請求項12または13記載のピストンポンプ(1)。
【請求項19】
前記成形部は、少なくとも1つの環状の段部(19)により形成されている、請求項18記載のピストンポンプ(1)。
【請求項20】
前記成形部は、少なくとも1つの、円周に沿って形成された斜面により形成されている、請求項18記載のピストンポンプ(1)。
【請求項21】
前記ピストンポンプ(1)は、自動二輪車および/または自動三輪車のための噴射システム用のピストンポンプ(1)である、請求項1から20までのいずれか1項記載のピストンポンプ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行技術
本発明は、独立請求項の上位概念部に記載の形式のピストンポンプを起点とする。
【0002】
たとえば英国特許出願公開第2484855号明細書に記載されているような、今日公知の電磁ピストンポンプは、以下の原理に基づいて機能する。すなわち、ソレノイドコイルが通電され、その際に磁界を形成する。磁気回路は、ピストンポンプの金属製かつ磁化可能な構成要素において形成される。磁気回路の構成要素には、たとえばピストンポンプのピストン、シリンダ、ハウジング、アーマチュアプレートおよびストッパが属する。
【0003】
磁界は、シリンダ内に配置された、ソレノイドアーマチュアとも呼ばれるピストンを、アーマチュアプレートのストッパに向かう方向に引き寄せる。この過程中に、流入弁を通じて流体が、シリンダ内でシリンダ底部の流入弁とピストンとの間に配置されている圧縮室内へと吸い込まれる。磁界が消滅すると、ピストンとストッパとの間に配置されているばねがピストン(ソレノイドアーマチュア)をシリンダ底部の方向に向かって押圧し、この場合に一方では流体を圧縮し、他方では流体を、流出弁を介して圧縮室から押し出す。
【0004】
現状の目標は、ピストンポンプの効率と、その機能確実性とを高め、かつピストンポンプのダイナミクスと頑丈さとを改善することにある。
【0005】
発明の利点/発明の開示
本発明は、磁界の消滅後に、ストッパにおけるピストン(ソレノイドアーマチュア)のいわゆる磁気的な張付きが生じる可能性があるという知識に基づいている。この磁気的な張付きは、磁界の消滅後に、磁気回路と、たとえばピストン、シリンダ、ハウジング、アーマチュアプレートおよびストッパのような磁気回路の構成要素の残留磁気に基づいて生じる。したがって、ばねの戻し力は、磁気的な張付きを克服し、ピストンをストッパから解除するために、場合によっては十分ではない。
【0006】
独立請求項の特徴部に記載の特徴を備えた本発明に係るピストンポンプは、これに対して、磁気的な張付きが最小限にされるかもしくは排除される、という効果を有している。これにより、機能確実性を高め、かつピストンポンプのダイナミクスを改善することが達成される。
【0007】
このためには、磁気回路が、ピストンのストッパ側の反転点において、特にストッパへピストンが突き当たるところに、非磁性の材料を有する少なくとも1つの領域を有していることが規定されている。「ストッパ側の反転点において」という表現は、磁気回路および磁気回路の構成要素が、ピストンがそのストッパ側の反転点にある時点で観察されることを意図している。
【0008】
本発明の主旨において、特にピストンポンプの、磁界の渦が最大の磁束密度で延びている構成要素が、磁気回路に属する。つまり特にピストンポンプの外部の磁気的な拡散領域に位置する構成要素、領域等は観察されない。
【0009】
非磁性の材料を備えた領域は特に、磁気回路の、たとえばピストン、シリンダ、ハウジング、アーマチュアプレートおよびストッパのような別の構成要素よりも高い磁気抵抗(リラクタンス)R(DIN EN80000−6)を有している。これにより磁気回路の磁気的な総抵抗が高められるので、磁気回路の残留磁力はできるだけ迅速に消えて、ストッパにおけるピストンの磁気的な張付きは生じない。特にこの領域自体は、残留磁力を有していないか、もしくは無視できる程度の残留磁力しか有していない。
【0010】
磁気回路における1つの構成要素iの磁気抵抗Rは、以下のように与えられる。
m,i=L/(μμ
ただし、磁気回路における構成要素iの長さLおよび横断面積Aならびに材料の真空の透磁率μおよび比透磁率μ。磁気回路のための磁気的な総抵抗は、電気回路における電気抵抗の接点法則および閉路法則(Maschenregeln)と同じように計算される。
【0011】
電磁ピストンポンプの金属製の構成要素の他に、個別の構成要素間のギャップも磁気的な総抵抗のために寄与することができる。ギャップは、たとえば空気のような気体、または液体のような種々異なる材料で充填されていてもよい。たとえば、ピストンと、アーマチュアプレートのストッパとの間には可変の長さを備える空気ギャップがある。圧送サイクルの段階に応じて、空気ギャップの長さは変化する。磁界の消滅後に、ピストンばねは、ピストンをストッパから反対に方向に押圧し、空気ギャップと、その磁気抵抗は増大する。磁界の形成時に、ピストンは、アーマチュアプレートに向かって移動させられ、かつ空気ギャップは縮小する。ピストンが完全に引き付けられている場合、つまりピストンがアーマチュアプレートのストッパに突き当たっている場合、空気ギャップと、その磁気抵抗は最小である。典型的には、圧送サイクルのこの段階において、磁気回路の磁気的な総抵抗のための空気ギャップの寄与は無視できるほど小さい。したがって、空気ギャップの磁気抵抗は、アーマチュアプレートへのピストンの磁気的な張付きを阻止するために、場合によっては小さすぎる。
【0012】
したがって、本発明によれば、特にピストンポンプの磁気回路において、非磁性の材料と、比較的高い磁気抵抗とを備えた領域が設けられている。この領域は、磁気的な総抵抗を所定の最小値を超えるように高める。ピストンポンプの磁気回路の磁気的な総抵抗のための下限値は、ピストンポンプの寸法に依存する。磁気回路の磁気的な総抵抗は、磁気回路内に位置する構成要素を形成する材料の全体容積と、残留磁気特性とに依存する。使用された材料の全体容積と残留磁気が大きければ大きいほど、磁気回路の最小の磁気的な総抵抗は高くなければならない。
【0013】
本発明に係る領域は、特にピストンとストッパとの間の空気ギャップとは異なり、1回の圧送サイクル内でかつ/または複数の圧送サイクルにわたって一定の磁気抵抗を有している。本発明に係る領域は、特にピストンとアーマチュアプレートのストッパとの間の可変の空気ギャップまたは磁気回路の別の構成要素間の空気ギャップではない。
【0014】
本発明に係るピストンポンプの有利な態様は、領域が単に非磁性の材料を有しているだけではなく、材料が磁化不能であるか、もしくは弱くしか磁化可能ではない材料であることも規定している。有利な態様では、領域が所定の材料から成っている。材料は、たとえば1.1よりも小さな比透磁率μを有している。特に、材料のμは、1よりも小さい。
【0015】
領域が、固体状態にある材料を有していると有利であることが判った。たとえば領域はフィルムにより形成されていてもよい。好適には、フィルムは、非磁性かつ/または磁化不能である。たとえばフィルムは、プラスチックから、たとえばポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリオキシメチレン(POM)またはポリスチロール(PS)から成っている。
【0016】
上記に代えてまたは上記に加えて、領域は、構成要素表面上のコーティングであってもよい。好適には、コーティングは非磁性かつ/または磁化不能である。たとえば、コーティングはクロム、クロム合金または窒化物層から成っている。
【0017】
上記に代えてまたは上記に加えて、領域は、処理された表面により形成されていてもよい。処理された表面はたとえば窒化処理されていてもよい(DIN17022−4)。
【0018】
上記に代えてまたは上記に加えて、領域が分離ディスクであってもよい。好適には分離ディスクは、非磁性かつ/または磁化不能な材料から成っていて、たとえばSandvik Materials Technology社からSandvik13Rm19として提供された、たとえばコバルト−ニッケル合金または銅−ベリリウム合金またはクロム−ニッケル合金をベースとする非磁性の鋼から成っている。
【0019】
典型的には領域は、5mmよりも小さな範囲の厚さを有している。好適には厚さは、1μm〜500μmの範囲、特に10μm〜100μmの範囲である。領域の厚さは、ピストンポンプの寸法、選択された材料および/または領域の選択された態様(分離ディスク、フィルム、コーティング、処理された表面)に依存する。
【0020】
基本的には、領域は、磁気回路内の任意の箇所に配置されていてもよい。しかし好適には領域は、ピストン背面とも呼ばれるピストンの、ストッパに面した側に配置されている。このことは、小さなもしくは無視できる程度の残留磁気を有する領域が、ピストンと、アーマチュアプレートのストッパとの間の直接的な接触を阻止し、ひいてはピストンとストッパとの間の、残留磁気に基づく相互の引付けが減少する、という利点を有している。これにより、ピストンとストッパとの磁気的な張付きの可能性は最小限にされる。
【0021】
上記に加えてまたは上記に代えて、表面が、ストッパの表面に配置されていてもよい。このことは、上記の段落で説明した利点と同じ利点を有している。
【0022】
領域が、ピストン背面にも、ストッパの表面にも形成されている場合、ピストン背面の領域とストッパの表面の領域とは、同一の材料から成っているか、または互いに異なる材料から成っていてもよい。
【0023】
高い磁気抵抗を備える領域に対して上記に加えてまたは上記に代えて、磁気回路における磁性のもしくは強磁性の材料、特に鉄含有の材料の割合を減じることでも、磁気的な張付きの可能性を減じることができる。
【0024】
このことは、たとえばピストン(ピストン背面)の、アーマチュアプレートに面した端面および/またはアーマチュアプレートのストッパに形成された成形部により、実現され得る。成形部とは、ピストンの、アーマチュアプレートに面した端面に設けられた、たとえばばねが配置されているピストン内に形成された中空室、および該中空室に接続する開口を意図するものではない。
【0025】
典型的には、成形部は、ピストンの全長Lの2%よりも大きく、かつ/またはピストンの全長Lの10%よりも小さい深さTを有している。この場合、ピストンの全長Lは、ピストンの、アーマチュアプレートに面した端面から、該端面とは反対の側に位置する端面までの間隔である。
【0026】
好適には、成形部は、少なくとも1つの、特に環状または直線状の溝により形成されている。この場合、ピストンの、アーマチュアプレートに面した端面は、互いに異なる材料から成る2つの領域を有している。たとえば、ピストンと同一の材料から成る第1の領域がある。第2の領域は、ピストン背面またはストッパに(複数の)溝を形成することにより生じている。この領域はたとえば空気または燃料で充填されている。
【0027】
溝は環状または直線状に形成されていてもよい。直線状の溝は、ピストン縁部から、ピストン背面の中心に向かって延びている。
【0028】
複数の溝から成る成形部を設ける際に、これらの溝は互いに対して平行に、または所定の角度βを成して配置されていてもよい。2つの溝の間の角度βは、0°〜180°の間の範囲、特に22°〜90°の範囲にある。
【0029】
典型的には、互いに角度を成して配置されている複数の溝は、互いに対して同一のもしくは類似の角度を有している。好適には、複数の溝はそれぞれ、隣接する溝同士の間で約360°/nの角度を有していて、この場合nは、溝の個数である。
【0030】
溝は、ピストン直径の5%〜50%の幅を有していてもよい。より多くの溝が形成されるほど、個々の溝は狭くなる。たとえば、溝が極めて幅広であり、つまり溝幅がピストン直径の40%〜50%の範囲にある少数の溝を有する成形部または個別の溝が幅狭であり、つまり溝幅がピストン直径の5%〜15%の範囲にある多数の溝を有する成形部が選択され得る。ピストン材料から成る、溝同士の間にある領域は、したがってウェブの形状をしている。
【0031】
上記に代えて、成形部は、少なくとも1つの、特に環状の段部によって、または少なくとも1つの、特に全周に沿って形成された斜面によっても形成されていてもよい。斜面は、ピストン背面からピストンの外縁部に向かう方向に、またはピストン背面からピストン背面の中心に向かう方向に形成されていてもよい。
【0032】
磁気回路における磁性の材料の割合の減少に対して付加的に、ピストン背面もしくはストッパに成形部を設けることによって、成形部が、ポンプの運転中に規定された摩耗を受けるような形状で形成され得る、という技術的な効果がさらに得られる。成形部の摩滅により、ピストンのストロークは拡大し、ピストンポンプはその限りでより多くの流体を圧送することができる。他方では、ピストンとシリンダ壁との間の摩耗も生じるので、ピストンとシリンダ壁との間の隙間は、ピストンポンプの寿命にわたって拡大する。このことは、圧送量の減少をもたらす。理想的には、成形部はその規定された摩耗に関して、以下のように選択される。すなわち、ストロークの増大が、ピストンとシリンダ壁との間の大きくなる隙間に基づく圧送量損失をまさに補償し、したがってピストンポンプの効率がピストンポンプの寿命にわたって一定のままであるようにされる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に係るピストンポンプのための実施の形態を示す図である。
図2】本発明に係るピストンポンプのための別の実施の形態を示す図である。
図3】本発明に係るピストンポンプのための別の実施の形態を示す図である。
図4】ピストンの横断面図である。
図5】ピストンの背面を示す図である。
【0034】
実施の形態の説明
図1は、本発明に係るピストンポンプ1の概略図を示している。ピストンポンプ1は、ハウジング2、アーマチュアプレート3およびハウジング2内に配置されたソレノイドコイル5もしくはソレノイドコイルセットを有している。ソレノイドコイル5の半径方向の内部に、シリンダ4が配置されている。可動のピストン6が、同様にシリンダ4の半径方向の内部に配置されている。ソレノイドコイル5により形成された磁界は、ピストン6をアーマチュアプレート3の方向へと移動させる。アーマチュアプレート3は、ピストン6に面した側にストッパ9を有している。このストッパ9に、ピストン6が、ソレノイドコイル5への通電時に、つまり磁界の発生時に突き当たる。ピストン6の、アーマチュアプレート3に面した側は、ピストン背面10と呼ばれる。磁界の発生時にピストン背面10がアーマチュアプレート3のストッパ9に接触する面は、接触面と呼ばれる。
【0035】
ピストン6とアーマチュアプレート3との間には、ピストンばね7が配置されている。ピストンばね7の、アーマチュアプレート3に面した側で、このピストンばね7はばね保持部8により位置固定される。ピストンばね7は、部分的にまたは完全にピストン6の内部に配置されていてもよい。ピストン背面10は、したがって開口を有しており、この開口内にピストンばね7が配置されている。ピストンばね7は、アーマチュアプレート3に向かう方向へのピストン運動に基づいて圧縮される。磁界の消滅後に、ピストンばね7は、ピストン6を再び反対の方向に向かって押圧する。
【0036】
さらに、シリンダ4内には、流入弁11と流出弁12とが、特にシリンダ底部に配置されている。シリンダ4は、一方の側ではアーマチュアプレート3によって、かつ反対の側ではシリンダ底部により画定される。流入弁11および/または流出弁12は、ダイヤフラム弁として形成されていてもよい。ピストンポンプ1のこの実施の形態では、流入弁11および流出弁12、ひいては入口および出口が、シリンダ4の同一の側に配置されている。特に入口および出口は、同軸に形成されていてもよく、たとえば出口のための管路が、入口のための管路の内部に配置されている。流入弁11と流出弁12との間には、1つの弁体13が配置されている。
【0037】
燃料がタンクから流入弁11を通ってシリンダ4の内部の圧縮室内へと負圧に基づいて吸い込まれる燃料管路は図示されていない。シリンダ内もしくは圧縮室内の負圧は、アーマチュアプレート3に向かう方向のピストン6の移動により生じる。別の燃料管路と流出弁12とを介して、燃料はピストン6によって噴射弁に向かって押圧される。
【0038】
本実施の形態では、ストッパ9の表面は、1つの領域15を有している。この領域15は、該領域15が非磁性かつ/または磁化不能な、もしくは弱くしか磁化可能ではない材料から成っていることにより優れている。この領域15の材料は、たとえば1.1よりも小さな、特に1よりも小さな比透磁率μを有している。好適には、この領域15は、磁気回路内の、たとえばピストン6、シリンダ4、ハウジング2および/またはアーマチュアプレート3のような別の構成部材よりも、高い磁気抵抗を有している。
【0039】
領域15は、フィルムとして、またはコーティングとして、たとえばクロム層として、ストッパ9の表面に被着されてもよく、またはたとえば窒化処理のような表面処理部または分離ディスクであってもよい。領域15の厚さは、ピストンポンプ1の使用された材料および/または寸法に依存する。典型的には、領域15の厚さは、0.01mm〜10mmの範囲にある。
【0040】
図2および図3は、図1に示した実施の形態の変化形を示している。同一の構成部材は同一の名称を有しており、図1の符号と同一の符号で示されている。
【0041】
図2に示した実施の形態は、図1に示した実施の形態とは以下のことにより異なっている。すなわち、領域15が、ピストン背面10に配置されている。この領域15は、非磁性かつ/または磁化不能な、もしくは弱くしか磁化可能ではない材料から成っており、したがって特に磁気回路の別の構成部材よりも高い磁気抵抗(リラクタンス)を示す。
【0042】
図3に示した実施の形態は、最初の2つの実施の形態とは以下のことにより異なっている。すなわち、領域15が、アーマチュアプレート3とハウジング2との間に配置されている。領域15は、非磁性かつ/または磁化不能な、もしくは弱くしか磁化可能ではない材料から成っており、したがって特に磁気回路の別の構成部材よりも高い磁気抵抗を示す。好適には、この実施の形態では、領域15は分離ディスクとして形成される。
【0043】
領域15のための、上述の実施の形態において挙げられた位置および/または構成(分離ディスク、フィルム、コーティング、処理された表面)は、互いに組み合わせられてもよい。種々異なる態様の組合せ時に、種々異なる箇所に設けられた領域15は、同一の材料または互いに異なる材料から成っていてもよい。
【0044】
上記に加えてまたは上記に代えて、ピストン背面10が、成形部を有していてもよく、これにより、ピストン背面10とストッパ9との間の接触面が減じられている。このことは、比較的小さな接触面に基づいて、磁気抵抗が高められ、磁気回路における強磁性の材料の割合が減少する、という利点を有している。両方の効果は、磁気回路および磁気回路の構成部材の残留磁気に抗して作用する。ストッパ9におけるピストン6の磁気的な張付きの阻止の他にも、ピストン6の摩耗も減じられ、もしくはピストンポンプ1の圧送量損失が上記で説明したように、補償される。
【0045】
図4は、ピストン6の横断面を示している。この場合、ピストン背面10は、開口16の他に別の成形部を有している。図4a)では、ピストン背面10は、凹部を有している。図4b)では、ピストン背面10は、斜めに面取りされている。両方の場合に、ストッパ9に対する接触面は、成形部を有しないピストン背面10との比較において、少なくとも50%だけ減じられている。
【0046】
図5は、2つの別の択一的な成形部を備えたピストン背面10を示している。図5a)では、ピストン背面10は、2つの溝17を有している。これらの溝17は、互いに対して直交して位置している。この実施例では、ピストン背面10の接触面は、成形部を有しないピストン背面10の接触面の約2/3に相当する。溝17は、ピストン直径の約10%の幅を有している。
【0047】
溝17の幅が増大すると、残っている接触面は、図5b)に示されているように減少する。この実施例では、ピストン背面10の接触面は、成形部を有しないピストン背面10の接触面の約1/3に相当する。溝17は、ピストン直径の約45%の幅を有している。
【0048】
ピストン背面10およびその接触面は、ピストンポンプ1の寿命にわたって摩耗させられる。これにより、ピストン6のストローク、ひいてはピストンポンプ1のストロークは拡大する。この拡大されたストロークは、圧送量の増大に相当する。したがって、ピストン6とシリンダ4との間で生じる摩耗と、その摩耗に関連した圧送量の損失とは、寿命にわたって補償され得る。
【0049】
本発明に係る領域15は、成形加工されたピストン背面10との組合せ時に、好適には残っている接触面に形成されている。
図1
図2
図3
図4a)】
図4b)】
図5a)】
図5b)】