(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記治具は、円柱形状をしており、複数の輪状の前記無端状のベルトを、前記無端状のベルトの内周面又は外周面が前記円柱形状の治具の側面に密着するように巻き掛けることを特徴とする請求項4に記載のベルトの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記要望を実現するために、熱転写法によって、ベルトの背面全体に絵柄を印刷しようとすると、特許文献1の
図2に示すように、転写マーク材を複数回ベルト背面に加熱加圧し転写するため作業効率が悪く、また転写マーク材の継ぎ目が複数個所発生してしまうため外観上優れないといった問題点がある。
【0006】
また、インクジェット法によって、ベルトの背面全体に絵柄を印刷しようとすると、特許文献2の
図3に示すように、ベルトまたはインクノズルの位置を変えながら印刷するため、印刷ムラや継ぎ目が生じやすい。また、多色を印刷することが難しいので、印刷する絵柄の意匠性に欠けてしまう。
【0007】
そこで、印刷ムラや継ぎ目を生じさせないように、特許文献3〜特許文献6に記載された水圧転写法を用いて、ベルトの背面全体に絵柄(マーク)を印刷することが考えられる。この水圧転写法は、絵柄(マーク)を印刷したフィルムを水に浮かべ、フィルム上に被転写物を置いて沈めることにより、フィルムを水圧により被転写物に吸着させて、絵柄(マーク)を被転写物に転写させる手法である。
【0008】
更に、無端状のベルトの背面に水圧転写法を用いて、絵柄(マーク)を転写(印刷)する場合には、無端状ベルトが、曲面形状を有する輪状のベルトであることから、無端状ベルトの背面に絵柄を、よりムラなく転写する必要がある。
【0009】
そこで、本発明は、ベルトに転写層(絵柄)を継ぎ目が無く良好な外観で、ムラなく転写することができるベルトの製造方法及びベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一つは、水面上に配置した、転写層を有する転写フィルムに、ベルトを押し入れ、水圧の力を利用して前記ベルトに前記転写フィルムの前記転写層を転写する工程を含むことを特徴とするベルトの製造方法である。
【0011】
上記方法によれば、水圧により転写フィルムの転写層をベルトに転写させることができる。これによれば、従来の熱転写法や、インクジェット法に比べて、印刷ムラや継ぎ目を生じさせないようにすることができる。
【0012】
また、本発明の一つは、水面上に配置した、転写層を有する転写フィルムに、無端状のベルトを、円形状に保持しつつ、無端状のベルトの一方の側面全体が前記転写フィルムに接するように押し入れ、水圧の力を利用して前記無端状のベルトの外周面及び内周面の少なくとも一方に前記転写フィルムの前記転写層を転写する工程を含むことを特徴とするベルトの製造方法である。
【0013】
上記方法によれば、無端状のベルト、即ち、曲面形状を有する輪状のベルトを、円形状に保ちながら、無端状のベルトの一方の側面全体が転写フィルムに接するように押し入れて、無端状のベルトの外周面や内周面に水圧をかけることにより、無端状のベルトの外周面や内周面に転写層を継ぎ目が無く、良好な外観で転写することができる。より詳しくは、無端状のベルトを円形状に保持することにより、無端状のベルトの外周面や内周面に対して均一な曲率を与えることができ、無端状のベルトの外周面や内周面に転写フィルムの転写層を転写する際のムラを防止することができる。また、無端状のベルトの一方の側面全体が転写フィルムに接するように押し入れることにより、無端状のベルトの外周面や内周面に均一な水圧をかけることができ、無端状のベルトの外周面や内周面に転写層を転写する際のムラを防止することができる。
【0014】
また、本発明の一つは、前記転写層を転写させる前記無端状のベルトの外周面及び内周面の少なくとも一方にプライマーを塗布し、その後、乾燥させるプライマー工程と、
水面上に前記転写層を有する前記転写フィルムを配置する転写フィルム配置工程と、
前記水面上に配置した、前記転写層を有する前記転写フィルムに、前記無端状のベルトを、円形状に保持しつつ、無端状のベルトの一方の側面全体が前記転写フィルムに接するように押し入れ、浸漬させて前記転写フィルムの前記転写層を前記無端状のベルトの外周面及び内周面の少なくとも一方に吸着させる転写工程と、
前記転写フィルムの前記転写層を吸着させた前記無端状のベルトを前記水面から取り出し、取り出した前記無端状のベルトを洗浄し、その後乾燥させる乾燥工程と、を含むことを特徴とする上記に記載のベルトの製造方法である。
【0015】
上記方法によれば、プライマー工程により、無端状のベルトの外周面や内周面に対する転写層の附着性を向上させることができる。また、転写フィルム配置工程、及び、転写工程を経ることにより、曲面形状を有する輪状の無端状のベルトに対して、均一な水圧をかけることにより転写層を継ぎ目が無く、良好な外観で転写することができる。また、乾燥工程を経ることにより、無端状のベルトの外周面や内周面に対する転写層の密着度を高めることができる。
【0016】
また、本発明の一つは、前記無端状のベルトにおいて、前記転写層を転写させない部分に離型剤を塗布する離型剤塗布工程を更に含むことを特徴とするベルトの製造方法である。
【0017】
上記方法によれば、無端状のベルトにおいて、転写層を転写させたくない部分に離型剤を塗布することにより、転写層を転写させたい部分にのみ転写層を転写させることができる。
【0018】
また、本発明の一つは、前記無端状のベルトの内周面又は外周面に、前記無端状のベルトの内周面又は外周面を覆う治具を配置する治具配置工程を更に含むことを特徴とするベルトの製造方法である。
【0019】
上記方法によれば、無端状のベルトに、無端状のベルトの内周面又は外周面を覆う治具を配置することにより、無端状のベルトの内周面又は外周面には転写層を転写させず、無端状のベルトの内周面以外又は外周面以外の部分にのみ転写層を転写させることができる。
【0020】
また、本発明の一つは、前記治具が、円柱形状をしており、複数の輪状の前記無端状のベルトを、前記無端状のベルトの内周面又は外周面が前記円柱形状の治具の側面に密着するように巻き掛けることを特徴とするベルトの製造方法である。
【0021】
上記方法によれば、円柱形状をした治具に複数の無端状のベルトを巻き掛けることにより、複数の無端状のベルトを、円形状に保持し易くすることができる。また、円柱形状をした治具に複数の無端状のベルトを巻き掛けることにより、一回の転写工程で、複数の無端状のベルトの外周面又は内周面に転写層を吸着させることができる。
【0022】
また、本発明の一つは、前記乾燥工程において、前記無端状のベルトの外周面及び内周面の少なくとも一方に転写された前記転写層を保護するコーティング剤を塗布することを特徴とするベルトの製造方法である。
【0023】
上記方法によれば、コーティング剤によって、無端状のベルトの外周面や内周面に転写された転写層を保護することができる。
【0024】
また、本発明の一つは、上記製造方法において、前記ベルトが、当該ベルトの外周面及び内周面の少なくとも一方に突起が形成されていることを特徴とする。
【0025】
上記構成によれば、突起のような凹凸物に対しても、外観品質を保ちながらマークの印刷(転写)をすることができる。
【0026】
また、本発明の一つは、上記に記載した製造方法によって製造されることを特徴とするベルトである。
【0027】
上記構成によれば、従来の熱転写法や、インクジェット法に比べて、ムラがない絵柄・マークを有するベルトを提供することができる。
【0028】
また、本発明の一つは、上記に記載した製造方法によって製造される無端状のベルトであって、前記無端状のベルトの外周面及び内周面の少なくとも一方に前記転写層が継ぎ目なく転写されたベルトである。
【0029】
上記構成によれば、無端状のベルトの外周面や内周面に、ムラがなく、継ぎ目のない絵柄・マークを有するベルトを提供することができる。
【発明の効果】
【0030】
ベルトに転写層(絵柄)を継ぎ目が無く良好な外観で、ムラなく転写することができるベルトの製造方法及びベルトを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0033】
(本実施形態に係るベルトの製造方法の概要)
本実施形態では、ベルトの製造工程において、
図1及び
図2に示すように、容器10に張った水11の水面上に浮かした、絵柄(転写層)が印刷された転写フィルム12に、成型された無端状の歯付ベルト1を押し入れ、水圧の力を利用して歯付ベルト1に転写フィルム12の絵柄を転写する工程(水圧転写)について説明する。
【0034】
(歯付ベルト1)
歯付ベルト1は、転写フィルム12の絵柄が転写される被転写物である。歯付ベルト1は、
図1の(1)に示すように、無端状で、歯付ベルト1の内周面5に複数の凸状の歯部2が設けられており、歯付ベルト1の背面3(ベルトの外周面に相当)が、曲面形状をしている。この歯付ベルト1は、駆動プーリと従動プーリとの間に巻き掛けられて伝動用ベルト及び搬送用ベルトとして使用される。
【0035】
なお、本実施形態では、歯付ベルトを使用しているが、ベルトの形状・種類は問わず、平ベルト、Vリブドベルト、コンベヤベルトなどでもよいし、ベルトは成型後に限らず、所望の幅に切断していない状態のベルトであってもよい。また、本実施形態では、無端状のベルトを使用しているが(エンドレスタイプ)、ベルトの両端があるオープンエンドタイプであってもよい。
【0036】
また、歯付ベルトとしては、
図4に示すように、背面103に複数の突起107が形成された背面突起付きの歯付ベルト101であってもよい。背面突起付きの歯付ベルト101の突起107の形状・個数は、搬送物の形状・搬送態様により様々に変更可能なものである。なお、ここでは、歯付ベルトに設けられた突起に関して、背面103に複数の突起107が形成された背面突起付きの歯付ベルト101を例に挙げたが、Vリブドベルト等の内周面に設けられたリブや歯付ベルトの歯部2も広義の突起として例に挙げることができる。
【0037】
歯付ベルト1は、本実施形態では、主にウレタン樹脂組成物からなるものを使用している。ウレタン樹脂組成物は、液状のウレタン原料を注型、加熱することによって得られるが、一般に成形方法としては、ポリオール、触媒、鎖延長剤、顔料等を混合したプレミックス液と、イソシアネート成分を含有する溶液とを混合し、これを注型して硬化反応させるワンショット法と、予めイソシアネートとポリオールを反応させて、イソシアネートの一部をポリオールで変性したプレポリマーと硬化剤を混合して注型し、架橋反応させて成型している。なお、歯付きベルト1は、その組成材料として、ゴム、ウレタン、樹脂など特に限定されるものではない。また、歯付ベルト1の構成としても多層構造としてもよいし、背面3に心線を入れてもよいし、背面3が帆布で被覆されていても良い。
【0038】
(転写フィルム)
転写フィルム12は、歯付ベルト1に転写する転写層に相当する絵柄が印刷された転写物である。転写フィルム12は、ポリビニルアルコール樹脂を主成分とするベースフィルムに所望の絵柄が印刷された薄膜状のフィルムである。転写フィルム12は、水溶性又は水膨潤性のベースフィルムと、片側に印刷された絵柄を備えたものであれば良い。
【0039】
ベースフィルムとしては、水溶性又は水膨潤性であればよく、上記ポリビニルアルコール樹脂、テキストリン,ゼラチン,にかわ,カゼイン,セラツク,アラビアゴム,でん粉,蛋白,ポリアクリル酸アミド,ポリアクリル酸ソーダ,ポリビニルメチルエーテル,メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸の共重合体、ポリビニルピロリドン,あるいはセルロース,アセチルセルロース,アセチルブチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,メチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、アルギン酸ソーダなどの単独または混合樹脂等の10〜100μm程度のものが挙げられる。
【0040】
転写フィルム12のベースフィルムに印刷される絵柄(転写層)は、印刷に使用されるインキ組成物からなり、それ自体は公知のものを利用できる。絵柄は、マーク・模様など様々なものを採用することができる。また、絵柄のベースフィルムへの印刷は、特に限定されるものではなく、グラビア印刷、グラビアオフセツト印刷、もしくはスクリーン印刷等が挙げられ、印刷する絵柄の形状、特性に合わせた印刷法を用いればよい。
【0041】
(ベルトの製造方法:水圧転写)
次に、歯付ベルト1の製造方法に関して、成型後の歯付ベルト1の背面3に転写フィルム12の絵柄を転写する工程(水圧転写)を中心に説明する。
【0042】
(プライマー工程)
まず、
図1の(1)に示すように、転写フィルム12の絵柄を転写させたい場所、具体的には、歯付ベルト1の背面3に、プライマー塗料を塗布する。そして、プライマーを塗布した後、
図1の(2)に示すように、歯付ベルト1を加熱乾燥炉20に入れて、60〜70℃の室温で1時間乾燥させる。
【0043】
(離型剤塗布工程)
次に、
図1の(3)に示すように、転写フィルム12の絵柄を転写させたくない場所、具体的には、歯付ベルト1の両側面4及び歯付ベルト1の歯部2が設けられた内周面5に、離型剤を塗布する。
【0044】
(転写フィルム配置工程)
一方で、
図1の(4)に示すように、容器10に水11を張る。なお、水11には、転写フィルム12のベースフィルムの水11に対する溶解を促進させるアミラーゼ等を添加してもよい。
【0045】
次に、
図1の(5)に示すように、容器10に張った水11の水面上に転写フィルム12を浮かべる。
【0046】
(転写工程)
次に、
図1の(6)に示すように、水面上に浮かべた転写フィルム12に、離型剤塗布工程を経た歯付ベルト1を、円形状に保持しつつ、歯付ベルト1の一方の側面全体が転写フィルム12に接するように乗せる。そして、
図2の(7)に示すように、水面上に浮かべた転写フィルム12に歯付ベルト1を押し入れ、水中に沈め、歯付ベルト1を水11に浸漬させて、水圧により転写フィルム12の絵柄を歯付ベルト1の背面3に転写(吸着)させる。
【0047】
なお、歯付ベルト1の転写フィルム12に対する押し入れ方法としては、上記手順に限らず、転写したい部分が、転写フィルム12に絡むように押し入れればよく、歯付ベルト1の背面3から押し入れても良い。また、上記工程では、成型後の歯付ベルト1について水圧転写を実施しているが、成型前の加硫前の段階で水圧転写を実施してもよい。
【0048】
(乾燥工程)
次に、
図2の(8)に示すように、転写フィルム12の絵柄を転写させた歯付ベルト1を水中から取り出す。その後、歯付ベルト1への絵柄転写後に残るベースフィルム成分の残りを温水で洗い流し(洗浄)、歯付ベルト1の表面の水滴を拭き取る。歯付ベルト1の表面の水滴を拭き取った後、乾燥させ(加熱乾燥炉20による乾燥、自然乾燥など)、
図2の(9)に示すように、歯付ベルト1の背面3に転写された絵柄を保護するコーティング剤(例えば、アクリルウレタン系のトップコート塗料)を塗布する。
【0049】
その後、
図2の(10)に示すように、歯付ベルト1を加熱乾燥炉20に入れて、60〜70℃の室温で3時間乾燥させる。その後、
図2の(10)に示すように、加熱乾燥炉20から歯付ベルト1を取り出し完成とする。
【0050】
なお、上記説明では、歯付ベルト1の背面に転写フィルム12の絵柄を転写しているが、転写する箇所は歯付ベルト1の側面でもよいし、歯付ベルト1の内周面5でもよい。
【0051】
上記方法によれば、無端状の歯付ベルト1、即ち、曲面形状を有する輪状の歯付ベルト1を、円形状に保ちながら、歯付ベルト1の一方の側面全体が転写フィルム12に接するように押し入れて、歯付ベルト1の背面3に水圧をかけることにより、歯付ベルト1の背面3に転写フィルム12の絵柄を継ぎ目が無く、良好な外観で転写することができる。より詳しくは、歯付ベルト1を円形状に保持することにより、歯付ベルト1の背面3に対して均一な曲率を与えることができ、歯付ベルト1の背面3に転写フィルム12の絵柄を転写する際のムラを防止することができる。また、歯付ベルト1の一方の側面全体が転写フィルム12に接するように押し入れることにより、歯付ベルト1の背面3に均一な水圧をかけることができ、歯付ベルト1の背面3に転写フィルム12の絵柄を転写する際のムラを防止することができる。
【0052】
また、上記方法によれば、プライマー工程により、歯付ベルト1の背面3に対する転写フィルム12の絵柄の附着性を向上させることができる。また、転写フィルム配置工程、及び、転写工程を経ることにより、曲面形状を有する輪状の歯付ベルト1に対して、均一な水圧をかけることにより転写フィルム12を継ぎ目が無く、良好な外観で転写することができる。また、乾燥工程を経ることにより、歯付ベルト1の背面3に対する転写フィルム12の絵柄の密着度を高めることができる。
【0053】
また、上記方法によれば、歯付ベルト1において、転写フィルム12の絵柄を転写させたくない部分(歯付ベルト1の側面、内周面5、歯部2)に離型剤を塗布することにより(離型剤塗布工程)、転写フィルム12の絵柄を転写させたい部分(背面3)にのみ転写フィルム12の絵柄を転写させることができる。
【0054】
また、上記方法によれば、コーティング剤によって、歯付ベルト1の背面3に転写された転写フィルム12の絵柄を保護することができる。
【0055】
また、上記製造方法によって製造された歯付ベルト1は、従来の熱転写法や、インクジェット法に比べて、ムラがない絵柄を有している。
【0056】
また、上記製造方法によって製造される歯付ベルト1は、背面3に、ムラがなく、継ぎ目のない絵柄を有している。
【0057】
(治具30)
上記説明では、単体の歯付ベルト1を水面に浮かんだ転写フィルム12に押し入れているが、
図3に示す治具30を用いて転写工程を行ってもよい。具体的には、治具30は、円筒形状(円柱状)をしており、治具30の一方端に治具30の直径より大きいフランジ31が設けられた形状をしている。また、本実施形態に係る治具30の円筒部分の直径は、歯付ベルト1の内周面5の直径と同等、もしくは若干大きめの大きさであり、治具30の高さは、歯付ベルト1の横幅の複数倍である(複数の歯付ベルト1を治具30に巻き掛け可能)。なお、治具30の高さは、少なくとも歯付ベルト1の横幅の2倍以上あればよい。
【0058】
そして、使用方法としては、治具30の側面(円筒部分)に、歯付ベルト1の内周面5が密着するように、複数の歯付ベルト1を巻き掛ける。この際、最初に巻き掛けた歯付ベルト1の一方の側面がフランジ31に接した状態になる。その後、別の歯付ベルト1を治具30に巻き掛けると、別の歯付ベルト1の一方の側面が、最初に巻き掛けた歯付ベルト1の他方の側面と接した状態になる。これを繰り返して、治具30に複数の歯付ベルト1を巻き掛けたうえで、固定する。なお、歯付ベルト1の内周面5側に絵柄を転写させる場合には、治具30の側面(円筒部分)に、歯付ベルト1の背面3が密着するように、複数の歯付ベルト1を巻き掛けることになる。
【0059】
そして、転写工程において、水面上に浮かべた転写フィルム12に、複数の歯付ベルト1を巻き掛けた治具30を押し入れ、水中に沈め、水圧により転写フィルム12の絵柄を治具30に巻き掛けられた複数の歯付ベルト1の背面3に、一回の作業で転写させる。
【0060】
上記治具30を使用すれば、歯付ベルト1に、内周面5を覆う治具30を配置することにより、歯付ベルト1の内周面5には転写フィルム12の絵柄を転写させず、歯付ベルト1の内周面5以外の部分(背面3)にのみ転写フィルム12の絵柄を転写させることができる。
【0061】
また、円筒形状(円柱形状)をした治具30に複数の歯付ベルト1を巻き掛けることにより、複数の歯付ベルト1を、円形状に保持し易くすることができる。また、治具30に複数の歯付ベルト1を巻き掛けることにより、一回の転写工程で、複数の歯付ベルト1の背面3に転写フィルム12の絵柄を転写(吸着)させることができる。
【0062】
なお、上記製造方法は、歯付ベルト1の背面3に絵柄(マーク)を転写する場合に限らず、歯付ベルト1の内周面5に絵柄(マーク)を転写する場合にも採用できる。また、上記製造方法は、歯付ベルト1内周面5に配置された歯部2に絵柄(マーク)を転写する場合にも採用できる。また、上記製造方法は、
図4に示す、歯付ベルト101の背面103に形成された複数の突起107に対して、絵柄(マーク)を転写する場合にも採用できる。
【実施例】
【0063】
次に、表1に記載したように、歯付ベルトの背面に対するマーク(絵柄)の印刷(転写)を、上記実施形態に係る水圧転写を用いた場合(実施例1、実施例2、実施例3)と、熱転写(特許文献1参照)を用いた場合(比較例1、比較例3)と、インクジェット(特許文献2参照)を用いた場合(比較例2)についてそれぞれ行った。実施例1、比較例1、及び、比較例2で使用したベルトは、ポリウレタン製の歯付ベルト(150S8M1200)であり、ベルト幅15mm、歯部のピッチ(間隔)は8mmであり、ベルト周長が1200mmのものである。また、実施例2で使用したベルトは、ポリウレタン製の歯付ベルト(150S3M1440)であり、ベルト幅15mm、歯部のピッチ(間隔)は3mmであり、ベルト周長が1440mmのものである。実施例3、及び、比較例3で使用したベルトは、
図4に示すような背面に突起を設けたポリウレタン製の背面突起付きの歯付ベルト(400S14M952)であり、ベルト幅40mm、歯部のピッチ(間隔)は14mmであり、ベルト周長が952mmのものである。また、印刷作業回数は、歯付ベルトの背面全周に印刷するため、熱転写プレス又はインクジェット印刷作業を繰り返した回数を記載している。なお、実施例1、実施例2、実施例3に係る水圧転写は1回としている。
【0064】
そして、実施例1〜3、及び、比較例1〜3のそれぞれの歯付ベルトについて、目視による外観品質の評価、走行試験、耐候性試験を行った。
【0065】
目視による外観品質の評価では、各例の歯付ベルトの背面に対するマーク(絵柄)の印刷(転写)に関して、継ぎ目なく印刷されているか否かを、「○:継ぎ目がない」、「△:継ぎ目がある」、「×:印刷できなかった」の3段階に分けて目視により評価した。その結果を、表1に記載した。
【0066】
外観品質の評価結果によると、印刷方法として、水圧転写を使用した方が、熱転写や、インクジェットに比べて、1回の作業回数によって、マーク(絵柄)の継ぎ目がなく歯付ベルトの背面全体への転写が可能であり、印刷ムラもなく外観品質に優れた歯付ベルトを製造することができることが分かった。
【0067】
また、実施例3(水圧転写)の背面突起付きの歯付ベルトでは、突起にもマーク(絵柄)の印刷(転写)ができたが、比較例3(熱転写)の背面突起付きの歯付ベルトでは、突起にはマーク(絵柄)の印刷(転写)ができなかった。従って、熱転写を使用した場合よりも水圧転写を使用した方が、突起のような凹凸物に対して、外観品質を保ちながらマークの印刷(転写)をすることができることが分かった。
【0068】
走行試験では、実施例1、比較例1、比較例2に関しては、
図5のレイアウトで、S8M歯形24歯の駆動プーリ(Dr)と、S8M歯形24歯の従動プーリ(Dn)との間に各例の歯付ベルトを巻き掛けて走行試験を行なった。また、実施例2に関しては、
図5のレイアウトで、S3M歯形14歯の駆動プーリ(Dr)と、S3M歯形14歯の従動プーリ(Dn)との間に歯付ベルトを巻き掛けて走行試験を行なった。また、実施例3に関しては、
図5のレイアウトで、S14M歯形28歯の駆動プーリ(Dr)と、S3M歯形28歯の従動プーリ(Dn)との間に歯付ベルトを巻き掛けて走行試験を行なった。各駆動プーリの駆動回転数は1800rpmとし、歯付ベルトに対する負荷は無負荷であり、走行時間は100時間とした。そして、走行試験後の各例の歯付ベルトを観察して、マーク剥がれがあるか否かを判断した。その結果を、表1に記載した。
【0069】
走行試験の結果によると、実施例1〜3に係る水圧転写により歯付ベルトにマークを印刷(転写)した場合(マーク剥がれなし)でも、比較例1の熱転写による印刷(マーク剥がれなし)、又は、比較例2のインクジェットによる印刷(マーク剥がれなし)と同等の耐久性を持っていることが分かった。
【0070】
耐候性試験では、試験機キセノンウェザーメーターを使用して疑似的な太陽光を各例の歯付ベルトの照射し、その劣化を外観観察により異常があるか否かにより判断した。試験条件としては、照度:180W/m2、温度:63℃、照射時間:100時間とした。その結果を、表1に記載した。
【0071】
耐候性試験の結果によると、実施例1〜3に係る水圧転写により歯付ベルトにマークを印刷(転写)した場合(外観異常なし)でも、比較例1の熱転写による印刷(外観異常なし)、又は、比較例2のインクジェットによる印刷(外観異常なし)と同等の耐候性を持っていることが分かった。
【0072】
【表1】
【0073】
上記表1の結果をまとめると、印刷方法として、水圧転写を使用した方が、熱転写や、インクジェットに比べて、1回の作業回数によって、マーク(絵柄)の継ぎ目がなく歯付ベルトの背面全体への転写が可能であり、印刷ムラもなく外観品質に優れた歯付ベルトを製造することができることが分かった。また、耐久性や耐候性についても、印刷方法として水圧転写を使用した場合でも、熱転写や、インクジェットを使用した場合と同等の性能を持っていることが分かった。
【0074】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態及び実施例に限定されるものでないと考えられるべきである。また、本発明の範囲は、上記した実施形態及び実施例の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。