特許第6473421号(P6473421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インスティトゥト・キミク・デ・サリア・セーエーテーエセ・フンダシオ・プリバダの特許一覧

特許6473421薬物送達用の修飾ポリ(ベータ−アミノエステル)
<>
  • 特許6473421-薬物送達用の修飾ポリ(ベータ−アミノエステル) 図000041
  • 特許6473421-薬物送達用の修飾ポリ(ベータ−アミノエステル) 図000042
  • 特許6473421-薬物送達用の修飾ポリ(ベータ−アミノエステル) 図000043
  • 特許6473421-薬物送達用の修飾ポリ(ベータ−アミノエステル) 図000044
  • 特許6473421-薬物送達用の修飾ポリ(ベータ−アミノエステル) 図000045
  • 特許6473421-薬物送達用の修飾ポリ(ベータ−アミノエステル) 図000046
  • 特許6473421-薬物送達用の修飾ポリ(ベータ−アミノエステル) 図000047
  • 特許6473421-薬物送達用の修飾ポリ(ベータ−アミノエステル) 図000048
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473421
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】薬物送達用の修飾ポリ(ベータ−アミノエステル)
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/00 20060101AFI20190207BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20190207BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20190207BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20190207BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20190207BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20190207BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20190207BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20190207BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20190207BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20190207BHJP
   A61P 5/48 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   C08G73/00
   A61K47/34
   A61K31/7088
   A61K31/713
   A61K31/7105
   A61K9/14
   A61K9/51
   A61K48/00
   A61K38/28
   A61P3/10
   A61P5/48
【請求項の数】23
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2015-560842(P2015-560842)
(86)(22)【出願日】2014年3月10日
(65)【公表番号】特表2016-511316(P2016-511316A)
(43)【公表日】2016年4月14日
(86)【国際出願番号】IB2014059594
(87)【国際公開番号】WO2014136100
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2017年3月10日
(31)【優先権主張番号】1304245.2
(32)【優先日】2013年3月8日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】513281644
【氏名又は名称】インスティトゥト・キミク・デ・サリア・セーエーテーエセ・フンダシオ・プリバダ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】ブーロス・ゴメズ,サルバドール
(72)【発明者】
【氏名】ラモス・ペレス,ヴィクトル
(72)【発明者】
【氏名】セゴヴィア・ラモス,ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】ドスタ・ポンス,ペレ
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0114759(US,A1)
【文献】 特表2007−504353(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0294909(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00−73/26
A61K 9/14
A61K 9/51
A61K 31/7088
A61K 31/7105
A61K 31/713
A61K 38/28
A61K 47/34
A61K 48/00
A61P 3/10
A61P 5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】
[式中、各L及びLは、
【化2】
、O、S、NR及び結合からなる群から独立に選ばれ;ここで、Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から独立に選ばれ;
は、アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、アリーレン又はヘテロアリーレンからなる群から独立に選ばれ;
は、
【化3】
からなる群から選ばれ;
は、アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、アリーレン又はヘテロアリーレンからなる群から独立に選ばれ;
及びRは、オリゴペプチド及びRから独立に選ばれ;
ここで、R及びRの少なくとも一つはオリゴペプチドであり;
一つの又は各オリゴペプチドがpH7で正味の正電荷を有する;または一つの又は各オリゴペプチドがpH7で負に荷電した天然アミノ酸とpH7で正に荷電した天然アミノ酸との混合物を含み;
そして、Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から選ばれ;
各Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から独立に選ばれ;そして
nは5〜10,000の整数である]のポリマー
又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項2】
一つの又は各オリゴペプチドが、リシン及びアルギニンからなる群から選択されるアミノ酸残基を含み;または一つの又は各オリゴペプチドがpH7で負に荷電した天然アミノ酸とpH7で正に荷電した天然アミノ酸との混合物を含む、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
一つの又は各オリゴペプチドが、3〜20個のアミノ酸残基を含む、請求項1または2に記載のポリマー。
【請求項4】
一つの又は各オリゴペプチドがpH7で正味の正電荷を有する、請求項1〜3のいずれかに記載のポリマー。
【請求項5】
一つの又は各オリゴペプチドが、リシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群から選ばれるアミノ酸残基を含む、請求項1または2に記載のポリマー。
【請求項6】
一つの又は各オリゴペプチドが、式VII:
【化4】
[式中、pは2〜19の整数であり、Rは、出現するたびに、HNC(=NH)−NH(CH−、HN(CH−又は(1H−イミダゾール−4−イル)−CH−からなる群から選ばれる]の化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項7】
及びRがともにオリゴペプチドである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項8】
及びRが異なるオリゴペプチドである、請求項7に記載のポリマー。
【請求項9】
及びRの一つがオリゴペプチドで、R及びRの一つがRである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項10】
nが1〜20である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項11】
が、水素、−(CHNH、−(CHNHMe、−(CHOH、−(CHCH、−(CH(OCHCHNH、−(CH(OCHCHOH又は−(CH(OCHCHCHからなる群から選ばれ、mが1〜20の整数である、請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項12】
各Lが、−C1−10 アルキレン−(S−S)−C1−10アルキレン−からなる群から独立に選ばれ、qが0又は1である、請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項13】
各Rが、水素、C1−6アルキル、C1−6アルケニル、C1−6アルキニル、C1−6ヒドロキシアルキル、ヒドロキシル、C1−6アルコキシ、ハロゲン、アリール、ヘテロサイクリック、ヘテロアリール、シアノ、−OC−C1−6アルキル、カルバモイル、−CO2H、−CO−C1−6アルキル、C1−6アルキルチオエーテル、チオール、又はウレイドから独立に選ばれる、請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項14】
(a)式I:
【化5】
[式中、各L及びLは、
【化6】
、O、S、NR及び結合からなる群から独立に選ばれ;ここで、Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から独立に選ばれ;
は、アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、アリーレン又はヘテロアリーレンからなる群から独立に選ばれ;
は、
【化7】
からなる群から選ばれ;
は、アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、アリーレン又はヘテロアリーレンからなる群から独立に選ばれ;
及びRは、オリゴペプチド及びRから独立に選ばれ;
ここで、R及びRの少なくとも一つはオリゴペプチドであり;
一つの又は各オリゴペプチドがpH7で正味の正電荷を有し;
そして、Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から選ばれ;
各Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から独立に選ばれ;そして
nは5〜10,000の整数である]のポリマー
又はその薬学的に許容可能な塩;と
(b)式I:
【化8】
[式中、各L及びLは、
【化9】
、O、S、NR及び結合からなる群から独立に選ばれ;ここで、Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から独立に選ばれ;
は、アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、アリーレン又はヘテロアリーレンからなる群から独立に選ばれ;
は、
【化10】
からなる群から選ばれ;
は、アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、アリーレン又はヘテロアリーレンからなる群から独立に選ばれ;
及びRは、オリゴペプチド及びRから独立に選ばれ;
ここで、R及びRの少なくとも一つはオリゴペプチドであり;
一つの又は各オリゴペプチドがpH7で正味の負電荷を有し;
そして、Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から選ばれ;
各Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から独立に選ばれ;そして
nは5〜10,000の整数である]のポリマー
又はその薬学的に許容可能な塩;とを含む、
ナノ粒子。
【請求項15】
活性薬剤をさらに含む、請求項14に記載のナノ粒子。
【請求項16】
活性薬剤と、請求項1〜13のいずれか1項に記載のポリマーとを含む組成物、または請求項15に記載のナノ粒子を含む組成物。
【請求項17】
活性薬剤がポリヌクレオチドである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
ポリヌクレオチドがRNA、DNA又はsiRNAである、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
組成物が、ポリヌクレオチドとポリマーを含有するナノ粒子を含む、請求項17または18に記載の組成物。
【請求項20】
薬剤を、請求項1〜13のいずれか1項に記載のポリマーのマトリックス中にカプセル化してナノ粒子を形成させる方法であって、該方法は、薬剤を準備し;ポリマーを準備し;そして薬剤とポリマーを適切な条件下で接触させてナノ粒子を形成させる工程を含む方法。
【請求項21】
薬剤が、DNA、RNA及びsiRNAから選ばれるポリヌクレオチド、小分子又はタンパク質である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
接触工程が、(a)薬剤とポリマーの混合物のスプレー乾燥、(b)二重エマルション溶媒蒸発技術(double emulsion solvent evaporation techniques)又は(c)転相技術を含む、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
医薬に使用するための、請求項1〜13のいずれか1項に記載のポリマー、請求項14または15に記載のナノ粒子、又は請求項16〜18のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性薬剤の送達に使用するのに適切なポリマーに関する。本発明はまた、これらのポリマーを含むナノ粒子及びそれらの製造法にも関する。
【背景技術】
【0002】
DNA及びRNAのようなポリヌクレオチドを送達するための安全で効率的なベクターがないことは、依然として遺伝子治療の成功のための主たる障害となっている(Luo,D.& Saltzman,W.M.合成DNA送達システム(Synthetic DNA delivery systems).Nature Biotech.18,33−37(2000);Kamimura K.ら,遺伝子送達システムの進歩(Advances in Gene Delivery Systems).Pharmaceut.Med.25,293−306(2011);Miele E.ら,ナノ粒子をベースにした低分子干渉RNAの送達:がん治療への挑戦(Nanoparticle-based delivery of small interfering RNA: challenges for cancer therapy).Int.J. Nanomedicine 7,3637−3657(2012))。ポリヌクレオチド送達のためのプロトコルのほとんどはウィルスベクターを採用している。これは非常に効率的な送達システムであるが、ウィルスベクターには、安全性リスク、ポリヌクレオチド運搬能力の限界及び高い大規模製造コストなど、一定の不利益もある。非ウィルスベクターは、高いパッキング能力、容易な製造、低い毒性及び免疫原性といった潜在的利点を提供するが、ウィルスベクターほど効率的でない(Mintzer,M.A.& Simanek,E.E.遺伝子送達のための非ウィルスベクター(Nonviral vectors for gene delivery).Chem.Rev.109,259−302(2009))。
【0003】
生分解性ポリ(β−アミノエステル)(PBAEs)は、DNA及びRNAをどちらも離散(discrete)ナノメートル粒子に凝縮できる有望な非ウィルス性のポリヌクレオチド送達ベクターであると言われている(Green,J.J.ら,Acc.Chem Res.41,749−759(2008))。PBAEsの末端を第一アミンで化学修飾すると(スキーム1参照)、Lipofectamine 2000、Fugene及びポリエチレンイミン(PEI)のような市販のトランスフェクション試薬より高いトランスフェクション効果をもたらすことが示されている(Zugates,G.T.ら,Bioconjugate Chem.18,1887−1896(2007);Green,J.J.ら,Nano letters 8,3126−3130(2008);WO02/31025A2)。
【0004】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際特許出願公開第WO02/31025号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Luo,D.& Saltzman,W.M.Nature Biotech.18,33−37(2000)
【非特許文献2】Kamimura K.ら,Pharmaceut.Med.25,293−306(2011)
【非特許文献3】Miele E.ら,Int.J.Nanomedicine 7,3637−3657(2012)
【非特許文献4】Mintzer,M.A.& Simanek,E.E.,Chem.Rev.109,259−302(2009)
【非特許文献5】Green,J.J.ら,Acc.Chem Res.41,749−759(2008)
【非特許文献6】Zugates,G.T.ら,Bioconjugate Chem.18,1887−1896(2007)
【非特許文献7】Green,J.J.ら,Nano letters 8,3126−3130(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリヌクレオチドを効率的にトランスフェクトするために使用でき、そして経済的に製造できる改良された非毒性、生分解性、生体適合性ポリマーに対する継続的な需要が存在する。そのようなポリマーは、遺伝子治療におけるDNA及びRNAのパッケージング及び送達に、そしてまた他の診断用、治療用及び予防用薬剤のパッケージング及び送達に有用であろう。
【0008】
特に、循環中で安定性に乏しい短鎖ポリヌクレオチド、特にsiRNA及びマイクロRNA(miRNA)を効率的にトランスフェクトするために使用できるポリマーが求められている。既存のポリマー性のポリヌクレオチド送達ベクターは、siRNA及びmiRNAを、これらの配列の長さが比較的短いために、高担持量(high loading)でカプセル化することができない。さらに、siRNA及びmiRNA用の多くの既存のポリマー性送達ベクターは細胞毒性である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、薬物送達、特にポリヌクレオチドの送達;組織工学(再生医療)及び生体材料を含む様々な医学用途に有用な新規の末端修飾PBAEsを提供する。本発明は特に、PBAEsの医学的応用に向けられる。本発明はまた、発明的末端修飾ポリマーとポリヌクレオチドとの複合体、発明的ポリマーを含む薬物送達デバイス(例えば、マイクロ粒子、ナノ粒子)、末端修飾ポリマーの製造法、及び発明的末端修飾ポリマーの使用法も提供する。
【0010】
これらのシステムが持つポリエステルの性質は、それらの高い生分解性及び低い毒性のために、魅力的な生体適合性プロフィールをもたらす。従って、これらのポリマーは、がん、単一遺伝子疾患(monogenetic disease)、血管疾患及び感染症などの多くの疾患の治療における非ウィルス性ポリヌクレオチド送達ベクターとしての用途を有する。これらのポリヌクレオチド送達ベクターの別の用途は、インビトロ研究において、細胞及び生理学的体系内での遺伝子機能や調節を調べるためのツールとしての用途である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
第一の側面において、本発明は、式I:
【0012】
【化2】
【0013】
[式中、L及びLは、
【0014】
【化3】
【0015】
、O、S、NR及び結合からなる群から独立に選ばれ;ここで、Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から独立に選ばれ;
は、アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、アリーレン又はヘテロアリーレンからなる群から独立に選ばれ;
は、
【0016】
【化4】
【0017】
からなる群から独立に選ばれ;
は、アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、アリーレン又はヘテロアリーレンからなる群から独立に選ばれ;
及びRは、オリゴペプチド及びRから独立に選ばれ;
ここで、R及びRの少なくとも一つはオリゴペプチドであり;
そして、Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から選ばれ;
各Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から独立に選ばれ;そして
nは5〜10,000の整数である]のポリマー
又はその薬学的に許容可能な塩を提供する。
【0018】
第二の側面において、本発明は、式I:
[式中、L及びLは、
【0019】
【化5】
【0020】
、O、S、NR及び結合からなる群から独立に選ばれ;ここで、Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から独立に選ばれ;
の出現の少なくとも1回は、
【0021】
【化6】
【0022】
であり;
ここで、Tは、
【0023】
【化7】
【0024】
であり、Tは、H、アルキル又は
【0025】
【化8】
【0026】
から選ばれ;
ここで、Lは、
【0027】
【化9】
【0028】
、O、S、NR及び結合からなる群から独立に選ばれ;ここで、Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から独立に選ばれ;
残りのL基は、出現するたびに、アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、アリーレン又はヘテロアリーレンからなる群から独立に選ばれ;
は、
【0029】
【化10】
【0030】
からなる群から独立に選ばれ;
は、アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、アリーレン又はヘテロアリーレンからなる群から独立に選ばれ;
、R及びRは、オリゴペプチド及びRから独立に選ばれ;
ここで、R、R及びRの少なくとも一つはオリゴペプチドであり;
そして、Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から選ばれ;
各Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から独立に選ばれ;そして
nは5〜10,000の整数である]のポリマー
又はその薬学的に許容可能な塩を提供する。
【0031】
このように、本発明は、少なくとも一つのオリゴペプチドで末端修飾されたPBAEsを提供する。これらのPBAEsは、ポリヌクレオチドのための優れた凝縮剤(condensing agent)として、及び/又は細胞取込み及びトランスフェクション効率を増強するための標的化リガンドとして働く。これらのポリマーは、公知のPBAEs及び市販のトランスフェクション試薬と比べて、ポリヌクレオチドの細胞への送達を改良できる生分解性の基を有し、インビトロにおいて高いトランスフェクション効果及び低い細胞毒性を示している。
【0032】
式Iのポリマーは、式IIのジアクリレートモノマーを式Lの置換アミンと反応させて、アクリレート末端中間体、式IIIを形成させることによって製造できる。
【0033】
【化11】
【0034】
次に、基R及びRを末端アクリレート基との反応によって付加すれば、式Iのポリマーを形成できる。
【0035】
【化12】
【0036】
本発明によるポリマーにおいて、各L及びL(及び、第二の側面においてはL)は、末端修飾基R及びRのPBAEポリマーへの結合を促すように選ばれる。各L及びL(及び、第二の側面においてはL)は、例えば末端修飾基が末端システイン残基を含むオリゴペプチドの場合、結合でもよい。
【0037】
本発明の第二の側面において、Lは、末端修飾基RのPBAEポリマーへの結合を促すように選ばれる。Lは、例えば末端修飾基が末端システイン残基を含むオリゴペプチドの場合、結合でもよい。
【0038】
本発明によるポリマーにおいて、Rは、水素、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル及びヘテロシクロアルキルからなる群、例えば、水素、アルキル及びシクロアルキルからなる群から独立に選ばれうる。
【0039】
本発明によれば、“オリゴペプチド”は、ペプチド結合によって一緒に連結された少なくとも3個のアミノ酸の鎖を含む。そのようなペプチドは、好ましくは天然アミノ酸のみを含有するが、非天然アミノ酸(すなわち、天然には存在しないが、ポリペプチド鎖に組み込むことができる化合物)及び/又は当該技術分野で公知のアミノ酸類似体を代替として使用することもできる。また、そのようなペプチド中の一つ又は複数のアミノ酸は、例えば、炭水化物基、リン酸基、ファルネシル基、イソファルネシル基、脂肪酸基、又はコンジュゲーション(conjugation)、官能化、もしくは他の修飾のためのリンカーなどの化学物質の付加によって修飾されていてもよい。本発明のポリマー中のオリゴペプチドは、典型的には3〜20個のアミノ酸残基、さらに好ましくは3〜10個のアミノ酸残基、さらに好ましくは3〜6個のアミノ酸残基を含む。あるいは、本発明のポリマー中のオリゴペプチドは4〜20個のアミノ酸残基、さらに好ましくは4〜10個のアミノ酸残基、さらに好ましくは4〜6個のアミノ酸残基を含んでいてもよい。
【0040】
本発明はさらに、一つの又は各オリゴペプチドがpH7で正味の正電荷を有する式Iのポリマーを提供する。一つの又は各オリゴペプチドは、pH7で正に荷電した天然アミノ酸、すなわち、リシン、アルギニン及びヒスチジンを含みうる。例えば、一つの又は各オリゴペプチドは、ポリリシン、ポリアルギニン又はポリヒスチジンからなる群から選ぶことができ、そのそれぞれは末端にシステインを有していてもよい。
【0041】
一態様において、一つの又は各オリゴペプチドは、好ましくは、式IV:
【0042】
【化13】
【0043】
[式中、pは2〜19、典型的には3〜9又は3〜5の整数であり、Rは、出現するたびに、HNC(=NH)−NH(CH−、HN(CH−又は(1H−イミダゾール−4−イル)−CH−からなる群から選ばれる]の化合物である。
【0044】
一つの又は各オリゴペプチドが式IVの化合物の場合、一つの又は各オリゴペプチドをポリマーに連結しているL及び/又はL(及び/又は、第二の側面においてはL)は結合であり、末端システイン残基が一つの又は各オリゴペプチドを式IIIのアクリレート末端中間体に結合させる手段を提供する。チオール官能基は、二重結合へのより迅速で、より効率的、そしてより容易な制御付加を提供する。これに対し、一つの又は各オリゴペプチドがアミン官能基を末端に有し、これが結合に使用される場合、結合工程には過剰のこの化合物が必要になる。
【0045】
本発明はさらに、一つの又は各オリゴペプチドがpH7で正味の負電荷を有する式Iのポリマーを提供する。一つの又は各オリゴペプチドは、pH7で負に荷電した天然アミノ酸、すなわち、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含みうる。例えば、一つの又は各オリゴペプチドは、ポリアスパラギン酸及びポリグルタミン酸からなる群から選ぶことができ、そのそれぞれは末端にシステインを有していてもよい。この態様において、一つの又は各オリゴペプチドは、pが2〜19、典型的には3〜9又は3〜5の整数であり、RがHOC(CH−又はHOC−CH−である式IVの化合物でありうる。この場合、一つの又は各オリゴペプチドをポリマーに連結しているL及び/又はLは、末端システイン残基が一つの又は各オリゴペプチドを式IVのアクリレート末端中間体に結合させる手段を提供するので、結合である。
【0046】
あるいは、一つの又は各オリゴペプチドは、pH7で負に荷電した天然アミノ酸と、pH7で正に荷電した天然アミノ酸との混合物を含んでいてもよい。
【0047】
本発明はさらに、一つの又は各オリゴペプチドが疎水性である式Iのポリマーを提供する。一つの又は各オリゴペプチドは、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、システイン、チロシン及びアラニンのような疎水性である天然アミノ酸を含みうる。特に、一つの又は各オリゴペプチドは、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、トリプトファン及びフェニルアラニンを含みうる。
【0048】
本発明はさらに、一つの又は各オリゴペプチドが親水性である式Iのポリマーを提供する。一つの又は各オリゴペプチドは、セリン、トレオニン、システイン、アスパラギン及びグルタミンのような親水性である天然アミノ酸を含みうる。そしてさらに、pH7で荷電している天然アミノ酸を含みうる。
【0049】
本発明の第一の側面に従って、R及びRがともにオリゴペプチドである式Iのポリマーと、R及びRの一つがオリゴペプチドでR及びRの一つがRである式Iのポリマーを提供する。
【0050】
本発明の第一の側面に従って、R及びRの一つがRの場合、Rは、好ましくは、水素、−(CHNH、−(CHNHMe、−(CHOH、−(CHCH、−(CH(OCHCHNH、−(CH(OCHCHOH及び−(CH(OCHCHCHからなる群から選ばれ、mは1〜20、例えば1〜5の整数である。好ましくは、Rは、−(CHNH、−(CHNHMe及び−(CH(OCHCHNHからなる群から選ばれる。好ましくは、LがNH又はNRで、R及びRの一つがRの場合、RはRとは異なる。
【0051】
本発明のポリマーは対称でなくてもよい。例えば、本発明の第一の側面によるポリマーにおいて、R及びRの一方はオリゴペプチドで、他方はRでありうる。あるいは、R及びRはそれぞれ異なるオリゴペプチドでもよい。本発明の第二の側面によるポリマーにおいては、R、R及びRの1回又は2回の出現から選ばれる少なくとも一つはオリゴペプチドで、R、R及びRの1回又は2回の出現から選ばれる残りの基はRでありうる。あるいは、R、R及びRの1回又は2回の出現はそれぞれ異なるオリゴペプチドでもよい。
【0052】
発明者らは、非対称ポリマーの方がより高いポリヌクレオチド送達効率を有していることを見出した。例えば、R及びRの一方がCysArgArgArgで、他方がHN(CHCH(CH)CHNHから誘導されている本発明の第一の側面によるポリマーは、R及びRがともにCysArgArgArgであるポリマーと、R及びRがともにHN(CHCH(CH)CHNHから誘導されているポリマーの両者より高いポリヌクレオチド送達効率を有している。
【0053】
本発明によるポリマーにおいて、L及びLは、アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキレン又はヘテロアルケニレン及びポリエチレングリコールリンカーから独立に選ぶことができる。前記アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキレン又はヘテロアルケニレン部分は、1〜20個の炭素原子、好ましくは1〜12個の炭素原子、さらに好ましくは1〜6個の炭素原子のものでありうる。前記ポリエチレングリコールリンカーは、3〜25原子の長さ、好ましくは3〜18原子の長さのものでありうる。
【0054】
任意に、L及び/又はL中の1個又は複数個の炭素原子は−S−S−で置換されていてもよい。主ポリマー鎖中に少なくとも一つのジスルフィド結合を含むと、標的細胞内部で治療用ポリヌクレオチドの効率的な放出(unpacking)が可能になる。
【0055】
本発明によるポリマーにおいて、各Rは、水素、−(CHNH、−(CHNHMe、−(CHOH、−(CHCH、−(CH(OCHCHNH、−(CH(OCHCHOH及び−(CH(OCHCHCHからなる群から独立に選ぶことができ、pは1〜20、例えば1〜5の整数であり、qは1〜10、例えば1〜5の整数である。
【0056】
上記式I又はIIにおいて、nは好ましくは5〜1000、さらに好ましくは20〜500である。式I又は式IIのポリマーの分子量は、好ましくは1,000〜100,000g/mol、さらに好ましくは2,000〜50,000g/mol、さらに好ましくは5,000〜40,000g/molである。
【0057】
本発明の一定の化合物は、特別の幾何又は立体異性形で存在しうる。本発明は、シス−及びトランス−異性体、R−及びS−エナンチオマー、ジアステレオマー、(D)−異性体、(L)−異性体、それらのラセミ混合物、及びそれらのその他の混合物を含むすべてのそのような化合物も本発明の範囲内に含まれると考えている。アルキル基のような置換基中に追加の不斉炭素原子が存在することもありうる。すべてのそのような異性体ならびにそれらの混合物も本発明に含まれるものとする。
【0058】
任意の様々な異性体比を含有する異性体混合物が本発明に従って利用できる。例えば、二つの異性体のみの組合せの場合、50:50、60:40、70:30、80:20、90:10、95:5、96:4、97:3、98:2又は99:1の異性体比を含有する混合物は、すべて本発明によって想定されている。当業者であれば、より複雑な異性体混合物に対しても同様の比率が想定されることは容易に分かるであろう。
【0059】
化学基
用語“ハロゲン”(又は“ハロ”)は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を含む。
【0060】
用語“アルキル”は、一価の直鎖又は分枝鎖飽和非環式ヒドロカルビル基を含む。一態様において、アルキルはC1−10アルキルであり、別の態様ではC1−6アルキル、別の態様ではC1−4アルキル、例えばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル又はt−ブチル基である。アルキルは置換されていてもよい。
【0061】
用語“シクロアルキル”は、一価の飽和環式ヒドロカルビル基を含む。一態様において、シクロアルキルはC3−10シクロアルキルであり、別の態様ではC3−6シクロアルキル、例えばシクロペンチル及びシクロヘキシルである。シクロアルキルは置換されていてもよい。
【0062】
用語“アルコキシ”は、アルキル−O−を意味する。
【0063】
用語“アルキルアミノ”は、アルキル−NH−を意味する。
【0064】
用語“アルキルチオ”は、アルキル−S(O)−(式中、tは以下に定義する)を意味する。
【0065】
用語“アルケニル”は、少なくとも一つの炭素炭素二重結合を有し、一態様においては炭素炭素三重結合を持たない一価の直鎖又は分枝鎖不飽和非環式ヒドロカルビル基を含む。一態様において、アルケニルはC2−10アルケニルであり、別の態様ではC2−6アルケニル、別の態様ではC2−4アルケニルである。アルケニルは置換されていてもよい。
【0066】
用語“シクロアルケニル”は、少なくとも一つの炭素炭素二重結合を有し、一態様においては炭素炭素三重結合を持たない一価の部分不飽和環式ヒドロカルビル基を含む。一態様において、シクロアルケニルはC3−10シクロアルケニルであり、別の態様ではC5−10シクロアルケニル、例えばシクロヘキセニル又はベンゾシクロヘキシルである。シクロアルケニルは置換されていてもよい。
【0067】
用語“アルキニル”は、少なくとも一つの炭素炭素三重結合を有し、一態様においては炭素炭素二重結合を持たない一価の直鎖又は分枝鎖不飽和非環式ヒドロカルビル基を含む。一態様において、アルキニルはC2−10アルキニルであり、別の態様ではC2−6アルキニル、別の態様ではC2−4アルキニルである。アルキニルは置換されていてもよい。
【0068】
用語“アルキレン”は、二価の直鎖又は分枝鎖飽和非環式ヒドロカルビル基を含む。一態様において、アルキレンはC1−10アルキレンであり、別の態様ではC1−6アルキレン、別の態様ではC1−4アルキレン、例えばメチレン、エチレン、n−プロピレン、i−プロピレン又はt−ブチレン基である。アルキレンは置換されていてもよい。
【0069】
用語“アルケニレン”は、少なくとも一つの炭素炭素二重結合を有し、一態様においては炭素炭素三重結合を持たない二価の直鎖又は分枝鎖不飽和非環式ヒドロカルビル基を含む。一態様において、アルケニレンはC2−10アルケニレンであり、別の態様ではC2−6アルケニレン、別の態様ではC2−4アルケニレンである。アルケニレンは置換されていてもよい。
【0070】
用語“ヘテロアルキル”は、アルキル基、例えばC1−65アルキル基、C1−17アルキル基又はC1−10アルキル基を含み、その20個までの炭素原子、一態様においては10個までの炭素原子、一態様においては2個までの炭素原子、別の態様では1個の炭素原子がそれぞれ独立に、O、S(O)又はNによって置換されている。ただし、少なくとも1個のアルキル炭素原子は残っていなければならない。ヘテロアルキル基は、C−連結でもヘテロ−連結でもよい。すなわち、残りの分子に炭素原子を通じて連結されていても、又はO、S(O)もしくはNを通じて連結されていてもよい(前記tは以下に定義する)。ヘテロアルキルは置換されていてもよい。
【0071】
用語“ヘテロシクロアルキル”は、10個までの炭素原子、一態様においては2個までの炭素原子、別の態様では1個の炭素原子がそれぞれ独立に、O、S(O)又はNによって置換されているシクロアルキル基を含む。ただし、少なくとも1個のシクロアルキル炭素原子は残っていなければならない。ヘテロシクロアルキル基の例は、オキシラニル、チアラニル、アジリジニル、オキセタニル、チアタニル、アゼチジニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチオフェニル、ピロリジニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、ピペリジニル、1,4−ジオキサニル、1,4−オキサチアニル、モルホリニル、1,4−ジチアニル、ピペラジニル、1,4−アザチアニル、オキセパニル、チエパニル、アゼパニル、1,4−ジオキセパニル、1,4−オキサチエパニル、1,4−オキサアゼパニル、1,4−ジチエパニル、1,4−チエアゼパニル及び1,4−ジアゼパニルなどである。ヘテロシクロアルキル基は、C−連結でも又はN−連結でもよい。すなわち、残りの分子に炭素原子を通じて連結されていても、窒素原子を通じて連結されていてもよい。ヘテロシクロアルキルは置換されていてもよい。
【0072】
用語“ヘテロアルケニル”は、アルケニル基、例えばC1−65アルケニル基、C1−17アルケニル基又はC1−10アルケニル基を含み、その20個までの炭素原子、一態様においては10個までの炭素原子、一態様においては2個までの炭素原子、別の態様では1個の炭素原子がそれぞれ独立に、O、S(O)又はNによって置換されている。ただし、少なくとも1個のアルケニル炭素原子は残っていなければならない。ヘテロアルケニル基は、C−連結でも又はヘテロ−連結でもよい。すなわち、残りの分子に炭素原子を通じて連結されていても、又はO、S(O)もしくはNを通じて連結されていてもよい。ヘテロアルケニルは置換されていてもよい。
【0073】
用語“ヘテロシクロアルケニル”は、3個までの炭素原子、一態様においては2個までの炭素原子、別の態様では1個の炭素原子がそれぞれ独立に、O、S(O)又はNによって置換されているシクロアルケニル基を含む。ただし、少なくとも1個のシクロアルケニル炭素原子は残っていなければならない。ヘテロシクロアルケニル基の例は、3,4−ジヒドロ−2H−ピラニル、5−6−ジヒドロ−2H−ピラニル、2H−ピラニル、1,2,3,4−テトラヒドロピリジニル及び1,2,5,6−テトラヒドロピリジニルなどである。ヘテロシクロアルケニル基は、C−連結でも又はN−連結でもよい。すなわち、残りの分子に炭素原子を通じて連結されていても、窒素原子を通じて連結されていてもよい。ヘテロシクロアルケニルは置換されていてもよい。
【0074】
用語“ヘテロアルキニル”は、アルキニル基、例えばC1−65アルキニル基、C1−17アルキニル基又はC1−10アルキニル基を含み、その20個までの炭素原子、一態様においては10個までの炭素原子、一態様においては2個までの炭素原子、別の態様では1個の炭素原子がそれぞれ独立に、O、S(O)又はNによって置換されている。ただし、少なくとも1個のアルキニル炭素原子は残っていなければならない。ヘテロアルキニル基は、C−連結でも又はヘテロ−連結でもよい。すなわち、残りの分子に炭素原子を通じて連結されていても、又はO、S(O)もしくはNを通じて連結されていてもよい。ヘテロアルキニルは置換されていてもよい。
【0075】
用語“ヘテロアルキレン”は、アルキレン基、例えばC1−65アルキレン基、C1−17アルキレン基又はC1−10アルキレン基を含み、その20個までの炭素原子、一態様においては10個までの炭素原子、一態様においては2個までの炭素原子、別の態様では1個の炭素原子がそれぞれ独立に、O、S(O)又はNによって置換されている。ただし、少なくとも1個のアルキレン炭素原子は残っていなければならない。ヘテロアルキレンは置換されていてもよい。
【0076】
用語“ヘテロアルケニレン”は、アルケニレン基、例えばC1−65アルケニレン基、C1−17アルケニレン基又はC1−10アルケニレン基を含み、その20個までの炭素原子、一態様においては10個までの炭素原子、一態様においては2個までの炭素原子、別の態様では1個の炭素原子がそれぞれ独立に、O、S(O)又はNによって置換されている。ただし、少なくとも1個のアルケニレン炭素原子は残っていなければならない。ヘテロアルケニレンは置換されていてもよい。
【0077】
用語“アリール”は、一価の芳香族環式ヒドロカルビル基、例えばフェニル又はナフチル(例えば1−ナフチル又は2−ナフチル)を含む。一般に、アリール基は単環式でも又は多環式縮合環芳香族基でもよい。好適なアリールはC〜C14アリールである。アリールは置換されていてもよい。
【0078】
アリール基の他の例は、アセアントリレン、アセナフチレン、アセフェナントリレン、アントラセン、アズレン、クリセン、コロネン、フルオランテン、フルオレン、as−インダセン、s−インダセン、インデン、ナフタレン、オバレン、ペリレン、フェナレン、フェナントレン、ピセン、プレイアデン、ピレン、ピラントレン及びルビセンの一価誘導体である。
【0079】
用語“アリールアルキル”は、アリール基で置換されたアルキルを意味する。例えばベンジルである。
【0080】
用語“ヘテロアリール”は、1個又は複数個の炭素原子がそれぞれ、O、S、N及びNRから独立に選ばれるヘテロ原子によって置換されているアリール基を含む。前記Rは以下に定義する(そして、一態様において、H又はアルキル(例えばC1−6アルキル)である)。ヘテロアリールは置換されていてもよい。
【0081】
一般に、ヘテロアリール基は単環式でも又は多環式(例えば二環式)縮合環ヘテロ芳香族基でもよい。典型的には、ヘテロアリール基は5〜14個の環員子(好ましくは5〜10員)を含有し、その1、2、3又は4個の環員子は、O、S、N及びNRから独立に選ばれる。一態様において、ヘテロアリール基は、5、6、9又は10員、例えば5−員単環式、6−員単環式、9−員縮合環二環式又は10−員縮合環二環式でありうる。
【0082】
単環式ヘテロ芳香族基は、5〜6個の環員子を含有し、その1、2、3又は4個の環員子はO、S、N又はNRから独立に選ばれるヘテロ芳香族基を含む。
【0083】
一態様において、5−員の単環式ヘテロアリール基は、−NR−基、−O−原子又は−S−原子である1個の環員子、及び任意に=N−原子である1〜3個の環員子(例えば、1又は2個の環員子)を含有する(5個の環員子の残りは炭素原子である)。
【0084】
5−員の単環式ヘテロアリール基の例は、ピロリル、フラニル、チオフェニル、ピラゾリル、イミダゾリル、イソオキサゾリル、オキサゾリル、イソチアゾリル、チアゾリル、1,2,3−トリアゾリル、1,2,4−トリアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,2,4−オキサジアゾリル、1,2,5−オキサジアゾリル、1,3,4−オキサジアゾリル、1,3,4−チアジアゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、1,3,5−トリアジニル、1,2,4−トリアジニル、1,2,3−トリアジニル及びテトラゾリルである。
【0085】
6−員の単環式ヘテロアリール基の例は、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル及びピラジニルである。
【0086】
一態様において、6−員の単環式ヘテロアリール基は、=N−原子である1又は2個の環員子を含有する(6個の環員子の残りは炭素原子である)。
【0087】
二環式ヘテロ芳香族基は、9〜14個の環員子を含有し、その1、2、3、4個又は5個以上の環員子はO、S、N又はNRから独立に選ばれる縮合環ヘテロ芳香族基を含む。
【0088】
一態様において、9−員の二環式ヘテロアリール基は、−NR−基、−O−原子又は−S−原子である1個の環員子、及び任意に=N−原子である1〜3個の環員子(例えば、1又は2個の環員子)を含有する(9個の環員子の残りは炭素原子である)。
【0089】
9−員の縮合環二環式ヘテロアリール基の例は、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、インドリル、ベンズイミダゾリル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル、ピロロ[2,3−b]ピリジニル、ピロロ[2,3−c]ピリジニル、ピロロ[3,2−c]ピリジニル、ピロロ[3,2−b]ピリジニル、イミダゾ[4,5−b]ピリジニル、イミダゾ[4,5−c]ピリジニル、ピラゾロ[4,3−d]ピリジニル、ピラゾロ[4,3−c]ピリジニル、ピラゾロ[3,4−c]ピリジニル、ピラゾロ[3,4−b]ピリジニル、イソインドリル、インダゾリル、プリニル、インドリニニル(indolininyl)、イミダゾ[1,2−a]ピリジニル、イミダゾ[1,5−a]ピリジニル、ピラゾロ[1,2−a]ピリジニル、ピロロ[1,2−b]ピリダジニル及びイミダゾ[1,2−c]ピリミジニルである。
【0090】
一態様において、10−員の二環式ヘテロアリール基は、=N−原子である1〜3個の環員子を含有する(10個の環員子の残りは炭素原子である)。
【0091】
10−員の縮合環二環式ヘテロアリール基の例は、キノリニル、イソキノリニル、シンノリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、フタラジニル、1,6−ナフチリジニル、1,7−ナフチリジニル、1,8−ナフチリジニル、1,5−ナフチリジニル、2,6−ナフチリジニル、2,7−ナフチリジニル、ピリド[3,2−d]ピリミジニル、ピリド[4,3−d]ピリミジニル、ピリド[3,4−d]ピリミジニル、ピリド[2,3−d]ピリミジニル、ピリド[2,3−b]ピラジニル、ピリド[3,4−b]ピラジニル、ピリミド[5,4−d]ピリミジニル、ピラジノ[2,3−b]ピラジニル及びピリミド[4,5−d]ピリミジニルである。
【0092】
用語“ヘテロアリールアルキル”は、ヘテロアリール基で置換されたアルキルを意味する。
【0093】
アシル基の例は、アルキル−C(=O)−、シクロアルキル−C(=O)−、アルケニル−C(=O)−、シクロアルケニル−C(=O)−、ヘテロアルキル−C(=O)−、ヘテロシクロアルキル−C(=O)−、アリール−C(=O)−又はヘテロアリール−C(=O)−、特にアルキル−C(=O)−及びアリール−C(=O)−などである。
【0094】
特に明記されない限り、本明細書において基の組合せが一つの部分として言及されている場合(例えばアリールアルキル)、最後に言及された基が、その部分を残りの分子に結合させる原子を含有する。
【0095】
アルキル基又は他の基の炭素原子がO、S(O)又はNによって置換されていると言及される場合、意図するところは、
【0096】
【化14】
【0097】
が、
【0098】
【化15】
【0099】
によって置換されている;
−CH=が−N=によって置換されている;
≡C−Hが≡Nによって置換されている;又は
−CH−が、−O−、−S(O)−又は−NR−によって置換されている
ということである。
【0100】
明確にするために述べると、上記ヘテロ原子含有基(例えばヘテロアルキルなど)に関し、C3−6ヘテロアルキルなどのように炭素原子の数値が与えられている場合、意図するところは、C3−6アルキルをベースにした基であって、その3〜6個の鎖炭素原子のうちの1個又は複数個がO、S(O)又はNによって置換されているということである。従って、C3−6ヘテロアルキル基は、例えば3〜6個未満の鎖炭素原子しか含有していないことになる。
【0101】
上で言及したRは、H、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、−C(O)−アルキル、−C(O)−アリール、−C(O)−ヘテロアリール、−S(O)−アルキル、−S(O)−アリール又は−S(O)−ヘテロアリールである。Rは、特に、H、アルキル(例えばC1−6アルキル)又はシクロアルキル(例えばC3−6シクロアルキル)でありうる。
【0102】
上で言及したtは、独立に、0、1又は2、例えば2である。典型的にはtは0である。
【0103】
基が、置換されうる少なくとも2つの位置を有する場合、その基は、アルキレン又はヘテロアルキレン鎖の両端によって置換されて環状部分を形成することもできる。
【0104】
本発明の化合物の置換されていてもよい基(例えば、アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアルケニル、ヘテロシクロアルケニル、ヘテロアルキニル、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、アリール、アリールアルキル、アリールヘテロアルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル又はヘテロアリールヘテロアルキル基など)は、置換されていても又はされていなくてもよく、一態様においては非置換である。典型的には、置換は、1個の置換基による1個の水素原子の、又は=Oによる置換の場合、2個の水素原子の理論的置換を含む。
【0105】
置換されている場合、一般的に1〜3個の置換基、一態様においては1又は2個の置換基、一態様においては1個の置換基が存在することになる。
【0106】
任意選択の置換基は、独立に、ハロゲン、トリハロメチル、トリハロエチル、−OH、−NH、−NO、−CN、−N(C1−6アルキル)、−COH、−CO1−6アルキル、−SOH、−SOC1−6アルキル、−SO1−6アルキル、−SO1−6アルキル、−OC(=O)OC1−6アルキル、−C(=O)H、−C(=O)C1−6アルキル、−OC(=O)C1−6アルキル、=O、−NH(C1−6アルキル)、−N(C1−6アルキル)、−C(=O)NH、−C(=O)N(C1−6アルキル)、−N(C1−6アルキル)C(=O)O(C1−6アルキル)、−N(C1−6アルキル)C(=O)N(C1−6アルキル)、−OC(=O)N(C1−6アルキル)、−N(C1−6アルキル)C(=O)C1−6アルキル、−C(=S)N(C1−6アルキル)、−N(C1−6アルキル)C(=S)C1−6アルキル、−SON(C1−6アルキル)、−N(C1−6アルキル)SO1−6アルキル、−N(C1−6アルキル)C(=S)N(C1−6アルキル)、−N(C1−6アルキル)SON(C1−6アルキル)、−C1−6アルキル、−C1−6ヘテロアルキル、−C3−6シクロアルキル、−C3−6ヘテロシクロアルキル、−C2−6アルケニル、−C2−6ヘテロアルケニル、−C3−6シクロアルケニル、−C3−6ヘテロシクロアルケニル、−C2−6アルキニル、−C2−6ヘテロアルキニル、−Z−C1−6アルキル、−Z−C3−6シクロアルキル、−Z−C2−6アルケニル、−Z−C3−6シクロアルケニル又は−Z−C2−6アルキニルであり、ここでZは、独立に、O、S、NH又はN(C1−6アルキル)である。
【0107】
別の態様において、任意選択の置換基は、独立に、ハロゲン、トリハロメチル、トリハロエチル、−NO、−CN、−N(C1−6アルキル)、−COH、−SOH、−SOC1−6アルキル、−SO1−6アルキル、−C(=O)H、−C(=O)C1−6アルキル、=O、−N(C1−6アルキル)、−C(=O)NH、−C1−6アルキル、−C3−6シクロアルキル、−C3−6ヘテロシクロアルキル、−Z1−6アルキル又は−Z−C3−6シクロアルキルであり、ここでZは上記定義の通りである。
【0108】
別の態様において、任意選択の置換基は、独立に、ハロゲン、トリハロメチル、−NO、−CN、−COH、−C(=O)C1−6アルキル、=O、−N(C1−6アルキル)、−C(=O)NH、−C1−6アルキル、−C3−6シクロアルキル、−C3−6ヘテロシクロアルキル、−Z1−6アルキル又は−Z−C3−6シクロアルキルであり、ここでZは上記定義の通りである。
【0109】
別の態様において、任意選択の置換基は、独立に、ハロゲン、−NO、−CN、−COH、=O、−N(C1−6アルキル)、−C1−6アルキル、−C3−6シクロアルキル又は−C3−6ヘテロシクロアルキルである。別の態様において、任意選択の置換基は、独立に、ハロゲン、−OH、−NH、−NH(C1−6アルキル)、−N(C1−6アルキル)、−C1−6アルキル、−C3−6シクロアルキル又は−C3−6ヘテロシクロアルキルである。
【0110】
本明細書において、“本発明のポリマー”及び“式Iのポリマー”などの用語は、その薬学的に許容可能な誘導体ならびにその多形、異性体及び同位体標識体を含む。
【0111】
用語“薬学的に許容可能な誘導体”は、式Iの化合物のあらゆる薬学的に許容可能な塩、溶媒和物、水和物又はプロドラッグを含む。一態様のいて、薬学的に許容可能な誘導体は、式Iの化合物の薬学的に許容可能な塩、溶媒和物又は水和物である。
【0112】
用語“薬学的に許容可能な塩”は、無機又は有機酸及び塩基を含む薬学的に許容可能な非毒性の酸又は塩基から製造される塩を含む。
【0113】
塩基性の基、例えばアミノ基を含有する式Iの化合物は、酸とともに薬学的に許容可能な塩を形成することができる。一態様において、式Iの化合物の薬学的に許容可能な酸付加塩は、ハロゲン化水素酸(例えば、塩酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸)、硫酸、硝酸及びリン酸などの無機酸の塩を含むが、これらに限定されない。一態様において、式Iの化合物の薬学的に許容可能な酸付加塩は、脂肪族、芳香族、カルボン酸系及びスルホン酸系の有機酸などの有機酸の塩を含むが、これらに限定されない。例を挙げると、脂肪族モノカルボン酸、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸又は酪酸;脂肪族ヒドロキシ酸、例えば乳酸、クエン酸、酒石酸又はリンゴ酸;ジカルボン酸、例えばマレイン酸又はコハク酸;芳香族カルボン酸、例えば安息香酸、p−クロロ安息香酸、フェニル酢酸、ジフェニル酢酸又はトリフェニル酢酸;芳香族ヒドロキシル酸、例えばo−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、1−ヒドロキシナフタレン−2−カルボン酸又は3−ヒドロキシナフタレン−2−カルボン酸;及びスルホン酸、例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸又はベンゼンスルホン酸などである。式Iの化合物の他の薬学的に許容可能な酸付加塩は、グリコール酸、グルクロン酸、フロ酸(フランカルボン酸)、グルタミン酸、アントラニル酸、サリチル酸、マンデル酸、エンボン酸(パモ酸)、パントテン酸、ステアリン酸、スルファニル酸、アルギン酸(algenic acid)及びガラクツロン酸の塩などであるが、これらに限定されない。式Iの化合物が複数の塩基性基を含む場合、複数の中心がプロトン化されて多塩、例えば式Iの化合物の二塩又は三塩を生じうる。例えば、本明細書中に記載の式Iの化合物のハロゲン化水素酸塩は、一ハロゲン化水素酸塩、二ハロゲン化水素酸塩又は三ハロゲン化水素酸塩などでありうる。一態様において、塩は、上に開示されたいずれかの酸の付加から得られるものなどであるが、これらに限定されない。式Iの化合物の一態様において、二つの塩基性基が酸付加塩を形成する。更なる態様において、二つの付加塩の対イオンは同じ種である(例えばジヒドロクロリド、ジヒドロスルフィドなど)。典型的には、薬学的に許容可能な塩は、二塩酸塩のような塩酸塩である。
【0114】
酸性の基、例えばカルボキシル基を含有する式Iの化合物は、塩基とともに薬学的に許容可能な塩を形成することができる。一態様において、式Iの化合物の薬学的に許容可能な塩基性塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩のような金属塩(例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム又はカルシウム塩)及び亜鉛又はアルミニウム塩などであるが、これらに限定されない。一態様において、式Iの化合物の薬学的に許容可能な塩基性塩は、アンモニア又は薬学的に許容可能な有機アミン又はヘテロサイクリック塩基、例えばエタノールアミン(例えばジエタノールアミン)、ベンジルアミン、N−メチル−グルカミン、アミノ酸(例えばリシン)又はピリジンとともに形成される塩などであるが、これらに限定されない。
【0115】
酸及び塩基の半塩も形成されうる(例えばヘミ硫酸塩)。
【0116】
式Iの化合物の薬学的に許容可能な塩は、当該技術分野で周知の方法によって製造できる。
【0117】
薬学的に許容可能な塩の再検討に関しては、Stahl及びWermuth,Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties, Selection and Use(Wiley−VCH,ドイツ・ワインハイム,2002)参照。
【0118】
本発明の化合物は非溶媒和物形でも溶媒和物形でも存在しうる。用語“溶媒和物”は、本発明の化合物と一つ又は複数の薬学的に許容可能な溶媒分子、例えば水又はC1−6アルコール、例えばエタノールとを含む分子錯体を含む。用語“水和物”とは、溶媒が水である“溶媒和物”を意味する。
【0119】
本発明の化合物は、アモルファス形ないし結晶形の固体状態で存在しうる。すべてのそのような固体形も本発明に含まれる。
【0120】
本発明の化合物は、一つ又は複数の幾何、光学、エナンチオ、ジアステレオ及び互変異性体形、例えば、特に制限されないが、シス及びトランス形、E−及びZ−形、R−、S−及びメソ−形、ケト及びエノール形で存在しうる。すべてのそのような異性体形も本発明に含まれる。異性体形は、異性体的に純粋な形態又は富化形態のほか、異性体の混合物(例えばラセミ混合物又はジアステレオマー混合物)でもよい。
【0121】
本発明は、式Iの薬学的に許容可能な同位体標識化合物も含む。すなわち、1個又は複数個の原子が、同じ原子番号を有するが原子質量又は質量数は天然に通常見られる原子質量又は質量数とは異なる原子によって置換されている化合物である。
【0122】
本発明の化合物に含めるのに適切な同位体の例は、水素の同位体、例えばH及びH、炭素の同位体、例えば11C、13C及び14C、塩素の同位体、例えば36Cl、フッ素の同位体、例えば18F、ヨウ素の同位体、例えば123I及び125I、窒素の同位体、例えば13N及び15N、酸素の同位体、例えば15O、17O及び18O、リンの同位体、例えば32P、及び硫黄の同位体、例えば35Sを含む。式Iのある種の同位体標識化合物、例えば放射性同位体を組み込んだものは、薬物及び/又は基質の組織分布研究に有用である。放射性同位体のH及び14Cは、それらの組込みの容易性及び既成の検出手段の観点からこの目的に特に有用である。
【0123】
11C、18F、15O及び13Nのような陽電子放出同位体による置換は、基質受容体占有(substrate receptor occupancy)を調べるための陽電子放出トポグラフィー(PET)研究に有用でありうる。
【0124】
同位体標識された式Iの化合物は、一般的に、当業者に公知の従来技術によって、又は前に使用された非標識試薬の代わりに適切な同位体標識試薬を使用して本明細書中に記載の方法と類似の方法によって製造することができる。
【0125】
本明細書中に記載のポリマーは任意の数の置換基又は官能部分で置換されうることは分かるであろう。本明細書においては、置換されている(substituted)という用語(その前に“任意に(optionally)”という用語が付いているいないに関わらず)及び置換基という用語は、当業者には分かる通り、すべての原子の価数が維持されている限り、一つの官能基を別の官能基と交換する能力のことを言う。任意の所与の構造中の二つ以上の位置が、特定の群から選ばれる二つ以上の置換基で置換されうる場合、置換基はどの位置においても同じでも又は異なっていてもよい。置換基がさらに置換されていてもよい(例えば、置換基がアリール基の場合、別のアリール基のような別の置換基を有することができ、それもさらに一つ又は複数の位置でフッ素で置換されている)。
【0126】
本明細書において、チオヒドロキシル又はチオールという用語は、式−SHの基のことを言う。
【0127】
本発明はさらに、活性薬剤と式Iのポリマーとを含む組成物も提供する。組成物は、活性薬剤とポリマーを含有するナノ粒子及び/又はミクロ粒子を含みうる。組成物は、式Iで定義された二つ以上の異なるポリマーを含んでいてもよい。例えば、組成物は、R及びRともCysLysLysLysである式Iのポリマーと、R及びRともCysHisHisHisである式Iのポリマーを含んでいてもよい。
【0128】
活性薬剤はポリヌクレオチド、タンパク質又は小分子でありうる。典型的には、活性薬剤はポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチドは、DNA、RNA、siRNA及びmiRNAからなる群から、好ましくはsiRNA及びmiRNAからなる群から選ばれうる。一態様において、ポリヌクレオチドは、DNA、RNA及びsiRNAからなる群から選ばれる。
【0129】
典型的には、ポリヌクレオチドは少なくとも3個のヌクレオチドを含む。好ましくは、ポリヌクレオチドは、20〜30ヌクレオチドの長さ、さらに好ましくは20〜25ヌクレオチドの長さ、例えば22ヌクレオチドの長さである。
【0130】
ポリヌクレオチドは、天然ヌクレオシド(すなわち、アデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、ウリジン、イノシン、キサントシン、デオキシアデノシン、デオキシチミジン、デオキシグアノシン、デオキシイノシン、及びデオキシシチジン)、ヌクレオシド類似体(例えば、2−アミノアデノシン、2−チオチミジン、イノシン、ピロロ−ピリミジン、3−メチルアデノシン、C5−プロピニルシチジン、C5−プロピニルウリジン、C5−ブロモウリジン、C5−フルオロウリジン、C5−ヨードウリジン、C5−メチルシチジン、7−デアザアデノシン、7−デアザグアノシン、8−オキソアデノシン、8−オキソグアノシン、O(6)−メチルグアニン、及び2−チオシチジン)、又はそれらの混合物から誘導されうる。ヌクレオチドは、化学修飾塩基、生物修飾塩基(例えばメチル化塩基)、挿入塩基(intercalated base)、非修飾又は修飾糖(例えば、2’−フルオロリボース、リボース、2’−デオキシリボース、アラビノース、及びヘキソース)、及び/又は非修飾又は修飾リン酸基(例えば、ホスホロチオエート及び5’−N−ホスホロアミダイト結合)から誘導されうる。
【0131】
本明細書において、用語“小分子”とは、比較的低い分子量を有し、タンパク質でもポリペプチドでも又はポリヌクレオチドでもない有機化合物のことを言う。それらは天然のものでも、人工的に創製されたものでもよい(例えば化学合成により)。典型的には、小分子は約1500g/mol未満の分子量を有する。
【0132】
本発明のナノ粒子について以下でさらに検討する。この検討はミクロ粒子にも等しく適用されることは理解されるであろう。
【0133】
ナノ粒子は、ポリヌクレオチドと、式Iのポリマー(一つの又は各オリゴペプチドはpH7で正味の正電荷を有する)とを含みうる。正に荷電したオリゴペプチドは、負に荷電したポリヌクレオチドとナノ粒子形成工程中に相互作用し、ポリヌクレオチドのナノ粒子へのカプセル化を容易にする。
【0134】
ナノ粒子は、式I又はIIのポリマー(一つの又は各オリゴペプチドはpH7で正味の負電荷を有する)と、pH7で正味の正電荷を有する活性薬剤とを含みうる。負に荷電したオリゴペプチドは、正に荷電した活性薬剤とナノ粒子形成工程中に相互作用し、活性薬剤のナノ粒子へのカプセル化を容易にする。
【0135】
ナノ粒子は、任意に、本発明の異なるポリマーの混合物を含んでいてもよい。例えば、ナノ粒子は、
(a)式I又は式IIによるポリマーであって、一つの又は各オリゴペプチドがpH7で正味の正電荷を有するポリマー;及び
(b)式I又は式IIによるポリマーであって、一つの又は各オリゴペプチドがpH7で正味の負電荷を有するポリマー
を含んでいてもよい。
【0136】
従って、本発明は、上記ポリマー(a)と(b)の割合を変更することによって正味の表面電荷が変動しうるナノ粒子を提供する。(a)対(b)の比率は、重量比で1:99、5:95、10:90、25:75、50:50、75:25、90:10、95:5、又は99:1でありうる。
【0137】
そのようなナノ粒子は、薬物のカプセル化にもポリヌクレオチドのカプセル化にも適しており、改良された薬理学的特性を示す。
【0138】
pH7で正味の負電荷を有するオリゴペプチドで修飾されたポリマーの集団の包含により、短いDNA及びRNA配列のナノ沈殿によるカプセル化が促進される。短いDNA及びRNA配列は、当該技術分野で公知のPBAEsを用いたナノ沈殿工程で使用されると、長い配列より低いカプセル化効率及び/又は低い絶対担持量しか示さない。本発明者らは、本明細書中に記載の負に荷電したポリマーのような他のポリアニオン性種を加えると、ナノ沈殿工程中、ポリマー及びポリヌクレオチドを含有する得られるナノ粒子の組立に役立つことを見出した。
【0139】
これは、特に、約20〜30塩基対の長さしかなく、体内の循環中で不安定な、siRNA及びmiRNAのような短鎖ポリヌクレオチドのカプセル化に有用である。siRNA及びmiRNAのような短鎖ポリヌクレオチドのナノ粒子への組込みは、それらの低電荷のためにこれまで困難であった。
【0140】
本発明者らは、一つの又は各オリゴペプチドがpH7で正味の正電荷を有する式I又は式IIによるポリマーと、一つの又は各オリゴペプチドがpH7で正味の負電荷を有する式I又は式IIによるポリマーとの組合せを使用すると、siRNA又はmiRNAのような短鎖ポリヌクレオチドのナノ粒子への組込み(loading)を高いカプセル化効率及び高い担持量(loading)で可能にすることを見出した。さらに、上記2種類のポリマーの使用は、短鎖ポリヌクレオチドの分解を防止し、より効率的なトランスフェクションを可能にする。正に荷電したオリゴヌクレオチドは負に荷電したポリヌクレオチドの周りに“巻き付き”、負に荷電したオリゴヌクレオチドは正に荷電したオリゴヌクレオチドの周りに“巻き付き”、過剰の電荷を中和すると考えられている(発明者らにより“マントル効果”と呼ばれる)。
【0141】
さらに、pH7で正味の負電荷を有するオリゴペプチドで修飾されたポリマーの包含は、ナノ粒子が腸粘膜及び肺粘膜のような複雑な身体障壁を通過して送達されることを容易にする。なぜならば、正味の表面電荷変化はこれらの障壁との相互作用中に変動しうるからである。
【0142】
本発明のナノ粒子は、高い活性薬剤含有量及び高いカプセル化効率で形成できる。
【0143】
本明細書において、活性薬剤カプセル化効率とは、ナノ粒子に組み込まれる活性薬剤を、活性薬剤含有ナノ粒子の製造法で使用される全活性薬剤の重量パーセンテージで表したもののことを言う。典型的には95%以下、さらに典型的には70%〜95%である。
【0144】
本明細書において、活性薬剤取込み(entrapment)とは、活性薬剤担持ナノ粒子中の活性薬剤の重量パーセンテージのことを言う。活性薬剤の取込みは、好ましくは少なくとも2wt%、さらに好ましくは少なくとも5wt%、さらに好ましくは少なくとも10wt%、典型的には2wt%〜20wt%、さらに好ましくは5wt%〜20wt%、さらに好ましくは10wt%〜20wt%の範囲である。
【0145】
組成物がナノ粒子を含む場合、好ましくは、ナノ粒子は組成物の約1%〜約90重量%を構成する。さらに好ましくは、ナノ粒子は組成物の約5%〜約50重量%、さらに好ましくは、約10%〜約30%を構成する。組成物はさらにビヒクルを含んでいてもよい。ビヒクルは、当該技術分野で公知の任意の薬学的に許容可能な希釈剤又は賦形剤でよい。ビヒクルは典型的には薬理学的に不活性である。好ましくは、ビヒクルは極性液体である。特に好適なビヒクルは、水、及び塩及び/又はバッファーを含有する生理学的に許容可能な水溶液、例えば生理食塩水又はリン酸緩衝生理食塩水などである。任意に、ビヒクルは生体液であってもよい。液体ビヒクルは、貯蔵のため、又は、肺もしくは鼻腔投与用粉末、注入懸濁液用粉末、又は経口投与用の錠剤もしくはカプセルを提供するために、例えば、凍結乾燥、蒸発又は遠心分離によって除去することができる。
【0146】
活性薬剤(単数又は複数種類)は、ナノ粒子の内部に存在しても又はナノ粒子の表面に存在してもよい。典型的には、活性薬剤はナノ粒子の内部に存在する。活性薬剤(単数又は複数種類)とナノ粒子間の相互作用は、典型的には非共有結合で、例えば、水素結合、静電相互作用又は物理的カプセル化である。典型的には、相互作用は静電気的である。
【0147】
ナノ粒子は、哺乳動物体内に入った後も十分な量のナノ粒子が実質的に無傷のままで、所望の標的に到達して所望の生理学的作用を達成できるように、生体適合性であり、それらの使用環境に対して十分抵抗性である。本明細書中に記載のポリマーは、生体適合性であり、好ましくは生分解性である。
【0148】
本明細書において、用語“生体適合性”は、有害反応を引き起こすことなく生体内に挿入又は注入できる物質と説明される。例えば、その物質は、適切に制御できない炎症又は免疫系による急性拒絶を引き起こさない。“生体適合性”は相対的用語であり、生体組織との適合性が非常に高い物質でさえも一定程度の免疫反応は予期されることは認識されるであろう。物質の生体適合性を評価するためのインビトロ試験は、それを細胞に暴露することである。生体適合性物質は、典型的には中程度の濃度で(例えば29μg/10細胞)で重大な細胞死(例えば、>20%)を招かない。
【0149】
本明細書において、用語“生分解性”は、生理学的環境中で分解して、細胞によって再使用できる又は重大な毒作用なしに処分できるモノマー及び/又はその他の非ポリマー性部分を形成するポリマーと説明される。分解は、例えば酵素活性又は細胞機構による生物的分解でも、又は化学的分解(典型的には生理学的条件下で起こる化学プロセス)でもよい。ポリマーの分解は、使用されるポリマー又はコポリマーに応じて、半減期が日、週、月、又は年の単位など、様々な速度で起こりうる。成分は好ましくはインビボで炎症又はその他の有害作用を誘発しない。一定の好適な態様において、生分解性化合物を分解するために依拠する化学反応は無触媒性である。
【0150】
本明細書において、用語“ナノ粒子”とは、約1〜約1000nmの直径を有する固体粒子のことを言う。本明細書において、用語“ミクロ粒子”とは、約1μm〜約100μmの直径を有する固体粒子のことを言う。本発明のナノ粒子の平均直径は、当該技術分野で公知の方法、好ましくは動的光散乱によって決定できる。特に、本発明は、動的光散乱により、散乱角90°及び温度25℃で、ろ過水で適切に希釈されたサンプル及び適切な装置、例えばMalvern Instruments社(英国)製ZetasizerTM装置を用い、標準試験法ISO 22412:2008(キュムラント法A.1.3.2)に従って分析された場合に、約1〜約1000nmの直径を有する固体粒子であるナノ粒子に関する。粒子がxnmの直径を有すると言われる場合、一般的にはこの平均の周りに粒子が分布しているが、粒子の数の少なくとも50%(例えば、>60%、>70%、>80%、>90%、又はそれより大)はx±20%の範囲内の直径を有する。
【0151】
好ましくは、ナノ粒子の直径は、約10〜約1000nm、さらに好ましくは約5〜約500nm、さらに好ましくは約50〜約400nm、さらに好ましくは約50〜約150nmである。あるいは、ナノ粒子の直径は約1〜約100nmである。一態様において、ナノ粒子は、10%未満、好ましくは5%未満、好ましくは1%未満の凝集度(degree of agglomeration)を示し、好ましくは、ナノ粒子は透過電子顕微鏡法による測定で実質的に非凝集である。
【0152】
本発明はさらに、薬剤を式I又は式IIのポリマーマトリックス中にカプセル化してナノ粒子を形成する方法も提供する。該方法は、薬剤を準備し;ポリマーを準備し;そして薬剤とポリマーを適切な条件下で接触させてナノ粒子を形成させる工程を含む。特に、薬剤とポリマーは、所望の比率を得るのに適切な濃度で溶液中で混合され、激しく混合した後、約37℃のオーブン中で約30分間インキュベートされうる。
【0153】
本発明はさらに、式Iのポリマーの合成法も提供する。該方法は、スキーム2に示されているように、式II(式中、Lは上記定義の通り)の化合物を、式L(式中、Lは上記定義の通り)の第一アミンと反応させて式IIIのポリマーを製造する工程を含む。
【0154】
【化16】
【0155】
式IIIの化合物をさらに式IVの化合物と反応させて、式V:
【0156】
【化17】
【0157】
の化合物を形成させる。上記式中、p及びRは、独立に、出現するたびに、上に定義されたリストから選ばれる。場合によっては、pは出現するたびに同じであり、R基は、硫黄連結から始まるR基の配列が化合物の各末端で同じであるように選ばれる。すなわち、p及びRは、ポリマーがLに対して2倍の対称を有するように選ばれる。
【0158】
上記工程の代替において、式IIIの化合物をさらに式HNR(式中、Rは上記定義の通り)の化合物及び式IVの化合物と反応させ、得られた混合物を分離して、式VI:
【0159】
【化18】
【0160】
の化合物を得る。上記式中、Rは、独立に、出現するたびに、上に定義されたリストから選ばれ、pは上記定義の通りである。
【0161】
式IIIの化合物にオリゴペプチドを結合させる更なる方法も、当業者には利用可能であることは分かるであろう。当業者であれば、式IIIの末端アクリレート基における反応のための適切な求核試薬を承知しているであろう。
【図面の簡単な説明】
【0162】
図1図1は、様々なオリゴペプチド末端修飾PBAEsとpGFPプラスミドを50:1の比(w/w)で使用して製造されたポリマー−DNA複合体の流体力学直径とゼータ電位を示す。
図2図2は、DNAと複合体化されたオリゴペプチド末端修飾PBAEs及び参照ポリマーのアガロースゲル電気泳動分析を示す。
図3図3は、オリゴペプチド末端修飾PBAEs及び参照ポリマーの緩衝能を示す。
図4図4は、様々なオリゴペプチド末端修飾PBAEs及び参照ポリマーをトランスフェクトされた(a)cos−7、(b)hnDf及び(c)HaCaT細胞におけるGFP発現のフローサイトメトリー分析を示す。
図5図5は、様々なオリゴペプチド末端修飾PBAEsをトランスフェクトされたcos−7細胞の生存率を示す。
図6図6は、様々なオリゴペプチド末端修飾PBAEsとGFP特異的siRNAを200:1の比(w/w)で使用して製造されたポリマー−siRNA複合体の流体力学直径とゼータ電位を示す。
図7図7は、様々なオリゴペプチド末端修飾PBAEsを用いてGFP特異的siRNAをトランスフェクトされたMDA−MB−231/GFP細胞におけるGFP発現サイレンシングのフローサイトメトリー分析を示す。
図8図8は、ウシインスリンをグルタミン酸及びリシン末端修飾PBAEsを用いて最終のポリマー:タンパク質比200:1(w/w)でカプセル化した場合のカプセル化の程度を示す。
【実施例】
【0163】
本発明を以下の実施例によってさらに説明する。当然のことながら、実施例は説明のためだけに提供されるものであり、上記の本発明を制限する意図はないことは理解されるであろう。詳細の修正は本発明の範囲を逸脱することなく実施することができる。
【0164】
材料
試薬及び溶媒は、Sigma−Aldrich社及びPanreac社より入手し、特に記載のない限り、そのまま使用した。プラスミドpmaxGFP(3486bp)はAmaxa社から入手した。細胞株は、ATCC(バージニア州マナッサス)から入手し、37℃、5%CO2雰囲気下にて、Gibco社より入手した、10%ウシ胎仔血清、100単位/mlのペニシリン、100ug/mLのストレプトマイシン、0.1mMのMEM非必須アミノ酸(NEAA)、2mMのL−グルタミンを含有する完全DMEM中に維持した。
【0165】
実施例1:PBAEポリマーの合成
ポリ(β−アミノエステル)は、文献(例えば、Montserrat,N.ら、J.Biol.Chem.286,12417−12428(2011))に記載されている2工程手順に従って合成した。最初に、アクリレート末端ポリマーを、第一アミンとジアクリレートの付加反応によって合成した(アミン:ジアクリレートを1:1.2のモル比で)。最後に、得られたアクリレート末端ポリマーを異なる種類のアミン−及びチオール−含有部分(amine- and thiol-bearing moieties)で末端キャッピング修飾することにより、PBAEsを得た。合成された構造は、H−NMR及びFT−IR分析により確認した。NMRスペクトルは、400MHz Varian(Varian NMR Instruments社、イリノイ州Claredon Hills)にて記録し、メタノール−dを溶媒として使用した。IRスペクトルは、Nicolet Magna 560(Thermo Fisher Scientific社、マサチューセッツ州ウォルサム)とKBrビームスプリッターを用い、蒸着膜中の溶媒としてメタノールを使用して得た。分子量測定は、2本のGPC Ultrastyragelカラム、10及び10Å(5μm混合、300mm×19mm、Waters Millipore Corporation社、米国マサチューセッツ州ミルフォード)を備えたHewlett−Packard 1050 Series HPLCシステム上で、THFを移動相として実施した。分子量は、ポリスチレン標準のリテンションタイムとの比較により算出した。
【0166】
実施例2:アクリレート末端中間体の合成
1,4−ブタンジオールジアクリレート(8.96g、4.07×10−2mol)と5−アミノ−1−ペンタノール(3.5g、3.39×10−2mol)をバイアル中で混合した。混合物を90℃で24時間撹拌した後、室温に冷却して、わずかに黄色の粘稠固体、アクリレート末端中間体(C32とする)を形成させた。中間体C32は、次の工程で使用されるまで4℃で保管された。
【0167】
【化19】
【0168】
実施例3(比較):第一アミンで末端修飾されたPBAEsの合成
第一アミンで末端修飾されたPBAEsを、Zugates,G.T.ら,Bioconjugate Chem.18,1887−1896(2007)に規定されているようにして製造した。中間体C32(1g、0.5mmol)のTHF(2ml)中溶液を1,5−ジアミノ−2−メチル−ペンタン(0.24g、0.271ml、2mmol)のTHF(8ml)中溶液と混合した。混合物を室温で一晩撹拌し、次いでジエチルエーテル(100ml)中に沈殿させ、最後に真空下で乾燥させた。
【0169】
【化20】
【0170】
実施例4(比較):第一アミンで末端修飾されたPBAEsの更なる合成
ジアミン末端修飾ポリ(β−アミノエステル)、B3を、各所に記載の手順に従って合成した(Zugates,G.T.ら,Bioconj.Chem.18 1887-1896(2007)、Yang,F.ら,Proc.Natl Acad.Sci.USA.107 3317-3322(2010)、Sunshine,J.C.Biomacromolecules 12 3592-3600(2011))。簡潔に述べると、5−アミノ−1−ペンタノール(3.44g、33mmol)及び1,4−ブタンジオールジアクリレート(7.93g、40mmol)を、磁気撹拌下90℃で24時間重合させた。得られたアクリレート末端ポリマーC32(1g、0.4mmol)及び2−メチル−1,5−ペンタンジアミン(0.23g、0.27mL、2mmol)をテトラヒドロフラン中に溶解し、室温で一晩撹拌した。得られたジアミン末端修飾ポリマーB3をジエチルエーテル中での沈殿により単離し、真空下で乾燥させた。
IR(蒸着膜):ν = 1055, 1089, 1125, 1196 (C-O), 1257, 1463, 1733 (C=O), 2079, 2191, 2253, 2861, 2936, 3398 (N-H, O-H) cm−1
H-NMR (400 MHz, CDOD, TMS) (ppm): δ = 4.11 (t, CH-CH-O), 3.72 (t), 3,55 (t, CH-CH-OH), 2.87 (t, -NH-CH-CH-C(=O)-), 2.77 (t, CH-CH-N-), 2.60-2.51 (br, -NH-CH-(CH)-CH(CH)-NH-), 2.46 (br, >N-CH-(CH)-OH, >N-CH-CH-C(=O)-O), 1.87 (br), 1.73 (br), 1.60-1.41 (br, -O-CH-CH-CH-CH-O, -CH-CH-OH, -CH-CH-NH), 1.35 (br, -N-CH-CH-CH-(CH)-OH), 0.94 (d, CH-CH< ジアミン由来)。
【0171】
実施例5:オリゴペプチドで末端修飾されたPBAEsの合成
一般に、オリゴペプチド修飾PBAEsは以下のようにして得た。アクリレート−末端ポリマーC32又はC32SSと、アミン−又はチオール−末端オリゴペプチドのいずれか(例えば、HS−Cys−Arg−Arg−Arg(CR3)、HN−Arg−Arg−Arg(R3)又はHS−Cys−Glu−Glu−Glu(CE3)−他のオリゴペプチドも標準の一文字コードを用いる同様の略号により表記される)をDMSO中に1:2のモル比で混合した。混合物を室温で一晩撹拌し、得られたポリマーをジエチルエーテル:アセトン(3:1)中での沈殿により得た。
【0172】
(a)トリアルギニン末端修飾PBAEsを得るための以下の合成手順は一例として示される。中間体C32を上記実施例1に記載のようにして製造した。中間体C32(0.15g、0.075mmol)のDMSO(2ml)中溶液を、対応するオリゴペプチド(Cys−Arg−Arg−Arg(CR3;0.11g、0.15mmol)のDMSO(1mL)中溶液と、適切なモル比、それぞれ1:2で混合した。混合物を室温で一晩撹拌し、次いでジエチルエーテル/アセトン(3:1)中で沈殿させた。
【0173】
【化21】
【0174】
IR (蒸着膜): ν = 721, 801, 834, 951, 1029, 1133 (C-O), 1201, 1421, 1466, 1542, 1672 (C=O, ペプチドのアミド由来), 1731 (C=O, エステル由来), 2858, 2941, 3182, 3343 (N-H, O-H) cm−1
H-NMR (400 MHz, CDOD, TMS) (ppm): δ = 4.41-4.33 (br, NH-C(=O)-CH-NH-C(=O)-CH-NH-C(=O)-CH-NH-C(=O)-CH-CH-, 4.11 (t, CH-CH-O), 3.55 (t, CH-CH-OH), 3.22 (br, NH-C(=NH)-NH-CH-, OH-(CH)-CH-N-), 3.04 (t, CH-CH-N-), 2.82 (dd, -CH-S-CH), 2.48 (br, -N-CH-CH-C(=O)-O), 1.90 (m, NH-C(=NH)-NH-(CH)-CH-CH-), 1.73 (br, -O-CH-CH2-CH2-CH-O), 1.69 (m, NH-C(=NH)-NH-CH-CH-CH-), 1.56 (br, -CH-CH-CH-CH-OH), 1.39 (br, -N-(CH)-CH-(CH)-OH)。
【0175】
(b)トリリシン修飾オリゴペプチド(K3C−C32−CK3)も同じプロトコルに従って製造され、以下のように特徴付けされた。
IR (蒸着膜): ν = 721, 799, 834, 1040, 1132, 1179 (C-O), 1201, 1397, 1459, 1541, 1675 (C=O, ペプチドのアミド由来), 1732 (C=O, エステル由来), 2861, 2940, 3348 (N-H, O-H) cm−1
H-NMR (400 MHz, CDOD, TMS) (ppm): δ = 4.38-4.29 (br, NH-(CH)-CH-), 4.13 (t, CH-CH-O-),3.73 (br,NH-CH-CH-S-), 3.55 (t, CH-CH-OH), 2.94 (br, CH-CH-N-, NH-CH-(CH)-CH-), 2.81 (dd, -CH-S-CH), 2.57 (br, -N-CH-CH-C(=O)-O), 1.85 (m, NH-(CH)-CH-CH-), 1.74 (br, -O-CH-CH2-CH2-CH-O), 1.68 (m, NH-CH-CH-(CH)-CH-), 1.54 (br, -CH-CH-CH-CH-OH), 1.37 (br, -N-(CH)-CH-(CH)-OH)。
【0176】
(c)トリヒスチジン修飾オリゴペプチド(H3C−C32−CH3)も同じプロトコルに従って製造され、以下のように特徴付けされた。
IR (蒸着膜): ν = 720, 799, 832, 1040, 1132, 1201, 1335, 1403, 1467, 1539, 1674 (C=O, ペプチドのアミド由来), 1731 (C=O, エステル由来), 2865, 2941, 3336 (N-H, O-H) cm−1
H-NMR (400 MHz, CDOD, TMS) (ppm): δ = 8.0-7.0 (br -N(=CH)-NH-C(=CH)-) 4.61-4.36 (br, -CH2-CH-), 4.16 (t, CH-CH-O-), 3.55 (t, CH-CH-OH), 3.18 (t, CH-CH-N-, 3.06 (dd, -CH-CH-), 2.88 (br, OH-(CH)-CH-N-), 2.82 (dd, -CH-S-CH-), 2.72 (br, -N-CH-CH-C(=O)-O), 1.75 (br, -O-CH-CH2-CH2-CH-O), 1.65 (m, NH-CH-CH-(CH) -CH-), 1.58 (br, -CH-CH-CH-CH-OH), 1.40 (br, -N-(CH)-CH-(CH)-OH)。
【0177】
実施例6:非対称末端修飾を有するPBAEsの合成
一般に、非対称オリゴペプチド修飾PBAEsは以下のようにして得た。アクリレート−末端ポリマーC32(又はC32SS)と、アミン−又はチオール−末端オリゴペプチドのいずれか(例えば、CR3、R3又はCE3)をDMSO中で1:1のモル比で混合した。混合物を室温で一晩撹拌した。等モル量の第二アミン−又はチオール−末端オリゴペプチド、又は第一アミンを加え、混合物を室温で一晩撹拌した。得られた非対称PBAEポリマーをジエチルエーテル/アセトン(3:1)中での沈殿により得た。非対称末端修飾B3−C32−CR3 PBAEsを得るための以下の合成手順は一例として示される。中間体C32(0.15g、0.075mmol)のDMSO(2mL)中溶液を対応するオリゴペプチドCys−Arg−Arg−Arg(CR3;0.055g、0.075mmol)のDMSO(1ml)中溶液と混合し、室温で一晩撹拌した。その後、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン(0.017g、0.02ml、0.15mmol)を、DMSO中、室温で4時間の間、混合物に加えた。非対称末端修飾ポリマーB3−C32−CR3とB3−C32−B3及びR3C−C32−CR3との混合物がジエチルエーテル/アセトン(3:1)中での一晩の沈殿により得られた。混合物はそれ以上の精製をせずに使用することも、又は非対称末端修飾ポリマーB3−C32−CR3は標準法によって混合物から分離することもできる。
【0178】
【化22】
【0179】
実施例7:化合物のライブラリー
様々なオリゴペプチド末端修飾PBAEsのライブラリーを、第一アミンをジアクリレートに加え、次いで末端修飾することによって合成した。式Iに従って、表1に示されているオリゴペプチド末端修飾PBAEsを合成した。
【0180】
【表1-1】
【0181】
【表1-2】
【0182】
実施例8:ポリマー−DNA複合体の形成と特徴付け
全ポリマーのストック溶液をDMSO中に調製した(100mg/ml)。これらのポリマー溶液を適当な濃度に希釈して(25mM酢酸緩衝液、pH5.0)、所望比率のポリマー−DNA(w/w)を得た。次に、100μlの希釈ポリマーを100μlのプラスミドDNA(25mM酢酸緩衝液(pH5.0)中60μg/mL)に加え、数秒間激しく渦混合し、次いで37℃のオーブン中で30分間インキュベートした。得られたナノ粒子を、ナノ粒子の特徴付けのためにリン酸緩衝生理食塩水中に希釈した。ポリマー−DNA複合体を、動的光散乱を用い、サイズ及びゼータ電位について特徴付けした(Zetasizer nano zs90、Malvern Instruments社)。結果を図1に示す。
【0183】
ナノ粒子はアガロースゲル電気泳動でも特徴付けされた。プラスミド遅延(plasmid retardation)を評価するために、異なるw/w比で0.48μgのpGFPを含有するPBAE−DNA複合体をアガロースゲル(0.8%、1μg/mLの臭化エチジウム含有)のウェルに加えた。サンプルを60Vで45分間運転し(Apelex PS 305、フランス)、プラスミド遅延を分解し、UV照射により視覚化した。結果を図2に示す。
【0184】
実施例9:プロトンスポンジ効果
プロトンスポンジ効果とは、エンドソーム脱出を促進することが示されている現象のことで、高い緩衝能を有するポリマーによって媒介され、トランスフェクション効率の増大をもたらす(Varkouhi,A.K.ら,J.Control.Rel.151 220−228(2011).)。一般に、第三アミンを構造中に有するポリマーは、5.0〜7.5のエンドソームpH範囲で緩衝効果を示す。これによって浸透圧の増大が引き起こされ、エンドソームの崩壊がもたらされる(Behr,J.Chimia 2 34−36(1997))。プロトンスポンジ効果に従って、新規に合成されたポリ(β−アミノエステル)の緩衝能をポリマー溶液の酸滴定により決定した(図2)。
【0185】
ポリマーの緩衝能は酸−塩基滴定によって決定された。簡潔に述べると、ポリマーを1mg/mLの最終濃度で塩化ナトリウムの水溶液(150mM)中に溶解した。得られたポリマー溶液を水酸化ナトリウムでpH10に調整した。滴定曲線は、10μLの分量の塩酸(0.1M)を段階添加することによって決定された。各添加後にpHをpHメーター(Crison Basic 20+、Crison Instruments社)でpH2に達するまで測定した。ポリマーを含有していない溶液も対照として滴定した。結果を図3に示す。
【0186】
最初に、ポリ(β−アミノエステル)B3の緩衝効果を測定したところ、pH5.8になるまで適切な緩衝能を示した。最も高い緩衝能は、ヒスチジン−末端ポリ(β−アミノエステル)で観察された。これは7.5〜5.3のpH範囲で高い緩衝を示した。リシン−修飾ポリ(β−アミノエステル)は、pH5.9まで適切な緩衝能を示した。これに対し、アルギニンオリゴペプチドで末端キャッピングされたポリ(β−アミノエステル)は、7.4〜6.4の範囲で限定的な緩衝能しか示さなかった。すべてのポリマーは、同じアクリレート−末端プレポリマーC32から派生しているので、観察された追加の緩衝能は、アミン豊富末端に由来している。
【0187】
実施例10:トランスフェクション効果
本発明のポリマーと公知ポリマーのトランスフェクション効果を、緑色蛍光タンパク質をコードしたプラスミド(pGFP)の細胞への送達効率を評価することによって比較した。
【0188】
プラスミドpGFPによる細胞トランスフェクション:pGFPプラスミドを用いて、HaCaT、hnDf、cos−7、A549及びHeLa細胞への細胞トランスフェクションを実施した。これらの細胞株は、ATCC(バージニア州マナッサス)から入手し、37℃、5%CO雰囲気下にて、10%ウシ胎仔血清、100単位/mlのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン、0.1mMのMEM非必須アミノ酸(NEAA)、2mMのL−グルタミンを含有する完全DMEM中に維持した。
【0189】
細胞を10,000細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種し、一晩インキュベートして、およそ80〜90%コンフルエンスにした後、トランスフェクション実験を実施した。ポリマー−DNA複合体を、上記のように、pGFPプラスミドを用い、ポリマー:プラスミド比50:1で製造した。ポリプレックス(polyplexes)を無血清培地中に希釈し、最終プラスミド濃度0.6μg pGFP/ウェルで細胞に加えた。細胞を37℃、5%CO雰囲気下で3時間インキュベートした。その後、細胞をPBSで1回洗浄し、完全DMEMを加えた。48時間後、細胞を収穫し、フローサイトメトリーによりGFP発現を分析した。GFP発現を、陰性対照(非処理細胞)と、陽性対照としてGeneJuice(登録商標)(Merck KGaA,ドイツ)及びB3−C32−B3に対して比較した。結果を図4a〜cに示す。図中、R/H、K/H及びR/Kは、R3C−C32−CR3、K3C−C32−CK3又はH3C−C32−CH3 PBAEsの1:1混合物(w/w)を表す。
【0190】
実施例11:細胞毒性
MTSアッセイ(CellTiter 96(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation Assay,米国Promega Corporation社)を用いて、本願に記載されたポリマーをトランスフェクトされたcos−7細胞の生存率を評価した。細胞生存率は、トランスフェクションの48時間後、MTSアッセイを製造業者の指示通りに用いて評価した。簡潔に述べると、実施例5と同様の方法によって、細胞にpGFPをトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に培地を除去し、細胞をPBSで洗浄し、MTS(20%v/v)を補充された完全培地を加えた。細胞を37℃でインキュベートし、マイクロプレートリーダーを用いて吸光度を490nmで測定した。細胞生存率は、非処理細胞と比較した相対パーセンテージで表された。結果を図5に示す。図中、R/H、K/H及びR/Kは、R3C−C32−CR3、K3C−C32−CK3又はH3C−C32−CH3 PBAEsの1:1混合物(w/w)を表す。
【0191】
実施例12:遺伝子抑制(サイレンシング)アッセイ
本発明のポリマーのsiRNA送達効率を、GFP特異的siRNAを用い、GFPレポーター安定細胞株にて評価した。
【0192】
ポリマー−siRNA複合体の製造:ポリマーのストック溶液をDMSO中に調製した(100mg/ml)。これらのポリマー溶液を適当な濃度に希釈して(25mM酢酸緩衝液、pH5.0)、所望比率のポリマー−siRNA(w/w)を得た。次に、100μlの適当に希釈されたポリマーを100μlのGFP特異的siRNA(25mM酢酸緩衝液(pH5.0)中10μg/mL;ThermoScientific Dharmacon GFP Duplex I)に加え、数秒間激しく渦混合し、次いで37℃で30分間インキュベートした。得られた複合体を、ナノ粒子の特徴付けのためにリン酸緩衝生理食塩水中に希釈した。ポリマー−siRNA複合体を、動的光散乱を用い、サイズ及びゼータ電位について特徴付けした(Zetasizer nano zs90、Malvern Instruments社)。結果を図6に示す。図中、K/H及びK/Rは、R3C−C32−CR3、K3C−C32−CK3又はH3C−C32−CH3 PBAEsの60:40混合物(w/w)を表す。K/E及びK/Dは、K3C−C32−CK3及びD3C−C32−CD3又はE3C−C32−CE3 PBAEsの70:30混合物(w/w)を表す。
【0193】
GFP特異的siRNAによる細胞トランスフェクション:GFP特異的siRNAを用いて、MDA−MB−231/GFP細胞(Cell Biolabs Inc.社)への細胞トランスフェクションを実施した。細胞は、37℃、5%CO雰囲気下にて、10%ウシ胎仔血清、100単位/mlのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含有する完全DMEM中に維持した。
【0194】
簡潔に述べると、細胞を10,000細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種し、一晩インキュベートして、およそ80〜90%コンフルエンスにした後、トランスフェクション実験を実施した。ポリマー−siRNA複合体を、上記のように、GFP特異的siRNAを用い、ポリマー:siRNA比200:1で製造した。ポリプレックスを無血清培地中に希釈し、最終プラスミド濃度50nM siRNA/ウェルで細胞に加えた。細胞を37℃、5%CO雰囲気下で3時間インキュベートした。その後、細胞をPBSで1回洗浄し、完全DMEMを加えた。48時間後、細胞を収穫し、フローサイトメトリーによりGFPサイレンシングを分析した。GFP発現のサイレンシングを、陰性対照(非処理細胞)と、陽性対照としてINTERFERinTM(PolyPlus TransfectionTM)及びB3に対して比較した。結果を図7に示す。図中、R/H、K/H及びR/Kは、R3C−C32−CR3、K3C−C32−CK3又はH3C−C32−CH3 PBAEsの1:1混合物(w/w)を表し、SS(R/H)、SS(K/H)及びSS(R/K)は、R3C−C32SS−CR3、K3C−C32SS−CK3又はH3C−C32SS−CH3 PBAEsの1:1混合物(w/w)を表す。
【0195】
実施例13:グルタミン酸及びリシン末端修飾PBAEsを用いるウシインスリンのカプセル化
本発明のポリマーのカプセル化効率をウシインスリン(Sigma Aldrich社)を用いて評価した。簡潔に述べると、グルタミン酸末端修飾PBAEs E3C−C32−CE3(60mg/mLで16.7μL)をウシインスリンの溶液(HEPES緩衝液中0.01mg/mLで1mL、100mM及びpH7.2)に加え、次いでリシン末端修飾PBAEs K3C−C32−CK3(100mg/mLで10μL)を加え、最終のポリマー:タンパク質比を200:1とした。混合物を室温で30分間インキュベートした。得られたナノ粒子をCentricon装置(10KDaカットオフ、Merck Millipore社)を用いて遠心分離し、インスリン含有ナノ粒子を非カプセル化インスリンから分離した。カプセル化の程度は、ビシンコニンアッセイ(BCAタンパク質アッセイ試薬、ThermoScientific社)を用いて非カプセル化インスリンを測定し、インスリンのオリジナル溶液と比較することによって計算した。結果を図8に示す。図中、NP1及びNP2は独立した複製である。
本発明の態様
態様1 式I:
【化23】
[式中、各L及びLは、
【化24】
、O、S、NR及び結合からなる群から独立に選ばれ;ここで、Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から独立に選ばれ;
は、アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、アリーレン又はヘテロアリーレンからなる群から独立に選ばれ;
は、
【化25】
からなる群から選ばれ;
は、アルキレン、アルケニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、アリーレン又はヘテロアリーレンからなる群から独立に選ばれ;
及びRは、オリゴペプチド及びRから独立に選ばれ;
ここで、R及びRの少なくとも一つはオリゴペプチドであり;
そして、Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から選ばれ;
各Rは、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アシル、アリール又はヘテロアリールからなる群から独立に選ばれ;そして
nは5〜10,000の整数である]のポリマー
又はその薬学的に許容可能な塩。
態様2 一つの又は各オリゴペプチドが、3〜20個のアミノ酸残基を含む、態様1に記載のポリマー。
態様3 一つの又は各オリゴペプチドがpH7で正味の正電荷を有する、前記態様のいずれかに記載のポリマー。
態様4 一つの又は各オリゴペプチドが、リシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群から選ばれるアミノ酸残基を含む、態様3に記載のポリマー。
態様5 一つの又は各オリゴペプチドが、式VII:
【化26】
[式中、pは2〜19の整数であり、Rは、出現するたびに、HNC(=NH)−NH(CH−、HN(CH−又は(1H−イミダゾール−4−イル)−CH−からなる群から選ばれる]の化合物である、前記態様のいずれかに記載のポリマー。
態様6 一つの又は各オリゴペプチドがpH7で正味の負電荷を有する、態様1に記載のポリマー。
態様7 一つの又は各オリゴペプチドが、式VII:
【化27】
[式中、pは2〜19の整数であり、Rは、出現するたびに、HOC(CH−又はHOC−CH−からなる群から選ばれる]の化合物である、態様6に記載のポリマー。
態様8 R及びRがともにオリゴペプチドである、前記態様のいずれかに記載のポリマー。
態様9 R及びRが異なるオリゴペプチドである、態様8に記載のポリマー。
態様10 R及びRの一つがオリゴペプチドで、R及びRの一つがRである、態様1〜7のいずれかに記載のポリマー。
態様11 nが1〜20である、前記態様のいずれかに記載のポリマー。
態様12 Rが、水素、−(CHNH、−(CHNHMe、−(CHOH、−(CHCH、−(CH(OCHCHNH、−(CH(OCHCHOH又は−(CH(OCHCHCHからなる群から選ばれ、mが1〜20の整数である、前記態様のいずれかに記載のポリマー。
態様13 各Lが、−C1−10 アルキレン−(S−S)−C1−10アルキレン−からなる群から独立に選ばれ、qが0又は1である、前記態様のいずれかに記載のポリマー。
態様14 各Rが、水素、C1−6アルキル、C1−6アルケニル、C1−6アルキニル、C1−6ヒドロキシアルキル、ヒドロキシル、C1−6アルコキシ、ハロゲン、アリール、ヘテロサイクリック、ヘテロアリール、シアノ、−OC−C1−6アルキル、カルバモイル、−CO2H、−CO−C1−6アルキル、C1−6アルキルチオエーテル、チオール、又はウレイドから独立に選ばれる、前記態様のいずれかに記載のポリマー。
態様15 活性薬剤と、態様1〜14のいずれか1項に記載のポリマーとを含む組成物。
態様16 活性薬剤がポリヌクレオチドである、態様15に記載の組成物。
態様17 ポリヌクレオチドがsiRNA又はmiRNAである、態様16に記載の組成物。
態様18 ポリヌクレオチドが、20〜30ヌクレオチドの長さである、態様16に記載の組成物。
態様19 組成物が、ポリヌクレオチドとポリマーを含有するナノ粒子を含む、態様16〜18のいずれかに記載の組成物。
態様20 ポリマーが、態様3に記載のポリマーと態様6に記載のポリマーを含む、態様15〜19のいずれかに記載の組成物。
態様21 薬剤を、態様1〜14のいずれかに記載のポリマーのマトリックス中にカプセル化してナノ粒子を形成させる方法であって、該方法は、薬剤を準備し;ポリマーを準備し;そして薬剤とポリマーを適切な条件下で接触させてナノ粒子を形成させる工程を含む方法。
態様22 薬剤が、DNA、RNA、siRNA及びmiRNAから選ばれるポリヌクレオチド、小分子又はタンパク質である、態様21に記載の方法。
態様23 接触工程が、(a)薬剤とポリマーの混合物のスプレー乾燥、(b)二重エマルション溶媒蒸発技術(double emulsion solvent evaporation techniques)又は(c)転相技術を含む、態様21又は22に記載の方法。
態様24 医薬に使用するための、態様1〜14のいずれか1項に記載のポリマー又は態様15〜20のいずれか1項に記載の組成物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8