(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ダブルポルフィリン色素は、電子供与性官能基と第1置換基と第2置換基とがそれぞれ別に結合した第1ポルフィリン構造と、前記第1ポルフィリン構造と結合する結合基と第3置換基と第4置換基とアンカー基とがそれぞれ別に結合した第2ポルフィリン構造とを有している、請求項1に記載の色素増感型太陽電池。
前記光電極は、ダブルポルフィリン色素のモル数Aに対するスクアリリウム色素のモル数Bの比B/Aが0.1以上10以下の範囲で前記色素を含む、請求項1又は2に記載の色素増感型太陽電池。
色素を含む電子輸送層を光透過導電性基板上に備えた光電極と、前記光電極に向かい合うように配置された対極と、前記光電極と前記対極との間に介在する介在層と、を備えた色素増感型太陽電池の製造方法であって、
前記電子輸送層上にダブルポルフィリン色素を形成したのち、スクアリリウム色素を形成する色素吸着工程、を含む色素増感型太陽電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の色素増感型太陽電池モジュールの一実施形態を図面を用いて説明する。
図1は、色素増感型太陽電池モジュール10の構成の概略の一例を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る色素増感型太陽電池モジュール10は、光透過導電性基板14に複数の色素増感型太陽電池40(以下セルとも称する)が順次配列した構成となっている。これらのセルは直列に接続されている。この色素増感型太陽電池モジュール10では、各セルの間を埋めるように、シール材32が形成されており、光透過導電性基板14とは反対側のシール材32の面に平板状の保護部材34が形成されている。本実施形態に係る色素増感型太陽電池40は、色素を含む電子輸送層24を下地層22を介して光透過導電性基板14上に備えた光電極20と、光電極20に向かい合うように配置された対極30と、光電極20と対極30との間に介在する介在層26と、セパレータ29とを備えている。光電極20は、光が透過する光透過基板11の表面に光が透過する光透過導電膜12が形成されている光透過導電性基板14と、光透過導電膜12に形成され色素を含む電子輸送層24と、を備えている。電子輸送層24は、光透過基板11の受光面13の反対側の面に分離形成された光透過導電膜12に配設され受光に伴い電子を放出する層である。本発明の色素増感型太陽電池40は、色素には、ポルフィリン構造を2つ有するダブルポルフィリン色素と、スクアリリウム構造を有するスクアリリウム色素とが含まれている。介在層26は、ヨウ素イオンレドックスを有する電解液を含む電解質層としてもよいが、ここでは、正孔を輸送する固体の正孔輸送層として説明する。
【0013】
光透過導電性基板14は、光透過基板11と光透過導電膜12とにより構成され、光透過性及び導電性を有するものである。具体的には、フッ素ドープSnO
2コートガラス、ITOコートガラス、ZnO:Alコートガラス、アンチモンドープ酸化スズ(SnO
2−Sb)コートガラス等が挙げられる。また、酸化スズや酸化インジウムに原子価の異なる陽イオン若しくは陰イオンをドープした光透過電極、メッシュ状、ストライプ状など光が透過できる構造にした金属電極をガラス基板等の基板上に設けたものも使用できる。この光透過導電性基板14の光透過導電膜12側の両端には、集電電極16,17が設けられており、この集電電極16,17を介して色素増感型太陽電池40で発電した電力を利用することができる。
【0014】
光透過基板11としては、例えば、透明ガラス、透明プラスチック板、透明プラスチック膜、無機物透明結晶体などが挙げられ、このうち、透明ガラスが好ましい。この光透過基板11は、透明なガラス基板、ガラス基板表面を適当に荒らすなどして光の反射を防止したもの、すりガラス状の半透明のガラス基板など光を透過するものなどとしてもよい。光透過導電膜12は、例えば、光透過基板11上に酸化スズを付着させることにより形成することができる。特に、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)等の金属酸化物を用いれば、好適な光透過導電膜12を形成することができる。光透過導電膜12は、所定の間隔に溝18が形成されており、この溝18の幅に相当する間隔を隔てて複数の光透過導電膜12の領域が分離形成されている。
【0015】
下地層22は、光透過導電性基板14から介在層26へのリーク電流(逆電子移動)を抑制もしくは防止する層であり、例えば、透光性及び導電性のある材料が好ましく、例えば、酸化チタンや酸化亜鉛、酸化スズなどのn型半導体などが挙げられ、このうち酸化チタンがより好ましい。酸化チタンは、リーク電流を抑制・防止し、且つ電子輸送層24から光透過導電性基板14へ電子を流しやすいからである。下地層22では、電子輸送層24に比してより緻密な材料とすることが好ましい。なお、この下地層22を形成しないものとしても色素増感型太陽電池40として十分機能することから、この下地層22を省略しても構わない。
【0016】
電子輸送層24は、光増感剤である色素と、色素を含む多孔質のn型半導体層とにより形成されている。n型半導体としては、金属酸化物半導体や金属硫化物半導体などが適しており、例えば、酸化チタン(TiO
2)、酸化スズ(SnO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、硫化カドミウム(CdS)、硫化亜鉛(ZnS)のうち少なくとも1以上であることが好ましく、このうち多孔質の酸化チタンがより好ましい。これらの半導体材料を微結晶又は多結晶状態にして薄膜化することにより、良好な多孔質のn型半導体層を形成することができる。特に、多孔質の酸化チタン層は、光電極20のn型半導体層として好適である。また、酸化チタンとしては、伝導帯の下端のエネルギー準位がより高く、開放端電圧がより高いことから、ルチル型TiO
2よりもアナターゼ型TiO
2が好ましい。
【0017】
電子輸送層24には、ポルフィリン構造を2つ有するダブルポルフィリン色素と、スクアリリウム構造を有するスクアリリウム色素とが形成されている。ダブルポルフィリン色素は、電子供与性官能基Dと第1置換基R
1と第2置換基R
2とがそれぞれ別に結合した第1ポルフィリン構造と、第1ポルフィリン構造と結合する結合基J
1と第3置換基R
3と第4置換基R
4とアンカー基Aとがそれぞれ別に結合した第2ポルフィリン構造とを有しているものとしてもよい。また、この第2ポルフィリン構造は、結合基J
2を介してアンカー基Aと結合しているものとしてもよい。このダブルポルフィリン色素は、例えば、基本式(1)、(2)で表されるものとしてもよい。但し、式(1)において、Aはアンカー基である。また、R
1〜R
4は、同じであっても異なっていてもよい置換基である。また、J
1及びJ
2は、結合基である。Dは、電子供与性官能基である。M
1及びM
2は、同じであっても異なっていてもよい金属イオンであり、いずれかが式(2)の構造のように省略されてもよい。金属イオンM
1及びM
2としては、例えば、Mgイオン、Feイオン、Coイオン、Niイオン、Znイオン、Ruイオン、Snイオン及びCuイオンなどが挙げられ、このうちZnイオンが好ましい。
【0019】
式(1)において、置換基R
1〜R
4としては、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜22のアリール基などが挙げられる。このアルキル基やアリール基は、更に置換基を有していてもよく、N,O,Sを含んでいてもよい。例えば、置換基R
1〜R
4は、式(3)や式(4)で表される官能基であるものとしてもよい。
【0021】
式(1)において、電子供与性官能基Dは、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、アルキル基などが挙げられる。電子供与性官能基Dは、窒素を含むものとしてもよく、この窒素に官能基、例えば、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数6〜16のアリール基のうち1以上が結合しているものとしてもよい。このアルキル基やアリール基は、更に置換基を有していてもよく、N,O,Sを含んでいてもよい。電子供与性官能基Dは、例えば、次式(5)に示すカルバゾール構造を有する官能基としてもよく、式(6)に示す官能基であるものとしてもよい。カルバゾール構造には、3位および6位に三級ブチル基が結合しているものとしてもよい。なお、式(5)の官能基において、ベンゼン環同士が結合していないものとしてもよいし、式(6)の官能基において、ベンゼン環同士が結合しているものとしてもよい。
【0023】
式(1)において、結合基J
1及びJ
2は、炭素間三重結合を有する基としてもよく、例えば、式(7)や式(8)で表されるものとしてもよい。また、アンカー基Aに接続する結合基J
2は、式(8)の三重結合を有さないものとしてもよい。式(1)において、アンカー基Aは、例えば、電子輸送材層24(n型半導体)に結合する官能基であり、例えば、カルボキシル基などが挙げられる。
【0025】
このようなダブルポルフィリン色素としては、例えば、式(9)に示す色素や、式(10)に示す色素などが具体的に挙げられる。
【0028】
スクアリリウム色素としては、例えば、次式(11)で表される非対称スクアリリウム化合物としてもよいし、次式(12)で表される対称スクアリリウム化合物としてもよいし、ビス型スクアリリウム化合物であるものとしてもよい。また、非対称スクアリリウム骨格を有する有機色素としては、例えば、次式(13)〜(24)で表される化合物などが挙げられる。なお、式(12)の有機色素の分子構造式は、「実用化に向けた色素増感太陽電池 高効率化・低コスト化・信頼性向上、出版社:株式会社エヌ・ティー・エス、第5章 色彩豊かな太陽電池の実現を目指して 139頁、
図27」を参照した。また、式(3)〜(14)の有機色素の分子構造式は、上記文献の「第5章 色彩豊かな太陽電池の実現を目指して 134頁、
図18」を参照した。
【0030】
光電極20は、ダブルポルフィリン色素のモル数Aに対するスクアリリウム色素のモル数Bのモル比B/Aが0.1以上10以下の範囲で色素を含むことが好ましい。この範囲では、より広い波長領域の太陽光を利用することができる。このモル比B/Aは、0.5以上2.0以下の範囲がより好ましい。
【0031】
光電極20は、電子輸送層24上にダブルポルフィリン色素を形成したのち、スクアリリウム色素が形成されていることが好ましい。こうすれば、比較的吸収帯の広いダブルポルフィリン色素が吸着していない電子輸送層24の隙間に、スクアリリウム色素を吸着させることができる。この結果、広い帯域の分光感度を得ることができる。あるいは、光電極20は、ダブルポルフィリン色素とスクアリリウム色素とが同時に電子輸送層24上に形成されているものとしてもよい。
【0032】
介在層26は、Cuを含む半導体により形成された正孔輸送層としてもよい。このCuを含む半導体としては、例えば、CuI、CuSCN、Cu
2O、CuO及びCuAlO
2のうち1以上を用いることが好ましく、CuIを用いるのがより好ましい。あるいは、介在層26は、Cuを含む導電体により形成された導電体層としてもよい。
【0033】
セパレータ29は、下地層22、電子輸送層24及び介在層26が積層された光電極20の1つの側面に隣接するように断面I字状に形成されている。セパレータ29の一端は光透過導電性基板14上の溝18と接触している。これにより、光電極20と対極30との直接接触が回避される。セパレータ29は、絶縁性の材料からなり、例えば、ガラスビーズ、二酸化ケイ素(シリカ)及びルチル型の酸化チタンなどで形成されていてもよい。このセパレータ29としては、シリカ粒子を焼結した絶縁体が好ましい。シリカ粒子は、屈折率が低く光散乱が小さく、良好な透明性を有するため、セパレータに好ましい。このセパレータ29は、良好な透明性を確保する観点から、平均粒径が5〜200nmであることが好ましい。
【0034】
対極30は、セパレータ29の外面と介在層26の裏面27とに接触するよう、断面L字状に形成されている。この対極30は、一端が介在層26の裏面に接続されていると共に、他端が接続部21を介して隣側の光透過導電膜12に接続されている。この対極30の裏面27と接触する面は、光電極20に対して所定の間隔を隔てて対向している。対極30としては、導電性及び介在層26との接合性を有するものであれば特に限定されず、例えば、Pt,Au,カーボンなどが挙げられ、このうちカーボンが好ましい。
【0035】
シール材32は、絶縁性の部材であれば特に限定されずに用いることができる。このシール材32としては、例えば、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂フィルム、あるいはエポキシ系接着剤を使用することができる。
【0036】
保護部材34は、色素増感型太陽電池40の保護を図る部材であり、例えば、防湿フィルムや保護ガラスなどとすることができる。
【0037】
この色素増感型太陽電池40に対して、光透過基板11の受光面13側から光を照射すると、光透過導電膜12の受光面15及び下地層22の受光面23を介して光が電子輸送層24へ到達し、色素が光を吸収して電子が発生する。電子は光電極20から光透過導電膜12、接続部21を経由して隣の対極30へ移動する。色素増感型太陽電池40では、この電子の移動により起電力が発生し、電池の発電作用が得られる。この色素増感型太陽電池モジュール10では、色素には、ダブルポルフィリン色素とスクアリリウム色素とが含まれるため、光吸収波長帯域を広げることができ、太陽光利用効率を向上することにより、例えば、短絡電流密度Jscなど、太陽電池特性をより向上することができる。
【0038】
この色素増感型太陽電池モジュール10は、製造方法として、基板作製工程、電子輸送層形成工程、色素吸着工程、介在層形成工程、セパレータ形成工程、対極形成工程及び保護部材形成工程を経て製造することができる。基板作製工程では、複数の光透過導電膜12の間に溝18を形成しつつ光透過導電膜12を光透過基板11上に形成する。電子輸送層形成工程では、光透過導電膜12上に下地層22を介してn型半導体を形成し、電子輸送層24とする。この電子輸送層形成工程では、n型半導体として多孔質の酸化チタンを用いることが好ましい。次に、色素吸着工程では、色素を電子輸送層24へ吸着させ、光電極20とする。ここでは、色素として上述したダブルポルフィリン色素とスクアリリウム色素とを用いる。また、光電極20は、電子輸送層24上にダブルポルフィリン色素を形成したのち、スクアリリウム色素を形成して作製されることが好ましい。こうすれば、比較的吸収帯の広いダブルポルフィリン色素が吸着していない電子輸送層24の隙間に、スクアリリウム色素を吸着させることができる。この結果、広い帯域の分光感度を得ることができる。あるいは、光電極20は、ダブルポルフィリン色素とスクアリリウム色素とを同時に電子輸送層24上に形成して作製されるものとしてもよい。ダブルポルフィリン色素は、クロロホルムとメタノールとを混合した溶媒を用いて溶解させることが好ましい。また、この溶液には、デオキシコール酸を添加することが好ましい。スクアリリウム色素は、アセトニトリルとtert−ブチルアルコールとを混合した溶媒を用いて溶解させることが好ましい。これらの溶液に、順次基板を浸漬することによって、色素を電子輸送層24に吸着させることができる。あるいは、これらの溶液を順次基板に滴下、乾燥するものとしてもよい。
【0039】
次に、介在層形成工程では、電子輸送層24の裏面25へp型半導体を供給し、その後乾燥させて介在層26を形成してもよい。ここでは、固体p型半導体として、Cuを含む半導体を用いるものとした。続いて、セパレータ形成工程では、溝18に合わせて光電極20の側面にセパレータ29を形成する。対極形成工程では、セパレータ29と介在層26とに接するように対極30を形成する。対極30は、例えばカーボンとしてもよい。保護部材形成工程では、各セルを覆うようにシール材32を形成すると共にシール材32に保護部材34を形成する。このようにして、発電特性が向上した色素増感型太陽電池40及び色素増感型太陽電池モジュール10を作製することができる。
【0040】
以上詳述した本実施形態の色素増感型太陽電池では、ダブルポルフィリン色素と、スクアリリウム色素とを用いることによって、400nm〜800nmの広い波長帯域で太陽光を利用することができるため、例えば、短絡電流密度Jscなど、太陽電池特性をより向上することができる。
【0041】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0042】
例えば上述した実施形態では、色素増感型太陽電池モジュール10としたが、特にこれに限定されず、
図2に示す、色素増感型太陽電池40としてもよい。
図2は、色素増感型太陽電池40の構成の概略の一例を示す断面図である。
図2では、
図1で説明した構成と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
図2に示すように、色素増感型太陽電池40を単体とする場合は、対極30の断面をL字状ではなく平板状に形成するものとしてもよい。また、セパレータ29を省略するものとしてもよい。また、対極30は、例えば光透過導電性基板14と同じ構成を有するものを用いるものとしてもよいし、光透過導電膜12に白金を付着させたものや、白金などの金属薄膜などとしてもよい。
【0043】
上述した実施形態では、介在層26を、正孔を輸送する固体の正孔輸送層として説明したが、特にこれに限定されず、
図3に示すように、介在層26Bは、ヨウ素イオンレドックスを有する電解液を含む電解質層であるものとしてもよい。
図3は、色素増感型太陽電池モジュール10Bの構成の概略の一例を示す断面図である。この色素増感型太陽電池モジュール10Bは、介在層26Bを有する色素増感型太陽電池40Bを複数備えている。なお、
図3では、下地層22及びセパレータ29を省略したものを示した。介在層26Bは、液状またはゲル状の電解質を含むものであり、例えば、多孔質体に電解液を含む層とすることが好ましい。この多孔質体は、電解液を保持可能であり、電子伝導性を有さない多孔体であれば特に限定されず、例えば、多孔質体として、ルチル型の酸化チタン粒子により形成した多孔体を使用してもよい。多孔質体は、電子輸送層24の裏面25を覆う部分と、電子輸送層24のうち裏面25に隣接する側面に密着する顎状の縁部分とを有し、断面L字状に形成されている。この鍔状の縁部分は、光透過基板11の表面が露出される深さの溝18に挿入され、光透過基板11に直接、接触している。なお、介在層26Bにおいて、多孔質体を省略し、光電極20と対極30Bとの間の空間に電解液を収容するものとしてもよい。
【0044】
介在層26Bに含まれる電解液は、ヨウ素イオンレドックスを有するヨウ素系化合物と添加剤と溶媒とを含むものとしてもよい。ヨウ素系化合物としては、例えばヨウ素(I
2)や、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨージド(PMII)、1,2ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムヨージド(DMPII)などが挙げられる。このうち、ヨウ素とPMIIとの組み合わせや、ヨウ素とDMPIIとの組み合わせなどが好ましい。電解液中の添加剤の濃度は0.5mol/L以上5.0mol/L以下の範囲であることが好ましい。電解液に含まれる添加剤としては、N−メチルベンズイミダゾール(NMBI)などのベンズイミダゾール誘導体や、t−ブチルピリジン(TBP)などが挙げられる。また、グアニジンチオシアネートやLiIなどを添加剤として含むものとしてもよい。このような添加剤を添加することにより、色素増感型太陽電池の耐久性がより一層向上する。電解液中の添加剤の濃度は0.2mol/L以上2.0mol/L未満の範囲であることが好ましい。電解液に含まれる溶媒としては、例えば、イオン性液体とすることが好ましい。イオン性液体としては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(AMII−TFSI)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート(EMI−TCB)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(BMI−BF4)などのイミダゾリウム塩が挙げられる。このイオン性液体を含むものとすれば、粘度をより好適な範囲とし、色素増感型太陽電池40Bにおいて、光電流や光電変換効率を更に向上させることができる。この溶媒の割合は、ヨウ素系化合物を基準として11〜89体積%であることが好ましく、30〜36体積%であることがより好ましい。また、溶媒としては、イオン性液体に加えて又はこれに代えて、例えば、3−メトキシプロピオニトリル(MPN)、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、γ−ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロプレンカーボネート等のカーボネート系溶媒などのうち1以上を含むものとしてもよい。
【0045】
対極30Bは、介在層26Bの裏面27及び鍔状の縁部分とに接触するよう、鍔状の縁部分を有する断面L字状に形成されている。この対極30Bは、電解質層26の裏面に接続されていると共に、鍔状の縁部分が接続部21を介して隣側の光透過導電膜12に接続されている。介在層26Bの裏面27と接触するこの対極30Bの面は、光電極20に対して所定の間隔を隔てて対向している。対極30Bとしては、導電性及び介在層26Bとの接合性を有するものであれば特に限定されず、例えば、Pt,Au,カーボンなどが挙げられ、このうちカーボンが好ましい。この対極30Bは、例えば、カーボンブラック粒子と、グラファイト粒子と、アナターゼ型の酸化チタン粒子等の導電性酸化物粒子とを構成材料として形成された多孔質の炭素電極としてもよい。なお、この対極30Bには、例えば、電極反応の速度をより速やかに進行させる観点から、Pt微粒子などの触媒微粒子が分散担持されていてもよい。
【0046】
この色素増感型太陽電池モジュール10Bは、製造方法として、基板作製工程、電子輸送層形成工程、色素吸着工程、電解質層形成工程、対極形成工程及び保護部材形成工程を経て製造することができる。基板作製工程、電子輸送層形成工程、色素吸着工程及び保護部材形成工程については、上述した色素増感型太陽電池モジュール10の製造方法と同様の工程を行うことができ、その説明を省略する。電子輸送層形成工程のあと、電子輸送層24に介在層26B(電解質層)の多孔質層を形成する。この電解質層形成工程では、溝18に合わせて光電極20の側面及び電子輸送層24の裏面25へ多孔質材料のペーストなどを供給し、その後乾燥させて鍔部を有する電解質層を形成してもよい。続いて、対極形成工程では、隣の色素増感型太陽電池40Bの光透過導電膜12上に接続部21を介して対極30Bを形成すると共に、介在層26Bの裏面27に対極30Bを形成する。このように、鍔部を有する対極30Bを形成することができる。対極30Bは、例えばカーボンとしてもよい。その後、保護部材形成工程により、各セルを覆うようにシール材32を形成すると共にシール材32に保護部材34を形成する。このようにして、発電特性が向上した色素増感型太陽電池40B及び色素増感型太陽電池モジュール10Bを作製することができる。
【0047】
このように形成された色素増感型太陽電池モジュール10Bにおいても、上述した実施形態と同様に、電子輸送層24に、ダブルポルフィリン色素とスクアリリウム色素とが含まれるため、400nm〜800nmの広い波長帯域で太陽光を利用することができ、例えば、短絡電流密度Jscなど、太陽電池特性をより向上することができる。なお、ここでは、電解質層を有する色素増感型太陽電池40Bを複数備えた色素増感型太陽電池モジュール10Bとしたが、上述と同様に、モジュール化せず色素増感型太陽電池40Bとしてもよい。
【実施例】
【0048】
以下には、本発明の色素増感型太陽電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。なお、本発明は下記実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0049】
[色素増感型太陽電池の作製]
TCOガラス基板上に、電子輸送層(n型半導体層)として多孔質TiO
2膜をスクリーン印刷法で塗布し、150℃で乾燥したのち、電気炉内で450℃に加熱して、多孔質TiO
2膜基板を作製した。次に、後述する色素吸着工程により、この多孔質TiO
2膜に色素を吸着させた。次に、アセトニトリルにCuIを飽和させ、1−メチル3−エチルイミダゾリウムチオシアネート(EMISCN)を添加してCuI溶液を調製した。40℃〜120℃のホットプレート上に、上記得られたTiO
2/色素基板をTiO
2膜が上になるように静置した。調製したCuI溶液をTiO
2/色素基板上に500μL滴下し、TiO
2膜内の有機色素にCuIを更に吸着させた複合体を形成させた。CuI溶液に含まれる溶媒を蒸発させることによりTiO
2膜内にCuIを充填させ、更に、TiO
2膜上にCuI層(正孔輸送層)を形成した。そして、このCuI層の上に、対極としてのPt薄膜を配置し、色素増感型太陽電池を作製した。
【0050】
(比較例1)
ダブルポルフィリン色素(色素1、式(9))のみを用いて色素吸着工程を行ったものを比較例1とした。色素吸着工程では、クロロホルムとメタノールとを混合した溶媒にダブルポルフィリン色素(色素1)0.2mMとデオキシコール酸2mMとを溶解させた溶液を調製し、この溶液に多孔質TiO
2膜基板を1時間浸漬させて多孔質TiO
2膜基板に色素1を吸着させた。
【0051】
(比較例2)
スクアリリウム色素(色素2、式(11))のみを用いて色素吸着工程を行ったものを比較例2とした。色素吸着工程では、アセトニトリルとtert−ブチルアルコールとを混合した溶媒にスクアリリウム色素(色素2)0.3mMを溶解させた溶液を調製し、この溶液に多孔質TiO
2膜基板を1時間浸漬させて多孔質TiO
2膜基板に色素2を吸着させた。
【0052】
(実施例1)
ダブルポルフィリン色素(色素1、式(9))およびスクアリリウム色素(色素2、式(11))の2つの色素を用いて色素吸着工程を行ったものを実施例1とした。色素吸着工程では、クロロホルムとメタノールとを混合した溶媒にダブルポルフィリン色素(色素1)0.2mMとデオキシコール酸2mMとを溶解させた溶液を調製し、この溶液に多孔質TiO
2膜基板を1時間浸漬させて多孔質TiO
2膜基板に色素1を吸着させた。つづいて、アセトニトリルとtert−ブチルアルコールとを混合した溶媒にスクアリリウム色素(色素2)0.3mMを溶解させた溶液を調製し、この溶液に先の色素吸着多孔質TiO
2膜基板を15時間浸漬させて色素吸着多孔質TiO
2膜基板に色素2を吸着させた。
【0053】
(IPCE測定)
作製した色素増感型太陽電池は、内部量子効率(Incident Photon to Current Efficiency:IPCE)値により評価した。IPCE測定は、モノクロメーターを用いて単色化した光を、作製した実施例1の光電極に照射し、入射光子数に対して得られた電子数を測定することにより行った。
【0054】
(測定結果と考察)
図4は、実施例1、比較例1、2のIPCE測定結果である。また、表1に実施例1、比較例1、2の短絡電流密度Jscをまとめて示した。
図4に示すように、ダブルポルフィリン色素1は、波長400nm〜600nmにSoret帯、650nm〜800nmにQ帯を有するが、量子効率の低下するディップが波長500nm〜750nmの範囲に存在する。また、スクアリリウム色素2は、600nm〜700nmに吸収帯を有するが、550nm以下や700nmを超える範囲では量子効率が低下する。これに対して、実施例1では、これらの色素を組み合わせることによって、より広い波長領域の太陽光を利用することができる。その結果、短絡電流密度Jscが増加するものと推察された。
【0055】
【表1】