【文献】
Maurya, Sushil K.; Dow, Mark; Warriner, Stuart; Nelson, Adam,Synthesis of skeletally diverse alkaloid-like molecules: exploitation of metathesis substrates assembled from triplets of building blocks,Beilstein Journal of Organic Chemistry,2013年,Vol.9,p.775-785,S1-S65
【文献】
White, Timothy D. et al.,Development of a Continuous Schotten-Baumann Route to an Acyl Sulfonamide,Organic Process Research & Development,2012年,Vol.16(5),p.939-957
【文献】
Yates, Matthew H.; Kallman, Neil J.; Ley, Christopher P.; Wei, Jeffrey N.,Development of an Acyl Sulfonamide Anti-Proliferative Agent, LY573636・Na,Organic Process Research & Development,2009年,Vol.13(2),p.255-262
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
式(III)および式(IV)の反応物を酢酸イソプロピル、酢酸イソブチルおよびプロピオン酸エチルからなる群から選択される少なくとも2種類の溶媒を含む溶媒組成物中で反応させる、請求項5に記載の式(II)の化合物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、収率の至適化および方法の堅牢性の改善に関する。工業的製造においては比較的多量の生成物があるため、収率におけるごくわずかな改善であっても、経済的観点からはその意義は大きい。生成物純度の改善も、経済的に大きい意義を有し得る。従って、工業的有効成分製造における全ての反応パラメータを変えることによる工業的規模で実施可能な方法の改善は、基本的に常時努力されるべきことである。しかしながら、パラメータの変動は、系統的手順であったとしても、決まりきった検査の問題ではない場合が多い。実際、工程至適化が、試行錯誤の手順であることは決して珍しいことではない。
【0022】
具体的には、化学反応に対する特定の溶媒群の予想外に強い影響は、後から振り返ることでしか認識および説明できないものである。
【0023】
従って、本発明との関連で反応パラメータを変動させると、溶媒の選択が驚くほど大きい意味を有することが、後から振り返ってみて初めて明らかになった。溶媒が妥当であるか否かは、個々の反応溶液を長期間連続撹拌しながら、各種溶媒を用いて実施した反応の収率を比較することで特に明瞭となった。
【0024】
4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]−スルホニル]ベンゾイルクロライド製造について先行技術で特に好適であるとして使用されている2種類の溶媒トルエンおよびクロロベンゼンを用いる場合、本発明に従って使用される非プロトン性極性溶媒の一方を用いた場合と比較して、より高い二量体生成が認められることもわかった。非プロトン性極性溶媒の使用が有利であることは、表1を概観すると明らかである。
【0025】
特に驚くべきことは、非プロトン性極性溶媒に代えて当該溶媒を用いることで、二量体生成に関連する各種問題も同時に回避し得るという点である。
【0026】
次の問題には、アミドクロライド段階での濾過の問題などがある。すなわち4−[[(2−メトキシ−ベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライドの製造で行われる反応溶液の濾過が実際には困難であることが認められる。
【0027】
さらに別の問題は、アミドクロライド製造の段階およびシプロスルファミド製造の段階の両方における収率低下、ならびに2種類の生成物の品質、すなわち純度の同時低下である。
【0028】
これらの問題は、非プロトン性極性溶媒を用いることで回避することができる。
【0029】
非プロトン性極性(双極性)溶媒は、プロトンを放出しないと同時に極性であるという特徴を有する化合物である。
【0030】
形式的な意味において、カルボン酸エステルも、極性があるにも拘わらず、文献では非プロトン性非極性溶媒の群に入れられている。従って、本発明との関連では、明瞭を期すため、本発明の場合、カルボン酸エステル、特にはプロピオン酸および酢酸のエステル、例えば酢酸イソプロピルは、非プロトン性極性溶媒の群の一部として挙げられるものとする。対象的に、クロロベンゼン溶媒は、高い双極子モーメントを有するにも拘わらず、水中では疎水性であることから、ほとんど溶けない。すなわち、クロロベンゼンは非極性である。トルエンも、非極性溶媒の群の一部を形成する。
【0031】
本発明の核心は、特異的に非プロトン性であって同時に極性の溶媒が、アミドクロライド製造における二量体の生成を抑制することから、改善された反応方法によって、式(II)の化合物をより高い収率で得ることが可能であるという知見に関係するものである。
【0032】
本発明に従って溶媒として好適な非プロトン性極性化合物は、化学的に安定であって蒸留可能でなければならず、さらには200以下の分子質量(分子量)を有するべきである。その分子量の上限があることから、これらの溶媒は、比較的低沸点によって特徴付けられる。従って、有用な溶媒の選択は同時に、反応温度についての上限を定めるものである。この上限温度は同時に、保護措置機能をもたらし、反応方法に関して技術的規模および工業的規模での製造方法の実施におけるさらなる利点を構成するものである。
【0033】
本発明による方法は好ましくは、R
1aからR
1eおよびR
2aからR
2d基がそれぞれ独立に、
水素、フッ素、塩素、臭素、
(C
1−C
6)−アルキル(当該アルキル基は分岐しているか未分岐であり、置換されていないか(C
1−C
4)−アルコキシおよび(C
3−C
7)−シクロアルキルからなる群から選択される1以上の置換基によって置換されている)、
(C
1−C
6)−ハロアルキル(当該アルキル基は置換されていないかフッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択される1以上の置換基によって置換されている。)、
(C
3−C
7)−シクロアルキル(当該シクロアルキル基は置換されていないか(C
1−C
4)−アルキルまたは(C
3−C
7)−シクロアルキルまたは(C
1−C
4)−アルコキシからなる群から選択される1以上の置換基によって置換されている。)、
(C
1−C
6)−アルコキシ(当該アルコキシ基は分岐しているか未分岐であり、置換されていないか(C
1−C
4)−アルコキシおよび(C
3−C
7)−シクロアルキルからなる群から選択される1以上の置換基によって置換されている。)、
(C
3−C
7)−シクロアルコキシ(当該シクロアルコキシ基は置換されていないか(C
1−C
4)−アルキルおよび(C
1−C
4)−アルコキシからなる群から選択される1以上の置換基によって置換されている。)、
(C
1−C
6)−アルキルチオ(当該アルキルチオ基は分岐しているか未分岐であり、置換されていないか(C
1−C
4)−アルキルおよび(C
1−C
4)−アルコキシからなる群から選択される1以上の置換基によって置換されている。)、
(C
3−C
7)−シクロアルキルチオ(当該シクロアルキルチオ基は置換されていないか(C
1−C
4)−アルキルおよび(C
1−C
4)−アルコキシからなる群から選択される1以上の置換基によって置換されている。)
からなる群から選択される式(II)の化合物の製造において使用可能であり、
当該方法はより好ましくは、R
1a基が置換されていない(C
1−C
4)−アルコキシ基である式(II)の化合物の製造に使用可能である。
【0034】
特に好ましいのは、4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライドの製造のための本発明による方法の使用である。すなわち、特に好ましいのは、R
1a基がメトキシ(−O−CH
3)であり、同時にR
1bからR
1e基がそれぞれ全て水素(H)である式(II)の化合物の本発明の変換である。
【0035】
非プロトン性であって同時に極性である溶媒の上記で定義の群において、特定の非プロトン性極性溶媒は、本発明による方法の実施において好ましい。
【0036】
好ましい非プロトン性極性溶媒分類は、鎖状ケトン類、環状ケトン類、エステル類、アミド類、ニトリル類またはエーテル類であり、そのそれぞれは置換されていないか置換されており、前記特定の溶媒分子は置換されていないか、
−フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、および
−(C
1−C
4)−アルキル
からなる群から選択される1以上の置換基によって置換されている。
【0037】
好ましいのは、各場合で200以下の分子量を有する非プロトン性極性溶媒の混合物中で式(III)および式(IV)の反応物を変換することであり、その混合物はシクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、ジアルキルアセトアミド、シクロアルキルアセトアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフランおよびメチルテトラヒドロフランからなる群からの少なくとも二種類の溶媒を含む。
【0038】
より好ましくは、式(III)および式(IV)の反応物は、専ら特定の溶媒中で変換し、その溶媒はシクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、ジアルキルアセトアミド、シクロアルキルアセトアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフランおよびメチルテトラヒドロフランからなる群から選択される。
【0039】
最も好ましい溶媒は、二つの溶媒酢酸イソプロピルおよび酢酸イソブチルである。
【0040】
しかしながら、式(III)および式(IV)の反応物の変換を、特定の非プロトン性極性溶媒中ではなく、異なる溶媒の混合物中で行うことも、本発明の範囲内である。この場合、当該溶媒組成物は、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、ジアルキルアセトアミド、シクロアルキルアセトアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフランおよびメチルテトラヒドロフランからなる群から選択される少なくとも2種類の溶媒を含む。
【0041】
最も好ましくは、式(III)および式(IV)の反応物は、カルボン酸エステルの群からなる群から選択される溶媒中、または当該カルボン酸エステル類の群から選択される少なくとも2種類の溶媒を含む溶媒組成物中で変換される。
【0042】
溶媒としてのカルボン酸エステル類の使用の別の大きな利点は、それの回収が芳香族溶媒の回収、例えばクロロベンゼンまたはトルエンの回収より複雑ではないという点である。その改善された溶媒回収は、持続可能性の理由から、全体として廃液量を明らかに低下させるものである。
【0043】
しかしながら、主要な利点は、溶媒としてのカルボン酸エステルもしくはカルボン酸エステル混合物中での反応実施の場合の二量体生成が回避されるという点である。
【0044】
最も好ましいのは、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチルおよびプロピオン酸エチルからなる群から選択される溶媒中、または酢酸イソプロピル、酢酸イソブチルおよびプロピオン酸エチルからなる群から選択される少なくとも2種類の溶媒を含む溶媒組成物中での式(III)および式(IV)の反応物の変換である。
【0045】
その変換を1種類のみの溶媒中で行う場合、酢酸イソプロピルが最良の好適性を有する溶媒である。溶媒として酢酸イソプロピルを用いる場合、式(II)の化合物は、特に良好な収率および良好な品質での式(III)および式(IV)の反応物の変換によって製造することができる。
【0046】
酢酸イソプロピルのさらなる利点として、酢酸イソプロピルを溶媒として用いると、その反応で過剰に使用される塩素化剤の回収が特に効率的であることが認められたことでもある。
【0047】
本発明による方法との関連で使用可能な塩素化剤は、好適であることが当業者に知られている全ての塩素化剤であり、複数の異なる塩素化剤からなる混合物を使用することも想到される。
【0048】
好ましい塩素化剤は、硫黄系またはリン系の塩素化剤の群から選択される。これらには、塩化チオニル、オキシ塩化リンもしくは五塩化リン、またはオキサリルクロライドもしくはホスゲンなどの炭素系塩素化剤などがある。後者は、カルボン酸を相当する酸塩化物に変換するのに使用可能である。
【0049】
特に好ましい塩素化剤は、Cl
2、SO
2Cl
2、SOCl
2(塩化チオニル)、N−クロロコハク酸イミドであり、最も好ましい塩素化剤は塩化チオニルである。上記の塩素化剤のうちの少なくとも2種類からなる混合物を用いることも想到される。
【0050】
さらなる使用可能な塩素化剤は、各場合で別途でまたは組み合わせて、四塩化ケイ素、トリクロロメチルシラン、ジクロロメチルシラン、トリクロロフェニルシラン、三塩化アルミニウム、三塩化ホウ素、四塩化チタン、四塩化スズ、二塩化亜鉛もしくは三塩化ビスマス、またはこれらの混合物である。
【0051】
ハロシラン類および三塩化アルミニウムもしくは二塩化亜鉛の混合物、例えば四塩化ケイ素および三塩化アルミニウムの混合物を用いることも可能であり、その場合、三塩化アルミニウムまたは二塩化亜鉛は触媒として働き、四塩化ケイ素に対して1重量%から3重量%の量で用いられる。
【0052】
本発明による方法を実施する際、式(IIIまたはIV)の各当量について、塩素化剤または塩素化剤混合物中、2.5から3.0当量の交換可能な塩素原子を用いる。好ましくは、2.5当量の塩化チオニルを用いる。
【0053】
式(III)および(IV)の化合物は、等モル量で用いる。
【0054】
本発明の反応の場合、有利には、触媒の使用は必要ない。
【0055】
本発明による方法を実施する際の反応温度は、下記の規定された範囲内で変動し得る。概して、使用される温度は20℃から90℃の範囲である。好ましくは、40℃から90℃の範囲の温度である。特に好ましくは、80℃から90℃の範囲の温度である。
【0056】
本発明による方法は、通常、標準的な圧力下で行う。しかしながら、高圧下または減圧下で行うことも可能である。本発明の反応の実施において好ましい圧力は、0.1バールから10バールである。
【0057】
本発明のさらに別の態様は、ワンポット反応として実施可能である式(Ia)のアシルスルファモイルベンズアミド類の改善された製造方法に関するものである。詳細には、上記態様は、特定のアミドクロライド前駆体を先に単離せず、それは上記方法のうちの一つを用いることで得られる、4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライドから出発して、シプロスルファミド(N−[4−(シクロプロピルカルバモイル)フェニルスルホニル]−2−メトキシベンズアミド)を製造するためのワンポット反応に関するものである。従って得、本発明のこの態様は、工業的規模で実施できるワンポット反応に関するものである。
【0058】
従って、本発明のこのさらなる態様は、下記式(Ia)の化合物:
【化4】
【0059】
[式中、
R
1aからR
1eおよびR
2aからR
2dはそれぞれ、請求項1の説明との関連で上記のように定義されており、
R
3aは、水素および次の基:(C
1−C
6)−アルキル、(C
1−C
6)−ハロアルキル、(C
3−C
7)−シクロアルキル、(C
1−C
6)−アルコキシ、(C
1−C
6)−アルキルチオ、(C
3−C
7)−シクロアルキルチオ、−(CH
2)
p−複素環からなる群から選択され、これらのそれぞれは置換されていないかハロゲン、(C
1−C
6)−アルキル、(C
1−C
6)−ハロアルキル、(C
1−C
6)−アルコキシ、シアノおよびニトロからなる群から選択される1以上の置換基によって置換されており、
R
3bは、水素および次の基:(C
1−C
6)−アルキル、(C
2−C
6)−アルケニル、(C
2−C
6)−アルキニル、(C
1−C
6)−アルコキシ、(C
2−C
6)−アルケニルオキシ、−(CH
2)
p−複素環からなる群から選択され、これらのそれぞれは置換されていないかハロゲン、(C
1−C
4)−アルコキシおよび(C
1−C
4)−アルキルチオからなる群から選択される1以上の置換基によって置換されており、または
R
3aおよびR
3bが連結している窒素原子とともに、3から8員の飽和もしくは不飽和環を形成している。]の製造のために工業的規模での「ワンポット反応」として実施可能な方法であって、R
1aからR
1eおよびR
2aからR
2dがそれぞれ上記で定義の通りである式(II)の化合物:
【化5】
【0060】
を、式R
3aR
3bNHのアミン(そのR
3aおよびR
3b基はそれぞれ上記で定義の通りである。)と反応させることによるものであり、各場合で上記の方法のうちの一つによって製造される式(II)の化合物を最初に、
−アミンR
3aR
3bNHとの反応のために、先に単離を行わずに、
−NaOH水溶液中に
加えることを特徴とする方法に関するものである。
【0061】
シプロスルファミドの製造において、オルト−メトキシ安息香酸を4−スルファモイル安息香酸と反応させることで、アミドクロライド前駆体、すなわち式(II)の化合物が得られる。
【0062】
本発明による方法によって、反応物としての4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライドから出発してシプロスルファミドを製造することが可能となり、その場合、アミンとのさらなる反応によるシプロスルファミド標的生成物の取得の前に、オルト−メトキシ安息香酸および4−スルファモイル安息香酸の変換から得られる反応物を、先に単離せずに、さらに直接変換することができる。
【0063】
当然のことながら、前記反応物を先に単離することができないわけではない。すなわち単離も同様に可能である。
【0064】
シプロスルファミドの製造に必要な4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライド反応物の回収において、上記で説明したように、溶媒の選択が予想外に大きな意味を有することが認識されている。
【0065】
この知見は、上記で説明した二量体生成の問題が回避されるという事実に関するものであり、ただしその変換は、非プロトン性極性溶媒の群から選択される溶媒中、または非プロトン性極性溶媒の群から選択される少なくとも一つの溶媒を含む溶媒組成物中で行われる。
【0066】
4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライド前駆体の合成に使用される上記反応物の変換が不完全であると、シプロスルファミドの製造に使われる後の工程段階での望ましくない副生成物の生成が促進されることも分かっている。望ましくない副生成物の一つは恐らく、シプロスルファミドの、式(IV)の4−スルファモイル−安息香酸化合物との縮合を介して生成するものである。
【0067】
単離された(あるいは、単離されていない)4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライド前駆体のシプロスルファミドへの変換は好ましくは、ショッテンおよびバウマンにちなんで名付けられた公知の化学反応法(ショッテン・バウマン法)によって行われる。
【0068】
概して、ショッテン・バウマン法は、塩基としてのアルカリ金属水酸化物水溶液の存在下でのアミン類、アルコール類またはフェノール類のカルボニルクロライド類との反応に関するものである。その塩基は、反応で放出されるプロトンを中和する。
【0069】
本方法の記述によれば、前記塩基は、得られるアミドまたはエステルに関して、別の比率では反応が停止することから、少なくとも化学量論比で使用しなければならない。ショッテン・バウマン法による反応は、多くの場合、水相および有機相を有する二相系で行う。この場合、当反応で放出されるプロトンは水相に存在し、アルカリ金属水酸化物溶液によって中和される。対照的に、反応物および反応生成物は、有機相に存在する。
【0070】
シプロスルファミドの製造のために工業的規模で実施可能な公知の方法では、アセトニトリルを溶媒として使用し、有機補助塩基N,N−ジメチルシクロヘキシル−アミン(HDA)を用いる。ここで、生成物からの高価な補助塩基の必要な回収は不便かつ困難であるという点は不利である。さらに、環境保護および持続可能性の理由から回収される有機溶媒アセトニトリルの使用により、さらに複雑化が生じる。
【0071】
単独の溶媒として水を用いる、すなわち別の有機溶媒の添加を行わないショッテン・バウマン法を使用するシプロスルファミドの効率的な工業規模の製造に対する以前の手法は、反応物および生成物の加水分解感受性のために不十分であることが認められている。
【0072】
そうではあっても、シプロスルファミドなどの有効成分のための工業規模で用いられる製造方法の改善は、経済的理由のため、さらには環境保護の故に、常に目標となるものであり、収率におけるわずかな改善であっても、モル量が大きいことから非常に大きい経済的妥当性のあるものである。
【0073】
この改善を達成するための本質的手段は、導入工程段階として水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)に反応物を最初に入れることに関係する。シプロスルファミドの製造におけるこの導入工程段階のその特別な特徴は、4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライド中間体の化学構造が1個の酸性プロトンを有し、シプロスルファミド最終生成物の化学構造が実際に2個の酸性プロトンを有するという事実についての知見に基づくものである。このため、二つの化合物の加水分解感受性は高いものと分類されるはずである。しかしながら、最初に化合物をNaOHに入れることで、それの加水分解感受性を予想外の程度まで弱めることができる。
【0074】
シプロスルファミド製造のための改善された方法の開発の文脈で、開始時から反応混合物中の塩酸(HCl)の生成を抑制することを唯一の目的として、最初に反応物を水酸化ナトリウム溶液に入れた。
【0075】
しかしながら、当該改善された方法の試験期中、水酸化ナトリウム溶液が最初に存在することから、反応条件は酸性pH範囲になる可能性はなく、結果的に、4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライド反応物の加水分解を予想外の程度まで抑制することができることが認められた。
【0076】
加水分解反応の回避は、それが酸、すなわち4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]−安息香酸の生成を抑制することから非常に有利であることから、結果的に、より高いシプロスルファミド収率の達成が可能である。
【0077】
従って、「ワンポット反応」による工業的規模でのシプロスルファミドの製造方法の改善は、次のいくつかの側面:
−副反応の回避による、公知の方法と比較しての収率の回避、および
−有機溶媒の回避および後に最終生成物から単離しなければならない補助剤の回避による方法の全体的効率の改善、および
−比較的簡単な作業段階による反応完結後の溶媒残留物の後処理、例えば沈澱および濾過
に関するものである。
【0078】
特に好ましいのは、下記化合物(Ib):
【化6】
【0079】
の製造、すなわちシプロスルファミドの製造のための式R
3aR
3bNH(R
3a基はシクロプロピルであり、R
3b基は水素である。)のアミン、およびR
1aがメトキシである式(II)の化合物を用いるワンポット反応の実施である。
【0080】
シプロスルファミド製造のための改善された方法に関するさらなる態様は、開始時から反応混合物中の塩酸(HCl)の生成を抑制することを唯一の目的として、式(II)の化合物を、水酸化ナトリウム溶液に最初に入れる前に単離する方法に関するものである。
【0081】
好ましくは、単離された式(II)の化合物を最初に、別の遊離体、例えばアミンR
3aR
3bNHと組み合わせて水酸化ナトリウム溶液に入れる。
【0082】
4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライド反応物(アミドクロライド)の事前の単離を特徴とする当該別法の試験期間中、水酸化ナトリウム溶液が最初に存在することから、反応条件が酸性pH範囲になる可能性がなく、結果的に、4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライド反応物の加水分解が予想外の程度まで抑制可能であることが再度認められた。「ワンポット反応」との関連で上記ですでに説明したように、酸、すなわち4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]−安息香酸の生成が抑制されることから、加水分解反応の回避は非常に有利であり、従って、より高いシプロスルファミド収率の達成が結果的に可能である。
【0083】
さらに、塩基である水酸化ナトリウムの存在により、アミンR
3aR
3bNHのプロトン化が防止される。アミンのプロトン化は、反応中に生じる酸によって引き起こされる(その反応により、約1当量の酸が生じる。)。アミンを化学量論量で加えた場合に、プロトン化の防止は特に妥当である。当該アミンは高価な反応物であることから、アミンを化学量論比で使用すること、すなわち過剰量のアミンを使用しないことが望ましい。
【0084】
実施例
4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライドの製造
酢酸イソプロピル中の1.02当量の式(III)のオルト−メトキシ安息香酸化合物(MBA)および1当量の式(IV)の4−スルファモイル安息香酸化合物(SBA)の初期投入物に、2.5当量の塩化チオニルを80から90℃で1から1.5時間以内に計量して入れる。90℃で撹拌しながら1から2時間後、透明溶液が得られる。さらに1時間の継続撹拌時間後、遊離酸は全く存在せず、相当する酸塩化物および生成物のみが存在する。この時点では、透明溶液が存在する。
【0085】
過剰の塩化チオニルおよび溶媒の一部(約50%)を、約800mbarで留去する。その濃縮された懸濁液を90℃でさらに3時間撹拌する。反応混合物の濃縮によって、式(III)のオルト−メトキシ安息香酸化合物の酸塩化物(MBCl)のおよび式(IV)の4−スルファモイル安息香酸化合物の塩化物(SBCl)のアミドクロライド(4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライド)への変換が加速される。撹拌性および変換をより良好とするため、粘稠懸濁液を酢酸イソプロピルで再度希釈する。
【0086】
その後、冷却して0℃とし、濾過する。母液を代えるため、フィルターケーキを酢酸イソプロピルで洗浄し(置換洗浄)、減圧下に60℃で乾燥させる。
【0087】
単離収率は、理論値の95から96%であり、純度は>98%である。
【0088】
表1
式(II)の化合物の製造、すなわち4−[[(ベンゾイル)−アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライド類の製造に各種溶媒を用いてのHPLC分析に基づく収率の比較表
【表1】
【0089】
上記表は、塩素化剤として塩化チオニルを一貫して使用し、各場合で反応時間を数時間とし、反応温度を狭い範囲内として、本発明に従って使用される酢酸イソプロピル溶媒をトルエンおよびクロロベンゼン溶媒と比較するものである。
【0090】
収率の比較
上記比較表は、実験A2、A3、A4およびB3ならびに実験C3において、第一に、反応の収率が全ての溶媒においてより高いことから、反応溶液の継続撹拌が行われないことを示している。しかしながら、工業的製造においては、技術上の理由から、反応溶液の継続撹拌は不可避であることが非常に多い。
【0091】
従って、当該表は、実験A1およびB2およびC1およびC2において、数時間の反応時間(すなわち、3.5から7時間の反応時間)の後1時間にわたり反応溶液を継続的に撹拌することで、反応収率は明らかに悪化することを示している。実験B1のみが例外であり、そのため、わずか1時間の継続撹拌の場合であっても、収率低下が予想されるとは確定できない。
【0092】
さらに、各種溶媒の比較において、酢酸イソプロピルを溶媒として用いる場合には、60時間という極めて長い継続撹拌時間(実験A1)にも拘わらず、収率低下が比較的軽微であり、それにもかかわらず収率は90%を超える、すなわち91.4%であることが分かる。比較として、トルエンおよびクロロベンゼン溶媒を使用する場合の収率は、両方の場合で90%以下、すなわち88.7%(実験B3)および84.8%(実験C3)であり、後者の2実験のいずれにおいても継続撹拌は行われていない。しかしながら、トルエンおよびクロロベンゼン溶媒の使用の場合に撹拌を続けると、収率はさらに悪化し、すなわち、例えば、83.9%(実験B2)および73.9%(実験C2)である。
【0093】
二量体生成の比較
本発明による方法の特定の利点は、酢酸イソプロピルを溶媒として用いた場合に、二量体生成が少ないことであることがわかる。
【0094】
実験A2およびA3は、実験A1と比較して、酢酸イソプロピルを溶媒として用いる場合に60時間という極めて長い継続撹拌時間(実験A1)であっても、望ましくない二量体生成に対してほとんど影響がないことを示している。
【0095】
例外は、値が0.67である実験A4である。しかしながら、0.67という値は、トルエンおよびクロロベンゼンを溶媒として用いる場合の相当する値より、なおもさらに低い値である。トルエンおよびクロロベンゼンを用いる場合の相当する値は、1.85から9.65の範囲である。二量体生成は、数時間の継続撹拌の場合にクロロベンゼンを溶媒として用いる際(実験C1およびC2参照)には顕著に高い。
【0096】
要約すると、表1に関して、本発明の溶媒の一つの比較使用の場合、すなわちトルエンおよびクロロベンゼンと比較しての酢酸イソプロピルの使用の場合、収率における向上が予想外に高く、同時に、望ましくない二量体生成が驚くほど低いと言うことができる。
【0097】
従って、酢酸イソプロピルの使用は二つの点で有利であり、各種資源の節約の可能性があることから、経済的な理由からも工業的使用に特に好適かつ有利である堅牢な方法を可能とするものである。
【0098】
シプロスルファミドの製造における本発明に従って製造される4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライドの利用可能性は、製造例によって示される。
【0099】
合成例
4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]−スルホニル]ベンゾイルクロライドから出発するシプロスルファミドの製造
上記の合成で製造された4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]ベンゾイルクロライド(アミドクロライド)の濃縮懸濁液を、トルエンで希釈する。先行する合成に由来する酢酸イソプロピルの残りは、トルエンの一部とともに留去する。その後、冷却して20℃とする。水、トリエチルアミン0.5当量、シクロプロピルアミン(CPA)1.1当量、水酸化ナトリウム溶液1.2当量およびトルエンからなる初期投入物に、10から30℃で約1時間以内にて、トルエン中のアミドクロライド懸濁液を計量して入れる。その過程で、32%水酸化ナトリウム溶液によってpHを8.5から9.0に維持する。添加が終了した後、混合物を加熱して80℃とする。この過程で、pHは低下して約8.0となる。80℃で、pHを10に調節して、トリエチルアミンを完全に有機相に入れる。望ましくない副反応、例えば残留酢酸イソプロピルの加水分解を防止するため、相分離は直ちに行うべきである。
【0100】
水相について、80℃および約800mbarで短時間の初期蒸留を行う。次に、80℃で、37%塩酸を用いて、pHを10からpH約8.5まで下げ、それによりN−[4−(シクロプロピルカルバモイル)フェニル−スルホニル]−2−メトキシベンズアミド(シプロスルファミド)生成物が部分的に沈澱する。そのpH変化は、この時点で再度添加される酢酸イソプロピルの安定性を確保する上で必要である。
【0101】
酢酸イソプロピル添加の過程で、温度は低下して70℃となる。70℃で、有効成分は、HCl(37%)により、pH5.3から5.7で定量的に沈澱する。有効成分懸濁液を冷却して50℃とし、濾過する。撹拌機をスイッチを切ると、生成物は上層の有機相中を完全に浮遊することから、下層の水相を最初に、吸引フィルターによって排出することができる。フィルターケーキを、最初に置換洗浄液として酢酸イソプロピルで洗浄し、次に再スラリー洗浄液としての水で洗浄する。減圧下に60℃で乾燥を行う。
【0102】
水酸化ナトリウム水溶液に単離固体形態のアミドクロライドを入れるシプロスルファミドの製造
水、水酸化ナトリウム溶液(1.2当量、32%)およびシクロプロピルアミン1.1当量からなる初期投入物に、20から30℃で約30分以内に、固体での4−[[(2−メトキシベンゾイル)アミノ]スルホニル]−ベンゾイルクロライド(アミドクロライド)を導入する。その添加中(アミドクロライドの約半量を計量添加した後)、32%水酸化ナトリウム溶液を並行して加えながら、pHを8から9に維持する。
【0103】
混合物を30℃でさらに30分間撹拌し、加熱して80℃とする。その加熱期中、32%水酸化ナトリウム溶液によってpHをさらに調節して、8から9に維持する。この反応条件下で、有効成分は最初は、ナトリウム塩として完全に溶液に溶け込む。80℃で、過剰のCPAについて、短時間の初期蒸留を行う。少量のトルエンを加えることで、泡生成を防止することができる。
【0104】
次に、10%塩酸により、pH5.8から6.2で、この溶液から有効成分を析出させる。その固体を80℃で濾過し、水で2回洗浄する。最初に80℃で置換洗浄を行い、次に80℃で再スラリー洗浄を行う。再スラリー洗浄の洗浄濾液は再利用可能である。有効成分を60℃で乾燥する。
【0105】
単離収率は、理論量の98から99%である。