特許第6472632号(P6472632)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6472632-油圧モータ 図000002
  • 特許6472632-油圧モータ 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472632
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】油圧モータ
(51)【国際特許分類】
   F03C 1/253 20060101AFI20190207BHJP
【FI】
   F03C1/253
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-205594(P2014-205594)
(22)【出願日】2014年10月6日
(65)【公開番号】特開2016-75201(P2016-75201A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(72)【発明者】
【氏名】長尾 信幸
【審査官】 冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−177764(JP,A)
【文献】 特開2006−170125(JP,A)
【文献】 特開2014−136983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03C 1/253
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ軸を回転自在に支持するケーシングと、
前記ケーシングに設けられた圧油の供給ポートおよび排出ポートと、
前記ケーシングの内部に設けられ、前記供給ポートおよび前記排出ポートを介して給排出される圧油により、前記モータ軸に回転動力を与える回転動力発生機構部と、
前記ケーシングに設けられ、該ケーシングの内部にて発生するリーク油を、フィルタを介して外部のタンクに戻すドレン通路と、
前記ケーシングに設けられ、キャビテーションを抑止する油圧回路に接続されるメイクアップ通路と、
を備える油圧モータにおいて、
前記ケーシングの内部に前記リーク油の溜まり部が設けられ、
前記溜まり部と前記メイクアップ通路とが連通路で接続され、
前記連通路に、前記メイクアップ通路から前記溜まり部への油の流れを常時遮断し、前記ケーシングの内部の前記リーク油の圧力が所定以上のときに前記溜まり部から前記メイクアップ通路への油の流れを許容し、前記フィルタを介さず前記タンクへ排出する連通制御手段のみが設けられている油圧モータ。
【請求項2】
前記連通制御手段として、チェック弁、リリーフ弁、プレッシャレギュレータのうちの一つが設けられている請求項1に記載の油圧モータ。
【請求項3】
前記ケーシングが、後端を開口させて筒状に形成された前側ケーシングと、該前側ケーシングの後端開口を閉塞する後側ケーシングとから構成され、
前記回転動力発生機構部が、
前記前側ケーシング内に設けられた斜板と、
前記斜板にシューを介して揺動可能に係合された複数のピストンと、
前記前側ケーシング内に設けられ、前記複数のピストンをそれぞれ摺動可能に保持する複数のシリンダ室を有すると共に前端側に前記モータ軸が一体に形成されたシリンダブロックと、
前記シリンダブロックと前記後側ケーシングとの間に設けられた環状のバルブプレートと、
を有し、
前記シリンダブロックの後端面に凹部が設けられ、この凹部に前記後側ケーシングの前端面に突設された凸部が軸受を介して嵌合され、
前記凹部と凸部との間隙部により前記リーク油の前記溜まり部が形成され、
前記後側ケーシングに前記連通路が形成されている請求項1または請求項2に記載の油圧モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、油圧モータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、油圧ショベル等の建設機械の旋回体駆動用モータとして、一般的に、斜板式ピストンモータなどの油圧モータが用いられている。この種の油圧モータでは、モータのケーシングの内部に、圧油の供給および排出によりモータ軸に回転動力を与える回転動力発生機構部が設けられている。また、モータのケーシングに、ケーシング内部にて発生するリーク油を外部のタンクに戻すドレン通路や、キャビテーションを抑止する油圧回路に接続されるメイクアップ通路が設けられている。
【0003】
キャビテーションを抑止する油圧回路は、旋回停止操作時に油圧モータが旋回体の慣性力で油圧ポンプからの供給油量を超えて回転するために起こるキャビテーションを防止するための回路である。
【0004】
ところで、ケーシング内部のリーク油は、ドレン通路からタンクに戻しているが、ドレン通路とタンクの間にフィルタが設置されている場合、そのフィルタが目詰まりしてしまうと、ケーシング内部のリーク油の圧力が上昇し、リーク油のケーシング外部への漏れを防いでいるオイルシールが破損してしまう可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−177764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、ケーシング内のリーク油の圧力上昇を回避して、オイルシールの破損を防止することのできる油圧モータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の油圧モータは、ケーシングと、供給ポートおよび排出ポートと、回転動力発生機構部と、ドレン通路と、メイクアップ通路と、を持つ。ケーシングは、モータ軸を回転自在に支持する。供給ポートおよび排出ポートは、ケーシングに設けられている。回転動力発生機構部は、ケーシングの内部に設けられ、供給ポートおよび排出ポートを介して給排出される圧油により、モータ軸に回転動力を与える。ドレン通路は、ケーシングに設けられ、このケーシングの内部にて発生するリーク油を、フィルタを介して外部のタンクに戻す。メイクアップ通路は、ケーシングに設けられ、キャビテーションを抑止する油圧回路に接続される。そして、ケーシングの内部にリーク油の溜まり部が設けられる。溜まり部とメイクアップ通路とが連通路で接続される。連通路に、メイクアップ通路から溜まり部への油の流れを常時遮断し、ケーシングの内部のリーク油の圧力が所定以上のときに溜まり部からメイクアップ通路への油の流れを許容し、前記フィルタを介さず前記タンクへ排出する連通制御手段が設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の油圧モータを示す回路図。
図2】実施形態の油圧モータを示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の油圧モータを、図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、油圧モータの回路図、図2は、油圧モータの概略構成図である。この実施形態の油圧モータは、例えば、油圧ショベルの上部旋回体(不図示)を旋回駆動する斜板式ピストンモータである。
【0011】
図1図2に示すように、斜板式ピストンモータ1は、ケーシング2を有している。ケーシング2は、後端(図2における上端)を開口させて筒状に形成された前側ケーシング2Aと、この前側ケーシング2Aの後端開口を閉塞する後側ケーシング2Bとからなる。ケーシング2の内部には、斜板5、複数のピストン10、シリンダブロック20、バルブプレート(弁板)30、モータ軸3、メカニカルブレーキ機構40等が設けられている。
【0012】
斜板5は、その前面(図2における下側の面)がボルト等により前側ケーシング2Aの内面に固定されており、この斜板5の背面(図2における上側の面)にはシュー6が摺動可能に当接されている。各ピストン10は、前端に球状頭部12を有しており、この球状頭部12を介してシュー6と揺動可能に係合している。
【0013】
シリンダブロック20は、円柱状に形成されており、前側ケーシング2Aの内部に収容されている。シリンダブロック20内には、ピストン10を摺動可能に保持する複数のシリンダ室22が形成されている。複数のシリンダ室22は、シリンダブロック20の回転軸線の周りに円周方向に等間隔で形成されており、それぞれが、作動のための圧油が供給される作動室として構成されている。
【0014】
バルブプレート30は、環状に形成されており、シリンダブロック20の後端と後側ケーシング2Bの前端との間に配置されている。バルブプレート30には、シリンダブロック20のシリンダ室22に対して圧油を給排する三日月形の圧油給排ポート32が設けられている。
【0015】
モータ軸3は、後端にリテーナ部4を有しており、このリテーナ部4を介して、シリンダブロック20の前端に同軸に一体化されている。リテーナ部4には、リターンプレート7を介して、シュー6を斜板5に押圧するリング状の板ばね8が取り付けられている。モータ軸3は、出力端である前端が、斜板5の中心孔を貫通して、前側ケーシング2Aの外部に突出している。モータ軸3は、その突出した前端よりもやや後側の位置で、前側ケーシング2Aの前端部に形成されたボス部9に、オイルシール55を介してテーパコロベアリング51により回転自在に支持されている。
【0016】
後側ケーシング2Bは、ボルト58等により前側ケーシング2Aに固定されている。後側ケーシング2Bには、バルブプレート30の圧油給排ポート32に対して圧油を給排するAポートとBポートが設けられている(図1参照)。これらAポートおよびBポートは、一方がモータ内部への圧油の供給ポートとなるとき、他方がモータ内部からの圧油の排出ポートとなる2つの圧油給排ポートである。
【0017】
そして、斜板5と、ピストン10と、シリンダブロック20と、バルブプレート30とを主体にして、モータ軸3に回転動力を与える回転動力発生機構部90が構成されている。すなわち、供給ポート(AポートまたはBポート)を介してシリンダ室22に圧油が供給される。また、排出ポート(BポートまたはAポート)を介してシリンダ室22から圧油が排出される。これらの圧油の流れにより作用する作動力が回転動力発生機構部90に作用し、この回転動力発生機構部90によって、モータ軸3に回転動力が付与される。
【0018】
また、ケーシング2には、ケーシング2内で発生したリーク油を外部のタンクTに戻すドレン通路60およびドレンポートDrと、キャビテーションを抑止する油圧回路110(図1参照)に接続されるメイクアップ通路70およびメイクアップポートMuとが設けられている。ドレンポートDrおよびメイクアップポートMuは、後側ケーシング2Bに開口している。
図1に示すように、ドレンポートDrは、フィルタ102を介してタンクTに接続されている。また、メイクアップポートMuは、タンクTへの戻りラインL2の途中にメイクアップラインL3を介して接続されている。
【0019】
また、シリンダブロック20の後端面の中心部には凹部24が設けられ、この凹部24に、後側ケーシング2Bの前端面の中心部に突設された凸部26が、ニードルベアリング52を介して回転自在に嵌合されている。
【0020】
ケーシング2の内部には、凹部24と凸部26の間隙部によって、リーク油の溜まり部80が確保されている。この溜まり部80は、後側ケーシング2Bの内部に形成された連通路82により、メイクアップ通路70と接続されている。連通路82には、連通制御手段としてのチェック弁84が設けられている。
【0021】
このチェック弁84は、メイクアップ通路70側から溜まり部80側への油の流れを常時遮断し、ケーシング2の内部のリーク油の圧力が所定以上のときに溜まり部80からメイクアップ通路70への油の流れを許容する機能を果たす。つまり、チェック弁84は、メイクアップ通路70側から溜まり部80側への逆流を阻止すると共に、リーク油の圧力を所定の圧力まで速やかに高めて、所定の圧力を超えたらリーク油の圧力を逃がす機能を果たすようになっている。
【0022】
メカニカルブレーキ機構40は、バネ41の付勢力によるシリンダブロック20側の摩擦板42とケーシング2側の摩擦板43の摩擦係合により、シリンダブロック20に対するブレーキ力を発生させる。一方、バネ41の付勢力に抗するブレーキピストン44の移動により、ブレーキ力を解除する。
【0023】
図1に示すように、キャビテーション抑止用の油圧回路110は、一対のリリーフ弁RF1、RF2および一対の逆止弁CH1、CH2により構成され、メイクアップポートMuおよびメイクアップ通路70に通じている。
また、図1において、GA、GBは、圧力計を接続したりするポートである。このキャビテーション抑止用の油圧回路110は、ケーシング2外部に形成することもできるが、本実施形態ではケーシング2内部に形成している。
【0024】
斜板式ピストンモータ1のAポートおよびBポートは、給排ラインL1を介して制御弁ユニット150に接続されている。制御弁ユニット150には、油圧ポンプ等の油圧供給源160が接続されると共に、斜板式ピストンモータ1からの戻り油をタンクTに戻す戻りラインL2が接続されている。
戻りラインL2は、逆止弁120を介してタンクTへ戻り油を戻すラインである。メイクアップポートMuは、この戻りラインL2の逆止弁120の上流側に接続されている。メイクアップポートMuの圧力は、キャビテーションを抑止する機能を与えるように逆止弁120のバネ力により設定されており、通常は0.3MPa程度の低圧である。
【0025】
次に、斜板式ピストンモータ1の作用について説明する。
AポートまたはBポートから、シリンダブロック20のシリンダ室22に圧油がバルブプレート30の圧油給排ポート32を介して供給されると、シリンダ室22に供給された圧油により、ピストン10がシリンダ室22から押し出される方向に移動する。これに伴ってシュー6が斜板5に押し付けられると、そのときの反力がピストン10を介してシリンダブロック20に回転方向の分力として作用するので、シリンダブロック20およびモータ軸3が回転を始める。ピストン10が上死点を超えたシリンダ室22からは、バルブプレート30の圧油給排ポート32を介して、AポートまたはBポートに圧油が排出され、タンクTに戻される。
【0026】
このように作動する際に、ケーシング2内にはリーク油が発生する。リーク油は、以下の潤滑等に供された後に、ドレン通路60およびドレンポートDrを通り、フィルタ102を介してタンクTに戻される。すなわち、リーク油は、ピストン10とシリンダブロック20の摺動面の潤滑、斜板5とシュー6の摺動面の潤滑、ニードルベアリング52やテーパコロベアリング51の転がり面の潤滑、バルブプレート30とシリンダブロック20の間の摺動面の潤滑、メカニカルブレーキ機構40の摩擦板42、43間の潤滑等に供される。
【0027】
また、万一フィルタ102が目詰まりして、リーク油の圧力をドレン通路60およびドレンポートDrから逃がすことができなくなったときには、リーク油の溜まり部80が連通路82を介してメイクアップ通路70に接続されているので、そのルートを介して、メイクアップ通路70にリーク油の圧力を逃がすことができる。
【0028】
その際、連通路82には、メイクアップ通路70側から溜まり部80側への油の流れを常時遮断し、ケーシング2の内部のリーク油の圧力が所定以上のときに溜まり部80からメイクアップ通路70への油の流れを許容するチェック弁84を設けているので、通常時は、リーク油の圧力を所定の圧力まで速やかに高めることができる。
また、万一メイクアップ通路70が高圧になることがあっても、ケーシング2内部の圧力上昇を回避することができる。このため、外部へのオイル漏れを防止するオイルシール55の破損を防止することができる。
【0029】
なお、上述の実施形態では、連通制御手段として、チェック弁84を例に挙げたが、チェック弁の代わりにリリーフ弁を用いてもよいし、プレッシャレギュレータを用いてもよい。
【0030】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、ケーシング2内部のリーク油の溜まり部80が連通制御手段(チェック弁84)を介してメイクアップ通路70に接続されているので、ドレンポートDrを経由してタンクTにリーク油を戻すラインのフィルタ102が万一目詰まりを起こした場合にも、ケーシング2内のリーク油の圧力上昇を安全に回避することができる。
また、連通制御手段の機能により、メイクアップ通路の圧力が万一上昇するようなことがあっても、ケーシング2内のリーク油の圧力上昇を安全に回避することができる。従って、オイルシール55の破損を有効に防止することができる。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0032】
1…斜板式ピストンモータ(油圧モータ)、2…ケーシング、2A…前側ケーシング、2B…後側ケーシング、3…モータ軸、5…斜板、10…ピストン、20…シリンダブロック、22…シリンダ室(作動室)、24…凹部、26…凸部、30…バルブプレート、90…回転動力発生機構部、60…ドレン通路、70…メイクアップ通路、80…溜まり部、82…連通路、84…チェック弁(連通制御手段)、102…フィルタ、110…キャビテーションを抑止する油圧回路、A…Aポート(供給ポート、排出ポート)、B…Bポート(供給ポート、排出ポート)、Dr…ドレンポート、T…タンク
図1
図2