(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記融雪プレートの前記融雪面の温度が0℃以上且つ100℃以下となるように、前記電流供給部に、前記誘導電流発生部への前記高周波電流の供給を断続的に実行させる、請求項4に記載の融雪システム。
前記誘導電流発生部へ前記高周波電流を供給するオン状態と、前記誘導電流発生部への高周波電流の供給を停止させるオフ状態とが、一定の周期で交互に繰り返される、請求項5に記載の融雪システム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先ず、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る融雪装置は、融雪面となる表面を持った熱伝導層と、熱伝導層の背面(融雪面とは反対側の面)に形成された磁性体層とを有する融雪プレートと、磁性体層に誘導電流を発生させる誘導電流発生部とを備える。すなわち、本実施形態に係る融雪装置は、誘導加熱(IH)技術を利用して雪を融かす装置である。
【0015】
上記融雪装置によれば、誘導加熱(IH)により、磁性体層を、高効率で発熱させると共に短時間で昇温させることができる。また、熱伝導層は、磁性体層で生じた熱を融雪面に速やかに伝えることができる。これにより、予熱をすることなく、例えば降雪センサにより降雪が検知されてから融雪のための電力供給(誘導電流の発生)を開始させた場合でも、融雪面に雪が積もる前に、融雪面の温度を十分に上昇させることができる。よって、消費電力を抑えつつ、融雪面上の雪を効率良く融かすことができる。また、熱伝導層は、磁性体層で生じた熱を融雪面へほぼ均一に伝えることが可能である。よって、上記融雪装置によれば、融雪面をほぼ均一に昇温させることができ、融雪面上の雪を、融け残りを生じさせずに効率良く融かすことができる。
【0016】
上記融雪装置において、融雪プレートを構成する磁性体層は、比透磁率の高い材料から
構成されていることが好ましく、鉄(Fe)とニッケル(Ni)とを主成分として含む合金(FeとNiとを合計で80質量%以上含む合金)、または有磁性のステンレス鋼(例:SUS430)を含むことが好ましい。尚、磁性体層には、FeとNi以外の成分や、ステンレス鋼以外の成分が含まれていてもよい。但し、磁性体層には、FeとNi、またはFeとCrが、合計で80質量%以上含まれていることが好ましい。磁性体層が、FeとNiとの合金、もしくはFeとNiとを合計で80質量%以上含む合金を含む場合、その合金において、Niに対するFeの含有率が4質量%以上且つ50質量%以下であることが好ましく、より高い比透磁率が実現されるという点で、Niに対するFeの含有率は25質量%以上且つ30質量%以下であることが特に好ましい。又、磁性体層がステンレス鋼を含む場合、そのステンレス鋼において、Feに対するクロム(Cr)の含有率が10質量%以上且つ30質量%以下であることが好ましく、より高いキュリー点が実現されるという点で、Feに対するCrの含有率は15質量%以上且つ25質量%以下であることが特に好ましい。
【0017】
FeとNiとの合金の一例であるパーマロイ(例えば、Niの含有率が78質量%である78パーマロイなど)の比透磁率は、Feの比透磁率が5000程度であり、Niの比透磁率が600程度であるのに対し、100000程度と著しく高い。このように比透磁率の高い材料は、誘導加熱により、磁性体層を高効率で発熱させると共に短時間で昇温させることができるので、磁性体層を構成する材料として適している。尚、熱伝導層を構成する材料として好ましいアルミニウム(Al)の比透磁率は、1.0程度である。即ち、磁性体層は、熱伝導層を構成する材料よりも比透磁率が高い材料から構成されている。そして、磁性体層は、比透磁率が100以上且つ200000以下の材料から構成されていることが好ましく、例えば比透磁率が100〜50000または10000〜200000の材料から構成することが好ましい。
【0018】
上記融雪装置において、融雪プレートを構成する熱伝導層は、アルミニウム(Al)およびAl合金の少なくとも何れか一方を含むことが好ましい。尚、熱伝導層には、AlやAl合金以外の成分が含まれていてもよい。但し、熱伝導層には、Alが、主成分として80質量%以上含まれていることが好ましい。Alの熱伝導率は、常温(約27℃)で約237W・m
-1・K
-1である。このように熱伝導率の高い材料は、誘導加熱により磁性体層で生じた熱を、熱伝導層を介して速やかに融雪面へ伝えることができるので、熱伝導層を構成する材料として適している。尚、常温(約27℃)で、Feの熱伝導率は80W・m
-1・K
-1程度であり、Niの熱伝導率は90W・m
-1・K
-1程度である。また、パーマロイの熱伝導率は、常温(約27℃)で32W・m
-1・K
-1程度である。即ち、熱伝導層は、磁性体層を構成する材料よりも熱伝導率が高い材料から構成されている。そして、熱伝導層は、熱伝導率が90W・m
-1・K
-1以上且つ250W・m
-1・K
-1以下の材料から構成されていることが特に好ましい。
【0019】
上記融雪装置において、融雪プレートを、磁性体層と熱伝導層との二層構造としている点は、注目すべき点である。このような二層構造によれば、磁性体層を、高効率で発熱させると共に短時間で昇温させつつ、磁性体層で生じた熱を、熱伝導層を介して融雪面へほぼ均一に伝えることが可能となる。よって、消費電力を抑えつつ、融雪面を速やか且つ均一に昇温させて、融雪面に雪が積もる前に融雪面上の雪を効率良く融かすことができる。
【0020】
この様な二重構造において、磁性体層は、熱伝導率が低いため、厚みの小さい層であることが好ましい。磁性体層がFeとNiとの合金を主成分として含む場合、磁性体層の厚みは、50μm以上且つ500μm以下であることが好ましく、100μm以上且つ300μm以下であることが特に好ましい。磁性体層が有磁性のステンレス鋼を主成分として含む場合、磁性体層の厚みは、100μm以上且つ1000μm以下であることが好ましい。
【0021】
一方、熱伝導層は、磁性体層で生じた熱を効率良く伝えることが可能であるので、5mm程度の厚みまでであれば、磁性体層で生じた熱を融雪面へ速やかに伝えることができる。そして、熱伝導層の厚みを大きくすることにより、融雪プレートに望ましい剛性を与えることが出来る。熱伝導層の厚みは、0.1mm以上且つ5mm以下であることが好ましい。磁性体層で生じた熱を融雪面へ速やかに伝えるという観点からは、熱伝導層の厚みは1.5mm以下であることが特に好ましい。又、磁性体層で生じた熱を融雪面にほぼ均一に伝えるという観点からは、磁性体層の厚みに対する熱伝導層の厚みの比が0.1以上且つ100以下であることが好ましく、熱伝導層の厚みは、磁性体層の厚みより大きいものであることが好ましい。
【0022】
融雪プレートの具体例として、熱伝導層としてのAl板またはAl合金板に、FeとNiとを主成分として含む合金(例えばパーマロイ)のメッキ層が磁性体層として形成されたものが挙げられる。その他の例として、熱伝導層としてのAl板またはAl合金板と、磁性体層としてのステンレス鋼板(SUS430など)とが、ホットプレスまたは圧延により一体化されたもの(ホットプレス材または圧延クラッド材)が挙げられる。
【0023】
上記融雪装置において、磁性体層に誘導電流を効率良く発生させるために、誘導電流発生部(例えばコイル)は、磁性体層に対して近接して配置されることが好ましい。従って、磁性体層と誘導電流発生部との間には、磁性体層に接触または近接させて断熱材が配置されていることが好ましい。これにより、磁性体層で生じた熱が誘導電流発生部側へ逃げることが抑制される。よって、磁性体層で生じた熱を、融雪面へ効率良く伝えることができる。
【0024】
また、断熱材は、磁性体層の発熱によりコイルが劣化することを抑制する。これにより、誘導電流発生部を長寿命化させることができ、融雪装置のメンテナンスの頻度を低減することができる。断熱材として、例えば、石膏ボードや発泡プラスチック、木材などを使用することができる。また、断熱材に代えて、磁性体層と誘導電流発生部とが、それらの間の空間が真空状態で維持されることにより断熱されてもよい(真空断熱構造)。
【0025】
本実施形態の融雪装置は、融雪システムに組み込まれて使用される。好ましくは、融雪システムは、上記融雪装置と、誘導電流発生部に高周波電流を供給する電流供給部と、降雪を検知する降雪センサと、降雪センサの検知結果に基づいて電流供給部を制御する制御部とを備える。
【0026】
ここで、制御部は、融雪面の温度が0℃以上且つ100℃以下となるように、電流供給部に、誘導電流発生部への高周波電流の供給を断続的または間歇的に実行させることが好ましい。融雪面の温度は、雪を融かすことができる温度であればよい。よって、より好ましくは、制御部は、融雪面の温度が6℃以上且つ60℃以下となるように、電流供給部を制御する。一般的に、雪の表面が3℃まで上昇すると、雪が融け始めると言われている。したがって、降り積もる前の雪であれば、融雪面の温度を6℃以上にすることで、有効に融雪することができる。また、融雪面の温度を60℃以下にすることで、消費電力を抑えることができる。消費電力を抑制するという観点から、制御部は、融雪面の温度が30℃以下となるように電流供給部を制御することが好ましい。
【0027】
次に、実施形態に係る融雪装置およびそれを備えた融雪システムの詳細について、図面に沿って具体的に説明する。
[1]融雪システム
図1は、本発明の一実施形態に係る融雪システムの概略構成を示したブロック図である。
図1に示すように、融雪システム10は、融雪装置1と、電流供給部2と、制御部3と、降雪を検知する降雪センサ4とを備えている。
【0028】
[1−1]融雪装置
図2は、融雪装置1の概略断面図である。
図2に示すように、融雪装置1は、融雪プレート11と、誘導電流発生部12と、断熱材13と、これらを支持する有底ケース14とを備えている。融雪プレート11は、熱伝導層15と磁性体層16とを有している。ここで、熱伝導層15は、融雪面11aとなる表面15aを持ち、磁性体層16は、熱伝導層15の背面(融雪面11aとは反対側の面)に形成されている。本実施形態において、熱伝導層15は、Alを主成分として含むAl板であり、磁性体層16は、FeとNiとの合金であるパーマロイ(例えば、Niの含有率が78質量%である78パーマロイなど)から形成されたメッキ層である。尚、熱伝導層15には、Al以外の成分が含まれていてもよい。但し、熱伝導層15には、Alが、主成分として80質量%以上含まれていることが好ましい。又、磁性体層16には、パーマロイ以外の成分が含まれていてもよい。但し、磁性体層16には、パーマロイが、主成分として80質量%以上含まれていることが好ましい。融雪面11aには、撥水加工が施されていてもよい。これにより、融雪面11aにて雪が融けることで生じた水がはじかれ、その結果、融雪面11a上に水が溜まり難くなる。
【0029】
FeとNiとの合金であるパーマロイの比透磁率は、Feの比透磁率が5000程度であり、Niの比透磁率が600程度であるのに対し、100000程度と著しく高い。このように透磁率の高い材料は、誘導加熱により、磁性体層16を高効率で発熱させると共に短時間で昇温させることができるので、磁性体層16を構成する材料として適している。例えば、磁性体層16を構成する材料として、比透磁率が100以上且つ50000以下のものが用いられる。尚、磁性体層16を構成する材料には、パーマロイに限らず、FeとNiとの構成比率がパーマロイ(例えば、Niの含有率が78質量%である78パーマロイなど)とは異なる合金が用いられてもよいし、透磁率の高い他の材料(ステンレス鋼など)が用いられてもよい。ここで、磁性体層16がFeとNiとを主成分として含む合金を含む場合、その合金において、Niに対するFeの含有率が4質量%以上且つ50質量%以下であることが好ましく、より高い比透磁率が実現されるという点で、Niに対するFeの含有率は25質量%以上且つ30質量%以下であることが特に好ましい。
【0030】
一方、パーマロイの熱伝導率は、常温(約27℃)で32W・m
-1・K
-1程度と低い。このため、磁性体層16がパーマロイから構成されている場合、磁性体層16の厚みは、50μm以上且つ500μm以下であることが好ましく、100μm以上且つ300μm以下であることが特に好ましい。このように磁性体層16の厚みが小さい場合でも、磁性体層16において十分な発熱量が得られる。理由は、次の通りである。誘導加熱による磁性体層16の発熱は、磁性体層16に誘導電流(渦電流)が生じたときに、その誘導電流によって生じるジュール熱により引き起こされる。ここで、磁性体層16の表面からの誘導電流(渦電流)の浸透深さΔは、下掲の数式(1)によって表される。尚、浸透深さΔは、磁性体層16の表面での電流密度を基準として、電流密度が0.368倍にまで減少する深さである。換言すれば、磁性体層16の表面から浸透深さΔまでの間に生じる誘導電流(渦電流)は、全発熱量の90%に相当するジュール熱を生じることになる。
【0031】
[数1]
Δ=5.03×{ρ/(μ・f)}
1/2 ・・・(1)
ρ:磁性体層16を構成する材料の固有抵抗(Ω・m)
μ:磁性体層16を構成する材料の比透磁率(その材料の透磁率の、真空の透磁率に対する比)
f:磁性体層16に印加される磁界の周波数(Hz)(すなわち、後述する誘導電流発生部12に供給される高周波電流の周波数(Hz))
【0032】
数式(1)に示されるように、誘導電流(渦電流)の浸透深さΔは、磁性体層16の透磁率(比透磁率)の平方根に反比例している。したがって、磁性体層16を構成する材料の透磁率が大きいほど、浸透深さΔは小さくなり、発熱の要因となるジュール熱は、主に磁性体層16の表面近傍で生じることになる。よって、磁性体層16の厚みが小さくても、十分な発熱量が得られることになる。
【0033】
Alの熱伝導率は、常温(約27℃)で約237W・m
-1・K
-1であり、他の材料に比べて著しく高い。よって、このように熱伝導率の高い材料は、誘導加熱により磁性体層16で生じた熱を、熱伝導層15を介して速やかに融雪面11aへ伝えることができるので、熱伝導層15を構成する材料として適している。好ましくは、熱伝導層15を構成する材料として、熱伝導率が90W・m
-1・K
-1以上且つ250W・m
-1・K
-1以下のものが用いられる。尚、熱伝導層15を構成する材料には、Alに限らず、熱伝導率の高い材料(例えばAl合金など)が用いられてもよい。
【0034】
この様に、熱伝導層は、磁性体層16で生じた熱を効率良く伝えることが可能であるので、5mm程度の厚みまでであれば、磁性体層16で生じた熱を融雪面11aへ速やかに伝えることができる。そして、熱伝導層15の厚みを大きくすることにより、融雪プレート11に望ましい剛性を与えることが出来る。熱伝導層15の厚みは、0.1mm以上且つ5mm以下であることが好ましい。磁性体層16で生じた熱を融雪面11aへ速やかに伝えるという観点からは、熱伝導層15の厚みは1.5mm以下であることが特に好ましい。又、磁性体層16で生じた熱を融雪面11aにほぼ均一に伝えるという観点からは、磁性体層16の厚みに対する熱伝導層15の厚みの比が0.1以上且つ100以下であることが好ましい。また、熱伝導層15の厚みは、磁性体層16の厚みより大きいものであることが好ましい。これにより、融雪面11aに付着した雪を均一且つ速やかに融かすことが可能となる。
【0035】
融雪プレート11は、有底ケース14に対して、有底ケース14の開口を塞ぐように取り付けられている。このとき、融雪プレート11は、融雪面11aが有底ケース14の外側に露出するように(有底ケース14の外側を向くように)配置される。これにより、磁性体層16が、有底ケース14の内側へ向けて配置されることになる。
【0036】
誘導電流発生部12は、磁性体層16に誘導電流である渦電流を発生させるものである。具体的には、誘導電流発生部12は、後述する電流供給部2からの高周波電流(例えば20〜30kHz)の供給を受けて、高周波磁界を発生する。そして、この高周波磁界が磁性体層16に印加されることにより、磁性体層16に誘導電流(渦電流)が生じる。一例として、誘導電流発生部12は、リッツ線から形成された平面状のコイル17を含んでいる。尚、
図2では、コイル17の断面は簡略化して示されている。そして、誘導電流発生部12は、有底ケース14に収容されると共に、磁性体層16に近接させて配置されている。これにより、磁性体層16に誘導電流(渦電流)を効率良く発生させることができる。
【0037】
断熱材13は、
図2に示すように、誘導電流発生部12(コイル17)と磁性体層16との間に、磁性体層16に接触または近接させると共に磁性体層16の全体を覆うように配置されている。これにより、磁性体層16で生じた熱が誘導電流発生部12(コイル17)側へ逃げることが抑制される。よって、磁性体層16で生じた熱を、融雪面11aへ効率良く伝えることができる。断熱材13として、例えば、石膏ボードや発泡プラスチック、木材などを使用することができる。また、断熱材13に代えて、磁性体層16と誘導電流発生部12とが、それらの間の空間が真空状態で維持されることにより断熱されてもよい(真空断熱構造)。
【0038】
本実施形態の融雪装置1によれば、誘導加熱(IH)により、磁性体層16を、高効率で発熱させると共に短時間で昇温させることが可能である。また、磁性体層16で生じた熱を熱伝導層15により融雪面11aに速やかに伝えることができる。これにより、予熱をすることなく、降雪センサ4により降雪が検知されてから融雪のための電力供給(誘導電流の発生)を開始させた場合でも、融雪面11aに雪が積もる前に、融雪面11aの温度THを十分に上昇させることができる。よって、本実施形態の融雪装置1によれば、消費電力を抑えつつ、融雪面11a上の雪を効率良く融かすことができる。
【0039】
また、本実施形態の融雪装置1によれば、熱伝導層15は、磁性体層16で生じた熱を融雪面11aへほぼ均一に伝えることが可能である。よって、融雪面11aをほぼ均一に昇温させることができ、融雪面11a上の雪を、融け残りを生じさせずに効率良く融かすことができる。
【0040】
本実施形態の融雪装置1において、融雪プレート11を、熱伝導層15と磁性体層16との二層構造としている点は、注目すべき点である。このような二層構造によれば、磁性体層16を、高効率で発熱させると共に短時間で昇温させつつ、磁性体層16で生じた熱を、熱伝導層15を介して融雪面11aへほぼ均一に伝えることが可能となる。よって、消費電力を抑えつつ、融雪面11aを速やか且つ均一に昇温させて、融雪面11aに雪が積もる前に融雪面11a上の雪を効率良く融かすことができる。このような融雪装置1は、ランニングコストの面でも有利である。
【0041】
図3は、融雪プレート11の昇温特性を示したグラフである。ここで、
図3に示される昇温特性は、誘導電流発生部12への高周波電流の供給を5秒間行い、その後、180秒間放熱させた試験で得られたものである。また、この試験は、外気温が−1〜2℃であり、風速が1.5m/秒であり、湿度が78%である環境下で行われた。尚、
図3において、横軸の時間tは、誘導電流発生部12への高周波電流の供給を開始した時点からの経過時間であり、縦軸の温度THは、融雪面11aの温度である。そして、
図3では、時間tに対する融雪面11aの温度THの変化が、昇温特性として示されている。
【0042】
図3において、グラフB1は、本実施形態で採用された融雪プレート11(熱伝導層15がAlから構成され、磁性体層16がパーマロイから構成されたもの)の昇温特性を示している。グラフB1が示すように、この融雪プレート11によれば、10秒程度の短い時間で融雪面11aの温度THを25℃以上にまで上昇させることができる。
【0043】
融雪プレート11は、熱伝導層15がAl板またはAl合金板であり、磁性体層16がFeとNiとの合金(例えばパーマロイ)などのメッキ層である場合に限らず、次のようなものであってもよい。すなわち、融雪プレート11において、熱伝導層15がAl板またはAl合金板であり、磁性体層16がステンレス鋼板(SUS430など)であり、これらがホットプレスまたは圧延により一体化されていてもよい(ホットプレス材または圧延クラッド材)。尚、磁性体層16がステンレス鋼板から構成されている場合、そのステンレス鋼において、Feに対するCrの含有率が10質量%以上且つ30質量%以下であることが好ましく、より高いキュリー点が実現されるという点で、Feに対するCrの含有率は15質量%以上且つ25質量%以下であることが特に好ましい。又、ステンレス鋼は、パーマロイと同様に熱伝導率が低いため、磁性体層16がステンレス鋼から構成されている場合、磁性体層16の厚みは、100μm以上且つ1000μm以下であることが好ましい。このように磁性体層16の厚みが小さい場合でも、磁性体層16において十分な発熱量が得られる理由は、上述したとおりである。
【0044】
図3において、グラフB2は、ホットプレス材が採用された融雪プレート11の昇温特性を示し、グラフB3は、圧延クラッド材が採用された融雪プレート11の昇温特性を示
している。尚、比較対象として、融雪プレート11に鋼板(SS400)が採用されたときの、融雪プレート11の昇温特性が、グラフB4に示されている。グラフB1〜B3をグラフB4と比較すると、次のことがわかる。すわなち、磁性体層16がパーマロイから構成された融雪プレート11に限らず、ホットプレス材および圧延クラッド材のいずれにおいても、鋼板よりも短時間で且つ高い温度まで、融雪面11aの温度THを上昇させることができる。
【0045】
[1−2]電流供給部
図1に示すように、電流供給部2は、インバータ21を含んでいる。インバータ21は、インバータ21に入力される交流を、所定の周波数を持った高周波電流に変換して出力する。一例として、インバータ21は、20k〜30kHzの高周波電流を出力する。そして、インバータ21から出力された高周波電流は、融雪装置1が備える誘導電流発生部12(コイル17)に供給される。尚、本実施形態では、商用電源からの交流(商用交流)がインバータ21に入力される。
【0046】
[1−3]降雪センサ
降雪センサ4は、適宜、必要な場所に設置される。例えば、降雪センサ4は、制御部3の近傍や、融雪装置1が設置される場所またはその近傍に設置される。
【0047】
[1−4]制御部
制御部3は、降雪センサ4の検知結果に基づいて、電流供給部2を制御する。具体的には、降雪センサ4により降雪が検知されたとき、制御部3は、電流供給部2に、誘導電流発生部12への高周波電流の供給を実行させる。尚、融雪システム10は、融雪面11aの温度THを検出する温度センサ(例えば、
図5参照)や、外気温を検出する温度センサを更に備えていてもよい。そして、制御部3は、降雪センサ4の検知結果に加えて、これらの温度センサの検出結果を考慮して(例えば監視して)、電流供給部2を制御してもよい。
【0048】
[2]融雪システムの制御
次に、融雪システム10において制御部3が行う具体的な制御について説明する。
制御部3は、融雪面11aの温度THが目標温度TH1または目標範囲W1(
図4(b)参照)内に維持されるように、電流供給部2に、高周波電流を誘導電流発生部12へ間歇的に供給させる。一例として、制御部3は、CPU(Central Processing Unit)な
どの演算装置と、記憶装置とから構成される。記憶装置には、各種データ(目標温度TH1や目標範囲W1など)が格納される。CPUは、電流供給部2を制御するための制御プログラムや各種データを必要に応じて読み出すことにより、電流供給部2を制御する。
【0049】
図4(a)は、制御部3によって制御される電流供給部2の動作を示したタイムチャートである。また、
図4(b)は、電流供給部2の動作に応じて得られる、融雪面11aの温度変化を示した図である。
図4(a)に示すように、制御部3の制御により、電流供給部2において、誘導電流発生部12に高周波電流を供給するオン(ON)状態と、誘導電流発生部12への高周波電流の供給を停止させるオフ(OFF)状態とが、一定の周期CYで交互に繰り返される。これにより、誘導電流発生部12に高周波電流が供給される期間(供給期間T1)と、高周波電流の供給が停止される期間(非供給期間T2)とが交互に繰り返される。
【0050】
また、供給期間T1が、一定の時間幅(一例として5秒間)に設定され、非供給期間T2の時間幅が調節されることにより、周期CYが調節される。そして、この周期CYは、融雪面11aの温度THが目標温度TH1または目標範囲W1内で維持されるように調節される。このように高周波電流を間歇的に供給する制御によれば、融雪面11aの温度T
Hを所望の温度(目標温度TH1)または温度範囲(目標範囲W1)に維持することが容易となる。また、電流供給部2が誘導電流発生部12に供給する高周波電流の周波数fと出力(ワット数)とが一定の場合であっても、周期CYを調節することにより、融雪面11aの温度THを容易に調節することができる。
【0051】
融雪面11aの温度THについての目標範囲W1は、0℃以上且つ100℃以下の範囲、またはこの範囲に含まれる所定の範囲であることが好ましい。ここで、融雪面11aの温度THは、雪を融かすことができる温度であればよい。よって、目標範囲W1は、6℃以上且つ60℃以下の範囲であることが、特に好ましい。一般的に、雪の表面が3℃まで上昇すると、雪が融け始めると言われている。したがって、降り積もる前の雪であれば、融雪面11aの温度THを6℃以上にすることで、有効に融雪することができる。また、融雪面11aの温度THを60℃以下にすることで、消費電力を抑えることができる。消費電力を抑制するという観点から、制御部3は、融雪面11aの温度THが30℃以下となるように電流供給部2を制御することが好ましい。
【0052】
周期CYは、制御プログラムに組み込まれたタイマ機能(計時機能)の設定値を変更するといった簡単な手法により、容易に調節することができる。すなわち、融雪面11aの温度THを、可変抵抗などを用いてハード的に調節するのではなく、ソフトウェア的に調節することができる。これにより、温度THのきめ細かな調節が可能になる。よって、融雪面11aの温度THを、比較的低い目標温度に維持することが容易になる。また、より安価な構造のインバータ21により電流供給部2を構成することができる。よって、電流供給部2を低コスト化することができる。
【0053】
ここで、周期CYの長さは、外気温を検出する温度センサの検出結果に基づいて設定することができる。例えば、供給期間T1の時間幅を変えずに、外気温が低ければ周期CYを短く設定し、外気温が高ければ周期CYを長く設定する。具体的には、融雪面11aの温度THを目標温度TH1または目標範囲W1内に維持することを可能ならしめる周期CYと外気温との関係を予め調べ、その関係を表形式のデータなどで記憶装置などに記憶させておく。これにより、温度センサにより検出された外気温に対応する周期CYを、上記表形式のデータから読み出すことで、外気温に応じて周期CYを適切に設定することができる。
【0054】
周期CYの長さは、融雪面11aの温度THを検出する温度センサの検出結果に基づいて設定されてもよい。例えば、一定の時間毎(例えば1秒毎)に温度センサの検出結果である検出温度を記憶し、一定の期間内(例えば1分間)の検出温度の平均値を求める。そして、その平均値と目標温度TH1とを比較し、その差異が一定値(例えば1℃)を超えれば、差異が小さくなるように周期CYの長さを変更する。
【0055】
例えば、供給期間T1の時間幅を変えずに、求めた平均値が目標温度TH1よりも一定値以上高ければ、周期CYを、予め決めておいた調節量だけ長くし、求めた平均値が目標温度TH1よりも一定値以上低ければ、周期CYを、予め決めておいた調節量だけ短くする。そして、そのような調節を一定時間(例えば1分)ごとに繰り返し実行する。調節量の大きさを適切に設定することにより、環境温度が変化して融雪面11aの温度THを上下させる影響が融雪装置1に及んでも、温度THを速やかに目標温度TH1の近傍の温度に調節することができる。
【0056】
尚、融雪システム10において制御部3が行う制御は、上述した制御に限定されるものではない。一定の周期CYで電流供給部2の状態(オン状態とオフ状態)を交互に切り替える場合(間歇的な制御)に限らず、例えば、融雪面11aの温度THが目標温度TH1または目標範囲W1内で維持されるように、電流供給部2でのオン状態とオフ状態との切
り替えが断続的に行われてもよい。この断続的な制御について、以下、具体的に説明する。
【0057】
断続的な制御は、
図5に示すように融雪面11aの温度THを検出する温度センサ5を更に備えた融雪システム10にて実行される。
図6(a)は、制御部3によって制御される電流供給部2の動作を示したタイムチャートである。また、
図6(b)は、電流供給部2の動作に応じて得られる、融雪面11aの温度変化を示した図である。
図6(a)に示すように、制御部3からの制御により、電流供給部2は、融雪面11aの温度THが上限値TH2(TH2>TH1)に達するまでオン状態で維持される。その後、温度THが上限値TH2に達すると、電流供給部2は、オン状態からオフ状態に切り替えられ、温度THが下限値TH3(TH3<TH1)に低下するまでオフ状態で維持される。そして、温度THが下限値TH3まで低下すると、電流供給部2は、オフ状態からオン状態に切り替えられ、再びオン状態で維持される。以上の手順を繰り返すことにより、温度THが目標温度TH1を含む一定の範囲W2内の温度に調節される。このような制御によれば、融雪面11aの温度THを一定の範囲W2内で確実に維持させることができる。
【0058】
[3]融雪システムの設置例
上述した融雪システム10は、様々な用途に適用することができる。以下、融雪システム10の具体的な設置例について説明する。
【0059】
[3−1]設置例1
図7は、融雪システム10の設置例として、送電用の鉄塔に融雪システム10を設置した一態様を示した概念図である。
図7に示すように、鉄塔30は、通常、電線を支持するための水平部材31A〜31Cを有する。そして、水平部材31A〜31Cには、雪が積もりやすい。そこで、水平部材31A〜31Cの各々に、融雪装置1を、融雪面11aを上方へ向けた状態で配置する。このとき、
図7に示された設置例では、電流供給部2(インバータ21)を、各融雪装置1の近傍に1つずつ配設する。そして、制御部3が含まれた配電装置32を、地上に配置する。また、降雪センサ4を、配電装置32の近傍に設置する。
【0060】
制御部3は、降雪センサ4の検知結果に基づいて、各電流供給部2(インバータ21)を制御することにより、配電装置32から配線33を通して各電流供給部2に供給された商用交流を高周波電流に変換させる。そして、各電流供給部2で得られた高周波電流は、対応する融雪装置1に供給される。
【0061】
図7に示すように、鉄塔30の上部に融雪装置1を配置し、融雪のための電力を供給する配電装置32を地上に配置した場合、融雪装置1と配電装置32との間の距離が大きくなる。よって、
図7に示された設置例のように、電流供給部2(インバータ21)は、融雪装置1(具体的には誘導電流発生部12)の近傍に設置されることが好ましい。この場合、電流供給部2は、融雪装置1に一体化されていてもよい。これにより、電流供給部2から誘導電流発生部12に高周波電流を送るための配線が短くなり、電力の損失が小さくなる。
【0062】
一方、
図7に示された設置例では、融雪装置1の設置数に応じた数の電流供給部2(インバータ21)を準備する必要がある。そこで、
図8に示すように、電流供給部2(インバータ21)を配電装置32に1つ設け、電流供給部2から出力される高周波電流を各融雪装置1に供給してもよい。尚、融雪システム10の設置態様は、
図7および
図8に示された設置例に限られるものではない。
【0063】
[3−2]使用例2
融雪システム10は、送電用の鉄塔や通信基地局の他に、道路情報表示器や道路標識、さらにはこれらを支える柱などに設けられてもよい。道路情報表示器に融雪装置1を設置する場合、道路情報表示器の天板が、融雪プレート11によって構成されてもよい。これにより、道路情報表示器に融雪装置1を設置するに際し、部品点数を削減することができる。
【0064】
[3−3]使用例3
図9に示すように、融雪装置1は、融雪面11aが水平面Shに対して傾くように設置されることが好ましい。融雪面11aが水平面Shに対して傾けられることにより、雪が融けることで生じた水が融雪面11a上に溜まることを防止することができる。好ましくは、融雪面11aと水平面Shとが成す角度θ1は5度以上80度以下である。角度θ1が5度以上である場合、融雪面11a上の水が効果的に排除される。また、角度θ1が80度以下である場合、鉛直上方から見たときの融雪面11aの面積が大きくなり、従って融雪面11a上の雪を効率良く融かすことができる。
【0065】
尚、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。