(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電解コンデンサ用電解液は、3〜6価の多価アルコール(a)のアルキレンオキサイド付加物(A)、電解質(B)および極性溶媒(C)を必須成分とし、アルキレンオキサイド付加物(A)が下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
【0012】
[kは、エチレンオキサイドの付加モル数を表し、それぞれ独立に1〜70の数である。mは、エチレンオキサイドの付加モル数を表し、それぞれ独立に1〜150の数である。nは、プロピレンオキサイドの付加モル数を表し、それぞれ独立に1〜150の数である。fは多価アルコール(a)の価数を表し、3〜6の整数である。Rはf価のアルコールから水酸基を除いた残基を示す。Aは、水素原子、アルキル基またはアリル基 を表す。「/」はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの付加形式がランダム状であることを示す。]
【0013】
一般式(1)のkは、エチレンオキサイドの付加モル数を表し、それぞれ独立に1〜70の数であり、好ましくは、5〜30であり、さらに好ましくは10〜30である。
1未満であると、耐電圧の向上効果が小さくなり、70を超えると低温特性が悪くなる。
【0014】
一般式(1)のmは、エチレンオキサイドの付加モル数を表し、それぞれ独立に1〜150の数であり、このましくは、5〜100であり、さらに好ましくは5〜60であり、最も好ましくは5〜30である。1未満であると、耐電圧の向上効果が小さくなり、150を超えると低温特性が悪くなる。
【0015】
一般式(1)のnは、プロピレンオキサイドの付加モル数を表し、それぞれ独立に1〜150の数であり、このましくは、2〜50であり、さらに好ましくは3〜20であり、最も好ましくは3〜10である。1未満であると、低温特性が悪くなり、150を超えるても低温特性、耐電圧向上効果が悪くなる。
【0016】
一般式(1)のfは多価アルコール(a)の価数を表すが、本発明のアルキレンオキサイド付加物(A)は3〜6価の多価アルコール(a)のアルキレンオキサイドを付加させるので、3〜6の整数であり、Rは多価アルコール(a)から水酸基を除いた残基を示す。
【0017】
一般式(1)の末端のAは水素原子、アルキル基、アリル基を表し、溶解性の観点から水素原子が好ましい。
【0018】
アルキレンオキサイド付加物(A)中のエチレンオキサイド全体の付加モル数、すなわち (k+m)×fは、10〜130が好ましく、さらに10〜90が好ましく、最もこのましくは、12〜60である。10未満であると耐電圧の向上効果が小さく、130を超えると低温特性が劣る。
【0019】
アルキレンオキサイド付加物(A)の数平均分子量(水酸基価から換算した分子量)は、200〜20,000が好ましく、さらに500〜10,000が好ましく、最も好ましくは1,000〜8,000である。200未満であると、耐電圧の向上効果が小さく、20,000を超えると低温特性が劣る。
【0020】
3〜6価の多価アルコール(a)のアルキレンオキサイド付加物(A)の製造方法として、多価アルコールに水酸化カリウム、または水酸化ナトリウム触媒の存在下で、先ずエチレンオキサイドを反応してブロック付加させる。反応終了後、予めエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドをボンベ中に均一にした混合物を滴下反応させてランダム付加させる方法が一般的である。
本用途であるアルミ電解コンデンサ用途では、金属イオンはコンデンサのショートの原因となるため、カリウムイオンまたは、ナトリウムイオンを吸着処理等で、10ppm以下に好ましくは1ppm以下にする必要がある。
【0021】
本発明の電解質(B)は、電解コンデンサ用電解液に通常使われる電解質であれば特にその種類は限定されず、電解質(B)はカチオン成分(B1)、アニオン成分(B2)から構成される。
【0022】
カチオン成分(B1)としては、アンモニアカチオン;ジメチルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミンなどの2級アミンのカチオン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミンなどの3級アミンのカチオン;テトラメチルアンモニウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、1−エチル−2,3−メチルイミダゾリニウムなどの4級アンモニウムカチオンがあり、単独使用でもよいし2種以上を併用してもよい。これらのうち、アンモニアカチオン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミンが好ましく、さらにトリメチルアミン、ジメチルエチルアミンが好ましい。
【0023】
アニオン成分(B2)は、2−エチルヘキサン酸、2−ブチルヘキサン酸などのモノカルボン酸アニオン;アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,6−デカンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、マレイン酸、フタル酸、シトラコン酸などのジカルボン酸アニオン;リン酸アニオンおよびリン酸エステルなどのリン酸誘導体アニオン;ホウ酸アニオン、ホウ酸誘導体アニオンなどが挙げられる。なかでも、ジカルボン酸アニオンが好ましく、さらに、炭素数は4〜12の脂肪族カルボン酸アニオンが好ましい。アニオンは、単独使用でも2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明の極性溶媒(C)は、電解コンデンサ用電解液に通常使われる極性溶媒であれば特に限定されず、例えば、アルコール(C1)、アミド(C2)、ラクトン(C3)、ニトリル(C4)、スルホン(C5)およびその他の極性の有機溶媒(C6)が挙げられる。
【0025】
アルコール(C1)
1価アルコール(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、ベンジルアルコール、アミノアルコール、フルフリルアルコールなど)、2価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキシレングリコールなど)、3価アルコール(グリセリンなど)、4価以上のアルコール(ヘキシトールなど)など。
【0026】
アミド(C2)
ホルムアミド(N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなど)、アセトアミド(N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなど)、プロピオンアミド(N,N−ジメチルプロピオンアミドなど)、ピロリドン(N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドンなど)、ヘキサメチルホスホリルアミドなど。
【0027】
ラクトン(C3)
γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトンなど。
【0028】
ニトリル(C4)
アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、アクリロニトリル、メタクリルニトリル、ベンゾニトリルなど。
【0029】
スルホン(C5)
スルホラン、ジメチルスルホキシド、エチルメチルスルホンなど。
【0030】
その他の有機溶媒(C6)
1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなど。
【0031】
これらの極性溶媒(C)は、単独使用でもよいし2種以上を併用してもよい。これらのうち、アルコール(C1)、ラクトン(C3)が好ましく、さらに好ましくはエチレングリコールとγ−ブチロラクトンであり、最も好ましくは、エチレングリコールである。
【0032】
本発明の電解液中のアルキレンオキサイド付加物(A)と極性溶媒(C)との重量比(A)/(C)は2/98〜40/60が好ましく、2/98〜20/80がさらに好ましい。
重量比(A)/(C)が2/98未満であると耐電圧向上の効果が低くなり、一方、40/60を超えると粘度が高くなるため、コンデンサを組み立てる際にセパレータに電解液を浸み込みにくくなる。
【0033】
本発明の電解液には必要により、電解液に通常用いられる種々の添加剤を添加することができる。
駆動中にわすかに発生する水素ガスを吸収させる目的で、例えば、o−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、m−ニトロ安息香酸、o−ニトロフェノール、p−ニトロフェノールなどのニトロ化合物などが添加される。また、耐電圧を高めるために、ホウ酸、ポバールなどが添加される。その添加量は、比電導度と電解液への溶解度の観点から、電解液の重量に基づいて、好ましくは5重量%以下、特に好ましくは0.1〜2重量%がよい。
【0034】
本発明の電解コンデンサ用電解液は、アルミニウム電解コンデンサ用に最適である。
アルミニウム電解コンデンサとしては、特に限定されず、例えば、捲き取り形の電解コンデンサであって、陽極表面に酸化アルミニウムが形成された陽極(酸化アルミニウム箔)と陰極アルミニウム箔との間に、セパレーターを介在させて捲回することにより構成されたコンデンサが挙げられる。
本発明の電解液を駆動用電解液としてセパレーターに含浸し、陽陰極と共に、有底筒状のアルミニウムケースに収納した後、アルミニウムケースの開口部を封口ゴムで密閉して電解コンデンサを構成することができる。
【0035】
次に本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0037】
製造例1
6価アルコールのソルビトール(a−1)182重量部(1mol)に水酸化カリウム1.1重量部(0.02mol)添加し、170℃でエチレンオキサイド616重量部(14mol)を圧平衡に達するまで反応させた。その後、あらかじめ、エチレンオキサイド572重量部(13mol)とプロピレンオキサイド354重量部(6mol)をボンベ中で均一にした液をで反応させ、圧平衡に達したところで終点とした。その後、水酸化カリウム除去のために吸着剤としてキヨーワード600、キヨワード700(協和化学工業株式会社製)を用いて水酸化カリウムを1ppm以下にした。
一段目の反応が終わった時点でのサンプリング物と最終製造品のプロトン核磁気共鳴装置(H−NMR)チャートと水酸基価で、化学式(1)のk=14、m=13、n=6、f=6、A=水素原子、R=ソルビトール残基のアルキレンオキサイド付加物(A−1)が得たことを確認した。
【0038】
製造例2
製造例1において、最初のエチレンオキサイドをエチレンオキサイド704重量部(16mol)に変更し、2段目のエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドをエチレンオキサイド4,268重量部(97mol)とプロピレンオキサイド2,360重量部(40mol)をボンベ中で均一にした液とした以外は製造例1と同様に反応させて、化学式(1)のk=16、m=97、n=40、f=6、A=水素原子、R=ソルビトール残基のアルキレンオキサイド付加物(A−2)を得た。
【0039】
製造例3
製造例1において、ソルビトールを3価のアルコールのグリセリン(a−2)に変更し、2段目のエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドをエチレンオキサイド572重量部(13mol)とプロピレンオキサイド767重量部(13mol)をボンベ中で均一にした液とした以外は製造例1と同様に反応させて、化学式(1)のk=14、m=13、n=13、f=3、A=水素原子、R=グリセリン残基のアルキレンオキサイド付加物(A−3)を得た。
【0040】
製造例4
製造例1において、ソルビトールをグリセリンに変更し、最初のエチレンオキサイド704重量部(16mol)にし、2段目のエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドをエチレンオキサイド2,200重量部(50mol)とプロピレンオキサイド472重量部(8mol)をボンベ中で均一にした液とした以外は製造例1と同様に反応させて、化学式(1)のk=16、m=50、n=8、f=3、A=水素原子、R=グリセリン残基のアルキレンオキサイド付加物(A−4)を得た。
【0041】
比較製造例1
グリセリン(a−1)182重量部(1mol)に水酸化カリウム1.1重量部(0.02mol)添加し、170℃でエチレンオキサイド616重量部(14mol)とプロピレンオキサイド767重量部(13mol)をボンベ中で均一にした液を滴下し、圧平衡に達するまで反応させた。その後、水酸化カリウム除去のために吸着剤としてキヨーワード600、キヨワード700(協和化学工業株式会社製)を用いて水酸化カリウムを1ppm以下にした。反応途中でサンプリングを複数回行い、それらと最終製造品のH−NMRのチャートと水酸基価から、グリセリンのエチレンオキサイド14モル/プロピレンオキサイド13モル付加物(A−2’)を得た。付加形式はランダムであった。これは化学式(1)には該当しない。
【0042】
比較製造例2
製造例1において、ソルビトールをグリセリンにし、最初はエチレンオキサイド付加ではなくプロピレンオキサイド826重量部(14mol)を付加し、2段目のエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドをエチレンオキサイド572重量部(13mol)とプロピレンオキサイド354重量部(6mol)をボンベ中で均一にした液とした以外は製造例1と同様に反応させて、グリセリンのPO14モル付加−EO13モル/PO6モル付加物(A’−3)を得た。これは化学式(1)には該当しない。
【0043】
比較製造例3
製造例1において、2段目のエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドをプロピレンオキサイド重量部767(13mol)に変更し、圧平衡に達するまで反応させ、加えて3段目として、エチレンオキサイド572重量部(13mol)を圧平衡に達するまで反応させた以外は製造例1と同様に反応させて、グリセリンのEO14モル付加−EO13モル−PO13モル付加物(A’−4)を得た。これは化学式(1)には該当しない。
【0044】
実施例1
(A−1)と極性溶媒のエチレングリコール(C−1)を、表1に記載した配合部数(重量部)で混合した。その後、この溶液91重量部に1,6−デカンジカルボン酸(B2−1)8重量部を添加し、アンモニアガス(B1−1)を1重量部吹き込み中和しながら溶解させ、実施例1の電解液を得た。pHは6.9であった。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例2〜4、比較例1〜3
表1に記載した部数(重量部)に従い、実施例1と同様の操作を行い、実施例2,3、比較例1〜3の電解液を得た。
【0047】
実施例1〜4、および比較例1〜3で得た電解液を用い、以下に示す方法で、低温(−20℃)の状態を目視で観察し、電導度を測定した結果を表1に記載した。
【0048】
[−20℃での電解液の状態]
電解液を透明のガラス瓶に入れ、−20℃の恒温槽で24時間放置し、−20℃の状態でガラス瓶を傾けて目視で観察し、下記の判定基準で評価した。
○:透明であり、析出物なく、傾けると流動性がある
△:うっすら白濁するが、全体として均一で、傾けると流動性がある
×:全体が固化
【0049】
[電導度の測定]
電導度計CM−40S(東亜電波工業株式会社製)を用いて、30℃での電導度(mS/cm)を測定した。
この条件では、電導度は、1.2mS/cm以上であることが必要とされる。
【0050】
[耐電圧の測定]
陽極に10cm
2の高圧用化成エッチングアルミニウム箔を用い、陰極に10cm
2のプレーンなアルミニウム箔を用い、25℃にて定電流(2mA)を負荷したときに、電圧の降下(ショート)がみられたときの電圧値を読み取って耐電圧とした。直流安定化電源として高砂製作所製のGP650−05Rを用いて測定した。
500V対応コンデンサには、この条件では一般に520V以上の耐電圧が必要である。
【0051】
本発明の実施例1〜4の電解液は−20℃でも透明で析出物もなく流動性があり、かつ電導度、耐電圧ともに高かった。
一方、2価のアルコールアルキレンオキサイド付加物を用いた比較例1と、mが0のアルコールアルキレンオキサイド付加物を用いた比較例2は、ともに−20℃では固化した。先ずブロック付加するのがエチレンオキサイドではなくプロピレンオキサイドである比較例3は耐電圧が不十分であった。また、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドがランダム状の付加物でない比較例4は、電解液が−20℃ではうっすら白濁し耐電圧が不十分であった。