(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472988
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】洗浄中にノズル噴出位置を簡易調整可能な洗浄便座装置
(51)【国際特許分類】
E03D 9/08 20060101AFI20190207BHJP
【FI】
E03D9/08 F
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-242658(P2014-242658)
(22)【出願日】2014年11月29日
(65)【公開番号】特開2016-102382(P2016-102382A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年1月11日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】711006979
【氏名又は名称】長崎 守高
(72)【発明者】
【氏名】長崎 守高
【審査官】
七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−144847(JP,A)
【文献】
特開2002−356895(JP,A)
【文献】
特開平05−235077(JP,A)
【文献】
特開2006−178742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 9/00−9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
便座基部の便座本体部内に格納され洗浄時には前方に進展してあらかじめ設定された前後方向の基準位置において洗浄水が噴出する洗浄ノズル部、その前後進退駆動機構部、該前後進退駆動機構部を左右回動可能に載設して便座本体部内に設置固定される左右回動機構部、該前後進退駆動機構部及び左右回動機構部を連動操作するための円型十字キースイッチを有する便座本体部併設操作部ないし操作用リモコン、該円型十字キースイッチの押下側位相と押下傾斜量に対応してノズル噴出口が基準位置から略水平に併進移動できるようにした極座標変換機能を含む補償演算回路を有するサーボ制御系統部、並びに洗浄水供給系統等を含む便座構造部から構成され、
洗浄中に前記の円型十字キースイッチを操作することにより、その押下側位相と押下傾斜量に対応して洗浄ノズルの噴出口を基準位置から意図する任意方向と距離へ平易な操作で手動によって一時的に略水平移動可能としたことにより、着座位置や体型によって異なる最適洗浄位置での洗浄水の噴射を可能とし、また最適洗浄位置周辺でノズル噴出口の位置を任意の略水平方向に手動揺動させることにより効果的な洗浄も可能とし、前記円型十字キースイッチから指を離して中立状態に戻すとノズル噴出口が基準位置に自動復帰することを特徴とする洗浄便座装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄時に便座本体の格納部から前方へ進展して洗浄水を噴出するノズル機構とその操作部等を有する洗浄便座装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在までに広く普及している洗浄便座装置では、便座の基部にある便座本体部に格納された洗浄ノズルが洗浄時には前方へ進展し、あらかじめ設定された前後方向のノズル噴出口の基準位置において洗浄水が噴出する方式が一般的である。
【0003】
設定された基準位置と着座位置や体型による最適洗浄位置とが異なる場合には、着座位置や着座姿勢を変えることによって、ある程度の対応をするケースが少なくない。
【0004】
また、洗浄位置を一時的に変更したい場合には、操作部に前後方向の基準位置の調整・設定スイッチがある方式では、その前後方向いずれかのボタンを押すことによって、ノズル噴出口の基準位置を前後方向に調節して再設定する方法が一般的である。
【0005】
しかしながら、この方法ではノズル噴出口の左右方向の位置調整はできず、洗浄後にはノズル噴出口を元の基準位置に戻す操作も通常必要となる。
【0006】
ノズルからの噴出流の広がりを調整できる機能や、ノズル噴出口を前後に自動揺動させるムーブ洗浄機能を有するものもあるが、いずれの方式も洗浄中にノズル噴出流の中心部を意図する任意位置に一時的に手動で略水平移動できるものではない。
【0007】
洗浄ノズルを前後左右両方向に各々駆動するモータを備え、ノズル噴出口を略水平面内で自動で円を描くように回転させて洗浄範囲を広げることを狙った回転洗浄方式も考案されているが、ノズル噴出流の中心位置を意図する任意の水平スポットに手動で移動させる方式やその操作手段については不明である。
【0008】
洗浄ノズルの前後方向駆動機構に左右併進駆動機構を組合わせた方式も考案されているが、後者の機構は単純回動機構に比べて一般的に複雑になり故障要因にもなり易い傾向がある。 また、その操作に操作レバーを使用する方式では、操作部に凹凸ができ、体の一部と接触干渉したり、清掃にも難が生じ不衛生になる恐れもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許公開 2006−299550
【特許文献2】特許公開 2006−009265
【特許文献3】特許公開 2001−132051
【特許文献4】特開平 09−060088
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「トイレナビ」 一般社団法人 日本衛生設備機器工業会、 一般社団法人 温水洗浄便座工業会、 http://www.sanitary-net.com/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
便座本体部内に格納された洗浄ノズルが洗浄時には前方に進展し、あらかじめ設定された前後方向の基準位置において洗浄水が噴出する洗浄便座装置において、着座位置や体型による最適な洗浄位置とその周辺の意図する位置へ洗浄水のノズル噴出口を平易な操作手段によって、洗浄中一時的に手動で略水平移動微調整可能な洗浄便座装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
洗浄便座装置の「洗浄水供給系統等を含む便座構造部」において、その便座着座部の基部側にある便座本体部に格納される洗浄ノズルの前後進退駆動機構部をそれを載設する左右回動機構部を介して便座本体部内に装着し、便座本体部併設コントローラ部ないしリモコン部に設けた円型十字キースイッチの押下側位相と押下傾斜量に対応してノズル噴出口が略水平に併進移動できるようにした補償演算回路を有するサーボ制御系統によって、前記のノズル駆動・回動機構をあらかじめ設定した前後方向の基準位置から連動的に前後駆動及び左右回動させることにより、洗浄中一時的にノズル噴出口を基準位置から望む任意の方向と距離に平易な操作によって手動で略水平に移動調整したり揺動させることができるようにし、前記キースイッチから指を離して中立位置に戻すとノズル噴出口が基準位置に復帰するようにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明の洗浄便座装置によれば、洗浄時にコントローラ部の円型十字キースイッチを指1本のみで全方向に操作することによって、予め設定された洗浄水ノズル噴出口の洗浄時基準位置から、着座位置や体型により変動する最適洗浄位置へ平易な操作で一時的にノズル噴出口を略水平移動調整したり、最適洗浄位置周辺で任意方向に略水平揺動させることもできるため、着座位置や体型に応じた効果的な洗浄が可能となり利便性が向上する。
【0014】
前記キースイッチから指を離すことにより中立位置に戻ると、ノズル噴出口が基準位置に自動復帰するため、基準位置を再設定する必要がなく運用性も良い。
【0015】
ノズル噴出口の左右移動を複雑な併進運動機構によらず、円弧運動に対する極座標変換機能を含む補償演算回路を有するサーボ制御系統により、比較的簡易な回動機構と従来の前後進退駆動機構とを連動させることによって、円型十字キースイッチでの操作に忠実に対応したノズル噴出口の全方向への併進移動を可能とした。
【0016】
また、操作手段に円型十字キースイッチを採用したことにより、コントローラ部に体の一部との干渉を招くような凹凸部がなく、その清掃も容易で衛生的である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明による洗浄便座装置の実施形態の概要を示す外観平面図である。
【
図2】洗浄ノズルの進退駆動及び回動機構部の実施形態の外観側面図である。
【
図3】本発明によるコントロールパネル部の基本構成を示す概要図である。
【
図4】ノズル噴出口の基準位置からのシフト調整可能範囲を示す説明図である。(補償演算回路が有る場合)
【
図5】補償演算回路がない場合のノズル噴出口のシフト範囲を示す説明図である。
【
図6】補償演算回路によるノズル噴出口のX-Y座標と極座標の変換関係を示す説明図である。
【
図7】ノズル噴出口位置のシフト調整用サーボ制御系統を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明
による洗浄便座装置の実施形態の概要を示す
「洗浄水供給系統等を含む便座構造部」全体の外観平面図を
図1、洗浄ノズル進退駆動及び回動機構部の外観側面図を
図2、コントロール・パネル部の基本構成の概要を
図3に示す。 一般的な洗浄便座と同様、
図1に示すように便座基部の便座本体部10内に格納された複数段式の伸縮する洗浄ノズル100が洗浄時には前方に進展し、あらかじめ設定された前後方向の基準位置において洗浄ノズル噴出口100aから洗浄用の水ないし温水が噴出する方式になっている。
【0019】
本発明では、前記の一般的な方式に係る部分を基本的に活かしたまま、
図2に示すように洗浄ノズル100の前後進退駆動機構部110をこれを載設する左右方向の回動機構部120を介して便座本体部の取付基盤部12に装着した構造を有する。
【0020】
洗浄に係る操作は、一般的な方式と同様に便座本体部10に併設の操作部ないし周囲の壁等に設置されるリモコン部の操作ボタンによって行われる。 本発明におけるそのコントロール・パネル部200では、洗浄及び乾燥の開始と停止、水勢の調整、洗浄ノズル噴出口100aの前後方向基準位置の調整・設定等のための一般的な主要操作ボタンに加えて、
図3に示すように洗浄時におけるノズル噴出口位置の前後左右方向すなわち水平面内全方向への一時的シフト調整のための円形十字キースイッチ210を新たに設けた。
【0021】
図4は、前記の円形十字キースイッチ210の操作による洗浄ノズル噴出口100aの基準位置からの一時的シフト調整可能範囲を示す説明図である。
円形十字キースイッチ210の左右方向の操作成分に対応した左右回動機構120の回動による洗浄ノズル噴出口100aの左右方向の円弧運動を極座標変換機能を含む補償演算回路を有するサーボ制御系統によって前後進退駆動機構110と連動させることにより左右方向の直線運動となるように変換し、併せて
図4に示すような円形ないし前後方向に楕円形を有する理想的な洗浄形状範囲内で洗浄ノズル噴出口100aの一時的シフト調整が可能となるようにした。
【0022】
図5は、前記の極座標変換機能を含む補償演算回路がサーボ制御系統にない場合の前後進退駆動機構110と左右回動機構120による洗浄ノズル噴出口100aの一時的シフト調整時の移動軌跡と移動範囲を参考までに比較提示したものである。
この場合は、円形十字キースイッチ210での操作に対する洗浄ノズル噴出口100aの動きと位置が幾何学的に正確には対応しない弱点がある。
【0023】
洗浄中にコントロール・パネル部200の円形十字キースイッチ210での操作信号を受けて、それに対応する位置へ洗浄ノズル噴出口100aを基準位置から水平面内で前後左右へX,Y分シフト移動させるための前後進退駆動機構110によるノズル進展長Loの増減量±ΔLと左右回動機構120の回動角度±θを求める極座標変換機能を含む補償演算回路での基本的な演算方式の概要について、
図6に示す水平面上の座標関係図及び
図7の概略ブロック図に基づいて以下に説明する。
ここで図7の概略ブロック図に記載のコントロールパネル部以外の各構成要素は、図1の外観平面図に示す本発明の洗浄便座装置の「洗浄水供給系統等を含む便座構造部」の中に設置される。
【0024】
一般的な洗浄便座と同様、コントロール・パネル部200の洗浄ボタン222を押すと、便座本体部10内に格納された複数段式の洗浄ノズル100がノズル前後進退駆動機構110によって前方へ進展し、あらかじめ設定された前後方向の基準位置において洗浄水が噴出する方式になっている。 コントロール・パネル200にノズル噴出口の前後方向基準位置調整・設定スイッチ232がある場合は、その前後方向の位置をあらかじめ調整可能となっている。
ここで本発明における左右回動機構120の回動中心120aからノズル噴出口100aまでの前記の基準位置における洗浄ノズル100の進展長をLoとする。
【0025】
ノズル噴出口100aの水平面内での位置を示す直交座標系として、左右回動機構120の回動中心120aを原点とし、便座の前方を+Y方向、右横を+X方向にとる。
また、原点を同一とする極座標系として、前記の+Y方向から右回りに+θをとる。
これにより、ノズル噴出口100aの水平面内での前後方向基準位置Yo(=Lh)は、Yo = Lo×cosφ (ここで、φ;洗浄ノズルの下降傾斜角)と表わされる。
【0026】
円型十字キースイッチ210の押下側位相と押下傾斜量によるノズル噴出口100aの前後方向基準位置からのシフト量指示信号をXc(右左±)、Yc(前後±)とする。 この信号を受けたノズル噴出口100aの水平面内での実際の移動先直交座標は、次のように表わされる。 左右方向: kx×Xc 、 前後方向: Yo+ky×Yc 、 ここで、kx、kyは、x,y各方向の変換係数(ゲインに相当)。
【0027】
前記のシフト量指示信号を受けた、洗浄ノズル100の進展長Loの変化量をΔL(増減±)とし、左右回動角度をθ(右左±)とすると、
図6からつぎの2式が成り立つ。
(1) (Lh+ΔLh)×sinθ=X
→ 〔(Lo+ΔL)×cosφ〕×sinθ= kx×Xc
(2) (Lh+ΔLh)×cosθ=Yo(=Lh)+Y
→ 〔(Lo+ΔL)×cosφ〕×cosθ= Yo+ky×Yc
= Lo×cosφ+ky×Yc
補償演算回路によって、(1)(2)の連立方程式を解いて、ΔLとθを求める。
これが、円型十字キースイッチ210での操作信号(Xc,Yc)に対応して直交座標系から極座標系に変換され、洗浄ノズル100の前後進退駆動機構110と左右回動機構120に各々入力される洗浄ノズル100の進展長変化量ΔLと回動角度θになる。
【0028】
サーボ制御系統内に前記の補償演算回路を設けることにより、併進運動機構方式に比べて一般的に構造的に簡単で信頼性の高い回動機構方式と従来の前後進退駆動機構の組合せによる連動により、洗浄ノズル100による洗浄位置の水平面内での全方向への併進移動制御が円型十字キースイッチ210での操作に幾何学的に忠実に対応して可能となる。
【0029】
x,y各方向の変換係数をkx≦kyと設定することにより、洗浄ノズル噴出口の前後方向基準位置を中心とした水平面内でのシフト移動範囲を円形から前後方向に長く実用的な任意の楕円形状に設定することも可能である。
【実施例】
【0030】
本発明において、洗浄に係る操作を行うコントロール・パネル部200の設置形態は、便座本体部10に併設の操作部においても、周囲の壁等に設置されるリモコン部においてもよい。
また、コントロール・パネル部200上における円型十字キースイッチ210の前後左右方向のスイッチ・ボタンの配置方向は、
図3の位相に限るものではない。
【0031】
サーボ制御方式には、
図7の実施例に示すように、前後進退駆動機構110と左右回動機構120にステップモータを使用するオープンループ制御方式の他、洗浄ノズル100の進展長Lo及びその変化量ΔLと回動角度θを検出してフィードバック制御する方式もある。
【0032】
図5に示すように極座標変換機能を含む補償演算回路がサーボ制御系統にない場合は、円形十字キースイッチ210での操作に対する洗浄ノズル噴出口100aの動きと位置が幾何学的に正確には対応しないが、この方式も実施例として含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
洗浄便座に限らず、洗浄液等の噴出ノズルを有する同様な洗浄装置等にも応用可能である。
【符号の説明】
【0034】
10 便座本体部
11 便座
100 洗浄ノズル
100a 洗浄水のノズル噴出口
110 ノズル前後進退駆動機構部
120 ノズル左右回動機構部
A ノズル噴出口の設定基準位置からのシフト調整可能範囲
120a ノズル左右回動機構部回動中心
12 便座本体部の取付基盤部
B 噴射洗浄水
φ 洗浄ノズルの下降傾斜角
200 コントロールパネル部(操作部)
210 洗浄位置シフト調整用の円型十字キースイッチ
221 停止スイッチ・ボタン
222 洗浄スイッチ・ボタン
223 乾燥スイッチ・ボタン
231 水勢調整スイッチ
232 ノズル噴出口の前後方向基準位置調整・設定スイッチ
C 補償演算回路がない場合のノズル噴出口のシフト範囲
X ノズル噴出口の設定基準位置からのX座標(左右方向;水平面上)
Y ノズル噴出口の設定基準位置からのY座標(前後方向;水平面上)
θ 洗浄ノズルの左右方向回動角
Lh(=Yo)ノズル噴出口の設定基準位置における回動中心からの距離(水平面上)
ΔLh ノズル噴出口の設定基準位置からの進展長変化量(水平面上)
Lo ノズル噴出口の設定基準位置における回動中心からの距離(実長)
ΔL ノズル噴出口の設定基準位置からの進展長変化量(実長)