特許第6472874号(P6472874)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472874
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】動的用途のための封止体
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20190207BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20190207BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   C08L27/12
   C08K3/04
   C09K3/10 M
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-515774(P2017-515774)
(86)(22)【出願日】2015年9月14日
(65)【公表番号】特表2017-533300(P2017-533300A)
(43)【公表日】2017年11月9日
(86)【国際出願番号】EP2015070912
(87)【国際公開番号】WO2016050487
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2017年4月26日
(31)【優先権主張番号】102014014392.9
(32)【優先日】2014年10月1日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510057615
【氏名又は名称】カール・フロイデンベルク・カー・ゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】トラバー,ボリス
(72)【発明者】
【氏名】ポルテラ クビーロ,クリスティーネ
(72)【発明者】
【氏名】ライトナー,ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】ガー,ランドルフ
(72)【発明者】
【氏名】コブス,オーラフ
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/077595(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/12
C08K 3/04
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショアA硬度が60〜100である動的用途のための封止体の使用であって、
ゴムを含有するエラストマー材料と、前記エラストマー材料中にゴム100重量部に対して0.1〜20phrの量で分布するカーボンナノチューブとを含み、
前記エラストマー材料は、FKMであり、
ショック・アブソーバ・シールの製造のための封止体の使用。
【請求項2】
ショア硬度が60〜100である動的用途のための封止体の使用であって、
ゴムを含有するエラストマー材料と、前記エラストマー材料中にゴム100重量部に対して0.1〜20phrの量で分布するカーボンナノチューブとを含み、
前記エラストマー材料は、FKMであり、
低温柔軟性が<−50℃の温度まで要求される用途のための封止体の使用。
【請求項3】
前記封止体の摩擦係数が1.5μ未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の封止体の使用。
【請求項4】
前記エラストマー材料製の試験板の摩擦係数は、DIN ISO15113による計測で、μ=1未満であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の封止体の使用。
【請求項5】
DIN IEC 60093による計測で、前記封止体の体積抵抗率および/または表面抵抗率は、<106(Ω×cm2)/cmであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の封止体の使用。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブの割合は、0.1〜15phrの範囲であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の封止体の使用。
【請求項7】
前記エラストマー材料中での前記カーボンナノチューブの散在および/または均等な分布を特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の封止体の使用。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載の封止体の使用に用いられる封止体の製造方法であって、
以下の工程、すなわち、混合機中で、カーボンナノチューブをエラストマー材料中に取り入れ、未架橋エラストマー混合物を形成する工程と、成形工程と、封止体を形成しつつ架橋する工程とを含む封止体の製造方法。
【請求項9】
運動用シールとりわけRWDRとして、および/または、動的用途のための固定シールとしての、請求項に記載の封止体の使用。
【請求項10】
ショック・アブソーバ・シール、ラジアル・シャフト・シール(例えば、ラディアマティック(Radiamatic)(登録商標))、カセットシール、グルーブリング、リップシール、バルブ・シャフト・シール、ロッドシール、ピストンシール、膜、ベローズ、油圧シール、バルブ用途のためのアクチュエータ、動的用途のためのDリングおよび/またはXリングとしての、請求項に記載の封止体の使用。
【請求項11】
ショア硬度が70〜90である動的用途のための封止体であって、
ゴムを含有するエラストマー材料と、前記エラストマー材料中にゴム100重量部に対して0.1〜20phrの量で分布するカーボンナノチューブとを含み、
前記封止体は、前記エラストマー材料として、ビスフェノールを用いて架橋されたFKMを含む封止体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動的用途のための封止体に関する。本発明は、さらに封止体の製造方法およびこの封止体の動的用途への採用に関する。
【背景技術】
【0002】
動的用途のための封止体は、シールおよび/または対向面が動くシステムを密閉する。この移動は、低周波移動も高周波移動も含み、その結果、封止体中で消耗が発生し、これは摩耗として目に見えうる。これにより、場合によっては、結果として摩擦熱が発生する。摩耗の結果、さらに封止体は非密閉的になり、ないし故障する。動的用途のための封止体の摩耗を低減するという課題は、この構成部品の寿命をより長くするとの常なる要求である。
【0003】
様々な充填剤、とりわけ硬質充填剤を封止体中に入れることにより摩耗を低減可能であることは公知である。通常、鉱物充填剤を採用する。これにより構成部品の寿命を明らかに延ばすことができる。
【0004】
従来技術から公知の封止体の欠点は、摩耗を十分低減させるために、多量の硬質充填剤が必須であるという点である。これにより封止体の硬度が望ましくない程度に上昇する。さらに、硬質充填剤により、(シャフトが入る)対向する走行面上での消耗が大きくなり、これも同様に非密閉性を引き起こし、したがってシールの故障がより早く生じうる。さらに、動的用途のための封止体が、用途時に非常にしばしば高温と高圧とにさらされ、これにより、封止体の消耗がより激しくなることにより、寿命が非常に制限されるとの結果になる。従来、これに対して、寿命を長くするためには、充填剤量を多くすることにより対処してきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、長寿命を、シールの用途にとって適切な硬度を有することと組み合わせて、冒頭で述べた様式の封止体を構成し、さらに発展的に形成することである。この封止体は、さらに良好な機械的特性を有するべきであり、例えば摩耗(消耗)を小さくし、かつ問題なく騒音を小さくして作動可能にすべきである。さらに、この封止体は、高温領域および/または高圧での用途に適切であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上述の課題は、ショアA硬度が60〜100である動的用途のための封止体であって、ゴムを含有するエラストマー材料と、このエラストマー材料中にゴム100重量部に対して0.1〜20phrの量で分布するカーボンナノチューブとを含む封止体を提供することにより達成される。動的用途中の封止体とは、それ自体またはその対向面が密閉システム中で動的移動を受けている封止体であると理解される。
【0007】
カーボンナノチューブとは、炭素からなる顕微鏡レベルで小さな管状の構造物(分子ナノチューブ)である。その壁は炭素からなり、炭素原子は六角形のハニカム構造をとり、それぞれ3つの結合パートナーをとる。
【0008】
驚くべきことに、本発明によれば、カーボンナノチューブを少量入れただけですでに、動的用途における封止体の摩耗を有意に低減させることができることがわかった。この点は、高温用途における摩耗の低減にも有効である。さらに、驚くべきことに、この効果を得るために、20phr未満の非常に少量のカーボンナノチューブが必要となるのみである。さらに、カーボンナノチューブを含有する封止体は、鉱物および/またはカーボンブラックを充填した同じ硬度ショアAの封止体に比べて、硬度上昇がなだらかであることがわかった。したがって本発明による封止体は、動的用途のために特に適切な硬度領域である60〜100ショアA硬度の領域で製造されうる。さらに、従来用いられてきた従来の鉱物充填剤および/またはカーボンブラックと比較して、カーボンナノチューブを入れることにより、シーリング技術の用途にとって重要なさらなる特性(例えば、摩擦係数、抗張力および破断ひずみ)の特性プロファイルがより良いことがわかった。さらに、驚くべきことに、カーボンナノチューブは、充填剤含有量が少なく混合物の硬度が高いにもかかわらず、(シャフトが入る)対向する走行面の摩耗がわずかのみであることがわかった。実験により、本発明による封止体が、入れられたカーボンナノチューブの量に応じて、DIN ISO 15113による計測では、摩擦係数がμ=1未満であることが明らかになった。
【0009】
カーボンナノチューブを封止体中に使用するさらなる利点は、これにより、この封止体に導電特性を与えることができる点である。導電性を摩耗の低減と組み合わせることは、様々な動的用途にとって、例えば、ラジアル・シャフト・シール、油圧シール、ロッドシール、ピストンシール、膜、ベローズにとって、とりわけ興味深い。
【0010】
例えば、ラジアル・シャフト・シールの回転移動により、封止体の静電帯電が生じうる。従来採用された鉱物充填剤では、電荷を他に転じることはできないが、この理由は、これらの充填剤が絶縁特性を有するからである。従来の別の充填剤システム、例えば、導電性カーボンブラックにより、確かに封止体は導電性を有することができ、その結果、静電帯電を他に転じることもできる。この種の充填剤系は、しかし、摩耗が明らかに劣化する。逆に、本発明によりカーボンナノチューブを採用することにより、静電帯電を有効に他に転じることが可能になり、同時に摩耗保護を高める。本発明のある好適な実施形態によれば、この封止体の体積抵抗率および/または表面抵抗率は、DIN IEC 60093による計測では、<106(Ω×cm2)/cm、好適には<105(Ω×cm2)/cm、とりわけ好適には<104(Ω×cm2)/cmである。
【0011】
さらに、封止体は、問題なく騒音を小さくして作動可能である。
【0012】
実際の試験により、20phr未満の量のカーボンナノチューブを用いるとすでに、動的用途における封止体の摩耗を有意に低減可能であることが明らかになった。好適には、封止体中のカーボンナノチューブの割合は、0.1phr〜15phr、より好適には0.4phr〜10phr、より好適には0.5phr〜7phr、およびとりわけ1phr〜5phrである。
【0013】
「ゴム百分率(parts per hundred rubber(phr))」という単位は、ゴム化学産業における一般的な単位である。これにより、エラストマー混合物の製剤における個々の混合成分の質量割合が示される。この際、この記述は、それぞれ1つのまたは(ブレンドゴムの場合)複数のゴムの100(質量)部に対する値である。
【0014】
本発明のある好適な実施形態によれば、カーボンナノチューブは、封止体中で均等に分布しおよび/または散在して存在している。商業的に利用可能なCNTは、通常弱凝集体(Agglomerat)中に存在する。カーボンナノチューブのこの発見された特性は、しかし、ポリマーマトリックス中に均等に分布しおよび/または散在して存在する場合に、より良く発揮される。均等な散在および分布は、電子顕微鏡撮影、例えば走査型電子顕微鏡撮影で容易に実証可能である。
【0015】
本発明による好適な散在および均等な分布は、例えば前分散、および、強凝集体(Aggregate)の激しい剪断、例えば横断ピン式押出機により達成されうる。カーボンナノチューブの封止体中での散在および均等な分布は、試験によっても実証されうる。したがって、カーボンナノチューブの封止体中での本発明による散在および均等な分布は、少なくとも、この封止体の材料製の200x200x2mmのサイズの試験板において、DIN 53504による引っ張り試験で少なくとも20回、それぞれ縦横方向で計測する際に、計測される抗張力および破断ひずみの統計的な偏差が、30%未満、好適には20%未満、より好適には15%未満、より好適には12%未満、とりわけ好適には10%未満である場合に存在する。抗張力および破断ひずみの計測は、DIN 53504による引っ張り試験から明らかになるが、この試験では、引っ張り試験毎に、加硫された試験板から規定の試験体(S2ロッド)を打ちぬき、引っ張り試験機械中で破断されるまで引っ張る。すなわち、この試験では導き出された値の異方性分布が決定される。
【0016】
実際の試験では、様々なタイプのカーボンナノチューブで、良好な結果が達成可能であることが明らかになった。したがって、カーボンナノチューブの直径は、広い範囲で可変である。とりわけ平均的な直径の範囲が、1〜100nm、より好適には2〜50nm、より好適には3〜30、より好適には4〜20、およびとりわけ5〜15nmのカーボンナノチューブが適切であると判明した。
【0017】
さらにカーボンナノチューブは、単層および/または多層の、開口したおよび/または閉口した管として存在しうる。多層カーボンナノチューブが有利であるのは、これが、現時点ではコスト効率が良いからである。
【0018】
エラストマー材料は、シール材料にとって適切な非常に様々なゴムを含有しうる。これは、大きい網目の化学的にまたは物理的に架橋されたポリマーでありえるが、このポリマーは、そのガラス転移点以下では鋼弾性的(stahlelastisch)挙動を示し、そのガラス転移点以上の温度では、ゴム弾性を有する。好適に採用されるゴムのガラス転移点は、20℃以下である。好適には、採用されるゴムは、その融点までまたは分解温度まで、ゴム弾性挙動を示す。
【0019】
エラストマー材料は、エチレン酢酸ビニル(EVA)を含有しうる。このプラスチックは、コスト効率が良く140℃まで安定している。弾性を有するこのプラスチック体はNBR(ニトリル・ブタジエンゴム)を含有しうる。このプラスチックは、コスト効率良く加工可能である。このエラストマー材料は、HNBR(水素化ニトリル・ブタジエンゴム)を含有しうる。このプラスチックは、さらに150℃まで安定していて、ハロゲンフリーである。このエラストマー材料は、FKM(フッ素ゴム)を含有しうる。このプラスチックは、燃料と接触する際に特に化学的に安定している。このエラストマー材料は、シリコンエラストマーを含有しうる。これらのゴムは、0℃以下の温度でも柔らかく、弾性を有する。とりわけフッ素化シリコンエラストマーを用いることができる。これらは、燃料に対して耐性を有する。
【0020】
このエラストマー材料は、NR(天然ゴム)を含有しうる。NR(天然ゴム)の使用の有利な点は、NR(天然ゴム)が特に弾性を有する点である。このエラストマー材料は、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)を含有しうる。SBR(スチレン・ブタジエンゴム)の有利な点は、このプラスチックがNR(天然ゴム)と同じように弾性を有するが、しかし、ガス透過性がより小さい点である。エラストマー材料は、NBR(ニトリル・ブタジエンゴム)を含有しうる。このプラスチックの使用の有利な点は、耐油性を有し、かつ低温柔軟性を有する点である。このエラストマー材料は、HNBR(水素化ニトリル・ブタジエンゴム)を含有しうる。HNBR(水素化ニトリル・ブタジエンゴム)の使用の有利な点は、このプラスチックが、高い温度耐性および媒体耐性を有する点である。このエラストマー材料はEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)を含有しうる。このプラスチックの使用の有利な点は、極性媒体中で高い耐性を有し、したがってとりわけ水と接触するシステムの標準的な材料である点である。さらに、EPDMは、尿素溶液および水性媒体に対して耐性を有する。このエラストマー材料は、EPM(エチレン・プロピレンゴム)を含有しうる。このプラスチックの使用の有利な点は、水性媒体に対して良好な耐性を有し、良好な低温柔軟性を有する点である。このエラストマー材料は、ACM(アクリルゴム)を含有しうる。このプラスチックの使用の有利な点は、非極性媒体中で高い耐性を有する点である。ACM(アクリルゴム)は、したがって、とりわけ非極性油と接触するシステム用の標準材料である。このエラストマー材料は、FFKM(パーフルオロゴム)を含有しうる。FFKM(パーフルオロゴム)の使用の有利な点は、これが、顕著に高い媒体耐性および温度耐性を有する点である。このエラストマー材料は、VMQおよびPVMQ(ビニル・メチル・ポリシロキサンおよびフェニル・ビニル・メチル・ポリシロキサン)を含有しうる。このプラスチックの使用の有利な点は、非常に低温柔軟性がある点である。このプラスチック体は、FVMQ(フルオロメチル・ビニル・ポリシロキサン)を含有しうる。このプラスチックの使用の有利な点は、これも同様に高い媒体耐性および温度耐性を有し、この際、突出した低温柔軟性を示す点である。このエラストマー材料は、IR(ポリイソプレン)を含有しうる。このプラスチックの使用の有利な点は、良好な品質を得られうる点である。このエラストマー材料は、IIR、CIIRおよびBIIR(ブチルゴム、クロロブチルゴムおよびブロモブチルゴム)を含有しうる。このプラスチックの使用の有利な点は、非常に不透過性が高い点である。このエラストマー材料は、AEM(エチレン・アクリル酸ゴム)を含有しうる。このプラスチックの使用の有利な点は、エンジンオイルおよびギヤオイルに対して高吸収性、および耐性を有する点である。このエラストマー材料は、BR(ブタジエンゴム)を含有しうる。このプラスチックの使用の有利な点は、消耗耐性を有し、低温柔軟性がある点である。このエラストマー材料は、CR(クロロプレンゴム)を含有しうる。このプラスチックの使用の有利な点は、耐候性を有する点である。このエラストマー材料は、ECO(エピクロルヒドリンゴム)を含有しうる。このプラスチックの使用の有利な点は、エンジンオイルおよびギヤオイルに対して不浸透性であり、耐性を有する点である。このエラストマー材料は、CSM(クロロスルホン化ポリエチレンゴム)を含有しうる。このプラスチックの使用の有利な点は、エンジンオイルおよびギヤオイルに対して高吸収性、および耐性を有する点である。このエラストマー材料は、ポリウレタン(PU)を含有しうる。このプラスチックの使用の有利な点は、消耗耐性を有する点である。このエラストマー材料は、TPE(熱可塑性エラストマー、ABSおよびSBS)を含有しうる。このプラスチック類の使用の有利な点は、コスト効率良く加工可能である点である。
【0021】
上述の材料の混合物および/またはブレンドの採用も考えられうる。
【0022】
本発明によれば、好適には、エラストマー材料は、FFKM、FKM、NR、IR、IIR、CR、ECO、EPDM、EPM、NBR、HNBR、PU、ACM、AEM、VMQ、FVMQならびにこれらのブレンドおよび/または熱可塑性材料との混合物を含む。実際の試験では、FKMの使用で特に良好な結果が得られた。
【0023】
本発明のある好適な実施形態によれば、このエラストマー材料は、PVMQ、VMQ、FVMQおよびこれらのブレンドを含有し、ショアA硬度が>70ショアである。本発明によれば、高い硬度と良好な摩耗とを組み合わせたこれらの材料をベースにした封止体を製造することが可能であることがわかった。この点は驚くべきことであったが、この理由は80ショアを上回るショアA硬度のシリコン材料は、今まで商業的に入手可能ではなかったからである。
【0024】
本発明のさらなる好適な実施形態によれば、このエラストマー材料は、EPDM、PVMQ、VMQ、FVMQ、CR、ECOならびにこれらのブレンドおよび/または熱可塑性材料との混合物を含み、DIN ISO4649に従って計測した摩耗は<120mm3である。
【0025】
このエラストマー材料中のエラストマー成分は、本発明によれば、好適には少なくとも部分的に架橋されて存在している。この際、架橋のためには、好適には以下の架橋剤を入れるが、これらは、過酸化物、硫黄、硫黄石鹸、ジアミン、ポリアミン、カルバミン酸ジアミン、ジオール、ポリオール、とりわけビスフェノール、ジイソシアネート、ポリイソシアネート、ジエポキシド、ポリエポキシド、ジクリシドエーテル、トリアジン、メチレンジアニリン、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、金属酸化物、ETU、プラチナ触媒および/またはこれらの混合物ないし上述の物質を放出する物質である。代替的にまたは追加的にも、架橋のために、エネルギー光線および/または紫外線を採用することができる。
【0026】
特に好適な架橋剤は、過酸化物、硫黄、カルバミン酸ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンおよび/または2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンおよびビスフェノールである。
【0027】
本発明のある好適な実施形態によれば、封止体は、エラストマー材料として、FKM、NBR、EPDM、AEM、VMQ、FVMQ、PVMQおよび/またはHNBRを含有し、これが、好適には過酸化架橋されて存在する。驚くべきことに、本発明によれば、この種の封止体は、動的負荷がかかる場合でも、<−50℃の温度までの低温柔軟性があり、同時に(170℃までの)高温に対して消耗耐性および摩耗耐性を有することがわかった。したがって、例えばモノチューブ・ショック・アブソーバ・シール(monotube)として形成された本発明による封止体は、低温試験台上で、ピストンロッドに動的移動が作用する際に、および、同時にこのロッドが一度側方に反れる場合に(サイドロード)、−50℃の温度まで密閉性を有する。さらなる好適な実施形態では、封止体は、エラストマー材料としてFKMを含有し、これは、好適にはビスフェノールで架橋されて存在する。この場合、本発明によれば、この種の封止体には、<−30℃の温度まで低温柔軟性があると同時に、高温(170℃まで)では、消耗耐性および摩耗耐性を有することがわかった。これは、高圧(250バールまで)での用途にも該当する。
【0028】
さらなる好適な実施形態によれば、封止体は、エラストマー材料として、EPDM、NBRおよびHNBRを含有し、これは、好適には硫黄で架橋されて存在する。ここで、本発明によれば、この種の封止体には、<−60℃の温度まで低温柔軟性があり、同時に高温(170℃まで)で消耗耐性および摩耗耐性を有することがわかった。この点は、高圧(250バールまで)での用途にも該当する。
【0029】
さらなる好適な実施形態では、封止体は、エラストマー材料として、ACMおよびAEMを含有するが、これは、好適にはジアミンで架橋されて存在する。この場合、本発明によれば、この種の封止体は、<−30℃の温度まで低温柔軟性があり、同時に高温(170℃まで)で消耗耐性および摩耗耐性を有することがわかった。この点は、高圧での用途にも該当する。
【0030】
本発明のさらなる好適な実施形態では、封止体は、エラストマー材料としてVMQ、FVMQおよび/またはPVMQを含有し、これは、好適には付加架橋されて存在する。驚くべきことに本発明によれば、この種の封止体は、<−50℃の温度まで低温柔軟性があり、同時に高温(220℃まで)で、消耗耐性および摩耗耐性を有することがわかった。
【0031】
架橋剤は、化学的なブリッジにより、所々でエラストマー材料のモノマーを、互いに結合するないし架橋する。
【0032】
付加架橋という概念は、従来の意味合いで理解される。とりわけ、これは、架橋剤の反応種例えばシランが、触媒(例えば、Pt)の作用の元で、ポリマーの二重結合、例えばシロキサンのビニル基と反応する化学反応であると理解される。
【0033】
ある好適な実施形態では、架橋剤に追加的して活性剤が投入されるが、これは、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、これ以外の脂肪酸のアルカリ塩およびアルカリ土類塩、ジチオリン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸鉄、ジオルトトルイルグアニジン(DOTG)、ジフェニルグアニジン(DPG)、ジペンタメチレンチルアムテトラスルフィド、合成ハイドロタルク石、ジウロン、臭化オクタデシルトリエチルアンモニウム、臭化オクタデシルトリエチルホスホニウム、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジエチルチオ尿素、安息香酸アンモニウム、トリメルカプト−S−トリアジン、2−エチルヘキサン酸ナトリウムおよび/またはこれらの混合物から選択されている。
【0034】
活性剤に代えてまたはこれに累積して、架橋剤に対して過酸化物の架橋助剤が投入されうるが、これは、2,4,6−トリ(アリルオキシ)−1,3,5−トリアジン(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、1,2ポリブタジエン、1,2ポリブタジエン誘導体、N,N’−フェニレンビスマレイミド、ジアクリレート、トリアクリレート、とりわけトリメチルプロパントリアクリレート、ジメタクリレートおよび/またはトリメタクリレート、とりわけトリメチロールプロパントリメタクリレート(TRIM)から選択されている物質である。
【0035】
用途分野に応じて、エラストマー材料は、少なくとも1つの添加剤を含有しうるが、これは、充填剤、柔軟剤、加工助剤、老化防止剤、酸化防止剤、難燃剤、着色料、顔料および/またはこれらの混合物から選択された物質である。
【0036】
この添加剤は、エラストマー材料の物理的特性、例えば抗張力または破断ひずみを高めうる。さらにこの添加剤は、熱可塑性エラストマー組成物の触覚性および/または視覚性を改良することができる。
【0037】
エラストマー材料の硬度および剛性をさらに高めることが望まれる場合には、このエラストマー材料は、さらなる充填剤を、好ましくは1phr〜600phr、より好適には2phr〜200phr、より好適には3〜100phr、より好適には4〜80phr、およびとりわけ5〜70phrの量で含有することができる。
【0038】
抗張力を改良するために、さらなる充填剤として、好適にはカーボンブラックが採用される。さらに、体積および/または重量を大きくするために、および/または、混合物の物理的特性を改良するために、さらなる充填剤を入れることも可能である。抗張力および消耗を改良するためには、さらなる充填剤として、好適には鉱物充填剤、例えば、ケイ酸塩、粘土、雲母、珪土、白墨、カオリン、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムを採用する。さらに、体積および/または重量を大きくするために、ならびに/または、混合物の物理的特性を改良するために、さらなる充填剤を入れることも可能である。好適には、このさらなる充填剤は、炭酸塩、酸化物、カーボンブラック、黒鉛、活性炭、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウムおよび/またはこれらの混合物から選択されている。
【0039】
カーボンブラックの使用の有利な点は、CNTに本来備わっている導電性をさらに高め、かつ、機械的にさらに強化させる点である。鉱物充填剤の使用の有利な点は、消耗が明らかに改良し、混合物が着色可能になるという点である。
【0040】
エラストマー材料は、柔軟剤を含有しうるが、これは、フタル酸エステル、ポリエステル、エーテルエステル、セバシン酸塩、ポリチオエーテル、リン酸塩、トリメリット酸エステル、スルホンアミドおよび/またはこれらの混合物から選択され、好ましくは0.1phr〜50phrの量で用いられる。
【0041】
ある好適な実施形態によれば、エラストマー材料は、酸化防止剤を含有しうるが、これは、ポリカルボジイミド、置換フェノール、置換ビスフェノール、ジヒドロキノリン、ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、パラフェニルジアミン、パラフェニレンジアミン、ベンズイミダゾールおよび/またはこれらの混合物から選択された物質であり、好ましくは、これを0.1phr〜15phrの量、含有しうる。
【0042】
本発明のさらなる対象物は、本発明による封止体の製造方法であり、以下の工程を含む。すなわち、混合装置中で、場合によっては添加剤を含有するエラストマー材料中にCNTを取り入れ、エラストマー混合物を形成する工程と、成形工程と、封止体を形成しつつ場合によっては架橋する工程とを含む。
【0043】
CNTの取り入れは、連続的にまたは非連続的に行われうる。エラストマー混合物を生産するために、採用されたエラストマー、カーボンナノチューブおよび任意選択的な添加剤は、様々な順序で混合可能である。この際、エラストマー、カーボンナノチューブおよび/または単数または複数の添加剤は、ペレット、粒状物質、粉末または溶解物として適正量が量られうる。
【0044】
ある好適な実施形態によれば、まず添加剤をゴムと混合し、加熱する。合目的には、ゴムを細かく砕き、エラストマー、カーボンナノチューブおよび任意選択的な添加剤を特に均一に混合するのは、例えば、密閉式混合機中で、50〜250回/分の範囲の回転数で行う。これにより、封止体中でのカーボンナノチューブが、本発明による好適な均一な分布を達成可能になる。この均等な分布は、例えば前分散によっても、および、強凝集体(Aggregate)の激しい剪断、例えば横ピン混合押出機によっても達成可能である。非連続的な混合生産のためには、噛み合うまたは互いに接線接触する回転子の幾何学形状を備えた密閉式混合機、例えばバンバリー(Banbury)ミキサーまたはファレル(Farrell)ミキサーを用いることができる。非連続的な生産は、とりわけ、様々なゴム混合物が製造されるべき場合には、特に柔軟性がある。連続的な混合生産のためには、押出機、例えば二軸押出機を用いることができる。さらに、好適な混合装置は、ロールミルである。
【0045】
成形は、従来技術で公知の方法、例えば圧縮成形(CM)または射出成形(IM)を用いて達成されうる。
【0046】
採用されるゴム材料に応じて、成形時に、化学的および/または物理的結合を形成しつつ架橋が行われる場合に、目的に合っている。これは、当業者には公知の通り、通常の方法で、例えば熱および/または紫外線により行われうる。
【0047】
同様に考えられうるのが、混合時に、すなわちin situで、とりわけ動的架橋の概念に従って、ゴムを架橋剤で架橋することである。
【0048】
封止体を、熱的後処理にかけることも可能である。
【0049】
封止体は、弾性プラスチック体として、各応用目的のために設定されたショアA硬度、好ましくは60〜100、例えば70〜90ショアAおよび/または75〜95ショアAで形成可能である。この種の封止体は、少なくとも部分的に変形可能である。さらに、これは、満足の行くような復元力を有し、これにより、システムの密閉性が確保される。さらに、このエラストマー材料は、高いショア硬度でも処理可能であり、すなわち、CNTを含有しない従来の充填剤システムとは異なり、上述の成形方法に従って加工可能である。
【0050】
本発明によれば、封止体は、好適には大型のプラスチック体として形成されている。この場合、このプラスチック体は均等に荷重がかけられ、その結果、材料疲労が回避されうるので有利である。さらに、製造コストも低い。
【0051】
本発明の特に好適なある実施形態によれば、封止体は運動用シールの形態、例えばショック・アブソーバ・シール、ラジアル・シャフト・シール(例えば、ラディアマティック(Radiamatic)(登録商標)、カセットシール、グルーブリング、リップシール、バルブ・シャフト・シール、ロッドシール、ピストンシール、膜、ベローズ、油圧シール、および/または、バルブ用途のためのアクチュエータの形態で存在する。本発明の特に好適なある実施形態によれば、封止体は、動的用途のための固定シールの形態で、例えばOリング、Xリング、Dリング、フレームシールで存在する。
【0052】
以下に、本発明を2つの実施例に基づいて、より詳細に説明する。
【実施例1】
【0053】
ラジアル・シャフト・シールの摩耗の改良
【0054】
ラジアル・シャフト・シールの用途にとって典型的な混合物であって、中にカーボンナノチューブが均等に分布している混合物を製造し、特性値を検査する。
【0055】
出発材料として、用いるのは、
・ フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンのターポリマー(3M製ダイニオン(Dyneon)2350(登録商標))
・ 珪灰石充填剤(ナイコ社製ニャッド(Nyad)400(登録商標))
・ 酸化マグネシウム充填剤(ノルトマン・ラスマン(Nordmann Rassmann)社製マグライト(Maglite)Y(登録商標))
・ 架橋活性剤(ラインヒェミー ライナウ(RheinChemie Rheinau)社製レノフィット(Rhenofit)CF(登録商標))
・ 離型剤(カール(Kahl)有限会社製、カルヌバワックス(Carnubawax) 2442(登録商標))
・ カーボンナノチューブ(ナノシル(Nanocyl)社製ナノシル(Nanocyl) NC7000(登録商標))
である。
【0056】
この混合物を、密閉式混合機であるティッセンクルップ(Thyssen Krupp)GK 1.5E[1.7L]中で混合し、ロールミルであるアギラ(Agila)[1.8L]で均質化する。
【0057】
【表1】
【0058】
参照混合物と化合物1とから、構成部品をBAUM35−52−7(構造形状)のサイズで製造し、ラジアル・シャフト・シール用の試験台上で計測する。計測は、規格DIN 3761に従って行う。ラジアル・シャフト・シールの摩耗の尺度として、動作時の走行軌跡幅の増加が役立つが、走行軌跡幅の増加が大きいほど、摩耗もより大きくなり、寿命がより短くなる。結果として、走行軌跡幅が、参照においては0.8mm、化合物1では0.2mmが計測され、明らかに小さくなっている。さらに、テストした化合物1の構成部品では、明らかに走行軌跡の外観がより良く、これは、表面が非常に滑らかであることに表れている。
【実施例2】
【0059】
ショック・アブソーバ・シールの生産
【0060】
本発明を、ショックアブソーバにとって典型的な混合物で検査する。出発材料として用いるのは、
・ フルオロエラストマー、ソルベイ(Solvay)社製テクノフロン(Technoflon)P757(登録商標)
・ 珪灰石充填剤、ナイコ社製ニャッド(Nyad)400(登録商標)
・ 架橋活性剤、ケットリッツ(Kettlitz)社製、タイク(TAIC)
・ 架橋剤、アルケマ(Arkema)社製、ルペロックス(Luperox)(登録商標) 101 G 45
・ カーボンナノチューブ、ナノシル(Nanocyl)社製ナノシル(Nanocyl) NC7000(登録商標)
である。
【0061】
これらの混合物を、密閉式混合機であるティッセンクルップ(Thyssen Krupp)GK 1.5E[1.7L]中で混合し、ロールミルであるアギラ(Agila)[1.8L]で均質化する。
【0062】
【表2】
【0063】
参照混合物2と化合物2とから、サイズDHSWV11−31.2−1.5の構成部品を製造し、低温試験台上の、モノチューブ・ショック・アブソーバ・シール(monotube)用試験台上で計測する。このために、試験されるべきシールを含むショックアブソーバは、ショックアブソーバのピストンロッドを軸方向で移動させることができる装置中に取り付けられる。試験されるべきショックアブソーバは、油を含有する構造空間を含み、この油の流出が、密閉について評価すべき基準となる。ショックアブソーバは、低温室中で試験開始温度(この場合、−50℃)に冷却され、この装置中に張設される。プリコンディショニングは、ロッドをショックアブソーバ中に何度かゆっくりと入れることにより行われるが、この際に流出する油を除去する。温度計測は、ショックアブソーバの筐体で、シール付近で行われる。計測は、ロッドの周期的な移動の間に行われ、温度は、ロッドの動的移動により、自己発熱の結果上昇する。流出する油量は、2ケルビン刻みで計測され、生じた油滴がもれ(Undichtigkeit)を意味する。計測間隔毎に、ショックアブソーバに対して250Nの側方への偏向が一度かけられる。参照材料2から製造されたショック・アブソーバ・シールは、−30℃まで密閉性を達成することができ、化合物2は−40℃まで密閉性を達成することができる。