(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る有機物除去装置を例示するための模式断面図である。
図1に例示をする有機物除去装置1は、マイクロ波Mにより励起、発生させたプラズマPを用いてプロセスガスG1からプラズマ生成物を生成し、プラズマ生成物を用いて被処理物Wの表面に付着している有機物(有機物を含む異物やレジストマスクなど)を除去する。
【0009】
また、被処理物Wは、酸化しやすい材料が表面に露出したものとすることができる。
被処理物Wは、例えば、モリブデンシリコン(MoSi)層や、モリブデンを含む層とシリコンを含む層とが積層された積層体を有するものとすることができる。
被処理物Wは、例えば、モリブデンシリコン層を有するハーフトーン型の位相シフトマスクなどとすることができる。
ただし、被処理物Wは、ハーフトーン型の位相シフトマスクに限定されるわけではない。
被処理物Wは、モリブデンを含む層とシリコンを含む層との積層体、およびモリブデンシリコンを含む層の少なくともいずれかを有したものであればよい。
被処理物Wは、例えば、EUVマスクであってもよい。
【0010】
図1に示すように、有機物除去装置1は、プラズマ発生部2、減圧部3、ガス供給部4、マイクロ波発生部5、処理容器6、温度検出部7、温度制御部19、および制御部8などを備えている。
【0011】
プラズマ発生部2には、放電管9、および導入導波管10が設けられている。
放電管9は、内部にプラズマPを発生させる領域を有し、処理容器6から離隔された位置に設けられている。また、放電管9は管状を呈し、マイクロ波Mに対する透過率が高くエッチングされにくい材料から形成されている。例えば、放電管9は、酸化アルミニウムや石英などの誘電体から形成することができる。
【0012】
放電管9の外周面を覆うようにして管状の遮蔽部18が設けられている。遮蔽部18の内周面と放電管9の外周面との間には所定の隙間が設けられ、遮蔽部18と放電管9とが略同軸となるようにして配設されている。なお、この隙間は、マイクロ波Mが漏洩しない程度の寸法とされている。そのため、遮蔽部18により、マイクロ波Mが漏洩するのを抑制することができる。
【0013】
また、遮蔽部18には、放電管9と略直交するように導入導波管10が接続されている。導入導波管10の終端には終端整合器11aが設けられている。また、導入導波管10の入口側(マイクロ波Mの導入側)にはスタブチューナ11bが設けられている。導入導波管10は、マイクロ波発生部5から放射されたマイクロ波Mを伝播させて、プラズマPを発生させる領域にマイクロ波Mを導入する。
【0014】
導入導波管10と遮蔽部18との接続部分には、環状のスロット12が設けられている。スロット12は、導入導波管10の内部を導波されてきたマイクロ波Mを放電管9に向けて放射するためのものである。後述するように、放電管9の内部にはプラズマPが発生するが、スロット12に対向する部分がプラズマPを発生させる領域の略中心となる。
【0015】
導入導波管10の一端には、マイクロ波発生部5が設けられている。このマイクロ波発生部5は、所定周波数(例えば2.45GHz)のマイクロ波Mを発生させるとともに、導入導波管10に向けて放射することができるようになっている。
【0016】
放電管9の一端には流量制御部(Mass Flow Controller:MFC)13を介してガス供給部4が接続されている。
ガス供給部4は、プロセスガスG1と、ガスG2を供給する。
流量制御部13は、ガス供給部4から供給されるプロセスガスG1およびガスG2の流量(供給量)を制御する。
プロセスガスG1は、プラズマ処理に用いられる。
プロセスガスG1は、還元性ガスとすることができる。
また、ガスG2は、プラズマ処理済みの被処理物Wの冷却に用いられる。
なお、プロセスガスG1と、ガスG2に関する詳細は後述する。
【0017】
放電管9の他端には輸送管14の一端が接続され、輸送管14の他端は処理容器6に接続されている。すなわち、輸送管14は、放電管9と処理容器6とを連通させている。輸送管14は、中性活性種による腐蝕に耐え得る材料(例えば、石英、ステンレス鋼、セラミックス、四弗化樹脂(PTFE)など)から形成することができる。
【0018】
処理容器6は、有底の略円筒形状を呈し、その上端が天板6aで塞がれている。処理容器6の内部には、図示しない静電チャックなどの保持機構を内蔵した載置部15が設けられ、その上面(載置面)に被処理物Wを載置、保持することができるようになっている。
【0019】
処理容器6の底面には、圧力制御部(Auto Pressure Controller:APC)16を介してターボ分子ポンプ(TMP)などの減圧部3が接続されている。
減圧部3は、処理容器6の内部を所定の圧力まで減圧する。圧力制御部16は、処理容器6の内圧を検出する図示しない真空計の出力に基づいて、処理容器6の内圧が所定の圧力となるように制御する。
【0020】
また、処理容器6の側壁には、被処理物Wを搬入搬出するための搬入搬出口6bが設けられ、搬入搬出口6bを気密に閉鎖できるよう扉6cが設けられている。
扉6cは、例えば、O(オー)リングのようなシール部材6dを有している。扉6cは、図示しない開閉機構により開閉される。扉6cが閉まった時には、シール部材6dが搬入搬出口6bの近傍の壁面に押しつけられ、搬入搬出口6bが気密に閉鎖される。すなわち、処理容器6は、被処理物Wを収容し、大気圧よりも減圧された雰囲気を維持できるようになっている。
【0021】
輸送管14との接続部分よりは下方であって、載置部15の上方には、整流板17が設けられている。整流板17は、載置部15の上面と対向させるようにして設けられている。整流板17は、輸送管14から導入される中性活性種を含んだガスの流れを整流し、被処理物Wの処理面上における中性活性種の量が略均一となるようにする。整流板17は、多数の孔部17aが設けられた略円形の板状体であり、処理容器6の内壁に固定されている。そして、整流板17と載置部15の上面との間の領域が、被処理物Wに対する処理が行われる処理空間20となる。また、処理容器6の内壁面、整流板17の表面は、中性活性種と反応しにくい材料(例えば、四弗化樹脂や、酸化アルミニウム等のセラミックスなど)で覆われている。
【0022】
温度検出部7は、載置部15に載置された被処理物Wの温度を検出する。
温度検出部7は、例えば、載置部15の内部に設けることができる。ただし、温度検出部7の配設位置はこれに限定されるわけではなく、被処理物Wの温度を検出することができる位置に設けるようにすればよい。温度検出部7の形式には特に限定がなく、例えば、熱電対、測温抵抗体、サーミスタなどを用いた接触式のものとしてもよいし、放射温度計のような非接触式のものとしてもよい。
温度検出部7からの出力(被処理物Wの温度データ)は、制御部8に送られ、制御部8により被処理物Wの冷却が完了したか否かの判断が行われる。
なお、制御部8は、ガスG2の流量や経過時間などに基づいて、被処理物Wの冷却が完了したか否かの判断を行うこともできる。なお、ガスG2の流量や経過時間などと、被処理物Wの温度との関係は、予め実験やシミュレーションを行うことで求めることができる。
【0023】
温度制御部19は、被処理物Wの温度を制御する。
温度制御部19は、例えば、載置部15の内部に設けることができる。
温度制御部19は、被処理物Wの加熱を行うもの(例えば、ヒータ)とすることもできるし、熱媒体を循環させて被処理物Wの加熱と冷却を行うものとすることもできる。
温度制御部19は、例えば、温度検出部7からの出力に基づいて、被処理物Wの温度が所定の範囲内となるように制御する。
【0024】
制御部8は、有機物除去装置1に設けられた各要素の動作を制御する。
例えば、制御部8は、ガス供給部4を制御して、放電管9の内部にプロセスガスG1またはガスG2を供給する。
この際、制御部8は、流量制御部13を制御して、プロセスガスG1の流量、またはガスG2の流量を制御する。
この場合、制御部8は、プラズマ処理済みの被処理物Wの温度が160℃以下になるまで、ガス供給部4にガスG2(不活性ガス)を供給させることができる。 制御部8は、マイクロ波発生部5を制御して、所定周波数(例えば2.45GHz)のマイクロ波Mを発生させる。発生したマイクロ波Mは、導入導波管10に向けて放射され、導入導波管10の内部を導波される。導入導波管10の内部を導波されたマイクロ波Mは、スロット12を介して、放電管9の内部のプラズマPを発生させる領域に導入される。
【0025】
制御部8は、減圧部3を制御して、処理容器6の内圧を大気圧よりも減圧されたものとする。
この際、制御部8は、処理容器6の内圧を検出する図示しない真空計の出力に基づいて圧力制御部16を制御して、処理容器6の内圧が所定の圧力となるようにする。
制御部8は、温度検出部7からの出力に基づいて、被処理物Wの冷却が完了したか否かの判断を行う。
制御部8は、温度制御部19の起動や停止などの制御を行う。
制御部8は、図示しない開閉機構を制御して、扉6cの開閉を行う。
【0026】
次に、有機物除去装置1の作用について例示をする。
前述したように、被処理物Wは、ハーフトーン型の位相シフトマスクなどとすることができる。
ハーフトーン型の位相シフトマスクは、例えば、半導体装置の製造における露光工程において用いられる。露光工程においては、例えば、ウェーハの表面に形成されたレジスト膜に所望のパターンが転写される。この際、蒸発したレジストの成分がハーフトーン型の位相シフトマスクの表面に有機物を含む異物として析出する場合がある。
また、ハーフトーン型の位相シフトマスクを製造する際には、所望のパターンを形成するためのレジストマスクが表面に形成される。
この様に、被処理物Wの表面には、有機物を含む異物やレジストマスクなどの有機物が付着している場合がある。
そのため、プラズマ処理を行うことで、被処理物Wの表面に付着している有機物を除去する。
【0027】
まず、扉6cが、図示しない開閉機構により開かれる。
図示しない搬送装置により、搬入搬出口6bから被処理物Wを処理容器6の内部に搬入する。被処理物Wは載置部15の上面に載置され、載置部15に内蔵された図示しない静電チャックなどの保持機構により保持される。
【0028】
次に、図示しない搬送装置を処理容器6の外に退避させる。
次に、図示しない開閉機構により扉6cを閉じる。
次に、減圧部3により、処理容器6の内部を所定の圧力まで減圧する。この際、圧力制御部16により処理容器6内の圧力が調整される。また、処理容器6と連通する放電管9の内部も減圧される。
【0029】
次に、プラズマ発生部2により中性活性種を含むプラズマ生成物が生成される。
すなわち、まず、ガス供給部4から流量制御部13を介して所定流量のプロセスガスG1が放電管9内に供給される。
ここで、前述したように、被処理物Wの表面には、酸化しやすい材料が露出している。 例えば、被処理物Wが、ハーフトーン型の位相シフトマスクなどの場合には、モリブデンからなる層とシリコンからなる層が表面に露出している。
そのため、プロセスガスG1は、還元性ガスとしている。還元性ガスは、例えば、アンモニアガス、水素ガス、水素ガスと窒素ガスの混合ガス、アンモニアガスと水素ガスと窒素ガスとの混合ガスなどとすることができる。
プロセスガスG1として還元性ガスを用いるようにすれば、被処理物Wの表面に露出している酸化しやすい材料を含む部分(例えば、モリブデンからなる層やシリコンからなる層など)が酸化するのを抑制することができる。
【0030】
一方、マイクロ波発生部5から所定のパワーのマイクロ波Mが導入導波管10内に放射される。放射されたマイクロ波Mは導入導波管10内を導波され、スロット12を介して放電管9に向けて放射される。
【0031】
放電管9に向けて放射されたマイクロ波Mは、放電管9の表面を伝搬して、放電管9内に放射される。このようにして放電管9内に放射されたマイクロ波Mのエネルギーにより、プラズマPが発生する。そして、発生したプラズマP中の電子密度が、放電管9を介して供給されるマイクロ波Mを遮蔽できる密度(カットオフ密度)以上になると、マイクロ波Mは放電管9の内壁面から放電管9内の空間に向けて一定距離(スキンデプス)だけ入るまでの間に反射されるようになる。そのため、このマイクロ波Mの反射面とスロット12の下面との間にはマイクロ波Mの定在波が形成されることになる。その結果、マイクロ波Mの反射面がプラズマ励起面となって、このプラズマ励起面で安定的にプラズマPが励起、発生するようになる。このプラズマ励起面で励起、発生したプラズマP中において、プロセスガスG1が励起、活性化されて中性活性種、イオンなどのプラズマ生成物が生成される。
【0032】
生成されたプラズマ生成物を含むガスは、輸送管14を介して処理容器6内に搬送される。この際、寿命の短いイオンなどは処理容器6にまで到達できず、寿命の長い中性活性種のみが処理容器6に到達することになる。処理容器6内に導入された中性活性種を含むガスは、整流板17で整流されて被処理物Wの表面に到達し、被処理物Wの表面に付着している有機物が除去される。
【0033】
また、プラズマ処理を行う際には、温度制御部19により、被処理物Wの温度を制御する。例えば、温度制御部19により、被処理物Wの温度を200℃以下程度に制御する。 前述したように、有機物除去装置1においては、プラズマPを発生させる領域と、被処理物Wに対する処理が行われる処理空間20とが離れている。そのため、プラズマPからの熱が被処理物Wに伝わり難くなっている。その結果、温度制御部19による被処理物Wの温度制御が容易となるので、被処理物Wの温度を精度よく所望の値に合わせることができる。よって還元性ガスによる高温のプラズマ処理を行う場合でも、温度制御を精度よく処理を行うことができる。
しかしながら、本発明者らの得た知見によれば、被処理物Wの温度が160℃を超えると、透過率の変動が許容範囲を超えることが判明した。
また、本発明者らは、透過率の変動の要因は、モリブデンシリコン層表面が酸化したことによるものであり、還元性ガスを用いたプラズマ処理を行ったにもかかわらず、モリブデンシリコン層表面が酸化した原因は、160℃を超える高温状態のまま大気搬送を行うことで、空気中の酸素と反応し、モリブデンシリコン層が酸化することによるものであるとの知見に至った。
【0034】
図2、
図3は、被処理物Wの温度と、被処理物Wの機能低下との関係を例示するためのグラフ図である。
図2は、透過率の変動と、被処理物Wの温度の関係を例示するためのグラフ図である。
図2は、水素ガスと窒素ガスの混合ガスを用いたプラズマ処理を行い、酸素を含む大気に晒して搬送した場合である。この場合、水素ガスの濃度は3wt%としている。
また、被処理物Wは、ハーフトーン型の位相シフトマスクとしている。
図2から分かるように、被処理物Wの温度を160℃以下とすれば、透過率の変動が許容範囲内(0.1%以下)となるようにすることができる。
すなわち、被処理物Wがハーフトーン型の位相シフトマスクの場合、被処理物Wの温度が160℃以下であれば、酸素を含む大気に晒して搬送したとしても、透過率の変動が許容範囲内となるようにすることができる。
図3は、被処理物Wの温度と、中心波長の変動との関係を例示するためのグラフ図である。
図3は、水素ガスと窒素ガスの混合ガスを用いたプラズマ処理を行い、酸素を含む大気に晒して搬送した場合である。この場合、水素ガスの濃度は3wt%としている。
また、被処理物Wは、EUVマスクとしている。
図3から分かるように、被処理物Wの温度を100℃以下にすれば、被処理物Wを、酸素を含む大気に晒しても中心波長の変動するのを抑制することができる。
すなわち、被処理物WがEUVマスクの場合、被処理物Wの温度が100℃以下であれば、酸素を含む大気に晒して搬送したとしても、光学特性の変動を抑制することができる。
【0035】
そのため、次に、プラズマ処理が済んだ被処理物Wの温度が160℃以下となるように冷却する。
この場合、ハーフトーン型の位相シフトマスクの場合は160℃以下、ルテニウムを含む層を有するEUVマスクの場合は100℃以下に冷却する。
被処理物Wの冷却は、例えば、プラズマ処理が済んだ被処理物Wを処理容器6の内部に放置することで行うことができる。
しかしながら、処理容器6の内圧は、大気圧よりも低くなっているので、被処理物Wからの放熱が悪くなるおそれがある。
【0036】
そこで、ガス供給部4により、ガスG2が供給される。この際、流量制御部13により、ガスG2の流量が制御される。
ガス供給部4により供給されたガスG2は、放電管9および輸送管14を介して、処理容器6の内部に供給される。処理容器6の内部に供給されたガスG2が、被処理物Wに到達することで被処理物Wが冷却される。
また、処理容器6の内部にガスG2が供給されることで、対流が生じ、被処理物Wからの放熱が多くなる。
【0037】
ここで、ガスG2は、被処理物Wの材料と反応し難いものとすることが好ましい。
ガスG2は、例えば、不活性ガスとすることができる。
不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガスやヘリウムなどの希ガス、あるいはこれらの混合ガスなどを例示することができる。
ここで、被処理物Wは大気圧よりも減圧された圧力下で冷却が行われる。そのため、ガスG2を供給しながら、減圧部3により処理容器6の排気を行うことができる。また、一定の圧力になったとき、ガスG2の供給および排気を停止することもできる。
【0038】
また、温度制御部19が冷却機能を有するものの場合には、温度制御部19により被処理物Wを冷却することもできる。
例えば、温度制御部19が熱媒体を循環させて被処理物Wの冷却を行うものの場合には、冷却された熱媒体を循環させることで、被処理物Wを冷却することもできる。
また、ガスG2による冷却と、温度制御部19による冷却とを併せて行うこともできる。 ガスG2による冷却、および温度制御部19による冷却の少なくともいずれかを行うようにすれば、被処理物Wの冷却時間、ひいては、被処理物Wの処理時間を短縮することができる。
【0039】
冷却が終了した被処理物Wは、図示しない搬送装置により処理容器6の外に搬出される。この後、必要があれば、前述した手順に従い、被処理物Wに対するプラズマ処理と冷却とが繰り返される。 本実施の形態に係る有機物除去装置1によれば、酸素が除去され、不活性ガス(ガスG2)が供給された環境において、被処理物Wの温度が160℃以下となるように冷却することができるので、被処理物Wの機能に対する影響が少ない被処理物Wの冷却を行うことができる。
【0040】
[第2の実施形態]
図4は、第2の実施形態に係る有機物除去装置30を例示するための模式断面図である。
図4に例示をする有機物除去装置30は、マイクロ波Mにより励起、発生させたプラズマPを用いてプロセスガスG1からプラズマ生成物を生成し、プラズマ生成物を用いて被処理物Wの表面に付着している有機物(有機物を含む異物やレジストマスクなど)を除去する。
【0041】
図2に示すように、有機物除去装置30は、プラズマ発生部31、減圧部3、ガス供給部4、マイクロ波発生部5、処理容器32、温度検出部7、温度制御部19、および制御部33などを備えている。
プラズマ発生部31は、プラズマPを発生させる領域にマイクロ波Mを導入することでプラズマPを発生させる。
プラズマ発生部31には、透過窓34、導入導波管35が設けられている。透過窓34は平板状を呈し、マイクロ波Mに対する透過率が高くエッチングされにくい材料から形成されている。例えば、透過窓34を酸化アルミニウムや石英などの誘電体から形成することができる。透過窓34は、処理容器32の上端に気密となるようにして設けられている。
【0042】
処理容器32の外側であって、透過窓34の上面には導入導波管35が設けられている。なお、図示は省略したが終端整合器やスタブチューナを適宜設けるようにすることもできる。導入導波管35は、マイクロ波発生部5から放射されたマイクロ波Mを透過窓34に向けて導波する。
導入導波管35と透過窓34との接続部分には、スロット36が設けられている。スロット36は、導入導波管35の内部を導波されてきたマイクロ波Mを透過窓34に向けて放射するためのものである。
【0043】
導入導波管35の一端には、マイクロ波発生部5が設けられている。このマイクロ波発生部5は、所定周波数(例えば2.45GHz)のマイクロ波Mを発生させ、導入導波管35に向けて放射することができるようになっている。
処理容器32の側壁上部には、流量制御部13を介してガス供給部4が接続されている。そして、ガス供給部4から流量制御部13を介して処理容器32内のプラズマPを発生させる領域にプロセスガスG1を供給することができるようになっている。
また、ガス供給部4から処理容器32の内部にガスG2を供給することができるようになっている。
また、制御部33により流量制御部13を制御することで、プロセスガスG1とガスG2の供給量が調整できるようになっている。
【0044】
処理容器32は、有底の略円筒形状を呈し、その内部には、図示しない静電チャックを内蔵した載置部15が設けられている。そして、載置部15の上面に被処理物Wを載置、保持することができるようになっている。
処理容器32の底面には、圧力制御部16を介してターボ分子ポンプなどの減圧部3が接続されている。減圧部3は、処理容器32の内部を所定の圧力まで減圧する。圧力制御部16は、処理容器32の内圧を検出する図示しない真空計の出力に基づいて、処理容器32の内圧が所定の圧力となるように制御する。すなわち、処理容器32は、内部にプラズマPを発生させる領域を有し、大気圧よりも減圧された雰囲気を維持できるようになっている。
【0045】
ガス供給部4との接続部分よりは下方であって、載置部15の上方には、整流板17が設けられている。整流板17は、載置部15の上面と対向させるようにして設けられている。
【0046】
整流板17は、プラズマPを発生させる領域において生成されたプラズマ生成物を含んだガスの流れを整流し、被処理物Wの処理面上におけるプラズマ生成物の量が略均一となるようにする。
また、整流板17は、プラズマPからの熱が載置部15の上面に載置された被処理物Wに伝わるのを抑制する。
【0047】
整流板17は、多数の孔部17aが設けられた略円形の板状体であり、処理容器32の内壁に固定されている。そして、整流板17と載置部15の上面との間の領域が、被処理物に対する処理が行われる処理空間20となる。また、処理容器32の内壁面、整流板17の表面は、中性活性種と反応しにくい材料(例えば、四弗化樹脂や、酸化アルミニウム等のセラミックスなど)で覆われている。
【0048】
温度検出部7は、載置部15に載置された被処理物Wの温度を検出する。
温度検出部7は、例えば、載置部15の内部に設けることができる。ただし、温度検出部7の配設位置はこれに限定されるわけではなく、被処理物Wの温度を検出することができる位置に設けるようにすればよい。温度検出部7の形式には特に限定がなく、例えば、熱電対、測温抵抗体、サーミスタなどを用いた接触式のものとしてもよいし、放射温度計のような非接触式のものとしてもよい。
温度検出部7からの出力(被処理物Wの温度データ)は、制御部33に送られ、制御部33により被処理物Wの冷却が完了したか否かの判断が行われる。
なお、制御部33は、ガスG2の流量や経過時間などに基づいて、被処理物Wの冷却が完了したか否かの判断を行うこともできる。なお、ガスG2の流量や経過時間などと、被処理物Wの温度との関係は、予め実験やシミュレーションを行うことで求めることができる。
【0049】
温度制御部19は、被処理物Wの温度を制御する。
温度制御部19は、例えば、載置部15の内部に設けることができる。
温度制御部19は、被処理物Wの加熱を行うもの(例えば、ヒータ)とすることもできるし、熱媒体を循環させて被処理物Wの加熱と冷却を行うものとすることもできる。
温度制御部19は、例えば、温度検出部7からの出力に基づいて、被処理物Wの温度が所定の範囲内となるように制御する。
【0050】
制御部33は、有機物除去装置30に設けられた各要素の動作を制御する。
例えば、制御部33は、ガス供給部4を制御して、処理容器32の内部にプロセスガスG1またはガスG2を供給する。
この際、制御部33は、流量制御部13を制御して、プロセスガスG1の流量、またはガスG2の流量を制御する。
この場合、制御部33は、プラズマ処理済みの被処理物Wの温度が160℃以下になるまで、ガス供給部4にガスG2(不活性ガス)を供給させることができる。
制御部33は、マイクロ波発生部5を制御して、所定周波数(例えば2.45GHz)のマイクロ波Mを発生させる。発生したマイクロ波Mは、導入導波管35に向けて放射され、導入導波管35の内部を導波される。導入導波管35の内部を導波されたマイクロ波Mは、スロット36および透過窓34を介して、処理容器32の内部のプラズマPを発生させる領域に導入される。
【0051】
制御部33は、減圧部3を制御して、処理容器32の内圧を大気圧よりも減圧されたものとする。
この際、制御部33は、処理容器32内圧を検出する図示しない真空計の出力に基づいて圧力制御部16を制御して、処理容器32の内圧が所定の圧力となるようにする。
制御部33は、温度検出部7からの出力に基づいて、被処理物Wの冷却が完了したか否かの判断を行う。
制御部33は、温度制御部19の起動や停止などの制御を行う。
制御部33は、図示しない開閉機構を制御して、扉6cの開閉を行う。
【0052】
次に、有機物除去装置30の作用について例示をする。
まず、扉6cが、図示しない開閉機構により開かれる。
図示しない搬送装置により、搬入搬出口32bから被処理物Wを処理容器32の内部に搬入する。被処理物Wは載置部15の上面に載置され、載置部15に内蔵された図示しない静電チャックなどの保持機構により保持される。
【0053】
次に、図示しない搬送装置を処理容器32の外に退避させる。
次に、図示しない開閉機構により扉6cを閉じる。
次に、減圧部3により、処理容器32の内部を所定の圧力まで減圧する。この際、圧力制御部16により処理容器32内の圧力が調整される。
【0054】
次に、プラズマ発生部31により中性活性種を含むプラズマ生成物が生成される。
すなわち、まず、ガス供給部4から流量制御部13を介して所定流量のプロセスガスG1が、処理容器32内のプラズマPを発生させる領域に供給される。
一方、マイクロ波発生部5から所定のパワーのマイクロ波Mが導入導波管35内に放射される。放射されたマイクロ波Mは、導入導波管35内を導波され、スロット36を介して透過窓34に向けて放射される。
【0055】
透過窓34に向けて放射されたマイクロ波Mは、透過窓34の表面を伝搬して、処理容器32内に放射される。このようにして処理容器32内に放射されたマイクロ波Mのエネルギーにより、プラズマPが発生する。そして、発生したプラズマP中の電子密度が、透過窓34を介して供給されるマイクロ波Mを遮蔽できる密度(カットオフ密度)以上になると、マイクロ波Mは透過窓34の下面から処理容器32内の空間に向けて一定距離(スキンデプス)だけ入るまでの間に反射されるようになる。そのため、このマイクロ波Mの反射面とスロット36の下面との間にはマイクロ波Mの定在波が形成されることになる。その結果、マイクロ波Mの反射面がプラズマ励起面となって、このプラズマ励起面で安定的にプラズマPが励起、発生するようになる。
【0056】
このプラズマ励起面で励起、発生したプラズマP中において、プロセスガスG1が励起、活性化されて中性活性種、イオンなどのプラズマ生成物が生成される。生成されたプラズマ生成物を含むガスは、整流板17で整流されて被処理物Wの表面に到達し、被処理物Wの表面に付着している有機物が除去される。
なお、プラズマ生成物を含むガスが整流板17を通過する際に、イオンや電子が除去される。そのため、主に中性活性種により有機物が除去される。
【0057】
ここで、有機物除去装置30においては、プラズマが処理容器32内で生成されるので、プラズマ処理中は、プラズマによる熱の影響を受け、被処理物Wの温度が160℃を超える高温となる場合がある。
【0058】
次に、プラズマ処理が済んだ被処理物Wの温度が160℃以下となるように被処理物Wを冷却する。
例えば、ガス供給部4により、処理容器32の内部にガスG2を供給する。この際、流量制御部13により、ガスG2の流量が制御される。
ガス供給部4により供給されたガスG2は、整流板17を介して被処理物Wに到達し、ガスG2により被処理物Wが冷却される。
また、処理容器32の内部にガスG2が供給されることで、対流が生じ、被処理物Wからの放熱が多くなる。
ここで、被処理物Wは大気圧よりも減圧された圧力下で冷却が行われる。そのため、ガスG2を供給しながら、減圧部3により処理容器6の排気を行うことができる。また、一定の圧力になったとき、ガスG2の供給および排気を停止することもできる。
【0059】
また、温度制御部19が冷却機能を有するものの場合には、温度制御部19により被処理物Wを冷却することもできる。
例えば、温度制御部19が熱媒体を循環させて被処理物Wの冷却を行うものの場合には、冷却された熱媒体を循環させることで、被処理物Wを冷却することもできる。
また、ガスG2による冷却と、温度制御部19による冷却とを併せて行うこともできる。
ガスG2による冷却、および温度制御部19による冷却の少なくともいずれかを行うようにすれば、被処理物Wの冷却時間、ひいては、被処理物Wの処理時間を短縮することができる。
【0060】
冷却が終了した被処理物Wは、図示しない搬送装置により処理容器32の外に搬出される。この後、必要があれば、前述した手順に従い、被処理物Wに対するプラズマ処理と冷却とが繰り返される。
本実施の形態に係る有機物除去装置30によれば、酸素が除去され、不活性ガス(ガスG2)が供給された環境において、被処理物Wの温度が160℃以下となるように冷却することができるので、被処理物Wの機能に対する影響が少ない被処理物Wの冷却を行うことができる。
【0061】
以上に例示をしたものは、プラズマ処理を行う処理容器6、32の内部において被処理物Wの冷却を行っているが、これに限定されるわけではない。
プラズマ処理を行う処理容器6、32とは別の容器の内部において被処理物Wの冷却を行ってもよい。この場合、処理容器6、32と、冷却を行う容器との間は、酸素が除去された環境(例えば、不活性ガスで満たされた環境や、大気圧よりも減圧された環境)とすればよい。
また、冷却を行う容器は、大気圧よりも減圧された環境を維持することのできる減圧部が設けられ、被処理物Wを搬入・搬出する間も大気開放されない容器とすることができる。すなわち、冷却を行う容器においても、大気圧よりも減圧された雰囲気で冷却を行うことができる。
上記の実施例と同様、冷却を行う容器においてもガスG2を供給しながら、減圧部により、冷却を行う容器の排気を行うことができる。また、一定の圧力になったとき、ガスG2の供給および排気を停止することもできる。
【0062】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態に係る有機物除去方法について例示をする。
本実施の形態に係る有機物除去方法においては、プラズマPを発生させ、発生させたプラズマPにプロセスガスG1を供給してプラズマ生成物を生成し、生成したプラズマ生成物を用いて、被処理物Wの表面に付着した有機物を除去する。
この場合、被処理物Wは、モリブデンを含む層とシリコンを含む層との積層体、およびモリブデンシリコンを含む層の少なくともいずれかを有したものとすることができる。
そして、プラズマ処理済みの被処理物Wが載置された雰囲気に、ガスG2(不活性ガス)を供給して、プラズマ処理済みの被処理物Wの温度を160℃以下にする。
【0063】
この場合、プラズマを発生させる領域と、生成したプラズマ生成物を用いて、被処理物Wの表面に付着した有機物を除去する領域とが離隔されているようにすることができる(例えば、
図1を参照)。
また、プラズマを発生させる領域と、生成したプラズマ生成物を用いて、被処理物Wの表面に付着した有機物を除去する領域(処理空間20)と、の間に整流板17が設けられているようにすることができる(例えば、
図4を参照)。
また、表面に有機物が付着した被処理物Wのプラズマ処理を行う領域と、プラズマ処理済みの被処理物Wの温度を160℃以下にする領域とが離隔されているようにすることができる。例えば、表面に有機物が付着した被処理物Wを収納し、プラズマ処理を行う処理容器6、32と、プラズマ処理済みの被処理物Wを収納する容器とを別々に設け、プラズマ処理と冷却とを別々の領域で行うことができる。
また、プラズマ処理を行う際に、被処理物Wの温度を制御する温度制御部19により、被処理物Wの温度を200℃以下にすることができる。
また、プラズマ処理済みの被処理物Wの温度を160℃以下にする際に、被処理物Wの温度を制御する温度制御部19により、被処理物Wの温度を制御することができる。
なお、各工程における内容は、前述したものと同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【0064】
以上、実施の形態について例示をした。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。
前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
例えば、有機物除去装置1、30が備える各要素の形状、寸法、材質、配置、数などは、例示をしたものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
前述の実施の形態に関して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、または、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。