特許第6473068号(P6473068)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473068
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】熱電変換材料および熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/14 20060101AFI20190207BHJP
   H01L 35/26 20060101ALI20190207BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20190207BHJP
   C01B 25/08 20060101ALI20190207BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20190207BHJP
   C22C 22/00 20060101ALI20190207BHJP
   C22C 45/00 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   H01L35/14
   H01L35/26
   C01B33/06
   C01B25/08 Z
   B82Y30/00
   C22C22/00
   C22C45/00
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-212547(P2015-212547)
(22)【出願日】2015年10月29日
(65)【公開番号】特開2017-84986(P2017-84986A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】足立 真寛
(72)【発明者】
【氏名】竹内 恒博
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃生
【審査官】 小山 満
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−213479(JP,A)
【文献】 特開昭58−190815(JP,A)
【文献】 特開2015−225951(JP,A)
【文献】 米国特許第04500741(US,A)
【文献】 米国特許第04539054(US,A)
【文献】 特開平05−343746(JP,A)
【文献】 特開2007−042963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/14
H01L 35/26
B82Y 30/00
C01B 25/08
C01B 33/06
C22C 22/00
C22C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mnと、Siと、を含み、
MnSiの組成式で表され、
0.90≦X≦1.10および0.75≦Y≦5.70が満たされ、
非晶質相を含む組織構造を有し、
融点が570℃以上950℃以下である、熱電変換材料。
【請求項2】
Mnと、Siと、を含み、
MnSiの組成式で表され、
0.90≦X≦1.10および0.75≦Y≦5.70が満たされ、
非晶質相を含む組織構造を有し、
Oを0.01at%以上30at%以下の割合でさらに含む、熱電変換材料。
【請求項3】
Al、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素をさらに含み、
(MnαFeβCrγ(SiδGeεSnζAlの組成式で表され、
0.40≦α≦1.00、0.00≦β≦0.30、0.00≦γ≦0.30、0.50≦δ≦1.00、0.00≦ε≦0.50、0.00≦ζ≦0.10、α+β+γ=1およびδ+ε+ζ=1が満たされ、
さらに、0.00≦Z≦3.67、1.50≦Y+Z≦5.70およびY≧0.43Zが満たされる、請求項1または請求項2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
Mnと、Siと、を含み、
MnSiの組成式で表され、
0.90≦X≦1.10および0.75≦Y≦5.70が満たされ、
非晶質相を含む組織構造を有し、
少なくともAlを含むAl、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素をさらに含み、
(MnαFeβCrγ(SiδGeεSnζAlの組成式で表され、
0.40≦α≦1.00、0.00≦β≦0.30、0.00≦γ≦0.30、0.50≦δ≦1.00、0.00≦ε≦0.50、0.00≦ζ≦0.10、α+β+γ=1およびδ+ε+ζ=1が満たされ、
さらに、0.25≦Z≦3.67、1.50≦Y+Z≦5.70および1.00Z≦Y≦5.00Zが満たされる、熱電変換材料。
【請求項5】
融点が570℃以上950℃以下である、請求項4に記載の熱電変換材料。
【請求項6】
Oを0.01at%以上30at%以下の割合でさらに含む、請求項4または請求項5に記載の熱電変換材料。
【請求項7】
前記組織構造は、粒径が25nm以下の結晶からなるナノ結晶相をさらに含む、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項8】
前記ナノ結晶相は、粒径が5nm以下の結晶からなる、請求項7に記載の熱電変換材料。
【請求項9】
Cu、PおよびAuからなる群から選択される一種以上の元素を30at%以下の割合でさらに含む、請求項7または請求項8に記載の熱電変換材料。
【請求項10】
熱電変換材料部と、
前記熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、
前記熱電変換材料部に接触し、前記第1電極と離れて配置される第2電極と、を備え、
前記熱電変換材料部は、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の熱電変換材料からなる、熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料および熱電変換素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油などの化石燃料に代わるクリーンなエネルギーとして、再生可能エネルギーが注目されている。再生可能エネルギーには、太陽光、水力および風力を利用した発電のほか、温度差を利用した熱電変換による発電が含まれる。熱電変換においては、熱が電気へと直接変換されるため、変換の際に余分な廃棄物が排出されない。また、熱電変換は、モータなどの駆動部を必要としないため、装置のメンテナンスが容易であるなどの特長がある。
【0003】
熱電変換を実施するための材料(熱電変換材料)としては、Bi(ビスマス)−Te(テルル)系材料、Si(珪素)−Ge(ゲルマニウム)系材料、Fe(鉄)−Si系材料、Pb(鉛)−Te系材料などが検討されている。これらのうち、Bi−Te系材料が現在実用化されている。しかし、Teは希少材料であるため、材料コストが高いという問題がある。また、Teは毒性を有するため、利用範囲が限定されるという問題もある。
【0004】
このような問題に対応するため、Al(アルミニウム)、Mn(マンガン)およびSiを含む多結晶体からなる熱電変換材料が提案されている(たとえば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−174849号公報
【特許文献2】国際公開第2014/038418号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱電変換材料の特性(熱電変換特性)は、以下の式(1)で定義される無次元性能指数(ZT)により評価することができる。
【0007】
ZT=SσT/κ・・・(1)
式(1)において、Zは性能指数、Tは絶対温度、Sはゼーベック係数、σは導電率、κは熱伝導率を表す。式(1)から明らかなように、無次元性能指数は、ゼーベック係数の絶対値および導電率が大きいほど大きくなる。また、無次元性能指数は、熱伝導率が小さいほど大きくなる。無次元性能指数が大きい材料ほど、熱電変換における変換効率が高い。そのため、無次元性能指数が大きい材料ほど、熱電変換特性に優れた材料であるといえる。
【0008】
上記特許文献1および2に開示された熱電変換材料は、多結晶体であるため熱伝導率が高くなる。そのため、上記特許文献1および2に開示された熱電変換材料では、無次元性能指数を実用的な熱電変換特性を持つ程度にまで上昇させることが難しいという問題がある。そこで、熱伝導率を抑制することにより無次元性能指数を実用的な熱電変換特性を持つ程度にまで上昇させることが可能な熱電変換材料を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に従った熱電変換材料は、Mnと、Siと、を含み、MnSiの組成式で表される。この組成式において0.90≦X≦1.10以下および0.75≦Y≦5.70が満たされる。そして、本発明に従った熱電変換材料は、非晶質相を含む組織構造を有する。
【発明の効果】
【0010】
上記熱電変換材料によれば、熱伝導率を抑制することにより無次元性能指数を実用的な熱電変換特性を持つ程度にまで上昇させることが可能な熱電変換材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】熱電変換素子の構造の一例を示す概略図である。
図2】実施例1のXRD分析の結果を示す図である。
図3】示差熱分析の結果を示す図である。
図4】実施例2のXRD分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施態様を列記して説明する。本願の熱電変換材料は、Mnと、Siと、を含み、MnSiの組成式で表される。この組成式において0.90≦X≦1.10以下および0.75≦Y≦5.70が満たされる。そして、本願の熱電変換材料は、非晶質相を含む組織構造を有する。
【0013】
本発明者らは、熱電変換材料において、熱伝導率を抑制することにより無次元性能指数を実用的な熱電変換特性を持つ程度にまで上昇させる方策について検討を行った。その結果、Mn−Si系材料において、組織構造を、非晶質相を含むものとすることにより、成分組成を維持しつつ熱伝導率を大幅に低減できることが明らかとなった。また、上記XおよびYの範囲の成分組成を採用することにより、非晶質相の形成が比較的容易となる。このように、本願の熱電変換材料によれば、熱伝導率を抑制することにより無次元性能指数を実用的な熱電変換特性を持つ程度にまで上昇させることができる。
【0014】
上記組成式において、Aは0.95以上であってもよい。また、上記組成式において、Aは1.05以下であってもよい。さらに、上記組成式において、Bは1.50以上であってもよい。また、上記組成式において、Bは2.33以下であってもよい。
【0015】
上記熱電変換材料は、Al、Fe、Cr(クロム)、GeおよびSn(スズ)からなる群から選択される一種以上の元素をさらに含み、(MnαFeβCrγ(SiδGeεSnζAlの組成式で表されるものであってもよい。この組成式において、0.40≦α≦1.00、0.00≦β≦0.30、0.00≦γ≦0.30、0.50≦δ≦1.00、0.00≦ε≦0.50、0.00≦ζ≦0.10、α+β+γ=1およびδ+ε+ζ=1が満たされてもよい。さらに、この組成式において、0.00≦Z≦3.67、1.50≦Y+Z≦5.70およびY≧0.43Zが満たされてもよい。
【0016】
上記熱電変換材料において、Al、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素が添加されても、同様の効果を奏する熱電変換材料が得られる。このとき、FeおよびCrについては、これらの元素でMnを置換するように添加される。具体的には上記α、βおよびγの範囲および関係が満たされるようにFeおよびCrの少なくとも一方が添加されてもよい。また、GeおよびSnについては、これらの元素でSiを置換するように添加される。具体的には、上記δ、εおよびζの範囲および関係が満たされるようにGeおよびSnの少なくとも一方が添加されてもよい。Alについては、上記Zの範囲において添加されてもよい。このような追加的元素が添加されることにより、非晶質相の形成が一層容易となる。
【0017】
上記熱電変換材料は、少なくともAlを含むAl、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素をさらに含み、(MnαFeβCrγ(SiδGeεSnζAlの組成式で表されるものであってもよい。この組成式において、0.40≦α≦1.00、0.00≦β≦0.30、0.00≦γ≦0.30、0.50≦δ≦1.00、0.00≦ε≦0.50、0.00≦ζ≦0.10、α+β+γ=1およびδ+ε+ζ=1が満たされてもよい。さらに、この組成式において、0.25≦Z≦3.67、1.50≦Y+Z≦5.70および1.00Z≦Y≦5.00Zが満たされてもよい。
【0018】
上記熱電変換材料において、少なくともAlを含むAl、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素が添加されても、同様の効果を奏する熱電変換材料が得られる。このとき、FeおよびCrについては、これらの元素でMnを置換するように添加される。具体的には上記α、βおよびγの範囲および関係が満たされるようにFeおよびCrの少なくとも一方が添加されてもよい。また、GeおよびSnについては、これらの元素でSiを置換するように添加される。具体的には、上記δ、εおよびζの範囲および関係が満たされるようにGeおよびSnの少なくとも一方が添加されてもよい。Alについては、上記Zの範囲において添加されてもよい。このような追加的元素が添加されることにより、非晶質相の形成が一層容易となる。
【0019】
上記熱電変換材料において、上記組織構造は、粒径が25nm以下の結晶からなるナノ結晶相をさらに含んでいてもよい。
【0020】
このようにすることにより、熱伝導率の上昇をわずかな範囲に留めつつ、ゼーベック係数を増大させることができる。その結果、無次元性能指数が上昇し、熱電変換材料の熱電変換特性を一層向上させることができる。
【0021】
上記熱電変換材料において、上記ナノ結晶相は、粒径が5nm以下の結晶からなっていてもよい。このようにすることにより、ゼーベック係数をより有効に増大させることができる。その結果、無次元性能指数が上昇し、熱電変換材料の熱電変換特性を一層向上させることができる。
【0022】
上記熱電変換材料は、Cu(銅)、P(リン)およびAu(金)からなる群から選択される一種以上の元素を30at%以下の割合でさらに含んでいてもよい。このようにすることにより、ナノ結晶相を構成する結晶の粒径を抑制することが容易となる。上記熱電変換材料は、上記追加的添加元素を0.01at%以上の割合で含んでいてもよい。上記熱電変換材料は、上記追加的添加元素を10at%以下の割合で含んでいてもよく、1at%以下の割合で含んでいてもよい。
【0023】
上記熱電変換材料において、融点が570℃以上950℃以下であってもよい。融点をこのような範囲とすることにより、非晶質相を形成することが容易となる。
【0024】
上記熱電変換材料は、O(酸素)を0.01at%以上30at%以下の割合でさらに含んでいてもよい。適量のOが導入されることにより、組織構造中に高いポテンシャルバリアとして機能する酸化物相が適量形成される。これにより、キャリアの閉じ込め効果が得られる。その結果、量子効果によりゼーベック係数が上昇し、無次元性能指数を増大させることができる。上記熱電変換材料は、Oを10at%以下の割合で含んでいてもよく、1at%以下の割合で含んでいてもよい。
【0025】
本願の熱電変換素子は、熱電変換材料部と、熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、熱電変換材料部に接触し、第1電極と離れて配置される第2電極と、を備える。上記熱電変換材料部は、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された上記熱電変換材料からなる。
【0026】
本願の熱電変換素子は、熱電変換材料部が、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された上記熱電変換特性に優れた熱電変換材料からなる。そのため、本願の熱電変換素子によれば、変換効率に優れた熱電交換素子を提供することができる。
【0027】
[本願発明の実施形態の詳細]
次に、本発明にかかる熱電変換材料および熱電変換素子の一実施の形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。
【0028】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1における熱電変換素子であるπ型熱電変換素子1の構造を示す概略図である。図1を参照して、π型熱電変換素子1は、第1熱電変換材料部であるp型熱電変換材料部11と、第2熱電変換材料部であるn型熱電変換材料部12と、高温側電極21と、第1低温側電極22と、第2低温側電極23と、配線31とを備えている。
【0029】
p型熱電変換材料部11は、導電型がp型となるように成分組成が調整された実施の形態1の熱電変換材料からなる。実施の形態1の熱電変換材料については、後述する。p型熱電変換材料部11を構成する実施の形態1の熱電変換材料に、たとえば多数キャリアであるp型キャリア(正孔)を生成させるp型不純物がドープされることにより、p型熱電変換材料部11の導電型はp型となっている。
【0030】
n型熱電変換材料部12は、導電型がn型となるように成分組成が調整された実施の形態1の熱電変換材料からなる。n型熱電変換材料部12を構成する実施の形態1の熱電変換材料に、たとえば多数キャリアであるn型キャリア(電子)を生成させるn型不純物がドープされることにより、n型熱電変換材料部12の導電型はn型となっている。
【0031】
p型熱電変換材料部11とn型熱電変換材料部12とは、間隔をおいて並べて配置される。高温側電極21は、p型熱電変換材料部11の一方の端部11Aからn型熱電変換材料部12の一方の端部12Aにまで延在するように配置される。高温側電極21は、p型熱電変換材料部11の一方の端部11Aおよびn型熱電変換材料部12の一方の端部12Aの両方に接触するように配置される。高温側電極21は、p型熱電変換材料部11の一方の端部11Aとn型熱電変換材料部12の一方の端部12Aとを接続するように配置される。高温側電極21は、導電材料、たとえば金属からなっている。高温側電極21は、p型熱電変換材料部11およびn型熱電変換材料部12にオーミック接触している。
【0032】
第1低温側電極22は、p型熱電変換材料部11の他方の端部11Bに接触して配置される。第1低温側電極22は、高温側電極21と離れて配置される。第1低温側電極22は、導電材料、たとえば金属からなっている。第1低温側電極22は、p型熱電変換材料部11にオーミック接触している。
【0033】
第2低温側電極23は、n型熱電変換材料部12の他方の端部12Bに接触して配置される。第2低温側電極23は、高温側電極21および第1低温側電極22と離れて配置される。第2低温側電極23は、導電材料、たとえば金属からなっている。第2低温側電極23は、n型熱電変換材料部12にオーミック接触している。
【0034】
配線31は、金属などの導電体からなる。配線31は、第1低温側電極22と第2低温側電極23とを電気的に接続する。
【0035】
π型熱電変換素子1において、たとえばp型熱電変換材料部11の一方の端部11Aおよびn型熱電変換材料部12の一方の端部12Aの側が高温、p型熱電変換材料部11の他方の端部11Bおよびn型熱電変換材料部12の他方の端部12Bの側が低温、となるように温度差が形成されると、p型熱電変換材料部11においては、一方の端部11A側から他方の端部11B側に向けてp型キャリア(正孔)が移動する。このとき、n型熱電変換材料部12においては、一方の端部12A側から他方の端部12B側に向けてn型キャリア(電子)が移動する。その結果、配線31には、矢印αの向きに電流が流れる。このようにして、π型熱電変換素子1において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。
【0036】
そして、p型熱電変換材料部11およびn型熱電変換材料部12を構成する材料として、実施の形態1の熱電変換材料が採用される。実施の形態1の熱電変換材料は、Mnと、Siと、を含み、MnSiの組成式で表される。この組成式において0.90≦X≦1.10以下および0.75≦Y≦5.70が満たされる。そして、実施の形態1の熱電変換材料は、非晶質相を含む組織構造を有する。
【0037】
実施の形態1の熱電変換材料は、Mn−Si系材料であって、組織構造が非晶質相を含むものとなっている。そのため、実施の形態1の熱電変換材料の熱伝導率は低減されている。また、実施の形態1の熱電変換材料においては、非晶質相の形成が比較的容易な上記XおよびYの範囲の成分組成が採用されている。その結果、実施の形態1の熱電変換材料は、熱伝導率を抑制することにより無次元性能指数を実用的な熱電変換特性を持つ程度にまで上昇させることが可能な材料となっている。
【0038】
上記組成式において、0.95≦X≦1.05が満たされることが好ましい。また、上記組成式において、1.50≦Y≦2.33が満たされることが好ましい。
【0039】
実施の形態1の熱電変換材料において、上記組織構造は、粒径が25nm以下の結晶からなるナノ結晶相をさらに含んでいることが好ましい。このようにすることにより、熱伝導率の上昇をわずかな範囲に留めつつ、ゼーベック係数を増大させることができる。その結果、無次元性能指数が上昇し、熱電変換材料の熱電変換特性を一層向上させることができる。
【0040】
実施の形態1の熱電変換材料において、上記ナノ結晶相は、粒径が5nm以下の結晶からなっていることが好ましい。このようにすることにより、ゼーベック係数をより有効に増大させることができる。その結果、無次元性能指数が上昇し、熱電変換材料の熱電変換特性を一層向上させることができる。
【0041】
上記ナノ結晶相を含む実施の形態1の熱電変換材料は、Cu、PおよびAuからなる群から選択される一種以上の元素を30at%以下の割合でさらに含んでいることが好ましい。このようにすることにより、ナノ結晶相を構成する結晶の粒径を抑制することが容易となる。
【0042】
実施の形態1の熱電変換材料において、融点が570℃以上950℃以下であることが好ましい。融点をこのような範囲とすることにより、非晶質相を形成することが容易となる。
【0043】
実施の形態1の熱電変換材料は、Oを0.01at%以上30at%以下の割合でさらに含んでいてもよい。適量のOが導入されることにより、組織構造中に高いポテンシャルバリアとして機能する酸化物相が適量形成される。これにより、キャリアの閉じ込め効果が得られる。その結果、量子効果によりゼーベック係数が上昇し、無次元性能指数を増大させることができる。
【0044】
次に、実施の形態1における熱電変換材料の製造方法について説明する。実施の形態1における熱電変換材料の製造方法においては、まず工程(S10)として原料準備工程が実施される。この工程(S10)では、所望の熱電変換材料の組成に対応する量のMnおよびSiを含む原料が準備される。具体的には、たとえば所望の熱電変換材料の組成に対応する量の原料が秤量され、坩堝内に充填される。坩堝を構成する材料としては、たとえばBN(ボロンナイトライド)を採用することができる。
【0045】
次に、工程(S20)として母合金作製工程が実施される。この工程(S20)では、所望の熱電変換材料の組成に対応する組成を有する母合金が作製される。具体的には、工程(S10)において坩堝内に充填された原料が、たとえば高周波誘導加熱炉を用いて加熱され、溶融状態とされる。その後、自然冷却が実施されることにより溶融状態の原料が凝固する。これにより、母合金が得られる。
【0046】
次に、工程(S30)として非晶質相形成工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)において作製された母合金から非晶質相を含む熱電変換材料が作製される。具体的には、工程(S20)において作製された母合金から、液体急冷法によりリボン状の薄片形状を有する熱電変換材料が得られる。以上の手順により、本実施の形態の熱電変換材料を製造することができる。
【0047】
さらに、実施の形態1の熱電変換材料の製造方法においては、工程(S40)として結晶化熱処理工程が実施されてもよい。この工程(S40)では、工程(S30)が実施されて得られた熱電変換材料に対して熱処理が実施されることにより、ナノ結晶相が形成される。具体的には、たとえばRTA(Rapid Thermal Anneal)炉を用いて熱電変換材料が加熱される熱処理が実施される。熱処理は、たとえば窒素雰囲気中において400℃に加熱し、7分間保持する条件で実施することができる。これにより、非晶質相の一部が結晶化して粒径25nm以下の結晶が生成する。これにより、ナノ結晶相を含む実施の形態1の熱電変換材料が得られる。
【0048】
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2について説明する。実施の形態2における熱電変換材料および熱電変換素子は、基本的には実施の形態1の場合と同様の構成を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2の熱電変換材料および熱電変換素子は、熱電変換材料に以下のように追加的元素が添加される点において実施の形態1の場合とは異なっている。
【0049】
実施の形態2の熱電変換材料は、実施の形態1の熱電変換材料に加えて、さらにAl、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素をさらに含み、(MnαFeβCrγ(SiδGeεSnζAlの組成式で表される。この組成式において、0.40≦α≦1.00、0.00≦β≦0.30、0.00≦γ≦0.30、0.50≦δ≦1.00、0.00≦ε≦0.50、0.00≦ζ≦0.10、α+β+γ=1およびδ+ε+ζ=1が満たされる。さらに、この組成式において、0.00≦Z≦3.67、1.50≦Y+Z≦5.70およびY≧0.43Zが満たされる。
【0050】
実施の形態1の熱電変換材料にAl、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素が追加的に添加されても、実施の形態1の場合と同様の効果を奏する熱電変換材料が得られる。このとき、FeおよびCrについては、これらの元素でMnを置換するように添加される。具体的には上記α、βおよびγの範囲および関係が満たされるようにFeおよびCrの少なくとも一方を添加することができる。また、GeおよびSnについては、これらの元素でSiを置換するように添加される。具体的には、上記δ、εおよびζの範囲および関係が満たされるようにGeおよびSnの少なくとも一方を添加することができる。Alについては、上記Zの範囲において添加することができる。このような追加的元素が添加されることにより、非晶質相の形成が一層容易となる。
【0051】
実施の形態2の熱電変換材料においても、実施の形態1の場合と同様に、熱電変換材料の組織構造は、粒径が25nm以下の結晶からなるナノ結晶相をさらに含んでいることが好ましい。このようにすることにより、熱伝導率の上昇をわずかな範囲に留めつつ、ゼーベック係数を増大させることができる。その結果、無次元性能指数が上昇し、熱電変換材料の熱電変換特性を一層向上させることができる。
【0052】
さらに、上記ナノ結晶相は、粒径が5nm以下の結晶からなっていることが好ましい。このようにすることにより、ゼーベック係数をより有効に増大させることができる。その結果、無次元性能指数が上昇し、熱電変換材料の熱電変換特性を一層向上させることができる。
【0053】
また、上記ナノ結晶相を含む実施の形態2の熱電変換材料は、Cu、PおよびAuからなる群から選択される一種以上の元素を30at%以下の割合でさらに含んでいることが好ましい。このようにすることにより、ナノ結晶相を構成する結晶の粒径を抑制することが容易となる。
【0054】
さらに、実施の形態2の熱電変換材料において、融点が570℃以上950℃以下であることが好ましい。融点をこのような範囲とすることにより、非晶質相を形成することが容易となる。
【0055】
実施の形態2の熱電変換材料は、Oを0.01at%以上30at%以下の割合でさらに含んでいてもよい。適量のOが導入されることにより、組織構造中に高いポテンシャルバリアとして機能する酸化物相が適量形成される。これにより、キャリアの閉じ込め効果が得られる。その結果、量子効果によりゼーベック係数が上昇し、無次元性能指数を増大させることができる。
【0056】
実施の形態2における熱電変換材料は、実施の形態1の熱電変換材料の製造方法の工程(S10)において、実施の形態2の熱電変換材料の組成に対応する量の原料を坩堝内に充填し、以下の工程を実施の形態1の場合と同様に実施することにより製造することができる。
【0057】
(実施の形態3)
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態3について説明する。実施の形態3における熱電変換材料および熱電変換素子は、基本的には実施の形態1の場合と同様の構成を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態3の熱電変換材料および熱電変換素子は、熱電変換材料に以下のように追加的元素が添加される点において実施の形態1の場合とは異なっている。
【0058】
実施の形態3の熱電変換材料は、実施の形態1の熱電変換材料に加えて、さらに少なくともAlを含むAl、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素をさらに含み、(MnαFeβCrγ(SiδGeεSnζAlの組成式で表される。この組成式において、0.40≦α≦1.00、0.00≦β≦0.30、0.00≦γ≦0.30、0.50≦δ≦1.00、0.00≦ε≦0.50、0.00≦ζ≦0.10、α+β+γ=1およびδ+ε+ζ=1が満たされる。さらに、この組成式において、0.25≦Z≦3.67、1.50≦Y+Z≦5.70および1.00Z≦Y≦5.00Zが満たされる。
【0059】
実施の形態1の熱電変換材料に少なくともAlを含むAl、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素が添加されても、実施の形態1の場合と同様の効果を奏する熱電変換材料が得られる。このとき、FeおよびCrについては、これらの元素でMnを置換するように添加される。具体的には上記α、βおよびγの範囲および関係が満たされるようにFeおよびCrの少なくとも一方を添加することができる。また、GeおよびSnについては、これらの元素でSiを置換するように添加される。具体的には、上記δ、εおよびζの範囲および関係が満たされるようにGeおよびSnの少なくとも一方を添加することができる。Alについては、上記Zの範囲において添加することができる。このような追加的元素が添加されることにより、非晶質相の形成が一層容易となる。
【0060】
実施の形態3の熱電変換材料においても、実施の形態1の場合と同様に、熱電変換材料の組織構造は、粒径が25nm以下の結晶からなるナノ結晶相をさらに含んでいることが好ましい。このようにすることにより、熱伝導率の上昇をわずかな範囲に留めつつ、ゼーベック係数を増大させることができる。その結果、無次元性能指数が上昇し、熱電変換材料の熱電変換特性を一層向上させることができる。
【0061】
さらに、上記ナノ結晶相は、粒径が5nm以下の結晶からなっていることが好ましい。このようにすることにより、ゼーベック係数をより有効に増大させることができる。その結果、無次元性能指数が上昇し、熱電変換材料の熱電変換特性を一層向上させることができる。
【0062】
また、上記ナノ結晶相を含む実施の形態3の熱電変換材料は、Cu、PおよびAuからなる群から選択される一種以上の元素を30at%以下の割合でさらに含んでいることが好ましい。このようにすることにより、ナノ結晶相を構成する結晶の粒径を抑制することが容易となる。
【0063】
さらに、実施の形態3の熱電変換材料において、融点が570℃以上950℃以下であることが好ましい。融点をこのような範囲とすることにより、非晶質相を形成することが容易となる。
【0064】
実施の形態3の熱電変換材料は、Oを0.01at%以上30at%以下の割合でさらに含んでいてもよい。適量のOが導入されることにより、組織構造中に高いポテンシャルバリアとして機能する酸化物相が適量形成される。これにより、キャリアの閉じ込め効果が得られる。その結果、量子効果によりゼーベック係数が上昇し、無次元性能指数を増大させることができる。
【0065】
実施の形態3における熱電変換材料は、実施の形態1の熱電変換材料の製造方法の工程(S10)において、実施の形態3の熱電変換材料の組成に対応する量の原料を坩堝内に充填し、以下の工程を実施の形態1の場合と同様に実施することにより製造することができる。
【0066】
なお、上記実施の形態においては、本願の熱電変換素子の一例としてπ型熱電変換素子について説明したが、本願の熱電変換素子はこれに限られない。本願の熱電変換素子は、たとえばI型(ユニレグ型)熱電変換素子など、他の構造を有する熱電変換素子であってもよい。
【0067】
また、上記本願の熱電変換材料を用いて熱電変換素子を作製する場合、上述のように、熱電変換材料に導電性を付与する目的でp型不純物またはn型不純物を添加することができる。このようなp型不純物またはn型不純物が添加された熱電変換材料も、本願の特許請求の範囲に記載の組成の条件および組織構造の条件を満たす限り、本願の特許請求の範囲によって規定される熱電変換材料に含まれる。p型不純物としては、たとえばボロン(B)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)などを採用することができる。n型不純物としては、たとえば窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)などを採用することができる。
【実施例】
【0068】
上記本願の熱電変換材料を作製し、その特性を確認する実験の内容について説明する。実験の手順は以下の通りである。
【0069】
(1)非晶質相を含む熱電変換材料の作製
Al、MnおよびSiの組成比が、それぞれ32at%、25at%および43at%、となるように原料を秤量し、坩堝に充填した。次に、高周波誘導加熱炉を用いて上記原料を溶融した。その後、自然冷却により原料を凝固させ、母合金を作製した。続いて、得られた母合金から液体急冷法を用いてリボン状の薄片形状を有する熱電変換材料を作製した(実施例1)。実施例1の熱電変換材料の組成式は、Mn1.00Si1.72Al1.28で表される。実施例1の熱電変換材料について、XRD(X−Ray Diffraction)分析を実施した。得られた結果を図2に示す。
【0070】
図2において、横軸は回折角度(2θ)を表しており、縦軸は回折強度を表している。図2を参照して、実施例1の熱電変換材料のXRD分析においては、回折角度(2θ)が40°〜50°の領域にブロードなパターンが確認される。また、図2において、特定の物質の結晶面に対応するピークは見られない。このことから、実施例1の熱電変換材料は、非晶質相からなる組織構造を有していることが確認される。
【0071】
実施例1の熱電変換材料に対して、示差熱分析を実施した。分析結果を図3に示す。図3において、横軸は温度を表し、縦軸は熱流を表している。図3を参照して、450℃付近において、非晶質相の結晶化に対応するピークが確認される。このことから、非晶質相の一部をナノ結晶相とするためには、当該ピークの立ち上がり領域付近に対応する400℃付近での加熱処理が妥当であることが分かる。
【0072】
(2)非晶質相およびナノ結晶相を含む熱電変換材料の作製
上記図3の分析結果に基づいて、実施例1の熱電変換材料に対して、窒素雰囲気中において400℃に加熱し、7分間保持する条件で熱処理を実施し、ナノ結晶相を含む熱電変換材料を作製した(実施例2)。実施例2の熱電変換材料の組成式は、実施例1と同様にMn1.00Si1.72Al1.28で表される。実施例2の熱電変換材料について、XRD分析を実施した。得られた結果を図4に示す。
【0073】
図4において、横軸は回折角度(2θ)を表しており、縦軸は回折強度を表している。図4を参照して、実施例2の熱電変換材料のXRD分析においては、回折角度(2θ)が40°〜50°の領域に存在するブロードなパターンに加えて、2つのピーク(ピークAおよびピークB)が確認される。ピークAは、Mn−Al化合物の結晶に対応する。ピークBは、Mn−Si化合物の結晶に対応する。また、これらのピークの半値幅をシェラーの式にあてはめて結晶の粒径を見積もった。その結果、結晶の粒径は25nmであった。このことから、実施例2の熱電変換材料は、非晶質相とナノ結晶相とを含む組織構造を有していることが確認される。
【0074】
(3)ナノ結晶相を構成する結晶の粒径の抑制
Al、Mn、Si、CuおよびPの組成比が、それぞれ34at%、21at%、44at%、0.5at%および0.5at%、となるように原料を秤量し、坩堝に充填した。その後、上記実施例1の場合と同様の手順でリボン状の薄片形状を有する熱電変換材料を作製した。この熱電変換材料に対して、実施例1の場合と同様にXRD分析を実施したところ、実施例1の場合と同様に回折角度(2θ)が40°〜50°の領域にブロードなパターンが確認された。また、特定の物質の結晶面に対応するピークは見られなかった。このことから、得られた熱電変換材料は、非晶質相からなる組織構造を有していることが確認された。
【0075】
その後、当該熱電変換材料に対して実施例2の場合と同様の熱処理を実施した。得られた熱電変換材料に対してXRD分析を実施したところ、実施例2の場合と同様に結晶に対応するピークが確認された。このピークの半値幅をシェラーの式にあてはめて結晶の粒径を見積もった。その結果、結晶の粒径は5nmであった。このことから、CuおよびPの添加により、ナノ結晶相を構成する結晶の粒径を抑制できることが確認される。
【0076】
(4)Mn−Si系熱電変換材料の作製
Al、Mn、SiおよびGeの組成比が、それぞれ27.5at%、33.0at%、29.7at%および9.8at%、となるように原料を秤量し、坩堝に充填した。その後、上記実施例1および実施例2の場合と同様の手順により、非晶質相からなる組織構造を有する実施例3および非晶質相とナノ結晶相とを含む組織構造を有する実施例4の熱電変換材料を作製した。実施例3および実施例4の熱電変換材料の組成式は、いずれもMn1.00Si0.90Ge0.30Al0.83で表される。ここで、Geは、Siを置換するように添加される。Geは、非晶質相の形成を容易とするために添加される。
【0077】
(5)熱電変換材料の評価
上記実施例1〜4の熱電変換材料について、ゼーベック係数、導電率、熱伝導率を測定し、50℃における無次元性能指数を算出した。また、比較のため、実施例1の熱電変換材料の作製において得られる多結晶の母合金(比較例)について、熱伝導率を測定した。実験結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
表1の比較例と実施例1とは、同一の成分組成を有するにも関わらず、実施例1の熱伝導率は比較例の1/2未満にまで低減されている。これは、多結晶の組織構造を有する比較例において熱伝導に寄与するフォノン散乱が、非晶質相を有する実施例1において抑制されたためであると考えられる。このように、非晶質相を含む組織構造を有する本願の熱電変換材料によれば、熱伝導率を抑制することにより無次元性能指数を上昇させることが可能であることが確認される。
【0079】
また、実施例2および実施例4は、それぞれ実施例1および実施例3と同一の成分組成を有しており、ナノ結晶相を含む点において実施例1および実施例3と異なっている。実施例2および実施例4は、ナノ結晶相を含むことにより実施例1および実施例3に比べて熱伝導率がわずかに上昇しているものの、ゼーベック係数の絶対値が大幅に増大している。これは、ナノ結晶相による量子効果によるものであると考えられる。その結果、実施例2および実施例4の無次元性能指数は実施例1および実施例3に比べて上昇している。このように、ナノ結晶相を含む組織構造を採用することにより、熱電変換材料の熱電変換特性が一層向上することが確認される。
【0080】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本願の熱電変換材料および熱電変換素子は、変換効率の向上が求められる熱電変換素子を構成する熱電変換材料および変換効率の向上が求められる熱電変換素子に、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0082】
1 π型熱電変換素子
11 p型熱電変換材料部
11A,11B 端部
12 n型熱電変換材料部
12A,12B 端部
21 高温側電極
22 第1低温側電極
23 第2低温側電極
31 配線
図1
図2
図3
図4