特許第6473694号(P6473694)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6473694パージング剤およびこれを用いたパージング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473694
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】パージング剤およびこれを用いたパージング方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20190207BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20190207BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20190207BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20190207BHJP
   B29C 48/25 20190101ALI20190207BHJP
   B29C 45/17 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   C08L23/00
   C08L23/04
   C08K3/26
   C08K5/098
   B29C47/08
   B29C45/17
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-550937(P2015-550937)
(86)(22)【出願日】2014年11月25日
(86)【国際出願番号】JP2014081120
(87)【国際公開番号】WO2015080103
(87)【国際公開日】20150604
【審査請求日】2017年9月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-243495(P2013-243495)
(32)【優先日】2013年11月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-229819(P2014-229819)
(32)【優先日】2014年11月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004101
【氏名又は名称】日本合成化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 眞太郎
【審査官】 小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−279518(JP,A)
【文献】 特開平05−269754(JP,A)
【文献】 特開平10−016024(JP,A)
【文献】 特開平10−067040(JP,A)
【文献】 特開2012−031404(JP,A)
【文献】 特開2006−335913(JP,A)
【文献】 特開2012−171284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00− 23/36
C08K 3/00− 13/08
B29C 33/00− 33/76
B29C 47/00− 47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂を含む被パージ樹脂のパージに用いるパージング剤であって、
炭化水素系樹脂と、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩とを含み、該炭化水素系樹脂に対する該金属塩の含有量が金属に換算して1重量%を超えて20重量%以下であり、下記式より求められるせん断粘度比が12〜16であり、230℃、荷重2160gにおけるメルトフローレートが0.2〜20g/10分であるパージング剤。
せん断粘度比 = η(X)/η(Y)
[ここで、η(X)は温度230℃、せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)であり、η(X)は1000〜4000Pa・Sであり、かつη(Y)は温度230℃、せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)であり、η(Y)は60〜340Pa・Sである。]
【請求項2】
請求項1に記載のパージング剤を用いる、溶融成形機内に存在するエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂を含む被パージ樹脂のパージング方法。
【請求項3】
溶融成形機に請求項1に記載のパージング剤を充填すること、溶融成形機内部をパージング剤で満たした状態でスクリューを停止し、5分〜5時間放置すること、およびパージング剤を排出することを含む、溶融成形機内に存在するエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂を含む被パージ樹脂のパージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を溶融成形する装置に用いるパージング剤に関するものであり、特に、エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂に対して好適なパージング剤およびこれを用いたパージング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂(以下、EVOH樹脂と称することがある)、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA樹脂と称することがある)、ポリアミド系樹脂(以下、PA樹脂と称することがある)等の極性の高い熱可塑性樹脂は、ガスバリア性に優れており、一般的に溶融成形法によって食品等の包装用フィルムや容器などに成形して使用されている。
【0003】
しかしながら、上記熱可塑性樹脂を長時間にわたって溶融成形する場合、該熱可塑性樹脂の一部が押出機等の溶融成形機の樹脂流路内に長時間滞留し、ゲル化,熱劣化,分解などが生じて製品中にスジが発生したり、ゲルが製品に混入して製品不良を生じたりするという問題があった。
【0004】
このように、製品にスジ発生やゲルの混入が見られた場合には、製造作業を止め、パージング剤を用いて溶融成形機の樹脂流路内に存在し、こびり付いたりしている熱可塑性樹脂を洗浄・除去することが有効である。
【0005】
従来、かかるパージング剤として、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩を比較的多量に含有する炭化水素系樹脂組成物を用いたパージング剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。
このパージング剤は、被パージ樹脂に金属塩が移行し、被パージ樹脂を分解する作用を有することで、優れた洗浄効果が得られるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2012−31404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のパージング剤では、溶融成形機のダイ部分のような、流路が狭く高温の苛酷な環境の箇所において、洗浄効果が不充分であることが判明した。
【0008】
したがって、本発明は、より洗浄効果の優れるパージング剤の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記実情に鑑み鋭意検討した結果、炭化水素系樹脂と、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩とを含み、該炭化水素系樹脂に対する該金属塩の含有量が金属に換算して1重量%を超えて20重量%以下であり、下記式より求められるせん断粘度比が12〜16であるパージング剤が、特にエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂を含む被パージ樹脂のパージに効果的であることに着目した。
せん断粘度比 = η(X)/η(Y)
[ここで、η(X)は温度230℃、せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)であり、η(Y)は温度230℃、せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)である。]
【0010】
すなわち、本発明は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩を比較的多量に含有する炭化水素系樹脂組成物をパージング剤として用いる場合において、特定の高せん断速度と低せん断速度のせん断粘度比が大きいパージング剤を用いることを特徴とするものである。
【0011】
なお、押出機等の溶融成形機を用いて熱可塑性樹脂(被パージ樹脂)を溶融成形するにあたり、樹脂流路内で滞留が生じる箇所においては、一般に低せん断速度のせん断粘度が高いほど、滞留した該熱可塑性樹脂を洗浄し、除去するパージ性能が良好であると考えられる。
【0012】
しかしながら、意外にも、特定のせん断速度によるせん断粘度比が大きいものを用いることにより、溶融成形機のダイ部分のように、流路が狭く高温の苛酷な環境の箇所においても優れた洗浄効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
本発明のパージング剤は、230℃、荷重2160gにおけるメルトフローレートが、0.2〜20g/10分であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記パージング剤を用いる、溶融成形機内に存在する被パージ樹脂のパージング方法に関する。
【0015】
また、本発明は、上記パージング剤を充填すること、溶融成形機内部をパージング剤で満たした状態でスクリューを停止し、5分〜5時間放置すること、およびパージング剤を排出することを含む、溶融成形機内に存在する被パージ樹脂のパージング方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の金属塩のうち少なくとも1種を比較的多量に含有する炭化水素系樹脂組成物をパージング剤として用いる場合において、かかるパージング剤が、特定範囲のせん断粘度比を満たすことにより、溶融成形機内の被パージ樹脂、特にエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂を含む被パージ樹脂の洗浄・除去効果に優れ、溶融成形機のダイ部分のように、流路が狭く高温の苛酷な環境においても優れた洗浄効果が発揮されるものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
【0018】
本発明のパージング剤は、押出機等の溶融成形機を用いて熱可塑性樹脂(被パージ樹脂)を溶融成形するにあたり、溶融成形機中の樹脂流路内に滞留した該熱可塑性樹脂を洗浄し、除去するために用いるものである。
【0019】
本発明における押出機のバレル温度とは、押出機のバレルの表面温度を意味する。押出機のバレルが複数のセクションを有しており、個々のセクションが異なる温度に設定されている場合は、そのうちの最高温度をバレル温度とする。
【0020】
<パージング剤>
本発明のパージング剤は炭化水素系樹脂をベースとし、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩を比較的多量に含有する組成物である。
本発明のパージング剤組成物に対する炭化水素系樹脂の含有量は、通常80重量%以上であり、好ましくは85重量%以上である。
【0021】
[炭化水素系樹脂]
本発明のパージング剤のベースとなる炭化水素系樹脂とは、炭化水素系モノマーを80モル%以上の主モノマーとする、分子量が1万以上の高分子であり、主鎖が炭素結合のみで構成されるポリマーである。
かかる炭化水素系樹脂は、樹脂の極性が低い為、溶融成形機を構成する金属に付着しにくいという性質を有する。
パージング剤の排出性の点から、炭化水素系モノマー以外の共重合可能なモノマーの含有量は、20モル%未満であることが好ましい。
【0022】
上記炭化水素系樹脂とは例えば、脂肪族炭化水素系モノマーを主体としたポリオレフィン系樹脂、芳香族炭化水素系モノマーを主体としたポリスチレン系樹脂が挙げられる。
【0023】
脂肪族炭化水素系モノマーを主体としたポリオレフィン系樹脂について説明する。脂肪族炭化水素系モノマーとして具体的にはエチレン、プロピレン、ブテン等が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂は、これらの脂肪族炭化水素系モノマーからなるホモポリマー、2種以上のオレフィンモノマーのランダムコポリマー、ブロックコポリマーをいう。
例えば、超低密度ポリエチレン、(直鎖状)低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体等のエチレン−αオレフィン共重合体、等のポリエチレン系樹脂;ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体等のプロピレン−αオレフィン共重合体、等のポリプロピレン系樹脂;ポリブテン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。
【0024】
芳香族炭化水素系モノマーを主体としたポリスチレン系樹脂について説明する。芳香族炭化水素系モノマーとして具体的にはスチレン、メチルスチレン等が挙げられる。これらの芳香族炭化水素系モノマーからなるホモポリマー、2種以上のモノマーのランダムコポリマー、ブロックコポリマーが、ポリスチレン系樹脂として挙げられる。
【0025】
パージング剤の排出性と経済性の点から、炭化水素系樹脂として好ましくはポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂であり、特に好ましくはポリエチレン系樹脂であり、殊に好ましくは低密度ポリエチレン、さらには直鎖状低密度ポリエチレンである。
【0026】
本発明においては、特定のせん断速度(sec−1)によるせん断粘度比が大きいパージング剤を用いるのが特徴であるが、パージング剤のベースとなる炭化水素系樹脂において、特定のせん断速度(sec−1)でのせん断粘度比をコントロールすることが好ましい。
【0027】
温度230℃、せん断速度12.2sec−1の上記炭化水素系樹脂のせん断粘度:η(x)は、通常1500〜4500Pa・Sであり、好ましくは2000〜4000Pa・Sであり、特に好ましくは2500〜3500Pa・Sである。
【0028】
温度230℃、せん断速度1824sec−1の上記炭化水素系樹脂のせん断粘度:η(y)は、通常80〜350Pa・Sであり、好ましくは120〜300Pa・Sであり、特に好ましくは160〜250Pa・Sである。
【0029】
かかる炭化水素系樹脂のせん断粘度比は、下記式より求められるものであり、通常13.0〜17.0であり、好ましくは13.5〜16.5であり、特に好ましくは14.0〜15.5である。
せん断粘度比 = η(x)/η(y)
[ここで、η(x)は温度230℃、せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)であり、η(y)は温度230℃、せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)である。]
なお、上記の炭化水素系樹脂のせん断粘度比は、キャピラリーレオメーター(流動特性測定装置)を用いて230℃・各せん断速度のせん断粘度を測定し、その結果から算出することができる。
【0030】
また、上記炭化水素系樹脂の密度は、JIS K7112(1999)の規定に従って測定した値で、通常0.85〜0.98g/cmであり、さらには0.90〜0.95g/cmであり、好ましくは0.91〜0.94g/cmであり、より好ましくは0.92〜0.93g/cmである。かかる値が上記範囲である場合、パージング効果がより顕著に得られる傾向がある。
【0031】
また、上記炭化水素系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、190℃、荷重2160g条件下で、通常0.1〜50g/10分であり、好ましくは0.2〜10g/10分であり、より好ましくは0.5〜5g/10分である。かかる値が上記範囲である場合、パージング効果がより顕著に得られる傾向がある。
【0032】
上記炭化水素系樹脂の数平均分子量は、GPC(ゲル透過クロマトグラフ)にてポリスチレンを標準として測定した値で通常1×10〜5×10であり、好ましくは2×10〜4×10であり、より好ましくは3×10〜3.8×10であり、特に好ましくは3×10〜3.5×10である。かかる値が上記範囲である場合、パージング効果がより顕著に得られる傾向がある。
【0033】
上記炭化水素系樹脂の分子量の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、通常3〜6であり、好ましくは3.2〜5であり、特に好ましくは3.5〜4.5である。かかる値が上記範囲である場合、パージング効果がより顕著に得られる傾向がある。
【0034】
[金属塩]
本願発明のパージング剤は炭化水素系樹脂をベースとし、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩を、比較的多量に含有する組成物である。
従って、本願発明のパージング剤の炭化水素系樹脂に対する該金属塩の含有量は、金属に換算した値にて1重量%を超えて20重量%以下であり、特に好ましくは1.2〜10重量%であり、殊に好ましくは1.5〜3重量%である。かかる量が多すぎる場合、生産性や経済性が低下する傾向があり、少なすぎる場合、洗浄効果が不十分になるという傾向がある。
【0035】
上記アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩におけるアルカリ金属およびアルカリ土類金属とは、被パージ樹脂を分解する機能を有するものである。具体的に、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、べリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。中でも易入手性、経済性、パージング性能の点で、アルカリ土類金属が好ましく、特に好ましくはマグネシウム、カルシウムである。
【0036】
上記アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩は、有機塩や無機塩が挙げられる。かかる塩は、樹脂組成物中の分散性の点から、低分子化合物であることが好ましい。
【0037】
上記有機塩とはカルボン酸塩を意味し、例えば、酢酸塩、シュウ酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、アラギン酸塩、ヘプタデシル酸塩、ベヘン酸塩、オレイン酸塩、エライジン酸塩、エリカ酸塩、リノール酸塩、リノレイン酸塩、リシノール酸塩、ヒドロキシステアリン酸塩、モンタン酸塩、イソステアリン酸塩、エポキシステアリン酸等が挙げられる。
中でも、界面活性能を有する点で、炭素数が比較的多い長鎖脂肪族カルボン酸塩が好ましい。好ましくは炭素数10〜25のカルボン酸塩であり、より好ましくは炭素数12〜22のカルボン酸塩であり、特に好ましくは炭素数14〜20のカルボン酸塩である。炭素数が多すぎる場合、汎用性に欠ける傾向があり、炭素数が少なすぎる場合、溶融時の界面活性不足によってパージング性能が不足する傾向がある。
すなわち、有機塩として好ましくは炭素数14〜20のカルボン酸の第2族金属塩であり、最も好ましくは炭素数14〜20のカルボン酸マグネシウム塩である。
【0038】
かかる有機塩の融点は、通常100〜220℃、好ましくは110〜180℃、特に好ましくは120〜160℃である。有機塩が流路内で溶融した場合、界面活性能が発揮される点で好ましい。
【0039】
上記無機塩とは無機化合物由来のアニオンを有する塩を意味し、例えば、ホウ酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩等が挙げられる。中でも、EVOH樹脂を分解する効果が高く洗浄効果が高い点から、塩基性の無機塩が好ましく、特に好ましくは、炭酸塩である。
なお、中でも炭酸マグネシウムは、塩基性炭酸マグネシウムの状態で安定であり、この状態で市販されているので、好ましい。
【0040】
無機塩は樹脂流路内で溶融しないため、樹脂流路内にこびりついた被パージ樹脂を物理的にこそげ落とす効果を有すると考えられる。
【0041】
本発明のパージング剤を作製するために使用する金属塩の粒径は、成形性の観点や装置内での滞留を抑制するため小さい方がよい。好ましくは、レーザー回折散乱法による粒度分布測定において、金属塩の平均粒径は通常20ミクロン以下である。
【0042】
本発明のパージング剤を作製するために使用する金属塩は、上記有機塩と無機塩を併用することが好ましい。特に、通常、重量比にて無機塩/有機塩=0.05〜10、好ましくは0.1〜8、特に好ましくは0.2〜5、殊に好ましくは1〜1.5である。
無機塩と有機塩の金属種は同一であっても異なるものであってもよい。パージング剤の排出性の点から、好ましくは同一種である。
そして、原料の経済性や生産性、洗浄効果の点から、無機塩として炭酸塩を用い、有機塩として長鎖脂肪族カルボン酸塩を用いることが好ましい。
最も好ましくは、無機塩として炭酸マグネシウムを用い、有機塩として炭素数14〜20のカルボン酸マグネシウム塩を用いるものである。
【0043】
かかる金属塩において無機塩と有機塩を併用する場合、金属塩による被パージ樹脂分解による洗浄効果が高められる。さらに、無機塩は融点が通常500℃以上であり、一般的な熱可塑性樹脂の溶融成形温度よりもはるかに高いために樹脂流路内で溶融せず、樹脂流路壁に残存する被パージ樹脂を摩擦によってこそぎ落とす役割を担っていると考えられる。そして、高級脂肪酸塩等の有機塩は界面活性剤の一種であるため、樹脂流路内部に付着した被パージ樹脂を金属表面から浮かび上がらせて剥がす効果を有すると推測される。
【0044】
[その他成分]
本発明のパージング剤には、必要に応じて、パージング剤全量に対して通常3重量%未満、好ましくは1重量%未満にて、ヒンダードフェノール、あるいはヒンダードアミン類等の熱安定剤、シリコン系またはフッ素系脂肪酸エステル、アミド系滑剤、発泡剤、フィラー(金属酸化物、水酸化物等)などを含有していてもよい。
【0045】
[パージング剤のせん断粘度比]
本発明のパージング剤は、下記式より求められるせん断粘度比が特定範囲であることを最大の特徴とする。
せん断粘度比 = η(X)/η(Y)
[ここで、η(X)は温度230℃、せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)、η(Y)は温度230℃、せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)である。]
【0046】
かかるせん断粘度比は、通常12.0〜16.0であり、好ましくは12.5〜15.0であり、特に好ましくは13.0〜14.5である。せん断粘度比が低すぎると、被パージ樹脂の洗浄、除去効果が十分に得られない傾向があり、一方で、高すぎると、パージング剤自身が排出されにくい傾向がある。なお、上記のパージング剤のせん断粘度比は、キャピラリーレオメーター(流動特性測定装置)を用いて230℃・各せん断速度のせん断粘度を測定し、その結果から算出することができる。
【0047】
温度230℃、せん断速度12.2sec−1の上記パージング剤のせん断粘度:η(X)は、通常1000〜4000Pa・Sであり、好ましくは1500〜3500Pa・Sであり、特に好ましくは2000〜3000Pa・Sである。
【0048】
温度230℃、せん断速度1824sec−1の上記パージング剤のせん断粘度:η(Y)は、通常60〜340Pa・Sであり、好ましくは100〜280Pa・Sであり、特に好ましくは130〜240Pa・Sである。
【0049】
また、本発明のパージング剤のメルトフローレート(MFR)は、230℃、荷重2160gにて0.2〜20g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.5〜15g/10分、特に好ましくは1〜10g/10分である。かかる値が大きすぎる場合、パージング効果が十分に発揮されない傾向がある。
【0050】
<パージング剤の製造方法>
本発明のパージング剤は、上記した金属塩と、ベースとなる炭化水素系樹脂とをコンパウンドして作製するものである。
かかるコンパウンドには公知の手法を用いることが可能である。なかでも、押出機を用いることが加工性、経済性の点で好ましい。押出機の種類は特に限定されず、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機等の一般的押出機が採用可能である。
押出機にてコンパウンドする際の押出機のバレル温度は通常150〜300℃、好ましくは160〜280℃、特に好ましくは170〜250℃である。
【0051】
そして、かかるパージング剤中の金属塩は、ベースとなる炭化水素系樹脂中に均一に分散していることが好ましい。
【0052】
本発明のパージング剤は上記のようにコンパウンドした後に、ペレットとすることが好ましい。ペレットとする方法は公知の方法が採用可能である。かかるペレットは、通常球形、円柱形、立方体形、直方体形等が上げられ、円柱形ペレットが好ましく、その直径は通常1〜5mm、長さは通常1〜5mmである。
【0053】
<被パージ樹脂>
本発明のパージング剤の対象となる熱可塑性樹脂(すなわち被パージ樹脂)は、エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂(EVOH樹脂)を含む。EVOH樹脂は、溶融成形機の金属に付着しやすく、かつ除去しにくい特性を有する高極性熱可塑性樹脂である。極性基含有熱可塑性樹脂は、そのガスバリア性能から食品等の包装材の中間層として使用されることが多く、中でもEVOH樹脂はガスバリア性に優れ、安全性も良好であるため、汎用されている。本発明のパージング剤は、このようなEVOH樹脂を含む被パージ樹脂のパージに効果的に用いることができる。
【0054】
[EVOH樹脂]
本発明で用いるEVOH樹脂は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合させた後にケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いることができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン−ビニルエステル共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
すなわち、EVOH樹脂は、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0055】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。この他、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられ、通常炭素数3〜20、好ましくは炭素数4〜10、特に好ましくは炭素数4〜7の脂肪族ビニルエステルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0056】
EVOH樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定した値で、通常20〜60モル%、好ましくは25〜50モル%、特に好ましくは25〜35モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿度条件下でのガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が不足する傾向がある。
【0057】
EVOH樹脂におけるビニルエステル成分のけん化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて測定した値で、通常90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、特に好ましくは99〜99.9モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0058】
また、メルトインデクサー(押出式プラストメーター)を用いて測定した該EVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は、通常0.5〜100g/10分であり、好ましくは1〜50g/10分、特に好ましくは3〜35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜性が不安定となる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
【0059】
また、本発明におけるEVOH樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば10モル%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。
前記コモノマーは、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、3−ブテン−1,2−ジオール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタアクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類、アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のコモノマー挙げられる。
【0060】
さらに、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOH系樹脂を用いることもできる。
【0061】
特に、ヒドロキシ基含有α−オレフィン類を共重合したEVOH樹脂は、二次成型性が良好になる点で好ましく、中でも1,2−ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。
かかる1,2−ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂は、側鎖に1,2−ジオール構造単位を含むものである。かかる1,2−ジオール構造単位とは、具体的には下記一般式(1)で示される構造単位である。
【0062】
【化1】
【0063】
[一般式(1)において、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【0064】
上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位における有機基としては、特に限定されず、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の飽和炭化水素基、フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。
〜Rは通常炭素数1〜30、特には炭素数1〜15、さらには炭素数1〜4の飽和炭化水素基または水素原子が好ましく、水素原子が最も好ましい。R〜Rは通常炭素数1〜30、特には炭素数1〜15、さらには炭素数1〜4のアルキル基または水素原子が好ましく、水素原子が最も好ましい。特に、R〜Rがすべて水素であるものが最も好ましい。
【0065】
また、一般式(1)で表わされる構造単位中のXは、代表的には単結合である。
なお、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよい。かかる結合鎖としては特に限定されないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素鎖(これらの炭化水素はフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子等で置換されていてもよい)の他、−O−、−(CHO)−、−(OCH−、−(CHO)CH−等のエーテル結合部位を含む構造、−CO−、−COCO−、−CO(CHCO−、−CO(C)CO−等のカルボニル基を含む構造、−S−、−CS−、−SO−、−SO−等の硫黄原子を含む構造、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−等の窒素原子を含む構造、−HPO−等のリン原子を含む構造などのヘテロ原子を含む構造、−Si(OR)−、−OSi(OR)−、−OSi(OR)O−等の珪素原子を含む構造、−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−等のチタン原子を含む構造、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等のアルミニウム原子を含む構造などの金属原子を含む構造等が挙げられる。なお、Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数であり、通常1〜30、好ましくは1〜15、さらに好ましくは1〜10である。その中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で−CHOCH−、および炭素数1〜10の炭化水素鎖が好ましく、さらには炭素数1〜6の炭化水素鎖、特には炭素数1であることが好ましい。
【0066】
上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位における最も好ましい構造は、R〜Rがすべて水素原子であり、Xが単結合であるものである。すなわち、下記構造式(1a)で示される構造単位が最も好ましい。
【0067】
【化2】
【0068】
特に、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を含有する場合、その含有量は通常0.1〜20モル%、さらには0.1〜15モル%、特には0.1〜10モル%のものが好ましい。
【0069】
また、本発明で使用されるEVOH樹脂は、異なる他のEVOH樹脂との混合物であってもよく、かかる他のEVOH樹脂としては、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量が異なるもの、エチレン含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、MFRが異なるもの、他の共重合成分が異なるものなどを挙げることができる。
【0070】
本発明で用いられるEVOH樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤などが含有されていてもよい。
【0071】
上記熱安定剤としては、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させる目的で、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩などの塩;または、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類、またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩などの塩等の添加剤を予め少量添加してもよい。
【0072】
被パージ樹脂中、EVOH樹脂の含有量は1重量%以上であることが好ましく、被パージ樹脂の1〜99重量%が許容される。なお、被パージ樹脂をEVOH樹脂のみから構成してもよい。
【0073】
極性基含有熱可塑性樹脂は水分によってガスバリア性が低下する傾向があるため、通常、表層として疎水性熱可塑性樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等)および場合によって各層間に接着性樹脂(例えば、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等)を有する多層構造体として包装材等に使用される。
【0074】
上記多層構造体を製造する場合、その製造過程において生じるスクラップを回収し、該回収物を再度押出機にて溶融成形して新たな多層構造体の少なくとも1層としてリサイクルすることがしばしばある。
かかるリサイクル操作は、多層構造体を構成する極性基含有熱可塑性樹脂、疎水性熱可塑性樹脂や接着性樹脂を含む樹脂組成物を押出機にて溶融混合し、成形するものであるが、本発明のパージング剤は、このような極性の高い樹脂を含有する樹脂組成物を押出機からパージ、すなわち、洗浄して除去する為に用いる場合においても有効である。
【0075】
このように、本発明のパージング剤は、溶融成形機中のEVOH樹脂をパージに最適に用いることができるが、公知の熱可塑性樹脂に対しても同様に用いることができる。かかる熱可塑性樹脂は、融点(または非晶性樹脂の場合は流動開始温度)が通常100〜270℃、好ましくは120〜250℃、特に好ましくは150〜230℃の熱可塑性樹脂が挙げられる。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、EVOH樹脂以外のビニルアルコール系樹脂(PVA樹脂等)、PA樹脂、ポリオレフィン系樹脂(直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等)、ポリオレフィン系樹脂に不飽和カルボン酸をグラフト変性した変性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、熱可塑性ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、芳香族又は脂肪族ポリケトン等が挙げられ、これらは単独でも複数種を同時に用いてもよい。
なかでも、上記したように、高極性熱可塑性樹脂であるPVA樹脂等のビニルアルコール系樹脂、PA樹脂は、EVOH樹脂と同様に、効果的に洗浄できる。
【0076】
本発明のパージング剤は、金属塩を比較的多量に含有することで、EVOH樹脂、PVA樹脂等のビニルアルコール系樹脂に適用した場合、ビニルアルコール系樹脂ポリマー中に金属塩が移行し、該樹脂を分解する効果に優れるため、特に溶融成形機ダイ部等の狭く高温な箇所に付着したビニルアルコール系樹脂、特にEVOH樹脂を洗浄するのに効果的である。
【0077】
本発明の被パージ樹脂は公知一般の滑剤、金属酸化物(例えば顔料として用いられる酸化ケイ素、酸化チタン等)、酸化防止剤、乾燥剤、充填剤、酸素吸収剤を含有していてもよい。
【0078】
<対象となる溶融成形機>
上記被パージ樹脂の溶融成形時に用いられる溶融成形機としては特に限定されず一般的な押出機を用いることが可能である。例えば単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機等が上げられるが、いずれでもよい。詳細には、単層キャスト押出機、単層インフレ押出機、単層ブロー押出機、射出成形機、多層キャスト押出機、多層インフレ押出機、多層ブロー押出機、共射出成形機なども使用される。
【0079】
<パージング方法>
本発明のパージング剤は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩を比較的多量に含有することにより、被パージ樹脂中にパージング剤内の金属塩が移行し、かかる金属塩が被パージ樹脂を分解するため、流路が狭く高温の苛酷な環境である溶融成形機のダイ部分等においても優れたパージ性能となり、洗浄効果に優れるものである。
【0080】
さらに本発明のパージング剤を用いたパージング方法は、公知方法を採用可能である。具体的には、溶融成形機にて熱可塑性樹脂を溶融成形した後に、本発明のパージング剤を供給して溶融成形機内に充填し、次いで排出すればよい。
【0081】
上記熱可塑性樹脂(被パージ樹脂)の溶融成形時の溶融成形機の温度(例えば押出機においては押出機のバレル温度)は、通常150〜260℃である。
【0082】
かかる溶融成形機内部に本発明のパージング剤を充填する際の溶融成形機の温度(押出機においては押出機のバレル温度)は、通常180〜280℃であり、好ましくは200〜260℃、より好ましくは210〜260℃、特に好ましくは230〜260℃である。かかる温度が高過ぎる場合、パージング剤の粘度が低下し、被パージ樹脂の洗浄効果が低下する傾向があり、低過ぎる場合、パージング剤自身の排出性が低下する傾向がある。
ここで、熱可塑性樹脂の溶融成形時、またはパージング剤を充填する際の溶融成形機の温度は、例えば押出機においては、押出機のバレル温度、すなわち押出機のバレルの表面温度を意味する。押出機のバレルが複数のセクションを有しており、個々のセクションが異なる温度に設定されている場合は、そのうちの最高温度をバレル温度とする。
【0083】
本発明のパージング剤の使用量は、通常、溶融成形機の大きさおよび被パージ樹脂の汚れの程度で決定すればよいが、取り扱い性・経済性の点から通常溶融成形機の樹脂容量(バレル容積からスクリュー容積を除いた樹脂が充填され得る容積)の5〜100倍であり、好ましくは8〜50倍であり、特に好ましくは10〜30倍である。
【0084】
本発明のパージング方法において、パージング剤中の金属塩が被パージ樹脂内へ移行しやすいよう、パージング剤を押出機等の溶融成形機に供給して充填した後に、溶融成形機内部をパージング剤で満たした状態でスクリューを停止し、一定時間放置することが好ましい。かかる放置時間について、通常5分〜5時間であり、より好ましくは0.2〜3時間であり、特に好ましくは0.5〜2時間である。かかる時間が長過ぎる場合、生産性の低下あるいはパージング剤自体の劣化により洗浄効果が低下する傾向にあり、少なすぎる場合にはパージング効果が低下する傾向がある。
なお、パージング剤が押出機内に充満された後、スクリューを止めて一定時間放置し、その後、再びパージング剤を充填して一定時間放置するなど、パージング剤の溶融成形機内での滞留とさらなるパージング剤供給の工程を繰り返す場合、パージング剤の溶融成形機内での滞留時間の和が上記範囲内にあることが好ましい。
【0085】
また、押出機を用いる場合、パージング時の押出機のスクリュー回転数は、利便性の点から被パージ樹脂の成形時と同じでよい。実用性の点から通常5〜300rpmであり、好ましくは10〜250rpmであり、特に好ましくは10〜100rpmである。なお、パージング中にスクリュー回転数を周期的に上下させることにより、被パージ樹脂の押出効果が向上することが期待される。
【0086】
以上のように本発明のパージング剤およびこれを用いたパージング方法は、パージング剤が比較的多量の金属塩を含有し、特定のせん断速度によるせん断粘度比が大きいため、流路が狭く高温の苛酷な環境である溶融成形機のダイ部分等においても優れた洗浄効果が得られるとの優れた効果が発揮されるものである。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0088】
<実施例1>
【0089】
パージング剤として、直鎖状低密度ポリエチレン(株式会社NUC製“GS650“、MFR0.6g/10分(190℃、荷重2160g)、密度0.92g/cm、温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)=2980、温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)=201、せん断粘度比(温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)/温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S))=14.8)を90部用い、金属塩としてステアリン酸マグネシウム(堺化学工業株式会社製、SM−PG)5部および塩基性炭酸マグネシウム(協和化学工業株式会社製、軽質)5部を用い、これらをドライブレンドした。
尚、かかるパージング剤中の金属塩の含有量は、10重量%であり、炭化水素系樹脂に対する金属塩の含有量は、金属に換算して1.5重量%であり、パージング剤の温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)は2360、温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)は175であり、せん断粘度比(温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)/温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S))は13.5であった。なお、せん断粘度比は、東洋精機株式会社製キャピラリーレオメーター「キャピログラフ1D」により、230℃・各せん断速度のせん断粘度を測定し、その結果から算出した。
かかるドライブレンド物を、二軸押出機を用いて以下の条件で溶融混練してペレット化した。
スクリュー径:30mmφ
押出機温度:C2/C3/C4/C5/C6・・・・・C16/D=80/120/180/210/220・・・・・220/230℃
吐出量:25kg/h
回転数:250rpm
得られたペレットのMFRは、230℃、荷重2160g条件下で1.3g/10分であった。
【0090】
<被パージ樹脂の熱劣化状態再現モデル実験>
下記の単軸押出機を用い、押出機およびダイ温度を下記のように設定し、エチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物(エチレン含有量29モル%、ケン化度99.8モル%、MFR3.4g/10分(210℃、荷重2160g))を30分間供給しながら排出し、加熱したまま2時間放置してEVOH樹脂成形物の長時間製造後の状態を再現した。
スクリュータイプ:フルフライト
スクリュー径:40mmφ
L/D:28
スクリュー圧縮比:2.5
ダイ:コートハンガーダイ
押出機温度:C1/C2/C3/C4/H/D=220/250/260/260/260/240℃
回転数:40rpm
【0091】
<パージング操作>
その後、上記の押出機温度のまま、上記パージング剤を20分間供給した。このとき、最初の10分間はスクリュー回転数を20rpmにし、次の10分間は40rpmとした。その後、上記の押出機温度にて、上記パージング剤を押出機内に充填したまま、1時間放置した。
【0092】
〔パージング効果〕
その後、EVOH樹脂を再び押出機に供給し、製膜を開始した。製膜を2時間行った後、押出機内のパージング剤を少量のポリエチレンで置換してから押出機を解体し、ダイの汚れ状況を観察し、下記評価基準により評価した。
◎:ダイには被パージ樹脂の付着物は全くなかった。
○:ダイに薄膜状でわずかに付着物が存在するが、付着物の粘度が十分低下しており、清掃が容易である。
△:ダイにやや厚めの樹脂層が付着しており、○の状態よりも清掃に時間を要する。
×:ダイに厚い樹脂層が付着しており、かつ付着物の粘度があまり低下していないので、△の状態よりも清掃に時間を要する。
【0093】
<実施例2>
実施例1において、炭化水素系樹脂として、直鎖状低密度ポリエチレン(株式会社NUC製“NUCG7641“、MFR0.6g/10分(190℃、荷重2160g)、密度0.922g/cm、温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)=2710、温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)=192、せん断粘度比(温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)/温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S))=14.1)を用いた以外は、実施例1と同様にパージング剤を作製し、同様に評価した。
なお、パージング剤の温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)は2390、温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)は171であり、せん断粘度比(温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)/温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S))は14.0であった。
【0094】
<比較例1>
実施例1において、炭化水素系樹脂として、直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製“ノバテックLLUF230“、MFR1.0g/10分(190℃、荷重2160g)、密度0.921g/cm、温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)=3490、温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)=274、せん断粘度比(温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)/温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S))=12.8)を用いた以外は、実施例1と同様にパージング剤を作製し、同様に評価した。
なお、パージング剤の温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)は2620、温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)は238であり、せん断粘度比(温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)/温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S))は11.0であった。
【0095】
<比較例2>
実施例1において、炭化水素系樹脂として、メタロセン直鎖状低密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製“SP1510“、MFR1.0g/10分(190℃、荷重2160g)、密度0.913g/cm、温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)=3470、温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)=312、せん断粘度比(温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)/温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S))=11.1)を用いた以外は、実施例1と同様にパージング剤を作製し、同様に評価した。
なお、パージング剤の温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)は2840、温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)は261であり、せん断粘度比(温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)/温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S))は10.9であった。
【0096】
<比較例3>
実施例1において、炭化水素系樹脂として、メタロセン直鎖状低密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製“SP2510“、MFR1.5g/10分(190℃、荷重2160g)、密度0.923g/cm、温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)=2250、温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)=264、せん断粘度比(温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)/温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S))=8.5)を用いた以外は、実施例1と同様にパージング剤を作製し、同様に評価した。
なお、パージング剤の温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)は2480、温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)は220であり、せん断粘度比(温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)/温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S))は11.3であった。
【0097】
<比較例4>
実施例1において、炭化水素系樹脂として、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(住友化学株式会社製“スミカセンE FV104“、MFR1.0g/10分(190℃、荷重2160g)、密度0.913g/cm、温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)=3920、温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)=332、せん断粘度比(温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)/温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S))=11.8)を用いた以外は、実施例1と同様にパージング剤を作製し、同様に評価した。
なお、パージング剤の温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)は3310、温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S)は283であり、せん断粘度比(温度230℃・せん断速度12.2sec−1のせん断粘度(Pa・S)/温度230℃・せん断速度1824sec−1のせん断粘度(Pa・S))は11.7であった。
【0098】
<参考例1>
実施例1で作製したパージング剤を用い、被パージ樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン(株式会社NUC製“GS650“)を用いて、同様にパージング効果を評価した。
【0099】
<参考例2>
比較例3で作製したパージング剤を用い、被パージ樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製“SP2510“)を用いて、同様にパージング効果を評価した。
【0100】
実施例1,2、比較例1〜4および参考例1,2の結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1からわかるように、特定のせん断速度のせん断粘度比が大きいパージング剤を用いた実施例1,2は、比較例1〜4に比べてパージング効果が良好であることが分かった。
また、実施例1、比較例3および参考例1,2からわかるように、比較例3で作製したパージング剤はポリエチレン樹脂に対してパージング効果を奏したにもかかわらず(参考例2)、EVOH樹脂に対しては効果が得られなかったのに対し、本発明のパージング剤はEVOH樹脂に対して効果的にパージング効果を得ることができることがわかった。
【0103】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2013年11月26日出願の日本特許出願(特願2013−243495)及び2014年11月12日出願の日本特許出願(特願2014−229819)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の特定のせん断粘度比を有するパージング剤は、パージング効果が良好であり、特に包装材として汎用されるEVOH樹脂に対するパージング効果に優れることから、工業的に極めて有用である。