(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472721
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】摺動面用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 137/04 20060101AFI20190207BHJP
C10M 137/08 20060101ALI20190207BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20190207BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20190207BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20190207BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20190207BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20190207BHJP
【FI】
C10M137/04
C10M137/08
C10N20:00 A
C10N20:02
C10N30:00 B
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:02
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-126089(P2015-126089)
(22)【出願日】2015年6月24日
(65)【公開番号】特開2017-8229(P2017-8229A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100081798
【弁理士】
【氏名又は名称】入山 宏正
(72)【発明者】
【氏名】織田 匡博
(72)【発明者】
【氏名】山崎 未希
【審査官】
中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−067770(JP,A)
【文献】
特開平05−271259(JP,A)
【文献】
特開2002−275489(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/079744(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油を94〜99.9質量%及び下記のリン酸化合物を0.1〜6質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る摺動面用潤滑油組成物であって、該リン酸化合物が下記のリン酸化合物Aと下記のリン酸化合物Bとから成り、且つ下記の数1から求められるリン酸化合物AのP核積分比率が5〜30%となるようにしたことを特徴とする摺動面用潤滑油組成物。
リン酸化合物A:下記の化1で示されるリン酸エステル及び下記の化1で示されるリン酸エステルの有機アミン塩から選ばれる一つ又は二つ以上。
【化1】
(化1において、
R
1:炭素数8〜24の不飽和結合を有する脂肪族アルコールから水酸基を除いた残基又は炭素数8〜24の不飽和結合を有する脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計で1〜20モル付加したものから水酸基を除いた残基
R
2:水素原子、炭素数8〜24の不飽和結合を有する脂肪族アルコールから水酸基を除いた残基又は炭素数8〜24の不飽和結合を有する脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計で1〜20モル付加したものから水酸基を除いた残基
n:2又は3の整数)
リン酸化合物B:下記の化2で示されるリン酸エステル、下記の化2で示されるリン酸エステルの有機アミン塩、下記の化3で示されるリン酸エステル及び下記の化3で示されるリン酸エステルの有機アミン塩から選ばれる一つ又は二つ以上。
【化2】
【化3】
(化2及び化3において、
R
3,R
4,R
5:炭素数8〜24の不飽和結合を有する脂肪族アルコールから水酸基を除いた残基又は炭素数8〜24の不飽和結合を有する脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計で1〜20モル付加したものから水酸基を除いた残基)
【数1】
(数1において、
P化1:化1で示されるリン酸エステルに帰属されるP核NMR積分値
P化2:化2で示されるリン酸エステルに帰属されるP核NMR積分値
P化3:化3で示されるリン酸エステルに帰属されるP核NMR積分値)
【請求項2】
基油が、鉱物油、合成油及びこれらの混合油から選ばれるものであって、40℃における動粘度が20〜300mm2/s、流動点が−10℃以下及び粘度指数が90以上のものである請求項1記載の摺動面用潤滑油組成物。
【請求項3】
化1中のR1、化2中のR3、R4及び化3中のR5が、炭素数12〜18の不飽和結合を有する脂肪族アルコールから水酸基を除いた残基又は炭素数12〜18の不飽和結合を有する脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計で1〜20モル付加したものから水酸基を除いた残基であり、化1中のR2が、水素原子、炭素数12〜18の不飽和結合を有する脂肪族アルコールから水酸基を除いた残基又は炭素数12〜18の不飽和結合を有する脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計で1〜20モル付加したものから水酸基を除いた残基である請求項1又は2記載の摺動面用潤滑油組成物。
【請求項4】
基油を97〜99.7質量%及びリン酸化合物を0.3〜3質量%(合計100質量%)の割合で含有する請求項1〜3のいずれか一つの項記載の摺動面用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動面用潤滑油組成物に関し、更に詳しくは摺動面のスティックスリップ現象を防止するとともに、低摩擦で水分離性及び保存安定性に優れた摺動面用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械には、工具や被削材を、前後、左右、上下等の任意の方向に動かすために摺動面が存在し、かかる摺動面としてすべり案内面が主に用いられている。すべり案内面が多用されている工作機械はマザーマシンと呼ばれ、工業製品製造の要であり、その精度、品質、信頼性が直接製品の品質を左右するため、すべり案内面の摺動特性は極めて重要である。そして、すべり案内面の摺動運動を円滑に行うことは、工作機械の寿命の延長やランニングコストの低減等にも大きく寄与する。
【0003】
ところで、前記の摺動運動は工具送りのように低速度で行われる場合が多いのでスティックスリップ現象を起こしやすく、それが原因で製品の精度、機械の寿命に悪影響を及ぼす場合が多い。スティックスリップ現象を防止するためには、用いる摺動面用潤滑油組成物を、低速度における動摩擦係数μの小さいものにするとともに、すべり速度vの増加にともなって摩擦係数が上昇する摩擦特性のものにする必要がある。このような速度依存性を正勾配化することで、発生したスティックスリップ現象を早く減衰させることができる。
【0004】
一方、工作機械には、クーラントとして水溶性の切削油等が広く使用されるようになってきている。しかし、工作機械の摺動面にこれらの水溶性切削油が入り、摺動面用潤滑油組成物に混入すると、摺動面用潤滑油組成物の性能は損なわれ、摺動特性を低下させ、油不溶性スラッジが生成する等の問題を生じる。また水溶性切削油は、一般的に、切削加工部に供給され、切りくずを分離して、循環使用される。したがって、水溶性切削油に摺動面用潤滑油組成物が混入して分離することなく乳化状態となると、水溶性切削油の性能は著しく低下し、また腐敗が生じることとなる。これを回避して良好な循環使用を確保するために、摺動面用潤滑油組成物には水溶性切削油と分離しやすい性能が求められる。
【0005】
従来、工作機械等の摺動面用潤滑油組成物としては、基油に、リン酸エステルと硫黄系極圧剤やポリアルキレングリコール誘導体とを併用したもの(例えば特許文献1参照)、また分岐鎖のリン酸エステルと直鎖のリン酸エステルとを組み合わせて併用したもの(例えば特許文献2参照)等が提案されている。しかし、これら従来の摺動面用潤滑油組成物には、年々高精度化が進む工作機械等の摺動面用潤滑油組成物に求められるスティックスリップ現象防止性、低摩擦性、水分離性及び保存安定性において不充分という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−53783号公報
【特許文献2】特開2002−275489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、摺動面のスティックスリップ現象を防止するとともに、低摩擦で水分離性及び保存安定性に優れた摺動面用潤滑油組成物を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく研究した結果、基油と特定のリン酸化合物とを特定割合で含有して成る摺動面用潤滑油組成物が正しく好適であることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、基油を94〜99.9質量%及び下記のリン酸化合物を0.1〜6質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る摺動面用潤滑油組成物であって、該リン酸化合物が下記のリン酸化合物Aと下記のリン酸化合物Bとから成り、且つ下記の数1から求められるリン酸化合物AのP核積分比率(P核NMR積分値のうちで下記の化1で示されるリン酸エステルに帰属されるP核NMR積分値から算出されるP核積分比率)が5〜30%となるようにしたことを特徴とする摺動面用潤滑油組成物に係る。
【0010】
リン酸化合物A:下記の化1で示されるリン酸エステル及び下記の化1で示されるリン酸エステルの有機アミン塩から選ばれる一つ又は二つ以上。
【0011】
【化1】
【0012】
化1において、
R
1:炭素数8〜24の不飽和結合を有する脂肪族アルコールから水酸基を除いた残基又は炭素数8〜24の不飽和結合を有する脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計で1〜20モル付加したものから水酸基を除いた残基
R
2:水素原子、炭素数8〜24の不飽和結合を有する脂肪族アルコールから水酸基を除いた残基又は炭素数8〜24の不飽和結合を有する脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計で1〜20モル付加したものから水酸基を除いた残基
n:2又は3の整数
【0013】
リン酸化合物B:下記の化2で示されるリン酸エステル、下記の化2で示されるリン酸エステルの有機アミン塩、下記の化3で示されるリン酸エステル及び下記の化3で示されるリン酸エステルの有機アミン塩から選ばれる一つ又は二つ以上
【0014】
【化2】
【0015】
【化3】
【0016】
化2及び化3において、
R
3,R
4,R
5:炭素数8〜24の不飽和結合を有する脂肪族アルコールから水酸基を除いた残基又は炭素数8〜24の不飽和結合を有する脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計で1〜20モル付加したものから水酸基を除いた残基
【0017】
【数1】
【0018】
数1において、
P化1:化1で示されるリン酸エステルに帰属されるP核NMR積分値
P化2:化2で示されるリン酸エステルに帰属されるP核NMR積分値
P化3:化3で示されるリン酸エステルに帰属されるP核NMR積分値
【0019】
本発明に係る摺動面用潤滑油組成物(以下、本発明の組成物という)は、基油を94〜99.9質量%及び前記したリン酸化合物を0.1〜6質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものであって、該リン酸化合物が前記したリン酸化合物Aと前記したリン酸化合物Bとから成り、且つ前記した数1から求められるリン酸化合物AのP核積分比率が5〜30%となるようにしたものである。
【0020】
なかでも本発明の組成物としては、基油を97〜99.7質量%及び前記したリン酸化合物を0.3〜3質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものが好ましい。
【0021】
本発明の組成物において、基油としては、鉱物油、合成油及びこれらの混合油から選ばれるものが挙げられる。なかでも基油としては、40℃における動粘度が20〜300mm
2/s、また流動点が−10℃以下及び粘度指数が90以上のものが好ましい。鉱物油としては、パラフィン基系原油、中間基系原油、ナフテン基系原油を常圧蒸留又は減圧蒸留して得られる潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の常法にしたがって精製した精製油などが使用できる。また合成油としては、α−オレフィン共重合体、ポリブテン、二塩基酸エステル、ポリグリコール、ヒンダードエステル、アルキルベンゼン、ポリエーテル、アルキルナフタレン等を使用できる。これらは、単独でも又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
本発明の組成物において、リン酸化合物はリン酸化合物Aとリン酸化合物Bとから成るものであり、このリン酸化合物Aは前記の化1で示されるリン酸エステル及び前記の化1で示されるリン酸エステルの有機アミン塩から選ばれる一つ又は二つ以上である。化1中のR
1は、パルミトレイルアルコール、オレイルアルコール、エルシルアルコール等の炭素数8〜24の不飽和結合を有する脂肪族アルコールから水酸基を除いた残基又はこれらの脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計で1〜20モル付加したものから水酸基を除いた残基であるが、なかでもパルミトレイルアルコール、オレイルアルコール等の炭素数12〜18の不飽和結合を有する脂肪族アルコールから水酸基を除いた残基又はこれらの脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計で1〜20モル付加したものから水酸基を除いた残基が好ましい。
【0023】
また化1中のR
2は、水素原子、パルミトレイルアルコール、オレイルアルコール、エルシルアルコール等の炭素数8〜24の不飽和結合を有する脂肪族アルコールから水酸基を除いた残基又はこれらの脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計で1〜20モル付加したものから水酸基を除いた残基であるが、なかでも水素原子、パルミトレイルアルコール、オレイルアルコール等の炭素数12〜18の不飽和結合を有する脂肪族アルコールから水酸基を除いた残基又はこれらの脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計で1〜20モル付加したものから水酸基を除いた残基が好ましい。
【0024】
具体的にリン酸化合物Aとしては、モノパルミトレイルピロホスフェート、ジパルミトレイルポリホスフェート、ジオレイルポリホスフェート等のリン酸エステル、これらのリン酸エステルの有機アミン塩が挙げられる。ここで有機アミンとしては、ラウリルアミン,オレイルアミン,ジラウリルアミン,ジオレイルアミン,ジメチルモノオレイルアミン,トリラウリルアミン,トリオレイルアミン等が挙げられる。
【0025】
本発明の組成物において、リン酸化合物Bは前記の化2で示されるリン酸エステル、前記の化2で示されるリン酸エステルの有機アミン塩、前記の化3で示されるリン酸エステル及び前記の化3で示されるリン酸エステルの有機アミン塩から選ばれる一つ又は二つ以上である。化2及び化3中のR
3、R
4及びR
5は、化1中のR
1について前記したことと同様である。
【0026】
具体的にリン酸化合物Bとしては、ジパルミトレイルホスフェート、ジオレイルホスフェート、パルミトレイルオレイルホスフェート、ジエルシルホスフェート、エルシルオレイルホスフェート、モノパルミトレイルホスフェート、モノオレイルホスフェート等のリン酸エステル、これらのリン酸エステルの有機アミン塩が挙げられる。ここで有機アミンとしては、ラウリルアミン,オレイルアミン,ジラウリルアミン,ジオレイルアミン,ジメチルモノオレイルアミン,トリラウリルアミン,トリオレイルアミンが挙げられる。
【0027】
本発明の組成物において、リン酸化合物は、以上説明したリン酸化合物Aとリン酸化合物Bとから成るものであって、且つ前記の数1から求められるリン酸化合物AのP核積分比率が5〜30%となるようにしたものである。リン酸化合物AのP核積分比率は、リン酸エステル及び/又はリン酸エステルの有機アミン塩をこれらに過剰の水酸化カリウムを加えて中和し、これを
31P−NMRに供して、その測定値から算出することができる。一般的におおよそ、化1で示されるリン酸エステルに帰属されるピークは0ppm未満、化2で示されるリン酸エステルに帰属されるピークは0〜4ppm、化3で示されるリン酸エステルに帰属されるピークは4ppm超に現れるので、それぞれのピークの積分値を求め、前記した数1により算出する。
【0028】
数1から求められるリン酸化合物AのP核積分比率は5〜30%となるようにするが、なかでも10〜30%となるようにするのが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
以上説明した本発明の組成物は、工作機械のように、工作物や切削工具を任意の方向に移動できる摺動面(すべり案内面)を有する機構の中で、摺動面のスティックスリップ現象を防止するとともに、低摩擦で水分離性及び保存安定性に優れる。切削のために水溶性クーラントを使用しても、優れた摺動性能を発揮でき、クーラントを再使用できるのである。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0031】
試験区分1(リン酸化合物の合成等)
・リン酸化合物(P−1)の合成等
反応容器にオレイルアルコール381部を仕込み、120℃で0.05MPa以下の条件下に2時間脱水処理した。その後、常圧に戻し、撹拌しながら60±5℃で五酸化二燐90部を1時間かけて投入した。その後、80℃にて3時間熟成させ、リン酸化合物(P−1)を合成した。
【0032】
・リン酸化合物(P−1)のP核積分比率の算出
リン酸化合物(P−1)に過剰のKOHを加えてpH12以上にした条件で、
31P−NMRに供してP核NMR積分値を測定し、P核積分比率を算出したところ、化1で示されるリン酸エステルに帰属されるものが15%、化2で示されるリン酸エステルに帰属されるものが36%、化3で示されるリン酸エステルに帰属されるものが49%であった。
【0033】
P核積分比率を算出するためのP核NMR積分値は、
31P‐NMR(VALIAN社製の、MERCURY plus NMR Spectrometor System、300MHz)を用いて測定した。またこのときの溶媒としては、D
2O(重水)/THF(テトラヒドロフラン)=8/2(容量比)の混合溶媒を用いた。
【0034】
・リン酸化合物(P−2〜P−5)、(P−9〜P−11)及び(P−14)の合成等
リン酸化合物(P−1)と同様にして、リン酸化合物(P−2〜P−5)、(P−9〜P−11)及び(P−14)を合成し、これらについてP核積分比率を算出した。
【0035】
・リン酸化合物(P−6)の合成等
オクチルアルコール130.2g(1モル)をオートクレーブに仕込み、触媒として水酸化カリウム粉末1gを加えた後、オートクレーブ内を充分に窒素で置換した。撹拌下に反応温度を130〜150℃に維持しつつEO(エチレンオキシド、以下同じ)176g(4モル)を圧入して付加重合反応をおこない、同温度で1時間熟成して付加重合反応を終了した。触媒をリン酸で中和した後、副生物を分子蒸留により分離して、オクチルアルコールEO4モル付加体(A1)を得た。反応容器にオクチルアルコールEO4モル付加体(A1)434部を仕込み、120℃で0.05MPa以下の条件下に2時間脱水処理した。その後、常圧に戻し、撹拌しながら60±5℃で五酸化二燐81部を1時間かけて投入した。その後、80℃にて3時間熟成させ、リン酸化合物(P−6)を合成した。リン酸化合物(P−6)について、リン酸化合物(P−1)と同様にP核積分比率を算出した。
【0036】
・リン酸化合物(P−7)の合成等
ベヘニルアルコール326.6g(1モル)をオートクレーブに仕込み、触媒として水酸化カリウム粉末1gを加えた後、オートクレーブ内を充分に窒素で置換した。撹拌下に反応温度を130〜150℃に維持しつつEOを132g(3モル)圧入して付加重合反応を行ない、同温度で1時間熟成した後、PO(プロピレンオキシド、以下同じ)290g(5モル)を圧入して付加重合反応をおこない、同温度で1時間熟成して、付加重合反応を終了した。触媒をリン酸で中和した後、副生物を分子蒸留により分離して、ベヘニルアルコールEO3モル・PO5モル付加体(A2)を得た。反応容器にベヘニルアルコールEO3モル・PO5モル付加体(A2)891部を仕込み、120℃で0.05MPa以下の条件下に2時間脱水処理をした。その後、常圧に戻し、撹拌しながら60±5℃で五酸化二燐81部を1時間かけて投入した。その後、80℃にて3時間熟成させ、リン酸化合物(P−7)を合成した。リン酸化合物(P−7)についてリン酸化合物(P−1)と同様にP核積分比率を算出した。
【0037】
・リン酸化合物(P−8)の合成等
反応容器にオレイルアルコール381部を仕込み、120℃で0.05MPa以下の条件下に2時間脱水処理した。その後、常圧に戻し、撹拌しながら60±5℃で五酸化二燐81部を1時間かけて投入した。その後、80℃にて3時間熟成させ、更に水5部を75℃で滴下して95℃にて2時間熟成させ、リン酸化合物(P−8)を合成した。リン酸化合物(P−8)について、リン酸化合物(P−1)と同様にP核積分比率を算出した。
【0038】
・リン酸化合物(P−12及びP−13)の合成等
リン酸化合物(P−8)と同様にして、リン酸化合物(P−12及びP−13)を合成し、これらについて、リン酸化合物(P−1)と同様にP核積分比率を算出した。
【0039】
以上で合成した各リン酸化合物の内容及び算出した各リン酸化合物のP核積分比率を表1にまとめて示した。
【0040】
【表1】
【0041】
表1において、
*1:オクチルアルコールEO4モル付加体から水酸基を除いた残基
*2:ベヘニルアルコールEO3モル・PO5モル付加体から水酸基を除いた残基
【0042】
試験区分2(摺動面用潤滑油組成物の調製)
・実施例1〜3及び比較例1〜11
基油として、動粘度(40℃)が68mm
2/s、粘度指数が102及び流動点が−12.5℃のパラフィン系鉱物油を用い、これに試験区分1で合成したリン酸化合物を表2に示す割合となるよう混合し、摺動面用潤滑油組成物を調製した。
【0043】
試験区分3(潤滑油組成物の評価)
試験区分2で調製した摺動面用潤滑油組成物を以下のように評価し、結果を表2にまとめて示した。
【0044】
摩擦特性(スティックスリップ現象の有無、摩擦係数及び速度依存性)
摩擦特性の評価は、工作機械の摺動面におけるスティックスリップ現象をシミュレートできるPin−on−ring型の摩擦試験装置を用いて行なった。その詳細は、トライボロジスト、53巻、10号、2008年、P682〜688頁に記載されている。本試験では合成した摺動面用潤滑油組成物の真の摩擦特性を評価することを目的に、上部及び下部試験片としてはともに鋳鉄製のものを用い、また摩擦面粗さRzjisは3.0〜3.5μm、試験は室温(約25℃)にて実施した。面圧は0.3MPa、すべり速度は4.6×10
−5〜8.7×10
1mm/秒とし、摺動面用潤滑油組成物は、チューブ式ポンプによりリング中央から供給し、リング外側から排出して循環した。一回の試験に使用する摺動面用潤滑油組成物の総量は約200mL、供給量は約0.6mL/分とした。摺動面用潤滑油組成物により摩擦係数が安定するまで、ならし速度を5.2mm/秒にしてならし運転を4時間行ない、その後すべり速度を変化させ、各すべり速度における摩擦係数、速度依存性、スティックスリップ現象の有無について、以下の評価基準で評価し、結果を表2にまとめて示した。
【0045】
スティックスリップ現象の有無
スティックスリップ現象の有無を目視にて観察した。
【0046】
・摩擦係数
すべり速度4.6×10
−5mm/秒における摩擦係数を読み取った。
◎:0.030μ未満
○:0.030μ以上0.060μ未満
×:0.060μ以上
【0047】
・速度依存性
速度依存性αは、(すべり速度v
1が4.6×10
−5mm/秒の時の摩擦係数μ
1)/(すべり速度v
2が4.6×10
−1mm/秒の時の摩擦係数μ
2)により求めた。
○:αが3以上
×:αが3未満
【0048】
・水分離性
水分離性は、JIS−K2520に準じて評価した。すなわち、摺動面用潤滑油組成物40mLと水40mLを撹拌して混合し、撹拌終了から30分後の乳化相の残存量を以下の基準で評価した。
○:乳化相の残存量が30mL未満
×:乳化相の残存量が30mL以上80mL以下
【0049】
・保存安定性
摺動面用潤滑油組成物を30℃の条件にて7日間保管し、外観を目視で観察した。
○:析出物無し
×:析出物有り
【0050】
【表2】