特許第6473526号(P6473526)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473526
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】ビサクロン抽出方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20190207BHJP
   C07C 45/79 20060101ALI20190207BHJP
   C07C 49/242 20060101ALI20190207BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20190207BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   A23L33/105
   C07C45/79
   C07C49/242
   A23L2/00 B
   A23L2/38 C
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-13037(P2018-13037)
(22)【出願日】2018年1月29日
(62)【分割の表示】特願2016-193666(P2016-193666)の分割
【原出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-86003(P2018-86003A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2018年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】306019030
【氏名又は名称】ハウスウェルネスフーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝武 宗明
(72)【発明者】
【氏名】喜田 香織
(72)【発明者】
【氏名】笹子 浩史
【審査官】 吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/122234(WO,A1)
【文献】 特開2011−068569(JP,A)
【文献】 特開2013−252118(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0002131(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0121605(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0001394(KR,A)
【文献】 韓国登録特許第10−0962334(KR,B1)
【文献】 特開2015−065953(JP,A)
【文献】 特開2014−207877(JP,A)
【文献】 特許第5759047(JP,B1)
【文献】 Chem. Pham. Bull.,2001年,Vol.49, No.12,p.1558-1566
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/40−5/49,31/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビサクロン含有ウコン抽出物の製造方法であって、
(1)ウコンに親水性有機溶媒及び水の混合液を添加混合して、ウコン中の水溶性成分を抽出し、固液分離した後、該水溶性成分を含む溶液を回収する工程;
(2)工程(1)で得られた溶液より溶媒を除去して乾固物を得る工程、ならびに、
(3)得られた該乾固物に水を添加混合して、固液分離した後、水溶液を回収する工程、を含む、方法。
【請求項2】
混合液が、アセトン、エタノール、アセトニトリル、又はメタノールと水の混合液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ウコンが、秋ウコンの根茎である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法によりビサクロン含有ウコン抽出物を製造すること、及び、飲食品として許容される材料と組み合わせることを含む、ビサクロン含有ウコン抽出物を含有する飲食品組成物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビサクロンをウコンよりカラム操作を用いることなく、高い濃度で精製することが可能な抽出方法、及びそれを用いて得られたビサクロン含有ウコン抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビサクロンはウコン中に含まれる微量成分であり、同じくウコン中に含まれる成分であるクルクミン(黄色色素)とならんで、アルコール摂取後の二日酔い症状を抑制する作用を有することが知られている(特許文献1)。特許文献1においては、ビサクロンによる二日酔い症状の抑制効果を得るために、1回の経口摂取量当たり0.5mg以上のビサクロンの摂取が必要であることが示されている。
【0003】
特許文献2には、ビサクロンをウコンより水抽出により得たことが示されており、得られたウコンエキス中のビサクロンの量は約0.15質量%であったことが示されている。このウコンエキスにはビサクロン以外の成分も多く含まれているため、このウコンエキスを配合した飲食品においては、それらの成分が当該飲食品の風味に重大な影響を及ぼす場合があった。このような風味に与える影響を排除するために、ウコンエキス中のビサクロン濃度(純度)はより高いものが求められる。
【0004】
高濃度ビサクロンとしては、測定用試薬として純度99.5%以上のものが販売されている。これはカラム操作を用いたビサクロンの分離精製工程を経て調製されたものである。しかしながら、カラム操作に要する費用は高く、そのためこのような手段で調製された高濃度ビサクロンを飲食品用の原料として用いることは、実質実現不可能といえる。
【0005】
したがって、ビサクロンを安価に(すなわち、カラム操作を用いることなく)、かつ高い濃度で精製することが可能な新たな手段が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5543656号公報
【特許文献2】特許第5595614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ビサクロンをウコンより安価に(すなわち、カラム操作を用いることなく)、かつ高い濃度で精製することが可能な新たな手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ビサクロンは分子内構造の変化に起因して、極性の高い水にも、極性の低い有機溶媒にも溶解し得ることを見出した。この性質を利用して、極性の異なる複数の抽出溶媒を所定の順序で組み合わせて用いることにより、ビサクロンをウコンよりカラム操作を用いることなく、高い濃度で精製できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものであり、以下の発明を包含する。
[1] ビサクロン含有ウコン抽出物の製造方法であって、
(1)ウコンに水系溶媒を添加混合して、ウコン中の水溶性成分を抽出し、固液分離した後、該水溶性成分を含む水溶液を回収する工程;
(2)工程(1)で得られた水溶液に疎水性有機溶媒を添加混合して、その後疎水性有機溶媒相を分離し、回収する工程、
(3)得られた該疎水性有機溶媒相より疎水性有機溶媒を除去して乾固物を得る工程、ならびに、
(4)得られた該乾固物に水系溶媒を添加混合して、固液分離した後、水溶液を回収する工程、
を含む、方法。
[2] 疎水性有機溶媒の溶解性パラメータ(SP値)が、9.5未満である、[1]の方法。
[3] 疎水性有機溶媒が酢酸エチル、クロロホルム又は酢酸ブチルである、[1]又は[2]の方法。
[4] ビサクロン含有ウコン抽出物の製造方法であって、
(1)ウコンに親水性有機溶媒及び水の混合液を添加混合して、ウコン中の水溶性成分を抽出し、固液分離した後、該水溶性成分を含む溶液を回収する工程;
(2)工程(1)で得られた溶液より溶媒を除去して乾固物を得る工程、ならびに、
(3)得られた該乾固物に水を添加混合して、固液分離した後、水溶液を回収する工程、を含む、方法。
[5] 混合液が、アセトン、エタノール、アセトニトリル、又はメタノールと水の混合液である、[4]の方法。
[6] [1]〜[5]のいずれかの方法によって製造されたビサクロン含有ウコン抽出物。
[7] [6]のビサクロン含有ウコン抽出物を含有する飲食品組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ビサクロンをウコンより、カラム操作を用いることなく、かつ高い濃度で精製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、親水性有機溶媒を用いて得られたビサクロン抽出物のHPLC分析の結果を示すチャート図である。
図2図2は、疎水性有機溶媒を用いて得られたビサクロン抽出物のHPLC分析の結果を示すチャート図である。
図3図3は、ウコンの水抽出物のHPLC分析の結果を示すチャート図である。
図4図4は、カラム精製されたビサクロン抽出物のHPLC分析の結果を示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において「ビサクロン」とは、ビサボラン型セスキテルペン類に分類される化合物であり、下記の平面構造式を有する化合物又はその塩を意味する。ビサクロンは平面構造式中*印で示した位置に不斉炭素を有し、そのため数種の光学異性体が存在するが、本明細書におけるビサクロンとはそのいずれの光学異性体も包含する概念である。
【0012】
【化1】
【0013】
本発明において「ウコン」には、ショウガ科のCurcuma属に属する植物が含まれ、ビサクロンを含有するものであればよく、特に限定はされない。例えば、本発明において利用可能な「ウコン」としては、Curcuma longa(別名:秋ウコン)、Curcuma aromatica(別名:春ウコン)、Curcuma zedoaria(別名:ガジュツ又は紫ウコン)、Curcuma phaeocaulis、Curcuma kwangsiensis、Curcuma wenyujin、Curcuma xanthorrhiza等が挙げられるが、好ましくはCurcuma longaである。
【0014】
ウコンはビサクロンを含有する適当な部位(例えば、根茎等)を含み、その形態は、ビサクロンの抽出に適した形態であればよく、原型のまま、あるいは適当な寸法又は形状にカットした形態、あるいは粉砕物の形態のものを利用することができ、これらは適宜乾燥されたものであってよい。ウコンのカットや粉砕は、公知の手法を用いて行うことができ、例えばミル、ミキサー、ホモジナイザー等を利用することができる。
【0015】
本発明方法は、抽出・精製工程において疎水性有機溶媒を利用する態様を含む実施形態(第一の実施形態)と、抽出・精製工程において疎水性有機溶媒を利用しない(親水性有機溶媒を利用する)態様を含む実施形態(第二の実施形態)とを含む。
【0016】
以下、各実施形態について説明する。
【0017】
[1.疎水性有機溶媒を利用する第一の実施形態]
本発明方法は概ね以下の工程を含む:
(1)ウコン中の水溶性成分を抽出し、水溶性成分を含む水溶液を回収する工程;
(2)得られた水溶液に疎水性有機溶媒を添加混合し、疎水性有機溶媒相を分離・回収する工程、
(3)得られた疎水性有機溶媒相より疎水性有機溶媒を除去して乾固物を得る工程、ならびに、
(4)得られた乾固物より水溶性成分を回収する工程。
【0018】
以下、各工程について説明する。
(1)ウコン中の水溶性成分を抽出し、水溶性成分を含む水溶液を回収する工程
本工程においては、ウコン中のビサクロンを含む水溶性成分を、抽出溶媒を用いて、抽出・回収する。
【0019】
ウコン中の水溶性成分の抽出は、上記ウコンと水溶性成分の抽出溶媒とを混合することによって行うことができる。抽出溶媒としては、ウコンの水溶性成分の抽出が可能であり、かつ下記疎水性有機溶媒と混ざり合わない水系溶媒であればよく、このような水系溶媒としては、例えば、水もしくは熱水、あるいはそれと低級アルコール親水性有機溶媒(例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール等)との混合液等を利用することができる。
【0020】
ウコンと水系溶媒との混合は、抽出溶媒中にウコンを5℃〜100℃にて3分以上(例えば1時間〜72時間、好ましくは18時間〜72時間)浸漬して行うことができる。必要に応じて、振盪や攪拌を加えてもよい。振盪や攪拌の方法は、実施者において適宜決定することができる。
【0021】
ウコンに加える水系溶媒の量は、ウコン1重量部に対して、例えば、1〜500重量部、好ましくは1〜100重量部、より好ましくは5〜50重量部である。加える抽出溶媒の量が少なくなりすぎると水溶性成分を十分に抽出することができない場合があり、反対に多すぎるとその後の操作の作業効率の低下といった好ましくない問題が生じる場合がある。
【0022】
次いで、得られた抽出液を固液分離して液体部分を回収することにより、水不溶成分を除去すると共に、目的とする水溶性成分を含む水溶液を得ることができる。固液分離は一般的な手法により行うことができ、遠心分離やろ過等の手段を用いることができる。遠心分離は例えば、1000G以上の遠心力を加えて行うことができ、ろ過は例えば、0.45μm以下のフィルターを用いて行うことができる(これらに限定はされない)。
【0023】
得られた水溶液は、必要に応じて濃縮することができる。水溶液の濃縮は蒸留等の一般的な手法により行うことができる。
【0024】
得られた水溶液には必要に応じて、再度水系溶媒を加えて、本工程、すなわち水系溶媒による抽出を繰り返し行ってもよい。
【0025】
(2)得られた水溶液に疎水性有機溶媒を添加混合し、疎水性有機溶媒相を分離・回収する工程
本工程においては、水溶性成分を含む水溶液に疎水性有機溶媒を添加混合することによって、水溶液中のビサクロンは疎水性有機溶媒へと転溶する。
【0026】
疎水性有機溶媒は、水溶液中からビサクロンが転溶することが可能なものであればよく特に限定されないが、例えば、溶解性パラメータ(以下、「SP値」と記載する)が9.5未満、好ましくは8.5〜9.5の範囲にあるものを利用することができる。このような疎水性有機溶媒としては、クロロホルム(9.4)、酢酸エチル(9.0)、酢酸ブチル(8.5)等が挙げられるが、これらに限定はされない(括弧内SP値を示す)。
【0027】
水溶液に加える疎水性有機溶媒の量は、水溶液1重量部に対して、例えば、0.5〜10重量部、好ましくは1〜3重量部である。加える疎水性有機溶媒の量が少なくなりすぎるとビサクロンを十分に転溶することができない場合があり、反対に多すぎるとその後の操作の作業効率の低下といった好ましくない問題が生じる場合がある。
【0028】
水溶液と疎水性有機溶媒との混合は、例えば、60秒〜3600秒、振盪や攪拌することによって行うことができる。振盪や攪拌の方法は、実施者において適宜決定することができる。
【0029】
次いで、疎水性有機溶媒と水溶液とを相分離させ、水相を除去又は疎水性有機溶媒相を回収することにより、不用な水溶性成分を除去して、ビサクロンが転溶した疎水性有機溶媒相を得ることができる。疎水性有機溶媒と水溶液の相分離は一般的な手法により行うことができ、遠心分離や静置等の手段を用いることができる。
【0030】
(3)得られた疎水性有機溶媒相より疎水性有機溶媒を除去して乾固物を得る工程
本工程においては、疎水性有機溶媒を除去し、当該溶媒中に含まれるビサクロンを含む成分を回収する。
【0031】
疎水性有機溶媒の除去は一般的な手法により行うことができ、減圧乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、風乾、凍結乾燥等、用いた疎水性有機溶媒に応じて、適宜選択することができる。
【0032】
(4)得られた乾固物より水溶性成分を回収する工程
本工程においては、得られた乾固物に水系溶媒を添加混合することによって、水系溶媒中にビサクロンを溶解して回収する。
【0033】
水系溶媒は、乾固物中のビサクロンの溶解が可能であり、かつ乾固物中の水不溶性成分が溶解しないものであればよく、このような水系溶媒としては、例えば、水もしくは熱水、または低級アルコール(例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール等)、あるいはそれら両方等が挙げられるが、これらに限定はされない。水等及び低級アルコール親水性有機溶媒の両方を用いる場合、それらは順次添加されてもよいし、同時に(もしくは混合液として)添加されてもよい。
【0034】
乾固物に加える水系溶媒の量は、乾固物1重量部に対して、例えば、1〜10重量部、好ましくは2〜4重量部である。加える水系溶媒の量が少なくなりすぎるとビサクロンを十分に溶解することができない場合があり、反対に多すぎるとその後の操作の作業効率の低下といった好ましくない問題が生じる場合がある。
【0035】
乾固物と水系溶媒との混合は、当該乾固物が崩れるほど充分に行われればよく、例えば、60秒〜3600秒、振盪や攪拌することによって行うことができる。振盪や攪拌の方法は、実施者において適宜決定することができる。
【0036】
次いで、得られた抽出液を固液分離して液体部分を回収することにより、水不溶成分を除去すると共に、目的とするビサクロンを含む水溶液を得ることができる。固液分離は一般的な手法により行うことができ、上述の遠心分離やろ過等の手段を用いることができる。
【0037】
得られたビサクロンを含む水溶液は、そのまま「ビサクロン含有ウコン抽出物」として使用することもできるが、更に乾燥を行ってもよく、例えば、水分含量15重量%以下、好ましくは8〜12重量%にまで乾燥する。また乾燥物は適宜粉砕してもよい。
【0038】
乾燥方法は、熱風乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等の一般的な方法を用いて行うことができる。
【0039】
粉砕に用いる粉砕手段としては、例えばスタンプミル、マスコロイダー、コミトロール、擂粉木等が挙げられる。粉砕物の粒度は必要に応じて篩で調整することもできる。
【0040】
本発明方法によれば、カラム精製を行うことなく、ウコンよりビサクロンを高い純度(例えば、0.5%以上、1%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、又は25%以上)で、かつ高い回収率(例えば、50%以上、60%以上、65%以上、又は70%以上)で抽出・精製することができる。
【0041】
本発明方法の一実施形態においては、
(1)ウコンに水を加えてウコン中の水溶性成分を抽出し、水不溶性成分を除去して水溶性成分を含む水溶液を回収する工程;
(2)工程(1)で得られた水溶液に、酢酸エチル又はクロロホルムを添加混合し、相分離させた後、水相を除去して有機溶媒相を回収する工程、
(3)得られた有機溶媒相より有機溶媒を減圧蒸留により除去して、乾固物を得る工程、ならびに、
(4)得られた乾固物に低級アルコールを加えて溶解し、次いでさらに水を加えて溶解し、水不溶性成分を除去して水溶性成分を含む水溶液を回収する工程、
を含み、ビサクロンを高い純度で、かつ高い回収率で抽出・精製することができる。
【0042】
[2.親水性有機溶媒を利用する第二の実施形態]
本発明方法は概ね以下の工程を含む:
(1)ウコンに親水性有機溶媒及び水の混合液を添加混合して、ウコン中の水溶性成分を抽出し、水溶性成分を含む水溶液を回収する工程;
(2)得られた水溶液より溶媒を除去して乾固物を得る工程、ならびに、
(3)得られた乾固物に水を添加混合して、水溶性成分を回収する工程。
【0043】
以下、各工程について説明する。
(1)ウコンに親水性有機溶媒及び水の混合液を添加混合して、ウコン中の水溶性成分を抽出し、水溶性成分を含む水溶液を回収する工程
本工程においては、ウコン中のビサクロンを含む水溶性成分を、親水性有機溶媒及び水の混合液(以下、単に「混合液」と記載する)を用いて、抽出・回収する。
【0044】
親水性有機溶媒としては、水と混合して用いた場合にウコンの水溶性成分の抽出が可能なものであればよく特に限定されないが、例えば、SP値が15未満、好ましくは10〜15の範囲にあるものを利用することができる。このような親水性有機溶媒としては、アセトン(10.0)、エタノール(12.7)、メタノール(14.5)、イソプロパノール(11.5)、アセトニトリル(11.9)等が挙げられるが、これらに限定はされない(括弧内SP値を示す)。
【0045】
親水性有機溶媒と水との混合比は特に限定されないが、好ましくは、親水性有機溶媒を重量比にて、90%以下、かつ30%以上の範囲で含めることができる。例えば、親水性有機溶媒としてアセトンを用いる場合、アセトンと水とを重量比にて、90:10〜30:70の範囲で、好ましくは80:20〜30:70の範囲で混合することができる。また、親水性有機溶媒としてエタノールを用いる場合、エタノールと水とを重量比にて、90:10〜30:70の範囲で、好ましくは80:20〜30:70の範囲で混合することができる。また、親水性有機溶媒としてメタノールを用いる場合、メタノールと水とを重量比にて、90:10〜30:70の範囲で、好ましくは80:20〜30:70の範囲で混合することができる。
【0046】
親水性有機溶媒と水とを上記の混合比にて用いることによって、ビサクロンを、高い純度で、及び/又は高い回収率で抽出・精製することができる。
【0047】
ウコン中の水溶性成分を抽出は、上記ウコンと混合液とを混合することによって行うことができる。ウコンと混合液との混合は、抽出溶媒中にウコンを5℃〜60℃にて3分以上(例えば1時間〜72時間、好ましくは18時間〜72時間)浸漬して行うことができる。必要に応じて、振盪や攪拌を加えてもよい。振盪や攪拌の方法は、実施者において適宜決定することができる。
【0048】
ウコンに加える混合液の量は、ウコン1重量部に対して、例えば、1〜500重量部、好ましくは1〜100重量部、より好ましくは5〜50重量部である。加える抽出溶媒の量が少なくなりすぎると水溶性成分を十分に抽出することができない場合があり、反対に多すぎるとその後の操作の作業効率の低下といった好ましくない問題が生じる場合がある。
【0049】
次いで、得られた抽出液を固液分離して液体部分を回収することにより、水不溶成分を除去すると共に、目的とする水溶性成分を含む水溶液を得ることができる。固液分離は一般的な手法により行うことができ、上述の遠心分離やろ過等の手段を用いることができる。
【0050】
得られた水溶液には必要に応じて、再度混合液を加えて、本工程、すなわち混合液による抽出を繰り返し行ってもよい。
【0051】
(2)得られた水溶液より溶媒を除去して乾固物を得る工程
本工程においては、溶媒(混合液)を除去し、当該溶媒中に含まれるビサクロンを含む成分を回収する。
【0052】
溶媒の除去は一般的な手法により行うことができ、減圧乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、風乾、凍結乾燥等、用いた溶媒に応じて、適宜選択することができる。例えば、水溶液に非反応性の気体(窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス)を噴射して蒸発・乾燥させることにより、溶媒を除去して目的の乾固物を得ることができる。
【0053】
(3)得られた乾固物に水を添加混合して、水溶性成分を回収する工程
本工程においては、得られた乾固物に水を添加混合することによって、水中にビサクロンを溶解して回収する。
【0054】
乾固物に加える水の量は、乾固物1重量部に対して、例えば、0.5〜10重量部、好ましくは1〜3重量部である。加える水の量が少なくなりすぎるとビサクロンを十分に溶解することができない場合があり、反対に多すぎるとその後の操作の作業効率の低下といった好ましくない問題が生じる場合がある。
【0055】
乾固物と水との混合は、当該乾固物が崩れるほど充分に行われればよく、例えば、60秒〜3600秒、振盪や攪拌することによって行うことができる。振盪や攪拌の方法は、実施者において適宜決定することができる。
【0056】
次いで、得られた抽出液を固液分離して液体部分を回収することにより、水不溶成分を除去すると共に、目的とするビサクロンを含む水溶液を得ることができる。固液分離は一般的な手法により行うことができ、上述の遠心分離やろ過等の手段を用いることができる。
【0057】
得られたビサクロンを含む水溶液は、そのまま「ビサクロン含有ウコン抽出物」として使用することもできるが、更に乾燥を行ってもよく、例えば、水分含量15重量%以下、好ましくは8〜12重量%にまで乾燥する。また乾燥物は適宜粉砕してもよい。
【0058】
乾燥方法及び粉砕に用いる粉砕手段は、上述の手法を用いて行うことができる。
【0059】
本発明方法によれば、ウコンよりビサクロンを高い純度(例えば、0.5%以上、1.0%以上、1.5%以上、2.0%以上、又は2.5%以上)で、かつ高い回収率(例えば、50%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、又は85%以上)で抽出・精製することができる。
【0060】
本発明方法の一実施形態においては、
(1)ウコンにアセトン、エタノール、もしくはメタノール、及び水の混合液を添加混合して、ウコン中の水溶性成分を抽出し、水不溶性成分を除去して水溶性成分を含む水溶液を回収する工程;
(2)得られた水溶液より溶媒を蒸発させ除去して乾固物を得る工程、ならびに、
(3)得られた乾固物に水を加えて溶解し、水不溶性成分を除去して水溶性成分を含む水溶液を回収する工程、
を含み、ウコンよりビサクロンを高い純度で、かつ高い回収率で抽出・精製することができる。
【0061】
上記第一の実施形態及び第二の実施形態の方法により得られるビサクロン含有ウコン抽出物は、特定の利用態様に制限されることなく、様々な飲食品や医薬品に添加して利用することができる。
【0062】
すなわち、本発明のビサクロン含有ウコン抽出物は、飲食品として許容される他の材料と必要に応じて組み合わせて、飲食品組成物の形態で使用することができる。また、ビサクロンは、アルコール摂取後の二日酔い症状の軽減作用を有することから(特許第5543656号公報)、当該飲食品組成物は、その本体、包装、説明書、宣伝物又は宣伝用電子的情報に効能の表示、例えば、二日酔い症状の軽減作用を有する旨の表示などが付されたものであってもよい。飲食品組成物の形態は特に限定されず、固形、半固形、液体等の種々の形態のものであってよい。
【0063】
また、本発明のビサクロン含有ウコン抽出物は、医薬上許容される担体、添加物、賦形剤等と必要に応じて組み合わせて製剤化し、医薬組成物の形態で使用することができる。当該医薬組成物は、二日酔い症状を治療又は予防するために利用し得る。当該医薬組成物の投与形態としては、特に制限はなく、必要に応じ適宜選択されるが、一般には錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤等の経口剤、又は注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤、軟膏剤等の非経口剤として投与され得る。当該医薬組成物における担体、添加物、賦形剤等は、投与経路に応じて適宜選択され得る。
【0064】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
[標品の作製]
ビサクロン10mg(長良サイエンス(株)製)を500mLビーカーに精驃量秤し、30%アセトニトリル(和光純薬)溶液を500mL添加溶解し、20ppmビサクロン標品とした。それを30%アセトニトリル溶液でさらに希釈し、10ppm,8ppm,4ppm,2ppm,0.8ppm標品を作製した。
【0066】
[ウコン破砕物の作製]
ウコン根茎を乾燥させたウコンチップを適当量、コーヒーミルIFM−800(IWATANI製)で2分間破砕しウコン破砕物とした。
【0067】
[HPLC測定前処理方法]
各最終サンプルを30%アセトニトリル溶液でビサクロン濃度が20ppm以下になるように希釈し、0.45μmフィルターでろ過しサンプル溶液とした。
【0068】
[HPLC測定条件]
装 置:Waters ACQUITY H−Classシステム
カラム:Waters XBridge C18 5μm 6×250mm
温 度:50℃
流 量:1.0mL/min
移動相:30%アセトニトリル(pH3.3)TFA水(和光純薬)
検出器:UV240nm
【0069】
(試験1)親水性有機溶媒を利用する抽出方法
試験には、アセトン、エタノール、メタノールの3種類の親水性有機溶媒を用いた。
【0070】
ウコン破砕物を適量1.5mLエッペンチューブに秤量し初期重量とした。これに各親水性有機溶媒を所定の濃度にて1mL加え、蓋をしてパラフィルムで密閉し、ボルテックスで振動撹拌を16時間行った。
【0071】
次に、15000rpmにて遠心分離を60分間行い固液分離した。
その上澄み液を回収し、窒素ガスを表面に噴射することで親水性有機溶媒を蒸発させ、そこに全量で1.5mLになるように蒸留水を加水して、疎水性成分を析出させた。
【0072】
次に、これを15000rpmにて遠心分離を60分間行い固液分離し、上澄み液を回収してフリーズドライ処理(−50℃にて、72時間)して、粉末化した。この時得られた粉末の重量を乾燥後重量とした。
【0073】
また、粉末に30%アセトニトリル(和光純薬)溶液を適量加え、HPLC測定時のビサクロン濃度が20ppm以下となるように希釈しHPLC測定を行った。この時のビサクロン濃度を測定時濃度とした。
【0074】
また、測定時濃度から最終ビサクロン量を計算し、乾燥後重量を用いて乾燥後粉体中のビサクロン濃度を算出し純度(%)とした。
【0075】
また、使用したウコン破砕物中のビサクロン濃度は50%エタノール(和光純薬)で16時間振動撹拌抽出を行いHPLC測定し算出し0.59mg/gとした。この値と初期重量から初期ウコン破砕物中のビサクロン量の理論値を算出し、この理論値に対する実際の回収量を比較して回収率(%)とした。
【0076】
なお、比較例には、上記親水性有機溶媒に代えて、水を用いて同様に処理した抽出物を用いた。
各値を以下の表1に示す
【0077】
【表1】
【0078】
以上の結果より、本抽出方法によれば、ビサクロンをウコンより水抽出により得る従来法(特許第5595614号公報)と比べて、顕著に高い純度及び回収率にて、ビサクロンを含有するウコン抽出物を得ることができた。
【0079】
特に、比較的高い濃度の親水性有機溶媒を用いて最初の抽出を行うことで、高い純度にてビサクロンを含有するウコン抽出物を得ることができた。これは、最初の抽出においてビサクロン以外の親水性物質の抽出を抑えることができること、また最終の加水でビサクロン以外の疎水性物質を析出・除去できることによるものと考えられる。
【0080】
一方で、親水性有機溶媒の濃度が100%に近づくにつれてビサクロンの回収率の顕著な低下が認められた。このことから、ビサクロンをウコンより効率よく抽出するためには、最初の抽出の抽出溶媒には、親水性有機溶媒と共にある程度の量の水が必要であることが確認された。
【0081】
以上より、30%〜80%親水性有機溶媒で最初の抽出を行い、かつ最終の加水で疎水性物質を析出・除去することで、効率的に純度及び回収率が共に高い、ビサクロン含有ウコン抽出物が得られることが明らかとなった。
【0082】
(試験2)疎水性有機溶媒を利用する抽出方法
試験には、酢酸エチル、クロロホルムの2種類の疎水性有機溶媒を用いた。
【0083】
ウコン破砕物(100g、初期重量)を3Lステレンス製ジョッキに秤量し、これに蒸留水(2L)を加え、撹拌混合を16時間行った。
【0084】
次に、ろ紙(No.5B)でろ過して、ろ液を回収し、エバポレーターを用いて60℃で最終400mL程度まで濃縮した。
【0085】
得られた濃縮液を2Lの分液ロートに移し、これに各疎水性有機溶媒(700mL)を加え、2分間撹拌した後、10分間静置した。
【0086】
水と疎水性有機溶媒が2層に分離した後、下側の水層を取り除いた。なお、下層の水槽のビサクロン濃度を測定したところ、ほとんど検出されず、ビサクロンが疎水性有機溶媒層に転溶した事が確認された。
【0087】
次に、回収された疎水性有機溶媒層よりエバポレーターを用いて、疎水性有機溶媒を除去し、乾固させた。
【0088】
次に、これにエタノール(20mL)を加え溶解後、蒸留水(800mL)を加水して、疎水性成分を析出させた。
【0089】
次に、これを12000rpmにて遠心分離を60分間行い固液分離し、上澄み液をフリーズドライ処理(−50℃にて、72時間)して、粉末化した。この時得られた粉末の重量を乾燥後重量とした。
【0090】
また、粉末に30%アセトニトリル(和光純薬)溶液を500mL加え、HPLC測定を行った。この時のビサクロン濃度を測定時濃度とした。
【0091】
また、測定時濃度から最終ビサクロン量を計算し、乾燥後重量を用いて乾燥後粉体中のビサクロン濃度を算出し純度(%)とした。
【0092】
また、使用したウコン破砕物中のビサクロン濃度は50%エタノール(和光純薬)で16時間振動撹拌抽出を行いHPLC測定し算出し0.59mg/gとした。この値と初期重量から初期ウコン破砕物中のビサクロン量の理論値を算出し、この理論値に対する実際の回収量を比較して回収率(%)とした。
各値を以下の表2に示す
【0093】
【表2】
【0094】
以上の結果より、本抽出方法によれば、ビサクロンをウコンより水抽出により得る従来法(特許第5595614号公報)と比べて、顕著に高い純度及び回収率にてビサクロンを含有するウコン抽出物を得ることができた。
【0095】
これは最初に水抽出を行うことにより、疎水性物質の抽出を抑え、除去できること、また、次に用いる疎水性有機溶と水がほとんど混合しないことから、転溶時にビサクロン以外の親水性物質がほぼ転溶してこないこと、さらに、最終の加水でビサクロン以外の疎水性物質を析出・除去できることによるものと考えられる。
【0096】
(試験3)各種抽出方法により得られたビサクロン抽出物のHPLC分析
上記試験1及び試験2の方法で得られた各ビサクロン抽出物ならびに、ウコンの水抽出物(試験1の比較例)、及びカラム精製されたビサクロン抽出物(ウコンの根茎部分の根茎部分を水を用いて抽出し、得られた水抽出液をメタノールにて再抽出し、得られたメタノール抽出液より分取カラムを用いて精製したもの)について、HPLC分析した結果、得られたチャートを図1〜4に示す。
【0097】
図1は、試験1の方法で得られたビサクロン抽出物のチャートを示す。
図2は、試験2の方法で得られたビサクロン抽出物のチャートを示す。
【0098】
図3は、ウコンの水抽出物のチャートを示す。
図4は、カラム精製されたビサクロン抽出物のチャートを示す。
各図において、保持時間11.6〜11.8分にビサクロンのピークが示される。
【0099】
試験1及び試験2の方法で得られたビサクロン抽出物においては、カラム精製されたビサクロン抽出物には及ばないものの、ウコンの水抽出物と比べて、保持時間2分〜10分あたりに現れるビサクロン以外の成分量が低減されていることが確認された。
図1
図2
図3
図4