(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、矩形の基板を処理対象とする場合、スリットノズルを移動させながら、ほぼ基板の上面のみに処理液を塗布することができる。しかしながら、吐出幅が一定のスリットノズルを用いて、半導体ウェハなどの円板状の基板に処理液を塗布しようとすると、基板の幅方向の寸法が一定でないため、基板の外側に余分な処理液を吐出することとなる。したがって、処理液の廃棄量が多くなるという問題がある。
【0005】
この点について、特許文献2には、スリットノズルに吐出区間を任意に選択する機構を付加して、塗布膜のパターンを多種多様に制御することが、記載されている。ただし、特許文献2の方法では、スリットノズルに多数の圧電素子や、それを制御するための電気配線を設ける必要があり、スリットノズルの構造が極めて複雑となる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、スリットノズルの構造を極端に複雑化することなく、基板の外側への液体の余分な吐出を抑制し、かつ、幅方向の寸法が一定でない基板に対して液体を塗布することができる、スリットノズル、塗布装置、および塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、走査方向に相対的に移動する基板の被処理面に液体を塗布するスリットノズルであって、前記走査方向に配列され、各々が前記走査方向に直交する幅方向に延びる一対のリップ部と、前記一対のリップ部の間に設けられたスリット状の吐出口と、を有し、前記一対のリップ部は、前記幅方向の位置によって前記被処理面からの距離が変化する傾斜部を有し、少なくとも前記傾斜部に、前記吐出口が設けら
れ、前記傾斜部は、前記幅方向の一方側の端部へ向かうにつれて前記被処理面から遠ざかる第1傾斜部である。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明のスリットノズルであって、前記一対のリップ部は、
前記第1傾斜部と、前記幅方向の他方側の端部へ向かうにつれて前記被処理面から遠ざかる第2傾斜部と、を有し、前記第1傾斜部から前記第2傾斜部までの範囲に、前記吐出口が設けられている。
【0009】
本願の第3発明は、第2発明のスリットノズルであって、前記一対のリップ部は、前記第1傾斜部と前記第2傾斜部との間に、前記幅方向の位置に拘わらず前記被処理面からの距離が一定のフラット部を有する。
【0010】
本願の第4発明は、
第1発明から第3発明までのいずれか1発明のスリットノズルであって、前記リップ部の前記走査方向の寸法が、前記被処理面から遠ざかるにつれて大きくなる。
【0011】
本願の第5発明は、第1発明から第4発明までのいずれか1発明のスリットノズルであって、
一方の前記リップ部の前記被処理面からの距離と、他方の前記リップ部の前記被処理面からの距離とが、互いに相違する。
【0012】
本願の第6発明は、
第5発明のスリットノズルであって、
一方の前記リップ部の前記被処理面からの距離と、他方の前記リップ部の前記被処理面からの距離との差をdとして、前記傾斜部における前記dの値が、前記被処理面から遠ざかるにつれて大きくなる。
【0013】
本願の第7発明は、
塗布装置であって、第1発明から第6発明までのいずれか1発明のスリットノズル
と、
前記スリットノズルに前記液体を供給する供給機構と、前記スリットノズルと前記基板とを、前記走査方向に相対的に移動させる移動機構と、を備える。
【0014】
本願の第8発明は、
第7発明の塗布装置であって、
前記スリットノズルから液体を吸引する吸引機構をさらに有し、前記吸引機構は、前記スリットノズルの前記傾斜部に対応する位置に設けられた排出口に接続される。
【0015】
本願の第9発明は、
第3発明のスリットノズルを用いて前記被処理面に液体を塗布する塗布方法であって、前記基板は、円板状であり、前記基板の前記被処理面は、液体の塗布が必要な略円形の有効エリアと、前記有効エリアの外側を包囲する非有効エリアと、
を有し、前記スリットノズルの前記フラット部の前記幅方向の長さは、前記被処理面内にとることができる前記有効エリアの外接線の長さと、略同一である。
【0016】
本願の第10発明は、スリットノズルを用いて基板の被処理面に液体を塗布する塗布方法であって、a)前記スリットノズルと前記基板とを、走査方向に相対的に移動させる工程と、b)前記工程a)を実行しつつ、前記スリットノズルから液体を吐出する工程と、を有し、前記スリットノズルは、前記走査方向に配列され、各々が幅方向に延びる一対のリップ部と、前記一対のリップ部の間に設けられたスリット状の吐出口と、を有し、前記一対のリップ部は、前記幅方向の位置によって前記基板の
前記被処理面からの距離が変化する傾斜部を有し、少なくとも前記傾斜部に、前記吐出口が設けられており、
前記傾斜部は、前記幅方向の一方側の端部へ向かうにつれて前記被処理面から遠ざかる第1傾斜部であり、前記工程b)では、前記吐出口のうち、前記被処理面に対向する部分のみから前記液体が吐出される。
【発明の効果】
【0017】
本願の第1発明〜第10発明によれば、スリットノズルの傾斜部と基板の被処理面との間において、液体がメニスカスを形成することによって、液体の吐出範囲を、基板の幅方向の寸法に追従するように変化させることができる。これにより、基板の外側への液体の余分な吐出を抑制しつつ、幅方向の寸法が一定でない基板に対して液体を塗布できる。
【0018】
特に、本願の第2発明によれば、一対のリップ部の幅方向の両側に、傾斜部が設けられている。このため、塗布処理中に幅方向の両端部の位置が変化する基板(例えば、円板状の基板)に対して、液体を塗布しつつ、基板の外側への液体の余分な吐出を抑制できる。
【0019】
特に、本願の第3発明によれば、一対のリップ部の中央にフラット部を設けることで、基板の幅方向の中央付近に塗布される液体の均一性を、より高めることができる。
【0020】
特に、本願の第4発明によれば、フラット部の全体が基板の被処理面に対向する位置(フラット部が有効エリアの外接線と重なる位置)から塗布処理を開始して、有効エリアの全体に液体を塗布することができる。
【0021】
特に、本願の第5発明によれば、被処理面と対向する時間が短い部分ほど、リップ部の走査方向の寸法を大きくする。これにより、リップ部のうち、被処理面と対向していない部分において、より多くの液体を保持できる。
【0022】
特に、本願の第6発明によれば、リップ部の吐出口付近により多くの液体を保持できる。
【0023】
特に、本願の第7発明によれば、被処理面と対向する時間が短い部分ほど、リップ部の段差を大きくする。これにより、リップ部のうち、被処理面と対向していない部分において、より多くの液体を保持できる。
【0024】
特に、本願の第9発明によれば、傾斜部が被処理面に対向していないときに、吸引機構を動作させることによって、傾斜部からの液体の吐出量を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下では、説明の便宜上、塗布装置1におけるスリットノズル20の移動方向を「走査方向」と称し、走査方向に直交する水平方向を「幅方向」と称する。
【0027】
<1.塗布装置の構成について>
図1は、本発明の一実施形態に係る塗布装置1の斜視図である。この塗布装置1は、半導体の製造工程の一部であるフォトリソグラフィ工程において、円板状の基板(例えば、半導体ウェハ等)9の上面に、レジスト液や現像液等の処理液を塗布する装置である。
図1に示すように、本実施形態の塗布装置1は、ステージ10、スリットノズル20、ノズル保持部30、移動機構40、および制御部50を有する。
【0028】
ステージ10は、基板9を載置して保持する略直方体状の保持台である。ステージ10は、例えば一体の石材により形成される。ステージ10の上面は、平坦な基板保持面11となっている。基板保持面11には、多数の真空吸着孔(図示省略)が設けられている。基板保持面11に基板9が載置されると、真空吸着孔の吸引力によって、基板9の下面が基板保持面11に吸着する。これにより、ステージ10上に基板9が水平姿勢で固定される。また、ステージ10の内部には、複数のリフトピンが設けられている。ステージ10から基板9を搬出するときには、基板保持面11上に複数のリフトピンが突出する。これにより、基板保持面11から基板9が引き離される。
【0029】
スリットノズル20は、基板9の上面に向けて、処理液を吐出するノズルである。スリットノズル20は、幅方向に長いノズルボディ21を有する。ノズルボディ21の下端部には、幅方向に延びるスリット状の吐出口22が、設けられている。吐出口22は、ステージ10上に載置された基板9の上面に向けられている。後述する供給機構70(
図5参照)からノズルボディ21内に処理液が供給されると、スリットノズル20の吐出口22から、被処理面である基板9の上面へ向けて、処理液が吐出される。
【0030】
ノズル保持部30は、スリットノズル20を基板保持面11の上方に保持するための機構である。ノズル保持部30は、幅方向に延びる架橋部31と、架橋部31の両端を支持する一対の柱状の支持部32とを有する。スリットノズル20は、架橋部31の下面に取り付けられている。また、各支持部32は、架橋部31の端部の高さを調節する昇降機構33を有する。左右の昇降機構33を動作させると、架橋部31とともにスリットノズル20の高さおよび姿勢が調節される。
【0031】
移動機構40は、スリットノズル20を走査方向に移動させるための機構である。移動機構40は、一対の走行レール41と、一対のリニアモータ42とを有する。一対の走行レール41は、ステージ10の左右の側部付近において、走査方向に延びている。走行レール41は、一対の支持部32をそれぞれ支持しながら、各支持部32の下端部を走査方向に案内する。すなわち、一対の走行レール41は、一対の支持部32の移動方向を走査方向に規制するリニアガイドとして機能する。
【0032】
リニアモータ42は、ステージ10に固定された固定子421と、支持部32に固定された移動子422とを有する。固定子421は、ステージ10の左右の側縁部に沿って、走査方向に延びている。塗布装置1の稼働時には、固定子421と移動子422との間に磁気的吸引力または磁気的反発力が生じる。これにより、移動子422、ノズル保持部30、およびスリットノズル20が、一体として走査方向に移動する。
【0033】
制御部50は、塗布装置1内の各部を動作制御するための手段である。
図1中に概念的に示したように、制御部50は、CPU等の演算処理部51、RAM等のメモリ52、およびハードディスクドライブ等の記憶部53を有するコンピュータにより構成されている。制御部50は、上述したリフトピン、昇降機構33、リニアモータ42等の塗布装置1内の各部と、それぞれ電気的に接続されている。また、制御部50は、後述する供給ポンプ73および吸引ポンプ82とも、電気的に接続されている。制御部50は、記憶部53に記憶されたコンピュータプログラムやデータを、メモリ52に一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムおよびデータに基づいて、演算処理部51が演算処理を行うことにより、塗布装置1内の各部を動作制御する。これにより、基板9に対する塗布処理が進行する。
【0034】
<2.スリットノズルの構造について>
次に、スリットノズル20のより詳細な構造について、説明する。
図2は、スリットノズル20の正面図(走査方向の前方から見た図)である。
図3は、スリットノズル20の下面図である。
図4は、スリットノズル20の側面図(幅方向の一方から見た図)である。
【0035】
図2〜
図4に示すように、スリットノズル20のノズルボディ21は、一対のノズル部材61と、一対のサイドプレート62とを有する。ノズル部材61およびサイドプレート62の材料には、例えば、アルミニウム等の金属が用いられる。一対のノズル部材61を互いに固定するとともに、その幅方向の両端部に一対のサイドプレート62を取り付けると、内部に処理液の流路を有するノズルボディ21が形成される。
【0036】
ノズルボディ21の下端部には、一対のリップ部63が設けられている。一対のリップ部63は、走査方向に配列されるとともに、各々がノズル部材61の下面に沿って、幅方向に延びている。また、各リップ部63は、下方へ向かうにつれて走査方向の寸法が短くなるように収束している。吐出口22は、前方のリップ部63の下端部と、後方のリップ部63の下端部との間に、スリット状に開口している。
【0037】
また、
図2および
図3に示すように、一対のリップ部63は、幅方向中央に位置するフラット部630と、フラット部630の幅方向一方側に位置する第1傾斜部631と、フラット部630の幅方向他方側に位置する第2傾斜部632と、を有する。
【0038】
フラット部630においては、各リップ部63の下面の高さ(すなわち、各リップ部63の下面の被処理面90からの距離h)が、幅方向の位置に拘わらず一定となっている。第1傾斜部631においては、各リップ部63の下面の高さが、幅方向の一方側へ向かうにつれて高くなっている。すなわち、第1傾斜部631においては、各リップ部63の下面が、幅方向の一方側の端部へ向かうにつれて、被処理面90から遠ざかっている。第2傾斜部632においては、各リップ部63の下面の高さが、幅方向の他方側へ向かうにつれて高くなっている。すなわち、第2傾斜部632においては、各リップ部63の下面が、幅方向の他方側の端部へ向かうにつれて、被処理面90から遠ざかっている。吐出口22は、第1傾斜部631、フラット部630、および第2傾斜部632の全体に亘って形成されている。
【0039】
なお、本実施形態では、円板状の基板9を処理対象としているため、フラット部630、第1傾斜部631、および第2傾斜部632の形状が、スリットノズル20の幅方向中央を基準として、左右対称となっている。
【0040】
<3.スリットノズルに接続される配管系の構成について>
続いて、スリットノズル20への処理液の供給およびスリットノズル20からの処理液の排出に関わる配管系の構成について、説明する。
図5は、スリットノズル20に接続される配管系の構成を示した図である。
図5に示すように、本実施形態の塗布装置1は、供給機構70と排出機構80とを有する。
【0041】
供給機構70は、スリットノズル20に処理液を供給するための機構である。供給機構70は、処理液供給源71、供給配管72、および供給ポンプ73を有する。処理液供給源71には、基板9の被処理面90に塗布すべきレジスト液や現像液などの処理液が貯留されている。供給配管72の上流側の端部は、処理液供給源71に接続されている。一方、供給配管72の下流側の端部は、2本に分岐して、スリットノズル20の幅方向の両端部に設けられた2つの供給口23に、それぞれ接続されている。また、供給配管72の経路上には、供給ポンプ73が設けられている。
【0042】
供給ポンプ73を動作させると、処理液供給源71に貯留された処理液が、供給配管72へ流れ出す。そして、供給配管72内に、処理液供給源71からスリットノズル20へ向かう液流が形成される。処理液は、スリットノズル20の一対の供給口23からスリットノズル20内の流路へ、供給される。そして、スリットノズル20内の処理液が、スリットノズル20の吐出口22から下方へ向けて吐出される。
【0043】
排出機構80は、スリットノズル20へ供給された処理液の一部を、外部へ排出するための機構である。本実施形態のスリットノズル20の上面には、2つの排出口24が設けられている。2つの排出口24は、第1傾斜部631および第2傾斜部632の上方に、それぞれ配置されている。排出機構80は、排出配管81と吸引ポンプ82とを有する。排出配管81の上流側の端部は、2本に分岐して、スリットノズル20の2つの排出口24に、それぞれ接続されている。また、排出配管81の経路上には、吸引ポンプ82が設けられている。
【0044】
吸引ポンプ82を動作させると、スリットノズル20内に貯留された処理液のうち、特に第1傾斜部631および第2傾斜部632に近い領域に貯留された処理液が、2つの排出口24から排出配管81へ吸引される。そして、吸引された処理液は、排出配管81を通って塗布装置1の外部へ排出される。その後、排出された処理液は、廃棄処理されるか、あるいは、再生処理された後に処理液供給源71に再び供給される。
【0045】
なお、スリットノズル20における排出口24の位置は、必ずしも第1傾斜部631および第2傾斜部632の真上でなくてもよい。例えば、スリットノズル20の前面や背面のうち、第1傾斜部631および第2傾斜部632に近い部分に、排出口24が設けられていてもよい。すなわち、2つの排出口24は、スリットノズル20の第1傾斜部631および第2傾斜部632に対応する幅方向の位置に、設けられていればよい。
【0046】
図5中に破線で示したように、供給ポンプ73および吸引ポンプ82は、それぞれ制御部50と電気的に接続されている。基板9に対して塗布処理を行うときには、制御部50が、予め設定されたコンピュータプログラムまたは外部からの指示に基づき、これらのポンプ73,82を動作制御する。これにより、スリットノズル20へ処理液を供給する処理と、スリットノズル20から一部の処理液を排出する処理とが、実行される。
【0047】
<4.塗布処理について>
続いて、上記の塗布装置1を用いて円板状の基板9に処理液Fを塗布するときの動作につ
いて、説明する。
図6は、塗布処理中における基板9とスリットノズル20との位置関係を、概念的に示した図である。
図6では、処理液Fの吐出を開始する時刻t1から処理液Fの吐出を終了する時刻t5までの各時刻t1〜t5のうち、3つの時刻t1,t3,t5におけるスリットノズル20の位置が、二点鎖線で示されている。また、
図7は、時刻t1,t5における処理液Fの吐出状態を示した図である。
図8は、時刻t2,t4における処理液Fの吐出状態を示した図である。
図9は、時刻t3における処理液Fの吐出状態を示した図である。
【0048】
図6に示すように、本実施形態では、基板9の被処理面90に、有効エリア91と非有効エリア92とが設定されている。有効エリア91は、半導体のデバイスパターンが形成される略円形の領域である。したがって、少なくとも有効エリア91には、処理液Fの塗布が必要となる。非有効エリア92は、有効エリア91の外側を包囲する環状の領域である。非有効エリア92には、デバイスパターンが形成されないため、処理液Fの塗布は必須ではない。
【0049】
塗布処理を行うときには、まず、制御部50が移動機構40を動作させて、スリットノズル20を、
図6中の位置L1に配置する。位置L1は、スリットノズル20の吐出口22が、有効エリア91の外接線と重なる位置とする。本実施形態では、スリットノズル20のフラット部630の幅方向の長さwが、基板9の被処理面90内にとることができる有効エリア91の外接線の長さと、略同一となっている。このため、スリットノズル20を位置L1に配置すると、フラット部630の略全体が、基板9の被処理面90に対向し、第1傾斜部631および第2傾斜部632の略全体が、基板9の外側に位置することとなる。
【0050】
次に、制御部50は、時刻t1において、供給ポンプ73および吸引ポンプ82の動作を開始させる。これにより、スリットノズル20からの処理液Fの吐出が開始される。この時刻t1では、
図7のように、スリットノズル20のリップ部63のうち、フラット部630のみが被処理面90と対向している。このため、フラット部630と被処理面90との間の隙間は、吐出された処理液Fで満たされる。被処理面90の幅方向の両端部付近においては、処理液Fが表面張力によってメニスカスを形成する。これにより、処理液Fが基板9の外側へはみ出すことが抑制される。また、
図7のように、時刻t1の時点では、第1傾斜部631および第2傾斜部632の下面に、吐出口22から滲み出た処理液Fが、表面張力によって保持される。
【0051】
制御部50は、時刻t1から移動機構40を動作させて、スリットノズル20を走査方向に移動させる。そうすると、スリットノズル20の吐出口22が、基板9の被処理面90に沿って、走査方向に移動する。時刻t1〜t3の間では、
図7→
図8→
図9のように、吐出口22と対向する基板9の幅方向の寸法が、徐々に拡大する。その間、被処理面90の幅方向の両端部付近においては、処理液Fの界面がメニスカスの状態を維持する。その結果、吐出口22からの処理液Fの幅方向の吐出範囲も、徐々に広くなる。
【0052】
時刻t3になると、基板9の最も幅方向の寸法が大きい部分と対向する位置L2に、スリットノズル20が配置される。
図6に示すように、本実施形態では、スリットノズル20の吐出口22の幅方向の長さw2が、基板9の被処理面90の直径と、略同一となっている。このため、スリットノズル20を位置L2に配置すると、吐出口22の略全体が、基板9の被処理面90に対向する。したがって、吐出口22の略全体から処理液Fが吐出され、
図9のように、リップ部63の下面全体と被処理面90との間の隙間が、吐出された処理液Fで満たされる。
【0053】
その後、制御部50は、さらに移動機構40を動作させて、スリットノズル20を走査方向に移動させる。そうすると、時刻t3〜t5にかけて、
図9→
図8→
図7のように、吐出口22と対向する基板9の幅方向の寸法が、徐々に縮小する。このときも、被処理面90の幅方向の両端部付近においては、処理液Fの界面がメニスカスの状態を維持する。その結果、吐出口22からの処理液Fの幅方向の吐出範囲が、徐々に狭くなる。
【0054】
時刻t5になると、スリットノズル20の吐出口22が、有効エリア91の外接線と再び重なる位置L3に、スリットノズル20が配置される。位置L3では、フラット部630の略全体が、基板9の被処理面90に対向し、第1傾斜部631および第2傾斜部632の略全体が、基板9の外側に位置する。したがって、
図7のように、スリットノズル20のうち、フラット部630の下面と被処理面90との間の隙間のみが、吐出された処理液Fで満たされる状態となる。
【0055】
このように、この塗布装置1では、処理液Fの幅方向の吐出範囲を、基板9の幅方向の寸法に追従するように変化させることができる。このため、基板9の外側への処理液Fの余分な吐出を抑制しつつ、幅方向の寸法が一定でない円板状の基板9の有効エリア91全体に、処理液Fを塗布することができる。
【0056】
図10は、塗布処理中の時刻t1〜t5における吸引ポンプ82の出力Pの変化を示したグラフである。
図10の横軸は、時刻tを示している。
図10の縦軸は、吸引ポンプ82の出力Pを示している。上述の通り、時刻t1,t5では、第1傾斜部631および第2傾斜部632の略全体が、基板9の外側に位置する。このため、時刻t1,t5では、第1傾斜部631および第2傾斜部632からの処理液Fの吐出を抑制するために、吸引ポンプ82を比較的高い出力P1で動作させる。一方、時刻t3では、第1傾斜部631および第2傾斜部632の略全体が、基板9の被処理面90と対向する。このため、時刻t3では、第1傾斜部631および第2傾斜部632からの処理液Fの吐出を促すために、吸引ポンプ82を比較的低い出力P2で動作させる。
【0057】
また、
図10の例では、時刻t1から時刻t3までの間は、吸引ポンプ82の出力を徐々に低下させている。このようにすれば、スリットノズル20からの処理液の幅方向の吐出範囲を、徐々に無理なく拡大させることができる。また、
図10の例では、時刻t3から時刻t5までの間は、吸引ポンプ82の出力を徐々に増加させている。このようにすれば、スリットノズル20からの処理液の幅方向の吐出範囲を、徐々に無理なく縮小させることができる。
【0058】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0059】
図11は、一変形例に係るスリットノズル20の下面図である。
図3と
図11とを比較すると、
図3の例では、一対のリップ部63の走査方向の寸法が一定であるのに対し、
図11の例では、幅方向の位置によって、リップ部63の走査方向の寸法が変化している。具体的には、第1傾斜部631では、幅方向の一方の端部へ向かうにつれて、リップ部63の走査方向の寸法が大きくなっている。また、第2傾斜部632では、幅方向の他方の端部へ向かうにつれて、リップ部63の走査方向の寸法が大きくなっている。すなわち、
図11の例では、リップ部63の下面の幅方向の寸法が、基板9の被処理面90から遠ざかるにつれて、大きくなっている。
【0060】
このようにすれば、被処理面90と対向する時間が短い部分ほど、リップ部63の幅方向の寸法が大きくなる。したがって、リップ部63のうち、被処理面90と対向していない部分において、より多くの処理液をリップ部63に付着させて保持することができる。これにより、第1傾斜部631および第2傾斜部632からの処理液の不要な滴下を抑制できる。
【0061】
図12は、他の変形例に係るスリットノズル20の側面図である。
図4と
図12とを比較すると、
図4の例では、一対のリップ部63の下端面が、同一の高さに配置されているのに対し、
図12の例では、一対のリップ部63の下端面の高さが、互いに相違する。すなわち、一方のリップ部63の被処理面90からの距離と、他方のリップ部63の被処理面からの距離とが、互いに相違する。このようにすれば、これらのリップ部63の下端部の間に位置する吐出口22の付近に、表面張力で、より多くの処理液Fを保持することができる。
【0062】
特に、第1傾斜部631および第2傾斜部632では、基板9と対向していないときに、処理液Fを保持する必要がある。第1傾斜部631および第2傾斜部632において、
図12のように、リップ部63の下端面の高さを相違させれば、第1傾斜部631および第2傾斜部632からの処理液の不要な滴下を、より抑制できる。
【0063】
また、
図12に示すように、一対のリップ部63の下端面の高さの差(一方のリップ部63の被処理面90からの距離と、他方のリップ部63の被処理面90からの距離との差)をdとすると、第1傾斜部631および第2傾斜部632におけるdの値は、幅方向の端部へ向かうにつれて(被処理面90から遠ざかるにつれて)、大きくすることが好ましい。そうすれば、被処理面90と対向する時間が短い部分ほど、リップ部63の段差が大きくなる。したがって、リップ部63のうち、被処理面90と対向していない部分において、より多くの処理液を保持することができる。これにより、第1傾斜部631および第2傾斜部632からの処理液の不要な滴下を、さらに抑制できる。
【0064】
また、上記の実施形態では、スリットノズル20の第1傾斜部631と第2傾斜部632との間に、フラット部630が設けられていた。しかしながら、フラット部630が省略されていてもよい。例えば、基板9の上面の端から端まで処理液を塗布する必要がある場合には、第1傾斜部631と第2傾斜部632とが直接隣接していてもよい。その場合、第1傾斜部631と第2傾斜部632とに亘って、吐出口22が設けられていればよい。ただし、上記の実施形態のように、リップ部63の中央にフラット部630を設ければ、基板9の幅方向の中央付近において、均一に処理液を塗布しやすい点で好ましい。
【0065】
また、上記の実施形態では、円板状の基板9を処理対象としていた。しかしながら、本発明のスリットノズルは、円板以外の形状の基板を処理対象とするものであってもよい。例えば、矩形の基板を対角線方向に相対移動させながら、処理液を塗布するものであってもよい。一対のリップ部は、基板の形状に応じて、塗布処理中に基板の幅方向の位置が変化する範囲に、傾斜部を有していればよい。上記の実施形態では、左右の2箇所に傾斜部631,632が設けられていたが、基板の形状によっては、1箇所だけに傾斜部が設けられていてもよい。
【0066】
また、上記の実施形態では、水平に配置された基板に対して処理液を塗布していた。しかしながら、本発明のスリットノズルは、水平から傾いた姿勢で配置される基板に対して、処理液を塗布するものであってもよい。
【0067】
また、上記の実施形態では、ステージ10上において静止した基板9に対して、スリットノズル20を移動させつつ、処理液を塗布していた。しかしながら、スリットノズルの位置を固定し、それに対して基板を移動させながら、処理液を塗布してもよい。すなわち、本発明のスリットノズルは、走査方向に相対的に移動する基板の被処理面に対して、塗布処理を行うものであればよい。また、本発明のスリットノズルは、レジスト液や現像液以外の液体を吐出するものであってもよい。
【0068】
また、上記の実施形態では、半導体ウェハを処理対象としていたが、本発明のスリットノズル、塗布装置、および塗布方法は、液晶表示装置用ガラス基板、PDP用ガラス基板、フォトマスク用ガラス基板、カラーフィルタ用基板、記録ディスク用基板、太陽電池用基板などの他の精密電子装置用基板を、処理対象とするものであってもよい。
【0069】
また、スリットノズルの細部や、塗布装置の構成については、本願の各図に示された構成と、相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。