特許第6473587号(P6473587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473587
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】伝熱容器
(51)【国際特許分類】
   F27B 14/10 20060101AFI20190207BHJP
【FI】
   F27B14/10
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-166423(P2014-166423)
(22)【出願日】2014年8月19日
(65)【公開番号】特開2016-42002(P2016-42002A)
(43)【公開日】2016年3月31日
【審査請求日】2017年5月24日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 竹次郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 彰人
(72)【発明者】
【氏名】伊佐地 恭介
【審査官】 静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭55−064099(JP,U)
【文献】 特開2007−197789(JP,A)
【文献】 実開昭50−017552(JP,U)
【文献】 特開2006−125730(JP,A)
【文献】 特開平04−108684(JP,A)
【文献】 実開昭56−076997(JP,U)
【文献】 実開昭59−032294(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 14/00−14/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の溶解または溶湯の保持に用いられる、側壁部と、開口部と、底部とを持つ有底筒状の伝熱容器であって、
前記側壁部と、前記開口部と、前記底部とを持つ本体部と、
下端部から上端部に向かって傾斜して延びる1つ以上のねじれ柱部を持つ筒状の組込部と、
を有し、
前記組込部が前記本体部の内周面側に組み込まれることで、前記ねじれ柱部によって、前記側壁部の内周面側に、前記底部側から前記開口部側に向かって傾斜して延びる1つ以上の傾斜凸条部が形成されることを特徴とする伝熱容器。
【請求項2】
前記傾斜凸条部の傾斜角度は、10〜60°である請求項に記載の伝熱容器。
【請求項3】
前記組込部は、
上方リング部と、
下方リング部と、
該上方リング部と該下方リング部の間に、該上方リング部および該下方リング部と一体的に形成された前記ねじれ柱部と、
からなる請求項またはに記載の伝熱容器。
【請求項4】
外周面に、凸部または凹部を有する請求項1〜のいずれか一項に記載の伝熱容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、銅、亜鉛、スズ等に代表される非鉄金属系材料を溶解及び/又は溶湯の保持、精錬、鋳造時に用いられる伝熱容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
伝熱容器はルツボ炉の中核をなす部材である。一般にアルミニウムや銅系の合金等の非鉄金属系材料を溶解し、精錬する時に用いられるルツボ炉の炉内形状は、円筒又は炉下部を広くして上部を狭めた円筒状の構造であり、特に円筒形状の炉が多く使用されている。図4に示すように、このルツボ炉500の炉床部及び側壁部は、使用に耐えうる耐火物510で内張り施工されている。そして、炉床面のほぼ中央部には坩台520が設置され、坩台520の上に溶解用ルツボ(以下、伝熱容器と称す)600が設置される。この伝熱容器600内にアルミニウム系や銅系またはこれらの合金材等の溶解材が投入され、溶解または溶解精錬される。
【0003】
この坩台520の側面部位は、燃料吹き込み口530から吹き込まれるガスや重油系などの燃料の一次燃焼帯となる。この一次燃焼帯で一次燃焼し生成した火炎は炉壁と伝熱容器600の間隙を回りながら上へ上へと伸びる。そして、伝熱容器600はこの火炎によって外周部から加熱される。このように伝熱容器600が加熱されることで、中に投入されている溶解材が徐々に受熱し溶解されていく。この工程でできた溶湯は必要に応じ、さらに精錬及び調整され、その後、鋳造用材として鋳造に供される。
【0004】
伝熱容器600は側壁部610と開口部620と底部630とからなる有底円筒状である。伝熱容器600の材質は、伝熱作用効果が高く、伝熱容器内の材料の溶解が早く、かつ、割れない・へらない特性を具備したものが望まれる。そこで、化学反応性が小さく高熱伝導性を有し、かつ、安定した低熱膨張性材である黒鉛を始めとする黒鉛炭素質材・炭化珪素質材を主体材としている。この主材料に耐酸化性改良材及び結合材を加えて伝熱容器材料が構成される。この伝熱容器材は、結合材の種類により、タールピッチまたは樹脂等を用いるカーボンボンド材と、粘土等のセラミックボンド材の2材質がある。
【0005】
黒鉛炭素質材・炭化珪素質材を主体材とする伝熱容器は他の耐火物材に比べ高熱伝導性を有し、溶解材への伝熱作用が高く、安定した熱間膨張性を有し且つ化学的反応性も小さい特性を具備している。この特性を具備した伝熱容器は、湯わきが早く、へらない・割れない特性も兼ね備えているので、現在は一般的に用いられている。
【0006】
伝熱容器600は、ルツボ炉500のほぼ中央部に設けられる坩台520の上に設置される。一般に坩台は円筒状の台で、その大きさは、伝熱容器の大きさにより適宜設計される。
【0007】
ルツボ炉500の稼働時には、上述のように坩台520の側面部は加熱用バーナから吹き込まれる燃料の焦点とされ、この部分を一次燃焼帯とし、その火炎は伝熱容器600と炉壁の間隙を沿いながら上昇する。この燃焼熱により伝熱容器600が外部より加熱され伝熱容器内の金属が溶解される。溶解された金属は伝熱容器600に保持およびまたは必要に応じて精錬され鋳造に適した溶湯とされる。しかしながら、伝熱容器600は坩台520の上に設置されているため設置面での伝熱効率が低い。このため、溶解効率が低く且つ伝熱容器600内での溶湯に温度差が生じることにより、溶湯を鋳造作業上および鋳造物の品質を満足させる品質条件範囲内に調整することを必要とする。そこで、伝熱容器600と接する坩台520の上面に外周部が開孔状態となった溝を設け、火炎の通る空隙を確保し、伝熱容器の底部よりの伝熱効率の改善を図ることも一部では行われている(特許文献1)。これにより、伝熱容器内の溶湯の温度差が小さくなり、操業時間の短縮化と省エネルギー化にある程度貢献はできるものの、依然その効果は充分なものでなく更なる改善が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−206026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、伝熱容器内での溶解効率ならびに鋳造物の品質を満足させる溶湯をより早く調整し、操業効率を高め且つ省エネルギー化し生産コストの低減化を計り且つ溶湯の品質をも高めることができる伝熱容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明の伝熱容器は、金属の溶解または溶湯の保持に用いられる、側壁部と、開口部と、底部とを持つ有底筒状の伝熱容器であって、前記側壁部と、前記開口部と、前記底部とを持つ本体部と、下端部から上端部に向かって傾斜して延びる1つ以上のねじれ柱部を持つ筒状の組込部と、を有し、前記組込部が前記本体部の内周面側に組み込まれることで、前記ねじれ柱部によって、前記側壁部の内周面側に、前記底部側から前記開口部側に向かって傾斜して延びる1つ以上の傾斜凸条部が形成されることを特徴とする。
ルツボ炉等で加熱された伝熱容器の熱はその内周面から伝熱容器に保持されている金属溶湯に伝わり、内周面に近い部分の溶湯の温度が高くなる。温度が高くなった溶湯は熱膨張して軽くなるため、伝熱容器の内周面に沿って上方に移動する。本発明の伝熱容器はその内周面側に底部側から開口部側に向かって傾斜して延びる1つ以上の傾斜凸条部を有するから、内周面に沿って上方に移動する溶湯は傾斜凸条部の下面に衝突しこの下面の延びる方向に沿って斜め方向に向きを変えられて斜め方向に上昇する。すなわち伝熱容器内の溶湯は内周面に沿った上昇方向の流れに加え斜め方向の流れが発生する。斜め方向の流れにより溶湯は渦を巻くようにして撹拌される。従って、溶湯は撹拌機器を用いることなく撹拌され、伝熱容器内の溶湯温度の均一化を高めることができる。また、溶湯温度の均一化を高めることができるため、溶湯の鋳造時に求められる品質範囲温度内への到達を早めることができると共に、対流効果により撹拌され溶湯の均一性を高めることができる。伝熱容器は、本体部と組込部とが別体として構成されている。このため、本体部あるいは組込部の一方が損傷した場合、損傷した方を新しいものと代え、損傷しない方はそのまま使用でき、修繕費用を抑えることができる。
【0012】
本発明の伝熱容器の溶湯の流れを図1の側壁部の一部断面図で説明する。図1において、側壁部112の内周面側に2個の傾斜凸状部12が上下方向に等間隔で形成され、かついずれの傾斜凸状部12も水平方向に対して25度の傾斜角度で側壁部112の内周面に沿って延びているものである。
【0013】
加熱効果を高める斜め方向の流れは、傾斜凸条部12及び傾斜凹条部(図示せず)の斜め下方に面を向ける傾斜面12aによりもたらされる。図1では傾斜面12aは傾斜凸状部12の影になり図面に現れていないが符号12aの引き出し線の先端から左上の斜め方向に延びる面をいう。図1の傾斜面12aの傾斜角度は傾斜凸条部12の傾斜角度と同じ水平方向に対して25度である。側壁部112の内周面112aで加熱された溶湯は熱膨張で軽くなり内周面112aに沿って上方に移動する。そして上方にある傾斜凸条部12の傾斜面12aに突き当たり上方への移動が阻止される。傾斜面12aは25度で斜め上方向に延びているため溶湯の上昇する力により傾斜面12aに沿って斜め方向に流動する。
【0014】
傾斜面12aの傾斜角度が高くなると溶湯の上昇の流れが主となり、水平方向すなわち横方向への溶湯の流れは早くならない。傾斜面12aの傾斜角度が低くなると、水平方向すなわち横方向の流れが強くなる。しかし横方向に向かう流れも上昇流によりもたらされるものであるから、低すぎる傾斜角度は横方向の流れを強めることにはならない。このため傾斜角度は15〜60度程度が好ましい。
【0015】
また、この傾斜面12aの水平方向の幅12dが広い、すなわち傾斜凸条部及び傾斜凹条部の高さ、深さが大きいとそれだけ溶湯を斜め上方向に誘導する機能も高くなる。しかし、幅12dが広くなると伝熱容器の内容積が小さくなる。傾斜面12aの水平方向の幅12dは5mm〜50mm程度が良いと思われる。
【0016】
また傾斜面12aに案内される溶湯が傾斜面12a沿って流れ、傾斜面12aより出ないようにするために、傾斜面12aに沿って流れる溶湯は側壁部112の内周面112a側に向かうようにするのが好ましい。このようにするには、図1の斜線を付した端面の角度αが90度より小さい鋭角とするのが好ましい。角度αが90度を超えると傾斜面12a沿って流れる溶湯は内周面112a側と反対の方向に案内され傾斜面12aより出て斜め方向に流れる力が作用しなくなる。
【0017】
溶湯が傾斜面12aに沿って斜め方向によりよく流れるように、傾斜面12aの幅方向の側壁部112の内壁面112a側が伝熱容器の中心部に向かう側より高くする、すなわち角度αを鋭角とするのが好ましい。
【0018】
傾斜面12aに向かって上昇する金属溶湯の量は、上下方向に隣り合う傾斜凸状部12間の垂直方向長さkに比例する。この上下方向の長さkが長いとそれだけ多くの溶湯が傾斜面に当たることになる。しかし逆に、内壁面に形成できる傾斜凸条部12または傾斜凹条部の数が少なくなる。実効性のある上下方向の長さは少なくとも10mmは必要だと思われ、10mm〜100mm程度が良いと思われる。
【0019】
なお、傾斜凸条部12の頂部の垂直方向の長さ(厚さ)は、溶湯の攪拌に寄与しない。従って、頂部の垂直方向の長さ(厚さ)は攪拌機能からすると小さい方が良い。従って、頂部の垂直方向の長さ(厚さ)は必要な機械的強度を保つに必要な最小の長さとするのが好ましい。具体的には5mm〜30mmが好ましい。
【0020】
傾斜凸条部及び傾斜凹条部は伝熱容器の底部から開口部に連続して延びるものでも、途中で切れて破線状に延びるものでも良い。
【0021】
ここで、凸状部とは所定厚さの側壁部の内周面に形成された山脈状の凸部をいう。また、凹条部とは所定厚さの側壁部の内周面を掘り下げた状態の凹部をいう。
【0022】
傾斜凸条部及び傾斜凹条部の両者を持つものとして、全ての傾斜凸条部をそれらの上端及び下端で連結し、傾斜凹状部が空間となっている筒状の組込部を伝熱容器の内周面に取り付けたものでもよい。この組込部は伝熱容器に一体的に形成されているものでも、着脱可能に組み込まれているものでもよい。
【0023】
また、本発明の伝熱容器は、外周面にも、凸部または凹部を有することが望ましい。すなわち、本発明の伝熱容器の外周面は任意の凸部または凹部を有する構造を採ることで、比表面積を大きくすることができるため、伝熱容器内の溶湯への伝熱効果を高めることが可能となると共に容器の伝熱ムラが小さくなる。故に、溶湯の鋳造作業上および鋳造物品質を満足させる溶湯品質条件範囲内への調整時間をより効果的に早めることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上記載のごとく本発明の伝熱容器をアルミニウム、銅、亜鉛、スズ等に代表される非鉄金属等の金属の溶解およびまたは精錬温度の調整等の伝熱容器として用いれば、鋳造用溶湯の調整効率が高められ、操業時間の短縮とこれに伴う省エネルギー化および溶湯品質の向上を計ることが可能となり生産コストを引き下げ、鋳造品の品質をも高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の伝熱容器の側壁部の一部断面図である。
図2】本発明の参考形態の伝熱容器の縦方向に切断した状態の立面図である。
図3】本発明の実施形態の伝熱容器の要部の斜視図である。
図4】従来のルツボ炉の縦断面を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、参考形態および本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0027】
参考形態
参考形態の伝熱容器10の縦方向に切断した状態の立面図を図2に示す。この伝熱容器10はアルミニウムを溶解するものである。
【0028】
この伝熱容器10は全ての部分でほぼ同一厚さである有底円筒状の本体部11とこの本体部11の内周面に一体的に形成された複数個の傾斜凸条部12とからなる。この本体部11は直筒状の開口部111と側壁部112とを持ち、底部113は平坦な円板状の底部分113aとこの側の外周と側壁部の下端とをつなぐ曲成部分113bとからなる。
【0029】
傾斜凸条部12はその垂直断面が正方形で、本体部11の内周面の底部113の曲成部分113bの上部から側壁部112を通り開口部111の開口端近くまでほぼ25度の角度で延びている。上下方向に隣り合う2本の傾斜凸条部12の間隔は傾斜凸条部12の垂直断面の縦方向の高さのほぼ5倍程度となっている。
【0030】
この伝熱容器10は従来と同様に混練したセラミック材を用いて本体部11を成形し、傾斜凸条部12となる断面正方形の紐状のセラミック材を本体部11の内油面に張り付け、その後加熱処理することにより製造することができる。
【0031】
この参考形態の伝熱容器10はルツボ炉等によりアルミニウムの溶解に使用される。伝熱容器10に入れられたアルミニウムの金属塊はルツボ炉で伝熱容器10の外周面が高温に加熱されその熱が伝熱容器10の内周面に伝達され、内周面から金属塊に熱が伝わり、金属塊が溶解し、溶融金属が伝熱容器10の底にたまり、金属塊の溶解が進むにつれ溶融金属の液面が高くなる。溶融金属の液面が高くなると伝熱容器10の内周面に伝えられた熱は溶融金属に伝えられ溶融金属の温度が高くなり高温になった溶融金属により金属塊が加熱されて溶解される。
【0032】
この伝熱容器10ではその内周面に伝えられた熱は内周面と接している部分の溶融金属を加熱し高温にする。温度の高くなった溶融金属は、温度の低い溶融金属より熱膨張で比重が小さく軽くなる。軽くなることにより浮力が発生し、浮力により上方に移動する。上方に移動した溶融金属もさらに伝熱容器10の内周面で加熱されさらに高温に加熱され、さらに軽くなりさらに浮力がつき、さらに早い速度で上方に移動することになる。なお、上方に移動した金属の部分にはその下方にある温度の低い溶融金属の部分が上方に移動する。このため内周面に接している金属溶湯の部分は連続して上方に移動することになる。また、上に行くほど温度が高く軽くなり浮力が増すため、上昇速度も速くなる。上に向かうほど上昇速度が速くなると下方から補充される溶融金属が不足し、不足する分は内周面から離れた部分の溶融金属が流れ込みその不足を補うことになる。すなわち、伝熱容器内の下方にある金属はその中央部分から遠心側の伝熱容器10の内周面に向かって流れ、内周面に達した溶融金属は内周面に沿って上方に流れることになる。
【0033】
伝熱容器10の内周面に沿って上昇する金属溶湯は傾斜凸条部12の下側の面12aに衝突することになる。この下側の面12aは斜め25度で上方に延びているため衝突した溶融金属は傾斜凸条部12の下側の面12aに案内されて斜め上方に移動することになる。これにより上昇流は周方向の流れ要素を持つことになる。傾斜して上昇する溶融金属は最上端の液面に達し、これ以上上昇することはできないため、斜め上昇流は全て、周方向の横方向の流れとなる。すなわち伝熱容器10の内周面に沿って周方向を回ることになる。流れは連続しているため下方の加熱された溶融金属が続き、先の溶融金属は内周面近くから中央部に押しやられ渦を巻くように中央部から下降し、回転しながら伝熱容器の底に向かう流れとなる。
【0034】
このようにこの伝熱容器10では加熱される金属溶湯はその内周面に近い部分は上方向から斜め上方向に流れ、液面近くで周方向に流れ、それが渦を巻くように中央部に集まり下降流となって伝熱容器10内を循環することになる。
【0035】
傾斜凸条部のない従来の伝熱容器では内周面に近い溶湯金属の上昇流が液面で中央部に集まり、中央部で下方の流れとなって循環する。従来の伝熱容器では周方向、すなわち横方向の流れはない。
【0036】
参考形態の伝熱容器10では、その傾斜凸条部12により溶融金属は渦を巻くように上下方向に循環する。横の流れが生ずるため金属溶湯の攪拌が促進されることになる。このため、加熱効果が高まる。
【0037】
実施形態
実施形態の伝熱容器の主要部を図3に示す。この伝熱容器は図示しない従来の伝熱容器をそのまま本体部として使用するものである。この本体部は参考形態で説明した本体部11と同じ形状のものである。具体的には図1に示す伝熱容器10から傾斜凸条部12を除いたものである。
【0038】
この実施形態の伝熱容器は従来の伝熱容器からなる本体部と図3に示す組込部20とからなる。この組込部20は本体部の内周面で区画された容器空間に組み込んで使用される。
【0039】
この組込部20は上方リング部21と下方リング部22とそれらの間に一体的に構成された9本のねじれ柱部23とからなる。上方リング部21と下方リング部22とは同一形状で、本体部の内周面より少し小さい外周面を持つ。上方リング部21と下方リング部22は断面が正方形の柱状の棒材をリング状とした形状である。
【0040】
ねじれ柱部23は図2に示す傾斜凸状部12と同一の形状を持つ。上下方向に隣り合うねじれ柱部23間の間隔はねじれ柱部23の垂直断面の縦方向の高さのほぼ5倍程度となっている。また傾斜角度はほぼ25度である。
【0041】
この組込部20は鋳型を使用し耐火物キャスタブルを鋳型に流し込み固化して成形できる。
【0042】
この鋳込部20を図示しない本体部の内周面で区画された容器空間に組み込み、本実施形態の伝熱容器が得られる。
【0043】
この伝熱容器も参考形態の伝熱容器と同様、伝熱容器内に収容された金属塊は伝熱容器の外周面から伝達される熱で溶解され溶融金属として伝熱容器の底にたまる。さらに伝熱容器内の内周面に近い溶融金属がさらに加熱され熱膨張して軽くなり浮力が発生する。浮力により伝熱容器内の内周面に近い溶融金属が上昇して上昇流となり組込部20のねじれ柱部23の下面側の傾斜面に当たり傾斜面に案内されてねじれ柱部23の延びる方向の傾斜流となる。この傾斜流は組込部20の上方リング部21の下面に衝突し、下面から内側の面を流れ、金属溶湯の液面に達する。ここで傾斜流は伝熱容器の内周面に沿った周方向流となり、さらに進んで渦を巻くように中央部に集まり下降流となって伝熱容器内を循環することになる。この伝熱容器も周方向の横の流れが生ずるため金属溶湯の攪拌が促進されることになる。このため、加熱効果が高まる。
【0044】
この実施態様の伝熱容器では、組込部20が本体部と一体化されていない。このため組込部20が金属溶湯からの浮力を受け、浮き上がることもある。この組込部20の浮き上がりを阻止するために組込部20の上方リング21に重石を乗せるとか、係止部材で組込部20を本体部に機械的に固定するのが好ましい。
【0045】
本実施態様の伝熱容器では本体部と組込部20とが別体として構成されている。このため、本体部あるいは組込部20の一方が損傷した場合、損傷した方を新しいものと代え、損傷しない方はそのまま使用でき、修繕費用を抑えることができる。
【符号の説明】
【0046】
10:伝熱容器 11:本体部 12:傾斜凸状部
12a:傾斜面 111:開口部 112:側壁部
113:底部 20:組込部 21:上方リング部
22:下方リング部
23:ねじれ柱部
図1
図2
図3
図4