(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472535
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】改善された制御性を備えた無段変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 9/18 20060101AFI20190207BHJP
【FI】
F16H9/18 Z
F16H9/18 A
【請求項の数】14
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-546882(P2017-546882)
(86)(22)【出願日】2016年2月25日
(65)【公表番号】特表2018-507998(P2018-507998A)
(43)【公表日】2018年3月22日
(86)【国際出願番号】EP2016053906
(87)【国際公開番号】WO2016139106
(87)【国際公開日】20160909
【審査請求日】2017年11月6日
(31)【優先権主張番号】102015203913.7
(32)【優先日】2015年3月5日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ファルコ ヴィンター
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ アイダム
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル シュヴァーツ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ヴェアツ
(72)【発明者】
【氏名】カロリン ブライティンガー
(72)【発明者】
【氏名】ミハイロ クリメンコ
(72)【発明者】
【氏名】イアニスラフ クラステフ
(72)【発明者】
【氏名】インゴ ドレーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】ラスムス フライ
【審査官】
木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−196773(JP,A)
【文献】
特表2008−540943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速機であって、
位置が固定されたプーリ(20)と軸方向可動のプーリ(21)とを有するプーリ対(2)と、
前記軸方向可動のプーリ(21)の位置を調節するための調節装置(5)であって、スピンドル伝動装置(7)と、前記軸方向可動のプーリ(21)に接続された調節ロッド(8)とを含む調節装置(5)と、
前記調節装置(5)を操作して前記軸方向可動のプーリ(21)の位置を変更するように適合されている制御ユニット(6)と、を有し、
前記調節装置は、前記調節ロッド(8)に対して引張り力または押圧力を加えるように前記スピンドル伝動装置(7)を駆動する調節駆動装置(50)を有し、
前記調節駆動装置(50)の被駆動軸(51)は、前記調節ロッド(8)に対して平行であり、
前記調節ロッド(8)は部分的にクランクシャフト(11)内に配置されている、
無段変速機。
【請求項2】
前記軸方向可動のプーリ(21)に可動に配置されている少なくとも1つの遠心力エレメント(3)と、
前記軸方向可動のプーリ(21)に配置されている支持壁(4)と、をさらに有しており、
前記遠心力エレメント(3)は、前記支持壁(4)と前記軸方向可動のプーリ(21)の背壁(22)との間に配置されている、
請求項1記載の無段変速機。
【請求項3】
前記支持壁(4)は、前記遠心力エレメント(3)に接触するテーパ状の接触面(40)を有する、請求項2記載の無段変速機。
【請求項4】
前記調節駆動装置(50)の被駆動軸(51)は、クランクシャフト(11)に対して平行である、請求項1記載の無段変速機。
【請求項5】
前記クランクシャフトは前記プーリ対(2)を貫通して延在している、かつ/または前記位置が固定されたプーリ(20)が前記クランクシャフト(11)に直接接続されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の無段変速機。
【請求項6】
前記位置が固定されたプーリ(20)は、前記クランクシャフト(11)に直接、前記クランクシャフト(11)の端部で、接続されている、請求項5記載の無段変速機。
【請求項7】
前記調節駆動装置(50)の被駆動軸(51)は、前記プーリ対(2)の中心軸線(X−X)に対して同軸である、請求項4から6までのいずれか1項記載の無段変速機。
【請求項8】
前記スピンドル伝動装置(7)はスリーブナット(71)を介して前記調節ロッド(8)に接続されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の無段変速機。
【請求項9】
前記調節ロッド(8)は横方向ロッド(80)によって、前記軸方向可動のプーリ(21)に接続されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の無段変速機。
【請求項10】
前記制御ユニット(6)は、前記調節装置(5)を、原動機(10)の特性値に基づき制御するように適合されている、請求項1から9までのいずれか1項記載の無段変速機。
【請求項11】
前記原動機(10)の特性値は、原動機の回転数および/またはトルク、および/または温度、および/または空気圧である、請求項10記載の無段変速機。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項記載の無段変速機を備えた車両。
【請求項13】
前記車両は、小型車である、請求項12記載の車両。
【請求項14】
前記小型車は、二輪車、または三輪車、またはスノーモービル、またはクアッドである、請求項13記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、大幅に改善された制御性と調整性とを備えた無段変速機(無段階調節可能なトランスミッション)に関する。
【0002】
無段変速機(CVT)は、先行技術により様々な構成において公知である。連続的に可変である変速機により、車両においては、一定のギアを備えた変速機と比較してその都度適切な変速比を得ることができる。このような形式の無段変速機の特別な利用分野は、小型車であり、例えば二輪車、三輪車、いわゆるトゥクトゥク、スノーモービル、クアッド、またはスクータである。このような形式の無段変速機ではしばしば、円錐状のプーリ対におけるベルトの位置を調節するために遠心力調整装置が使用される。この場合、遠心力調整装置の遠心力おもりは、回転数に応じてその半径方向の位置を移動させ、これにより2つのプーリの間の軸方向間隔が変更されて、これにより変速機の変速比が変更される。しかしながらこのような形式の装置の欠点は、無段変速機の変速比に対して制御されたもしくは調整された作用を与えることができないことにある。これにより従来技術の遠心力調整装置を備えた無段変速機は通常、最適な点で作動されないので、車両の燃費および/またはエミッションは悪化されている。したがって、遠心力調整される無段変速機のこのような能力を利用し、かつ燃料を削減しエミッションを低減する可能性を得られるのが望ましい。さらに、遠心力調整される無段変速機は、車両ダイナミクスに関しても最適な構成を有していない。特に、停止状態からの車両の加速において、および走行中の車両の加速において、例えば第1の速度から第2の速度への順応性において、遠心力調整される無段変速機の変速比が最適に選択されていないことにより、なお多くの改善余地がある。
【0003】
発明の開示
請求項1に記載の特徴を有する本発明による無段変速機は、これに対して、車両のエミッション特性および燃費を大幅に改善できるという利点を有している。さらに、特に停止状態からの加速に関する、および走行中の車両の加速に関する、走行ダイナミクスにおいて大幅に改善された走行性能も得られる。これは本発明によれば、無段変速機がそれぞれ最適な位置で作動可能であることにより達成される。本発明ではこの場合、無段変速機は、位置が固定されたプーリと軸方向可動のプーリとを有する1つのプーリ対を有している。本発明ではさらに、軸方向可動のプーリの位置を調節する調節装置が設けられている。この調節装置は、スピンドル伝動装置と、軸方向可動のプーリに接続されている調節ロッドと、を有している。この場合、スピンドル伝動装置により、調節ロッドの軸方向調節が可能となる。これにより極めてコンパクトかつ省スペースな構造が得られる。制御ユニットは、軸方向可動のプーリの位置を変更するために調節装置を操作するように適合されている。これにより、プーリ対の巻き掛け手段の位置は変更されるので、無段変速機の変速比が変更される。したがって本発明では、制御ユニットによる無段変速機への作用が可能であり、これにより無段変速機を最適な運転点で作動させることができる。
【0004】
従属請求項には本発明の有利な別の構成が示されている。
【0005】
好適には、調節装置は、調節ロッドに対して引張り力または押圧力を加えるようにスピンドル伝動装置を駆動する調節駆動装置を有している。これにより調節ロッドは軸方向で移動させられるので、この調節ロッドに接続された軸方向可動のプーリの位置も変更される。
【0006】
本発明による変速機はさらに、軸方向可動のプーリに可動に配置されている少なくとも1つの遠心力エレメントを有している。さらに、軸方向可動のプーリには支持壁が設けられており、遠心力エレメントは支持壁と、軸方向可動のプーリの背壁との間に配置されている。したがって、遠心力により、軸方向可動のプーリの回転に依存した位置が得られ、調節装置によって位置決めの微調整が行われ、したがって例えば対応して存在している走行モードに適合した変速比が調節される。支持壁は好適にはクランクシャフトに接続されている。
【0007】
特に好適には、支持壁は、遠心力エレメントに接触するテーパ状の接触面を有している。支持壁のテーパ状の接触面は好適には円錐状に形成されている。したがって回転数が上昇した場合には、1つのまたは複数の遠心力エレメントに作用する遠心力が高くなるので、遠心力エレメントは半径方向外側に向かって移動する。この場合、遠心力エレメントは、支持壁のテーパ状の接触面上で転動し、これにより可動のプーリを軸方向で移動させる軸方向での摺動成分も生じる。
【0008】
さらに好適には、調節装置の調節駆動装置の被駆動軸はクランクシャフトに対して平行に配置されている。これにより特にコンパクトな構成が得られる。
【0009】
さらに好適には、調節駆動装置の被駆動軸は調節ロッドに対して平行であって、特にプーリ対の中心軸線に対して同軸である。したがって、調節駆動装置と調節ロッドとを直線配置で設けることができる。特に好適には、調節ロッドと調節駆動装置の被駆動軸の横で一直線上にクランクシャフトも位置しているので、特に省スペースな構造が可能である。
【0010】
好適には調節ロッドは部分的にクランクシャフト内に配置されていて、これにより簡単でコンパクトな構造が、特に軸方向で得られる。
【0011】
さらに、スピンドル伝動装置が、調節ロッドに接続されているスリーブナットを有しており、これによりスピンドル伝動装置のスピンドルの回転により、スピンドルスリーブの軸方向移動が可能になり、これにより調節ロッドの軸方向の移動も可能になる。調節ロッドは好適には、横方向ロッドを介して軸方向可動のプーリに接続されている。
【0012】
好適には制御ユニットは、原動機の特性値に基づき調節装置を制御するように適合されている。原動機の特性値としては好適には、原動機の回転数、および/または原動機のトルク、および/または温度、および/または空気圧が使用される。調節装置を制御するための特性値はこの場合、原動機で直接検出されてよい、または原動機に接続された構成部品で検出されてもよい。原動機は好適には内燃機関である。
【0013】
さらに好適には制御ユニットは、運転者による走行モードの選択に基づき調節装置を制御するように適合されている。例えば、走行モード、例えばスポーツモードまたはガソリン節約モード等、を相応に選択する場合に調節装置によってとられる予め規定された変速機設定を記憶させることができる。
【0014】
さらに好適には、クランクシャフトはプーリ対を貫通して延在している。これにより無段変速機の、および特に無段変速機と原動機とを含むユニットの、特にコンパクトな構造が得られる。
【0015】
さらに好適には、この場合、位置が固定されたプーリはクランクシャフトに直接接続されているので、クランクシャフトの軸方向では、無段変速機のために必要な構成スペースは最小限しか必要ではない。
【0016】
さらに好適には、無段変速機のハウジング内に制御ユニットと調節駆動装置とが配置されている。これにより特にコンパクトな構成が得られる。
【0017】
さらに、本発明は、本発明による無段変速機を含む車両に関する。この車両は、好適には小型車、特に二輪車、または三輪車、またはスノーモービル、またはクアッド、またはスクータ等である。
【0018】
さらに好適には、調節駆動装置は、変速機のハウジング面に配置されている。この場合好適には、調節駆動装置の被駆動軸がハウジング内部に突入しており、支持壁の調節のために中間伝動装置が好適にはハウジング内部に配置されている。
【0019】
図面
以下に、本発明の好ましい実施例を図面につき詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の好適な実施例による無段変速機の概略的な断面図である。
【0021】
発明の好ましい実施形態
次に、
図1につき第1実施例による無段変速機1、すなわち連続可変無段階式トランスミッションを詳しく説明する。
【0022】
図1により明らかであるように、無段変速機1は、位置が固定された円錐状のプーリ20と軸方向可動の円錐状のプーリ21とを有する1つの円錐状のプーリ対2を有している。
【0023】
位置が固定されたプーリ20はクランクシャフト11に固定されている。より正確に言うならば
図1により判るように、位置が固定されたプーリ20はクランクシャフト11の端部に配置されている。クランクシャフト11は、
図1に略示されているように、原動機10、特に内燃機関に接続されている。
【0024】
無段変速機1は遠心力調整されるトランスミッションであって、軸方向可動のプーリ21に配置されている複数の遠心力エレメント3を有している。この実施例では遠心力エレメントはボールである。選択的には、遠心力エレメントは貫通孔を備えた円筒体である。
【0025】
さらに無段変速機1は、軸方向可動のプーリに配置されている軸方向不動の支持壁4を有している。支持壁4はクランクシャフト11と共に回転する。遠心力エレメント3の半径方向位置により、軸方向可動のプーリ21の軸方向X−Xでの軸方向位置が規定される。
【0026】
軸方向可動のプーリ21の調節のために、本発明では、制御ユニット6に接続されている調節装置5が設けられている。調節装置5は、調節駆動装置50と、調節駆動装置の被駆動軸51と、スピンドル伝動装置7とを含む。スピンドル伝動装置7は、スピンドル70と、スピンドル70上に軸方向X−Xで移動可能に配置されているスリーブナット71とを含む。スリーブナット71は軸受81を介して調節ロッド8に接続されているので、スリーブナット71が軸方向に移動する際に、調節ロッド8は軸方向X−Xで軸方向に移動する。
【0027】
調節ロッド8の反対側の端部では、横方向ロッド80が調節ロッド8に接続されていて、この横方向ロッド80は軸方向可動のプーリ21に接続されている。これにより、調節ロッド8の軸方向運動が横方向ロッド80を介して軸方向可動のプーリ21に伝達されるので、軸方向可動のプーリ21は、
図1に両方向矢印Aで略示したように軸方向で移動可能である。スリーブナット71は図示されていない装置により、スピンドル70と一緒に回転するのを阻止されている。
【0028】
さらに
図1により判るように、調節ロッド8は部分的にクランクシャフト11内に配置されている。これにより特にコンパクトな構成が得られる。この場合、クランクシャフト11はスリットまたは孔等を有している。
【0029】
支持プレート4は、テーパ状の接触面40を有しており、この接触面40は遠心力エレメント3に接触している。
【0030】
調節駆動装置50は好適には電動モータである。しかしながら選択的に、調節装置5はニューマチック式に作動する調節駆動装置または液圧式に作動する調節駆動装置または電磁的な調節駆動装置を含む。
【0031】
巻き掛け手段12、例えばベルトが、両プーリ20,21の間に配置されている。巻き掛け手段12は、被駆動エレメント13、好適には同じくプーリ対に接続されている。しかしながら被駆動エレメント13は例えば直接駆動されるホイール等であってもよい。
【0032】
したがって本発明によれば、制御ユニット6を介して可動のプーリ21の位置が調節され、これにより両プーリ20,21の間の軸方向の間隔が調節され、これにより無段変速機の所望の変速比が提供される。このために調節駆動装置50は駆動され、調節駆動装置50の被駆動軸51はスピンドル70を直接駆動する。被駆動軸51はスピンドル70に一体に形成されていてもよいことに注目されたい。スピンドル70の回転により(
図1中の矢印D)スリーブナット71が、スピンドル70の回転方向に応じて軸方向X−Xで移動する(両方向矢印C)。スリーブナット71は調節ロッド8に不動に結合されているので、調節ロッド8も同様に軸方向X−Xで移動する(両方向矢印B)。次いで調節ロッド8に接続された横方向ロッド80を介して、軸方向可動のプーリ21が移動する(両方向矢印A)。
【0033】
したがって、回転方向に応じて、両プーリ20,21の間の巻き掛け手段12の調節を変更することができ、無段階式の変速比変更が可能である。
【0034】
したがって本発明によれば、基本的には遠心力エレメント3によって規定されている変速比の微調整が実現可能である。本発明によれば、特性値、例えば原動機10の回転数および/またはトルク、に応じて、最良のトランスミッション変速比を実現することができる。この場合、トランスミッション変速比は車両の燃費の最適化またはエミッションの最適化または加速の最適化に関して選択することができる。最適にしたい出力値の任意の組み合わせも選択することができ、それに対応してこのために無段変速機の最適なトランスミッション変速比を調節することができる。
【0035】
この場合、本発明による無段変速機1を用いた試験の結果、通常の遠心力調整される無段変速機と比較して、燃費は10%の範囲で節約が可能であり、0〜60km/時の範囲の加速は17%まで改善が可能であり、20〜50km/時の範囲の加速の順応性は19%の改善が可能である。確かに、本発明による無段変速機は調節装置によって、比較的大きな機械的電気的構造を必要とするが、このことは、上述した改善点と節約点により相殺される以上のものがある。