(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の無機質化粧板の製造方法では、エンボス加工によって表面に凹凸模様を形成した後に塗装を施すため、塗料が凹部に溜まり、エンボス加工によって折角シャープに形成された凹凸模様の輪郭がぼやけ、意匠性が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、表面に施されたシャープな凹凸模様の意匠性を損なうことなく表面を塗装した意匠性に優れた無機質化粧板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明では、塗装工程のうち、水性塗料で塗装する下塗り塗装工程をエンボス加工前に行い、エンボス加工後に上塗り塗装工程を行うこととした。
【0008】
具体的には、第1の発明は、表面に凹凸模様が形成されると共に塗装が施された無機質化粧板の製造方法を前提としている。
【0009】
そして、第1の発明に係る無機質化粧板の製造方法は、鉱物質繊維と無機質紛状体と結合剤とを主成分として含むスラリーから湿式抄造によって形成した湿潤マットで全体又は少なくとも表層及び裏層が構成された板状の湿潤基材を形成する湿潤基材形成工程と、上記湿潤基材を乾燥させて乾燥基材とする乾燥工程と、上記乾燥基材の表面に塗装を施して下塗り塗膜層を形成する下塗り塗装工程と、上記下塗り塗装工程後、上記乾燥基材の表面に上記凹凸模様が形成されるようにエンボス型で上記乾燥基材を加熱圧縮して上記結合剤を硬化させてエンボス基材とする加熱圧縮工程と、上記エンボス基材の表面に塗装を施して上記凹凸模様を有する上塗り塗膜層を形成する上塗り塗装工程とを備え
、上記下塗り塗装工程では、ガラス転移点が0℃以下のアクリル樹脂を主成分とする水性塗料で上記乾燥基材の表面を塗装することを特徴としている。
【0010】
第1の発明では、無機質化粧板の少なくとも表層及び裏層を鉱物質繊維と無機質紛状体と結合剤とを主成分として含むスラリーから構成することとしている。このような繊維を主成分として含む基材に塗装を施す場合、下塗り塗装で目止めを行う必要がある。また、下塗り塗装では、目止めのために多量の塗料を基材に厚塗りする必要がある。第1の発明では、このような下塗り塗装をエンボス型で乾燥基材を加熱圧縮するエンボス加工の前に行うこととした。このように、下塗り塗装で塗料を厚塗りして目止めを行った後に、エンボス加工を行うことにより、エンボス加工後に下塗り塗装を行う従来の製造方法に比べて、凹凸模様の凹部に塗料が溜まり難くなり、凹凸模様のシャープさを保つことができる。従って、第1の発明に係る無機質化粧板の製造方法によれば、表面に施されたシャープな凹凸模様の意匠性を損なうことなく表面を塗装した意匠性に優れた無機質化粧板を製造することができる。
【0011】
ところで、エンボス加工によって表面に凹凸模様を形成した後に塗装を施すと、塗料が凹部に溜まり、凹凸模様の輪郭がぼやけ、意匠性が低下するという上述の課題を解決する観点からは、下塗り塗装だけでなく、上塗り塗装もエンボス加工の前に行うことが好ましい。しかしながら、エンボス加工によって乾燥基材の表面積が著しく増大する場合、エンボス加工前に形成した塗膜が割れるおそれがある。そのため、下塗り塗装よりも求められる精細さが高い上塗り塗装までエンボス加工前に行うと、エンボス加工によって上塗り塗装による塗膜が割れることがあり、最終の仕上がりを狙い通りの意匠にコントロールできず、逆に、無機質化粧板の意匠性を低下させてしまうおそれがある。
【0012】
そこで、第1の発明では、下塗り塗装をエンボス加工前に行う一方、上塗り塗装は、エンボス加工後に行うこととしている。このように塗装工程をエンボス加工の前後で分けて行うことにより、表面に施されたシャープな凹凸模様の意匠性を損なわない割れのない塗膜が表面に形成された意匠性に優れた無機質化粧板を製造することができる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、上記下塗り塗装工程では、水性塗料で上記乾燥基材の表面を塗装することを特徴としている。
【0014】
第2の発明では、水性塗料で乾燥基材の表面を塗装する下塗り塗装工程後に、乾燥基材を加熱圧縮する加熱圧縮工程が行われる。そのため、下塗り塗装後、乾燥基材を乾燥させる乾燥工程を行わなくても、加熱圧縮工程において結合剤の硬化と水性塗料の乾燥の両方を同時に行うことができる。従って、第2の発明によれば、下塗り塗装後の乾燥工程を省略して無機質化粧板の製造方法を容易化することができる。
【0015】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、上記上塗り塗装工程では、上記エンボス基材の表面にインクジェット塗装を施すことを特徴としている。
【0016】
第3の発明では、加熱圧縮工程において凹凸模様が形成されたエンボス基材の表面にインクジェット塗装で上塗り塗装を施すこととしている。インクジェット塗装では、数mm単位で位置調整が可能であり、塗料の噴射量も高精度に制御可能であるため、エンボス基材の表面の凹凸模様の凹部を塗料で埋めてしまうことなく塗装を行うことができる。従って、第3の発明に係る無機質化粧板の製造方法によれば、表面に施されたシャープな凹凸模様の意匠性を損なうことなく表面を塗装した意匠性に優れた無機質化粧板を製造することができる。
【0017】
第4の発明は、第1乃至第3のいずれか1つの発明において、上記下塗り塗装工程後、上記乾燥基材の裏面に水又は樹脂水溶液からなる軟化剤を塗布する塗布工程を備えていることを特徴としている。
【0018】
ところで、乾燥基材をエンボス型で加熱圧縮する前に、乾燥基材の表面及び裏面に水又は樹脂水溶液を塗布することにより、乾燥基材の表面及び裏面の表層部を軟化させるのが好ましい。このように乾燥基材の表面及び裏面の表層部を軟化させることにより、加熱圧縮時に比較的亀裂や割れが生じるのを防止することができるためである。
【0019】
これに対し、第4の発明では、加熱圧縮工程の前の下塗り塗装工程において、水性塗料で乾燥基材の表面を塗装することとしているため、塗布工程において乾燥基材の表面に水又は樹脂水溶液を塗布しなくても、基材の表面の表層部を軟化させることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によると、塗装工程のうち、塗料を厚塗りする下塗り塗装工程をエンボス加工前に行い、エンボス加工後には上塗り塗装工程のみを行うこととしたため、表面に施されたシャープな凹凸模様の意匠性を損なうことなく表面を塗装した意匠性に優れた無機質化粧板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態は、本質的に好ましい例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0023】
《発明の実施形態1》
図1及び
図2は、本発明の実施形態1に係る無機質化粧板の製造方法によって製造された無機質化粧板50を示している。無機質化粧板50は、化粧面に凹凸模様が形成されると共に塗装が施され、例えば、住宅等の建物の内装材、造作材、開口部材、家具等の化粧材として用いられる。
【0024】
−構成−
無機質化粧板50は、化粧面となる表面1にエンボス加工によって凹凸模様が形成された基材10と、該基材10の表面1に形成された塗膜30とを有している。
【0025】
{基材}
基材10は、本実施形態では、表面1側(
図2の上側)に位置する表層11と、裏面2側(
図2の下側)に位置する裏層12と、表層11と裏層12との間に位置する芯層13とを有し、三層構造に構成されている。表層11と裏層12とは、互いに同じものであり、鉱物質繊維と無機質紛状体と結合剤とを主成分とする層である。一方、芯層13は、軽量骨材と結合剤と繊維を主成分とする層である。表層11と裏層12と芯層13とは、結合剤の硬化によって複合一体化されている。
【0026】
基材10は、エンボス型20によって加熱圧縮されることにより、表層11側の表面1に、凹凸模様が形成されている。凹凸模様は、本実施形態では、深彫り形状の石目調のタイル模様に形成されている。なお、凹凸模様は、いかなるものであってもよい。本実施形態では、基材10の厚みは、最も薄い部分の厚さが6mm、最も厚い部分の厚さが9mmとなるように、凹凸模様が形成されている。
【0027】
〈表層及び裏層の主成分〉
[鉱物質繊維]
表層11と裏層12の鉱物質繊維として、ロックウール、スラグウール、ミネラルウール、グラスウール等を用いることができる。これらは、単独で用いることも可能であり、複数を組み合わせて用いてもよい。鉱物質繊維は、粘りと強度とを持たせつつ、高い表面性を得るために添加されるものであり、固形成分全体の40重量%以上80重量%以下だけ添加される。鉱物質繊維は、添加量が40重量%未満になると、鉱物質繊維どうしの絡み合いが少なくなって曲げ強度が弱くなり、また、80重量%を超えると、無機質紛状体の添加割合が少なくなるため、表面の緻密性が低くなり、化粧性が損なわれるためである。
【0028】
[無機質紛状体]
表層11と裏層12の無機質紛状体として、炭酸カルシウム、マイクロシリカ、水酸化アルミニウム、スラグ紛等を用いることができる。これらは、単独で用いることも可能であり、複数を組み合わせて用いてもよい。無機質紛状体は、防火性及び硬度を確保するために添加されるものであり、固形成分全体の20重量%以上60重量%以下だけ添加される。無機質紛状体は、添加量が20重量%未満になると、形成される無機質化粧板50の表面の緻密性が低くなって化粧性が損なわれ、また、60重量%を超えると、鉱物質繊維の添加割合が少なくなるため、曲げ強度が弱くなるためである。
【0029】
[結合剤]
表層11と裏層12の結合剤は、熱硬化性樹脂結合剤であり、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素メラミン樹脂等の粉末状、或いは水性結合剤を用いることができる。また、結合剤として、ポリビニルアルコール、スターチ類、ポリアクリルアミド、SBRラテックス、アクリル樹脂エマルジョン等の水溶性又は水分散性の高分子結合剤を、熱硬化性樹脂と併用することも可能である。結合剤は、鉱物質繊維及び無機質紛状体を含む成分を結合するために添加されるものであり、固形成分全体の5重量%以上20重量%以下、好ましくは、7重量%以上15重量%以下だけ添加される。結合剤は、添加量が5重量%未満になると、強度が不足する一方、20重量%を超えると、不燃性が損なわれるためである。
【0030】
〈芯層の主成分〉
[軽量骨材]
芯層13の軽量骨材として、パーライト、シラス発泡体、シリカフラワー、ガラス発泡体等を用いることができる。軽量骨材は、圧縮強度を確保しつつ、軽量化するために添加されるものであり、固形成分全体の40重量%以上90重量%以下だけ添加される。軽量骨材は、添加量が40重量%未満になると、軽量化が不十分になり、また、散布時に均一に撒くことが難しくなる一方、90重量%を超えると、強度が弱くなり、また、圧縮時の圧力が高くなりすぎて生産性が低下するためである。
【0031】
[結合剤]
芯層13の結合剤は、熱硬化性樹脂結合剤であり、表層11及び裏層12に用いることができるもの、即ち、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素メラミン樹脂等の粉末状、或いは水性結合剤を用いることができる。また、表層11及び裏層12の結合剤と同様に、ポリビニルアルコール、スターチ類、ポリアクリルアミド、SBRラテックス、アクリル樹脂エマルジョン等の水溶性又は水分散性の高分子結合剤を、熱硬化性樹脂と併用することも可能である。結合剤は、軽量骨材を含む成分を結合するために添加されるものであり、固形成分全体の5重量%以上20重量%以下、好ましくは、7重量%以上15重量%以下だけ添加される。結合剤は、添加量が5重量%未満になると、強度が不足する一方、20重量%を超えると、不燃性が損なわれる。
【0032】
[繊維]
芯層13の繊維として、無機繊維又は有機繊維を用いることができる。具体的には、無機繊維として、ガラス繊維、ワラストナイト等を用いることができる。また、有機繊維として、ポリエステル、ポリプロピレン、ビニロン等の合成繊維、木質繊維、パルプ等を用いることができる。これらは、単独で用いることも可能であり、複数を組み合わせて用いてもよい。繊維は、粘りと強度とを持たせるために添加されるものであり、固形成分全体の1重量%以上10重量%以下だけ添加される。繊維は、添加量が1重量%未満になると、粘りが無くなり、補強効果が低くなり、10重量%を超えると、抄造時に凹凸が生じ、抄造時に凹凸が生じ、良好な湿潤マットを得ることができなくなるためである。
【0033】
〈凹凸模様〉
基材10の表面1には、凹凸模様が形成されている。基材10の表面1は、この凹凸模様によって複数のブロックに区画されている。
【0034】
具体的には、本実施形態1では、
図1及び
図2に示すように、基材10の表面1には、上記凹凸模様の一部を構成する複数の溝3が形成され、この複数の溝3によって基材10の表面1が複数のブロックに区画されている。基材10において溝3が形成された部分が基材10の最も薄い部分を構成し、溝3での基材10の厚さは6mmである。一方、最も分厚い部分(凹凸模様の最大凸部部分)での基材10の厚さは、9mmである。
【0035】
なお、基材10の凹凸模様は、基材10の最も分厚い部分(凹凸模様の最大凸部部分)において、表層11の厚さが3mm、芯層13の厚さが3.5mm、裏層12の厚さが2.5mm程度になるように形成されている。また、基材10の表面1の凹凸模様は、基材10の最も薄い溝3部分において、表層11の厚さが1mm、芯層13の厚さが3mm、裏層12の厚さが2mm程度になるように形成されている。
【0036】
つまり、本実施形態では、凹凸模様は、最大高低差(最大凸部部分の表面と溝3の底面とのレベル差)が3mm程度になるように形成されている。
【0037】
また、溝3は、側面の傾斜角が60°以上90°以下となるように形成され、溝3以外の部分に比べて尖鋭な凹部に構成されている。
【0038】
{塗膜}
塗膜30は、基材10の表面1に直に形成される下塗り層31と、該下塗り層31の上に重ねて形成される上塗り層32とを有している。
【0039】
下塗り層31は、水性塗料を塗布することによって形成されている。水性塗料として、アクリル樹脂又はウレタン樹脂を主成分とするものを用いることができる。本実施形態では、ガラス転移点が0℃以下のアクリル樹脂を主成分とする水性塗料を塗布することによって下塗り層31が形成されている。
【0040】
上塗り層32は、着色インクをインクジェット装置によって下塗り層31の上に噴射することによって形成されている。上塗り層32は、色調が基材10の表面1に形成された凹凸模様に同調するように、凹部部分の塗膜の色(インク色)が凸部部分の塗膜の色(インク色)よりも濃い。具体的に、本実施形態では、溝3の内面には、溝3以外の部分に形成される塗膜よりも少なくとも明度が低い着色インクで塗膜が形成されている。このようにして、下塗り層31の上には、色調が凹凸模様に同調した上塗り層32が形成されている。なお、溝3の内面には、溝3以外の部分に形成される塗膜よりも明度が低いだけでなく彩度が高い着色インクで塗膜が形成されていてもよい。
【0041】
−製造方法−
以下、本発明の実施形態1に係る無機質化粧板50の製造方法について
図3及び
図4に基づいて説明する。
【0042】
無機質化粧板50の製造方法は、湿潤基材形成工程S1と、第1乾燥工程S2と、下塗り塗装工程S3と、第2乾燥工程S4と、塗布工程S5と、加熱圧縮工程S6と、上塗り塗装工程S7とを有している。
【0043】
(1)湿潤基材形成工程
まず、湿潤基材形成工程S1を行う。本実施形態では、湿潤基材形成工程S1は、裏層マット形成工程と、芯層マット形成工程と、表層マット形成工程とで構成されている。
【0044】
〈裏層マット形成工程〉
裏層マット形成工程では、裏層12を形成するための材料、即ち、鉱物質繊維と無機質粉状体と結合剤とを水中に添加して攪拌し、鉱物質繊維と無機質粉状体と結合剤とを主成分とするスラリーを生成する。そして、生成したスラリーを長網式湿式抄造装置又は丸網式湿式抄造機で湿式抄造して裏層マット10cを形成する。本実施形態では、裏層マット10cは、4mmの一様な厚さになるように形成する。
【0045】
〈芯層マット形成工程〉
芯層マット形成工程では、芯層13を形成するための材料、即ち、軽量骨材と結合剤と繊維とを、水を噴霧しながら混合して芯層用組成物を生成する。そして、生成した芯層用組成物を、先に生成した裏層マット10cの上に均一に散布して芯層マット10bを形成する。本実施形態では、芯層マット10bは、5mmの一様な厚さになるように形成する。
【0046】
〈表層マット形成工程〉
表層マット形成工程では、裏層マット形成工程と同様に、表層11を形成するための材料、即ち、鉱物質繊維と無機質粉状体と結合剤とを水中に添加して攪拌し、鉱物質繊維と無機質粉状体と結合剤とを主成分とするスラリーを生成する。そして、生成したスラリーを長網式湿式抄造装置又は丸網式湿式抄造機で湿式抄造して表層マット10aを形成し、この表層マット10aを、芯層マット10bの上に積層する。本実施形態では、表層マット10aは、5mmの一様な厚さになるように形成する。
【0047】
以上のような湿潤基材形成工程S1を行うことにより、鉱物質繊維と無機質粉状体と結合剤とを主成分として含む湿潤マットからなる表層マット10a及び裏層マット10cで、軽量骨材と結合剤と繊維とを主成分として含む芯層マット10bを挟む三層構造の板状の湿潤基材10Aが形成される(
図4(A)を参照)。上述したように、本実施形態では、三層構造の湿潤基材10Aは、表層マット10aの厚さが5mm、芯層マット10bの厚さが5mm、裏層マット10cの厚さが4mmで、計14mmの厚さになるように形成される。
【0048】
(2)第1乾燥工程(乾燥工程)
次に、第1乾燥工程S2を行う。第1乾燥工程S2では、湿潤基材形成工程S1によって形成された湿潤基材10Aを熱風循環式ドライヤーに搬入し、含水率が10重量%未満、好ましくは、4重量%未満となるように乾燥し、乾燥基材(ドライボード)10Bを形成する(
図4(B)を参照)。このとき、湿潤基材10A中に含まれる結合剤(熱硬化性樹脂結合剤)がプレキュアー状態に至らないように、即ち、結合剤が硬化しない条件下で湿潤基材10Aを乾燥させる。これは、結合剤が完全に硬化しないまでもプレキュアー状態に至ると、プレキュアー状態の結合剤によって結合された組織が後の加熱圧縮工程S6で潰れることにより、得られる無機質化粧板50が脆弱化するおそれがあるためである。
【0049】
また、湿潤基材10Aは、熱風循環式ドライヤーによる乾燥の前に、加熱ロール、連続プレス、平板プレス等で加熱圧縮してもよい。このように乾燥前に予備的な加熱圧縮を行うことにより、強度の高い乾燥基材10Bに形成することができる。この予備的な加熱圧縮を行う場合も、湿潤基材10A中の結合剤がプレキュアー状態に至らない条件下で行う。
【0050】
なお、結合剤がプレキュアー状態に至らない条件は、結合剤によって異なるが、例えば、結合剤として粉末フェノール樹脂を用いた場合、熱風循環式ドライヤーによる乾燥では、60℃〜140℃程度の温度条件、予備的な加熱圧縮では、80℃〜180℃程度の温度条件で行うことができる。
【0051】
(3)下塗り塗装工程
次に、下塗り塗装工程S3を行う。下塗り塗装工程S3では、乾燥基材10Bの表面1Bに、水性塗料を塗布する。これにより、乾燥基材10Bの表面1B上に下塗り層31が形成される(
図4(B)参照)。
【0052】
(4)第2乾燥工程
下塗り塗装工程S3の後、第2乾燥工程S4を行う。第2乾燥工程S4では、下塗り塗装工程S3で乾燥基材10Bの表面1Bに塗布された水性塗料を乾燥させる。本実施形態では、乾燥基材10Bを140℃のオーブンで水分が無くなるまで乾燥させる。
【0053】
(5)塗布工程
次に、塗布工程S5を行う。塗布工程S5では、乾燥基材10Bの表面1B及び裏面2Bに、水又は樹脂水溶液からなる軟化剤を塗布する(
図4(C)を参照)。これにより、乾燥基材10Bの表面1B及び裏面2Bが軟化し、後の加熱圧縮工程S6において乾燥基材10Bの表面1B及び裏面2Bにおいて亀裂や割れが生じ難くなる。本実施形態では、乾燥基材10Bの表面1Bには、400g/m
2の軟化剤を塗布し、乾燥基材10Bの裏面2Bには、100g/m
2の軟化剤を塗布する。
【0054】
(6)加熱圧縮工程
次に、加熱圧縮工程S6を行う。加熱圧縮工程S6では、表面1B及び裏面2Bに軟化剤が塗布された乾燥基材10Bを多段式ホットプレス等の加熱圧縮装置の熱盤間に挿入し(
図4(C)を参照)、表面1Bに所定の凹凸模様を形成するためのエンボス型20を用いて、結合剤(熱硬化性樹脂結合剤)の硬化温度以上の温度で加熱圧縮する(
図4(D)を参照)。
【0055】
乾燥基材10Bを加熱圧縮すると、先の塗布工程S5において乾燥基材10Bの表面1B及び裏面2Bに塗布された軟化剤が、蒸気となって乾燥基材10B中に浸透する。ここで、乾燥基材10B中の表層マット10a、芯層マット10b及び裏層マット10cの結合剤は、プレキュアーしていない状態にあるため、乾燥基材10B中に浸透した軟化剤によって流動性を得て軟化剤と共に乾燥基材10B中に行き亘る。
【0056】
また、乾燥基材10Bは、エンボス型20を用いて加熱圧縮されるため、圧縮されると共に、裏面2Bは平滑に、表面1Bは凹凸模様形状に変形していく。このとき、先の塗布工程S5において、乾燥基材10Bの表面1B及び裏面2Bに軟化剤が塗布されて軟化しているため、特に、表面1Bには多量の軟化剤が塗布されて裏面2Bより軟化している。そのため、乾燥基材10Bは、亀裂や割れなどを生じることなく変形することとなる。
【0057】
そして、乾燥基材10Bが変形した状態で、該乾燥基材10B中に行き亘った結合剤(熱硬化性樹脂結合剤)が硬化することにより、表面1Cに彫りの深いシャープな凹凸模様が形成されたエンボス基材10Cが形成される(
図4(E)を参照)。
【0058】
(7)上塗り塗装工程
次に、上塗り塗装工程S7を行う。上塗り塗装工程S7では、凹凸模様が形成されたエンボス基材10Cの表面1Cに、インクジェット装置によって着色インクを噴射する(
図4(F)を参照)。これにより、エンボス基材10Cの表面1C上に上塗り層32が形成される。本実施形態では、インクジェット装置40には、ブラック、マゼンタ、イエロー、シアンの4種類の着色インクが内蔵され、これらの着色インク混ぜ合わせたものがノズルヘッドからエンボス基材10Cの表面1Cに噴射される。また、インクジェット装置40には、予め、無機質化粧板50の凹凸模様に同調した上塗り層32が形成されるような塗装データが記憶されており、インクジェット装置40は、その塗装データに従って4種類の着色インクを混ぜ合わせて噴射箇所に適した色調の着色インクを生成し、噴射する。本実施形態では、溝3の内面を塗装する際に、インクジェット装置40は、その他の部分を塗装する際よりも明度の低い濃色の着色インクを溝3の内面に噴射する。これにより、溝3の内面には、その他の部分よりも濃色の塗膜が形成される。このような上塗り塗装工程により、エンボス基材10Cの表面1C上に色調が凹凸模様に同調した上塗り層32が形成される。
【0059】
以上の工程S1〜S7により、化粧面に凹凸模様が形成されると共に塗装が施された無機質化粧板50が製造される。
【0060】
−実施形態1の効果−
以上のように、本実施形態1の無機質化粧板の製造方法によれば、無機質化粧板50の基材10の少なくとも表層11及び裏層12を鉱物質繊維と無機質紛状体と結合剤とを主成分として含むスラリーから構成することとしている。このような繊維を主成分として含む基材10に塗装を施す場合、下塗り塗装で目止めを行う必要がある。また、下塗り塗装では、目止めのために多量の塗料を基材10に厚塗りする必要がある。本実施形態1の製造方法では、このような下塗り塗装をエンボス型20で乾燥基材10Bを加熱圧縮するエンボス加工の前に行うこととした。このように、下塗り塗装で塗料を厚塗りして目止めを行った後に、エンボス加工を行うことにより、エンボス加工後に下塗り塗装を行う従来の製造方法に比べて、凹凸模様の凹部に塗料が溜まり難くなり、凹凸模様のシャープさを保つことができる。従って、本実施形態1の無機質化粧板の製造方法によれば、表面に施されたシャープな凹凸模様の意匠性を損なうことなく表面1を塗装した意匠性に優れた無機質化粧板50を製造することができる。
【0061】
ところで、エンボス加工によって表面に凹凸模様を形成した後に塗装を施すと、塗料が凹部に溜まり、凹凸模様の輪郭がぼやけ、意匠性が低下するという上述の課題を解決する観点からは、下塗り塗装だけでなく、上塗り塗装もエンボス加工の前に行うことが好ましい。しかしながら、エンボス加工によって乾燥基材10Bの表面積が著しく増大する場合、エンボス加工前に形成した塗膜が割れるおそれがある。そのため、下塗り塗装よりも求められる精細さが高い上塗り塗装までエンボス加工前に行うと、エンボス加工によって上塗り塗装による塗膜が割れることがあり、最終の仕上がりを狙い通りの意匠にコントロールできず、逆に、無機質化粧板の意匠性を低下させてしまうおそれがある。
【0062】
そこで、本実施形態1では、下塗り塗装をエンボス加工前に行う一方、上塗り塗装は、エンボス加工後に行うこととしている。このように塗装工程をエンボス加工の前後で分けて行うことにより、表面に施されたシャープな凹凸模様の意匠性を損なわない割れのない塗膜30が表面に形成された意匠性に優れた無機質化粧板50を製造することができる。
【0063】
また、本実施形態1では、加熱圧縮工程S6において凹凸模様が形成されたエンボス基材10Cの表面1Cにインクジェット塗装で上塗り塗装を施すこととしている。インクジェット塗装では、数mm単位で位置調整が可能であり、塗料の噴射量も高精度に制御可能であるため、エンボス基材10Cの表面1Cの凹凸模様の凹部を塗料で埋めてしまうことなく塗装を行うことができる。従って、本実施形態1の無機質化粧板の製造方法によれば、表面1に施されたシャープな凹凸模様の意匠性を損なうことなく表面1を塗装した意匠性に優れた無機質化粧板50を製造することができる。
【0064】
《その他の実施形態》
上記実施形態1では、湿潤基材10Aを三層構造としていたが、湿潤基材10Aは、これに限られない。表層11及び裏層12を構成する1つの湿潤マットからなる単層構造でもよく、また、芯層13のない二層構造であってもよい。その他、芯層13の他に中間層を設けて四層以上の構造としてもよい。
【0065】
また、上記実施形態1では、水性塗料で乾燥基材10Bの表面1Bを塗装する下塗り塗装工程S3後、乾燥基材10Bを乾燥させる第2乾燥工程S4を行っていた。しかしながら、第2乾燥工程S4は省略することとしてもよい。水性塗料が塗布された乾燥基材10Bを乾燥させる第2乾燥工程S4を行わなくても、乾燥基材10Bを加熱圧縮する加熱圧縮工程S6において結合剤の硬化と水性塗料の乾燥の両方を同時に行うことができる。よって、上記実施形態1において、下塗り塗装後の第2乾燥工程S4を省略して無機質化粧板50の製造方法を容易化してもよい。
【0066】
また、上記実施形態1では、加熱圧縮工程S6において乾燥基材10Bをエンボス型で加熱圧縮する前に、乾燥基材10Bの表面1B及び裏面2Bに水又は樹脂水溶液を塗布し(塗布工程S5)、乾燥基材10Bの表面1B及び裏面2Bの表層部を軟化させていた。これにより、加熱圧縮工程S6において乾燥基材10Bを加熱圧縮する際に亀裂や割れが生じるのを防止していた。
【0067】
しかしながら、上述のように、第2乾燥工程S4は省略してもよく、その場合、塗布工程S5において、乾燥基材10Bの裏面2Bのみに水又は樹脂水溶液を塗布することとしてもよい。第2乾燥工程S4を省略する場合、乾燥基材10Bの表面1Bには、下塗り塗装工程S3において水性塗料が塗布されているため、塗布工程S5において乾燥基材10Bの表面1Bに水又は樹脂水溶液を塗布しなくても、乾燥基材10Bの表面1Bの表層部を軟化させることができる。
【解決手段】板状の湿潤基材10Aを形成する湿潤基材形成工程S1と、湿潤基材10Aを乾燥させて乾燥基材10Bとする第1乾燥工程S2と、乾燥基材10Bの表面1Bを塗装する下塗り塗装工程S3と、下塗り塗装工程S3後、乾燥基材10Bの表面1Bに凹凸模様が形成されるようにエンボス型20で乾燥基材10Bを加熱圧縮して結合剤を硬化させてエンボス基材10Cとする加熱圧縮工程S6と、エンボス基材10Cの表面1Cを塗装する上塗り塗装工程S7とを行い、表面1に凹凸模様と塗装が施された無機質化粧板50を製造する。