(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記可動式撮像部にて得られた画像に基づいて、前記複数のティーチングデータの中から、使用するティーチングデータをオペレータが選択するためのマニュアル選択用の選択部を備えたことを特徴とする請求項2記載の細胞培養加工設備。
前記制御部は、前記可動式撮像部にて得られた画像に基づいて、前記複数のティーチングデータの中から、使用するティーチングデータを自動で選択するための自動選択用の選択部を備えたことを特徴とする請求項2記載の細胞培養加工設備。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1〜
図6を参照しながら本発明の細胞培養加工設備、及び当該設備内で各種操作を行うマニピュレータ3、並びにその動作制御を行うシステムについて説明する。
本発明の細胞培養加工設備は、筐体10によって外部雰囲気から区画された作業室1内に、細胞培養用の各種機器が配置された作業卓2と、この作業卓2と対向する位置に設けられ、前記機器の操作を実行するマニピュレータ3と、を備えている。
【0015】
図1、
図2に示すように作業卓2は、後述するマニピュレータ3のハンド32がアクセス可能な高さ位置に設けられている。
図1には、細胞培養用の機器として、培養容器であるディッシュ26を収納するインキュベータ21、流体の吸引、供給操作を実行するピペット装置(吸引具)22、液体試料中に分散した細胞の分離操作を実行する遠心分離器23、及び作業卓2で培養され分離された目的細胞の大量培養を行う大量培養装置24を備えた作業卓2の例を示している。
【0016】
インキュベータ21は、内部を一定温度に保つことが可能な筐体内に、多数のディッシュ26を収容可能な棚を備えている。
図1にはマニピュレータ3側から見て、手前側及び奥手側の前後2列の棚を配置したインキュベータ21の例を示している。この場合には、手前の棚を昇降自在に構成することにより、各棚に収容されたディッシュ26に手前側からアクセスすることができる。
【0017】
ピペット装置22は、ディッシュ26などの流体容器から液体試料や各種薬液を所定量だけ吸引し、別の容器へ注入する操作に用いられる。ピペット装置22は、例えば作業卓2の上面に配置されたスタンドに着脱自在に保持される。ピペット装置22を保持するスタンドの隣には、前記ピペット装置22に対して着脱自在に構成され、取り扱う流体に応じて交換される複数のピペットチップ221がチップスタンド222に保持されている。
【0018】
遠心分離器23には、筐体内に収容された回転ロータのホルダー(不図示)に遠心管231を保持し、回転ロータを回転させて遠心管231内の液体試料に遠心力を加え、液体試料中の細胞の分離などを行う。遠心分離器23の隣には、遠心管231を保持する遠心管スタンド232が配置されている。
【0019】
大量培養装置24は、例えば細胞のディッシュ26よりも大容量の培養液を収容可能な培養タンクや培養液の撹拌装置(不図示)などを備える。培養タンクは例えば作業卓2の下方側に配置され、作業室1の外部からアクセスして取り外すことができる(
図1には培養タンクを破線で示してある)。例えば作業卓2の上面からは、ディッシュ26にて培養された目的細胞を培養タンク内に注入するための注入口241が突出している。なお、大量培養装置24には、培養フラスコ及びフラスコ用インキュベータが併設されているが、
図1には記載を省略してある。
【0020】
図1に示すように、マニピュレータ3から見て左手側の筐体10の側壁面には、外部との間で試料や薬液を収容した容器などを搬入出するための搬入出部11が設けられている。搬入出部11は、筐体10の側の壁面及び作業室1側に設けられた開閉扉111、112によって、外部空間及び作業室1内から区画自在に構成された空間であり、その内部には搬入出物を載置した状態で移動自在な搬入出ステージ113が設けられている。
【0021】
さらに、マニピュレータ3側から見て、スタンドに保持されたピペット装置22や遠心管スタンド232の手前側の作業卓2上には作業ステージ20が設けられている。マニピュレータ3によって操作されるディッシュ26はこの作業ステージ20上に載置される。
【0022】
また、前記作業卓2には、作業ステージ20、搬入出部11、及びインキュベータ21にアクセス自在に構成された搬送装置25が設けられている。搬送装置25は、作業ステージ20との搬入出部11との間の作業卓2上に設けられた走行レール251上を走行自在、鉛直軸周りに回転自在、及び昇降自在に構成されている。また搬送装置25は、ディッシュ26などの搬送対象物を保持する保持部252を備え、当該保持部252を伸縮させて、搬入出部11内の搬入出ステージ113やインキュベータ21内の各棚におけるディッシュ26の保持位置、及び作業ステージ20にアクセスすることができる。
【0023】
さらに
図2に示すように、作業室1を構成する筐体10の天井部には、不図示のファンから送られた気体(例えば作業室1の外部の空気)をろ過するフィルターユニット12が設けられている。また作業室1には、筐体10の内部の圧力を調節する不図示の排気ユニットが設けられている。
【0024】
以上に説明したように、ディッシュ26内の液体試料などを吸引するピペット装置22やディッシュ26が収容されるインキュベータ21などの細胞培養用の機器は筐体10によって外部から隔離された作業室1内に設けられている。そして、これらの機器を用いた細胞培養に係る操作は、作業室1内に配置されたマニピュレータ3を用いて実行される。
【0025】
図3に示すように、本例のマニピュレータ3は、ボディ形状のハンド支持部36に、頭部31と、2本の腕状のハンド32とを設けた上半身を備え、遠隔操作によって動作するスレイブロボットとして構成されている。
ハンド支持部36の上端に設けられた頭部31は、例えば2つの3Dカメラ311を備え、遠隔操作により頭部31を上下、左右に動かすことにより、3Dカメラ311の向きを変えることができる。3Dカメラ311や頭部31は、本例の可動式撮像部に相当する。また頭部31には、作業室1内の音を検出するマイクロフォンが設けられている。
【0026】
各ハンド32は、複数の関節を有する腕部321と、この腕部321の先端に設けられた複数本、例えば3〜5本の指部322とを備える。各指部322には複数の関節が設けられている。各関節を用いた腕部321及び指部322の動きは後述の遠隔操作により実行される。また各指部322には不図示の圧力センサが設けられ、ディッシュ26などを持ったときの触覚をオペレータPに対してフィードバックすることができる。このほか、腕部321の外側面には、作業室1内の機器との衝突を回避するために、これらの機器の近接を検出する近接センサを設けてもよい。
【0027】
図1〜
図3に示すように、マニピュレータ3のハンド支持部36は、既述のインキュベータ21やピペット装置22などが配置された作業卓2に沿って、横方向に伸びる基台部33によって下面側から支持されている。基台部33の上面には走行レール331が設けられ、ハンド支持部36(マニピュレータ3)はこの走行レール331に沿って基台部33上を左右に移動することができる。
また、ハンド支持部36は、基台部33上で自在に水平旋回することもできる。
【0028】
一方、基台部33の床面には、横長に形成された基台部33と直交する方向(前後方向)に向けて伸びる2本の走行レール332が設けられている。基台部33はこれらの走行レール332上に配置され、作業卓2に近づき、または遠ざかる方向へ移動することができる。なお、
図3においては、当図に向かって左側部分の基台部33の記載を一部省略してある。
また基台部33には、マニピュレータ3が障害物に衝突した衝撃を検出したとき、基台部33の移動を自動停止するための衝突センサ、及び基台部33の駆動機構の制御部を設けてもよい。
【0029】
基台部33上に設けられたハンド支持部36の左右方向の移動動作や旋回動作、また基台部33の前後方向の移動動作は遠隔操作により実行される。
マニピュレータ3は、不図示の通信部を備え、作業室1内に配置されたスレイブ側制御部51との間で、頭部31、ハンド32、ハンド支持部36、基台部33の操作信号の受信、及び3Dカメラ311にて撮影した画像情報やマイクロフォンの音声情報、指部322にて検出した圧力情報の送信を行う。スレイブ側制御部51は、作業室1の外部の操作区域側に設けられた後述のマスタ側制御部52または自動制御部53との間で、これらの情報の入出力を行う(
図3に示す「信号A、B」)。マニピュレータ3とスレイブ側制御部51との通信は、無線で行ってもよいし、有線で行ってもよい。
【0030】
さらにマニピュレータ3は、マスタ側制御部52を介したオペレータPによる遠隔操作(マニュアル操作)と、予め記憶されたティーチングデータに基づく自動操作とを切り替えて実行することができる。
初めに
図4、
図5を参照しながら、オペレータPによるマニュアル操作を行うマスタシステムについて説明を行う。当該マスタシステムが設けられるマニピュレータ3の操作区域は、作業室1の外部であれば特段の限定はないが、例えば作業室1が配置されている建屋内に設けられる。
【0031】
本例のマスタシステムは、マニピュレータ3の遠隔操作を行うオペレータPの頭部に装着されるヘッドギア部61と、ヘッドギア部61の位置や向きを検出する頭部リンク機構623と、オペレータPの両手の指に装着され、各指の位置や向きを検出する指部リンク機構621と、オペレータPの手に装着され、オペレータPの腕の位置や向きを検出する腕部リンク機構622と、を備える。頭部リンク機構623、指部リンク機構621、腕部リンク機構622は、オペレータPの体幹(例えば背中)に装着され、マニピュレータ3における頭部31やハンド32(腕部321、指部322)の位置や向きを教示する情報の検出及び出力を行う入出力部62に接続されている。
【0032】
オペレータPの身体の動作を頭部リンク機構623、指部リンク機構621、腕部リンク機構622(多関節構造体)の形状変化に伴う関節の変化量として検出し、マニピュレータ3の遠隔操作を行うための教示情報(操作信号)として出力する手法としては既存のシステムを利用することができる。
【0033】
頭部リンク機構623を用いて検出されたヘッドギア部61の向きは、頭部31の向きを変える操作信号として入力され、オペレータPの頭部の動きに連動してマニピュレータ3の頭部31が動くこととなる。さらに、オペレータPには、当該上半身の鉛直軸周りのひねりを検出する不図示の上半身リンク機構が設けられ、オペレータPの上半身をひねると、そのひねり方向へ向けてハンド支持部36を水平旋回させることができる。その後、オペレータPの上半身のひねりを戻すと、ハンド支持部36の旋回が停止する。
さらにヘッドギア部61には、マニピュレータ3の3Dカメラ311にて撮影した映像を表示する3Dモニタが設けられており、オペレータPはこの3Dモニタを介して作業室1内の様子を視認することができる。
【0034】
同様に、指部リンク機構621、腕部リンク機構622を用いて検出されたオペレータPの腕や指の位置や向きは、ハンド32の操作信号として入力され、オペレータPの腕や指の動きに連動してマニピュレータ3のハンド32が動くこととなる。また、マニピュレータ3側の指部322の圧力センサにて検出された圧力情報は、例えばハンド32によってディッシュ26を保持する操作の触覚情報としてオペレータPが装着するグローブに伝達される。
【0035】
さらに
図4、
図5に示すように、本例マスタシステムは、マニピュレータ3の遠隔操作を行うオペレータPが着座する作業椅子65と、当該作業椅子65に着座したオペレータPの足下の床面に配置された各種の操作ペダル631、632、641、642とを備える。
【0036】
作業椅子65に着座したオペレータPの右足側の足下には、基台部33を前進移動させるための前進ペダル631、後退移動させるための後退ペダル632が設けられている。一方、オペレータPの左足側の足下には、基台部33上のハンド支持部36を右方向へ移動させるための右移動ペダル641、左方向へ移動させるための左移動ペダル642が設けられている。これら各操作ペダル631、632、641、642が踏まれている期間中に、対応する各種動作が実行される。また、これらの操作ペダル631、632、641、642の踏み込み量に応じて、基台部33、ハンド支持部36の移動速度を変化させることできるように構成してもよい。
【0037】
頭部リンク機構623、指部リンク機構621、腕部リンク機構622から取得された頭部31やハンド32の教示情報は、入出力部62を介して操作区域内に配置されたマスタ側制御部52に入力される。また、不図示の上半身リンク機構から出力されたオペレータPの上半身のひねりに関する情報や各操作ペダル631、632、641、642の操作情報も前記マスタ側制御部52に入力される。これらの情報は、マニピュレータ3を遠隔操作するための操作信号として作業室1側のスレイブ側制御部51に出力される。また、スレイブ側制御部51から取得した画像情報や音声情報、圧力情報についてもマスタ側制御部52を介して、オペレータPが装着しているヘッドギア部61やグローブに送信される。
【0038】
ここで、既述の頭部リンク機構623、指部リンク機構621、腕部リンク機構622、上半身リンク機構(不図示)や入出力部62、各種操作ペダル631、632、641、642は、マニピュレータ3にオペレータPの動きを伝え、細胞培養用の機器の操作を実行するための操作部に相当している。
【0039】
以上に説明したマスタシステムを介して遠隔操作(マニュアル操作)されるマニピュレータ3は、当該マニュアル操作により実行された操作の動作データ(操作を実行している期間中における、各時刻の頭部31、ハンド支持部36、ハンド32(腕部321及び指部322)や基台部33の位置データや、位置データで特定される各位置における移動速度データ、ディッシュ26、ピペット装置22に加える力に係る圧力データなど)をティーチングデータとして記憶しておくことにより、当該ティーチングデータに基づいて細胞培養用の機器の操作を自動で実行することもできる。
この結果、事前に熟練者が既述のマスタシステムを利用してマニピュレータ3のマニュアル操作を実行し、そのときのマニピュレータ3の動作データをティーチングデータとして利用することにより、熟練者の技量を自動で再現することが可能となる。
【0040】
上述のティーチングデータを取得するため、
図6に示すように本例の細胞培養加工設備は、マニピュレータ3による細胞培養用の機器の操作を自動で実行させるための制御部(自動制御部53)と、マスタシステムを利用したマニュアル操作の有効状態/無効状態の切り替えを行う切替部54と、ティーチングデータの記憶や自動操作の実行に係るオペレータPからの指示を受け付けるタッチパネル7とを備えている。
なお説明の便宜上、
図6には自動制御部53と、既述のスレイブ側制御部51、マスタ側制御部52とを含む制御部50の全体を総括的に表示してある。
【0041】
制御部50は、不図示のCPU(Central Processing Unit)とメモリ(記憶部)501とを備えたコンピュータとして構成され、メモリ501にはマニピュレータ3の自動操作を実行するためのティーチングデータが記憶される。ティーチングデータは、例えば細胞培養用の各機器の操作毎に、あるいは操作のグループ毎に制御部50のメモリ501に記憶される。
【0042】
ここで実際には既述のように、スレイブ側制御部51とマスタ側制御部52とは別々のコンピュータとして構成され、スレイブ側制御部51は作業室内に配置される一方、マスタ側制御部52はオペレータPがいる操作区域側に配置される。
また、自動制御部53は、スレイブ側制御部51及びマスタ側制御部52を利用したマニュアル操作と切り替えて、前記ティーチングデータに基づくマニピュレータ3の自動操作を実行する役割を果たす。例えば自動制御部53は、スレイブ側制御部51と共通のコンピュータにより構成される。
【0043】
各ティーチングデータに基づいて実行される自動操作は、初期状態から始まり、一連の操作の実行後、終了状態となって終わる。初期状態とは、例えばマニピュレータ3のハンド32が何も持たず、ハンド支持部36の前方に左右のハンド32を揃えた状態とされる。また終了状態は例えば初期状態と同じ状態に設定される。初期状態(終了状態)は、ハンド32のいわば原点位置に設定される。
【0044】
ここでは、細胞培養にて実施される、プロトコールに記載された一連の操作のうち、例えば一部の操作についてのみティーチングデータを利用した自動操作に切り替えて実行する場合について説明する。このとき、マニピュレータ3のマニュアル操作を行った後、次の操作を自動操作で行う場合には、マニピュレータ3のハンド32は先行する操作の終了状態から、先ず初期状態になり、この初期状態から次の操作が始まり、終了状態(初期状態と同じ状態)になる。更に次の操作をマニュアル操作で行う場合には、この終了状態から作業が始まることになる。即ち、ティーチングデータは、ハンド32が初期状態から始まって同じ状態に戻るまでの動作データとして構成される。
【0045】
既述のように、マニュアル操作は、ハンド32側の指部322にて検出された圧力情報が、触覚情報としてオペレータPのグローブに伝達された結果を反映しながら実行されている。このため、当該動作データも、この触覚情報がフィードバックされた結果を踏まえたものとなっており、オペレータPが触覚情報に基づいてマニュアル操作を行った結果として得られた繊細な動作が記憶されている。
【0046】
また既述のように作業室1内におけるハンド32による操作は、ハンド支持部36の上端に設けられた頭部31に搭載された可動式の3Dカメラ311にて撮像することができる。オペレータPは、頭部に装着されたヘッドギア部61の3Dモニタにより、3Dカメラ311からの画像を見ることができる。
【0047】
例えばティーチングデータは、自動操作の対象となる被操作物(操作の
対象)の状態毎に複数用意される。このためオペレータPは、自動操作が行われるときに、3Dカメラ311の撮像画像に対応するティーチングデータ、詳しくは3Dカメラ311の撮像画像から認識される被操作物の状態に対応するティーチングデータを、タッチパネル7に表示された画面を介して選択することができる。例えばヘッドギア部61の3Dモニタは、半透明、または視線を下げた領域の視野が透明になっていて、3Dモニタの画像、及びタッチパネル7に表示された画面の双方を視認することができる。
【0048】
被操作物の状態に応じて用意されるティーチングデータは、被操作物の状態(例えばディッシュ26内の細胞塊の大きさや液体試料中の細胞の分散の状態)にばらつき傾向があるとき、当該ばらつきの状態に各々対応付けられた操作を実施できるように、事前に複数用意される。
【0049】
ここで自動操作の途中で複数のティーチングデータの中から実行する操作を選択する手法として、3Dカメラ311の撮像画像の認識結果に基づいて、例えばマニピュレータ3の自動操作を行う自動制御部53が、画像マッチングなどにより被操作物の状態に応じたティーチングデータを選択してもよい。この場合には、自動制御部53がティーチングデータDn(n=1、2、…)の自動選択用の選択部を構成していることになる。
【0050】
また、当該ティーチングデータを選択するタイミングとなったら、マニピュレータ3の自動操作を停止し、オペレータPが3Dモニタの画像を確認した結果に基づきタッチパネル7の操作画面からティーチングデータを選択する構成としてもよい。また、画像マッチングなどの自動判定が容易か否かに応じて、オペレータPがティーチングデータを選択する手法と、自動制御部53がティーチングデータを選択する手法とを使い分けてもよい。
従ってマニピュレータ3の自動操作において、3Dカメラ311の撮像画像は、オペレータP自身がティーチングデータを選択するとき、あるいは自動制御部53が自動でティーチングデータを選択するときに使用される。
【0051】
さらに
図6に示すように、自動制御部53には、マニュアル操作の有効状態/無効状態の切り替えを実行する切替部54が接続されている。例えば切替部54は、オペレータPの足元であって、既述の前進、後退ペダル631、632の外方側に設けられたペダルとして構成される(
図4)。このとき、切替部54を構成するペダルは、一度、踏み込むとペダルが下がった状態を維持するストッパを備え、再度、踏み込むと元の位置に戻る構成となっている。こうして、ペダルが下がった状態と、元の位置に戻った状態とを切り替えることにより、マニュアル操作の有効状態/無効状態が切り替えられる。
【0052】
以上に説明した構成を備える細胞培養加工設備の動作について説明する。
以下、ディッシュ26内の培地に播種された目的細胞をインキュベータ21内で培養した後、当該目的細胞をディッシュ26から剥がして細胞浮遊液を調製し、新たなディッシュ26に播種する継代工程に含まれる操作を例に挙げて説明を行う。
【0053】
具体例として、目的細胞を培養したディッシュ26にトリプシンを添加した後、再度、インキュベータ21内で所定時間保持したディッシュ26について、ディッシュ26の底面から剥がれた目的細胞を採取して、新たなディッシュ26内に播種する操作について説明する。
この操作において、オペレータPによるマニピュレータ3のマニュアル操作時にティーチングデータを蓄積する動作と、このティーチングデータを用いて自動操作を実行する動作について順次、説明する。
【0054】
(ティーチングデータの蓄積)
オペレータPは、ヘッドギア部61やグローブ、入出力部62を装着して作業椅子65に着座し、マニュアル操作が有効な状態に切替部54を切り替え、マニピュレータ3のマニュアル操作を開始する。ティーチングデータとして記憶される操作を実行するオペレータPとしては、例えば当該操作について熟練した作業者が選任される。
【0055】
初めに、搬送装置25が、トリプシンの添加後、インキュベータ21内で所定時間保持されたディッシュ26aを取り出して、搬送し、作業ステージ20上へ載置する。次いで、ティーチングデータの記憶を開始する前に、3Dカメラ311を介してディッシュ26aの画像を撮像し、ディッシュ26aにおける細胞の分散状態に関する情報をマスタ側制御部52に記憶する。この動作においては、例えば作業ステージ20上のディッシュ26aを持ち上げてから傾け、ディッシュ26aの底面に付着している細胞の付着状態も撮像する。
【0056】
ここで細胞の分散状態に関する情報として、分散の度合いをn種類の分類情報(例えば「良好」、「やや良好」、「悪い」など)から選択して前記画像データとの対応付けを行うことができる。分類情報の対応付けは、例えばオペレータPの経験に基づいて行われる。これによりこれから取得されるティーチングデータとディッシュ26a内の細胞の分散状態の画像データとが分類情報を介して対応付けられ、メモリ501に記憶される。
【0057】
次いでオペレータPは、ディッシュ26aを作業ステージ20上に載置し、マニピュレータ3のハンド32を初期状態の位置に移動させる(
図10のステップS11)。しかる後、オペレータPは切替部54によりマニピュレータ3のマニュアル操作を無効状態に切り替える(ステップS12)。次いで、オペレータPは、タッチパネル7に表示されたデータ蓄積操作選択画面71のデータ蓄積メニュー711の中から、「細胞浮遊液作成操作」を選択し、開始/終了切替ボタン712の「開始」を押す(ステップS13、
図8)。続いてオペレータPは切替部54によりマニピュレータ3のマニュアル操作を有効状態に切り替え(ステップS14)、初期状態の位置で待機しているマニピュレータ3に対し、細胞浮遊液作成操作に係る一連のマニュアル操作を実行する(ステップS15)。
【0058】
具体的には、ピペット装置22に所定のピペットチップ221を取り付けた後、当該ピペット装置22を右手側のハンド32にて掴み、所定の薬液容器の中から細胞分散用の培養液を吸引し、新しい2つのディッシュ26b、26cに所定量の培養液を分ける準備操作を行う。
次いで、作業ステージ20上に載置されている、トリプシン処理後のディッシュ26を左手で把持し、ピペット装置22によってディッシュ22b内の培養液を吸引してからディッシュ26a内に注入する。このときディッシュ26aを傾けて底部に付着している細胞を剥離させるようにピペット装置22を操作する。
【0059】
さらに、傾いているディッシュ26の下部に溜まった細胞浮遊液を再度ピペット装置22にて吸引し、傾けたディッシュ26の底部の高い部位(液の無い面)に注入して細胞の剥離を更に行う(
図7(a))。このような操作を複数回、繰り返した後、細胞浮遊液を希釈するための培養液が入った既述のディッシュ26cからピペット装置22で培養液を吸引し、ディッシュ26a内に注入する(
図7(b))。
【0060】
しかる後、ピペット装置22をスタンドに戻し、続いてディッシュ26aを動かして液を撹拌する。ディッシュ26aの動かし方は、例えば時計回りに複数回公転させ、次いで反時計回りに複数回公転させ、更に左右に複数回振り、最後に上下に複数回揺らす(
図7(c))。
【0061】
その後、ディッシュ26aを作業ステージ20上に載置すると、ディッシュ26aは搬送装置25によってインキュベータ21内へ搬送される。オペレータPは、マニピュレータ3のハンド32を終了状態に設定する。終了状態は例えば初期状態と同じ状態である。しかる後、オペレータPは切替部54によりマニピュレータ3のマニュアル操作を無効状態に切り替え、データ蓄積操作選択画面71を介して開始/終了切替ボタン712の「終了」ボタンを押す。この結果、目的細胞の継代工程に係る重要な操作の動作データがティーチングデータとしてメモリ501に記憶される。
【0062】
(自動操作への切り替え)
例えば非熟練の作業者であるオペレータPは、マスタシステムを利用してマニピュレータ3のマニュアル操作を行い、搬送装置25によってインキュベータ21から取り出され、作業ステージ20上に載置されたトリプシン処理後のディッシュ26aを取り上げる。そして、3Dカメラ311によりディッシュ26aの画像を撮像し、ディッシュ26aにおける細胞の分散状態に関する情報を取得後、作業ステージ20上にディッシュ26aを再び載置する。
【0063】
次いでオペレータPは、切替部54によりマニピュレータ3のマニュアル操作を無効状態に切り替え(
図11のステップS21)、タッチパネル7に表示された自動操作選択画面72を介して操作選択ボタン721中の「細胞浮遊液作成操作」を選択する(ステップS22、
図9)。また、ヘッドギア部61の3Dモニタに写し出されたディッシュ26aの画像に基づき、自動操作選択画面72に続いて表示されるパターン選択画面73のパターン選択ボタン731からディッシュ26a内の細胞の分散状態(パターンPn)に応じたデータ(ティーチングデータDn)を選択する(ステップS23、
図9)。ここで、
図9のパターン選択画面73には、三種類のパターンP1〜P3に対応して、ティーチングデータD1〜D3を選択可能とした例を示してある。なお、既述のように、ティーチングデータDnは、画像マッチングなどにより、自動制御部53が自動的に選択を行ってもよい。
【0064】
その後、タッチパネル7に映し出される自動操作選択画面72の開始/終了切替ボタン722にて「開始」を押すと、選択したティーチングデータDnが読み出され、読み出されたティーチングデータに基づきマニピュレータ3が自動操作を実行する(ステップS24)。
即ち、マニピュレータ3は先ず細胞浮遊液作成操作を行う前の初期状態になる。そして、マニピュレータ3はティーチングデータの蓄積時に実行した熟練者による一連の細胞浮遊液作成操作を再現する(ステップS25)。
【0065】
しかる後、細胞浮遊液作成操作が終了すると、マニピュレータ3は終了状態になる(ステップS26)。本例では、オペレータPは切替部54によりマニピュレータ3のマニュアル操作を有効状態に切り替え(ステップS27)、後続の操作をマニュアル操作により実行する(ステップS28)。
【0066】
ここで、細胞浮遊液作成操作を再現するステップS25において、ディッシュ26aの細胞を剥離する操作を繰り返し行う際には(
図7(a))、3Dモニタに写し出されたディッシュ26aの画像に基づき、パターン選択画面73のパターン選択ボタン731からディッシュ26a内の細胞の分散状態(パターンPn)に応じたデータ(ティーチングデータDn)の選択を繰り返しの度に行ってもよい。この場合は、例えば当該繰り返し操作における所定の状態、例えば、一旦、ディッシュ26aからピペット装置22を少し離した状態を初期状態とし、剥離操作終了後、再度、同じ位置にピペット装置22を移動させた状態を終了状態とする。しかる後、ディッシュ26aの画像に基づき、繰り返し細胞の剥離操作を実行するか、これに続く細胞浮遊液の希釈操作を実行するかを選択する。
【0067】
本実施の形態に係る細胞培養加工設備によれば以下の効果がある。作業室1の外部に設けられ、オペレータPの動きを伝える操作部(頭部リンク機構623、指部リンク機構621、腕部リンク機構622、上半身リンク機構(不図示)や入出力部62、各種操作ペダル631、632、641、642)により、作業室1内に設けられたマニピュレータ3による細胞培養用のディッシュ26及びインキュベータ21の少なくとも一方の操作を実行したとき、当該マニピュレータ3の動作データをティーチングデータとして記憶するので、前記操作を自動で制御することが可能となる。
【0068】
また、マニピュレータ3を介して作業室1内の操作を実行することにより、通常、ヒトが立ち入る空間では実行しにくい強力な殺菌操作、作業室1全体の薬剤による殺菌処理などを行うこともできる。
さらに、最大の汚染源であるヒトによる直接操作がないため、確実な微生物汚染防止を図ることもできる。
【0069】
ここで上述の実施の形態では、目的細胞の継代工程における一部の操作を例示して、ティーチングデータを蓄積する手法や、蓄積されたティーチングデータによりマニピュレータ3の自動操作を実行する動作の説明を行った。
但し、ティーチングデータの蓄積、及びこれに基づき自動に実行される操作の対象は、例示の操作に限定されるものではないことは勿論である。
【0070】
例えば「ディッシュ26内の培地を
蓋に触れないように振る」、「蓋だけでなく、
ディッシュ26の本体に指が触れていることを確認しながらディッシュ26を持ち上げる」、「
ディッシュ26の側面や底面にピペットチップ221を触れさせずに細胞浮遊液を吸引する」、「
ディッシュ26を回転させずに前後左右に振りながら、ディッシュ26の全体に均一に細胞浮遊液を分散させる」、「
ピペットチップ221の先端を、液面のごく近傍に位置させて、遠心管231内の液体を吸引する」、「ピペット装置22にて吸引した細胞浮遊液を
なるべく早く複数のディッシュ26に分ける」などといった、熟練者の経験を必要とする各種操作について、ティーチングデータを蓄積しておくことにより、プロトコールに記載することが難しい熟練者の操作を自動で実行することができる。
【0071】
また、ティーチングデータを蓄積する手法についても、オペレータPによるマニピュレータ3の1回のマニュアル操作を記憶する場合に限定ない。例えば、対象となる一連の操作を繰り返し実行して毎回の動作データを記憶し、これらの操作に含まれる個別の操作に係る動作データの中から、最も良好な操作を選定し、各個別操作の動作データを繋ぎ合わせてティーチングデータを構成してもよい。
【0072】
この他、対象となる一連の操作を繰り返し実行して複数の動作データを取得し、これらの動作データに含まれる位置データや圧力データなどの平均値に基づいて実現されるマニピュレータ3の平均的な動作をティーチングデータとしてもよい。
【0073】
さらに、本例の細胞培養加工設備で培養される細胞は、ヒト細胞に限定されるものではなく、動物細胞や植物細胞、単細胞生物の細胞であってもよい。