特許第6472674号(P6472674)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6472674-NiMnZn系フェライト 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472674
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】NiMnZn系フェライト
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/38 20060101AFI20190207BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   C04B35/38
   H01F1/34 140
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-19033(P2015-19033)
(22)【出願日】2015年2月3日
(65)【公開番号】特開2016-141602(P2016-141602A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2018年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 充次
(72)【発明者】
【氏名】浅枝 勉
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−213100(JP,A)
【文献】 特開2008−189534(JP,A)
【文献】 特開2008−127230(JP,A)
【文献】 特開2006−213530(JP,A)
【文献】 特開2004−161500(JP,A)
【文献】 特開2010−083692(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0267594(US,A1)
【文献】 特開平03−254103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
H01F 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成することでフェライト焼結体を作製するためのNiMnZn系フェライトであって、
主成分として、酸化鉄をFe換算で54〜56mol%、酸化亜鉛をZnO換算で5〜8mol%、酸化ニッケルをNiO換算で2〜4mol%、および残部に酸化マンガン(MnO)を含有するとともに、
当該主成分に対して、副成分としてカルシウムをCaCO換算で0.08〜0.18wt%、ケイ素をSiO換算で0.001〜0.007wt%、チタンをTiO換算で0.3〜0.6wt%、コバルトをCo換算で0.3〜0.6wt%、ジルコニウムをZrO換算で0.03〜0.07wt%およびアンチモンをSb換算で0.05〜0.12wt%含有することを特徴とするNiMnZn系フェライト。
【請求項2】
主成分として、酸化鉄をFe換算で54〜56mol%、酸化亜鉛をZnO換算で5〜8mol%、酸化ニッケルをNiO換算で2〜4mol%、および残部に酸化マンガン(MnO)を含有する主成分原料に、
前記主成分に対して、副成分としてカルシウムをCaCO換算で0.08〜0.18wt%、ケイ素をSiO換算で0.001〜0.007wt%、チタンをTiO換算で0.3〜0.6wt%、コバルトをCo換算で0.3〜0.6wt%、ジルコニウムをZrO換算で0.03〜0.07wt%およびアンチモンをSb換算で0.05〜0.12wt%含有する副成分原料を添加し、
前記副成分原料が添加された前記主成分原料を焼成することを特徴とするフェライト焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2MHz程度の周波数における磁気損失を低減することができ、よって高周波スイッチング電源のトランス等のコアに用いて好適なNiMnZn系フェライトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波スイッチング電源に用いられるトランス等のインダクタ素子においては、その用途に要請されるキュリー温度や飽和磁束密度等の特性を確保する必要性から、主成分としてFeを50〜56mol%、ZnOを3〜25mol%、残部がMnOからなるMnZn系フェライトが広く用いられており、これに各種の副成分を添加することによって、低損失化を図っている。
【0003】
上記MnZn系フェライトの中で、特にNiOを添加したNiMnZn系フェライトは、2MHz以上の高周波でコアロス(磁気損失)が小さいという特性を有しており、下記特許文献1においては、副成分としてカルシウムをCaCO換算で800〜3000ppm、ケイ素をSiO換算で100〜1000ppm、およびニオブをNb換算で520〜1000ppm含有し、フェライト結晶粒の平均結晶粒径が2.1〜8.1μmであることを特徴とするNiMnZn系フェライトが提案されている。
【0004】
下記特許文献1によれば、上記構成からなるNiMnZn系フェライトは、好ましい態様として、2MHz、50mT、100℃で測定した磁気損失Pcvを、2700kw/m以下に構成することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−83692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年におけるこの種のインダクタ素子の小型化の要請により、一層の磁気損失の低減が強く望まれている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、2MHz程度の周波数における磁気損失を大幅に低減することができ、よって従来よりもコアを小さくしてインダクタ素子の小型化を実現することが可能になるNiMnZn系フェライトを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、焼成することでフェライト焼結体を作製するためのNiMnZn系フェライトであって、主成分として、酸化鉄をFe換算で54〜56mol%、酸化亜鉛をZnO換算で5〜8mol%、酸化ニッケルをNiO換算で2〜4mol%、および残部に酸化マンガン(MnO)を含有するとともに、当該主成分に対して、副成分としてカルシウムをCaCO換算で0.08〜0.18wt%、ケイ素をSiO換算で0.001〜0.007wt%、チタンをTiO換算で0.3〜0.6wt%、コバルトをCo換算で0.3〜0.6wt%、ジルコニウムをZrO換算で0.03〜0.07wt%およびアンチモンをSb換算で0.05〜0.12wt%含有することを特徴とするものである。
また、請求項2に係る発明は、フェライト焼結体の製造方法であって、主成分として、酸化鉄をFe換算で54〜56mol%、酸化亜鉛をZnO換算で5〜8mol%、酸化ニッケルをNiO換算で2〜4mol%、および残部に酸化マンガン(MnO)を含有する主成分原料に、前記主成分に対して、副成分としてカルシウムをCaCO換算で0.08〜0.18wt%、ケイ素をSiO換算で0.001〜0.007wt%、チタンをTiO換算で0.3〜0.6wt%、コバルトをCo換算で0.3〜0.6wt%、ジルコニウムをZrO換算で0.03〜0.07wt%およびアンチモンをSb換算で0.05〜0.12wt%含有する副成分原料を添加し、前記副成分原料が添加された前記主成分原料を焼成することを特徴とするものである。
【0009】
なお、請求項1に記載のNiMnZn系フェライトによってコアを成形する場合には、製品における割れや欠けの発生を防止する観点から、焼結温度等を制御して、焼結密度を4.8g/cm以上にすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明においては、NiMnZn系フェライトに、副成分としてSbを所定の範囲の量添加することにより、低温で焼結が進み、粒成長が抑制されることによって初透磁率が小さくなる。これに伴い、共鳴周波数が高周波側にシフトすることにより、高周波におけるコアロスを低減させることができる。
【0011】
ちなみに、本発明によれば、後述する実施例の結果に見られるように、100℃におけるコアロス(2MHz−50mT)を、600kW/m以下に低減させることができる。この結果、従来よりもコアを小さくしてインダクタ素子の小型化を実現することが可能になる。
【0012】
ここで、室温から150℃の領域において磁気異方性を小さくしてコアロスを小さくするためには、主成分として酸化鉄をFe換算で54〜56mol%、酸化亜鉛をZnO換算で5〜8mol%および酸化ニッケルをNiO換算で2〜4mol%の範囲で含み、残部を酸化マンガン(MnO)にする必要がある。なお、酸化ニッケルがNiO換算で2mol%未満になると、高周波でのコアロス低減の効果が薄れてしまう。
【0013】
また、副成分のうちTiは、結晶粒内の電気抵抗を高める効果があることから、上記範囲内の量を添加することにより、コアロスを低減することができるが、上限をTiO換算で0.6wt%としたのは、これを超えるとコアロスが全温度域で悪化してしまうからである。
【0014】
さらに、CaとSiは、どちらも粒界の高抵抗化に寄与する成分で上記範囲内の量を添加することによりコアロスを低減することができる。また、Coは、Coの特異な異方性により磁壁を安定化させる効果があり、上記範囲内の量を添加することにより高周波のコアロスを低減することができる。ちなみに、Co換算で0.3wt%に満たないと充分な上記効果が得られなくなり、0.6wt%を超えると低温域のコアロスが悪化してしまう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るNiMnZn系フェライトの一実施形態について説明する。
このNiMnZn系フェライトは、室温から150℃の領域において、磁気異方性を小さくしてコアロスを低く抑えるために、主成分として、酸化鉄をFe換算で54〜56mol%、酸化亜鉛をZnO換算で5〜8mol%、酸化ニッケルをNiO換算で2〜4mol%を含有し、かつ残部が酸化マンガン(MnO)からなるものである。
【0017】
そして、このNiMnZn系フェライトは、副成分として、上記主成分に対してCaをCaCO換算で0.08〜0.18wt%、SiをSiO換算で0.001〜0.007wt%、TiをTiO換算で0.3〜0.6wt%、CoをCo換算で0.3〜0.6wt%、ZrをZrO換算で0.03〜0.07wt%およびSbをSb換算で0.05〜0.12wt%含有するものであり、焼結密度が、4.8g/cm以上になるように焼成されている。
【0018】
以上の構成からなるNiMnZn系フェライトによれば、後述するように、100℃におけるコアロス(2MHz−50mT)を、600kW/m以下にすることができる。
【実施例】
【0019】
先ず、酸化鉄がFe23換算で55モル%、酸化マンガンがMnO換算で36モル%、酸化亜鉛がZnO換算で6モル%、酸化ニッケルがNiO換算で3モル%となるように主成分となる主成分原料を秤量した。
【0020】
次いで、秤量した原料を、ボールミルを用いて5時間湿式混合した後、大気中850℃で2時間仮焼きした後、再度ボールミルで粉砕した。そして、得られた粉末に、副成分の原料として、Sb2O3、Co2O3、CaCO3、SiO2、TiO2、ZrO2をそれぞれ図1に示すとおりに添加し、PVAを用いて顆粒状に造粒した後、金型でトロイダル形状に成形した。
【0021】
なお、図1に示す上記副成分の添加量の単位は、いずれもwt%である。そして次に、上記成形体を1170℃で3時間、酸素分圧を制御しつつ焼成して、フェライト焼結体を作製した。図1は、このようにして得られた試料の2MHz−50mTの条件化におけるコアロスPcv(kW/m)と焼結密度d(g/cm)を示すものである。
【0022】
図1に見られるように、主成分である酸化鉄、酸化亜鉛、酸化ニッケルおよび酸化マンガンに対して、副成分として、CaをCaCO換算で0.08〜0.18wt%、SiをSiO換算で0.001〜0.007wt%、TiをTiO換算で0.3〜0.6wt%、CoをCo換算で0.3〜0.6wt%、ZrをZrO換算で0.03〜0.07wt%およびSbをSb換算で0.05〜0.12wt%含有する本発明の実施例1〜18によれば、焼成密度が4.8g/cm以上になるように焼成することができるとともに、100℃におけるコアロス(2MHz−50mT)を、600kW/m以下に低減させることができる。
【0023】
これに対して、Sbの含有量が上記範囲よりも少ない比較例1〜3においては、焼成密度が4.8g/cm以下になって充分な焼成密度が得られず、他方Sbの含有量が上記範囲を超える比較例4においては、コアロス(2MHz−50mT)が600kW/m以上になってしまうことが判る。
【0024】
また、Coの含有量が上記範囲に満たない比較例5および上記範囲を超える比較例6、並びにCaの含有量が上記範囲に満たない比較例7および上記範囲を超える比較例8は、いずれもコアロス(2MHz−50mT)が600kW/m以上になってしまうことが判る。
【0025】
さらに、Siの含有量が上記範囲に満たない比較例9および上記範囲を超える比較例10、Tiの含有量が上記範囲に満たない比較例11および上記範囲を超える比較例12、並びにZrの含有量が上記範囲に満たない比較例13および上記範囲を超える比較例14についても、コアロス(2MHz−50mT)を600kW/m以下に低減させることができないことが判る。
【0026】
以上の試験結果から明らかなように、本発明に係るNiMnZn系フェライトによれば、焼結密度が、4.8g/cm以上になるように焼成した場合に、100℃におけるコアロス(2MHz−50mT)を、600kW/m以下に低減することができる。
図1