特許第6473503号(P6473503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473503
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】アンジュレーター
(51)【国際特許分類】
   H05H 13/04 20060101AFI20190207BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20190207BHJP
   G21K 1/00 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   H05H13/04 F
   H01F7/02 Z
   G21K1/00 E
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-526504(P2017-526504)
(86)(22)【出願日】2015年11月13日
(65)【公表番号】特表2018-502418(P2018-502418A)
(43)【公表日】2018年1月25日
(86)【国際出願番号】CN2015094570
(87)【国際公開番号】WO2016078547
(87)【国際公開日】20160526
【審査請求日】2017年7月14日
(31)【優先権主張番号】201410652902.3
(32)【優先日】2014年11月17日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515291465
【氏名又は名称】中国科学院上海微系統与信息技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100131381
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】喬山
(72)【発明者】
【氏名】常睿
(72)【発明者】
【氏名】季福昊
(72)【発明者】
【氏名】葉茂
【審査官】 道祖土 新吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−303000(JP,A)
【文献】 米国特許第05383049(US,A)
【文献】 特開2012−160408(JP,A)
【文献】 Shigemi Sasaki et al,DESIGN STUDY OF KNOT-APPLE UNDULATOR FOR PES-BEAMLINEAT SSRF,PROCEEDINGS OF PAC2013, PASADENA, CAUSA,2014年 6月30日,pp.1043-1045
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 1/00−3/00
G21K 5/00−7/00
H01F 7/00−7/02
H05H 3/00−15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンジュレーターであって、
電子ビームの伝送方向に沿って順に配列されるM個の永久磁石周期を少なくとも含み、前記永久磁石周期ごとに4列の永久磁石構造が含まれ、前記永久磁石構造ごとにN列の永久磁石群が含まれ、前記永久磁石群ごとにK個の永久磁石ユニットが含まれ、M、N、Kがいずれも1以上の自然数であり、
4列の前記永久磁石構造は2つずつ対となって対向するように電子ビームの伝送方向両側に設けられるとともに、相対変位によって少なくとも1つの複合磁場を形成可能であり、電子ビームが前記複合磁場を通過する際に、楕円偏光、円偏光或いは0°〜360°のうち任意の偏光角度方向の直線偏光が発生し、且つ、電子の速度方向が前記アンジュレーターの軸線方向から偏移し、
前記永久磁石構造ごとに2列の永久磁石群が含まれ、一方の永久磁石群が主磁場を発生させ、他方の永久磁石群が補助磁場を発生させ、前記補助磁場に対応する永久磁石群に含まれる永久磁石ユニットは、磁化方向が前記アンジュレーターの磁気ギャップの方向に対し垂直とされ、或いは、
前記永久磁石構造ごとに永久磁石群が一列ずつ含まれ、当該永久磁石群が、磁場の偏向角度が異なるK個の永久磁石ユニットを含み、前記永久磁石群は、磁場を磁場周期の異なる主磁場と補助磁場に分解するとともに、自身に含まれる各永久磁石ユニットの磁場の偏向角度を調節することで、前記主磁場と前記補助磁場の磁場強度比率を調整する
ことを特徴とするアンジュレーター。
【請求項2】
前記主磁場と前記補助磁場が異なる磁場周期を有することを特徴とする請求項1に記載のアンジュレーター。
【請求項3】
前記主磁場と前記補助磁場の磁場周期比は2:3であることを特徴とする請求項2に記載のアンジュレーター。
【請求項4】
前記補助磁場の磁場周期は、これに対応する永久磁石群に含まれる永久磁石ユニットの空白領域を設けることで調整されることを特徴とする請求項2に記載のアンジュレーター。
【請求項5】
前記主磁場と前記補助磁場は、電子の速度方向と前記アンジュレーターの軸線方向との夾角を所望の基本波光子の受入角の半分よりも大きくすることで、低熱負荷条件における最大光強度が得られるよう、所望の基本波光子のエネルギー、電子ビームのエネルギー及び前記アンジュレーターの長さに基づいて調節されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアンジュレーター。
【請求項6】
前記電子ビームのエネルギーは3.5GeVであり、前記アンジュレーターの長さは4.5mであり、所望の基本波光子はエネルギーが7eV、受入角が0.6mradであり、前記永久磁石構造ごとに永久磁石群が一列ずつ含まれる場合、当該永久磁石群により形成される主磁場と補助磁場の磁場強度比率は7:3であり、
当該永久磁石群は24個の永久磁石ユニットを含み、順時計回りを正方向、垂直上向きを角度基準である0度とすると、24個の前記永久磁石ユニットにおける磁場の偏向角度はそれぞれ、0°、−23°、67°、67°、157°、157°、−113°、−113°、−23°、0°、90°、90°、180°、−157°、−67°、−67°、23°、23°、113°、113°、−157°、180°、−90°、−90°となることを特徴とする請求項5に記載のアンジュレーター。
【請求項7】
前記永久磁石ユニットにはNd−Fe−B材料が用いられ、その飽和磁場強度は1.25T以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアンジュレーター。
【請求項8】
前記アンジュレーターは静止磁石フレームと可動磁石フレームを更に含み、固定永久磁石構造と可動永久磁石構造がそれぞれ形成されるよう、互いに対となる2列の永久磁石構造がそれぞれ前記静止磁石フレームと前記可動磁石フレームに固定され、前記可動永久磁石構造は、前記可動磁石フレームに伴われて前記固定永久磁石構造に対し異なる変位で移動することで異なる複合磁場を発生させ、これにより異なる偏光を発生させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアンジュレーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射光の技術分野に関し、特にアンジュレーターに関する。
【背景技術】
【0002】
放射光は正式名称をシンクロトロン放射光といい、高エネルギー電子が磁場において偏向する際に発せられる高強度、高コリメート性のビームである。より強度の高い放射光を発生させるために、現在のシンクロトロン放射装置では大量のアンジュレーターを使用している。アンジュレーターは周期変動磁場を発生させ、高エネルギー電子ビームがアンジュレーター内で周期的に運動することで、発生した光が干渉効果により更に高い強度を備えるようになる。加速器の技術が進むにつれて、電子ビームの発散度は縮小傾向にあるが、光学素子(例えば、反射鏡、回折格子、結晶等)の熱負荷(全エネルギー光子のパワーの和)は増大の一途をたどっている。一方、加工技術の向上に伴い、光学素子における表面形状の加工誤差については完全に要求を満たせるようになっているが、熱負荷により招来される光学素子の表面形状誤差(例えば変形など)はビームライン性能に影響する決定的要因となっている。そのため、現代のシンクロトロン放射装置にとって、高熱負荷は早急に解決を要する課題とされる。放射光については、相対論効果によって、電子の運動速度方向における小発散角(光子90%を含む発散角と定義。3.5GeVの電子ビームエネルギーの場合は0.008°)内で熱負荷が発生する。円偏光を発生させるアンジュレーターの場合、電子は螺旋状に運動するため、その速度方向は永遠にアンジュレーターの軸線方向に沿うことがない。よって、熱負荷の極値方向はアンジュレーターの軸線から偏移し、大部分の熱負荷がダイアフラムにより濾過されるため、光学素子に照射されることはない。一方で、一般的な直線偏光アンジュレーターの場合、電子は水平面或いは垂直面内で蛇行運動するため、その速度方向はアンジュレーターの軸線を横切ることがあり、ビームラインの熱負荷が増大してしまう。
【0003】
高熱負荷の問題を解決すべく、日本のTanaka博士は8の字アンジュレーター構造を提案している(T.Tanaka and H.Kitamura,nuclear instruments and methods in physics research,section A 364(1995),368〜373)。この構造は、電子カスケードの左右回転運動と円偏光の干渉を利用して直線偏光を発生させるものであり、水平及び垂直方向の磁石周期を1:2とすることで、図1に示すような電子の運動軌跡を取得する。電子の運動軌跡が左右回転運動となることから、電子の速度方向は永遠にアンジュレーターの軸線に沿うことがなく、結果として熱負荷がアンジュレーターの軸線から偏移する一方で、コヒーレント光はアンジュレーターの軸線沿いにおいて最強となる。これによれば、放射光が直線偏光を発生させる際の熱負荷の問題が解決される。しかし、8の字アンジュレーターで発生させられるのは直線偏光のみであり、円偏光は発生させられない。また、長周期方向の第二高調波と短周期方向の基本波が干渉可能なことから、純粋な直線偏光は発生させられない。これに対し、Sasaki教授が提案するAPPLE(Advanced Planar Polarized Light Emitter)アンジュレーター(S.Sasaki,nuclear instruments and methods in physics research,section A 347(1994),83〜86)では図2に示すような磁石配列構造とされ、可動磁石群と静止磁石群との相対変位によって任意に偏光する放射光偏光を発生可能としている。しかし、直線偏光放射光を発生させる場合、APPLEアンジュレーターの磁場は一般的な直線偏光アンジュレーターと同様に熱負荷の問題を解決できない。そこで、Sasaki教授はAPPLEアンジュレーターと8の字アンジュレーターとに基づくAPPLE−8アンジュレーター(S.Sasaki et.al.,EPAC98,p2237(1998))を提案した。当該アンジュレーターは2つの標準的なAPPLE磁石群から構成される。内部の4列の磁石群から構成されるAPPLEアンジュレーターは放射光の発生に用いられ、外部の4列の磁石群から構成されるAPPLEアンジュレーターと内部のAPPLEアンジュレーターとが連動することで8の字運動が発生する。また、内部と外部のアンジュレーターの周期比は1対2とされる。図3に示すように、対角上にある4列の可動磁石の変位によって、任意に偏光する偏光放射光を発生可能であるが、8の字アンジュレーターは純粋な直線偏光を発生させられず、当該APPLE−8アンジュレーターの直線偏光度は82%にとどまる。
【0004】
低熱負荷の任意の偏光放射光を発生させるために、本発明者らは電磁アンジュレーターに基づくKnot(ノット型)アンジュレーター(S.Qiao et.al.,Review of Scientific Instruments 80(2009),085108)の運転モードを提案し、放射光における熱負荷の問題を徹底的に解決した。Knotアンジュレーターでも、電子カスケードの左右回転運動によって低熱負荷の直線偏光放射光を発生させるが、水平及び垂直方向の磁石周期比が3:2であることから、直線偏光度は99.2%にも達する。且つ、電磁石の極性と電流を切り替えることで、左右回転の円偏光を発生させられる。しかし、電磁石の磁気ヒステリシス効果により、磁場の大きさは磁化電流の履歴に関係することから、加速器の安定的運転には不利であった。また、電磁石は通電によって磁場を維持する必要があるため、省エネや排出削減にも不利であった。以上の二点を考慮して、Sasaki教授は本発明者らによるKnotアンジュレーター構造を元に、永久磁石による図4に示すようなAPPLE−Knotアンジュレーター構造を提案した。当該構造は、内部における4列の標準APPLE磁石群と、外部における空白領域を有する4列のAPPLE磁石群からなる。空白領域を導入したことで、外部の磁石群で発生する磁場と内部の磁石群で発生する磁場の周期比は3:2となる。このような構造では、内部の4列の磁石による磁場が放射光の発生に必要な磁場を提供する。以下ではこれを主磁場或いはAPPLE磁場と称する。また、外部の4列の磁石による磁場は、主磁場に対して90度及び−90度のカスケードの位相差を有し、Knot運転モードを発生させる。以下ではこれを補助磁場又はKnot磁場と称する。図5は、図4の各永久磁石構造における主磁場と補助磁場に対応する各永久磁石ユニットの磁化方向を示している。しかし、図4に示す構造を用いた場合、外部における4列の磁石間ピッチが大きくなるため、発生するKnot磁場の強度があまりに弱く、アンジュレーターの軸心に対する電子速度方向の偏移角度に限界が生じてしまう。結果、アンジュレーターの軸線に対する熱負荷のピーク値方向の偏移角度に限界が生じ、大部分の熱負荷を効果的に除去することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術における瑕疵に鑑み、本発明は、従来のアンジュレーター技術における放射光発生時の高熱負荷、及び、APPLE−Knotアンジュレーターにおける外部の4列の磁石により発生する補助磁場の弱さから熱負荷を効果的に除去できない、との課題を解決するためのアンジュレーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的及びその他関連の目的を実現するために、本発明は、アンジュレーターであって、電子ビームの伝送方向に沿って順に配列されるM個の永久磁石周期を少なくとも含み、前記永久磁石周期ごとに4列の永久磁石構造が含まれ、前記永久磁石構造ごとにN列の永久磁石群が含まれ、前記永久磁石群ごとにK個の永久磁石ユニットが含まれ、M、N、Kがいずれも1以上の自然数であり、4列の前記永久磁石構造は2つずつ対となって対向するように電子ビームの伝送方向両側に設けられるとともに、相対変位によって少なくとも1つの複合磁場を形成可能であり、電子ビームが前記複合磁場を通過する際に、楕円偏光、円偏光或いは0°〜360°のうち任意の偏光角度方向の直線偏光が発生し、且つ、電子の速度方向が前記アンジュレーターの軸線方向から偏移し、前記永久磁石構造ごとに2列の永久磁石群が含まれ、一方の永久磁石群が主磁場を発生させ、他方の永久磁石群が補助磁場を発生させ、前記補助磁場に対応する永久磁石群に含まれる永久磁石ユニットは、磁化方向が前記アンジュレーターの磁気ギャップの方向に対し垂直とされ、或いは、前記永久磁石構造ごとに永久磁石群が一列ずつ含まれ、当該永久磁石群が、磁場の偏向角度が異なるK個の永久磁石ユニットを含み、前記永久磁石群は、磁場を磁場周期の異なる主磁場と補助磁場に分解するとともに、自身に含まれる各永久磁石ユニットの磁場の偏向角度を調節することで、前記主磁場と前記補助磁場の磁場強度比率を調整するアンジュレーターを提供する。
【0007】
好ましくは、前記主磁場と前記補助磁場が異なる磁場周期を有する。
【0008】
好ましくは、前記主磁場と前記補助磁場の磁場周期比は2:3である。
【0009】
好ましくは、前記補助磁場の磁場周期は、これに対応する永久磁石群に含まれる永久磁石ユニットの空白領域を設けることで調整される。
【0012】
好ましくは、前記主磁場と前記補助磁場は、電子の速度方向と前記アンジュレーターの軸線方向との夾角を所望の基本波光子の受入角の半分よりも大きくすることで、低熱負荷条件における最大光強度が得られるよう、所望の基本波光子のエネルギー、電子ビームのエネルギー及び前記アンジュレーターの長さに基づいて調節される。
【0013】
好ましくは、前記電子ビームのエネルギーは3.5GeVであり、前記アンジュレーターの長さは4.5mであり、所望の基本波光子はエネルギーが7eV、受入角が0.6mradであり、前記永久磁石構造ごとに永久磁石群が一列ずつ含まれ、当該永久磁石群により形成される主磁場と補助磁場の磁場強度比率は7:3であり、当該永久磁石群は24個の永久磁石ユニットを含み、順時計回りを正方向、垂直上向きを角度基準である0度とすると、24個の前記永久磁石ユニットにおける磁場の偏向角度はそれぞれ、0°、−23°、67°、67°、157°、157°、−113°、−113°、−23°、0°、90°、90°、180°、−157°、−67°、−67°、23°、23°、113°、113°、−157°、180°、−90°、−90°となる。
【0014】
好ましくは、前記永久磁石ユニットにはNd‐Fe‐B材料が用いられ、その飽和磁場強度は1.25T以上である。
【0015】
好ましくは、前記アンジュレーターは静止磁石フレームと可動磁石フレームを更に含み、固定永久磁石構造と可動永久磁石構造がそれぞれ形成されるよう、互いに対となる2列の永久磁石構造がそれぞれ前記静止磁石フレームと前記可動磁石フレームに固定され、前記可動永久磁石構造は、前記可動磁石フレームに伴われて前記固定永久磁石構造に対し異なる変位で移動することで異なる複合磁場を発生させ、これにより異なる偏光を発生させる。
【発明の効果】
【0016】
上述したように、本発明のアンジュレーターは以下のような有益な効果を有する。
第一に、本発明のアンジュレーターでは複数通りの複合磁場を形成可能であり、複合磁場の作用によって電子が交互に左回転及び右回転運動することで、直線偏光、楕円偏光又は円偏光の放射光が発生する。また、電子の速度方向は永遠にアンジュレーターの軸線方向に沿うことがない。且つ、電子の速度方向とアンジュレーターの軸線との夾角が所望の基本波光子の発散角の半分よりも大きくなり、ダイアフラムによって大部分の熱負荷を濾過可能なことから、放射光を受光するビームライン上の光学素子の熱負荷が大幅に低減する。
【0017】
第二に、本発明では4列の永久磁石群を利用可能なことから、APPLE−8アンジュレーターに比べて永久磁石の配列数が減少する。よって、大幅にコストが削減されるとともに、取り付けがより容易となる。
【0018】
第三に、本発明のアンジュレーターは水平偏光及び垂直偏光を発生可能であるとともに、楕円偏光及び円偏光の発生も可能であるため、様々な放射光の応用要求を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の従来技術における電子ビームが8の字アンジュレーターを通過する際の運動軌跡を示す図である。
図2図2は、本発明の従来技術におけるAPPLEアンジュレーターの磁石配列を示す図である。
図3図3は、本発明の従来技術におけるAPPLE−8アンジュレーターの磁石配列を示す図である。
図4図4は、本発明の従来技術におけるAPPLE−Knotアンジュレーターの磁石配列を示す図である。
図5図5は、図4の各永久磁石構造における主磁場と補助磁場に対応する各永久磁石ユニットの磁化方向を示す図である。
図6図6は、本発明の実施例におけるAPPLE−Knotの磁石配列を示す図である。
図7図7は、本発明の実施例における磁石配列を示す図である。
図8図8は、本発明の実施例の各永久磁石群における各永久磁石ユニットの磁場の偏向角度を示す図である。
図9図9は、本発明の実施例における第1の複合磁場内の電子の運動軌跡を示す図である。
図10図10は、本発明の実施例における第1の複合磁場内の電子の運動速度を示す図である。
図11図11は、本発明の実施例における第1の複合磁場での熱負荷を示す分布図である。
図12図12は、本発明の実施例において電子が第1の複合磁場内に発生させる光子エネルギー及び光子エネルギーの変化に伴う直線偏光度を示す分布図である。
図13図13は、本発明の実施例における第2の複合磁場内の電子の運動軌跡を示す図である。
図14図14は、本発明の実施例における第2の複合磁場内の電子の運動速度を示す図である。
図15図15は、本発明の実施例における第2の複合磁場での熱負荷を示す分布図である。
図16図16は、本発明の実施例において電子が第2の複合磁場内に発生させる光子エネルギー及び光子エネルギーの変化に伴う直線偏光度を示す分布図である。
図17図17は、本発明の実施例における第3の複合磁場内の電子の運動軌跡を示す図である。
図18図18は、本発明の実施例における第3の複合磁場内の電子の運動速度を示す図である。
図19図19は、本発明の実施例において電子が第3の複合磁場内に発生させる光子エネルギー及び光子エネルギーの変化に伴う円偏光度を示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、特定の具体的実例によって本発明の実施形態を説明するが、当業者であれば、本明細書に開示の内容から本発明におけるその他の利点と効果を理解可能である。更に、本発明はその他の異なる具体的実施形態でも実施又は応用可能である。また、本明細書の各詳細事項については、異なる観点及び応用に基づき、本発明の精神から逸脱しないことを前提に各種の補足又は変更を加えてもよい。
【0021】
本発明のアンジュレーターは、電子ビームの伝送方向に沿って順に配列されるM個の永久磁石周期を少なくとも含み、永久磁石周期ごとに4列の永久磁石構造が含まれる。また、永久磁石構造ごとにN列の永久磁石群が含まれ、永久磁石群ごとにK個の永久磁石ユニットが含まれる。なお、M、N、Kはいずれも1以上の自然数である。図6及び図7に示すように、4列の永久磁石構造は、2つずつ対となって対向するように電子ビームの伝送方向両側に設けられる。4列の永久磁石構造は、それぞれ第1永久磁石構造100、第2永久磁石構造200、第3永久磁石構造300及び第4永久磁石構造400であり、図6及び図7に示すように配列されている。第1永久磁石構造100と第2永久磁石構造200は対になっており、第3永久磁石構造300と第4永久磁石構造400が対になっている。対となった第1永久磁石構造100及び第2永久磁石構造200と、対となった第3永久磁石構造300及び第4永久磁石構造400は、対向するように電子ビームeの伝送方向両側に設けられている。第1永久磁石構造100と第4永久磁石構造400は対角線をなすよう設けられており、静止して動くことがない。第2永久磁石構造200と第3永久磁石構造300は対角線をなすよう設けられており、電子ビームeの伝送方向に移動可能であるとともに、第1永久磁石構造100と第4永久磁石構造400に対して相対的に変位する。相対変位の違いによって複数通りの複合磁場を形成可能であることから、電子ビームが複合磁場を通過すると、楕円偏光、円偏光或いは0°〜360°のうち任意の角度の偏光方向の直線偏光が発生する。また、電子の速度方向がアンジュレーターの軸線方向から偏移するため、熱負荷がアンジュレーターの軸線方向から偏移する。
【0022】
本発明の実施例として、本発明では図6及び図7に示すような2種類のアンジュレーター構造を提案することで、補助磁場が過度に弱くなるとの課題を解決する。図6の場合、永久磁石構造ごとに2列の永久磁石群が含まれ、一方の永久磁石群(内側の永久磁石群)が主磁場を、他方の永久磁石群(外部の永久磁石群)が補助磁場を発生させる。前記主磁場と前記補助磁場は異なる磁場周期を有しており、これらの磁場周期比は2:3である。補助磁場に対応する永久磁石群に含まれる永久磁石ユニットは、磁化方向が前記アンジュレーターの磁気ギャップ500の方向(即ち、図6のy軸方向)に対し垂直となっている。また、前記補助磁場の磁場周期は、これに対応する永久磁石群に含まれる永久磁石ユニットの空白領域600を設けることで調整される。図6図4の構造を比較すると、図4では外部の4列の磁石群における磁石の磁化方向が磁気ギャップの方向に対し平行となっている。これら磁石の磁化方向を90度回転させると磁気ギャップに対し垂直となり、図6の構造が形成されて、十分に強い補助磁場を発生可能となる。
【0023】
図7の場合、永久磁石構造ごとに永久磁石群が一列ずつ含まれており、当該永久磁石群が、磁場の偏向角度が異なるK個の永久磁石ユニットを含んでいる。当該永久磁石群は、磁場を図5に示すような磁場周期の異なる主磁場と補助磁場に分解するとともに、自身に含まれる各永久磁石ユニットの磁場の偏向角度を調節することで、前記主磁場と前記補助磁場の磁場強度比率を調整する。
【0024】
なお、本実施例で提示する図面は本発明の基本思想を概略的に説明するものにすぎず、本発明に関する構成要素のみを図示している。また、実際に実施する場合の構成要素の数、形状及びサイズで図示しているわけではなく、実際に実施する際には、各構成要素の形態、数及び比率を任意に変更してもよく、且つ、構成要素の配置形態がより複雑となる場合もある。
【0025】
永久磁石構造ごとに磁場の偏向角度が異なる複数の永久磁石ユニットが存在することから、全体的にみると、4列の永久磁石構造は、自身に含まれる全ての永久磁石の磁場をベクトル分解することで、2組の磁場成分を取得する。2組の磁場成分とは、それぞれ主磁場(即ち、APPLE磁場)と補助磁場(即ち、Knot磁場)であり、主磁場と補助磁場の周期比は2:3となる。
【0026】
本実施例において、複合磁場は主磁場と補助磁場を重畳して構成される。4列の永久磁石構造間の相対変位によって複数の複合磁場を形成可能であることから、電子ビームが複合磁場を通過すると、楕円偏光、円偏光或いは0°〜360°のうち任意の角度の偏光方向の直線偏光が発生する。また、電子の速度方向がアンジュレーターの軸線方向から偏移するため、熱負荷がアンジュレーターの軸線方向から偏移する。4列の永久磁石構造間の相対変位としては、主に2つの場合が考えられる。第一の場合として、第2永久磁石構造200及び第3永久磁石構造300を同一方向に移動させることで、主磁場と補助磁場の水平及び垂直方向の磁場に90°の位相差を持たせることが可能となり、その結果、円偏光放射光が発生する。第二の場合として、第2永久磁石構造200と第3永久磁石構造300を逆方向に変位させることで、主磁場と補助磁場の水平及び垂直方向の磁場に0°の位相差を持たせるとともに、この変位によって主磁場の垂直及び水平方向の磁場強度比を調整可能となる結果、一定の角度を有する直線偏光が発生する。
【0027】
電子は複合磁場においてカスケードの左右回転運動或いは純粋な左右回転運動を行う際に、ノット(knot)状の運動軌跡を形成する。電子がノット状の運動によって楕円偏光、円偏光或いは0°〜360°のうち任意の角度の偏光方向の直線偏光を発生させる場合、電子の速度方向が前記アンジュレーターの軸線方向から偏移するため、熱負荷をアンジュレーターの軸線方向から偏移させられる。また、アンジュレーターの軸線方向にはダイアフラム又は開孔が設けられ、大部分の熱負荷はダイアフラム又は開孔よって濾過されることから、光学素子における放射光ビームラインの熱負荷が大幅に低減する。
【0028】
本実施例では、アンジュレーター全体として、電子ビームの伝送方向に沿って順に配列される7つの永久磁石周期が備わっている。この7つの永久磁石周期によってアンジュレーターにおける電子ビームの周期運動を保証する場合、単一周期の場合よりも高い放射光強度を有することになる。
【0029】
本発明の他の実施例として、当該実施例では永久磁石ユニットにおける磁場の偏向角度を決定する方法を提供する。永久磁石ユニットは、自身の磁場をx軸及びy軸方向に沿う2つの磁場成分として直交するよう分解するとともに、永久磁石ユニットにおける磁場の偏向角度を調節することで、当該x軸及びy軸方向に沿う2つの磁場成分の磁場強度比率を調節する。即ち、主磁場と補助磁場の磁場強度比率を調節する。主磁場と補助磁場の磁場強度比率は、電子の速度方向とアンジュレーターの軸線方向との夾角がビームラインの受入角の半分よりも大きくなるよう、所望の基本波光子のエネルギー、電子ビームのエネルギー及びアンジュレーターの長さに基づいて調節される。これにより、低熱負荷条件における最大光強度が得られる。
【0030】
よって、永久磁石の磁場はx軸及びy軸方向に沿う2つの磁場成分のベクトルの和となり、磁場の偏向角度はこれら2つの方向の磁場成分の磁場強度比率から決定される。2つの磁場成分の磁場方向は、x軸の正方向又は負方向に沿う磁場方向と、y軸の正方向又は負方向に沿う磁場方向を含む。
【0031】
図5を参照して、上部の磁石群は主磁場を構築しようとする永久磁石構造であり、下部は補助磁場を構築しようとする永久磁石構造である。各磁石ブロックを二分割し、主磁場と補助磁場をベクトル合成するとともに、全体的な磁場強度が変わらないよう維持することで、図8に示すような磁場の偏向角度の異なる永久磁石ユニットが得られる。磁場の偏向角度は、垂直及び水平方向の磁場強度比率から決定される。本実施例において、主磁場は放射光の発生に用いられ、補助磁場は電子を偏向させてノット状の運動を発生させるために用いられる。順時計回りを正の方向とし、垂直上向きを角度基準である0度とすると、各永久磁石における磁場の最大偏向角度が大きくなるほど、補助磁場の磁場強度は大きくなり、主磁場の磁場強度は小さくなる。また、この逆についても同様となる。補助磁場の磁場強度が過度に大きい場合、アンジュレーターの軸線角度からの最大熱負荷方向の偏移も大きくなり、ビームラインの光学素子における熱負荷は小さくなる。しかし、一方で主磁場強度が低下することから、放射光の強度が下がり、高い放射光強度を得ることはできない。逆に、補助磁場の磁場強度が過度に小さい場合、最大熱負荷方向の偏向幅が小さくなり過ぎるため、ビームラインの光学素子が高い熱負荷を受けることになる。これにより、大きな熱変形が招来され、ビームライン性能が要求を満たせなくなる。よって、各永久磁石における磁場の偏向角度を調整することで主磁場と補助磁場の磁場強度を調整し、低熱負荷条件において最大の放射光強度を得る必要がある。最も単純な判別規則としては、電子の速度方向とアンジュレーターの軸線との夾角の最小値が放射光のビームラインの受入角の半分よりも大きくなるようにする。
【0032】
例えば、電子ビームのエネルギーが3.5GeV、アンジュレーターの長さが4.5mの場合、7eVの所望の基本波光子は、発散角、即ちビームラインの受入角が0.6mradとなる。前記永久磁石構造ごとに永久磁石群が一列ずつ含まれ、当該永久磁石群により形成される主磁場と補助磁場の磁場強度比率が7:3の場合、電子の速度方向とアンジュレーターの軸線方向との最小夾角は0.3mradよりも大きくなる。このとき、当該永久磁石群は24個の永久磁石ユニットを含み、順時計回りを正方向、垂直上向きを角度基準である0度とすると、24個の永久磁石ユニットにおける磁場の偏向角度はそれぞれ、0°、−23°、67°、67°、157°、157°、−113°、−113°、−23°、0°、90°、90°、180°、−157°、−67°、−67°、23°、23°、113°、113°、−157°、180°、−90°、−90°となる。
【0033】
なお、いうまでもなく、所望の基本波光子のエネルギー範囲としては複数通りが考えられ、永久磁石ごとの2つの磁場成分の磁場強度比率及び磁場方向も複数通り存在する。また、これに応じて、永久磁石ごとの磁場の偏向角度にも複数通りあり、上記で例示したデータに限らない。
【0034】
このほか、本発明の実施例では4列の永久磁石構造を採用しており、全体的な永久磁石数が従来技術に比べて少ないため、大幅にコストが削減される。また、4列の永久磁石構造は8列の永久磁石構造よりも取り付けが容易である。
【0035】
本発明の実施例におけるアンジュレーターの原理は以下の通りである。
2πを周期とし、位相変位が0の場合、第2永久磁石構造200と第3永久磁石構造300は、第1永久磁石構造100と第4永久磁石構造400に対して移動しない。また、電子ビームeの伝送方向における一方の側の第1永久磁石構造100及び第2永久磁石構造200と、電子ビームeの伝送方向における他方の側の第3永久磁石構造300及び第4永久磁石構造400との磁気ギャップは22mmとなる。4列の永久磁石構造は第1の複合磁場を発生させ、電子ビームは第1の複合磁場を通過する際に基本波のエネルギー部分に水平の直線偏光を発生させる。電子は複合磁場においてカスケードの左右回転運動を行うが、その運動軌跡は図9に示すようなノット状となる。また、運動速度は図10に示すような曲線となり、熱負荷は図11に示すような分布となる。また、光子エネルギー及び光子エネルギーの変化に伴う直線偏光度は図12に示すような分布となる。図中の薄い色で示される曲線は本実施例の光子の直線偏光における偏光度曲線であり、7eVの最大光強度において、水平の直線偏光度は99.8%にも達している。図10の速度曲線に示されるように、座標(0,0)はアンジュレーターの軸線方向を表しているが、電子の速度方向は永遠にアンジュレーターの軸線方向に沿うことがない。このとき、図11に示すように、熱負荷の極大値はアンジュレーターの軸線方向から偏移している。また、ビームラインの光軸部分にはダイアフラムが設けられており、所望の基本波光子がダイアフラムを通過することで、大部分の熱負荷がダイアフラムにより濾過される。これにより、光学素子が受ける熱負荷が大幅に低減する。
【0036】
第2永久磁石構造200と第3永久磁石構造300をそれぞれ第1永久磁石構造100と第4永久磁石構造400に対して位相+π及び−πで移動させるとともに、磁気ギャップを18mmに調整することで、4列の永久磁石構造が第2の複合磁場を発生させる。電子ビームが第2の複合磁場を通過すると、基本波のエネルギー部分に垂直の直線偏光が発生する。電子は複合磁場においてカスケードの左右回転運動を行うが、その運動軌跡は図13に示すような略偏ったノット状となる。また、運動速度は図14のようになり、熱負荷は図15に示すような分布となる。また、光子エネルギー及び光子エネルギーの変化に伴う直線偏光度は図16に示すような分布となる。図中の薄い色で示される曲線は本実施例の光子の直線偏光における偏光度曲線であり、7eVの最大光強度において、垂直の直線偏光における偏光度は96.7%にも達している。なお、図中の負の偏光度は垂直偏光を表している。
【0037】
第2永久磁石構造200と第3永久磁石構造300を第1永久磁石構造100と第4永久磁石構造400に対して位相0.505πで移動させるとともに、磁気ギャップを18.5mmに設定することで、4列の永久磁石構造が第3の複合磁場を発生させる。電子ビームが第3の複合磁場を通過すると、基本波のエネルギー部分に円偏光が発生する。電子は複合磁場においてカスケードの左右回転運動を行うが、その運動軌跡は図17に示すようなより複雑なノット状となる。また、運動速度は図18に示すような曲線となり、光子エネルギー、直線偏光度及び円偏光度は図19に示すような分布となる。図中の濃い色で示される点線は光子エネルギーの変化に伴う円偏光度の曲線であり、7eVの最大光強度において、円偏光度は99.8%にも達している。
【0038】
以上より、本発明のアンジュレーターは水平偏光及び垂直偏光を発生可能であるとともに、円偏光の発生も可能であるため、様々な放射光要求を満たすことができる。また、4列の永久磁石構造が相対的に変位することで形成される異なる複合磁場の作用によって、水平の直線偏光、垂直の直線偏光、或いは円偏光のいずれを発生させるかに拘わらず、電子の速度方向とアンジュレーターの軸線との夾角は7eVの基本波光子の発散角の半分(0.017°)よりも大きくなる。よって、電子の速度方向は永遠にアンジュレーターの軸線方向に沿うことがなく、熱負荷の極大値がアンジュレーターの軸線方向から偏移するため、放射光ビームラインの熱負荷が大幅に低減する。
【0039】
なお、各永久磁石ユニットにはNd‐Fe‐B材料が用いられ、その飽和磁場強度は1.25T以上となる。更に、アンジュレーターは静止磁石フレームと可動磁石フレームを含み、固定磁石群と可動磁石群がそれぞれ静止磁石フレームと可動磁石フレームに固定される。可動永久磁石構造は、可動磁石フレームに伴われて固定永久磁石構造に対し異なる変位で移動する。これにより異なる複合磁場が発生し、結果として異なる偏光が発生する。例えば、図6及び図7の場合、本実施例では、第2永久磁石構造200と第3永久磁石構造300が可動永久磁石構造であり、第1永久磁石構造100と第4永久磁石構造400が固定永久磁石構造となる。
【0040】
以上述べたように、本発明のアンジュレーターは以下のような有益な効果を有する。
第一に、本発明のアンジュレーターでは複数通りの複合磁場を形成可能であり、複合磁場の作用によって電子が交互に左回転及び右回転運動することで、直線偏光放射光又は円偏光放射光が発生する。また、電子の速度方向は永遠にアンジュレーターの軸線方向に沿うことがない。且つ、電子の速度方向とアンジュレーターの軸線との夾角が所望の基本波光子の発散角の半分よりも大きくなり、電子の速度方向が永遠にアンジュレーターの軸線方向に沿うことがないため、熱負荷がアンジュレーターの軸線方向から偏移して、アンジュレーターの軸線方向の熱負荷が著しく低減する。また、大部分の熱負荷を光学軸上に位置するダイアフラムによって濾過可能なことから、放射光を受光するビームライン上の光学素子の熱負荷が大幅に低減する。
【0041】
第二に、本発明では4列の永久磁石群を利用可能なことから、既存のAPPLE−8やAPPLE−Knotアンジュレーター構造に比べて永久磁石の数が半分ですみ、大幅にコストが削減される。また、既存の8列の永久磁石群構造における取り付け困難との課題が解消される。
【0042】
第三に、本発明のアンジュレーターは、水平の直線偏光と垂直の直線偏光を発生可能であるとともに、楕円偏光と円偏光の発生も可能である。更に、0°〜360°のうち任意の偏光角度方向の直線偏光を発生させられるため、様々な放射光の応用要求を満たすことができる。
【0043】
したがって、本発明によれば従来技術における様々な瑕疵を効果的に解消可能であり、高度な産業上の利用価値を有する。
【0044】
なお、上記の実施例は本発明の原理と効果を例示的に説明するためのものにすぎず、本発明を限定する主旨ではない。当該技術を熟知する者であれば、本発明の精神と範疇から逸脱しないことを前提に、上記の実施例について補足又は変更が可能である。よって、当業者が本発明に開示される精神及び技術思想から逸脱することなく完了するあらゆる等価の補足又は変更も、本発明の請求項の範囲内とされる。
【符号の説明】
【0045】
100 第1永久磁石構造
200 第2永久磁石構造
300 第3永久磁石構造
400 第4永久磁石構造
500 磁気ギャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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