(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0028】
[ポリヒドロキシアルカノエート(A)]
本発明で用いられるポリヒドロキシアルカノエート(A)は、微生物から生産される微生物産生PHAから選択される1種以上である。
【0029】
本発明において、PHA(A)は、一般式:[−CHR−CH
2−CO−O−]で示される繰り返し単位を含む脂肪族ポリエステル樹脂である。
【0030】
本発明に用いるPHA(A)は、式(1) :[−CHR−CH
2−CO−O−](式中、RはC
nH
2n+1で表されるアルキル基で、nは1以上15以下の整数である。)で示される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0031】
微生物産生PHA(A)を生産する微生物としては、PHA類生産能を有する微生物であれば特に限定されない。例えば、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(以下、「PHB」と略称する場合がある。)生産菌としては、1925年に発見されたBacillus megateriumが最初で、他にもカプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator)(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha))、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)などの天然微生物が知られており、これらの微生物ではPHBが菌体内に蓄積される。
【0032】
また、ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体生産菌としては、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)(以下、「PHBV」と略称する場合がある。)およびポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、「PHBH」と略称する場合がある。)生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)などが知られている。特に、PHBHに関し、PHBHの生産性を上げるために、PHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP−6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821−4830(1997))などがより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にPHBHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また上記以外にも、生産したいPHA(A)に合わせて、各種PHA合成関連遺伝子を導入した遺伝子組換え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0033】
本発明で用いられる微生物産生PHAの分子量は、目的とする用途で、実質的に十分な物性を示すものであれば、特に制限されない。分子量が低いと得られる成形品の強度が低下する。逆に高いと加工性が低下し、成形が困難になる。それらを勘案して本発明に使用する微生物産生PHA(A)の重量平均分子量の範囲は、50,000〜3,000,000が好ましく、100,000〜1,500,000がより好ましい。
【0034】
前記重量平均分子量の測定方法は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(昭和電工社製「Shodex GPC−101」)を用い、カラムにポリスチレンゲル(昭和電工社製「Shodex K−804」)を用い、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算した場合の分子量として求めることができる。この際、検量線は重量平均分子量31,400、197,000、668,000、1,920,000のポリスチレンを使用して作成する。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0035】
本発明で使用する微生物産生PHA(A)としては、例えば、PHB〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)〕、PHBH〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−コ−3−ヒドロキシヘキサン酸)〕、PHBV〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−コ−3−ヒドロキシ吉草酸)〕、P3HB3HV3HH〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−コ−3-ヒドロキ
シ吉草酸−コ−3-ヒドロキシヘキサン酸)〕、P3HB4HB〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−コ−4−ヒドロキシ酪酸)〕、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタデカノエート)、ポリ乳酸などが挙げられる。これらのなかでも、工業的に生産が容易であるため、PHB、PHBH、PHBV、P3HB3HV3HH、P3HB4HB、およびポリ乳酸が好ましい。
【0036】
前記微生物産生PHA(A)の繰り返し単位の組成比は、柔軟性と強度のバランスの観点から、3−ヒドロキシブチレート(3HB)の組成比が80モル%〜99モル%であることが好ましく、85モル%〜97モル%であることがより好ましい。3−ヒドロキシブチレート(3HB)の組成比が80モル%未満であると剛性が不足する傾向があり、99モル%より多いと柔軟性が不足する傾向がある。
【0037】
前記PHA(A)の共重合樹脂中の繰り返し単位である各組成比は、以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定できる。乾燥PHA約20mgに、2mlの硫酸/メタノール混液(15/85(重量比))と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、PHA分解物のメチルエステルを得る。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生が止まるまで放置する。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、上清中のPHA分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析することにより、共重合樹脂中の各組成比を求められる。
【0038】
前記ガスクロマトグラフとしては、島津製作所社製「GC−17A」を用い、キャピラリーカラムにはGLサイエンス社製「NEUTRA BOND−1」(カラム長:25m、カラム内径:0.25mm、液膜厚:0.4μm)を用いる。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧を100kPaとし、サンプルは1μl注入する。温度条件は、8℃/分の速度で初発温度100℃から200℃まで昇温し、さらに200〜290℃まで30℃/分の速度で昇温する。
【0039】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物でポリヒドロキシアルカノエート(A)の結晶化核剤としてペンタエリスリトール(B)が用いられる。
【0040】
[ペンタエリスリトール(B)]
ペンタエリスリトール(B)とは、下記式(2)
【0042】
で示される多価アルコール類の一種であり、融点260.5℃の白色結晶の有機化合物である。ペンタエリスリトール(B)は糖アルコールに分類されるが、天然物由来ではなく、アセトアルデヒドとホルムアルデヒドを塩基性環境下で縮合して合成することができる。
【0043】
本発明で用いられるペンタエリスリトール(B)は通常、一般に入手可能であるものであれば特に制限されず、試薬品あるいは工業品を使用し得る。試薬品としては、和光純薬工業株式会社、シグマ・アルドリッチ社、東京化成工業株式会社やメルク社などが挙げられ、工業品であれば、広栄化学工業株式会社品(商品名:ペンタリット)や東洋ケミカルズ株式会社品などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
一般に入手できる試薬や商品の中には不純物として、ペンタエリスリトールが脱水縮合して生成するジペンタエリスリトールやトリペンタエリスリトールなどのオリゴマーが含まれているものがある。上記オリゴマーはポリヒドロキシアルカノエート(A)の結晶化には効果を有しないが、ペンタエリスリトール(B)の結晶化効果を阻害しない。従い、オリゴマーが含まれていても構わない。
【0045】
本発明で用いられるペンタエリスリトール(B)の量は、ポリヒドロキシアルカノエート(A)の結晶化を促進できれば特に制限されない。しかし、ペンタエリスリトール(B)は、ポリヒドロキシアルカノエート(A)100重量部に対して、0.05重量部〜20重量部であることが好ましく、0.1重量部〜10重量部であることがより好ましく、0.3重量部〜5重量部であることが更に好ましい。ペンタエリスリトール(B)の量が少なすぎると、ペンタエリスリトール(B)の結晶核剤としての効果が得られず、ペンタエリスリトール(B)の量が多すぎると、溶融加工時の粘度が下がってしまい、加工し難くなる場合がある。
【0046】
[充填材(C)]
本発明において充填材(C)は、一般的に機械特性向上のために用いられるフィラーや生産性改良のために用いられる添加剤である。
【0047】
本発明で用いられる充填材(C)は、ペンタエリスリトールのブルームを抑制できる効果を得ることができれば特に限定されず、粉粒状、繊維状等の形状、また、無機もしくは有機充填材であるかについても特に限定されない。
【0048】
充填材(C)は、1種のみならず2種以上混合してもよく、ポリヒドロキシアルカノエート(A)の種類や目的の効果に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0049】
本発明に用いられる充填材(C)の量は、特に限定されないが、良好な外観性を維持しながら機械物性が向上する効果が得る事ができ、ブルームの抑制および表面平滑性や金型転写性を改善できる効果が得られやすい点でポリヒドロキシアルカノエート(A)100重量部に対して1〜100重量部であることが好ましく、10〜50重量部であることがより好ましい。充填材が1重量部未満ではブルームが抑制されない傾向があり、また、100重量部を超えると充填材を包含できる樹脂が不足して充填材が成形体表面から浮き上がるような外観になる可能性があり表面平滑性や金型転写性が悪化する傾向がある。
【0050】
充填材(C)は、ペンタエリスリトールのブルーム抑制効果や機械特性向上効果に加えて入手性(汎用性)や価格、加工性(フィード性)が得られやすいという観点から、無機充填材を用いることが好ましい。
【0051】
また、無機充填材は、有機充填材に対し、比表面積が大きく、サイズ分布が狭いものが比較的多い。この場合、物性のバラつきを抑えやすい、より表面平滑性や金型転写性を出しやすいという観点から、無機充填材を用いることが好ましい。
【0052】
無機充填材は、特に限定されないが、汎用性が高く、機械的強度向上効果が高く、また粒径分布が小さく表面平滑性や金型転写性を阻害しにくいため、珪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、燐酸塩、酸化物、水酸化物、窒化物、カーボンブラックから選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0053】
珪酸塩としては、タルク、マイカ、カオリナイト、セリサイト等の粘土鉱物、パイロフェライト、ワラストナイト、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0054】
炭酸塩としては、炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸第二鉄などが挙げられる。
【0055】
硫酸塩としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウムなどが挙げられる。
【0056】
燐酸塩としては、燐酸カルシウム、燐酸ジルコニウム、燐酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0057】
酸化物としては、二酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化鉄などが挙げられる。
【0058】
水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0059】
窒化物としては、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウムなどが挙げられる。
【0060】
無機充填材の中でも、特に入手性および効果の点でタルク、マイカ、カオリナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、窒化ホウ素、カーボンブラックが特に好ましい。
【0061】
また、無機充填材は、1種のみならず2種以上混合してもよく、ポリヒドロキシアルカノエート(A)の種類や目的の効果に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0062】
本発明に用いられる無機充填材の吸油量は、5〜250ml/100gであり、10〜200mlが好ましい。吸油量が5ml/100g未満ではペンタエリスリトールや可塑剤などがブリードし易くなる傾向があり、また、250ml/100gを超えると、耐衝撃性を上げる為に可塑剤が大量に必要となる傾向がある。
【0063】
前記吸油量の測定方法は、JIS−K5101に準拠して求められる。
【0064】
本発明に用いられる無機充填材の水分は、0.01〜10%であり、0.01〜5%が好ましく、0.01〜1%がより好ましい。水分が0.01%未満では無機充填材から水分を低下させるためのユーティリティー費が高くなる傾向があり、また、10%を超えると、ポリヒドロキシアルカノエート(A)の加水分解を促進することによって分子量を低下させる傾向がある。
【0065】
前記水分量の測定方法は、JIS−K5101に準拠して求められる。
【0066】
本発明に用いられる無機充填材の平均粒子径は、0.1〜100μmであり、0.1〜50μmが好ましい。平均粒子径が0.1μm未満ではハンドリング性が悪くなる傾向があり、また、100μmを超えると、耐衝撃性が低くなる傾向がある。
【0067】
前記平均粒子径の測定方法は、日機装社製「マイクロトラックMT3100II」などのレーザー回折・散乱式の装置を用いることで求められる。
【0068】
前記吸油量の測定方法は、JIS−K5101に準拠して求められる。
【0069】
なお、本発明に用いられる無機充填材は、結晶核剤としての機能も有しているため、ペンタエリスルトール(B)と共存させることによって、更に結晶化を促進させ、加工性を向上させることができる。
【0070】
本発明に用いられる無機充填材を以下、例示列挙する。
【0071】
無機充填材として、タルクを用いる場合は、汎用のタルク、表面処理タルクなどが挙げられ、具体的には、日本タルク社の「ミクロエース」(登録商標)、林化成社の「タルカンパウダー」(登録商標)、竹原化学工業社や丸尾カルシウム社などのタルクが例示される。
【0072】
マイカを用いる場合は、湿式粉砕マイカ、乾式粉砕マイカなどが挙げられ、具体的には、ヤマグチマイカ社や啓和炉材社などのマイカが例示される。
【0073】
カオリナイトを用いる場合は、乾式カオリン、焼成カオリン、湿式カオリンなどが挙げられ、具体的には、林化成社「TRANSLINK」(登録商標)、「ASP」(登録商標)、「SANTINTONE」(登録商標)、「ULTREX」(登録商標)や啓和炉材社などのカオリナイトが例示される。
【0074】
炭酸カルシウムを用いる場合は、重質炭酸カルシウム、軟質炭酸カルシウムなどが挙げられ、具体的には、竹原化学工業社の「サンライト」(登録商標)、「ホワイトシール」(登録商標)や丸尾カルシウム社や白石カルシウム社などの炭酸カルシウムが例示される。
【0075】
硫酸バリウムを用いる場合は、沈降性硫酸バリウム、粉砕硫酸バリウムなどが挙げられ、具体的には、竹原化学工業社や堺化学工業社などの硫酸バリウムが例示される。
【0076】
酸化チタンを用いる場合は、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタンなどが挙げられ、具体的には、石原産業社や堺化学工業社や富士チタン工業社などの酸化チタンが例示される。
【0077】
窒化ホウ素を用いる場合は、六方晶型窒化ホウ素、立方晶型窒化ホウ素などが挙げられ、具体的には、昭和電工社の「SHOBN」(登録商標)や電気化学工業社やESK Ceramics社やMOMENTIVE社などの窒化ホウ素が例示される。
【0078】
カーボンブラックを用いる場合は、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどが挙げられ、具体的には、旭カーボン社や三菱カーボンブラック社や東海カーボン社や新日化カーボン社やキャボットジャパン社などのカーボンブラックが例示される。
【0079】
充填材(C)は、ペンタエリスリトールのブルーム抑制効果、機械特性向上効果や、入手性が得られやすく、低価格であることに加えて、イオン性基を遊離してポリエステル樹脂を加水分解させ難いという観点から、有機充填材を用いることが好ましい。
【0080】
また、有機充填材は、無機充填材に対し、比較的比重が小さいものやアスペクト比が高いものが多い。この場合、より機械特性向上効果があるという観点から、有機充填材を用いることがより好ましい。
【0081】
有機充填材は、1種のみならず2種以上混合してもよく、ポリヒドロキシアルカノエート(A)の種類や目的の効果に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0082】
有機充填材に用いられる材料としては、例えば(a)木屑、木粉、オガ屑などの木質系材料、米殻、米粉、澱粉、コーンスターチ、稲わら、麦わら、天然ゴム等の天然由来の材料と、(b)有機物からなる天然繊維や合成繊維等の有機繊維、(c)ポリエステル、ポリアクリル、ポリアミド、ナイロン、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアセタール、アラミド、PBO(ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)、ポリフェニレンスルフィド、アセチルセルロース、ポリベンザゾール、ポリアリレート、ポリビニルアセテート、合成ゴム等の合成樹脂の材料が挙げられる。
【0083】
有機充填材の中でもポリヒドロキシアルカノエートとの相溶性の観点から、天然由来の材料や有機繊維、ポリアクリル、ポリ塩化ビニルから選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。さらにそれらの中でもコストを改善する目的や入手性の観点から木質系材料や有機繊維から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、生分解性の点で、木質系材料や天然繊維より選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0084】
有機繊維としては、天然繊維、合成繊維いずれも使用することができる。
【0085】
天然繊維としては植物性天然繊維及び動物性天然繊維のいずれも使用することができる。植物性天然繊維としては、例えばケナフ繊維、アバカ繊維、竹繊維、ジュート繊維、麻繊維、リネン繊維、ヘネケン(サイザル麻)、ラミー繊維、ヘンプ、綿、バナナ繊維、ココナッツ繊維、ヤシ、パーム、コウゾ、ミツマタ、バガス等が挙げられる。また、植物繊維から加工されたパルプやセルロース繊維(セルロースファイバー)、レーヨン等の再生繊維も挙げられる。動物性天然繊維としては、羊毛、絹、カシミア、モヘヤ等が挙げられる。
【0086】
一方で合成繊維としてはポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリアクリル、ポリアリレート繊維、フッ素繊維、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリウレタン、アセチルセルロース、ポリベンザゾール、PBO(ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維などが例示できる。
【0087】
前記有機繊維の中でも特に、ポリヒドロキシアルカノエートとの複合物において高いバイオマス度を有する目的で、また環境性能を阻害しない目的で天然繊維を用いることが好ましく、更に、栽培に要するコストが安価であるため植物性の天然繊維を用いることがより好ましい。
【0088】
これらの繊維のうちの1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
この繊維の繊度は特に限定されず、用途等によって適宜の繊度の繊維を用いることが好ましい。
【0090】
本発明に用いられる有機充填材の平均粒子径(円相当径)は、ペンタエリスリトールのブルーム抑制に加えてコスト改良を主目的とする場合は所望の機械的特性や成形体の表面平滑性や金型転写性を悪化させない程度に大きいもの、例えば数ミクロンから数ミリメートルが好ましく、特に、機械的特性、特に耐衝撃性を向上させるために可塑剤と併用して充填材を添加する場合は、0.1〜150μmであり、0.1〜50μmが好ましい。平均粒子径が0.1μm未満ではハンドリング性が悪くなる傾向があり、また、150μmを超えると、耐衝撃性が低くなる傾向がある。
【0091】
充填材のサイズの測定方法は、例えば、日機装社製「マイクロトラックMT3100II」などのレーザー回折・散乱式の装置を用いたり、特に繊維のような場合は得られたペレットまたは成形品を溶剤(例えばクロロホルム)にて溶解させた後、濾過・洗浄を行い、その残渣を光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡にて観察し、100本の長さを測定した結果から計算して求める事ができる。
【0092】
本発明に用いられる有機充填材の水分は、0.01〜10%であり、0.01〜5%が好ましく、0.01〜2%がより好ましい。水分が0.01%未満では、水分を低下させるためのユーティリティー費が高くなる傾向があり、また、10%を超えると、ポリヒドロキシアルカノエート(A)の加水分解を促進することによって分子量を低下させたり、充填材の分散不良や発泡により成形体にボイド等の欠点が形成される傾向にある。
【0093】
前記水分量の測定方法は、JIS−K5101に準拠して求められる。
【0094】
なお、本発明に用いられる有機充填材は、結晶核剤としての機能も有しているため、ペンタエリスルトール(B)と共存させることによって、更に結晶化を促進させ、加工性を向上させることができる。
【0095】
本発明に用いられる有機充填材を以下、例示列挙する。
【0096】
セルロースファイバーを用いる場合は、CreaFill Fibers Corp.製の「TC150」、Celite社製Fibra-Cel SWシリーズ、BHシリーズ、CBRシリーズ、Terracel TM社製やAmerican Wood Fibers社製のセルロースファイバーが例示される。
【0097】
木粉を用いる場合は、日東粉化商事株式会社製の木粉や渡辺ケミカル社製セルロシンが例示される。
【0098】
[可塑剤(D)]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカノエート(A)、ペンタエリスリトール(B)および充填材(C)の他に、可塑剤(D)をさらに含有することが好ましい。可塑剤(D)を含有することにより、機械特性、特に耐衝撃性が向上するためである。
【0099】
本発明で用いられる可塑剤(D)としては、充填材(C)と共に用いた場合に、機械物性、特に耐衝撃性向上の効果を得る事ができれば特に限定されないが、エステル結合を有する化合物が好ましい。可塑剤(D)として、具体的には、変性グリセリン系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、イソソルバイドエステル系化合物、およびポリカプロラクトン系化合物などを用いることができる。
【0100】
可塑剤(D)としては、コスト、汎用性に優れているのに加え、バイオマス度が高い点から、変性グリセリン系化合物が好ましい。
【0101】
変性グリセリン系化合物としては、グリセリンエステル系化合物が好ましい。グリセリンエステル系化合物としては、グリセリンのモノエステル、ジエステル、又はトリエステルのいずれも使用することができるが、機械物性の向上の点から、グリセリンのトリエステルが好ましい。グリセリンのトリエステルのなかでも、グリセリンジアセトモノエステルが特に好ましい。グリセリンジアセトモノエステルの具体例としては、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノオレート、グリセリンジアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエート、グリセリントリアセテート、グリセリントリカプリレート、グリセリンモノカプリルモノカプリンモノラウレート等を挙げることができる。
【0102】
さらに、PHAとの相溶性の観点からグリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノオレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエート、グリセリントリアセテートが好ましい。
【0103】
可塑剤(D)としては、樹脂成分への親和性に優れブリードしにくい点から、グリセリンジアセトモノエステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物などを好ましく用いることができる。アジピン酸エステル系化合物としては、ジエチルヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペートを、ポリエーテルエステル系化合物としては、ポリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジカプリレート、ポリエチレングリコールジイソステアレートを好ましく用いることができる。
【0104】
組成物全体のバイオマス度を高めることができる点から、エポキシ化大豆油、エポキシ化脂肪酸2−エチルヘキシル、セバシン酸系モノエステルなどのバイオマス由来成分を多く含むものも好ましく用いることができる。
【0105】
前記変性グリセリン系化合物としては、理研ビタミン社の「リケマール」(登録商標)、花王社の「ココナード」(登録商標)などが例示される。
【0106】
また、可塑剤(D)は、1種のみならず2種以上混合してもよく、ヒドロキシアルカノエート(A)の種類や目的の効果に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0107】
本発明における前記可塑剤(D)の配合量は、ヒドロキシアルカノエート(A)100重量部に対して1〜30重量部が好ましく、3〜20重量部がより好ましい。前記配合量が1量部未満では、耐衝撃性の改善効果が低い傾向があり、30重量部を超えると可塑剤によるブルームが発生し易くなる傾向がある。
【0108】
[脂肪族ポリエステル樹脂組成物]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、ペンタエリスリトール(B)を含んでいるため、ポリヒドロキシアルカノエート(A)単独、あるいは、ポリヒドロキシアルカノエート(A)とペンタエリスリトール(B)以外の糖アルコール化合物を含む樹脂組成物に比べて、加工時の樹脂組成物の結晶化が幅広い加工条件で安定して進行する点で優れているので以下に示すような利点がある。
【0109】
ポリヒドロキシアルカノエート(A)の中でも、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)や、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート(PHBV)などは、加熱溶融後に冷却して結晶化させる際、結晶化の進行は溶融時の樹脂温度の影響を受ける。すなわち、溶融時の樹脂温度が高いほど結晶化が進行し難くなる傾向がある。例えば、PHBHは、溶融時の樹脂温度が樹脂の融点から170℃程度の温度の場合では、溶融時の樹脂温度が高いほど冷却時の樹脂の結晶化は進み難くなる傾向がある。また溶融時の樹脂温度が180℃程度以上の温度の場合では、冷却時の結晶化が数時間に渡って進行する傾向が有る。したがって、良好に成形加工を行うためには、溶融時の樹脂温度を170℃〜180℃程度の温度範囲に制御しなければならないが、一般的な成形加工では溶融時の樹脂温度は均一でないため、上記の温度範囲で制御することは非常に困難である。
【0110】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の結晶化は、樹脂の溶融時の幅広い温度範囲に対して安定的に進行する。すなわち、溶融時の樹脂温度が樹脂の融点以上から190℃程度の温度範囲の場合であっても結晶化が安定的に早く進むため、本発明の樹脂組成物は、幅広い加工条件に対して優れた加工特性を有している。尚、溶融時の樹脂温度が200℃以上の温度で溶融加工する事は、熱劣化の観点で好ましくない。
【0111】
また、ポリヒドロキシアルカノエート(A)の結晶化の進行は冷却温度にも依存している。例えば、PHBHは、加熱溶融後の冷却温度が50℃〜70℃で最も結晶化が進行する傾向があり、冷却温度が50℃より低い、または70℃より高い場合は、結晶化が進行しにくくなる傾向がある。一般的な成形加工では金型温度が冷却温度に相関し、金型温度を上記温度範囲、50℃〜70℃の範囲で制御しなければならないが、金型温度を均一に制御するためには、金型の構造や形状を緻密に設計する必要が有り、非常に困難である。
【0112】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の結晶化は、溶融後の樹脂の幅広い冷却温度範囲に対して安定的に進行する。すなわち、加熱溶融後の冷却温度が20℃〜80℃の温度範囲の場合であっても結晶化が安定的に早く進むため、本発明の樹脂組成物は、幅広い加工条件に対して優れた加工特性を有している。
【0113】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、従来のポリヒドロキシアルカノエート樹脂、あるいは、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂とペンタエリスリトール(B)以外の糖アルコール化合物を含む樹脂組成物では得られなかった、上記のような利点を有するので、溶融時の樹脂温度や金型などの冷却温度を幅広く設定できる点で、優れた加工特性を有している。
【0114】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物には、結晶化が安定的に早く進行することによって、以下に記すような特性が発現される。
【0115】
例えば、PHBHは、成形時に十分に結晶化が進行しないため、成形後も徐々に結晶化が進行し球晶が成長するため、機械物性が経時変化し、成形品が徐々に脆化してしまう傾向があった。ところが、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、成形直後に多数の微結晶が生成するので、成形後には球晶が成長し難くなり、成形品の脆化も抑制されるため、製品の品質安定性の点で優れている。
【0116】
また、射出成形用の成形金型のキャビティ部のあわせ部(例えば、パーティングライン部、インサート部、スライドコア摺動部など)には、隙間があり、射出成形時に、その隙間に溶融した樹脂が入り込んでできる「バリ」が成形品に付着してしまう。ポリヒドロキシアルカノエート(A)は、結晶化の進行が遅く樹脂が流動性を有する時間が長いため、バリが起こり易く、成形品の後処理に多大な労力を要する。ところが、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物では結晶化が早いのでバリができ難く、成形品の後処理の労力を低減できるため、実用上好ましい。
【0117】
本発明にかかる脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカノエートの融点以上にまで加熱し混練できる装置であれば公知の溶融混練機により容易に製造できる。例えば、ポリヒドロキシアルカノエート(A)とペンタエリスリトール(B)、および充填材(C)と、さらに必要であれば他の成分とを押出機、ロールミル、バンバリーミキサーなどにより溶融混練してペレット状とし、成形に供する方法、並びにペンタエリスリトール(B)や充填材(C)の高濃度のマスターバッチを予め調製しておき、これをポリヒドロキシアルカノエート(A)に所望の割合で溶融混練して成形に供する方法、などが利用できる。
【0118】
ポリヒドロキシアルカノエート(A)とペンタエリスリトール(B)、および無機充填材(C)は混練機に同時に添加してもよいし、あるいは先にポリヒドロキシアルカノエートを溶融させた後に後からペンタエリスリトール(B)や充填材(C)を添加してもかまわない。
【0119】
得られる樹脂組成物あるいは成形体の特性を低下させない点で、充填材は、最後に添加することが好ましい。即ち、ポリヒドロキシアルカノエート(A)とペンタエリスリトール(B)を所望の割合で溶融混練した樹脂組成物に充填材(C)を添加することが好ましい。一般的にタルク、炭酸カルシウム等の無機充填材は、水分を含んでいたり、アルカリ性を示すため、高温下でポリヒドロキシアルカノエート(A)と共存させると、ポリヒドロキシアルカノエートの分解を促進させて、樹脂組成物の機械物性が低下したり、着色してしまう場合があることによるものである。
【0120】
また、木質系材料や有機繊維等の有機充填材は、溶融混練時の滞留時間が長いと炭化して焦げて黒色化する場合があることによるものである。
【0121】
具体的には、例えば、同方向噛合型二軸押出機で樹脂組成物を作製する場合、ポリヒドロキシアルカノエート(A)とペンタエリスリトール(B)はスクリュ根元から添加し、充填材(C)は前記押出機の下流からサイドフィードなどで添加することが好ましい。
【0122】
以上のようにして得られる、本発明にかかる脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、各種の加工をされて製品が製造される。加工方法としては、公知のものでよく、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形などが挙げられる。
【0123】
特に、本発明にかかる脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、耐衝撃性が高い樹脂組成物であるため、配向などによる機械物性の向上が得られにくい射出成形に好適に用いることができる。
【0124】
加工条件としては、ポリヒドロキシアルカノエートの熱劣化が起こるような温度、すなわち、樹脂温度が200℃を超えるような条件でなければ、特に限定はない。
【0125】
本発明にかかる脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、上記ポリヒドロキシアルカノエート(A)、ペンタエリスリトール(B)および充填材(C)の他に、可塑剤(D);酸化防止剤;紫外線吸収剤;染料、顔料などの着色剤;滑剤;または帯電防止剤などの他の成分を含有してもよい。これらの他の成分の添加量としては、前記ポリヒドロキシアルカノエート(A)、ペンタエリスリトール(B)、および充填材(C)の効果を損なわない程度であればよく、特に限定はない。
【0126】
[脂肪族ポリエステル樹脂成形体の製造方法]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなる脂肪族ポリエステル樹脂成形体の製造方法を以下に例示する。
【0127】
まず、ポリヒドロキシアルカノエート(A)、ペンタエリスリトール(B)、無機充填材(C)、さらには必要に応じて、他の成分を添加し、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールなどを用いて溶融混練して、脂肪族ポリエステル樹脂組成物を作製し、それをストランド状に押し出してからカットして、円柱状、楕円柱状、球状、立方体状、直方体状などの粒子形状の脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなるペレットを得る。
【0128】
前記において、ポリヒドロキシアルカノエート(A)とペンタエリスリトール(B)等を溶融混練する温度は、使用するポリヒドロキシアルカノエート(A)の融点、溶融粘度等によるため一概には規定できないが、溶融混練物のダイス出口での樹脂温度が140〜200℃であることが好ましく、150〜195℃であることがより好ましく、160〜190℃がさらに好ましい。溶融混練物の樹脂温度が140℃未満であると、ペンタエリスリトール(A)や無機充填材(C)等の添加物が分散不良となる場合があり、200℃を超えるとポリヒドロキシアルカノエート(A)が熱分解する場合がある。
【0129】
前記方法によって作製されたペレットを、40〜80℃で十分に乾燥させて水分を除去した後、公知の成形加工方法で成形加工でき、任意の成形体を得ることができる。成形加工方法としては、例えば、フィルム成形、シート成形、射出成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡、ビーズ発泡等が挙げられる。
【0130】
フィルム成形体の製造方法としては、例えば、Tダイ押出し成形、カレンダー成形、ロール成形、インフレーション成形が挙げられる。ただし、フィルム成形法はこれらに限定されるものではない。フィルム成形時の成形温度は140〜190℃が好ましい。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物から得られたフィルムは、加熱による熱成形、真空成形、プレス成形が可能である。
【0131】
射出成形体の製造方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を成形する場合に一般的に採用される射出成形法、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。また、その他目的に合わせて、上記の方法以外でもインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH−PULL、SCORIM等を採用することもできる。ただし、射出成形法はこれらに限定されるものではない。射出成形時の成形温度は140〜190℃が好ましく、金型温度は20〜80℃が好ましく、30〜70℃であることがより好ましい。
【0132】
本発明にかかる脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、加工性に優れ、且つ短時間で加工が行え、例えば、食器類、農業用資材、OA用部品、家電部品、自動車用部材、日用雑貨類、文房具類、各種ボトル成形品、押出シートや異型押出製品、などの基材として好適に使用され得る。
【実施例】
【0133】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術範囲を限定されるものではない。
【0134】
・ポリヒドロキシアルカノエートA1: 製造例1で得られたものを用いた。
【0135】
<製造例1>
培養生産にはKNK−005株(米国特許7384766号参照)を用いた。
【0136】
種母培地の組成は1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−Tryptone、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% Na
2HPO
4・12H
2O、0.15w/v% KH
2PO
4、(pH6.8)とした。
【0137】
前培養培地の組成は1.1w/v% Na
2HPO
4・12H
2O、0.19w/v% KH
2PO
4、1.29w/v% (NH
4)
2SO
4、0.1w/v% MgSO
4・7H
2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl
3・6H
2O、1w/v% CaCl
2・2H
2O、0.02w/v% CoCl
2・6H
2O、0.016w/v% CuSO
4・5H
2O、0.012w/v% NiCl
2・6H
2Oを溶かしたもの)、とした。炭素源はパーム油を10g/Lの濃度で一括添加した。
【0138】
PHA生産培地の組成は0.385w/v% Na
2HPO
4・12H
2O、0.067w/v% KH
2PO
4、0.291w/v% (NH
4)
2SO
4、0.1w/v% MgSO
4・7H
2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N 塩酸に1.6w/v% FeCl
3・6H
2O、1w/v% CaCl
2・2H
2O、0.02w/v% CoCl
2・6H
2O、0.016w/v% CuSO
4・5H
2O、0.012w/v% NiCl
2・6H
2Oを溶かしたもの)、0.05w/v% BIOSPUREX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。
【0139】
まず、KNK−005株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し種母培養を行なった。次に種母培養液を1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0140】
次に、前培養液を6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDS−1000型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度400rpm、通気量6.0L/minとし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源としてパーム油、を使用した。培養は64時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0141】
得られた乾燥菌体1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mlになるまで濃縮後、90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥し、PHAを得た。得られたPHAの3HH組成分析は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥PHA20mgに2mlの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、PHA分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中の脂肪族ポリエステル分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μlを注入した。温度条件は、初発温度100から200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200から290℃まで30℃/分の速度で昇温した。上記条件にて分析した結果、化学式(1)に示すようなPHA、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)であった。3−ヒドロキシブチレート(3HB)の組成比は、94.4モル%、3−ヒドロキシヘキサノエート(3HH)の組成比は、5.6モル%であった。
【0142】
培養後、培養液から国際公開第2010/067543号に記載の方法にてPHBHを得た。GPCで測定した重量平均分子量Mwは60万であった。
【0143】
・ポリヒドロキシアルカノエートA2:製造例2で得られたものを用いた。
【0144】
<製造例2>
KNK−631株および炭素源としてパーム核油を用いた以外は、製造例1と同様の方法でポリヒドロキシアルカノエート原料A2、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)を得た。重量平均分子量Mwは65万、3HBの組成比は、88.6モル%、3HHの組成比は、11.4モル%であった。
【0145】
・ポリヒドロキシアルカノエートA3: 製造例3で得られたものを用いた。
【0146】
<製造例3>
生産菌株としてC.necatorH16株(ATCC17699)を用い、国際公開第09/145164号に準拠して、Mw=85万のPHBを作製した。
【0147】
・ポリヒドロキシアルカノエートA4: Ecomann社製EM5400F(ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、3HBの組成比は、86モル%、4HBの組成比は、14モル%、Mw=105万)を用いた。
【0148】
その他、実施例および比較例で使用した物質を以下に示す。
【0149】
無機充填材C1〜8:以下の製品を用いた。
【0150】
C1:日本タルク社製ミクロエースK−1(平均粒子径=8μm、吸油量=35ml/100g、水分=0.2%のタルク)
C2:日本タルク社製ミクロエースMS−KY(平均粒子径=23μm、吸油量=21ml/100g、水分=0.1%のタルク)
C3:ヤマグチマイカ社製A−21S(平均粒子径=23μm、吸油量=65ml/100g、水分=0.5%のマイカ)
C4:ヤマグチマイカ社製A−41S(平均粒子径=47μm、吸油量=40ml/100g、水分=0.3%のマイカ)
C5:林化成社製TRANSLINK 77(平均粒子径=0.8μm、吸油量=85ml/100g、水分=0.5%のカオリン)
C6:丸尾カルシウム社製スーパー#2000(平均粒子径=2μm、吸油量=35ml/100g、水分=0.3%の炭酸カルシウム)
C7:竹原化学工業社製W−1(平均粒子径=1.5μm、吸油量=10ml/100g、水分=0.2%の硫酸バリウム)
C8:MOMENTIVE社製PolarTherm PT110(平均粒子径=45μmの窒化ホウ素)
【0151】
有機充填材C9、10:以下の製品を用いた。
【0152】
C9:CreaFill Fibers Corp.製TC150(厚み1〜2μm、幅20μm、長さ120μm、セルロースファイバー)
C10:日東粉化商事株式会社製木粉200メッシュ(140メッシュ通過量70.19%、100メッシュ通過量98.47%)
【0153】
可塑剤D1、D2:以下の製品を用いた。
【0154】
D1:理研ビタミン社製リケマールPL−012(グリセリンジアセトモノラウレート)
D2:ダイセル社製トリアセチン(グリセリントリアセテート)
【0155】
<実施例1>
(脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造)
ポリヒドロキシアルカノエートA1、ペンタエリスリトール(広栄化学工業社製ペンタリットT)、無機充填材C2を、表1に示した配合比率(以下、表中の配合比は、重量部を示す)で、同方向噛合型二軸押出機(東芝機械社製:TEM−26SS)を用いて、設定温度120〜160℃(出口樹脂温度171℃)、スクリュ回転数100rpmで溶融混練し、脂肪族ポリエステル樹脂組成物を得た。樹脂温度はダイスから出てくる溶融した樹脂を直接K型熱電対で測定した。当該脂肪族ポリエステル樹脂組成物をダイスからストランド状に引き取り、ペレット状にカットした。
【0156】
(射出成形)
得られた樹脂組成物を原料として、射出成形機(東芝機械社製:IS−75E)を用い、成形機のシリンダー設定温度は120〜150℃(出口樹脂温度168℃)、金型の設定温度は55℃で、ASTM D−256およびASTM D−648に準拠したバー状の試験片を成形した。
【0157】
(離型時間)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の加工性は射出成形時の離型時間で評価した。金型内に樹脂を射出した後、金型を開いて突き出しピンによって試験片を変形させることなく突き出し、金型から離型させることができるまでに要する時間を離型時間とした。離型時間が短いほど結晶化が早く、成形加工性が良好で改善されていることを示す。結果は表1に示した。
【0158】
(表面平滑性)
上記射出成形で得られた試験片の表面を目視で観察し、充填材の浮き上がり状態で表面平滑性を評価した。結果は表1に示した。
【0159】
○ :充填材の浮き上がり、盛り上がり、毛羽立ち、凹凸がなく、試験片の表面が平滑である。
【0160】
× :試験片の表面が充填材の浮き上がり、盛り上がり、毛羽立ち、凹凸が局所的にあるいは広い範囲にわたって認められる。
【0161】
(ブルームの評価)
上記射出成形で得られたバー状試験片を23℃、湿度50%雰囲気下にて1ヶ月保存した後、バー状試験片の表面を指で触った際に、べたつきが無かった場合を○、ベタつきが有った場合を×とした。結果は表1に示した。
【0162】
<実施例2〜12>
表1に示すような配合比で、実施例1と同様の方法で、脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、射出成形の離型時間、射出成形にて得られた試験片の表面平滑性、およびブルームの評価も行った。結果は表1に示した。
【0163】
<比較例1〜3>
表1に示すような配合比で、実施例1と同様の方法で、脂肪族ポリエステル樹脂組成物のバー状の試験片を成形し、射出成形の離型時間、射出成形にて得られた試験片の表面平滑性、およびブルームの評価も行った。結果は表1に示した。
【0164】
【表1】
【0165】
表1に示すように、比較例1と2ではペンタエリスリトールが入っていないので離型時間に60秒以上を要した。また、比較例3では成形品の離型時間は20秒と良好であったが、充填材が入っていないので成形品表面にブルームとなったペンタエリスリトールが確認された。それに対して、実施例1〜12では充填材とペンタエリスリトールを併用した結果、ブルームが抑制され、表面平滑性も良好なものであった。
【0166】
ペンタエリスリトールと充填材を併用することで、離型時間が早くなるだけでなく、充填材を混合しても表面に充填材が浮き上がるような問題もなく表面平滑性に優れ、充填材がペンタエリスリトールのブルームを抑制するという補完的な働きをすることがわかった。
【0167】
<実施例13>
(脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造)
ポリヒドロキシアルカノエートA1、ペンタエリスリトール(広栄化学工業社製ペンタリットT)、無機充填材C1、可塑剤D1を、表2に示した配合比率(以下、表中の配合比は、重量部を示す)で、同方向噛合型二軸押出機(東芝機械社製:TEM−26SS)を用いて、設定温度120〜160℃(出口樹脂温度171℃)、スクリュ回転数100rpmで溶融混練し、脂肪族ポリエステル樹脂組成物を得た。樹脂温度はダイスから出てくる溶融した樹脂を直接K型熱電対で測定した。当該脂肪族ポリエステル樹脂組成物をダイスからストランド状に引き取り、ペレット状にカットした。
【0168】
(離型時間)
実施例1と同様に、得られた樹脂組成物を原料に、射出成形機でバー状の試験片を成形し、加工性について射出成形時の離型時間で評価し、結果を表2に示した。
【0169】
(Izod衝撃強度)
射出成形で得られたバー状試験片を23℃、湿度50%雰囲気下にて1ヶ月保存した後、ASTM D−256に準拠して、23℃におけるIzod衝撃試験を行い、Izod衝撃強度を測定した。Izod衝撃強度は高いほど良好である。結果は表2に示した。
【0170】
(荷重たわみ温度(HDT))
射出成形で得られたバー状試験片を23℃、湿度50%雰囲気下にて1ヶ月保存した後、ASTM D−648のB法に準拠して、荷重たわみ温度測定を行い、荷重たわみ温度(以下、HDTと称する場合がある。)を測定した。荷重たわみ温度は高いほど良好であり、耐熱性を有する。結果は表2に示した。
【0171】
(ブルームの評価)
実施例1と同様に、ブルームの評価を行った。結果は表2に示した。
【0172】
<実施例14〜22>
表2に示すような配合比で、実施例13と同様の方法で、脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、射出成形の離型時間、射出成形にて得られた試験片のIzod衝撃強度および荷重たわみ温度(HDT)を測定し、ブルームの評価も行った。結果は表2に示した。
【0173】
<比較例4〜9>
表2に示すような配合比で、実施例13と同様の方法で脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、射出成形の離型時間、射出成形にて得られた試験片のIzod衝撃強度および荷重たわみ温度(HDT)を測定し、ブルームの評価も行った。結果は表2に示した。
【0174】
【表2】
【0175】
表2に示すように、比較例4〜7ではペンタエリスリトールが入っていないので離型時間に60秒以上を要した。また、比較例8では成形品の離型時間は20秒と良好であったが、無機充填材と可塑剤が入っていないのでIzod衝撃強度は27J/mと低い。比較例9では成形品の離型時間は25秒と良好であるが、無機充填材が入っていないのでIzod衝撃強度は36J/mと改善効果は低い。それに対して、実施例13〜22では無機充填剤と可塑剤とペンタエリスリトールを併用した結果、射出成形時の離型時間は25秒以下となっている。更に無機充填剤が入っていない比較例9よりもIzod衝撃強度は向上していた。またペンタエリスリトールが入っていない比較例7よりもHDTは高い。
【0176】
実施例13〜21と実施例22との比較により、ペンタエリスリトールと無機充填材と可塑剤を併用することで、離型時間が早くなるだけでなく、相乗作用により耐衝撃性が向上し、更には、可塑剤のブルームも発生しないことがわかった。
【0177】
<実施例23〜29><比較例10>
表3に示すような配合比で、実施例13と同様の方法で、脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、射出成形の離型時間、および射出成形にて得られた試験片のIzod衝撃強度を測定し、ブルームの評価も行った。結果は表3に示した。
【0178】
【表3】
【0179】
表3に示すように、比較例10では離型時間は短く、Izod衝撃強度も高いが可塑剤によるブルームが発生していた。それに対して、実施例23〜29ではペンタエリスリトールと無機充填材と可塑剤を併用した結果、射出成形時の離型時間は短く、かつ、Izod衝撃強度とHDTは高くなり、加工性および耐衝撃性と耐熱性の両方に優れ、更には、ブルームも発生しないことがわかった。
【0180】
<実施例30〜32>
表4に示すような配合比で、実施例1と同様の方法で、脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、射出成形の離型時間および得られた試験片のIzod衝撃強度とHDTを測定した。結果は表4に示した。
【0181】
【表4】
【0182】
実施例30〜32ではペンタエリスリトールと無機充填材と可塑剤を併用した結果、射出成形時の離型時間は短く、ブルームが発生せず、かつ、Izod衝撃強度とHDTは高くなり、加工性および耐衝撃性と耐熱性の両方に優れることがわかった。