(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した回転工具を説明する。
【0025】
(実施例1)
図1(a)は本例の回転工具の斜視図であり、
図1(b)は本例の回転工具の軸線を含む断面図である。
図2は
図1の回転工具の分解斜視図である。
図3は本例の回転工具1による穴の内周面の加工方法の説明図である。本例の回転工具1は、マシニングセンタなどの工作機械や手動の回転工作機械に取り付けられてワークに形成された穴の内周面の研磨加工や、その穴と交差する穴のエッジのバリ取加工を行う。
図1(a)に示すように、回転工具1は、軸線L方向に同軸に連結された研磨工具2およびシャンク3と、鍔部4とを備える。研磨工具2とシャンク3は工具本体5を構成しており、鍔部4は、工具本体5の軸線L(回転中心軸線)方向の途中に設けられている。鍔部4は外周側に突出する部位であり、本例では、鍔部4は工具本体5とは別体の環状部材(スペーサ)8から構成されている。以下では、研磨工具2の側を前方、シャンク3の側を後方として、回転工具1を説明する。
【0026】
研磨工具2は、複数本の線状砥材(砥材)6と、これら複数本の線状砥材6の後端部分を保持する砥材ホルダ7を備える。本例において、鍔部4は、環状部材8であり、砥材ホルダ7に同軸に取り付けられている。
【0027】
線状砥材6は、アルミナ繊維フィラメント等の無機長繊維の集合体にエポキシ樹脂やシリコーン樹脂などのバインダー樹脂を含浸、硬化させて線状に形成したものである。砥材ホルダ7に保持されることによりブラシ状となっている。なお、砥材ホルダ7に保持する線状砥材としては、ナイロン、砥粒入りナイロン、砥粒入りゴム、ステンレスや真鍮などからなる金属ワイヤーなどを用いることもできる。また、線状砥材に替えて環状の砥石を用いることもできる。砥石としては、例えば、砥粒入りゴム砥石がある。
【0028】
砥材ホルダ7は金属製であり、その外形は円柱状である。
図1(b)に示すように、砥材ホルダ7は、前側部分に線状砥材6を保持する砥材保持部11を備える。また、
図2に示すように、砥材ホルダ7は、その後端部分に工具側ネジ部12を備える。工具側ネジ部12は、シャンク3を連結するための研磨工具2側の連結部である。工具側ネジ部12は円柱状であり、その外周面には雄ネジが形成されている。工具側ネジ部12と砥材保持部11との間には環状部材8を装着する装着部13が設けられている。装着部13の外径寸法は砥材保持部11の外形寸法よりも短く、工具側ネジ部12の外径寸法は装着部13の外径寸法よりも短い。従って、砥材保持部11と装着部13の間には後方を向く第1環状端面を備える第1段部(第1移動規制部)14が形成され、装着部13と工具側ネジ部12の間には後方を向く第2環状端面を備える第2段部15が形成されている。なお、砥材ホルダ7は樹脂製とすることもできる。
【0029】
砥材ホルダ7の前端面すなわち砥材保持部11の前端面には、
図1(b)に示すように、中央に軸線L方向に窪む円形の砥材保持凹部16が形成されている。砥材保持凹部16には、複数本の線状砥材6の後端部分が束の状態で挿入されて、接着剤により固定されている。砥材保持部11の外周面部分には、軸線Lを挟んだ両側に外周側から切り欠かれた一対の切り欠き部17が設けられている。一対の切り欠き部17は、互いに軸線Lと平行な切り欠き面を備える。また、砥材ホルダ7は、工具側ネジ部12、装着部13および砥材保持部11を軸線L方向に貫通するホルダ貫通孔18を備える。ホルダ貫通孔18の前端開口は砥材保持凹部16の底面に形成されている。砥材保持部11の前端部分と線状砥材6における砥材保持部11の隣接部分は熱収縮チューブ19により被われている。
【0030】
環状部材8は樹脂製である。環状部材8はその中心孔8aに装着部13が挿入された状態で砥材ホルダ7に保持されている。環状部材8の中心孔8aの内径寸法は装着部13の外径寸法よりも長く、砥材保持部11の外径寸法よりも短い。また、環状部材8の軸線L方向の長さ寸法は、装着部13の軸線L方向の長さ寸法よりも短い。従って、環状部材8は装着部13に装着された状態で砥材ホルダ7と相対回転可能である。また、環状部材8は装着部13に装着された状態で装着部13に対して軸線L方向に移動可能である。環状部材8はゴム製あるいは金属製とすることもできる。
【0031】
環状部材8の前端面の外周縁部分には、後方に向かって外周側に広がる第1テーパー面8bが形成されている。環状部材8の後端面の外周縁部分には、前方に向かって外周側に広がる第2テーパー面8cが形成されている。環状部材8はその軸線L方向の中央で軸線Lと直交する仮想の平面に面対称な形状を備えている。
【0032】
シャンク3は、金属製であり、その外形は円柱状である。シャンク3の外径寸法は、砥材ホルダ7の砥材保持部11の外形寸法と同一である。シャンク3の前側の外周面部分には、軸線Lを挟んだ両側に外周側から切り欠かれた一対の切り欠き部21が設けられている。一対の切り欠き部21は、互いに軸線Lと平行な切り欠き面を備える。
【0033】
シャンク3の前端面の中央には、
図1(b)に示すように、軸線L方向に窪む円形の連結凹部22が形成されている。連結凹部22を囲む環状壁23の内周面には、工具側ネジ部12と螺合する雌ネジが形成されている。連結凹部22は、シャンク3と研磨工具2を連結するためのシャンク3側の連結部であり、研磨工具2の工具側ネジ部12とともに、研磨工具2とシャンクの連結部24を構成している。また、シャンク3は、軸線L方向に貫通するシャンク貫通孔25を備える。シャンク貫通孔25の前端開口は連結凹部22の底面に形成されている。シャンク3は炭素繊維強化プラスチック製とすることもできる。
【0034】
(回転工具の組み立て)
回転工具1を組み立てる際には、ワークWに設けられた加工対象の穴H(
図3参照)の深さ寸法に対応する長さ寸法を備えるシャンク3を用意する。また、加工対象の穴Hの内径寸法に対応する外径寸法を備える環状部材8を用意する。環状部材8の外径寸法は、環状部材8の外周面が穴Hの周壁面と嵌合するか、或いは、周壁面と僅かな隙間を開けて対向する寸法とすることが望ましい。
【0035】
次に、環状部材8の中心孔8aに砥材ホルダ7の後端側を挿入して、環状部材8が装着部13に保持された状態とする。その後、研磨工具2の工具側ネジ部12をシャンク3の連結凹部22に捻じ込み、連結凹部22の環状壁23の前端面を装着部13と工具側ネジ部12の間の第2段部15に当接させる。ここで、連結凹部22の環状壁23の前端面を第2段部15に当接させることにより、すき間嵌め公差により、シャンク3と砥材ホルダ7の軸ズレを防ぐことができる。工具側ネジ部12の連結凹部22への捻じ込みは、砥材ホルダ7およびシャンク3のそれぞれに形成された切り欠き部17および切り欠き部21にスパナなどの工具を係止させて行う。
【0036】
砥材ホルダ7とシャンク3が連結され工具本体5が構成されると、環状部材8は、その軸線L方向への移動が装着部13の範囲に規制された状態で砥材ホルダ7に取り付けられる。すなわち、環状部材8が前方に移動した場合には、環状部材8と装着部13と砥材保持部11の間の第1段部14(第1移動規制部)との当接によって環状部材8の前方への移動が規制され、環状部材8が後方に移動した場合には、環状部材8とシャンク3の環状壁23の前端面23a(第2移動規制部)との当接により環状部材8の後方への移動が規制される。また、砥材ホルダ7とシャンク3が連結されると、シャンク3のシャンク貫通孔25と砥材ホルダ7のホルダ貫通孔18が連通する。
【0037】
(加工動作)
ワークWに形成された穴Hの内周面を研磨加工する際には、
図3に示すように、工具本体5のシャンク3を、ツールホルダ26などを介して、工作機械の回転ヘッドに連結する。その後、研磨工具2および環状部材8を穴Hに挿入した状態とする。環状部材8の穴Hへの挿入は、その第1テーパー面8bを案内面として行うことができる。
【0038】
しかる後に、工具本体5を回転駆動して線状砥材6によって穴Hの内周面を研磨する。ここで、穴Hの内周面の底面に近い部分を研磨するためにシャンク3を長くすると、工具本体5を駆動したときに遠心力によって工具本体5の前側が大きく振れる場合がある。このような工具本体5の振れは、研磨工具2の位置を不安定にするので、加工の精度の低下を招く。また、このような振れが発生すると、砥材ホルダ7やシャンク3とワークWが接触してワークWに傷が付く可能性がある。さらに、振れによりシャンク3に折れ曲がりや破損が発生することがある。
【0039】
かかる事態に対して、本例では、加工に際して環状部材8が穴Hに挿入されているので、環状部材8によって工具本体5の軸線Lと穴Hの周壁面が所定の間隔に保持され、工具本体5の振れの範囲が規制される。すなわち、工具本体5を回転させることによって工具本体5の前側に振れが発生した場合には、環状部材8が穴Hの周壁面に接触して、その振れの範囲を規制する。この結果、研磨工具2の振れが抑制されるので、研磨工具2の位置が安定し、加工精度の低下を抑制できる。また、工具本体5の振れが抑制されるので、砥材ホルダ7やシャンク3とワークWが接触してワークWに傷が付くことを防止できる。さらに、振れによるシャンク3の折れ曲がりや破損を防止できる。
【0040】
また、本例では、環状部材8は、軸線L方向に移動可能かつ軸線L回りに回転可能な状態で砥材ホルダ7に取り付けられている。これにより、環状部材8が穴Hの周壁面に接触したときに、環状部材8が砥材ホルダ7から独立して動くので、研磨工具2の回転が阻害されることを抑制できる。すなわち、環状部材8は穴H内で砥材ホルダ7を支持するスベリ軸受けの役割を果して、工具本体5の振れを抑制する。また、環状部材8が砥材ホルダ7から独立して動くので、環状部材8が穴Hの周壁面に接触したときに、工具本体5の軸線L方向への移動が阻害されることを抑制できる。
【0041】
さらに、本例では、環状部材8の軸線L方向の移動範囲が規制されているので、環状部材8が砥材ホルダ7に対して軸線L方向に移動可能とされていても、環状部材8が加工動作中に線状砥材6の側に移動して線状砥材6と干渉することを防止できる。また、環状部材8が加工動作中にシャンク3の側に移動して穴Hから抜け出てしまうことを防止できる。
【0042】
また、本例では、研磨工具2とシャンク3がネジで連結されているので、その着脱が容易である。従って、研磨加工を繰り返すことにより線状砥材6が磨耗した場合などに、研磨工具2を新たなものと交換することが容易である。
【0043】
さらに、本例では、シャンク3のシャンク貫通孔25と砥材ホルダ7のホルダ貫通孔18が連通しているので、加工時における部材の穴Hへの挿入によって穴Hの開口が塞がれた状態となった場合でも、シャンク貫通孔25およびホルダ貫通孔18を介して、穴H内に切削油やエアーを供給できる。
【0044】
(実施例1の変形例)
上記の例では、シャンク3の側に雌ネジを備える連結凹部22が形成され、砥材ホルダ7の側に雌ネジに螺合する工具側ネジ部12が形成されているが、砥材ホルダ7の側に雌ネジを備える連結凹部を形成し、シャンク3の側に雌ネジに螺合するネジ部を形成してもよい。
【0045】
また、砥材ホルダ7の側に雌ネジを備える連結凹部を形成しシャンク3の側に雌ネジに螺合するネジ部を形成する場合には、シャンク3の側に小径の装着部を設けておき、環状部材8をシャンク3の側に保持する構成を採用することもできる。
【0046】
(実施例2)
図4(a)は本例の回転工具の斜視図であり、
図4(b)は本例の回転工具の軸線を含む断面図である。本例の回転工具1Aは、砥材ホルダ7とシャンク3を連結する連結部24の構成が実施例1の回転工具1と相違する。また、本例の回転工具1Aは、切り欠き部17および切り欠き部21が設けられていない点、シャンク貫通孔25およびホルダ貫通孔18が設けられていない点で実施例1の回転工具1とは相違する。なお、本例の回転工具1Aは、上記以外の構成は回転工具1と同一である。従って、対応する構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0047】
砥材ホルダ7は、
図4(b)に示すように、装着部13の後側部分に装着部13よりも外形寸法の短い円柱状の小径部(挿入部)31を備える。小径部31は、シャンク3を連結するための研磨工具2側の連結部である。シャンク3の前端面の中央部分には、軸線L方向に組む円形の連結凹部22が形成されている。連結凹部22は、シャンク3と研磨工具2を連結するためのシャンク3側の連結部であり、小径筒部と嵌合可能な形状をしている。連結凹部22を囲む環状壁23には、当該環状壁23を軸線Lと直交する方向に貫通する2つのネジ孔32が形成されている。2つのネジ孔32は軸線L回りに90°離間する位置に設けられている。各ネジ孔32には外周側から連結ネジ33が捻じ込まれている。なお、2つのネジ孔32の離間角度は90°に限定されるものではなく、例えば、120°離間させてもよい。ただし、離間角度を180°とするとガタが発生しやすいので、180°を避けることが望ましい。
【0048】
回転工具1Aを組み立てる際には、研磨工具2の小径部31がシャンク3の連結凹部22に挿入される。次に、環状壁23の外側から各ネジ孔32に各連結ネジ33が螺着される。そして、この連結ネジ33の先端が小径部31に当接することにより砥材ホルダ7とシャンク3とが固定される。
【0049】
本例によれば、上記の例の回転工具1と同様の作用効果を得ることができる。また、本例によれば、研磨工具2におけるシャンク3との連結部24の構成を簡易なものとすることができるので、消耗品となる研磨工具2の製造コストを抑制できる。
【0050】
また、シャンク3および砥材ホルダ7の一方に設けたネジ孔32と他方に設けたネジ部によってシャンク3と砥材ホルダ7を連結した場合には、工具本体5の回転駆動方向によってシャンク3と砥材ホルダ7の連結が緩む場合があるが、連結ネジ33を用いてシャンク3と砥材ホルダ7を連結すれば、このような緩みを回避できる。
【0051】
(実施例2の変形例)
なお、本例の回転工具1Aにおいても、上記の回転工具1と同様に、砥材ホルダ7にホルダ貫通孔18を備え、シャンク3にシャンク貫通孔25を備え、砥材ホルダ7とシャンク3を連結したときに、ホルダ貫通孔18とシャンク貫通孔25が連結する構成を備えることができる。
【0052】
また、上記の例では、砥材ホルダ7に小径部(挿入部)31を備え、シャンク3の前端面に連結凹部22を備えているが、砥材ホルダ7の後端面にネジ孔を備える連結凹部を備え、シャンク3の前側部分に小径部(挿入部)を備え、ネジ孔に捻じ込まれるネジにより砥材ホルダ7とシャンク3を連結する構成を採用することもできる。
【0053】
(実施例3)
図5(a)は本例の回転工具の斜視図であり、
図5(b)は環状部材の斜視図である。本例の回転工具1Bは鍔部4を構成する環状部材41の形状が実施例1の回転工具1とは相違する。なお、本例の回転工具1Bは、環状部材41を除いて実施例1の回転工具1と同一の構成を備える。従って、対応する構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0054】
環状部材41は、中心孔8aに装着部13が挿入された環状部42と、環状部42から後方に向かって外周側に放射状に延びる複数枚の板状の延設部43を備える。環状部42の環状前端面の外周縁部分には、後方に向かって外周側に傾斜するテーパー面42aが設けられている。本例では、4枚の延設部43が設けられている。各延設部43の外周側の面はテーパー面となっている。従って、環状部材41は、後方に向かって連続して外径寸法が漸増している。また、各延設部43は、その後端が環状部42の後端よりも後方に位置している。ここで、環状部材41は、樹脂からなる一体成型品であり、延設部43は環状部42に向かう内周側にバネ性を持って撓むことができる。すなわち、環状部材41は、軸線Lを中心として半径方向に収縮可能である。
【0055】
環状部材41は、軸線L回りに回転可能な状態、かつ、軸線L方向の前後方向への移動が規制された状態で、砥材ホルダ7に保持される。すなわち、環状部42と装着部13と第1段部14との当接によって環状部材41の前方への移動が規制され、環状部42とシャンク3の環状壁23の前端面23aとの当接によって環状部材41の後方への移動が規制される。
【0056】
(加工方法)
図6は本例の回転工具1Bの加工方法の説明図である。本例では、環状部材41を加工対象の穴Hに挿入する際に、延設部43を穴Hの周壁面に当接させて、穴Hの内径寸法に応じて延設部43を内周側に撓ませながら挿入する。従って、環状部材41によって研磨工具2の位置を安定させながら、研磨工具2を穴H内に案内できる。また、本例では、環状部材41の延設部43が穴Hの周壁面へ当接した状態とされる。環状部材41が穴Hの周壁面に当接すると、環状部材41によって工具本体5の軸線Lと穴Hの周壁面が所定の間隔に保持される。
【0057】
しかる後に、工具本体5を回転駆動して線状砥材6によって穴Hの内周面を研磨する。ここで、環状部材41は穴H内で砥材ホルダ7を支持するスベリ軸受けの役割を果す。従って、工具本体5の振れが抑制される。
【0058】
また、本例では、穴Hの内径寸法に応じて延設部43が内周側に撓むので、異なる内径寸法を備える複数の穴Hの内周面を連続して加工する場合に、環状部材41を穴Hの内径寸法に対応させて交換する回数を低減できる。
【0059】
なお、本例の回転工具1Bにおいて、研磨工具2とシャンク3の連結部24の構成を、実施例2における研磨工具2とシャンク3の連結部24のように連結ネジ33を用いた構成とすることができる。
【0060】
(実施例4)
図7(a)は本例の回転工具の斜視図であり、
図7(b)は環状部材の斜視図である。本例の回転工具1Cは、鍔部4を構成する環状部材51の形状が実施例1の回転工具1とは相違する。なお、本例の回転工具1Cは、環状部材51を除いて実施例1の回転工具1と同一の構成を備える。従って、対応する構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0061】
環状部材51は、中心孔52aに装着部13が挿入される第1環状部52と、軸線L方向で第1環状部52の後方に離間した位置に配置され、その中心孔53aにシャンク3が挿入される第2環状部53と、第1環状部52と第2環状部53を連結する複数本の線状連結部54を備える。第1環状部52と第2環状部53は同軸に配置されており、第2環状部53の内径寸法は、第1環状部52の内径寸法よりも長い。
【0062】
複数本の線状連結部54は軸線Lを囲む環状に配置されている。各線状連結部54は、第1環状部52から後方に向かって外周側に延びる前側部分54aと、前側部分54aの後端から後方に向かって内周側に延びて第2環状部53に連続する後側部分54bを備える。ここで、環状部材51は樹脂により一体成型品であり、各線状連結部54は内周側にバネ性を持って撓むことができる。すなわち、環状部材51は、軸線Lを中心として半径方向に収縮可能である。なお、環状部材51は、金属製とすることもできる。
【0063】
第1環状部52は、その軸線L方向の前後方向への移動が規制された状態で装着部13に装着されている。すなわち、第1環状部52は、装着部13と砥材保持部11との間の第1段部14との当接によって環状部材51の前方への移動が規制され、シャンク3の環状壁23の前端面23aとの当接によって環状部材51の後方への移動が規制されている。
【0064】
ここで、第2環状部53は、シャンク3の外形寸法よりも長い内径寸法を備える。従って、第2環状部53は、第1環状部52と一体に軸線L回りに回転可能な状態でシャンク3に保持されている。また、第2環状部53はシャンク3に対して軸線L方向に移動可能であるとともに、線状連結部54が撓む範囲で第1環状部52との間の距離を変化させることができる。
【0065】
(加工方法)
図8は本例の回転工具1Cの加工方法の説明図である。本例では、環状部材51を穴Hに挿入する際に、各線状連結部54を穴Hの周壁面に当接させて、穴Hの内径寸法に応じて各線状連結部54を内周側に撓ませながら挿入する。環状部材51の穴Hへの挿入は、その前側部分54aを案内面として行うことができる。従って、研磨工具2は、その位置が安定した状態で穴H内に進入する。また、本例では、線状連結部54が穴Hの周壁面への環状部材51の固定部となる。すなわち、線状連結部54が穴Hの周壁面に当接した状態となると、線状連結部54に働く反力によって、環状部材51が穴Hに固定される。環状部材51が穴Hに固定されると、環状部材51によって工具本体5の軸線Lと穴Hの周壁面が所定の間隔に保持される。
【0066】
しかる後に、工具本体5を回転駆動して線状砥材6によって穴Hの内周面を研磨する。ここで、環状部材51は穴H内で砥材ホルダ7を支持するスベリ軸受けの役割を果し、工具本体5の振れを抑制する。従って、本例においても、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
また、本例では、穴Hの内径寸法に応じて線状連結部54が内周側に撓むので、異なる内径寸法を備える複数の穴Hの内周面を連続して加工する場合に、環状部材51を穴Hの内径寸法に対応させて交換する回数を低減できる。さらに、本例では、各線状連結部54が、線状であり、柔軟に撓むので、穴H内で工具本体5を傾斜させることが可能となる。従って、穴Hがアンダー形状を備える場合でも、そのアンダー形状部分を加工することができる。
【0068】
なお、本例の回転工具1Cにおいて、研磨工具2とシャンク3の連結部24の構成を、実施例2における研磨工具2とシャンク3の連結部24のように連結ネジ33を用いた構成とすることができる。
【0069】
(実施例5)
図9(a)は本例の回転工具の斜視図であり、
図9(b)は本例の回転工具の軸線Lを含む断面図である。本例の回転工具1Dは鍔部4の構成が実施例1の回転工具1と相違する。なお、本例の回転工具1Dは、環状部材61を除いて実施例1の回転工具1と同一の構成を備える。従って、対応する構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0070】
図9(a)に示すように、鍔部4は、前方から後方に向かってこの順番に配列された第1〜第6環状部材61〜66を備える。各環状部材61〜66は、いずれの円環状である。また、各環状部材61〜66の環状前端面の外周縁部分にはそれぞれ後方に向かって外周側に傾斜するテーパー面61a〜66aが形成されている。
【0071】
第1環状部材61は、軸線L方向に移動可能かつ軸線L回りに回転可能な状態で砥材ホルダ7の装着部13に装着されている。すなわち、第1環状部材61は、
図9(b)に示すように、装着部13と砥材保持部11との間の第1段部14より前方への移動が規制され、シャンク3の環状壁23の前端面23aにより後方への移動が規制されている。
【0072】
第2環状部材62は第1環状部材61よりも外径寸法が大きく、第3環状部材63は第2環状部材62よりも外径寸法が大きく、第4環状部材64は第3環状部材63よりも外径寸法が大きい。また、第5環状部材65は第4環状部材64よりも外径寸法が大きく、第6環状部材66は、第5環状部材65よりも外径寸法が大きい。従って、鍔部4は、軸線Lに沿って後方に向かって段階的に外径寸法が漸増している。第2〜第6環状部材62〜66は、いずれも軸線L方向に移動可能、かつ、軸線L回りに回転可能な状態でシャンク3に保持されている。また、第2〜第6環状部材62〜66は、第1環状部材61によって軸線L方向の前方への移動が規制されている。
【0073】
(加工方法)
図10は本例の回転工具1Dによる加工方法の説明図である。
図10に示すように、本例では、穴Hの内周面の加工に際して、第1〜第6環状部材61〜66のうち、穴Hの内径よりも短い外径寸法を備える環状部材61〜65を自重によって穴H内に落とし込んだ状態とする。
【0074】
しかる後に、回転工具1Dを回転駆動して線状砥材6によって穴Hの内周面を研磨する。ここで、環状部材61〜65のうちのいくつかが穴H内に落とし込まれると、穴H内に配置された環状部材61〜65のうちの最も径の大きな環状部材65が回転工具1Dの軸線Lと穴Hの周壁面を所定の間隔に保持され、回転工具1Dの振れの範囲が規制される。すなわち、回転工具1Dを回転させると、環状部材65が穴Hの周壁面に接触して、回転工具1Dの振れを防止する。従って、本例においても、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0075】
また、本例では、異なる内径寸法を備える複数の穴Hの内周面を連続して加工する場合に、環状部材を穴Hの内径寸法に対応させて交換する回数を低減できる。すなわち、本例では、穴Hの内径寸法に応じて、穴H内に1または複数の環状部材61〜66を挿入して、回転工具1Dの振れを抑制することができる。
【0076】
なお、鍔部4を構成する環状部材の個数は6に限られるものではない。
【0077】
また、本例の回転工具1Dにおいて、研磨工具2とシャンク3の連結部24の構成を、実施例2における研磨工具2とシャンク3の連結部24のように連結ネジ33を用いた構成とすることができる。
【0078】
(実施例6)
図11は本例の回転工具の斜視図である。
図12は本例の回転工具の軸線Lを含む断面図である。なお、本例の回転工具1Eは実施例1の回転工具1と同様の構成を備えるので、対応する構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0079】
図11に示すように、本例の回転工具1Eは、軸線L方向に同軸に連結された研磨工具2およびシャンク3を備える。本例では、シャンク3は、第1シャンク71と、この第1シャンク71の後側に同軸に連結された第2シャンク72を備える。従って、工具本体5は、研磨工具2、第1シャンク71および第2シャンク72により構成されている。また、本例では、鍔部4として、工具本体5に設けられた第1環状部材73と、シャンク3に設けられた第2環状部材74を備える。第2環状部材74は、第1シャンク71の後端部分に設けられている。
【0080】
研磨工具2は、複数本の線状砥材6と、これら複数本の線状砥材6の後端部分を保持する砥材ホルダ7を備える。本例の研磨工具2は、実施例1の研磨工具2と同一の構成を備える。研磨工具2に設けられた第1環状部材73は、環状の第1環状部材75から構成され、砥材ホルダ7の装着部13に取り付けられている。第1環状部材75は、実施例1の環状部材8と同一の構成を備えており、砥材ホルダ7の装着部13に軸線L方向に移動可能かつ軸線L回りに回転可能な状態で装着されている。
図12に示すように、砥材ホルダ7は装着部13の後側に隣接して工具側ネジ部12を備える。また、砥材ホルダ7は軸線L方向に貫通するホルダ貫通孔18を備える。
【0081】
第1シャンク71は、金属製であり、その外形は円柱状である。第1シャンク71は、
図12に示すように、前方から後方に向かって、砥材ホルダ7の砥材保持部11の外形寸法と同一の外径寸法を備える筒部77と、筒部77よりも小径のシャンク側装着部78と、シャンク側装着部78よりも小径のシャンク側ネジ部79を備える。ここで、シャンク側装着部78には、第2環状部材74を構成する環状の第2環状部材80が装着される。第2環状部材80は、第1環状部材75と同一の部材である。第2環状部材80の軸線L方向の長さ寸法は、シャンク側装着部78の軸線L方向の長さ寸法よりも短い。シャンク側ネジ部79は、外周面に雄ネジが形成されている。
【0082】
筒部77の前側の外周面部分には、軸線Lを挟んだ両側に外周側から切り欠かれた一対の第1切り欠き部81が設けられている。一対の第1切り欠き部81は、互いに軸線Lと平行な切り欠き面を備える。筒部77の前端面の中央には、軸線L方向に窪む円形の連結凹部22が形成されている。連結凹部22を囲む環状壁23の内周面には、工具側ネジ部12と螺合する雌ネジが形成されている。
【0083】
筒部77の後側の外周面部分には、軸線Lを挟んだ両側に外周側から切り欠かれた一対の第2切り欠き部82が設けられている。一対の第2切り欠き部82は、互いに軸線Lと平行な切り欠き面を備える。シャンク側装着部78と筒部77の間には後方を向く環状端面を備えるシャンク側段部83が形成されている。また、第1シャンク71は、シャンク側ネジ部79、シャンク側装着部78および筒部77を軸線L方向に貫通する第1シャンク貫通孔84を備える。第1シャンク貫通孔84の前端開口は連結凹部22の底面に形成されている。なお、第1シャンク71は炭素繊維強化プラスチック製とすることもできる。
【0084】
第2シャンク72は、金属製であり、その外形は円柱状である。第2シャンク72の外径寸法は第1シャンク71の筒部77の外形寸法と同一である。第1シャンク71の前側の外周面部分には、軸線Lを挟んだ両側に外周側から切り欠かれた一対の切り欠き部86が設けられている。一対の切り欠き部86は、互いに軸線Lと平行な切り欠き面を備える。
【0085】
第2シャンク72の前端面の中央には、軸線L方向に窪む円形の第2連結凹部87が形成されている。第2連結凹部87を囲む環状壁88の内周面には、シャンク側ネジ部79と螺合する雌ネジが形成されている。また、第2シャンク72は、軸線L方向に貫通する第2シャンク貫通孔89を備える。第2シャンク貫通孔89の前端開口は第2連結凹部87の底面に形成されている。なお、第2シャンク72は炭素繊維強化プラスチック製とすることもできる。
【0086】
(回転工具の組立て)
本例の回転工具1Eを組み立てる際には、第1環状部材75の中心孔75aに砥材ホルダ7の後端側を挿入して、第1環状部材75が装着部13に保持された状態とする。その後、研磨工具2の工具側ネジ部12を第1シャンク71の連結凹部22に捻じ込む。工具側ネジ部12の連結凹部22への捻じ込みは、砥材ホルダ7の切り欠き部17および第1シャンク71の第1切り欠き部81にスパナなどの工具を係止させて行う。
【0087】
砥材ホルダ7と第1シャンク71が連結されると、第1環状部材75は、その軸線L方向の前後方向への移動が装着部13の範囲に規制された状態で砥材ホルダ7に取り付けられる。すなわち、砥材ホルダ7の装着部13と砥材保持部11の間の第1段部14が第1環状部材75の前方への移動を規制し、第1シャンク71の環状壁23の前端面23aが第1環状部材75の後方への移動を規制する。また、砥材ホルダ7と第1シャンク71が連結されると、第1シャンク71の第1シャンク貫通孔84と砥材ホルダ7のホルダ貫通孔18が連通する。
【0088】
次に、第2環状部材80の中心孔80aに第1シャンク71の後端側を挿入して、第2環状部材80がシャンク側装着部78に保持された状態とする。その後、第1シャンク71のシャンク側ネジ部79を第2シャンク72の第2連結凹部87に捻じ込む。シャンク側ネジ部79の第2連結凹部87への捻じ込みは、第1シャンク71の第2切り欠き部82および第2シャンク72の切り欠き部86にスパナなどの工具を係止させて行う。
【0089】
第1シャンク71と第2シャンク72が連結されると、第2環状部材80は、その軸線L方向の前後方向への移動がシャンク側装着部78の範囲に規制された状態で第1シャンク71に取り付けられる。すなわち、第1シャンク71のシャンク側装着部78と筒部77の間のシャンク側段部83が第2環状部材80の前方への移動を規制し、第2シャンク72の環状壁88の前端面88aが第2環状部材80の後方への移動を規制する。また、第1シャンク71と第2シャンク72が連結されると、第1シャンク71の第1シャンク貫通孔84と第2シャンク72の第2シャンク貫通孔89が連通する。これにより、第1シャンク貫通孔84、第2シャンク貫通孔89、および、ホルダ貫通孔18が連通する。
【0090】
(加工方法)
図13は、本例の回転工具1Eによる穴Hの内周面の加工方法の説明図である。本例の回転工具1Eを用いてワークWに形成された穴Hの内周面を研磨加工する際には、
図12に示すように、研磨工具2、第1環状部材75、第1シャンク71、第2環状部材80を穴Hに挿入した状態とする。しかる後に、回転工具1Eを回転駆動して線状砥材6によって穴Hの内周面を研磨する。
【0091】
ここで、第1環状部材75と第2環状部材80が穴Hに挿入されると、第1環状部材75および第2環状部材80によって工具本体5の軸線Lと穴Hの周壁面が所定の間隔に保持され、工具本体5の振れの範囲が規制される。すなわち、工具本体5を回転させることによって工具本体5の前側に振れが発生した場合には、第1環状部材75および第2環状部材80が穴Hの周壁面に接触して、その振れの範囲を規制する。この結果、研磨工具2の振れが抑制されるので、加工精度の低下を抑制できる。また、工具本体5の振れが抑制されるので、砥材ホルダ7やシャンク3とワークWが接触してワークWに傷が付くことを防止できる。さらに、振れによるシャンク3の折れ曲がりや破損を防止できる。
【0092】
また、本例では、第1環状部材75および第2環状部材80は、軸線L方向に移動可能かつ軸線L回りに回転可能な状態で砥材ホルダ7またはシャンク3に取り付けられている。従って、第1環状部材75および第2環状部材80が穴Hの周壁面に接触したときに、各環状部材75、80が砥材ホルダ7およびシャンク3から独立して動くので、研磨工具2の回転が阻害されることを抑制できる。すなわち、第1環状部材75は穴H内で砥材ホルダ7を支持するスベリ軸受けの役割を果し、第2環状部材80は穴H内でシャンク3を支持するスベリ軸受けの役割を果し、これにより、工具本体5の振れを抑制する。また、環状部材75、80が砥材ホルダ7から独立して動くので、環状部材75、80が穴Hの周壁面に接触したときに、工具本体5の軸線L方向への移動が阻害されることを抑制できる。
【0093】
さらに、本例では、各環状部材75、80の軸線L方向の移動範囲が規制されているので、各環状部材75、80が軸線L方向に移動可能とされていても、各環状部材75、80が加工動作中に線状砥材6の側に移動して砥材と干渉することを防止できる。また、各環状部材75、80が加工動作中に第2シャンク72の側に移動して穴Hから抜け出てしまうことを防止できる。
【0094】
また、本例では、研磨工具2と第1シャンク71、および、第1シャンク71と第2シャンク72がネジで連結されているので、その着脱が容易である。従って、研磨加工を繰り返すことにより線状砥材6が磨耗した場合などに、研磨工具2を新たなものと交換することが容易である。また、穴Hの深さ寸法に応じて、長さ寸法の異なる複数の第1シャンク71および第2シャンク72を組み合わせて連結することが容易である。
【0095】
さらに、本例では、第2シャンク72の第2シャンク貫通孔89、第1シャンク71の第1シャンク貫通孔84および砥材ホルダ7のホルダ貫通孔18が連通しているので、加工時における各環状部材75、80の穴Hへの挿入によって穴Hの開口が塞がれた状態となった場合でも、第2シャンク貫通孔89、第1シャンク貫通孔84およびホルダ貫通孔18を介して、穴H内に切削油やエアーを供給できる。
【0096】
(実施例6の変形例)
なお、本例の回転工具1Eにおいて、研磨工具2と第1シャンク71の連結部24の構成を、実施例2における研磨工具2とシャンク3の連結部24のように連結ネジ33を用いた構成とすることができる。また、第1シャンク71と第2シャンク72の連結部90の構成を、実施例2における研磨工具2とシャンク3の連結部24のように連結ネジ33を用いた構成とすることができる。
【0097】
また、本例では、シャンク3は、第1シャンク71と第2シャンク72の2つのシャンク3を備えるが、3以上のシャンクを備えるものとすることができる。この場合には、前後に連結された2つのシャンクの後端部分に、鍔部4としての環状部材を備えることが望ましい。
【0098】
上記の例では、第1シャンク71の側に雌ネジを備える連結凹部22が形成され、砥材ホルダ7の側に雌ネジに螺合する工具側ネジ部12が形成されているが、砥材ホルダ7の側に雌ネジを備える連結凹部を形成し、第1シャンク71の側に雌ネジに螺合するネジ部を形成してもよい。また、この場合には、第1シャンク71の側に小径の装着部を設けておき、第1環状部材75を第1シャンク71の側に保持する構成を採用することもできる。
【0099】
また、上記の例では、第2シャンク72の側に雌ネジを備える第2連結凹部87が形成され、第1シャンク71の側に雌ネジに螺合するシャンク側ネジ部79が形成されているが、第1シャンク71の側に雌ネジを備える連結凹部を形成し、第2シャンク72の側に雌ネジに螺合するネジ部を形成してもよい。また、この場合には、第2シャンク72の側に小径の装着部を設けておき、第2環状部材80を第2シャンク72の側に保持する構成を採用することもできる。
【0100】
さらに、上記の例では、第2シャンク72に第2シャンク貫通孔89が設けられ、第1シャンク71に第1シャンク貫通孔84が設けられ、砥材ホルダ7にホルダ貫通孔18が設けられているが、貫通孔84、89に起因してシャンク3の剛性の低下を招く場合には、各貫通孔18、84、89を省略することができる。
【0101】
(実施例7)
図14(a)は本例の回転工具の斜視図であり、
図14(b)は本例の回転工具の軸線Lを含む断面図である。
図15は
図14の回転工具の分解斜視図である。なお、本例の回転工具1Fは実施例1の回転工具1と同様の構成を備えるので、対応する構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0102】
図14(a)に示すように、本例の回転工具1Fは、軸線L方向に同軸に連結された研磨工具2およびシャンク3と、砥材ホルダ7とシャンク3の間に跨って設けられた鍔部4を備える。すなわち、研磨工具2およびシャンク3は工具本体5を構成しており、鍔部4は工具本体5の軸線L方向の途中位置に設けられている。鍔部4は、研磨工具2とシャンク3の連結部24に同軸に取り付けられた環状の環状部材95である。回転工具1Fにおいて環状部材95を軸線L方向で間に挟んだ前方には第1Oリング96が取り付けられおり、後側には第2Oリング97が取り付けられている。
【0103】
研磨工具2は、複数本の線状砥材6と、これら複数本の線状砥材6の後端部分を保持する砥材ホルダ7を備える。砥材ホルダ7は円柱状であり、
図14(b)に示すように、前方から後方に向かって線状砥材6を保持する砥材保持部11と、砥材保持部11よりも小径の工具側ネジ部12をこの順番で備える。砥材保持部11の砥材保持凹部16には、複数本の線状砥材6の後端部分が束の状態で挿入されて、接着剤により固定されている。砥材保持部11と工具側ネジ部12の間には後方を向く環状端面を備える段部98が形成されている。砥材ホルダ7は、軸線L方向に貫通するホルダ貫通孔18を備える。
【0104】
シャンク3は、金属製であり、その外形は円柱状である。シャンク3の外径寸法は、砥材ホルダ7の砥材保持部11の外形寸法と同一である。シャンク3の前端面の中央には、軸線L方向に窪む円形の連結凹部22が形成されている。連結凹部22を囲む環状壁23の内周面には、工具側ネジ部12と螺合する雌ネジが形成されている。また、シャンク3は、軸線L方向に貫通するシャンク貫通孔25を備える。シャンク貫通孔25の前端開口は連結凹部22の底面に形成されている。シャンク3は炭素繊維強化プラスチック製とすることもできる。
【0105】
ここで、環状部材95は、実施例1の回転工具1の環状部材8と同様の構成を備えるが、その中心孔95aの内径寸法が、実施例1の環状部材8の中心孔8aの内径寸法よりも長く、中心孔95aにシャンク3および砥材ホルダ7の砥材保持部11を挿入可能となっている。従って、環状部材95は、軸線L方向に移動可能、かつ、軸線L回りの回転可能な状態で、研磨工具2とシャンク3の連結部24に保持されている。
【0106】
(回転工具の組立て)
本例の回転工具1Fを組み立てる際には、研磨工具2の砥材ホルダ7に後方から第1Oリング96を嵌め込む。その後、環状部材95の中心孔95aに砥材ホルダ7の後端側を挿入して、環状部材95が砥材ホルダ7の砥材保持部11に部分的に保持された状態とする。この一方で、シャンク3に前方から第2Oリング97を嵌め込み、この状態で、研磨工具2の工具側ネジ部12をシャンク3の連結凹部22に捻じ込む。ネジ部の連結凹部22への捻じ込みは、砥材ホルダ7の切り欠き部17およびシャンク3の切り欠き部21にスパナなどの工具を係止させて行う。
【0107】
砥材ホルダ7とシャンク3が連結されると、環状部材95は、その軸線L方向の前後方向への移動が第1Oリング96と第2Oリング97の間の範囲に規制された状態で砥材ホルダ7およびシャンク3に取り付けられる。すなわち、環状部材95が前方に移動した場合には、環状部材95と第1Oリング96との当接によって環状部材95の前方への移動が規制され、環状部材95が後方に移動した場合には、環状部材95と第2Oリング97との当接により環状部材95の後方への移動が規制される。また、砥材ホルダ7とシャンク3が連結されると、シャンク3のシャンク貫通孔25と砥材ホルダ7のホルダ貫通孔18が連通する。
【0108】
(加工方法)
本例の回転工具1Fを用いてワークWに形成された穴Hの内周面を研磨加工する際には、
図3に示す場合と同様に、研磨工具2、環状部材95を穴Hに挿入した状態とする。しかる後に、工具本体5を回転駆動して線状砥材6によって穴Hの底面などを研磨する。
【0109】
本例においても、環状部材95が穴Hに挿入されると、環状部材95によって工具本体5の軸線Lと穴Hの周壁面が所定の間隔に保持され、工具本体5の振れの範囲が規制される。従って、本例においても、実施例1の場合と同様な効果を得ることができる。
【0110】
また、本例では、第1Oリング96および第2Oリング97のそれぞれの取付け位置を軸線L方向に移動させることができる。従って、穴Hの深さ寸法に合わせて、環状部材95の位置を調整することができる。さらに、環状部材95の軸線L方向における移動範囲を調整することができる。
【0111】
なお、第1Oリング96および第2Oリング97の双方を砥材ホルダ7に嵌め込んで、環状部材95を第1Oリング96および第2Oリング97の間に位置させることにより、環状部材95を砥材ホルダ7に保持させることができる。また、第1Oリング96および第2Oリング97の双方をシャンク3に嵌め込んで、環状部材95を第1Oリング96および第2Oリング97の間に位置させることにより、環状部材95をシャンク3に保持させることもできる。
【0112】
また、本例の回転工具1Fにおいて、研磨工具2とシャンク3の連結部24の構成を、実施例2における研磨工具2とシャンク3の連結部24のように連結ネジ33を用いた構成とすることができる。
【0113】
(実施例8)
図16(a)は本例の回転工具の斜視図であり、
図16(b)は本例の回転工具の軸線Lを含む断面図である。
図17は
図16の回転工具の分解斜視図である。本例の回転工具1Gは、シャンク3の前端部分の構成および砥材ホルダ7の構成が実施例1の回転工具1と相違する。なお、本例の回転工具1Gは、実施例1の回転工具1と対応する構成を備えるので、対応する部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0114】
図16(a)に示すように、回転工具1Gは、軸線L方向に同軸に連結された研磨工具2およびシャンク3と、鍔部4とを備える。研磨工具2とシャンク3は工具本体5を構成する。鍔部4は、工具本体5の軸線L(回転中心軸線)方向の途中に設けられている。鍔部4は工具本体5とは別体の環状部材8である。
【0115】
研磨工具2は、複数本の線状砥材(砥材)6を円形に束ねて形成した砥材束101を複数備える。また、これら複数の砥材束101の後端部分を保持する砥材ホルダ7を備える。砥材ホルダ7は、
図16(b)に示すように、砥材束101の後端部分を保持する円環状のホルダ本体部102、ホルダ本体部102を貫通して当該ホルダ本体部102を軸線L(回転中心軸線)方向にスライド可能に支持する棒状部103、および、ホルダ本体部102を棒状部103に固定するための2本の止めネジ104を備える。シャンク3は棒状部103の後端部分に連結されて棒状部103と同軸に延びている。
【0116】
ホルダ本体部102および棒状部103は金属製または樹脂製である。ホルダ本体部102の前端面には、軸線L方向に窪む円形の砥材保持凹部16が複数形成されている。複数の砥材保持凹部16は等角度間隔で環状に配列されている。各砥材保持凹部16には各砥材束101の後端部分が挿入されて、接着剤により固定されている。これにより、複数の砥材束101は環状に配列された状態でホルダ本体部102から前方に突出する。ホルダ本体部102および複数の砥材束101はカップ型の研磨ブラシ105を構成している。
【0117】
また、ホルダ本体部102の外周面には2つのネジ孔106が形成されている。2つのネジ孔106は軸線Lを挟んで反対側に設けられている。各ネジ孔106は軸線Lと直交する半径方向に貫通してホルダ本体部102の中心孔102aに連通する。
【0118】
図17に示すように、棒状部103は、その前側に、ホルダ本体部102の中心孔102aに挿入されてホルダ本体部102を同軸に支持する挿入部107を備える。挿入部107の外周面には軸線L方向に延びる2つの平坦面107aが形成されている。2つの平坦面107aは軸線Lを間に挟んで反対側に設けられている。各平坦面107aは軸線Lと平行に延びている。
【0119】
また、棒状部103は、後端部分に、工具側ネジ部12を備える。工具側ネジ部12は、シャンク3を連結するための研磨工具2側の連結部である。工具側ネジ部12は円柱状であり、その外周面には雄ネジが形成されている。
【0120】
挿入部107と工具側ネジ部12の間には装着部13が設けられている。装着部13の外径寸法は挿入部107の外形寸法よりも短い。また、工具側ネジ部12の外径寸法は装着部13の外径寸法よりも短い。従って、挿入部107と装着部13の間には後方を向く第1環状端面を備える第1段部(第1移動規制部)14が形成され、装着部13と工具側ネジ部12の間には後方を向く第2環状端面を備える第2段部15が形成されている。また、棒状部103は、軸線L方向に貫通するホルダ貫通孔18を備える。
【0121】
研磨工具2を組み立てる際には、まず、棒状部103の挿入部107をホルダ本体部102の中心孔102aに挿入する。次に、棒状部103に沿ってホルダ本体部102をスライドさせて軸線L方向の所望の位置に配置する。その後、ホルダ本体部102のネジ孔106に止めネジ104を捩じ込み、
図16(b)に示すように、止めネジ104の内周側の端(先端)を棒状部103の平坦面107aに当接させる。これにより、ホルダ本体部102を棒状部103に固定する。ここで、ホルダ本体部102のネジ孔106、止めネジ104、および、棒状部103の平坦面107aは、ホルダ本体部102を棒状部103に着脱可能に固定する固定機構108を構成している。
【0122】
シャンク3は金属製または樹脂製である。シャンク3は前端部分に砥材ホルダ7の装着部13と同一の外径寸法を有するシャンク側装着部111を備える。シャンク3におけるシャンク側装着部111よりも後方のシャンク本体部112は砥材ホルダ7の挿入部107と同一の外径寸法を備える。シャンク本体部112の前側の外周面部分には、軸線Lを挟んだ両側に外周側から切り欠かれた一対の切り欠き部21が設けられている。一対の切り欠き部21は、互いに軸線Lと平行な切り欠き面を備える。
【0123】
シャンク3の前端面(シャンク側装着部111の前端面)の中央には、
図16(b)に示すように、軸線L方向に窪む円形の連結凹部22が形成されている。連結凹部22を囲む環状壁23の内周面には、工具側ネジ部12と螺合する雌ネジが形成されている。連結凹部22は、シャンク3と研磨工具2を連結するためのシャンク3側の連結部であり、研磨工具2の工具側ネジ部12とともに、研磨工具2とシャンク3の連結部24を構成している。従って、連結凹部22に砥材ホルダ7の棒状部103の工具側ネジ部12が捻じ込まれることにより、研磨工具2とシャンク3は連結される。また、シャンク3は、軸線L方向に貫通するシャンク貫通孔25を備える。シャンク貫通孔25の前端開口は連結凹部22の底面に形成されている。
【0124】
環状部材8は樹脂製、ゴム製あるいは金属製である。環状部材8は、その中心孔8aに砥材ホルダ7の装着部13およびシャンク3のシャンク側装着部111が挿入された状態で研磨工具2に支持されている。環状部材8の外径寸法はホルダ本体部102の外径寸法より長い。
【0125】
また、環状部材8の中心孔8aの内径寸法は装着部13およびシャンク側装着部111の外径寸法よりも長く、挿入部107およびシャンク本体部112の外径寸法よりも短い。環状部材8の軸線L方向の長さ寸法は、装着部13の軸線L方向の長さ寸法およびシャンク側装着部111の軸線L方向の長さ寸法を合計した合計寸法よりも短い。従って、環状部材8は装着部13およびシャンク側装着部111に装着された状態で研磨工具2と相対回転可能である。また、環状部材8は装着部13およびシャンク側装着部111に装着された状態で研磨工具2に対して軸線L方向に移動可能である。
【0126】
環状部材8の前端面の外周縁部分には、後方に向かって外周側に広がる第1テーパー面8bが形成されている。環状部材8の後端面の外周縁部分には、前方に向かって外周側に広がる第2テーパー面8cが形成されている。環状部材8はその軸線L方向の中央で軸線Lと直交する仮想の平面に面対称な形状を備えている。
【0127】
回転工具1Gを組み立てる際には、環状部材8の中心孔8aに砥材ホルダ7の棒状部103の後端側を挿入して、環状部材8が装着部13に保持された状態とする。その後、研磨工具2の工具側ネジ部12をシャンク3の連結凹部22に捻じ込み、連結凹部22の環状壁23の前端面を装着部13と工具側ネジ部12の間の第2段部15に当接させる。これにより、環状部材8は装着部13およびシャンク側装着部111に保持された状態となる。工具側ネジ部12の連結凹部22への捻じ込みは、シャンク3に形成された切り欠き部21にスパナなどの工具を係止させて行うことができる。
【0128】
砥材ホルダ7とシャンク3が連結され工具本体5が構成されると、環状部材8は、その軸線L方向への移動が装着部13およびシャンク側装着部111の範囲に規制された状態で工具本体5に支持された状態となる。すなわち、環状部材8が前方に移動した場合には、環状部材8と装着部13と挿入部107の間の第1段部14(第1移動規制部)との当接によって環状部材8の前方への移動が規制され、環状部材8が後方に移動した場合には、環状部材8と、シャンク3におけるシャンク本体部112とシャンク側装着部111の間の段部113(第2移動規制部)との当接により環状部材8の後方への移動が規制される。また、砥材ホルダ7とシャンク3が連結されると、シャンク3のシャンク貫通孔25と砥材ホルダ7(棒状部103)のホルダ貫通孔18が連通する。
【0129】
本例の回転工具1Gによれば、実施例1の回転工具1と同様の作用効果を得ることができる。また、本例の回転工具1Gは軸線L回りを環状に配列された複数の砥材束101を備えるので、実施例1の回転工具1と比較して大きな内径の穴Hを加工するのに適する。
【0130】
さらに、本例では、砥材ホルダ7の棒状部103が砥材束101を保持するホルダ本体部102を軸線L方向にスライド可能に支持している。従って、止めネジ104を緩めてホルダ本体部102を挿入部107に沿って移動させれば、砥材束101の前端を加工対象の穴Hの深さに対応した所望の位置に配置できる。また、加工動作によって砥材束101が磨耗した場合にも、止めネジ104を緩めてホルダ本体部102を前方にスライドさせることにより、砥材束101の前端を軸線L方向の所望の位置に配置できる。さらに、砥材束101が磨耗した場合には、棒状部103からホルダ本体部102を引き抜いてホルダ本体部102の側(研磨ブラシ105)を新たなものと交換できる。従って、棒状部103を再利用できる。
【0131】
なお、研磨工具2とシャンク3の連結部24として、実施例2の構成を採用できる。
【0133】
(その他の実施の形態)
なお、上記の例は、研磨工具2にシャンク3が着脱可能に連結されることにより構成された工具本体5が鍔部4を備えるものであるが、研磨工具2とシャンク3が一体とされた工具本体5に鍔部4を備えることもできる。