特許第6472590号(P6472590)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6472590
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】造形物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20190207BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20190207BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20190207BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20190207BHJP
   B29K 105/14 20060101ALN20190207BHJP
【FI】
   C08J5/04CFG
   C08J5/04CEZ
   B29C64/118
   B33Y10/00
   B33Y80/00
   B29K105:14
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-565071(P2018-565071)
(86)(22)【出願日】2018年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2018031854
【審査請求日】2018年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2017-169257(P2017-169257)
(32)【優先日】2017年9月4日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 幸輔
(72)【発明者】
【氏名】岡田 政五郎
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−134219(JP,A)
【文献】 特開昭61−215011(JP,A)
【文献】 実開昭57−123219(JP,U)
【文献】 国際公開第2016/142472(WO,A1)
【文献】 特開2016−28887(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/141779(WO,A1)
【文献】 特開2000−94453(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0015061(US,A1)
【文献】 米国特許第4560603(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04−10,5/24
B29B 11/16,15/08−14
B29C 64/00−40,67/00−08,67/24,
70/00−88
B33Y
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維長1μm〜300μm、且つ平均アスペクト比3〜200である無機繊維と、熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物から構成される造形物であり、前記無機繊維の配向角度の平均値が24°以下であり、3次元プリント造形物である、造形物。
【請求項2】
前記無機繊維のモース硬度が5以下である、請求項1に記載の造形物。
【請求項3】
前記無機繊維が、チタン酸カリウム、ワラストナイトから選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の造形物。
【請求項4】
前記無機繊維の含有量が、樹脂組成物の合計量100質量%中に1質量%〜40質量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の造形物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、脂肪族ポリアミド(PA)樹脂、半芳香族ポリアミド(PA)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の造形物。
【請求項6】
熱溶解積層方式3次元プリンタによる造形物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の造形物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の造形物の製造方法であって、平均繊維長1μm〜300μm、且つ平均アスペクト比3〜200である無機繊維と、熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物からなるフィラメントを、熱溶解積層方式3次元プリンタにより造形する、造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物から構成される造形物及び該造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維状フィラーで強化した熱可塑性樹脂組成物は、機械特性、耐熱性などに優れた特性を有するため、その射出成形により製造された部材は自動車部品、電気部品、光学機器などの高精度な品質が要求される用途に多く用いられている。しかし、射出成形は、金型キャビティ内の場所によって樹脂の流動形態に違いがあることから、繊維配向を高めることが難しい。繊維配向が低いということは、繊維状フィラーによる補強効果が得られにくく、機械特性が向上しにくいことを意味する。
【0003】
一方で、射出成形以外の造形方法としては、3次元(3D)プリンタによる造形が知られている。3次元プリンタは、射出成形で用いられる金型を必要とせず、射出成形では成形できない複雑な立体構造を造形することができることから、近年、多品種少量生産技術として注目されている。3次元プリンタは、CAD等により入力された3次元データから薄い断面の形状を計算し、この計算結果をもとに材料を何層にも積層することで立体物を造形する技術であり、付加製造技術(Additive Manufacturing Technology)とも呼ばれている。
【0004】
3次元プリンタ用材料(付加製造材料ともいう)には、種々の方式が知られているが、そのなかでフィラメントと呼ばれる糸状などの形状を有する熱可塑性樹脂を押出しヘッド内部の加熱手段にて流動化したのち、ノズルからプラットフォーム上に吐出し、目的とする造形物の断面形状に従って、少しずつ積層しながら冷却固化することで造形する材料押出方式(熱溶解積層方式とも呼ばれる)が、コスト面で有利であることから、広く用いられるようになってきている。
【0005】
熱溶解積層方式3次元プリンタにおいて、添加剤が配合されていない熱可塑性樹脂(いわゆるニート樹脂)を用いて造形すると、造形物の層間剥離、造形物の反り等の問題がある。熱溶解積層方式3次元プリンタに、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維状フィラーを配合した熱可塑性樹脂組成物を用いると、押出しヘッドの詰まり、押出しヘッドの摩耗等により造形が困難であるという問題がある。さらに、無機フィラーを配合すると、造形物における層間の融着を阻害し、層間の剥離強度が低下して造形物の機械特性が低下するとも言われている。
【0006】
特許文献1においては、カーボンナノチューブ等のナノフィラーを配合した熱可塑性樹脂を用いることで、熱可塑性樹脂だけでは得られない所望の機能が備わった造形物を得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016−28887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のようにナノフィラーを熱可塑性樹脂中に均一に分散することは容易ではなく、得られた熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度が増加することが知られている。また、造形物の層間剥離、造形物の反り・収縮を改善するための具体的な方法は開示されていない。従って、熱可塑性樹脂組成物を用いた熱溶解積層方式3次元プリンタによる造形物は、造形パターン等を工夫し、ニート樹脂を用いて造形したものが市場に普及している。そのため、機械特性が求められる部材や、微細で複雑な部材には適さないという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、繊維状フィラーで強化した熱可塑性樹脂組成物から構成され、機械特性を高め得る、造形物及び該造形物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の造形物及びその製造方法を提供する。
【0011】
項1 平均繊維長1μm〜300μm、且つ平均アスペクト比3〜200である無機繊維と、熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物から構成される造形物であり、前記無機繊維の配向角度の平均値が24°以下である、造形物。
【0012】
項2 前記無機繊維のモース硬度が5以下である、項1に記載の造形物。
【0013】
項3 前記無機繊維が、チタン酸カリウム、ワラストナイトから選ばれる少なくとも1種である、項1又は項2に記載の造形物。
【0014】
項4 前記無機繊維の含有量が、樹脂組成物の合計量100質量%中に1質量%〜40質量%である、項1〜3のいずれか一項に記載の造形物。
【0015】
項5 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、脂肪族ポリアミド(PA)樹脂、半芳香族ポリアミド(PA)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂から選ばれる少なくとも1種である、項1〜4のいずれか一項に記載の造形物。
【0016】
項6 3次元プリント造形物である、項1〜5のいずれか一項に記載の造形物。
【0017】
項7 熱溶解積層方式3次元プリンタによる造形物である、項6に記載の造形物。
【0018】
項8 項1〜7のいずれか一項に記載の造形物の製造方法であって、平均繊維長1μm〜300μm、且つ平均アスペクト比3〜200である無機繊維と、熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成からなるフィラメントを、熱溶解積層方式3次元プリンタにより造形する、造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、繊維状フィラーで強化した熱可塑性樹脂組成物から構成され、機械特性を高め得る造形物及び該造形物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、比較例3の樹脂組成物を用いて製造した造形物を示す写真である。
図2図2は、実施例1の樹脂組成物を用いて製造した造形物を示す写真である。
図3図3は、引張試験片の形状を示す側面図である。
図4図4は、3次元プリンタによる摺動リング試験片の形状を示す断面図である。
図5図5は、射出成形による摺動リング試験片の形状を示す断面図である。
図6図6は、実施例及び比較例において測定した平板状造形物のそり量を説明するための模式的側面図である。
図7図7は、実施例11の無機繊維の配向状態を示す倍率5000倍の走査型顕微鏡写真である。
図8図8は、比較例21の無機繊維の配向状態を示す倍率5000倍の走査型顕微鏡写真である。
図9図9は、比較例22の無機繊維の配向状態を示す倍率5000倍の走査型顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。ただし、以下の実施形態は単なる例示である。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。
【0022】
本発明の造形物は、平均繊維長1μm〜300μm、且つ平均アスペクト比3〜200である無機繊維と、熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物から構成される造形物であり、無機繊維の配向角度の平均値が24°以下であることを特徴とする。
【0023】
本発明において「造形物」には、「造形体」、「成形体」、「成形物」も含むのとする。無機繊維の配向角度を、24°以下であり、好ましくは20°以下とすることで、無機繊維によるマトリックス樹脂の補強効果を最大限に引き出すことができ、造形物により一層優れた機械特性を付与することができる。さらに本発明の造形物からなる部材を他の部材と摺動した際に摺動性(耐摩耗性)がより一層向上する。これは、無機繊維が高度に配向していることで、無機繊維が脱落しにくくなったものと考えられる。
【0024】
無機繊維の配向角度とは、造形物内における無機繊維の配向状態を示すものであり、本発明においては造形物の造形時の造形進行方向に対し平行な方向を0°、造形進行方向に対し垂直な方向を90°としたときに、造形進行方向に対する無機繊維の長軸方向のなす角度のことをいう。無機繊維が造形進行方向に完全に配向した場合に0°、無配向である場合に45°、造形進行方向に垂直に配向した場合に90°とする。なお、造形物が射出成形より造形された部材である場合は、造形進行方向は樹脂の流動方向を意味する。
【0025】
無機繊維の配向角度の平均値は、例えば、造形物を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、その画像を用いて画像処理ソフトにより取り込んだ画像において無機繊維を任意に300個選択し、それらの造形物の造形時の造形進行方向に対する無機繊維の長軸方向のなす角度を測定し、得られた角度の全てを積算して個数で除したものを配向角度の平均値とすることができる。
【0026】
また、本発明の造形物は、3次元プリント造形物であることが好ましい。具体的には、熱溶解積層方式3次元プリンタによる造形物であることが好ましい。この場合、造形物中の無機繊維の配向をより一層高めることができ、造形物の機械特性をより一層高めることができる。
【0027】
本発明の造形物の各構成要素等を以下に説明する。
【0028】
<樹脂組成物>
本発明の造形物を構成する樹脂組成物は、平均繊維長1μm〜300μm、且つ平均アスペクト比3〜200である無機繊維(A)と、熱可塑性樹脂(B)とを含有し、必要に応じて、その他の添加剤(C)をさらに含有することができる。
【0029】
(無機繊維(A))
本発明で使用する無機繊維は、繊維状粒子から構成される粉末であり、平均繊維長1μm〜300μm、且つ平均アスペクト比3〜200である。平均繊維長は、好ましくは1μm〜200μmであり、より好ましくは3μm〜100μmであり、さらに好ましくは5μm〜50μmである。平均アスペクト比は、好ましくは3〜100であり、より好ましくは5〜50であり、さらに好ましくは8〜40である。上記平均繊維長及び平均アスペクト比を有する無機繊維を用いることにより、製造が容易で、かつ3次元プリンタを用いた造形において、造形物の層間剥離、造形物の反り等を改善することができる。造形物の剥離強度が向上することで、造形物の機械特性を更に向上することができる。
【0030】
本発明で使用する無機繊維は、押出しヘッドの摩耗の観点から、モース硬度が5以下であることが好ましく、1〜5であることがより好ましく、2〜5であることが更に好ましい。無機繊維としては、例えば、チタン酸カリウム、ワラストナイト、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸マグネシウム、ゾノトライト、酸化亜鉛、塩基性硫酸マグネシウム等が挙げられる。上記各種の無機繊維の中でも、機械特性の観点から、チタン酸カリウム、ワラストナイトから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。モース硬度とは、物質の硬さを表す指標であり、鉱物同士を擦り付けて傷ついたほうが硬度の小さい物質となる。
【0031】
チタン酸カリウムとしては、従来公知のものを広く使用でき、4チタン酸カリウム、6チタン酸カリウム、8チタン酸カリウム等が挙げられる。チタン酸カリウムの寸法は、上述の無機繊維の寸法の範囲であれば特に制限はないが、通常、平均繊維径が0.01μm〜1μm、好ましくは0.05μm〜0.8μm、より好ましくは0.1μm〜0.7μm、平均繊維長が1μm〜50μm、好ましくは3μm〜30μm、より好ましくは10μm〜20μm、平均アスペクト比が10以上、好ましくは10〜100、より好ましくは15〜35である。本発明では市販品でも使用でき、例えば、大塚化学社製の「TISMO D」(平均繊維長15μm、平均繊維径0.5μm)、「TISMO N」(平均繊維長15μm、平均繊維径0.5μm)等を使用することができる。
【0032】
ワラストナイトは、メタ珪酸カルシウムからなる無機繊維である。ワラストナイトの寸法は上述の無機繊維の寸法の範囲であれば特に制限はないが、通常、平均繊維径が0.1μm〜15μm、好ましくは1μm〜10μm、より好ましくは2μm〜7μm、平均繊維長が3μm〜180μm、好ましくは10μm〜100μm、より好ましくは20μm〜40μm、平均アスペクト比が3以上、好ましくは3〜30、より好ましくは5〜15である。本発明では市販品でも使用でき、例えば、大塚化学社製の「バイスタルW」(平均繊維長25μm、平均繊維径3μm)等を使用することができる。
【0033】
上述の平均繊維長及び平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察により測定することができ、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は平均繊維長及び平均繊維径より算出することできる。例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により、複数の無機繊維を撮影し、その観察像から無機繊維を任意に300個選択し、それらの繊維長および繊維径を測定し、繊維径の全てを積算して個数で除したものを平均繊維長、繊維径の全てを積算し個数で除したものを平均繊維径とすることができる。
【0034】
本発明において繊維状の粒子とは、粒子に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い辺を長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さT(B>T)と定義したときに、L/BおよびL/Tがいずれも3以上の粒子のことをいい、長径Lが繊維長、短径Bが繊維径に相当する。板状の粒子とは、L/Bが3より小さく、L/Tが3以上の粒子である。
【0035】
無機繊維は、熱可塑性樹脂との濡れ性を高め、得られる樹脂組成物の機械特性等の物性をより一層向上させるために、本発明で使用する無機繊維の表面に表面処理剤からなる処理層が形成されていてもよい。表面処理剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられる。これらの中でもシランカップリング剤が好ましく、アミノ系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤、アルキル系シランカップリング剤が更に好ましい。これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
アミノ系シランカップリング剤としては、例えば、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−エトキシシリル−N−(1,3−ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0037】
エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、3−グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、ジエトキシ(3−グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、トリエトキシ(3−グリシジルオキシプロピル)シラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0038】
ビニル系シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0039】
アルキル系シランカップリング剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0040】
無機繊維の表面に表面処理剤からなる処理層を形成する方法としては、公知の表面処理方法を使用することができ、例えば、加水分解を促進する溶媒(例えば、水、アルコール又はこれらの混合溶媒)に表面処理剤を溶解して溶液として、その溶液を無機繊維に噴霧する湿式法、樹脂組成物に無機繊維と表面処理剤とを配合するインテグラルブレンド法等でなされる。
【0041】
表面処理剤を本発明の無機繊維の表面へ処理する際の該表面処理剤の量は特に限定されないが、湿式法の場合、無機繊維100質量部に対して表面処理剤が0.1質量部〜5質量部、好ましくは0.3質量部〜2質量部となるように表面処理剤の溶液を噴霧すればよい。また、インテグラルブレンド法の場合は無機繊維100質量部に対して表面処理剤が0.1質量部〜20質量部になるように表面処理剤を樹脂組成物に配合すればよい。表面処理剤の量を上記範囲内にすることで、熱可塑性樹脂との密着性がより一層向上し、無機繊維の分散性をより一層向上するこができる。
【0042】
(熱可塑性樹脂(B))
樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂としては、熱溶解積層方式3次元プリンタで使用できるものであり、後述するヘッド送り速度を落とすことなく安定的に吐出できる溶融時の流動特性を有していれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、環状ポリオレフィン(COP)樹脂、環状オレフィン・コポリマー(COC)樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン(PS)樹脂、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)樹脂、アクリロニトリル−ブチレン−スチレン共重合体(ABS)樹脂等のポリスチレン系樹脂;ポリ乳酸(PLA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリアセタール(POM)樹脂;ポリカーボネート(PC)樹脂;ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド46樹脂、ポリアミド6樹脂とポリアミド66樹脂の共重合体(ポリアミド6/66樹脂)、ポリアミド6樹脂とポリアミド12樹脂の共重合体(ポリアミド6/12樹脂)等の脂肪族ポリアミド(PA)樹脂;ポリアミドMXD6樹脂、ポリアミド6T樹脂、ポリアミド9T樹脂、ポリアミド10T樹脂等の芳香環を有する構造単位と芳香環を有さない構造単位からなる半芳香族ポリアミド(PA)樹脂;ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂;ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂;液晶ポリエステル(LCP)樹脂;ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)樹脂等のポリエーテル芳香族ケトン樹脂;ポリエーテルイミド(PEI)樹脂;ポリアミドイミド(PAI)樹脂;熱可塑性ポリイミド(TPI)樹脂;等を例示することができる。
【0043】
上記熱可塑性樹脂のなかでもポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、脂肪族ポリアミド(PA)樹脂、半芳香族ポリアミド(PA)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂などが好ましい。
【0044】
上記熱可塑性樹脂から選ばれる相溶性のある2種以上の熱可塑性樹脂同士の混合物、すなわちポリマーアロイ等も使用できる。
【0045】
(その他の添加剤(C))
本発明の造形物を構成する樹脂組成物は、その好ましい物性を損なわない範囲において、その他の添加剤を含有することができる。その他の添加剤としては、耐衝撃改良剤;アラミド繊維、ポリフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、炭酸カルシム、雲母、マイカ、セリサイト、イライト、タルク、カオリナイト、モンモリナイト、ベーマイト、スメクタイト、バーミキュライト、二酸化チタン、シリカ、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、ベーマイト、ガラスビーズ、アルミナ等の上述の無機繊維(A)以外の無機充填材;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、グラファイト、二硫化モリブテン、二硫化タングステン、窒化ホウ素等の固体潤滑剤;銅化合物等の熱安定剤;ヒンダードフェノール系光安定剤等の光安定剤;核形成剤;アニオン性帯電防止剤、カチオン性帯電防止剤、非イオン系帯電防止剤等の帯電防止剤;老化防止剤(酸化防止剤);耐候剤;金属不活性剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、サイリシレート系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;防菌・防黴剤;防臭剤;炭素系導電剤、金属系導電剤、金属酸化物系導電剤、界面活性剤等の導電性付与剤;分散剤;ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤、エポキシ系可塑剤等の軟化剤(可塑剤);カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、染料等の着色剤;ホスファゼン系化合物、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、無機リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、金属酸化物系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤、有機金属塩系難燃剤、窒素系難燃剤、ホウ素化合物系難燃剤等の難燃剤;ドリッピング防止剤;制振剤;中和剤;ブロッキング防止剤;流動性改良剤;脂肪酸、脂肪酸金属塩等の離型剤;滑剤;等が挙げられ、これらを1種又は2種以上を含有することができる。
【0046】
耐衝撃改良剤としては、例えば、(エチレンおよび/またはプロピレン)・α−オレフィン系共重合体、(エチレンおよび/またはプロピレン)・(α,β−不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル)系共重合体、アイオノマ−重合体等のオレフィン系重合体;スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等のエラストマー;チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ポリエーテルゴム、エピクロルヒドリンゴム等の合成ゴム;天然ゴム;等を挙げることができ、耐熱性の観点からオレフィン系共重合体が好ましい。これらを1種又は2種以上を含有することができる。
【0047】
上記(エチレンおよび/またはプロピレン)・α−オレフィン系共重合体は、エチレンおよび/またはプロピレンと炭素数3以上のα−オレフィンを共重合した重合体であり、炭素数3以上のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。また、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−オクタジエン、1,5−オクタジエン、1,6−オクタジエン、1,7−オクタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、4−エチリデン−8−メチル−1,7−ノナジエン、4,8−ジメチル−1,4,8−デカトリエン(DMDT)、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、6−クロロメチル−5−イソプロペンル−2−ノルボルネン、2,3−ジイソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−エチリデン−3−イソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−プロペニル−2,2−ノルボルナジエンなどの非共役ジエンのポリエンを共重合してもよい。
【0048】
上記(エチレンおよび/またはプロピレン)・(α,β−不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル)系共重合体は、エチレンおよび/またはプロピレンとα,β−不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル単量体を共重合した重合体であり、α,β−不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられ、α,β−不飽和カルボン酸エステル単量体としては、これら不飽和カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0049】
上記アイオノマ−重合体は、オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部が金属イオンの中和によりイオン化されたものである。オレフィンとしてはエチレンが好ましく用いられ、α,β−不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸が好ましく用いられるが、ここに例示したものに限定されるものではなく、不飽和カルボン酸エステル単量体が共重合されていても構わない。また、金属イオンはLi、Na、K、Mg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属の他、Al、Sn、Sb、Ti、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Cd等を挙げることできる。
【0050】
上記耐衝撃改良剤は、カルボン酸および/またはその誘導体で変性された重合体も用いることができる。このような成分により変性することにより、例えば、ポリアミド樹脂に対して親和性を有する官能基をその分子中に導入することができる。ポリアミド樹脂に対して親和性を有する官能基としては、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステル基、カルボン酸金属塩基、カルボン酸アミド基、エポキシ基等が挙げられる。
【0051】
(樹脂組成物の製造方法)
樹脂組成物は、無機繊維(A)及び熱可塑性樹脂(B)、必要に応じて、更にその他の添加剤(C)の成分を、混合及び加熱(特に、溶融混練)することによって製造することができる。
【0052】
溶融混練には、例えば、二軸押出機等の公知の溶融混練装置を使用することができる。具体的には、(1)混合機(タンブラー、ヘンシェルミキサー等)で各成分を予備混合して、溶融混練装置で溶融混練し、ペレット化手段(ペレタイザー等)でペレット化する方法;(2)所望する成分のマスターバッチを調整し、必要により他の成分を混合し、溶融混練装置で溶融混練してペレット化する方法;(3)各成分を溶融混練装置に供給してペレット化する方法等により製造することができる。
【0053】
溶融混練における加工温度は、熱可塑性樹脂(B)が溶融し得る温度であれば特に限定はない。通常、溶融混練に用いる溶融混練装置のシリンダ温度をこの範囲に調整する。
【0054】
樹脂組成物における無機繊維(A)の含有量は、樹脂組成物の合計量100質量%中に1質量%〜40質量%であることが好ましく、3質量%〜30質量%であることがより好ましく、7質量%〜25質量%であることが更に好ましい。
【0055】
樹脂組成物における熱可塑性樹脂(B)の含有量は、樹脂組成物の合計量100質量%中に50質量%〜99質量%であることが好ましく、60質量%〜97質量%であることがより好ましく、65質量%〜93質量%であることが更に好ましい。
【0056】
本発明で使用してもよい上記必須成分以外の添加剤であるその他の添加剤(C)の含有量は、本発明の樹脂組成物の好ましい物性を損なわない範囲であれば特に制限はない。通常は、樹脂組成物の合計量100質量%中に10質量%以下、好ましくは5質量%以下、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。
【0057】
樹脂組成物の各成分を上記の範囲に調整することで、3次元プリンタを用いた造形において造形物の層間剥離、造形物の反り等を改善することができる。造形物の剥離強度が向上することで、造形物の機械特性を向上することができる。
【0058】
かくして、所望の効果を発揮する本発明の造形物を構成する樹脂組成物が製造される。
【0059】
<造形物及びその製造方法>
本発明の造形物は、樹脂組成物を、特定の条件において、熱溶解積層方式の3次元プリンタ(付加製造装置ともいう)で造形することで、造形物中の無機繊維の配向をより一層高めることができる。
【0060】
熱溶解積層方式とは、ペレット状、フィラメントと呼ばれる糸状などの形状を有する熱可塑性樹脂を押出ヘッド内部の加熱手段にて流動化したのち、ノズルからプラットフォーム上に吐出し、少しずつ積層しながら冷却固化して所望の造形物を造形する方法である。上記樹脂組成物を造形材料とすることで、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維状フィラーを配合した樹脂組成物のような押出しヘッドの詰まり、押出しヘッドの摩耗が発生することなく、熱溶解積層方式3次元プリンタを用いた造形をすることが可能であり、例えばヘッド径が0.5mm以下のような細いノズルであっても押出しヘッドの詰まり、押出しヘッドの摩耗が発生することなく造形することが可能である。さらに、理由は定かではないが、無機繊維(A)により造形物の反りを改善するだけでなく、積層した層間の界面強度が向上することで造形物の層間剥離を抑制できるものと考えられる。
【0061】
フィラメントを製造する方法は特に限定されないが、上述の方法で製造された上記樹脂組成物を、成形機のダイス孔より溶融ストランドとして押出し、冷却水槽に導いてストランドを得る押出し工程、ストランドを加熱延伸してフィラメントを得る延伸工程、延伸したフィラメントを巻き取る工程を有する方法を挙げることができる。
【0062】
上記フィラメントの形状は特に限定されない。例えば、断面形状が、円形、方形、扁平、楕円状、繭状、三つ葉状、及びこれに類する形状の非円形形状が例示される。取扱いの観点からは、円形が好ましい。フィラメントの長さは限定されず、工業上の製造条件に応じて、あるいは熱溶解積層方式3次元プリンタとしての利用を妨げない範囲で任意の値に設定することができる。また、フィラメントの径も特に限定されず、0.5mm〜3mm、特には1mm〜2mmが例示される。なお、フィラメントの径は、フィラメントの長手方向に対して垂直方向の断面について測定した径のうち、最も長径のものを指す。
【0063】
上記フィラメントは、上記樹脂組成物以外の樹脂成分を併用して複合フィラメントとしてもよい。複合フィラメントの断面構成としては、放射状配列型、サイドバイサイド型、海島型、又は芯鞘型である構成が例示される。
【0064】
本発明の造形物の製造方法では、例えば、上記樹脂組成物からなるフィラメントを、熱溶解積層方式3次元プリンタに供給して造形物を造形することができる。具体的には、フィラメントを熱溶解積層方式3次元プリンタに供給し、押出しヘッド内部の加熱手段にて流動化したのち、ノズルからプラットフォーム上に吐出し、目的とする造形物の断面形状に従って、少しずつ積層しながら冷却固化して造形物を製造することができる。
【0065】
熱溶解積層方式3次元プリンタのプリント速度(ヘッド送り速度)は、造形物の製造時間の短縮の観点、無機繊維の配向の観点から、20mm/秒以上であることが好ましく、より好ましくは30mm/秒以上である。ただし、プリント速度が速すぎると、造形性が悪くなることから、通常、プリント速度の上限は200mm/秒以下である。
【0066】
押出ヘッドの径は、ヘッド送り速度の観点から、0.5mmより小さいことが好ましく、0.4mm以下であることがより好ましく、0.3mm以下であることが更に好ましく、0.1mm以上であることが好ましい。
【0067】
押出ヘッドから吐出される溶融樹脂の温度(吐出温度)は、上記ヘッド送り速度が得られるように、使用する熱可塑性樹脂により適宜選択することができる。
【0068】
熱溶解積層方式3次元プリンタにおいて、ヘッド送り速度を上記範囲に制御することで、溶融樹脂中の無機繊維が吐出方向に配向しながら、ストランド状の樹脂を一定方向に積層していくことから、造形物における無機繊維の配向が高まるものと考えられる。また、押出ヘッドから吐出したストランド状の樹脂を一定方向に積層しながら造形物を製造することから、造形物の部位による無機繊維の配向のバラつきが生じにくい。特に、本発明の造形物は、造形積層方向の最大厚みが好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、さらに好ましくは4mm以上、最小厚みが好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、さらに好ましくは4mm以上である造形物において、射出成形では得られない優れた効果を得ることが可能となる。
【0069】
本発明の造形物は、無機繊維の配向度が高いことから、機械特性及び摺動性が優れたものである。このことから機械特性が必要とされる構造部材、機械特性だけでなく摺動性も求められる自動車部材(軸受、クラッチスリーブベアリング、ベアリングリテーナー、各種ギア等)、OA機器部材(滑り軸受、分離爪、各種ギア等)、電気・電子器機器部材(振動モーター軸受等)にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0070】
以下に実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。なお、本実施例及び比較例で使用した原材料は具体的には以下の通りである。平均繊維径と平均アスペクト比は電界放出型走査電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ社製、S−4800)を用いて測定し、粒子形状はカーボンブラックを除きSEMにより確認し、平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、SALD−2100)により測定し、カーボンブラックの平均粒子径はSEMを用いて測定した。
【0071】
(無機繊維)
チタン酸カリウム(商品名:TISMO D102、大塚化学社製、平均繊維長:15μm、平均繊維径:0.5μm、平均アスペクト比:30)
【0072】
(熱可塑性樹脂)
ポリアミド12樹脂(商品名:ダイアミドL1800、ダイセル社製)
ポリアミドMXD6樹脂(商品名:MXPA6000、三菱瓦斯化学社製)
PPS樹脂(商品名:ジュラファイドW214A、ポリプラスチックス社製)
PEEK樹脂(商品名:PEEK181G、VICTREX社製)
【0073】
(その他の添加剤)
オレフィン系重合体(無水マレイン酸変性エチレン・1−ブテン共重合体、商品名:タフマーMH5020、三井化学社製)
カーボンブラック(商品名:#3050、三菱化学社製、平均粒子径50nm、不定形状粒子)
タルク(平均粒子径8μm、板状粒子)
【0074】
<樹脂組成物及びフィラメントの製造>
(フィラメントNo.1〜8)
表1に示す配合割合で、二軸押出機を用いて溶融混練し、それぞれペレットを製造した。なお、二軸押出機のシリンダ温度は、フィラメントNo.1、2及び6〜8においては190℃〜230℃とし、フィラメントNo.3においては230℃〜270℃とし、フィラメントNo.4においては280℃〜300℃とし、フィラメントNo.5においては350℃〜380℃とした。
【0075】
得られたペレットをフィラメント押出機に投入し、フィラメント径1.7mmのフィラメントを得た。
【0076】
【表1】
【0077】
<造形物の製造>
(実施例1〜13、比較例1〜22)
上記で得られたフィラメントを、熱溶解積層方式3次元プリンタによって、表2に示したプリント条件にて縦100mm×横2mm×厚さ50mmの平板状の造形物を作製した。実施例1〜3及び比較例1〜6はMUTOH社製の熱溶解積層方式3次元プリンタ(商品名:MF1100)を、実施例4〜5及び比較例7〜8はMagnaRecta社製の熱溶解積層方式3次元プリンタ(商品名:Lepton2)を用いた。なお、造形は平板状の造形物の縦方向に進行し、厚さ方向に積層した。
【0078】
図1にフィラメントNo.6の樹脂組成物を用いて製造した造形物(比較例3)、図2にフィラメントNo.1の樹脂組成物を用いて製造した造形物(実施例1)の写真を示した。
【0079】
上記で得られたフィラメントを、熱溶解積層方式3次元プリンタによって、図3に示す形状の引張ダンベル試験片を、表3に示したプリント条件にて作製した。実施例6〜8及び比較例9〜14はMUTOH社製の熱溶解積層方式3次元プリンタ(商品名:MF1100)を、実施例9〜10及び比較例15〜16はMagnaRecta社製の熱溶解積層方式3次元プリンタ(商品名:Lepton2)を用いた。また、表4に示すフィラメントの原料であるペレットを用いて、樹脂の流動方向が3次元プリンタの造形進行方向と同じになるようにゲートを設けて射出成形し、図3に示す形状の引張ダンベル試験片を作製した。
【0080】
上記で得られたフィラメントを、MUTOH社製の熱溶解積層方式3次元プリンタ(商品名:MF1100)によって、図4に示す形状の摺動リング試験片1を、表5に示したプリント条件にて作製した。また、表6に示すフィラメントの原料であるペレットを用いて、摺動試験面2において樹脂の流動方向が3次元プリンタの造形進行方向と同じになるようにゲート3を設けて射出成形し、図5に示す形状の摺動リング試験片11を作製した。
【0081】
上記で得られたフィラメントを、MUTOH社製の熱溶解積層方式3次元プリンタ(商品名:MF1100)によって、表7に示したプリント条件にて縦64mm×横4mm×厚さ12.7mmのIZOD試験片を作製した。なお、造形はIZOD試験片の縦方向に進行し、厚さ方向に積層した。
【0082】
<評価>
(1)そり量
表2の条件で作製した平板状の造形物について、そり量をノギスで測定した。そり量Wは、図6に示すように、造形進行方向における中央部と端部での、造形積層方向における高さの差である。結果を表2に示した。
【0083】
(2)収縮率
表2の条件で作製した平板状の造形物の収縮率を測定した。収縮率は、積層方向と進行方向において測定した。積層方向の収縮率は、図6に示す造形積層方向の厚さbにおける収縮率である。進行方向の収縮率は、図6に示す造形進行方向の長さaにおける収縮率である。結果を表2に示した。
【0084】
(3)界面密着力
表2の条件で作製した平板状の造形物を、積層方向に幅10mmの短冊状にカットし、得られた短冊をオートグラフAG−5000(島津製作所社製)にて支点間距離30mmの3点曲げ試験により曲げ応力を測定し、界面密着力とした。結果を表2に示した。
【0085】
(4)引張強度
表3及び表4の条件にて作製した引張ダンベル試験片について、オートグラフAG−1(島津製作所社製)にて引張強度を測定し、結果を表3及び表4に示した。
【0086】
(5)無機繊維の配向角度
表3及び表4の条件にて作製した引張ダンベル試験片において表層から深さ1mm、表5及び表6の条件にて作製した摺動リング試験片において表層から0.05mmにおける無機繊維の配向角度を測定した。なお、引張ダンベル試験片については、図3に破線で示す位置、すなわち引張ダンベル試験片の長さ方向の中央部分の位置の表層から深さ1mmにおける無機繊維の配向角度を測定した。また、3次元プリンタによる摺動リング試験片1については、摺動面2の任意の位置の表層から深さ0.05mmにおける無機繊維の配向角度を測定した。また、射出成形による摺動リング試験片11については、図5に示す摺動面2を平面視したときに、ゲート3とウェルドライン4との中間部5の位置の表層から深さ0.05mmにおける無機繊維の配向角度を測定した。上記部位について、X軸が造形進行方向になるように試験片のように配置したうえで、得られた試験片の表面を走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ社製、S−4800)を用いて、反射電子検出器(BSE検出器、GW社製、)を使用して組成コントラスト像を撮影した。写真倍率は5000倍とした。なお、一例として、実施例11の走査型電子顕微鏡写真を図7に、比較例21の走査型電子顕微鏡写真を図8に、比較例22の走査型顕微鏡写真を図9に示す。
【0087】
得られた画像について画像解析ソフト(三谷産業社製、WinRoof2015)を用いて画像処理分析を行い、繊維状物のみを画像から抽出して二値化を行い、針状分離計測パラメータにて無機繊維の分離を行い、粒子解析を行い、無機繊維の配向角度を算出した。得られた配向角度は、任意に選択した300個の無機繊維の平均値とした。
【0088】
(6)摩耗量(摺動性)
表5及び表6の条件にて作製した摺動リング試験片について、鈴木式摩擦摩耗試験機(エー・アンド・ディ社製、EFM−III−F)を用いて各試験片について摩耗量を求めた。摩擦摩耗試験の条件は、面圧0.5MPa、周速度0.15m/秒、時間3時間、相手材S45Cとした。
【0089】
(7)ノッチ付きアイゾット(IZOD)衝撃値
表7の条件にて作製したIZOD試験片について、JIS K7110に準じ、ノッチ付きアイゾット(IZOD)衝撃値を測定した。
【0090】
結果を表2〜表7に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】
【0096】
【表7】
【0097】
表2から明らかなように、ポリアミド12樹脂に本発明の無機繊維を配合した実施例1は、ポリアミド12樹脂に本発明の無機繊維が配合されていない比較例3〜5に比べ、そり量が大幅に小さくなり、収縮率も積層方向、進行方向ともに大幅に小さくなることがわかる。さらに、界面密着力が大きく向上していることがわかる。
【0098】
なお、比較例3と比較例4,5との対比から明らかなように、通常、熱可塑性樹脂にカーボンブラックやタルクのような無機添加剤を加えると、界面密着力が低下する。しかしながら、実施例1と比較例3とを比較すると、熱可塑性樹脂に本発明の無機繊維を加えることにより、界面密着力が高められるという予期せぬ効果が奏されることがわかる。
【0099】
また、表3及び表4から明らかなように、無機繊維の配向角度が24°以下である実施例6では、無機繊維の配向角度が24°より大きい比較例9及び比較例17と比べて引張強度が大きくなっていることがわかる。
【0100】
さらに、表5及び表6から明らかなように、無機繊維の配向角度が24°以下である実施例11では、無機繊維の配向角度が24°より大きい比較例21及び比較例22と比べて摩耗量が小さくなっていることがわかる。
【符号の説明】
【0101】
11…摺動リング試験片
2…摺動面
3…ゲート
4…ウェルドライン
5…中間部
【要約】
繊維状フィラーで強化した熱可塑性樹脂組成物から構成され、機械特性を高め得る、造形物及びその製造方法を提供する。
平均繊維長1μm〜300μm、且つ平均アスペクト比3〜200である無機繊維と、熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物から構成される造形物であり、前記無機繊維の配向角度の平均値が24°以下であることを特徴とする、造形物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9