(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473387
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッド及び液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20190207BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20190207BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20190207BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/045
B41J2/14 301
B41J2/16 517
B41J2/16 507
B41J2/16 201
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-112307(P2015-112307)
(22)【出願日】2015年6月2日
(65)【公開番号】特開2016-221901(P2016-221901A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 高徳
【審査官】
亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−334910(JP,A)
【文献】
特開2006−334930(JP,A)
【文献】
特開2014−108594(JP,A)
【文献】
特開2009−34988(JP,A)
【文献】
特開2005−349687(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0170101(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面に液滴を吐出するノズルが配列し第一及び第二のノズル列を構成するヘッドチップと、
前記ヘッドチップの端面の上に位置し、前記第一及び第二のノズル列にそれぞれ対応する第一及び第二のスリットを有するノズルガードと、を備え、
前記ノズルガードは、前記第一のスリットと前記第二のスリットの間に位置する中間領域と、前記第一又は第二のスリットを挟んで前記中間領域とは反対側に位置する外周領域とを有し、前記中間領域の表面は前記外周領域の表面よりも吐出する液体に対する撥液性が高い液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記端面は前記外周領域の表面よりも吐出する液体に対する撥液性が高い請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記ヘッドチップは前記端面及び前記ノズルを有するノズルプレートを備え、前記ノズルプレートは撥液性の表面を有する請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記中間領域は表面に撥液膜を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記外周領域の表面は前記中間領域の表面よりも表面粗さが小さい請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記外周領域は鏡面処理が施される表面が露出する請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記ノズルガードは金属材料から成り、前記鏡面処理は電解研磨処理である請求項6に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記外周領域は、前記第一又は第二のスリットの長手方向の端部から前記ノズルガードの外縁に向けて末広がりの形状を有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記スリットの前記外周領域の側の側面は、前記ノズルガードの前記ヘッドチップの側の裏面から反対側の表面に向けて前記スリットの口径が拡大する方向に傾斜する請求項1〜8のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記ノズルガードは液滴吐出方向から見る平面視で長方形を有し、前記第一及び第二のスリットは前記長方形の長手方向に細長く平行に配列し、前記第一のスリット、前記第二のスリット、前記中間領域及び前記外周領域の前記長手方向の端部と前記ノズルガードの外縁との間の端部領域は、前記中間領域の表面と同じ表面を有する請求項1〜9のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
前記ノズルガードは、前記ヘッドチップの端面近傍の側面を囲むキャップ形状を有する請求項1〜10のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項12】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドと被記録媒体とを相対的に移動させる移動機構と、
前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、
前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備える液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体に液滴を噴射して記録する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出して文字や図形を記録する、或いは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜を形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。この方式は、インクや液体材料などの液体を液体タンクから供給管を介して液体噴射ヘッドのチャンネルに供給し、チャンネルの液体に圧力を印加してチャンネルに連通するノズルから液滴として吐出する。液滴の吐出の際には、液体噴射ヘッドや被記録媒体を移動させて文字や図形を記録する、或いは所定形状の機能性薄膜や三次元構造を形成する。
【0003】
この種の液体噴射ヘッドは、液体を吐出させる吐出面にノズルプレートを設け、複数のノズルが配列するノズル列から液滴を吐出する。しかし、ノズルから液滴を繰り返して吐出すると、ノズルプレートの表面やノズルプレートの表面に設けるノズルガードの表面に液体が付着し、液滴を正常に吐出することができなくなる。そこで、ノズルプレートやノズルガードの表面を定期的にクリーニングして、液滴を正常に吐出できるようにしている。
【0004】
特許文献1には、複数のノズルが配列するノズルプレートと、その周囲に設置されるヘッドカバーを備える液体噴射ヘッドが記載される。ノズルプレートの表面は、ノズルプレートの周囲に設置されるヘッドカバーの表面よりも突出し、ノズルプレートの表面とヘッドカバーの表面との間は封止剤により封止される。そして、ノズルプレートの表面とヘッドカバーの表面は吐出インクに対して撥液性とし、ノズルプレートとヘッドカバーの間の封止剤の表面は吐出インクに対して親液性とする。これにより、吐出表面に付着したインクをワイプブレードにより容易にクリーニングできることが記載される。
【0005】
特許文献2には、ノズル形成面とノズル形成面を覆うヘッドカバーを備える液体噴射ヘッドが記載される。ノズル形成面は複数のノズルが配列するノズル列を複数備える。ヘッドカバーは、この複数のノズル列に対応する複数の貫通孔を備え、ノズル列が露出するようにノズル形成面を覆う。ノズル形成面とヘッドカバー面は段差を介して連続し、ヘッドカバー面はノズル形成面よりもインクに対する撥液性が低い。これにより、ワイピング部材を用いてノズル形成面とヘッドカバー面に付着した液滴を払拭する際に、液滴の一部がノズル形成面側から段差部を介してヘッドカバー面側へ広がる。その結果、段差部に液滴が集中することを防止でき、全ての液滴を払拭することができる、と記載される。
【0006】
特許文献3には、オリフィスから横方向にインクを吐出するノズルプレートを備える液体噴射ヘッドが記載される。ノズルプレートはオリフィスの下部に液だれ防止用の障壁を備える、或いは、ノズルプレートの表面に親水処理を施し又はノズルプレートを親水性材料により構成し、オリフィスの下部のみに撥水処理を施すことにより、液だれを防止できることが記載される。
【0007】
特許文献4には、ノズルプレートに設けるノズル開口の液滴吐出側表面の周辺部を、撥液性を有する第一状態と親液性を有する第二状態とを切り替え可能とする液体噴射ヘッドが記載される。ノズルプレートの液滴吐出側の表面には絶縁層が形成され、ノズル開口の周縁部には第一電極が露出し、第一電極の周辺であり絶縁層の下部には第二電極が埋め込まれている。第一及び第二電極に電圧を印加しない状態では、絶縁層の表面はインクに対して撥液性を示し、第一状態となる。これに対し、第一電極を負電圧、第二電極を正電圧にした状態でインクをノズル開口及びその周辺に供給すると、インクは露出する第一電極よりも外周方向に広がり、絶縁層の表面は親液性である第二状態を示す。そのため、ノズル開口内に充填されるインクは、ノズル開口の周辺部に広がったインクによりキャップされ、ノズル開口内インクの増粘を抑制できることが記載される。
【0008】
特許文献5には、液滴を吐出した後にノズルプレートの表面近傍に浮遊するインクミストがノズルやノズル近傍に付着するのを防止する液体噴射ヘッドが記載される。ノズルプレートは、高剛性部材と樹脂部材の積層構造を備え、液滴吐出側の表面には撥水処理層を備える。ノズルプレートは、ノズルから離れた位置の液滴吐出側の表面に撥水処理層の無い非撥水処理部を備え、樹脂部材が露出する。ノズルから液滴を吐出する際に、ノズルプレートに正電圧を印加する。すると、相対的に負に帯電したインクミストは、撥水処理が施されたノズル周辺には付着せず、相対的に正に帯電する非撥水処理部に付着する。これにより、浮遊するインクミストによりノズルのメニスカスが破壊されることを防止できることが記載される。
【0009】
特許文献6には、ノズルプレートの液滴吐出側の表面に撥インク性の被膜を有する第一領域と親インク性の被膜を有する第二領域を備える液体噴射ヘッドが記載される。ノズルプレートは、中央部に複数のノズルが配列するノズル列が形成され、周辺部がマスクプレートに固定される。ノズルプレートは、中央部がフッ素樹脂から成る被膜が形成されて撥インク性の第一領域を成し、周辺部がフッ素樹脂を熱処理により変質させた変質層からなる被膜が形成されて親インク性の第二領域を成す。メンテナンス時のワイピングによりインクは第一領域から第二領域に払拭されることが記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−100445号公報
【特許文献2】特開2013−216011号公報
【特許文献3】特開平05−293963号公報
【特許文献4】特開2013−91174号公報
【特許文献5】特開2007−331127号公報
【特許文献6】特開2012−40753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
液体噴射ヘッドが、端面に液滴を吐出するノズルが配列し、第一及び第二のノズル列を構成するヘッドチップと、第一及び第二のノズル列に対応する位置にそれぞれ第一及び第二のスリットを有し、ヘッドチップの端面の上に位置するノズルガードとを備える場合に、第一のスリットと第二のスリットの間に位置する中間領域のノズルガードに波打つような凹凸が生ずる場合がある。ノズルガードの凹凸に液体が付着すると、特に凹部に付着した液体を一回のワイピングにより払拭できない場合がある。また、多数回ワイピングすると、ノズルガードのスリットから露出するノズルプレートを損傷してしまうことがある。特許文献1〜6のいずれの液体噴射ヘッドにおいても、ノズルガードの凹部に残留する液滴を効果的に払拭する払拭手段が示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の液体噴射ヘッドは、端面に液滴を吐出するノズルが配列し第一及び第二のノズル列を構成するヘッドチップと、前記ヘッドチップの端面の上に位置し、前記第一及び第二のノズル列にそれぞれ対応する第一及び第二のスリットを有するノズルガードと、を備え、前記ノズルガードは、前記第一のスリットと前記第二のスリットの間に位置する中間領域と、前記第一又は第二のスリットを挟んで前記中間領域とは反対側に位置する外周領域とを有し、前記中間領域の表面は前記外周領域の表面よりも吐出する液体に対する撥液性が高いこととした。
【0013】
また、前記端面は前記外周領域の表面よりも吐出する液体に対する撥液性が高いこととした。
【0014】
また、前記ヘッドチップは前記端面及び前記ノズルを有するノズルプレートを備え、前記ノズルプレートは撥液性の表面を有することとした。
【0015】
また、前記中間領域は表面に撥液膜を有することとした。
【0016】
また、前記外周領域の表面は前記中間領域の表面よりも表面粗さが小さいこととした。
【0017】
また、前記外周領域は鏡面処理が施される表面が露出することとした。
【0018】
また、前記ノズルガードは金属材料から成り、前記鏡面処理は電解研磨処理であることとした。
【0019】
また、前記外周領域は、前記第一又は第二のスリットの長手方向の端部から前記ノズルガードの外縁に向けて末広がりの形状を有することとした。
【0020】
また、前記スリットの前記外周領域の側の側面は、前記ノズルガードの前記ヘッドチップの側の裏面から反対側の表面に向けて前記スリットの口径が拡大する方向に傾斜することとした。
【0021】
また、前記ノズルガードは液滴吐出方向から見る平面視で長方形を有し、前記第一及び第二のスリットは前記長方形の長手方向に細長く平行に配列し、前記第一のスリット、前記第二のスリット、前記中間領域及び前記外周領域の前記長手方向の端部と前記ノズルガードの外縁との間の端部領域は、前記中間領域の表面と同じ表面を有することとした。
【0022】
また、前記ノズルガードは、前記ヘッドチップの端面近傍の側面を囲むキャップ形状を有することとした。
【0023】
本発明の液体噴射装置は、上記の液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドと被記録媒体とを相対的に移動させる移動機構と、前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備えることとした。
【発明の効果】
【0024】
本発明による液体噴射ヘッドは、端面に液滴を吐出するノズルが配列し第一及び第二のノズル列を構成するヘッドチップと、ヘッドチップの端面の上に位置し、第一及び第二のノズル列にそれぞれ対応する第一及び第二のスリットを有するノズルガードと、を備え、ノズルガードは、第一のスリットと第二のスリットの間に位置する中間領域と、第一又は第二のスリットを挟んで中間領域とは反対側に位置する外周領域とを有し、中間領域の表面は外周領域の表面Fよりも吐出する液体に対する撥液性が高い。これにより、ノズルガードの表面及びヘッドチップの端面から液体を効果的に払拭することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの説明図である。
【
図2】クリーニング時に液体噴射ヘッドの液滴吐出面をワイパーによりワイピングしている状態を表す説明図である。
【
図3】本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッドを液滴吐出方向から見る正面模式図である。
【
図4】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドを液滴吐出方向から見る正面模式図である。
【
図5】本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッドの説明図である。
【
図6】本発明の第五実施形態に係る液体噴射装置の模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第一実施形態)
図1は本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッド1の説明図である。
図1(a)は、液体噴射ヘッド1を液滴吐出方向から見る正面模式図である。
図1(b)は、部分AAの断面模式図である。
図2は、クリーニング時に液体噴射ヘッド1の液滴吐出面をワイパー4によりワイピングしている状態を表す説明図である。
【0027】
図1に示すように、液体噴射ヘッド1はヘッドチップ2とヘッドチップ2の端面Eの上に位置するノズルガード3を備える。ヘッドチップ2は、端面Eに液滴を吐出するノズル2d1、2d2が配列し、第一のノズル列N1及び第二のノズル列N2を構成する。ノズルガード3は、第一のノズル列N1及び第二のノズル列N2にそれぞれ対応する第一のスリット3a1及び第二のスリット3a2を有する。ノズルガード3は、第一のスリット3a1と第二のスリット3a2の間に位置する中間領域Paと、第一又は第二のスリット3a1、3a2を挟んで中間領域Paとは反対側に位置する外周領域Pb1、Pb2とを有し、中間領域Paの表面FSは外周領域Pb1、Pb2の表面FSよりも吐出する液体に対する撥液性が高い。その結果、クリーニング時にノズルガード3の表面FS、及び、第一及び第二のスリット3a1、3a2から露出するヘッドチップ2の端面E(つまり、液体噴射ヘッド1の液滴吐出面)にゴム製のワイパーを当接させ、第一及び第二のスリット3a1、3a2の長手方向である列方向xに摺動させるワイピングにより、ノズルガード3の表面FS及びヘッドチップ2の端面Eに付着する液体を効果的に払拭することができる。以下、具体的に説明する。
【0028】
図1(b)に示すように、ヘッドチップ2は、複数の圧力室2b1、2b2を有するアクチュエータ基板2aと、圧力室2b1、2b2にそれぞれ連通するノズル2d1、2d2を有するノズルプレート2cと、アクチュエータ基板2aを保持するベース基板2eとを備える。圧力室2b1、2b2及びノズル2d1、2d2はそれぞれ紙面奥方向に複数配列する。各圧力室2b1は各ノズル2d1に連通し、複数のノズル2d1は第一のノズル列N1を構成する。同様に、各圧力室2b2は各ノズル2d2に連通し、複数のノズル2d2は第二のノズル列N2を構成する。第一のノズル列N1と第二のノズル列N2は同じノズルピッチで列方向xに半ピッチずれている。つまり、ノズル2d1とノズル2d2は列方向xに千鳥配列となっている。
【0029】
アクチュエータ基板2aは、圧電素子のピエゾ効果により圧力室2b1、2b2の容積を変化させ、液体を加圧するピエゾ方式のアクチュエータを用いてもよいし、圧力室2b1、2b2に発熱素子を設けて液体に気泡を発生させ、圧力室2b1、2b2の液体を加圧するサーマル方式のアクチュエータを用いてもよい。ピエゾ方式のアクチュエータを用いる場合には、紙面奥方向に隣接する圧力室2b1、2b2の側壁に圧電体を用い、側壁面に電極を設置し電極に電圧を印加して側壁を厚み滑り変形させるシアモード方式や、圧力室2b1、2b2に振動板を設け、この振動板を圧電素子のピエゾ効果により変形させる縦モード方式や撓みモード方式を用いることができる。ノズルプレート2cはポリイミド樹脂などの合成樹脂や金属膜を使用することができる。一枚のノズルプレート2cに第一及び第二のノズル列N1、N2を設けてもよいし、ノズルプレート2cを分割し、第一のノズルプレート2cに第一のノズル列N1を設け、第二のノズルプレート2cに第二のノズル列N2を設けてもよい。ノズル列ごとにノズルプレートを分割すれば、アクチュエータ基板2aにノズルプレート2cを設置する際の各ノズル列の位置合わせが容易となる。
【0030】
ノズルガード3は、ヘッドチップ2の端面Eを覆う上板3bと、ヘッドチップ2の端面E近傍の側面を囲む側板3cとを有するキャップ形状を備える。上板3bは、第一及び第二のノズル列N1、N2の対応する位置に、第一又は第二のノズル列N1、N2の列方向xに細長い開口からなる第一及び第二のスリット3a1、3a2を備える。上板3bの液滴吐出側が表面FSであり、反対側のヘッドチップ2の端面E側が裏面BSである。中間領域Paは上板3bの第一のスリット3a1と第二のスリット3a2の間の領域である。外周領域Pb1は第一のスリット3a1を挟んで中間領域Paとは反対側に位置し、第一のスリット3a1と上板3bの外周(つまり上板3bの外縁G)との間の領域である。外周領域Pb2は第二のスリット3a2を挟んで中間領域Paとは反対側に位置し、第二のスリット3a2と上板3bの外周(つまり、上板3bの外縁G)との間の領域である。なお、ノズルガード3に中間領域Paを設けることにより、ワイピングの際にワイパーがノズルプレート2cの表面に直接触れてノズルプレート2cの表面が損傷するのを防ぐことができる。更に、ノズル列ごとにノズルプレート2cを分割する場合は、分割されるノズルプレート2c間に液体が溜まるのを防ぐことができる。
【0031】
より具体的には、ノズルガード3は液滴吐出方向から見る平面視で長方形を有し、第一及び第二のスリット3a1、3a2は長方形の長手方向(列方向x)に細長く平行に配列する。そして、第一のスリット3a1、第二のスリット3a2、中間領域Pa、及び、外周領域Pb1、Pb2の長手方向(列方向x)の各端部とノズルガード3の外縁Gとの間は端部領域Peを成し、この端部領域Peは中間領域Paの表面FSと同じ表面FSを有する。
【0032】
ノズルガード3として、金属材料やプラスチック材料を使用することができる。ノズルガード3としてステンレス材料を用いることができ、例えば、列方向xの外形が約70mm、列方向xに直交する短手方向の幅が約20mm、第一又は第二のスリット3a1、3a2の短手方向の幅が約3mm、中間領域Paの短手方向の幅が約8mm、外周領域Pb1、Pb2の短手方向の幅がそれぞれ約3mm、ノズルガード3の厚さが200μmである。
【0033】
ここで、中間領域Paの表面FSに撥液膜を形成して、中間領域Paの表面FSを外周領域Pb1、Pb2の表面FSよりも吐出液体に対する撥液性を相対的に高くすることができる。撥液膜として、フッ素樹脂を使用することができ、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロピルピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテツ共重合体)等を使用することができる。また、外周領域Pb1、Pb2の表面FSを中間領域Paの表面FSよりも吐出液体に対する親液性を高くしてもよい。例えば、外周領域Pb1、Pb2の表面FSに、親液性DLC(Diamond−Like Carbon)膜、酸化Cr膜、SiO
2膜、TiO
2膜などをコーティングする、あるいは、外周領域Pb1、Pb2の表面FSをプラズマ処理により加工して親液化することができる。また、外周領域Pb1、Pb2の表面FSを中間領域Paの表面FSよりも表面粗さRaを相対的に小さくして、中間領域Paの表面FSを外周領域Pb1、Pb2の表面FSよりも撥液性を高くすることができる。また、第一のスリット3a1、第二のスリット3a2、中間領域Pa及び外周領域Pb1、Pb2の列方向xにおける両端部の端部領域Peの表面FSを中間領域Paの表面FSと連続して外周領域Pb1、Pb2の表面FSよりも撥液性を相対的に高くすることができる。
【0034】
図2(a)は、本発明の液体噴射ヘッド1をワイパー4によりワイピングしている時のノズルガード3の中間領域Paの状態を表す側面模式図である。
図2(b)は、比較例として、従来の液体噴射ヘッド1をワイパー4によりワイピングしているときのノズルガード3の中間領域Paの状態を表す側面模式図である。いずれの場合も、ノズルガード3としてステンレスを使用している。
図2(b)に示す従来例において、ノズルガード3の中間領域Paの表面FSと外周領域Pb1、Pb2の表面FSは撥液性が同等である。
【0035】
クリーニング時においてノズルガード3の表面にワイパー4を当接して列方向xに摺動させる。ノズルガード3の中間領域Paは外周領域Pb1、Pb2と比較して、凹凸が形成されやすい。特に、ノズルガード3の第一及び第二のスリット3a1、3a2が列方向xに細長い場合は中間領域Paも列方向xに細長い形状となり、中間領域Paに凹凸が発生しやすい。
図2(b)に示す従来例では、ワイパー4によりノズルガード3の表面FSをワイピングしても、中間領域Paの凹部に残留液体Zが残りやすい。これに対して、本発明の液体噴射ヘッド1では、
図2(a)に示すように、ワイパー4によりノズルガード3の表面FSをワイピングすると、中間領域Paの表面FSの凹部に残留液体Zが残らず、かつ、外周領域Pb1、Pb2では液体Wが広がり上板3bの外縁Gに押し出される。
【0036】
その結果、ワイピングの回数が低減し、短時間でクリーニングを終了させることができる。また、無理にワイピングを行う必要がないので、ヘッドチップ2の端面Eを傷つけることがない。また、ノズルガード3の上板3bの凹凸の管理値が緩くなり、歩留まりを向上させることができる。加えて、第一のノズル列N1から吐出する液体と第二のノズル列N2から吐出する液体の色が異なる場合であっても、第一のノズル列N1と第二のノズル列N2の間の端面Eに撥液性である中間領域Paが位置することにより、吐出する液体の混色を防止することができる。即ち、ノズルガード3の中間領域Paが無い場合は、ワイパー4によるワイピングを行う際に、一方のノズル列から他方のノズル列に液体が流れ込み、ワイピングの下流側に位置するノズル2dのメニスカスに混色液体が触れてノズル2dに流入する。これに対し、本発明の液体噴射ヘッド1は、第一のノズル列N1と第二のノズル列N2の間にノズルガード3の中間領域Paが位置し、この中間領域Paは撥液性であることから、一方のノズル列から他方のノズル列に液体が跨いで流入することが無く、混色を避けることができる。
【0037】
なお、ヘッドチップ2の端面E(つまりノズルプレート2cの液滴吐出側の表面)を、中間領域Paと同様に、外周領域Pb1、Pb2の表面FSよりも吐出する液体に対する撥液性を高くすることができる。例えば、ノズルプレート2cとしてフッ素樹脂などの撥液膜を形成したポリイミド樹脂を使用すれば、表面が撥液性となる。ワイパー4によりノズルガード3の表面FSをワイピングすると、中間領域Paの表面FSの凹部に残留液体Zが残らず、かつ、端面Eに付着する液体Wや中間領域Paから端面Eに流れ込む液体Wは、端面E上を容易に移動し、第一及び第二のスリット3a1、3a2の縁部から外周領域Pb1、Pb2に濡れ広がって上板3bの外縁Gに効果的に押し出される。このように、ノズルガード3の表面FS及びヘッドチップ2の端面Eから液体Wを効果的に払拭することができる。この場合に、ノズルガード3の中間領域Paの表面の撥液性をヘッドチップ2の端面E(つまりノズルプレート2cの液滴吐出側の表面)の撥液性よりも高くすれば、表面FS及び端面Eから液体Wを一層効果的に払拭することができる。
【0038】
本実施形態では、ノズルガード3に側板3cを設けたキャップ構造を有するが、本発明はこれに限定されず、ノズルガード3を上板3bのみから構成してもよい。なお、上板3bに側板3cを設けることにより、外周領域Pb1、Pb2の強度が中間領域Paよりも向上し、外周領域Pb1、Pb2の表面FSを中間領域Paの表面FSよりも平坦化することができる。また、ヘッドチップ2のノズル列は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。例えば、ヘッドチップ2の端面Eに第一〜第三のノズル列が並列し、端面Eの上に位置するノズルガード3の第一〜第三のノズル列に対応する位置にそれぞれ第一〜第三のスリットを有する場合は、第一のスリットと第二のスリットの間に位置する領域、及び、第二のスリットと第三のスリットの間に位置する領域を中間領域Paとし、第一又は第三のスリットを挟んで中間領域Paとは反対側に位置する領域を外周領域Pb1、Pb2とすればよい。また、一つの第一又は第二のスリット3a1、3a2に複数のノズル列を構成してもよい。
【0039】
(第二実施形態)
図3は本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッド1を液滴吐出方向から見る正面模式図である。第一実施形態と異なる点は、外周領域Pb1、Pb2の表面FSの表面粗さRaが小さい点であり、その他の構成は第一実施形態と同様である。同一の部分又は同一の機能を有す部分には同一の符号を付している。
【0040】
図3に示すように、液体噴射ヘッド1はヘッドチップ2とヘッドチップ2の端面Eの上に位置するノズルガード3とを備える。ヘッドチップ2は端面Eに第一のノズル列N1と第二のノズル列N2を有する。ノズルガード3は、第一のノズル列N1及び第二のノズル列N2にそれぞれ対応する第一のスリット3a1及び第二のスリット3a2を有する。ノズルガード3は、第一のスリット3a1と第二のスリット3a2の間に位置する中間領域Paと、第一又は第二のスリット3a1、3a2を挟んで中間領域Paとは反対側に位置する外周領域Pb1、Pb2とを有し、中間領域Paの表面FSは外周領域Pb1、Pb2の表面FSよりも吐出する液体に対する撥液性が高い。
【0041】
ここで、外周領域Pb1、Pb2の表面FSは中間領域Paの表面FSよりも表面粗さRaが小さい。例えば、外周領域Pb1、Pb2は表面粗さRaがRa<0.1μmであり、中間領域Paの表面FSは表面粗さRaがRa≧0.1μmである。これにより、中間領域Paは外周領域Pb1、Pb2よりも表面FSの撥液性が高くなる。ノズルガード3の表面FSをワイパー4によりワイピングすると、中間領域Paの凹部に残留液体Zが残り難く、外周領域Pb1、Pb2では液体が広がり上板3bの外縁Gに押し出される。外周領域Pb1、Pb2の表面FSの表面粗さRaを0.05μm以下の鏡面とすれば、液体は一層広がって上板3bの外縁Gに押し出される。ヘッドチップ2の端面Eを中間領域Paの表面FSと同様に撥液性とすれば、ヘッドチップ2の端面E及びノズルガード3の表面FSに付着した液体をより効果的に払拭することができる。
【0042】
また、中間領域Paの表面FSに撥液膜を付着させ、外周領域Pb1、Pb2に鏡面処理が施される表面FSを露出させることができる。この場合は上記例とは異なり、中間領域Paは外周領域Pb1、Pb2と同程度の表面粗さRaの小さい表面FSであってもよい。具体的には、ノズルガード3として金属板、例えばステンレス板を使用し、型抜き工程により第一及び第二のスリット3a1、3a2を形成する。次に、上板3bの表面FSの全面を研磨処理、例えば電解研磨処理を施して鏡面とする。次に、上板3bの表面FSに撥液膜を付着させる。撥液膜としてフッ素樹脂を使用することができる。次に、外周領域Pb1、Pb2の表面FSから撥液膜を除去する。例えば、外周領域Pb1、Pb2の表面FSを研磨して撥液膜を除去する。また、撥液膜を付着させる際に外周領域Pb1、Pb2をマスキングして外周領域Pb1、Pb2の鏡面を露出させてもよい。電解研磨処理が施される表面FSは、粗さRaがRa<0.1μm、例えば、粗さRaが0.05μmあるいは0.025μmである。また、ステンレス板は電解研磨により表面FSにCrが析出し、吐出液体に対する耐性が向上する。また、電解研磨のプライマー効果により、撥液膜の表面FSに対する付着性が向上する。
【0043】
これにより、中間領域Paの表面FSは液体を弾きやすく、外周領域Pb1、Pb2の表面FSは液体が濡れ広がる。ワイパー4によりノズルガード3の表面FSを列方向xにワイピングすると、中間領域Paの表面FSの凹部に残留液体Zが残らず、中間領域Paの表面FSやヘッドチップ2の端面Eから押し出される液体が外周領域Pb1、Pb2では濡れ広がって上板3bの外縁Gに押し出される。なお、上記いずれの場合においても、ヘッドチップ2の端面Eを、中間領域Paと同様に、外周領域Pb1、Pb2の表面FSよりも吐出する液体に対する撥液性を高くすれば、第一実施形態の場合と同様に、中間領域Paの表面FSやヘッドチップ2の端面Eの液体が外周領域Pb1、Pb2側から外縁Gに効果的に押し出される。また、ノズルガード3の第一及び第二のスリット3a1、3a2の列方向xの両端の端部領域Peを中間領域Paの表面と同じ撥液性の表面とすれば、液体は上板3bの表面FSから外縁Gに一層効果的に押し出される。このように、ノズルガード3の表面FS及びヘッドチップ2の端面Eから液体を効果的に払拭することができる。
【0044】
(第三実施形態)
図4は、本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッド1を液滴吐出方向から見る正面模式図である。第一実施形態と異なる点は、外周領域Pb1、Pb2がノズルガード3の上板3bの外縁Gに向けて末広がりの形状を有する点であり、その他の構成は第一実施形態と同様である。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0045】
図4に示すように、液体噴射ヘッド1はヘッドチップ2とヘッドチップ2の端面Eの上に位置するノズルガード3を備える。ヘッドチップ2は端面Eに第一のノズル列N1と第二のノズル列N2を有する。ノズルガード3は、第一のノズル列N1及び第二のノズル列N2にそれぞれ対応する第一のスリット3a1及び第二のスリット3a2を有する。ノズルガード3は、第一のスリット3a1と第二のスリット3a2の間に位置する中間領域Paと、第一又は第二のスリット3a1、3a2を挟んで中間領域Paとは反対側に位置する外周領域Pb1、Pb2とを有し、中間領域Paの表面FSは外周領域Pb1、Pb2の表面FSよりも液体に対する撥液性が高い。
【0046】
ここで、外周領域Pb1、Pb2は、第一又は第二のスリット3a1、3a2の長手方向(列方向x)の両端部からノズルガード3の上板3bの外縁Gに向けて末広がりの形状を有する。これにより、ワイパー4によりノズルガード3の表面FSを第一及び第二のスリット3a1、3a2の列方向xにワイピングすると、中間領域Paの表面FSやヘッドチップ2の端面Eから押し出される液体は、外周領域Pb1、Pb2に濡れ広がって末広がりの領域で外縁Gに押し出される。従って、中間領域Paの表面FSの凹部に残留液体Zが残らず、かつ、外周領域Pb1、Pb2に残留する液体が減少する。なお、外周領域Pb1、Pb2は、第一又は第二のスリット3a1、3a2の長手方向の一方の端部からノズルガード3の上板3bの外縁Gに向けて末広がりの形状を有してもよい。また、外周領域Pb1、Pb2は、第一又は第二のスリット3a1、3a2の長手方向の端部の外縁G側の角部から末広がりの形状となるものでも、中間領域Pa側の角部から末広がりの形状となるものであってもよい。
【0047】
具体的には、第二実施形態と同様に、外周領域Pb1、Pb2の表面FSの表面粗さRaを中間領域Paの表面FSの表面粗さRaよりも小さくする。例えば、外周領域Pb1、Pb2の表面FSの表面粗さRaをRa<0.1μmとし、中間領域Paの表面FSの表面粗さRaをRa≧0.1μmとする。例えば、外周領域Pb1、Pb2の表面FSを鏡面とする。また、中間領域Paは表面FSに撥液膜を付着させ、外周領域Pb1、Pb2は鏡面処理が施された表面FSを露出させる。
【0048】
なお、第一又は第二のスリット3a1、3a2の列方向xの両端部に位置する端部領域Peの表面FSを、中間領域Paの表面FSに連続して外周領域Pb1、Pb2の表面FSよりも液体に対する撥液性を高くすることができる。これにより、ワイパー4による列方向xへのワイピングで外周領域Pb1、Pb2に残留する液体を一層低減させることができる。例えば、中間領域Paと端部領域Peの表面FSに撥液膜を形成し、第一又は第二のスリット3a1、3a2の長手方向の端部からノズルガード3の外縁Gに向けて末広がりの形状を有する外周領域Pb1、Pb2に鏡面処理が施された表面FSを露出させる。
【0049】
(第四実施形態)
図5は、本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッド1の説明図である。
図5(a)は、液体噴射ヘッド1の液滴吐出方向から見る正面模式図である。
図5(b)は、部分BBの断面模式図である。第一実施形態と異なる点は、第一及び第二のスリット3a1、3a2の外周領域Pb1、Pb2側の側面が傾斜を有する点であり、その他の構成は第一実施形態と同様である。従って、以下、主に第一実施形態と異なる構成について説明する。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0050】
図5に示すように、ノズルガード3はヘッドチップ2の端面Eを覆う上板3bと、ヘッドチップ2の端面E近傍の側面を囲む側板3cとを有するキャップ形状を備える。上板3bは、第一のノズル列N1及び第二のノズル列N2にそれぞれ対応する第一のスリット3a1及び第二のスリット3a2を有し、ヘッドチップ2の端面Eを覆う。そして、第一のスリット3a1の外周領域Pb1の側に位置する側面S1は、ノズルガード3のヘッドチップ2の側の裏面BSから反対側の表面FSに向けて第一のスリット3a1の口径が拡大する方向の傾斜を有する。また、第二のスリット3a2の外周領域Pb2の側に位置する側面S2は、ノズルガード3のヘッドチップ2の側の裏面BSから反対側の表面FSに向けて第二のスリット3a2の口径が拡大する方向の傾斜を有する。更に、ノズルガード3は、第一のスリット3a1と第二のスリット3a2の間に位置する中間領域Paと、第一又は第二のスリット3a1、3a2を挟んで中間領域Paとは反対側に位置する外周領域Pb1、Pb2とを有し、中間領域Paの表面FSは外周領域Pb1、Pb2の表面FSよりも液体に対する撥液性が高い。
【0051】
これにより、ワイパー4によりノズルガード3の表面FSを第一及び第二のスリット3a1、3a2の長手方向である列方向xにワイピングすると、中間領域Paやヘッドチップ2の端面Eに付着する液体は側面S1、S2を介して外周領域Pb1、Pb2に、更に外周領域Pb1、Pb2から上板3bの外縁Gに押し出される。そのため、ヘッドチップ2の端面Eに残留する液体が減少し、中間領域Paの表面FSやヘッドチップ2の端面Eから液体を外周領域Pb1、Pb2側に効果的に押し出すことができる。
【0052】
具体的には、第二実施形態と同様に、外周領域Pb1、Pb2の表面FSの表面粗さを外周領域Pbの表面FSの表面粗さよりも小さくする。例えば、外周領域Pb1、Pb2の表面FSは表面粗さRaをRa<0.1μmとし、中間領域Paの表面FSは表面粗さRaをRa≧0.1μmとする。例えば外周領域Pb1、Pb2の表面FSを鏡面とする。また、中間領域Paは表面FSに撥液膜を付着させ、外周領域Pb1、Pb2は鏡面処理が施された表面FSを露出させる。また、第三実施形態と同様に、外周領域Pb1、Pb2を、第一又は第二のスリット3a1、3a2の長手方向の端部から上板3bの外縁Gに向けて末広がりの形状とする。これにより、ヘッドチップ2の端面E(ノズルプレート2cの液滴吐出側の表面)から側面S1、S2を介して押し出される液体は、外周領域Pb1、Pb2の末広がりの領域で上板3bの外縁Gに押し出される。このように、ノズルガード3の表面FS及びヘッドチップ2の端面Eから液体を効果的に払拭することができる。
【0053】
なお、第一及び第二のスリット3a1、3a2は、側面S1、S2を含めて側面を撥液性とすれば、ワイパー4によるワイピングの際に、第一及び第二のスリット3a1、3a2のヘッドチップ2の端面Eから液体を外周領域Pb1、Pb2側に一層押し出しやすくなる。また、第一又は第二のスリット3a1、3a2の列方向xの両端部に位置する端部領域Peの表面FSを、中間領域Paの表面FSに連続して外周領域Pb1、Pb2の表面FSよりも液体に対する撥液性を高くする。これにより、液体は上板3bの表面FSから外縁Gに一層効果的に押し出される。
【0054】
(第五実施形態)
図6は本発明の第五実施形態に係る液体噴射装置30の模式的な斜視図である。液体噴射装置30は、液体噴射ヘッド1、1’を往復移動させる移動機構40と、液体噴射ヘッド1、1’に液体を供給し、液体噴射ヘッド1、1’から液体を排出する流路部35、35’と、流路部35、35’に連通する液体ポンプ33、33’及び液体タンク34、34’と、液体噴射ヘッド1、1’の液滴吐出面をクリーニングするためのメンテナンス部45とを備えている。各液体噴射ヘッド1、1’は既に説明した第一〜第四実施形態のいずれかを使用する。
【0055】
液体噴射装置30は、紙等の被記録媒体44を主走査方向に搬送する一対の搬送手段41、42と、被記録媒体44に液滴を吐出する液体噴射ヘッド1、1’と、液体噴射ヘッド1、1’を載置するキャリッジユニット43と、液体タンク34、34’に貯留した液体を流路部35、35’に押圧して供給する液体ポンプ33、33’と、液体噴射ヘッド1、1’を主走査方向と直交する副走査方向に走査する移動機構40と、を備えている。図示しない制御部は液体噴射ヘッド1、1’、移動機構40、搬送手段41、42を制御して駆動する。
【0056】
一対の搬送手段41、42は副走査方向に延び、ローラ面を接触しながら回転するグリッドローラとピンチローラを備えている。図示しないモータによりグリッドローラとピンチローラを軸周りに回転させてローラ間に挟み込んだ被記録媒体44を主走査方向に搬送する。移動機構40は、副走査方向に延びた一対のガイドレール36、37と、一対のガイドレール36、37に沿って摺動可能なキャリッジユニット43と、キャリッジユニット43を連結し副走査方向に移動させる無端ベルト38と、この無端ベルト38を図示しないプーリを介して周回させるモータ39とを備えている。
【0057】
キャリッジユニット43は、複数の液体噴射ヘッド1、1’を載置し、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類の液滴を吐出する。液体タンク34、34’は対応する色の液体を貯留し、液体ポンプ33、33’、流路部35、35’を介して液体噴射ヘッド1、1’に供給する。各液体噴射ヘッド1、1’は駆動信号に応じて各色の液滴を吐出する。液体噴射ヘッド1、1’から液滴を吐出させるタイミング、キャリッジユニット43を駆動するモータ39の回転及び被記録媒体44の搬送速度を制御することにより、被記録媒体44上に任意のパターンを記録することできる。メンテナンス時は、移動機構40がキャリッジユニット43をメンテナンス部45の位置に移動させる。メンテナンス部45は、図示しない液体吸引部が液体噴射ヘッド1、1’の液滴吐出面に当接し、液滴吐出面及びノズルから残留液体を吸引する。次に、メンテナンス部45は、図示しないワイパーを液体噴射ヘッド1、1’の液滴吐出面に当接させ、スリットの長手方向である列方向xに摺動してワイピングを行い、液体噴射ヘッド1、1’の液滴吐出面をクリーニングする。
【0058】
なお、本実施形態は、移動機構40がキャリッジユニット43と被記録媒体44を移動させて記録する液体噴射装置30であるが、これに代えて、キャリッジユニットを固定し、移動機構が被記録媒体やメンテナンス部を二次元的に移動させて記録する液体噴射装置であってもよい。つまり、移動機構は液体噴射ヘッドと被記録媒体、及び、液体噴射ヘッドとメンテナンス部とを相対的に移動させるものであればよい。
【符号の説明】
【0059】
1 液体噴射ヘッド
2 ヘッドチップ、2a アクチュエータ基板、2b1、2b2 圧力室、2c ノズルプレート、2d1、2d2 ノズル
3 ノズルガード、3a1 第一のスリット、3a2 第二のスリット、3b 上板、3c 側板
4 ワイパー
45 メンテナンス部
Pa 中間領域、Pb、Pb1、Pb2 外周領域、Pe 端部領域
G 外縁、E 端面
N1 第一のノズル列、N2 第二のノズル列
S1、S2 側面、FS 表面、BS 裏面
x 列方向、Z 残留液体