特許第6473348号(P6473348)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6473348(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法、及び(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを用いるポリ乳酸グラフトポリマー及びポリ乳酸櫛形ポリマーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473348
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法、及び(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを用いるポリ乳酸グラフトポリマー及びポリ乳酸櫛形ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/91 20060101AFI20190207BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20190207BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   C08G63/91
   C08G63/06
   C08F290/06
【請求項の数】15
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-40813(P2015-40813)
(22)【出願日】2015年3月2日
(65)【公開番号】特開2016-160359(P2016-160359A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年10月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人高分子学会発行の刊行物「高分子学会予稿集,[第63回(2014年),高分子討論会,9月24日〜26日,長崎大学] 第63巻,第2号,7535−7536頁」(発行日:平成26年 9月 3日)に公開、公益社団法人高分子学会発行のDVD−ROM「高分子学会予稿集,第63巻,第2号[第63回 高分子討論会,2014年9月24日〜26日,長崎大学]」(発行日:平成26年 9月 3日)に公開、公益社団法人高分子学会主催の第63回(2014年)高分子討論会(発表日:平成26年 9月25日)に公開
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(73)【特許権者】
【識別番号】509140700
【氏名又は名称】ケーエスエム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100561
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 正広
(72)【発明者】
【氏名】小原 仁実
(72)【発明者】
【氏名】小林 四郎
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−016896(JP,A)
【文献】 特開2011−032301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/00− 290/14
C08G 63/00− 63/91
C08L 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの(メタ)アクリロイル基と、1つのポリ乳酸ホモポリマー基と、前記(メタ)アクリロイル基と前記ポリ乳酸ホモポリマー基の末端カルボキシル基とを連結しているグリシジル基含有(メタ)アクリレートのグリシジル基の開環付加に由来する連結基とを有している、金属フリーの(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを製造する方法であって、
乳酸を金属触媒不存在下で直接重縮合反応させて、ポリ乳酸ホモポリマーを含む反応物を得る第1工程と、
前記ポリ乳酸ホモポリマーを含む反応物に、グリシジル基含有(メタ)アクリレートを混合し、ポリ乳酸ホモポリマーの末端カルボキシル基をグリシジル基含有(メタ)アクリレートに開環付加反応させる第2工程と、
を含み、
前記第1工程と前記第2工程とを単一反応容器中で行う、金属触媒を用いない(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法。
【請求項2】
前記乳酸は、L−乳酸、D−乳酸、又はDL−乳酸である、請求項に記載の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法。
【請求項3】
前記グリシジル基含有(メタ)アクリレートは、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルメチル(メタ)アクリレート、2−グリシジルエチル(メタ)アクリレート、及び3−グリシジルプロピル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる、請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法。
【請求項4】
前記第1工程を加熱条件及び/又は減圧条件で行う、請求項1〜のうちのいずれかに記載の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法。
【請求項5】
前記第1工程において、酸触媒を用いない、請求項1〜4のうちのいずれかに記載の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法。
【請求項6】
前記第2工程を塩基触媒存在下で行う、請求項1〜5のうちのいずれかに記載の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれかに記載の方法で(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを製造し、
得られた(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーと、前記(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー以外の他の(メタ)アクリレートモノマーとを共重合させることを含む、ポリ乳酸グラフトポリマーの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のうちのいずれかに記載の方法で(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを製造し、
得られた(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーをホモ重合させることを含む、ポリ乳酸櫛形ポリマーの製造方法。
【請求項9】
1つの(メタ)アクリロイル基と、1つのポリ乳酸ホモポリマー基と、前記(メタ)アクリロイル基と前記ポリ乳酸ホモポリマーの末端カルボキシル基とを連結しているグリシジル基含有(メタ)アクリレートのグリシジル基の開環付加に由来する連結基とを有している、金属フリーの(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー。
【請求項10】
グリシジル基の開環付加の位置(α位、又はβ位)の観点から、α−付加体及びβ−付加体を、α−付加体10〜40モル%、及びβ−付加体60〜90モル%の割合で含む、請求項9に記載の乳酸マクロモノマー。
【請求項11】
バイオマス含量が73wt%以上である、請求項9又は10に記載の乳酸マクロモノマー。
【請求項12】
1つの(メタ)アクリロイル基と、1つのポリ乳酸ホモポリマー基と、前記(メタ)アクリロイル基と前記ポリ乳酸ホモポリマーの末端カルボキシル基とを連結しているグリシジル基含有(メタ)アクリレートのグリシジル基の開環付加に由来する連結基とを有している(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー構成単位と、
前記(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー以外の他の(メタ)アクリレートモノマー構成単位とを有している、金属フリーのポリ乳酸グラフトポリマー。
【請求項13】
前記(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー構成単位は、グリシジル基の開環付加の位置(α位、又はβ位)の観点から、α−付加体及びβ−付加体を、α−付加体10〜40モル%、及びβ−付加体60〜90モル%の割合で含む、請求項12に記載のポリ乳酸グラフトポリマー。
【請求項14】
1つの(メタ)アクリロイル基と、1つのポリ乳酸ホモポリマー基と、前記(メタ)アクリロイル基と前記ポリ乳酸ホモポリマーの末端カルボキシル基とを連結しているグリシジル基含有(メタ)アクリレートのグリシジル基の開環付加に由来する連結基とを有している(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー構成単位を有している、金属フリーのポリ乳酸櫛形ポリマー。
【請求項15】
前記(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー構成単位は、グリシジル基の開環付加の位置(α位、又はβ位)の観点から、α−付加体及びβ−付加体を、α−付加体10〜40モル%、及びβ−付加体60〜90モル%の割合で含む、請求項14に記載のポリ乳酸グラフトポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属触媒を用いずに、乳酸から(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを製造する方法に関する。また、本発明は、前記方法で得られる金属フリーの(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを用いるポリ乳酸グラフトポリマー及びポリ乳酸櫛形ポリマーの製造方法にも関する。さらに、本発明は、前記各方法で得られる金属フリーの(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー、ポリ乳酸グラフトポリマー及びポリ乳酸櫛形ポリマーにも関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題の解決策として石油資源から再生可能資源への転換が望まれている。再生可能資源(グリーンポリマーケミストリー)の代表的な物質としてポリ乳酸(PLA)が挙げられる。ポリ乳酸は、乳酸の重合体であり、植物等のバイオマスを原料とした生分解性プラスチック材料として注目されている。ポリ乳酸のモノマーである乳酸の生産方法が広く知られてきた。しかし、ポリ乳酸は容易にエステル加水分解を受けるため物性の劣化が避けられず、その用途が制限される。
【0003】
そのため、本発明者らは、(メタ)アクリロイル基と、ポリ乳酸基とを有する(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの開発を行っている。このような(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを用いれば、主鎖に(メタ)アクリル鎖、及び側鎖にポリ乳酸鎖を有するグラフトポリマー、又は櫛形ポリマーを合成することができ、耐加水分解性を向上させることができると考えられる。
【0004】
ところで、ポリ乳酸の製造法としては、乳酸から乳酸の環状二量体であるラクチドを合成し、ラクチドの開環重合によってポリ乳酸を得る方法が知られている。この方法においては、例えば、まず、乳酸を減圧下(50〜30mmHg)加熱(135〜160℃)して乳酸オリゴマー(Mw:1170)を合成して、乳酸オリゴマーにスズ又はチタンなどの金属触媒を添加して、この混合物を減圧下(4〜5mmHg)加熱(190〜230℃)して、乳酸オリゴマーを解重合して、ラクチドを反応蒸発させる [Chem.Pharm.Bull., 47, 467-471 (1999)のExperimental] 。ラクチドを結晶化(例えば、特開平7−118259号公報、特開平7−138253号公報、特開平8−208638号公報)するか、又は精留(例えば、米国特許 5,142,023号明細書、米国特許 5,359,026号明細書)して、高純度ラクチドを得る。高純度ラクチドをスズやチタンなどの金属触媒を用いて開環重合して、ポリ乳酸を得る。
【0005】
上記従来の方法はいずれも、スズ又はチタンなどの金属触媒を用いるものである。そのため、製造されたポリ乳酸中には金属触媒が残存している。金属触媒の残存は、ポリ乳酸の成形加工性に悪影響を与えるだけでなく、環境中に残存金属の拡散が起こり、特に、医療分野への用途展開にも障害となる。また、ラクチドを経る方法では、工程数が多く、全体としての収率が低下してしまい、ポリ乳酸の製造のコストアップに繋がる。
【0006】
また、ポリ乳酸の製造法として、乳酸を直接脱水縮合する方法が開発されている。例えば、Polymer, 42, 5059-5062 (2001) には、乳酸を脱水して平均重合度8のオリゴ乳酸として、塩化スズ(II)及びp−トルエンスルホン酸触媒を用いて重縮合させてポリ乳酸を得ることが開示されている。
【0007】
上記方法においても、スズ金属触媒が用いられる。そのため、製造されたポリ乳酸中には金属触媒が残存している。金属触媒の残存は、ポリ乳酸の成形加工性に悪影響を与えるだけでなく、環境中に残存金属の拡散が起こり、特に、薬学分野や医療分野への用途展開にも障害となる。
【0008】
特開2011−16896号公報、特開2011−32301号公報には、ポリ乳酸を含有するポリマーのコーティング剤用途について開示されている。また、乳酸マクロモノマーについて開示されている(特開2011−16896号公報の[0019]〜[0025]、特開2011−32301号公報の[0021]〜[0026])。しかしながら、金属触媒を用いずに、乳酸から(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを製造する方法については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−118259号公報
【特許文献2】特開平7−138253号公報
【特許文献3】特開平8−208638号公報
【特許文献4】米国特許 5,142,023号明細書
【特許文献5】米国特許 5,359,026号明細書
【特許文献6】特開2011−16896号公報
【特許文献7】特開2011−32301号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】"Thermal Catalytic Depolymerization of Poly(L-Lactic Acid)Oligomer into LL-Lactide: Effects of Al, Ti, Zn and Zr Compounds as Catalysts", M. Noda and H. Okuyama, Chem. Pharm. Bull., 47, 467-471 (1999)
【非特許文献2】"Melt/solid polycondensation of L-lactic acid: an alternative route to poly(L-lactic acid) with high molecular weight", Y. Kimura et al., Polymer, 42, 5059-5062 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ポリ乳酸(主鎖がポリ乳酸鎖)は容易にエステル加水分解を受けるが、ポリ乳酸鎖を側鎖とすることにより、耐加水分解性に優れたグラフトポリマー、又は櫛形ポリマーとなり得る。このような、ポリ乳酸グラフトポリマー、又はポリ乳酸櫛形ポリマーを合成するために、(メタ)アクリロイル基とポリ乳酸基とを有する(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーのより簡便な、高収率且つ安価な製造方法の開発が望まれる。
【0012】
本発明の目的は、より簡便な、高収率且つ安価な(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法を提供することにある。さらに、高い官能基含有率[(メタ)アクリロイル基]を有し、且つ金属フリーの(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、金属フリーの前記(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを用いるポリ乳酸グラフトポリマー及びポリ乳酸櫛形ポリマーの製造方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、前記各方法で得られる金属フリーの(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー、ポリ乳酸グラフトポリマー及びポリ乳酸櫛形ポリマーを提供することにもある。
【0013】
本発明者らは、鋭意研究した結果、乳酸を触媒不存在下で直接重縮合反応させて、ポリ乳酸を含む反応物を得て、続いて、前記ポリ乳酸を含む反応物に、グリシジル基含有(メタ)アクリレート混合し、ポリ乳酸をグリシジル基含有(メタ)アクリレートに開環付加反応させることにより、上記目的が達成されることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明には以下の発明が含まれる。
(1) 乳酸を金属触媒不存在下で直接重縮合反応させて、ポリ乳酸を含む反応物を得る第1工程と、
前記ポリ乳酸を含む反応物に、グリシジル基含有(メタ)アクリレートを混合し、ポリ乳酸をグリシジル基含有(メタ)アクリレートに開環付加反応させる第2工程と、
を含む、金属触媒を用いない(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法。
【0015】
(2) 前記第1工程と前記第2工程とを単一反応容器中で行う、上記(1)に記載の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法。
【0016】
(3) 前記乳酸は、L−乳酸、D−乳酸、又はDL−乳酸である、上記(1)又は(2)に記載の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法。
【0017】
(4) 前記グリシジル基含有(メタ)アクリレートは、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルメチル(メタ)アクリレート、2−グリシジルエチル(メタ)アクリレート、及び3−グリシジルプロピル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる、上記(1)〜(3)のうちのいずれかに記載の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法。
【0018】
(5) 前記第1工程を加熱条件及び/又は減圧条件で行う、上記(1)〜(4)のうちのいずれかに記載の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法。
【0019】
(6) 前記第2工程を塩基触媒存在下で行う、上記(1)〜(5)のうちのいずれかに記載の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法。
【0020】
(7) 上記(1)〜(6)のうちのいずれかに記載の方法で得られた(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーと、前記(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー以外の他の(メタ)アクリレートモノマーとを共重合させることを含む、ポリ乳酸グラフトポリマーの製造方法。
【0021】
(8) 上記(1)〜(6)のうちのいずれかに記載の方法で得られた(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーをホモ重合させることを含む、ポリ乳酸櫛形ポリマーの製造方法。
【0022】
(9) (メタ)アクリロイル基と、ポリ乳酸基と、前記(メタ)アクリロイル基と前記ポリ乳酸基とを連結しているグリシジル基含有(メタ)アクリレートのグリシジル基の開環に由来する連結基とを有している、金属フリーの(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー。
【0023】
前記金属フリーの(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーは、上記(1)〜(6)のうちのいずれかに記載の方法により得ることができる。
【0024】
(10) (メタ)アクリロイル基と、ポリ乳酸基と、前記(メタ)アクリロイル基と前記ポリ乳酸基とを連結しているグリシジル基含有(メタ)アクリレートのグリシジル基の開環に由来する連結基とを有している(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー構成単位と、
前記(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー以外の他の(メタ)アクリレートモノマー構成単位とを有している、金属フリーのポリ乳酸グラフトポリマー。
【0025】
前記金属フリーのポリ乳酸グラフトポリマーは、上記(1)〜(6)のうちのいずれかに記載の方法により得られた金属フリーの(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを用いることにより得ることができる。
【0026】
(11) (メタ)アクリロイル基と、ポリ乳酸基と、前記(メタ)アクリロイル基と前記ポリ乳酸基とを連結しているグリシジル基含有(メタ)アクリレートのグリシジル基の開環に由来する連結基とを有している(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー構成単位を有している、金属フリーのポリ乳酸櫛形ポリマー。
【0027】
前記金属フリーのポリ乳酸櫛形ポリマーは、上記(1)〜(6)のうちのいずれかに記載の方法により得られた金属フリーの(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを用いることにより得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法は、乳酸を金属触媒不存在下で直接重縮合反応させて、ポリ乳酸を含む反応物を得る第1工程と、前記ポリ乳酸を含む反応物に、グリシジル基含有(メタ)アクリレートを混合し、ポリ乳酸をグリシジル基含有(メタ)アクリレートに開環付加反応させる第2工程とを含む。このように、本発明の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法においては、如何なる工程においても、金属触媒を用いない。従って、得られた(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーは、有害な金属不純物を実質的に含むことがない(すなわち、金属フリー)。
【0029】
本発明の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法によれば、ラクチド法のような複雑な工程を経ることがないので、工程自体がより簡便であり、トータルとして高収率且つ安価に(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを得ることができる。
【0030】
さらに、本発明の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法によれば、その第1工程において、金属触媒を用いないので、純度の高い乳酸重合体を得ることができる。すなわち、一旦生成した乳酸重合体が解重合して二量体ラクチドに変換される副反応も抑制できる。その第2工程において、純度の高い乳酸重合体をグリシジル基含有(メタ)アクリレートと反応させるので、ほぼ定量的に高い官能基含有率[(メタ)アクリロイル基]を有し、且つ金属フリーの(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを得ることができる。
【0031】
さらに、本発明の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法によれば、その第1工程において、純度の高い乳酸重合体を得ることができるので、第1工程の反応物をそのまま、第2工程に供することができる。従って、第1工程の反応物中に(同一反応容器中)に、グリシジル基含有(メタ)アクリレートを添加して、第1工程と第2工程とを one-pot で行うことができる。このことにより、更に簡便に且つ安価に(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを得ることができる。
【0032】
本発明において、金属フリーの前記(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを用いて、金属フリーのポリ乳酸グラフトポリマー及びポリ乳酸櫛形ポリマーを製造することができる。
【0033】
このように、本発明において、金属フリーの(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー、ポリ乳酸グラフトポリマー及びポリ乳酸櫛形ポリマーが提供される。このことは、金属触媒を用いていた従来技術に対する大きな利点である。すなわち、従来技術においては、金属触媒を用いて、(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー、ポリ乳酸グラフトポリマー及びポリ乳酸櫛形ポリマーを製造していたので、必ず、これら製造物中に金属触媒に起因する金属不純物の残存があった。本発明において得られる(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー、ポリ乳酸グラフトポリマー及びポリ乳酸櫛形ポリマー中には、有害な金属不純物を実質的に含むことがない(すなわち、金属フリー)。
【0034】
本発明において得られる(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー、ポリ乳酸グラフトポリマー及びポリ乳酸櫛形ポリマー中には、有害な金属不純物を実質的に含むことがない(すなわち、金属フリー)ので、制限なく種々の用途に利用することができる。例えば、コーテイング剤、成形材料、薬学的用途、医療分野的用途に展開することができる。
【0035】
本発明は、グリーンポリマーケミストリーに貢献できる。本発明で得られるポリ乳酸グラフトポリマー及びポリ乳酸櫛形ポリマーは、バイオマス由来の含量(Biomass cntent)が25wt%であるとする日本バイオプラチスチック協会が2006年に提唱した「バイオプラスチック」に該当するものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】モデル反応における 1H NMRチャートを示す。図1(A)は、グリシジルメタクリレート(GMA)自体の 1H NMRチャートである。図1(B)は、グリシジルメタクリレート(GMA)に酢酸(AA)を開環付加させた反応生成物の 1H NMRチャートである。
図2】実施例1における 1H NMRチャートを示す。図2(A)は、表1コード(code)No.4の反応混合物の 1H NMRチャートである。図2(B)は、単離したGMA-Macro(m=11.1)の 1H NMRチャートである。
図3】実施例1における表1コード(code)No.4の単離したGMA-Macro(m=11.1)のESI−TOF−MS質量分析チャートである。
図4】実施例2及び実施例5におけるポリマーの 1H NMRチャートを示す。図4(A)は、実施例2における表2コード(code)No.2のグラフトコポリマーの 1H NMRチャートである。図4(B)は、実施例5における表5コード(code)No.2の櫛形ポリマーの 1H NMRチャートである。
図5】実施例4における表4に示すコード(code)No.1におけるDLSによるサイズ分布測定結果を示す。図5(A)は、重合反応前のDLSによるサイズ分布測定結果を示し、図5(B)は、重合反応後のDLSによるサイズ分布測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造方法は、乳酸を金属触媒不存在下で直接重縮合反応させて、ポリ乳酸を含む反応物を得る第1工程と、前記ポリ乳酸を含む反応物に、グリシジル基含有(メタ)アクリレートを混合し、ポリ乳酸をグリシジル基含有(メタ)アクリレートに開環付加反応させる第2工程とを含む。如何なる工程においても、金属触媒を用いない。
【0038】
なお、本明細書において、(メタ)アクリル型という表記は、アクリル型及びメタクリル型を総称している。(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリロイル基という表記についても、同様である。
【0039】
出発原料の前記乳酸は、L−乳酸、D−乳酸、又はそれら混合物(特別には、DL−乳酸)のいずれであってもよい。また、乳酸は、化学合成されたものであってもよく、又はバイオマスから発酵法によって製造されたものであってもよい。
【0040】
乳酸発酵はよく知られている。植物から得られる糖質、例えば、トウモロコシ、米、キャッサバなどのデンプンを加水分解して得られたグルコース、セルロースを硫酸や加圧熱水で加水分解して得られたグルコース; サトウキビやビートから得られたシュークロース; ヘミセルロースから得られたキシロース、アラビノース等の糖質を、乳酸菌や、リゾプス等のカビ等の微生物を用いて乳酸発酵させる。
【0041】
前記グリシジル基含有(メタ)アクリレートは、特に限定されることなく、グリシジル基を含有する(メタ)アクリレートであればよい。代表的なものとして、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。しかしながら、ポリ乳酸グラフトポリマー及びポリ乳酸櫛形ポリマーの目的とする物性等を考慮して、グリシジル基と(メタ)アクリレート基との間に、低級アルキレン基が介在したグリシジルメチル(メタ)アクリレート、2−グリシジルエチル(メタ)アクリレート、及び3−グリシジルプロピル(メタ)アクリレート等を用いてもよい。これら以外にも、さらに炭素数の多いアルキレン基(例えば、炭素数4〜8程度)が介在したグリシジルアルキレン(メタ)アクリレートを用いてもよい。
【0042】
本発明の(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーの製造スキームを示す(Scheme 1)。なお、スキーム1においては、グリシジル基含有(メタ)アクリレートとして、グリシジルメタクリレート(GMA)を用いて、メタクリル型乳酸マクロモノマー(GMA-Macro)を製造する場合を示している。
【0043】
【化1】
【0044】
上記スキーム1において、第1工程(1) において、乳酸(LA)を金属触媒不存在下で直接重縮合反応させて、ポリ乳酸(PLA)を含む反応物を得る。この際の反応は、通常、加熱条件及び/又は減圧条件で行う。例えば、100℃〜180℃程度、好ましくは120℃〜160℃程度の温度で、例えば、5〜500程度、好ましくは5〜100程度の減圧下で行うとよい。反応時間は、目的とする重合度にもよるが、30分〜50時間程度、好ましくは5〜24時間程度とするとよい。このような、条件下での直接重縮合反応により、平均重合度3〜50程度、好ましくは3〜30程度のポリ乳酸(PLA)が金属触媒に由来する不純物を含むことなく得られる。平均重合度(PLAの鎖長)は、反応条件によって変化させ得る。なお、硫酸等の酸触媒を用いてもよいが、次の第2工程(2) において、通常、塩基触媒を用いることから、硫酸等の酸触媒を用いないことが好ましい。
【0045】
続いて、第2工程(2) において、第1工程(1) で得られたポリ乳酸(PLA)を含む反応物に、グリシジル基含有(メタ)アクリレートを添加して、ポリ乳酸のカルボキシル基をグリシジル基含有(メタ)アクリレートのグリシジル基に開環付加反応させて、(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーを得る。この際の開環付加反応は、通常、塩基触媒存在下で行うとよい。塩基触媒としては、第3級アミン(例えば、トリエチルアミン)や、その塩を用いるとよい。また、ラジカル抑制剤(例えば、p-メトキシフェノール)を存在させるとよい。反応は、常圧にて、例えば、100℃〜180℃程度、好ましくは120℃〜160℃程度の温度で、例えば、1〜5時間程度、好ましくは2〜5時間程度の時間で行うとよい。このような、第1工程(1) 及び第2工程(2) により、(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーが金属不純物を含むことなく得られる。
【0046】
また、グリシジル基の開環付加の位置(α位、又はβ位)により、(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーは、α−付加体、β−付加体、又はそれらの混合体として得られる。通常は、α−付加体よりもβ−付加体の生成が優勢となり、付加体を基準として、α−付加体10〜40モル%、又は10〜35モル%、β−付加体60〜90モル%、又は65〜90モル%程度となる。なお、スキーム1においては、β−付加体のメタクリル型乳酸マクロモノマーが示されている。
【0047】
このようにして、(メタ)アクリロイル基と、ポリ乳酸基と、前記(メタ)アクリロイル基と前記ポリ乳酸基とを連結しているグリシジル基含有(メタ)アクリレートのグリシジル基の開環に由来する連結基とを有している、金属フリーの(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーが得られる。
【0048】
(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーがα−付加体であるか、又はβ−付加体であるかについては、実験項で述べるが、モデル実験として、グリシジルメタクリレート(GMA)に対して、最もシンプルな酢酸(AA)を開環付加させることにより、予備的に調べることができる。(Scheme 2)
【0049】
【化2】
【0050】
得られた(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーと、前記(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー以外の他の(メタ)アクリレートモノマーとを共重合させることによって、ポリ乳酸グラフトポリマーを製造することができる。
【0051】
前記他の(メタ)アクリレートモノマーとしては、特に限定されないが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートが例示される。もちろん、これら以外の(メタ)アクリレートモノマーを目的に応じて用いることができる。
【0052】
この際の共重合は、アクリル型ポリマーのラジカル共重合と同様に行えばよい。例えば、乳化重合、溶液重合系にて行うとよい。
【0053】
このようにして、(メタ)アクリロイル基と、ポリ乳酸基と、前記(メタ)アクリロイル基と前記ポリ乳酸基とを連結しているグリシジル基含有(メタ)アクリレートのグリシジル基の開環に由来する連結基とを有している(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー構成単位と、前記(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー以外の他の(メタ)アクリレートモノマー構成単位とを有している、金属フリーのポリ乳酸グラフトポリマーが得られる。
【0054】
得られた(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーをホモ重合させることによって、ポリ乳酸櫛形ポリマーを製造することができる。この際のホモ重合は、アクリル型ポリマーのラジカルホモ重合と同様に行えばよい。例えば、乳化重合、溶液重合系にて行うとよい。
【0055】
このようにして、(メタ)アクリロイル基と、ポリ乳酸基と、前記(メタ)アクリロイル基と前記ポリ乳酸基とを連結しているグリシジル基含有(メタ)アクリレートのグリシジル基の開環に由来する連結基とを有している(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマー構成単位を有している、金属フリーのポリ乳酸櫛形ポリマーが得られる。
【0056】
本発明のポリ乳酸グラフト共重合ポリマー(graft copolymer) の製造スキームを Scheme 3 (4) に示し、ポリ乳酸櫛形ポリマー(comb copolymer)の製造スキームを Scheme 3 (5) に示す。なお、スキーム3においては、(メタ)アクリル型乳酸マクロモノマーが、メタクリル型乳酸マクロモノマー(GMA-Macro)[グリシジルメタクリレート(GMA)へのポリ乳酸β−付加体(重合度m)]の場合を示している。スキーム3(4) においては、他の(メタ)アクリレートモノマーが、n−ブチルメタクリレート(BMA)の場合を示している。
【0057】
【化3】
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
[試薬等]
実施例において、以下の試薬等を用いた。
・L−乳酸:10wt%の水を含むL−乳酸(LA, HiPure 90) (ピュラック(Corbion Purac)社製試薬)
・グリシジルメタクリレート(GMA):ラジカル抑制剤として4−メトキシフェノールを含むグリシジルメタクリレート(GMA)(関東化学社製試薬)
・酢酸(AA):(関東化学社製試薬)
・トリエチルアミン(Et3 N):(関東化学社製試薬)
・n−ブチルメタクリレート(BMA):(ナカライテスク社製試薬)
・界面活性剤:ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(PELEX)(PELEX OT-P、花王社製)
・界面活性剤:ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(ナカライテスク社製)
・ラジカル開始剤:ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)(ナカライテスク社製試薬)
・ラジカル開始剤:α,α’−アゾビスイソブチロニトリル (AIBN)(ナカライテスク社製試薬)
・重クロロホルム(CDCl3 )(市販試薬)
・トルエン(市販試薬)
・クロロホルム(市販試薬)
・n−ヘキサン(市販試薬)
・その他の溶剤(市販試薬)
【0060】
[分析方法]
1H NMRスペクトル測定は、アバンスシリーズ(AVANCE Series, 300MHz,Bruker Biospin 社製)を用いて行った。
・ESI−MS質量分析は、イオントラップ質量分析計 amazon SL (ESI-Ion Trap-MS) (Bruker Daltonics 社製)を用いて行った。(CDCl3 ,TMS:テトラメチルシラン)
・ポリマーの分子量は、示差屈折検出器(Refractive Index(RI) Detector)を備えたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置(GL-7400 Series, GL Science 社製)を用いて、カラム温度40℃にて、クロロホルム溶離液を用いて、ポリスチレン標準(分子量=2.2x103 −6.5x105 )を用いて測定した。
・粒子径測定は、動的光散乱装置(dynamic light scattering instrument) DLS-7000 (大塚電子社製)を用いて、He−Ne雰囲気下で行った。
・示差走査熱量分析 (Differential scanning calorimetric (DSC) analysis) は、DSC-50 (島津製作所製) を用いて、N2 気流下(20mL/min)にて、昇温速度20℃/minにて行った。
・フィルムの物性値については、引張試験機(tensile testing machine) STA-1150 (オリエンテック社製)を用いて、20mm長さのフィルムに対して、30mm/minの引張速度(strain application change rate) で測定した。鉛筆硬度(Pencil hardness) は、4H〜4Bの三菱ユニペンシル(Mitsubishi Hi-uni pencils) を用いて行った。
【0061】
[モデル反応]
グリシジルメタクリレート(GMA)(10.0mmol)、酢酸(AA)(8.3mmol)、触媒としてトリエチルアミン(Et3 N)(0.17mmol)、及びラジカル抑制剤として4−メトキシフェノールラジカル抑制剤として4−メトキシフェノール(0.08mmol)を密閉された試験管にて、100℃で4時間加熱した。反応は、均一系にて進行した。反応生成物を300MHz 1H NMRスペクトルにて解析した。
【0062】
図1に、1H NMRチャートを示す。図1(A)は、グリシジルメタクリレート(GMA)自体の1H NMRチャートである。図1(B)は、グリシジルメタクリレート(GMA)に酢酸(AA)を開環付加させた反応生成物 1H NMRチャートである。図1(B)において、反応が進行するにつれて、GMAのプロトン(δ6.17)が減少し、新しいプロトンピーク(a:δ6.15,a’:δ6.12)が現れて増加した。α−付加体とβ−付加体との生成モル比は、プロトンa’とaとの強度比から、α−付加体:β−付加体=28:72と算出された。
【0063】
[実施例1:マクロモノマー(GMA-Macro)の合成]
代表例として、表1に示すコード(code)No.4について以下に示す。
【0064】
【化4】
【0065】
マグネチック撹拌子を入れた三ツ口の100mLの丸底フラスコ(その重量は予め測定したところ96.41gであった)内に、L−乳酸(9.90g,100mmol:乳酸自体としては9.0g)を入れた。フラスコを常圧で1時間、150℃にて攪拌しながら加熱し、15hPaまで徐々に減圧し、20時間維持した。その後、反応混合物を約90℃まで冷却し、反応フラスコの重さを測定すると103.36gであり、1H NMR測定用に反応混合物の少量(〜0.02g)を取り出した。7.0g(=103.36g−96.41g)の重量差と、1H NMRスペクトルから得られた平均重合度m=11.1とから、ポリ乳酸(PLA)の収率は、反応(1) によると96%であり、PLAの収量は8.6mmolであった。
【0066】
その後、同フラスコ内の反応混合物に、グリシジルメタクリレート(GMA)(1.35g,9.5mmol)、Et3 N(0.19mmol)、及び4−メトキシフェノール(GMAに対して1.0mol%)を添加した。混合物を収容したフラスコをゴムストッパーを用いて密閉し、常圧にて窒素下で撹拌しながら130℃で3時間維持した。マクロモノマー生成物を単離するために、反応混合物を数mLのクロロホルムに溶解し、得られた溶液を50mLのn−ヘキサンに撹拌しながら注ぎ、生成物を沈殿させ、沈殿物をデカンテーションによって単離し、24時間真空乾燥を行い、8.0gのGMA-Macro(トータル収率:94%)を得た。
【0067】
表1に示すように、官能基(メタクリロイル基)含有率 (funct.) は97%と非常に高かった。また、バイオマス含量(biomass content) は85wt%と非常に高かった。
【0068】
図2に、 1H NMRチャートを示す。図2(A)は、表1コード(code)No.4の反応混合物の 1H NMRチャートである。図2(B)は、単離したGMA-Macro(m=11.1)の 1H NMRチャートである。
【0069】
図2(A)の 1H NMRチャートにおいて、カルテットプロトンピークc(δ4.38)は末端メチンプロトンに帰属され、多重プロトンピークa(δ5.15)は内部メチンプロトンに帰属される。これらピークの積分値から、PLA鎖長m=11.1と決定される。
【0070】
図2(B)の 1H NMRチャートにおいて、2つのプロトンピーク(a:δ6.14,a’:δ6.11)の強度比から、α−付加体とβ−付加体との生成モル比は、α−付加体:β−付加体=29:71と算出された。
【0071】
図3に、表1コード(code)No.4の単離したGMA-Macro(m=11.1)のESI−TOF−MS質量分析チャートを示す。GMA-Macroは、その構造として、乳酸繰り返し単位の質量72毎に鎖長m=2〜16の範囲となっていることが分かる。
【0072】
表1に示すコード(code)No.1(m<6)の場合には、GMA-Macroの単離はやや異なる方法で行った。すなわち、反応混合物のクロロホルム溶液を50mLのn−ヘキサンに撹拌せずにゆっくりと注ぎ、生成物を沈殿させた。上澄み溶剤をデカンテーションによって取り除き、残った沈殿物を24時間真空乾燥を行い、GMA-Macroを得た。
【0073】
【表1】
【0074】
[実施例2:マクロモノマーGMA-Macro (GMLm)を用いた溶液ラジカル共重合によるグラフトコポリマーの合成]
代表例として、表2に示すコード(code)No.2について以下に示す。なお、GMLmとは、マクロモノマーGMA-Macroについて、ポリ乳酸の平均重合度がmであるものを示している。
【0075】
【化5】
【0076】
n−ブチルメタクリレート(BMA)とGML7.8とを、BMA:GML7.8=87:13のモル比(共重合モノマー成分の合計量:1.0g)で混合し、バイオマス由来の含量(biomass content) が34%となるようにした。混合物をAIBN(全モノマーの3.0mol%)を含むトルエン溶液1.0mLに加え、混合溶液を75℃にて24時間攪拌しながら反応させた。反応は均一系にて進行した。その後、クロロホルム(3mL)を攪拌しながら反応混合物に添加し、クロロホルム溶液をn−ヘキサン(40mL)に撹拌しながら滴下して、生成物ポリマーを沈殿させた。ポリマーをデカンテーションによって単離し、24時間、室温にて真空下で乾燥した。0.62gのグラフトコポリマー PBMA-g-PGML7.8 を得た(収率:62%)。
【0077】
【表2】
【0078】
図4(A)に、表2コード(code)No.2のグラフトコポリマーの 1H NMRチャートを示す。
【0079】
[実施例3:キャストフィルムの作製]
実施例2で合成した各グラフトコポリマー(表2に示すコード(code)No.1〜4)を用いて、キャストフィルムをそれぞれ作製した。
【0080】
典型的には、0.30gのグラフトコポリマーサンプル(表3に示すコード(code)No.2)を含むジクロロメタン溶液(5.0mL)をテフロン(登録商標)頁岩(d=55mm)上に注ぎ、大気圧下、室温で24時間乾燥し、コポリマーのキャストフィルムを作製した。
【0081】
キャストフィルムの物性、ヤング率(Young’s modulus)、引張強度(tensile strength)、破断伸度(elongation at break)を測定した。また、コポリマーのガラス転移点温度Tg、鉛筆硬度(pencil hardness)を測定した。結果を表3に示す。良好な物性を示した。
【0082】
【表3】
【0083】
[実施例4:マクロモノマーGMA-Macro (GMLm)を用いた乳化ラジカル共重合によるグラフトコポリマーの合成]
代表例として、表4に示すコード(code)No.1について以下に示す。
【0084】
100mLのフラスコ内に、界面活性剤PELEX(2.0g,共重合モノマー成分の合計量に対して3.0wt%)及び脱イオン化水(DIW,17mL)を入れた。撹拌しながら、GML7.8(2.87g)及びn−ブチルメタクリレート(BMA,3.83g)を界面活性剤溶液に滴下して加えた。混合物をその後、超音波発生装置(UD 200,トミーデジタルバイオロジー社製)を用いて、4分間超音波処理に付した。混合物は安定なミニエマルション(miniemulsion)系を与えた。ミニエマルションを、窒素下で100mLの三ツ口フラスコに移し、温水浴を用いて70℃で30分間加熱した。攪拌しながら、ラジカル開始剤KPS(0.054g,共重合モノマー成分の合計量に対して0.84wt%)を含む3mLのDIWをミニエマルションに添加し、さらに、85℃で30分間加熱した。コモノマーへの完全な転換が観察され、PBMA-g-PGML7.8 の定量的な生成が示された。
【0085】
その後、グラフトコポリマーを次のようにして単離した。30gのNaClを含むDIW(100mL)に、3.0mLの共重合されたミニエマルション溶液を激しく撹拌しながら滴下して添加し、グラフトコポリマーを沈殿させた。コポリマーを真空下濾過によって単離し、DIWでさらに洗浄した。真空ろ過によって、白色固体を得た。単離されたグラフトコポリマーを12時間を乾燥したところ、0.53gであり、およそ60%収率に相当した。
【0086】
【表4】
【0087】
図5は、表4に示すコード(code)No.1におけるDLSによるサイズ分布測定結果を示す。図5(A)は、重合反応前のDLSによるサイズ分布測定結果を示し、図5(B)は、重合反応後のDLSによるサイズ分布測定結果を示す。
【0088】
[実施例5:櫛形ポリマーの合成]
代表例として、表5に示すコード(code)No.2について以下に示す。
【0089】
【化6】
【0090】
モノマーとしてGML7.8(1.01g,1.39mmol)をAIBN(モノマーの10mol%)を含むトルエン溶液1.0mLに加え、混合溶液を75℃にて24時間攪拌したところ、淡黄色の溶液が得られた。その後、クロロホルム(〜2mLまで)を溶液に添加し、クロロホルム溶液をn−ヘキサン(40mL)に撹拌しながら滴下して、生成物ポリマーを沈殿させた。ポリマーをデカンテーションによって単離し、24時間、室温にて真空下で乾燥した。0.77gの櫛形ポリマーPGML7.8を得た(収率:76%)。
【0091】
【表5】
【0092】
図4(B)に、表5コード(code)No.2の櫛形ポリマーの 1H NMRチャートを示す。
図1
図2
図3
図4
図5