特許第6473721号(P6473721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ みらい建設工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6473721-コンクリートひび割れ制御方法 図000002
  • 特許6473721-コンクリートひび割れ制御方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473721
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】コンクリートひび割れ制御方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20190207BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   E04G21/02 104
   E21D11/10 Z
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-163222(P2016-163222)
(22)【出願日】2016年8月24日
(65)【公開番号】特開2018-31157(P2018-31157A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2017年10月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2016年8月1日に公益社団法人土木学会から発行された「平成28年度土木学会全国大会 in TOHOKU」 と題するDVD−ROMに収録
(73)【特許権者】
【識別番号】390001993
【氏名又は名称】みらい建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 清美
(72)【発明者】
【氏名】泉 誠司郎
(72)【発明者】
【氏名】中田 崇晴
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−009056(JP,U)
【文献】 特開2009−235808(JP,A)
【文献】 特開平07−241836(JP,A)
【文献】 特開2004−181663(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01447192(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート内に予め配管されたパイプ内に冷媒を前記コンクリートの温度に応じて温度調節することなく通流させるコンクリートひび割れ制御方法であって、
前記コンクリートの最高温度が確認されてから所定時間経過後に、前記パイプ内での冷媒の通流を停止することを特徴とする、コンクリートひび割れ制御方法。
【請求項2】
前記最高温度が確認されてから3〜12時間後に前記冷媒の通流を停止することを特徴とする、請求項1に記載のコンクリートひび割れ制御方法。
【請求項3】
複数の測定点で前記コンクリートの温度を測定し、前記複数の測定点で測定された温度のうちの最も高い温度を抽出温度として時間毎に保存し、前記抽出温度の時刻歴データにおいて温度の低下が確認されたらその直前の抽出温度を前記最高温度とすることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のコンクリートひび割れ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートひび割れ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート工事では、水和熱に起因した温度上昇によってひび割れ(以下、「温度ひび割れ」という)が生じる場合がある。そのため、コンクリート内に予め配管されたパイプに冷媒(冷水や冷気等)を通流させるパイプクーリングが実施される場合がある。パイプクーリングを行うとコンクリートの温度上昇が制御され、ひいては、温度ひび割れが抑制される。
一方、パイプクーリングによってコンクリートの温度が急激に低下した場合にもコンクリートにひび割れが生じるおそれがある。
【0003】
そのため、例えば、特許文献1には、水和熱によるコンクリートの温度上昇および急激なコンクリートの温度低下を抑制することを目的としたパイプクーリング方法が開示されている。特許文献1のパイプクーリング方法は、コンクリート内部の温度とコンクリート外部の温度との温度差に応じて、パイプ内に通流させる冷媒の温度を調整する方法である。
【0004】
また、特許文献2には、パイプクーリングによるコンクリートの予測温度を予め解析しておき、施工時のコンクリートの測定温度と予測温度との温度差に応じて、冷媒の温度や流量を制御するパイプクーリング方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−089357号公報
【特許文献2】特開2014−005716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のパイプクーリング方法は、温度が低下し始めた後のコンクリートの温度が再び上昇することを抑えつつ、コンクリートの温度が急激に低下することを防ぐ必要があるため、冷却用流体の温度管理が難しかった。また、コンクリートの温度に応じて冷却用流体の温度を調整するための装置を必要とする等、設備が高価になるおそれがあった。
また、特許文献2のパイプクーリング方法は、予測温度を解析する作業に手間がかかる。
【0007】
このような観点から、本発明は、簡易かつ安価にコンクリートの温度ひび割れを抑制することを可能としたコンクリートひび割れ制御方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明は、コンクリート内に予め配管されたパイプ内に冷媒を前記コンクリートの温度に応じて温度調節することなく通流させるコンクリートひび割れ制御方法であって、前記コンクリートの最高温度が確認されてから所定時間経過後(例えば、3〜12時間後)に、前記パイプ内での冷媒の通流を停止することを特徴としている。なお、コンクリートの温度を複数の測定点で測定した場合には、前記複数の測定点で測定された温度のうちの最も高い温度を抽出温度として時間毎に保存し、前記抽出温度の時刻歴データにおいて温度の低下が確認されたらその直前の抽出温度を最高温度とするのが望ましい。
【0009】
かかるコンクリートひび割れ制御方法によれば、水和熱によるコンクリート温度の上昇を抑えることができるとともに、コンクリートの温度が低下し始めた後に冷媒の通流を停止させることで、コンクリートの温度が急激に低下することを防止し、ひいては、コンクリートにひび割れが生じることを防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンクリートひび割れ制御方法によれば、簡易かつ安価にコンクリートの温度ひび割れを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のコンクリートひび割れ制御方法の概要を示す模式図である。
図2】本実施形態のコンクリートひび割れ制御方法の実証実験での温度測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態では、コンクリートの温度ひび割れを抑制するためのコンクリートひび割れ制御方法について説明する。
本実施形態のコンクリートひび割れ制御方法は、コンクリート1内に予め配管されたパイプ2内に、水槽3からポンプ圧送された冷水(冷媒)Wを通流させる、いわゆるパイプクーリングを採用するものである。なお、パイプ2内に通流させる冷媒は、冷水Wに限定されるものではなく、例えば、空気であってもよい。また、冷水は、水道水を使用してもよいし、河川水や地下水などを採取した水を使用してもよい。また、水槽3内では、冷水の温度調整を行ってもよい。また、冷水(冷媒)の供給方法はポンプ圧送に限定されるものではない。
【0013】
コンクリート1には、図1に示すように、複数の温度センサー4,4,…が間隔(例えば200mmピッチ)をあけて配置されている。各温度センサー4は、コンクリート1の打設開始後から、1分間に1回の割合で測定点(温度センサーが設置されている位置)の温度を測定する。なお、温度測定の頻度は限定されるものではなく、適宜決定すればよい。また、温度センサー4の配置や数も限定されるものではなく、適宜決定すればよい。
【0014】
温度センサー4は有線または無線によりコンピュータ5に接続されており、温度センサー4による計測結果は、コンピュータ5に送信される。コンピュータ5は、送信された温度データを時間毎に保存する。また、コンピュータ5は、保存された温度データのうちの最も高い温度を抽出する。
【0015】
抽出された温度(以下、「抽出温度」という)の時刻歴データにおいて、温度の低下が確認されたら、その直前の抽出温度を最高温度と認定する。すなわち、温度の低下が確認された場合には、温度低下の開始直前の温度を最高温度と認定する。
最高温度が確認されたら、最高温度が測定された時点から6時間後に冷水の供給を停止する。本実施形態では、コンピュータ5から送信された信号により、ポンプ6が自動停止する。なお、ポンプ6は手動で停止させてもよい。
【0016】
なお、最高温度が認定されてから6時間以内に、抽出温度よりも高い温度(以下、「第二抽出温度」という)が確認された場合には、先に認定された最高温度はキャンセルし、第二抽出温度を最高温度と認定する。そして、冷水の供給を停止する時間を、第二抽出温度が測定された時点から6時間後に変更する。
【0017】
なお、最高温度が確認されてから冷水の供給を停止するまでの時間は6時間に限定されるものではなく、例えば3〜12時間の範囲内で設定する等、適宜決定すればよい。
また、冷水の供給を停止した後にコンクリートの温度が上昇した場合であっても、冷水の供給を再開する必要はない。
【0018】
以上、本実施形態のコンクリートひび割れ制御方法(コンクリートひび割れ制御対策に係るパイプクーリング)によれば、コンクリートの温度が低下し始めた後に冷媒の通流を停止させることで、コンクリートの温度が急激に低下することを防止することができる。そのため、コンクリートの急激な温度低下に起因するひび割れを防止することができる。
【0019】
また、本実施形態のコンクリートひび割れ制御方法によれば、水和熱によるコンクリート温度の上昇を抑えることができ、ひいては、コンクリートの温度ひび割れが生じることを防止することができる。
コンクリートの温度に応じて冷水の温度を調整する必要がなく、複雑な解析や装置を必要としないため、簡易かつ安価に、コンクリートのひび割れを防止することができる。
【0020】
以下、本実施形態のコンクリートひび割れ制御方法(コンクリートひび割れ制御対策に係るパイプクーリング)について実施した実証実験結果について説明する。
本実証実験は、外気が4℃を下回る環境下において打設したコンクリートの温度変化をコンクリート内の3カ所の測点(実施例1〜3)で測定した。温度測定は、コンクリート打設直後から開始し、最高温度が確認されてから6時間後に冷水の供給を停止した後も数日間続けて行った。なお、コンクリートは、シート養生を行い、シート内の温度が5〜15℃の範囲内になるように維持した。
【0021】
また、比較例として、コンクリートひび割れ制御対策に係るパイプクーリングを行わない場合(比較例1〜3)と、最高温度が確認された後も冷水を供給し続けた場合(比較例4〜6)についても、それぞれコンクリート内に設定した3カ所の測点で温度測定を行った。
実験結果を図2に示す。
【0022】
図2に示すように、コンクリートひび割れ制御対策に係るパイプクーリングを行わない比較例1〜3では、コンクリートの温度が34〜37℃まで上昇した。
一方、冷水の供給を停止することなく、パイプクーリングを継続した比較例4〜6では、最高温度(30℃前後)の確認後、コンクリートの温度が1日に5〜7℃低下することが確認された。
【0023】
これに対し、実施例1〜3では、最高温度が30℃程度に抑えられ、コンクリートひび割れ制御対策に係るパイプクーリングを行わない場合に比べて水和熱による温度上昇を抑えることができた。
また、最高温度が確認された後は、一定期間、温度低下が抑制され、その後、緩やかに温度が低下する結果となった。
【0024】
なお、実施例2では、冷水の供給を停止してから、コンクリートの温度が32℃程度まで上昇することが確認されたが、比較例1〜3よりも低い温度にとどまる結果となった。これは、水和反応に伴う温度上昇ではなく、冷水の冷却効果が停止されたことによるものと推測される。
【0025】
このように、本実施形態のコンクリートひび割れ制御方法(コンクリートひび割れ制御対策に係るパイプクーリング)によれば、水和熱によるコンクリート温度の上昇を抑えることができるとともに、コンクリートの温度が急激に低下することを防止し、ひいては、コンクリートにひび割れが生じることを防止することができる。
【0026】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、コンクリート内部に温度センサーを設置する場合について説明したが、温度センサーの設置個所は限定されるものではなく、コンクリートまたは型枠の外面に設置してもよい。
前記実施形態では、測点毎の温度により最高温度を決定した(複数の測点で測定した温度のうちの最も高い温度を最高温度とした)が、最高温度は、複数の測点で測定した温度の平均温度で決めてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 コンクリート
2 パイプ
3 水槽
4 温度センサー
5 コンピュータ
6 ポンプ
図1
図2