(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記天板が間隙を空けて上下に配置された複数枚の透明板による二重構造をなし、下方の透明板に前記ヒータが設けられている請求項1、2、3または4記載の培養容器収容装置。
前記周壁が、前記内部空間を包囲する内周壁と、内周壁の外側にあって内周壁を包囲する外周壁とによる二重構造をなしている請求項1、2、3、4または5記載の培養容器収容装置。
【背景技術】
【0002】
近時、体性幹細胞や胚性幹細胞(ES細胞(embryonic stem cells))、人工多能性幹細胞(iPS細胞(induced pluripotent stem cells))を用いた再生医療技術及び創薬の研究開発が勃興している。この種の研究開発においては、必要となる目的細胞や組織を効率よく量産できることが極めて重要となる。
【0003】
細胞培養の過程では、培地で増殖した細胞コロニーの一部をクランプとして取り出し、そのクランプを新しい培地に移して再び培養する継代培養を行うことが通例である(例えば、下記特許文献1を参照)。
【0004】
現状、増殖した細胞から複数のクランプを切り出す作業は、人の手によってなされている。だが、これには手間を要する上、作業を行う者のスキルその他の個人差の影響を受けるために、クランプの大きさが不揃いとなって、継代後の細胞の生育状態にばらつきを生ずる原因ともなる。
【0005】
また、患者の傷ついた組織や臓器を補う再生医療の目的で用いる細胞集合体に不良のまたは不要な細胞が混交していると、本来の効用を発揮できないおそれがあるだけでなく、腫瘍化その他の患者の健康に悪影響を及ぼすことにもなりかねない。しかしながら、不要細胞が混入している培養容器を丸ごと廃棄することは、目的細胞または組織の収率(歩留まり)の低下につながり、再生医療のコストを高騰させる。目的細胞または組織の収率を改善するためには、培養容器内に存在する不要細胞を死滅させまたは除去して、残りの細胞を無駄にせず利用することが望ましい。
【0006】
そこで、集光性に優れたレーザ光を利用して、増殖した細胞を複数のクランプに精確に切り分けたり、不要細胞のみを選択的に死滅させたりすることが試みられている(例えば、下記特許文献2を参照)。
【0007】
一方、細胞の培養それ自体は、CO
2インキュベータ(例えば、下記特許文献3を参照)を使用して行うことが多い。CO
2インキュベータは、その庫内に温度37℃、湿度100%、二酸化炭素濃度5%の雰囲気を作り出し、その雰囲気中に細胞培養容器を保管しておくものである。培養中の細胞は、有機酸等を生産して培地のpHを低下させる。そこで、細胞培養容器内の培地に予め炭酸水素ナトリウムを添加しておき、培養中に発生する水素イオンを重炭酸イオンと反応させて炭酸を生じさせ、その炭酸からの二酸化炭素の生成をCO
2インキュベータ内雰囲気中の二酸化炭素濃度と平衡させることにより、培地のpHを7.4前後に維持するようにしている。
【0008】
炭酸水素ナトリウムを添加した培地を包有する細胞培養容器を、二酸化炭素濃度の低い空気中に置いておくと、培地のpHが7.4よりも高い値で平衡に達する。それ故、細胞培養容器を二酸化炭素濃度の低い雰囲気に曝すことは、できる限り避けることが望ましい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第一実施形態>本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1ないし
図4に示す第一実施形態の培養容器収容装置1は、細胞の培養、観察またはレーザ光を用いた処理を実行するための場(大型の機器の内部であることがある)を上下に区画するテーブル2に設置される。テーブル2の上方の空間は、細胞培養容器9内で培養される細胞や培地93に悪影響を与えないような清浄な雰囲気に維持される。翻って、テーブル2の下方の空間には、細胞培養容器9に対してレーザ光を照射する照射装置や、細胞培養容器9を観察する顕微鏡等が配置される。テーブル2には、これを上下に貫通する窓21が予め開設されている。本実施形態の培養容器収容装置1は、この窓21を閉塞してテーブル2の上方と下方とを隔絶するように、テーブル2に対して組み付けられる。
【0020】
本実施形態の培養容器収容装置1は、細胞培養容器9を収容する内部空間10を囲繞する周壁312、322を形成する枠構造体3と、その周壁312、322に囲繞された内部空間10の上方を閉塞する天板4と、天板4に設けられ内部空間10を保温するためのヒータ5と、内部空間10の下方を閉塞するとともに内部空間10に収容した細胞培養容器9に向けて照射されるレーザ光を透過させることが可能な底板6と、内部空間10に対して二酸化炭素を含むガスを供給するためのガス供給口7とを具備する。
【0021】
枠構造体3は、上下に二分割された上枠31と下枠32とを要素とする半割構造の金属製の部材である。上枠31は、頂壁311の周縁部から下方に向けて周壁312が垂下した、下方に開放した扁平な箱体状の概形をなす。頂壁311には、これを上下に貫通する開口313が開設されている。天板4は、頂壁311の下面側に固定されて、この開口313を封鎖する。
【0022】
天板4は、透明なガラス板、アクリル板等である。天板4の下面には、酸化インジウムスズや酸化亜鉛等を素材とする透明導電膜を蒸着してヒータ5を構成している。この透明導電膜5に通電すれば、ジュール熱が発生し、天板4下に所在する内部空間10を加温することができる。ヒータ5は、天板4の略全面に設けてもよいし、天板4の一部分に限定して設けてもよい。また、透明導電膜を天板4の上面に蒸着し、天板4の上面にヒータを設けるようにしてもよい。
【0023】
下枠32は、底壁321の周縁部から上方に向けて周壁322が直立した、上方に開放した扁平な箱体状の概形をなす。底壁321には、これを上下に貫通する開口323が開設されている。底板6は、底壁321の下面側に配置されて、この開口323を封鎖する。具体的には、テーブル2の窓21を塞ぐようにして底板6をテーブル2に載置し、その上から下枠32を載置することで、底板6の周縁部をテーブル2の窓21の縁部の上面と下枠32の開口323の縁部の下面とで挟持している。テーブル2の窓21の縁部と底板6の周縁部との間には、シール材となるOリング22を配置する。
【0024】
底板6は、透明なガラス板、アクリル板等である。この底板6は、UV−C領域、即ち波長200nmないし280nmの紫外線を殆どまたは全く透過させないものであることが好ましい。そのために、底板6を、例えば光学ガラスBK7(ホウ素シリカガラス、517642 glass)を用いて作製する。アクリルガラスも、UV−C領域の紫外線を透過させない効能を有している。底板6に、紫外線の透過を防止するコーティングを施してよいことは言うまでもない。底板6により紫外線を遮蔽するのは、テーブル2及び培養容器収容装置1の上方の空間に配設した殺菌灯から照射される紫外線が窓21を介してテーブル2の下方の空間に到達し、その紫外線がレーザ光照射装置や顕微鏡の部材(塗装やプラスチック、リニアサーボモータの磁石をモールドするゴム等)を劣化させることを抑止する意図である。一方で、底板6は、レーザ照射装置のノズル0から出射するレーザが属する波長帯の光を透過させる透明性または透光性を有する。
【0025】
上枠31及び下枠32は、ねじ8によりテーブル2に共締めして螺着する。ねじ8を使用して上枠31と下枠32とを結合することで、培養容器収容装置1の内部空間10が外部から隔絶される。内部空間10に対して細胞培養容器9を出し入れするためには、ねじ8をテーブル2、下枠32及び上枠31から脱離させ、上枠31を下枠32から取り外して内部空間10を開放すればよい。テーブル2から下枠32を脱離させれば、底板6を取り外しまたは交換することができる。
【0026】
培養容器収容装置1及びその内部空間10は、濃度70%のエチルアルコール水溶液を使用して清拭することができる。
【0027】
細胞培養容器9は、培地93及び細胞を内に収めるディッシュ(または、シャーレ)であったり、培地及び細胞を収めるウェル(凹部)を複数備えたウェルプレートであったりする。図示例の細胞培養容器9は、ディッシュである。そして、複数個のディッシュ9をトレイ94に支持させ、そのトレイ94の周縁部を下枠32の開口323の縁部に上方から係合させることで、複数個のディッシュ9及びトレイ94を下枠32に支持させている。この状態で、ディッシュ9の底面と底板6の上面との間には、若干(1mmないし2mm程度)の隙間を生じる。
【0028】
細胞培養容器9に対して下方からレーザ光を照射する照射装置のノズル0や、細胞培養容器9を観察する顕微鏡の対物レンズ0は、テーブル2の下方にあって、テーブル2の窓21及び底板6の開口を介して細胞培養容器9に臨む。ノズル0から出射するレーザ光は、底板6を透過して細胞培養容器9に到達する。細胞培養容器9を顕微鏡により観察する際には、培養容器収容装置1の上方に照明灯を配置し、その照明灯から放射される照明光を天板4を透過させて内部空間10に導入、細胞培養容器9を照明することができる。
【0029】
細胞培養容器9に対して使用するレーザの波長は一意に限定されず、例えば405nm、450nm、520nm、532nm、808nm等の可視光レーザや赤外線レーザを採用することができる。尤も、後述する細胞培養容器9の被照射層がそのレーザのエネルギを吸収できるような波長を選択する必要がある。また、波長が380nm以下の紫外線レーザは、DNAやタンパク質に吸収される可能性があり細胞への影響が懸念される。故に、レーザの波長は380nmよりも長いことが好ましい。本実施形態では、レーザ光源として、波長が405nm近傍にある最大出力5Wの連続波ダイオードレーザを想定している。
【0030】
レーザ照射装置のノズル0は、細胞培養容器9の被照射層に照射するべきレーザ光を集光するためのレンズや、レーザ光の出射のON/OFFを切り替えるためのシャッタまたはミラー等を内蔵する。このノズル0は、細胞培養容器9の下方に位置し、上方に向かってレーザを出射させる。ノズル0から出射するレーザビームの光軸は、細胞培養容器9の被照射層に対して略直交する。レーザ光源からノズル0に向けてレーザを伝搬させる光学系は、光ファイバ、ミラー、レンズ等の任意の光学要素を用いて構成できる。
【0031】
レーザ照射装置のノズル0や、顕微鏡の対物レンズ0は、リニアモータ台車等により、X軸方向(左右方向)及びY軸方向(前後方向)に沿って高速かつ精密に移動させ得る。つまり、細胞培養容器9の被照射層と光軸とが交わる角度を略一定に保ちながら、細胞培養容器9の被照射層に対するレーザの照射位置や、顕微鏡の対物レンズ0を介した観察位置を変位させることができる。
【0032】
以降、細胞培養容器9に関して補足する。
図5に示すように、本実施形態における細胞培養容器9は、ノズル0から出射するレーザ光を透過させ得る容器本体91に、レーザ光の照射を受けて熱及び/または酸を発生させる光応答性材料を含む層である被照射層92を設けたものである。
【0033】
容器本体91は、ノズル0から出射するレーザが属する波長帯の光を透過させる透明性または透光性を有する、プラスチックやガラス等の材料により構成する。プラスチックの例としては、ポリスチレン系ポリマー、アクリル系ポリマー(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等)、ポリビニルピリジン系ポリマー(ポリ(4−ビニルピリジン)、4−ビニルピリジン−スチレン共重合体等)、シリコーン系ポリマー(ポリジメチルシロキサン等)、ポリオレフィン系ポリマー(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等)、ポリエステルポリマー(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等)、ポリカーボネート系ポリマー、エポキシ系ポリマー等を挙げることができる。既製の培養容器を、そのまま容器本体91として用いてもよい。容器本体91の形状は、既製の培養容器と同様、ディッシュ(シャーレ)形、マルチディッシュ形、フラスコ形等とすることができる。
【0034】
ポリスチレン系樹脂を用いて作製した容器本体91の光透過率は非常に高く、光波長約380nm以上では85%以上となる。但し、光波長約380nm以下では、光波長が短くなるほど光透過率が低下、即ち容器本体91による光の吸収が増大してゆく。これは、ポリスチレン材料に含まれる不純物に起因するものと思われる。
【0035】
被照射層92は、ノズル0から出射するレーザが属する波長帯の光を吸収する色素構造(発色団)を含んだポリマー(高分子)により構成することが好ましい。このような材料は、容器本体91へのコーティングが容易であり、必要な細胞の接着性を確保でき、かつ細胞への移行も起こりにくいものとなるからである。レーザ光を吸収する色素構造の例としては、アゾベンゼン、ジアリールエテン、スピロピラン、スピロオキサジン、フルギド、ロイコ色素、インジゴ、カロチノイド(カロテン等)、フラボノイド(アントシアニン等)、キノイド(アントラキノン等)等といった有機化合物の誘導体を挙げることができる。並びに、ポリマーを構成する骨格の例としては、アクリル系ポリマー、ポリスチレン系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、ポリ酢酸ビニルやポリ塩化ビニル、ポリオレフィン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、エポキシ系ポリマー等を挙げることができる。
【0036】
被照射層92の材料となる色素構造含有ポリマーの一具体例として、ポリ[メチルメタクリラート−co−(ジスパースイエロー 7 メタクリラート)](化1、(C
5H
8O
2)
m(C
23H
20N
4O
2)
n)を示す。但し、このアゾポリマーにおけるアゾベンゼンの構造については、無置換のアゾベンゼンの他、ニトロ基やアミノ基、メチル基等で修飾した様々なバリエーションが考えられる。
【0038】
上述の色素構造含有ポリマーを含む原料液、または当該色素構造含有ポリマーを溶剤(1,2−ジクロロエタン、メタノール等)に溶解させた原料液を、スピンコート法やキャスト法等により容器本体91の上向面即ちウェル90の底に塗布して硬化させれば、レーザ光の照射を受けて熱を生じさせる被照射層92を形成することが可能である。例えば、色素構造としてアゾベンゼンを有するポリマーを7μg/cm
2の密度で容器本体91の上向面即ちウェル90の底に塗布すると、平均の厚みが70nmの被照射層92をウェル90の底に敷設することができる。なお、レーザ光を吸収する色素を容器本体91の構成材料に含有させることで、または色素構造含有ポリマーを材料として容器本体91を作製することにより、レーザ光の照射を受けて熱を生じさせる被照射層92を形成しても構わない。
【0039】
色素構造としてアゾベンゼンを有するポリマーを容器本体91にコーティングして構成した、所定の厚みを有する被照射層92の光吸収率は、光波長が約360nmのときに約60%でピークとなり、光波長が約360nmから長くなるほど低下してゆく。この被照射層92の光吸収率は、光波長が約425nm以上の領域では20%を切る。だが、光波長が長くなってもある程度以上の光吸収性が存在しており、405nm、450nm、520nmまたは532nmの波長のレーザ光を当該被照射層92に十分に吸収させることが可能である。
【0040】
被照射層92の材料として、上述の色素構造含有ポリマーとともに、またはこれに代えて、レーザ光の照射を受けて酸性物質を発生させる光酸発生剤を用いることも考えられる。上掲の特許文献1にも開示されている通り、光酸発生剤は、ノズル0から出射するレーザが属する波長帯の光を吸収する色素構造(発色団)と、分解後に酸性物質となる酸前駆体とを備えた構造を有するものとすることが好ましい。スルホン酸誘導体、カルボン酸エステル類、オニウム塩類、ニトロベンズアルデヒド構造を有する光酸発生基等は、このような光酸発生剤に該当する。
【0041】
特に、光酸発生剤となるスルホン酸誘導体の例として、チオキサントン系スルホン酸誘導体(スルホン酸1,3,6−トリオキソ−3,6−ジヒドロ−1H−11−チア−アザシクロペンタ[a]アントラセン−2−イルエステル等)及びナフタレンイミド系スルホン酸誘導体(スルホン酸1,8−ナフタルイミド等)を挙げることができる。これら以外に、ジスルホン類、ジスルホニルジアゾメタン類、ジスルホニルメタン類、スルホニルベンゾイルメタン類、イミドスルホネート類、ベンゾインスルホネート類等のスルホン酸誘導体も採用することが可能である。
【0042】
また、カルボン酸エステルの例として、1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドメチルスルホネートや1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドトシルスルホネート等を挙げることができ、オニウム塩の例として、テトラフルオロボレート(BF
4-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF
6-)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF
6-)等のアニオンを有するスルホニウム塩またはヨードニウム塩を挙げることができる。
【0043】
上述の光酸発生剤をプラスチック(特に、PMMAのようなアクリル系ポリマーやポリスチレン系ポリマー等)に含ませた原料液、または当該光酸発生剤を溶剤(1,2−ジクロロエタン、メタノール等)に溶解させた原料液を、スピンコート法やキャスト法等により容器本体91の上向面即ちウェル90の底に塗布して硬化させれば、レーザ光の照射を受けて熱とともに酸を生じさせる被照射層92を形成することが可能である。例えば、色素構造としてチオキサントン骨格を有し、酸前駆体としてスルホン酸類を有するチオキサントン系スルホン酸誘導体を含んだポリマーを200μg/cm
2の密度で容器本体91のウェル90の底に塗布すると、平均の厚みが2μmの被照射層92をウェル90の底に敷設することができる。なお、光酸発生剤を容器本体91の構成材料に含有させることにより、レーザ光の照射を受けて熱及び酸を生じさせる被照射層92を形成しても構わない。
【0044】
色素構造としてチオキサントン骨格を有し、酸前駆体としてスルホン酸類を有するチオキサントン系スルホン酸誘導体を含んだポリマーを容器本体91にコーティングして構成した、所定の厚みを有する被照射層92の光吸収率は、光波長が約375nmから約460nmの範囲に亘って分布する。この範囲外の波長の光を当該被照射層92が吸収することはできない。従って、405nmまたは450nmの波長のレーザ光であれば、当該被照射層92に吸収させることが可能である。尤も、当該被照射層92の光吸収率は、色素構造としてアゾベンゼンを有するポリマーを用いて構成した被照射層92の光吸収率よりは小さくなり、光波長が約400nmから約700nmの可視光領域で20%(さらに言えば、10%)を切る。
【0045】
被照射層92は、レーザ光の照射を受けて蛍光を発しない材料を用いて構成することが好ましい。また、被照射層92の厚みは、10μm以下とすることが好ましく、さらに薄ければより好ましい。
【0046】
なお、細胞培養容器9の被照射層92の表面に、細胞の接着性を高めるための材料、例えばラミニンやマトリゲル等のECM(extracellular matrix)をコーティングしてもよい。
【0047】
細胞を培養する際には、細胞培養容器9の容器本体91に成形されているウェル90内に培地特に、液体培地)93を充填する。その培地93は、ウェル90の底に敷設されている被照射層92の直上に所在することとなる。そして、培養される細胞は、当該被照射層92の表面に接着しつつ増殖して細胞集合体を形成する。
【0048】
細胞培養容器9のウェル90内に存在している細胞のうちの所望の細胞を致死させるレーザ照射処理では、レーザ照射装置のノズル0から出射するレーザ光を、培養容器収容装置1の内部空間10に収容した細胞培養容器9の被照射層92における、致死させるべき細胞の直下の箇所に照射する。本実施形態では、ノズル0を細胞培養容器9の下方に配置し、ノズル0から打ち上げたレーザ光を容器本体91を透過させた上、被照射層92に裏面側から照射する。ノズル0に内蔵されているレンズは、ノズル0から出射するレーザ光の焦点を細胞培養容器9の被照射層92に合わせる。被照射層92におけるレーザ光の照射を受けた箇所は、レーザ光のエネルギを吸収して熱及び/または酸を生じ、その熱によって当該箇所の直上に存在する細胞を死に至らしめる。
【0049】
特に、被照射層92の構成材料に光酸発生剤を用いているならば、被照射層92におけるレーザ光の照射を受けた箇所で酸性物質が発生し、その酸性物質が当該箇所の直上に存在する細胞の死または被照射層92からの剥離を促す。光酸発生剤がスルホン酸誘導体である場合、発生する酸性物質はスルホン酸類である。
【0050】
レーザ光の波長は、例えば405nmとする。培養容器収容装置1の底板6が光学ガラスBK7である場合、この波長のレーザの透過率は92%となる。レーザの出力の大きさは、0.4Wから5Wの間とする。無論、出力が5Wを超えていても構わない。レーザのビーム径は、例えば50μm以下とする。無論、ビーム径をより小さく、例えば20μmないし25μm程度に絞ってもよいし、ビーム径を50μm以上に拡大してもよい。連続波レーザまたは連続波に近いパルスレーザを出射するノズル0を細胞培養容器9に対して移動させる走査の速さは、50mm/秒から2000mm/秒の間とする。
【0051】
レーザ照射処理中の細胞培養容器9は、CO
2インキュベータと同等の雰囲気とした培養容器収容装置1内に配置される。培養容器収容装置1の内部空間10には、ガス供給口7を介して、二酸化炭素濃度5%のガスが供給される。
【0052】
本実施形態では、細胞培養容器9を収容するための内部空間10を包囲する周壁312、322と、前記周壁312、322に包囲された内部空間10の上方を閉塞する透明な天板4と、前記天板4に設けられ前記内部空間10を保温するための透明導電膜を用いたヒータ5と、前記周壁312、322に包囲された内部空間10の下方を閉塞し内部空間10に収容した細胞培養容器9に向けて照射されるレーザ光を透過させることができる透明な底板6と、前記内部空間10に対して二酸化炭素を含むガスを供給するためのガス供給口7とを具備する培養容器収容装置1を構成した。
【0053】
本実施形態によれば、二酸化炭素濃度の高い雰囲気を維持しながら、細胞培養容器9に向けてレーザ光を照射する処理を実行したり、細胞培養容器9を観察したりすることができ、細胞培養容器9で培養している細胞に不要なダメージを与えずに済む。
【0054】
加えて、本実施形態では、
図5に示しているように、培養容器収容装置1の内部空間10に配置した細胞培養容器9に対して下方からレーザ光を照射するようにしている。培養容器収容装置1及びテーブル2の直下に配置した加工ノズル0から出射するレーザ光は、底板6を透過して細胞培養容器9の被照射層92に照射される。その上で、レーザ光が通過する底板6にはヒータを設けず、細胞培養容器9よりも上方にあってレーザ光が通過しない天板4に透明導電膜ヒータ5を敷設している。このような構造により、レーザ光の照射処理中であっても培養容器収容装置1の内部空間をヒータ5を用いて適切に保温できる上、透明導電膜ヒータ5にレーザ光が吸収されて細胞培養容器92に照射されるレーザ光のエネルギが徒に低減することがなく、レーザ光によって透明導電膜ヒータ5が損傷することも回避できる。もしも底板6にヒータを設けていると、底板6と被照射層92との距離が近いことから、そのヒータが大きな損傷を受けるおそれがある。
【0055】
また、培養容器収容装置1の底板6が、波長253.7nm近傍の紫外線を殆どまたは全く透過させないものであることから、培養容器収容装置1の上方に配設された殺菌灯から放射される滅菌用の紫外線が培養容器収容装置1の下方に配設されたレーザ照射装置や顕微鏡の部材を劣化させることを回避できる。
【0056】
<第二実施形態>続いて述べる第二実施形態の培養容器収容装置1は、天板41、42及び周壁3312、3321、3331、3341、3412をそれぞれ二重構造化して内部空間10の保温性をより一層高めたものである。以降、第一実施形態との相違点を中心に説明する。第一実施形態と共通する事項については、その説明を割愛する。
【0057】
図6ないし
図10に示す本実施形態の培養容器収容装置1もやはり、細胞の培養、観察またはレーザ光を用いた処理を実行するための場を上下に区画するテーブル2に設置される。テーブル2には、これを上下に貫通する窓21が予め開設されている。培養容器収容装置1は、この窓21を閉塞してテーブル2の上方と下方とを隔絶するように、テーブル2に対して組み付けられる。
【0058】
本実施形態の培養容器収容装置1は、細胞培養容器9を収容する内部空間10を囲繞する周壁3312、3321、3331、3341、3412を形成する枠構造体3と、その周壁3312、3321、3331、3341、3412に囲繞された内部空間10の上方を閉塞する天板41、42と、天板42に設けられ内部空間10を保温するためのヒータ5と、内部空間10の下方を閉塞するとともに内部空間10に収容した細胞培養容器9に向けて照射されるレーザ光を透過させることが可能な底板6と、内部空間10に対して二酸化炭素を含むガスを供給するためのガス供給口7とを具備する。
【0059】
枠構造体3は、上枠33と下枠34とを備えている。本実施形態にあって、上枠33は、外枠331、内枠332及び最内枠333を要素とする二重構造(多重構造)をなし、さらに外枠331の下縁よりも下方に突き出すカバー枠334が付随するものである。
【0060】
外枠331は、頂壁3311の周縁部から下方に向けて周壁3312が垂下した、下方に開放した扁平な箱体状の概形をなす。この外枠331の周壁3312は、第一実施形態における上枠31の周壁312よりも肉薄となっている。外枠331の頂壁3311には、これを上下に貫通する開口3313が開設されている。天板41、42は、頂壁3311の下面側に固定されて、この開口3313を封鎖する。
【0061】
内枠332は、外枠331の周壁3312の内周に略等しい外周を有した四方枠状の部材であり、外枠331の内側に収まる。内枠332の周壁3321の内周面の上縁近傍の部位からは、内側方に向かって略水平に支持片3322が突き出している。支持片3322の上面には、上方から天板となる透明板41を載置する。透明板41は、その周縁部が支持片3322に対して固定される。
【0062】
最内枠333は、内枠332の周壁3321の内周に略等しい外周を有した四方枠状の部材であり、内枠332の内側に収まる。最内枠333の周壁3331の上面には、上方から天板となる透明板42を載置する。透明板42は、その周縁部が周壁3331に対して固定される。なお、透明板42と最内枠333とが一体成形されていることがある。
【0063】
天板となる透明板41、42はそれぞれ、透明なガラス板、アクリル板等である。透明板41、42が、可視光や、殺菌灯として使用される波長200nmないし280nmの紫外線を透過させるものであることは言うまでもない。しかして、内部空間10に面する下方の透明板42の上面及び/または下面に透明導電膜を蒸着して、ヒータ5を構成している。この透明導電膜5に通電すれば、ジュール熱が発生し、透明板42下に所在する内部空間10を加温することができる。ヒータ5は、透明板42の略全面に設けてもよいし、透明板42の一部分に限定して設けてもよい。
【0064】
カバー枠334は、後述する下枠34の外枠341の周壁3412の内周に略等しい外周を有した四方枠状の部材である。このカバー枠334は、下枠34の外枠341の内側に収まる。カバー枠334は、特に、ヒータ5により加温するべき内部空間10の容積を縮小する役割を担う。
【0065】
外枠331、透明板41を支持する内枠332、透明板42を支持する最内枠333、及びカバー枠334は、一体化されて枠構造体3の上枠33を構成する。このとき、
図9及び
図10に示しているように、外枠331の周壁3312の内周面に内枠332の周壁3321の外周面が当接または近接し、内枠332の周壁3321の内周面に最内枠333の周壁3331の外周面が当接または近接する。
【0066】
また、外枠331の頂壁3311の下面に内枠332の周壁3321の上面が当接または近接し、内枠332の支持片3322の下面に最内枠333に支持された天板42の外周部の上面が当接または近接する。そして、複数枚の透明板41、42が、支持片3322の厚み分またはそれよりも大きい間隙43を空けて上下に対向配置された状態となる。
【0067】
さらに、上枠33の内枠332及び最内枠333の周壁3321、3331の下面に、カバー枠334の周壁3341の上面が当接または近接する。
【0068】
なお、内枠332及び最内枠333を外枠331から分離可能としてもよいし、最内枠333を内枠332から分離可能としてもよい。カバー334枠を、内枠332及び最内枠333から分離可能としてもよい。
【0069】
下枠34は、カバー枠334が上方から挿入される外枠341を主体とする。外枠341は、底壁3411の周縁部から上方に向けて周壁3412が直立した、上方に開放した扁平な箱体状の概形をなす。この外枠341の周壁3412は、第一実施形態における下枠32の周壁322よりも肉薄となっている。外枠341の底壁3411には、これを上下に貫通する開口3413が開設されている。底板6は、底壁3411の下面側に配置されて、この開口3413を封鎖する。具体的には、テーブル2の窓21を塞ぐようにして底板6をテーブル2に載置し、その上から下枠34の外枠341を載置することで、底板6の周縁部をテーブル2の窓21の縁部の上面と外枠341の開口3413の縁部の下面とで挟持している。テーブル2の窓21の縁部と底板6の周縁部との間には、シール材となるOリング22を配置する。
【0070】
底板6は、透明なガラス板、アクリル板等である。この底板6は、波長200nmないし280nmの紫外線を殆どまたは全く透過させない一方、レーザ照射装置のノズル0から出射するレーザが属する波長帯の光を透過させる透明性または透光性を有することが好ましい。
【0071】
細胞培養容器(例えば、ディッシュ)9を支持するトレイ94は、外枠341に載置する。具体的には、トレイ94の周縁部を、外枠341の開口3413の縁部に上方から係合させる。しかる後、カバー枠334を上方から外枠341内に挿入して、上枠33と下枠34とを結合する。これにより、
図9及び
図10に示しているように、トレイ94が支持する細胞培養容器9は、カバー枠334の内側に収まる。また、外枠341の周壁3412の内周面にカバー枠334の周壁3341の外周面が当接または近接し、これら外枠341及びカバー枠334が二重構造をなす。カバー枠334の周壁3412の下面は、トレイ94の周縁部の上面からやや浮いている。トレイ94が支持する細胞培養容器9の底面と、底板6の上面との間には、若干(1mmないし2mm程度)の隙間を生じる。
【0072】
第一実施形態では、上枠31及び下枠32を、ねじ8によりテーブル2に共締めして螺着していた。これに対し、本実施形態では、下枠34の外枠341をねじによりテーブル2に螺着し、またはその他の固定手段を用いてテーブル2に固定するが、上枠33と下枠34とを共締めはしない。その代わりに、下枠34の外枠341の周壁3412の上面に上方に突出するピン3414を設け、上枠33の外枠331の周壁3312の下面に上方に凹んだ係合穴(図示せず)を形成しており、下枠34に上枠33を被せるときに前者のピン3414が後者の係合穴に挿入されて上枠33を下枠34に対して位置決めするようにしている。
【0073】
上枠33と下枠34とを結合することで、培養容器収容装置1の内部空間10が外部から隔絶される。このとき、
図9及び
図10に示しているように、下枠34の外枠341の周壁3412の上面に、上枠33の外枠331の周壁3312の下面が当接または近接する。内部空間10に対して細胞培養容器9を出し入れするためには、上枠33を下枠34から取り外して内部空間10を開放すればよい。内部空間10に対してトレー94を出し入れするためには、さらに、下枠34のカバー枠334を外枠341から取り外せばよい。テーブル2から下枠34を脱離させれば、底板6を取り外しまたは交換することができる。
【0074】
レーザ照射処理中の細胞培養容器9は、CO
2インキュベータと同等の雰囲気とした培養容器収容装置1内に配置される。培養容器収容装置1の内部空間10には、ガス供給口7を介して、二酸化炭素濃度5%のガスが供給される。そのガスは、噴射ノズル71から内部空間10に噴出する。
図7及び
図10に示すように、噴射ノズル71は、内部空間10の前方及び後方のそれぞれ、かつ左右に離間した複数箇所に設置してある。
【0075】
内部空間10の前方に設置した噴射ノズル71は、後上方に向けて、特に透明板42の下面のヒータ5を指向してガスを吹き出す。並びに、内部空間10の後方に設置した噴射ノズル71は、前上方に向けて、透明板42の下面のヒータ5を指向してガスを吹き出す。
図10に示しているように、下枠34のカバー枠334が噴射ノズル71を塞いでしまうような場合には、カバー枠334に、噴射ノズル71と内部空間10とを連通する連通孔3342を穿っておけばよい。連通孔3342もまた、透明板42の下面のヒータ5を指向している。
【0076】
本実施形態では、細胞培養容器9を収容するための内部空間10を包囲する周壁3312、3321、3331、3341、3412と、前記周壁3312、3321、3331、3341、3412に包囲された内部空間10の上方を閉塞する透明な天板41、42と、前記天板42に設けられ前記内部空間10を保温するための透明導電膜を用いたヒータ5と、前記周壁3312、3321、3331、3341、3412に包囲された内部空間10の下方を閉塞し内部空間10に収容した細胞培養容器9に向けて照射されるレーザ光を透過させることができる透明な底板6と、前記内部空間10に対して二酸化炭素を含むガスを供給するためのガス供給口7とを具備する培養容器収容装置1を構成した。
【0077】
本実施形態によれば、二酸化炭素濃度の高い雰囲気を維持しながら、細胞培養容器9に向けてレーザ光を照射する処理を実行したり、細胞培養容器9を観察したりすることができ、細胞培養容器9で培養している細胞に不要なダメージを与えずに済む。
【0078】
本実施形態でも、第一実施形態と同様に、培養容器収容装置1の内部空間10に配置した細胞培養容器9に対して下方からレーザ光を照射する。培養容器収容装置1及びテーブル2の直下に配置した加工ノズル0から出射するレーザ光は、底板6を透過して細胞培養容器9の被照射層92に照射される。その上で、レーザ光が通過する底板6にはヒータを設けず、細胞培養容器9よりも上方にあってレーザ光が通過しない天板4に透明導電膜ヒータ5を敷設している。このような構造により、レーザ光の照射処理中であっても培養容器収容装置1の内部空間をヒータ5を用いて適切に保温できる上、透明導電膜ヒータ5にレーザ光が吸収されて細胞培養容器92に照射されるレーザ光のエネルギが徒に低減することがなく、レーザ光によって透明導電膜ヒータ5が損傷することも回避できる。
【0079】
培養容器収容装置1の底板6が、波長253.7nm近傍の紫外線を殆どまたは全く透過させないものであることから、培養容器収容装置1の上方に配設された殺菌灯から放射される滅菌用の紫外線が培養容器収容装置1の下方に配設されたレーザ照射装置や顕微鏡の部材を劣化させることを回避できる。
【0080】
本実施形態では、前記天板が、間隙43を空けて上下に配置された複数枚の透明板41、42による二重構造をなし、下方の透明板42に前記ヒータ5が設けられている。このため、ヒータ5が加温する内部空間10の保温性が高まる。
【0081】
さらに、本実施形態では、前記周壁3312、3321、3331、3341、3412が、前記内部空間10を包囲する内周壁3321、3331、3341と、内周壁3321、3331、3341の外側にあって内周壁3321、3331、3341を包囲する外周壁3312、3412とによる二重構造をなしており、内部空間10の保温性がより一層高まっている。
【0082】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。上記各実施形態では、天板4、42に透明導電膜を用いたヒータ5を設けていたが、透明導電膜以外の材料を用いたヒータ、例えば銅その他の金属を素材とするワイヤをメッシュ状に編んだワイヤメッシュヒータ(特に、人間の肉眼で視認しにくいように微細化されたワイヤを用いたもの)を天板4、42に設けて、培養容器収容装置1の内部空間10の保温を図ってもよい。
【0083】
ガス供給口7が、常に高濃度の二酸化炭素を含むガスを内部空間10に供給するとは限らない。細胞培養容器9で培養する細胞腫によって、あるいは培地93の条件によっては、低濃度の二酸化炭素を含むガスや、低濃度の酸素を含むガス、その他の種類のガスをガス供給口7を介して内部空間10に供給することとなる。即ち、ガスの種類は、細胞培養容器9の周囲に具現するべき望ましい雰囲気に応じたものとなる。
【0084】
第一実施形態では、上枠31及び下枠32をねじ8によりテーブル2に共締めしており、第二実施形態では、下枠34をねじ等によりテーブル2に固定していた。だが、上枠31や下枠32、34をねじ8等を使用してテーブル2に固定することは必須ではなく、単にテーブル2に載せ置くのみでも構わない。
【0085】
その他、各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。