(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記固体電解質層を挟んで対向する電極のうち、一方の電極のパンチングメタルの開口部に燃料極として機能する多孔質材料を充填し、他方の電極のパンチングメタルの開口部に空気極として機能する多孔質材料を充填する、請求項3〜6のいずれか一項に記載の固体電解質層と電極との接合方法。
前記燃料電池が複数の前記固体電解質層を備え、前記積層工程において複数の前記積層体とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の固体電解質層と電極との接合方法。
前記積層工程は、前記固体電解質層を挟んで対向する電極について、それらの断面形状の矩形波の向きが互いに平行となるように行う、請求項9に記載の固体電解質層と電極との接合方法。
前記積層工程は、前記積層体を挟んで対向する前記セパレータについて、それらの断面形状の三角波の向きが互いに平行となるように行う、請求項14に記載の固体電解質層と電極との接合方法。
前記積層工程は、前記積層体を挟んで対向する前記セパレータについて、それらの断面形状の三角波の向きが互いに交差するように行う、請求項14に記載の固体電解質層と電極との接合方法。
前記燃料電池が、上面と下面と側面とを有する複数のセパレータをさらに備え、該セパレータは、前記上面及び前記下面を貫通する2つの貫通孔と、前記側面に設けられ、前記2つの貫通孔のいずれか一方と連通する開口部とを有し、
前記積層工程において、各積層体間に、2つの前記セパレータを、前記積層体の積層方向に隣接する前記ガス流通口が前記セパレータの貫通孔を介して互いに連通されるとともに前記開口部が互いに向き合うように配置し、かつ前記積層体の積層方向に隣接する前記セパレータが互いに上下逆向きとなるように配置する、請求項20に記載の固体電解質層と電極との接合方法。
前記燃料電池が、上面と下面と外面と内面とを有し前記外面および前記内面を貫通する複数の開口部を有する4本のガス導入配管であって、該4本のガス導入配管のうちの2本と他の2本とでは、前記複数の開口部の軸方向の位置が相違している、4本のガス導入配管をさらに備え、
前記ガス導入配管を、前記ガス流通口に、前記セパレータの貫通孔および前記ガスケットの貫通孔を介し、かつ前記ガス導入配管の開口部と前記セパレータの開口部とが重なるように挿通する配管挿通工程をさらに含む、請求項22又は23に記載の固体電解質層と電極との接合方法。
前記燃料電池が2枚のエンドプレートをさらに備え、前記複数の積層体を前記2枚のエンドプレートで挟んで固定する固定工程をさらに含む、請求項24に記載の固体電解質層と電極との接合方法。
1以上の固体電解質層と複数の電極とを、請求項1〜25のいずれかの固体電解質層と電極との接合方法により接合し、前記1以上の固体電解質層と前記複数の電極とを備える燃料電池を製造することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(燃料電池の製造方法)
以下、図面を参照して本発明による燃料電池の製造方法について説明する。
図1は、本発明による燃料電池の製造方法のフローチャートを示している。本発明による燃料電池の製造方法は、1以上の固体電解質層と複数の電極とを備える燃料電池の製造方法であって、固体電解質層と電極とを積層して、固体電解質層の両面に電極が配置された積層体とする積層工程(ステップS1)と、固体電解質層を挟んで対向する電極間に第1の極性の電圧を印加する第1の電圧印加工程(ステップS2)と、固体電解質層を挟んで対向する電極間に、第1の極性とは逆の第2の極性の電圧を印加する第2の電圧印加工程(ステップS3)とを含む。
【0012】
本発明は、陽極接合法により固体電解質層と電極とを接合して単セル又はセルスタックを製造することを特徴としている。陽極接合法では、接合対象の材料を接触させ、加熱しながら固体電解質層を挟んだ一対の電極のうち、接合を形成しようとする電極がプラス(陽極)、他方がマイナス(負極)になるように直流電圧を印加する。これにより、固体電解質層中を酸素イオンが陽極に向かって伝導するとともに、陽極側の材料界面には静電引力による強い密着力が発生する。この界面に移動してきた酸素イオンを界面の両物質と共有結合させることにより、形成材料を強固に接合することができる。以下、単セルを形成する場合を例に、本発明の各工程について説明する。
【0013】
まず、ステップS1において、固体電解質層と電極とを積層して、固体電解質層の両面に電極が配置された積層体とする積層工程を行う。具体的には、
図2に示すように、電圧印加装置Vに接続された2枚の電極板Pの間に、電極3、固体電解質層1及び電極2をこの順に積層した積層体として配置する。
【0014】
本明細書では、固体電解質層の両面に電極が配置され、固体電解質層と電極とが接合される前の構造体を「積層体」と呼び、固体電解質層と電極とが接合された後の構造体を「接合体」又は「単セル」と呼ぶ。
【0015】
固体電解質層1としては、ガスを透過させず、酸素イオンを透過させるものを好適に用いることができる。固体電解質層1の材料としては、例えば、イットリア(Y
2O
3)や酸化ネオジム(Nd
2O
3)、サマリア(Sm
2O
3)、ガドリア(Gd
2O
3)、スカンジア(Sc
2O
3)などを固溶した安定化ジルコニア(YSZ)を用いることができる。また、サマリアドープセリア(SDC)やイットリアドープセリア(YDC)、ガドリアドープセリア(GDC)のようなセリア固溶体や、酸化ビスマス(Bi
2O
3)、ランタンストロンチウムマグネシウムガレート(La
1−xSr
xGa
1−yMg
yO
3:LSGM)などを用いることもできる。
【0016】
なお、固体電解質層1の材料は、上記のものに限定されるものではなく、他の公知の固体電解質材料を用いることができる。また、これらの材料は、1種を単独で用いることも、複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0017】
上記固体電解質層1は、代表的には、原料の粉末を有機バインダーと混ぜて圧力をかけて薄く延ばして高温の炉の中で加圧焼結するホットプレス法によって得られたものを用いることができる。より薄膜化された固体電解質層1は、ゾルゲル法により作成することができる。
【0018】
電極2、3は、一方が燃料電池の空気極、他方が燃料極として機能する。セルスタックにおいて、出力を増大させるためには単セルを薄板化する必要があるが、そのためには単セルの機械的強度を向上させる必要がある。そこで、電極2、3は、
図3に示すように、基材となる支持体4と該支持体4上の電極層5とを有する構成とすることが好ましい。
【0019】
支持体4は、電極層5の電子を集電し、かつ燃料ガス又は酸化剤ガスを固体電解質層1に供給できる必要がある。こうした支持体4としては、導電性材料からなる不織布や多孔質材料、単体金属や合金等に多数の貫通孔が設けられたパンチングメタル等を用いることができる。
【0020】
中でも、支持体4は、
図4(a)に示すようにパンチングメタル6を有することが好ましい。パンチングメタルは、金型を用いたプレス加工により、金属板に対して多数の貫通孔を形成したものである。パンチングメタル6は、貫通孔の径を小さくして密度を高めることにより、電極と燃料ガス又は酸化剤ガスとの接触面積を高めて、単セルやセルスタックの出力密度を向上させることができる。
【0021】
また、支持体4がパンチングメタル6を有する場合には、固体電解質層1を発電に効率的に使用するために、
図4(b)に示すように電極層5が固体電解質層1と接触する部分にパンチングメタル6を有することが好ましい。
【0022】
支持体4がパンチングメタル6を有する場合には、支持体4の材料としては、熱膨張率が固体電解質材料のものと近く、また600℃以上という高温の酸化環境に堪えることのできる材料が望ましい。このような特性を有する材料としては、現在のところステンレス鋼(SUS)が最適である。
【0023】
また、電極層5の材料としては、陽極接合法により固体電解質層1と強固な接合を形成でき、また酸化剤ガス(例えば、空気)に含まれる酸素と反応して消失しないことや、高温で固体電解質層1中に拡散して酸素伝導に悪影響を及ぼすことがないような材料を使用することができる。例えば、アモルファスシリコン(a−Si)や、ニッケル(Ni)等を使用することができる。真空蒸着法により作成されるa−Siは、このような特性を有する材料であり機械的強度にも優れるほか、陽極接合の温度(300℃〜600℃)や通常運転時の温度(600℃〜800℃)では電極として良好な導電性を示すことから好適な材料である。また、ニッケルは、SOFCの安定な電極材料としてよく知られており、多層材料間の高温環境下での合金反応を抑制するバリアメタルとしても高い実績を有していることから好適な材料である。
【0024】
支持体4の厚みは、例えば100mmΦ、固体電解質の厚み10μmのセルの場合、およその目安であるが、ハンドリングの点から、50μm以上であることが望ましい。また、電極層5の厚みは、導電抵抗と熱膨張率のマッチングを考慮して、0.1μm以上、1μm以下であることが好ましい。
【0025】
上記電極層5を支持体4上に形成する方法としては、a−Siの場合には蒸着又は化学気相成長(Chemical Vapor Deposition,CVD)法、Niの場合には無電解メッキ法や真空蒸着法を用いることができる。
【0026】
なお、
図4(c)に示すように、上記パンチングメタル6の開口部6aには、空気極ならびに燃料極として機能する多孔質材料6b、6cを充填することが好ましい。これにより、酸化剤ガス又は燃料ガスと固体電解質層1との良好な接触性を維持しつつ、電極2、3と固体電解質層1との接触面積を増加させて、発電効率を向上させることができる。
【0027】
電極2が空気極である場合、開口部6aに充填する多孔質材料6bとしては、酸化反応により不導体化しない空気極用の公知の材料を用いることができる。このような材料としては、(La,Sr)MnO
3 (LSM)や、(La,Sr)CoO
3 (LSC)、(La,Sr)(Co,Fe)O
3 (LSCF)等を挙げることができる。
【0028】
上記多孔質材料6bの開口部6aへの充填は、後述するステップS2、S3において電極2、3を固体電解質層1に陽極接合した後に、例えば充填材料のペーストを電極2のパンチングメタル6の表面に塗布して乾燥させた後、焼成処理を施すことにより行うことができる。
【0029】
また、電極3が燃料極である場合、開口部6aに充填する多孔質材料6cとしては、還元反応により分解して不導体化しない燃料極用の公知の材料を用いることができる。このような材料としては、Ni/YSZサーメットやRu/YSZサーメットなどを挙げることができる。
【0030】
上記多孔質材料6cの開口部6aへの充填は、後述するステップS2、S3において電極2、3を固体電解質層1に陽極接合した後に、例えば充填材料の原料粉を電極3のパンチングメタル6の開口部6aに充填した後、焼成処理を施すことにより行うことができる。
【0031】
なお、
図4(c)においては、パンチングメタル6の開口部6aは多孔質材料6b、6cで完全に充填されていないが、充填量は、多孔質材料6b、6cの空隙率等に基づいて適切に設定することができる。
【0032】
次に、ステップS2において、固体電解質層1を挟んで対向する電極2、3間に第1の極性の電圧を印加する第1の電圧印加工程を行う。例えば、電極2を電圧印加装置Vの正極側に、電極3を負極側にそれぞれ接続し、固体電解質層1、電極2、3を加熱しつつ電極2と電極3との間に直流電圧を印加することにより、固体電解質層1と電極2とを接合することができる。
【0033】
電極2と電極3との間に印加する電圧は、作業温度によって最適な範囲があるため、固体電解質の材料によって最適になるように選択する。温度や電圧が低すぎる場合には、固体電解質の酸素イオン伝導電流が少なくなり、接合時間が長くなる。一方、温度が高い場合には、接合時間は短くなるが、接合後の残留ストレスが大きくなり、耐久性の観点から不適である。電圧についても、高すぎる場合には、接合部以外への放電が発生して接合でが困難になる。典型的には、温度条件300℃以上500℃以下の下で、電圧50V以上500V以下の範囲で最適値を選ぶのが好ましい。これにより、固体電解質層1と電極2、3とをより強固に接合することができる。
【0034】
次に、電極2と電極3との間に電圧を印加する時間について説明する。負極となる電極3と固体電解質層1との接触面では、空気中の酸素が負極から電子を受け取って電離し、酸素イオンとなる。生成された酸素イオンは固体電解質層1内を移動し、電極2との界面で電子を正極に渡して、固体電解質層1及び電極2の構成原子と強固な共有結合を形成する。こうして電極2と固体電解質層1とが化学的に接合される。その際、酸素イオンが供給されて電極2と固体電解質層1との接合形成面積が拡大している間、電流は増加傾向を示す。そして接合がほぼ完了すると、電流は減少に転じる。この電流値が減少に転じる点をもって、電圧の印加を停止する目安にすることが好ましい。これにより、固体電解質層1と電極2、3とを接合面全面にわたって強固に接合することができる。
【0035】
続いて、ステップS3において、固体電解質層1を挟んで対向する電極間に、第1の極性とは逆の第2の極性の電圧を印加する第2の電圧印加工程を行う。例えば、上記第1の電圧印加工程において、電極2を電圧印加装置Vの正極側に、電極3を負極側にそれぞれ接続して電圧を印加した場合には、それらの接続を維持した状態で、電圧印加装置Vの電圧の極性を反転させて直流電圧を印加するか、電極2を電圧印加装置Vの負極側に、電極3を正極側にそれぞれ接続を変更して直流電圧を印加する。これにより、第1の電圧印加工程では接合されなかった固体電解質層1と電極3とを接合することができる。
【0036】
第2の電圧印加工程における電圧、電圧印加時間、加熱温度等の条件は、印加する電圧の極性以外は、第1の電圧印加工程と同じとすることができる。
【0037】
こうして、固体電解質層1と電極2、3とを接合して、
図5に示すような接合体(単セル)10を得ることができる。
【0038】
図6は、本発明により得られた接合体(単セル)10を用いた燃料電池の構成例を示している。この図に示した燃料電池100は、接合体10と、上チャンバ11と、下チャンバ12とを備えている。また、上チャンバ11には酸化剤ガス導入管13及び酸化剤オフガス排気管14が接続されており、酸化剤ガス導入管13、上チャンバ11、接合体10及び酸化剤オフガス排気管14により、酸化剤ガス流路15が区画されている。さらに、下チャンバ12には燃料ガス導入管16及び燃料オフガス排気管17が接続されており、燃料ガス導入管16、下チャンバ12、接合体10及び燃料オフガス排気管17により、燃料ガス流路18が区画されている。
【0039】
このような燃料電池100を用いて、図示しないバーナー等により接合体10を加熱しつつ、空気等の酸化剤ガスAを酸化剤ガス導入管13から導入し、水素等の燃料ガスFを燃料ガス導入管16から導入する。すると、空気極2において、酸化剤ガスAに含まれる酸素が図示しない外部回路から電子を受け取って酸素イオンとなる。生成された酸素イオンは、固体電解質層1を通過して燃料極3に移動し、燃料ガスFと反応する。その際、電子が放出されて外部回路に供給される。こうして発電が行われる。
【0040】
以上、燃料電池が1層の固体電解質層を備える単セルを形成する場合を例に本発明を説明したが、本発明は、燃料電池が複数の固体電解質層を備えるセルスタックの形成にも好適に適用できる。具体的には、まず、
図7(a)に示すように、固体電解質層1の両面に電極2、3を配置した積層体を複数積層する(ステップS1)。
【0041】
次に、例えば、全ての電極2を電圧印加装置Vの正極側に、全ての電極3を負極側にそれぞれ接続し、全ての固体電解質層1、電極2、3を加熱しつつ、電極2と電極3との間に直流電圧を印加する(ステップS2)。これにより、全ての固体電解質層1と電極2とが接合される。
【0042】
続いて、電極2と電極3との間に印加する電圧の極性を反転するか、全ての電極2を電圧印加装置Vの負極側に、全ての電極3を正極側にそれぞれ接続し、全ての固体電解質層1、電極2、3を加熱しつつ電極2と電極3との間に直流電圧を印加する(ステップS3)。これにより、全ての固体電解質層1と電極3とが接合される。
【0043】
こうして、燃料電池が複数の固体電解質層、すなわち、セルスタックを形成する場合にも、2回の電圧印加工程(陽極接合)により、全ての固体電解質層1と電極2、3とを接合して、
図7(b)に示すようなセルスタック20を得ることができる。なお、
図7(b)のセルスタック20においては、接合体10が離間して図示されているが、図示されていない各接合体間のセパレータにより全体としては一体に構成されている。
【0044】
このように、燃料電池が複数の固体電解質層を備える場合、すなわち、セルスタックを形成する場合にも、2回の電圧印加工程(陽極接合)により、全ての固体電解質層1と全ての電極2、3とを接合することができる。
【0045】
なお、燃料電池が1層の固体電解質層を備える場合について、上述の説明では、
図2に示した2枚の電極板Pの間に、電極3、固体電解質層1及び電極2をこの順に積層して配置し、積層体とした状態で電圧を印加して接合体10を得ている。しかし、まず2枚の電極板Pの間に電極3及び固体電解質層1のみを配置して接合した後、固体電解質層1の上に電極2を配置して固体電解質層1と電極2とを接合するようにしても、2回の電圧印加工程により接合体10を得ることができる。このように接合体10を形成する構成も本発明に含まれる。
【0046】
本発明では、低温工法(300〜600℃)により燃料電池を形成するため、常温に戻したときに固体電解質層1や電極2、3が受ける残留応力を著しく低減することができる。1000℃〜1500℃といった高温の焼成温度に晒される従来の湿式法に比べて、残留応力の大きさを20〜60%に抑えることができる。これによって電極材料のクリープや結晶粒界破壊といった寿命を劣化させるメカニズムの進行を抑制できる。したがって、自動車用の燃料電池のように起動及び停止を繰り返す過酷な条件下であっても、耐久性を著しく改善できる。
【0047】
また、本発明によれば、湿式法を用いて形成した場合に比べて、固体電解質層1と電極2、3との間の密着性を向上させることができ、その結果、電池の出力を安定させることができる。
【0048】
さらに、本発明においては、湿式法において行われていた固体電解質材料のペーストの乾燥工程及び焼成工程を省略することができ、また2回の電圧印加工程(陽極接合)により、全ての固体電化質層と全ての電極とを接合することができるため、製造時間を短縮することができる。
【0049】
さらにまた、本発明によれば、単セルの薄板化を容易に行うことができ、セルスタックの出力密度を向上させることができる。
【0050】
以上、陽極接合法に基づいて、2回の電圧印加工程により、全ての固体電化質層と全ての電極とを接合することができることについて説明した。本発明者らは、更なる検討を進めた結果、上記ステップS1において、固体電解質層と電極とを積層して、固体電解質層の両面に電極が配置された積層体とする際に、電極がその表面に酸化物層を有し、固体電解質層の両面に酸化物層を介して電極を配置し、ステップS2及びステップS3の電圧印加工程を行うと、酸化物層を有していない場合とは逆の表面にて接合が形成されることを発見した。
【0051】
具体的には、
図2において、電極2及び3がその表面に酸化物層を有していない場合に、電極2を電圧印加装置Vの正極側に、電極3を負極側にそれぞれ接続し、固体電解質層1、電極2、3を加熱しつつ電極2と電極3との間に直流電圧を印加すると、固体電解質層1と電極2とが接合される。しかし、
図25に示すように、電極2及び3がその表面に酸化物層2a、3aを有している場合には、固体電解質層1と電極3とが酸化物層3aを介して接合されるのである。
【0052】
上記現象は、印加電圧の極性を反転した場合も同様であり、電極2及び3がその表面に酸化物層を有していない場合には、固体電解質層1と電極3とが接合されるのに対して、電極2及び3がその表面に酸化物層2a、3aを有している場合には、固体電解質層1と電極2とが酸化物層2aを介して接合される。
【0053】
このように、電極2、3が酸化物層2a、3aを有する場合には、固体電解質層1と陰極側の電極との間で接合が形成されている。このような接合が形成される理由は、固体電解質層1と電極2、3との間に電圧を印加すると、固体電解質層(X−O)1と酸化物層(R−O)2、3との間において、下記の式(1)に示すような還元反応が起きるためと考えられる。
【0054】
X−O+R−O+2e → X−O−R+O
2− (1)
【0055】
上記還元反応によれば、電極2、3の酸化物層(R−O)2a、3aを構成する酸化物が還元され、還元された酸化物の材料(R)と固体電解質層(X−O)1との間に結合(X−O−R)が形成され、固体電解質層1と電極2、3とが当接面にて強固に接合される。一方、上記還元反応において生じたO
2−イオンは、固体電解質層1中を移動して陽極側に移動して排出される。このように、陰極側の電極において還元反応が起きた結果、固体電解質層1と電極2、3との間で強固な接合が形成されたものと考えられる。
【0056】
上記式(1)で表される還元反応は、従来の陽極接合法において起こる電気化学反応とは対照的な反応と考えられる。すなわち、陽極接合法により、固体電解質層(X−O)1と電極(M)2、3とを接合する場合、固体電解質層(X−O)1と電極(M)2、3との間において、下記の式(2)〜(4)に示すような酸化反応が起こると考えられる。
【0057】
X−O+O
2−+M → X−O
2−M+2e (2)
O
2−+M → M−O+2e (3)
X−O+O
2−+M−O → X−O
3−M+2e (4)
【0058】
上記酸化反応によれば、固体電解質層(R−O)1と電極(M)2、3との当接面では、酸素空孔位置に入った酸素イオンが電子を放出して電極(M)2、3並びに固体電解質層(X−O)1と新たに強固な結合(X−O
3−M)を形成し、当接面にて強固な接合が形成される。
【0059】
このように、陰極における還元反応に基づく接合は、陽極における酸化反応に基づく従来の陽極接合とは対照的かつ新規な接合方法であり、従来の陽極接合法に対して「陰極接合法」と呼ぶものとする。上記陰極接合法によれば、固体電解質層1と表面に酸化物層2a、3aを有する電極2、3とを酸化物層2a、3aを介して強固に接合することができる。
【0060】
陰極接合法では、電極2、3の表面に酸化物層2a、3aを有すること以外、上述した陽極接合法に基づく固体電解質層1や電極2、3に関する要件をそのまま適用することができる。以下、電極2a、3aの表面に設けられた酸化物層2a、3aについて説明する。
【0061】
酸化物層2a、3aは、例えば電極2、3の表面に対して熱酸化処理を施して形成された熱酸化膜や、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)法や物理気相成長(Physical Vapor Deposition、PVD)法により、電極2、3の表面に形成された酸化膜とすることができる。また、電極2、3の表面に形成された自然酸化膜を用いることもできる。
【0062】
酸化物層2a、3aは、電子伝導性を有することが好ましい。これにより、酸化物層2a、3aを構成する酸化物を効率的に還元することができる。このような電子伝導性を有する酸化物層2a、3aとして、N型の酸化物半導体で構成することができる。すなわち、N型の酸化物半導体は、N型ドーパントの電子が真性温度よりも低い温度で伝導帯に励起して電子伝導性を有するようになる。そこで、酸化物層2a、3aを接合時の温度にて電子伝導性を示すN型の酸化物半導体で構成することが好ましい。こうしたN型にドープされた酸化物半導体としては、ZnO(酸化亜鉛:Zinc Oxide)やITO(酸化インジウムスズ:Indium Tin Oxide)、TiO(酸化チタン:Tin Oxide)などを使用することができる。
【0063】
また、酸化物層2a、3aが電子伝導性を有していない絶縁膜である場合であっても、酸化物層2a、3aを電子がその厚み方向に通り抜け可能な程度に薄く構成することにより、トンネル効果を利用して酸化物層2a、3aが電子伝導性を有するようにすることができる。この場合の酸化物層2a、3aの具体的な厚みは、印加電圧や酸化物層2a、3aを構成する酸化物材料の特性に依存するため、一概に規定できないが、電子が通り抜けられる実効的なトンネル厚さが50Å程度であれば、その厚み方向に電子の通り抜けが可能である。実効的なトンネル厚さは膜の電界が強いほど薄くなるため、印加電圧が高いほどトンネル電流が流れやすくなる。すなわち、電圧が非常に低い場合(1V程度)、絶縁体の厚みが50Å程度であれば電流が流れるが、100Åでは流れない。ところが、電圧を上げていくと、絶縁体の電界が上昇し、フアウラノーダハイムトンネルという現象が起こり、絶縁体中を電流が流れるようになる。これは、絶縁体の実効的な厚みが50Å相当に減少したことを示している。
【0064】
なお、電極2、3が、
図4(c)に示したパンチングメタル6を有する場合には、酸化物層2a、3aは、
図26に示すように、少なくとも固体電解質層1と接触する、電極材5の表面(すなわち、固体電解質層1との当接面)に設ける。
【0065】
こうして、電極2、3がその表面に酸化物層2a、3aを有する場合にも、
図1に示したフローチャートに従って、2回の電圧印加により、全ての固体電解質層1と電極2、3とを接合することができる。
【0066】
なお、
図7に示した、燃料電池が複数の固体電解質層を備えるセルスタックを形成する場合についても、電極2、3の表面に酸化物層を形成する以外、同一のプロセスであり、2回の電圧印加により、全ての固体電解質層1と電極2、3とを接合することができる。
【0067】
(燃料電池)
本発明による燃料電池は、上述の本発明による燃料電池の製造方法により製造された燃料電池である。上述のように、本発明による燃料電池の製造方法においては、陽極接合法又は陰極接合法により固体電解質層と電極とを接合して、単セルやセルスタックを製造することを特徴としている。陽極接合法及び陰極接合法のプロセスは、湿式法に比べて低温のプロセスであるため、得られた本発明による燃料電池は、起動及び停止に伴う熱サイクルの繰り返しに対して高い耐久性を有する。
【実施例1】
【0068】
以下、セルスタックの構成について幾つかの具体例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
まず、陽極接合法によりセルスタックを作製する方法について説明する。
図8に示したセルスタック30は、固体電解質層21と電極22とを備えている。電極22は、平板部23、24と立板部25とを有し、これらによって電極22の断面形状が矩形波状に構成されている。平板部23、24はパンチングメタルで構成されており、平板部23は空気極として、平板部24は燃料極としてそれぞれ機能し、発電に寄与する。また、立板部25は、固体電解質層21を離間するセパレータとして機能する。そして、固体電解質層21及びその表面に配置された平板部23、24は接合体(単セル)を構成しており、この単セルが積層方向に直列に接続されてセルスタック30が構成されている。
【0070】
このような矩形波状の電極22と固体電解質層21とを積層させることにより、固体電解質層21と電極22との間に、酸化剤ガス又は燃料ガスの流路が形成される。
図8に示したセルスタック30においては、固体電解質層21を挟んで対向する電極22間で、それらの断面形状の矩形波の向きが互いに平行であり、また位相が揃っている。そして、酸化剤ガス流路26及び燃料ガス流路27が水平方向に交互に区画されている。
【0071】
図8に示したセルスタック30は、以下のように得られる。まず、固体電解質層21及び電極22を
図8に示したように積層して複数の積層体とする。次に、全体を加熱しつつ、固体電解質層21を挟んで対向する電極22間に第1の極性の電圧を印加する。続いて、第1の極性とは逆の極性の第2の電圧を印加する。こうして、固体電解質層21と電極22とが陽極接合され、全体が一体化されてセルスタック30が得られる。
【0072】
ここで、セルスタック30の動作について説明する。まず、酸化剤ガス流路26に、空気等の酸化剤ガスを流通させるとともに、燃料ガス流路27に水素等の燃料ガスを流通させる。そして、バーナー等によりセルスタック30を加熱する。すると、平板部(空気層)23において、酸化剤ガスに含まれる酸素が図示しない外部回路から電子を受け取って酸素イオンとなる。生成された酸素イオンは、固体電解質層21を通過して斜め上方の燃料ガス流路27に移動し、燃料ガスと反応する。その際、電子が放出されて外部回路に供給される。こうして発電が行われる。
【0073】
図9は、
図8と同様の構造を有するセルスタック40を示している。なお、
図9において、
図8と同じ構成には同じ符号が付されている。
図9に示したセルスタック40と
図8に示したセルスタック30との相違は、セルスタック40においては、固体電解質層21を挟んで対向する電極22の矩形波の位相が互いに反転していることである。これにより、酸化剤ガス流路26の直上に燃料ガス流路27が配置される構成となり、平板部(空気極)23において生成された酸素イオンは、固体電解質層21を介して直上の燃料ガス流路27に移動して、燃料ガスと反応することができる。このセルスタック40においては、酸素イオンの移動距離が短いため、
図8に示したセルスタック30よりもイオン伝導の抵抗が小さい。
【0074】
上記セルスタック40においては、固体電解質層21を挟んで対向する平板部23と平板部24との間で発電が行われるため、固体電解質層21の面積利用率は約50%である。
【0075】
なお、
図8に示したセルスタック30及び
図9に示したセルスタック40においては、固体電解質層21を挟んで対向する電極22の断面形状の矩形波の向きは、
図10(a)に示すように互いに平行であるが、
図10(b)に示すように、矩形波の向きを互いに交差させてもよい。これにより外部からのそれぞれのガス導入口(図示せず)を一か所に固めずに別々の場所に配置することができるため、ガス配管を含めたスタック全体のレイアウトの自由度を向上させることができる。
【0076】
図11に示したセルスタック50は、固体電解質層31と電極32、33とセパレータ34とを備えている。電極32、33はパンチングメタルで構成されており、電極32は燃料極として、電極33は空気極としてそれぞれ機能する。また、セパレータ34は、例えばプレス成型により、その断面形状が三角波状に構成されている。そして、固体電解質層31の一方の表面には電極32が、他方の表面には電極33が配置されて接合体(単セル)を構成しており、この単セルが積層方向に直列に接続されてセルスタック50が構成されている。
【0077】
このような断面形状が三角波状のセパレータ34と、固体電解質層31及び電極32、33の積層体とを積層させることにより、固体電解質層31と電極32、33との間に、酸化剤ガス又は燃料ガスの流路が形成される。
図11においては、三角波の向きが、積層体を挟んで対向するセパレータ34間で互いに平行であり、また、三角波の位相が揃っている。そして、酸化剤ガス流路35及び燃料ガス流路36が水平方向に交互に区画されている。
【0078】
図11に示したセルスタック50は、以下のように得られる。まず、固体電解質層31、電極32、33及びセパレータ34を
図11に示したように積層して複数の積層体とする。次に、全体を加熱しつつ、固体電解質層31を挟んで対向する電極32、33間に第1の極性の電圧を印加する。続いて、電圧を電極32、33間に、第1の極性とは逆の極性の第2の電圧を印加する。こうして、固体電解質層31と電極32、33とが陽極接合される。また、セパレータ34は、その端部を電極32又は33の端部とビーム溶接等により溶接することにより、全体が一体化され、セルスタック50が得られる。
【0079】
ここで、得られたセルスタック50の動作について説明する。まず、酸化剤ガス流路35に、空気等の酸化剤ガスを流通させるとともに、燃料ガス流路36に水素等の燃料ガスを流通させる。そして、セルスタック50を加熱する。すると、電極(空気極)33において、酸化剤ガスに含まれる酸素が図示しない外部回路から電子を受け取って酸素イオンとなる。生成された酸素イオンは、固体電解質層31を通過して電極(燃料極)32に移動し、燃料ガスと反応する。その際、電子を放出して外部回路に供給する。こうして発電が行われる。
【0080】
上記セルスタック50においては、固体電解質層31を挟んで対向する電極32、33間で発電が行われるため、固体電解質層31の面積利用率は約100%である。
【0081】
図12は、
図11と同様の構造を有するセルスタック60を示している。なお、
図12において、
図11と同じ構成には同じ符号が付されている。
図12に示したセルスタック60と
図11に示したセルスタック50との相違は、セルスタック60においては、固体電解質層31及び電極32、33の積層体を挟んで対向するセパレータ34の三角波の位相が互いに反転していることである。これにより、酸化剤ガス流路35の直上に燃料ガス流路36が配置される構成となり、電極(空気極)33において生成された酸素イオンは、固体電解質層31を介して直上の燃料ガス流路36に移動して燃料ガスと反応することができる。これにより、
図12に示したセルスタック60においては、酸素イオンの移動距離が短いため、
図11に示したセルスタック50よりもイオン伝導の抵抗が小さい。
【0082】
上記セルスタック60においても、固体電解質層31を挟んで対向する電極32、33間で発電が行われ、固体電解質層31の面積利用率は約100%である。
【0083】
なお、
図11に示したセルスタック50及び
図12に示したセルスタック60においては、固体電解質層31及び電極32、33の積層体を挟んで対向するセパレータ34の断面形状の三角波の向きは、
図13(a)及び(b)に示すように互いに平行であるが、
図13(c)及び(d)に示すように、ガス配管配置のレイアウトの都合によって三角波の向きを互いに交差させてもよい。
図8から13に示したスタックは電池としては直列接続の構成を成している。単セルの出力は1V程度であるが、このように直列にセルを重ねることによって高電圧を得ることができる。
【0084】
図14に示したセルスタック70は、発電容量を大きくしたい場合に適した発明の実施例である。セルスタック70は、固体電解質層41と電極体52、53とを備え、電極体52は、パンチングメタル44を有する2枚の電極42が所定の間隔を空けて周縁部で接合されたものであり、燃料極として機能する。また、電極体52における2枚の電極42の間には、燃料ガス流路38が区画されている。同様に、電極体53は、パンチングメタル44を有する2枚の電極43が所定の間隔を空けて周縁部で接合されたものであり、空気極として機能する。また、電極体53における2枚の電極43間には、酸化剤ガス流路37が区画されている。そして、固体電解質層41の一方の表面には電極42が、他方の表面には電極43が配置されて単セルを構成し、この単セルが積層されセルスタック70が構成されている。また、電極体52及び53における接合部Jは、上記単セルのセパレータとして機能する。それぞれの電極42と43は、それぞれ共通の取り出し電極(図示せず)にまとめられ並列接続を構成する。このように構成することにより、電圧は低いものの、コンパクトで大容量のセルスタックを得ることができる。
【0085】
図14に示したセルスタック70は、以下のように得られる。まず、2枚の電極42を所定の間隔を空けて配置し、それらの周縁部をビーム溶接等により溶接して、電極体52とする。この電極体52を複数用意する。同様に、2枚の電極43の周縁部を溶接した電極体53を複数用意する。次に、固体電解質層41及び電極体52、53を
図14に示したように積層する。続いて、全体を加熱しつつ、固体電解質層41を挟んで対向する電極体52、53間に第1の極性の電圧を印加する。続いて、電極体52、53間に、第1の極性とは逆の極性の第2の電圧を印加する。こうして、固体電解質層41と電極体52、53とが陽極接合され、全体が一体化されてセルスタック70が得られる。
【0086】
ここで、得られたセルスタック70の動作について説明する。まず、酸化剤ガス流路37に、空気等の酸化剤ガスを流通させるとともに、燃料ガス流路38に水素等の燃料ガスを流通させる。そして、バーナー等によりセルスタック70を加熱する。すると、電極体(空気極)53において、酸化剤ガスに含まれる酸素が図示しない外部回路から電子を受け取って酸素イオンとなる。生成された酸素イオンは、固体電解質層41を通過して電極体(燃料極)52に移動し、燃料ガスと反応する。その際、電子が放出されて外部回路に供給される。こうして発電が行われる。
【0087】
以下、セルスタック70を例に、セルスタックの製造工程をより詳細に説明する。
図15は、電極42、43のより詳細な構成を示している。この図に示した電極42において、4つの角部にガス流通口42a〜42dが設けられている。同様に、電極43も4つの角部にガス流通口43a〜43dが設けられている。
【0088】
図16は、2枚の電極42(43)間に配置されるセパレータを示しており、(a)は斜視図、(b)は断面図をそれぞれ示している。
図16に示したセパレータ45は、上面45aと下面45bと側面45cとを有し、上面45a及び下面45bを貫通する2つの貫通孔45d、45eを有する。また、セパレータ45は、側面45cに2つの貫通孔のいずれか一方(図では貫通孔45d)と連通する開口部45fを有する。
【0089】
図17(a)および(b)に示すように、2つのセパレータ45を2枚の電極42(43)間(すなわち、積層体間)に配置する。その際、2つのセパレータ45を、
図17(c)に示すように、(i)隣接するガス流通口(図では42d)がセパレータ45の貫通孔45dを介して互いに連通されるとともに、(ii)開口部45fが互いに向き合うように配置し、(iii)積層体の積層方向に隣接するセパレータ45が互いに上下逆向きとなるように配置する。
【0090】
上記要件(ii)により、
図17(a)に示すように、開口部45fと連通する貫通孔45dが、電極42上において互いに対角の位置に存在するようになる。これにより、開口部45fから導入される酸化剤ガス又は燃料ガスは、
図18に示すように電極42(43)上を対角線方向に流通するため、電極42(43)と接触するガスの量を増やすことができ、発電効率を向上させることができる。また、上記要件(iii)により、積層方向に隣接する電極体52、53とで、それらの内部を通過するガスを相違させることができるようになる。
【0091】
図19(a)は、固体電解質層41を挟んで対向する電極間42、43に配置されるガスケットを示している。この図に示したガスケット46は、上面46aと下面46bとを有し、上面46a及び下面46bを貫通する貫通孔46cを有している。ガスケット46は、後に貫通孔46cに挿通されるガス導入配管とガス流通口42a〜42dとの間をシールする。このガスケット46を、
図19(b)に示すように、全ての電極体52と電極体53との間において、積層方向に隣接するガス流通口42a、42b、42c及び42dが、ガスケットの貫通孔46cを介して互いに連通されるように配置する。
【0092】
上記ガスケット46が発電時の温度まで加熱された際に、熱膨張して貫通孔46cが拡大し、ガスケット46がガス導入配管から離れて、ガス導入配管とガス流通口42a〜42dとの間のシールが不完全になるおそれがある。そこで、
図20(a)に示すように、電極42に凹部Cを設け、該凹部C内にガスケット46を配置することにより、貫通孔46cの拡大を防止することができる。
【0093】
又は、
図20(b)に示すように、リング状の基部47aと筒状の凸部47bとを有するガスケット47を用意し、セパレータ45に拡径部Lを設け、この拡径部Lにガスケット47の筒状の凸部47bを挿入するように構成することもできる。
【0094】
図21は、電極42のガス流通口42a〜42dに導通する2種類のガス導入配管を示している。
図21(a)に示したガス導入配管48は、上面48aと下面48bと外面48cと内面48dとを有し、外面48c及び内面48dを貫通する開口部48eを有する。また、
図21(b)に示したガス導入配管49は、上面49aと下面49bと外面49cと内面49dとを有し、外面49c及び内面49dを貫通する開口部49eを有する。
【0095】
図21(a)に示したガス導入配管48と
図21(b)に示したガス導入配管49とは、開口部の軸方向の位置が相違しており、一方の配管は燃料ガスの導入に、他方の配管は酸化剤ガスの導入に使用し、それぞれ2本用いる。
【0096】
ガス導入配管48、49を、電極42のガス流通口42a〜42d及び電極43のガス流通口43a〜43dに、セパレータ45の貫通孔45d、45e及びガスケット46の貫通孔46cを介し、かつガス導入配管48、49の開口部48e、49eとセパレータ45の開口部45fとが重なるように挿通する。
【0097】
図22は、ガス導入配管48、49を電極42のガス流通口42a〜42d及び電極43のガス流通口43a〜43dに挿通した後に得られたセルスタック80を示している。上述のように、ガス導入配管48と49とでは、開口部48e、49eの軸方向の位置が相違しており、開口部48e、49eはそれぞれ異なるガス流路に接続されている。
図22に示したセルスタック80においては、ガス導入配管48から酸化剤ガスAが導入され、ガス導入配管49から燃料ガスFが導入される。
【0098】
ガス導入配管48から導入された酸化剤ガスAは、酸化剤ガス流路55を通過し、電極(空気極)42において、酸化剤ガスAに含まれる酸素が図示しない外部回路から電子を受け取って酸素イオンとなる。この酸素イオンは固体電解質層41を通過して、電極(燃料極)43に移動する。反応後の酸化剤オフガスは、図に示されていないもう1本のガス導入配管48の開口部48eからセルスタック80の外に排気される。
【0099】
一方、ガス導入配管49から導入された燃料ガスFは、燃料ガス流路56を通過し、電極(燃料極)43において、固体電解質層41を通過した酸素イオンが燃料ガスFと反応する。その際、電子が放出されて外部回路に供給される。こうして発電が行われる。反応後の燃料オフガスは、図に示されていないもう1本のガス導入配管49の開口部49eからセルスタック80の外に排気される。
【0100】
上述のように得られたセルスタック80は、
図23に示すように、2枚のエンドプレート61で挟み、エンドプレート61にボルト62を通してナット63で締め付け固定することにより、最終的なセルスタック200が得られる。
【0101】
図24は、得られたセルスタック200におけるガスの流れを示している。この図に示すように、ガス導入配管48の一方から導入された酸化剤ガスAは、図示しないガス導入配管48の開口部を経由してセルスタック200内の酸化剤ガス流路を通過し、酸化剤オフガスA’がガス導入配管48の他方から排気される。また、ガス導入配管49の一方から導入された燃料ガスFは、セルスタック200内の燃料ガス流路を通過し、燃料オフガスF’がガス導入配管49の他方から排気される。
【実施例2】
【0102】
次に、陰極接合法によりセルスタックを作製する方法について説明する。
図27は、
図8に示したセルスタック30と同様の構造を有するセルスタック130を示している。なお、
図27において、
図8と同じ構成には同じ符号が付されており、説明は省略する。
図27に示したセルスタック130と
図8に示したセルスタック30との相違は、セルスタック130においては、電極22の平板部23、24の表面のうち、固体電解質層21と接触する部分に、酸化物層23a、24aが設けられていることである。これにより、上述した陰極接合法により、2回の電圧印加工程により、セルスタック130を得ることができる。
【0103】
具体的には、まず、熱酸化処理等により、電極22の平板部23、24の表面のうち、固体電解質層21と接触する部分に、酸化物層23a、24aを形成する。次に、固体電解質層21及び電極22を
図27に示したように積層して複数の積層体とする。こうして得られた複数の積層体全体を加熱しつつ、固体電解質層21を挟んで対向する電極22間に第1の極性の電圧を印加する。続いて、第1の極性とは逆の極性の第2の電圧を印加する。こうして、固体電解質層21と電極22とが酸化物層23a、24aを介して陰極接合され、全体が一体化されてセルスタック130が得られる。なお、セルスタック130の動作は、
図8に示したセルスタック30と同じであるため、説明を省略する。
【0104】
図28は、
図27に示したセルスタック130と同様の構造を有するセルスタック140を示している。なお、
図28において、
図27と同じ構成には同じ符号が付されている。
図28に示したセルスタック140と
図27に示したセルスタック130との相違は、セルスタック140においては、固体電解質層21を挟んで対向する電極22の矩形波の位相が互いに反転していることである。これにより、酸化剤ガス流路26の直上に燃料ガス流路27が配置される構成となり、平板部(空気極)23において生成された酸素イオンは、固体電解質層21を介して直上の燃料ガス流路27に移動して、燃料ガスと反応することができる。このセルスタック140においては、酸素イオンの移動距離が短いため、
図27に示したセルスタック130よりもイオン伝導の抵抗が小さい。
【0105】
上記セルスタック140においては、固体電解質層21を挟んで対向する平板部23と平板部24との間で発電が行われるため、固体電解質層21の面積利用率は約50%である。
【0106】
なお、
図27に示したセルスタック130及び
図28に示したセルスタック140においても、固体電解質層121を挟んで対向する電極22の断面形状の矩形波の向きは、
図10(a)に示したように互いに平行であるが、
図10(b)に示したように、矩形波の向きを互いに交差させてもよい。これにより外部からのそれぞれのガス導入口(図示せず)を一か所に固めずに別々の場所に配置することができるため、ガス配管を含めたスタック全体のレイアウトの自由度を向上させることができる。
【0107】
図29は、
図11に示したセルスタック50と同様の構造を有するセルスタック150を示している。なお、
図29において、
図11と同じ構成には同じ符号が付されており、説明は省略する。
図29に示したセルスタック150と
図11に示したセルスタック50との相違は、セルスタック150においては、電極32、33の表面のうち、固体電解質層31と接触する部分に、酸化物層32a、33aが設けられていることである。これにより、上述した陰極接合法により、2回の電圧印加工程により、セルスタック150を得ることができる。
【0108】
具体的には、まず、熱酸化処理等により、電極32、33の表面のうち、固体電解質層31と接触する部分に、酸化物層32a、33aを形成する。次に、固体電解質層31、電極32、33及びセパレータ34を、
図29に示したように積層して複数の積層体とする。こうして得られた複数の積層体全体を加熱しつつ、固体電解質層31を挟んで対向する電極32、33間に第1の極性の電圧を印加する。続いて、電圧を電極32、33間に、第1の極性とは逆の極性の第2の電圧を印加する。こうして、固体電解質層31と電極32、33とが酸化物層32a、33aを介して陰極接合される。また、セパレータ34は、その端部を電極32又は33の端部とビーム溶接等により溶接することにより、全体が一体化され、セルスタック150が得られる。なお、セルスタック150の動作は、
図11に示したセルスタック50と同じであるため、説明を省略する。
【0109】
上記セルスタック150においては、固体電解質層31を挟んで対向する電極32、33間で発電が行われるため、固体電解質層31の面積利用率は約100%である。
【0110】
図30は、
図29に示したセルスタック150と同様の構造を有するセルスタック160を示している。なお、
図30において、
図29と同じ構成には同じ符号が付されている。
図30に示したセルスタック160と
図29に示したセルスタック150との相違は、セルスタック160においては、固体電解質層31及び電極32、33の積層体を挟んで対向するセパレータ34の三角波の位相が互いに反転していることである。これにより、酸化剤ガス流路35の直上に燃料ガス流路36が配置される構成となり、電極(空気極)33において生成された酸素イオンは、固体電解質層31を介して直上の燃料ガス流路36に移動して燃料ガスと反応することができる。これにより、
図30に示したセルスタック160においては、酸素イオンの移動距離が短いため、
図29に示したセルスタック150よりもイオン伝導の抵抗が小さい。
【0111】
上記セルスタック160においても、固体電解質層31を挟んで対向する電極32、33間で発電が行われ、固体電解質層31の面積利用率は約100%である。
【0112】
なお、
図29に示したセルスタック150及び
図30に示したセルスタック160においても、固体電解質層31及び電極32、33の積層体を挟んで対向するセパレータ134の断面形状の三角波の向きは、
図13(a)及び(b)に示したように互いに平行であるが、
図13(c)及び(d)に示したように、ガス配管配置のレイアウトの都合によって三角波の向きを互いに交差させてもよい。
【0113】
図31は、
図14に示したセルスタック70と同様の構造を有するセルスタック170を示している。なお、
図31において、
図14と同じ構成には同じ符号が付されており、説明は省略する。
図31に示したセルスタック170と
図14に示したセルスタック70との相違は、セルスタック170においては、電極体52、53の表面のうち、固体電解質層41と接触する部分に、酸化物層52a、53aが設けられていることである。これにより、上述した陰極接合法により、2回の電圧印加工程により、セルスタック170を得ることができる。
【0114】
具体的には、まず、2枚の電極42を所定の間隔を空けて配置し、それらの周縁部をビーム溶接等により溶接して、電極体52とする。この電極体52を複数用意する。同様に、2枚の電極43の周縁部を溶接した電極体53を複数用意する。次に、電極体52,53の表面のうち、固体電解質層41と接触する部分に、酸化物層52a、53aを形成する。続いて、固体電解質層41及び電極体52、53を
図31に示したように積層して複数の積層体とする。こうして得られた複数の積層体全体を加熱しつつ、固体電解質層41を挟んで対向する電極体52、53間に第1の極性の電圧を印加する。続いて、電極体52、53間に、第1の極性とは逆の極性の第2の電圧を印加する。こうして、固体電解質層41と電極体52、53とが酸化物層52a、53aを介して陰極接合され、全体が一体化されてセルスタック170が得られる。なお、セルスタック170の動作は、
図14に示したセルスタック70と同じであるため、説明を省略する。
【0115】
以下、セルスタック170を例に、セルスタックの製造工程をより詳細に説明する。まず、
図15に示した電極42(43)及び
図16に示したセパレータ45を用意し、
図17(a)に示したようにセパレータ45を配置する。次いで、電極42(43)の周縁部をビーム溶接等により溶接して、
図17(b)に示したような電極体52を形成する。続いて、
図32に示すように、電極体52(53)の表面に酸化物層52a(53a)を形成する。
【0116】
次に、上述のように得られた電極体52(53)、固体電解質層41、及び
図19(a)に示したガスケット46を、
図33に示すように配置する。ここで、ガスケット46は、全ての電極体52と電極体53との間において、積層方向に隣接するガス流通口42a、42b、42c及び42dが、ガスケットの貫通孔46cを介して互いに連通されるように配置される。なお、酸化物層52a、53aは、固体電解質層41と接触する部分に設けられている。
【0117】
続いて、
図21に示した2種類のガス導入配管48、49を、電極42のガス流通口42a〜42d及び電極43のガス流通口43a〜43dに、セパレータ45の貫通孔45d、45e及びガスケット46の貫通孔46cを介し、かつガス導入配管48、49の開口部48e、49eとセパレータ45の開口部45fとが重なるように挿通する。
【0118】
図34は、ガス導入配管48、49を電極42のガス流通口42a〜42d及び電極43のガス流通口43a〜43dに挿通した後に得られたセルスタック180を示している。ガス導入配管48と49とでは、開口部48e、49eの軸方向の位置が相違しており、開口部48e、49eはそれぞれ異なるガス流路に接続されている。
図34に示したセルスタック180においては、ガス導入配管48から酸化剤ガスAが導入され、ガス導入配管49から燃料ガスFが導入される。なお、セルスタック180の動作は、
図22に示したセルスタック80と同じであるため、説明は省略する。
【0119】
上述のように得られたセルスタック180は、
図23に示したように、2枚のエンドプレート61で挟み、エンドプレート61にボルト62を通してナット63で締め付け固定することにより、最終的なセルスタックが得られる。