(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プレポリマー(A)が環状モノマー及び/又は非環状モノマーの反応生成物を含む、請求項1又は2に記載の生物分解性、半結晶性、相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマー。
非環状モノマーがコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、及び/又は1,6−ヘキサンジオールからなる群から選ばれる請求項5に記載の生物分解性、半結晶性、相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマー。
環状モノマーがグリコリド、ラクチド、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、1,5−ジオキセパン−2−オン、1,4−ジオキサン−2−オン(パラジオキサノン)及び/又はオキセパン−2,7−ジオンからなる群から選ばれる請求項5に記載の生物分解性、半結晶性、相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマー。
前記水溶性ポリマーがポリエーテル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルカプロラクタム、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(ポリ−(HEMA))、ポリホスファゼン、ポリオルトエステル、ポリオルトエステルアミド、又は上述のポリマーのコポリマーからなる群から選ばれる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の生物分解性、半結晶性、相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマー。
前記水溶性ポリマーがポリエチレングリコール(PEG)、ポリテトラメチレンオキシド(PTMO)及びポリプロピレングリコール(PPG)からなる群から選ばれる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の生物分解性、半結晶性、相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマー。
前記水溶性ポリマーが150−5000g/molのMnを有するポリ(エチレングリコール)(PEG)由来である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の生物分解性、半結晶性、相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマー。
前記プレポリマー(B)セグメントが、L−ラクチドプレポリマー及びD−ラクチドプレポリマーを、L−ラクチドとD−ラクチドの間のステレオコンプレックス形成が達成される量と比で含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の生物分解性、半結晶性、相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマー。
プレポリマー(B)が1000g/mol以上のMnを有するポリ(L−乳酸)である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の生物分解性、半結晶性、相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマー。
体内で1〜4、より好ましくは1〜2、最も好ましくは1〜1.5に亘る膨潤比を有する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の生物分解性、半結晶性、相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマー。
前記コポリマーが少なくとも0.1dl/g、好ましくは0.2〜2dl/gの間の固有粘度を有する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の生物分解性、半結晶性、相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマー。
i)多機能性鎖延長剤の存在下でプレポリマー(A)とプレポリマー(B)の鎖延長反応を行う(ここでプレポリマー(A)と(B)はいずれも末端がジオール又は二酸になっており、鎖延長剤の末端がジカルボン酸又はジオールになっている)か、又は
ii)カップリング剤を用いる鎖延長反応行う(ここでプレポリマー(A)と(B)はいずれも末端がジオール又は二酸になっている)
ことを含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の生物分解性、半結晶性、相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマーの製造方法。
生物分解性、半結晶性、相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマーがミクロスフェア、ミクロ粒子、ナノ粒子、ナノスフェア、ロッド、インプラント、ゲル、コーティング、フィルム、シート、スプレー、チューブ、膜、メッシュ、繊維、又はプラグの形態である、請求項17に記載の使用。
マトリクス中にカプセル化された少なくとも一種の生物活性化合物を含む、ホストに少なくとも一種の生物活性化合物を送達するための組成物であって、該マトリクスが少なくとも一種の、請求項1〜15のいずれか一項に記載の生物分解性、半結晶性、相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマーを含む上記組成物。
前記非ペプチド非タンパク質の小型の薬物が、抗腫瘍剤、抗菌剤、セファロスポリン、アミノグリコシド、マクロライド、テトラサイクリン、化学療法剤、尿路消毒剤、嫌気性感染用薬剤、結核剤、ハンセン病薬、抗黴剤、抗ウイルス剤、抗蠕虫病薬、抗炎症剤、抗痛風薬、中枢作用(オポイド)鎮痛剤、局所麻酔剤、パーキンソン病薬、中枢作用筋弛緩剤、ホルモン又はホルモン抗アゴニスト、副腎皮質ステロイド、糖質コルチコステロイド、アンドロゲン、アンドロゲン性ステロイド、タンパク質同化ステロイド、抗アンドロゲン、エストロゲン、エストロゲン性ステロイド、抗エストロゲン、プロゲスチン、甲状腺薬、及び抗甲状腺薬からなる群から選ばれる一つ以上を含む、請求項20に記載の組成物。
前記生物活性ポリペプチドが、タンパク質/ペプチド薬、酵素、レセプターリガンド、神経伝達物質、阻害性ペプチド、調節性ペプチド、アクティベーターペプチド、サイトカイン、成長因子、モノクローナル抗体、モノクローナル抗体フラグメント、抗腫瘍ペプチド、抗生剤、抗原、ワクチン、及びホルモンからなる群から選ばれる一つ以上を含む、請求項20に記載の組成物。
前記生物活性化合物が、プレポリマー(A)のセグメントとして、及び/又は追加のプレポリマーとして、ポリ(エチレングリコール)を含み、該ポリ(エチレングリコール)が
i)200〜1500g/molの分子量を有し;及び/又は
ii)5重量%〜20重量%の量で存在する、請求項23に記載の組成物。
前記生物活性化合物が、プレポリマー(A)のセグメントとして、及び/又は追加のプレポリマーとして、ポリ(エチレングリコール)を含み、該ポリ(エチレングリコール)が
i)400〜3000g/molの分子量を有し;及び/又は
ii)5重量%〜60重量%の量で存在する、請求項25に記載の組成物。
前記生物活性化合物が、プレポリマー(A)のセグメントとして、及び/又は追加のプレポリマーとして、ポリ(エチレングリコール)を含み、該ポリ(エチレングリコール)が
i)600〜5000g/molの分子量を有し;及び/又は
ii)5重量%〜70重量%の量で存在する、請求項27に記載の組成物。
ミクロスフェア、ミクロ粒子、ナノ粒子、ナノスフェア、ロッド、インプラント、ゲル、コーティング、フィルム、シート、スプレー、チューブ、膜、メッシュ、繊維、又はプラグの形態での、請求項19〜28のいずれか一項に記載の組成物。
リューマチ性関節炎、肝炎、糖尿病、メタボリックシンドローム、変形性関節症(骨関節炎)、腎疾患、炎症、局所疼痛過程、局所感染症、局所皮膚疾患、腫瘍(又は残っている可能性のある腫瘍細胞を破壊するための手術後処置としての外科的除去後の部位)、前立腺癌又は乳癌、末端肥大症(agromegaly)、加齢黄斑変性症のような眼科疾患、パーキンソン病のような局所脳疾患、及び急性心筋梗塞、慢性心不全、又は関節硬化症のような心血管疾患を治療するための、請求項19〜31のいずれか一項に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のマルチブロックコポリマーは少なくとも二種の異なるセグメントからなることができ、各セグメントは異なる物理的特徴(分解及び膨潤特性を含む)を有している。その独特の構成及びその半結晶性相分離モルホロジーにより、本発明の材料は驚くことに用途が広く、特定の治療剤をカプセル化したり、カプセル化された治療剤を局所的に又は全身循環的に放出することを維持したりするのに有用な薬物送達マトリクス及び薬物溶出コーティングを構成するのに極めて適している。以下、本明細書中に記載するように、本発明の組成物は生物活性ポリペプチドのような生物活性化合物のホストへの制御放出にとって特に利益がある。
【0019】
本明細書で使用する「相分離された」という用語は、系、特に、二種類以上の異なるプレポリマーからなり、その少なくとも二種は体温以下で(人体のような生理学的条件下で)互いに(部分的に)非相溶性のプレポリマーからなるコポリマーを指すものとする。従って、プレポリマーは組み合わせても、プレポリマーの物理的混合物として組み合わせても、プレポリマーを「化学混合物」として、つまりコポリマーとして、単一の化学種に組み合わせても、均一な混合物を形成しない。
【0020】
本明細書で使用する「プレポリマー」という用語は、多機能性鎖延長剤によりランダムに結合し、本発明のマルチブロックコポリマーを一緒に作り上げるポリマーセグメントを指すものとする。各プレポリマーは適切なモノマーの重合により得ることができ、従ってそれらのモノマーは各プレポリマーの化学単位となっている。プレポリマーの望ましい特性、結果として本発明のマルチブロックコポリマーの望ましい特性は、適当な組成と分子量(特にMn)のプレポリマーを選択することにより制御することができ、その結果必要なTm又はTgが得られる。
【0021】
本明細書で使用する「マルチブロック」という用語は、ポリマー鎖中に少なくとも二種の異なるプレポリマーセグメントが存在することを指すものとする。
【0022】
本明細書で使用する「熱可塑性」という用語は、マルチブロックコポリマーの非架橋性の性質を指すものとする。加熱することにより、熱可塑性ポリマーは液状となり、一方(再)冷却することにより固化する。熱可塑性ポリマーは適当な溶媒に可溶である。
【0023】
本明細書で使用する「加水分解可能な」という用語は、水と反応した際に分子が解裂する能力を指すものとする。加水分解可能な基としてはエステル、カーボネート、ホスファゼン、アミド、及びウレタン基が挙げられる。生理学的条件下では、エステル、カーボネート、及びホスファゼン基だけが合理的な時間スケールで水と反応する。
【0024】
本明細書で使用する「多機能性鎖延長剤」という用語は、鎖延長剤上に少なくとも二種の反応性基が存在して、反応性プレポリマーを化学的に結合させ、それによりマルチブロックコポリマーを形成できることを指すものとする。
【0025】
本明細書で使用する「ランダムマルチブロックコポリマー」という用語は、異なるセグメントがポリマー鎖に亘ってランダムに分布しているマルチブロックコポリマーを指すものとする。
【0026】
本明細書で使用する「水溶性ポリマー」という用語は、生理学的条件下で水性媒体、好ましくは水に良好な溶解性を有するポリマーを指すものとする。このポリマーはより疎水性の部分とコポリマー化すると、得られるコポリマーは水に対して膨潤性になる。水溶性ポリマーはジオール、ジアミン、又は二塩基酸から得られる。ジオール又は二塩基酸は環状モノマーの開環重合を開始させるために適切に用いられる。
【0027】
本明細書で使用する「膨潤性」という用語は、ポリマーによる水の取り込みを指すものとする。膨潤比は水で膨潤したコポリマーの質量を乾燥コポリマーの質量で割ることにより計算することができる。
【0028】
本明細書で使用する「半結晶性」という用語は、二つの異なる相、非晶質相と結晶相を含むマルチブロックコポリマーのモルホロジーを指すものとする。好ましくは、マルチブロックコポリマーは非晶質相と結晶相から構成される。
【0029】
本明細書で使用する「生物活性化合物」という用語は、治療又は予防効果を提供するいかなる剤として広く解釈されることを意図している。このような剤としては、抗菌剤(抗細菌剤及び抗黴剤を含む)、抗ウイルス剤、抗腫瘍剤、ホルモン、及び免疫原剤が挙げられるが、これらには限定されない。
【0030】
本明細書で使用する「生物活性ポリペプチド」という用語は、哺乳動物の身体で、より多くの場合特に人体で生物学的に活性なペプチド及びタンパク質を指すものとする。
【0031】
本発明の半結晶性相分離マルチブロックコポリマーは上記の短所と制限の一つ以上を克服する。水溶性ポリマー(例えば、親水性PEGセグメント)由来のセグメントの存在により、相分離マルチブロックコポリマーは水性環境下で膨潤し、タンパク質のような生物活性化合物にとって生来の環境を提供する膨潤ヒドロゲルを形成する。本発明のマルチブロックコポリマーを、生物活性化合物を送達するための制御放出製剤のポリマーマトリクスとして応用する場合、マルチブロックコポリマーの膨潤性により、ポリマー鎖の加水分解の間に形成される酸性分解生成物のポリマーマトリクス中への蓄積を防止することができる。代わりに、そのような分解生成物がマトリクスから放出され、それによりカプセル化された生物活性化合物にとって有害となるであろうポリマーマトリクス内酸性ミクロ環境の形成を防止する。さらに、本発明の相分離マルチブロックコポリマーの膨潤性により、カプセル化された化合物はいずれも拡散により徐々に放出されることができ、これによりポリ(D,L−ラクチド)又はポリ(乳酸−co−グリコール酸)のような非膨潤性生物分解性ポリエステルについて典型的に得られる二相又は三相の放出パターンを防止することができる。
【0032】
本発明のマルチブロックコポリマーは生理学的条件下で110〜250℃のTmを有する。これはプレポリマーセグメントBによるものである。セグメントBはPLLA、ポリ(D−乳酸)(PDLA)、ポリグリコール酸(PGA)若しくはポリヒドロキシブチレート(PHB)のような結晶性ポリマー、又は結晶性ポリマーの組み合わせに基づいている。最も好ましくは、セグメントBはPLLAからなるプレポリマーに基づいている。本発明の相分離マルチブロックコポリマーの非晶質相は主としてソフトAセグメントからなる。驚くべきことに、本発明者らはハードセグメントBの非晶質相もまた本発明のマルチブロックコポリマーの全体的な非晶質相に貢献する。
【0033】
WO−A−2004/007588に記載されたマルチブロックコポリマーについて、Bセグメントとして用いるべきプレポリマーの選択は、プレポリマー(B)のTmが(生物医学応用に用いられる共通のポリエステルに関し)40〜100℃の範囲にあるため、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリ(バレロラクトン)(PVL)、及びポリ(ジオキサノン)(PDS)に制限される。本発明に従って、プレポリマー(B)のTmは好ましくは110〜250℃の範囲にある。結果として、プレポリマー(B)はこれまでに考慮されなった化学的に異なるプレポリマーのリストから選択することができる。本発明者らは、プレポリマー(B)の異なる化学反応によりマルチブロックコポリマーを与え、これらがWO−A−2004/007588に記載されたコポリマーでは得られない有利な特性を発揮することを見出したのである。
【0034】
PDSをセグメントBとして用いる場合、80〜90℃のTmを有するマルチブロックコポリマー(US−A−5,711,958)が得られる。PCLをセグメントBとして用いる場合、40〜60℃のTmを有するマルチブロックコポリマー(US−A−5,711,958)が得られる。PVLホモポリマーはPCLホモポリマーと同様におよそ60℃のTmを有する。PVLセグメントをセグメントBとして用いる場合、およそ40〜60℃のTmを有するマルチブロックコポリマーが得られる。PDS、PCL、及びPVLは半結晶性であり、従ってTmのほかにTgも有する。PDS、PCL、及びPVLはすべて、それぞれおよそ−10℃、−60℃及び−70℃というそれぞれの非晶質相の低いTgを有する。ブロックBの温度範囲を110〜250℃に上げると、PLLA、PDLA、PGA、及びPHBを使用する可能性が開けてくる。これらのポリマーはそれぞれ約50℃、35℃、及び0℃のより高いTgを有している。ハードBセグメントにいずれのポリマーを用いるかにかかわらず、これらのハードBセグメントは常にそれ自身で半結晶性、即ち、部分的に非晶質である。驚くべきことに、ハードBセグメントの非晶質部分はソフトAセグメントと(部分的に)相混合し、従って両者ともマルチブロックコポリマーの全体Tgに寄与している。それ故、非晶質相のTgはセグメントAのTg及びセグメントBのTgの両方によりセグメントA/Bのモル比と組み合わせて決定される。Tgはプレポリマー(A)(プレポリマーA/B比が1に近いものを用いる場合)に近いTgから、プレポリマー(B)(プレポリマーA/B比が0に近いものを用いる場合)に近いTgにまで変化することができる。重要なことには、ポリマーマトリクス中にカプセル化された活性剤の放出は、活性剤の拡散が非晶質相を介して起こり、密度の高い結晶相を介して起こるのではないため、非晶質相のTgに強く依存する。ポリマーの分解速度もまた、非晶質相のTgが水流入の速度に影響を与え、それ故加水分解の速度に影響を与えるので、非晶質相のTgに強く依存する。比較的高いTgを有するTm110〜250℃のプレポリマー(B)を使用することにより、Tm40〜100℃と比較的低いTgを有するプレポリマー(B)で得られたであろうよりもずっと広い範囲のTgをカバーすることができる。結果として、このようなプレポリマー(B)を用いて110〜250℃の範囲のTmを有するマルチブロックコポリマーを調製すると、ポリマーのずっと広い範囲の放出及び分解特性が可能となり、従ってまた、様々な生物活性化合物の放出についてより良好な制御が可能になる。
【0035】
さらに、本発明のマルチブロックコポリマーのより高いTmにより、周囲条件でダブルエマルジョン過程により、べたつきがないが依然として短いBセグメントを有するミクロスフェアの調製が可能になる。結晶化可能なBセグメントの長さに制限があることは、より高い分子量の結晶性PLLAポリマーとは逆に、生理学的条件下で十分に分解するマルチブロックコポリマーを得るために重要である。対照的に、短いPCLブロックはミクロスフェア形成の間、結晶性ドメインを形成しないので、ミクロスフェアは、セグメントBが短いPCLからなるマルチブロックコポリマーを用いて作成することはできない。結果として、ポリマーは非晶質のままである。非晶質ポリマーの低いTgのため、ポリマーは粘着性であり、そのためミクロスフェアが抽出/蒸発プロセス工程の間、凝集して一緒に融合する。PVLはPCLに近いTmを有するので、ミクロスフェアはセグメントBが短いPVLプレポリマーからなるマルチブロックコポリマーを用いて作成することができないということが予想される。PDS又はPDSコポリマーからなるミクロスフェアについては文献には一切言及されていない。文献からは、速い冷却速度及び/又は低いPDS分子量では、PDSの結晶化が遅く不完全であることが知られている。これらの結果は、短いPDSブロックであるセグメントBを有するマルチブロックコポリマーを用いるダブルエマルジョンプロセスによってはミクロスフェアを調製することが可能ではないことを予想させる。
【0036】
理論的には、110〜250℃のTmを有するプレポリマー(B)で作成した、周囲条件でのミクロスフェアの保存安定性は、40〜100℃のTmを有するプレポリマー(B)に比べて改良されている。Tmが増加するとTcを増大させ、従ってミクロスフェアの結晶性を増大させる。結晶性が高くなるとポリマーマトリクス中にカプセル化された生物活性化合物の分子移動性が減少し、生成物の保存安定性が改良されるであろう。結晶性が高くなれば粒子の保存安定性が増大することは文献から知られている。また、110〜250℃のTmを有するプレポリマーBは40〜100℃のTmを有するプレポリマー(B)に比べてより高いTgを有している。非晶質粒子と同様、半結晶性粒子について、Tgの上昇が保存安定性を改良することは文献から知られている。
【0037】
本発明のマルチブロックコポリマーは更に、結晶化可能なセグメントがPCLに基づいているマルチブロックコポリマーに比べて、分解速度が改良されている。これは、本発明のマルチブロックコポリマーにおけるBセグメントがPCLに比べて疎水性が小さいためである。
【0038】
結晶化可能なセグメントがPDSに基づいているマルチブロックコポリマーの合成は、PDSモノマー、p−ジオキサノンの重合が制限されることにより妨害され、通常の溶媒におけるPDSの安定性が制限されることにより妨害される。p−ジオキサノンが比較的低い上限温度を有し、約80%の最大変換率となることは周知である。対照的に、ラクチドやグリコリドのような、本発明のマルチブロックコポリマーに使用されるモノマーは容易に重合され、95%を超える転換率とすることができる。PDSを含むポリマーの溶解性が制限されることはまた、制御放出製剤の調製のためにそれを使用することも制限される。
【0039】
PLLAベースのセグメントBからなる本発明のマルチブロックコポリマーは、PDLAを追加のBセグメントとして加えることができるというもう一つの利点を有し、結晶性が向上し、分解速度が減少したマルチブロックコポリマーを与えるが、これはL−ラクチドエナンチオマーだけからなる結晶性PLLAセグメントのTmより約50℃高い、220℃ほどの高いTmを有するPLLA/PDLAステレオコンプレックス結晶の形成によるものである。
【0040】
本発明のマルチブロックコポリマーにおいて、水溶性ポリマー由来のセグメントの含量は、疎水性(結晶性)セグメントのブロック長とは独立に変化させてもよい。それ故、結晶性を維持しながら、水溶性ポリマー由来のセグメントの含量を高くすることもできる。更に、本発明のマルチブロックコポリマーの固有粘度(IV)は、Kissel et al.により記載されたABAトリブロックコポリマーとは対照的に、組成とは独立して変化させることができる。本発明のマルチブロックコポリマーの変動率が高いので、望ましい分解特性及び薬物放出動力学を得るためにセグメントの長さ、比、及び組成を容易に調整することができる。
【0041】
本発明のマルチブロックコポリマーはさらに、紹介例で言及した構造ABAのブロックコポリマーよりも有利な点がある。ホモ又はランダムコポリマーの代わりに異なるコポリマーのブロックを有するブロックコポリマーを用いることによりポリマー特性を大きく改善することができるが、これらABAコポリマーは依然として或る不利な点を有している。
【0042】
ABAコポリマーの最小分子量を得るために、シーケンスAとBは或る長さを有していなければならない。ブロックは同様の組成を持った個々のホモポリマーとして独立に作用するかもしれない。ABA型のコポリマーの特性はA及びBブロックの組成を変化させることにより調整することができるだけである。他の不利な点は、ブロックコポリマーはすべてのモノマーの完全な変換と、十分な分子量を得るために、不活性条件下で比較的高温(>100℃)で調製しなければならない。第一の不利な点はブロック又はセグメントがはるかに短く、100℃未満の温度で行われた化学反応によって一緒に結合されたマルチブロックコポリマーを用いることにより解決することができる。分解作用といった特性は、セグメント長、比、及び組成の適切な組み合わせを選択することによりはるかに良好に調整することができる。
【0043】
さらに、ABAブロックコポリマー(及びその誘導体)を調製するプロセスで用いられる比較的高温のために、常にエステル交換反応の可能性があり、その結果、一定量の相の混合が生じる。本発明のマルチブロックコポリマーは、あらかじめ決定したモノマー組成で、かなり低い温度(<100℃)でプレポリマーを結合することにより調製することができ、それによりエステル交換反応や、望ましくない分解や他の副生物の生成を起こすかもしれない他の副反応を避けることができるので、この不利な点を被ることがない。このことは、ランダムコポリマーの合成に通常適用されるように、コポリマーのモノマーシーケンス長が反応時間や温度によってよりもむしろ、構成成分の選択により決定づけられることを意味している。多機能性鎖延長剤を用いてプレポリマーを結合することにより調製された本発明のマルチブロックコポリマーのもう一つの利点は、プレポリマーセグメントがコポリマー中にランダムに分布し、そのため特性を調整する可能性をはるかに多く提供することである。ランダムマルチブロックコポリマーは例えばABBBBABAAABBAAAAA...などである。本発明のランダムマルチブロックコポリマーは、交互的なマルチブロックコポリマーでは得られない多くの利点を提供する。
【0044】
まず、A及びBブロックの鎖延長剤により得られるランダムマルチブロックコポリマーにはA対Bの比に制限がない。A:Bは例えば、10:90でもよいが、同様に90:10であってもよい。逆に、交互マルチブロックコポリマーにおけるブロックの比は鎖延長されたポリマーで用いられる比に制限される。例えば、ABの鎖延長剤の場合には、マルチブロックコポリマーにおけるA:B比は50:50である。本発明のマルチブロックコポリマーのランダムな性質は材料の組成の可能性を大きく広げ、そのため物理的及び化学的特性の制御を大きく向上させる。これには、水への膨潤性能、モルホロジー(相分離、非晶質/結晶性)、及びポリマー分解の良好な制御も含んでいる。
【0045】
第二に、本発明のランダムマルチブロックコポリマーの合成方法は、交互マルチブロックコポリマーの合成に比較して時間も労力もはるかに少なくて済む。交互マルチブロックコポリマーでは、ABジブロックの場合セグメントAもBも、又はACAトリブロックの場合のセグメントA及びCは、鎖延長に先立って結合しておかなければならない(或いはマクロ鎖延長剤を合成しておく必要がある)。ランダムマルチブロックコポリマーでは、別々のA及びBブロックは、例えば、市販の鎖延長剤で鎖延長される。
【0046】
本発明のマルチブロックコポリマーのもう一つの利点は、それらが多機能性(好ましくは脂肪族)鎖延長剤に基づいていることである。鎖延長剤のタイプ及び量を選択することにより、ポリマーの特性は影響を受ける(例えば、鎖延長剤は柔軟剤として作用することもでき、又は相分離の程度に影響を与えることもできる)。そのため、望ましい特性を持ったポリマーを得るための自由度の総合的な程度は、従来技術のポリマーに比べて増大する。
【0047】
本発明によれば、水性環境下、投与時の生理学的環境下で十分に膨潤して、カプセル化したペプチド又はタンパク質の水性ミクロ環境を提供し、ペプチド及びタンパク質の拡散制御放出を可能にする相分離マルチブロックコポリマーが提供される。かくして材料は機械的強度の顕著な減少を示す。そのような材料は乾燥条件下で形状記憶材料として用いることができ、記憶された形状に移る前に大きな機械的強度の減少(例えば、外部からの引き金として温度や光による)を示すこともないのであるが、これらの材料は水和条件下で大きさの有意な変化や機械的強度の有意な減少を示すのである。これは単に、これらの材料がその親水性能により有意の量の水を吸収し、材料が大きな膨潤と可塑化をひきおこすからである。結果として、ヒトや動物の体内で見られる生理学的条件のような水和条件下では、これらの材料から調製された構成体の大きさは大きく変化し、これらの材料の機械的特性は桁違いに変化する。本発明のマルチブロックコポリマーとは対照的に、US−A−5,711,958に記載された形状記憶材料は、ヒトや動物の体内で見られる生理学的条件のような水和性条件下でもほとんど膨潤しないのである。
【0048】
本発明の相分離ポリエステル又はポリエステル−カーボネートは有望な一群のバイオ材料であり、薬物放出に対し優れた制御を提供し、ポリペプチドのような生物活性化合物の放出を可能にするため、様々な薬物送達用途に用いることができる。
【0049】
マルチブロックコポリマーのモルホロジー(又はそれから作成された構築物)は環境条件に依存する。DSC(示差走査熱量測定)測定は不活性(乾燥)条件下で行うことができ、結果は乾燥材料の熱特性を決定するのに用いることができる。しかし、生理学的条件下(即ち体内での)モルホロジー及び特性は周囲条件下(乾燥、室温)でのモルホロジー及び特性とは異なるかもしれない。本明細書において用いられる転移温度Tg及びTmが、インビボで適用されたときの;つまり、体温で水蒸気で飽和された雰囲気で平衡にある場合の、材料の対応する値を指すものであることは理解されるべきである。これは材料を水飽和雰囲気で平衡にさせた後にDSC測定を実行することによりインビトロでシミュレートすることができる。乾燥状態では、本発明で用いる材料は哺乳類の体内条件よりも幾分高いTg値を有することがある。即ち、乾燥材料をDSCに付したときに、最初の変曲点はより高温で、例えば42℃又は50℃、或いはそれ以上で生じるかもしれない。しかし、インビボでの適用では、乾燥材料のTg及び/又はTmは水の吸収の結果として降下し、これがポリマーを可塑化し、この最終的なTgは本発明によれば体温周辺以下となるはずである。最終的なTmは生理学的条件下で110℃と250℃の間の温度に存在するはずである。
【0050】
例えば、ソフトセグメントにPEGを含むポリマーは周囲温度の乾燥状態で結晶化しうるが、湿潤条件下では非晶質であり、非晶質柔軟化PEGとポリエステル/カーボネートにより形成されたソフトセグメントの混合したTg又は二つの別々のTgを与える。本発明のコポリマーの相分離特性はTg又はTmのプロファイルに反映される。相分離コポリマーは少なくとも二つの相転移によって特徴付けられ、その各々はコポリマー中に含まれているプレポリマーの対応するTg又はTm値に関連する(が、一般にそれと同一ではない)。Tgは、例えばDSCにより測定することができるように、特異的なヒートジャンプの中点を取ることにより求められる。Tmは、
図1に模式的に示すように、融点のピーク最大値であり、これはTgとTmによって特徴付けられるコポリマーの熱流量吸熱であることを示している。本明細書で定義したように、特定のプレポリマーのTg及びTmの値はコポリマーについて測定された値を反映している。プレポリマーが完全に非相溶性の場合は、コポリマーのTgは非晶質「ソフト」プレポリマーのTgによってのみ支配される。しかし、実際には、マルチブロックコポリマーの結晶性及び非晶質の相の組成はソフトAセグメントと半結晶性Bセグメントの組成と同一ではない。プレポリマーを形成する元のハードセグメントの非晶質部分はプレポリマー(A)を形成するソフトセグメントと混合するであろうし、従って非晶質相の一部となる。非晶質相のTg値はそのため使用したプレポリマーのそれとは異なる。相溶性の程度(それ故、Tg及び/又はTmと対応するプレポリマーのTg及び/又はTmとの偏差)はコポリマーのプレポリマー組成、比及びセグメント長に依存する。コポリマーセグメントのTgは一般に相混合コポリマーのTg値と分離プレポリマーのTg値との間に存する。
【0051】
マルチブロックコポリマーの物理化学的特性(例えば、分解、膨潤及び熱特性)はプレポリマーを形成するソフト及びハードセグメントのモノマーのタイプや鎖長や鎖比を変えることにより、また鎖延長剤のタイプと量を選択することにより、容易に調整することができる。更に、相転移温度は融解しているポリマーを処理するのに十分なほどに低い。モノマー比とコポリマーの分布は重合条件を変えることにより容易に制御できる。
【0052】
結晶性セグメントBが通常非粘着性材料を得るために望ましい。また、ポリマーマトリクスの膨潤を制御するために、相分離モルホロジーは非晶質及び結晶質ドメインとともに、生理学的条件(即ち、体温での水性環境)に曝露している間維持しなければならない。膨潤度の制御はカプセル化された化合物の放出を制御するためには非常に重要である。結晶性Bセグメントは、より親水性の高いソフトセグメントの膨潤を制御する物理的架橋として作用する。ハードセグメントBの含量により影響を受けるほか、ポリマーの膨潤度はソフトAセグメント中の水溶性ポリマーの含量及び分子量/長さに依存する。
【0053】
先述のように、相分離セグメント化コポリマーの要件は、生理学的条件下で、ポリエステルセグメントBのTmが110〜250℃の範囲にあり、セグメントAのTgが37℃以下であるということである。マルチブロックコポリマーにおけるセグメントBのTmは一般的に、反応していないプレポリマー(B)のそれよりも低いが、これはプレポリマーがマルチブロックコポリマー中に組み込まれると鎖の柔軟性が減少し、結晶相でマルチブロックコポリマーの他の化合物の相混合が考えられるためである。良好な相分離を有するセグメント化されたコポリマーの重要なクラスは、結晶性PLLAからなるハードセグメントBに基づくコポリマーである。本発明者らは、PLLAベースのBセグメントを有するマルチブロックコポリマーが生理学的条件下で少なくとも110℃のTmを有することを示した。これらのマルチブロックコポリマーは幾つかの利点を提供する。広い範囲の分解速度が得られる。ハードセグメントBを形成するプレポリマー(B)は結晶性PLLAに基づいており、そのようなポリマーは分解が極めて遅いことが知られている。一方、プレポリマー(A)は水溶性ポリマー及び非晶質ポリエステルに基づくポリマーである。このようなポリマーは分解が比較的速いことが知られている。最終分解速度はセグメントA/セグメントB比により決定され、従って容易に調整することができる。放出はとりわけマルチブロックコポリマーの分解速度により支配されるので、これもまたセグメントA/セグメントB比により調整することができる。また、結晶性はPLLAをPDLAと混合してステレオコンプレックスを形成することにより容易に上昇させることができる。ステレオコンプレックス形成は単一のエナンチオマーに比べてより高い結晶性をもたらし、またより高い(単一エナンチオマーより〜50℃高い)Tmをもたらす。更に、PLLAベースのBセグメントを有するマルチブロックコポリマーのTgは約−40から40℃までの広い範囲で変化しうる(乾燥条件下で測定)。分解速度と放出速度はとりわけ、マトリクスのTgにより支配されるので、この広いTg範囲はまた放出と分解特性の大きな調整をもたらす。
【0054】
一般に、(一つの融点と少なくとも一つの低Tg値により反映される)望ましい相分離モルホロジーは組成物を変更することにより、例えばA及びBプレポリマーの数平均分子量Mnを選択することにより得ることができる。セグメントA/セグメントB比を変化させることにより相分離モルホロジーに影響を与えることもできる。
【0055】
本発明のセグメント化マルチブロックコポリマーは、生理学的(体内)条件で加水分解可能で典型的には完全に非晶質であるプレポリマー(A)由来のソフトセグメント(A)を含む。更に、プレポリマー(A)は好ましくは、生理学的(体内)条件下で測定したとき37℃以下、好ましくは25℃以下のTgである少なくとも一つの相転移を有する。このセグメントはマルチブロックコポリマー中で非晶質相の一部をなすことになり、この非晶質相は本願明細書では相(A)と呼ぶ。本発明のコポリマーはまた、プレポリマー(B)由来のハードセグメントBを含み、典型的には生理学的(体内)条件で測定したとき110〜250℃のTmを有する半結晶性の加水分解性のポリマーを含む。セグメントBは相(B)に大きく貢献する。「ソフト」及び「ハード」セグメントをそれぞれ形成するプレポリマーA及びBは多機能性鎖延長剤により結合される。典型的には、結晶相はハードセグメントBからなり、非晶質相はソフトセグメントAと、セグメントBの非晶質部分からなる。結晶性及び非晶質相は体内条件では非相溶性であるか、又は部分的にしか相溶性ではなく、即ち相分離している。多機能性鎖延長剤は好ましくは脂肪族分子である。
【0056】
得られた本発明のマルチブロックコポリマーは、好ましくは式(1)の構造を有する。
−[R
1−H−R
1−Q
1−R
4−Q
2]
x−[R
2−Q
3−R
4−Q
4]
y−[R
3−Q
5−R
4−Q
6]
z− (1)
ここでR
1はセグメントAの一部であり、これは相(A)の一部でもあり、非晶質ポリエステル、非晶質ポリエーテルエステル、若しくは非晶質ポリカーボネート;又は組み合わせたエステル、エーテル、及び/又はカーボネート基から得られる非晶質プレポリマーであってもよい。HはセグメントAの中央ブロックであり、水溶性ポリマーに由来する。水溶性ポリマー由来のブロックは室温で非晶質又は半結晶性であることができる。しかし、セグメントAにこのように導入されたブロックHは生理学的条件で非晶質となる。この水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリテトラメチレンオキシド(PTMO)、及びポリプロピレングリコール(PPG)のようなポリエーテル;ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルカプロラクタム、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(ポリ(HEMA))、ポリホスファゼン、ポリオルトエステル、ポリオルトエステルアミド、又は上記ポリマーのコポリマーからなる群から選ばれる。好ましくは、HはPEGであり、これはR
1を形成する環状モノマーの開環重合の開始剤である。
【0057】
R
2はセグメントBであり、主として又は全体的に相(B)に貢献する。R
2は結晶性又は半結晶性のポリエステル、ポリエーテルエステル、ポリカーボネート、若しくはポリ無水物;又は組み合わせたエステル、エーテル、無水物、及び/又はカーボネート基でもよい。相R
2の一部は非晶質である可能性もあり、この場合R
2のこの部分は相(A)に貢献する。R
1とR
2は同一でないことが好ましい。変数zはゼロか正の整数である。変数xとyはいずれも正の整数である。
【0058】
セグメントR
3は任意的に存在する。このセグメントは、Hについて述べたポリマーの群から選ばれる水溶性ポリマーに由来する。R
3は生理学的条件下では非晶質相(A)の一部となるであろう。R
3が存在する場合は、本発明のマルチブロックコポリマーは水溶性ポリマーを追加のプレポリマーとして含む。好ましくは、この水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリテトラメチレンオキシド(PTMO)、及びポリプロピレングリコール(PPG)のようなポリエーテル;ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルカプロラクタム、ポリ(ヒドロキシメチルメタクリレート)(ポリ(HEMA))、ポリホスファゼン、ポリオルトエステル、ポリオルトエステルアミド、又は上記ポリマーのコポリマーからなる群から選ばれる。例えば、該水溶性ポリマーセグメントは150〜5000g/molのMnを有するPEG由来である。
【0059】
R
4は鎖延長剤由来であり、脂肪族C
2−C
8アルキレン基(任意にC
1−C
10アルキレンで置換されてもよい)からなり、脂肪族基は直鎖又は環状である。R
4は好ましくはブチレン‐(CH
2)
4‐基である。C
1−C
10アルキレン側鎖基は保護されたS、N、P又はO部分を含んでもよい。芳香族基を含む鎖延長剤は、望ましくない分解生成物を生じる可能性があるので一般には適さない。そのため、脂肪族鎖延長剤が好ましい。
【0060】
Q
1−Q
6はプレポリマーと多機能性鎖延長剤との反応により得られる結合単位である。Q
1−Q
6の各々は、アミン、ウレタン、アミド、カーボネート、エステル、及び無水物から独立に選択することができる。すべての結合基Qが異なる場合は稀であり、通常は好ましくない。
【0061】
典型的には、鎖延長剤の一つのタイプは、同じ末端基を有する3つのプレポリマーとともに用いることができ、その結果、6つの同様の結合基を持った式(1)のコポリマーが得られる。
【0062】
プレポリマーR
1とR
2が異なる末端基を有する場合、二つのタイプの基Qが存在することになる。例えば、Q
1とQ
2は二つの結合したセグメントR
1の間では同じであるが、R
1とR
2が結合している場合はQ
1とQ
2は異なる。式(1)の例は二官能性の鎖延長剤と二官能性のプレポリマーとの反応の結果を示す。
【0063】
式(1)に関し、本発明のポリエステルはまた、セグメント(AB)rのランダム分布を有するマルチブロック又はセグメント化コポリマーとして表されてもよく、「A」はセグメントAに対応し、「B」はセグメントBに対応する(z=0)。(AB)rにおいて、A/B比(式(1)のx/yに対応)は1であってもよく、1からはずれてもよい。プレポリマーは望ましい量で混合することができ、多機能性鎖延長剤、即ちプレポリマーを化学的に結合するために用いることのできる少なくとも二種の官能基を有する化合物、で結合することができる。これは二官能性鎖延長剤であることが好ましい。z≠0の場合、すべてのセグメントのランダム分布は、3つの異なるプレポリマー(一つはPEGのような水溶性ポリマー由来のセグメント)があらゆる可能性のある比率でランダムに分布した(ABC)rによって提示される。
【0064】
a及びb(場合によりc)セグメントが(AB)r及び(ABC)r中に形成されたプレポリマーは多機能性鎖延長剤により結合される。この鎖延長剤は好ましくはジイソシアネート鎖延長剤であるが、これはまた、二酸又はジオール化合物であることができる。プレポリマーがすべて、水酸基末端基を含み、ジイソシアネート鎖延長剤が使用される場合には、結合単位はウレタン基であろう。プレポリマー(の一つ)がカルボン酸末端である場合は、結合単位はアミド基である。構造(AB)r及び(ABC)rを持ったマルチブロックコポリマーはまた、エステル結合を形成するDCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)のような結合剤を用いて、ジカルボン酸末端プレポリマーとジオール鎖延長剤、又はその逆(ジオール末端プレポリマーと二酸鎖延長剤)の反応によって調製することができる。
【0065】
上述のように、ランダムにセグメント化されたコポリマーは、セグメントA及びBのランダム分布を持った(即ち、交互ではない)コポリマーのことを指す。セグメントA及びBの場合は、これは(AB)rで表され、セグメントA、B及びCの場合は、これは(ABC)rで表される。
式(1)の加水分解可能なセグメントR
1−H−R
1はプレポリマー(A)の反応により得られる。
【0066】
プレポリマー(A)は例えば、開環重合により調製することができる。従って、プレポリマー(A)は、好ましくはランダムなモノマー分布を有するジオール又は二酸化合物によって開始される開環重合によって調製される加水分解可能なコポリマーであってもよい。ジオール化合物は好ましくは脂肪族ジオール又はPEGのような低分子量ポリエーテルである。ポリエーテルは開始剤として用いることによりプレポリマー(A)の一部であり、プレポリマー(A)と付加的に混合して、式(1)の追加的な親水性セグメントR
3を形成する。プレポリマー(A)は加水分解可能な、ポリエステル、ポリエーテルエステル、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリ無水物又はそれらのコポリマーであってもよい。例えば、プレポリマー(A)は、ジオール、二カルボン酸、及びヒドロキシカルボン酸から選ばれる、エステル形成モノマーの反応生成物を含む。プレポリマー(A)は環状モノマー及び/又は非環状モノマーの反応生成物を含むことができる。例示的な環状モノマーとしては、グリコリド、ラクチド、ε‐カプロラクトン、δ‐バレロラクトン、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、1,5−ジオキセパン‐2‐オン、1,4−ジオキサン‐2‐オン(パラジオキサノン)及び/又はオキセパン‐2,7−ジオンのような環状無水物が挙げられる。一例では、L−ラクチド、D−ラクチド及び/又はD,L−ラクチドが用いられる。
【0067】
Tg37℃未満という要件を満たすために、上記のモノマー又はモノマーの組み合わせの幾つかは他のものよりも好ましい。例えば、モノマーラクチド及び/又はグリコリドを含むプレポリマー(A)は、好ましくは、他に言及された環状コモノマー(ε‐カプロラクトン、δ‐バレロラクトン、トリメチレンカーボネート、1,4−ジオキサン‐2‐オン及びそれらの組み合わせ)のいずれかと組み合わせられる。これはそれ自身でTgを下げることができる。或いは、プレポリマーは十分な分子量を持ったPEGで開始され、マルチブロックコポリマーのTgを下げる。
【0068】
プレポリマーAがポリ(D,L−ラクチド)を含む場合、ラクチドのL/D比は単一の値からはずれる(50/50以外)ことがありうる。例えば、85/15と15/85の間のL/D比は完全に非晶質のホモポリマーを与える。さらに、一つの異性体(L又はD)が他方よりも過剰となるとポリ(D,L−ラクチド)のTgを上昇させることは知られている。非晶質相を構築する上記の他の少量のモノマーは、プレポリマー又はブロックを形成する結晶相中に存在していてもよい。
【0069】
さらに、プレポリマー(A)はヒドロキシ酸(例えば、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸)、二酸(例えば、グルタール酸、アジピン酸、又はコハク酸、セバシン酸)及びエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール又は1,6−ヘキサンジオールのようなジオールのような、エステル及び/又は無水物加水分解性部分を形成する、縮合(非環状)型モノマー(の混合物)に基づくことができる。
【0070】
式(1)のセグメントR
2は、モノマーL−ラクチド、D−ラクチド、ヒドロキシブチレート、グリコリド、又はこれらのモノマーの組み合わせであって、生理学的条件下で110℃と250℃の間で相転移を有するステレオコンプレックスを形成するモノマーに由来するプレポリマー(B)の反応によって得ることができる。好ましくは、セグメントBはL−ラクチドモノマーの反応により得られる。
【0071】
典型的には、プレポリマー(B)は1000g/mol以上、好ましくは2000g/mol以上、より好ましくは3000g/mol以上のMnを有する。一般に、プレポリマー(B)のMnは10000g/mol以下である。コポリマー中のプレポリマー(B)の含量は、マルチブロックコポリマーの総重量に対して、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは25〜70重量%、最も好ましくは30〜50重量%である。
【0072】
プレポリマーは好ましくは、反応性末端基を有する直鎖又はランダム(コ)ポリエステル、ポリエステル−カーボネート、ポリエーテルエステル、又はポリ無水物である。これらの末端基は水酸基又はカルボキシル基であってもよい。ジヒドロキシ末端コポリマーを有することが好ましいが、ヒドロキシ−カルボキシル又はジカルボキシル末端ポリマーもまた使用できる。ポリマーが直鎖状でなければならない場合は、スターターとして二官能性成分(ジオール)で調製することができるが、3つ以上の官能性ポリオールを用いる場合は、星型ポリエステルが得られる。プレポリマー(A)中のジオールは脂肪族ジオール又は低分子量ポリエーテルであることができる。
【0073】
開環重合によるプレポリマー合成は好ましくは触媒の存在下で行われる。適当な触媒はM/I=5000〜30000(M/Iはモノマーの開始剤に対する比である)のSn(Oct)
2である。触媒なしで合成を行うことも可能である。
【0074】
ポリエステル、ポリカーボネート及びポリ無水物を調製する条件は当業界で知られている。
【0075】
本発明のコポリマーは一般的に直鎖状である。しかし、分岐状のコポリマーを調製することも可能である。本発明のこれらの非直鎖状コポリマーは、トリイソシアネートのような三官能性(又はそれ以上の官能性の)鎖延長剤を用いることにより得ることができる。分岐状コポリマーは改良されたクリープ特性を示すことができる。
【0076】
結晶化可能なハードセグメントについて、プレポリマーの長さ(Mn)はコポリマー中で結晶化できるのに十分な長さでなければならない。例えば、プレポリマーを形成するPLLAハードセグメントは好ましくは700g/mol以上、より好ましくは2000g/mol以上、最も好ましくは3000g/mol以上のMnを有する。PLLAプレポリマーが長いほど、より少ないハードセグメント含量で相分離モルホロジーが得られることが期待される。相分離が観察されるプレポリマー比はそのためプレポリマー長さに依存する。一般に、コポリマー中でソフト及びハードセグメントを形成するプレポリマーの長さは、相分離モルホロジーが観察される値でなければならず、相分離(非相溶性)の程度は生物医学装置の望ましい特性にとって好都合である。
【0077】
プレポリマー(A)を形成するソフトセグメントは500g/mol以上、好ましくは1000g/mol以上、より好ましくは2000g/mol以上のMnを有することができる。プレポリマーの長さは、プレポリマーが、得られるコポリマーの良好な相分離モルホロジーと良好な機械的熱的特性を得るのに必要な程度に大きくなるように選ばなければならない。プレポリマー長は重合温度で鎖延長剤とともに混和性である程度に十分低いものでなければならない。典型的には、これはMnが10000g/mol以下であるときに達成される。
【0078】
一般に、ハードセグメント含量がマルチブロックコポリマーの総重量に対して10〜90重量%、好ましくは25〜90重量%の範囲であれば、応用時の温度(即ち、医療用途では約37℃)で良好な分解及び膨潤特性を持った柔軟性のある熱可塑性の材料が得られる。
【0079】
更なる局面では、本発明は、本発明の相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマーを調製する方法であって、多機能性鎖延長剤の存在下でプレポリマー(A)とプレポリマー(B)の鎖延長反応を含み、それによりランダムセグメント化マルチブロックコポリマーを得る上記方法に関する。
【0080】
(AB)r及び(ABC)r構造を有するセグメント化されたマルチブロックコポリマーは、R
1、H及びR
2セグメント、場合によりR
3セグメントのモノマーを形成するハード及びソフトセグメントを、等量の多機能性鎖延長剤、好ましくは脂肪族分子、より好ましくは1,4−ブタンジイソシアナート(BDI)のようなジイソシアナートとともに望ましい比率で含む、プレポリマーの混合物を鎖延長することにより作製することができる。(AB)r及び(ABC)r構造のセグメント化コポリマーは好ましくは溶液中で作成される。適切には、プレポリマーを不活性有機溶媒に溶解し、鎖延長剤をそのまま又は溶液で添加する。重合温度はプレポリマーの最も高い相転移温度と同じかそれよりもずっと低くてもよい。ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)とのカップリング反応は好ましくは溶液で行われる。2種(又は3種)のプレポリマーで末端がすべてジオール又は二酸のものをそれぞれ、二酸又はジオール末端の鎖延長剤とともに溶液で混合することができ、その後DCCを添加する。
【0081】
重合は0.1dl/g以上(クロロホルム中25℃で測定)のコポリマーの固有粘度を得るのに十分な時間行う。低い重合温度と短い重合時間であればエステル交換反応を避けることができ、相分離モルホロジーが得られ、モノマー分布がコポリマーを構築するプレポリマーと同じになる。逆に、すべてのモノマーの取り込みを十分に行うには、高分子量ランダムコポリマーをより高い温度(>100℃)でずっと長い時間をかけて調製しなければならない。その時間の間、エステル交換反応が起こり、よりランダムな(即ち、よりブロック性の少ない)モノマー分布が得られる。
バルクでの鎖延長により得られる材料も押出機中でインシチュで製造することができる。
【0082】
もし鎖延長剤が二官能性の脂肪族分子で、プレポリマーが直鎖状であれば、直鎖状コポリマーが作成される。もし反応物の一つ(鎖延長剤又は少なくとも一つのプレポリマーのいずれか)又は両方が二つを超える官能基を有する場合は、分岐構造が十分低い転換率で得られるであろう。鎖延長剤は二官能性脂肪族鎖延長剤、好ましくは1,4−ブタンジイソシアナートのようなジイソシアナートとすることができる。
【0083】
結晶性及び非晶質相形成プレポリマー又はモノマーの組み合わせは、望ましい分解、膨潤、物理的又は熱特性を持った相分離セグメント又はブロックコポリエステル又はポリエステル‐カーボネートが得られるように選ばれる。典型的には、固有粘度(クロロホルム中25℃で測定)は0.1dl/gより大きく、10dl/gより小さく、好ましくは0.1〜2dl/gの間、より好ましくは0.2〜1dl/gの間である。
【0084】
マルチブロックセグメント化コポリマーは、例えば乳化プロセス、押出、成形、溶媒キャスト、スプレー乾燥、スプレー凍結乾燥、エレクトロスピニング、又は凍結乾燥のような公知の技術を用いて、様々な形状と大きさの製剤に形成することができる。後者の技術は多孔性材料を形成するのに用いられる。多孔性は共溶媒、非溶媒、及び/又は浸潤(leachables)の添加により調整することができる。コポリマーは(固体又は多孔性のいずれかで)、ミクロスフェア、ミクロ粒子、ナノスフェア、ロッド、フィルム、シート、スプレー、チューブ、膜、メッシュ、ファイバー、プラグ、コーティング、及び他の物品に加工することができる。生成物は固体、中空、又は(微)多孔性であることができる。広い範囲の生物医学インプラントは、例えば、傷治療、皮膚回復、神経再生、人工血管、薬物送達、メニスカス再生、組織工学、外科器具のコーティング、靭帯及び腱再生、歯科及び整形外科修復への応用のために製造することができる。コポリマーは単独で使用することができ、或いは他の吸収性又は非吸収性ポリマーとともにブレンド及び/又は共押出することができる。
【0085】
更に、それらは薬学的用途、例えば、薬物送達、例えばミクロスフェア、固体インプラント、ゲル、コーティング、フィルム、シート、スプレー、チューブ、膜、メッシュ、ファイバー、プラグ、及び他の配置の形態で用いることができる。
【0086】
後述の実施例で説明するように、本発明の材料は従来技術で記載されたコポリマーと比較して、熱的、機械的、処理的特性を含む特性が改良されている。
【0087】
更に他の局面では、本発明は少なくとも一種の生物活性化合物(例えば、生物活性小分子、タンパク質、又はペプチド)のホストへの送達のための組成物であって、該少なくとも一種の生物活性化合物がマトリクスにカプセル化されており、該マトリクスが本明細書で定義されるような、少なくとも一種の相分離、熱可塑性マルチブロックコポリマーを含む上記組成物に関する。
【0088】
本発明の生物分解性マルチブロックコポリマーが特にポリペプチドの送達用ビヒクルとして適しており、ポリペプチドのマトリクスからその環境への(例えば、対象の体内への)制御放出を可能にすることが見出された。
【0089】
本発明のマルチブロックコポリマーは特定の応用のために送達組成物の放出特性を調整するために多くの選択肢を有している。生物活性化合物の放出速度は例えば以下により増大させることができる:
・プレポリマー(A)の一定の分子量の下、プレポリマー(A)中の水溶性ポリマーの分子量を上げること;
・プレポリマー(A)とプレポリマー(B)のモル比を上げること;
・プレポリマー(A)中のより速く分解するポリマーを与えるモノマーの含量を上げること、例えばε‐カプロラクトンをD,L−ラクチド又はグリコリドで置き換えたり、D,L−ラクチドをグリコリドで置き換えたりすることによる;
・プレポリマー(A)とプレポリマー(B)のモル比を一定にしてプレポリマー(B)の分子量を下げること(これはプレポリマー(A)重量百分率を上げ、またプレポリマー(B)のTmと存在する結晶相の総量を下げる);
・一定の水溶性ポリマーの分子量とプレポリマー(A)とプレポリマー(B)のモル比でプレポリマー(A)の分子量を下げること;及び/又は
・水溶性ポリマー由来の、追加の第三のセグメントを用いて、水溶性ポリマーの含量を上げること。
【0090】
放出速度が上述のように反対の変化により減少させることができるが、以下によっても減少させることができる。
・セグメントBのTmを上げること、例えばプレポリマー(B)として(PLLA単独の代わりに)PLLAとPDLAの混合物を、PLLAとPDLAの間でステレオコンプレックス形成が生じるような比率で用いることによる;
・水溶性ポリマージオール由来の、追加の第三のセグメントを用いて、ジイソシアナートを鎖延長剤として用い、水溶性ポリマー含量を一定に保つか、或いは減少させること。第三のセグメントにおける水溶性ポリマーはマルチブロックコポリマー中、プレポリマー(A)中の水溶性ポリマーのより速く分解するエステル結合に比べてゆっくりと分解するウレタン結合で構築されている。
【0091】
マルチブロックコポリマーマトリクス中に含ませることができる生物活性化合物は、例えば、ポリ(D,L−乳酸)−コ−PEG−コ−ポリ(D,L−乳酸)−b−PLLA ((PDLLA−コ−PEG−コ−PDLLA)−b−PLLA)マトリクス又はポリ(ε−カプロラクトン)−コ−PEG−コ−ポリ(ε−カプロラクトン)−b−PLLA ((PCL−コ−PEG−コ−PCL)−b−PLLA)マトリクスであり、これらとしては、一般に1000Da以下の分子量を有する非ペプチド、非タンパク質小型薬剤及び生物活性ポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
(PDLLA−コ−PEG−コ−PDLLA)−b−PLLAマトリクス又はPCL−コ−PEG−コ−PCL)−b−PLLAマトリクスのようなポリエーテルエステルウレタンマトリクスに含ませてもよい非ペプチド、非タンパク質小型薬剤の例としては、抗腫瘍剤、抗菌剤(抗生物質、セファロスポリン、アミノグリコシド;マクロライド;テトラサイクリンを含む)、化学療法剤(スルホンアミド;尿路殺菌剤;嫌気性感染用薬剤;結核用薬剤を含む);ハンセン病用薬剤、抗黴剤、抗ウイルス剤、抗蠕虫病剤、抗炎症剤、抗痛風薬、中枢作用(オポイド)鎮痛薬、局所麻酔薬、パーキンソン病薬、中枢作用筋弛緩剤、ホルモン及びホルモンアンチアゴニスト、コルチコステロイド、糖質コルチコステロイド、アンドロゲン、アンドロゲン性ステロイド、タンパク同化ステロイド、抗アンドロゲン、エストロゲン、エストロゲン性ステロイド、抗エストロゲン、プロゲスチン;甲状腺剤、及び抗甲状腺剤が挙げられるが、これらには限定されない。
【0093】
上述のような小型薬剤を(PDLLA−コ−PEG−コ−PDLLA)−b−PLLAマトリクスに含ませる場合は、コポリマーのPEG成分は好ましくは200〜1500g/mol、好ましくは600〜1000g/molの分子量を有し、コポリマー中に、コポリマーの重量の5重量%から20重量%の量で、好ましくはコポリマーの重量の5重量%から10重量%までの量で存在する。一般に、PLLAはコポリマーの重量の20重量%から90重量%の量で、好ましくはコポリマーの30重量%から70重量%の量でコポリマー中に存在する。少なくとも一種の小型薬物分子が0.1重量%から80重量%、好ましくは1.0重量%から40重量%、最も好ましくは5から20重量%の量でマトリクス中に存在してもよい。マルチブロックコポリマーの親水性を上げて、それによりコポリマーの分解速度と、添加された生物活性化合物の放出速度を上げることを望む場合は、親水性セグメントのD,L−ラクチドをグリコリドで部分的に又は完全に置き換えることにより、及び/又はより高分子量のPEG成分を用いることにより、又はプレポリマーセグメント中のPEG成分の重量分画を上げることにより、コポリマーを修飾してもよい。ポリマーの親水性を下げて、それによりコポリマーの分解速度と、添加された生物活性化合物の放出速度を下げることを望む場合は、親水性セグメントのD,L−ラクチドをε−カプロラクトンで部分的に又は完全に置き換えることにより、及び/又はより低分子量のPEG成分を用いることにより、又はプレポリマーセグメント中のPEG成分の重量分画を下げることにより、コポリマーを修飾してもよい。
【0094】
ポリペプチドはペプチド結合で結合したアミノ酸からなる。短いポリペプチドはまたペプチドとも呼ばれるが、より長いポリペプチドは典型的には、タンパク質と呼ばれる。構成アミノ酸から合成で作るのに十分短いポリペプチド鎖はタンパク質よりもペプチドと呼ぶのが一つの慣習である。しかし、より優れた合成手法の出現により、ユビキチンのような完全タンパク質を含めて、数百個のアミノ酸の長さのポリペプチドを作ることができる。非公式ではあるが、約50個のアミノ酸の長さで境界線を引くという慣習もある。この定義はいささか任意のところもある。アルツハイマー病に関連したアミロイドβペプチドのような長いポリペプチドはタンパク質とみなすことができ、インシュリンのような小さいタンパク質はペプチドとみなすことができる。いずれにせよ、当業者であれば本質的にどのタイプのポリペプチドもカプセル化することができ、その後コポリマーマトリクスから放出することができると理解するであろう。
【0095】
一つの態様では、本発明の組成物は生物活性ペプチド又は生物活性タンパク質を含む。カプセル化されたポリペプチドは天然アミノ酸だけを含むのが好ましいが、非天然アミノ酸(即ち、天然には存在しないがポリペプチド鎖中に導入することができる化合物)及び/又は当業界で知られているようなアミノ酸アナログを代替的に用いることができる。また、ポリペプチド中の一つ以上のアミノ酸を修飾してもよい。例えば、炭水化物(糖質)基、リン酸基、ファルネシル基、イソファルネシル基、脂肪酸基、共役のための結合基、官能化、又は他の修飾(例えば、αアミド化)等のような化学物質の追加によって修飾してもよい。
【0096】
より好ましい態様では、ペプチドの修飾により、より安定なペプチド(例えば、インビボでより大きな半減期)にされる。これらの修飾はペプチドの環化、D−アミノ酸の導入等を含んでもよい。修飾のいずれもペプチドの望ましい生物活性に実質的に干渉すべきではない。或る態様では、ペプチドの修飾により、生物活性により優れたペプチドが得られる。
【0097】
生物活性ポリペプチドは好ましくは、タンパク質/ペプチド薬剤、酵素、レセプターリガンド、神経伝達物質、阻害ペプチド、制御ペプチド、アクチベーターペプチド、サイトカイン、成長因子、モノクローナル抗体、モノクローナル抗体断片、抗腫瘍ペプチド、抗生物質、抗原、ワクチン及びホルモンからなる群から選ばれる。カプセル化すべきポリペプチドの例はUS−A−5,980,948及びCrommelin et al.,Int.J.Pharm.2003,266(1−2),3−16に記載されている。もちろん、2種以上の異なる(生物活性)ポリペプチドをカプセル化することもまた意図される。
【0098】
ポリペプチドの大きさは変えることができる。一つの態様では、ポリペプチドは10,000Da以下の分子量を有する。そのようなサイズのポリペプチドは、プレポリマー(A)及び/又は追加のプレポリマーのセグメントとしてPEGを含むコポリマーであって、該PEGが400〜3000g/mol、好ましくは600〜1500g/molの数平均分子量を有するものであるコポリマーのマトリクスでカプセル化するのに特に適している。代替的に、又は追加的に、当該PEGはコポリマーの全重量に対して5重量%〜60重量%、好ましくは5重量%〜40重量%の量で存在する。
【0099】
他の態様では、該ポリペプチドは10,000Da以上の分子量を有する生物活性タンパク質である。これらのより大きなポリペプチドは好ましくはプレポリマー(A)のセグメントとして、及び/又は追加的なプレポリマーとして、PEGを含むコポリマーのマトリクス中にカプセル化され、ここで該PEGは600〜5000g/mol、好ましくは1000〜3000g/molの数平均分子量を有し、及び/又は該PEGはコポリマーの全重量に対し、5重量%〜70重量%の、より好ましくは10重量%〜50重量%の量で存在する。
【0100】
本発明の組成物はいかなる望ましい外観又は形状を有することができる。一つの態様では、本発明のマルチブロックコポリマーはミクロスフェア、ミクロ粒子、スプレー、インプラント、コーティング、ゲル、フィルム、フォイル、シート、膜、又はロッドの形態で処理される。
【0101】
一つの特別な態様は、ミクロスフェアの形態の組成物に関する。一般に、ミクロスフェアは1000μm未満の直径を有し、生物活性化合物を含有する微小な球状粒子である。ミクロスフェアは生物活性化合物がポリマーマトリクス全体に溶解しているか分散している均一な又はモノリシックなミクロスフェアであってもよい。また、ミクロスフェアは生物活性化合物が単核状態又は複核状態でポリマーに囲まれているリザーバータイプのものである可能性もある。生物活性化合物は小型の水溶性薬物である場合は、その薬物はまず疎水性又は親油性賦形剤に分散させ、次いでその組み合わせをポリマーマトリクス中に粒子、液滴、又は微小懸濁液(ミクロサスペンジョン)の形態で分散させることができる。ミクロスフェアを次いでエマルジョンから形成することができる。
【0102】
ミクロスフェアは当業者に知られた技術で調製することができ、コアセルベーション、溶媒抽出/蒸発、スプレー乾燥、又はスプレー凍結技術が挙げられるが、これらに制限されない。
【0103】
一つの態様では、ミクロスフェアは、ジクロロメタンのような有機溶媒にマルチブロックコポリマーを溶解すること、及びポリビニルアルコールのような乳化剤を含む水相にそのマルチブロックコポリマー溶液を乳化させることを含む溶媒抽出/蒸発技術によって調製することができる(特に、Okada,Adv.Drug Del.Rev.1997,28(1),43−70に記載されている)。
【0104】
そのように形成されたミクロスフェアの粒径、多孔性(孔隙率)、及び薬物担持のような特徴は、粘度、水性ポリビニルアルコール相の濃度、マルチブロックコポリマー溶液の濃度、活性の水溶液に対するジクロロメタンの比率、ポリビニルアルコール相に対する一次エマルジョンの比率、及び攪拌速度のようなプロセスパラメータに依存する。
【0105】
ミクロスフェアをスプレー乾燥プロセスにより形成する場合は、ジクロロメタンのような有機溶媒中、0.5重量%〜5重量%、好ましくは約2重量%の低濃度のマルチブロックコポリマーが用いられる。スプレー乾燥により一般に多孔性の不規則な形状の粒子が形成される。
【0106】
ミクロスフェアが形成されると、生物活性化合物がミクロスフェア又はミクロ粒子中にカプセル化される。一般に、溶媒抽出/蒸発技術を使って親油性化合物をカプセル化する場合は、化合物をまずジクロロメタン又は酢酸エチルのような有機溶媒中マルチブロックコポリマーの溶液に溶解する。引き続いて有機溶液をポリビニルアルコール水溶液に乳化し、水中油(O/W)エマルジョンが得られる。有機溶媒を次いで水相に抽出し、蒸発させてミクロスフェアを固化する。
【0107】
一般に、溶媒蒸発技術を用いて水溶性化合物をカプセル化する場合は、化合物の水溶液をまずジクロロメタンのような有機溶媒中マルチブロックコポリマーの溶液に乳化する。この一次エマルジョンを次いでポリビニルアルコール水溶液に乳化し、水中油中水(W/O/W)エマルジョンを得る。ジクロロメタン又は酢酸エチルのような有機溶媒を次いでO/Wプロセスルートと同様に抽出してミクロスフェアを固化する。或いは、水溶性剤をマルチブロックコポリマーの有機溶媒中溶液に直接分散させてもよい。得られた分散液は次いでポリビニルアルコールのような界面活性剤を含む水溶液に乳化させて、水中油中固体(S/O/W)エマルジョンを得る。次いで有機溶媒をO/Wプロセスルートと同様に抽出してミクロスフェアを固化する
【0108】
W/O/W及びS/O/W乳化ルートを用いて水溶性化合物をカプセル化する場合、十分なカプセル化効率でミクロスフェアを得ることは難しいかもしれない。化合物の水溶性特性により、化合物の一部がポリビニルアルコール水溶液のような水性抽出媒体に失われるかもしれない。外部水相に内部水相中の化合物が拡散するのを減少させるために、ゼラチンのような粘性剤を内部水相に用いることができる。また、外部水相に添加剤を加えて外部水相への化合物の溶解性を落としてもよい。この目的のために、塩を用いてもよく、或いはpHを調整してもよい。
【0109】
油中油中水(W/O/O)又は油中油中固体(S/O/O)乳化ルートは、十分なカプセル化効率でミクロスフェアを得るための興味深い代替手段を提供する。W/O/Oプロセスにおいて生物活性化合物は、W/O/Wプロセスと同様に、水溶液中に溶解し、典型的には、ジクロロメタン又は酢酸エチルのような有機溶媒へのポリマーの溶液で乳化される。次いで、シリコン油のようなポリマー沈殿物を攪拌下ゆっくりと加え初期のミクロ粒子を形成し、次いでこれをヘプタン又はヘキサン中に注いでシリコン油と有機溶媒を抽出し、ミクロスフェアを固化する。ミクロ粒子を減圧ろ過により集め、追加の溶媒ですすぎ、減圧化で乾燥することができる。S/O/O乳化ルートで、生物活性化合物は、S/O/Wプロセスと同様に、ジクロロメタン又は酢酸エチルのような有機溶媒へのポリマー溶液中の固体粉末として分散される。次いで、シリコン油のようなポリマー沈殿物を攪拌下ゆっくりと加え初期のミクロ粒子を形成し、次いでこれをヘプタン又はヘキサン中に注いでシリコン油とジクロロメタンを抽出し、ミクロスフェアを固化する。
【0110】
安定化剤をタンパク質の水溶液に加えて、ミクロスフェアへの処理の間、タンパク質活性の損失を防止してもよい。そのような安定化剤の例は、ヒト血清アルブミン、ゼラチン、及びトレハロース、イヌリン及びショ糖のような炭化水素である。
【0111】
スプレー乾燥技術を用いると、化合物の水溶液が上記のように、メチレンクロリドのような有機溶媒へのポリマーの溶液中に乳化される。油中水エマルジョンを次いでスプレードライヤーを用いてスプレー乾燥する。
【0112】
更なる態様では、本発明の組成物はコーティング、注入可能なゲル、インプラント(好ましくは注入可能なインプラント)又はコートされたインプラントの形態である。コーティングの形態の組成物は、例えば、血管若しくは尿管ステント、整形外科プロテーゼ又は眼科インプラントのような医療用インプラント上に薬物溶出コーティングとして適用することができる。
【0113】
生物活性化合物は押出機を介して注入可能な固体インプラントに成形することができる。典型的には、化合物及びマルチブロックコポリマー粉末を物理的に混合し、その後、得られた粉末ブレンドを押出機に導入し、加熱し、処理して、小径円筒状ロッドのような望ましい形状と大きさの製剤を得る。化合物及びマルチブロックコポリマー粉末の物理的混合の代わりに、化合物とポリマーを適当な溶媒に共溶解するか、或いは適当な溶媒へのポリマー溶液中への化合物の分散物を調製し、次いで凍結乾燥と凍結乾燥粉末の押出を行うことができる。後者は一般的に、インプラントのブレンドの均一性と含量均一性を改善する。
【0114】
更に別の態様では、本発明は生物活性化合物を、それを必要とする対象に送達する方法に関し、これは該対象に上で定義した組成物の有効用量を投与することを含む。
【0115】
対象は典型的には、哺乳類、好ましくはヒトである。しかし、本発明の獣医学的使用もまた意図される。この方法は治療的、予防的、及び/又は化粧品的目的を有することができる。適当な投与の方法は状況に応じて選択することができる。例えば、投与は、組成物の、非経口、経口、動脈内、関節内、腎内(intra−venal)、眼球内、硬膜外、くも膜下、筋肉内、腹腔内、静脈内、膣内、直腸、局所、又は皮下投与を含むことができる。一つの態様では、本発明は、関心のある生物活性ポリペプチドをそれを必要とする対象に送達する方法であって、本発明の組成物の有効用量を該対象に投与することを含み、組成物がミクロスフェア、注入可能なインプラント、又はインシチュで形成するゲルの形態であり、組成物が眼球内、動脈内、筋肉内、又は皮下で投与される上記方法を提供する。
【0116】
局所投与のために、ミクロスフェアはゲル、クリーム、又は軟膏に含ませることができ、必要であれば、バリアで覆うことができる。従って、ミクロスフェアは、乾癬、湿疹、脂漏症、及び皮膚炎のような皮膚疾患の治療に用いられる1種以上の生物活性化合物を含むことができる。
【0117】
他の態様では、ミクロスフェアは、ヒアルロン酸ゲル又は巨大分子多糖類ゲルのようなゲルに含ませることができる。このような態様は特に、外科手術中及び後のような、非経口適用に適用できる。
【0118】
注射を介して投与する場合は、ミクロスフェアは、水、生理食塩水溶液(例えば0.9%)のような薬学的担体、又は0.1w/v%〜0.5w/v%の量で界面活性剤を含む溶液に含ませてもよい。使用できる界面活性剤の例としては、Tween80界面活性剤が挙げられるが、これに限定されるものではない。薬学的担体はさらにナトリウムカルボキシメチルセルロースのような粘性剤を含むことができる。
【0119】
注射を介して投与する場合は、ミクロスフェアは1μm〜200μm、好ましくは5μm〜100μm、最も好ましくは10μm〜50μmの平均径を有する。このようなミクロスフェアは、許容可能な薬学的担体と組み合わせて投与する場合は、カプセル化された生物活性化合物に依存して、様々な疾患又は障害の治療に用いることができる。従って、本発明のミクロスフェアを含む注射可能な製剤は、関節リウマチ、肝炎、糖尿病、又はメタボリック症候群のような全身性疾患、及び変形性関節症、腎疾患、炎症、局所疼痛プロセス、局所感染、局所皮膚疾患、腫瘍(又は残存している可能性のある腫瘍細胞を破壊するための術後治療としての外科的除去の後の部位)、前立腺癌又は乳癌、末端肥大症(agromegaly)のような局所限定疾患、加齢(性)黄斑変性症のような眼科疾患、局所脳疾患(例えばパーキンソン病)、及び急性心筋梗塞、慢性心不全、又は関節硬化症のような心臓血管性疾患の治療に用いることができる。このような注射可能な製剤はまた、長期間の療養治療、例えば、コルチコステロイド、アンドロゲン、抗アンドロゲン、エストロゲン、抗エストロゲン、黄体ホルモン薬、又は甲状腺ホルモンでの治療、又は抗結核剤、抗ハンセン病薬、又は抗マラリア薬での治療に用いることができる。
【実施例】
【0120】
以下の実施例では様々な生物分解性半結晶性、相分離、マルチブロックコポリマーが合成され、その処理及び制御放出特性が評価された。ポリマーは、融点(Tm)を有する結晶性L−ラクチドベースのハードセグメントBと、生理学的条件下で体温より低いガラス転移温度(Tg)を有する親水性ポリ(エチレングリコール)(PEG)ベースのセグメントAからなるものであった。以下の実施例では、PEGはその分子量(MW)とともに示される。例えばPEG
1000とはMW1000g/molのPEGを指す。
【0121】
実施例1
この実施例では、ポリ(DL−ラクチド−コ−PEG)プレポリマー(A)の調製のための一般的な手順を提供する。モノマーを窒素雰囲気下で三つ頸容器に秤り取り、減圧下で少なくとも16時間、グリコリド及びD,L−ラクチドの場合は50℃で乾燥した。PEGを窒素雰囲気下でモノマーに加えた。続いて第一スズオクトアートを加え、混合物をマグネチックスターラーで攪拌し、140℃で数日間反応させた。
1H−NMR測定をVXR Unity Plus NMR測定器(Varian社)を300MHzで操作して行った。d
1待ち時間は20秒に設定し、スキャンの数は16とした。スペクトルは0から14ppmまで記録した。変換とプレポリマーMnは
1H−NMRから決定した。
1H−NMR試料は10mgのポリマーを1mlの重水素クロロホルムに溶解することにより調製した。
【0122】
実施例2
この実施例は、Mn2000g/molのポリ(DL−ラクチド−コ−PEG
1000)(pLP10L20)の調製を記載する。149.84グラム(1.04mol)のD,L−ラクチド(Purac)を秤り取り、149.21g(0.149mol)のPEG MW1000(Ineos,PUグレード)を加えた。71.6mgの第一スズオクトアート(Sigma Corp)を加え(モノマー/触媒モル比=5900)、混合物をマグネチックスターラーで攪拌し、140℃で245時間反応させた。
1H−NMR測定は94.8%のモノマー変換率を示した。重量からの分子量(Mn)の計算値は2000g/molであった。
1H−NMRにより決定された分子量は1950g/molであった。
【0123】
実施例3
この実施例は、Mn4000g/molのポリ(DL−ラクチド−コ−PEG
3000)(pLP30L40)の調製を記載する。50.35グラム(0.349mol)のD,L−ラクチド(Purac)を秤り取り、151.08g(50.4mmol)のPEG MW3000(Sigma Corp)を加えた。37.5mgの第一スズオクトアート(Sigma Corp)を加え(モノマー/触媒モル比=4300)、混合物をマグネチックスターラーで攪拌し、140℃で90時間反応させた。
1H−NMR測定は93.4%のモノマー変換率を示した。重量からの分子量(Mn)の計算値は4000g/molであった。
1H−NMRにより決定された分子量は3940g/molであった。
【0124】
実施例4
この実施例は、Mn2000g/molのポリ(ε−カプロラクトン−コ−PEG
1000)プレポリマー(pCP10C20)の調製を記載する。100.81グラム(0.101mol)のPEG MW1000(Ineos,PUグレード)を窒素雰囲気下で三つ頸容器に秤り取り、90℃、減圧下で少なくとも16時間、乾燥した。101.76g(0.892mol)のε−カプロラクトン(Acros、あらかじめ乾燥し、減圧下CaH
2上で蒸留)を窒素雰囲気下でPEGに加え、混合物を135℃に加熱した。57.9mgの第一スズオクトアート(Sigma Corp)を加え(モノマー/触媒モル比=6200)、混合物をマグネチックスターラーで攪拌し、135℃で76時間反応させた。
1H−NMR測定は100%のモノマー変換率を示した。重量からの分子量(Mn)の計算値は2010g/molであった。
1H−NMRにより決定された分子量は1950g/molであった。
【0125】
実施例5
この実施例は、Mn4000g/molのポリ(ε−カプロラクトン−コ−PEG
3000)プレポリマー(pCP30C40)の調製を記載する。176.60グラム(58.9mmol)のPEG MW3000(Ineos、PUグレード)を窒素雰囲気下で三つ頸容器に秤り取り、90℃、減圧下で少なくとも16時間乾燥した。59.4g(0.520mol)のε−カプロラクトン(Acros、あらかじめ乾燥し、減圧下CaH
2上で蒸留)を窒素雰囲気下でPEGに加え、混合物を135℃に加熱した。69.6mgの第一スズオクトアート(Sigma Corp)を加え(モノマー/触媒モル比=3000)、混合物をマグネチックスターラーで攪拌し、135℃で243時間反応させた。
1H−NMR測定は100%のモノマー変換率を示した。重量からの分子量(Mn)の計算値は2010g/molであった。
1H−NMRにより決定された分子量は1950g/molであった。
【0126】
実施例6
この実施例は、1,4−ブタンジオール(BDO)から始めた、Mn=4000g/molのポリ(L−乳酸)プレポリマー(LL4000)の調製を記載する。399.89グラム(2.77mol)のL−ラクチド(Purac)を窒素雰囲気下で三つ頸容器に秤り取り、50℃、減圧下で少なくとも16時間乾燥した。9.36g(0.104mol)のBDO(Acros、あらかじめ減圧下で蒸留)を窒素雰囲気下でL−ラクチドに加えた。434mgのジオキサン(Acros、あらかじめ乾燥しナトリウムワイヤ上で蒸留)を加えL−ラクチドとBDOを溶解し、混合物を80℃に加熱した。87.8mgの第一スズオクトアート(Sigma Corp)を加えた(モノマー/触媒モル比=12800)。混合物をマグネチックスターラーで攪拌し、80℃で50.6時間反応させた。ポリマーをジオキサンから、72時間凍結乾燥し、最終温度を50℃にすることにより回収した。ジオキサンに溶解したポリマーの場合は、ジオキサンを50℃、減圧下でまず取り除いた。
1H−NMR測定は96.5%のモノマー変換率を示した。重量からの分子量(Mn)の計算値は3940g/molであった。
1H−NMRにより決定された分子量は3900g/molであった。凍結乾燥後のジオキサン含量を
1H−NMRにより決定した(300MHz、50mgのポリマーを1mlの重水素クロロホルムに溶解した。d
1=30秒、32スキャン)。5mgのジブロモベンゼン(Acros)をジオキサンの定量のために試料に溶解した。ジオキサン含量は1193ppmであった。
【0127】
実施例7
この実施例はマルチブロックコポリマーの調製に用いられる一般的手順を記載する。ε−カプロラクトン−コ−PEG−コ‐ε‐カプロラクトン(CPC)又はD,L−ラクチド−コ−PEG−コ−D,L−ラクチドプレポリマー(LPL)(M
n2000g/mol)をより液状になるまで50〜80℃に加熱した。LL4000プレポリマー(Mn4000g/mol)及びCPC又はLPLプレポリマーのおよその量を、窒素の入り口を設けた、50℃で少なくとも48時間乾燥したガラスアンプルに量り取った。次いで、ガラスアンプルに機械的攪拌器を取り付けた。1,4−ジオキサン(Acros、ナトリウム上で蒸留)を30重量%のポリマー濃度に添加し、アンプルの内容物を80℃に加熱して、プレポリマーを溶解した。0.900−0.990当量(プレポリマー水酸基に関して)の1,4−ブタンジイソシアネート(Bayer、減圧下蒸留)を加え、反応混合物を16〜22時間機械的に攪拌した。非蒸留ジオキサンを20重量%のポリマー濃度に加え、未反応イソシアネート基をクエンチした。反応混合物をさらに非蒸留ジオキサンで蒸留して10重量%のポリマー濃度にした。アンプルを室温にまで冷やし、反応混合物をトレーに注ぎ、−18℃で凍結した。次いで、凍結反応混合物を30℃、減圧下に置くことにより取り除いた。ポリマーは−18℃で密封したパッケージで保存した。少量部分のバッチを熱特性(mDSC)、ジオキサン含量(ガスクロマトグラフィー)、固有粘度及びポリマー組成(
1H−NMR)について分析した。熱解析は調節示差走査熱量測定(mDSC)により行った。5〜10mgの試料をDSCパンに秤量した。測定は、調整温度プログラムを用いるDSC Q1000(TAインスツルメント)で行った。アンプリチュードは1℃に、調整時間は60秒に、及び加熱速度は5℃/分に設定した。試料を−80℃から100〜200℃に加熱した(ポリマーのタイプによる)。固有粘度を、水浴を含むSchott AVS−450粘度計を備えた、ウベローデ粘度計(DIN)、タイプ0C、0a、又はI、Schott Geraeteを用いて測定した。測定は室温でクロロホルムにて行った。クロロホルム中のポリマー濃度は、相対粘度が1.2〜2.0の範囲にあるようにした。ジオキサン含量はGC−FIDヘッドスぺース法を用いて測定した。測定はAgilent Column,DB−624/30m/0.53mmを備えたGC−FID Combi Samplerで行った。試料はDMSOで調製した。ジオキサン含量はジオキサン校正標準を用いて測定した。
【0128】
実施例8
この実施例は、20(D,L−ラクチド−コ−PEG
1000−コ−D,L−ラクチド)
2000−80(L−ラクチド)
4000(20LP10L20−LL40)の調製を記載する。42.02gのLL40プレポリマー(M
n4040g/mol、10.40mmol)及び10.16gのD,L−ラクチド−コ−PEG
1000−D,L−ラクチドプレポリマー(M
n2000g/mol、5.08mmol)を秤り取り、80℃で100mlの1,4−ジオキサンに溶解した。1.8466g(13.2mmol)の1,4−ブタンジイソシアナート(プレポリマー水酸基に関して0.851当量)を20mlの1,4−ジオキサンとともに加えた。17時間後、反応を88mlの非蒸留ジオキサンでクエンチし、更に255mlの非蒸留ジオキサンで希釈した。凍結反応混合物を30℃、減圧下に置くことによりジオキサンを除去した。
【0129】
実施例9
この実施例は、30(D,L−ラクチド−コ−PEG
1000−コ−D,L−ラクチド)
2000−70(L−ラクチド)
4000(30LP10L20−LL40)の調製を記載する。34.44gのLL40プレポリマー(M
n4020g/mol、8.57mmol)及び14.95gのD,L−ラクチド−コ−PEG
1000−D,L−ラクチドプレポリマー(M
n2040g/mol、7.33mmol)を秤り取り、80℃で100mlの1,4−ジオキサンに溶解した。2.7386g(19.5mmol)の1,4−ブタンジイソシアナート(プレポリマー水酸基に関して1.231当量)を20mlの1,4−ジオキサンとともに加えた。20時間後、反応を85mlの非蒸留ジオキサンでクエンチし、更に240mlの非蒸留ジオキサンで希釈した。凍結反応混合物を30℃、減圧下に置くことによりジオキサンを除去した。
【0130】
実施例10
この実施例は、50(D,L−ラクチド−コ−PEG
1000−コ−D,L−ラクチド)
2000−50(L−ラクチド)
4000(50LP10L20−LL40)の調製を記載する。19.59gのLL40プレポリマー(M
n4060g/mol、4.83mmol)及び19.57gのD,L−ラクチド−コ−PEG
1000−D,L−ラクチドプレポリマー(M
n2040g/mol、9.59mmol)を秤り取り、80℃で78mlの1,4−ジオキサンに溶解した。2.0018g(14.3mmol)の1,4−ブタンジイソシアナート(プレポリマー水酸基に関して0.991当量)を20mlの1,4−ジオキサンに加えた。20時間後、反応を67mlの非蒸留ジオキサンでクエンチし、更に189mlの非蒸留ジオキサンで希釈した。凍結反応混合物を30℃、減圧下に置くことによりジオキサンを除去した。
【0131】
実施例11
この実施例は、70(D,L−ラクチド−コ−PEG
1000−コ−D,L−ラクチド)
2000−30(L−ラクチド)
4000(70LP10L20−LL40)の調製を記載する。8.59gのLL40プレポリマー(M
n4020g/mol、2.14mmol)及び19.96gのD,L−ラクチド−コ−PEG
1000−D,L−ラクチドプレポリマー(M
n2040g/mol、9.78mmol)を秤り取り、80℃で48mlの1,4−ジオキサンに溶解した。1.648g(11.8mmol)の1,4−ブタンジイソシアナート(プレポリマー水酸基に関して0.986当量)を20mlの1,4−ジオキサンとともに加えた。21時間後、反応を49mlの非蒸留ジオキサンでクエンチし、更に147mlの非蒸留ジオキサンで希釈した。凍結反応混合物を30℃、減圧下に置くことによりジオキサンを除去した。
【0132】
実施例12
この実施例は、30(D,L−ラクチド−コ−PEG
3000−コ−D,L−ラクチド)
4000−70(L−ラクチド)
4000(30LP30L40−LL40)の調製を記載する。29.96gのLL40プレポリマー(M
n4030g/mol、7.43mmol)及び14.01gのD,L−ラクチド−コ−PEG
1000−D,L−ラクチドプレポリマー(M
n4000g/mol、3.50mmol)を秤り取り、80℃で83mlの1,4−ジオキサンに溶解した。1.52g(10.8mmol)の1,4−ブタンジイソシアナート(プレポリマー水酸基に関して0.992当量)を20mlの1,4−ジオキサンとともに加えた。21時間後、反応を74mlの非蒸留ジオキサンでクエンチし、更に222mlの非蒸留ジオキサンで希釈した。凍結反応混合物を30℃、減圧下に置くことによりジオキサンを除去した。
【0133】
実施例13
この実施例は、50(ε−カプロラクトン−コ−PEG
1000−コ−ε−カプロラクトン)
2000−50(L−ラクチド)
4000(50CP10C20−LL40)の調製を記載する。24.34gのLL40プレポリマー(M
n4030g/mol、6.04mmol)及び23.87gのε−カプロラクトン−コ−PEG
1000−ε−カプロラクトンプレポリマー(M
n2010g/mol、11.9mmol)を秤り取り、80℃で95mlの1,4−ジオキサンに溶解した。2.4098g(17.2mmol)の1,4−ブタンジイソシアナート(プレポリマー水酸基に関して0.960当量)を20mlの1,4−ジオキサンとともに加えた。18時間後、反応を82mlの非蒸留ジオキサンでクエンチし、更に246mlの非蒸留ジオキサンで希釈した。凍結反応混合物を30℃、減圧下に置くことによりジオキサンを除去した。
【0134】
実施例14
この実施例は、30(ε−カプロラクトン−コ−PEG
3000−コ−ε−カプロラクトン)
4000−70(L−ラクチド)
4000(30CP30C40−LL40)の調製を記載する。35.84gのLL40プレポリマー(M
n4030g/mol、8.89mmol)及び14.79gのε−カプロラクトン−コ−PEG
3000−ε−カプロラクトンプレポリマー(M
n4010g/mol、3.69mmol)を秤り取り、80℃で100mlの1,4−ジオキサンに溶解した。1.7428g(12.4mmol)の1,4−ブタンジイソシアナート(プレポリマー水酸基に関して0.988当量)を20mlの1,4−ジオキサンとともに加えた。18時間後、反応を83mlの非蒸留ジオキサンでクエンチし、更に240mlの非蒸留ジオキサンで希釈した。凍結反応混合物を30℃、減圧下に置くことによりジオキサンを除去した。
【0135】
実施例15
合成されたマルチブロックコポリマーを化学組成、分子量、及び残留ジオキサン含量について分析した。表1は、20LP10L20−LL40、30LP10L20−LL40、50LP10L20−LL40、70LP10L20−LL40、30LP30L40−LL40、50CP10C20−LL40、30CP30C40−LL40について集めた分析結果を示す。コポリマーの実際の組成は、
1H−NMRによりL/P及びC/Pモル比から決定したように、標的組成に十分近似していた。すべてのポリマーは0.7と1.1dl/gの間の固有粘度を有していた。ジオキサン含量は1000ppmを十分に下回り、それは真空乾燥によりジオキサンが効率的に取り除かれたことを示していた。
【0136】
マルチブロックコポリマーをその熱特性について分析し、相分離モルホロジーを確認した。結果を表2に示す。
図1は50LP10L20−LL40(
図1A)、30LP30L40−LL40(
図1B)及び50CP10C20−LL40(
図1C)マルチブロックコポリマーの典型的なDSCサーモグラフを示す。すべてのマルチブロックコポリマーは、LL40セグメントの融解により、約120〜133℃で融点(Tm)を示した。期待したように、結晶性LLA40セグメントの融解エンタルピー(ΔHm)はセグメントの量の増加とともに増加した。70LP10L40−LL40、50CP10C20−LL40も約85℃にTmを示し、これはLL40の完全性に欠ける結晶の融解によるものである。PEG3000を含むコポリマーは、PEGの融解により、約40℃にTmを示した。マルチブロックコポリマーのガラス転移点(Tg)は一般にプレポリマー(A)とプレポリマー(B)のガラス転移点の間にあり、これは非晶質プレポリマー(A)とプレポリマー(B)の非晶質分との相混合を示している。LP10L20−LL40タイプのマルチブロックコポリマーのTgは、LLA40セグメントを30から80重量%に増加させたときに、−18から50℃へと増大した。これらのマルチブロックコポリマーのTgはプレポリマー(A)(pLP10L20、Tg−37°C)とプレポリマー(B)(LL40、Tg〜50℃)のTgの間にあり、従って半結晶性LL40ブロックの非晶質ポリラクチドとPEGの混合によるものである。50CP10C20−LL40は−48℃のTgを有しており、これは同様に非晶質PEG、ポリカプロラクトン、及びポリラクチドの混合によるものである。表3はマルチブロックコポリマーの膨潤度を示す。ポリマーの膨潤特性を測定するために、ポリマーフィルムを13重量%ポリマーのジクロロメタン溶液(約300mgのポリマーと1.5mlのジクロロメタン)をガラス板上に注ぎ、ポリマー溶液をキャスティングナイフで広げるか、テフロン(登録商標)鋳型に注ぐことにより作成した。ジクロロメタンを一晩かけてゆっくりと蒸発させ、残ったジクロロメタンを20℃で真空乾燥により除去した。得られたフィルムは100〜200μmの厚みを有していた。膨潤試験については、直径約25mmの15〜40mgの円形フィルムの重さを量り、10mlのリン酸バッファーpH7.4(ISO−15814)を含むフラスコに漬けた。試料を37℃のオーブンで保存した。各サンプリング時点で試料を集め、過剰のバッファー溶液を表面から除去し、その後試料の重さを4小数天秤はかりで量った。すべての試験は二度行った。膨潤度はコポリマーのPEGの含量、及びおよそ一定のPEG含量ではPEGのMWとともに徐々に増加することがわかった。
【0137】
表1 マルチブロックコポリマー20LP10L20−LL40、30LP10L20−LL40、50LP10L20−LL40、70LP10L20−LL40、30LP30L40−LL40、50CP10C20−LL40、30CP30C40−LL40の化学組成、固有粘度、及び残留ジオキサン含量に関する結果の収集
【表1】
【0138】
表2 マルチブロックコポリマー(MBCP) 20LP10L20−LL40、30LP10L20−LL40、50LP10L20−LL40、70LP10L20−LL40、30LP30L40−LL40、50CP10C20−LL40、30CP30C40−LL40とそれらのプレポリマー(PP)A及びBの熱特性
【表2】
【0139】
表3 マルチブロックコポリマー20LP10L20−LL40、30LP10L20−LL40、50LP10L20−LL40、70LP10L20−LL40、30LP30L40−LL40、50CP10C20−LL40、30CP30C40−LL40の組成と膨潤
【0140】
【表3】
【0141】
実施例16
この実施例では、上記実施例で記載された様々な親水性相分離マルチブロックコポリマーを、モデルタンパク質としてウシ血清アルブミン(BSA、69kDa)及びリゾチーム(14kDa)を用いて、そのタンパク質放出特性について評価した。
【0142】
10重量%のタンパク質を含むタンパク質担持フィルムを、約150μlの20重量%タンパク質溶液と、300mgのポリマーを含む1.5mlのジクロロメタンとを、18000rpmでUltra turraxにより30秒間混合することにより調製した。エマルジョンをガラス板の上にキャスティングナイフで広げるか、或いはテフロン(登録商標)鋳型に注いだ。ジクロロメタンを終夜かけてゆっくりと蒸発させ、残ったジクロロメタンを20℃で真空乾燥により除去した。得られたフィルムの厚さは80〜120μmであった。
【0143】
放出試験のため、20mgのタンパク質担持フィルムを秤量し、5mlのリン酸バッファーpH7.4を含むバイアルに浸漬し、37℃のオーブン中で保存した。各サンプリング時点で、1mlの放出媒体をサンプリングし、1mlの新しいバッファーで置き換えた。放出試料のタンパク質含量を、Easys Expert 96穴プレートリーダーを用いてビシンコニン酸(BCA)アッセイ(Pierce)で測定した。
【0144】
放出されたリゾチームの生物活性を溶菌試験により測定した。リゾチームを担持したフィルムを上述のように調製した。0.01重量%のリゾチーム溶液を、2.1mgのリゾチームを秤量し、20mlのリン酸バッファーを添加することにより調製してコントロールとした。リゾチーム担持フィルムの重さを量り、5mlのpH7.4リン酸バッファーを含むバイアルに浸漬した。リゾチーム担持フィルムを含むバイアルと、調製したばかりのリゾチーム溶液とを、37℃のオーブンで保存した。各サンプリング時点で、1mlの放出培地をサンプリングし、1mlの新鮮なバッファーで置き換えた。放出サンプルのタンパク質含量を上述のようにBCAにより測定した。(放出された)リゾチームの活性を、10μlの試料を添加した細菌分散液(Micrococcus lysodeikticus,Sigma,0.21mg/ml)の濁度変化を3分間、450nmで追跡することにより測定した。US−VIS分光計(Varian)をこの目的で用いた。必要に応じて試料を希釈し、5〜100μg/mlのリゾチーム濃度を得た。試料のリゾチーム活性を、得られた曲線の傾き(傾きがリゾチーム活性に関連する)を、新鮮なリゾチーム溶液で得られた曲線の傾きと比較することにより計算した。
【0145】
図2及び3はそれぞれフィルムからのリゾチームとウシ血清アルブミンの放出を示す。この結果は、PEG含量とPEGMWを変化させることにより、放出速度とプロファイルが変化しうることを示している。リゾチームを数日から約3ヶ月までの期間に亘って放出させた。より大きなサイズにより、BSAの放出速度はより低くなり、その結果数日から約4ヶ月までの期間に亘る放出となった。更に、リゾチームの放出は、マルチブロックコポリマーの親水性ブロック中のPEG基に隣接する様々なモノマー(の組み合わせ)を導入することにより調整することができた。得られたマルチブロックコポリマー(50LP10L20−LL40、50GP10C20−LL40、及び50CP10C20−LL40)は25重量%PEG1000を含んでおり、同様の膨潤度を示したが、様々な分解速度によりカプセル化されたリゾチームについて様々な放出プロファイルを示すに至った(
図4)。
【0146】
図5は30LP10L20−LL40又は50LP10L20−LL40(リン酸バッファーpH7.4、37℃)の10重量%リゾチーム担持フィルムから放出したリゾチームの活性を示す。対照として、4℃又は37℃で保存した0.01重量%リゾチーム溶液4のリゾチームの活性を測定した(リン酸バッファーpH7.4)。結果は、約1ヶ月の期間に亘ってフィルムから放出されたリゾチームがその生物活性を保持していたことを示しており、これはリゾチームの構造的完全性と生物活性がカプセル化工程の間保存されただけでなく、放出前の37℃での水和膨潤ポリマーマトリクス内でリゾチームが長期間存在していた間にも保存されたことを示している。
【0147】
実施例17
この実施例では、30LP10L20−LL40(IV 0.85dl/g)及び50CP10C20−LL40(IV 1.06dl/g)型の相分離コポリマーを用いてミクロスフェア中にBSAを配合した。
【0148】
BSA担持ミクロスフェアを、Kissel et al.,J.Contr.Rel.1996,39(2),315−326及びMeinel et al.,J.Contr.Rel.2001,70(1−2),193−202により開示された手順を用いて溶媒蒸発法により、50CP10C20−LL40(IV 1.06dl/g)及び30LP10L20−LL40(IV 0.85dl/g)親水性相分離マルチブロックコポリマーから調製した。(25〜50mgの)BSAを約150mgの超純水に溶解し、ジクロロメタン中50CP10C20−LL40(15w/v%)又は30LP10L20−LL40(23w/v%)の溶液2〜3mlで、20000rpmで操作したUltra turrax IKA T18を用いて60秒間乳化させて、油中水(W/O)エマルジョンを得た。このように得られた1次エマルジョンを次いで、4.0重量%PVAを含む約80〜130mlの超純水(UP水)で、Ultra turrax IKA T18を14000rpmで操作して用いて30秒間乳化させ、水中油中水(W/O/W)エマルジョンを得た。このようにして得られた2次エマルジョンを室温、600rpmで2時間ゆっくりと攪拌した。ジクロロメタンの蒸発により、ポリマーが溶液から沈殿しミクロスフェアを得た。3時間後(ジクロロメタンのほぼ完全な蒸発を達成するのに必要な時間、形成されたミクロスフェアを遠心分離により収集し、ミクロスフェアを0.05重量%Tween20の超純水中水溶液100〜120mlで3回洗浄した。最後にミクロスフェアを凍結乾燥した。
【0149】
IVR試験のために、30LP10L20−LL40ミクロスフェアの場合は100mMリン酸バッファー(pH7.4、0.02重量%NaN
2)を、50CP10C20−LL40ミクロスフェアの場合は25mMNaPiバッファー(pH7.2、105mMNaCl、0.01重量%Tween80、0.02重量%NaN
3)の2mlを20mgのミクロスフェアに添加した。試料を37℃でインキュベートし、各サンプリング時点で、1.8mlの試料を取り出し、放出バッファーを再び注いだ。BSA含量を30LP10L20−LL40ミクロスフェアの場合はBCAタンパク質アッセイで、50CP10C20−LL40ミクロスフェアの場合はUPLC(溶出液A:超純水中1重量%TFA、溶出液B:アセトニトリル中0.085重量%TFA、25分で5/95 A/Bに対して95/5 v/v A/B)で測定した。
【0150】
ミクロスフェアの粒径分布をコールター(Coulter)カウンターで測定した。約1mgのミクロスフェアを50〜100mlのイソトロン(Isotron)II溶液にゆっくりと攪拌しながら分散し、粒径を100μm測定セルを備えたコールターカウンターで測定した。
【0151】
ミクロスフェアのBSA含量を、精確に秤量した5〜10mgのミクロスフェアを5.0mlのアセトニトリルに溶解することにより決定した。遠心分離の後、4mlの上清を取り除き、5mlのPBSを加えた。BSA含量をUPLCで測定した(溶出液A:超純水中1重量%TFA、溶出液B:アセトニトリル中0.1重量%TFA、4分で10/90 v/v A/Bに対して90/10 v/v A/B)。
【0152】
表4は調製されたBSA担持ミクロスフェアの粒径、カプセル化効率(EE)をリストする。
図6は5重量%のBSA標的を担持した30LP10L20−LL40ミクロスフェアと、10重量%のBSA標的を担持した50CP10C20−LL40ミクロスフェアからのBSAのインビトロ放出を示す。BSAは有意の突然の上昇もなく直線的にほぼ3ヶ月間30LP10L20−LL40ミクロスフェアから放出した。50CP10C20−LL40ミクロスフェア有意の突然の上昇もなくほぼ3ヶ月間直線的にBSAを放出し、その後よりゆっくりとした放出がさらに1.5ヶ月続いた。
【0153】
表4 BSA担持50CP10C20−LL40及び30LP10L20−LL40ミクロスフェアの平均粒径、BSA含量及びカプセル化効率
【表4】
【0154】
実施例18
この実施例では、上記実施例で記載されるように調製された様々な親水性相分離マルチブロックコポリマーを用いてインシュリン様成長因子I(IGF‐I)担持フィルム及びミクロスフェア製剤を調製した。
【0155】
0.18gのポリマーを1.46gのジクロロメタンに溶解し、次いで超純水中に溶解したIGF−1とともにUltra turraxingで30秒間18000rpmで乳化させるか、又は5秒間100Wで超音波を用いて乳化することにより、IGF−1担持フィルムを調製した。エマルジョンをテフロン(登録商標)鋳型に注いだ。ジクロロメタンを終夜かけて蒸発させ、残りのジクロロメタンを終夜真空乾燥により除去した。20mgのフィルムをカットし、1mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS、25M pH7.2、105mM NaCl、0.01重量%Tween80及び0.02重量%NaN
3)とともに37℃での放出のために置いた。あらかじめ決めておいた時点で試料を取り出し、サンプリングした量を新鮮なバッファーで入れ替えた。
【0156】
IGF−1担持ミクロスフェアを溶媒抽出/蒸発ベースのW/O/W乳化プロセスにより調製した。2.78mgのIGF−1及び51.8mgのBSAをエッペンドルフコップ中の143μlの超純水に溶解し、Ultra turrax(20,000rpm、60秒)を用いて2.62gのジクロロメタン中0.47gの50CP10C20−LL40(IV1.05dl/g)の溶液に乳化させた。次いで、このように得られた1次エマルジョンを、Ultra turrax(14,000rpm、60秒間)を用いて、4.0重量%のPVAを含む81mlの超純水に乳化させ、室温で600ppmで2時間攪拌した。得られたミクロスフェアを5μm膜フィルター上に集め、0.05重量%Tween80を含む1lの超純水で洗浄した。最後にミクロスフェアを凍結乾燥した。
【0157】
約1mgのミクロスフェアを50〜100mlのイソトロンII溶液にゆっくりと攪拌することにより分散させ、100μm測定セルを備えたコールターカウンターで粒径を測定した。
【0158】
IGF−1及びBSA含量を、精確に秤量した5mgのミクロスフェアを0.3mlのアセトニトリルに溶解することにより決定した。続いて1.2mlのPBSを加え、やさしく振った。遠心分離の後、上清中のIGF−1とBSA含量をUPLCにより決定した。手順を3回行った。
【0159】
市販のサンドイッチELISA(R&Dシステムズ)を用いて、試料中のヒトインシュリン様成長因子I(IGF−1)の濃度を測定して、マイクロカプセル化され放出されたIGF−1が放出後もまだ捕獲検出抗体と結合することができ、従ってそのレベルでタンパク質分解が起こっていないことを確認した。キットの捕獲検出抗体は天然及び組み換えIGF−1に特異的であり、標準組み換えIGF−1として特異的であった。
【0160】
放出IGF−1の構造的完全性を調べるために、放出試料から集めた100〜300ngのIGF−1をLaemli/β−メルカプトエタノールバッファーを用いて変性させ、「any KD TGX」プレキャストミニゲルの上に担持し、分離バッファーとして1 × Tris/Glycine/SDSを用いて100−200 Vで変性条件下で分離し、コロイダルCBB染色剤で一晩染色した。デュアルエクストラプロテインマーカー(Dual Xtra Protein marker)(バイオラッド)を用いて分離タンパク質のタンパク質サイズを決定した。
【0161】
図7は、UPLC及びELISAにより測定した0.6重量%のIGF−1で担持された50CP30C40−LL40及び30CP30C40−LL40ポリマーフィルムからの、IGF−1のインビトロ放出を示す。50CP30C40−LL40フィルムからIGF−1は約7日で放出されたが、30CP30C40−LL40ポリマーフィルムからはIGF−1は28日後約40%の累積放出でゆっくりと放出された。UPLCにより測定されたIGF−1の累積放出は、ELISAにより測定されたIGF−1の累積放出とほぼ同一だったので、放出されたIGF−1は構造的に完全であり生物活性であると結論した。
【0162】
0.5重量%のIGF−1標的担持のミクロスフェアを二重乳化プロセスにより、IV 1.05及び0.68dl/gで50CP10C20−LL40から調製した。ミクロスフェアは滑らかな表面(
図8)を有しており、カプセル化効率は40%と60%の間で変化した。100μm測定セルを備えたコールターカウンターで測定した体積平均粒径(d
50)は54.4μmでCV(変動係数)は61%であった。
図9はインビトロでのこれらのミクロスフェアからのIGF−1放出を示す。2日以内でIGF−1の完全な放出が、IV0.68dl/gの50CP10C20−LL40からなるミクロスフェアについて得られた。IV1.05dl/gの50CP10C20−LL40からなるミクロスフェアからのIGF−1放出は、より遅く、約6日後に完全な放出を達成した。放出されたIGF−1は構造的に完全であることが、SDS−PAGE結果から結論付けられた(
図10)が、タンパク質の分解も凝集も示さなかった。
【0163】
実施例19
この実施例では、上記実施例で記載されたように調製した様々な親水性相分離マルチブロックコポリマー(20LP10L20−LL40(IV0.58dl/g)、30LP6L20−LL40(IV0.60dl/g)及び30CP10C20−LL40(IV0.71dl/g))を用いて、15kDa(タンパク質A)の分子量を有する高水溶性生物活性ポリペプチドで担持されたフィルム製剤を調製した。更に、様々なIV(0.81、0.71及び0.65dl/g)を有する30CP10C20−LL40マルチブロックコポリマーを用いて、タンパク質Aをミクロスフェア製剤中に配合した。
【0164】
タンパク質A担持フィルムを溶媒キャスト法により調製した。10mgのタンパク質Aを123mgの超純水に溶解し、0.18gのポリマーの1.46gのジクロロメタン中溶液に、Ultra turrax(18,000rpm、60秒)を用いて乳化させた。このようにして得られた1次エマルジョンをテフロン(登録商標)鋳型に注ぎ、ジクロロメタンを終夜蒸発させた。残りのジクロロメタンを真空乾燥により除去した。
【0165】
タンパク質A担持ミクロスフェアを溶媒抽出/蒸発ベースのW/O/W乳化プロセスにより調製した。21mgのタンパク質A(5重量%標的担持)をエッペンドルフコップ中のイヌリンを含んでもよい156μlの超純水に溶解し、0.4gのポリマーの2.1gのジクロロメタン中溶液にUltra turrax(20,000rpm、60秒)を用いて乳化させた。このようにして得られた1次エマルジョンを次いで、4.0重量%のPVAを含む70mlの超純水に、ultraturrax(14000rpm、60秒間)を用いて乳化させ、室温で2時間、600rpmで攪拌した。得られたミクロスフェアを5μm膜フィルター上に集め、0.05重量%Tween80を含む100mlの超純水で3回洗浄した。最後にミクロスフェアを凍結乾燥した。
【0166】
約10mgのミクロスフェアを50〜100mlのイソトロンII溶液にゆっくりと攪拌することにより分散させ、100μm測定セルを備えたコールターカウンターで粒径を測定した。
【0167】
タンパク質A含量を、精確に秤量した5mgのミクロスフェアを0.3mlのアセトニトリルに溶解することにより決定した。遠心分離の後、上清を取り除いて、残りのACNを蒸発させた。1.95mlのPBSを加えた。タンパク質A含量をUPLC(溶出液A:超純水中1重量%TFA、溶出液B:アセトニトリル中0.1重量%TFA、3分で10/90 A/Bに対して80/20 v/v A/B)で測定した。
【0168】
SEMイメージングのために、少量のミクロスフェアを炭素導電性テープにくっつけ、3分間金蒸着した。試料は10kV電子ビームを用いて撮像した。
【0169】
タンパク質A担持フィルムとミクロスフェアのインビトロ放出動力学を100mMのリン酸バッファーpH7.4(2ml中20mgのフィルム)中で測定した。試料を37℃でインキュベートした。各サンプリング時点で1.8mlの試料を取り出し、1.8mlのリン酸バッファーを再び注いだ。タンパク質A含量をUPLC(溶出液A:超純水中1重量%TFA、溶出液B:アセトニトリル中0.1重量%TFA、3分で10/90 A/Bに対して80/20 v/v A/B)で測定した。
【0170】
SDS−PAGEは4〜20%Tris−HClゲルを用いて還元モードで行った。試料とタンパク質A標準について、スロット(溝)毎に20μlのタンパク質溶液を適用した。マーカーについては、2μlをスロットに適用した。スロットあたり添加したタンパク質の量は75又は150ngであった。試料を12mM PBS pH7.4で、又は超純水で、150又は300ng/20μlのタンパク質A濃度に希釈して調製した。続いて、Laemmli作用溶液(1%のメルカプトエタノールを含むLaemmliバッファー)を1:1体積比で加えた。試料を5分間、90℃に加熱し、ゲルに適用した。ゲルを電気泳動セルにクランプし、ランニングバッファー(Tris/グリシン/SDS pH8.3)を加えた。試料と標準をゲルに適用し、ゲルを100kVで15分走らせた。電圧を引き続いて200kVに設定し、分子量標準の良好な分離が得られるまでゲルを走らせた。ゲルを超純水で洗浄し、銀試薬で染色した。
【0171】
図11は、20LP10L20−LL40(10重量%のPEGMW1000)、30LP6L20−LL40(9重量%のPEGMW600)及び30CP10C20−LL40(15重量%のPEGMW1000)からのタンパク質Aのインビトロ放出を示す。30CP10C20−LL40ベースフィルムは比較的速くタンパク質Aを放出し、3ヵ月後に100%のタンパク質Aの累積放出を示した。PEG1000をPEG600に置き換えることにより、膨潤度が減少し、タンパク質Aの放出をスローダウンすることができ、ほぼ一次の拡散制御放出動力学が得られ、4ヵ月後には〜75%の累積放出となった。タンパク質Aの放出速度の減少はまた、ポリマー中の親水性LP10L20ブロックの重量分画を減少させることにより達成することができた。20LP10L20−LL40(10重量%PEG1000)を用いることにより、放出を更にスローダウンさせることができ、初期に15%未満の小さなバーストの後は、タンパク質Aの十分に制御された放出動力学が得られ、累積放出は6ヶ月で〜65%であった。データは明らかに、タンパク質A放出動力学がポリマーの選択により制御できることを示している。
【0172】
タンパク質A担持ミクロスフェアを、3〜4重量%のタンパク質Aで担持した30CP10C20−LL40から調製した。場合により、2又は5重量%のイヌリンを共カプセル化してタンパク質Aの放出速度を増大させた。タンパク質放出動力学に対するポリマー分子量の効果を、様々な固有粘度の30CP10C20−LL40ポリマーからなるミクロスフェアからのタンパク質Aの放出動力学を調べることにより検討した。すべてのタンパク質A担持ミクロスフェアについて、球形のミクロスフェアが得られた。共カプセル化イヌリンでのミクロスフェアについて、
図12のSEM写真で示されるように、表面多孔性はイヌリン含量を上げると増加した。表5はミクロスフェアの粒径とタンパク質Aのカプセル化効率(EE)を列挙するものである。
図13は、小さな初期バーストの後に、タンパク質Aが一定速度で放出されたことを示す。イヌリン含量を下げるとともにバーストは減少し、直線性が増大したことが観察された。イヌリンの存在なしでは、〜70%が3ヶ月で放出したが、2又は5重量%のイヌリンを共カプセル化した場合は、90〜100%が放出した。2又は5重量%の共カプセル化イヌリンを含む30CP10C20−LL40フィルムからのタンパク質Aの放出は同様であった。放出データを〜4ヶ月まで示す。30CP10C20−LL40ミクロスフェアからのタンパク質Aの期待される放出時間は約6ヶ月である。
【0173】
図14は、ポリマーの様々な固有粘度(IV)を持った30CP10C20−LL40フィルムからのタンパク質Aの放出動力学を示す。タンパク質Aの放出速度はポリマーIVを増大させると増加した。IV0.71又は0.81dl/gの30CP10C20−LL40ポリマーについては、タンパク質Aの持続的な放出が得られ、2ヵ月後の累積放出は60〜70%であった。0.58dl/gのIVの30CP10C20−LL40からなるミクロスフェアからのタンパク質Aの放出動力学は有意に異なっていた。1ヶ月までの初期放出速度は有意に低かったが、タンパク質A放出は1〜3ヶ月の間加速し、その後再びスローダウンし、約5ヶ月の合計放出期間となった。データは、タンパク質Aを少なくとも4ヶ月間直線的にミクロスフェアから放出させることができ、放出動力学をイヌリンのような糖の共カプセル化によって、並びにポリマーの固有粘度によって制御することができることを明確に示している。
【0174】
ミクロスフェアから放出したタンパク質Aの構造的完全性をSDS−PAGEにより検討した。SDS−PAGEにより、少なくとも21日間で放出したタンパク質Aは主として生来のタンパク質からなっていたことを確認した(
図15)。これらの結果は、30CP10C20−LL40ミクロスフェアが、構造的に完全なタンパク質Aの長期間放出に適したマトリクスを提供することを示している。
【0175】
表5:3〜4重量%タンパク質A標的担持を有するタンパク質A担持ミクロスフェア特性の概要
【表5】
【0176】
実施例20
この実施例では、上記実施例で記載されたように調製した親水性相分離マルチブロックコポリマー20LP10L20−LL40(IV0.73dl/g)を用いて、2.5kDa(ペプチドA)の分子量を有する生物活性ポリペプチドで担持されたフィルム及びミクロスフェア製剤を調製した。
【0177】
ペプチドA担持フィルムを溶媒キャスト法により調製した。10mg(5重量%担持に対して)又は20mg(10重量%担持に対して)のペプチドAを123mgの超純水に溶解し、0.18gの20LP10L20−LL40(IV0.76dl/g)の1.46gのジクロロメタン中溶液に、Ultra turrax(18000rpm、30秒)を用いて乳化させた。このようにして得られた1次エマルジョンをテフロン(登録商標)鋳型に注ぎ、ジクロロメタンを終夜蒸発させた。残りのジクロロメタンを真空乾燥により除去した。
【0178】
タンパク質A担持ミクロスフェアを溶媒蒸発ベースのダブルエマルジョンプロセスにより調製した。50mgのペプチドAをPBSに溶解し、0.5gの20LP10L20−LL40(IV0.73dl/g)の2gのジクロロメタン中溶液にUltra turrax(24000rpm、60秒)を用いて乳化させた。このようにして得られた1次エマルジョンを次いで、4.0重量%のポリビニルアルコールを含む200mlの超純水に、ultraturrax(14000rpm、30秒間)を用いて乳化させ、室温で3時間、600rpmで攪拌した。得られたミクロスフェアを遠心分離し、上清を取り除き、0.05重量%Tween20を含む200mlの超純水で3回洗浄した。最後にミクロスフェアを凍結乾燥した。粒径分布をコールターカウンターで測定した。約10mgのミクロスフェアを50〜100mlのイソトロンII溶液にゆっくりと攪拌することにより分散させ、100μm測定セルで粒径を測定した。
【0179】
ミクロスフェアのペプチドA含量を、精確に秤量した5〜10mgのミクロスフェアを5.0mlのアセトニトリルに溶解することにより決定した。遠心分離の後、4mlの上清を取り除き、5mlのPBSをくわえた。ペプチドA含量を、HPLC(溶出液A:超純水中1重量%TFA、溶出液B:アセトニトリル中0.085重量%TFA、25分で5/95 A/Bに対して95/5 v/v A/B)で測定した。
【0180】
フィルムとミクロスフェアからのペプチドAのインビトロ放出動力学を37℃、PBSpH中で測定した。フィルム又はミクロスフェア(5〜20mg)を含むペプチドAをバイアル中に秤量し、2mlのPBSを加えた。バイアルを37℃でインキュベートし、あらかじめ決めておいた時点でサンプリングした。各サンプリング時点で、75〜90%の放出媒体を集め、新鮮なPBSで置き換えた。放出試料のペプチドA含量をHPLC(溶出液A:超純水中1重量%TFA、溶出液B:アセトニトリル中0.085重量%TFA、25分で5/95 A/Bに対して95/5 v/v A/B)で測定した。
【0181】
図16は、20LP10L20−LL40フィルムからのペプチドAのインビトロ放出を示す。ペプチドAは、5重量%担持20LP10L20−LL40フィルムから、有意のバーストもなく少なくとも5ヶ月間直線的に放出された。より高いペプチドA担持(10重量%)の20LP10L20−LL40フィルムについては、バースト放出が15%に増大した。約2ヵ月後、放出は5重量%担持フィルムと同様であった。
【0182】
ペプチドA担持20LP10L20−LL40ミクロスフェアは30μmの平均粒径と10.3重量%のペプチドA含量を有し、100%のカプセル化効率を表していた。
図17はペプチドA MSPが約10重量%の低いバースト放出を示し、次いで少なくとも40日間ゼロ次の放出動力学を示したことを示す。
【0183】
実施例21
この実施例では、親水性相分離マルチブロックコポリマー(20LP10L20−LL40(実施例8)及び10LP10L20−LL40を用いて、ラパマイシン(MW914Da)を担持したミクロスフェアを調製した。ポリマーのポリエチレングリコール成分は1000g/molの分子量を有していた。
【0184】
20重量%のラパマイシンの目標担持量を有するラパマイシン担持ミクロスフェアを、単一の水中油(O/W)エマルジョンルートを用いて溶媒蒸発法により調製した。ポリマーを、ジクロロメタン中様々なブレンド比で約20重量%の濃度に溶解し、ラパマイシンの必要量を加えた。ポリマー/ラパマイシン溶液を次いで、4.0重量%のポリビニルアルコール(PVA)を含む200mlの超純水に、Ultra turrax(14,000rpm、30秒)を用いて乳化させ、次いで室温、300rpmで3時間、マグネチックスターラーで攪拌した。ミクロスフェア分散液を遠心分離で濃縮し、ミクロスフェアを50mlの0.05重量% Tween20水溶液で3回洗浄した。最後に、ミクロスフェアを凍結乾燥した。
【0185】
粒径分布をコールターカウンターで測定した。約10mgのミクロスフェアを50〜100mlのイソトロンII溶液にゆっくりと攪拌しながら分散させ、100μm測定セルで粒径を測定した。
【0186】
ミクロスフェアのラパマイシン含量を、精確に秤量した5〜10mgのミクロスフェアを5.0mlのアセトニトリルに溶解することにより決定した。遠心分離の後、4mlの上清を取り除き、5mlのPBSを加えた。ラパマイシン含量をHPLCで測定した(溶剤:アセトニトリル/水 70/30v/v;278nm)。
【0187】
ミクロスフェアからのラパマイシンのインビトロ放出動力学を、0.5重量%SDSを含む10mL PBS pH7.4中、37℃で測定し、ラパマイシン含有ミクロスフェア(5〜20mg)をバイアル中に量り取り、2mlの放出溶媒を加えた。バイアルを37℃でインキュベートし、あらかじめ決めておいた時点でサンプリングした。各サンプリング時点で75〜90%の放出媒体を集め、新鮮なPBSで置き換えた。放出試料のラパマイシン含量をHPLCで決定した。
【0188】
このように調製したラパマイシンミクロスフェアは35μmの平均サイズを有し、ラパマイシン含量は17〜20重量%で変化し、これは89%〜100%のカプセル化効率を表す。
図18は、20LP10L20−LL40及び10LP10L20−LL40の様々なブレンドからなるミクロスフェアからのラパマイシンの放出を示す。20LP10L20−LL40ベースのミクロスフェアからのラパマイシン放出は比較的速かったが、10LP10L20−LL40ベースのミクロスフェアからのラパマイシンの放出は極めて遅かった。二つのポリマーをブレンドすることにより、中間放出プロファイルを有するミクロスフェアが得られた。
【0189】
実施例22
この実施例では、親水性相分離マルチブロックコポリマー 20LP10L20−LL40から、油中油中水プロセスにより、酢酸ゴセレリン担持ミクロスフェアを調製した。62.6mgの酢酸ゴセレリンを150μlの超純水(29.4重量%)に溶解し、シンチレーションバイアル(Ultra turrax、20,000rpm、60秒)中の、0.5gの20LP10−LLA40ポリマーの7.4gのジクロロメタン中溶液で乳化させた。13.5gのポリマー沈殿(シリコンオイル、350cSt)を次いでゆっくりと一定攪拌下(12,000rpm)で加え(2〜5分)、初期のミクロ粒子を形成した。次いで初期のミクロ粒子を室温で550mlのヘプタンに注いだ(ジクロロメタン対ヘプタン溶媒の比 13.5:1)。抽出容器を閉めて抽出媒体の過剰な蒸発を防いだ。約3時間の抽出後、ミクロ粒子を減圧濾過で集め、追加のヘプタンですすぎ、減圧下で乾燥した。ミクロスフェアは67μmの平均サイズ、8.3%のゴセレリン含量を示し、それは88%のカプセル化効率を表す。
【0190】
粒径分布をコールターカウンターで測定した。約10mgのミクロスフェアを50〜100mlのイソトロンII溶液にゆっくりと攪拌しながら分散させ、100μm測定セルで粒径を測定した。
【0191】
ミクロスフェアのゴセレリン含量を、精確に秤量した5〜10mgのミクロスフェアを5.0mlのアセトニトリルに溶解することにより決定した。遠心分離の後、4mlの上清を取り除き、5mlのPBSを加えた。ゴセレリン含量をHPLCで測定した(溶剤:水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸 72/28/0.1、220nm)。
【0192】
ミクロスフェアからのゴセレリンのインビトロ放出動力学を、PBS(192mM、pH7.4、0.01%tween 80及び0.02%ナトリウムアジドを含む)中、37℃で測定した。ゴセレリン含有ミクロスフェア(5〜20mg)をバイアル中に量り取り、2mlの放出溶媒を加えた。バイアルを37℃でインキュベートし、あらかじめ決めておいた時点でサンプリングした。各サンプリング時点で75〜90%の放出媒体を集め、新鮮なPBSで置き換えた。放出試料のゴセレリン含量をHPLCで決定した。
【0193】
このように調製したゴセレリン担持20LP10−LLa40ミクロスフェアは球形で滑らかな外観(
図19)、71μm(CV47%)の平均サイズ、8.3%のゴセレリン含量を有し、これは88%のカプセル化効率を表す。
図20は、ミクロスフェアからのゴセレリンの放出を示す。
【0194】
実施例23
この実施例では、親水性相分離マルチブロックコポリマー30CP10L20−LL40から、油中油中固体プロセス(S/O/O)により、リゾチーム担持ミクロスフェアを調製した。0.43gの30CP10L20−LL40をシンチレーションバイアル中の7.4gのジクロロメタンに溶解し(5.4重量%)、0.074gの粒径1〜2μmのスプレー乾燥イヌリン安定化リゾチームミクロ粒子(リゾチーム/イヌリン比:1:2w/w)をポリマー溶液に加え、分散液をUltra turrax(20,000rpm、60秒)によりホモジナイズした。11.46gのポリマー沈殿(シリコンオイル、350cSt)を次いでゆっくりと一定攪拌下(12,000rpm)で加え(2〜5分)、初期のミクロ粒子を形成した。次いで初期のミクロ粒子を室温で550mlのヘプタンに注いだ(ジクロロメタン対ヘプタン溶媒の比 13.5:1)。抽出容器を閉めて抽出媒体の過剰な蒸発を防いだ。約3時間の抽出後、ミクロ粒子を減圧濾過で集め、追加のヘプタンですすぎ、減圧下で乾燥した。ミクロスフェアは59μmの平均サイズ、4.1〜5.6%のリゾチーム含量を示し、それは80〜100%のカプセル化効率を表す。