(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472997
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】流体継手のフラッシング方法、及びフラッシング装置
(51)【国際特許分類】
F16H 41/30 20060101AFI20190207BHJP
【FI】
F16H41/30 D
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-260018(P2014-260018)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-121698(P2016-121698A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】十二林 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】落合 宏
(72)【発明者】
【氏名】土屋 貴雅
(72)【発明者】
【氏名】三宅 正晃
(72)【発明者】
【氏名】渋江 雄太
【審査官】
塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】
実開平03−007561(JP,U)
【文献】
特開平08−261306(JP,A)
【文献】
特開平07−300198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 41/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントカバー、インペラ、及びタービンを有する流体継手のフラッシング方法であって、
(a)前記流体継手内に流体を供給するステップと、
(b)前記流体継手内から前記流体を排出するステップと、
(c)前記タービンを回転させるステップと、
を含み、
前記ステップ(c)において、前記フロントカバー及び前記インペラを固定した状態で前記タービンを回転させる、
流体継手のフラッシング方法。
【請求項2】
(d)前記フロントカバーよりも前記インペラが下側になるように前記流体継手を配置するステップをさらに含む、
請求項1に記載の流体継手のフラッシング方法。
【請求項3】
前記ステップ(a)において、前記フロントカバーと前記タービンとによって画定された第1空間、及び、前記インペラと前記タービンとによって画定された第2空間の前記タービン側、に流体を供給し、
前記ステップ(b)において、前記第2空間の前記インペラ側から前記流体を排出する、
請求項1又は2に記載の流体継手のフラッシング方法。
【請求項4】
前記ステップ(a)において、前記フロントカバーと前記タービンとによって画定された第1空間、及び、前記インペラと前記タービンとによって画定された第2空間の前記インペラ側、に流体を供給し、
前記ステップ(b)において、前記第2空間の前記タービン側から前記流体を排出する、
請求項1又は2に記載の流体継手のフラッシング方法。
【請求項5】
前記流体は、作動油である、
請求項1から4のいずれかに記載の流体継手のフラッシング方法。
【請求項6】
フロントカバー、インペラ、及びタービンを有する流体継手のフラッシング方法であって、
(a)前記流体継手内に流体を供給するステップと、
(b)前記流体継手内から前記流体を排出するステップと、
(c)前記タービンを回転させるステップと、
を含み、
前記ステップ(a)において、前記フロントカバーと前記タービンとによって画定された第1空間、及び、前記インペラと前記タービンとによって画定された第2空間の前記インペラ側、に流体を供給し、
前記ステップ(b)において、前記第2空間の前記タービン側から前記流体を排出する、
流体継手のフラッシング方法。
【請求項7】
フロントカバー、インペラ、タービン、及びタービンハブを有する流体継手のフラッシング装置であって、
前記流体継手を支持するよう構成された支持部材と、
前記タービンハブに嵌合するよう構成された回転軸部材と、
前記回転軸部材を回転駆動させる駆動モータと、
を備える、フラッシング装置。
【請求項8】
前記支持部材は、前記フロントカバーよりも前記インペラが下側になるように前記流体継手を支持する、
請求項7に記載のフラッシング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体継手のフラッシング方法、及びフラッシング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トルクコンバータなどの流体継手の内部から鉄粉などの異物を除去すること、いわゆるフラッシングが行われていた。例えば、特許文献1に記載の洗浄装置では、トルクコンバータのポンプに溶接されたリングギアと噛み合う駆動ローラによってトルクコンバータを回転させるとともに、オイル注入管を介してトルクコンバータ内に洗浄油を供給する。この結果、トルクコンバータ内に供給された洗浄油は、トルクコンバータ内を旋回しながら流動して外部に排出され、トルクコンバータ内の鉄粉などの異物を洗い流す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2920468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、洗浄効果を向上させて、流体継手内の鉄粉などの異物をより少なくしたいという要望が高まっている。そこで、本発明の課題は、洗浄効果を向上させるフラッシング方法、及びフラッシング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1側面に係るフラッシング方法は、フロントカバー、インペラ、及びタービンを有する流体継手のフラッシング方法である。このフラッシング方法は、次のステップ(a)〜(c)を含む。ステップ(a)は、流体継手内に流体を供給する。ステップ(b)は、流体継手内から流体を排出する。ステップ(c)は、タービンを回転させる。
【0006】
このフラッシング方法では、従来のフラッシング方法と異なりタービンを回転させている。この結果、従来のフロントカバー及びインペラのみを回転させるフラッシング方法よりも、流体継手内の流体をより攪拌することができ、流体継手内の異物をより多く排出することができ、洗浄効果を向上させることができる。
【0007】
好ましくは、フラッシング方法は、ステップ(d)をさらに含む。ステップ(d)は、フロントカバーよりもインペラが下側になるように流体継手を配置する。このように流体継手を配置することによって、流体継手内の異物をより多く排出することができる。
【0008】
好ましくは、ステップ(c)において、フロントカバー及びインペラを固定した状態でタービンを回転させる。これによれば、流体継手内の流体をより攪拌することができ、ひいては、流体継手内の異物をより多く排出することができる。
【0009】
好ましくは、ステップ(a)において、フロントカバーとタービンとによって画定された第1空間、及び、インペラとタービンとによって画定された第2空間の前記タービン側、に流体を供給する。そして、ステップ(b)において、第2空間のインペラ側から流体を排出する。このように、流体を供給及び排出することによって、より多く排出することができる。
【0010】
好ましくは、ステップ(a)において、フロントカバーとタービンとによって画定された第1空間、及び、インペラとタービンとによって画定された第2空間のインペラ側、に流体を供給する。そして、ステップ(b)において、第2空間のタービン側から流体を排出する。
【0011】
好ましくは、流体は作動油である。
【0012】
本発明の第2側面に係るフラッシング装置は、フロントカバー、インペラ、タービン、及びタービンハブを有する流体継手のフラッシング装置である。このフラッシング装置は、支持部材、回転軸部材、及び駆動モータを備えている。支持部材は、流体継手を支持するよう構成される。回転軸部材は、タービンハブに嵌合するよう構成される。駆動モータは、回転軸部材を回転駆動させる。
【0013】
好ましくは、支持部材は、フロントカバーよりもインペラが下側になるように流体継手を支持する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、洗浄効果を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るフラッシング装置、及びフラッシング方法の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、フラッシング装置の正面図である。
【0017】
図1に示すように、フラッシング装置1は、トルクコンバータ10をフラッシングする装置である。ここで、まずフラッシングの対象であるトルクコンバータ10の構成について説明する。トルクコンバータ10は、フロントカバー11、インペラ12、タービン13、及びタービンハブ14を備えている。タービン13は、タービンハブ14に取り付けられており、タービンハブ14と一体的に回転する。また、トルクコンバータ10は、ステータ15、ロックアップ装置16をさらに備えている。
【0018】
トルクコンバータ10は、第1空間S1と第2空間S2とを有する。第1空間S1は、フロントカバー11とタービン13とによって画定された空間である。この第1空間S1内に、ロックアップ装置16が配置されている。第2空間S2は、インペラ12とタービン13とによって画定された空間である。この第2空間S2内には、ステータ15が配置されている。
【0019】
なお、フロントカバー11、インペラ12、及びタービン13を備えたトルクコンバータであれば、上述したトルクコンバータ10のような構成ではなくても、本実施形態に係るフラッシング方法及びフラッシング装置の対象となる。
【0020】
フラッシング装置1は、支持部材2、回転軸部材3、駆動モータ4、及び流路5を備えている。また、フラッシング装置1は、駆動モータ4からの回転を回転軸部材3に伝達する伝達ベルト6をさらに備えている。
【0021】
支持部材2は、トルクコンバータ10を支持するように構成されている。好ましくは、支持部材2は、フロントカバー11よりもインペラ12が下側になるように、トルクコンバータ10を支持する。
【0022】
具体的には、支持部材2は、複数の柱部21と、支持部22とを有している。支持部22は、各柱部21から水平方向に延びている。この支持部22から吊下げられるように、トルクコンバータ10が支持部22によって支持されている。トルクコンバータ10は、ボルト101を介して、支持部22に支持されている。
【0023】
回転軸部材3は、タービンハブ14に嵌合するよう構成されている。回転軸部材3は、回転軸部31と、第1プーリ32とを有している。回転軸部31は、円柱状であって、タービンハブ14に嵌合している。このため、回転軸部31は、タービンハブ14と一体的に回転する。第1プーリ32は、回転軸部31に取り付けられており、回転軸部31と一体的に回転する。
【0024】
駆動モータ4は、回転軸部材3を回転駆動させる。詳細には、駆動モータ4は、動力伝達ベルト6を介して、回転軸部材3を回転駆動させる。駆動モータ4は、モータ本体部41と、出力軸部42と、第2プーリ43とを備えている。出力軸部42は、モータ本体部41から延びており、第2プーリ43が出力軸部42に取り付けられている。この第2プーリ43と第1プーリ32との間に動力伝達ベルト6が架けられている。
【0025】
流路5は、トルクコンバータ10内に流体を供給したり、トルクコンバータ10内の流体をトルクコンバータ10から排出するための流路である。例えば、流路5は、第1流路51、第2流路52、及び第3流路53を有している。第1流路51は、第1空間S1に接続される流路である。第1流路51は、第1空間S1内に流体を供給したり、第1空間S1から流体を排出したりするための流路である。例えば、第1流路51は、回転軸部31内に形成されている。
【0026】
第2流路52及び第3流路53は、第2空間S2に接続される流路である。第2流路52は、第2空間S2のうちタービン13側に接続され、第3流路53は、第2空間S2のうちインペラ12側に接続される。第2流路52は、第2空間S2のタービン13側に流体を供給したり、第2空間S2のタービン13側から流体を排出したりするための流路である。例えば、第2流路52は、回転軸部31の外周面と、回転軸部31の外周側に配置される筒状部71の内周面との間の空間によって構成される。第3流路53は、第2空間S2のインペラ12側に流体を供給したり、第2空間S2のインペラ12側から流体を排出したりするための流路である。
【0027】
次に、流体継手のフラッシング方法について説明する。本実施形態に係るフラッシング方法は、少なくとも、以下に説明する3つのステップ(a)〜(c)を含んでいる。
【0028】
まず、各ステップ(a)、(b)、(c)を行う前に、ステップ(d)を行う。すなわち、フロントカバー11よりもインペラ12が下側になるようにトルクコンバータ10を配置する。
【0029】
ステップ(a)として、まず、フラッシング方法は、トルクコンバータ10内に流体を供給する。なお、本実施形態に係るフラッシング方法は、流体として、作動油をトルクコンバータ10内に供給する。具体的には、ATF(Automatic Transmission Fluid)をトルクコンバータ10内に供給する。
【0030】
第1空間S1と、第2空間S2のタービン13側と、にATFを供給する。すなわち、第1流路51及び第2流路52からATFを供給する。なお、ATFは、トルクコンバータ10の回転軸から径方向外側に向かって供給される。特に限定されるものではないが、第1空間S1に供給されるATFは、フロントカバー11とロックアップ装置16との間に供給される。
【0031】
また、第2空間S2のタービン13側に供給されるATFは、タービンシェルとステータ15との間に供給される。なお、第2空間S2のタービン13側とは、第2空間S2のうち、インペラ12よりもタービン13に近い領域を意味する。すなわち、第2空間S2のタービン13側とは、第2空間S2においてステータ15とタービン13との間を意味する。なお、タービンシェルの近傍から径方向外側にATFを供給する。
【0032】
ステップ(a)においてトルクコンバータ10内に供給された流体は、ステップ(b)においてトルクコンバータ10から排出される。詳細には、第2空間S2のインペラ12側から流体を排出する。すなわち、第3流路53からATFを排出する。なお、第2空間S2のインペラ12側とは、第2空間S2のうち、タービン13よりもインペラ12に近い領域を意味する。すなわち、第2空間S2のインペラ12側とは、第2空間S2においてステータ15とインペラ12との間を意味する。なお、インペラシェルの近傍から径方向外側にATFを供給する。
【0033】
ステップ(c)では、内部に流体が充填されたトルクコンバータ10において、タービン13を回転させる。好ましくは、フロントカバー11及びインペラ12を固定した状態でタービン13のみを回転させる。すなわち、フロントカバー11及びインペラ12は、回転しない。例えば、上述したフラッシング装置1を使用する場合、回転軸部材3をタービンハブ14に嵌合させ、支持部材2にフロントカバー11を取り付ける。そして、駆動モータ4を動作させることによって、回転軸部材3を回転させ、ひいては、タービンハブ14及びタービン13を回転させる。なお、このタービン13の回転速度は、特に限定されるものではないが、例えば、400〜1200rpm程度とすることができる。
【0034】
上述した各ステップは、並行して行われる。すなわち、ステップ(a)の流体の供給を行いながら、ステップ(c)のタービン13の回転を行う。また、これらステップ(a)及びステップ(c)を行いながら、ステップ(b)の流体の排出を行う。なお、各ステップを開始する順番は特に限定されない。例えば、ステップ(a)、(b)(c)の順で開始してもよいし、ステップ(c)、(a)、(b)の順で開始してもよいし、ステップ(a)、(b)、(c)を同時に開始してもよい。
【0035】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0036】
変形例1
上記実施形態に係るフラッシング方法を行うための装置は、上述したフラッシング装置に限定されない。
【0037】
変形例2
上記実施形態に係るフラッシング方法では、フロントカバー11、及びインペラ12を固定している、すなわち、回転させていないが、フロントカバー11及びインペラ12を回転させてもよい。
【0038】
変形例3
ステップ(a)において、第1空間S1と、第2空間S2のインペラ12側と、にATFを供給してもよい。すなわち、第1流路51と第3流路53とからATFを供給してもよい。この場合、ステップ(b)において、第2空間S2のタービン13側からATFを排出する。すなわち、第2流路52からATFを排出する。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0040】
試験方法として、トルクコンバータ10内に、長さ1mm程度の鉄粉を20個投入し、実施例1〜5の5つの条件でフラッシングを行った後、トルクコンバータ10内に残っている鉄粉の数(残数)を数えた。その結果を表1に示す。なお、実施例1では3回、実施例2では10回、実施例3では3回、実施例4では10回、実施例5では6回、試験を行った。
【0041】
実施例1〜5では、第2空間S2のタービン13側と第1空間S1とに作動油を供給するとともに、空間S2のインペラ12側から作動油を排出している。すなわち、実施例1〜5において、作動油の供給及び排出は、実質的に同じ条件で行った。また、実施例1〜5において、フロントカバー11及びインペラ12を固定した状態でタービン13のみを回転させている。
【0042】
なお、表1の「向き」において、「上」とは、インペラ12がフロントカバー11よりも上側となるような向きでトルクコンバータ10を配置している(実施例1,3)。また、表1の「向き」において、「下」とは、インペラ12がフロントカバー11よりも下側となるような向きでトルクコンバータ10を配置している(実施例2,4,5)。
【0043】
また、表1の「時間」とは、フラッシングを行った時間である。なお、全ての実施例において、フラッシングを30秒間行っている。表1の「回転数」とは、タービン13の回転数である。なお、実施例5では、10秒間1200回転させた後、反対周りで10秒間1200回転させ、さらにその後、回転方向を元に戻して10秒間1200回転させた。
【0044】
【表1】
【0045】
表1から分かるように、タービン13を回転させた全ての実施例1〜5において、異物の排出率を60%以上とすることができた。また、フロントカバー11よりもインペラ12が下側になるようにトルクコンバータ10を配置することによって(実施例2,4,5)、異物の排出率を80%以上とすることができた。
【符号の説明】
【0046】
1 フラッシング装置
2 支持部材
3 回転軸部材
4 駆動モータ