(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
隣接区間で異なるIDとなるように所定数の区間IDの何れかが各区間に割り当てられて構成された線路上を走行する列車に搭載された車上装置と、地上装置とを具備する列車制御システムであって、
前記地上装置は、
当該区間(以下「送信先区間」という)のレールに、当該送信先区間の区間ID(以下「送信先区間ID」という)、当該送信先区間の1区間内方区間が無信号許容停止区間であるか否かを示す識別情報、1区間内方区間の区間長を示す内方区間長情報および1区間内方区間の区間ID(以下「内方区間ID」という)を少なくとも含む制御情報を送信する送信手段、
を備え、
前記車上装置は、
前記制御情報に含まれる前記送信先区間に関する情報を、当該車上装置が搭載された列車(以下「自列車」という)の在線区間の情報として在線区間情報に少なくとも含めて記憶し、前記制御情報に含まれる前記1区間内方区間に関する情報を、次区間の情報として次区間情報に少なくとも含めて記憶する記憶手段と、
前記レールから前記制御情報を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信された新たな制御情報内の送信先区間IDが、前記記憶手段に記憶されている在線区間情報内の送信先区間ID又は次区間情報内の内方区間IDと一致するかどうかを比較し、一致する場合に確定条件を満たすと判定して当該新たな制御情報の採用を確定する確定手段と、
前記確定手段により確定された前記新たな制御情報で、前記記憶手段の記憶内容を更新する記憶内容更新手段と、
前記確定手段により最後に確定された地点からの走行距離を検知する距離検知手段と、
前記記憶手段に記憶されている次区間情報内の識別情報が前記無信号許容停止区間であることを示す状態において、前記確定手段による確定がなされない状態の経過時間が所定の継続時間条件を満たした場合に、自列車が前記無信号許容停止区間に進入したと判定する進入判定手段と、
前記進入判定手段により進入したと判定された場合に、ブレーキを作用させて自列車を停止させるブレーキ制御手段と、
を備えた、
列車制御システム。
前記ブレーキ制御手段は、前記距離検知手段により検知されている走行距離が、前記記憶手段に記憶されている次区間情報内の内方区間長情報が示す区間長以内の場合には常用ブレーキを作用させ、当該区間長を超える場合には非常ブレーキを作用させる、
請求項1に記載の列車制御システム。
前記進入判定手段は、前記継続時間条件を満たした後に、前記確定手段による確定がなされた場合には、自列車が前記無信号許容停止区間に進入したとの判定をキャンセルするキャンセル手段を有し、
前記ブレーキ制御手段は、前記進入判定手段により進入したと判定されてブレーキを作用させた後に前記キャンセル手段によりキャンセルがなされた場合には、ブレーキを緩解する緩解手段を有する、
請求項1又は2に記載の列車制御システム。
隣接区間で異なるIDとなるように所定数の区間IDの何れかが各区間に割り当てられて構成された線路上を走行する列車に搭載された車上装置と、当該区間(以下「送信先区間」という)のレールに当該送信先区間の区間ID(以下「送信先区間ID」という)、当該送信先区間の1区間内方区間が無信号許容停止区間であるか否かを示す識別情報、1区間内方区間の区間長を示す内方区間長情報および1区間内方区間の区間ID(以下「内方区間ID」という)を少なくとも含む制御情報を送信する送信手段を備えた地上装置とを具備して構成される列車制御システムの前記車上装置であって、
前記制御情報に含まれる前記送信先区間に関する情報を、当該車上装置が搭載された列車(以下「自列車」という)の在線区間の情報として在線区間情報に少なくとも含めて記憶し、前記制御情報に含まれる前記1区間内方区間に関する情報を、次区間の情報として次区間情報に少なくとも含めて記憶する記憶手段と、
前記レールから前記制御情報を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信された新たな制御情報内の送信先区間IDが、前記記憶手段に記憶されている在線区間情報内の送信先区間ID又は次区間情報内の内方区間IDと一致するかどうかを比較し、一致する場合に確定条件を満たすと判定して当該新たな制御情報の採用を確定する確定手段と、
前記確定手段により確定された前記新たな制御情報で、前記記憶手段の記憶内容を更新する記憶内容更新手段と、
前記確定手段により最後に確定された地点からの走行距離を検知する距離検知手段と、
前記記憶手段に記憶されている次区間情報内の識別情報が前記無信号許容停止区間であることを示す状態において、前記確定手段による確定がなされない状態の経過時間が所定の継続時間条件を満たした場合に、自列車が前記無信号許容停止区間に進入したと判定する進入判定手段と、
前記進入判定手段により進入したと判定された場合に、ブレーキを作用させて自列車を停止させるブレーキ制御手段と、
を備えた車上装置。
隣接区間で異なるIDとなるように所定数の区間IDの何れかが各区間に割り当てられて構成された線路上を走行する列車に搭載された車上装置と、地上装置とによって前記車上装置が搭載された列車を制御する列車制御方法であって、
前記地上装置が、
当該区間(以下「送信先区間」という)のレールに、当該送信先区間の区間ID(以下「送信先区間ID」という)、当該送信先区間の1区間内方区間が無信号許容停止区間であるか否かを示す識別情報、1区間内方区間の区間長を示す内方区間長情報および1区間内方区間の区間ID(以下「内方区間ID」という)を少なくとも含む制御情報を送信することを行い、
前記車上装置は、
前記制御情報に含まれる前記送信先区間に関する情報を、当該車上装置が搭載された列車(以下「自列車」という)の在線区間の情報として在線区間情報に少なくとも含めて記憶し、前記制御情報に含まれる前記1区間内方区間に関する情報を、次区間の情報として次区間情報に少なくとも含めて記憶する記憶手段を備え、
前記車上装置が、
前記レールから前記制御情報を受信することと、
新たな前記制御情報が受信された場合に、当該新たな制御情報内の送信先区間IDが、前記記憶手段に記憶されている在線区間情報内の送信先区間ID又は次区間情報内の内方区間IDと一致するかどうかを比較し、一致する場合に確定条件を満たすと判定して当該新たな制御情報の採用を確定することと、
前記確定された前記新たな制御情報で、前記記憶手段の記憶内容を更新することと、
最後に前記確定された地点からの走行距離を検知することと、
前記記憶手段に記憶されている次区間情報内の識別情報が前記無信号許容停止区間であることを示す状態において、前記確定がなされない状態の経過時間が所定の継続時間条件を満たした場合に、自列車が前記無信号許容停止区間に進入したと判定することと、
前記進入したとの判定がなされた場合に、ブレーキを作用させて自列車を停止させることと、
を行う、
列車制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、無信号許容停止信号によって無信号区間への進入が許容される場合には、ある区間に対して送信されたATC信号が誘導や回り込みによって無信号区間に流れ込み、擬似信号が生じ得るという問題がある。つまり、無信号許容停止区間においては車上装置が受信したATC信号が、上下線を含む近隣区間のATC信号である場合がある。その場合に受信されたATC信号は、正規のATC信号でありながら、自列車の在線区間に対するATC信号でないため、車上装置にとっては擬似信号となる。車上装置では、在線区間に送信されている本来受信すべきATC信号と、擬似信号とを区別できない。このため、例えば、無信号区間への進入を許容する無信号許容停止信号の区間においては、擬似信号を受信してしまうことで、本来、許容停止区間に応じた走行制御とすべきところを、擬似信号という有信号によって許容停止区間でないと認識して許容停止区間に相応しない走行制御を採用してしまうといった非常に危険な事態が発生する可能性があった。
【0007】
また、許容停止区間内では必ず停止する必要がある。特許文献1では、許容停止区間に進入後の走行距離をもとにブレーキ制御を行っているが、そもそも許容停止区間が無信号であるために、許容停止区間の進入位置が不明確という課題がある。許容停止区間への進入位置の認識を誤ると、ブレーキが間に合わず、許容停止区間を超過して絶対停止区間に進入してしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、無信号許容停止区間における擬似信号による誤った走行制御を防止するとともに、無信号許容停止区間への進入位置を安全側の位置に明確に認識できるようにすること、である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための第1の発明は、
隣接区間で異なるIDとなるように所定数の区間IDの何れかが各区間に割り当てられて構成された線路上を走行する列車に搭載された車上装置と、地上装置とを具備する列車制御システムであって、
前記地上装置は、
当該区間(以下「送信先区間」という)のレールに、当該送信先区間の区間ID(以下「送信先区間ID」という)、当該送信先区間の1区間内方区間が無信号許容停止区間であるか否かを示す識別情報(例えば、
図2の無信号許容停止区間フラグ)、1区間内方区間の区間長を示す内方区間長情報および1区間内方区間の区間ID(以下「内方区間ID」という)を少なくとも含む制御情報を送信する送信手段(例えば、
図1の送信制御部320)、
を備え、
前記車上装置は、
前記制御情報に含まれる前記送信先区間に関する情報を、当該車上装置が搭載された列車(以下「自列車」という)の在線区間の情報として在線区間情報に少なくとも含めて記憶し、前記制御情報に含まれる前記1区間内方区間に関する情報を、次区間の情報として次区間情報に少なくとも含めて記憶する記憶手段(例えば、
図8の記憶部200)と、
前記レールから前記制御情報を受信する受信手段(例えば、
図8の受電器42)と、
前記受信手段により受信された新たな制御情報内の送信先区間IDと、前記記憶手段に記憶されている在線区間情報内の送信先区間ID又は次区間情報内の内方区間IDとを比較して、所定の確定条件を満たした場合に当該新たな制御情報の採用を確定する確定手段(例えば、
図8の採用確定部104)と、
前記確定手段により確定された前記新たな制御情報で、前記記憶手段の記憶内容を更新する記憶内容更新手段(例えば、
図8の記憶内容更新部106)と、
前記確定手段により最後に確定された地点からの走行距離を検知する距離検知手段(例えば、
図8の無信号距離算出部110)と、
前記記憶手段に記憶されている次区間情報内の識別情報が前記無信号許容停止区間であることを示す状態において、前記確定手段による確定がなされない状態の経過時間が所定の継続時間条件を満たした場合に、自列車が前記無信号許容停止区間に進入したと判定する進入判定手段(例えば、
図8の無信号許容停止区間進入判定部114)と、
前記進入判定手段により進入したと判定された場合に、ブレーキを作用させて自列車を停止させるブレーキ制御手段(例えば、
図8のブレーキ制御部118)と、
を備えた、
列車制御システムである。
【0010】
また、他の発明として、
隣接区間で異なるIDとなるように所定数の区間IDの何れかが各区間に割り当てられて構成された線路上を走行する列車に搭載された車上装置と、地上装置とによって前記車上装置が搭載された列車を制御する列車制御方法であって、
前記地上装置が、
当該区間(以下「送信先区間」という)のレールに、当該送信先区間の区間ID(以下「送信先区間ID」という)、当該送信先区間の1区間内方区間が無信号許容停止区間であるか否かを示す識別情報、1区間内方区間の区間長を示す内方区間長情報および1区間内方区間の区間ID(以下「内方区間ID」という)を少なくとも含む制御情報を送信することを行い、
前記車上装置は、
前記制御情報に含まれる前記送信先区間に関する情報を、当該車上装置が搭載された列車(以下「自列車」という)の在線区間の情報として在線区間情報に少なくとも含めて記憶し、前記制御情報に含まれる前記1区間内方区間に関する情報を、次区間の情報として次区間情報に少なくとも含めて記憶する記憶手段を備え、
前記車上装置が、
前記レールから前記制御情報を受信することと、
新たな前記制御情報が受信された場合に、当該新たな制御情報内の送信先区間IDと、前記記憶手段に記憶されている在線区間情報内の送信先区間ID又は次区間情報内の内方区間IDとを比較して、所定の確定条件を満たした場合に当該新たな制御情報の採用を確定することと、
前記確定された前記新たな制御情報で、前記記憶手段の記憶内容を更新することと、
最後に前記確定された地点からの走行距離を検知することと、
前記記憶手段に記憶されている次区間情報内の識別情報が前記無信号許容停止区間であることを示す状態において、前記確定がなされない状態の経過時間が所定の継続時間条件を満たした場合に、自列車が前記無信号許容停止区間に進入したと判定することと、
前記進入したとの判定がなされた場合に、ブレーキを作用させて自列車を停止させることと、
を行う、
列車制御方法を構成しても良い。
【0011】
第1の発明等によれば、新たに受信した制御情報内の送信先区間IDと、記憶されている送信先区間ID又は内方区間IDとを比較して、当該制御情報の採用を確定するので、擬似信号を排除し、受信すべき制御情報のみを採用することができる。また、次区間が無信号許容停止区間であることを認識している状態において、受信した制御情報の採用の確定がなされない状態の経過時間によって、無信号許容停止区間への進入を判定する。つまり、最後に受信した制御情報の採用を確定した時点を、無信号許容停止区間に進入した時点とみなしており、これは実際の無信号許容停止区間の進入時点より手前の時点となるので、安全側の動作となる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の列車制御システムであって、
前記ブレーキ制御手段は、前記距離検知手段により検知されている走行距離が、前記記憶手段に記憶されている次区間情報内の内方区間長情報が示す区間長以内の場合には常用ブレーキを作用させ、当該区間長を超える場合には非常ブレーキを作用させる、
列車制御システムである。
【0013】
第2の発明によれば、無信号許容停止区間内では常用ブレーキによって停止させる制御を行うが、万が一、無信号許容停止区間を超過した場合には非常ブレーキによって直ちに停止させることができる。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明の列車制御システムであって、
前記進入判定手段は、前記継続時間条件を満たした後に、前記確定手段による確定がなされた場合には、自列車が前記無信号許容停止区間に進入したとの判定をキャンセルするキャンセル手段を有し、
前記ブレーキ制御手段は、前記進入判定手段により進入したと判定されてブレーキを作用させた後に前記キャンセル手段によりキャンセルがなされた場合には、ブレーキを緩解する緩解手段を有する、
列車制御システムである。
【0015】
第3の発明によれば、例えば、先行列車が在線区間を進出したことによって自列車の在線区間が無信号許容停止区間でなくなった場合に、ブレーキを緩解して走行を継続することができる。
【0016】
第4の発明は、第1〜第3の何れかの発明の列車制御システムであって、
前記確定手段は、前記次区間情報内の識別情報が前記無信号許容停止区間であることを示す状態の場合に、前記比較を行って前記確定条件を満たすか否かを判定する、
列車制御システムである。
【0017】
第4の発明によれば、次区間が無信号許容停止区間である場合には、新たに受信した制御情報内の送信先区間IDと、記憶している送信先区間ID又は内方区間IDとを比較して、当該制御情報の採用を確定するので、擬似信号を排除し、受信すべき制御情報のみを採用することができる。
【0018】
第5の発明は、第1〜第4の何れかの発明の列車制御システムであって、
前記確定手段は、前記進入判定手段により前記無信号許容停止区間に進入したと判定された場合には、前記受信手段により受信された新たな制御情報内の送信先区間IDが、前記記憶手段に記憶されている在線区間情報内の送信先区間ID又は次区間情報内の内方区間IDと一致する場合に前記確定条件を満たしたとして採用を確定する、
列車制御システムである。
【0019】
第5の発明によれば、無信号許容停止区間に進入したと判定した後は、新たに受信した制御情報内の送信先区間IDが、記憶している送信先区間ID又は内方区間IDと一致するかによって当該制御情報の採用を確定するので、擬似信号を排除し、受信すべき制御情報のみを採用することができる。また、受信した送信先区間IDが、記憶している送信先区間ID及び内方区間IDのどちらに一致するかによって、自列車が無信号許容停止区間を進出して次の区間に進入したか否かの判定が可能となる。
【0020】
第6の発明として、
隣接区間で異なるIDとなるように所定数の区間IDの何れかが各区間に割り当てられて構成された線路上を走行する列車に搭載された車上装置と、当該区間(以下「送信先区間」という)のレールに当該送信先区間の区間ID(以下「送信先区間ID」という)、当該送信先区間の1区間内方区間が無信号許容停止区間であるか否かを示す識別情報、1区間内方区間の区間長を示す内方区間長情報および1区間内方区間の区間ID(以下「内方区間ID」という)を少なくとも含む制御情報を送信する送信手段を備えた地上装置とを具備して構成される列車制御システムの前記車上装置であって、
前記制御情報に含まれる前記送信先区間に関する情報を、当該車上装置が搭載された列車(以下「自列車」という)の在線区間の情報として在線区間情報に少なくとも含めて記憶し、前記制御情報に含まれる前記1区間内方区間に関する情報を、次区間の情報として次区間情報に少なくとも含めて記憶する記憶手段と、
前記レールから前記制御情報を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信された新たな制御情報内の送信先区間IDと、前記記憶手段に記憶されている在線区間情報内の送信先区間ID又は次区間情報内の内方区間IDとを比較して、所定の確定条件を満たした場合に当該新たな制御情報の採用を確定する確定手段と、
前記確定手段により確定された前記新たな制御情報で、前記記憶手段の記憶内容を更新する記憶内容更新手段と、
前記確定手段により最後に確定された地点からの走行距離を検知する距離検知手段と、
前記記憶手段に記憶されている次区間情報内の識別情報が前記無信号許容停止区間であることを示す状態において、前記確定手段による確定がなされない状態の経過時間が所定の継続時間条件を満たした場合に、自列車が前記無信号許容停止区間に進入したと判定する進入判定手段と、
前記進入判定手段により進入したと判定された場合に、ブレーキを作用させて自列車を停止させるブレーキ制御手段と、
を備えた車上装置を構成しても良い。
【0021】
この場合、上述の第1の発明の作用効果を発揮する車上装置を実現できる。
【0022】
また、第7の発明として、
隣接区間で異なるIDとなるように所定数の区間IDの何れかが各区間に割り当てられて構成された線路のレールに制御情報を送信する地上装置であって、
当該区間(以下「送信先区間」という)のレールに、当該送信先区間の区間ID(以下「送信先区間ID」という)、当該送信先区間の1区間内方区間が無信号許容停止区間であるか否かを示す識別情報、1区間内方区間の区間長を示す内方区間長情報および1区間内方区間の区間ID(以下「内方区間ID」という)を少なくとも含む前記制御情報を送信する送信手段と、
を備え、
前記線路上を走行する列車の車上装置として、
前記制御情報に含まれる前記送信先区間に関する情報を、当該車上装置が搭載された列車(以下「自列車」という)の在線区間の情報として在線区間情報に少なくとも含めて記憶し、前記制御情報に含まれる前記1区間内方区間に関する情報を、次区間の情報として次区間情報に少なくとも含めて記憶する記憶手段と、
前記レールから前記制御情報を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信された新たな制御情報内の送信先区間IDと、前記記憶手段に記憶されている在線区間情報内の送信先区間ID又は次区間情報内の内方区間IDとを比較して、所定の確定条件を満たした場合に当該新たな制御情報の採用を確定する確定手段と、
前記確定手段により確定された前記新たな制御情報で、前記記憶手段の記憶内容を更新する記憶内容更新手段と、
前記確定手段により最後に確定された地点からの走行距離を検知する距離検知手段と、
前記記憶手段に記憶されている次区間情報内の識別情報が前記無信号許容停止区間であることを示す状態において、前記確定手段による確定がなされない状態の経過時間が所定の継続時間条件を満たした場合に、自列車が前記無信号許容停止区間に進入したと判定する進入判定手段と、
前記進入判定手段により進入したと判定された場合に、ブレーキを作用させて自列車を停止させるブレーキ制御手段と、
を有する車上装置に向けて前記制御情報を送信する、地上装置を構成しても良い。
【0023】
この場合、第1の発明の作用効果を発揮する地上装置を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0026】
[システム構成]
図1は、本実施系における列車制御システム1の構成図である。列車制御システム1は、デジタルATCシステムであり、地上装置10と、軌道Rを走行する列車40に搭載される車上装置50とを備えて構成される。
【0027】
軌道Rには、レールを列車40の進行方向に沿って区分した列車40の走行制御の単位となる区間が定められている。区間は、軌道Rに沿って設置された軌道回路を単位として定められる。各区間の軌道回路は、回路境界に絶縁を設けず、レール共振を利用しない非共振式無絶縁軌道回路である。
【0028】
各区間には区間IDが割り当てられているが、用意されている区間IDの数は、軌道回路に定められている区間の総数より少ない。つまり、設置されている軌道回路が非共振式無絶縁軌道回路であるため、レールに送信されたATC信号が充分減衰すると想定される所定距離内における区間同士の区間IDが同一とならないよう、各区間に区間IDが割り当てられている。例えば、進行方向に沿って用意されている区間IDが所定順に繰り返すようにして、少なくとも隣接区間で異なる区間IDとなるように、各区間に区間IDが割り当てられている。
【0029】
先行列車40aの最後尾車両が存在する区間(
図1では、区間14T)は、無信号となる絶対停止区間であり、絶対停止区間の一区間後方(外方)の区間(
図1では、区間15T)は、許容停止区間である。絶対停止区間は、後続列車40bの進入を禁止し、進入すると非常ブレーキをかけて直ちに非常停止しなくてはならない区間である。許容停止区間は、後続列車40bの進入を許容するが、当該区間内で必ず停止しなくてはならない区間である。本実施形態では、軌道回路が非共振式無絶縁軌道回路であることから、許容停止区間も無信号の区間である。以下、許容停止区間のことを、無信号許容停止区間という。
【0030】
地上装置10は、複数のATC送信器20と、地上制御装置30とを有している。ATC送信器20は、各区間の進出側の境界に接続され、地上制御装置30によって生成されたATC信号を、接続された区間のレールに出力する。この接続点は、ATC信号の打ち込み点とも称される。
【0031】
地上制御装置30は、在線検知部310と、送信制御部320とを有する。在線検知部310は、軌道R上の各列車40の位置を軌道回路単位(すなわち、区間単位)で検知する。送信制御部320は、在線検知部310によって検知された各列車40の在線情報や、不図示の連動装置から得られる進路情報(分岐器の開通方向情報を含む)等をもとに、軌道R上の各列車40に対する制御情報60を生成し、ATC信号(電文)に含めて、ATC送信器20を介して対応する在線区間のレールに繰り返し送信する。以下、ATC信号のことを、この制御情報60として説明する。
【0032】
車上装置50は、レールから受信した制御情報60に基づく自列車の走行制御を行う。具体的には、受信した制御情報60に基づく速度照査パターンを生成し、この速度照査パターンに従った走行制御(速度制御)を行う。
【0033】
図2は、制御情報60の一例を示す図である。
図2に示すように、制御情報60は、当該情報が送信される区間である送信先区間に関する送信先区間情報62と、送信先区間の1区間内方区間に関する内方区間情報64と、を含む。送信先区間情報62は、区間ID(送信先区間ID)と、区間長と、始端速度Vsと、終端速度Voと、を含む。内方区間情報64は、区間ID(内方区間ID)と、区間長と、始端速度Vsと、終端速度Voと、無信号許容停止区間であるか否かの識別情報である無信号許容停止区間フラグと、を含む。始端速度Vsは、該当区間への進入時の制限速度であり、該当区間に定められた制限速度である。終端速度Voは、該当区間からの進出時の制限速度であり、該当区間の1区間内方区間の制限速度である。無信号許容停止区間については、終端速度Voはゼロとなる。
【0034】
(A)擬似信号
ところで、軌道回路を使ってATC信号を送信する場合においては、ある区間に送信された制御情報60が、並行する上下線への誘導や近隣区間への回り込みによって他の区間にも送信されてしまう可能性がある。つまり、車上装置50では、自列車の在線区間ではなく、他の区間に送信された制御情報60を受信してしまう可能性がある。特に、無信号許容停止区間は無信号区間であり当該区間に制御情報60は送信されていないため、他の区間へ送信された制御情報60が擬似信号となり易い。そこで、本実施形態では、車上装置50は、次区間が無信号許容停止区間である場合、或いは、在線区間が無信号許容停止区間である場合に、受信した制御情報60に含まれる区間IDによって、受信した制御情報60が他の区間に向けて送信された制御情報60である擬似信号であるか否かを判定する。
【0035】
ここで、次区間が無信号許容停止区間であるかは、制御情報60に含まれる内方区間情報64の無信号許容停止区間フラグによって判断することができる。そして、次区間が無信号許容停止区間である状態において次区間への進入を判定することで、在線区間が無信号許容停止区間であると判断することができる。次区間への進入の判定については後述する。
【0036】
具体的には後述するが、車上装置50が自列車の無信号許容停止区間への進入を判定するタイミングは、自列車が実際に無信号許容停止区間に進入したタイミングより遅い。この実際に進入したタイミングから判定するタイミングまでの間に擬似信号を受信してしまう可能性を排除するため、無信号許容停止区間の1区間外方区間に在線しているとき(つまり、次区間が無信号許容停止区間であるとき)から、区間IDに基づく擬似信号の判定を行う。
【0037】
区間IDに基づく擬似信号の判定は、次のように行う。すなわち、受信した制御情報60に含まれている送信先区間IDと、記憶している送信先区間ID又は内方区間IDとの一致を判定する。そして、受信した送信先区間IDが、記憶している送信先区間ID又は内方区間IDに一致するならば、当該制御情報60は擬似信号でないと判定し、そうでないならば、当該制御情報60は擬似信号と判定する。
【0038】
図3,
図4は、区間IDに基づく擬似信号の判定を説明する図である。
図3(a)に示すように、列車40cの車上装置50は、自列車40cの在線区間16Tに送信されている制御情報60aを受信し、この制御情報60aに含まれている「送信先区間ID=ID−A」及び「内方区間ID=ID−B」を記憶する。このとき、在線区間である区間16Tも次区間である区間15Tもともに無信号許容停止区間ではないので、車上装置50は、区間IDに基づく擬似信号の判定は行わない。
【0039】
次いで、
図3(b)に示すように、列車40cが次の区間15Tに進入すると、この区間15Tに送信されている制御情報60bを受信するようになる。車上装置50は、受信した制御情報60bに含まれている内方区間情報64の無信号許容停止区間フラグから、次区間である区間14Tが無信号許容停止区間であると判断する。そして、区間IDに基づく擬似信号の判定を行う。つまり、受信した制御情報60bに含まれている送信先区間IDと、記憶している送信先区間ID又は内方区間IDとの一致を判定する。この場合、受信した送信先区間ID、及び、記憶している内方区間IDは、ともに「ID−B」であり一致する。従って、車上装置50は、受信した制御情報60bは擬似信号でないと判定し、記憶していた送信先区間ID及び内方区間IDを、新たに受信した制御情報60bに含まれる「送信先区間ID=ID−B」及び「内方区間ID=ID−C」で更新記憶する。
【0040】
図4(a)は、
図3(b)に続いて、列車40cがその次の区間14Tに進入して擬似信号を受信した場合である。進入した区間14Tは、先行列車40dの在線区間13Tの1区間外方区間、つまり無信号許容停止区間であり、無信号となるはずである。しかし、並行する逆方向のレールに送信されている制御情報60yが誘導や回り込みによって区間14Tに伝播しており、車上装置50は、区間14Tに伝播された制御情報60yを受信している。この場合、受信した制御情報60yに含まれている「送信先区間ID=ID−Y」は、車上装置50に記憶されている「送信先区間ID=ID−B」、及び、「内方区間ID=ID−C」の何れとも一致しない。従って、車上装置50は、受信した制御情報60yは擬似信号であると判定し、これを無効として破棄する。
【0041】
続いて、
図4(b)に示すように、先行列車40dが区間13Tを進出すると区間14Tは無信号許容停止区間でなくなり、この区間14Tへの制御情報60cの送信が開始される。列車40cの車上装置50は、在線区間14Tに送信されているこの制御情報60cを受信することになる。区間14Tは無信号許容停止区間ではなくなるが、次区間である区間13Tが無信号許容停止区間となる。車上装置50は、受信した制御情報60cに含まれている内方区間情報64の無信号許容停止区間フラグから、次区間である区間13Tが無信号許容停止区間であると判断し、区間IDに基づく擬似信号の判定を継続することになる。車上装置50が受信した制御情報60cに含まれる送信先区間IDと、記憶している内方区間IDとは、ともに「ID−C」であり一致する。従って、車上装置50は、受信した制御情報60cは擬似信号でないと判定し、記憶していた送信先区間ID及び内方区間IDを、受信した制御情報60cに含まれる送信先区間「ID=ID−C」及び「内方区間ID=ID−D」で更新記憶する。
【0042】
なお、本実施形態では、次区間或いは在線区間が無信号許容停止区間である場合に、区間IDに基づく擬似信号の判定を行うことにしたが、次区間及び在線区間がともに無信号許容停止区間でない場合にも同様に、区間IDに基づく擬似信号の判定を行うようにしても良い。
【0043】
(B)制御情報60の採用
上述のように、各区間に対して制御情報60が繰り返し送信されるため、車上装置50では、自列車の在線区間が無信号許容停止区間でなければ、レールに送信されている制御情報60を次々と受信することになる。車上装置50は、新たに制御情報60を受信する毎に所定の確定条件を満たすかを判定し、満たすならば、当該制御情報60を採用し、記憶内容を更新した後、自列車の走行制御に用いる。
【0044】
確定条件とは、制御情報60の採用を確定するための条件であり、自列車の在線区間及び次区間が無信号許容停止区間であるか否かによって、次の二つに場合分けされる。すなわち、一つ目は、自列車の在線区間及び次区間がともに無信号許容停止区間でない場合である。例えば、
図3(a)の場合が該当する。この場合、イ)所定の検定条件を満たす、ことが確定条件となる。二つ目は、自列車の在線区間又は次区間が無信号許容停止区間である場合である。例えば、
図3(b),
図4(a),(b)の場合が該当する。この場合、イ)所定の検定条件を満たし、且つ、ロ)区間IDに基づく擬似信号の判定によって当該制御情報60が擬似信号でないと判定された、ことが確定条件となる。
【0045】
自列車の在線区間及び次区間がともに無信号許容停止区間でない場合に、確定条件に、ロ)区間IDに基づく擬似信号の判定を必要としないのは、次の理由による。すなわち、この場合には在線区間及び次区間ともに有信号の区間であるため、有信号に比べて微弱な擬似信号が混入したとしても問題とならないためである。そのため、イ)所定の検定条件を満たせば、新たに受信した制御情報60の採用を確定できる。
【0046】
検定条件とは、制御情報60を安全かつ合理的に受信したとみなせる条件であり、例えば、連続した2つの制御情報60が一致する、或いは、連続した3つの制御情報60のうちの2つが一致する、といった条件に定めることができる。
【0047】
(C)無信号許容停止区間への進入
列車40が無信号許容停止区間に進入すると、車上装置50は、ブレーキを作用させて自列車を区間内で停止するように制御する必要がある。つまり、無信号許容停止区間内では、常用ブレーキによって自列車を徐々に減速させて停止させ、無信号許容停止区間を超過すると、非常ブレーキによって直ちに緊急停止させる。
【0048】
無信号許容停止区間の進入後は、制御情報60が受信されない無信号状態である。しかし、有信号の区間境界の通過時や、区間途中の撚架点の通過時、受信信号強度の一時的な低下など、様々な要因によっても一時的に制御情報60が受信されない無信号状態が生じ得る。このため、無信号状態が、無信号許容停止区間への進入であるのか他の要因によるのかを区別する必要がある。そこで、本実施形態では、車上装置50は、無信号状態の継続時間である無信号時間によって、自列車の無信号許容停止区間への進入を判定する。
【0049】
無信号時間は、無信号タイマによって計測できる。無信号タイマは、常時、経過時間を積算するタイマであり、制御情報60の受信状況が、上述した新たに受信した制御情報60の採用を確定するための確定条件を満たす毎にリセットされる。
【0050】
そして、無信号許容停止区間に進入した後、自列車が無信号許容停止区間内に在線しているかどうかは、無信号許容停止区間に進入してからの走行距離を、無信号許容停止区間の区間長と比較することで判定する。無信号許容停止区間の区間長は、直前の区間を走行中に受信した制御情報60に含まれている。無信号許容停止区間に進入してからの走行距離である無信号距離は、無信号距離カウンタによって計測できる。無信号距離カウンタは、常時、走行距離を積算するカウンタであり、無信号タイマと同様に、制御情報60の受信状況が確定条件を満たす毎にリセットされる。
【0051】
図5は、無信号タイマによる無信号時間の算出を説明する図である。
図5では、横方向を列車先端位置として、上から順に、レールに伝送されるATC信号、車上装置50における受信電文(制御情報60)、無信号タイマのタイマ値(無信号時間)、を示している。ATC信号は、当該位置での受信信号強度を縦方向の幅で示している。当該区間の進出端からATC信号が伝送されるため、進出端に近づくにつれてATC信号の受信信号強度は強くなる。受信電文は、車上装置50で受信された一つの制御情報60を1つの矩形ブロックとして示しており、付記された数字は、車上装置50で受信・解読された当該制御情報60に含まれる送信先区間IDを示している。また、矩形ブロックの右端の位置が、当該制御情報60が解読されたタイミングを示している。クロスハッチングが施された矩形ブロックは、受信できなかった、或いは、解読できなかった制御情報60を表す。
【0052】
また、
図5は、区間1T,2Tの境界を通過する例を示している。区間1Tには「送信先区間ID=1」を含む制御情報60が送信され、区間2Tには「送信先区間ID=2」を含む制御情報60が送信される。列車40が区間境界を通過する際には、車上装置50において一時的に制御情報60が受信されない無信号状態が発生し得る。
【0053】
図5に示すように、正常時には、区間1Tを走行中の列車40の車上装置50は、「送信先区間ID=1」の制御情報60を連続的に受信しており、確定条件を満たす毎、すなわち、1つの制御情報60を受信・解読する毎に、無信号タイマがリセットされる。次いで、区間1T,2Tの境界の通過の際には、一時的に無信号状態となり無信号タイマ値が増加する。その後、「送信先区間ID=2」の制御情報60の受信が開始され、確定条件を満たした以降は、確定条件を満たす毎に、無信号タイマがリセットされる。
【0054】
この場合、送信先区間IDが直前と異なる制御情報60について、確定条件を満たすと判定したタイミング(
図5(a)では、タイミングt
2、
図5(b)では、タイミングt
4)において、区間1T,2Tの境界を通過したと判定する。そして、このタイミングの直前に、確定条件を満たすと判定したタイミング(
図5(a)では、タイミングt
1、
図5(b)では、タイミングt
3)の位置を、区間1T,2Tの境界とみなす。
【0055】
図6は、無信号距離カウンタによる無信号距離の算出を説明する図である。
図6では、横軸を列車位置として、上から順に、車上装置50における受信電文(制御情報60)、無信号距離カウンタのカウント値(無信号距離)、を示している。
図6(a)は、受信する制御情報60の送信先区間IDが全て同一の場合、
図6(b)は、区間境界の通過等によって、受信する制御情報60の送信先区間IDが変化する場合、の例を示している。
【0056】
無信号距離カウンタは、無信号タイマと同様に、確定条件を満たしたタイミングでリセットされる。このため、無信号距離カウンタによって算出される無信号距離は、受信した制御情報60が確定条件を満たしたときを起点とした走行距離であり、実際の無信号区間を含む長さとなっている。
【0057】
図7は、無信号許容停止区間への進入時を示している。
図7では、横方向を列車先端位置として、上から順に、レールに伝送されるATC信号、車上装置50おける受信電文(制御情報60)、無信号タイマのタイマ値(無信号時間)、無信号距離カウンタのカウント値(無信号距離)、を示している。
【0058】
図7に示すように、区間1Tを走行中の列車40の車上装置50は、「送信先区間ID=1」の制御情報60を連続的に受信しており、確定条件を満たす毎、つまり、制御情報を受信・解読する毎に、無信号タイマ及び無信号距離カウンタがリセットされる。
【0059】
次いで、区間2Tに進入すると、区間2Tは無信号許容停止区間であるので、確定条件が満たされず、無信号タイマのタイマ値、及び、無信号距離カウンタのカウント値が増加する。そして、無信号タイマのタイマ値である無信号時間が継続時間条件を満たしたタイミングt
6において、無信号許容停止区間に進入したと判定する。継続時間条件は、無信号許容停止区間に進入したとみなせる条件であり、無信号時間が第2閾値時間に達した条件として定められる。第2閾値時間は、区間境界の通過時に生じる無信号状態の継続時間より長い時間として定められる。
【0060】
この場合、無信号許容停止区間に進入したと判定したタイミングt
6以前であって、直前に確定条件を満たすと判定されたタイミングt
5の位置を、無信号許容停止区間の開始位置とみなす。つまり、無信号許容停止区間の開始位置とみなす位置は、実際の無信号許容停止区間の始端位置より手前(外方)となる。そして、無信号距離カウンタのカウント値である無信号距離は、無信号許容停止区間の開始位置とみなした位置からの走行距離であり、実際の無信号許容停止区間の走行距離より長くなる。これは、安全側の動作となる。
【0061】
[機能構成]
図8は、車上装置50の機能構成図である。
図8によれば、車上装置50は、処理部100と、記憶部200とを備えて構成される一種のコンピュータ装置である。
【0062】
処理部100は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算装置で実現され、記憶部200に記憶されたプログラムやデータ等に基づいて車上装置50の全体制御を行う。また、処理部100は、記憶部200に記憶された車上制御プログラム202を実行することで、位置速度算出部102、採用確定部104、記憶内容更新部106、無信号時間算出部108、無信号距離算出部110、区間距離算出部112、無信号許容停止区間進入判定部114、速度照査パターン作成部116、ブレーキ制御部118、の各機能ブロックとして機能する。但し、これらの機能ブロックは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等によってそれぞれ独立した演算回路として構成することも可能である。
【0063】
位置速度算出部102は、車軸に取り付けられた速度発電機44の回転数の計測値をもとに、自列車40の現在の走行位置(走行距離)、及び、走行速度を算出する。算出した走行位置及び走行速度は、位置速度情報204として記憶される。
【0064】
採用確定部104は、受電器42によってレールから受信した制御情報60が確定条件を満たすかを判定し、満たす場合に、当該制御情報60の採用を確定する。確定条件は、自列車の在線区間及び次区間が無信号許容停止区間であるか否かによって二つに場合分けされる。すなわち、自列車の在線区間及び次区間がともに無信号許容停止区間でない場合には、イ)所定の検定条件を満たす、ことが確定条件となる、また、自列車の在線区間又は次区間が無信号許容停止区間である場合には、イ)所定の検定条件を満たし、且つ、ロ)区間IDに基づく擬似信号の判定によって、当該制御情報60が擬似信号でないと判定された、ことが確定条件となる。検定条件は、例えば、連続した2つの制御情報60が一致する、或いは、連続した3つの制御情報60のうちの2つが一致する、といった条件に定めることができる。
【0065】
記憶内容更新部106は、記憶している在線区間情報206及び次区間情報208を更新する。
図9に、在線区間情報206及び次区間情報208の一例を示す。在線区間情報206は、自列車40の在線区間に関する情報であり、区間IDと、区間長と、始端速度Vsと、終端速度Voと、無信号許容停止区間フラグと、を含む。次区間情報208は、自列車40が次に進入することとなる区間に関する情報であり、区間IDと、区間長と、始端速度Vsと、終端速度Voと、無信号許容停止区間フラグを含む。
【0066】
記憶内容更新部106は、採用確定部104によって制御情報60の採用が確定されると、当該制御情報60に含まれる送信先区間情報62を在線区間情報206とし、内方区間情報64を次区間情報208として更新する。また、無信号許容停止区間進入判定部114によって自列車40が無信号許容停止区間に進入したと判定されると、次区間情報208を在線区間情報206として更新し、次区間情報208をクリアする。
【0067】
無信号時間算出部108は、無信号状態の継続時間である無信号時間を算出する。すなわち、上述の無信号タイマに相当し、この無信号タイマのタイマ値を無信号時間とする。つまり、常時、経過時間をカウントし、採用確定部104によって制御情報60の採用が確定される毎に、タイマ値をリセットする(
図5,
図7参照)。
【0068】
無信号距離算出部110は、無信号状態の継続期間における走行距離である無信号距離を算出する。すなわち、上述の無信号距離カウンタに相当し、この無信号距離カウンタのカウント値を無信号距離とする。つまり、常時、走行距離をカウントし、採用確定部104によって制御情報60の採用が確定される毎に、カウント値をリセットする(
図6,
図7参照)。走行距離は、例えば、位置速度算出部102によって算出された現在の走行速度を時間積分して求められる。
【0069】
区間距離算出部112は、区間境界を基点とした自列車40の走行距離である区間走行距離を算出する。区間走行距離は、区間距離カウンタによって計測できる。
【0070】
図10は、区間距離カウンタによる区間走行距離の算出を説明する図である。
図10では、横方向を列車先端位置として、上から順に、レールに伝送されるATC信号、車上装置50おける受信電文(制御情報60)、区間距離カウンタのカウント値(区間走行距離)、無信号距離カウンタのカウント値(無信号距離)、を示している。
【0071】
図10に示すように、区間6T,7Tの境界の通過が判定されたタイミングt
8で、区間距離カウンタのカウント値(区間走行距離)が、無信号距離カウンタのカウント値(無信号距離)に更新される。区間境界の通過の判定タイミングは、送信先区間IDが直前と異なる制御情報60について、確定条件を満たすタイミングである。そして、このタイミングt
8における無信号距離カウンタのカウント値(無信号距離)は、区間境界とみなすタイミングt
7の位置からの走行距離であり、このタイミングt
7の位置は、実際の区間境界よりも手前の位置となる。つまり、区間距離算出部112は、常時、走行距離をカウントし、採用確定部104によって、送信先区間IDが直前とは異なる制御情報の採用が確定される毎に、区間距離カウンタのカウント値を、無信号距離算出部110によって算出された無信号距離に更新する。
【0072】
無信号許容停止区間進入判定部114は、自列車40が無信号許容停止区間に進入したかを判定する。具体的には、次区間が無信号許容停止区間である状態、つまり、次区間情報208に含まれる無信号許容停止区間フラグが「1」である状態において、無信号時間算出部108によって算出された無信号時間が、継続時間条件である第2閾値時間に達した場合に、自列車40が無信号許容停止区間に進入したと判定する(
図7参照)。更に、無信号許容停止区間に進入した後、新たな制御情報60が受信され、採用確定部104によって採用が確定されたならば、無信号許容停止区間進入判定部114は、当該無信号許容停止区間への進入の判定をキャンセルする。これは、
図4(b)のケースに相当する。継続時間条件である第2閾値時間は、継続時間条件情報210として記憶されている。
【0073】
速度照査パターン作成部116は、在線区間情報206及び次区間情報208に基づいて、速度照査パターンを作成する。例えば、在線区間情報206又は次区間情報208が更新される毎に、在線区間の始端速度Vs及び終端速度Vo、次区間の始端速度Vs及び終端速度Voに従って、自列車40の現在の走行位置及び走行速度を起点とした速度照査パターンを作成する。
【0074】
ブレーキ制御部118は、速度照査パターン作成部116によって作成された速度照査パターン従ったブレーキ制御を行う。具体的には、速度照査パターンで定められる現在の走行位置の照査速度と、現在の走行速度とを比較し、走行速度が照査速度より高い場合には常用ブレーキ46を作用させて照査速度まで減速させる。
【0075】
また、無信号許容停止区間進入判定部114によって自列車40が無信号許容停止区間に進入したと判定された場合、当該区間内では常用ブレーキ46を作用させて自列車40を停止させる。ただし、当該区間を超過する万が一の場合には、非常ブレーキ48を作用させて自列車40を直ちに停止させる。自列車40が無信号許容停止区間内であるか超過したかは、無信号距離算出部110によって算出された無信号距離が、次区間情報208に含まれる区間長に達したか否かによって判断する。更に、無信号許容停止区間進入判定部114によって、無信号許容停止区間の進入の判定がキャンセルされた場合、ブレーキを緩解する。
【0076】
記憶部200は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、ハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部100が車上装置50を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部100の作業領域として用いられ、処理部100が実行した演算結果が一時的に格納される。処理部100には、車上制御プログラム202と、位置速度情報204と、在線区間情報206と、次区間情報208と、継続時間条件情報210と、が記憶される。
【0077】
[処理の流れ]
(A)地上装置10
図11は、地上装置10における地上制御処理を説明するフローチャートである。この処理は、送信制御部320が、地上送信制御プログラム322を実行することで実現される。
【0078】
送信制御部320は、在線検知部310により検知された各列車の在線区間を監視しており、列車が新たな区間に進入したならば(ステップA1:YES)、当該列車の前方直近列車の在線区間を判定し(ステップA3)、判定した在線区間の1区間後方区間を、無信号許容停止区間として設定する(ステップA5)。そして、当該区間の進入区間に対する制御情報60を生成し、進入区間への当該制御情報60の送信を開始する(ステップA7)。
【0079】
また、列車が区間を進出したならば(ステップA9:YES)、進出区間への制御情報60の送信を終了する(ステップA11)。次いで、当該列車の在線区間の1区間後方区間(すなわち、進出区間)を無信号許容停止区間として設定する(ステップA13)。そして、当該列車の後方直近列車の在線区間を判定し(ステップA15)、判定した在線区間に対する制御情報60を生成し、在線区間への当該制御情報60の送信を開始する(ステップA17)。その後、ステップA1に戻り、同様の処理を繰り返す。
【0080】
(B)車上装置50
図12は、車上装置50における車上制御処理を説明するフローチャートである。
この処理は、処理部100が車上制御プログラム202を実行することで実現される。
【0081】
先ず、新たな制御情報60を受信したかを判断し、受信したならば(ステップB1:YES)、採用確定部104が、当該制御情報60が確定条件を満たすかを判定する。満たすならば(ステップB3:YES)、当該制御情報60の採用を確定し、無信号タイマ及び無信号距離カウンタをリセットする(ステップB5)。そして、受信した制御情報60に含まれる送信先区間IDが、次区間情報208として記憶された次区間IDに一致するならば(ステップB7:YES)、自列車40が次区間に進入したと判定し(ステップB9)、区間距離カウンタをリセットする(ステップB11)。次いで、受信した制御情報60に基づき、記憶している在線区間情報206、及び、次区間情報208を更新する(ステップB13)。そして、速度照査パターン作成部116が、更新後の在線区間情報206及び次区間情報208に基づいて、速度照査パターンを更新する(ステップB15)。
【0082】
その後、着駅への到着等によって本処理を終了するか否かを判断し、終了しないならば(ステップB17:NO)、ステップB1に戻り、同様の処理を繰り返す。終了するならば(ステップB17:YES)、本処理を終了する。
【0083】
一方、新たな制御情報60を受信していないならば(ステップB1:NO)、次区間情報208として記憶された無信号許容停止区間フラグによって、次区間が無信号許容停止区間であるかを判断する。次区間が無信号許容停止区間であり(ステップB19:YES)、無信号タイマのタイマ値である無信号時間が第2閾値時間に達したならば(ステップB21:YES)、自列車40が無信号許容停止区間に進入したと判定する(ステップB23)。すると、記憶内容更新部106が、記憶している次区間情報208を在線区間情報206として更新し、次区間情報208をクリアする(ステップB25)。そして、速度照査パターン作成部116が、更新後の在線区間情報206及び次区間情報208に基づいて、速度照査パターンを更新する(ステップB26)。
【0084】
次いで、無信号距離カウンタによる無信号距離が、在線区間情報206として記憶された区間長以内ならば(ステップB27:YES)、自列車40が無信号許容停止区間内を走行中であるので、ブレーキ制御部118が常用ブレーキ46を作用させる(ステップB29)。無信号距離が区間長を超えるならば(ステップB27:NO)、自列車40が無信号許容停止区間を超過したので、ブレーキ制御部118が非常ブレーキ48を作用させる(ステップB31)。
【0085】
そして、自列車40が停止する前に(ステップB33:NO)、新たな制御情報60を受信し(ステップB35:YES)、更に、その制御情報60が確定条件を満たすならば(ステップB37:YES)、採用確定部104は、当該制御情報60の採用を確定し、無信号許容停止区間進入判定部114が、自列車40の無信号許容停止区間への進入の判定をキャンセルする(ステップB39)。そして、ブレーキ制御部118が、作用させているブレーキを緩解する(ステップB41)。その後、無信号タイマ、及び、無信号距離カウンタをリセットし(ステップB43)、記憶内容更新部106が、受信した制御情報60に基づいて、記憶している在線区間情報206、及び、次区間情報208を更新する(ステップB45)。そして、速度照査パターン作成部116が、更新後の在線区間情報206及び次区間情報208に基づいて、速度照査パターンを更新する(ステップB46)。
【0086】
一方、ブレーキによって自列車40が停止したならば(ステップB33:YES)、ステップB17に移行する。また、新たな制御情報60を受信することがない場合や(ステップB35:NO)、確定条件を満たさない場合(ステップB37:NO)には、ステップB27へ処理を移行する。
【0087】
また、次区間が無信号許容停止区間でないならば(ステップB19:NO)、無信号時間が第1閾値時間を超えたかを判断する。無信号時間が第1閾値を超えたならば(ステップB47:YES)、ブレーキ制御部118が、非常ブレーキ48を作用させ(ステップB49)、自列車40が停止した後(ステップB51:YES)、ステップB17に移行する。ここで、第1閾値時間は、区間境界の通過時に生じる無信号状態の継続時間よりも長い時間に定められる。次区間が無信号許容停止区間ではないにも関わらず無信号時間が第1閾値時間以上継続している状態は、何らかの要因によって制御情報が受信されない危険な状態の可能性がある。
【0088】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、列車制御システム1における車上装置50は、レールから受信した制御情報60の送信先区間IDが、記憶されている在線区間ID又は次区間IDと一致するかによって、当該制御情報60が自列車の在線区間に向けて送信された制御情報60であるかを判定できるので、擬似信号を排除し、受信すべき制御情報60のみを採用することができる。
【0089】
また、車上装置50は、記憶している無信号許容停止区間フラグによって、次区間が無信号許容停止区間であることを認識している状態において、無信号時間が第2閾値時間に達して継続時間条件を満たしたかによって、無信号許容停止区間への進入を判定する。無信号時間は、制御情報60の採用の確定がなされない状態の経過時間、つまり、最後に制御情報60の採用を確定した時点からの経過時間である。確定した時点の位置は、無信号許容停止区間の進入位置とみなした位置に相当し、実際の無信号許容停止区間の進入時点より手前の時点となるので、安全側の位置となる。
【0090】
更に、車上装置50は、先行列車が在線区間を進出したことによって自列車の在線区間が無信号許容停止区間でなくなった場合に、ブレーキを緩解して走行を継続することができる。
【0091】
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【課題】無信号許容停止区間における擬似信号による誤った走行制御を防止するとともに、無信号許容停止区間への進入位置を安全側の位置に明確に認識できるようにすること。
【解決手段】列車制御システム1における車上装置50は、次区間又は在線区間が無信号許容停止区間である場合、レールから受信した制御情報60に含まれる送信先区間IDが、記憶している在線区間ID又は次区間IDと一致するかによって、当該制御情報60が擬似信号であるかを判定する。また、車上装置50は、記憶している無信号許容停止区間フラグによって、次区間が無信号許容停止区間であることを認識している状態において、無信号時間が第2閾値時間に達して継続時間条件を満たしたかによって、無信号許容停止区間への進入を判定する。無信号時間は、最後に制御情報60の採用を確定した時点からの経過時間である。当該時点の位置は、無信号許容停止区間の進入位置とみなした位置に相当する。