(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472722
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】口腔内投与する唾液分泌促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/137 20060101AFI20190207BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20190207BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20190207BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20190207BHJP
A61K 9/68 20060101ALI20190207BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20190207BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
A61K31/137ZMD
A61K9/08
A61K9/12
A61K9/20
A61K9/68
A61K9/70
A61P1/02
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-131443(P2015-131443)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-14138(P2017-14138A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2017年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】片岡 茜
(72)【発明者】
【氏名】川島 多賀子
(72)【発明者】
【氏名】山口 依里香
(72)【発明者】
【氏名】赤瀬 貴憲
【審査官】
小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−510840(JP,A)
【文献】
特開2015−096473(JP,A)
【文献】
特開2014−141433(JP,A)
【文献】
老年歯学,2004年,Vol.19, No.3,p.178-183
【文献】
Journal of Investigative and Clinical Dentistry,2014年,Vol.5,p.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内投与する、アンブロキソールまたはその塩を有効成分として含む唾液分泌促進剤。
【請求項2】
小唾液腺からの唾液分泌を促進する、請求項1に記載の唾液分泌促進剤。
【請求項3】
口腔内投与する部位が口唇、可動口腔粘膜、非可動口腔粘膜および歯から選択される1以上である、請求項1または2に記載の唾液分泌促進剤。
【請求項4】
投与後1時間以内に唾液分泌量を1.5倍(重量比)以上増加する、請求項1〜3のいずれか1に記載の唾液分泌促進剤。
【請求項5】
投与後10分以内に唾液分泌重量を1.5倍(重量比)以上増加する、請求項1〜4のいずれか1に記載の唾液分泌促進剤。
【請求項6】
剤形が含嗽用製剤、塗布用製剤、貼付用製剤、噴霧剤、トローチ剤、タブレット剤、バッカル剤、舌下剤もしくはガム剤である、請求項1〜5のいずれか1に記載の唾液分泌促進剤。
【請求項7】
口腔内投与する、アンブロキソールまたはその塩を有効成分として含む、口腔乾燥症治療用の医薬組成物。
【請求項8】
小唾液腺からの唾液分泌を促進する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
口腔内投与する部位が口唇、可動口腔粘膜、非可動口腔粘膜および歯から選択される1以上である、請求項7または8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
口腔内投与する口腔乾燥症状改善用の唾液分泌促進剤を製造するための、アンブロキソールまたはその塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、唾液分泌促進剤に関する。より詳細には、本発明は、アンブロキソールを口腔内投与させて小唾液腺に送達する口腔内投与用の小唾液腺唾液分泌促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
唾液の機能としては、口腔粘膜を湿潤化させ、口腔内を潤滑化する、唾液に含まれるアミラーゼが摂取する糖質の消化吸収を促進する、食物の咀嚼・嚥下を助ける、唾液に含まれるリゾチームが口腔内に侵入した細菌を溶菌する、細菌を凝集/排出させて細菌感染から生体を防御する、食物中の味覚物質を溶解して味蕾への送達を媒介することにより味覚を生じさせる、口腔内を浄化する、唾液中の重炭酸イオンが口腔内のpHを中性付近に保ってムシ歯を予防する、歯の再石灰化を促進する、などが挙げられる。
【0003】
このような機能を有する唾液の分泌量が低下すると様々な障害が生じることが知られている。一般的に、安静時10分間での唾液分泌量が1mL以下の場合に、唾液分泌低下があると考えられ、唾液分泌量が50%程度まで減少すると口腔乾燥症の自覚症状が生じると言われている。短期間の発症では口腔内乾燥による不快感、咀嚼障害、味覚異常のような症状を生じ、また発症が長期間に及ぶ場合にはう蝕、歯周病、舌苔、口臭、口内炎、舌痛症、嚥下障害、構音障害などの重度の症状を生じ、QOLの低下を引き起こす。また、シェーグレン症候群が口腔乾燥症を伴うことが知られおり、その診断基準のひとつに唾液分泌量低下(ガムテスト10分間で10mL以下、またはサクソンテスト2分間2g以下)があり、かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見が定められている。
【0004】
唾液には、大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)から分泌される唾液と、無数の小唾液腺(口唇腺、頬腺、口蓋腺、臼歯腺、舌腺など)から分泌される唾液とが存在し、それぞれの唾液は粘度や組成が異なり、異なる役割を有している。すなわち、大唾液腺から分泌される唾液は主にムスカリン受容体を介して分泌されるため水分含有量が高いサラサラした唾液であり、主に嚥下を助ける役割を果たし、一方、小唾液腺から分泌される唾液はムチンなど保湿効果が高い成分を含むためネバネバした唾液であり、主に口腔内を保湿する役割を果たしている。また、小唾液腺から分泌される唾液には免疫グロブリンAが多く含まれ、この免疫グロブリンAによって、口腔内に侵入した病原微生物の上皮細胞への付着や虫歯菌の歯牙への初期付着が阻害されると考えられている。さらに、小唾液腺から分泌される唾液中のフッ素濃度は大唾液腺からの唾液よりも数倍高いとの報告があり、う蝕の予防にも重要な役割を果たしている。
【0005】
非特許文献1には、正常な全唾液(安静時唾液および刺激時唾液の分泌総量)分泌があるにもかかわらず口腔乾燥感を訴える患者における小唾液腺分泌唾液量が、口腔乾燥感を訴えない患者におけるものよりも有意に減少していることが示されている。
【0006】
また、非特許文献2には、口腔乾燥感が刺激時唾液の分泌量よりも小唾液腺から分泌される唾液量により強く相関することが記載されている。
【0007】
本出願人は、大唾液腺からの唾液分泌を促進して口腔乾燥症を改善する発明についてすでに出願している(特願2015-093485および特願2015-093486)。
【0008】
しかしながら、口腔乾燥症を予防または治療するためには大唾液腺からの唾液分泌のみならず、それとは異なる役割を有する小唾液腺からの唾液分泌に着目してそれを促進する必要がある。現在に至るまで、小唾液腺からの唾液分泌を特異的に促進する薬剤は見出されていない。
【0009】
一方、アンブロキソールは、痰に含まれるムコ多糖を分解する酵素を活性化して去痰作用を有することが知られている公知の薬剤であり、粘膜免疫能の感作剤としての用途などが知られている(特許文献1)。また、非特許文献3には、シェーグレン患者にアンブロキソールを投与した結果が示されており、眼の乾燥症状は改善したが、口腔乾燥の改善はなかったことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】再表2006/019183
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Eliassonら,Archives of Oral Biology, 2009, 54:263-7.
【非特許文献2】S. Satoh-Kuriwadaら,Archives of Oral Biology, 2012, 57:1121-1126.
【非特許文献3】Y. Ichikawaら,Tokai J. Exp. Clin. Med., 1988, 13:165-169.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、小唾液腺からの唾液分泌を促進することにより口腔乾燥症を予防または治療する薬剤、特に口腔内に薬剤を直接適用することにより小唾液腺からの唾液分泌を促進する薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、小唾液腺からの唾液分泌を促進する薬剤を見出すべく鋭意検討した結果、アンブロキソールを口腔内投与することによりかかる課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、
[1]アンブロキソールまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含む唾液分泌促進剤;
[2]口腔内投与する、前記[1]に記載の唾液分泌促進剤;
[3]小唾液腺からの唾液分泌を促進する、前記[1]または[2]に記載の唾液分泌促進剤;
[4]口腔内投与する部位が口唇、可動口腔粘膜、非可動口腔粘膜および歯から選択される1以上である、前記[1]〜[3]のいずれか1に記載の唾液分泌促進剤;
[5]投与後1時間以内に唾液分泌量を1.5倍(重量比)以上増加する、前記[1]〜[4]のいずれか1に記載の唾液分泌促進剤;
[6]投与後10分以内に唾液分泌重量を1.5倍(重量比)以上増加する、前記[1]〜[5]のいずれか1に記載の唾液分泌促進剤;
[7]剤形が含嗽用製剤、塗布用製剤、貼付用製剤、噴霧剤、トローチ、タブレット、バッカル剤、舌下剤もしくはガム剤である、前記[1]〜[6]のいずれか1に記載の唾液分泌促進剤;
[8]アンブロキソールまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含む、口腔乾燥症治療用の医薬組成物;
[9]口腔内投与する、前記[8]に記載の医薬組成物;
[10]小唾液腺からの唾液分泌を促進する、前記[8]または[9]に記載の医薬組成物;
[11]口腔内投与する部位が可動口腔粘膜、非可動口腔粘膜および歯から選択される1以上である、前記[8]〜[10]のいずれか1に記載の医薬組成物;
[12]口腔乾燥症状改善用の唾液分泌促進剤を製造するための、アンブロキソールまたはその製薬学的に許容される塩の使用
を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、小唾液腺からの唾液分泌を特異的に促進することにより口腔乾燥症を予防または治療する医薬組成物を提供することができる。また、大唾液腺からの唾液分泌を促進する薬剤と組合せることにより、全唾液の分泌を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】種々の経路でアンブロキソールを投与した場合の唾液分泌量の投与後2時間の経時的変化を示すグラフである。
【
図2】種々の経路でアンブロキソールを投与した場合の唾液分泌量の投与後24時間の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は第1の態様において、アンブロキソールまたはその製薬学的に許容される塩(別段記載しない限りにおいて、以下、包括的に「アンブロキソール」という場合がある)を有効成分として含む唾液分泌促進剤を提供する。製薬学的に許容される塩としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、酒石酸などの無機酸もしくは有機酸の塩;ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩;カルシウムなどのアルカリ土類金属塩;アンモニア、トリエチルアミン、ピリジンなどの有機アンモニウム塩などが挙げられる。
【0018】
本発明の唾液分泌促進剤は、アンブロキソールを口腔内投与するものである。アンブロキソールは一般的にアンブロキソール塩酸塩の形態で点滴剤、吸入剤のほか、シロップ剤、錠剤、徐放性カプセル、発泡剤などの剤形で経口投与されるものであるが、本発明のアンブロキソールまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含む唾液分泌促進剤は、口腔内投与する。従来どおりにアンブロキソールを経口投与した場合には、有効量のアンブロキソールを小唾液腺に送達することができず、小唾液腺からの唾液分泌を促進することができない(非特許文献3参照)。
【0019】
口腔内投与する部位としては、口唇、可動口腔粘膜、非可動口腔粘膜または歯などが挙げられ、ここに口唇とは上唇と下唇に分けられ、口腔の開口部を取り巻く部位である。可動口腔粘膜とは体性神経により可動する口腔内の粘膜であり、例えば口唇〜鼻唇溝または口唇〜オトガイ隆起の裏側の粘膜、頬粘膜、舌などが含まれる。また、非可動口腔粘膜とは体性神経によって動かすことができない固定された口腔内の粘膜であり、例えば、歯肉、硬口蓋および軟口蓋の粘膜、口腔底の粘膜などが含まれる。
また、本発明においていう歯とは顎に植立している硬質の構造物であり、主に食べることにおいて重要な役割を果たすものをいう。
【0020】
本発明の唾液分泌促進剤は、静脈投与または経皮投与により有効成分が血中や大唾液腺に作用しても唾液分泌効果は現れないが、口腔内に局所的に適用した場合には短時間のうちに(例えば、投与後10分〜1時間以内)小唾液腺からの唾液分泌量が1.5倍(重量比)以上促進される。
【0021】
したがって、本発明の唾液分泌促進剤は、口腔乾燥感と相関性が高い小唾液腺からの唾液分泌を促進し、口腔乾燥感を有効に改善し、また口腔乾燥症を有効に予防または治療することができる。
【0022】
また、本発明の唾液分泌促進剤は、公知の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤、顆粒剤、細粒剤、散剤もしくはゲル剤などの含嗽用製剤;軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、粘稠剤、粘着剤、顆粒剤、細粒剤もしくは散剤などの塗布用製剤;テープ剤、パップ剤、フィルム剤などの貼付用製剤;外用エアゾールスプレー剤、ポンプスプレー剤などの噴霧剤;トローチ剤、タブレット剤またはバッカル剤、舌下剤、もしくはガム剤など、口腔内の口唇、可動口腔粘膜、非可動口腔粘膜または歯に有効成分が比較的長時間にわたって滞留する剤形とすることができる。
【0023】
溶液剤、懸濁剤、乳濁剤、クリーム剤、ゲル剤、粘稠剤については、水、水と無制限の比率で混合可能な水系溶媒およびそれらの混合溶媒を連続層とした剤形であり、外観は透明である場合と半透明若しくは不透明の場合がある。通常、流動性を有するが、クリーム剤や粘稠剤、ゲル剤の一部は保形性を有するものも含まれる。これらの剤は公知の成分を用いて調製することができる。例えば、限定するものではないが、N−アシルアミノ酸塩、N−アシルタウリン塩、アルキル硫酸エステル塩などのアニオン界面活性剤;イミダゾリン系両性界面活性剤、ベタイン系界面活性剤などの両性界面活性剤;ソルビタン系界面活性剤、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アルキルグリコシド、ツィーン系界面活性剤、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、プルロニック型界面活性剤、アルカノールアミドなどのノニオン界面活性剤;レシチン、サポニンなどの天然界に存在する界面活性剤などの界面活性剤、植物油;動物油;流動パラフィン、スクワラン、ワセリンなどの炭化水素油;ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸;ミツロウ、ラノリンおよびその誘導体などのロウ類;モノアルキル脂肪酸エステル類;多価アルコール脂肪酸エステル類;硬化油などの油脂類、エチルアルコール、ブチルアルコールなどの低級アルコール;ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、バチルアルコールなどの高級アルコール;ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロールなどのその他のアルコールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類;ジプロピレングリコール、ジグリセリン、ポリグリセリンなどの多価アルコール重合体類;ソルビトール、マルチトール、マンニトール、エリトリトールなどの糖アルコール類;コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパリンなどのムコ多糖類;乳酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸塩、コラーゲン類などの有機化合物;植物抽出物などの保湿剤、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体;アカシア、カラギーナン、トラガカントガム、カラヤガム、アラビアガム、グアーガム、寒天、アルギン酸類、コラーゲン加水分解物、ゼラチン、カゼイン蛋白質などの天然系高分子類;ジェランガム、キサンタンガムなどの微生物産生高分子類;ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドンなどの合成系高分子類;ステアリン酸アルミニウムゲル、無水ケイ酸、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムなどの無機系増粘剤などの増粘剤(ゲル化剤も含む)や分散剤などが挙げられ、加えて、カルボン酸、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n−デシルアルコール、シトロネール、α−テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、d−カンフル、d−ボルネオール、ウイキョウ油、ケイヒ油、シンナムアルデヒド、ハッカ油、バニリン等の香料;サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p−メトキシシンナミックアルデヒド等の甘味剤;パラオキシ安息香酸エステル類、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシンなどの防腐剤、青色1号、黄色4号、赤色202号、緑3号等の法定色素、群青、強化群青、紺青等の鉱物系色素、酸化チタンなどの着色剤(濁剤を含む);クエン酸、リン酸、リンゴ酸、ピロリン酸、乳酸、酒石酸、グリセロリン酸、酢酸、硝酸、またはこれらの化学的に可能な塩や水酸化ナトリウムなどのpH調整剤;必要に応じて他の薬効成分なども配合することができる。
【0024】
顆粒剤、細粒剤および散剤については粉状の固形剤であり、トローチ剤、タブレット剤、バッカル剤および舌下剤については塊状の固形剤である。前記の顆粒剤、細粒剤や散剤は、単に粉末形状の物質を混合したり、造粒工程などにより所定の粒度とすることで調製することができる。前記の溶液剤、分散剤や懸濁剤などをスプレードライなどにより乾燥させることにより調製することもできる。これらの剤形の調製時には、必要に応じ、賦形剤、崩壊剤や結合剤などが配合される。また、口中で溶解させて使用することから、必要に応じて甘味剤、矯味料や香味料を配合することができる。特に限定するものではないが、例えば、賦形剤としては、白糖、乳糖、マンニトール、結晶セルロース、デンプン、アルギン酸、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムなど;崩壊剤としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース・カルシウム、結晶セルロースなどのセルロース誘導体、デンプンなど;結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロースやメチルセルロースなどのセルロース誘導体、アカシア、ゼラチン、デキストリン、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。また、トローチ剤、タブレット剤、バッカル剤および舌下剤については、粉状原料を混合し造粒加工し調製したものや、前記の顆粒剤、細粒剤や散剤と同様な方法で調製したものを用い、所定の形状に成型することにより調製することができる。口中での咀嚼・溶解使用を妨げない範囲であれば成型後に成型物の表面をコーティング処理することもできる。
【0025】
軟膏剤については、特に限定するものではないが、ラノリン類、プラスチベース、白色ワセリン、パラフィン、ミツロウ類、吸水軟膏、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、グリセロゼラチン、植物油、カカオ脂などと混合することにより調製することができる。
【0026】
テープ剤、パップ剤については、支持体と塗布体などから構成されるシート状の剤形である。テープ剤やパップ剤に使用される物質を使用することができるが、口中で使用することから、使用中に溶解したり、分解・分散したりすることにより形状が最終的に消失する物質を選択することが好ましい。例えば、ポリアクリル酸、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロースフタル酸エステルなどが支持体として使用することができる。
【0027】
本発明の唾液分泌促進剤を含嗽用製剤として適用する場合のアンブロキソールまたはその製薬学的な塩の含有量は、唾液分泌促進剤の重量に対して0.001〜5重量%、好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.07〜5重量%である。また、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、顆粒剤、細粒剤もしくは散剤などの塗布用製剤として適用する場合のアンブロキソールの含有量は、唾液分泌促進剤の重量に対して0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは0.7〜50重量%である。また、テープ、パップ剤、フィルム剤などの貼付用製剤として適用する場合のアンブロキソールの含有量は、唾液分泌促進剤の重量に対して0.03〜40重量%、好ましくは0.3〜30重量%、より好ましくは1.5〜20重量%である。または、外用エアゾールスプレー剤、ポンプスプレー剤、顆粒剤、細粒剤もしくは散剤などの噴霧剤として適用する場合のアンブロキソールの含有量は、唾液分泌促進剤の重量に対して0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは0.7〜50重量%である。さらに、トローチ剤、タブレット剤、バッカル剤、舌下剤もしくはガム剤などの錠剤として適用する場合のアンブロキソールの含有量は、唾液分泌促進剤の重量に対して0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは0.7〜50重量%である。
【0028】
本発明の唾液分泌促進剤は、1日当たり1〜12回、0.1〜500mg/回、好ましくは1日当たり1〜5回、1〜500mg/回、より好ましくは1日当たり1〜5回、7〜500mg/回、口腔内投与する。従来のアンブロキソールは経口投与などにより適用されているが、本発明の唾液分泌促進剤は口腔内投与することにより小唾液腺に到達して奏功する。従来の経口投与などのアンブロキソールの適用様式では唾液分泌量は促進されない。
【0029】
また、本発明は第2の態様において、アンブロキソールを有効成分として含む、口腔乾燥症治療用の医薬組成物を提供する。
さらに、本発明は第3の態様において、口腔乾燥症状改善用の唾液分泌促進剤を製造するための、アンブロキソールまたはその塩の使用を提供する。
かかる医薬組成物および使用における有効成分、他の添加成分、投与様式などは唾液分泌促進剤において説明したものと同じである。
【実施例】
【0030】
つぎに実施例により本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は説明を意図するものであって本発明を限定するものではない。
【0031】
試験例1
下表の処方により常法にしたがってアンブロキソール軟膏剤(製剤A)を製造した。
【0032】
【表1】
【0033】
6週齢の正常な雄性Sprague-Dawleyラット(体重約200g)の舌下、左頬および右頬粘膜に製造したアンブロキソール軟膏剤(製剤A)をそれぞれ10mg塗布した(合計30mg)(口腔内投与)。また、同週齢および同体重のラットに同一のアンブロキソール軟膏剤を500mg塗布した(経皮投与)。さらに同様の条件のラットに0.1〜100mg/kgラット体重のアンブロキソールを静脈内注射した(静脈投与)。口腔内投与および経皮投与で適用してから10分後に口腔内を脱脂綿で拭き取り製剤Aを除去した。塗布前、塗布10、30、60、120分、240分、6時間および24時間後に5分間に分泌される唾液を綿球で採取し、分泌唾液の重量を測定した。
その結果を
図1および
図2に示す。
【0034】
図1に示されるように、アンブロキソール軟膏を静脈内投与または経皮投与して血中または大唾液腺に送達した場合に唾液分泌量はほとんど増加しなかったのに対し、口腔内投与した場合には投与10分後に投与前の12.3倍も唾液分泌量が増大した。口腔内投与した場合の唾液分泌量の増加は投与30分後にも維持された(投与前の12.3倍)が、投与1時間後には投与前の唾液分泌量まで低下した。
【0035】
本発明の唾液分泌促進剤を以下の処方例に従って公知の製法により製造した。
【0036】
処方例1 軟膏剤
【0037】
処方例2 テープ剤
【0038】
処方例3 含嗽剤
【0039】
処方例4 ポンプスプレー剤
【0040】
処方例5 トローチ剤