【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度〜平成28年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(さきがけ)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Y.TOGAWA, et al.,Chiral Magnetic Soliton Lattice on a Chiral Helimagnet,PHYSICAL REVIEW LETTERS,米国,2012年 3月 9日,Vol.108,No.10,p.107202-1-107202-5
【文献】
Y.TOGAWA et al.,Chiral Soliton Lattice in Chiral Magnetic Crystal CrNb3S6,J.Jpn.Soc.Powder Powder Metallurgy,日本,2014年,Vol.61,No.S1,p.S34-S36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の磁気デバイスは、キラルらせん磁気秩序を示す磁性体からなる磁性体部と、磁場を印加することにより前記磁性体部の電気伝導特性又は光学特性を変化させる磁場印加部と、前記電気伝導特性又は光学特性に基づき出力信号を出力する出力部とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の磁気デバイスにおいて、磁場印加部は、磁性体部に全体的に磁場を印加する第1磁場印加部と、磁性体部に局所的に磁場を印加する第2磁場印加部とを含み、第2磁場印加部は、入力信号に対応した強さの磁場を磁性体部に印加することが好ましい。
このような構成によれば、第1磁場印加部により磁性体部を待機状態とすることができ、第2磁場印加部による局所印加磁場により磁性体部の電気伝導特性又は光学特性を変化させることができる。このことにより、第2磁場印加部に入力した入力信号に応じて磁性体部の電気伝導特性又は光学特性を変化させることができ、入力信号を出力信号に変換することができる。
本発明の磁気デバイスにおいて、第2磁場印加部は、直線状の信号線を含み、信号線に電流を流すことにより生じる磁場を磁性体部へ印加するように設けられ、入力信号の閾値は、信号線に流す電流の向きにより異なることが好ましい。
このような構成によれば、入力信号電流の向きにより入力信号の閾値を変えることができ、磁気デバイスを多機能化することが可能である。また、1つの磁気デバイスに複数の閾値を埋め込むことが可能になる。
【0013】
本発明の磁気デバイスにおいて、第2磁場印加部は、前記直線状の信号線を複数含み、各直線状の信号線は、入力信号の閾値が異なることが好ましい。
このような構成によれば、入力信号電流を流す信号線を選択することより、入力信号の閾値を変えることができ、磁気デバイスを多機能化することが可能である。また、1つの磁気デバイスに複数の閾値を埋め込むことが可能になる。さらに、入力信号の大きさ、入力方法、外部磁場の印加方法などを変更することにより論理演算機能を切り替えることが可能である。
本発明の磁気デバイスにおいて、出力部は、磁性体部に接続した電極対を有することが好ましい。
このような構成によれば、電極対間の電位差の変動、電極対間の電流の変動、磁性体部の電気抵抗などとして出力信号を出力することが可能になる。
本発明の磁気デバイスにおいて、出力部は、磁気光学効果による検出を行うために光源と光検出器を備えるものでもよい。
このような構成によれば、磁気光学応答などとして出力信号を出力することが可能になる。
本発明は、本発明の磁気デバイスを含む論理回路装置も提供する。
本発明によれば、NOT回路、NOR回路、AND回路、OR回路、NAND回路などを提供することができる。また、これらの論理回路のうち複数の機能を切り替え可能に有する論理回路装置を提供することができる。また、同一素子内において論理機能を再構成することが可能となる。また、入力閾値の分布を利用することで多値演算も対応可能であり、論理演算機能の再構成と多値化を同時に実現しうる。
【0014】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0015】
磁気デバイス
図1、3、5はそれぞれ本実施形態の磁気デバイスの概略上面図である。なお、これらの図では上側の第1磁場印加部4は省略している。また、
図2は、
図1の破線A−Aにおける磁気デバイスの概略断面図である。
図4は、
図3の破線B−Bにおける磁気デバイスの概略断面図である。
図6は、
図5の破線C−Cにおける磁気デバイスの概略断面図である。
本実施形態の磁気デバイス20は、キラルらせん磁気秩序を示す磁性体からなる磁性体部1と、磁場を印加することにより磁性体部1の電気伝導特性又は光学特性を変化させる磁場印加部3と、前記電気伝導特性又は光学特性に基づき出力信号を出力する出力部7とを備えることを特徴とする。本実施形態の磁気デバイス20は、例えば、メモリセルであってもよく、スイッチング動作を行う電子素子であってもよい。
また、磁場印加部3は、第1磁場印加部4と第2磁場印加部5を含むことができる。
以下、本実施形態の磁気デバイス20について説明する。
【0016】
磁性体部1は、キラルらせん磁気秩序を示す磁性体からなる部分である。磁性体部1は、インゴットから切り出したチップであってもよく、CVD法、PVD法などにより成膜された膜であってもよい。
磁性体部1の材料は、キラルらせん磁気秩序を示す磁性体であれば特に限定されないが、例えばCrNb
3S
6である(非特許文献1参照)。キラルらせん磁気秩序とは、磁気モーメントがらせん状に並んだ磁気秩序である。なお、磁気モーメントは、磁性体の結晶軸をらせん軸としてらせん状に並ぶ。ここでは、CrNb
3S
6を用いてキラルらせん磁気秩序を示す磁性体について説明する。
【0017】
図7(a)は、CrNb
3S
6の結晶構造を示す図であり、(b)は、CrNb
3S
6の磁気モーメントを示す図である。
図7(b)のらせん状に並んだ矢印は、磁気モーメントを示すベクトルであり、これらのらせん状に並んだ磁気モーメントは、波のように回転しており、キラルらせん磁気秩序状態となっている。なお、この磁気モーメントがねじれた領域の一つずつをソリトンといい、ソリトンが周期的に並んだ状態をソリトン格子状態という。
図7(c)〜(g)は、CrNb
3S
6に磁場を印加した場合の磁気モーメントを示す図である。
図7(c)から(g)に向かうにつれ印加磁場の強さは大きくなる。CrNb
3S
6に磁場を印加すると、CrNb
3S
6の磁気モーメントが磁場の方向に向かう磁気分極が生じる。そのため、印加磁場の強さを徐々に大きくしていくと磁気分極が進み、磁気モーメントが揃った領域が徐々に長くなる。そして、印加磁場の強さが十分に大きくなると
図7(g)のようにCrNb
3S
6の磁気モーメントが印加磁場の方向に並び強磁性状態となる。なお、印加磁場により磁気分極が進みらせん磁気秩序の構造が変化すると、磁性体部1の電気伝導特性や光学特性は変化する。
【0018】
本発明者らが行った測定により、キラルらせん磁気秩序を示す磁性体では、
図7(g)のように磁場印加部3により磁性体を強制的に強磁性状態とした後、印加磁場の強さをある程度小さくしても強磁性状態が維持されることが明らかになった(この強磁性状態が維持されている状態を過飽和状態という)。そして、過飽和状態で、印加磁場の強さを臨界磁場H
cまで小さくすると、磁性体部1を強磁性状態からソリトン格子状態に急峻に変化させることができることが明らかになった。このとき、磁性体部1の全体がソリトン格子状態に変化していることがわかっている。また、過飽和状態で印加磁場の強さを臨界磁場H
cよりも少し強い状態(この状態を待機状態という)とした後、磁場印加部3により磁性体部1に局所的な磁場を印加することなどにより、磁性体部1を過飽和状態からソリトン格子状態に急峻に変化させることができることが明らかになった(この待機状態の後に印加する磁場を信号磁場といい、信号磁場を変化させる信号を入力信号という)。また、この変化に伴い磁性体部1の電気伝導特性又は光学特性を急峻に大きく変化させることができる。
【0019】
磁場印加部3は、磁性体部1に磁場を印加する部分である。磁場印加部3による印加磁場により磁性体部1の磁気分極を生じさせることができ、磁性体部1の電気伝導特性や光学特性を変化させることができる。
磁場印加部3は、電流により同心円状の磁場を発生させる信号線であってもよく、導線を巻いたコイルであってもよく、永久磁石であってもよい。
【0020】
磁場印加部3は、磁性体部1に全体的に磁場を印加する第1磁場印加部4と、磁性体部1に局所的に磁場を印加する第2磁場印加部5とを含むことができる。なお、第1磁場印加部4により印加される磁場を外部磁場H
exといい、第2磁場印加部5により印加される磁場を局所磁場H
localという。第1磁場印加部4を設けることにより、外部磁場H
exにより磁性体部1の磁気モーメントを全体的に変化させることができる。このため、外部磁場H
exを制御することにより磁性体部1を上述の待機状態とすることができる。
【0021】
第1磁場印加部4は、例えば、
図2のように、磁性体部1の上側と下側に設けたコイルとすることができる。このことにより、コイルに電流を流すことにより磁性体部1に全体的に外部磁場H
exを印加することができる。また、コイルに流す電流量を変化させることにより磁性体部1に印加する外部磁場H
exの強さを変化させることができる。また、コイルに流す電流の向きを反転させることにより、外部磁場の向きを反転させることができる。なお、第1磁場印加部4は、永久磁石であってもよい。なお、第1磁場印加部4は、複数の磁性体部1に外部磁場を同時に印加するように設けることができる。
第1磁場印加部4は、磁性体部1を構成する磁性体の磁気秩序のらせん軸と30°〜150°で交わる方向に磁場を印加するように設けることができる。このことにより、第1磁場印加部4による外部磁場H
exにより磁性体部1の磁気モーメントを効率よく変化させることができる。
なお、角度を大きくするにつれて臨界磁場H
cが徐々に大きくなることがわかっている。0°〜180°の範囲でこの傾向は確認できており、磁性体部1を構成する磁性体の磁気秩序のらせん軸がこの範囲まで角度がついても同じ効果が期待できる。つまり、その試料配置に応じた適当な磁場範囲を選ぶことで、外部磁場H
exを制御することにより磁性体部1を上述の待機状態とすることができる。
また、外部磁場H
exの大きさを微小に変化させるための副コイルを全体、もしくは、各磁気デバイスに設けてよい。これは後述するゲーティング操作や本実施形態の磁気デバイスを集積した際に有用となる。
【0022】
第2磁場印加部5は、例えば、
図2のように、磁性体部1に近接して設けられた信号線5とすることができる。第2磁場印加部5は、直線状の信号線であってもよく、曲線状の信号線であってもよいが、直線状の信号線であることが好ましい。なお、入力信号の閾値の可変性や空間分布を用いずにある特定の一つの閾値のみを使うのであれば、第2磁場印加部5は、例えば、曲線状やループ状の信号線でもよい。
また、第2磁場印加部5は位置の異なる信号線を複数含んでもよい。この信号線5に電流を流すことにより信号線の周りに同心円状の磁場を発生させることができ、この磁場(局所磁場H
local)を磁性体部1に局所的に印加することができる。また、この信号線5に流す電流は、パルス状の入力信号電流(入力信号)とすることができる。従って、入力信号電流の大きさにより局所磁場H
localの大きさを変化させることができる。
【0023】
また、第1磁場印加部4により磁性体部1に外部磁場H
exを印加した状態で第2磁場印加部5により局所磁場H
localを印加することにより、外部磁場H
exと局所磁場H
localとを重畳させることができ、磁性体部1に印加する磁場を変化させることができる。また、外部磁場H
exにより磁性体部1を待機状態し、入力信号に基づき第2磁場印加部5により局所磁場H
localを磁性体部1に印加することにより、待機状態からソリトン格子状態に変化させることができ、磁性体部1の電気伝導特性又は光学特性を急峻に大きく変化させることができる。従って、磁性体部1の電気伝導特性又は光学特性が大きく変化するときの入力信号の大きさを閾値とすることができ、第2磁場印加部5に入力する入力信号が閾値よりも大きい場合磁性体部1の電気伝導特性又は光学特性を急峻に大きく変化させることができ、入力信号が閾値よりも小さい場合磁性体部1の電気伝導特性又は光学特性を変化させないことができる。このことにより、入力信号を磁性体部1の電気伝導特性又は光学特性に変換することが可能になる。
なお、ここでは入力信号を第2磁場印加部5に入力するが、入力信号により第1磁場印加部4の出力を変動させてもよい。このことによっても、入力信号を磁性体部1の電気伝導特性又は光学特性に変換することが可能である。
【0024】
本発明者らが行った測定により、第2磁場印加部5である信号線5を設ける位置や、信号線5に入力信号電流を流す向き、入力信号電流の流し方、外部磁場の大きさ・向きなどにより、入力信号の閾値を変化させることができることが明らかになった。外部磁場の大きさ・向きなどにより、入力信号の閾値を変化させることができる特性は、デバイスのゲーティング機能として用いることが可能である。位置の異なる信号線5を複数設けることにより、複数の閾値が埋め込まれた磁気デバイス20を形成することができる。また、外部磁場の大きさや向きを変えることにより、磁気デバイス20の有効化・無効化を切り替えることが可能になる。また、複数の信号線5を設けた場合、各信号線5の有効化・無効化も切り替えることが可能である。
【0025】
出力部7は、磁性体部1の電気伝導特性又は光学特性に基づき出力信号を出力する部分である。
出力部7が磁性体部1の電気伝導特性に基づき出力信号を出力する場合、出力部7は、磁性体部1に接続した電極対を有することができる。例えば、電極対は、
図1、2に示した出力用電極9のように設けてよく、
図3、4に示した出力用電極9のように設けてもよい。このことにより、出力部は、電極対間の電位差の変動、電極対間の電流の変動、磁性体部1の電気抵抗などとして出力信号を出力することが可能になる。
出力部7が磁性体部1の光学特性に基づき出力信号を出力する場合、出力部7は、磁性体部1の光学特性を検出する光検出部17を有することができる。また、光検出部17は、さまざまな磁気光学効果(例えば、光磁気カー効果や磁気キラル光学効果)を利用して磁性体部1が強磁性状態からソリトン格子状態に変化したことを検出することができる。例えば、
図6のように、磁性体部1に光を照射する光源16と、磁性体部1の反射光を検出する光検出部17とを有することができる。このことにより、磁性体部1が強磁性状態からソリトン格子状態に変化したことを光検出部17により検出することができ、この検出信号を出力することが可能になる。
金属のキラル磁性体の場合電気伝導特性や光学特性に基づき出力信号を出力し、絶縁体のキラル磁性体の場合光学特性に基づき出力信号を出力することができるが、それぞれ出力方法を限定するものではない。
【0026】
電気抵抗測定1
図1、2に示したような磁気デバイス20を作製し、磁性体部1の電気抵抗測定を行った。磁性体部1は、単結晶CrNb
3S
6磁性体を用いて形成した。また、CrNb
3S
6磁性体の磁気秩序のらせん軸方向に電流が流れるように通電用電極8を設けた。また、磁性体部1の電気抵抗を測定する出力用電極9を設けた。さらに、磁性体部1の下側に直線状の信号線5からなる第2磁場印加部5を設けた。
図8は作製した磁気デバイス20のSIM像である。
外部磁場H
exを印加する磁場発生装置(第1磁場印加部4)中に作製した磁気デバイス20を設置し、外部磁場H
exの強さを徐々に増加させ4000Oeまで強くした後、外部磁場の強さを徐々に減少させ、この間の磁性体部1の電気抵抗を測定した。なお、測定電流は1mAとした。
【0027】
図9は、電気抵抗測定の結果を示すグラフである。
図9の黒丸は外部磁場の強さを増加させたときの電気抵抗であり、白丸は外部磁場の強さを減少させたときの電気抵抗である。外部磁場を印加していない状態(キラルらせん磁気秩序)における磁性体部1の電気抵抗は約0.221Ωであり、外部磁場の強さを徐々に強くしていくと、電気抵抗は徐々に低下した。これは、外部磁場により磁性体部1のソリトン格子状態の周期が徐々に長くなっていくためと考えられる。そして外部磁場の強さが3000Oe以上になると磁性体部1の電気抵抗は約0.2195Ωで安定した。これは、外部磁場により磁性体部1が強磁性状態になったためと考えられる。また、外部磁場の強さを徐々に減少させていくと、外部磁場の大きさが3000Oe以下となっても電気抵抗は約0.2195Ωで安定しており、磁性体部1は過飽和状態となった。これは強磁性状態が維持されるためと考えられる。そして、外部磁場の大きさが約2050Oe(臨界磁場H
c)になると、電気抵抗は、約0.2204ΩとなりΔR=0.0009Ωだけ急激に増加した。外部磁場が臨界磁場H
cに達すると、磁性体部1が強磁性状態からソリトン格子状態に急峻に変化するためと考えられる。そして、外部磁場の大きさをさらに小さくしていくと、電気抵抗は徐々に上昇し、電気抵抗は約0.221Ωに戻った。このように、キラルらせん磁気秩序を示す磁性体では、外部磁場の変化に対する電気伝導特性の変化が不可逆なヒステリシス(履歴)応答を示すことがわかった。過飽和状態からソリトン格子状態への変化は相転移現象であり、試料全体にわたりこの相転移が起きると考えられる。
従って、外部磁場が臨界磁場に達すると、磁性体部1が強磁性状態からソリトン格子状態に急峻に変化し、この変化を磁性体部1の電気抵抗として検出することができることがわかった。また、この変化は、磁性体部1の光学特性の変化や電気伝導性の変化としても検出できると考えられる。
【0028】
次に、外部磁場により磁性体部1を強磁性状態にした後、外部磁場の大きさを臨界磁場H
cよりもΔHだけ大きい強さになるように外部磁場を変化させ待機状態(過飽和状態、外部磁場は一定)とした。この待機状態において、
図10(a)〜(c)のように第2磁場印加部5に+x方向の単発パルス波電流を流し第2磁場印加部5の同心円状に局所磁場H
localを発生させ、磁性体部1にH
exに加えてH
localを重畳した。この単発パルス波電流のパルス幅を500ns〜500μsとして、様々な大きさの単発パルス電流を流した後の磁性体部1の電気抵抗を測定した。なお、1ns〜100msのパルス幅に対して同様の結果が得られることがわかっている。H
localの大きさは磁性体部1の内部において空間分布しているが、H
localを磁性体部1の直下位置での磁場の大きさとして定義し、印加した電流値から計算される値を示している。
【0029】
図10(d)は、待機状態のΔHを3Oeとしたときの電気抵抗測定の結果を示すグラフである。H
localが50Oe以下の場合、電気抵抗は約0.2195Ωであり、待機状態から変化しなかった。また、H
localが約55Oe以上になると電気抵抗は約0.2204となり、ΔR=0.0009Ωだけ急激に増加した。これは、H
localが55Oe以上になると、磁性体部1が強磁性状態からソリトン格子状態に変化したためと考えられる。なお、H
localが強磁性状態からソリトン格子状態への変化を起こしたときの第2磁場印加部5に流した電流を臨界電流I
cという。
【0030】
これらの結果から、H
exを一定とし第2磁場印加部5に入力信号電流を流すと、H
localが50Oe以下の場合には、磁性体部1の電気抵抗が変化せず、H
localが55Oe以上になると磁性体部1の電気抵抗が大きく変化することが分かった。従って、H
localが50Oe〜55Oeとなる臨界電流I
cを閾値I
thとする入力信号電流を第2磁場印加部5に流すと、入力信号を磁性体部1の電気抵抗に変換し出力信号を出力することができることがわかった。なお、ここでは、入力信号を磁性体部1の電気抵抗に変換しているが、磁性体部1の両側の電位差としても出力信号を出力することができる。また、閾値の電流I
thを第2磁場印加部5に流したときに、第2磁場印加部5により磁性体部1に印加される磁場の強さをH
thと表記する。
また、
図11は、待機状態のΔHを3Oe又は5Oeとしたときの電気抵抗測定の結果を示すグラフである。ΔHが3OeとするとH
localが25〜35Oeで磁性体部1の電気抵抗が大きく変化し、ΔHが5OeとするとH
localが45〜55Oeで磁性体部1の電気抵抗が大きく変化することがわかった。従って、待機状態のΔHを変えることにより臨界電流I
cを変えることができることがわかった。
このことを利用した論理回路装置については後述する。
【0031】
次に、外部磁場により待機状態にした後、
図12(a)(b)のように第2磁場印加部5に‐x方向の単発パルス波電流を流し第2磁場印加部5の同心円状に局所磁場H
localを発生させ、磁性体部1にH
exに加えてH
localを重畳した。この単発パルス波電流のパルス幅を500ns〜500μsとして、様々な大きさの単発パルス電流を流した際の磁性体部1の電気抵抗を測定した。
【0032】
図12(c)は、電気抵抗測定の結果を示すグラフである。この測定では、局部磁場を250Oeまで大きくしても磁性体部1の電気抵抗は変化しなかった。これは、磁性体部1の強磁性状態が維持されたためと考えられる。従って、第2磁場印加部5に流す電流の向きにより強磁性状態からソリトン格子状態への変化を起こすH
localの大きさが変わることがわかった。よって、第2磁場印加部5に流す電流の向きにより、H
localを与える閾値H
thを変化させることができると考えられ、閾値H
thは電流の流れる方向に依存すると考えられる。このように、キラルらせん磁気秩序を示す磁性体では、電流を流す方向に対して電気伝導特性の変化が非対称応答を示すことがわかった。
この結果から第2磁場印加部5に入力信号電流を流す場合、電流を流す方向により閾値を変えることができることが考えられる。また、第2磁場印加部5に交流の入力信号電流を流した場合、小さいほうの閾値で磁性体部1の電気抵抗を変化させることが可能である。
【0033】
電気抵抗測定2
次に、CrNb
3S
6磁性体の磁気秩序のらせん軸方向を変えた磁気デバイス20を作製し、磁性体部1の電気抵抗測定を行った。作製した磁気デバイス20は、磁性体部1の磁気秩序のらせん軸を横切る方向に電流が流れるように通電用電極8を設けたこと以外は電気抵抗測定1と同じである。
図13は作製した磁気デバイス20のSIM像である。また、測定方法も電気抵抗測定1と同じである。
【0034】
図14は、外部磁場H
exの強さを徐々に増加させた後、外部磁場の強さを徐々に減少させ印加磁場を変化させた際の電気抵抗測定の結果を示すグラフである。外部磁場を印加していない状態(ソリトン格子状態)における磁性体部1の電気抵抗は約0.398Ωであり、外部磁場の強さを徐々に強くしていくと、電気抵抗は徐々に低下した。そして外部磁場の強さが3500Oe以上になると磁性体部1の電気抵抗は約0.382Ωで安定した。また、外部磁場の強さを徐々に減少させていくと、外部磁場の大きさが3500Oe以下となっても電気抵抗は約0.382Ωで安定しており、磁性体部1は過飽和状態となった。そして、外部磁場の大きさが約2050Oe(臨界磁場H
c)になると、電気抵抗は、約0.392ΩとなりΔR=0.01Ωだけ急激に増加した。そして、外部磁場の大きさをさらに小さくしていくと、電気抵抗は徐々に上昇し、電気抵抗は約0.398Ωに戻った。
【0035】
この結果から、磁性体のらせん磁気秩序のらせん軸の方向を変えても、磁性体部1の強磁性状態からソリトン格子状態への急な変化は生じることが確かめられた。また、磁性体部1の磁気秩序のらせん軸を横切る方向に電流を流すと、臨界磁場における電気抵抗の変化ΔRを大きくすることができることがわかった。
【0036】
次に、外部磁場により待機状態にした後、
図15(a)のように第2磁場印加部5に+x方向の単発パルス波電流を流し第2磁場印加部5の同心円状に局所磁場H
localを発生させ、磁性体部1にH
exに加えてH
localを重畳した。この単発パルス波電流のパルス幅を5μsとして、様々な大きさの単発パルス電流を流した際の磁性体部1の電気抵抗を測定した。
図15(b)は、電気抵抗測定の結果を示すグラフである。H
localが75Oe以下の場合、電気抵抗は約0.383Ωであり、待機状態から変化しなかった。また、H
localが約75Oeより大きくなると電気抵抗は約0.393Ωとなり、ΔR=0.01Ωだけ急激に増加した。これは、H
localが75Oeより大きくなると、磁性体部1が強磁性状態からソリトン格子状態に変化したためと考えられる。
次に、外部磁場により待機状態にした後、第2磁場印加部5に‐x方向の単発パルス波電流を流し第2磁場印加部5の同心円状に局所磁場H
localを発生させ、磁性体部1にH
exに加えてH
localを重畳した。この単発パルス波電流のパルス幅を5μsとして、様々な大きさの単発パルス電流を流した際の磁性体部1の電気抵抗を測定した。この場合、磁性体部1が強磁性状態からソリトン格子状態に変化させるH
localの大きさはほぼ75Oeであり、+x方向に単発パルス電流を流した場合とほとんど同じであった。
この結果から、磁性体のらせん磁気秩序のらせん軸の方向を変えた場合、H
localが約75Oeとなる電流を閾値とする入力信号電流を第2磁場印加部5に流すと、入力信号を磁性体部1の電気抵抗に変換し出力信号を出力することができることがわかった。また、磁性体のらせん磁気秩序のらせん軸の方向を変えた場合は、H
localを与える閾値H
thは第2磁場印加部5に流れる電流の方向にほとんど依存しないことがわかった。
【0037】
電気抵抗測定3
図3、4に示したような磁気デバイス20を作製し、磁性体部1の電気抵抗測定を行った。磁性体部1は、単結晶CrNb
3S
6磁性体を用いて形成した。また、CrNb
3S
6磁性体の磁気秩序のらせん軸方向に電流が流れるように出力用電極9を設けた。また、磁性体部1の下側に直線状の5本の信号線5a、5b、5c、5d、5e(第2磁場印加部5)を設けた。
図16は作製した磁気デバイス20のSIM像である。外部磁場H
exを印加する磁場発生装置(第1磁場印加部4)中に作製した磁気デバイス20を設置し、電気抵抗測定を行った。なお、
図17(a)は、作製した磁気デバイス20の概略上面図である。
【0038】
まず、外部磁場H
exを印加し磁性体部1を強磁性状態にした後、外部磁場の大きさを臨界磁場H
cよりもΔH=3Oeだけ大きい強さになるように外部磁場を変化させ待機状態とした。この待機状態において、(1)信号線5aにH1からH6に向かう様々な大きさの単発パルス波電流I
local(パルス幅:5μs)を流した際の磁性体部1の電気抵抗を測定した。また、同様の実験を、(2)信号線5bにH2からH7に向かう電流を流した場合、(3)信号線5cにH3からH8に向かう電流を流した場合、(4)信号線5dにH4からH9に向かう電流を流した場合、(5)信号線5eにH5からH10に向かう電流を流した場合、(6)信号線5aにH6からH1に向かう電流を流した場合、(7)信号線5bにH7からH2に向かう電流を流した場合、(8)信号線5cにH8からH3に向かう電流を流した場合、(9)信号線5dにH9からH4に向かう電流を流した場合、(10)信号線5eにH10からH5に向かう電流を流した場合について行った。
【0039】
これらの結果を
図17(b)〜(f)、
図18(a)〜(e)に示す。(2)〜(5)の電流を流した場合、電気抵抗の急な変化は測定されなかったが、(1)H1→H6では、64.8mA以上のI
localを流した際に電気抵抗の変化が測定され臨界電流I
cは、64.8mAであった。また、(6)H6→H1では、I
cは53.4mAであり、(7)H7→H2では、I
cは29.2mAであり、(8)H8→H3では、I
cは18.8mAであり、(9)H9→H4では、I
cは10.1mAであり、(10)H10→H5では、I
cは5.6mAであった。これらの結果から、臨界電流I
cは、(10)→(9)→(8)→(7)→(6)→(1)と電流を流す場所又は向きを変えることにより徐々に大きくなることがわかった。これは、電流を流す場所又は向きにより局所磁場が発生する場所又は局所磁場の向きが変わるためと考えられる。また、(2)〜(5)についても、局所磁場の強さをさらに大きくすると、電気抵抗の変化は生じ順々に大きくなると推測される。
これらの結果から、電流を流す場所又は向きにより臨界電流I
cを変えることができることがわかった。従って、局所磁場を発生させる信号線5を複数設け、入力信号電流を流す場所や流す向きを変えることにより、同一素子内に複数の入力閾値が埋め込まれた磁気デバイス20を形成することができる。また、この閾値分布を利用した論理回路装置については後述する。
【0040】
次に、外部磁場の印加方向を逆向きにして、(1)〜(10)のように信号線5に単発パルス波電流I
localを流し、同様の電気抵抗測定を行った。(7)〜(10)の電流を流した場合、電気抵抗の急な変化は測定されなかったが、(1)H1→H6では、48.8mA以上のI
localを流した際に電気抵抗の変化が測定され臨界電流I
cは、48.8mAであった。また、(2)H2→H7では、I
cは29.0mAであり、(3)H3→H8では、I
cは18.6mAであり、(4)H4→H9では、I
cは11.8mAであり、(5)H5→H10では、I
cは4.64mAであり、(6)H6→H1では、I
cは64.8mAであった。これらの結果から、臨界電流I
cは、(5)→(4)→(3)→(2)→(1)→(6)と電流を流す場所又は向きを変えることにより徐々に大きくなることがわかった。このことから、外部磁場の印加方向を反転させると、臨界電流I
cは、逆の順番で大きくなることがわかった。また、外部磁場の印加方向を反転させることにより、信号線5に流す入力信号電流の閾値を変化させることができることがわかった。
また、(7)〜(10)についても、局所磁場の強さをさらに大きくすると、電気抵抗の変化は生じ順々に大きくなると推測される。
【0041】
磁気デバイスを用いた論理回路装置
本実施形態の磁気デバイス20を用いた論理回路装置及びその動作方法について説明する。なお、ここでの説明は、論理回路装置の動作方法の一例であり、他にも様々な動作方法がある。
磁気デバイス20を用いて形成したNOT回路について説明する。
図19(a)はNOT回路の概略回路図であり、
図19(b)は信号線5に流す単発パルス波電流I
localの大きさを変化させた際の磁性体部1の電気抵抗Rの測定結果を示すグラフであり、
図19(c)はNOT回路の動作表であり、
図19(d)はNOT回路のタイミングチャートである。
図19(b)に示したように、ソリトン格子状態に変わった後の磁性体部1の電気抵抗を出力信号0とし、待機状態(強磁性状態)の磁性体部1の電気抵抗を出力信号1とする。なお、出力信号は、電圧信号として出力するが、ここでは、磁性体部1の電気抵抗で説明する。また、入力信号の閾値H
thは、臨界電流I
c(閾値I
th)を流したときに磁性体部に印加される磁場の強さとすることができる。
【0042】
図19(d)に示したタイムチャートのように、第1磁場印加部4により磁性体部1への外部磁場を印加し、信号線5に入力信号電流を流すことにより、NOT回路を動作させる。
まず、磁性体部1へ外部磁場を印加し、磁性体部1を強磁性状態にする。その後、外部磁場の強さを減少させ磁性体部1を待機状態にする。この状態では磁性体部1の電気抵抗Rは小さく、出力信号は1の状態である。このように外部磁場を印加する動作を初期化という。
その後、信号線5に閾値H
thとなる入力信号電流の1つのビットを流す。このビットが閾値H
thよりも小さいレベルの信号(入力信号が0)の場合、磁性体部1は過飽和状態(強磁性状態)のままであり電気抵抗は変わらないため、出力信号は1となる。入力信号電流のビットが閾値H
thよりも大きいレベルの信号(入力信号が1)の場合、磁性体部1はソリトン格子状態に変化し電気抵抗は大きくなり、出力信号は0となる。このように信号線5に入力信号のビットを流す動作を入力という。
このような初期化と入力を繰り返すことにより、
図19(c)に示した動作表のように、入力信号が0になったとき出力信号を1にすることができ、入力信号が1になったとき出力信号を0にすることができる。
従って、本実施形態の磁気デバイス20を用いてNOT回路(論理回路装置)を形成することができる。
【0043】
次に、本実施形態の磁気デバイス20の多機能化について説明する。
図20の左上の図のように磁性体部1に近接して3本の信号線5a、5b、5cを設ける。この場合、
図17、
図18に示した測定結果と同様に、臨界電流I
c(閾値I
th)が入力信号電流を流す信号線5の位置及び電流の向きにより異なるため、入力信号電流の流し方により6通りの閾値の異なる入力信号を処理することが可能になる。
図20の左上の図では、閾値H
thを例えば、5、10、15、20、25、30として入力信号を処理することが可能である。
図11に示した測定結果のように待機状態のΔHを大きくすると閾値H
thを大きくすることができるため、
図20の右上の図のように、ΔHを大きくすることにより閾値H
thを例えば、10、15、20、25、30、35として入力信号を処理することが可能である。従って、初期化の動作を変更しΔHを変えることにより、閾値H
thを変えることが可能である。
【0044】
図20の左下の図のように、信号線5の数を増やすことができる。この磁気デバイスでは、入力信号電流の流し方により10通りの閾値の異なる入力信号を処理することが可能になる。従って、信号線5の数を増やすことにより、処理可能な入力信号を増やすことができる。
【0045】
電気抵抗測定3の測定結果のように外部磁場の印加方向を反転させると閾値H
thの順番を変えることができるため、
図20の右下の図のように外部磁場E
exの印加方向を反転させることにより、閾値H
thを例えば、30、25、20、15、10、5に変えることができる。従って、外部磁場E
exの印加方向を反転させることにより、閾値H
thを変えることが可能である。外部磁場の大きさ・向きなどにより閾値H
thを変化させることができる特性はゲーティング機能として用いることが可能である。
【0046】
次に、磁気デバイス20を用いて形成したNOR回路について説明する。
図21(a)は、2本の信号線5a、5bを設けた磁気デバイス20を用いたNOR回路の概略回路図であり、
図21(b)は、2つの磁気デバイス20a、20bを組み合わせたNOR回路の概略回路図であり、
図21(c)はNOR回路の動作表であり、
図21(d)はNOR回路のタイミングチャートである。
図21(a)のNOR回路では、入力Aは信号線5aで閾値H
th(A)が5であり、入力Bは信号線5bで閾値H
th(B)が15である。
図21(b)のNOR回路では、入力Aは磁気デバイス20aの信号線5aで閾値H
th(A)が5であり、入力Bは磁気デバイス20bの信号線5aで閾値H
th(B)が5である。
【0047】
図21(d)に示したタイムチャートのように、まず、外部磁場を変化させることにより磁性体部1を待機状態とし初期化を行う。この状態では磁性体部1の電気抵抗Rは小さく、出力信号は1の状態である。その後、入力Aに閾値H
th(A)となる入力信号電流のビットを流し、入力Bに閾値H
th(B)とする入力信号電流のビットを流す。入力A、Bが閾値H
thよりも小さいレベルの信号(入力信号が0)の場合、磁性体部1は過飽和状態(強磁性状態)のままであり電気抵抗は変わらないため、出力信号は1となる。入力Aが閾値H
th(A)よりも小さいレベルの信号(入力信号が0)であり、入力Bが閾値H
th(B)よりも大きいレベルの信号(入力信号が1)である場合、
図21(a)では磁性体部1がソリトン格子状態に変化し電気抵抗は大きくなり出力信号は0となり、
図21(b)では、磁気デバイス20bの磁性体部1がソリトン格子状態に変化し電気抵抗は大きくなり出力信号は0となる。また、入力Aが閾値H
th(A)よりも大きいレベルの信号(入力信号が1)であり、入力Bが閾値H
th(B)よりも小さいレベルの信号(入力信号が0)である場合、及び入力Aが閾値H
th(A)よりも大きいレベルの信号(入力信号が1)であり、入力Bが閾値H
th(B)よりも大きいレベルの信号(入力信号が1)である場合も出力信号は0となる。従って、
図21(c)に示した動作表のように、NOR回路を動作させることができる。
【0048】
図22(a)は、3入力のNOR回路の概略回路図であり、
図22(b)は3入力のNOR回路の動作表である。また、
図23(a)は、m入力(多入力)のNOR回路の概略回路図であり、
図23(b)はm入力のNOR回路の動作表である。これらのNOR回路のように複数の信号線5を設けることにより、多入力のNOR回路を形成することができる。また、1ケの磁気デバイス20を用いて3入力及びm入力のNOR回路を形成することができる。CMOSでm入力のNOR回路を形成する場合、2mケのCMOSが必要であることが知られている。従って、多値演算に対して本方式はスケールメリットがあるといえる。
【0049】
次に、磁気デバイス20を用いて形成したNOR回路/NAND回路の変換可能な回路について説明する。
図24(a)は、2つの磁気デバイス20a、20bを組み合わせたNOR回路/NAND回路の概略回路図であり、
図24(b)はNOR回路の動作表であり、
図24(c)はNAND回路の動作表であり、
図24(d)はNOR回路/NAND回路のタイミングチャートである。
図24(a)のNOR回路/NAND回路では、入力Aは磁気デバイス20aの信号線5aで閾値H
th(A)が5であり、入力Bは磁気デバイス20bの信号線5aで閾値H
th(B)が5である。
【0050】
図24(d)に示したタイムチャートのように、まず、外部磁場を変化させることにより磁性体部1を待機状態とし初期化を行う。この状態では磁性体部1の電気抵抗Rは小さく、出力信号は1の状態である。その後、入力Aに閾値H
th(A)の入力信号電流のビットを流し、入力Bに閾値H
th(B)の入力信号電流のビットを流す。
入力A、Bが閾値H
thよりも小さいレベルの信号(入力信号が0)の場合、磁性体部1は過飽和状態(強磁性状態)のままであり電気抵抗は変わらないため、出力信号は1となる。
【0051】
入力Aが閾値H
th(A)よりも小さいレベルの信号(入力信号が0)であり、入力Bが閾値H
th(B)よりも大きいレベルの信号(入力信号が1)である場合、磁気デバイス20bの磁性体部1がソリトン格子状態に変化し電気抵抗は大きくなる。このとき
図24(d)のように出力は中間値となり、この中間値が出力の閾値を超えている場合出力信号は1になり、閾値を超えていない場合には出力信号は0になる。また、入力Aが閾値H
th(A)よりも大きいレベルの信号(入力信号が1)であり、入力Bが閾値H
th(B)よりも小さいレベルの信号(入力信号が0)である場合も中間値が出力の閾値を超えている場合出力信号は1になり、閾値を超えていない場合には出力信号は0になる。
また、入力Aが閾値H
th(A)よりも大きいレベルの信号(入力信号が1)であり、入力Bが閾値H
th(B)よりも大きいレベルの信号(入力信号が1)である場合、磁気デバイス20a、20bの磁性体部1がソリトン格子状態に変化し電気抵抗は大きくなり、出力信号は0になる。
従って、出力の閾値を
図24(d)のOutput Xのように設定した場合には、
図24(b)のようにNOR回路として動作させることができ、出力の閾値を
図24(d)のOutput Yのように設定した場合には、
図24(c)のようにNAND回路として動作させることができる。
【0052】
次に、磁気デバイス20を用いて形成したNOT回路の有効化及び無効化を切り替えることができることを説明する。
図25はNOT回路の概略回路図である。
図25の左図では、下向きの入力信号電流を流したときの閾値H
thが5となり、上向きの入力信号電流を流したときの閾値H
thが30となるように信号線5aを設けている。そして、信号線5aに閾値H
thが5の入力信号電流を流すことにより、NOT回路を動作させることができる。
このNOT回路を無効化する場合、
図25の右図のように外部磁場の向きを反転させる。このことにより、信号線5aの閾値を30に変換することができ、閾値5の入力信号に対して出力信号が応答しないようにNOT回路を無効化することができる。さらに、信号線5aに閾値H
thが30の入力信号電流を流すことにより、再度、NOT回路を動作させることができる。
よって、外部磁場の向きを反転させることにより、NOT回路の無効化と有効化を制御することができる。NOT回路を無効化している場合には、NOT回路は単なるワイヤーとみなすことができる。また、入力信号電流を増減することにより、NOT回路の無効化と有効化を制御することができる。
従って、磁気デバイス20を用いて形成した論理回路装置の論理機能を変化させることが可能である。
【0053】
次に、複数の信号線5を設けた磁気デバイス20を用いて形成したNOT回路の有効化及び無効化を切り替えることができることを説明する。
図26(a)〜(c)は、3本の信号線5a、5b、5cを設けた磁気デバイス20の概略図である。この磁気デバイス20では、入力信号電流を流す信号線5の選択及び電流の向きにより、閾値H
thを5、10、15、20、25及び30のうちから選択することができる。
図26(a)では、局所磁場の最大値が7の入力信号電流を信号線5a、5bに下向きに流す。この場合、入力信号の閾値に5を用いることができ、信号線5aに下向きに流した電流により磁性体部1の電気抵抗は変化する。また、信号線5bに流した電流では磁性体部1の電気抵抗は変化しないが、信号線5aへの信号入力のため磁性体部1の電気抵抗は変化している。このため、磁気デバイス20はNOT回路として動作する。
図26(b)では、局所磁場の最大値が7の入力信号電流を信号線5a、5cに下向きに流す。この場合も入力信号の閾値に5を用いることができ信号線5aに下向きに流した電流により磁性体部1の電気抵抗は変化するため、磁気デバイス20はNOT回路として動作する。
図26(c)では、局所磁場の最大値が7の入力信号電流を信号線5b、5cに下向きに流す。この場合、入力信号電流が閾値10及び15に達しないため磁性体部1の抵抗値は変化せず、NOT回路として動作しない。
従って、入力信号電流を流す信号線の選択及び電流の向きの選択により、NOT回路の有効化及び無効化を切り替えることができる。
【0054】
次に、2本の信号線5a、5bを設けた磁気デバイス20を用いて形成した回路の機能を切り替えることができることを説明する。
図27はNOT回路/NOR回路の概略回路図である。
図27の左図では、閾値を5、15、20、30から選択できるように、信号線5a、5bが設けられている。また、入力信号電流は、信号線5a、5bを下向きに流れる。従って、閾値H
thは5と15になる。
入力信号電流により生じる局所磁場が5より小さい場合、磁性体部1の電気抵抗は変化せず磁気デバイス20はワイヤーとみなすことができる。
入力信号電流により生じる局所磁場の最大値が5以上で15より小さい場合、入力信号の閾値を5とすることができ、信号線5aを流れる電流により磁性体部1の電気抵抗を変化させることができる。なお、信号線5bでは入力信号の閾値が15であるため、信号線5bを流れる電流により磁性体部1の電気抵抗を変化させることはできないが、信号線5aへの信号入力のため磁性体部1の電気抵抗は変化している。従って、磁気デバイス20をNOT回路として機能させることができる。
入力信号電流により生じる局所磁場の最大値が15以上場合、信号線5a及び信号線5bでの入力信号の閾値を5、15とすることができ、信号線5a及び信号線5bを流れる電流により磁性体部1の電気抵抗を変化させることができる。従って、磁気デバイス20をNOR回路として機能させることができる。
【0055】
また、
図27の右図のように磁場の向きを反転させると、信号線5a、5bの閾値H
thは30と20になる。
入力信号電流により生じる局所磁場が20より小さい場合、磁性体部1の電気抵抗は変化せず磁気デバイス20はワイヤーとみなすことができる。
入力信号電流により生じる局所磁場の最大値が20以上で30より小さい場合、入力信号の閾値を20とすることができ、信号線5bを流れる電流により磁性体部1の電気抵抗を変化させることができる。なお、信号線5aでは入力信号の閾値が30であるため、信号線5aを流れる電流により磁性体部1の電気抵抗を変化させることはできないが、信号線5bへの信号入力のため磁性体部1の電気抵抗は変化している。従って、磁気デバイス20をNOT回路として機能させることができる。
入力信号電流により生じる局所磁場の最大値が30以上場合、信号線5b及び信号線5aでの入力信号の閾値を20、30とすることができ、信号線5a及び信号線5bを流れる電流により磁性体部1の電気抵抗を変化させることができる。従って、磁気デバイス20をNOR回路として機能させることができる。
従って、入力信号電流の大きさを変えることや、外部磁場の向きを変えることにより回路の機能を、ワイヤー、NOT回路、NOR回路のいずれかに変換することができる。
【0056】
次に、複数の信号線5を設けた磁気デバイス20を用いて形成した回路の機能を切り替えることができることを説明する。
図28(a)(b)、
図29(a)〜(d)、
図30(a)(b)は、3本の信号線5a、5b、5cを設けた磁気デバイス20の概略図である。これらの磁気デバイス20では、入力信号電流を流す信号線5の選択及び電流の向きにより、閾値H
thを5、10、15、20、25及び30のうちから選択することができる。また、3本の信号線のうちいずれか2本に入力信号電流を流す。
図28(a)(b)のように、信号線5a、5bに局所磁場の最大値が3の下向きの入力信号電流を流した場合や、信号線5b、5cに局所磁場の最大値が7の下向きの入力信号電流を流した場合では、磁性体部1の電気抵抗は変化しないため、磁気デバイス20はワイヤーとみなすことができる。
図29(a)〜(d)のように、入力信号電流の最大値が信号線5の一方の閾値よりも大きい場合、一方の信号線により磁性体部1の電気抵抗を変化させることができるため、磁気デバイス20は、NOT回路として動作することができる。
図30(a)(b)のように、入力信号電流の最大値が信号線5の両方の閾値よりも大きい場合、両方の信号線により磁性体部1の電気抵抗を変化させることができるため、磁気デバイス20は、NOR回路として動作することができる。
従って、入力信号電流の大きさや選択する信号線に応じて回路の機能を、ワイヤー、NOT回路、NOR回路のいずれかに変換することができる。
【0057】
次に、磁気デバイス20を用いて形成したAND回路について説明する。
図31(a)は、NOT回路として機能する2つの磁気デバイス20a、20bと、NOR回路として機能する1つの磁気デバイス20cとを組み合わせたAND回路の概略回路図であり、
図31(b)は、AND回路の動作表である。
このAND回路は、磁気デバイス20aの信号線5aに入力信号Aが入力し、磁気デバイス20bの信号線5bに入力信号Bが入力し、磁気デバイス20aの出力が磁気デバイス20cの信号線5aに入力し、磁気デバイス20bの出力が磁気デバイス20cの信号線5bに入力し、磁気デバイス20cから出力信号が出力されるように設けられている。なお、各デバイス間には必要に応じてアンプを導入することができる。
このように磁気デバイス20を組み合わせることにより、
図31(b)の動作表のように動作するAND回路を形成することができる。
【0058】
図32(a)は、3入力のAND回路の概略回路図であり、
図32(b)は3入力のAND回路の動作表である。また、
図33(a)は、m入力(多入力)のAND回路の概略回路図であり、
図33(b)はm入力のAND回路の動作表である。これらのAND回路のように、NOR回路の信号線5の数を増やしそれぞれの信号線5にNOT回路を接続することにより、多入力のAND回路を形成することができる。また、4ケの磁気デバイス20を用いて3入力のAND回路を形成することができ、m+1ケの磁気デバイス20を用いてm入力のAND回路を形成することができる。
【0059】
次に、磁気デバイス20を用いて形成したOR回路について説明する。
図34(a)は、NOR回路として機能する磁気デバイス20aと、NOT回路として機能する磁気デバイス20bとを組み合わせたOR回路の概略回路図であり、
図34(b)はOR回路の動作表である。
このOR回路は、磁気デバイス20aの信号線5aに入力信号Aが入力し信号線5bに入力信号Bが入力し、磁気デバイス20aの出力が磁気デバイス20bの信号線5aに入力し、磁気デバイス20bから出力信号が出力されるように設けられている。なお、各デバイス間には必要に応じてアンプを導入することができる。
このように磁気デバイス20を組み合わせることにより、
図34(b)の動作表のように動作するOR回路を形成することができる。
【0060】
次に、磁気デバイス20を用いて形成したNAND回路について説明する。
図35(a)は、NOT回路として機能する磁気デバイス20a、20b、20dと、NOR回路として機能する磁気デバイス20cとを組み合わせたNAND回路の概略回路図であり、
図35(b)はNAND回路の動作表である。
このNAND回路は、磁気デバイス20aの信号線5aに入力信号Aが入力し、磁気デバイス20bの信号線5aに入力信号Bが入力し、磁気デバイス20aの出力が磁気デバイス20cの信号線5aに入力し、磁気デバイス20bの出力が磁気デバイス20cの信号線5bに入力し、磁気デバイス20cの出力が磁気デバイス20dの信号線5aに入力し、磁気デバイス20dから出力信号が出力されるように設けられている。なお、各デバイス間には必要に応じてアンプを導入することができる。
このように磁気デバイス20を組み合わせることにより、
図35(b)の動作表のように動作するNAND回路を形成することができる。なお、NAND回路は最小万能演算系の一つである。
【0061】
図36(a)は、3入力のNAND回路の概略回路図であり、
図36(b)は3入力のNAND回路の動作表である。また、
図37(a)は、m入力(多入力)のNAND回路の概略回路図であり、
図37(b)はm入力のNAND回路の動作表である。これらのNAND回路のように、NOR回路の信号線5の数を増やしそれぞれの信号線5にNOT回路を接続し、さらにNOR回路の出力をNOT回路の入力に接続することにより、多入力のNAND回路を形成することができる。また、5ケの磁気デバイス20を用いて3入力のNAND回路を形成することができ、m+2ケの磁気デバイス20を用いてm入力のNAND回路を形成することができる。CMOSでm入力のNAND回路を形成する場合、2mケのCMOSが必要であることが知られている。従って、多値演算に対して本方式はスケールメリットがあるといえる。
【0062】
次に、磁気デバイス20を用いて形成した論理回路を集積した電子回路について説明する。集積した電子回路は、
図38の左図のように4つの磁気デバイス20を組み合わせることにより構成要素22を形成し、
図38の右図に示したようにこの構成要素22を複数組み合わせることにより形成することができる。
構成要素22を構成する4つの磁気デバイス20は、閾値の変更、ΔHの変更、外部磁場の向きの変更、入力信号電流の大きさの変更、入力信号の入力方法などによりNOR回路、NOT回路、ワイヤーなどに変換することができる。このため、構成要素22は、NOT回路、NOR回路、AND回路、OR回路、NAND回路などの各種の論理演算機能を切り替えることができ、同じ構成で異なる論理演算が可能になる。このような構成要素22をアレイ状に集積して電子回路を形成することにより、論理演算を自由に構成することが可能になり、論理演算の再構成、多値化をすることが可能になり、また冗長性を予め備えることができる。