【文献】
Biochemical and Biophysical Research Communications,2006年,Vol.349,p.1301-1307
【文献】
THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2004年,Vol.279, No.37,p.38838-38843
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Fc領域に1以上のN−結合型糖鎖が結合し、該N−結合型糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない、請求項1又は2に記載の抗ポドプラニン抗体又はその抗原結合フラグメント。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(抗ポドプラニン抗体)
本発明の抗ポドプラニン抗体とは、配列番号:1で表されるアミノ酸配列からなるポドプラニンタンパク質に、特異的に結合する抗体をいう。
【0017】
本明細書において「抗体」とは抗体は、一対のジスルフィド結合で安定化された2本の重鎖(H鎖)と2本の軽鎖(L鎖)が会合した構造をとる。重鎖は、重鎖可変領域VH、重鎖定常領域CH1、CH2、CH3、及びCH1とCH2の間に位置するヒンジ領域からなり、軽鎖は、軽鎖可変領域VLと軽鎖定常領域CLとからなる。この中で、VHとVLからなる可変領域断片(Fv)が、抗原結合に直接関与し、抗体に多様性を与える領域である。また、VL、CL、VH、CH1からなる抗原結合領域をFab領域と呼び、ヒンジ領域、CH2、CH3からなる領域をFc領域と呼ぶ。
可変領域のうち、直接抗原と接触する領域は特に変化が大きく、相補性決定領域(complementarity-determining region: CDR)と呼ばれる。CDR以外の比較的変異の少ない部分をフレームワーク(framework region: FR)と呼ぶ。軽鎖と重鎖の可変領域には、それぞれ3つのCDR(重鎖CDR1〜3、及び軽鎖CDR1〜3)が存在する。
【0018】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。また、本発明の抗ポドプラニン抗体は、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEのいずれのアイソタイプであってもよい。マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ニワトリなどの非ヒト動物を免疫して作製したものであってもよいし、組換え抗体であってもよく、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体等であってもよい。キメラ型抗体とは、異なる種に由来する抗体の断片が連結された抗体をいう。
「ヒト化抗体」とは、非ヒト由来の抗体に特徴的なアミノ酸配列で、ヒト抗体の対応する位置を置換した抗体を意味し、例えば、マウスを免疫して作製した抗体の重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3を有し、重鎖及び軽鎖のそれぞれ4つのフレームワーク領域(FR)を含むその他のすべての領域がヒト抗体に由来するもの等が挙げられる。かかる抗体は、CDR移植抗体と呼ばれる場合もある。用語「ヒト化抗体」は、ヒトキメラ抗体を含む場合もある。
【0019】
本明細書において、抗ポドプラニン抗体の「抗原結合フラグメント」とは、抗ポドプラニン抗体のフラグメントであって、ポドプラニンに結合するフラグメントをいう。具体的には、VL、VH、CL及びCH1領域からなるFab;2つのFabがヒンジ領域でジスルフィド結合によって連結されているF(ab')2;VL及びVHからなるFv;VL及びVHを人工のポリペプチドリンカーで連結した一本鎖抗体であるscFvのほか、diabody型、scDb型、tandem scFv型、ロイシンジッパー型などの二重特異性抗体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の一態様は、配列番号:1で表されるポドプラニンのアミノ酸配列における以下の領域のいずれかをエピトープとして認識する。
(i) 56位〜80位;
(ii) 81位〜103位;
(iii) 81位〜88位;及び
(iv) 25位〜57位。
【0021】
図2Cに示されるとおり、ポドプラニンの上記(i)、(ii)、(iv)の領域には、O型糖鎖が付加されている。したがって、これらの領域にエピトープを有する抗ポドプラニン抗体は、ペプチドと糖鎖の両方をエピトープに含んで認識する抗体であるといえる。
【0022】
ポドプラニンの上記(iii)の領域には糖鎖が付加されていないが、後述する実施例に示されるとおり、この領域にエピトープを有する抗体は、これまでに存在した抗体では認識されなかった分子量のポドプラニンを検出する。分子量の異なるポドプラニンを認識する抗ポドプラニン抗体は、糖鎖修飾などの翻訳後修飾により分子量や立体構造が変化したポドプラニンを認識していることが示唆される。
【0023】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。これらのCDRは、LpMab-2のCDR配列である。
重鎖CDR1:GYTFTSYTIH(配列番号:2)
重鎖CDR2:YINPGSGYTNYNEKFQD(配列番号:3)
重鎖CDR3:WDRGY(配列番号:4)
軽鎖CDR1:RSSQTIVHSNGNTYLE(配列番号:5)
軽鎖CDR2:KVSNRFS(配列番号:6)
軽鎖CDR3:FQGSHVPYT(配列番号:7)
【0024】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。これらのCDRは、LpMab-3のCDR配列である。
重鎖CDR1:GFTFTRYAMS(配列番号:8)
重鎖CDR2:TISNGGSYTYYLDSVKG(配列番号:9)
重鎖CDR3:REGGQAGPAWFVY(配列番号:10)
軽鎖CDR1:KSSQSLLNSSNQKNYLA(配列番号:11)
軽鎖CDR2:FASTRES(配列番号:12)
軽鎖CDR3:QQYYSTPPT(配列番号:13)
【0025】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。これらのCDRは、LpMab-7のCDR配列である。
重鎖CDR1:GFTFSGFGMH(配列番号:14)
重鎖CDR2:YISSVSSRIYYADTVKG(配列番号:15)
重鎖CDR3:EQTGPAWFAY(配列番号:16)
軽鎖CDR1:RSSRNIVQSTGNTYLE(配列番号:17)
軽鎖CDR2:KVSNRFS(配列番号:18)
軽鎖CDR3:FQGSHVPPWT(配列番号:19)
【0026】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。これらのCDRは、LpMab-9のCDR配列である。
重鎖CDR1:GYTFTKSGMQ(配列番号:20)
重鎖CDR2:WINTHSGVPKYAEDFKG(配列番号:21)
重鎖CDR3:WGGDGAMDY(配列番号:22)
軽鎖CDR1:KSSQSLLKSSSQKNYLA(配列番号:23)
軽鎖CDR2:FASTRES(配列番号:24)
軽鎖CDR3:QQHYSAPLS(配列番号:25)
【0027】
上記の抗ポドプラニン抗体の態様のそれぞれにおいて、本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、本発明の効果を奏する限り、6つのCDRのうちいくつを含むものであってもよいが、例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、又は6つ含むものとすることができる。
【0028】
上記の態様のそれぞれにおいて、重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3は、その少なくとも1つに、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含んでいてもよい。
【0029】
本明細書において「アミノ酸」は、その最も広い意味で用いられ、天然アミノ酸に加え、人工のアミノ酸変異体や誘導体を含む。アミノ酸は慣用的な一文字表記又は三文字表記で示される場合もある。本明細書においてアミノ酸又はその誘導体としては、天然タンパク質性L-アミノ酸;非天然アミノ酸;アミノ酸の特徴である当業界で公知の特性を有する化学的に合成された化合物などが挙げられる。非天然アミノ酸の例として、主鎖の構造が天然型と異なる、α,α-二置換アミノ酸(α-メチルアラニンなど)、N-アルキル-α-アミノ酸、D-アミノ酸、β-アミノ酸、α-ヒドロキシ酸や、側鎖の構造が天然型と異なるアミノ酸(ノルロイシン、ホモヒスチジンなど)、側鎖に余分のメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸、ホモフェニルアラニン、ホモヒスチジンなど)、及び側鎖中のカルボン酸官能基がスルホン酸基で置換されるアミノ酸(システイン酸など)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
本明細書において「1から数個のアミノ酸の付加、置換又は欠失を有する」という場合、欠失、置換等されるアミノ酸の個数は、結果として得られるポリペプチドがCDRとしての機能を保持する限り特に限定されないが、例えば、1個、2個、3個又は4個とすることができる。置換又は付加されるアミノ酸は、天然のタンパク質性アミノ酸に加えて、非天然のアミノ酸又はアミノ酸アナログであってもよい。アミノ酸の欠失、置換又は付加の位置は、CDRとしての機能が保持される限り、もとのCDR配列のどこであってもよい。
【0031】
上記の抗ポドプラニン抗体の態様のそれぞれにおいては、重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3の少なくとも1つが、もとの重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するものとなっていてもよい。
【0032】
本明細書において、「80%以上の同一性を有する」とは、それぞれ元の配列と変異した配列を有する二つのポリペプチドのアミノ酸配列の一致が最大になるようにアライメントしたときに、共通するアミノ酸残基の数が、元の配列のアミノ酸数の80%以上であることを意味する。
同一性は80%以上であって、CDRとしての機能を保持する限り何%であってもよく、例えば85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上とすることができる。
【0033】
重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列にアミノ酸を付加、置換、又は欠失させたアミノ酸配列からなるCDRや、重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するCDRは、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、チェーンシャフリング法、CDRウォーキング法などの公知の方法を用いて作製され得る。これらの方法によれば、ファージディスプレイ法によってCDRに種々の変異を有する抗体又は抗体断片をファージ表面に提示させ、抗原を使用してスクリーニングすることにより、より親和性が成熟したCDRを得られることが当業者によく知られている(例えば、Wu et al., PNAS, 95:6037-6042(1998); Schier, R. et al., J. Mol. Bio. 263:551-567(1996); Schier, R. et al., J. Mol. Biol. 255:28-43(1996); Yang, W.P. et al., J. Mol. Biol., 254:392-403(1995)。)。
【0034】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の別の一態様は、
配列番号:26又は63で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:26又は63で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:26又は63で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖
を含む。
配列番号:26で表されるアミノ酸配列は、LpMab-2の重鎖のアミノ酸配列であり、配列番号:63で表されるアミノ酸配列は、LpMab-2のキメラ型重鎖のアミノ酸配列である。
本明細書において、重鎖又は軽鎖のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失という場合、付加、置換、又は欠失するアミノ酸の数は、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個とすることができる。その他の用語は、上述したとおりである。
【0035】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の別の一態様は、
配列番号:27で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:27で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:27で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む。
配列番号:27で表されるアミノ酸配列は、LpMab-2の軽鎖のアミノ酸配列である。
【0036】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、配列番号:26若しくは63で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:26若しくは63で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:26若しくは63で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:27で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:27で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:27で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、
を含んでいてもよい。
【0037】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の別の一態様は、
配列番号:28又は65で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:28又は65で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:28又は65で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖
を含む。
配列番号:28で表されるアミノ酸配列は、LpMab-3の重鎖のアミノ酸配列であり、配列番号:65で表されるアミノ酸配列は、LpMab-3のキメラ型重鎖のアミノ酸配列である。
【0038】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の別の一態様は、
配列番号:29で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:29で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:29で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む。
配列番号:29で表されるアミノ酸配列は、LpMab-3の軽鎖のアミノ酸配列である。
【0039】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の別の一態様は、配列番号:28若しくは65で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:28若しくは65で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:28若しくは65で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:29で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:29で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:29で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、
を含んでいてもよい。
【0040】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の別の一態様は、
配列番号:30又は67で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:30又は67で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:30又は67で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖
を含む。
配列番号:30で表されるアミノ酸配列は、LpMab-7の重鎖のアミノ酸配列であり、配列番号:67で表されるアミノ酸配列は、LpMab-7のキメラ型重鎖のアミノ酸配列である。
【0041】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の別の一態様は、
配列番号:31で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:31で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:31で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む。
配列番号:31で表されるアミノ酸配列は、LpMab-7の軽鎖のアミノ酸配列である。
【0042】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の別の一態様は、配列番号:30若しくは67で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:30若しくは67で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:30若しくは67で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:31で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:31で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:31で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、
を含んでいてもよい。
【0043】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の別の一態様は、
配列番号:32又は69で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:32又は69で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:32又は69で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖
を含む。
配列番号:32で表されるアミノ酸配列は、LpMab-9の重鎖のアミノ酸配列であり、配列番号:69で表されるアミノ酸配列は、LpMab-9のキメラ型重鎖のアミノ酸配列である。
【0044】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の別の一態様は、
配列番号:33で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:33で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:33で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む。
配列番号:33で表されるアミノ酸配列は、LpMab-9の軽鎖のアミノ酸配列である。
【0045】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の別の一態様は、配列番号:32若しくは69で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:32若しくは69で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:32若しくは69で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:33で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:33で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:33で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、
を含んでいてもよい。
【0046】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、Fc領域に1以上のN-結合型糖鎖が結合し、該N-結合型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合していない抗体であってもよい。
例えばIgG抗体のFc領域には、N-結合型糖鎖の結合部位が2ヶ所存在し、この部位に複合型糖鎖が結合している。N-結合型糖鎖とは、Asn-X-Ser/Thr配列のAsnに結合する糖鎖をいい、共通した構造Man
3GlcNAc
2-Asnを有する。非還元末端の2つのマンノース(Man)に結合する糖鎖の種類により、高マンノース型、混成型、及び複合型等に分類される。
N-結合型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)にはフコースが結合しうるが、このフコースが結合していない場合、結合している場合に比較してADCC活性が著しく上昇することが知られている。このことは例えば、国際公開第2002/031140号パンフレットに記載されており、その開示は全体として参照により本明細書に組み込まれる。
ADCC活性が著しく向上することにより、抗体を医薬として用いる場合に投与量を少なくすることができるので、副作用を軽減させることが可能であると共に、治療費も低減させることができる。
【0047】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、抗がん活性を有する物質を結合させて用いてもよい。
本明細書において、「抗がん活性を有する物質」とは、腫瘍サイズの低下(遅延又は停止)、腫瘍の転移の阻害、腫瘍増殖の阻害(遅延又は停止)、及びがんと関連する一つ又は複数の症状の緩和、の少なくとも1つを生じさせる物質を意味する。具体的には、毒素、抗がん剤、ラジオアイソトープを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0048】
抗がん活性を有する毒素としては、例えば、緑膿菌外毒素(PE)又はその細胞障害性フラグメント(例えばPE38)、ジフテリア毒素、リシンA等が挙げられる。抗がん活性を有する毒素は、抗ポドプラニン抗体と共に毒素が取り込まれる細胞、即ちポドプラニンを発現しているがん細胞のみに毒性を発揮するので、周囲の細胞に悪影響を与えず、特異的に効果を得られるという利点がある。特に、本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、腫瘍細胞に発現する抗ポドプラニンに特異的に結合するので、有用である。
【0049】
抗がん剤としては、例えば、アドリアマイシン、ダウノマイシン、マイトマイシン、シスプラチン、ビンクリスチン、エピルビシン、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、アクラシノマイシン、ナイトロジェン・マスタード、サイクロフォスファミド、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、タモキシフェン、デキサメタゾン等の低分子化合物や、免疫担当細胞を活性化するサイトカイン(例えば、ヒトインターロイキン2、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、ヒトマクロファージコロニー刺激因子、ヒトインターロイキン12)等のタンパク質が挙げられる。
【0050】
抗がん活性を有するラジオアイソトープとしては、
32P、
14C、
125I、
3H、
131I、
211At、
90Y等が挙げられる。ラジオアイソトープは、抗ポドプラニン抗体が結合する細胞、即ちポドプラニンを発現している細胞の周囲の細胞にも毒性を発揮する。一般に、腫瘍細胞は均一ではなく、すべての腫瘍細胞がポドプラニンを発現しているわけではないので、周囲のポドプラニン陰性の腫瘍細胞を殺すためにラジオアイソトープは有用である。なお、ラジオアイソトープを結合させる場合、抗ポドプラニン抗体はFabやscFvなどの低分子抗体としてもよい。
【0051】
上記抗がん活性を有する物質は、公知の方法によって抗ポドプラニン抗体に直接結合させることができる。また、例えばリポソーム等の担体に封入して抗ポドプラニン抗体に結合させてもよい。
【0052】
上記抗がん活性を有する物質が蛋白質やポリペプチドの場合は、本発明の抗ポドプラニン抗体をコードする核酸(後述)と抗がん活性を有する物質をコードするDNAを連結し、適当な発現ベクターに挿入することにより、抗がん活性を有する物質と抗ポドプラニン抗体との融合タンパク質として発現させてもよい。
【0053】
(核酸)
本発明は、本発明に係る抗ポドプラニン抗体をコードする核酸も包含する。核酸は、天然の核酸であっても人工の核酸であってもよく、例えば、DNA、RNA、DNAとRNAのキメラが挙げられるがこれらに限定されない。抗ポドプラニン抗体をコードする核酸の塩基配列は、当業者が公知の方法又はそれに準ずる方法に従って決定することができ、公知の方法又はそれに準ずる方法で調製することができる。
本発明に係る抗ポドプラニン抗体をコードする核酸としては、例えば、配列番号34で表されるLpMab-2の重鎖をコードするDNA、配列番号35で表されるLpMab-2の軽鎖をコードするDNA、配列番号36で表されるLpMab-3の重鎖をコードするDNA、配列番号37で表されるLpMab-3の軽鎖をコードするDNA、配列番号38で表されるLpMab-7の重鎖をコードするDNA、配列番号38で表されるLpMab-7の軽鎖をコードするDNA、配列番号39で表されるLpMab-9の重鎖をコードするDNA、配列番号39で表されるLpMab-9の軽鎖をコードするDNAが挙げられるがこれらに限定されない。
LpMab-2、LpMab-3、LpMab-7、LpMab-9のCDRのそれぞれをコードする核酸は、これらの配列番号で示されるDNA配列に含まれている。
【0054】
(発現ベクター)
本発明は、本発明の本発明に係る抗ポドプラニン抗体をコードする核酸を含む発現ベクターも包含する。発現ベクターは、使用する宿主細胞にあわせて適宜選択することができ、例えば、プラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、カリフラワーモザイクウイルスベクターやタバコモザイクウイルスベクターなどの植物ウイルスベクター、コスミド、YAC、EBV由来エピソームなどが挙げられる。これらの発現ベクターには、公知の方法(制限酵素を利用する方法等)で、本発明の抗ポドプラニン抗体をコードする核酸を挿入することができる。
【0055】
本発明に係る発現ベクターは、さらに、抗体遺伝子の発現を調節するプロモーター、複製起点、選択マーカー遺伝子等を含むことができる。プロモーター及び複製起点は、宿主細胞とベクターの種類によって適宜選択することができる。
【0056】
(形質転換体)
本発明は、本発明のベクターを含む形質転換体を包含する。形質転換体は、本発明のベクターを適切な宿主細胞にトランスフェクトすることによって得ることができる。宿主細胞としては、例えば、哺乳類細胞(CHO細胞、COS細胞、ミエローマ細胞、HeLa細胞、Vero細胞等)、昆虫細胞、植物細胞、真菌細胞(サッカロミセス属、アスペルギルス属等)といった真核細胞や、大腸菌(E.Coli)、枯草菌などの原核細胞を用いることができる。
【0057】
(抗体の製造方法)
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の製造方法は限定されないが、例えば、抗ポドプラニンモノクローナル抗体は、ポドプラニン又はその断片で免疫した非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を単離し、これを骨髄腫細胞等と融合させてハイブリドーマを作製し、このハイブリドーマが産生した抗体を精製することによって得ることができる。また、抗ポドプラニンポリクローナル抗体は、ポドプラニン又はその断片で免疫した動物の血清から得ることができる。また、本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、非ヒト動物を免疫する際、糖鎖を付加したポドプラニンを用いてもよい。
【0058】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体を遺伝子組換え法で作製する場合、例えば、本発明に係る核酸を含む発現ベクターで適当な宿主を形質転換し、この形質転換体を適当な条件で培養して抗体を発現させ、公知の方法に従って単離精製すればよい。
単離精製方法としては、例えば、プロテインA等を用いたアフィニティカラム、その他のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析が挙げられ、これらを適宜組み合わせることができる。
【0059】
所定のエピトープの配列に結合する抗体は、当業者が公知の方法又はそれに準ずる方法で作製することができる。例えば、エピトープ配列を含むペプチドを固相担体に固定し、当該ペプチドと複数の抗体の結合を検出することにより、同エピトープに特異的に結合する抗体を得ることができる。
ここで、「複数の抗体」としては、動物を抗原タンパク質又はその部分ペプチドで免疫することによって得たものを用いてもよいし、ファージディスプレイ法によって作製した抗体ライブラリ又は抗体フラグメントライブラリを用いてもよい。ファージディスプレイ法によるライブラリを用いる場合、エピトープ配列を含むペプチドを固相担体に固定しパニングを繰り返すことによって、同エピトープに特異的に結合する抗体を得ることもできる。
【0060】
ヒトキメラ抗体及びヒトCDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体を産生するハイブリドーマのmRNAから抗体遺伝子をクローン化し、これをヒト抗体遺伝子の一部と遺伝子組換え技術で連結することによって作製することができる。
例えば、ヒト型キメラ抗体の場合、マウス抗体を産生するハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素によりcDNAを合成し、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(LH)をPCRでクローニングして配列を解析する。次に、一致率の高い抗体塩基配列から、リーダー配列を含む5'プライマーを作製し、5'プライマーと可変部3'プライマーによって上記cDNAから、シグナル配列から可変領域の3'末端までをPCRでクローニングする。一方で、ヒトIgG1の重鎖及び軽鎖の定常領域をクローニングし、重鎖と軽鎖それぞれについて、マウス抗体由来可変領域と、ヒト抗体由来定常領域とをPCRによるOverlapping Hanging法で連結し、増幅する。得られたDNAを適当なベクターに挿入し、これを形質転換して、ヒト型キメラ抗体を得ることができる。
【0061】
CDR移植抗体の場合、使用するマウス抗体可変部と最も相同性の高いヒト抗体可変部を選択してクローン化し、メガプライマー法を用いた部位選択的突然変異導入により、CDRの塩基配列を改変する。フレームワーク領域を構成するアミノ酸配列をヒト化すると抗原との特異的な結合ができなくなる場合には、フレームワークの一部のアミノ酸をヒト型からラット型に変換してもよい。
元の配列において、1又は2個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列からなるCDRや、元の配列にX%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるCDRは、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、チェーンシャフリング法、CDRウォーキング法などの公知の方法を用いて作製され得る。
これらの方法により、ファージディスプレイ法によってCDRに種々の変異を有する抗体又は抗体断片をファージ表面に提示させ、抗原を使用してスクリーニングすることにより、より親和性が成熟したCDRを得られることが当業者によく知られている(例えば、Wu et al., PNAS, 95:6037-6042(1998); Schier, R. et al., J. Mol. Bio. 263:551-567(1996); Schier, R. et al., J. Mol. Biol. 255:28-43(1996); Yang, W.P. et al., J. Mol. Biol., 254:392-403(1995)。)。本発明は、このような方法で成熟させたCDRを含む抗体も包含する。
【0062】
その他の抗体の製造方法として、トリコスタチンA処理ニワトリB細胞由来DT40細胞株から抗体産生株を取得するAdlib法(Seo, H. et al., Nat. Biotechnol., 6:731-736, 2002)、マウス抗体遺伝子が破壊されヒト抗体遺伝子が導入されたマウスであるKMマウスを免疫してヒト抗体を作製する方法(Itoh, K. et al., Jpn. J. Cancer Res., 92:1313-1321, 2001;Koide, A. et al., J. Mol. Biol., 284:1141-1151, 1998)等があり、これらも本発明に係る抗体の産生に応用することができる。
【0063】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の抗原結合フラグメントは、当該フラグメントをコードするDNAを用いて上述の方法で発現させてもよいし、また、全長の抗体を得てからパパイン、ペプシン等の酵素で処理して断片化してもよい。
【0064】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、作製方法や精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、形態などが異なり得る。しかしながら、得られた抗体が、本発明の抗体と同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。例えば、本発明の抗体を、大腸菌等の原核細胞で発現させた場合、本来の抗体のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。本発明は、かかる抗体も包含する。
【0065】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体が、還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合していないN-結合型糖鎖を有する抗体である場合、かかる抗体は公知の方法又はそれに準ずる方法に従って製造することができる。かかる抗体の製造方法は、例えば、国際公開第2002/031140号パンフレット、特開2009-225781号公報に記載されており、その開示は全体として参照により本明細書に組み込まれる。
具体的には、例えば、本発明に係る抗ポドプラニン抗体をコードするDNAを含むベクターを用いて、GDP-フコースの合成に関与する酵素の活性、又はα-1,6-フコシルトランスフェラーゼの活性が低下又は欠失した細胞を形質転換し、得られた形質転換体を培養した後、目的とする抗ポドプラニン抗体を精製することによって得ることができる。
GDP-フコースの合成に関与する酵素としては、例えば、GDP-mannose 4,6-dehydratase(GMP)、GDP-keto-6-deoxymannose 3,5-epimerase,4-reductase(Fx)、GDP-beta-L-fucose pyrophosphorylase(GFPP)が挙げられる。
ここで、細胞は特に限定されないが、哺乳動物細胞が好ましく、例えば上記酵素活性を低下又は欠失されたCHO細胞を用いることができる。
上記方法によって得られる抗体組成物は、還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合している抗体を含む場合もあるが、フコースが結合している抗体の割合は、抗体全体の20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、最も好ましくは3重量%以下である。
【0066】
また、還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合していないN-結合型糖鎖を有する抗体は、本発明に係る抗ポドプラニン抗体をコードするDNAを含むベクターを昆虫卵に導入し、孵化させて昆虫を成長させ、必要に応じて交配を行ってトランスジェニック昆虫を作製し、当該トランスジェニック昆虫又はその分泌物から抗ポドプラニン抗体を抽出することによっても得ることができる。昆虫としてはカイコを用いることができ、その場合、繭から抗体を抽出することができる。
この方法によって得られる抗体組成物も、還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合している抗体を含む場合もあるが、フコースが結合している抗体の割合は、抗体全体の20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、最も好ましくは3重量%以下である。
【0067】
(本発明の抗体の活性)
抗体医薬の薬効メカニズムは、抗体が有する2つの生物活性に基づいている。1つは標的抗原特異的な結合活性であり、結合することによって標的抗原分子の機能を中和する活性である。標的抗原分子の機能の中和はFab領域を介して発揮される。
【0068】
もう1つは、エフェクター活性と呼ばれる抗体の生物活性である。エフェクター活性は、抗体のFc領域を介して、抗体依存性細胞障害活性(antibody-dependent cellular cytotoxicity;ADCC)、補体依存性細胞障害活性(complement-dependent cytotoxicity;CDC)、アポトーシスの直接誘導等の態様で発揮される。
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の活性は、以下の方法で測定することができる。
【0069】
(1)結合活性
抗体の結合活性は公知の方法、例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)、蛍光抗体法、FACS法等で、測定することができる。
【0070】
(2)ADCC活性
ADCC活性とは、標的細胞の細胞表面抗原に本発明の抗体が結合した際、そのFc部分にFcγ受容体保有細胞(エフェクター細胞)がFcγ受容体を介して結合し、標的細胞に障害を与える活性を意味する。
ADCC活性は、ポドプラニンを発現している標的細胞とエフェクター細胞と本発明の抗体を混合し、ADCCの程度を測定することによって知ることができる。エフェクター細胞としては、例えば、マウス脾細胞、ヒト末梢血や骨髄から分離した単球核を利用することができる。標的細胞としては、例えばポドプラニン陽性中皮腫細胞やポドプラニン陽性膠芽腫細胞を用いることができる。標的細胞をあらかじめ
51Cr等で標識し、これに本発明の抗体を加えてインキュベーションし、その後標的細胞に対して適切な比のエフェクター細胞を加えてインキュベーションを行う。インキュベーション後、上清を採取し、上清中の上記標識をカウントすることにより、測定することが可能である。
【0071】
(3)CDC活性
CDC活性とは、補体系による細胞障害活性を意味する。
CDC活性は、ADCC活性の試験において、エフェクター細胞に代えて補体を用いることにより測定することができる。
【0072】
(4)腫瘍増殖抑制活性
腫瘍増殖抑制活性は、腫瘍モデル動物を利用して測定することができる。例えば、マウスの皮下に腫瘍を移植し、本発明の抗体を投与する。非投与群と投与群における腫瘍組織の体積を比較することにより、腫瘍増殖抑制効果を測定することができる。
なお、本発明の腫瘍増殖抑制活性は、個々の細胞の増殖を抑制する結果生じるものであっても、細胞死を誘導する結果生じるものであってもよい。
【0073】
(医薬組成物)
本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、ポドプラニン抗体を発現する腫瘍の予防又は治療に用いてもよい。本発明の医薬組成物の一態様は、本発明に係る抗ポドプラニン抗体又はその抗原結合フラグメントを有効成分として含み、さらに薬学的に許容できる担体や添加物を含む。
【0074】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、腫瘍細胞を標的とする薬物の送達に用いてもよい。本発明の医薬組成物の別の一態様は、上述した抗がん活性を有する物質を結合させた抗ポドプラニン抗体又はその抗原結合フラグメントを有効成分として含み、さらに薬学的に許容できる担体や添加物を含む。
【0075】
担体及び添加物の例としては、水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等薬学的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、界面活性剤等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0076】
本発明の医薬組成物は、様々な形態、例えば、液剤(例えば注射剤)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤などとすることができる。好ましい態様は、注射剤であり、非経口(例えば、静脈内、経皮、腹腔内、筋内)で投与することが好ましい。
【0077】
本発明の医薬組成物は、ポドプラニンが関連する疾患、例えば、腫瘍、血栓症、動脈硬化症等の治療に有効である。
ポドプラニンはCLEC-2に結合することにより血小板凝集を起こすことが示唆されている。また、ポドプラニンの血小板上受容体であるCLEC-2が血栓症/動脈硬化症に関連すること、具体的には、CLEC-2欠損血小板はin vitro及びin vivoのいずれにおいても凝集能に劣ること、及び、CLEC-2欠損は出血時間を延長させ、閉塞性動脈血栓形成を防ぐことが報告されている(May, F. et al., Blood. 2009;114(16):3464-72.)。
さらに、動脈硬化病変においてポドプラニンが高発現していることも報告されている(特許文献1)。以上の事実から、本発明の医薬組成物が血栓症や動脈硬化症の治療に有効であることが強く示唆される。
一方、ポドプラニンが関連する腫瘍としては、脳腫瘍、中皮腫、精巣腫瘍、卵巣がん、及び扁平上皮がん等が挙げられる。ここで、扁平上皮がんには、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肺がん、皮膚がん、子宮頸がんが含まれるがこれらに限定されない。
【0078】
本発明は、本発明の抗体を治療有効量投与することを含むポドプラニンが関連する疾患の治療方法も包含する。
本明細書において、治療有効量とは、治療する疾患の一つ又は複数の症状が、それによりある程度緩和される作用物質の量を意味する。抗がん剤の場合、腫瘍サイズの低下;腫瘍の転移の阻害(遅延又は停止);腫瘍増殖の阻害(遅延又は停止)、及びがんと関連する一つ又は複数の症状の緩和、の少なくとも1つを示す量を意味する。
具体的には、本発明の抗体の投与量は、例えば、0.025〜50mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kgであり、より好ましくは0.1〜25mg/kg、さらに好ましくは0.1〜10mg/kg又は0.1〜3mg/kgとすることができるが、これに限定されない。
【0079】
(マーカー、診断薬)
上述のとおり、ポドプラニンは特定の腫瘍細胞において高発現している。従って、本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、がん、特に脳腫瘍、中皮腫、精巣腫瘍、卵巣がん、及び各種扁平上皮がん(口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肺がん、皮膚がん、子宮頸がん)などポドプラニンが高発現するがんの診断に有用である。本発明に係る抗ポドプラニン抗体が腫瘍細胞特異的に結合するので、診断に特に有用である。
また、動脈硬化病変においてポドプラニンが高発現していることが確認されおり、本発明の抗ポドプラニン抗体は、動脈硬化の診断にも有用である。
動脈硬化病変については、早期病変のうちマクロファージ浸出性の病変においてポドプラニンの高発現が観察された。マクロファージ浸出性病変は進行病変になりやすいことが知られていることから、ポドプラニンを検出することによる診断方法によって、進行病変になりやすい動脈硬化の早期発見が期待される。
以上より、本発明は、本発明の抗体を含むがん又は動脈硬化の診断薬、がん又は動脈硬化の診断のための抗体の使用、本発明の抗体を用いるがん又は動脈硬化の診断方法をも包含する。
【0080】
本明細書において引用されるすべての特許文献及び非特許文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
【0081】
〔実施例〕
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
【0082】
1.抗ポドプラニン抗体の作製
ヒトポドプラニン全長を強制発現させたがん細胞株を、Balb/cマウスに4回(一週間に一回)免疫し、ELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)法により、がん細胞株から精製したリコンビナントタンパク質に反応する抗体をスクリーニングした。
ELISAの方法は以下の通りである。1μg/mlでリコンビナントタンパク質を96 well plate(Nunc MaxiSorp; サーモフィッシャー社)に30分、37度で固相化し、SuperBlock/PBST(サーモフィッシャー社)を用いて、30分、37度でブロッキングを行った。同様に、培養上清、anti-mouse IgG-HRP (ダコ社)を30分、37度の条件で順次反応させ、TMB-Ultra (サーモフィッシャー社)で発色させた。マイクロプレートリーダー(バイオラッド社)を用いて、吸光度の測定(OD655nm)を行った。
2次スクリーニングのウェスタンブロット法で、ポドプラニンに反応性を示す抗体が4種類(LpMab-2, LpMab-3, LpMab-7, LpMab-9)樹立できた。
サブクラスを同定したところ、LpMab-2(mouse IgG1, kappa), LpMab-3(mouse IgG1, kappa), LpMab-7(mouse IgG1, kappa), LpMab-9(mouse IgG1, kappa)となった。
【0083】
2.ウェスタンブロット解析
7種類の細胞株(CHO/hPDPN、Lec1/hPDPN、Lec2/hPDPN、Lec8/hPDPN、CHO、LN229/hPDPN、LN229)のCell lysateを調整し、10μg/laneでSDS-PAGE電気泳動を行った。PVDFメンブレンに転写し、4% スキムミルク/0.05% Tween in PBS(ブロッキングバッファー)を用いて、室温で1時間ブロッキングを行った。5種類の抗ポドプラニン抗体(NZ-1(rat IgG2a, kappa)、LpMab-2(mouse IgG1, kappa)、LpMab-3(mouse IgG1, kappa)、LpMab-7(mouse IgG1, kappa)、LpMab-9(mouse IgG1, kappa))を1μg/mlの濃度でブロッキングバッファーで希釈し、室温で1時間反応させた。二次抗体(anti-rat IgG-HRPおよびanti-mouse IgG-HRP: ダコ社, 1:1000 dilution)を室温で30分反応させ、ECL-plus(サーモフィッシャー社)を用いて発色した。検出は、Sayaca-imager(DRC社)を用いた。
【0084】
結果を
図1に示す。これまでの抗ポドプラニン抗体(NZ-1)では、2本のバンド(上のバンド(40kDa)が糖鎖付加、下のバンド(25kDa)が糖鎖付加なし)が検出されていた。今回新たに樹立した抗体では、違う検出パターンを示した。
LpMab-2では、40kDaのバンドのみ検出され、糖鎖不全株(Lec2, Lec8)に発現させたポドプラニンを認識しないことから、シアル酸やO-型糖鎖などの糖鎖がエピトープに含まれることが示唆された。
LpMab-3では、40kDaのバンドの他、これまでNZ-1抗体やその他の市販の抗体で全く検出されなかった30kDaのバンドを認識した。糖鎖不全株(Lec2)に発現させたポドプラニンを認識しないことから、シアル酸がエピトープに含まれることが示唆された。
LpMab-7では、40kDa, 30kDa, 25kDaの3本のバンドが検出された。NZ-1抗体には認識されなかった30kDaのバンドを検出することから、NZ-1抗体が認識できない立体構造を持つ、多様なポドプラニン分子を認識できる抗体であることが示唆された。
LpMab-9では、40kDaのバンドのみ検出され、糖鎖不全株(Lec2, Lec8)に発現させたポドプラニンを認識しないことから、シアル酸やO-型糖鎖などの糖鎖がエピトープに含まれることが示唆された。
【0085】
3.抗体のエピトープ解析
各抗体のエピトープをELISA法により行った。ELISAの方法は以下の通りである。1 μg/mlで各種ヒトポドプラニン-Fcキメラのリコンビナントタンパク質(25-57,25-80, 25-103, 25-128, 55-128 )を96 well plate(Nunc MaxiSorp; サーモフィッシャー社)に30分、37度で固相化した。SuperBlock/PBST(サーモフィッシャー社)を用いて、30分、37度でブロッキングを行った。1μg/mlの1次抗体(LpMab-2, LpMab-3, LpMab-7, LpMab-9)、anti-mouse IgG-HRP(ダコ社;1/1000希釈)を30分、37度の条件で順次反応させ、TMB-Ultra(サーモフィッシャー社)で発色させた。2M 硫酸で反応をストップさせたあと、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社)を用いて、吸光度の測定(OD450nm)を行った。
【0086】
結果を
図2に示す。市販の抗ポドプラニン抗体(NZ-1, D2-40, 18H5など)は、血小板凝集領域のPLAG domain(配列番号:1の25位〜57位)に対する抗体である(先行文献:Ogasawara et al., Hybridoma 2008)。
それに対し、LpMab-2は配列番号:1の56位〜80位(Thr65, Thr66, Thr70, Ser71, Ser74, Ter76を含む)、LpMab-3は配列番号:1の81位〜103位(Ser98, Thr100を含む)、LpMab-9は配列番号:1の25位〜57位(Thr52を含む)にエピトープが含まれていることがわかった(
図2A)。
LpMab-7は配列番号:1の81位〜103位のヒトポドプラニン-Fcキメラ(
図2A)の他、69位〜88位の合成ペプチドにも反応し(
図2B)、81位〜88位がエピトープであり、糖鎖がエピトープに含まれていないことがわかった。PLAGドメイン以外のエピトープを持ち、かつ、ウェスタンブロット、フローサイトメトリー、免疫組織染色、等に有用なモノクローナル抗体の報告はこれまでに一切ない。
【0087】
以下に、ポドプラニンのアミノ酸配列(配列番号:1)における、各抗体のエピトープの位置を下線で示す。
(LpMab-2のエピトープ)
mwkvsallfvlgsaslwvlaegastgqpeddtettgleggvampgaeddvvtpgt
sedryksglttlvatsvnsvtgiriedlptsestvhaqeqspsatasnvatshstekvdgdtqttvekdglstvtlvgiivgvllaigfiggiivvvmrkmsgrysp
(LpMab-3のエピトープ)
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(LpMab-7のエピトープ)
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(LpMab-9のエピトープ)
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【0088】
ヒトポドプラニンの糖鎖付加部位の同定方法は以下の通りである(
図2C)。
CHO/hPDPN株からヒトポドプラニンのリコンビナントタンパク質の精製を行い、トリプシン処理によりペプチド断片とした。各ペプチド断片をペプチドシークエンサー(島津製作所)により解析行い、アミノ酸が検出できないセリン(Ser)やトレオニン(Thr)を、糖鎖付加部位と同定した。
【0089】
4.フローサイトメトリー
抗ポドプラニン抗体(LpMab-2, LpMab-3, LpMab-7, LpMab-9)のポドプラニン発現株に対する反応性をフローサイトメトリーにて調べた。まず、ヒトポドプラニンを発現した細胞株(リンパ管内皮細胞、腎上皮細胞(HEK-293T)、中皮細胞株(Met-5A)、CHO細胞の各種糖鎖不全株へのポドプラニン遺伝子発現株(CHO-hPDPN(親株)、Lec1-hPDPN(N型糖鎖不全)、Lec2-hPDPN(シアル酸付加不全)、Lec8-hPDPN(O型糖鎖不全))、膠芽腫細胞(LN319)、肺扁平上皮がん細胞へのポドプラニン遺伝子発現株(RERF-LC-AI-hPDPN)、悪性中皮腫細胞へのポドプラニン遺伝子発現株(Y-MESO14-hPDPN)HSC3/hPDPN(口腔がん細胞株))に、LpMab-2, LpMab-3, LpMab-7, LpMab-9(1μg/ml)を4℃で30分反応させ、さらに抗マウスIgG-FITC抗体(ライフテクノロジー社)を4℃で30分それぞれ反応させた。ネガティブコントロールとして、それぞれの二次抗体のみを用いた。蛍光強度をEC800(Sony社)で測定した。
結果を
図3に示す。まず、各抗体のCHOの糖鎖不全株に発現したポドプラニンに対する反応性を調べた(
図3A)。
LpMab-2は、CHOの糖鎖不全株の中で、Lec2, Lec8に対する反応性が低かった。LpMab-3は、Lec2に対する反応性が低かった。Lec9は、Lec2とLec8に対する反応性が低かった。
次に、各抗体のヒトがん細胞株に対する反応性を調べた(
図3B)。すべての抗体は、肺扁平上皮がん、膠芽腫、悪性中皮腫、口腔がんなどの腫瘍細胞上のポドプラニンに高反応性を示した。一方、LpMab-2は、リンパ管内皮細胞にはほとんど反応しなかったが、他の抗体はすべて反応した(
図3C)。また、LpMab-2は正常の腎上皮細胞(HEK-293T)に反応しなかったが、他の抗体はすべて腎上皮細胞に反応した。さらに、LpMab-2とLpMab-9は正常の中皮細胞株(Met-5A)に反応しなかったが、LpMab-3とLpMab-7は中皮細胞に反応した。
LpMab-2は、今回の4つの抗体の中で、唯一、腫瘍特異的抗体である。LpMab-2, LpMab-3, LpMab-9はポドプラニンのペプチド部分だけでなく、シアル酸やO型糖鎖などの糖鎖もエピトープに含むことがわかる。LpMab-9は、中皮腫細胞には反応するが中皮細胞に反応しないことから、部分的に、腫瘍特異性を呈する。
【0090】
また、LpMab-2, LpMab-3, LpMab-7, LpMab-9のH鎖とL鎖の全長をpcDNA3.1ベクター(ライフテクノロジー社)にTAクローニングし、発現プラスミドを作製した。各プラスミドをCHO細胞株にリポフェクション法により導入し、リコンビナント抗体を発現させた。培養上清(遺伝子導入から3日後に回収)中のリコンビナント抗体(rLpMab-2, rLpMab-3, rLpMab-7, rLpMab-9)を4℃で30分それぞれポドプラニン発現株であるLN319細胞と反応させ、さらに抗マウスIgG-FITC抗体(ライフテクノロジー社)を4℃で30分それぞれ反応させた。ネガティブコントロールとして、二次抗体のみを用いた。蛍光強度をEC800(Sony社)で測定した。
その結果、すべてのリコンビナント抗体は、LN319細胞を用いたフローサイトメトリーにおいて、良好な反応性を示した(
図3D)。よって、配列番号26〜41に示したLpMab-2, LpMab-3, LpMab-7, LpMab-9のH鎖とL鎖の配列が正しいことが確認された。
【0091】
さらに、LpMab-2, LpMab-3, LpMab-7, LpMab-9のH鎖の可変領域とヒトIgG1抗体の定常領域のヒトキメラ型H鎖を作製した。キメラ型H鎖の作製方法は以下の通りである。まず、NZ-8H鎖(特許文献1)の遺伝子発現ベクターを鋳型に用いて、ヒトIgG1抗体の定常領域を以下のプライマーを用いて増幅した。
プライマー配列
hIgG1CH1.BamHI:cacggaTCCACCAAGGGCCCATCGGTC(配列番号:52)
hIgG1CH3-R1.NotI:aatgcggccgcTCATTTACCCGGAGACAGGGAG(配列番号:53)
PCR反応にはQIAGEN HotStar HiFidelity DNA polymeraseを使用した。温度条件は最初に95度5分、次に94度15秒、50度1分、72度1分を35サイクル、最後に72度10分とした。増幅したPCR産物はFastGene Gel/PCR Extraction kitにて精製し、pCAG-zeoにBamHI-NotI制限酵素サイトを介してサブクローニングし、ベクタープライマーから塩基配列の決定を行った。このベクターをpCAGzeo-hIgG1hと名付けた。
LpMab-2, LpMab-3, LpMab-7, LpMab-9の可変領域については、以下のプライマーを用いて増幅した。
LpMab-2
HindIII-LpMab-2HatgS: ggcaagcttATGGAAAGGCACTGGATCTTT(配列番号:54)
LpMab-2HVHR-BamHI: gccggatccTGAGGAGACTGTGAGAGTGGT(配列番号:55)
LpMab-3
HindIII-LpMab-3HatgS: ggcaagcttATGAACTTTGTGCTCAGCTTG(配列番号:56)
LpMab-3HVHR-BamHI: gccggatccTGCAGAGACAGTGACCAGAGT(配列番号:57)
LpMab-7
HindIII-LpMab-7HatgS: ggcaagcttATGGACTCCAGGCTCAATTTA(配列番号:58)
LpMab-7HVHR-BamHI: gccggatccTGCAGAGACAGTGACCAGAGT(配列番号:59)
LpMab-9
HindIII-LpMab-9HatgS: ggcaagcttATGGAATGTCTGTGGAACTTG(配列番号:60)
LpMab-9HVHR-BamHI: gccggatccTGAGGAGACGGTGACTGAGGT(配列番号:61)
【0092】
温度条件は、最初に95度5分、次に94度15秒、50度1分、72度1分を35サイクル、最後に72度10分とした。増幅したPCR産物はFastGene Gel/PCR Extraction kitにて精製し、pCAGzeo-hIgG1hベクターにHindIII-BamHI制限酵素サイトを介してサブクローニング後、ベクタープライマーから塩基配列の決定を行った。
【0093】
作製したLpMab-2, LpMab-3, LpMab-7, LpMab-9のヒトキメラ型H鎖とマウスL鎖のプラスミドの組み合わせをそれぞれCHOに共発現させ、ヒトキメラ型抗体(chLpMab-2, chLpMab-3, chLpMab-7, chLpMab-9)を作製した。各キメラ型H鎖のアミノ酸配列及びDNA配列を配列番号62〜69に示す。chLpMab-2, chLpMab-3, chLpMab-7, chLpMab-9の培養上清(遺伝子導入から24時間後に回収)1mlを4℃でポドプラニン発現株であるLN319細胞と30分反応させ、さらに抗ヒトIgG-FITC抗体(ライフテクノロジー社)を4℃で30分それぞれ反応させた。ネガティブコントロールとして、それぞれの二次抗体のみを用いた。ポジティブコントロール抗体として、NZ-1抗体のヒトキメラ型抗体で、chLpMab-2, chLpMab-3, chLpMab-7, chLpMab-9と同じヒトIgG1抗体の定常領域を持つNZ-8抗体(1 μg/ml)を用いた。蛍光強度をEC800(Sony社)で測定した。その結果、すべてLN319細胞に対して良好な反応性を示した(
図3E)。ADCC/CDC活性はヒトIgG1抗体の定常領域に依存しており、同じヒトIgG1抗体の定常領域を持つNZ-8抗体が高いADCC/CDC活性と持つことがわかっていることから(特許文献1)、LpMab-2, LpMab-3, LpMab-7, LpMab-9の各種ヒトキメラ型抗体も同様にしてポドプラニンに対する高いADCC/CDC活性を持ち、抗体医薬として有用性があることが示唆された。
【0094】
5.免疫組織染色
各種パラフィン切片を、キシレンとエタノールの系列を使って脱パラフィンした。抗原賦活化試薬(クエン酸緩衝液(pH6.0);ダコ社)を用いて、20分オートクレーブした。3% H
2O
2を用いて内在性のペルオキシダーゼを不活性化した。SuperBlock(サーモフィッシャー社)を用いて、室温、10分、ブロッキングを行い、一次抗体を室温で1時間反応させた。LSAB kit(ダコ社)で増幅後、DAB(ダコ社)で発色した。
LpMab-2は、腫瘍特異的抗体である。LpMab-2は、精巣腫瘍の腫瘍部分(左)を染色したが、リンパ管内皮細胞(右上)を全く染色しなかった(
図4A)。それに対し、LpMab-7は両方に反応した(
図4B)。これは、フローサイトメトリーのデータと一致する。LpMab-2は正常の肺胞上皮細胞やリンパ管に反応しなかった(
図4C)。それに対し、LpMab-7(
図4D)は、肺胞上皮細胞やリンパ管を染色した。
LpMab-3はLpMab-7と同様の染色性を示したが、LpMab-9は免疫組織染色では反応しなかった。LpMab-9は他の抗体と異なり、ホルマリン固定・パラフィン包埋によって変性したポドプラニンには反応しづらく、特殊なエピトープを持つ抗体であることがわかった。
【0095】
6.抗体遺伝子クローニング
6−1.抗ポドプラニン抗体のアミノ酸配列及び抗体遺伝子の塩基配列の決定
抗ポドプラニン抗体のハイブリドーマ細胞1×10
6からQIAGEN RNeasy mini kit(キアゲン社)を使用してトータルRNAを抽出した。トータルRNA 1μgからSuperScript III First-Strand Syntheses kit(キアゲン社)を使用してcDNA合成を行った。以下の実験にcDNAを鋳型として使用した。
H鎖の増幅に以下のプライマーを使用した。
LpMab-2HatgS:ATG GAA AGG CAC TGG ATC TTT CTA(配列番号:42)
LpMab-3HatgS:ATG AAC TTT GTG CTC AGC TTG ATT(配列番号:43)
LpMab-7HatgS:ATG GAC TCC AGG CTC AAT TTA GTT(配列番号:44)
LpMab-9HatgS:ATG GAA TGT CTG TGG AAC TTG CTA(配列番号:45)
mIgG1woterAS:TTT ACC AGG AGA GTG GGA GA(配列番号:46)
PCR反応にはQIAGEN HotStar Taq(キアゲン社)を使用した。温度条件は、最初に95℃15分、次に94℃30秒、50℃30秒、72℃1分40秒を35サイクル、最後に72℃10分とした。増幅したPCR産物はQIAGEN PCR purification kitにて精製し、pcDNA3.1にてサブクローニングし、ベクタープライマーから塩基配列の決定を行った。
【0096】
L鎖の増幅に以下のプライマーを使用した。
LpMab-2LatgS:ATG AAG TTG CCT GTT AGG CTG TTG(配列番号:47)
LpMab-3LatgS:ATG GAA TCA CAG ACC CAG GTC CTC(配列番号:48)
LpMab-7LatgS:ATG AAG TTG CCT GTT AGG CTG TTG(配列番号:49)
LpMab-9LatgS:ATG GAA TCA CAG ACC CAG GTC CTC(配列番号:50)
moIgCKwoterAS:ACA CTC ATT CCT GTT GAA GC(配列番号:51)
PCR反応にはQIAGEN HotStar Taqを使用した。温度条件は、最初に95℃15分、次に94℃30秒、53℃30秒、72℃1分を35サイクル、最後に72℃10分とした。増幅したPCR産物はQIAGEN PCR purification kitにて精製し、pcDNA3.1にてサブクローニングし、ベクタープライマーから塩基配列の決定を行った。塩基配列からアミノ酸配列を予測した。
【0097】
各抗体のCDRのアミノ酸配列を配列番号:2〜25に、各抗体の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列とDNA配列を、配列番号:26〜41に示す。
【0098】
〔配列表フリーテキスト〕
配列番号:1は、ヒトポドプラニンタンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号:2は、LpMab-2の重鎖CDR1のアミノ酸配列を示す。
配列番号:3は、LpMab-2の重鎖CDR2のアミノ酸配列を示す。
配列番号:4は、LpMab-2の重鎖CDR3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:5は、LpMab-2の軽鎖CDR1のアミノ酸配列を示す。
配列番号:6は、LpMab-2の軽鎖CDR2のアミノ酸配列を示す。
配列番号:7は、LpMab-2の軽鎖CDR3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:8は、LpMab-3の重鎖CDR1のアミノ酸配列を示す。
配列番号:9は、LpMab-3重鎖CDR2のアミノ酸配列を示す。
配列番号:10は、LpMab-3の重鎖CDR3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:11は、LpMab-3の軽鎖CDR1のアミノ酸配列を示す。
配列番号:12は、LpMab-3の軽鎖CDR2のアミノ酸配列を示す。
配列番号:13は、LpMab-3の軽鎖CDR3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:14は、LpMab-7の重鎖CDR1のアミノ酸配列を示す。
配列番号:15は、LpMab-7の重鎖CDR2のアミノ酸配列を示す。
配列番号:16は、LpMab-7の重鎖CDR3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:17は、LpMab-7の軽鎖CDR1のアミノ酸配列を示す。
配列番号:18は、LpMab-7の軽鎖CDR2のアミノ酸配列を示す。
配列番号:19は、LpMab-7の軽鎖CDR3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:20は、LpMab-9の重鎖CDR1のアミノ酸配列を示す。
配列番号:21は、LpMab-9の重鎖CDR2のアミノ酸配列を示す。
配列番号:22は、LpMab-9の重鎖CDR3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:23は、LpMab-9の軽鎖CDR1のアミノ酸配列を示す。
配列番号:24は、LpMab-9の軽鎖CDR2のアミノ酸配列を示す。
配列番号:25は、LpMab-9の軽鎖CDR3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:26は、LpMab-2の重鎖のアミノ酸配列を示す。
配列番号:27は、LpMab-2の軽鎖のアミノ酸配列を示す。
配列番号:28は、LpMab-3の重鎖のアミノ酸配列を示す。
配列番号:29は、LpMab-3の軽鎖のアミノ酸配列を示す。
配列番号:30は、LpMab-7の重鎖のアミノ酸配列を示す。
配列番号:31は、LpMab-7の軽鎖のアミノ酸配列を示す。
配列番号:32は、LpMab-9の重鎖のアミノ酸配列を示す。
配列番号:33は、LpMab-9の軽鎖のアミノ酸配列を示す。
配列番号:34は、LpMab-2の重鎖のDNA配列を示す。
配列番号:35は、LpMab-2の軽鎖のDNA配列を示す。
配列番号:36は、LpMab-3の重鎖のDNA配列を示す。
配列番号:37は、LpMab-3の軽鎖のDNA配列を示す。
配列番号:38は、LpMab-7の重鎖のDNA配列を示す。
配列番号:39は、LpMab-7の軽鎖のDNA配列を示す。
配列番号:40は、LpMab-9の重鎖のDNA配列を示す。
配列番号:41は、LpMab-9の軽鎖のDNA配列を示す。
配列番号:42は、プライマーLpMab-2HatgSのDNA配列を示す。
配列番号:43は、プライマーLpMab-3HatgSのDNA配列を示す。
配列番号:44は、プライマーLpMab-7HatgSのDNA配列を示す。
配列番号:45は、プライマーLpMab-9HatgSのDNA配列を示す。
配列番号:46は、プライマーmIgG1woterASのDNA配列を示す。
配列番号:47は、プライマーLpMab-2LatgSのDNA配列を示す。
配列番号:48は、プライマーLpMab-3LatgSのDNA配列を示す。
配列番号:49は、プライマーLpMab-7LatgSのDNA配列を示す。
配列番号:50は、プライマーLpMab-9HatgSのDNA配列を示す。
配列番号:51は、プライマーmoIgCKwoterASのDNA配列を示す。
配列番号:52は、プライマーhIgG1CH1.BamHIのDNA配列を示す。
配列番号:53は、プライマーhIgG1CH3-R1.NotIのDNA配列を示す。
配列番号:54は、プライマーHindIII-LpMab-2HatgSのDNA配列を示す。
配列番号:55は、プライマーLpMab-2HVHR-BamHIのDNA配列を示す。
配列番号:56は、プライマーHindIII-LpMab-3HatgSのDNA配列を示す。
配列番号:57は、プライマーLpMab-3HVHR-BamHIのDNA配列を示す。
配列番号:58は、プライマーHindIII-LpMab-7HatgSのDNA配列を示す。
配列番号:59は、プライマーLpMab-7HVHR-BamHIのDNA配列を示す。
配列番号:60は、プライマーHindIII-LpMab-9HatgSのDNA配列を示す。
配列番号:61は、プライマーLpMab-9HVHR-BamHIのDNA配列を示す。
配列番号:62は、LpMab-2のキメラ型重鎖のDNA配列を示す。
配列番号:63は、LpMab-2のキメラ型重鎖のアミノ酸配列を示す。
配列番号:64は、LpMab-3のキメラ型重鎖のDNA配列を示す。
配列番号:65は、LpMab-3のキメラ型重鎖のアミノ酸配列を示す。
配列番号:66は、LpMab-7のキメラ型重鎖のDNA配列を示す。
配列番号:67は、LpMab-7のキメラ型重鎖のアミノ酸配列を示す。
配列番号:68は、LpMab-9のキメラ型重鎖のDNA配列を示す。
配列番号:69は、LpMab-9のキメラ型重鎖のアミノ酸配列を示す。
【0099】
<がん細胞特異的な抗ポドプラニン抗体およびその作製法>
〔技術分野〕
本発明は、がん細胞特異的な新規抗ポドプラニン抗体とその作製法、及びがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体を含む抗がん剤等に関する。
【0100】
〔背景技術〕
がん細胞による血小板凝集は血行性転移の一因である。がん細胞は血管に侵入すると、宿主の免疫系による攻撃や物理的衝撃によって破壊されるが、血小板凝集による保護作用により転移が起こる。血小板凝集はがん細胞の血管内皮細胞への接着を促し、増殖因子を放出することで、がん細胞の局所的な増殖も引き起こす。がん細胞と血小板の凝集塊が毛細血管に詰まる塞栓も、血行性転移の促進に寄与する。
【0101】
マウス結腸がん細胞株colon26を実験的に繰り返し肺転移させることで、高転移性株NL-17細胞と低転移性株NL-14細胞が樹立された(非特許文献1a)。in vitroの実験で、NL-17細胞はマウスの血小板凝集を引き起こすが、NL-17細胞に高反応性でNL-14細胞には低反応性のモノクローナル抗体8F11抗体により、その活性は阻害された。in vivoの実験で、NL-17細胞の実験的肺転移が8F11抗体により阻害された。よって、NL-17細胞は、8F11抗体に認識される血小板凝集因子により血小板を凝集させ、肺転移を起こすことが示唆された。この血小板凝集因子が後にポドプラニン(podoplanin/Aggrus/T1alpha/gp36)と同じ分子であることがわかった。
【0102】
8F11抗体を用いたアフィニティカラムとレクチンのWGAカラムにより、NL-17細胞からマウスポドプラニンが精製された(非特許文献2a)。マウスポドプラニンは、血漿成分非存在下で濃度依存的に血小板凝集を引き起こし、この凝集反応は8F11抗体によって完全に阻害された。
【0103】
本発明者らは、ポドプラニンの遺伝子クローニングに成功した(非特許文献3a)。ポドプラニンは、C末端に膜貫通部位を有するI型膜貫通型タンパク質である。マウスポドプラニンの中和抗体8F11抗体のエピトープ解析や、詳細な変異実験により、PLAGドメイン(EDxxVTPGという配列の3回繰り返し)のトレオニンがポドプラニンによる血小板凝集の活性中心であり、種を超えて保存されていることが明らかとなった(非特許文献4a)。その後、PLAGドメインのトレオニンに付加されているO-結合型糖鎖のシアル酸が血小板凝集の活性中心であることがわかった(非特許文献5a)。
【0104】
また、本発明者らは、ヒトポドプラニンを精製するために、モノクローナル抗体NZ-1抗体をラットで作製した(非特許文献6a)。NZ-1抗体は、ウェスタンブロット、フローサイトメトリー、免疫組織染色、免疫沈降など、種々の実験に有用である。本発明者らは、NZ-1抗体が、ヒトポドプラニン陽性がん細胞において、ADCC活性及びCDC活性も示すことを報告した(特許文献1a)。
【0105】
NZ-1抗体はヒトポドプラニンとマウスやヒトのC-type lectin-like receptor-2(CLEC-2)との結合を阻害し、ヒトポドプラニンによる血小板凝集も濃度依存的に阻害することで、ヒトポドプラニンによる肺転移も有意に抑制した(非特許文献7a)。
【0106】
ヒトポドプラニンは、悪性脳腫瘍、悪性中皮腫、精巣腫瘍(特にセミノーマ)、卵巣がん、及び各種扁平上皮がん(口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肺がん、皮膚がん、子宮頸がん)などに高発現している(非特許文献8a−11a)。一方、ヒトポドプラニンはリンパ管内皮細胞や肺胞上皮細胞などの正常細胞にも発現している。したがって、がん細胞特異的に発現しているヒトポドプラニンに対する抗体があれば、医薬、診断薬、試薬等として有用であると考えられる。
【0107】
これまでに、様々な抗ポドプラニン抗体が作製されたが、がん組織と正常組織の両方に反応するものがほとんどであり、免疫組織染色に有用ながん細胞特異的抗ポドプラニン抗体およびその戦略的な作製法の報告はない。
〔先行技術文献〕
〔特許文献〕
【0108】
〔特許文献1a〕WO2011/040565
〔非特許文献〕
〔非特許文献1a〕Tsuruo T., Yamori T. et al., Cancer Res. 43, 5437-5442, 1983.
〔非特許文献2a〕Toyoshima M., Nakajima M. et al., Cancer Res. 55, 767-773, 1995.
〔非特許文献3a〕Kato Y., Fujita N. et al., J. Biol. Chem. 278, 51599-51605, 2003.
〔非特許文献4a〕Kaneko MK., Kato Y. et al., Gene 378C:52-57, 2006.
〔非特許文献5a〕Kaneko M., Kato Y. et al., J. Biol. Chem. 279, 38838-38843, 2004.
〔非特許文献6a〕Kato Y., Kaneko MK. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 349:1301-1307, 2006
〔非特許文献7a〕Kato Y., Kaneko MK. et al., Cancer Sci. 99, 54-61, 2008.
〔非特許文献8a〕Kato Y., Sasagawa I. et al., Oncogene 23, 8552-8556, 2004.
〔非特許文献9a〕Kato Y., Kaneko M. et al., Tumor Biol. 26,195-200, 2005.
〔非特許文献10a〕Mishima K., Kato Y. et al., Acta Neuropathol.111(5):483-488, 2006a
〔非特許文献11a〕Mishima K., Kato Y. et al., Acta Neuropathol.111(6):563-568. 2006b
【0109】
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明は、医薬、診断薬、および試薬として有用な、がん細胞特異的なポドプラニンに対する抗体と、その戦略的な作製法を提供することを課題とする。
【0110】
〔課題を解決するための手段〕
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ね、ポドプラニンをがん細胞特異的糖鎖構造を付加する細胞で発現させることによって、当該ポドプラニンにがん細胞特異的糖鎖構造を付加し、この細胞で動物を免疫して抗体を得た後、一次スクリーニングでがん細胞特異的ポドプラニンに反応する抗体を選択することにより、がん細胞特異的ポドプラニンに対する抗体、すなわち、がん細胞特異的抗体(Cancer-specific monoclonal antibody: CasMab)を樹立できることを見出した。
上記方法で樹立した抗体の一例であるLpMab-23は、精巣腫瘍や肺がん、食道がんなどの扁平上皮がんを用いた免疫組織染色において、がん細胞に発現するポドプラニンに高反応性を示すが、リンパ管内皮細胞やI型肺胞上皮細胞などの正常細胞に発現するポドプラニンには反応せず、がん細胞特異的抗ポドプラニン抗体であることが示された。このことは、LpMab-23が、がん細胞上のポドプラニンしか有していない糖鎖構造あるいは立体構造を認識することを強く示唆する。
即ち、本発明は、
〔A1〕がん細胞特異的に発現するポドプラニンに対する抗体の製造方法であって、
がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞に、ポドプラニンをコードする核酸を導入して発現させる工程と、
前記細胞で非ヒト哺乳動物を免疫して抗体を得る工程と、
前記抗体の一次スクリーニングで、精製したがん細胞特異的ポドプラニンを用いる工程と、を含む方法;
〔A2〕一次スクリーニングの後、さらに、前記腫瘍細胞又は組織に反応し、前記正常細胞又は組織に反応しない抗体を選択する工程を含む、上記〔A1〕に記載の方法;
〔A3〕前記がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞が、がん細胞である、上記〔A1〕又は〔A2〕に記載の方法;
〔A4〕前記がん細胞が、膠芽腫細胞株LN229由来細胞である、上記〔A3〕に記載の方法;
〔A5〕前記がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞が、糖鎖転移酵素を導入し、がん細胞特異的糖鎖構造を発現するように人工的に改変した細胞である、上記〔A1〕又は〔A2〕に記載の方法;
〔A6〕前記腫瘍細胞又は組織に反応し、前記正常細胞又は組織に反応しない抗体を選択する工程は、免疫組織染色又は免疫細胞染色によって行われる、上記〔A1〕から〔A5〕のいずれか1項に記載の方法;
〔A7〕以下(i)〜(iii)のいずれかのがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体又はその抗原結合フラグメント:
(i)以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する
重鎖CDR1:GFSVTSYGIH
重鎖CDR2:VIWTSGNTNYNSALMS
重鎖CDR3:EDYYGYAMDY
軽鎖CDR1:RSSQSLLYSNGKTYLN
軽鎖CDR2:LVSKLDS
軽鎖CDR3:VQGTHFPWT;
(ii)前記重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3の少なくとも1つに、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含む;及び
(iii)前記重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3の少なくとも1つが、前記重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する;
〔A8〕配列番号:78で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:78で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:78で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖
を含むがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体又はその抗原結合フラグメント;
〔A9〕配列番号:77で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:77で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:77で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖
を含むがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体又はその抗原結合フラグメント;
〔A10〕Fc領域に1以上のN−結合型糖鎖が結合し、該N−結合型糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない、上記〔A7〕から〔A9〕のいずれか1項に記載のがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体又はその抗原結合フラグメント;
〔A11〕上記〔A7〕に記載の重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のいずれか1つをコードする核酸;
〔A12〕上記〔A8〕に記載された重鎖、並びに上記〔A9〕に記載された軽鎖のいずれか1つをコードする核酸;
〔A13〕上記〔A11〕又は〔A12〕に記載の核酸を含む発現ベクター;
〔A14〕上記〔A13〕に記載の発現ベクターを含む形質転換体;
〔A15〕上記〔A14〕に記載の形質転換体で抗体を発現させる工程と、
前記抗体を回収する工程と、を含むがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体の製造方法;
〔A16〕上記〔A7〕に記載のがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体又はその抗原結合フラグメントを有効成分として含む医薬組成物;
〔A17〕抗がん活性を有する物質を結合させた上記〔A6〕に記載のがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体又はその抗原結合フラグメントを有効成分として含む医薬組成物;
〔A18〕がん、血栓症及び動脈硬化症からなる群より選択される少なくとも1つの疾患の予防又は治療剤である、上記〔A16〕又は〔A17〕に記載の医薬組成物。
に関する。
【0111】
〔発明の効果〕
本発明に係る抗体の製造方法によれば、ポドプラニンに対するがん細胞特異的抗体(Cancer-specific monoclonal antibody: CasMab)を得ることができる。
CasMabによれば、抗体による抗腫瘍活性をがん細胞特異的に発揮することができ、副作用の低減された医薬を得ることができる。また、がん細胞を標的とする薬剤の送達にも有用であり、診断薬や試薬としての有用性も高い。
したがって、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体は、研究用試薬、診断薬、医薬品候補として有用である。
【0112】
〔発明を実施するための形態〕
本発明に係るがん細胞特異的に発現するポドプラニンに対する抗体の製造方法であって、
がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞に、ポドプラニンをコードする核酸を導入して発現させる工程と、
前記細胞で非ヒト哺乳動物を免疫して抗体を得る工程と、
前記抗体の一次スクリーニングで、精製したがん細胞特異的ポドプラニンを用いる工程と、を含む。
【0113】
本明細書において「がん細胞特異的に発現するポドプラニンに対する抗体」は、がん細胞に発現するポドプラニンとの反応性の方が、正常細胞に発現するポドプラニンとの反応性より有意に高い抗体を意味する。一態様において、「がん細胞特異的に発現するポドプラニンに対する抗体」は、がん細胞に発現するポドプラニンと反応し、正常細胞に発現するポドプラニンとはまったく反応しない。一態様において、「がん細胞特異的に発現するポドプラニンに対する抗体」は、がん細胞に発現するポドプラニンとの反応性が著しく高い一方、正常細胞に発現するポドプラニンともある程度反応する。がん細胞で発現するポドプラニンは、がん細胞特異的な糖鎖構造を有するため、かかる糖鎖構造を認識する抗体は、がん細胞特異的に発現するポドプラニンと、正常細胞に発現するポドプラニンを識別することが可能である。
本明細書においては、「がん細胞特異的に発現するポドプラニンに対する抗体」を「がん細胞特異的抗ポドプラニン抗体」と呼ぶこともある。
【0114】
ポドプラニンは、悪性脳腫瘍、悪性中皮腫、精巣腫瘍(特にセミノーマ)、卵巣がん、及び各種扁平上皮がん(口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肺がん、皮膚がん、子宮頸がん)などに高発現している一方、リンパ管内皮細胞や肺胞上皮細胞などの正常細胞にも発現している。
ヒトポドプラニンは、配列番号:70で表されるタンパク質であるが、本明細書において「ポドプラニン」という場合、その機能的な変異体も含まれる。
【0115】
本明細書において「抗体」とは、一対のジスルフィド結合で安定化された2本の重鎖(H鎖)と2本の軽鎖(L鎖)が会合した構造をとる。重鎖は、重鎖可変領域VH、重鎖定常領域CH1、CH2、CH3、及びCH1とCH2の間に位置するヒンジ領域からなり、軽鎖は、軽鎖可変領域VLと軽鎖定常領域CLとからなる。この中で、VHとVLからなる可変領域断片(Fv)が、抗原結合に直接関与し、抗体に多様性を与える領域である。また、VL、CL、VH、CH1からなる抗原結合領域をFab領域と呼び、ヒンジ領域、CH2、CH3からなる領域をFc領域と呼ぶ。
可変領域のうち、直接抗原と接触する領域は特に変化が大きく、相補性決定領域(complementarity-determining region: CDR)と呼ばれる。CDR以外の比較的変異の少ない部分をフレームワーク(framework region: FR)と呼ぶ。軽鎖と重鎖の可変領域には、それぞれ3つのCDR(重鎖CDR1〜3、及び軽鎖CDR1〜3)が存在する。
【0116】
本明細書において「がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞」は、がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞であればどのような細胞であってもよい。例えば、がん細胞であってもよいし、非がん細胞に必要な糖転位酵素を導入し、がん細胞特異的糖鎖構造を発現するように人工的に改変した細胞であってもよい。「がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞」としては、例えば以下の細胞が挙げられる。
−膠芽腫細胞株LN229由来細胞。
−膠芽腫細胞株LN464細胞に糖転移酵素のKSGal6STを遺伝子導入した細胞(Hayatsu N, et al., Biochem Biophys Res Commun, 368, 217-222, 2008)。本発明者らは、この文献において、膠芽腫細胞株LN464細胞に糖転移酵素のKSGal6STを遺伝子導入すると、脳腫瘍組織で高発現することが知られているケラタン硫酸の高発現株ができることを報告している。
−子宮頸癌細胞(HeLa細胞)や白血病細胞(Namalwa細胞)に糖転移酵素を遺伝子導入した細胞(Kimura H, et al., Biochem Biophys Res Commun. 1997 Aug 8;237(1):131-7.)。この文献では、本発明者らが、子宮頸癌細胞(HeLa細胞)や白血病細胞(Namalwa細胞)に糖転移酵素を遺伝子導入し、どのような糖鎖を付加するかを詳細に見ている。
−Namalwa細胞に糖転移酵素を遺伝子導入した細胞(Kaneko M, et al., H.
FEBS Lett. 1999 Jun 11;452(3):237-42.)この文献では、本発明者らが、Namalwa細胞に糖転移酵素を遺伝子導入し、どのような糖鎖を付加するかを詳細に見ている。
−サル腎臓細胞(COS1細胞)に糖転移酵素を導入した細胞(Kaneko M, et al., Blood. 1997 Jul 15;90(2):839-49.)
−ハムスター卵巣細胞(CHO-Lec1細胞)に糖転移酵素を導入した細胞(Kaneko M, et al., FEBS Lett. 2003 Nov 20;554(3):515-9.)
【0117】
本明細書において「がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞に、ポドプラニンをコードする核酸を導入して発現させる工程」は、常法に従って当業者が行うことができる。ポドプラニンをコードする核酸は、がん細胞特異的なポドプラニンと正常細胞のポドプラニンでは通常変わらないので、どちらのポドプラニンをコードする核酸であってもよい。本明細書において核酸は目的のタンパク質を発現できる限りどのような核酸であってもよいが、DNA、RNA、又はDNA/RNAキメラ、人工核酸等が挙げられる。
【0118】
本明細書において「細胞で非ヒト哺乳動物を免疫して抗体を得る工程」は、がん細胞特異的ポドプラニンを発現する細胞を、非ヒト哺乳動物に細胞ごと投与することによって行う。免疫は、常法に従って行うことができるが、例えば1×10
7〜1×10
9の細胞を腹腔内に、10日に1回ずつ、複数回投与することにより行うことができる。本明細書において、非ヒト哺乳動物とは、典型的にはマウスであるが特に限定されず、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマなどが挙げられる。
【0119】
本明細書において「抗体の一次スクリーニング」とは、抗体産生細胞から目的の抗体を同定し、精製していく過程における最初のスクリーニングをいい、例えば、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養上清を用いたスクリーニングをいう。
本発明における抗体の一次スクリーニングは、概して以下のように行われる。
まず、がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞株にポドプラニンを発現させ、アフィニティータグ(FLAGタグ、Hisタグ、Mycタグ、PAタグ、等)を用いて精製を行う。こうして精製したがん細胞特異的ポドプラニンをELISAプレートに固相化し、ここに抗体産生細胞から得られた抗体を加え、反応するウェルを選択する。この方法により、通常の一次スクリーニングで用いるような、合成ペプチド、大腸菌発現タンパク質、動物細胞株(CHO、COS、HEK-293T、など)が発現するタンパク質を固相化する方法と異なり、初期の段階で、がん細胞特異的抗体を選択することができる。
【0120】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体の製造方法は、一次スクリーニングの後、「腫瘍細胞又は組織と、正常細胞又は組織とに対する前記抗体の反応性を比較する工程」を含んでいてもよい。
本明細書において、「腫瘍細胞又は組織と、正常細胞又は組織とに対する前記抗体の反応性を比較する工程」は、腫瘍細胞又は組織と得られた抗体とを反応させ、結合の有無を検出し、一方で、正常細胞又は組織と得られた抗体とを反応させ、結合の有無を調べる工程を意味する。この工程は、フローサイトメトリー、免疫組織染色(IHC)、免疫細胞染色(ICC)などにより行うことができる。
【0121】
腫瘍細胞又は組織と得られた抗体の反応性、正常細胞又は組織と得られた抗体の反応性を比較した後、腫瘍細胞又は組織に対する反応性が、前記正常細胞又は組織に対する反応性より有意に高い抗体を選択することにより、がん細胞特異的抗体を得ることができる。 選択されたがん細胞特異的抗体は、その後さらに精製することができる。
【0122】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。また、本発明の抗ポドプラニン抗体は、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEのいずれのアイソタイプであってもよい。マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ニワトリなどの非ヒト動物を免疫して作製したものであってもよいし、組換え抗体であってもよく、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体等であってもよい。キメラ型抗体とは、異なる種に由来する抗体の断片が連結された抗体をいう。
「ヒト化抗体」とは、非ヒト由来の抗体に特徴的なアミノ酸配列で、ヒト抗体の対応する位置を置換した抗体を意味し、例えば、マウスを免疫して作製した抗体の重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3を有し、重鎖及び軽鎖のそれぞれ4つのフレームワーク領域(FR)を含むその他のすべての領域がヒト抗体に由来するもの等が挙げられる。かかる抗体は、CDR移植抗体と呼ばれる場合もある。用語「ヒト化抗体」は、ヒトキメラ抗体を含む場合もある。
【0123】
本明細書において、抗ポドプラニン抗体の「抗原結合フラグメント」とは、抗ポドプラニン抗体のフラグメントであって、ポドプラニンに結合するフラグメントをいう。具体的には、VL、VH、CL及びCH1領域からなるFab;2つのFabがヒンジ領域でジスルフィド結合によって連結されているF(ab')2;VL及びVHからなるFv;VL及びVHを人工のポリペプチドリンカーで連結した一本鎖抗体であるscFvのほか、diabody型、scDb型、tandem scFv型、ロイシンジッパー型などの二重特異性抗体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。これらのCDRは、LpMab-23のCDR配列である。
重鎖CDR1:GFSVTSYGIH(配列番号:71)
重鎖CDR2:VIWTSGNTNYNSALMS(配列番号:72)
重鎖CDR3:EDYYGYAMDY(配列番号:73)
軽鎖CDR1:RSSQSLLYSNGKTYLN(配列番号:74)
軽鎖CDR2:LVSKLDS(配列番号:75)
軽鎖CDR3:VQGTHFPWT(配列番号:76)
【0125】
上記の抗ポドプラニン抗体の態様のそれぞれにおいて、本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、本発明の効果を奏する限り、6つのCDRのうちいくつを含むものであってもよいが、例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、又は6つ含むものとすることができる。
【0126】
上記の態様のそれぞれにおいて、重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3は、その少なくとも1つに、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含んでいてもよい。
【0127】
本明細書において「アミノ酸」は、その最も広い意味で用いられ、天然アミノ酸に加え、人工のアミノ酸変異体や誘導体を含む。アミノ酸は慣用的な一文字表記又は三文字表記で示される場合もある。本明細書においてアミノ酸又はその誘導体としては、天然タンパク質性L-アミノ酸;非天然アミノ酸;アミノ酸の特徴である当業界で公知の特性を有する化学的に合成された化合物などが挙げられる。非天然アミノ酸の例として、主鎖の構造が天然型と異なる、α,α-二置換アミノ酸(α-メチルアラニンなど)、N-アルキル-α-アミノ酸、D-アミノ酸、β-アミノ酸、α-ヒドロキシ酸や、側鎖の構造が天然型と異なるアミノ酸(ノルロイシン、ホモヒスチジンなど)、側鎖に余分のメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸、ホモフェニルアラニン、ホモヒスチジンなど)、及び側鎖中のカルボン酸官能基がスルホン酸基で置換されるアミノ酸(システイン酸など)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0128】
本明細書において「1から数個のアミノ酸の付加、置換又は欠失を有する」という場合、欠失、置換等されるアミノ酸の個数は、結果として得られるポリペプチドがCDRとしての機能を保持する限り特に限定されないが、例えば、1個、2個、3個又は4個とすることができる。置換又は付加されるアミノ酸は、天然のタンパク質性アミノ酸に加えて、非天然のアミノ酸又はアミノ酸アナログであってもよい。アミノ酸の欠失、置換又は付加の位置は、CDRとしての機能が保持される限り、もとのCDR配列のどこであってもよい。
【0129】
上記の抗ポドプラニン抗体の態様のそれぞれにおいては、重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3の少なくとも1つが、もとの重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するものとなっていてもよい。
【0130】
本明細書において、「80%以上の同一性を有する」とは、それぞれ元の配列と変異した配列を有する二つのポリペプチドのアミノ酸配列の一致が最大になるようにアライメントしたときに、共通するアミノ酸残基の数が、元の配列のアミノ酸数の80%以上であることを意味する。
同一性は80%以上であって、CDRとしての機能を保持する限り何%であってもよく、例えば85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上とすることができる。
【0131】
重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列にアミノ酸を付加、置換、又は欠失させたアミノ酸配列からなるCDRや、重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するCDRは、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、チェーンシャフリング法、CDRウォーキング法などの公知の方法を用いて作製され得る。これらの方法によれば、ファージディスプレイ法によってCDRに種々の変異を有する抗体又は抗体断片をファージ表面に提示させ、抗原を使用してスクリーニングすることにより、より親和性が成熟したCDRを得られることが当業者によく知られている(例えば、Wu et al., PNAS, 95:6037-6042(1998); Schier, R. et al., J. Mol. Bio. 263:551-567(1996); Schier, R. et al., J. Mol. Biol. 255:28-43(1996); Yang, W.P. et al., J. Mol. Biol., 254:392-403(1995)。)。
【0132】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体の別の一態様は、
配列番号:77で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:77で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:77で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む。
配列番号:77で表されるアミノ酸配列は、LpMab-23の軽鎖のアミノ酸配列である。
【0133】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体の別の一態様は、
配列番号:78で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:78で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:78で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖
を含む。
配列番号:78で表されるアミノ酸配列は、LpMab-23の重鎖のアミノ酸配列である。
本明細書において、重鎖又は軽鎖のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失という場合、付加、置換、又は欠失するアミノ酸の数は、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個とすることができる。その他の用語は、上述したとおりである。
【0134】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体は、Fc領域に1以上のN-結合型糖鎖が結合し、該N-結合型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合していない抗体であってもよい。
例えばIgG抗体のFc領域には、N-結合型糖鎖の結合部位が2ヶ所存在し、この部位に複合型糖鎖が結合している。N-結合型糖鎖とは、Asn-X-Ser/Thr配列のAsnに結合する糖鎖をいい、共通した構造Man
3GlcNAc
2-Asnを有する。非還元末端の2つのマンノース(Man)に結合する糖鎖の種類により、高マンノース型、混成型、及び複合型等に分類される。
N-結合型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)にはフコースが結合しうるが、このフコースが結合していない場合、結合している場合に比較してADCC活性が著しく上昇することが知られている。このことは例えば、国際公開第2002/031140号パンフレットに記載されており、その開示は全体として参照により本明細書に組み込まれる。
ADCC活性が著しく向上することにより、抗体を医薬として用いる場合に投与量を少なくすることができるので、副作用を軽減させることが可能であると共に、治療費も低減させることができる。
【0135】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、抗がん活性を有する物質を結合させて用いてもよい。
本明細書において、「抗がん活性を有する物質」とは、腫瘍サイズの低下(遅延又は停止)、腫瘍の転移の阻害、腫瘍増殖の阻害(遅延又は停止)、及びがんと関連する一つ又は複数の症状の緩和、の少なくとも1つを生じさせる物質を意味する。具体的には、毒素、抗がん剤、ラジオアイソトープを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0136】
抗がん活性を有する毒素としては、例えば、緑膿菌外毒素(PE)又はその細胞障害性フラグメント(例えばPE38)、ジフテリア毒素、リシンA等が挙げられる。抗がん活性を有する毒素は、抗ポドプラニン抗体と共に毒素が取り込まれる細胞、即ちポドプラニンを発現しているがん細胞のみに毒性を発揮するので、周囲の細胞に悪影響を与えず、特異的に効果を得られるという利点がある。特に、本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、がん細胞に発現する抗ポドプラニンに特異的に結合するので、有用である。
【0137】
抗がん剤としては、例えば、アドリアマイシン、ダウノマイシン、マイトマイシン、シスプラチン、ビンクリスチン、エピルビシン、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、アクラシノマイシン、ナイトロジェン・マスタード、サイクロフォスファミド、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、タモキシフェン、デキサメタゾン等の低分子化合物や、免疫担当細胞を活性化するサイトカイン(例えば、ヒトインターロイキン2、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、ヒトマクロファージコロニー刺激因子、ヒトインターロイキン12)等のタンパク質が挙げられる。
【0138】
抗がん活性を有するラジオアイソトープとしては、
32P、
14C、
125I、
3H、
131I、
211At、
90Y等が挙げられる。ラジオアイソトープは、抗ポドプラニン抗体が結合する細胞、即ちポドプラニンを発現している細胞の周囲の細胞にも毒性を発揮する。一般に、がん細胞は均一ではなく、すべてのがん細胞がポドプラニンを発現しているわけではないので、周囲のポドプラニン陰性のがん細胞を殺すためにラジオアイソトープは有用である。なお、ラジオアイソトープを結合させる場合、抗ポドプラニン抗体はFabやscFvなどの低分子抗体としてもよい。
【0139】
上記抗がん活性を有する物質は、公知の方法によって抗ポドプラニン抗体に直接結合させることができる。また、例えばリポソーム等の担体に封入して抗ポドプラニン抗体に結合させてもよい。
【0140】
上記抗がん活性を有する物質が蛋白質やポリペプチドの場合は、本発明の抗ポドプラニン抗体をコードする核酸(後述)と抗がん活性を有する物質をコードするDNAを連結し、適当な発現ベクターに挿入することにより、抗がん活性を有する物質と抗ポドプラニン抗体との融合タンパク質として発現させてもよい。
【0141】
(核酸)
本発明は、本発明に係る抗ポドプラニン抗体をコードする核酸も包含する。核酸は、天然の核酸であっても人工の核酸であってもよく、例えば、DNA、RNA、DNAとRNAのキメラが挙げられるがこれらに限定されない。抗ポドプラニン抗体をコードする核酸の塩基配列は、当業者が公知の方法又はそれに準ずる方法に従って決定することができ、公知の方法又はそれに準ずる方法で調製することができる。
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体をコードする核酸としては、例えば、配列番号:78で表されるLpMab-23の重鎖をコードするDNA(配列番号:80)、配列番号:77で表されるLpMab-23の軽鎖をコードするDNA(配列番号:79)が挙げられるがこれらに限定されない。
LpMab-23のCDRのそれぞれをコードする核酸は、これらの配列番号で示されるDNA配列に含まれている。
【0142】
(発現ベクター)
本発明は、本発明の本発明に係る抗ポドプラニン抗体をコードする核酸を含む発現ベクターも包含する。発現ベクターは、使用する宿主細胞にあわせて適宜選択することができ、例えば、プラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、カリフラワーモザイクウイルスベクターやタバコモザイクウイルスベクターなどの植物ウイルスベクター、コスミド、YAC、EBV由来エピソームなどが挙げられる。これらの発現ベクターには、公知の方法(制限酵素を利用する方法等)で、本発明の抗ポドプラニン抗体をコードする核酸を挿入することができる。
【0143】
本発明に係る発現ベクターは、さらに、抗体遺伝子の発現を調節するプロモーター、複製起点、選択マーカー遺伝子等を含むことができる。プロモーター及び複製起点は、宿主細胞とベクターの種類によって適宜選択することができる。
【0144】
(形質転換体)
本発明は、本発明のベクターを含む形質転換体を包含する。形質転換体は、本発明のベクターを適切な宿主細胞にトランスフェクトすることによって得ることができる。宿主細胞としては、例えば、哺乳類細胞(CHO細胞、COS細胞、ミエローマ細胞、HeLa細胞、Vero細胞等)、昆虫細胞、植物細胞、真菌細胞(サッカロミセス属、アスペルギルス属等)といった真核細胞や、大腸菌(E.Coli)、枯草菌などの原核細胞を用いることができる。
【0145】
(抗体の製造方法)
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の製造方法は限定されないが、例えば、抗ポドプラニンモノクローナル抗体は、ポドプラニン又はその断片で免疫した非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を単離し、これを骨髄腫細胞等と融合させてハイブリドーマを作製し、このハイブリドーマが産生した抗体を精製することによって得ることができる。また、抗ポドプラニンポリクローナル抗体は、ポドプラニン又はその断片で免疫した動物の血清から得ることができる。また、本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、非ヒト動物を免疫する際、糖鎖を付加したポドプラニンを用いてもよい。
【0146】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体を遺伝子組換え法で作製する場合、例えば、本発明に係る核酸を含む発現ベクターで適当な宿主を形質転換し、この形質転換体を適当な条件で培養して抗体を発現させ、公知の方法に従って単離精製すればよい。
単離精製方法としては、例えば、プロテインA/G/L等を用いたアフィニティカラム、その他のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析が挙げられ、これらを適宜組み合わせることができる。
【0147】
所定のエピトープの配列に結合する抗体は、当業者が公知の方法又はそれに準ずる方法で作製することができる。例えば、エピトープ配列を含むペプチドを固相担体に固定し、当該ペプチドと複数の抗体の結合を検出することにより、同エピトープに特異的に結合する抗体を得ることができる。
ここで、「複数の抗体」としては、動物を抗原タンパク質又はその部分ペプチドで免疫することによって得たものを用いてもよいし、ファージディスプレイ法によって作製した抗体ライブラリ又は抗体フラグメントライブラリを用いてもよい。ファージディスプレイ法によるライブラリを用いる場合、エピトープ配列を含むペプチドを固相担体に固定しパニングを繰り返すことによって、同エピトープに特異的に結合する抗体を得ることもできる。
【0148】
ヒトキメラ抗体及びヒトCDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体を産生するハイブリドーマのmRNAから抗体遺伝子をクローン化し、これをヒト抗体遺伝子の一部と遺伝子組換え技術で連結することによって作製することができる。
例えば、ヒト型キメラ抗体の場合、マウス抗体を産生するハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素によりcDNAを合成し、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(LH)をPCRでクローニングして配列を解析する。次に、一致率の高い抗体塩基配列から、リーダー配列を含む5’プライマーを作製し、5’プライマーと可変部3’プライマーによって上記cDNAから、シグナル配列から可変領域の3’末端までをPCRでクローニングする。一方で、ヒトIgG1の重鎖及び軽鎖の定常領域をクローニングし、重鎖と軽鎖それぞれについて、マウス抗体由来可変領域と、ヒト抗体由来定常領域とをPCRによるOverlapping Hanging法で連結し、増幅する。得られたDNAを適当なベクターに挿入し、これを形質転換して、ヒト型キメラ抗体を得ることができる。
【0149】
CDR移植抗体の場合、使用するマウス抗体可変部と最も相同性の高いヒト抗体可変部を選択してクローン化し、メガプライマー法を用いた部位選択的突然変異導入により、CDRの塩基配列を改変する。フレームワーク領域を構成するアミノ酸配列をヒト化すると抗原との特異的な結合ができなくなる場合には、フレームワークの一部のアミノ酸をヒト型からラット型に変換してもよい。
元の配列において、1又は2個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列からなるCDRや、元の配列にX%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるCDRは、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、チェーンシャフリング法、CDRウォーキング法などの公知の方法を用いて作製され得る。
これらの方法により、ファージディスプレイ法によってCDRに種々の変異を有する抗体又は抗体断片をファージ表面に提示させ、抗原を使用してスクリーニングすることにより、より親和性が成熟したCDRを得られることが当業者によく知られている(例えば、Wu et al., PNAS, 95:6037-6042(1998); Schier, R. et al., J. Mol. Bio. 263:551-567(1996); Schier, R. et al., J. Mol. Biol. 255:28-43(1996); Yang, W.P. et al., J. Mol. Biol., 254:392-403(1995)。)。本発明は、このような方法で成熟させたCDRを含む抗体も包含する。
【0150】
その他の抗体の製造方法として、トリコスタチンA処理ニワトリB細胞由来DT40細胞株から抗体産生株を取得するAdlib法(Seo, H. et al., Nat. Biotechnol., 6:731-736, 2002)、マウス抗体遺伝子が破壊されヒト抗体遺伝子が導入されたマウスであるKMマウスを免疫してヒト抗体を作製する方法(Itoh, K. et al., Jpn. J. Cancer Res., 92:1313-1321, 2001;Koide, A. et al., J. Mol. Biol., 284:1141-1151, 1998)等があり、これらも本発明に係る抗体の産生に応用することができる。
【0151】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の抗原結合フラグメントは、当該フラグメントをコードするDNAを用いて上述の方法で発現させてもよいし、また、全長の抗体を得てからパパイン、ペプシン等の酵素で処理して断片化してもよい。
【0152】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、作製方法や精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、形態などが異なり得る。しかしながら、得られた抗体が、本発明の抗体と同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。例えば、本発明の抗体を、大腸菌等の原核細胞で発現させた場合、本来の抗体のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。本発明は、かかる抗体も包含する。
【0153】
本発明に係る抗ポドプラニン抗体が、還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合していないN-結合型糖鎖を有する抗体である場合、かかる抗体は公知の方法又はそれに準ずる方法に従って製造することができる。かかる抗体の製造方法は、例えば、国際公開第2002/031140号パンフレット、特開2009-225781号公報に記載されており、その開示は全体として参照により本明細書に組み込まれる。
具体的には、例えば、本発明に係る抗ポドプラニン抗体をコードするDNAを含むベクターを用いて、GDP-フコースの合成に関与する酵素の活性、又はα-1,6-フコシルトランスフェラーゼの活性が低下又は欠失した細胞を形質転換し、得られた形質転換体を培養した後、目的とする抗ポドプラニン抗体を精製することによって得ることができる。
GDP-フコースの合成に関与する酵素としては、例えば、GDP-mannose 4,6-dehydratase(GMP)、GDP-keto-6-deoxymannose 3,5-epimerase,4-reductase(Fx)、GDP-beta-L-fucose pyrophosphorylase(GFPP)が挙げられる。
ここで、細胞は特に限定されないが、哺乳動物細胞が好ましく、例えば上記酵素活性を低下又は欠失されたCHO細胞を用いることができる。
上記方法によって得られる抗体組成物は、還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合している抗体を含む場合もあるが、フコースが結合している抗体の割合は、抗体全体の20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、最も好ましくは3重量%以下である。
【0154】
また、還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合していないN-結合型糖鎖を有する抗体は、本発明に係る抗ポドプラニン抗体をコードするDNAを含むベクターを昆虫卵に導入し、孵化させて昆虫を成長させ、必要に応じて交配を行ってトランスジェニック昆虫を作製し、当該トランスジェニック昆虫又はその分泌物から抗ポドプラニン抗体を抽出することによっても得ることができる。昆虫としてはカイコを用いることができ、その場合、繭から抗体を抽出することができる。
この方法によって得られる抗体組成物も、還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合している抗体を含む場合もあるが、フコースが結合している抗体の割合は、抗体全体の20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、最も好ましくは3重量%以下である。
【0155】
(本発明の抗体の活性)
抗体医薬の薬効メカニズムは、抗体が有する2つの生物活性に基づいている。1つは標的抗原特異的な結合活性であり、結合することによって標的抗原分子の機能を中和する活性である。標的抗原分子の機能の中和はFab領域を介して発揮される。
【0156】
もう1つは、エフェクター活性と呼ばれる抗体の生物活性である。エフェクター活性は、抗体のFc領域を介して、抗体依存性細胞障害活性(antibody-dependent cellular cytotoxicity;ADCC)、補体依存性細胞障害活性(complement-dependent cytotoxicity;CDC)、アポトーシスの直接誘導等の態様で発揮される。
本発明に係る抗ポドプラニン抗体の活性は、以下の方法で測定することができる。
【0157】
(1)結合活性
抗体の結合活性は公知の方法、例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)、蛍光抗体法、FACS法等で、測定することができる。
【0158】
(2)ADCC活性
ADCC活性とは、標的細胞の細胞表面抗原に本発明の抗体が結合した際、そのFc部分にFcγ受容体保有細胞(エフェクター細胞)がFcγ受容体を介して結合し、標的細胞に障害を与える活性を意味する。
ADCC活性は、ポドプラニンを発現している標的細胞とエフェクター細胞と本発明の抗体を混合し、ADCCの程度を測定することによって知ることができる。エフェクター細胞としては、例えば、マウス脾細胞、ヒト末梢血や骨髄から分離した単球核を利用することができる。標的細胞としては、例えばポドプラニン陽性中皮腫細胞やポドプラニン陽性膠芽腫細胞を用いることができる。標的細胞をあらかじめ
51Cr等で標識し、これに本発明の抗体を加えてインキュベーションし、その後標的細胞に対して適切な比のエフェクター細胞を加えてインキュベーションを行う。インキュベーション後、上清を採取し、上清中の上記標識をカウントすることにより、測定することが可能である。
【0159】
(3)CDC活性
CDC活性とは、補体系による細胞障害活性を意味する。
CDC活性は、ADCC活性の試験において、エフェクター細胞に代えて補体を用いることにより測定することができる。
【0160】
(4)腫瘍増殖抑制活性
腫瘍増殖抑制活性は、腫瘍モデル動物を利用して測定することができる。例えば、マウスの皮下に腫瘍を移植し、本発明の抗体を投与する。非投与群と投与群における腫瘍組織の体積を比較することにより、腫瘍増殖抑制効果を測定することができる。
なお、本発明の腫瘍増殖抑制活性は、個々の細胞の増殖を抑制する結果生じるものであっても、細胞死を誘導する結果生じるものであってもよい。
【0161】
(医薬組成物)
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体は、ポドプラニン抗体を発現するがんの予防又は治療に用いてもよい。本発明の医薬組成物の一態様は、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体又はその抗原結合フラグメントを有効成分として含み、さらに薬学的に許容できる担体や添加物を含む。
【0162】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体は、がん細胞を標的とする薬物の送達に用いてもよい。本発明の医薬組成物の別の一態様は、上述した抗がん活性を有する物質を結合させた抗ポドプラニン抗体又はその抗原結合フラグメントを有効成分として含み、さらに薬学的に許容できる担体や添加物を含む。
【0163】
担体及び添加物の例としては、水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等薬学的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、界面活性剤等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0164】
本発明の医薬組成物は、様々な形態、例えば、液剤(例えば注射剤)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤などとすることができる。好ましい態様は、注射剤であり、非経口(例えば、静脈内、経皮、腹腔内、筋内)で投与することが好ましい。
【0165】
本発明の医薬組成物は、ポドプラニンが関連する疾患、特にがんの治療に有効である。
ポドプラニンが関連するがんとしては、悪性脳腫瘍、悪性中皮腫、精巣腫瘍、卵巣がん、及び扁平上皮がん等が挙げられる。ここで、扁平上皮がんには、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肺がん、皮膚がん、子宮頸がんが含まれるがこれらに限定されない。本発明に係るがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体は、これらのがんに特に有用である。
【0166】
本発明は、本発明の抗体を治療有効量投与することを含むポドプラニンが関連する疾患の治療方法も包含する。
本明細書において、治療有効量とは、治療する疾患の一つ又は複数の症状が、それによりある程度緩和される作用物質の量を意味する。抗がん剤の場合、腫瘍サイズの低下;腫瘍の転移の阻害(遅延又は停止);腫瘍増殖の阻害(遅延又は停止)、及びがんと関連する一つ又は複数の症状の緩和、の少なくとも1つを示す量を意味する。
具体的には、本発明の抗体の投与量は、例えば、0.025〜50mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kgであり、より好ましくは0.1〜25mg/kg、さらに好ましくは0.1〜10mg/kg又は0.1〜3mg/kgとすることができるが、これに限定されない。
【0167】
(マーカー、診断薬)
上述のとおり、ポドプラニンは特定のがん細胞において高発現している。従って、本発明に係る抗ポドプラニン抗体は、がん、特に悪性脳腫瘍、悪性中皮腫、精巣腫瘍、卵巣がん、及び各種扁平上皮がん(口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肺がん、皮膚がん、子宮頸がん)などポドプラニンが高発現するがんの診断に有用である。本発明に係る抗ポドプラニン抗体ががん細胞特異的に結合するので、診断に特に有用である。
本発明は、本発明の抗体を含むがんの診断薬、がんの診断のための抗体の使用、本発明の抗体を用いるがんの診断方法をも包含する。
【0168】
本明細書において引用されるすべての特許文献及び非特許文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
【0169】
〔実施例〕
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
【0170】
1.脳腫瘍細胞株へのヒトポドプラニンの遺伝子導入とレクチンマイクロアレイによる解析
脳腫瘍細胞株LN229(ATCCから購入)には、脳腫瘍に特異的な糖鎖抗原が発現していることが知られている(Expression of highly sulfated keratan sulfate synthesized in human glioblastoma cells. Hayatsu N, et al., Biochem Biophys Res Commun. 2008 4;368(2):217-22.; Increased expression of highly sulfated keratan sulfate synthesized in malignant astrocytic tumors. Kato Y, et al., Biochem Biophys Res Commun. 2008 16;369(4):1041-6.)。
そこで、ヒトポドプラニン全長を、LN229細胞にリポフェクション法により遺伝子導入し、ポドプラニンの高発現株(LN229/hPDPN)を樹立した。具体的には、10 cm dishにセミコンフルエントにLN229細胞を培養する。リポフェクションを行う直前に、培地をOPTI-MEM培地(ライフテクノロジー社)に交換する。15ugのDNAを3mLのOPTI-MEM培地で懸濁し、15 μlのPlus reagent(ライフテクノロジー社)、37.5 μlのLipofectamin LTX reagent(ライフテクノロジー社) を順に混ぜ、室温で30分反応させる。この懸濁液を細胞に添加し、6時間後に培地を10% FBS/DMEMに交換する。24時間後に1 mg/mlの濃度になるようにG418 (和光純薬)を添加し、発現細胞のみを選択する。CHO細胞にヒトポドプラニン全長を導入した細胞株(CHO/hPDPN)をコントロール細胞として使用した(Kato Y., et al., J Biol. Chem. 278, 51599-51605, 2003.)。
【0171】
前述のように、LN229細胞とCHO細胞にヒトポドプラニン遺伝子をそれぞれ発現させ、C末端に付加したFLAGタグを用いて精製を行った。レクチマイクロアレイ(グライコテクニカ社、LecChip(登録商標))の解析用として、それぞれの50μg/mlの濃度にPBSで調整した。調整したサンプル溶液20μlとCy3 Mono-Reactive dye 100ig labeling(Cy3 Mono-Reactive dye pack (GEヘルスケア社)を 100μg labelingずつ分けたもの)を混合し、室温、暗所で1時間反応させた。脱塩カラム(ZebaTM Spin Desalting Columns, 7K MWCO, サーモサイエンティフィック社)を 1,500×g、1 分間、4°Cで遠心した。脱塩カラムにTBS (pH7.5) 300μL をアプライし、1,500×g、1 分間、4°Cで遠心した(カラム洗浄) 。さらに、カラム洗浄を2回繰り返した。サンプル溶液20μlとCy3 Mono-Reactive dye 100μg labeling1の混合液とTBS 25μLを脱塩カラムにアプライした後、1,500×g、2 分間、4°Cで遠心し、未反応のCy3を除去した。各サンプルに Probing Solution(グライコテクニカ社) 455μL をアプライし、500μL/tube(濃度=2μg/mL)にした。更にそれぞれProbing Solutionを用いて、1/2 の希釈率で7段階の希釈系列を作製した。LecChip(登録商標)を Probing Solution(100μL/ウェル)で 3 回洗浄後、調製したサンプル(100μL/ウェル)をアプライした。LecChip(登録商標)を 20°Cで、17時間以上反応させた。サンプルを反応させたままの液相状態の LecChip(登録商標)を GlycoStation(登録商標)Reader1200(グライコテクニカ社)で測定した(測定条件:積算回数: 4回、露光時間: 133mSec、カメラゲイン: 85, 95, 105, 115, 125)。
【0172】
図5に、カメラゲイン115、蛋白濃度62.5 ng/mlの結果を示す。図に示す通り、LN229に発現させたヒトポドプラニンとCHOに発現させたヒトポドプラニンの両方ともに、Core1±シアル酸(Core1構造にシアル酸が付加された構造、もしくはCore1構造のみ)に結合性を示す4つのレクチン(Jacalin, Agaricus bisporus agglutinin (ABA), Jacalin, Amaranthus caudatus agglutinin (ACA), and Maclura pomifera agglutinin (MPA))、sialo-mucinに結合性を示す2つのレクチン(Maackia amurensis hemagglutinin (MAH) and Wheat germ agglutinin (WGA))が反応性を示した。一方、LN229に発現させたヒトポドプラニンのみが、ポリラクトサミン構造、すなわちGalβ1-4GlcNAcの繰り返し構造に結合性を示す3つのレクチン(Lycipersicon esculentum lectin (LEL), Solanum tuberosum lectin (STL), Urtica dioica agglutinin (UDA))に反応性を示した。この結果から、LN229に発現させたヒトポドプラニンには、がん細胞特異的な糖鎖構造が付加されていることが示唆された。
【0173】
2.免疫沈降およびウェスタンブロット解析
LN229/hPDPN及びCHO/hPDPNのヒトポドプラニンのC末にはFLAGタグが付加されているため、FLAGタグに対する抗体(M2抗体;シグマアルドリッチ社)で免疫沈降を行い、ウェスタンブロット解析を実施した。
LN229/hPDPNおよびCHO/hPDPNの細胞溶解液を100μgずつ、FLAGタグに対するM2抗体ビーズに加え、4度で1時間反応させた。100ulのFLAG peptide (100 μg/ml)で溶出を行い、5 μlずつを2 x sample buffer (2MEなし)と一緒に100度で煮沸した。調整した10 μlずつのサンプルをゲルにアプライし、SDS-PAGE電気泳動を行った。PVDFメンブレンに転写し、4% スキムミルク/0.05% Tween in PBS(ブロッキングバッファー)を用いて、室温で1時間ブロッキングを行った。高硫酸化ケラタン硫酸に対するモノクローナル抗体5D4(生化学工業)を2 μg/mlの濃度でブロッキングバッファーを用いて希釈し、室温で1時間反応させた。二次抗体(anti-mouse IgG-HRP: ダコ社, 1:2,000 dilution)を室温で30分反応させ、ECL-plus(サーモフィッシャー社)を用いて発色した。検出は、EZ-Capture II(アトー社)を用いた。
【0174】
結果を
図6に示す。LN229/hPDPNおよびCHO/hPDPNから、FLAGタグに対する抗体(M2)で免疫沈降したヒトポドプラニンは、NZ-1抗体により認識された。さらに、LN229/hPDPN由来のポドプラニンは、5D4抗体によって認識されただけでなく、通常のポドプラニンの分子量よりも高分子量であった。一方で、CHO/hPDPN由来のポドプラニンは、5D4抗体によって認識されなかった。以上より、LN229細胞に発現したポドプラニンには、5D4抗体によって認識される腫瘍特異的である高硫酸化ケラタン硫酸が付加されていることが判明した。
【0175】
3.がん細胞特異的抗ポドプラニン抗体の作製
Balb/cマウスに合計4回(10日間に1回)、LN229/hPDPN細胞を1x10
8個ずつ免疫した。ELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)法により、がん細胞株から精製したリコンビナントタンパク質に反応する抗体をスクリーニングした。
リコンビナントタンパク質の精製方法は以下の通りである。LN229/hPDPN細胞を静置培養し、合計10g回収する。0.5% Triton/PBS溶液を10ml添加し、氷上で細胞をピペッティングにより可溶化する。可溶化した溶液を15,000 rpm, 30分遠心する。上清をanti-FLAG抗体(M2)のアフィニティーカラム(シグマアルドリッチ社)1mlに加え、4度で18時間反応させる。10mlのPBSで3回洗浄し、0.1 mg/mlのFLAG peptide(シグマアルドリッチ社)を1mlずつ添加し、カラムに吸着したリコンビナントタンパク質を溶出させる。OD280で吸光度を測定し、溶出したフラクションを濃縮し、最終濃度を0.1 mg/mlに調整する。
ELISAの方法は以下の通りである。1μg/mlで精製したポドプラニンを96 well plate(Nunc MaxiSorp; サーモフィッシャー社)に30分、37度で固相化し、SuperBlock/PBST(サーモフィッシャー社)を用いて、30分、37度でブロッキングを行った。同様に、マウスハイブリドーマ由来の培養上清、anti-mouse IgG-HRP (ダコ社)を30分、37度の条件で順次反応させ、TMB-Ultra (サーモフィッシャー社)で発色させた。マイクロプレートリーダー(バイオラッド社)を用いて、吸光度の測定(OD655nm)を行った。
選択されたがん細胞特異的抗ポドプラニン抗体を、LpMab-23と名付けた。
【0176】
4.抗ポドプラニン抗体のアミノ酸配列及び抗体遺伝子の塩基配列の決定
抗ポドプラニン抗体LpMab-23のハイブリドーマ細胞1×10
6個からQIAGEN RNeasy mini kit(キアゲン社)を使用してトータルRNAを抽出した。トータルRNA 1μgからSuperScript III First-Strand Syntheses kit(ライフテクノロジー社)を使用してcDNA合成を行った。以下の実験にcDNAを鋳型として使用した。
H鎖の増幅に以下のプライマーを使用した。
LpMab-23
LpMab-23HatgS:aataagcttAGCATGGCTGTCCTGGTGCT(配列番号:81)
mIgG1terAS:ggcggccgcTCATTTACCAGGAGAGTGGGAGA(配列番号:82)
【0177】
PCR反応にはQIAGEN HotStar Taq(キアゲン社)を使用した。温度条件は、最初に95℃15分、次に94℃30秒、50℃30秒、72℃1分40秒を35サイクル、最後に72℃10分とした。増幅したPCR産物はQIAGEN PCR purification kitにて精製し、pcDNA3.1にてサブクローニングし、ベクタープライマーから塩基配列の決定を行った。
【0178】
L鎖の増幅に以下のプライマーを使用した。
LpMab-23
LpMab-23LatgS:aataagcttAAAATGATGAGTCCTGCCCAG(配列番号:83)
moIgCKterAS:ggcggccgcCTAACACTCATTCCTGTTGAA(配列番号:84)
【0179】
PCR反応にはQIAGEN HotStar Taqを使用した。温度条件は、最初に95℃15分、次に94℃30秒、53℃30秒、72℃1分を35サイクル、最後に72℃10分とした。増幅したPCR産物はQIAGEN PCR purification kitにて精製し、pcDNA3.1にてサブクローニングし、ベクタープライマーから塩基配列の決定を行った。塩基配列からアミノ酸配列を予測した。
LpMab-23の重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列は、配列番号:71〜76のとおりであった。
LpMab-23の重鎖DNA配列は、配列番号:80のとおりであった。
LpMab-23の軽鎖DNA配列は、配列番号:79のとおりであった。
LpMab-23の重鎖アミノ酸配列は、配列番号:78のとおりであった。
LpMab-23の軽鎖アミノ酸配列は、配列番号:77のとおりであった。
【0180】
5.フローサイトメトリー
抗ポドプラニン抗体(LpMab-23)のポドプラニン発現株に対する反応性をフローサイトメトリーにて調べた。まず、ヒトポドプラニンを発現した各種細胞株に、LpMab-23(1μg/ml)を4℃で30分反応させ、さらに抗マウスIgG-FITC抗体(ライフテクノロジー社)を4℃で30分反応させた。ポジティブコントロールとして抗ポドプラニン抗体であるLpMab-7、ネガティブコントロールとして二次抗体のみを用いた。蛍光強度をEC800(Sony社)で測定した。
結果を
図7に示す。LpMab-23抗体は、膠芽腫(LN319)、肺扁平上皮がん(RERF-LC-AI/hPDPN)、悪性中皮腫(Y-MESO14/hPDPN)、口腔がん(HSC3/hPDPN)などのがん細胞上のポドプラニンに高反応性を示した。一方で、リンパ管内皮細胞、正常中皮細胞(Met-5A)、腎上皮細胞(HEK-293T)には弱い反応性を示した。
また、LpMab-23のH鎖とL鎖の全長をpcDNA3.1ベクター(ライフテクノロジー社)にTAクローニングし、発現プラスミドを作製した。各プラスミドをCHO細胞株にリポフェクション法により導入し、リコンビナント抗体を発現させた。培養上清(遺伝子導入から1日後に回収)中のリコンビナント抗体(rLpMab-23)を4℃で30分それぞれポドプラニン発現株であるLN319細胞と反応させ、さらに抗マウスIgG-FITC抗体(ライフテクノロジー社)を4℃で30分それぞれ反応させた。ネガティブコントロールとして、二次抗体のみを用いた。蛍光強度をCell Analyzer EC800(Sony社)で測定した。その結果、
図9に示す通り、rLpMab-23は、LN319細胞を用いたフローサイトメトリーにおいて、良好な反応性を示した。よって、配列番号:77〜11に示したLpMab-23のH鎖とL鎖の配列が正しいことが確認された。
また、LpMab-23のH鎖とL鎖の可変領域をヒトIgG1の定常領域を組み込んだpcDNA3.1ベクター(ライフテクノロジー社)に組み込み、ヒトキメラ型LpMab-23抗体(chLpMab-23)の発現プラスミドを作製した。CHO細胞株にリポフェクション法により導入し、培養上清中にchLpMab-23のリコンビナント抗体を発現させた。培養上清を遺伝子導入から1日後に回収し、4℃で30分、LN319細胞と反応させ、さらに抗ヒトIgG-FITC抗体(ライフテクノロジー社)を4℃で30分反応させた。ポジティブコントロールとして、ヒトキメラ型LpMab-7 (chLpMab-7)、ネガティブコントロールとして、二次抗体のみを用いた。蛍光強度をCell Analyzer EC800(Sony社)で測定した。その結果、
図10に示す通り、chLpMab-23抗体は、膠芽腫細胞(LN319)のポドプラニンに高反応性を示した。
chLpMab-23抗体の重鎖アミノ酸配列、軽鎖アミノ酸配列、重鎖DNA配列、及び軽鎖DNA酸配列を、配列番号:85〜88に示す。
【0181】
6.免疫組織染色
各種パラフィン切片を、キシレンとエタノールの系列を使って脱パラフィンした。抗原賦活化の操作は行わなかった。3% H
2O
2を用いて内在性のペルオキシダーゼを不活性化した。SuperBlock(サーモフィッシャー社)を用いて、室温、10分、ブロッキングを行い、一次抗体を室温で1時間反応させた。LSAB kit(ダコ社)で増幅後、DAB(ダコ社)で発色した。
LpMab-23の染色結果を
図8に示す。LpMab-23は、がん細胞特異的抗体である。すなわち、LpMab-23は肺扁平上皮がん、食道扁平上皮がん、膠芽腫、セミノーマの腫瘍部分を染色したが、リンパ管内皮細胞(矢印)を全く染色しなかった。それに対し、ポジティブコントロールとして用いたLpMab-7は、がん細胞とリンパ管内皮細胞の両方に反応した。さらに、LpMab-23は肺胞上皮細胞に反応しなかったが、LpMab-7は肺胞上皮細胞を染色した。
【0182】
〔要約〕
本発明2は、医薬、診断薬、および試薬として有用な、がん細胞特異的な抗ポドプラニン抗体と、その戦略的な作製法を提供することを課題とする。本発明2は、がん細胞特異的に発現するポドプラニンに対する抗体の製造方法であって、がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞に、ポドプラニンをコードする核酸を導入して発現させる工程と、前記細胞で非ヒト哺乳動物を免疫して抗体を得る工程と、前記抗体の一次スクリーニングでがん細胞特異的ポドプラニンに反応する抗体を選択する工程と、を含む方法を提供する。
【0184】
〔技術分野〕
本発明は、ハイブリドーマを再賦活化させることを通じて、活性のあるモノクローナル抗体を製造する方法に関する。
【0185】
〔背景技術〕
モノクローナル抗体は、実験動物(通常はマウス)の抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させてハイブリドーマを作製し、ハイブリドーマをスクリーニングして目的の抗体を産生する株を選択することによって作製する。1975年にモノクローナル抗体を作製する方法を発明したジョルジュ・J・F・ケーラーとセーサル・ミルスタインは、1984年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。所望のモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマのスクリーニングには、通常ELISA法を用い、高い活性が得られたウェルについて、シングルセルクローニングを実施する。その結果、高い活性が得られたウェルに入っている融合細胞が、所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマとなる。
【0186】
しかしながら、シングルセルクローニングで得られたハイブリドーマが産生する抗体には、最初のELISAでは得られた活性が再現されないことも多い。原因としては、以下の2つが考えられる。第一に、1つのウェル(96ウェルプレートなど)に入った段階で、所望の抗体を産生するハイブリドーマの増殖が止まり、クローンとして樹立できないことが挙げられる。第二に、クローンにはなるが、96ウェルプレートから、24ウェルプレート、6ウェルプレート、10cmディッシュなどに継代していく過程で、所望の抗体遺伝子が失われてしてしまい、ハイブリドーマとして樹立が困難となることが挙げられる。
【0187】
シングルセルクローニングにおいて活性が再現されない原因は一切解明されていないが、ミエローマ細胞には固有の抗体遺伝子があるため、後から細胞融合によって導入された目的の抗体遺伝子が排除されるのではないかと考えられる。あるいは、ミエローマ細胞由来の抗体遺伝子と抗体産生細胞由来の目的の抗体遺伝子のどちらかが、確率論的に排除されている可能性もある。いずれにしても、目的の抗体遺伝子はハイブリドーマの生存には不必要であるため、排除される傾向にある。
【0188】
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
そこで、本発明は、ハイブリドーマの抗体産生能を向上させて、特に、シングルセルクローニングにおいて活性が再現されないハイブリドーマや、継代培養の過程で活性を有する抗体を産生しなくなったハイブリドーマの抗体産生能を回復させて、活性を有する抗体を作製する方法を提供することを目的とする。
【0189】
〔課題を解決するための手段〕
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、ハイブリドーマ作製の工程で、確率論的に目的の抗体遺伝子が排除されると仮定した場合、抗体産生細胞とミエローマ細胞のハイブリドーマにさらに細胞融合の操作を加えれば、2回目の細胞融合の工程で、ミエローマ細胞由来の抗体遺伝子が排除され、目的の抗体遺伝子が残る可能性もあると考えた。
そして、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させたハイブリドーマを、再度ハイブリドーマ又はミエローマ細胞と融合させ、得られたハイブリドーマでシングルセルクローニングを行ったところ、活性の有る抗体を産生するハイブリドーマが得られることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0190】
すなわち、本発明は、
〔B1〕第1のハイブリドーマと、第2のハイブリドーマ又はミエローマ細胞と、を融合させる細胞融合工程と、
前記融合細胞からモノクローナル抗体を得る工程と、を含む抗体の製造方法;
〔B2〕前記第1のハイブリドーマが、活性を有するモノクローナル抗体の産生能が低下したハイブリドーマである、上記〔B1〕に記載の抗体の製造方法;
〔B3〕前記第2のハイブリドーマは、前記第1のハイブリドーマと同一株に由来する、上記〔B1〕又は〔B2〕に記載の抗体の製造方法;
〔B4〕前記細胞融合工程は、不活化センダイウイルス又はポリエチレングリコールの存在下で行う、上記〔B1〕から〔B3〕のいずれか1項に記載の方法;
〔B5〕前記不活化センダイウイルスは、不活化センダイウイルスのエンベロープである、上記〔B4〕に記載の方法;
〔B6〕前記ミエローマ細胞はP3U1細胞である、上記〔B1〕から〔B5〕のいずれか1項に記載の方法;及び
〔B7〕前記細胞融合工程において、前記第1のハイブリドーマとミエローマ細胞の細胞数を1:10〜10:1の割合とする、上記〔B1〕から〔B6〕のいずれか1項に記載の方法に関する。
【0191】
〔発明の効果〕
本発明によれば、ハイブリドーマの抗体産生能を、別のハイブリドーマ又はミエローマと融合させることにより高めることができる。特に、本発明の方法によれば、シングルセルクローニングにおいて活性が再現されなかったハイブリドーマや、継代培養の過程で活性を有する抗体を産生しなくなったハイブリドーマを再賦活化することができ、活性を有するモノクローナル抗体を作製することができる。
【0192】
〔発明を実施するための形態〕
本発明に係る抗体の製造方法の一態様は、第1のハイブリドーマと、第2のハイブリドーマとを融合させる細胞融合工程と、こうして得られた融合細胞からモノクローナル抗体を精製する工程と、を含む。
【0193】
本明細書においてハイブリドーマとは、抗体産生細胞と増殖可能な腫瘍細胞とを融合させた増殖可能なモノクローナル抗体産生細胞をいう。抗体産生細胞としては、例えば、所望の抗原で免疫した非ヒト哺乳動物のB細胞、脾臓細胞、リンパ節細胞、胸腺細胞、末梢血細胞が用いられる。これらの細胞は、まず、抗原を免疫動物の腹腔内又は皮下に注射すし、抗原を投与後、血清中に目的の抗体レベルが上昇し、免疫されたのを確認した後に、当該免疫動物から抗体産生細胞を採取することによって得ることができる。具体的には、免疫動物から脾臓、リンパ節、胸腺、または末梢血を摘出し、摘出した組織を破砕、濾過、遠心分離等することにより得ることができる。
【0194】
本明細書において、非ヒト哺乳動物は、特に限定されないが、例えば、マウス、モルモット、ハムスター、ラット、ウサギ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシが挙げられる。非ヒト哺乳動物は、他の動物由来の抗体を産生するように作出されたトランスジェニック非ヒト哺乳動物であってもよい。
【0195】
ハイブリドーマに用いる腫瘍細胞としては、非ヒト哺乳動物に由来するミエローマ細胞(骨髄腫細胞)が用いられる。ミエローマ細胞としては、Sp2/0、SP2/0-Ag14、P3X63Ag8、P3X63Ag8U1
(P3U1)、NS-1、P3X63Ag8.653等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0196】
抗体産生細胞と腫瘍細胞との融合は、公知の方法にしたがって行うことができ、例えば、センダイウイルス、ポリエチレングリコール(PEG)、細胞融合を電気的に誘発する方法等を用いることができる。抗体産生細胞と腫瘍細胞は同種の動物に由来するものでも、異種の動物に由来するものでもよい。調製されたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンを含む培養液)で培養することにより、選択される。上記HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、数日〜数週間)継続する。
【0197】
第1のハイブリドーマは、活性を有するモノクローナル抗体の産生能が低下したハイブリドーマであってもよい。本明細書において「活性を有するモノクローナル抗体の産生能が低下したハイブリドーマ」とは、一度活性のある抗体を産生していることが確認されたにもかかわらず、その後、活性のあるモノクローナル抗体産生能の全部又は一部が失われたハイブリドーマを意味する。活性のあるモノクローナル抗体産生能の低下の原因は、シングルセルクローニングや、複数の継代培養などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0198】
活性を有する抗体産生能の低下の度合いは特に限定されず、例えば、目的のモノクローナル抗体をまったく精製できないハイブリドーマ、産生される抗体量が低下しているハイブリドーマ、産生される抗体の量は当初と変わりないが、活性がない又は活性の低下したモノクローナル抗体しか産生できないハイブリドーマ、樹立時と比べて細胞増殖能が低下したハイブリドーマ、無血清培地、低タンパク培地、化学合成培地などへの培地の変更により増殖が遅延あるいは停止したハイブリドーマ、マウスの腹水を作製することができないハイブリドーマ、マウスの腹水を作製することができるが、腹水中に目的の抗体を産生していないハイブリドーマ、などを含む。
【0199】
本明細書において、第2のハイブリドーマは、どのようなものであってもよいが、例えば、第1のハイブリドーマと同一の株に由来するハイブリドーマ、あるいは他の抗体を産生するハイブリドーマであって、活性のある抗体産生能が低下したハイブリドーマを用いることができる。第2のハイブリドーマは、活性のある抗体産生能が低下したものであってもよいし、当初の抗体産生能を維持したものであってもよい。
【0200】
第1のハイブリドーマと第2のハイブリドーマを融合させる細胞融合工程は、上述したハイブリドーマの製造方法と同様に、不活化センダイウイルスやPEGを用いて行うことができる。不活化センダイウイルスは、センダイウイルエンベロープであってもよい。PEGの分子量は特に限定されないが、例えば、分子量約1000〜5000のもの、分子量1500や4500のものを用いることができる。不活化センダイウイルスやPEGは、市販のものを用いて、添付のプロトコルに従って行うことができる。
【0201】
第1のハイブリドーマと第2のハイブリドーマの細胞数の比は特に限定されないが、例えば約1:10〜10:1とすることができ、約1:5〜5:1、約1:3〜3:1、約1:2〜2:1、約1:1としてもよい。
【0202】
不活化センダイウイルスを用いた細胞融合の一般的な手順は以下の通りである。融合する細胞を調製し、コニカルチューブに入れて混合し、遠心した後に上清を除去する。氷冷した融合用緩衝液を添加し、ピペッティングにより均一な懸濁液とする。この懸濁液に氷冷したセンダイウイルス懸濁液を添加し、氷上に5分静置する。5分間、1,000 rpmで遠心した後、そのまま37度で15分間インキュベーションする。96ウェルプレートに細胞を播種して、翌日からHAT培地に交換して培養する。
【0203】
PEGを用いた細胞の融合の一般的な手順は以下の通りである。融合する細胞を調製し、混合する。撹拌しながらPEG溶液を細胞にゆっくり添加し、さらに撹拌しながら培地を細胞にゆっくり添加する。遠心した後に上清を除去し、培地を添加し96ウェルプレートに細胞を播種して、翌日からHAT培地に交換して培養する。
【0204】
上述のように得られた第1のハイブリドーマと第2のハイブリドーマとの融合細胞からモノクローナル抗体を得る工程は、通常のハイブリドーマから抗体を得る公知の方法にしたがって行うことができる。本明細書において「抗体を得る」とは、抗体を精製することに加え、抗体を含む培養上清を回収することも含む。
抗体を精製する場合、例えば、HAT培地で培養し、ハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)の死滅後、限界希釈法を行って、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのシングルセルクローニングを行う。その後、免疫薄層クロマトグラフィー、ELISA、RIA、BIAcore、蛍光抗体法等の当該技術分野において知られるスクリーニング方法で目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングを行うことができる。
モノクローナル抗体は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、プロテインAもしくはプロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、又はアフィニティーカラムにより精製することができる。
このようにして作製されたハイブリドーマは、第1のハイブリドーマにおいて産生能が低下していたモノクローナル抗体を、活性を有するモノクローナル抗体として産生することが可能である。
【0205】
本発明に係る抗体の製造方法の別の一態様は、第1のハイブリドーマとミエローマ細胞と融合させる細胞融合工程と、融合細胞からモノクローナル抗体を精製する工程と、を含む。第1のハイブリドーマは、活性を有するモノクローナル抗体の産生能が低下したものであってもよい。
【0206】
本態様で用いられるミエローマ細胞は、上述したハイブリドーマの作製に用いられるミエローマ細胞と同様である。ハイブリドーマとミエローマ細胞とを融合させる細胞融合工程と、融合細胞からモノクローナル抗体を精製する工程は、第1及び第2のハイブリドーマを融合させる態様と同様に行うことができる。
【0207】
このようにして作製されたハイブリドーマも、第1のハイブリドーマにおいて産生能が低下していたモノクローナル抗体を、活性を有するモノクローナル抗体として産生することが可能である。
【0208】
本発明に係る抗体の製造方法のさらに別の態様として、第1及び第2のハイブリドーマを融合させたハイブリドーマに、さらに第3のハイブリドーマ又はミエローマ細胞を融合させ、得られた融合細胞からモノクローナル抗体を精製してもよい。
また、第1のハイブリドーマとミエローマ細胞を融合させたハイブリドーマに、さらに第3のハイブリドーマ又はミエローマ細胞を融合させ、得られた融合細胞からモノクローナル抗体を精製してもよい。
【0209】
〔実施例〕
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
【0210】
実施例1
DH2抗体(抗GM3抗体)はマウス抗体として樹立され(Dohi T et al., Cancer Res. 48, 5680-5685, 1988)、数多くの論文で使用されていた。しかし、その後、ハイブリドーマからの抗体産生能が落ちてしまい、最初に報告されていた免疫薄層クロマトグラフィーなどの実験に利用できない状況となっている。
様々な研究室において、ハイブリドーマの限界希釈法により再クローニングを行ったが、その精製抗体によっても免疫薄層クロマトグラフィーによる反応性が全くなくなってしまった。この精製抗体の由来としては、DH2ハイブリドーマ中に複数の抗体遺伝子が含まれていることや、マウスに腹水を産生させた際に、マウス由来の抗体が混在している可能性など、複数の理由が考えられる。したがって、この精製抗体は、本来の活性のあるDH2抗体が失活したものではない。
【0211】
そこで、活性のある抗体の産生量が著しく低下し、目的外の抗体のみを産生するDH2抗体のハイブリドーマDH2とP3U1細胞を融合させ、再クローニングを行った。細胞融合は、センダイウイルスエンベロープGenomONE-CF(石原産業)を用いて行った。まず、融合する細胞(DH2とP3U1細胞)を1:1に調製し、コニカルチューブに入れて混合し、遠心した後に上清を除去した。氷冷した融合用緩衝液を添加し、ピペッティングにより均一な懸濁液とした。この懸濁液に氷冷したセンダイウイルス懸濁液を添加し、氷上に5分静置した。5分間、1,000rpmで遠心した後、そのまま37度で15分間インキュベーションした。96ウェルプレートに細胞を播種して、翌日からHAT培地に交換して培養した。センダイウイルスエンベロープを用いた融合方法を、RESET(Refusion by Sendai-virus Envelope Transformation)法と名付けた。
再クローニング後、活性のある抗体を産生しているウェルのハイブリドーマを拡大培養し、10cmディッシュまで継代をしても活性が保持されていることを確認した。このハイブリドーマをDH2Rと名付け、さらに、無血清培地を用いて大量培養し、ProteinGカラムによって抗体を精製した。ハイブリドーマDH2Rから精製した抗体の量は、ハイブリドーマDH2から精製した抗体の量と比較し、3倍程度増加した。
【0212】
得られた抗体の抗原結合活性を免疫薄層クロマトグラフィーで調べた。
100ng/laneの精製GM3を薄層クロマトグラフィーで展開し、ハイブリドーマDH2の培養上清からの精製抗体(lane 1)と、RESET法により樹立したハイブリドーマDH2Rの培養上清からの精製抗体(lane 2)を、それぞれ1μg/mL反応させた。その後、anti-mouse IgG-HRPを反応させ、ECLの発色をLAS3000にて検出した。結果を
図11に示す。lane 2のみにGM3のバンドが検出された。
【0213】
このように、ハイブリドーマDH2とハイブリドーマDH2Rの抗体産生量の差が3倍程度にも関わらず、ハイブリドーマDH2R由来の精製抗体にのみ、免疫薄層クロマトグラフィーにおいてGM3に対する特異的な反応が確認され、ハイブリドーマDH2由来の精製抗体にはまったく活性が確認できなかったことは、ハイブリドーマDH2が複数の抗体遺伝子を有しており、継代を続けることにより、目的のDH2抗体の抗体遺伝子の発現が抑制されたり欠失することにより、活性のない抗体遺伝子の発現が優位となった結果、活性のない抗体が優位に産生され続けるようになったことを示している。
【0214】
実際、モノクローナル抗体を産生しているハイブリドーマは、複数の抗体遺伝子を有していることが知られており、ハイブリドーマから抗体遺伝子をクローニングすると、単一のハイブリドーマから複数の重鎖、軽鎖の遺伝子がクローニングされる。すなわち、ハイブリドーマには、ミエローマ細胞由来の抗体遺伝子以外にも、複数の抗体産生細胞の融合による抗体産生細胞の融合による抗体遺伝子が含まれており、これらの目的外の抗体遺伝子が優位になると、目的の抗体遺伝子が欠失したり発現が抑制されたりするものと考えられる。
【0215】
実施例2
本発明者らは、YM-1抗体(抗ポドプラニン抗体)をラット抗体として樹立した(Kaneko M et al.、 J Biol Chem. 2004 Sep 10;279(37):38838-43)。YM-1抗体は、ヒトポドプラニンに対し、非常に高い活性を持っており、その後複数の論文で使用されている。 しかしながら、YM-1ハイブリドーマを限界希釈法により再クローニングを行っても、クローンを樹立できなかった。培養上清中の抗体量は非常に少なく、精製抗体の取得も難しかったため、論文でも培養上清が用いられている。YM-1抗体は、市販されているが(医学生物学研究所(MBL)社)、精製抗体が取得不可能だったため、濃縮抗体として販売されている。YM-1抗体の培養上清を詳細に調べると、活性のないIgMクラスの抗体が入っており、YM-1ハイブリドーマにも複数の抗体遺伝子が含まれていることがわかった。このIgMクラスの抗体遺伝子の存在により、活性のある抗ポドプラニン抗体の安定的産生ができないと考えられた。
【0216】
各種実験(ウェスタンブロット、免疫組織染色、免疫細胞染色、など)には、培養上清で問題ないことが多いが、動物実験などに使用する場合は、精製抗体が大量に必要となる。そこで、YM-1ハイブリドーマをP3U1細胞と融合させ、再クローニングを行った。まず、融合する細胞(YM-1ハイブリドーマとP3U1細胞)を無血清培地中で調製し、1:1の細胞数で混合した。37度の温浴中でよく撹拌しながら、1mlのPEG1,500溶液(シグマアルドリッチ社)を細胞にゆっくり添加し、さらに撹拌しながら5mlの無血清培地(RPMI培地;シグマアルドリッチ社)を細胞にゆっくり添加した。遠心した後に上清を除去し、10%FBS(ライフテクノロジー社)入りのRPMI培地を添加し、96ウェルプレートに細胞を播種して、翌日からHAT入り培地に交換して培養した。PEGを用いた融合方法を、REPEAT(Refusion by PEG attachment)法と名付けた。
再クローニング後、活性のある抗体を産生しているウェルのハイブリドーマを拡大培養し、10cmディッシュまで継代をしても活性が保持されていることを確認した。このハイブリドーマをYM-1Rと名付け、さらに、無血清培地を用いて大量培養し、ProteinGカラムによって抗体を精製した。ハイブリドーマYM-1からは精製抗体をまったく得られなかったが、ハイブリドーマYM-1Rからは精製抗体を得ることができ、YM-1培養上清を用いた実験結果を再現できた。
【0217】
〔要約〕
本発明は、シングルセルクローニングにおいて活性が再現されないハイブリドーマや、継代培養の過程で活性を有する抗体を産生しなくなったハイブリドーマを再賦活化することにより、活性を有する抗体を作製する方法を提供することを目的とする。本発明は、活性を有するモノクローナル抗体の産生能が低下した第1のハイブリドーマと、第2のハイブリドーマ又はミエローマ細胞と、を融合させる細胞融合工程と、前記融合細胞からモノクローナル抗体を精製する工程と、を含む抗体の製造方法を提供する。