【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明の実施形態を説明する。
【0030】
図8は実施例に係る一次元輝度分布検知装置のスリット板14にロッドレンズ12L、12Rを保持させた状態の斜視図、
図9は同じくスリット板14にロッドレンズ12L、12Rを保持させた状態の断面図であり、
図1、
図2に示す一次元輝度分布検知装置とはスリット板14に2つのスリット2L、2Rが設けてある点で異なり、また、スリット2L、2Rにそれぞれロッドレンズ12L、12Rを着脱自在に保持させるとともに、
図1、
図2と同様の位置関係でそれぞれラインセンサ1L、1Rが配置してある点で異なる。
【0031】
実施例に係る一次元輝度分布検知装置は、スリット2L、2Rの背面側にマウント部材13L、13Rを備えており、このマウント部材13L、13Rによってロッドレンズ12L、12Rや可視光のみ又は赤外光のみを透過可能なカバー体(図示せず)を着脱可能に保持することができる。
図8及び
図9は、スリット板14に設けてあるレンズ通過部15L、15Rの上方からロッドレンズ12L、12Rを差し込んで、スリット2L、2Rとマウント部材13L、13Rとの間に保持した状態を示している。
そして、ロッドレンズ12L、12Rは、この状態からレンズ通過部15L、15Rの上方へ引き抜くことによりスリット板14から外すことができるようになっている。
カバー体については図示しないが、ロッドレンズ12L、12Rと同等の長さを有する長方形の板であり、スリット板14の上方から差し込むことによりスリット2L、2Rとマウント部材13L、13Rとの間に保持でき、上方へ引き抜くことによりスリット板14から外すことができるようになっている。
【0032】
実施例においては、スリット2L、2Rとマウント部材13L、13Rとの間に(1)何も保持しない状態、(2)それぞれカバー体を保持した状態、(3)ロッドレンズ12L、12Rを保持した状態、(4)それぞれロッドレンズ及びカバー体を保持した状態に変更可能である。
そのため、監視目的や環境に合わせて上記(1)〜(4)からいずれかの状態を選択し、的確に対象の有無、位置又は動作状態を監視することができる。
なお、上記(4)の状態にするためには、ロッドレンズをスリット2L、2Rとカバー体との間に挟まれた状態とする必要があるので、ロッドレンズ12L、12Rより小径のものを用いる。
【0033】
ここで、上記(1)、(2)の状態は広い監視対象空間において対象を監視する場合に適しており、上記(3)、(4)の状態は限られた監視対象空間において対象を精度良く監視する場合に適している。
また、(2)、(4)の状態については、カバー体が可視光のみを透過可能であれば監視対象空間が明るい場合に適しており、カバー体が赤外光のみを透過可能であれば監視対象空間が暗く、監視する対象が赤外線を発する場合に適している。
【0034】
上記(1)〜(4)いずれかの状態におけるADU値のグラフは、監視対象空間に対象が無い場合、監視対象空間の右側に対象が存在している場合、監視対象空間の中央に対象が存在している場合、及び監視対象空間の左側に対象が存在している場合において、それぞれ
図3〜6のグラフと同様の傾向のものとなる。
ただし、上記(3)、(4)の状態におけるADU値のグラフは、スリットを用いた一次元輝度分布検知装置や上記(1)又は(2)の状態のようにスリット2L、2Rを用いる場合に比べて、ロッドレンズ12L、12Rによって多くの光を集めることができるため、同じ監視対象空間であればより大きなADU値が得られ、輝度分布の分解能が高まる。その結果、誤検知が減少して多くの状態判別が可能になる。
【0035】
図10は、対象の奥行き距離を検出する原理を示す図である。
ラインセンサ1L、1R及びロッドレンズ12L、12Rは、それぞれ中心と中心との距離及び中心線と中心線との距離(以下「センサ間距離」という。)がwとなるように配置され、ロッドレンズ12L、12Rは、それぞれラインセンサ1L、1Rの中心の監視対象空間側に距離fを置いて配置されている。
図10においては、監視対象空間内に対象16が存在し、背景、対象16及びその他の監視対象空間内に存在する物体等から反射又は出射される光が、
図1と同様の経路によってロッドレンズ12L、12Rを通過して、それぞれラインセンサ1L、1Rに入射する。
【0036】
例えば、対象16の上下に延びる線状領域(以下単に「線状領域」という。)からの光が光路17L、17Rを通過してラインセンサ1L、1Rに入射し、それぞれ受光素子gL及びgRで検出された場合、ロッドレンズ12L、12Rの中心線を含む平面と対象16の線状領域との距離z(以下「対象の奥行き距離」という。)は次の式で求められる。
z=f×w/(xL+xR)
ここで、xLはラインセンサ1Lの中心(左端から1034番目)にある受光素子cLと受光素子gLの距離、xRはラインセンサ1Rの中心(左端から1034番目)にある受光素子cRと受光素子gRの距離である。
したがって、特定の線状領域からの光がラインセンサ1L、1Rのどの受光素子で検出されたか判別できれば、特定の線状領域が存在している対象の奥行き距離を求めることができる。
【0037】
そして、ロッドレンズ12L、12Rとラインセンサ1L、1Rは近接して配置されているので、ラインセンサ1L、1Rで得られる輝度分布は左右にずれた同様のものとなり、例えばラインセンサ1Lにおいて受光素子gLで特異値が検出され、ラインセンサ1Rにおいて受光素子gRで特異値が検出された場合、受光素子gLに対応する線状領域と受光素子gRに対応する線状領域は、同じ線状領域と推定されるので、それぞれの特異値が検出された受光素子gL、gRを抽出することによって対象の奥行き距離を求めることができる。
特異値を検出するに際しては、基準となるADU値と実測されたADU値との差分の絶対値を用い、そのピーク値を用いると良い。
なせなら、ピーク値の抽出は容易に行うことができ、かつ、そのピーク値が検出された受光素子に対応する線状領域は、背景に対して非常に暗いか非常に明るい特定の線状領域であると推定されるからである。
【0038】
図11は、対象までの距離が1m、センサ間距離wが20cm及び40cmである場合におけるヒストグラムの一例であり、
図12は、対象までの距離が2m、センサ間距離wが20cm及び40cmである場合におけるヒストグラムの一例である。
このヒストグラムは、対象が存在していない時又は対象が移動する前における監視対象空間の測定輝度(背景輝度)のADU値と、対象が存在している時又は対象が移動した後における監視対象空間の測定輝度(変動輝度)のADU値との差の絶対値(以下「ADU差分値」という。)の分布である。
そして、監視対象空間内に対象が移動してきた場合又は監視対象空間内で止まっていた対象が動いた場合、ADU差分値は、その対象が存在する領域において比較的大きな値となり、その対象が存在しない領域において比較的小さな値となる。
また、このヒストグラムにおいてADU差分値が最大となっている受光素子に対応する線状領域は、背景に対して非常に暗いか非常に明るい線状領域である。
【0039】
次に、ヒストグラムから対象の奥行き距離を測定する方法について説明する。
例えば、
図11(a)では、ラインセンサ1LにおけるADU差分値のピーク値に対応する受光素子とcLとの距離からxLを、ラインセンサ1RにおけるADU差分値のピーク値に対応する受光素子とcRとの距離からxRを得ることができる。
そうすると、センサ間距離w並びに距離fは一次元輝度分布検知装置の仕様に応じた既知の値であるから、f×w/(xL+xR)の式にf、w及び得られたxLとxRの値を代入することで対象の奥行き距離を計算することができる。
そして、対象の奥行き距離が1mの
図11(a)(b)及び同2mの
図12(a)(b)のヒストグラムから計算された対象の奥行き距離(測定距離)は次のとおりとなった。
図11(a)の測定距離:1.2m (センサ間距離w:20cm、誤差0.2m)
図11(b)の測定距離:1.14m(センサ間距離w:40cm、誤差0.14m)
図12(a)の測定距離:1.57m(センサ間距離w:20cm、誤差0.43m)
図12(b)の測定距離:1.79m(センサ間距離w:40cm、誤差0.21m)
なお、距離fはいずれの場合でも8mmである。
【0040】
これらの結果から、センサ間距離wを40cmとした場合、実際の奥行き距離と測定距離との差は最大で0.21mであり、ロッドレンズ12L、12Rとラインセンサ1L、1Rを左右に並べて配置した一次元輝度分布検知装置によって、対象の奥行き距離をそれほど大きな誤差を生じることなく測定できることが確認できた。
また、
図11と
図12における測定距離の比較から、実際の奥行き距離が小さいと誤差は小さくなることがわかり、
図11の(a)と(b)及び
図12の(a)と(b)における測定距離の比較から、センサ間距離wが大きいと誤差が減少することがわかった。
これは、実際の奥行き距離が小さいほど、また、センサ間距離wが大きいほど、ラインセンサ1L、1Rの中心とADU差分値のピーク値が生じた受光素子との距離であるxL及びxRが大きくなるためと考えられる。
【0041】
なお、ロッドレンズ12L、12Rに代えてスリット2L、2Rを用いた場合の測定結果については省略するが、ADU差分値のピーク値が下がり誤差は広がるものの、センサ間距離wを大きくすることで、比較的近いところに存在している監視対象の距離測定については大きな支障は生じない。
【0042】
さらに、監視対象空間内に対象が移動して来たか監視対象空間内で止まっていた対象が動いたことにより、その対象が存在する領域において比較的大きなADU差分値が生じることを利用して、その対象のラインセンサ長手方向についての大きさを求めることができる。
すなわち、奥行き距離1mの所にラインセンサ長手方向の大きさが1mの対象が移動して来たとき、ラインセンサにおいてαmmの領域で比較的大きなADU差分値を含む正の値が継続する場合、測定距離がβm、比較的大きなADU差分値を含む正の値が継続している領域の長さがγmmであれば、対象のラインセンサ長手方向についての大きさδmは次の式で求められる。
δ=γ/α×β
【0043】
図13は、実施例に係る一次元輝度分布検知装置の全体構成を示す図である。
実施例に係る一次元輝度分布検知装置は、監視対象空間からの光を絞り込むスリット2L、2R又はロッドレンズ12L、12Rと、スリット2L、2R又はロッドレンズ12L、12Rを通過した光の強度を検出するラインセンサ1L、1Rと、ラインセンサ1L、1Rの各受光素子における受光量に応じた光強度信号を受けて、監視対象空間内における対象の有無、位置及び動作状態を判別し、その報知を行うための映像情報を送信する判別手段と、監視対象空間内における対象の奥行き距離を測定する奥行き距離測定手段と、対象のラインセンサ長手方向についての大きさを測定する大きさ測定手段を備えている。
判別手段、奥行き距離測定手段及び大きさ測定手段を合わせて判別測定手段22という。
【0044】
判別測定手段22は、受信した光強度信号を受光素子毎の時系列データとして記憶する記憶手段19と、一時点における光強度信号に基づく対象の有無判別及び位置判別、時系列の光強度信号に基づく対象の動作状態判別、記憶手段19に記憶された受光素子毎の時系列データに基づく輝度分布が変動する直前における背景輝度分布の保持、同時系列データに基づく変動輝度分布の保持、保持している背景輝度分布と変動輝度分布の差の絶対値の分布に基づく対象の奥行き距離と大きさの測定を行い、それらの判別結果や測定結果に基づく報知情報を作成するCPU18と、CPU18からの報知情報に基づいて画像情報を表示手段21に送信する表示制御手段20を有している。
【0045】
表示手段21は、表示制御手段20からの画像情報を受信して、対象の有無、位置、動作状態、奥行き距離及び大きさについての情報を表示するものであって、一次元輝度分布検知装置とともに設けても良いし、一次元輝度分布検知装置から離れた位置に設けても良い。
表示装置21には、対象の有無、位置、動作状態、奥行き距離及び大きさを表示するが、その表示態様としては、(1)文字や記号による表示、(2)監視対象空間を示すエリア表示を行うとともに、そのエリア表示内に対象の有無、位置、奥行き距離及び大きさに応じた画像の表示を行うビジュアル表示、(3)光強度信号をグラフ化した表示等がある。
そして、これらの表示態様の中から利用者のニーズに合わせて1つ又は複数の表示を適宜選択して表示させれば良い。
【0046】
また、判別測定手段22は記憶手段19を有しているので、判別測定装置22に対する指示入力手段を追加することにより、過去の指定した時間における対象の有無、位置、動作状態、奥行き距離及び大きさについての情報を表示手段21に表示させることもできる。
さらに、指定した時間から所定時間ずつ前又は後の時間における対象の有無、位置、奥行き距離及び大きさを、連続的に表示させることによって、対象の動作状態を追跡することができる。
そうした場合、所定時間を長くとれば、長時間にわたる対象の動作状態の追跡を短時間で行うことができ、逆に所定時間を短くとれば、特に注視したい時間における対象の動作状態の詳細な追跡を行うことができる。
【0047】
実施例の一次元輝度分布検知装置に関する変形例を列記する。
(1)実施例においては、ラインセンサ1L、1Rを水平方向に、スリット2L、2R及びロッドレンズ12L、12Rを鉛直方向に配置しているが、ラインセンサ1L、1Rを十字状、T字状又はL字状とし、スリット2L、2R及びロッドレンズ12L、12Rを同様に十字状、T字状又はL字状としても良い。
そうした場合、水平方向のラインセンサによって検知される光強度を用いて対象が左右方向のどこに存在しているかを判別するとともに左右方向における大きさを測定し、鉛直方向のラインセンサによって検知される光強度を用いて対象が上下方向のどこに存在しているかを判別するとともに上下方向における大きさを測定することができる。
(
2)実施例においては、ラインセンサ1L、1Rを水平方向に、スリット2L、2R及びロッドレンズ12L、12Rを鉛直方向に配置しているが、スリット2L、2R及びロッドレンズ12L、12R又は一次元輝度分布検知装置全体を、スリット板14の面に垂直な軸の回りに回転させた状態となるように配置しても良い。
そうした場合、監視対象空間を斜めに横切るラインに沿った光強度の和が、ラインセンサ1L、1Rの各受光素子に入射するので、対象が上下方向に移動しても左右方向に移動しても、ラインセンサ1L、1Rによって検知される光強度が変化することとなる。
したがって
、2つの一次元輝度分布検知装置を用いたり、上記(
1)で述べたように十字状、T字状又はL字状のラインセンサを用いたりすることなく、対象の左右方向及び上下方向の動きを判別することができる。
(
3)実施例の判別測定手段22は、受信した光強度信号を受光素子毎の時系列データとして記憶する記憶手段19を備え、時系列の光強度信号に基づいて対象の動作状態を判別できるようになっているが、現時点の対象の有無、位置、奥行き距離及び大きさのみを検知又は計測するだけで良ければ、記憶手段19や動作状態の判別機能は不要である。
その場合、背景輝度分布は事前に測定して得られたデータを用いることとなる。
また、判別測定手段22に記憶手段19や動作状態の判別機能を設けなくても、判別測定手段22から対象の有無、位置、距離若しくは大きさについての情報又は各受光素子の光強度信号を所定周期で別の解析装置に送信し、それらの情報を受信した解析装置で、時系列に情報を蓄積し解析して対象の動作状態を判別することも可能である。
(
4)実施例においては、対象の有無、位置、動作状態、奥行き距離及び大きさを表示手段21で報知しているが、表示手段21に代えて又は追加してスピーカーを設けても良い。
そうした場合、画像による報知に代えて又は追加して、音による報知を行うことができる。