(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに端部を重ねて取り付けられている複数の前記網体のうち、前記動物侵入抑止柵の延長方向に垂直な方向から見て前記支柱と重なっていない前記網体の少なくとも1つが、隣接する他の前記網体よりも前記保護地から離れた位置に取り付けられていることを特徴とする請求項6又は7記載の動物侵入抑止柵。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る動物侵入抑止柵について詳細に説明する。
【0026】
図1は、実施形態に係る動物侵入抑止柵1が設置されている状態を示す斜視図である。
【0027】
実施形態に係る動物侵入抑止柵1は、
図1に示すように、野生動物の侵入から保護する対象となる鉄道や道路、農地や林地が設けられている保護地(−X方向)と、保護地以外の敷地(+X方向)とを隔てるために用いられている。なお、上記±X方向の他、動物侵入抑止柵1の延展方向を±Y方向(特に
図1紙面左方向を便宜的に+Y方向とする)、地面Gに対して垂直な方向であって動物侵入抑止柵1が立設される方向を+Z方向とする。
【0028】
野生動物は、例えば、シカ科では、特にシカ属のニホンジカに分類される、エゾシカ、ホンシュウジカ、キュウシュウジカ、マゲシカ、ヤクシカ、ケラマジカ、ツシマジカ等が該当する。また、ウシ科では、特にカモシカ属に分類されるニホンカモシカ等やウシ属に分類される各種ウシ等が該当する。更に、雑食性の動物である、イノシシ科のニホンイノシシやリュウキュウイノシシ等も該当する。
【0029】
保護地は、例えば鉄道や道路の場合、列車の通過する線路や自動車が通過する道路等を有する敷地を想定している。また、農地や林地の場合、農作物の作付けや植林が施された敷地を想定している。このため、保護地は、動物侵入抑止柵1を境界にして線路や自動車用道路等の直線的に延長された敷地、農作物が作付けされた畑や植林が施された敷地である。
【0030】
保護地以外の敷地は、動物侵入抑止柵1を境界にして線路や自動車用道路、畑や植林を有する保護地と反対側に位置する敷地である。保護地以外の敷地は、例えば、野生動物の生息地を想定している。しかし、これに限定されることなく、保護地位外の敷地は、動物侵入抑止柵1を境界にして保護地以外の敷地を全て含むものとする。
【0031】
図2は、実施形態に係る動物侵入抑止柵1を示す斜視図である。
図3は、実施形態に係る動物侵入抑止柵1を示す側面図である。
【0032】
動物侵入抑止柵1は、間隔をあけて配置された支柱11と、これらの支柱11に架け渡された3本の線材であるワイヤ12a、12b、12cと、中間部及び最下部にあるワイヤ12b、12cに取り付けられた網体である亀甲金網13と、亀甲金網13をワイヤ12b、12cに連結する第1連結コイル31と、隣接する亀甲金網13同士を連結する第2連結コイル32とを主な構成部材として構成されている。この動物侵入抑止柵1は、傾斜地である地面Gに対して垂直に設けられている。
【0033】
上述した動物侵入抑止柵1において、地面Gから中央部にあるワイヤ12bまでの高さをH1、最下部にあるワイヤ12cまでの高さをH2、最上部にあるワイヤ12aまでの高さをH3とする。また、ワイヤ12aとワイヤ12bとの間の距離をH4とする。
【0034】
図4は、実施形態に係る動物侵入抑止柵1を構成する支柱11を示す斜視図である。
図5は、
図4の支柱11の上部拡大斜視図である。
図6は、
図4の支柱11の下部拡大斜視図である。
【0035】
支柱11は、地面に立設される支柱本体111と、支柱本体111の下部に連続して設けられた基礎杭112と、支柱本体111に取り付け固定される支柱カバー113とにより主に構成されている。支柱11が地面Gに立設される際には、保護地の外側(+X方向)に支柱カバー113を向けた状態で立設される。
【0036】
図7は、
図4の支柱を構成する支柱本体111を示す斜視図である。
図8は、
図7の支柱本体111の側面図である。
【0037】
支柱本体111は、底部111gと、底部111gより垂直に立ち上がり互いに垂直となる位置関係で連続しているウェブ111e及びフランジ111fとにより構成される断面L型の鋼材である。
【0038】
底部111gは略正方形の板状部材であり、中心部分にはボルト締結用の孔部111dが設けられている。この底部111gには、地面Gに打設された基礎杭112の上部に設けられたボルト(不図示)が挿通され、底部111g側からワッシャ(不図示)を介してナットN2が螺合されることにより底部111gと基礎杭112とが固定され、支柱11の地面Gへの立設が行われる。この底部111gから垂直に立ち上がるようにして、ウェブ111eとフランジ111fとが、互いに垂直となるように設けられている。
【0039】
ウェブ111eには、所定の間隔を空けて、実際に動物侵入抑止柵1が設置された状態における水平方向(−X方向)に伸展して設けられた水平切欠部111aと、切欠部111aに連続して鉛直方向(−Z方向)に設けられた鉛直切欠部111bが形成されている。また、ウェブ111eには、支柱カバー113とのボルト締結用の孔部111cが設けられている。
【0040】
水平切欠部111a及び鉛直切欠部111bの開口径は、ワイヤ12a、12b、12cを挿通可能な径となっている。
【0041】
フランジ111fは、底部111g及びウェブ111eに対して垂直に設けられた長板形状の構成であり、ウェブ111eとともに支柱本体111に機械的強度を付与している。
【0042】
図9は、
図4の支柱を構成する支柱カバー113を示す斜視図である。
図10は、
図9の支柱カバー113の側面図である。
【0043】
支柱カバー113は、長板状のウェブ113eと、ウェブ113eに対して垂直に連続して設けられたフランジ113fにより構成される断面L型の鋼材である。
【0044】
ウェブ113eには、矩形の切欠部113aが所定の間隔をあけて複数設けられている。切欠部113aの上下方向(±Z方向)の幅は、支柱本体111のウェブ111eに形成された鉛直切欠部111bの長手方向の長さよりも短くなっていて、切欠部113a間の間隔は、鉛直切欠部111b間の間隔と同一の間隔となっている。
【0045】
また、ウェブ113eには、支柱本体111とのボルト締結に用いられる複数の孔部113cが設けられている。孔部113c間の間隔は、支柱本体111のウェブ111eに設けられた孔部111c間の間隔と同一のものとなっている。
【0046】
フランジ113fはウェブ113eよりも幅が狭くなっている板状の部材である。
【0047】
図1〜
図3に戻り、亀甲金網13は、鋼線である線材をねじり合わせて六角形の網目を形成した網体であり、ビニール被覆線、亜鉛めっき鉄線、ステンレス線等を用いて形成されている。亀甲金網13は、工事の際に取り扱いが容易であり、鋼線の一部が破断しても裂け目が全体に広がることがないという利点がある。
【0048】
亀甲金網13は、線材同士の撚り目を水平方向(地面Gと平行な方向)に向けて配置されている。亀甲金網13は、この撚り目が回転軸となることで、網目同士が所定の範囲回動することができるため、亀甲金網13を巻いた状態とすることができる。
【0049】
亀甲金網13は、第1連結コイル31を用いてワイヤ12b、12cに取り付けられている。また、隣接する亀甲金網13同士は、互いの幅方向(±Y方向)の端部にある1マス分の網目を重ね合わせて配置されている。そして、隣接する亀甲金網13は、ワイヤ12b、12c間であってこの重ね合わさせている網目の部分において、第2連結コイル32により互いに固定されている。
【0050】
亀甲金網13の幅及び用いられる枚数は、隣接する2つの支柱11間に架け渡せる範囲で適宜調節することができる。本実施形態においては、支柱11間に、それぞれ支柱11間の距離の3分の1よりもやや広い幅を有する3枚の亀甲金網が、それぞれの端部において互いに1マス分ずつ網目を重ね合わせた状態で、隣接する2つの支柱11間に隙間なく架け渡されている。
【0051】
亀甲金網13の縦方向の長さは、ワイヤ12b及びワイヤ12cに取り付けた状態において、亀甲金網13がワイヤ12cから更に延長し、地面Gに沿い広がる程度の長さとなっている。
【0052】
また、亀甲金網13の1枚当たりの重量は、作業者が1人で持ち上げられる程度の重量であることが好ましい。このような重量とすることで、動物侵入抑止柵1の設置作業を少人数で容易かつ効率的に行うことができる。
【0053】
なお、本実施形態においては亀甲金網13が用いられているが、本発明においてはこれに限らず、綿や樹脂製の紐より形成される網体等、作業者が一人でも持ち運び及び設置作業ができる程度に軽量で、かつ上方(+Z方向)に巻き上げられるものであれば好適に用いることができる。
【0054】
次に、上述した動物侵入抑止柵1の設置方法について説明する。
【0055】
まず、動物侵入抑止柵1の設置場所である地面Gに、複数の基礎杭112が所定の間隔を空けて打設される。
【0056】
次に、地面Gに打設された基礎杭112の上部から突出するボルトが支柱本体111の底部111gに形成されている孔部111dに挿入されるようにして、支柱本体111が地面に垂直に載置される。このとき支柱本体111は、水平切欠部111aが地面Gの下方、すなわち保護地側と反対側に向くようにして載置される。
【0057】
次に、この状態で基礎杭112と支柱本体111とがボルト締結される。このボルト締結は、支柱本体111の底部の孔部111gから突出している基礎杭112のボルトに対して、支柱本体111側からワッシャとナットとが嵌め込まれることで行われる。
【0058】
次に、
図11に示すように、複数の支柱11の支柱本体111の水平切欠部111aから鉛直切欠部111bに、ワイヤ12a、12b、12cが挿通される。
図11は、支柱本体111にワイヤが掛け渡される状態を示す部分拡大斜視図である。
【0059】
本実施形態においては、支柱本体111の3つの水平切欠部111bに対して、ワイヤ12a、12b、12cがそれぞれ挿通され、連続する複数の支柱本体111間にワイヤ12a、12b、12cが掛け渡される(
図2参照)。
【0060】
このとき、地面Gから見てワイヤ12cの高さはH2、ワイヤ12bの高さはH1、ワイヤ12aの高さはH3となっている。また、ワイヤ12a−12b間の距離はH4となっている。
【0061】
次に、支柱本体111に支柱カバー113が取り付けられる。
図12は、線材が掛け渡された支柱本体111に支柱カバー113が当接した状態を示す部分拡大斜視図である。
【0062】
この支柱カバー113の取り付けは、各支柱本体111に掛け渡されたワイヤ12a、12b、12cを支柱本体111と挟み込むように、地面Gの斜面下方側から支柱カバー113を当接させることで行われる。
【0063】
支柱カバー113の支柱本体111への当接は、支柱カバー113の切欠部113aにワイヤ12a、12b、12cが挿通されるようにして行われる。こうして、支柱本体111の鉛直切欠部111bと支柱カバー113の切欠部113aにより、ワイヤ12a、12b、12cが把持された状態となる。
【0064】
また、この状態では、支柱本体111の孔部111cと支柱カバー113の孔部113cとが対向する位置にあり、これらの孔部111c、113cが連通した状態となる。
【0065】
次に、
図13に示すように、この状態で支柱本体111と支柱カバー113とがボルト締結され固定される。
図13は、
図12の状態から更にボルトB1、B2、ワッシャW1、W2及びナットN1、N2による固定が行われた状態を示す部分拡大斜視図である。
【0066】
連通した状態にある支柱本体111の上下に形成されている2つの孔部111cとこれらに対向する位置にある支柱カバー113の孔部113cにそれぞれワッシャW1、W2を介してボルトB1、B2が挿通される。そして、挿通されたボルトB1、B2にそれぞれナットN1、N2が螺合されて、支柱本体111と支柱カバー113との固定が行われる。
【0067】
次に、ワイヤ12a、12b、12cの端部が地面Gに固定される。
図14は、ワイヤ12a、12b、12cの端部が固定される態様を示す正面図である。ワイヤ12a、12b、12cの端部は、ターンバックル5を介して地面に打設された固定具6に固定される。
【0068】
ターンバックル5の一端部に設けられた接続部51は、ワイヤ12a、12b、12cの端部に固定される。ターンバックル5の他端部52はリング状又はフック状になっていて、地面に打設された固定具6の固定具本体61上面に設けられた環状部62に固定されている。
【0069】
なお、本実施形態においては
図14に示すようなターンバックル5を用いてワイヤ12a、12b、12cの端部の固定を行っているが、本発明においてはこれに限らず、他の形状のターンバックル5を用いてもよく、また、ターンバックル5以外の任意の緊張手段を用いて固定を行ってもよい。
【0070】
また、ターンバックル5を介した固定具6へのワイヤ12a、12b、12cの固定に先立ち、各ワイヤ12a、12b、12cの緊張が行われてもよい。この場合、例えば事前の緊張用に別途固定具6を地面に設置し、この固定具6を支点としてレバーブロック(登録商標)等の任意の緊張手段を用いて各ワイヤ12a、12b、12cの緊張を行ってもよい。
【0071】
こうした事前の緊張は、ワイヤ12a、12b、12cの長さが数百メートルに及ぶ場合にはターンバックル5のみでは十分な緊張を行えないことから特に有効な作業となる。
【0072】
上述した工程を経て、支柱本体111と支柱カバー113とが固定され、支柱11が完成するとともに、この支柱11にワイヤ12a、12b、12cが掛け渡された状態が形成される。
【0073】
次に、支柱11間に掛け渡されたワイヤ12a、12b、12cのうち、中段にあるワイヤ12b及び最下部にあるワイヤ12cに、亀甲金網13が取り付けられる。本実施形態においては、3枚の亀甲金網13が、隣接する支柱11間に、隣接する亀甲金網13の端部にある網目を1マス分ずつ重ね合わせた状態で取り付けられる。
【0074】
このとき、3枚の亀甲金網13のうち中央部分に位置する亀甲金網13は、他の亀甲金網13よりも保護地から離れた位置において他の2枚の亀甲金網13にその端部を重ねた状態で取り付けられる。
【0075】
亀甲金網13のワイヤ12b、12cへの取り付けは、本実施形態においては取付部材としてのコイル部材31を用いて行われる。コイル部材31が亀甲金網13のマス目とワイヤ12b、12cとを縫うようにしてこれらに螺合されることで、亀甲金網13のワイヤ12b、12cへの取り付けが行われる。
【0076】
更に、隣接する亀甲金網13同士についても、互いに重なり合うマス目の部分であってワイヤ12b、12c間に位置する部分が、連結部材としてのコイル部材32により連結される。このコイル部材32は、隣接する亀甲金網13同士が重なり合う部分のマス目を縫うようにして螺合されることで隣接する2つの亀甲金網13同士の隙間の無い連結を行う。
【0077】
このとき、コイル部材32の上下に収縮する弾性力により亀甲金網13のマス目を保持して、コイル部材32の脱落が防止されている。
【0078】
このように隣接する亀甲金網13同士が端部を重ねて連結されることで、長いスパンでワイヤ12b、12cが架け渡された場合に生じるワイヤ12b、12cのたるみに起因する亀甲金網13間の隙間の発生を防止し、野生動物が当該隙間から保護地に進入することを効果的に防止することができる。
【0079】
上述したコイル部材31、32は、簡易な構成を備え、簡単な取付作業により亀甲金網13とワイヤ12b、12c、又は亀甲金網13同士を連結することができる。また、これらのコイル部材31、32は取り外し作業も容易に行うことができる。
【0080】
こうしてワイヤ12b、12cに亀甲金網13が取り付けられた状態において、亀甲金網13の下側の部分は、地面Gに垂れた状態となる。
【0081】
なお、鉛直切欠部111bは、支柱本体111を傾斜させて地面Gに設置した状態でワイヤ12a、12b、12cを脱落させずに仮置きできる構成である。
【0082】
そのため、地面Gに長い延長に渡り動物侵入抑止柵1を設置する際に、支柱カバー113の取り付けをそれぞれの支柱11を設置する都度行うことなく、先行して多数の支柱本体111を地面Gに設置し、ワイヤ12a、12b、12cを鉛直切欠部111bに仮置きさせることができる。
【0083】
これにより、その後で多数の支柱カバー113の取り付けを連続しておこなうことができ、斜面での施工性がより良好なものとなる。
【0084】
なお、鉛直切欠部111bは、支柱本体111を地面Gに立設して傾けた状態で、ワイヤ12a、12b、12cが脱落せず仮置きできればよい。そのため、本実施形態においては切欠きが鉛直方向に設けられていて鉛直切欠部111bとなっているが、本発明においてはこれに限らず、水平切欠部111aに連続して鉛直方向以外の方向に延びる態様であってもよい。
【0085】
次に、上述した構成を有する動物侵入抑止柵1が奏する効果について説明する。まず、除草作業時に容易に作業スペースを確保し亀甲金網13の損傷を防止する効果について説明する。
【0086】
図15は、動物侵入抑止柵の亀甲金網の下端部を巻き上げた状態を示す斜視図である。
図16は、動物侵入抑止柵の亀甲金網の下端部を巻き上げた状態を示す正面図である。
図17は、動物侵入抑止柵の亀甲金網の下端部を巻き上げた状態を示す側面図である。
【0087】
動物侵入抑止柵1の亀甲金網13は、上述したように撚り目を中心として所定の範囲の回動可能であるため、全体として撚り目を軸として巻いた状態とすることができる。
【0088】
そのため、
図15〜
図17に示すように、ワイヤ12cを緊張させたまま亀甲金網13のワイヤ12cよりも下側(−Z方向)に位置する部分を巻き上げることができ、亀甲金網13の下方に高さH2のスペースを確保することができる。この高さH2は、100mm以上300mm以下となっている。
【0089】
巻き上げた亀甲金網13の端部は、係止部材7を用いて上方の網目に固定される。係止部材7としては、クリップやカラビナ等、取り付けと取り外しを容易に行うことのできるものであれば種々のものを用いることができる。これにより亀甲金網13を巻き上げた状態を保つことができる。
【0090】
亀甲金網13の下部に形成されたスペースの高さH2が100mm以上あることで、除草作業時に草刈機の回転刃が亀甲金網13に接触し亀甲金網13が破損することを効果的に防止することができる。
【0091】
また、高さH2が300mm以下であることで、野生動物としてのイノシシ2’(
図21参照)の侵入を効果的に防止することができる。このイノシシ2’の侵入防止効果についての詳細は
図21を用いて後述する。
【0092】
次に、動物侵入抑止柵1の任意の個所において作業者の通用スペースを確保できる効果について説明する。
【0093】
図18は、動物侵入抑止柵1の特定の亀甲金網13について全体を巻き上げ出入口を形成した状態を示す斜視図である。
図19は、動物侵入抑止柵1の特定の亀甲金網13について全体を巻き上げ出入口を形成した状態を示す正面図である。
図20は、動物侵入抑止柵1の特定の亀甲金網13について全体を巻き上げ出入口を形成した状態を示す側面図である。
【0094】
図18〜
図20に示すように、動物侵入抑止柵1の亀甲金網13は、
図15〜
図17に示す状態よりも更に巻き上げられ、高さH1の位置で固定されている。
【0095】
上述したように、支柱11間に互いに端部を重ね合わせた状態で取り付けられている3枚の亀甲金網13のうち、中央にある亀甲金網13は、他の2つの亀甲金網よりも保護地の外部に位置している。そのため、
図18〜
図20に示すように、ワイヤ12a、12b、12cの緊張状態を保ちつつ、中央にある亀甲金網13のみを保護地の外側に向けて巻き上げることができる。
【0096】
このとき、巻き上げられる対象となる亀甲金網13をワイヤ12cに固定しているコイル部材31が取り外されるが、この取り外しはコイル部材31を回転させるのみで容易に行うことができる。また、亀甲金網13同士の連結に用いられているコイル部材32も、回転させるのみで容易に亀甲金網13から取り外される。
【0097】
そして、中央にある亀甲金網13が高さH1に巻き上げられた状態で、その端部が係止部材7を用いてワイヤ12aに固定されることで、当該巻き上げられた状態が維持される。この高さH1は、作業者が通行可能な高さとなっているため、亀甲金網13が巻き上げられた個所は、作業者の通用スペースとすることができる。
【0098】
また、作業者による作業が終了し、動物侵入抑止柵1を
図1に示す当初の状態に戻す場合には、まず係止部材7が取り外され、亀甲金網13が地面Gまで下ろされる。
【0099】
そして、下ろした亀甲金網13をコイル部材31を用いてワイヤ12cに連結固定するとともに、隣接する亀甲金網13間をコイル部材32で再度連結される。このとき、コイル部材32が亀甲金網13から脱落しないように、コイル部材32の上下に収縮する弾性力により亀甲金網13のマス目を保持する。
【0100】
このように、本発明に係る動物侵入抑止柵1によると、ワイヤ12a、12b、12cの緊張状態を維持したまま作業者の通用スペースを容易かつ迅速に形成することができ、作業終了後にも容易かつ迅速に当初状態に戻すことができる。
【0101】
次に、野生動物の侵入抑止効果について説明する。まず、野生動物としてのイノシシ2’の侵入抑止効果について説明する。
【0102】
図21は、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1の対象動物の一例であるイノシシ2’を示す図である。
【0103】
イノシシ2’は、強い突進力を有する野生動物である。そのため、保護地の外部から動物侵入抑止柵1を通過して保護地内に進入しようとする際にも、直進して動物侵入抑止柵1に衝突してこれを通過しようとすることがある。
【0104】
そのため、イノシシ2’の肩高であり鼻の位置でもある高さ2eよりも低い位置に障害物があれば、イノシシ2’はその直進動作が妨げられることになる。このイノシシ2’の肩高2eは、日本国内において広く分布しているニホンイノシシの場合、成獣は600mm〜900mm程度の高さとなっている。
【0105】
そこで、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、最下段に緊張して設けられているワイヤ12cの高さH2が肩高600mmのイノシシの半分以下である300mm以下となっている。このようにワイヤ12cの高さH2が300mm以下とされ、亀甲金網13の巻き上げの有無に関わらず常に緊張した状態とされていることで、十分な反力が得られてイノシシ2’の直進動作を妨げ、イノシシ2’の保護地内への侵入を効果的に防止することができる。
【0106】
次に、野生動物としてのシカ2の侵入抑止効果について説明する。
図22は、本実施形態に係る動物侵入抑止柵の対象動物の一例であるシカを示す図である。
図23は、
図22のシカの頭部の各箇所の長さを示した図である。
【0107】
図22及び
図23に示すように、シカ2は、肩高が2a、頭部の高さが2b、頭部の長さが2c、頭部の幅が2dとなっている。
【0108】
そして、
図2、
図3及び
図24に示すように、動物侵入抑止柵1は、地面Gからこの最上部にあるワイヤ12aまでの高さがH3となっているとともに、ワイヤ12aと2段目のワイヤ12bとの間の距離がH4となっている。
【0109】
下草を食べるシカ2は、その性質上、進行方向に柵等の障害物がある場合には、柵を迂回、もしくは跨ぐか潜ろうとする。たとえ跳躍により飛び越えることが可能な高さの柵であっても、柵の先に餌があったり、後から追い立てられたりする等の跳躍を誘発する要因が無ければ、跳躍はほとんど行われない。
【0110】
そして、跳躍の誘発要因が無く、柵を跨いだり潜ったりすることができない場合には、シカ2は引き返すか柵に沿って移動を行う。
【0111】
そこで、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1を道路や鉄道に沿って設置する場合では、ワイヤ12aは地面からの高さがシカ2の肩高2aよりも高いH3となるよう設けられている。そのため、シカ2はワイヤ12aを跨ぐことができない。
【0112】
このように、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1によると、シカ2がこれを跨ぎ保護地に侵入することを効果的に抑止することができる。
【0113】
また、この侵入抑止効果は、動物侵入抑止柵1が地面Gに立設されることで更に高めることができる。
【0114】
図24は、実施形態に係る動物侵入抑止柵1による保護地へのシカの侵入抑止効果と保護地からの脱出の容易さを説明する図である。
【0115】
図24に示すように、動物侵入抑止柵1から見て地面Gの下方、すなわち保護地の外側にいるシカ2は、動物侵入抑止柵1のワイヤ12aを飛び越えるにあたり、斜面の傾斜分も加味した高さH5を跳躍しなければならない。
【0116】
このH5は、通常シカ2が跳躍可能な高さよりも高く設定されているH3、すなわち、地面Gからワイヤ12aまでの高さよりも高くなっている。そのため、シカ2が地面Gの下方から動物侵入抑止柵1を飛び越え保護地に侵入することを効果的に防止することができる。
【0117】
このように、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、動物侵入抑止柵1の高さを従来の柵よりも低く保つことができ、製造及び設置のコストと作業時の労力とを削減することができる。
【0118】
更に、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、シカ2の潜り込みの対策として、亀甲金網13が地面Gに対して十分な長さ垂れ広がるとともに、亀甲金網13が最下段のワイヤ12cに固定されている。
【0119】
シカ2は、障害物等への潜り込みを行う場合、まず、首を下げて鼻先を障害物の下に潜り込ませ、その状態で首を持ち上げることにより障害物を浮き上がらせ障害物の下に潜り込みの可能なスペースを形成する。そして、シカ2はその状態のまま体勢を低くし、このスペースに鼻先から頭部、首と順に潜り込んでいくことで障害物への潜り込みを行う。
【0120】
しかし、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、シカ2が地面に垂れ下がる亀甲金網13に鼻先を潜り込ませ首を持ち上げ亀甲金網13の端部をめくり上げようとしても全てめくり上げることができない程度に十分な長さ地面Gに垂れ広がるよう構成されている。
【0121】
具体的には、亀甲金網13は、シカ2がその鼻先を潜り込ませたときにめくり上がる長さ、すなわち、シカ2の頭部の高さ2bと頭部の長さ2cとの和よりも十分に長く地面Gに垂れ広がるよう構成されている。
【0122】
そのため、シカ2は、亀甲金網13の下に鼻先を潜り込ませた場合でも、全てをめくり上げることができず、更に頭部や首を潜り込ませようとはしない。
【0123】
更に、上述したように亀甲金網13は地面Gに近い位置においてワイヤ12cに固定されている。そのため、もしシカ2が地面Gに垂れ広がる亀甲金網13の下方に潜り込んだとしても、そこから更に保護地に進入することはできず、シカ2の潜り込みをより効果的に抑止できる。
【0124】
このように、本実施形態における動物侵入抑止柵1では、シカ2の潜り込みも効果的に防止し、保護地への侵入を抑止することができる。
【0125】
次に、シカ2の保護地からの脱出を促進する効果について説明する。
【0126】
上述したように、シカ2は、跳躍により飛び越えることが可能な高さの柵であっても、柵の先に餌があったり、後から追い立てられたりする等の跳躍を誘発する要因が無ければ、跳躍はほとんど行わない。
【0127】
そして、鉄道や道路等に設けられた横断区間等による動物侵入抑止柵1の切れ目から保護地側に侵入してしまったシカなどの野生動物が、車両等の接近により驚き、跳躍してこれを乗り越えようとする。
【0128】
このとき、シカ2の跳躍可能高さは肩高2aの3倍程度までであるが、容易に超えられる高さは肩高2aの2倍程度までである。そのため、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、地面から最上部のワイヤ12aまでの高さH3は、シカ2の肩高2aの2倍以下となるように設定されている。
【0129】
これにより、シカ2は、車両の接近時等には動物侵入抑止柵1を容易に飛び越え、保護地から脱出することができる。
【0130】
また、
図24に示すように、動物侵入抑止柵1から見て地面Gの上方、すなわち保護地に侵入した状態にあるシカ2が動物侵入抑止柵1のワイヤ12aを飛び越えるにあたり、跳躍すべき高さはH6となっている。
【0131】
この高さH6は、シカ2が容易に跳躍可能な高さであるH3よりも更に低いものとなっている。そのため、シカ2が動物侵入抑止柵1を飛び越え、保護地から脱出することが更に容易となっている。
【0132】
また、シカ2が動物侵入抑止柵1を飛び越える際には、動物侵入抑止柵1の向こう側を見渡せる視認性のあることが重要となる。シカ2は、跳躍方向の視認性が良く、着地点を視認できる場合には跳躍を行い易いことが知られている。
【0133】
ヒトをはじめとする、ある程度知能を有する動物であれば、向こう側が見えない状態で障害物を跳躍して越えることは、恐怖がともなうので跳躍を自制する。
【0134】
そのため、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、上部にワイヤ12a、12bを掛け渡した構成とすることで、動物侵入抑止柵1の上部に視認性の高い空間を確保し、シカ2が跳躍を行い易い状況を実現している。
【0135】
なお、この視認性は、シカ2の頭部のサイズに依存している。具体的には、シカ2の頭部は
図23に示す正面視で、縦の長さが2b、横幅が2dとなっていて、シカ2はこうした頭部の縦横のサイズを基準として、この縦横のサイズよりも大きな空間がある場合に柵の向こう側を認識して、柵の向こう側への跳躍を意識するようになる。
【0136】
そのため、ワイヤ12a−12b間の距離H4が、シカ2の頭部の縦の長さ2bよりも長くなるように確保されている。また、支柱11間の距離も、シカ2の頭部の横幅2dよりも十分に広くなっている。
【0137】
こうして動物侵入抑止柵1の上部において、シカ2の頭部のサイズよりも広い空間を確保することができ、シカ2が柵の向こう側を認識し易くすることで、シカ2が保護地から脱出する際の動物侵入抑止柵1の跳躍を行い易くすることができる。
【0138】
具体的には、シカ2がホンシュウジカである場合には、頭部の縦の長さ2bと横幅2dがともに20cm程度であるため、動物侵入抑止柵1のH4が20cm以上、支柱11間の距離が20cm以上であれば、すなわち、動物侵入抑止柵1の上部に20cm四方以上の空間を確保することができれば、シカ2は跳躍を行い易くなる。
【0139】
更に、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1には、シカ2の脱出時に跳躍した野生動物が動物侵入抑止柵1に衝突し、これが損傷した場合でも、保護地側に破損した構成部品が侵入することを効果的に防止するという効果もある。
【0140】
シカ2が保護地側から跳躍して動物侵入抑止柵1に衝突し動物侵入抑止柵1が折れ曲がる場合、この折れ曲がりの方向は保護地の外側に向かうものであるため、保護地内に動物侵入抑止柵1が折れ曲がり、車両等の通行に支障をきたすことはない。
【0141】
また、シカ2の衝突により動物侵入抑止柵1が破損し構成部品が脱落することがある。しかし、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、各構成部品の脱落方向が保護地の外側(+X方向)に限られるため、保護地側(−X方向)に脱落した部品が侵入し、車両等の通行の妨げになることがない。
【0142】
具体的には、動物侵入抑止柵1の支柱本体111は、基礎杭112により地面Gに固定されているため、シカ2が保護地の外側に跳躍し衝突した場合には、この跳躍方向、すなわち保護地の外側に向けて湾曲し、保護地側に湾曲することはない。
【0143】
また、支柱カバー113は、支柱本体111にボルト締結されているため、支柱本体111とともに保護地の外側に湾曲するか、あるいはボルト締結箇所の破損が生じ脱落する場合でも、シカ2の跳躍方向に向けて脱落するのみである。
【0144】
また、支柱11間に掛け渡されているワイヤ12a、12b、12cは2本以上の支柱11にまたがって架け渡されているため、野生動物の衝突により湾曲したり切断したりする場合にも、支柱11が障害となるため、保護地側に湾曲、屈曲することがない。
【0145】
上述した本実施形態に係る動物侵入抑止柵1によると、野生動物の侵入抑止効果を維持しつつ、除草作業時に容易に作業スペースを確保し網の損傷を効果的に防止するとともに、任意の個所において作業者の通用スペースも容易に確保することができる。
【0146】
また、野生動物の保護地への侵入を抑止する機能を備えつつ、仮に野生動物が保護地に侵入した場合でも、緊急脱出が容易であり、かつ脱出時に動物侵入抑止柵1が損傷しても、保護地側に破損物が侵入することを効果的に防止することができる。
【0147】
なお、上述した実施形態においては、支柱11間に3本のワイヤ12a、12b、12cが掛け渡されていたが、本発明においてはこれに限らず、ワイヤの数を野生動物の種類や動物侵入抑止柵1の設置状況に応じて適宜調整することができる。
【0148】
また、支柱11間にワイヤを掛け渡すことで侵入抑止効果を発揮していたが、本発明においてはこれに限らず、野生動物の侵入抑止効果と跳躍時の視認性を確保できる材料であればワイヤでなくともよく、板状部材や鋼線等、好適に用いることができる。また、これらの材質についても、鋼材の他、樹脂や木材、天然繊維等を好適に用いることができる。
【0149】
また、野生動物の潜り込みを防止する亀甲金網13についても、潜り込み防止効果を奏するとともに巻き上げが可能なものであれば好適に用いることができ、シートや繊維よりなるネット等も用いることができる。また、これらの材質についても、鋼材の他、樹脂や天然繊維等を好適に用いることができる。
【0150】
また、上述した実施形態においては隣接する2つの支柱11間に取り付けられる亀甲金網13は3枚であったが、本発明においてはこれに限らず、1枚、2枚、又は4枚以上であってもよい。
【0151】
支柱11間に取り付けられる亀甲金網13の枚数が1枚である場合には、亀甲金網13の幅は、支柱11と亀甲金網13との間で隙間が発生しないよう、隣接する亀甲金網13との重ね代を除いて隣接する2つの支柱11間の距離と同一の幅である必要がある。
【0152】
また、支柱11間に取り付けられる亀甲金網13が2枚又は4枚以上である場合にも、上述した実施形態と同様に亀甲金網13同士はその端部を重ねて配置されるとともに、少なくとも1枚の亀甲金網13は他の亀甲金網13よりも保護地の外側に設けられ、保護地の外側に巻き上げることのできる状態とする必要がある。
【0153】
また、支柱11間に取り付けられる亀甲金網13は何れの枚数であったとしても、1枚の亀甲金網13を高さH1まで巻き上げた場合に作業者が通行できる幅を有する必要がある。
【0154】
また、隣接する支柱11間に複数の亀甲金網13を取り付ける場合、全ての亀甲金網13が同一の幅を有する必要はなく、それぞれ異なる幅を有していてもよい。この場合にも、複数の亀甲金網13はそれぞれ端部を重ねて取り付けられるとともに、少なくとも1枚の亀甲金網13は他の亀甲金網13よりも保護地の外側に設けられ、高さH1まで巻き上げることが可能である必要がある。また、当該巻き上げ可能な亀甲金網13の幅は、これを巻き上げたときに作業者が通行できる幅を有する必要がある。
【0155】
また、上述した実施形態においては隣接する亀甲金網13間の端部の重ね合わせは1マス分を重ね合わせることで行われていたが、本発明においてはこれに限らず、2マス以上を重ね合わせて行われてもよい。
【0156】
また、上述した実施形態においては亀甲金網13のワイヤ12b、12cへの取付、及び亀甲金網13同士の接続にそれぞれコイル部材31、32を用いていたが、本発明においてはこれに限らず、クリップやカラビナ等、任意の取付部材を用いて取り付けることができる。
【0157】
また、上述した実施形態においては複数の支柱11は同一の間隔をあけて立設されていたが、本発明においてはこれに限らず、支柱11間の間隔がそれぞれ異なるように立設されてもよい。この場合、支柱11間に取り付けられる亀甲金網13の枚数を適宜調節してもよい。
【0158】
また、隣接する2つの支柱11間の全てにおいて保護地の外側に巻き上げ可能な亀甲金網13を設ける必要はなく、任意の支柱11間に設ける態様としてもよい。
【0159】
上述した何れの変形例に係る動物侵入抑止柵1によっても、野生動物の侵入抑止効果を維持しつつ、除草作業時に容易に作業スペースを確保し網の損傷を効果的に防止するとともに、任意の個所において作業者の通用スペースも容易に確保することができる。