特許第6473058号(P6473058)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473058
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】試料台および試料加工方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20190207BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   G01N1/28 W
   G01N1/28 F
   G01N1/28 G
   H01J37/20 A
【請求項の数】14
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-148548(P2015-148548)
(22)【出願日】2015年7月28日
(65)【公開番号】特開2017-26574(P2017-26574A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏洋
【審査官】 西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−025133(JP,A)
【文献】 特開2014−022601(JP,A)
【文献】 特開平09−210883(JP,A)
【文献】 特開2010−009774(JP,A)
【文献】 特開2012−057945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00− 1/44
H01J 37/20
H01J 37/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料にイオンビームを照射して加工する際に、前記試料を保持するために用いられるイオンビーム加工用の試料台であって、
前記試料が固定される試料固定部と、
前記試料固定部を支持している支持部と、
を含み、
前記試料固定部は、前記支持部から、前記支持部の主面の面内方向である第1方向に突出し、
前記試料固定部は、圧延組織を有する金属で構成され、
前記圧延組織は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記第1方向と交差する第2方向に長手方向を持つ結晶粒で構成されている、試料台。
【請求項2】
請求項1において、
前記試料固定部は、前記支持部に接続されている根元部と、前記根元部よりも幅が小さい先端部と、を有している、試料台。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記支持部の外縁の少なくとも一部は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、円弧の形状を有し、
前記試料固定部の先端部は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記円弧の中心に位置している、試料台。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記第1方向と前記第2方向とがなす角度は、45度以上90度以下である、試料台。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記第1方向と前記第2方向とがなす角度は、90度である、試料台。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、
前記試料固定部を構成する金属は、銅、モリブデン、ロジウム、ルテニウム、レニウム、ベリリウム、チタン、またはこれらの金属のうちの少なくとも1種を含む合金である、試料台。
【請求項7】
試料にイオンビームを照射して加工する際に、前記試料を保持するために用いられるイオンビーム加工用の試料台であって、
前記試料が固定される試料固定部と、
前記試料固定部を支持している支持部と、
を含み、
前記試料固定部は、前記支持部から、前記支持部の主面の面内方向である第1方向に突出し、
前記試料固定部は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記第1方向と交差する第2方向に長手方向を持つ結晶粒で構成された材料で構成されている、試料台。
【請求項8】
試料が固定される試料固定部と、前記試料固定部を支持する支持部と、を有し、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記試料の先端側が前記試料固定部の端面よりも突出するように固定される、イオンビーム加工用の試料台であって、
前記試料固定部は、圧延組織を有する金属で構成され、
前記圧延組織は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記試料固定部の端面の垂線の方向と交差する方向に長手方向を持つ結晶粒で構成され、
前記試料固定部の端面の垂線の方向は、前記支持部の主面の面内方向である、試料台。
【請求項9】
試料が固定される試料固定部と、前記試料固定部を支持している支持部と、を含み、前記試料固定部は、前記支持部から、前記支持部の主面の面内方向である第1方向に突出し、前記試料固定部は、圧延組織を有する金属で構成され、前記圧延組織は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記第1方向と交差する第2方向に長手方向を持つ結晶粒で構成されている、試料台を準備する工程と、
前記試料固定部に前記試料を固定する工程と、
前記試料台に固定された前記試料を、イオンビームを用いて加工する工程と、
を含む、試料加工方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記試料固定部に前記試料を固定する工程では、前記試料の先端側が前記試料固定部から突出するように前記試料を前記試料固定部の先端部に固定する、試料加工方法。
【請求項11】
請求項9または10において、
前記試料台に固定された前記試料をイオンビームを用いて加工する工程では、前記試料固定部の先端部に固定された前記試料に対して、前記試料固定部の根元部側からイオンビームを照射する、試料加工方法。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれか1項において、
前記試料固定部に前記試料を固定する工程の前に、前記試料固定部をイオンビームを用いて薄片化する工程を含む、試料加工方法。
【請求項13】
試料が固定される試料固定部と、前記試料固定部を支持している支持部と、を含み、前記試料固定部は、前記支持部から、前記支持部の主面の面内方向である第1方向に突出し、前記試料固定部は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記第1方向と交差する第2方向に長手方向を持つ結晶粒で構成された材料で構成されている、試料台を準備する工
程と、
前記試料固定部に前記試料を固定する工程と、
前記試料台に固定された前記試料を、イオンビームを用いて加工する工程と、
を含む、試料加工方法。
【請求項14】
試料が固定される試料固定部と、前記試料固定部を支持する支持部と、を有し、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記試料の先端側が前記試料固定部の端面よりも突出するように固定される、イオンビーム加工用の試料台であって、前記試料固定部は、圧延組織を有する金属で構成され、前記圧延組織は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記試料固定部の端面の垂線の方向と交差する方向に長手方向を持つ結晶粒で構成され、前記試料固定部の端面の垂線の方向は、前記支持部の主面の面内方向である、試料台を準備する工程と、
前記試料固定部に、前記試料を、前記支持部の主面の垂線方向から見て前記試料の先端側が前記試料固定部の端面よりも突出するように固定する工程と、
前記試料台に固定された前記試料を、イオンビームを用いて加工する工程と、
を含む、試料加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料台および試料加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡(TEM)用の試料を作製する方法として、試料を集束イオンビーム(FIB)装置で加工して摘出し、摘出された試料を試料台に固定し、試料台に固定された試料をブロードイオンビーム装置で追加工する方法が知られている。
【0003】
FIB装置で加工された試料には、FIB加工で用いられる高加速のGaイオンが試料表面に打ち込まれるため、試料観察面の表裏面の表層にそれぞれ厚さ10nm〜40nm程度の厚いダメージ層が存在する。
【0004】
このダメージ層では、試料のアモルファス化や、原子の移動、組成の変動、微結晶化等の変質が起こっており、本来の試料の状態とは異なったものに変化している。例えばFIB装置で試料の厚さを100nmに加工した場合、形成されるダメージ層が30nmとすると、この試料の本来の状態を保っている部分の厚さは40nmとなる。したがって、このような試料をTEM観察しても、詳細な解析は困難である。また、より高い分解能で試料をTEM観察するために、FIB装置で試料の厚さを30nm以下に加工した場合には、試料の本来の状態を保っている部分が無くなってしまい試料の全部がダメージ層となるため、試料の本来の状態を観察することはできない。
【0005】
そのため、FIB装置で加工された試料を詳細にTEM観察するには、FIB加工で生じたダメージ層を薄くする必要がある。したがって、TEM用の試料を作製する際には、FIB装置で加工された試料をブロードイオンビーム装置を用いて低加速イオンビームで加工することにより、ダメージ層を除去する。
【0006】
FIB装置で数十μm角以下、厚さ1μm程度の大きさに加工され、摘出された微小な試料は、他の装置に移し替える等の取り扱いが困難であるため、試料台に固定される。試料台に固定された試料は、FIB装置で試料の観察領域をTEM観察に適した100nm以下の厚さに加工された後、ブロードイオンビーム装置でダメージ層が除去される。
【0007】
このような試料台として、例えば、特許文献1には、シリコン基板を素材とし、試料固定部が基部から突出し、かつ、先端部に向かい厚さが小さくなる段構造を、半導体プロセス技術により作製した試料台が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−226970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の試料台では、シリコン基板を素材としているため、試料固定部に試料を固定する際や、試料台をピンセット等で持ち運ぶ際に、割れたり欠けたりする場合があり、取り扱いに注意が必要であった。
【0010】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、取り扱いやすい試料台を提供することにある。また、本発明のいく
つかの態様に係る目的の1つは、上記試料台を使用した試料加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る試料台は、
試料にイオンビームを照射して加工する際に、前記試料を保持するために用いられるイオンビーム加工用の試料台であって、
前記試料が固定される試料固定部と、
前記試料固定部を支持している支持部と、
を含み、
前記試料固定部は、前記支持部から、前記支持部の主面の面内方向である第1方向に突出し、
前記試料固定部は、圧延組織を有する金属で構成され、
前記圧延組織は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記第1方向と交差する第2方向に長手方向を持つ結晶粒で構成されている
【0012】
このような試料台では、試料固定部が圧延組織を有する金属で構成されているため、例えば、試料固定部がシリコンやセラミックス等の材料で構成されている場合と比べて、試料固定部に試料を固定する際や、試料台をピンセット等で持ち運ぶ際に、割れたり欠けたりすることがなく取り扱いやすい。
【0013】
また、このような試料台では、試料固定部が支持部から第1方向に突出し、平面視で第1方向と交差する第2方向に長手方向を持つ結晶粒で構成された圧延組織を有する金属で構成されているため、イオンビームで試料を加工する際に、再付着を防ぎつつ、平面視で試料固定部の突出する方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0014】
(2)本発明に係る試料台において、
前記試料固定部は、前記支持部に接続されている根元部と、前記根元部よりも幅が小さい先端部と、を有していてもよい。
【0015】
このような試料台では、試料固定部が撓んだり丸まったりしてその形状が変形することを防ぐことができるとともに、集束イオンビーム等で試料固定部の先端部を加工する際に加工量を少なくすることができる。
【0016】
(3)本発明に係る試料台において、
前記支持部の外縁の少なくとも一部は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、円弧の形状を有し、
前記試料固定部の先端部は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記円弧の中心に位置していてもよい。
【0017】
(4)本発明に係る試料台において、
前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記第1方向と前記第2方向とがなす角度は、45度以上90度以下であってもよい。
【0018】
このような試料台では、より厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0019】
(5)本発明に係る試料台において、
前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記第1方向と前記第2方向とがなす角度は、90度であってもよい。
【0020】
このような試料台では、より厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0021】
(6)本発明に係る試料台において、
前記試料固定部を構成する金属は、銅、モリブデン、ロジウム、ルテニウム、レニウム
、ベリリウム、チタン、またはこれらの金属のうちの少なくとも1種を含む合金であってもよい。
【0022】
(7)本発明に係る試料台は、
試料にイオンビームを照射して加工する際に、前記試料を保持するために用いられるイオンビーム加工用の試料台であって、
前記試料が固定される試料固定部と、
前記試料固定部を支持している支持部と、
を含み、
前記試料固定部は、前記支持部から、前記支持部の主面の面内方向である第1方向に突出し、
前記試料固定部は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記第1方向と交差する第2方向に長手方向を持つ結晶粒で構成された材料で構成されている
【0023】
このような試料台では、試料固定部が支持部から第1方向に突出し、平面視で第1方向と交差する第2方向に長手方向を持つ結晶粒で構成された材料で構成されているため、イオンビームで試料を加工する際に、平面視で試料固定部の突出する方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0024】
(8)本発明に係る試料台は、
試料が固定される試料固定部と、前記試料固定部を支持する支持部と、を有し、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記試料の先端側が前記試料固定部の端面よりも突出するように固定される、イオンビーム加工用の試料台であって、
前記試料固定部は、圧延組織を有する金属で構成され、
前記圧延組織は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記試料固定部の端面の垂線の方向と交差する方向に長手方向を持つ結晶粒で構成され、
前記試料固定部の端面の垂線の方向は、前記支持部の主面の面内方向である
【0025】
このような試料台では、試料固定部が圧延組織を有する金属で構成されているため、例えば、試料固定部がシリコンやセラミックス等の材料で構成されている場合と比べて、試料固定部に試料を固定する際や、試料台をピンセット等で持ち運ぶ際に、割れたり欠けたりすることがなく取り扱いやすい。
【0026】
また、このような試料台では、試料固定部は、平面視で試料固定部の端面の垂線の方向と交差する方向に長手方向を持つ結晶粒で構成された圧延組織を有する金属で構成されているため、イオンビームで試料を加工する際に、平面視で試料固定部の端面の垂線の方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0027】
(9)本発明に係る試料加工方法は、
試料が固定される試料固定部と、前記試料固定部を支持している支持部と、を含み、前
記試料固定部は、前記支持部から、前記支持部の主面の面内方向である第1方向に突出し、前記試料固定部は、圧延組織を有する金属で構成され、前記圧延組織は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記第1方向と交差する第2方向に長手方向を持つ結晶粒で構成されている、試料台を準備する工程と、
前記試料固定部に前記試料を固定する工程と、
前記試料台に固定された前記試料を、イオンビームを用いて加工する工程と、
を含む。
【0028】
このような試料加工方法では、試料台の試料固定部が圧延組織を有する金属で構成されているため、取り扱いやすい。また、このような試料加工方法では、試料台の試料固定部が支持部から第1方向に突出し、平面視で第1方向と交差する第2方向に長手方向を持つ結晶粒で構成された圧延組織を有する金属で構成されているため、イオンビームで試料を加工する工程において、平面視で試料固定部の突出する方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0029】
(10)本発明に係る試料加工方法において、
前記試料固定部に前記試料を固定する工程では、前記試料の先端側が前記試料固定部から突出するように前記試料を前記試料固定部の先端部に固定してもよい。
【0030】
(11)本発明に係る試料加工方法において、
前記試料台に固定された前記試料をイオンビームを用いて加工する工程では、前記試料固定部の先端部に固定された前記試料に対して、前記試料固定部の根元部側から前記イオンビームを照射してもよい。
【0031】
このような試料加工方法では、平面視で試料固定部の突出する方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0032】
(12)本発明に係る試料加工方法において、
前記試料固定部に前記試料を固定する工程の前に、前記試料固定部をイオンビームを用いて薄片化する工程を含んでいてもよい。
【0033】
このような試料加工方法では、試料固定部の厚さを小さくすることができるため、イオンビーム加工(ブロードイオンビーム加工)における再付着を防ぎつつ、試料台に固定された試料を電子顕微鏡等に導入して分析を行う際に、システムノイズを低減することができる。
【0034】
(13)本発明に係る試料加工方法は、
試料が固定される試料固定部と、前記試料固定部を支持している支持部と、を含み、前記試料固定部は、前記支持部から、前記支持部の主面の面内方向である第1方向に突出し、前記試料固定部は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記第1方向と交差する第2方向に長手方向を持つ結晶粒で構成された材料で構成されている、試料台を準備する工程と、
前記試料固定部に前記試料を固定する工程と、
前記試料台に固定された前記試料を、イオンビームを用いて加工する工程と、
を含む。
【0035】
このような試料加工方法では、試料台の試料固定部が支持部から第1方向に突出し、平面視で第1方向と交差する第2方向に長手方向を持つ結晶粒で構成された材料で構成されているため、イオンビームで試料を加工する際に、平面視で試料固定部の突出する方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0036】
(14)本発明に係る試料加工方法は、
試料が固定される試料固定部と、前記試料固定部を支持する支持部と、を有し、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記試料の先端側が前記試料固定部の端面よりも突出するように固定される、イオンビーム加工用の試料台であって、前記試料固定部は、圧延組織を有する金属で構成され、前記圧延組織は、前記支持部の主面の垂線方向から見て、前記試料固定部の端面の垂線の方向と交差する方向に長手方向を持つ結晶粒で構成され、前記試料固定部の端面の垂線の方向は、前記支持部の主面の面内方向である、試料台を準備する工程と、
前記試料固定部に、前記試料を、前記支持部の主面の垂線方向から見て前記試料の先端側が前記試料固定部の端面よりも突出するように固定する工程と、
前記試料台に固定された前記試料を、イオンビームを用いて加工する工程と、
を含む。
【0037】
このような試料加工方法では、試料台の試料固定部が圧延組織を有する金属で構成されているため、取り扱いやすい。また、このような試料加工方法では、試料台の試料固定部が、平面視で試料固定部の端面の垂線の方向と交差する方向に長手方向を持つ結晶粒で構成された圧延組織を有する金属で構成されているため、イオンビームで試料を加工する際に、平面視で試料固定部の端面の垂線の方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本実施形態に係る試料台を模式的に示す平面図。
図2】本実施形態に係る試料台の試料固定部を模式的に示す平面図。
図3】本実施形態に係る試料台の試料固定部を模式的に示す断面図。
図4】冷間ロール圧延で作製されたモリブデン箔の光学顕微鏡写真。
図5】冷間ロール圧延で作製されたモリブデン箔の明視野走査電子顕微鏡像。
図6】本実施形態に係る試料台を用いた試料加工方法の流れの一例を示すフローチャート。
図7】試料固定部をブロードイオンビームで薄片化する工程を模式的に示す図。
図8】試料固定部をブロードイオンビームで薄片化する工程を模式的に示す図。
図9】試料固定部をブロードイオンビームで薄片化する工程を模式的に示す図。
図10】試料固定部をブロードイオンビームで薄片化する工程を模式的に示す図。
図11】試料固定部に固定された試料を模式的に示す斜視図。
図12】試料をブロードイオンビームで加工する工程を模式的に示す図。
図13】試料をブロードイオンビームで加工する工程を模式的に示す図。
図14】スパッタリング現象を説明するための図。
図15】スパッタリング現象を説明するための図。
図16】スパッタリング現象を説明するための図。
図17】参考例に係る試料台の試料固定部の先端部を模式的に示す斜視図。
図18】シャドウイングの効果を説明するための図。
図19】第1変形例に係る試料台を模式的に示す斜視図。
図20】第2変形例に係る試料台を模式的に示す平面図。
図21】第2変形例に係る試料台の試料固定部を模式的に示す平面図。
図22】試料をブロードイオンビームで加工する工程を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0040】
1. 試料台
まず、本実施形態に係る試料台について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る試料台100を模式的に示す平面図である。図2は、本実施形態に係る試料台100の試料固定部20を模式的に示す平面図である。図3は、本実施形態に係る試料台100の試料固定部20を模式的に示す断面図であり、図2のIII−III線断面図である。なお、図2および図3では、試料固定部20に試料Sが固定されている状態を図示している。
【0041】
試料台100は、図1図3に示すように、支持部10と、試料固定部20と、を含む。試料台100は、試料Sにイオンビームを照射して加工する際に、試料Sを保持するために用いられるイオンビーム加工用の試料台である。以下では、試料台100が、透過電子顕微鏡(TEM)や走査透過電子顕微鏡(STEM)を含む電子顕微鏡用の試料を作製する際に、試料を保持するために用いられる電子顕微鏡試料作製用の試料台である例について説明する。なお、試料台100は、電子顕微鏡で試料Sの観察を行う際にも、試料Sを保持することができる。
【0042】
支持部10は、試料固定部20を支持している。支持部10は、板状の部材である。支持部10の平面形状は、図1に示すように、円を切り欠いた略半円状である。支持部10
は、円を切り欠くことで形成された切欠き面11を有している。支持部10の外縁の一部は、平面視で(支持部10の主面の垂線方向から見て)、円弧の形状を有している。当該円弧は、例えば、直径3mmの円の一部である。支持部10の厚さは、例えば、5μm程度である。
【0043】
支持部10は、ブロードイオンビーム装置の試料保持機構に合わせた形状を有する突起部12を有している。これにより、試料台100を容易に位置再現性良く、ブロードイオンビーム装置に取り付けることができる。
【0044】
試料固定部20は、支持部10によって支持されている。試料固定部20は、図2および図3に示すように、支持部10から第1方向Aに突出している。試料固定部20は、板状の支持部10の面内方向に突出している。図示の例では、試料固定部20は、支持部10の切欠き面11から、切欠き面11の垂線方向に突出している。すなわち、このとき、第1方向Aは、切欠き面11の垂線方向である。試料固定部20は、支持部10から突出して凸部を形成している。試料固定部20は、図示の例では、支持部10から突出している部分である。
【0045】
試料固定部20は、支持部10に接続されている根元部22と、根元部22よりも幅が小さい先端部24と、を有している。根元部22は試料固定部20の一方の端部であり、先端部24は試料固定部20の他方の端部である。試料固定部20の突出する第1方向Aは、根元部22から先端部24に向かう方向である。
【0046】
先端部24の幅W24は、図2に示す平面視で(試料固定部20の厚さ方向から見て)、試料固定部20の突出する方向である第1方向Aに直交する方向の先端部24の大きさである。根元部22の幅W22は、図2に示す平面視で、試料固定部20の突出する方向である第1方向Aに直交する方向の根元部22の大きさである。先端部24の幅W24は、例えば、50μm程度であり、根元部22の幅W22は、例えば、100μm程度である。試料固定部20の第1方向Aの長さL20は、例えば、150μm程度である。
【0047】
上述したように、支持部10の外縁の一部は、平面視で円弧の形状を有しており、試料固定部20の先端部24は、円弧の中心に位置している。図示の例では、試料固定部20の先端部24の端面25は平面視で直線状であり、端面25の垂線Pの方向は第1方向Aと同じ方向である。
【0048】
図3に示すように、試料固定部20の主面21a(図示の例では上面)と主面21b(図示の例では下面)は、平坦な面である。試料固定部20の主面21aは、支持部10の一方の主面(上面)と連続し、試料固定部20の主面21bは、支持部10の他方の主面(下面)と連続している。試料固定部20の厚さ(主面21a,21bとの間の距離)は、支持部10の厚さと等しく、例えば5μm程度である。
【0049】
試料Sは、試料固定部20の先端部24に固定される。図示の例では、試料Sは、試料固定部20の主面21bに固定されている。試料Sは、平面視で、試料Sの先端が試料固定部20の先端部24(端面25)から突出するように固定される。試料固定部20には試料Sの根元側が固定され、試料Sの先端側は開放端となる。すなわち、試料台100では、試料Sは片持ち梁状に支持される。
【0050】
試料Sは、図3に示すように、試料Sの先端側の観察領域S1と、試料Sの固定部(試料固定部20に固定される試料Sの部分)側の緩衝部S2と、を有するように加工されている。緩衝部S2は、ブロードイオンビームを観察領域S1に対して浅い角度で照射する際に、試料固定部20の厚みによって観察領域S1が試料固定部20の影になることを防
ぐために設けられている。
【0051】
試料固定部20は、圧延組織を有する金属で構成されている。圧延組織を有する金属とは、圧延により加工された金属であり、圧延により結晶粒が特定の方向に長手方向を持つ金属である。試料固定部20を構成する金属は、例えば、冷間圧延により形成された圧延組織を有する金属である。
【0052】
試料固定部20に用いられる圧延組織を有する金属(以下「圧延材」ともいう)は、例えば、焼き鈍しを間に入れながら、ロールで冷間圧延を繰り返して加工される。この圧延加工により結晶粒が変形し、圧延方向に数十μm以上、圧延方向と垂直な方向に数μm程度の結晶粒から構成される圧延組織(繊維組織)となる。すなわち、圧延組織を構成している結晶粒は、圧延方向に長手方向を持っている。
【0053】
図4は、冷間ロール圧延で作製された厚さ5μmのモリブデン箔の光学顕微鏡像である。図5は、冷間ロール圧延で作製された厚さ5μmのモリブデン箔の明視野走査電子顕微鏡像(BF−STEM像)である。
【0054】
図4に示す光学顕微鏡像では、圧延材(モリブデン箔)の圧延組織が圧延筋として観察されている。また、図5に示すBF−STEM像では、特定の方向に長手方向を持つ結晶粒で構成された圧延組織が観察されている。図4に示す光学顕微鏡像では、圧延筋に沿った方向、すなわち、圧延組織を構成している結晶粒の長手方向である第2方向Bを矢印で示している。同様に、図5に示すBF−STEM写真では、圧延組織を構成している結晶粒の長手方向(前記特定の方向)である第2方向Bを矢印で示している。このように、圧延組織を構成している結晶粒の長手方向(第2方向B)は、光学顕微鏡像や電子顕微鏡像で確認することができる。
【0055】
図2に示すように、圧延組織を構成している結晶粒の長手方向(第2方向B)は、平面視で、試料固定部20の突出する方向(第1方向A)と交差する方向である。すなわち、平面視で、第1方向Aと第2方向Bとは平行ではなく(同じ方向ではなく)、第1方向Aと第2方向Bとがなす角度は、0度よりも大きく90度以下である。なお、平面視で第1方向Aと第2方向Bとがなす角度は、45度以上90度以下であることがより好ましく、さらに好ましくは90度である。その理由については後述する。なお、平面視で第1方向Aと第2方向Bとがなす角度が90度である場合(図2に示す場合)とは、平面視で試料固定部20の突出する方向と試料固定部20を構成している圧延材の結晶粒の長手方向とが直交する場合である。
【0056】
試料固定部20を構成する金属は、例えば、銅、モリブデン、ロジウム、ルテニウム、レニウム、ベリリウム、チタン、またはこれらの金属のうちの少なくとも1種を含む合金である。試料固定部20が1種類の金属で構成されている場合、例えば試料固定部20が複数種の金属で構成されている場合と比べて、エネルギー分散型X線分光(EDS)等の電子線励起のX線による組成分析の際に、試料固定部20の構成元素が検出されてもその影響が小さい。すなわち、組成分析の際に、システムノイズを低減することができる。また、試料固定部20を構成する金属として合金を用いる場合、ベリリウム銅などの時効硬化型の合金が好ましい。通常の金属や合金では、圧延、焼き鈍し等の加工を行う際に、結晶粒が大きく成長して強度の低下や割れなどが生じる場合がある。これに対して、時効硬化型の合金は、圧延後の熱処理で硬度を向上させることができる。
【0057】
試料台100は、板状の圧延材から所定の形状を、例えばエッチング等の手法を用いて切り出すことで形成される。支持部10および試料固定部20は、1つの圧延材から切り出されて一体に形成されている。すなわち、試料台100では、支持部10は、試料固定
部20と同様に、圧延組織を有する金属で構成されている。
【0058】
2. 試料加工方法
次に、試料台100を用いた試料加工方法について、図面を参照しながら説明する。
【0059】
図6は、試料台100を用いた試料加工方法の流れの一例を示すフローチャートである。ここでは、試料台100を用いた透過電子顕微鏡用試料を作製するための試料加工方法について説明する。
【0060】
まず、試料台100を準備する(ステップS10)。
【0061】
次に、試料台100の試料固定部20をブロードイオンビームを用いて薄片化する(ステップS12)。
【0062】
試料固定部20の薄片化は、ブロードイオンビーム装置を用いて行われる。ブロードイオンビーム装置は、イオン銃から放出されたままの、レンズ系による集束作用を受けない直径数mm程度のイオンビームを試料に照射して、試料の加工を行う装置である。
【0063】
図7図10は、試料固定部20をブロードイオンビームを用いて薄片化する工程(ステップS12)を模式的に示す図である。なお、図10は、図9のX−X線断面図である。
【0064】
ブロードイオンビーム装置2では、図7および図8に示すように、試料台100を試料固定部20の先端部24を中心として回転させつつ、イオン銃2a,2bから先端部24に向けてイオンビームを照射することができる。ブロードイオンビーム装置2は、試料台100を挟んで互いに対向する位置に配置された、2つのイオン銃2a,2bを有している。
【0065】
ブロードイオンビーム装置2は、試料台100の回転に同期してブロードイオンビームIBを照射することができる。そのため、試料台100(試料固定部20の先端部24)に対して、平面視で所望の方向からブロードイオンビームIBを照射することができる。
【0066】
本工程では、試料固定部20の先端部24に対して、ブロードイオンビームIBを、試料固定部20の根元部22側から照射する。例えば、図9に示すように試料固定部20の先端部24の中心を通り第1方向Aとは反対方向に延びるZ軸を0度(回転角度θ=0度)としたときに、試料固定部20の先端部24に対して、回転角度θが−30度〜+30度の範囲(−30°≦θ≦+30°)でブロードイオンビームIBを照射する。試料台100の回転にブロードイオンビームIBの照射を同期させることで、試料固定部20の先端部24に対して、回転角度θが−30度〜+30度の範囲でブロードイオンビームIBを照射することができる。
【0067】
また、本工程では、図10に示すように、イオン銃2aからプラスの仰角θでブロードイオンビームIBを照射し、イオン銃2bからマイナスの仰角θでブロードイオンビームIBを照射する。本工程では、後述する試料Sに対するブロードイオンビーム加工工程(ステップS18)におけるブロードイオンビームIBの仰角θに比べて小さい仰角θで(すなわち浅い角度で)ブロードイオンビームIBを照射する。例えば、本工程におけるブロードイオンビームIBの仰角θは、ステップS18における仰角θの半分程度である。イオン銃2aから照射されるブロードイオンビームIBの仰角θは、例えばθ=+3度であり、イオン銃2bから照射されるブロードイオンビームIBの仰角θは、θ=−3度である。
【0068】
本工程では、例えば、厚さ5μm程度の試料固定部20を、厚さ1μm以上3μm以下程度まで薄片化する。
【0069】
ここで、上述したように、試料台100の試料固定部20は第1方向Aに突出し、平面視で第1方向Aと交差する第2方向Bに長手方向を持つ結晶粒で構成された圧延組織を有する金属で構成されている。そのため、本工程において、試料固定部20の先端部24に対して、ブロードイオンビームIBを、試料固定部20の根元部22側から照射することにより、平面視で試料固定部20の突出する方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、シャドウイングの効果を大きくすることができ、試料固定部20に形成される凹凸を小さくすることができる。この理由については後述する。
【0070】
このように、本工程において、試料固定部20に形成される凹凸を小さくすることができるため、例えば後述する試料Sをブロードイオンビームで加工する工程(ステップS18)において、試料固定部20の凹凸に起因して試料Sに形成される厚さむらを小さくすることができる。また、試料固定部20の端面25に形成される凹凸を小さくすることができるため、後述する試料固定部20の先端部24に試料Sを固定する工程(ステップS14)において試料Sの固定が困難になることを防ぐことができる。
【0071】
次に、試料台100の試料固定部20に試料Sを固定する(ステップS14)。
【0072】
図11は、試料台100の試料固定部20に固定された試料Sを模式的に示す斜視図である。試料Sは、例えば、FIB装置で厚さ1μm、幅10μm、長さ20μm程度に加工された試料片の状態で試料固定部20に固定される。本工程では、試料Sの先端(観察領域S1)側が試料固定部20の端面25から突出するように、試料Sを試料固定部20の先端部24に固定する。試料Sの固定は、ピックアップ装置等を用いて行われる。試料Sは、接着剤等で、試料固定部20に固定される。
【0073】
次に、試料固定部20に固定された試料Sを、集束イオンビーム(FIB)を用いて試料Sの観察領域を0.1μm程度の厚さに加工する(ステップS16)。
【0074】
図11に示すように、試料Sは、厚さ0.1μm以下の観察領域S1と、厚さ0.3μm程度、長さが10μm以上の緩衝部S2と、を有するように加工される。緩衝部S2は、後述する試料Sをブロードイオンビームで加工する工程(ステップS18)において、試料固定部20の厚みによって観察領域S1が試料固定部20の影になることを防ぐために設けられる。
【0075】
本工程では、さらに、集束イオンビームを用いて、試料固定部20の先端部24の不要な部分(先端部24の試料Sが接着されている部分を除いた部分の少なくとも一部)を除去してもよい。図示の例では、試料固定部20の先端部24の幅が小さくなるように、先端部24の角部を除去している。
【0076】
次に、試料固定部20に固定された試料Sを、ブロードイオンビームIBを用いて加工する(ステップS18)。
【0077】
図12および図13は、試料Sをブロードイオンビームを用いて加工する工程(ステップS18)を模式的に示す図である。本工程では、ブロードイオンビーム装置を用いて、試料Sに低加速のブロードイオンビームを照射し、ダメージ層を除去するための加工を行う。
【0078】
試料Sのダメージ層の除去は、試料固定部20を薄片化する工程(ステップS12)と同様に、ブロードイオンビーム装置を用いて行われる。本工程では、試料Sに対して、試料固定部20を薄片化する工程(ステップS12)よりも大きい仰角θでブロードイオンビームIBを照射する。具体的には、イオン銃2aから照射されるブロードイオンビームIBの仰角θは、例えばθ=+10度であり、イオン銃2bから照射されるブロードイオンビームIBの仰角θは、θ=−10度である。
【0079】
また、本工程では、上述したステップS12と同様に、試料固定部20の先端部24に固定された試料Sに対して、ブロードイオンビームIBを試料固定部20の根元部22側から照射する。例えば、試料固定部20の先端部24に固定された試料Sに対して、回転角度θが−30度〜+30度の範囲でブロードイオンビームIBを照射する。
【0080】
このように、試料固定部20の先端部24に固定された試料Sに対して、ブロードイオンビームIBを、試料固定部20の根元部22側から照射することにより、ブロードイオンビームIBの進行方向(照射方向)において、試料Sの先に試料台100が存在しない。そのため、ブロードイオンビームIBによりスパッタされた材料が試料S(観察領域S1)に付着すること(以下「再付着」ともいう)を防ぐことができる。
【0081】
例えば、図示はしないが、試料Sに対して、ブロードイオンビームを、図12に示すブロードイオンビームIBの進行方向とは反対方向から試料Sに照射した場合、ブロードイオンビームの進行方向において、試料Sの先に試料台100(例えば端面25)が存在する。そのため、ブロードイオンビームが試料台100(例えば端面25)をスパッタし、スパッタされた材料が試料Sに付着してしまう。
【0082】
また、試料固定部20の先端部24に固定された試料Sに対して、ブロードイオンビームIBを試料固定部20の根元部22側から照射することにより、上述したステップS12と同様に、平面視で試料固定部20の突出する方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、シャドウイングの効果を大きくすることができ、試料固定部20に形成される凹凸を小さくすることができる。したがって、厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0083】
以上の工程により、電子顕微鏡用試料を作製することができる。
【0084】
試料台100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0085】
試料台100は、試料固定部20が圧延組織を有する金属で構成されている。そのため、例えば、試料固定部20がシリコンやセラミックス等の材料で構成されている場合と比べて、取り扱いやすい。例えば試料固定部がシリコンやセラミックス等の材料で構成されている場合、試料固定部に試料を固定する際や、試料台をピンセット等で持ち運ぶ際に、割れたり欠けたりすることがあり、取り扱いに注意が必要である。これに対して、試料固定部20が金属で構成されている場合、試料固定部20に試料Sを固定する際や、試料台100をピンセット等で持ち運ぶ際に、割れたり欠けたりすることがなく取り扱いやすい。また、圧延材は安価であるため、試料台を安価に提供することができる。
【0086】
試料台100では、試料固定部20は、支持部10から第1方向Aに突出し、平面視で第1方向Aと交差する第2方向Bに長手方向を持つ結晶粒で構成された圧延組織を有する金属で構成されている。そのため、イオンビームで試料を加工する際(例えば上述したステップS18)に、再付着を防ぎつつ、平面視で試料固定部の突出する方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、厚さむらが小さい試料を得ることができる。以下に、その理由について説明する。
【0087】
試料台に固定された試料をイオンビームで加工する場合、試料台を構成している金属の結晶粒を反映した凹凸が試料台に形成される場合がある(結晶異方性スパッタリング)。この理由は以下の通りである。
【0088】
イオンビームによるスパッタリング現象は、イオンが物質に進入する現象と、イオンが物質内に進入することによって物質内で原子同士の衝突が連続的に生じて(衝突カスケード)、表面から原子が脱離する現象と、に分けて考えることができる。図14図16は、同じ結晶に異なる方向からイオンが入射したときの、スパッタリング現象を説明するための図である。
【0089】
まず、イオンが物質に進入する現象について説明する。イオンビームIが物質の表面に照射されるとイオンの一部は物質の表面にある原子と衝突するが多くのイオンは表面をすり抜けて物質内部に進入する、いわゆるチャネリング現象をおこして物質内部の構成原子と衝突する。イオンは散乱断面積が小さく、イオンビームIから見た物質の原子間距離が広いほど深くまで進入する。イオンの散乱断面積はイオン種と加速に依存し、イオンから見た物質の原子間距離は結晶の面間隔と方向に依存する。このため、結晶の向きによりイオンと物質を構成している原子とが衝突する深さが変わってくる(図14および図15参照)。
【0090】
次に、衝突カスケードと表面からの脱離について説明する。運動量を持つイオンが物質を構成している原子と衝突すると、イオンが持っていた運動量の一部は原子へ伝わり、イオンは運動量の一部を失って方向を変える。方向を変えたイオンはその運動量が無くなるまで衝突を繰り返し、物質を構成している原子に様々な方向の運動量を与え続ける。原子を格子点に留めるエネルギー以上の運動量を受け取った原子は格子点から離れ、受け取った運動量の方向に弾き飛ばされて他の原子と衝突し、イオンと同様に衝突を繰り返す。このように運動量を持つイオンが物質に入射すると雪崩式に原子の衝突現象が引き起こされる(衝突カスケード)。表面近傍の原子に表面から脱離する方向に脱離エネルギー以上の運動量が与えられると、当該原子は物質から脱離する。これがスパッタ現象である。原子同士が衝突する確率は弾き出された原子から見た格子面密度と関係があり、脱離方向に運動量が変換される確率は結晶の原子位置と関係がある(図15および図16参照)。すなわち、結晶面とイオンの入射方向、結晶面と表面の向きが脱離の収率と相関する。
【0091】
上述したように、結晶の向きによってイオンの進入深さが変わる。そして、深く進入したイオンは浅く進入したイオンに比べてスパッタリングのためにより多くの衝突が必要となる。そのため、同じ運動量を持つイオンで比べると、深く進入したイオンは浅く進入したイオンに比べてスパッタリング収率(入射イオン1個あたりの脱離する原子の数)が小さくなる。すなわち、スパッタリング収率は、結晶の向きに依存する。また、上述したように、結晶面とイオンの入射方向、結晶面と表面の向きは、脱離の収率と相関する。
【0092】
したがって、多結晶の物質を一様なイオンビームIで結晶粒サイズまで薄くスパッタリング加工すると、結晶粒に応じた凹凸が形成される。
【0093】
図17は、参考例に係る試料台100Aの試料固定部20Aの先端部24Aを模式的に示す斜視図である。なお、試料台100Aでは、試料固定部20Aの突出する方向は、結晶粒の長手方向と同じ方向である。
【0094】
図17に示すように、試料台100Aを一様なイオンビームで結晶粒サイズまで薄くスパッタリング加工すると、試料固定部20Aの先端部24Aには、厚さ方向の凹凸が形成され、さらに、端面25Aにも凹凸が形成される。試料固定部20Aに厚さ方向の凹凸が
形成されると、当該凹凸の影響によりイオンビームIが試料Sに均一に照射されずに、試料Sに筋状の厚さむらが形成されてしまう。また、試料台100Aの端面25Aに凹凸が形成されると、試料Sを試料固定部20Aに固定することが困難になってしまう。
【0095】
ここで、多結晶の物質で構成された試料台に対してイオンビームIを小さい仰角(浅い角度)で照射することにより、シャドウイングの効果によって凹凸を小さくすることができる。
【0096】
図18は、シャドウイングの効果を説明するための図である。図18に示すように、イオンビームIを小さい仰角で照射することにより、高さの小さい結晶粒3は隣接する高さの大きい結晶粒3の影になり高さが同程度になるまで加工されない。これにより、凹凸が小さい加工面を得ることができる。イオンビームIは発散する特徴を有するため、シャドウイングの効果は凹部分の長さL3が大きいとその効果は小さくなる。そのため、シャドウイングの効果が十分に発揮されるのは凹部分の長さL3が数μm以下である。
【0097】
そのため、圧延材をイオンビームIで加工する際に、平面視で、圧延組織を構成している結晶粒の長手方向である第2方向Bに対して、交差する方向からイオンビームIを照射することにより、圧延組織を構成している結晶粒の長手方向である第2方向Bと同じ方向からイオンビームIを照射する場合と比べて、シャドウイングの効果により圧延材に形成される凹凸を小さくすることができる。特に、圧延組織を構成している結晶粒の長手方向である第2方向Bに対して、直交する方向からイオンビームIを照射するときに、シャドウイングの効果が最も大きくなり、圧延材に形成される凹凸をより小さくできる。
【0098】
したがって、上述したように、試料台100では、試料固定部20が支持部10から第1方向Aに突出し、平面視で第1方向Aと交差する第2方向Bに長手方向を持つ結晶粒で構成された圧延組織を有する金属で構成されているため、イオンビームで試料を加工する際(例えば上述したステップS18)に、試料固定部20の先端部24に固定された試料Sに対して試料固定部20の根元部22側からイオンビームを照射することにより、再付着を防ぎつつ、平面視で試料固定部の突出する方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0099】
また、試料台100では、平面視で第1方向Aと第2方向Bとがなす角度は、45度以上90度以下であることがより好ましく、さらに好ましくは90度である。平面視で第1方向Aと第2方向Bとがなす角度が前記範囲にあると、上述したように、シャドウイングの効果を大きくすることができるため、再付着を防ぎつつ、より厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0100】
試料台100では、試料固定部20は、支持部10から第1方向Aに突出しているため、支持部10をピンセットで挟んだ場合などに、支持部10にひねりが加わったとしても、応力は試料固定部20の根元部22に集中し、先端部24にはほとんど伝わらない。したがって、試料台100では、試料固定部20の先端部24に試料Sを固定することで、試料台100をピンセットで挟んだ場合などに、試料Sの脱離や破壊が起こりにくくすることができ、試料台100を取り扱いやすくすることができる。
【0101】
試料台100では、試料固定部20は、支持部10に接続されている根元部22と、根元部22よりも幅が小さい先端部24と、を有している。そのため、試料固定部20が撓んだり丸まったりしてその形状が変形することを防ぐことができるとともに、例えば集束イオンビーム加工工程(ステップS16)で試料固定部20の先端部24をFIB加工する際に加工量を少なくすることができる。
【0102】
本実施形態に係る試料加工方法は、試料台100を準備する工程(ステップS10)と、試料固定部20に試料Sを固定する工程(ステップS14)と、試料台100に固定された試料Sをイオンビームを用いて加工する工程(ステップS18)と、を含む。このように、本実施形態では、試料台100の試料固定部20が圧延組織を有する金属で構成されているため、取り扱いやすい。また、本実施形態では、イオンビームで試料を加工する工程において、再付着を防ぎつつ、平面視で試料固定部の突出する方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0103】
また、本実施形態に係る試料加工方法では、試料固定部20に試料Sを固定する工程の前に、試料固定部20をイオンビームを用いて薄片化する工程を含む。そのため、試料Sをブロードイオンビームで加工する工程(ステップS18)において、試料Sへの再付着を防ぐことができる。また、試料固定部20の厚さを小さくすることができるため、試料台100に固定された試料Sを、電子顕微鏡等に導入して分析を行う際に、システムノイズを低減することができる。電子顕微鏡等でEDS分析等の組成分析を行う際に、電子線の一部が散乱などにより試料固定部20に照射されて試料固定部20から特性X線が発生してシステムノイズとして検出される場合がある。特に、試料固定部20の厚さが大きい場合、システムノイズが大きくなってしまう。本実施形態では、試料固定部20の厚さを小さくすることができるため、システムノイズを低減することができる。
【0104】
3. 実験例
以下、本発明を実験例により具体的に説明するが、本発明は下記の実験例により限定されるものではない。
【0105】
本実験例では、図6に示すフローチャートに従って、透過電子顕微鏡用試料を作製した。
【0106】
冷間ロール圧延で作製された厚さ5μmのモリブデン箔を用いて図1図3に示す試料台100と同様の形状の試料台を作製した。具体的には、試料固定部の延出方向である第1方向Aと、試料固定部を構成している圧延材の結晶粒の長手方向である第2方向Bとが、平面視で直交するように形成した。また、支持部の外縁の一部が平面視で円弧の形状を有し、試料固定部の先端部は円弧の中心に位置するように形成した。試料固定部の長さは150μmとし、試料固定部の先端部の幅は、50μmとした。支持部の突起部は、ブロードイオンビーム装置(Gatan社製PIPSII MODEL695)の試料保持機構の形状に合わせた形状とした。
【0107】
次に、ブロードイオンビーム装置(Gatan社製PIPSII MODEL695)を用いて、作製した試料台をイオンビームで加工した。具体的には、0.5rpmで回転している試料台に対して、イオンエネルギー8kV、イオン電流140μA、のArイオンビームを、仰角+3度と−3度、回転角度が−30度〜+30度の範囲で照射した。
【0108】
イオンビームを18分間照射したところ、試料固定部の先端部は、厚さが1μmとなり、凹凸の小さい平坦な面に加工された。
【0109】
次に、薄片化された試料固定部に、FIB装置で幅10μm、高さ22μm、厚さ1μmに加工された試料をピックアップ装置を用いて接着剤で固定した。
【0110】
次に、試料固定部に固定された試料を、FIB装置を用いて、試料の緩衝部の長さが10μm、緩衝部の厚さが0.3μm、観察領域の厚さが0.1μmとなるように加工した。
【0111】
この状態でTEM観察を行ったところ、試料に形成されたダメージ層が厚いため、詳細な観察を行うことができなかった。
【0112】
次に、試料台に保持された試料を、ブロードイオンビーム装置(Gatan社製PIPSII MODEL695)を用いて加工した。具体的には、0.5rpmで回転している試料台に固定されている試料に対して、イオンエネルギー0.3kVのArイオンビームを、仰角+10度と−10度、回転角度が−30度〜+30度の範囲で照射した。
【0113】
イオンビームを15分間照射し、TEM観察を行ったところ、本工程を行う前と比べて、詳細な観察を行うことができた。また、試料への再付着も観察されなかった。
【0114】
また、この試料台にひねりを加えたところ、試料固定部の根元部に変形が起きたが、試料固定部の先端部はほとんど変形せず、先端部に固定された試料の離脱や破壊は起こらなかった。
【0115】
4. 変形例
4.1. 第1変形例
次に、本実施形態に係る試料台の第1変形例について、図面を参照しながら説明する。図19は、第1変形例に係る試料台200を模式的に示す斜視図である。以下、本実施形態の第1変形例に係る試料台200において、上述した試料台100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0116】
上述した試料台100では、図1図3に示すように支持部10は、均一な厚さを有していた。
【0117】
これに対して、試料台200では、図18に示すように、支持部10は、試料固定部20に接続されている薄板部13と、支持部10の円弧の形状を有する外縁に沿って設けられた厚板部14と、を有している。薄板部13の厚さは、例えば、5μmであり、厚板部14の厚さは、例えば、30μmである。
【0118】
試料台200は、例えば圧延材を2段階でエッチングすることにより、形成することができる。
【0119】
なお、試料台200を用いた試料加工方法は、上述した試料台100を用いた試料加工方法と同様でありその説明を省略する。
【0120】
試料台200では、上述した試料台100と同様の効果を奏することができる。さらに、試料台200では、支持部10が、薄板部13と厚板部14とを有するため、支持部10がイオンビームを遮ることを防ぎつつ、試料台200をピンセットで挟んだ場合などに、試料Sの脱離や破壊が起こりにくくすることができ、試料台200をより取り扱いやすくすることができる。
【0121】
以下、本発明を実験例により具体的に説明するが、本発明は下記の実験例により限定されるものではない。
【0122】
本実験例では、図6に示すフローチャートに従って、透過電子顕微鏡用試料を作製した。
【0123】
冷間ロール圧延で作製された厚さ30μmのベリリウム銅箔を2段階エッチングして、図19に示す試料台200と同様の形状の試料台を作製した。具体的には、試料固定部の
延出方向である第1方向Aと、試料固定部を構成している圧延材の結晶粒の長手方向である第2方向Bとが、平面視で直交するように形成した。また、支持部の外縁の一部が平面視で円弧の形状を有し、試料固定部の先端部は円弧の中心に位置するように形成した。試料固定部の長さは150μmとし、試料固定部の先端部の幅は、50μmとした。また、薄板部の厚さは5μmとし、厚板部の厚さは30μmとした。支持部の突起部は、ブロードイオンビーム装置(Gatan社製PIPSII MODEL695)の試料保持機構の形状に合わせた形状とした。
【0124】
次に、ブロードイオンビーム装置(Gatan社製PIPSII MODEL695)を用いて、作製した試料台をイオンビームで加工した。具体的には、0.5rpmで回転している試料台に対して、イオンエネルギー8kV、イオン電流140μA、のArイオンビームを、仰角+3度と−3度、回転角度が−30度〜+30度の範囲で照射した。
【0125】
イオンビームを22分間照射したところ、試料固定部の先端部は、厚さが1μmとなり、凹凸の小さい平坦な面に加工された。
【0126】
次に、薄片化された試料固定部に、FIB装置で幅10μm、高さ22μm、厚さ1μmに加工された試料をピックアップ装置を用いて接着剤で固定した。
【0127】
次に、試料固定部に固定された試料を、FIB装置を用いて、緩衝部の長さが10μm、緩衝部の厚さが0.3μm、観察領域の厚さが0.1μmとなるように加工した。
【0128】
この状態でTEM観察を行ったところ、試料に形成されたダメージ層が厚いため、詳細な観察を行うことができなかった。
【0129】
次に、試料固定部に固定された試料を、ブロードイオンビーム装置(Gatan社製PIPSII MODEL695)を用いて加工した。具体的には、0.5rpmで回転している試料台に固定されている試料に対して、イオンエネルギー0.3kVのArイオンビームを、仰角+10度と−10度、回転角度が−30度〜+30度の範囲で照射した。
【0130】
イオンビームを15分間照射し、TEM観察を行ったところ、本工程を行う前と比べて、詳細な観察を行うことができた。また、試料への再付着も観察されなかった。
【0131】
また、この試料台にひねりを加えたところ、厚板部を有することにより変形が小さく、試料を固定している試料固定部の根元部に若干の変形が起きたが、試料固定部の先端部はほとんど変形せず、先端部に固定された試料の離脱や破壊は起こらなかった。
【0132】
4.2. 第2変形例
次に、本実施形態に係る試料台の第2変形例について、図面を参照しながら説明する。図20は、第2変形例に係る試料台300を模式的に示す平面図である。図21は、第2変形例に係る試料台300の試料固定部20を模式的に示す平面図である。以下、本実施形態の第2変形例に係る試料台300において、上述した試料台100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0133】
上述した試料台100では、図1図3に示すように、試料固定部20は、支持部10から突出していた。
【0134】
これに対して、試料台300では、図20および図21に示すように、試料固定部20は、支持部10から突出していない。図示の例では、支持部10の外縁の一部が平面視で円弧の形状を有し、試料固定部20は円弧の中心に位置している。
【0135】
図21に示すように、試料Sは、平面視で、試料Sの先端が試料固定部20の端面25から突出するように固定される。試料固定部20には試料Sの根元側が固定され、試料Sの先端側は開放端となる。すなわち、試料台300では、試料Sは片持ち梁状に支持される。
【0136】
試料固定部20は、平面視で、試料固定部20の端面25の垂線Pの方向と交差する方向に長手方向を持つ結晶粒で構成された圧延組織を有する金属で構成されている。すなわち、平面視で、圧延組織を構成する結晶粒の長手方向である第2方向Bは、端面25の垂線Pと交差する方向である。図示の例では、試料固定部20の端面25は、支持部10の切欠き面11と連続する面(面一)である。
【0137】
なお、試料台300を用いた試料加工方法は、図6に示す試料台100を用いた試料加工方法と、試料台を準備する工程(ステップS10)において、試料台300を準備する点、および試料Sをブロードイオンビームを用いて加工する工程(ステップS18)において、試料Sに対して、試料固定部20側からイオンビームを照射する点が異なっている。その他の工程は、上述した試料台100を用いた試料加工方法と同様である。
【0138】
以下、試料台300を用いた試料加工方法について、上述した試料台100を用いた試料加工方法と異なる点について説明し、同様の点についてはその説明を省略する。
【0139】
図22は、試料SをブロードイオンビームIBを用いて加工する工程(ステップS18)を模式的に示す図である。
【0140】
本工程では、図22に示すように、試料台300の試料固定部20に平面視で試料Sの先端側が試料固定部20の端面25よりも突出するように固定された試料Sに対して、ブロードイオンビームIBを試料固定部20側から照射する。例えば、試料固定部20に固定された試料Sに対して、回転角度θが−30度〜+30度の範囲でブロードイオンビームIBを照射する。これにより、本工程において、上述した試料台100の例と同様に、再付着を防ぎつつ、平面視で試料固定部の端面の垂線の方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0141】
なお、試料台300を用いた試料加工方法において、上述した試料台100を用いた試料加工方法における第1方向Aは、例えば、端面25の垂線Pの方向に対応する。
【0142】
試料台300では、平面視で、試料固定部20の端面25の垂線Pの方向と交差する方向に長手方向を持つ結晶粒で構成された圧延組織を有する金属で構成されている。そのため、上述した試料台100の例と同様に、イオンビームで試料を加工する際に、再付着を防ぎつつ、平面視で試料固定部の端面の垂線の方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0143】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0144】
例えば、上述した第1実施形態に係る試料台100の例では、試料固定部20が圧延材で構成されている例について説明したが、本発明に係る試料台において、試料固定部20を構成する材料は圧延材に限定されない。本発明に係る試料台において、試料固定部20は、試料固定部20の突出する方向である第1方向Aと交差する第2方向Bに長手方向を持つ結晶粒で構成された材料であってもよい。このような場合であっても、試料台100と同様に、再付着を防ぎつつ、平面視で試料固定部20の突出する方向と結晶粒の長手方
向が同じ方向である場合と比べて、厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0145】
また、例えば、上述した第2変形例に係る試料台300の例についても同様であり、本発明に係る試料台において、試料固定部20は、試料固定部20の端面25の垂線Pの方向と交差する方向に長手方向を持つ結晶粒で構成された材料で構成されていてもよい。このような場合であっても、試料台300と同様に、再付着を防ぎつつ、平面視で試料固定部の端面の垂線の方向と結晶粒の長手方向が同じ方向である場合と比べて、厚さむらが小さい試料を得ることができる。
【0146】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0147】
2…ブロードイオンビーム装置、2a…イオン銃、2b…イオン銃、3…結晶粒、10…支持部、11…切欠き面、12…突起部、13…薄板部、14…厚板部、20…試料固定部、21a…主面、21b…主面、22…根元部、24…先端部、25…端面、100…試料台、200…試料台、300…試料台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
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図22