特許第6472993号(P6472993)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472993
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】建具
(51)【国際特許分類】
   E06B 3/06 20060101AFI20190207BHJP
   E06B 5/16 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   E06B3/06
   E06B5/16
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-251821(P2014-251821)
(22)【出願日】2014年12月12日
(65)【公開番号】特開2016-113770(P2016-113770A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】西塔 都志雄
【審査官】 小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−225149(JP,A)
【文献】 特開2014−109107(JP,A)
【文献】 実開昭52−074646(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 3/04 − 3/46
E06B 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口枠の下枠から上方へと突出したレールに対して障子の下框に設けた樹脂製の戸車を転動可能に当接させることで、前記障子を前記開口枠に対してスライド可能に配設した建具であって、
前記下框は、該下框の長手方向に沿って延び、前記レールが挿入されて前記戸車に当接する開口溝と、
前記レールと前記戸車との当接位置よりも上方となる位置で、前記開口溝の側壁となる一対の壁部の互いに対向する壁面からそれぞれ対向方向に突出し、該下框の長手方向に沿って延びることで、その上面に熱膨張性部材を保持する一対の突出片とを備え、
前記一対の突出片は、互いに対向する先端間に前記レールを挿入可能な隙間が設けられると共に、該先端間の隙間が前記一対の壁部の互いに対向する壁面間の最小の隙間よりも小さいことを特徴とする建具。
【請求項2】
請求項1記載の建具において、
前記熱膨張性部材は、前記一対の突出片によって保持されることで前記開口溝の底部に配置されており、
前記開口溝の側壁となる一対の壁部のうち、室内側の壁部は、室外側の壁部よりも肉厚の薄い薄肉構造を有することを特徴とする建具。
【請求項3】
請求項2記載の建具において、
記一対の壁部のうちの少なくとも室内側の壁部の壁面に別の熱膨張性部材を設けたことを特徴とする建具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下框に設けた戸車によって障子を開口枠に対してスライド可能に配設した建具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス板や樹脂板等の面材を保持した障子の下框に戸車を設け、この戸車を下枠から上方へと突出したレールに沿って転動させることで障子を開口枠に対してスライド可能に構成した建具が広く用いられている。
【0003】
例えば特許文献1には、障子の下框にその長手方向に沿って延びた開口溝を設け、この開口溝の内側で下枠のレールと樹脂製の戸車とを当接させた構成の建具が開示されている。この建具では、建具が火災等の火炎や熱を受けた際の防火対策のため、下框の開口溝の内側に熱膨張性部材を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−225149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1の構成では、下方に向かって開口した下框の開口溝の内側に熱膨張性部材を貼着しているため、熱膨張性部材が剥がれ落ちてしまうことがある。さらに、下框の全長に亘って熱膨張性部材を貼着する必要があるため手間やコストが大きなものとなる。
【0006】
また、上記特許文献1の建具に設けられた樹脂製の戸車は火災時に焼失することがある。そうすると戸車がなくなった分だけ障子が下に沈み、下框の開口溝の底面が直接的にレール上に載った状態となる。その結果、下框が火炎等による熱に加えて下枠からの熱も直接的に受けることで下框自体の損傷が激しくなり、部材の変形を生じ、ひいては障子全体が見込み方向に大きく反りを生じる懸念もある。また、熱膨張性部材によって框と枠との間の隙間は塞がれるものの、過度な部材反りが生じた場合には新たな隙間を生じ、框と枠との間の遮炎性能を損なう恐れがある。さらにはこの過度な部材の反りにより、貼着した熱膨張性部材が框より剥がれ落ちる可能性もある。このような下框の反り量を低減するため、下框の板厚を厚くし或いは長手方向に延在するスチール等の補強材を下框の内側に配設することも考えられるが、いずれもコストや重量が増加するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題を考慮してなされたものであり、コストや重量の増加を抑えつつ、框の変形を低減することができる建具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る建具は、開口枠の下枠から上方へと突出したレールに対して障子の下框に設けた樹脂製の戸車を転動可能に当接させることで、前記障子を前記開口枠に対してスライド可能に配設した建具であって、前記下框は、該下框の長手方向に沿って延び、前記レールが挿入されて前記戸車に当接する開口溝と、前記レールと前記戸車との当接位置よりも上方となる位置で、前記開口溝の側壁となる一対の壁部の互いに対向する壁面からそれぞれ対向方向に突出し、該下框の長手方向に沿って延びることで、その上面に熱膨張性部材を保持する一対の突出片とを備え、前記一対の突出片は、互いに対向する先端間に前記レールを挿入可能な隙間が設けられると共に、該先端間の隙間が前記一対の壁部の互いに対向する壁面間の隙間よりも小さいことを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、下框の開口溝の内側に設けた一対の突出片によって熱膨張性部材を保持する。これにより、これら突出片の上面に熱膨張性部材を載置するだけで開口溝に熱膨張性部材を配設することができるため、接着剤等で熱膨張性部材を貼着する場合に比べて手間やコストを抑制できる。さらに、突出片によって熱膨張性部材を開口溝の内側で確実に保持しておくことができるので、熱膨張性部材が剥がれ落ちることがない。また、建具が火災等の熱を受けた際に樹脂製の戸車が焼失して障子が下に沈むと、熱膨張性部材が下框と下枠の間に挟まれるため、下枠から下框への直接的な熱量の移動が妨げられ、下框の損傷を抑制できる。そして、熱膨張性部材が下框と下枠との間に挟まれた状態で膨張することで、框と枠との間の隙間を確実に塞ぐ事ができる。さらには、障子が下に沈むことで下枠から上方に突出したレールが一対の突出片間に呑み込まれる。その結果、障子が熱によって見込み方向に反り変形した場合であっても、開口溝の開口よりも狭い開口幅を持った突出片がレールに当接してそれ以上の反りが規制されるため、反り量を低減できる。しかも、熱膨張性部材の膨張力によって開口溝の壁部や突出片が変形した場合には、突出片によるレールの呑み込み量が増加するため、レールの突出片へのかかり量が大きくなり、下框の反り変形を一層確実に抑制することができる。
【0010】
本発明に係る建具において、前記熱膨張性部材は、前記一対の突出片によって保持されることで前記開口溝の底部に配置されると、膨張時に下框と下枠との間の隙間を一層確実に塞ぐことができ、下框の損傷を一層抑制できる。
【0011】
本発明に係る建具において、前記開口溝の側壁となる一対の壁部のうちの少なくとも室内側の壁部の壁面に別の熱膨張性部材を設けてもよい。そうすると、この別の熱膨張性部材によって火災時に下框と下枠との間の隙間を一層漏れなく塞ぐことが可能となる。しかも、この別の熱膨張性部材の膨張力によっても開口溝の壁部が変形されるため、突出片によるレールの呑み込み量が一層増加し、下框の反り変形を一層抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、下框の開口溝の内側に設けた一対の突出片によって熱膨張性部材を保持するため、その設置に要する手間やコストを抑制でき、熱膨張性部材の剥がれ落ちも防止できる。さらに、建具が火災等の熱を受けて樹脂製の戸車が焼失して障子が下に沈んだ際には、下框と下枠との間に熱膨張性部材が挟まれることで下框の損傷を抑制できる。また、障子が下に沈んだ際には、下枠から上方に突出したレールが一対の突出片間に呑み込まれて互いに干渉するため、障子の見込み方向への反り量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る建具を室内側から見た正面図である。
図2図2は、図1に示す建具の縦断面図である。
図3図3は、図1に示す建具の横断面図である。
図4図4は、下框の構造を示す要部拡大縦断面図であり、図4(A)は、通常時の状態を示す図であり、図4(B)は、開口溝に設けた熱膨張性部材が火災時に膨張した状態を示す図である。
図5図5は、下框の反り変形を模式的に示す平面説明図であり、図5(A)は、開口溝に突出片を設けていない構造での反り量を例示する図であり、図5(B)は、開口溝に突出片を設けた構造での反り量を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る建具について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る建具10を室内側から見た正面図である。また、図2は、図1に示す建具10の縦断面図であり、図3は、図1に示す建具10の横断面図である。
【0016】
図1図3に示すように、建具10は、建物の躯体開口部に固定される開口枠12と、開口枠12の内側にスライド可能に配設された左右一対の障子14,15とを備える。本実施形態では、障子14,15をスライドさせることにより開口枠12の内側開口部を開閉可能な引違い窓の建具10を例示する。障子14,15は一方が開口枠12にはめ殺され、他方のみがスライドする構成であってもよく、また障子の設置枚数は適宜変更可能である。
【0017】
開口枠12は、上枠12aと、下枠12bと、左右の縦枠12c,12dとを四周枠組みすることで矩形の開口部を形成したものである。本実施形態では開口枠12として、室外側に配設される金属枠18と、室内側に配設される樹脂枠20とを組み合わせた複合構造の枠体を用いている(図2及び図3参照)。金属枠18は、アルミニウム等の金属の押出形材である。樹脂枠20は、塩化ビニル樹脂(PVC)等の樹脂の押出形材である。
【0018】
上枠12aは、金属枠18の上枠部18aに樹脂枠20の上枠部20aを組み付けたものである。下枠12bは、金属枠18の下枠部18bに樹脂枠20の下枠部20bを組み付けたものである。縦枠12c,12dは、それぞれ金属枠18の縦枠部18c,18dに樹脂枠20の縦枠部20c,20dを組み付けたものである。開口枠12は、固定ねじ21を用いて建物の躯体に固定される。
【0019】
図2に示すように、上枠12aの見込み面には、外障子となる室外側の障子14をスライド可能に案内するレール22と、内障子となる室内側の障子15をスライド可能に案内するレール23とが室内外方向に並ぶように突出形成されている。レール22,23は上枠12aの全長に亘って延在している。上枠12aのレール22,23間であって障子14,15の召合せ部分に対応する位置には、室内外の気密性を保持するための風止板24が設けられている。上枠12aの見込み面には、その長手方向に沿って熱膨張性部材25が2箇所に設けられている。熱膨張性部材25は、例えば加熱されると発泡して膨張する黒鉛等の加熱発泡材である。
【0020】
図2に示すように、下枠12bの見込み面には、障子14をスライド可能に案内するレール26と、障子15をスライド可能に案内するレール27とが室内外方向に並ぶように突出形成されている。レール26,27は下枠12bの全長に亘って延在している。下枠12bにも風止板24及び熱膨張性部材25が設けられている。
【0021】
図3に示すように、縦枠12cの見込み面には、閉じた障子14に対応する位置にヒレ部29が突出形成されている。縦枠12dの見込み面には、閉じた障子15に対応する位置にヒレ部30が突出形成されている。ヒレ部29,30は、縦枠12c,12dの全長に亘って延在している。
【0022】
図1図3に示すように、室外側の障子14は、四周を囲む框体32となる上框32a、下框32b、戸先框32c及び召合せ框32dと、内側に配置される面材34とを框組みして構成したものである。
【0023】
面材34は、スペーサ35を介して一対のガラス板36,37を互いに間隔を隔てて対面配置した2層の複層ガラスである。本実施形態の場合、室外側に配置されるガラス板36は、網入りの厚板ガラスとし、室内側に配置されるガラス板37は、薄板のフロートガラスとしている。
【0024】
図2及び図3に示すように、框体32は、室外側に配設される金属框38と、室内側に配設される樹脂框40とを組み合わせた構成である。金属框38はアルミニウム等の金属の押出形材である。樹脂框40は塩化ビニル樹脂(PVC)等の樹脂の押出形材である。
【0025】
上框32aは、金属框38の上框部38aの室内側見付け面に樹脂框40の上框部40aを装着したものであり、これら上框部38a,40a間に面材34の上縁部を保持している。下框32bは、金属框38の下框部38bの室内側見付け面に樹脂框40の下框部40bを装着したものであり、これら下框部38b,40b間に面材34の下縁部を保持している。戸先框32cは、金属框38の戸先框部38cの室内側見付け面に樹脂框40の戸先框部40cを装着したものであり、これら戸先框部38c,40c間に面材34の戸先側縁部を保持している。召合せ框32dは、金属框38の召合せ框部38dの室内側見付け面に樹脂框40の召合せ框部40dを装着したものであり、これら召合せ框部38d,40d間に面材34の召合せ側縁部を保持している。
【0026】
図2に示すように、上框32aは、レール22が摺動可能に挿入される開口溝42を上側の見込み面に有し、面材34が配置される面材配置溝44を下側の見込み面に有する。開口溝42及び面材配置溝44は上框32aの全長に亘って延在しており、その間には中空部46が形成されている。開口溝42及び中空部46は、金属框38の上框部38aに形成されている。面材配置溝44は、金属框38の上框部38aと樹脂框40の上框部40aとで構成されている。面材34は、面材配置溝44内で上框部38aに対して接着剤47で接着されると共に、上框部38aと上框部40aとの間に挟み込まれて保持される。
【0027】
レール22の先端と対向する開口溝42の底部と、面材34の上縁部端面と対向する面材配置溝44の底部とには、それぞれ熱膨張性部材25が設けられている。
【0028】
樹脂框40の上框部40aは、金属框38の上框部38aの室内側見付け面に対して係合固定される。樹脂框40の上框部40aの内側となる金属框38の上框部38aには、脱落防止金具54がねじ56によって取り付けられている。脱落防止金具54は、ステンレスやスチール等の金属板を屈曲変形させた段付き形状の部品であり、火災時に上框32aから面材34が脱落することを防止するための金具である。
【0029】
図2に示すように、下框32bは、レール26が挿入される開口溝62を下側の見込み面に有し、面材34が配置される面材配置溝64を上側の見込み面に有する。開口溝62及び面材配置溝64は下框32bの全長に亘って延在しており、その間には中空部66が形成されている。開口溝62及び中空部66は、金属框38の下框部38bに形成されている。面材配置溝64は、金属框38の下框部38bと樹脂框40の下框部40bとで構成されている。面材34は、面材配置溝64内で下框部38bに対して接着剤47で接着されると共に、下框部38bと下框部40bとの間に挟み込まれて保持される。
【0030】
レール26の先端面と対向する開口溝62の底部には熱膨張性部材65が設けられ、開口溝62の室内側側部には熱膨張性部材67が設けられている。また、面材34の下縁部端面と対向する面材配置溝64の底部には熱膨張性部材25が設けられ、中空部66の室外側壁面にも熱膨張性部材25が配設されている。熱膨張性部材65,67は、熱膨張性部材25と同様なものであり、例えば加熱されると発泡して膨張する黒鉛等の加熱発泡材である。
【0031】
樹脂框40の下框部40bは、金属框38の下框部38bの室内側見付け面に対して係合固定される。樹脂框40の下框部40bの内側となる金属框38の下框部38bには脱落防止金具54が取り付けられている。脱落防止金具54は上框32aに取り付けられるものと上下対称構造である点以外は同様な構造である。
【0032】
面材配置溝64には、面材34の下縁部端面を支持するセッティングブロック68が配設されている。セッティングブロック68は、アルミニウム等の金属ブロックの表面に黒鉛等の加熱発泡材を設けたものである。
【0033】
金属框38の下框部38bには、樹脂製の戸車70が配設されている。戸車70は、レール26の先端面上を転動することにより、障子14を開口枠12に対して円滑にスライド移動させるローラである。戸車70は、その大部分が中空部66内に配置される一方、その下側外周縁部が中空部66の下壁66aに形成された切欠部を通って開口溝62内に配置され、開口溝62に挿入されたレール26の先端面に転動可能に当接する。
【0034】
図4は、下框32bの構造を示す要部拡大縦断面図であり、図4(A)は、火災の影響を受けていない通常時の状態を示す図であり、図4(B)は、開口溝62に設けた熱膨張性部材65,67が火災時に膨張した状態を示す図である。
【0035】
図2及び図4(A)に示すように、開口溝62の内側には、その側壁となる一対の壁部62a,62bの互いに対向する内壁面からそれぞれ対向方向に突出した一対の突出片71a,71bが設けられている。突出片71a,71bは、下框32bの長手方向に沿って延びた水平レール状のヒレ部である。なお、壁部62a,62bのうち、室外側の壁部62aは、特に室外側での火災等に耐えられる十分な剛性を確保するため、壁部62bよりも厚肉に構成している。
【0036】
突出片71a,71bは、図4(A)に示す通常時におけるレール26と戸車70との当接位置よりも上方となる位置に設けられている。突出片71a,71bは、例えば開口溝62の底面となる中空部66の下壁66aとの間に高さH1の間隔を介して設けられる。また、突出片71a,71bの互いに対向する先端間の間隔D1は、開口溝62の壁部62a,62b間の最小の間隔D2よりも小さく、且つレール26を挿入可能な寸法に設定されている。なお、突出片71a,71bがレール26と戸車70との当接位置よりも上方にあるため、火災等の熱の影響を受けていない通常使用時には、戸車70によって障子14の高さ方向位置が規制されるため、その開閉に影響を及ぼすことがない。
【0037】
開口溝62の底部には、突出片71a,71bと下壁66aとによって下框32bの長手方向に沿った扁平なポケット状の空間(以下、「ポケットP」と呼ぶ)が形成されている。開口溝62の底部に配置される熱膨張性部材65はこのポケットPに配設される。すなわち、この熱膨張性部材65は、下框32bの長手方向一端側から他端側に向かってポケットPに挿入され、両突出片71a,71bの上面間に跨って保持される。これにより、熱膨張性部材65は、下方への落下が確実に防止された状態で開口溝62の底部に配設される。また、開口溝62の底部を構成する下壁66aに対して熱膨張性部材65を貼着する必要がないため、その設置作業が容易である。
【0038】
図3に示すように、戸先框32cは、開口溝72を戸先側の見込み面に有し、面材34が配置される面材配置溝74を召合せ側の見込み面に有する。開口溝72及び面材配置溝74は戸先框32cの全長に亘って延在しており、その間には中空部76が形成されている。開口溝72及び中空部76は、金属框38の戸先框部38cに形成されている。面材配置溝74は、金属框38の戸先框部38cと樹脂框40の戸先框部40cとで構成されている。面材34は、面材配置溝74内で戸先框部38cに対して接着剤47で接着されると共に、戸先框部38cと戸先框部40cとの間に挟み込まれて保持される。開口溝72は、障子14が閉じられた状態で縦枠12cのヒレ部29が挿入される部分である。
【0039】
開口溝72、面材配置溝74及び中空部76の内側には、それぞれ熱膨張性部材25が1又は複数配設されている。
【0040】
樹脂框40の戸先框部40cは、金属框38の戸先框部38cの室内側見付け面に係合固定される。樹脂框40の戸先框部40cの内側となる金属框38の戸先框部38cには、脱落防止金具54が取り付けられている。脱落防止金具54は上框32aに取り付けられるものと同様な略構造である。
【0041】
図3に示すように、召合せ框32dは、面材34が配置される面材配置溝84を戸先側の見込み面に有する。面材配置溝84は召合せ框32dの全長に亘って延在しており、その側部には中空部86が形成されている。中空部86は、金属框38の召合せ框部38dに形成されている。面材配置溝84は、金属框38の召合せ框部38dと樹脂框40の召合せ框部40dとで構成されている。面材34は、面材配置溝84内で召合せ框部38dに対して接着剤47で接着されると共に、召合せ框部38dと召合せ框部40dとの間に挟み込まれて保持される。
【0042】
面材配置溝84及び中空部86の内側には、それぞれ熱膨張性部材25が1又は複数配設されている。中空部86では、その外面にも熱膨張性部材25が配設されている。樹脂框40の召合せ框部40dは、金属框38の召合せ框部38dの室内側見付け面に係合固定される。
【0043】
図2及び図3に示すように、室内側の障子15は、上枠12aのレール23と下枠12bのレール27との間で室外側の障子14に対して引違いにスライド可能であり、その構成は障子14とほとんど同一構造となっている。そこで、障子15については、上記した障子14の構成要素と対応する構成要素について同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0044】
なお、障子15の召合せ框32dと障子14の召合せ框32dとの間はクレセント88によってロック可能であり、これにより障子14,15が閉状態に保持される。戸先框32cの開口溝72は、障子15が閉じられた状態で縦枠12dのヒレ部30が挿入される部分である。
【0045】
次に、上記のように構成された建具10の作用について説明する。
【0046】
図4(A)に示すように障子14(15)の下框32bに設けた戸車70がレール26(27)の先端面に載っている通常時に、例えば室外側で発生した火災等の火炎や熱を建具10が受けた場合、下框32bに設けた樹脂製の戸車70が溶融或いは焼失してしまう場合がある。そうすると、戸車70がなくなったことで障子14が図4(B)に示すように下へと沈み、レール26の先端が突出片71a,71bによって形成された開口溝62底部のポケットPに呑み込まれる。
【0047】
従って、仮に下框32bに突出片71a,71bを設けていない構造の場合には、図5(A)に示すように熱によって下框32bが見込み方向へと反り変形すると、下框32bは、例えば反り量W1まで反った際に開口溝62の壁部62bがレール26に当接してその変形が規制される。なお、レール26(下枠12b)は躯体に固定されているため変形せず、このためレール26が下框32bの反りを受け止めることができる。これに対して本実施形態の構造の場合には、図5(B)に示すように熱によって下框32bが見込み方向へと反り変形すると、下框32bは、例えば反り量W1よりも小さな反り量W2まで反った際に開口溝62の壁部62bから突出した突出片71bがレール26に当接してその変形が規制される。このように、建具10では突出片71a,71bを設けたことにより、下框32bの反り量を低減することができる。なお、図5(A)及び5(B)では、反り変形前の下框32bを2点鎖線で図示し、反り変形後の下框32bを実線で図示している。
【0048】
また、戸車70が焼失して障子14が下に沈むと、ポケットPに配置された熱膨張性部材65が下框32bと下枠12b(レール26)との間に挟まれた状態となる(図4(B)参照)。この際、本実施形態に係る建具10では、戸車70の焼失に前後したタイミングで、開口溝62に配設された熱膨張性部材65,67が膨張する(図4(B)中に参照符号65a,67aで示す熱膨張性部材を参照)。なお、熱膨張性部材65は、下框32bと下枠12b(レール26)との間に挟まれたままで膨張する。これにより、開口溝62内が膨張した熱膨張性部材65a,67aによって閉塞される。同時に、熱膨張性部材65,67の膨張圧により開口溝62を形成する壁部62a,62bのうち、薄肉構造の室内側の壁部62bが内側から押圧力を受け、図4(B)に示すように外側へと押し倒されるように変形する。
【0049】
そうすると、壁部62bの内壁面から内方に突出した突出片71bは、その先端が下を向くように変形する。同時に、各突出片71a,71b自体も熱膨張性部材65の膨張力を受けるため、壁部62aの内壁面から内方に突出した突出片71bもその先端が下を向くように変形する。その結果、開口溝62の底面となる中空部66の下壁66aから突出片71a,71bまでの高さが、通常時の高さH1よりも大きな高さH2となる。つまり、熱膨張性部材65,67によって開口溝62の壁部62b及び突出片71a,71bが変形したことにより、変形前はレール26を高さH1分だけ呑み込み可能であったポケットPが、変形後にはレール26を高さH1より大きな高さH2分だけ呑み込み可能な形状となる。これにより、レール26のポケットP(突出片71a,71b)への挿入量(かかり量)が大きくなるため、レール26を突出片71a,71bによって一層確実に押さえることができる。
【0050】
以上のように、本実施形態に係る建具10では、下框32bは、その長手方向に沿って延び、レール26(27)が挿入されて戸車70に当接する開口溝62と、レール26(27)と戸車70との当接位置よりも上方となる位置で、開口溝62の側壁となる一対の壁部62a,62bの互いに対向する壁面からそれぞれ対向方向に突出し、下框32bの長手方向に沿って延びることで、その上面に熱膨張性部材65を保持する一対の突出片71a,71bとを備える。ここで、一対の突出片71a,71bは、互いに対向する先端間にレール26(27)を挿入可能な隙間D1が設けられると共に、該隙間D1が一対の壁部62a,62bの互いに対向する壁面間の隙間D2よりも小さく構成されている。
【0051】
このように、建具10では、下框32bの開口溝62の内側に設けた一対の突出片71a,71bによって熱膨張性部材65を保持する。これにより、一対の突出片71a,71bの上面間に熱膨張性部材65を亘って配設するだけで下方に開口する開口溝62に熱膨張性部材65を配設することができ、接着剤等で熱膨張性部材65を貼着する場合に比べて手間やコストを抑制できる。さらに、建具10では、突出片71a,71bによって熱膨張性部材65を開口溝62の底部に確実に保持しておくことができるので、熱膨張性部材65が剥がれ落ちることがない。また、建具10が火災等の熱を受けた際に樹脂製の戸車70が焼失して障子14,15が下に沈むと、熱膨張性部材65が下框32bと下枠12b(レール26,27)との間に挟まれるため、下枠12bから下框32bへの直接的な熱量の移動が妨げられ、下框32bの損傷を抑制できる。しかも、熱膨張性部材65が下框32bと下枠12bとの間に挟まれた状態で膨張することで、下框32bと下枠12bとの間の隙間を確実に塞ぐことができる。
【0052】
また、樹脂製の戸車が焼失して障子14(15)が下に沈むと、下枠12bから上方に突出したレール26(27)が一対の突出片71a,71b間に呑み込まれる。その結果、障子14(15)が熱によって見込み方向に反り変形した場合、開口溝62の間隔D2よりも狭い開口幅である間隔D1を持った突出片71a,71bがレール26(27)に当接してそれ以上の反りが規制されるため、突出片71a,71bを設けない場合に比べて反り量を低減できる。この際、建具10では、熱膨張性部材65の膨張力によって開口溝62の壁部62b及び突出片71a,71bが変形し、突出片71a,71bによるレール26(27)の呑み込み量が増加する。このため、レール26(27)の突出片71a,71bへのかかり量が大きくなり、下框32bの反り変形を一層確実に抑制することができる。
【0053】
建具10では、突出片71a,71bとレール26(27)との当接作用によって部材の反り量を低減できるため、下框32bの内側にスチール等の補強材を配設する必要がなくなり、或いは下框32bの板厚の厚肉化が不要となるため、コストや重量を低減できる。また、熱膨張性部材65を下枠12b側に設ける必要がないため、下枠12bでの排水性に影響を及ぼすこともない。
【0054】
ところで、開口溝62の底部となる下壁66aには、上記したように戸車70に対応する部分に該戸車70を通すための切欠部が設けられている。このため、開口部62の底部に配設する熱膨張性部材65はこの切欠部を避けて配設する必要がある。つまり、戸車70が配置されている部分では開口溝62の底部に熱膨張性部材65を設けることができず、火災時にはこの熱膨張性部材65を配設できない部分での下框32bと下枠12bとの間の隙間を十分に塞ぐことができない懸念がある。そこで、当該建具10では、開口溝62の室内側の壁部62bの内壁面に熱膨張性部材67を設けることにより、戸車70が溶融した場合であっても上記隙間の発生を確実に防止可能な構成となっている。なお、熱膨張性部材67は、開口溝62の室外側側部である壁部62aの内壁面に設けてもよく、壁部62a,62bの両方に設けてもよい。また、この熱膨張性部材67の膨張力によっても開口溝62の壁部62bが変形されるため、突出片71a,71bによるレールの呑み込み量が一層増加し、下框32bの反り変形を一層抑制できる。
【0055】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【0056】
例えば上記実施形態では、開口枠12及び框体32をアルミと樹脂の複合構造とした複合サッシを例示したが、当該建具10は開口枠12及び框体32をアルミで構成したアルミサッシ等にも適用可能である。
【0057】
上記実施形態では、開口溝62を形成する一対の壁部62a,62bの内壁面から一対の突出片71a,71bを突出させ、これらで熱膨張性部材65を保持した構成を例示した。但し、この構成以外にも、例えば室外側の壁部62aの内壁面に形成されたタイト材保持用の嵌合溝を形成する上側の保持片62c(図4参照)が反対側の突出片71aと同程度の高さ位置に設置されている場合には、この保持片62cを一方の突出片72aの代わりに利用して熱膨張性部材65を保持してもよい。つまり、この構成の場合、熱膨張性部材65は、一対の突出片となる保持片62c及び突出片72bによって開口溝62の底部に保持される。
【符号の説明】
【0058】
10 建具、12 開口枠、12a 上枠、12b 下枠、12c,12d 縦枠、14,15 障子、18 金属枠、20 樹脂枠、22,23,26,27 レール、25,65,65a,67,67a 熱膨張性部材、32 框体、32a 上框、32b 下框、32c 戸先框、32d 召合せ框、34 面材、38 金属框、40 樹脂框、42,62,72 開口溝、44,64,74,84 面材配置溝、62a,62b 壁部、66a 下壁、70 戸車、71a,71b 突出片、P ポケット
図1
図2
図3
図4
図5