(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、向上した交差反応能及び交差中和能を持つ、異なる黄色ブドウ球菌細胞毒素に対する抗体を提供することである。特に、前記目的は、少なくとも2,3又は4つの異なる毒素分子(特に、Hla、 HlgB、LukF及びLukD)にナノモル又はナノモル以下の親和性を有するモノクローナル抗体を提供することである。特に、前記目的は、関連する動物モデルにおいて、単一の毒素特異的抗体と比べて、Hla及び複数の二成分ロイコシジンに対する高い中和能(インビトロ)と向上した保護作用を有する抗体に関する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的は、本発明の主題によって解決される。
【0021】
本発明によって、黄色ブドウ球菌のアルファ毒素(Hla)及び少なくとも1つの二成分毒素に結合する多特異性結合部位を少なくとも1つ含む交差中和抗体が提供され、当該抗体は、抗体重鎖可変領域(VH)の少なくとも3つの相補性決定領域(CDR1〜CDR3)を含み、ここで、
A)前記抗体は、
a)アミノ酸配列 YSISSGMGWG(配列番号1)を含むか又はそれからなるCDR1;及び
b)アミノ酸配列 SIDQRGSTYYNPSLKS(配列番号2)を含むか又はそれからなるCDR2;及び
c)アミノ酸配列 ARDAGHGVDMDV(配列番号3)を含むか又はそれからなるCDR3;
を含むか、又は
B)前記抗体は、
a)配列番号1のアミノ酸配列からなる親CDR1;又は
b)配列番号2のアミノ酸配列からなる親CDR2;又は
c)配列番号3のアミノ酸配列からなる親CDR3;
の少なくとも1つの機能的に活性なCDR変異体を含み、
ここで、前記機能的に活性なCDR変異体は、親CDR配列における少なくとも1つの点変異を含み、且つ親CDR配列と少なくとも60%の配列同一性、好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、当該アミノ酸配列からなる。
【0022】
具体的に言うと、前記抗体は、DSM26748の下に寄託されたホスト細胞及びDSM26747の下に寄託された宿主細胞によって産生されるような従来技術の抗体ではない。特に、本発明の抗体は、以下を含む宿主細胞によって産生された抗体#AB-24ではない。
i)コード配列がDSM26748の下に寄託された宿主細胞中に含まれる、#AB-24-LCと称される抗体軽鎖、及び
ii)コード配列がDSM26747の下に寄託された宿主細胞中に含まれる、#AB-24-HCと称される抗体重鎖。
【0023】
その上で、本発明の抗体は、例えば、FR配列のいずれか及び/又はCDR配列のいずれかにおいて異なるアミノ酸配列を有するような任意の従来技術の抗体の機能的変異体であってもよい。特に、本発明の抗体は、抗体#AB-24と同じエピトープ特異性を有する、抗体#AB-24の任意の機能的変異体であってもよい。
【0024】
#AB-24と称される抗体の特異変異体は、特に本特許請求の範囲の主題に包含され、以下を含むが、これらに限定されたない:CDR変異体、FR変異体、マウス、キメラ、ヒト化又はヒト変異体、又は任意の抗体ドメインの組み合わせ(前記寄託物質のLC及びHCから構成される組み合わせ以外)、例えば、同じCDR1〜6又はVH/VL組み合わせを含み、その上で、異なるFR配列を有する抗体、例えば、様々な種類の全長抗体、Fab、scFvなどを含む。
【0025】
特定の側面では、本発明は、黄色ブドウ球菌のアルファ毒素 (Hla)及び少なくとも1つの二成分毒素に結合する多特異性結合部位を少なくとも1つ含む単離モノクローナル抗体を提供する。例えば、#AB-24と称される抗体と同じ結合特異性を有するもの、又は、#AB-24と称される抗体と交差競合するものであって、#AB-24と称される抗体から派生したもの、又は、#AB-24と称される抗体の機能的に活性な変異体、好ましくは、前記#AB-24と称される抗体は、以下を特徴とする。
a)抗体軽鎖であって、そのコード配列は宿主細胞を形質転換するために使用されたプラスミド中に含まれており、形質転換された宿主細胞はDSM26748の下に寄託されている;及び/又は
b)抗体重鎖であって、そのコード配列は宿主細胞を形質転換するために使用されたプラスミド中に含まれており、形質転換された宿主細胞はDSM26747の下に寄託されている。
【0026】
具体的には、前記#AB-24と称される抗体は、DSM26748の下に寄託された大腸菌宿主細胞に含まれるプラスミドのコード配列によってコードされた、可変領域又はLCを含む抗体軽鎖、及び、DSM26747の下に寄託された大腸菌宿主細胞に含まれるプラスミドのコード配列によってコードされた、可変領域又はHCを含む抗体重鎖で構成される。
【0027】
具体的には、前記機能的に活性なCDR変異体は、少なくとも以下の1つを含む:
a)親CDR配列中の1,2又は3つの点変異;又は
b)親CDR配列の4つのC末端あるいは4つのN末端、又は4つの中心アミノ酸位のいずれかにおける1又は2つの点変異。
【0028】
具体的には、前記機能的に活性なCDR変異体は、以下のいずれかである:
a)YPISSGMGWG(配列番号4)、及びYSISSGMGWD(配列番号5)からなる群より選択されるCDR1配列;又は
b)SVDQRGSTYYNPSLKS(配列番号6)、RIDQRGSTYYNPSLKS(配列番号7)、RVDQRGSTYYNPSLKS(配列番号8)、SIDQRGSTYYNPSLEG(配列番号9)及びSIDQRGSTYYNPPLES(配列番号10)からなる群より選択されるCDR2配列;又は
c)ARDAGHGADMDV(配列番号11)、及びARDAGHAVDMDV(配列番号12)からなる群より選択されるCDR3配列
【0029】
具体的には、前記抗体は前記CDR配列を特徴とし、ここで、
a)VH CDR1における5位で、アミノ酸残基がS、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、Q、R、T、V、W及びYからなる群より選択され、好ましくはH、R及びWのいずれかである;
b)VH CDR1における7位で、アミノ酸残基がM、H、K、Q、R及びWからなる群より選択され、好ましくはK、R又はWのいずれかである;
c)VH CDR2における3位で、アミノ酸残基がD及びRからなる群より選択される;
d)VH CDR2における7位で、アミノ酸残基がS、A、D、E、F、H、K、M、N、Q、R、T、W及びYからなる群より選択され、好ましくはD、H、K、N又はQのいずれかであり、より好ましくはQである;
e)VH CDR2における9位で、アミノ酸残基がY、F、K、L、Q及びRからなる群より選択され、好ましくはRである;
f)VH CDR3における5位で、アミノ酸残基がG、A、D、F、H、I、M、N、R、S、T、V及びYからなる群より選択され、好ましくはD、F、H、I、M、N、R、T、V又はYのいずれかである;
g)VH CDR3における6位で、アミノ酸残基がH、E、Q及びSからなる群より選択され、好ましくはE又はQのいずれかである;
h)VH CDR3における7位で、アミノ酸残基がG、A、D、E、H、I、M、N、Q、S、T、V及びWからなる群より選択され、好ましくはWである;及び/又は
i)VH CDR3における8位で、アミノ酸残基がV、A、D、E、G、I、K、L、M、Q、R、S及びTからなる群より選択され、好ましくはM又はRのいずれかである。
【0030】
特定の実施形態では、前記抗体は、以下からなる群より選択される;
a)以下を含む抗体
a.配列番号1のCDR1配列;及び
b.配列番号6のCDR2配列;及び
c.配列番号11のCDR3配列;
b)以下を含む抗体
a.配列番号4のCDR1配列;及び
b.配列番号7のCDR2配列;及び
c.配列番号3のCDR3配列;
c)以下を含む抗体
a.配列番号1のCDR1配列;及び
b.配列番号8のCDR2配列;及び
c.配列番号3のCDR3配列;
d)以下を含む抗体
a.配列番号1のCDR1配列;及び
b.配列番号2のCDR2配列;及び
c.配列番号12のCDR3配列;
e)以下を含む抗体
a.配列番号5のCDR1配列;及び
b.配列番号9のCDR2配列;及び
c.配列番号3のCDR3配列;
f)以下を含む抗体
a.配列番号5のCDR1配列;及び
b.配列番号10のCDR2配列;及び
c.配列番号3のCDR3配列
【0031】
特定の側面によれば、前記抗体は、配列番号20〜31からなる群より選択されるVHアミノ酸配列を含む。
【0032】
特定の側面によれば、前記抗体は、配列番号40〜51からなる群より選択される抗体重鎖(HC)アミノ酸配列、又はC末端アミノ酸が欠失した(特にC末端リジンが欠失した)配列番号40〜51のアミノ酸配列のいずれかを有する。
【0033】
具体的には、配列番号40〜51は、シグナル配列によってN末端が延長されたHC配列を示す。前記特異抗体は、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有するHCアミノ酸配列を含むと理解される。
【0034】
具体的には、配列番号40は、配列番号20のVHアミノ酸配列を含み、且つ、シグナル配列によってN末端が延長されたHC配列を示す。前記特異抗体は、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有するVH又はHCアミノ酸配列を含むと理解される。
【0035】
具体的には、配列番号41は、配列番号21のVHアミノ酸配列を含み、且つ、シグナル配列によってN末端が延長されたHC配列を示す。前記特異抗体は、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有するVH又はHCアミノ酸配列を含むと理解される。
【0036】
具体的には、配列番号42は、配列番号22のVHアミノ酸配列を含み、且つ、シグナル配列によってN末端が延長されたHC配列を示す。前記特異抗体は、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有するVH又はHCアミノ酸配列を含むと理解される。
【0037】
具体的には、配列番号43は、配列番号23のVHアミノ酸配列を含み、且つ、シグナル配列によってN末端が延長されたHC配列を示す。前記特異抗体は、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有するVH又はHCアミノ酸配列を含むと理解される。
【0038】
具体的には、配列番号44は、配列番号24のVHアミノ酸配列を含み、且つ、シグナル配列によってN末端が延長されたHC配列を示す。前記特異抗体は、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有するVH又はHCアミノ酸配列を含むと理解される。
【0039】
具体的には、配列番号45は、配列番号25のVHアミノ酸配列を含み、且つ、シグナル配列によってN末端が延長されたHC配列を示す。前記特異抗体は、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有するVH又はHCアミノ酸配列を含むと理解される。
【0040】
具体的には、配列番号46は、配列番号26のVHアミノ酸配列を含み、且つ、シグナル配列によってN末端が延長されたHC配列を示す。前記特異抗体は、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有するVH又はHCアミノ酸配列を含むと理解される。
【0041】
具体的には、配列番号47は、配列番号27のVHアミノ酸配列を含み、且つ、シグナル配列によってN末端が延長されたHC配列を示す。前記特異抗体は、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有するVH又はHCアミノ酸配列を含むと理解される。
【0042】
具体的には、配列番号48は、配列番号28のVHアミノ酸配列を含み、且つ、シグナル配列によってN末端が延長されたHC配列を示す。前記特異抗体は、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有するVH又はHCアミノ酸配列を含むと理解される。
【0043】
具体的には、配列番号49は、配列番号29のVHアミノ酸配列を含み、且つ、シグナル配列によってN末端が延長されたHC配列を示す。前記特異抗体は、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有するVH又はHCアミノ酸配列を含むと理解される。
【0044】
具体的には、配列番号50は、配列番号30のVHアミノ酸配列を含み、且つ、シグナル配列によってN末端が延長されたHC配列を示す。前記特異抗体は、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有するVH又はHCアミノ酸配列を含むと理解される。
【0045】
具体的には、配列番号51は、配列番号31のVHアミノ酸配列を含み、且つ、シグナル配列によってN末端が延長されたHC配列を示す。前記特異抗体は、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有するVH又はHCアミノ酸配列を含むと理解される。
【0046】
特定の側面によれば、前記HC配列のそれぞれは、定常領域において末端が延長されていても、欠失されていてもよい(例えば、C末端アミノ酸の一以上の欠失)。
【0047】
具体的には、C末端リジン残基を含む前記HC配列のそれぞれが、好ましくはそのようなC末端リジン残基の欠失とともに利用される。
【0048】
特定の実施形態によれば、前記抗体はさらに、抗体軽鎖可変領域(VL)の少なくとも3つの相補性決定領域(CDR4〜CDR6)を含み、好ましくはここで、
A)前記抗体は、
a)アミノ酸配列 RASQGISRWLA(配列番号32)を含むか又はそれからなるCDR4;及び
b)アミノ酸配列 AASSLQS(配列番号33)を含むか又はそれからなるCDR5;及び
c)アミノ酸配列 QQGYVFPLT(配列番号34)を含むか又はそれからなるCDR6;
を含むか、又は、
B)前記抗体は、
a)配列番号32のアミノ酸配列からなる親CDR4;又は
b)配列番号33のアミノ酸配列からなる親CDR5;又は
c)配列番号34のアミノ酸配列からなる親CDR6;
の少なくとも1つの機能的に活性なCDR変異体を含み、
ここで、前記機能的に活性なCDR変異体は、親CDR配列における少なくとも1つの点変異を含み、且つ親CDR配列と少なくとも60%の配列同一性、好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、当該アミノ酸配列からなる。
【0049】
具体的には、前記抗体は、前記CDR配列を特徴とし、ここで、
a)VL CDR4における7位で、アミノ酸残基が、S、A、E、F、G、K、L、M、N、Q、R、W及びYからなる群より選択され、好ましくはL、M、R又はWのいずれかであり、より好ましくはRである;
b)VL CDR5における1位で、アミノ酸残基が、A及びGからなる群より選択される;
c)VL CDR5における3位で、アミノ酸残基が、S、A、D、G、H、I、K、L、N、Q、R、T、V及びWからなる群より選択される;
d)VL CDR5における4位で、アミノ酸残基が、S、D、E、H、I、K、M、N、Q、R、T及びVからなる群より選択され、好ましくはK、N、Q及びRのいずれかである;
e)VL CDR6における3位で、アミノ酸残基が、G、A、D、E、F、H、I、K、L、N、Q、R、S、T、V、W及びYからなる群より選択される;
f)VL CDR6における4位で、アミノ酸残基が、Y、D、F、H、M、R及びWからなる群より選択される;
g)VL CDR6における5位で、アミノ酸残基が、V、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、Q、R、S、T、及びWからなる群より選択される;及び/又は
h)VL CDR6における6位で、アミノ酸残基が、F及びWからなる群より選択される。
【0050】
特定の側面によれば、本発明の抗体は、当該抗体がなお機能的に活性であるという条件で、
図1に挙げられたCDRの組み合わせを含む。
【0051】
具体的には、本発明の抗体は、
図1に挙げられた抗体の任意のCDR1〜6を含む。しかしながら、別の実施形態では、前記抗体は、異なるCDRの組み合わせを含んでもよい。例えば、この際、
図1に挙げられた抗体は、ある抗体の1、2、3、4、5、又は6CDR配列のような少なくとも1つのCDR配列、及び
図1に挙げられた任意の抗体の異なる抗体のさらなるCDR配列を少なくとも1つ含む。特定の例によれば、前記抗体は、1、2、3、4、5、又は6CDR配列を含み、この際、当該CDR配列は、2以上の抗体、例えば2、3、4、5、又は6の異なる抗体のCDRの組み合わせである。例えば、前記CDR配列は、好ましくは、
図1に挙げられた任意の抗体のCDR1〜3の1,2又は3全て、及び、
図1に挙げられた同じ又は任意の他の抗体のCDR4〜6の1,2又は3全てを含むために、組み合わせられてもよい。
【0052】
ここで具体的には、CDR1,2及び3と番号を付されたCDRは、VHドメインの結合領域を表し、CDR4、5及び6はVLドメインの結合領域を表すと理解される。
【0053】
特定の側面では、本発明の抗体は、
図1に示される任意のHC及びLCアミノ酸配列の組み合わせ、又はHC及びLCアミノ酸配列のそのような組み合わせによって形成される結合部位を含む。また、当該抗体がなお機能的に活性であることを条件として、2つの異なる抗体の免疫グロブリン鎖の組み合わせが使用されてもよい。例えば、ある抗体のHC配列は、別の抗体のLC配列と組み合わされてもよい。さらに特定の実施形態によれば、
図1に提供されたフレームワーク領域のいずれかが、ここに記載されたCDR配列及び/又はVH/VL組み合わせのいずれかへのフレームワークとして使用されてもよい。
【0054】
本発明の抗体は、任意で、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有する
図1のアミノ酸配列を含むことが理解される。
【0055】
特定の側面によれば、
図1の配列の各々は、定常領域において末端が延長されていても欠失されていてもよい(例えば、C末端アミノ酸の一以上の欠失)。
【0056】
図1は、CDR1、2及び/又は3のいずれかに類似性を有する12の異なるHC配列及び1つのLC配列を示し、そして、任意のHC/LCの組み合わせをサポートし、ここで、あるHCのCDR1〜3の1つ、例えばCDR1は、第二及び任意で第三のHCの任意の他のCDR配列、例えば第二及び第三HCのCDR2及びCDR3それぞれ、と組み合わされる。
【0057】
特定の側面によれば、前記抗体は、配列番号39のVLアミノ酸配列又は配列番号52の抗体軽鎖(LC)アミノ酸を含む。
【0058】
具体的には、配列番号52は、配列番号39のVLアミノ酸配列を含み、且つ、シグナル配列によってN末端が延長されたLC配列を示す。前記特異抗体は、それぞれのシグナル配列を有する又は有さない、あるいは代わりのシグナル又はリーダー配列を有するVL又はLCアミノ酸配列を含むと理解される。
【0059】
特定の側面によれば、本発明の抗体は、配列番号20〜31のVHアミノ酸配列のいずれか、及び配列番号39のVLアミノ酸配列、又はVH及びVLアミノ酸配列のそのような組み合わせによって形成される結合部位を含む。
【0060】
特定の側面によれば、本発明の抗体は、配列番号40〜51のHCアミノ酸配列のいずれか、及び配列番号52のLCアミノ酸配列、又はHC及びLCアミノ酸配列のそのような組み合わせによって形成される結合部位を含む。
【0061】
本発明によれば、さらに、黄色ブドウ球菌のアルファ毒素(Hla)及び少なくとも1つの二成分毒素に結合する多特異性結合部位を少なくとも1つ含む交差中和抗体が提供され、ここで、当該抗体は、配列番号20のVHアミノ酸配列、及び配列番号39のVLアミノ酸配列の多特異性結合部位を含む親抗体の、機能的に活性な変異抗体であり、当該機能的に活性な変異抗体は、配列番号20又は配列番号39のいずれかにおいて任意のフレームワーク領域(FR)又は定常ドメイン、又は相補性決定領域(CDR1〜CDR6)に少なくとも1つの点変異を含み、各毒素と、10
-8M未満、好ましくは10
-9M未満、好ましくは10
-10M未満、好ましくは10
-11M未満のKdで結合する親和性(例えば、ピコモル範囲の親和性)を有する。
【0062】
具体的には、前記機能的に活性な変異抗体は、本発明の機能的に活性なCDR変異体の少なくとも1つを含む。
【0063】
具体的には、前記機能的に活性な変異体は、親抗体、例えば
図1に挙げられた任意の抗体と、アミノ酸配列において(好ましくはCDRにおいて)少なくとも1つの点変異にて異なり、ここで、前記CDRアミノ酸配列のそれぞれにおける点変異の数は、0,1,2又は3のいずれかである。
【0064】
具体的には、前記抗体はそのような抗体に由来し、それぞれのCDR配列、又はCDR変異株(機能的に活性なCDR変異体を含む、例えば、あるCDRループ内に、例えば、5〜18アミノ酸CDR長の内に、例えば5〜15アミノ酸又は5〜10アミノ酸のCDR領域の内に1,2又は3つの点変異を有する)を利用する。また、機能的に活性なCDR変異体を含む抗体を提供するために、1つのCDRループ内、例えばアミノ酸5未満のCDR長内に、1〜2の点変異があってもよい。特定のCDR配列は短くてもよい(例えば、CDR2又はCDR5配列)。特定の実施形態によれば、前記機能的に活性なCDR変異体は、4又は5未満のアミノ酸からなる任意のCDR配列中に1又は2つの点変異を含む。
【0065】
特定の側面によれば、本発明の抗体は、CDR及びフレームワーク配列を含み、ここで、前記CDR及びフレームワーク配列の少なくとも1つは、ヒトの、ヒト化の、キメラの、マウスの又は親和性成熟配列を含み、ここで、好ましくは前記フレームワーク配列は、IgG抗体のもの、例えばIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4サブタイプのもの、又はIgA1、IgA2、IgD、IgE、又はIgM抗体のものである。
【0066】
特定の抗体は、例えば、親抗体の製造可能性又は耐容性を改良するため、例えば、親抗体と比較してCDR配列及び/又はフレームワーク配列のいずれかに変異を有するヒト化抗体のような、低い免疫原性を有する改良された(変異型)抗体を提供するために、フレームワーク変異抗体として提供される。
【0067】
さらに特定の抗体は、例えば、抗体の親和性を改良するため及び/又は親抗体によって標的にされるエピトープ付近の同じ1つのエピトープ又は複数のエピトープを標的化するために(エピトープ・シフト)、CDR変異抗体として提供される。
【0068】
従って、
図1に挙げられた抗体はいずれも、改良型を設計するために、親抗体として使用されてもよい。
【0069】
特に、前記機能的に活性な変異抗体は、親抗体と同じエピトープに結合する特異性を有する。
【0070】
特定の側面によれば、前記少なくとも1つの点変異は、一以上のアミノ酸の、アミノ酸置換、欠失及び/又は挿入のいずれかである。
【0071】
特に、前記少なくとも1つの点変異は、以下のアミノ酸置換のいずれかである。
−CDR2におけるS51R又はS51K;又は
−CDR3におけるG103A、V104A又はV104S
【0072】
特に、本発明の抗体によって標的にされる二成分毒素は、ガンマ溶血素(HlgABC)、PVL毒素(LukSF)及びPVL様毒素のF及びS成分の同族及び非同族対(好ましくはHlgAB、HlgCB、LukSF、LukED、LukGH、LukS−HlgB、LukSD、HlgA−LukD、HlgA−LukF、LukG−HlgA、LukEF、LukE−HlgB、HlgC−LukD又はHlgC−LukFのいずれか)からなる群より選択される。
【0073】
特定の側面によれば、前記抗体は、Hla及び少なくとも1つの前記二成分毒素のF成分又はそのようなF成分を含む毒素(好ましくは少なくとも2つ又は3つ)、好ましくはHla及び少なくとも3つの前記二成分毒素のF成分、又はそのようなF成分を含む毒素に結合する交差特異性を有する。
【0074】
特に、前記F成分は、HlgB、LukF及びLukDからなる群より選択されるか、又は、ガンマ溶血素、PVL毒素及びPVL様毒素のF及びS成分の同族及び非同族対(好ましくはHlgAB、HlgCB、LukSF、LukED、LukS−HlgB、LukSD、HlgA−LukD、HlgA−LukF、LukEF、LukE−HlgB、HlgC−LukD又はHlgC−LukF)の任意のF成分である。
【0075】
特に、本発明の抗体によって標的にされるF成分は、HlgB、LukF及びLukDのいずれか1つ、2つ又は3つである。
【0076】
好ましくは、 前記結合部位は、少なくとも2つ又は少なくとも3つの二成分毒素、好ましくは、HlgAB、HlgCB、LukSF及びLukEDの任意の少なくとも2つ又は3つ、好ましくはHlgAB、HlgCB、LukSF及びLukEDの全てに結合する。
【0077】
特定の側面によれば、前記抗体は、一以上の前記毒素が、ホスホコリン又はホスファチジルコリンに、特に哺乳類細胞膜のホスファチジルコリンに結合するのを阻害する。
【0078】
特定の側面によれば、抗体は、mAb:毒素比(mol/mol)100:1未満、好ましくは50:1未満、好ましくは25:1未満、好ましくは10:1未満、より好ましくは1:1未満のIC50で、細胞に基づくアッセイにおいてインビトロ中和能を示す。
【0079】
さらなる特定の側面によれば、前記抗体は、ヒト及び非ヒト動物の両方を含む動物において、標的毒素を中和し、そしてインビボにおける黄色ブドウ球菌発病、好ましくは肺炎、菌血症、敗血症、膿瘍、皮膚感染症、腹膜炎、カテーテル及び補綴具が関与する感染及び骨髄炎の任意のモデルを阻害する。
【0080】
特定の側面によれば、前記抗体は、全長モノクローナル抗体、結合部位を含む少なくとも1つの抗体ドメインを含むその抗体フラグメント、又は、結合部位を含む少なくとも1つの抗体ドメインを含む融合タンパク質である。好ましくは前記抗体は、マウス、キメラ、ヒト化又はヒト抗体、重鎖抗体、Fab、Fd、scFv及び単一ドメイン抗体(VH、VHH又はVLのような)からなる群より選択され、好ましくはヒトIgG1抗体である。
【0081】
本発明は、さらに、本発明の抗体の軽鎖及び/又は重鎖を発現するコード配列を含む発現カセット又はプラスミドを提供する。
【0082】
本発明は、特に、
a)本発明の抗体のVH及び/又はVL;又は
b)本発明の抗体のHC及び/又はLC
を発現するためのコード配列を含む発現カセット又はプラスミドを提供する。
【0083】
本発明はさらに、本発明の発現カセット又はプラスミドを含む宿主細胞を提供する。
【0084】
特に、DSM26747又はDSM26748の下に寄託された、プラスミド及び宿主細胞は排除される。そのような寄託は、プラスミドで形質転換された大腸菌宿主細胞であり、DSM26748の下に寄託されている宿主細胞は、#AB−24−LCと称される抗体軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含むプラスミドで形質転換され;DSM26747の下に寄託されている宿主細胞は、#AB−24−HCと称される抗体重鎖をコードするヌクレオチド配列を含むプラスミドで形質転換されている。
【0085】
特に好ましいのは、宿主細胞及びこうした宿主細胞を使用する産生方法であって、ここで宿主細胞は
抗体軽鎖を発現するコード配列を組み込んだ、本発明のプラスミド又は発現カセット;
及び
抗体重鎖を発現するコード配列を組み込んだ、本発明のプラスミド又は発現カセット
を含む。
【0086】
本発明は、さらに、本発明に係る抗体を産生する方法であって、本発明の宿主細胞を、前記抗体を産生する条件下で培養するか又は維持する方法を提供する。
【0087】
本発明はさらに、親抗体(本発明の抗体であって、例えば
図1に示された抗体、又は
図1に示されたHC及びLCアミノ酸配列の組み合わせのいずれかを含む、又はHC及びLCアミノ酸配列のそのような組み合わせによって形成された結合部位を含む、又は、配列番号20〜31のいずれかのVHアミノ酸配列、及び配列番号39のVLアミノ酸配列の多特異性結合部位を含む抗体)の機能的に活性な抗体変異体を産生する方法を提供し、当該方法は、変異抗体を得るために配列番号20〜31又は配列番号39のいずれか内の、任意のフレームワーク領域(FR)又は定常ドメイン、又は相補性決定領域(CDR1〜CDR6)において少なくとも1つの点変異を設計すること、及び以下のいずれかによって、前記変異抗体の機能的活性を測定することを含む;
−黄色ブドウ球菌のHla及び少なくとも1つの二成分毒素のそれぞれに、10
-8M未満、好ましくは10
-9M未満、好ましくは10
-10M未満の、好ましくは10
-11未満のKdで、結合する親和性(例えばピコモル範囲の親和性)、及び/又は
−親抗体と競合する、Hla又は前記少なくとも1つの二成分毒素への前記変異抗体の結合、
ここで、当該機能的活性の測定により、機能的に活性な変異体が、組換え産生方法による産生のために選択される。
【0088】
機能的に活性な変異抗体は、VH又はVL配列のいずれかで異なってもよく、又は共通のVH又はVL配列を有してもよく、及び、それぞれのFRにおける改変を含んでもよい。突然変異誘発による前記親抗体由来の変異抗体は、当該分野において周知の方法で産生されてもよい。
【0089】
代表的な親抗体は、以下の実施例セクション及び
図1に記載される。特に、前記抗体は、
図1に挙げられた親抗体の機能的に活性な誘導体である。1以上改変されたCDR配列を有する、及び/又は1以上改変されたFR配列(FR1、FR2、FR3又はFR4配列等)、又は改変された定常ドメイン配列を有する変異体が、設計されてもよい。
【0090】
本発明は、さらに、本発明の抗体を産生する方法であって
(a)本明細書で定義されるエピトープの三次元構造で、非ヒト動物を免疫し;
(b)単離B細胞から不死化細胞株を形成し;
(c)b)で得られた細胞株をスクリーニングして、前記エピトープに結合するモノクローナル抗体を産生する細胞株を同定し;及び
(d)モノクローナル抗体、あるいは当該抗体のヒト化型又はヒト型、あるいは当該モノクローナル抗体と同じエピトープ結合特異性を持つその誘導体を産生する
工程を含む、方法を提供する。
【0091】
さらなる側面によれば、本発明は、本発明の抗体を産生する方法であって
(a)黄色ブドウ球菌のアルファ毒素及び/又は少なくとも1つの二成分毒素で、非ヒト動物を免疫し、そして抗体を産生するB細胞を単離し;
(b)単離B細胞から不死化細胞株を形成し;
(c)細胞株をスクリーニングして、黄色ブドウ球菌のアルファ毒素及び少なくとも1つの二成分毒素に結合するモノクローナル抗体を産生する細胞株を同定し;及び
(d)モノクローナル抗体、あるいは当該抗体のヒト化型又はヒト型、あるいは当該モノクローナル抗体と同じエピトープ結合特異性を持つその誘導体を産生する
工程を含む、方法を提供する。
【0092】
本発明はさらに、医学的使用のための本発明の抗体、特に、黄色ブドウ球菌感染のリスクがあるか又は当該感染を患っている被験体を治療する際に使用するための抗体を提供し、当該治療は、被験体における感染を限定するのに有効な量の抗体を被験体に投与して、前記感染から生じる疾患状態を寛解させるか、又は黄色ブドウ球菌疾患の発病(肺炎、敗血症、菌血症、創傷感染、膿瘍、手術部位感染、眼内炎、フルンケル症、カルブンケル症、心内膜炎、腹膜炎、骨髄炎又は関節感染等)を阻害することを含む。
【0093】
具体的には、前記抗体は、黄色ブドウ球菌感染に対する防御のために提供される。
【0094】
それゆえ本発明は、黄色ブドウ球菌感染のリスクがあるか又は当該感染を患っている被験体を治療する方法であって、被験体における感染を限定するのに有効な量の抗体を被験体に投与することによって、前記感染から生じる疾患状態を寛解させるか、又は黄色ブドウ球菌疾患の発症(肺炎、敗血症、菌血症、創傷感染、膿瘍、手術部位感染、眼内炎、フルンケル症、カルブンケル症、心内膜炎、腹膜炎、骨髄炎又は関節感染等)を阻害して治療する、方法を提供する。
【0095】
具体的には、病原性黄色ブドウ球菌に対する防御のための治療法を提供する。
【0096】
本発明はさらに、本発明の抗体を含む医薬品であって、好ましくは、非経口又は粘膜用製剤を含み、任意に薬学的に許容されるキャリアー又は賦形剤を含有する、医薬品を提供する。
【0097】
そのような医薬組成物は、前記抗体を唯一の活性物質として含んでもよく、あるいは他の活性物質との組み合わせで、あるいは活性物質のカクテルとして含んでもよく(例えば少なくとも2つ又は3つの異なる抗体の組み合わせ又はカクテル)、例えば、ここで前記他の活性物質は、さらに黄色ブドウ球菌を標的にする(例えば少なくとも1種の他の毒素を標的とするOPK抗体又は抗体)。具体的には、前記抗体のカクテルは、本発明の抗体を1つ以上含み、その各々が毒素を標的とし、当該組み合わせは、カクテル中の単一抗体と比べて、より様々なエピトープ又は毒素を標的とする。
【0098】
本発明はさらに、高毒素産生MRSA感染を含む任意の黄色ブドウ球菌感染、例えば壊死性肺炎、ならびにフルンケル症及びカルブンケル症における毒素産生を検出する診断使用のための本発明の抗体を提供する。
【0099】
本発明はさらに、本発明の抗体の診断用製剤であって、任意で標識を含む抗体及び/又は標識を含むさらなる診断試薬を含有する、製剤を提供する。
【0100】
具体的には、前記抗体は、本発明による診断使用のために提供され、当該抗体と被験体の体液試料を接触させることによって、当該被験体における黄色ブドウ球菌による全身感染が生体外で決定され、ここで抗体の特異的免疫反応が、感染を決定する。
【0101】
それゆえ、本発明はさらに、被験体において黄色ブドウ球菌感染を診断するそれぞれの方法に言及し、特に当該方法では、被験体における黄色ブドウ球菌による全身感染症が決定される。
【0102】
本発明はさらに、H1aモノマーによって形成される結晶であって、X線照射を回折し、本発明の抗体、又はその結合フラグメント、好ましくはFabフラグメントと接触しているHla縁領域(rim domain)の三次元構造を表す回折パターンを生じ、以下のセル定数を有するものを提供する:285.05Å、150.94Å、115.25Å、空間群P2
12
12、場合によって0.00Å及び2.00Åの間のずれを有する。
【0103】
本発明はさらに、LukDモノマーによって形成される結晶であって、X線照射を回折し、本発明の抗体、又はその結合フラグメント、好ましくはFabフラグメントと接触しているLukD縁領域(rim domain)の三次元構造を表す回折パターンを生じ、以下のセル定数を有するものを提供する:112.0Å、112.0Å、409.3Å、空間群H32、場合によって0.00Å及び2.00Åの間のずれを有する。
【0104】
本発明は、さらに本発明の抗体の単離パラトープ、又は前記パラトープを含む結合分子を提供する。
【0105】
本発明はさらに、本発明の抗体によって認識される単離立体構造エピトープであって、Hla、 LukD、LukF又はHlgBの縁領域の三次元構造を特徴とするエピトープを提供する。そのようなエピトープは、単一のエピトープからなってもあるいはエピトープ変異体を含むエピトープの混合物からなってもよく、そのそれぞれが本発明の抗体によって認識される。
【0106】
本発明はさらに、以下からなる群より選択される三次元構造を特徴とする、本発明のエピトープを提供する:
a)配列番号54の接触アミノ酸残基179-191、194、200、269及び271の構造座標を特徴とする三次元Hla構造;
b)配列番号55の接触アミノ酸残基176-188、191、197及び267の構造座標を特徴とする三次元LukF構造、好ましくは配列番号58のアミノ酸残基176-179、181-184、186-188、191、197及び267を有する;
c)配列番号54の接触アミノ酸残基176-188、191、197及び267の構造座標を特徴とする三次元LukD構造、好ましくは配列番号62のアミノ酸残基176-179、181-184、186-188、191、197及び267を有する;
d)配列番号56のアミノ酸接触残基177-189、192、198及び268の構造座標を特徴とする三次元HlgB構造、好ましくは配列番号68のアミノ酸残基177-180、182-185、187-189、192、198及び268を有する;
e)本発明の結晶の三次元Hla縁領域構造;
f)本発明の結晶の三次元LukD縁領域構造;及び
g)a)〜f)のいずれかの相同体である三次元構造、ここで当該相同体は、接触アミノ酸残基の骨格原子からの平均二乗偏差0.00A〜2.00Aを有する結合部位を含む。
【0107】
具体的には、前記エピトープは結合分子によって結合される。
【0108】
本発明はさらに、本発明のエピトープに特異的に結合する結合剤又は結合分子であって、好ましくはタンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、炭水化物、脂質、オリゴペプチド、アプタマー及び小分子化合物、好ましくは抗体、前記結合部位を含む少なくとも1つの抗体ドメインを含むその抗体フラグメント、又は前記結合部位を含む少なくとも1つの抗体ドメインを含む融合タンパク質、からなる群より選択される結合剤又は結合分子を提供する。
【0109】
具体的には、前記結合剤又は結合分子は、黄色ブドウ球菌のHla及び少なくとも1つの二成分毒素に結合する多特異性結合剤である。
【0110】
具体的には、前記結合剤又は結合分子は、毒素がホスホコリンに結合するのを妨げ、本発明の抗体と競合する。
【0111】
本発明はさらに、本発明のエピトープに特異的に結合又は本発明のエピトープを特異的に認識する結合剤を同定するためのスクリーニング法又はアッセイであって、
−候補化合物を本明細書に定義するエピトープの三次元構造と接触させる工程、及び、
−前記候補化合物と前記三次元構造間の結合を評価する工程、ここで、前記候補化合物と前記三次元構造間の結合は、当該候補化合物が、黄色ブドウ球菌のHla及び少なくとも1つの二成分毒素と結合する多特異性結合剤であることを同定する
を含むスクリーニング法又はアッセイを提供する。例えば、前記候補化合物と前記三次元構造又は前記エピトープ間の、正の機能的結合反応は、前記化合物が防御的結合剤であることを特定する。
【0112】
さらなる側面によれば、本発明は:
(a)本発明のエピトープ;
(b)任意で、(a)のエピトープと天然には会合しないさらなるエピトープ;及び
(c)キャリアー
を含む、免疫原を提供する。
【0113】
具体的には、キャリアーは、薬学的に許容されるキャリアーであり、好ましくはバッファー及び/又はアジュバント物質を含む。
【0114】
本発明の免疫原は、好ましくは、ワクチン製剤中で、好ましくは非経口使用のために提供される。
【0115】
具体的には、本発明の免疫原は、医学的使用のために、特に、黄色ブドウ球菌感染から被験体を防御するか、前記感染から生じる疾患状態を阻止するか、又は黄色ブドウ球菌肺炎の発病を阻害するのに有効な量の前記免疫原を投与することによって、被験体を治療する際に使用するために、提供される。
【0116】
具体的には、本発明の免疫原は、防御免疫応答を誘発するために提供される。
【0117】
特定の側面によれば、黄色ブドウ球菌感染のリスクがある被験体を治療する治療法であって、被験体における感染を防止する、特に病原性黄色ブドウ球菌に対して防御するのに有効な量の免疫原を被験体に投与する工程を含む方法がさらに提供される。
【0118】
さらなる側面によれば、本発明は、本発明の抗体をコードするか、又は本発明のエピトープをコードする、単離核酸を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0120】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、抗体ドメインからなるか又は抗体ドメインを含むポリペプチド又はタンパク質を指すものとし、抗体ドメインは、リンカー配列を伴う又は伴わない、免疫グロブリンの重鎖及び/又は軽鎖の定常及び/又は可変ドメインと理解される。ポリペプチドは、ループ配列によって連結される抗体ドメイン構造の少なくとも2つのベータ鎖からなるベータ−バレル構造を含むならば、抗体ドメインと理解される。抗体ドメインは、天然構造でもよいし、あるいは突然変異誘発又は誘導体化によって修飾されて、例えば抗原結合特性又は任意の他の特性、例えば安定性又は機能特性、例えばFc受容体FcRn及び/又はFcガンマ受容体への結合が修飾されてもよい。
【0121】
本明細書で使用される抗体は、1以上の抗原、あるいはこうした抗原の1以上のエピトープに結合する、特異的結合部位を有し、特に単一可変抗体ドメイン(例えばVH、VL又はVHH)のCDR結合部位、あるいは可変抗体ドメイン対(例えばVL/VH対)の結合部位、VL/VHドメイン対及び定常抗体ドメインを含む抗体、例えばFab、F(ab’)、(Fab)
2、scFv、Fv、あるいは全長抗体を含む。
【0122】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、特に、単一可変抗体ドメイン、例えばVH、VL又はVHH、あるいは連結配列又はヒンジ領域を伴う又は伴わない、可変及び/又は定常抗体ドメインの組み合わせを含むか、あるいはこれらからなる、抗体形式を指すものとし、可変抗体ドメイン対(例えばVL/VH対)、VL/VHドメイン対及び定常抗体ドメインを含むか又はこれらからなる抗体、例えば重鎖抗体、Fab、F(ab’)、(Fab)
2、scFv、Fd、Fv、又は全長抗体、例えばIgGタイプ(例えばIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgE、又はIgM抗体が含まれる。用語「全長抗体」は、Fcドメインの少なくとも大部分、及び天然存在抗体モノマーに一般的に見られる他のドメインを含む、任意の抗体分子を指すために使用されることができる。この句は、本明細書において、特定の抗体分子が抗体フラグメントではないことを強調するために用いられる。
【0123】
用語「抗体」には、特に、単離型の抗体(異なる標的抗原に対して向けられるか、又は抗体ドメインの異なる構造配置を含む他の抗体を実質的に含まない)が含まれるものとする。なお、単離抗体は、例えば少なくとも1つの他の抗体、例えば異なる特異性を有するモノクローナル抗体又は抗体フラグメントを含む、単離抗体の組み合わせを含有する、組み合わせ調製物に含まれることも可能である。
【0124】
用語「抗体」は、ヒト種を含む動物起源、例えばヒト、マウス、ウサギ、ヤギ、ラマ、ウシ及びウマ、又は鳥類、例えば雌鶏を含む哺乳動物の抗体に適用されるものとし、この用語は、特に、動物起源の配列、例えばヒト配列に基づく組換え抗体を含むものとする。
【0125】
用語「抗体」は、さらに、異なる種起源の配列、例えばマウス及びヒト起源の配列を持つキメラ抗体に適用される。
【0126】
用語「キメラ」は、抗体に関して用いられる際、重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列各々の1つの部分が、特定の種に由来するか又は特定のクラスに属する抗体中の対応する配列に相同である一方、鎖の残りのセグメントが、別の種又はクラスの対応する配列に相同である抗体を指す。典型的には、軽鎖及び重鎖両方の可変領域は、哺乳動物の1種由来の抗体可変領域を模倣し、一方、定常部分は、別の種由来の抗体配列に相同である。例えば、可変領域は、非ヒト宿主生物由来の、容易に入手可能なB細胞又はハイブリドーマを用いて、現在知られる供給源から得ることができ、定常領域(例えばヒト細胞調製物由来の)と組み合わせられる。
【0127】
用語「抗体」は、さらに、ヒト化抗体に適用される。
【0128】
用語「ヒト化」は、抗体に関して用いた際、非ヒト種由来の免疫グロブリンから実質的に得られる抗原結合部位を有する分子を指し、ここで、分子の残りの免疫グロブリン構造は、ヒト免疫グロブリンの構造及び/又は配列に基づく。抗原結合部位は、定常ドメインに融合した完全可変ドメイン、又は可変ドメイン中の適切なフレームワーク領域上に移植された相補性決定領域(CDR)のみのいずれかを含むことも可能である。抗原結合部位は、野生型でもよいし、あるいは例えば1以上のアミノ酸置換によって、修飾されていてもよく、好ましくは、ヒト免疫グロブリンにより近似するように修飾される。ヒト化抗体のいくつかの型は、すべてのCDR配列を保持する(例えば、マウス抗体由来の6つすべてのCDRを含有するヒト化マウス抗体)。他の型は、元の抗体に関して改変されている1以上のCDRを有する。
【0129】
用語「抗体」は、さらにヒト抗体に適用される。
【0130】
用語「ヒト」は、抗体に関して用いられる際、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変及び定常領域を有する抗体を含むと理解される。本発明のヒト抗体には、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えばランダム又は部位特異的突然変異誘発によってインビトロで、あるいは体細胞突然変異によってインビボで導入される突然変異)が含まれてもよい(たとえば、CDR中に)。ヒト抗体には、ヒト免疫グロブリンライブラリーから、あるいは1以上のヒト免疫グロブリン遺伝子導入動物から、単離される抗体が含まれる。
【0131】
用語「抗体」は、特に、任意のクラス又はサブクラスの抗体に適用される。重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、抗体は、抗体IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMの主要なクラスに割り当て可能であり、そしてこれらのいくつかは、さらに、サブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2に分けられうる。
【0132】
当該用語は、さらに、モノクローナル又はポリクローナル抗体、特に組換え抗体に適用され、こうした用語には、組換え手段によって調製されるか、発現されるか、生成されるか又は単離されるすべての抗体及び抗体構造が含まれ、例えば、異なる起源由来の遺伝子又は配列を含む、動物、例えばヒトを含む哺乳動物から生じる抗体、例えばマウス、キメラ、ヒト化抗体、又はハイブリドーマ由来抗体が含まれる。さらなる例は、抗体を発現するよう形質転換された宿主細胞から単離される抗体、あるいは抗体又は抗体ドメインの組換えコンビナトリアルライブラリーから単離される抗体、あるいは他のDNA配列に抗体遺伝子配列をスプライシングすることを含む、任意の他の手段によって、調製されるか、発現されるか、生成されるか、又は単離される抗体を指す。
【0133】
用語「抗体」はまた、抗体の誘導体、特に機能的に活性な誘導体も指すと理解される。抗体誘導体は、1以上の抗体ドメイン又は抗体及び/又は融合タンパク質の任意の組み合わせと理解され、ここで、抗体の任意のドメインは、1以上の他のタンパク質(例えば他の抗体、例えばCDRループを含む結合構造、受容体ポリペプチドであってもよいが、リガンド、足場タンパク質、酵素、毒素等でもよい)の任意の位置で、融合させてもよい。多様な化学的技術、例えば共有結合、静電相互作用、ジスルフィド結合等による、他の物質への会合又は結合によって、抗体の誘導体を得てもよい。抗体に結合する他の物質は、脂質、炭水化物、核酸、有機及び無機分子又はその任意の組み合わせ(例えばPEG、プロドラッグ又は薬剤)であってもよい。特定の実施形態において、抗体は、生物学的に許容されうる化合物との特異的相互作用を可能にするさらなるタグを含む誘導体である。本発明で使用可能なタグに関しては、抗体のターゲットへの結合に対して、まったく負の影響がないか又は許容されうる負の影響しかない限り、特別な制限はない。適切なタグの例には、Hisタグ、Mycタグ、FLAGタグ、Strepタグ、カルモジュリン・タグ、GSTタグ、MBPタグ、及びSタグが含まれる。別の特定の実施形態において、抗体は、標識を含む誘導体である。本明細書で使用される「標識」という用語は、「標識」抗体を生成するような、抗体に直接又は間接的に複合化された、検出可能な化合物又は組成物を指す。標識は、それ自体検出可能であってもよく、例えば放射性同位体標識又は蛍光標識であってもよく、あるいは酵素標識の場合、検出可能な基質化合物又は組成物の化学的改変を触媒してもよい。
【0134】
本明細書に記載する好ましい誘導体は、抗原結合に関して機能的に活性であり、且つ誘導体化されていない抗体と同様に、好ましくは黄色ブドウ球菌を中和する能力を有し、及び/又は防御抗体である。
【0135】
親の抗体又は抗体配列、例えば親のCDR又はFR配列から派生した抗体は、本明細書において、特に、例えば、インシリコの又は組換え工学によって、あるいは化学的誘導体化又は合成によって得られた変異株又は変異体と理解される。
【0136】
特に、本発明の抗体から誘導された抗体は、少なくとも1以上のそのCDR領域又はCDR変異体を含んでもよく、例えば、重鎖可変領域の少なくとも3つのCDR及び/又は軽鎖可変領域の少なくとも3つのCDRを有し、前記CDR又はFR領域、あるいはHC又はLCの定常領域の少なくとも1つに、少なくとも1つの点変異を有し、機能的に活性である(例えば、毒素を認識する多特異性結合部位に特異的に結合する)。
【0137】
用語「抗体」はまた、抗体の変異体も指すと理解され、これには、親CDR配列の、機能的に活性なCDR変異体を有する抗体、及び親抗体の機能的に活性な変異抗体も含まれる。
【0138】
用語「変異体」は、特に、例えば突然変異誘発法によって、特に特定の抗体アミノ酸配列又は領域において欠失、交換、挿入物導入を行い、あるいはアミノ酸配列を化学的に誘導体化して、例えば定常ドメインにおいて、抗体安定性、エフェクター機能又は半減期を操作するか、あるいは可変ドメインにおいて、例えば当該技術分野において利用可能なアフィニティ成熟技術によって抗原結合特性を改善して、得られる変異抗体又は抗体フラグメントなどの抗体を指すものとする。任意の既知の突然変異誘発法が使用可能であり、これには、例えばランダム化技術によって得られる、所望の位置での点変異が含まれる。いくつかのケースでは、位置はランダムに選択される(例えば任意のありうるアミノ酸で、又は抗体配列をランダム化する好ましいアミノ酸の選択を用いて)。用語「突然変異誘発」は、ポリヌクレオチド又はポリペプチド配列を改変するための、当該技術分野で認識される任意の技術を指す。好ましいタイプの突然変異誘発には、エラープローンPCR突然変異誘発、飽和突然変異誘発、又は他の部位特異的突然変異誘発が含まれる。
【0139】
用語「変異体」は、特に、機能的に活性な変異体を含むものとする。
【0140】
本明細書で使用されるCDR配列の「機能的に活性な変異体」という用語は、本明細書で使用される抗体の「機能的に活性なCDR変異体」及び「機能的に活性な変異体」と理解され、「機能的に活性な抗体変異体」と理解される。機能的に活性な変異体は、この配列(親抗体又は親配列)の1以上のアミノ酸の挿入、欠失又は置換、あるいはアミノ酸配列中の1以上のアミノ酸残基、あるいはヌクレオチド配列内のヌクレオチド、あるいは配列の遠位端のいずれか又は両方(例えば、CDR配列中のN末端及び/又はC末端の1,2,3あるいは4つのアミノ酸)、及び/又は中心の1,2,3あるいは4つのアミノ酸(すなわち、CDR配列の中央)の化学的誘導体化から生じる配列であって、そしてこうした修飾がこの配列の活性に影響を及ぼさない(特に損なわない)配列を意味する。選択される標的抗原に特異性を有する結合部位の場合、抗体の機能的に活性である変異体は、なお、あらかじめ決定された結合特異性を有するであろうが、これを変化させてもよく、例えば特定のエピトープに対する優れた特異性、親和性、結合活性、Kon又はKoff速度等を変化させてもよい。例えば、親和性成熟抗体は、特に機能的に活性な変異抗体と理解される。このように、親和性成熟抗体中の修飾CDR配列は、機能的に活性なCDR変異体と理解される。さらなる修飾が、例えば、交差特異性を広げて親抗体よりも多くの毒素又は毒素成分を標的とするために、又は、1以上の毒素又は毒素成分とのその反応性を高めるために、突然変異誘発を通じておこなわれてもよい。
【0141】
特に、本発明の抗体の機能的に活性な変異体は、本明細書にさらに記載するように、黄色ブドウ球菌のHla及び少なくとも1つの二成分毒素に結合する、多特異性結合部位を有する。機能的活性のさらなる指標は、細胞膜、特にホスホコリンへの任意の毒素の競合的な結合である。
【0142】
機能的活性は、好ましくは細胞溶解毒素に対する抗体の中和能を測定するためのアッセイによって決定され、たとえば、所定の毒素に感受性である細胞の増加した生存能又は機能性を測定することによる標準アッセイで決定される。例えば、抗体が細胞アッセイにおけるインビトロ中和能として、100:1(mAb:毒素の比[mol/mol])未満、好ましくは50:1未満、好ましくは25:1未満、好ましくは10:1未満、より好ましくは1:1未満のIC50を示す場合、機能的活性と判定される。中和は典型的には、抗体がある場合及びない場合の生存可能細胞のパーセントで表される。強力な抗体では、中和能を表す好ましい方法は、抗体:毒素のモル比であり、より低い値はより高い効力に対応する。10未満の値は、高い機能的活性を規定する。場合によっては、値は最も厳密なアッセイにおいて、1と10の間である。
【0143】
機能的に活性である変異体は、例えば親抗体、例えば結合部位(すなわちCDR領域によって形成される、又は配列番号20の配列を有するVH、及び配列番号39の配列を有するVLによって形成される、又はそれぞれのCDR領域によって形成される結合部位)を含む抗体の配列を変化させることによって得られてもよく、このような親抗体又は配列は、その交差反応性を特徴とするが、結合部位以外の抗体領域内に修飾を有し、又は、結合部位内の修飾によって、そのような親抗体から誘導され、それは抗原結合性を損なわず、そして好ましくは親抗体に類似する生物学的活性(黄色ブドウ球菌又は黄色ブドウ球菌毒素を標的とする特異的結合アッセイ又は機能性試験によって測定される、黄色ブドウ球菌毒素に結合する能力及び/又は特異的効力で、例えば、実質的に同じ生物学的活性で黄色ブドウ球菌を中和する能力を含む)を有する。
【0144】
特に、任意の以下のCDR配列が、以下を含むように修飾されてもよい。
a)VH CDR1における5位で、アミノ酸残基がS、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、Q、R、T、V、W及びYからなる群より選択され、好ましくはH、R及びWのいずれかである;
b)VH CDR1における7位で、アミノ酸残基がM、H、K、Q、R及びWからなる群より選択され、好ましくはK、R又はWのいずれかである;
c)VH CDR2における3位で、アミノ酸残基がD及びRからなる群より選択される;
d)VH CDR2における7位で、アミノ酸残基がS、A、D、E、F、H、K、M、N、Q、R、T、W及びYからなる群より選択され、好ましくはD、H、K、N又はQのいずれかであり、より好ましくはQである;
e)VH CDR2における9位で、アミノ酸残基がY、F、K、L、Q及びRからなる群より選択され、好ましくはRである;
f)VH CDR3における5位で、アミノ酸残基がG、A、D、F、H、I、M、N、R、S、T、V及びYからなる群より選択され、好ましくはD、F、H、I、M、N、R、T、V又はYのいずれかである;
g)VH CDR3における6位で、アミノ酸残基がH、E、Q及びSからなる群より選択され、好ましくはE又はQのいずれかである;
h)VH CDR3における7位で、アミノ酸残基がG、A、D、E、H、I、M、N、Q、S、T、V及びWからなる群より選択され、好ましくはWである;及び/又は
i)VH CDR3における8位で、アミノ酸残基がV、A、D、E、G、I、K、L、M、Q、R、S及びTからなる群より選択され、好ましくはM又はRのいずれかである;
【0145】
特に、任意の以下のCDR配列が、以下を含むように修飾されてもよい。
a)VL CDR4における7位で、アミノ酸残基が、S、A、E、F、G、K、L、M、N、Q、R、W及びYからなる群より選択され、好ましくはL、M、R又はWのいずれかであり、より好ましくはRである;
b)VL CDR5における1位で、アミノ酸残基が、A及びGからなる群より選択される;
c)VL CDR5における3位で、アミノ酸残基が、S、A、D、G、H、I、K、L、N、Q、R、T、V及びWからなる群より選択される;
d)VL CDR5における4位で、アミノ酸残基が、S、D、E、H、I、K、M、N、Q、R、T及びVからなる群より選択され、好ましくはK、N、Q及びRのいずれかである;
e)VL CDR6における3位で、アミノ酸残基が、G、A、D、E、F、H、I、K、L、N、Q、R、S、T、V、W及びYからなる群より選択される;
f)VL CDR6における4位で、アミノ酸残基が、Y、D、F、H、M、R及びWからなる群より選択される;
g)VL CDR6における5位で、アミノ酸残基が、V、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、Q、R、S、T、及びWからなる群より選択される;及び/又は
h)VL CDR6における6位で、アミノ酸残基が、F及びWからなる群より選択される。
【0146】
本明細書で使用される「実質的に同じ生物学的活性」という用語は、同等の又は親抗体に関して決定される活性の少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、例えば少なくとも100%、又は少なくとも125%、又は少なくとも150%又は少なくとも175%、又は例えば最大200%である、実質的に同じ活性によって示されるような活性を指す。
【0147】
本明細書で記載される好ましい変異体又は誘導体は、抗原結合に関して機能的に活性であり、好ましくは個々の毒素に特異的に結合する能力を有し、そして、標的毒素ではない他の抗原には有意に結合せず、例えば、少なくとも2log、好ましくは少なくとも3logのKd値の差を有する。機能的に活性な変異体による抗原結合は、典型的には障害されず、親抗体又は配列、又は配列変異体を含む抗体と実質的にほぼ同じ結合親和性に相当し、例えば、2log未満、好ましくは3log未満のKd値の差を有し、しかしながら、さらに向上した親和性を有する可能性もある(例えば、少なくとも1log、好ましくは少なくとも2logのKd値の差)。
【0148】
好ましい実施形態では、親抗体の機能的に活性な変異体は、
a)抗体の生物学的活性フラグメントであり、当該フラグメントは、分子の配列の少なくとも50%を含み、好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも97%、98%又は99%を含み;
b)少なくとも1つのアミノ酸置換、付加及び/又は欠失によって、抗体から得られ、ここで、機能的に活性な変異体は、分子又はその部分に配列同一性を有し、例えば少なくとも50%の配列同一性、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも97%、98%又は99%の配列同一性を有する抗体;及び/又は
c)抗体又はその機能的に活性な変異体、及びポリペプチド又はヌクレオチド配列に対して異種であるさらに少なくとも1つのアミノ酸又はヌクレオチドからなる。
【0149】
本発明の1つの好ましい実施形態では、本発明に係る抗体の機能的に活性な変異体は、本質的には、上述した変異体と同一であるが、異なる種の相同配列から得られている点で、それぞれ、そのポリペプチド又はヌクレオチド配列とは異なる。これらは、天然存在変異体又は類似体と称される。
【0150】
用語「機能的に活性な変異体」には、天然存在対立遺伝子多型、ならびに変異体又は任意の他の天然に存在しない変異体も含まれる。当該技術分野で知られるように、対立遺伝子多型は、ポリペプチドの生物学的機能を本質的には改変しない、1以上のアミノ酸の置換、欠失又は付加を有することを特徴とする、(ポリ)ペプチドの代替型である。
【0151】
機能的に活性な変異体は、例えば1以上の点変異によって、ポリペプチド又はヌクレオチド配列中の配列改変によって得ることも可能であり、ここで、配列改変は、本発明と組み合わせて用いられた際、改変されないポリペプチド又はヌクレオチド配列の機能を保持又は改善する。こうした配列改変には、(保存的)置換、付加、欠失、変異及び挿入が含まれうるが、これらに限定されない。
【0152】
特定の機能的に活性な変異体は、CDR変異体である。CDR変異体には、CDR領域中の少なくとも1つのアミノ酸によって修飾されたアミノ酸配列が含まれ、ここで、前記修飾は、アミノ酸配列の化学的又は部分的改変であってもよく、修飾は、変異体が非修飾配列の生物学的特性を保持することを可能にする。CDRアミノ酸配列の部分的改変は、1から数個のアミノ酸、例えば1、2、3、4又は5アミノ酸の欠失又は置換によるか、あるいは1から数個のアミノ酸、例えば1、2、3、4又は5アミノ酸の付加又は挿入、あるいは1から数個のアミノ酸、例えば1、2、3、4又は5アミノ酸の化学的誘導体化、あるいはその組み合わせであってもよい。アミノ酸残基における置換は、保存的置換、例えば1つの疎水性アミノ酸の別の疎水性アミノ酸に関する置換であってもよい。
【0153】
保存的置換は、側鎖及び化学的特性において関連するアミノ酸ファミリー内で行われる置換である。こうしたファミリーの例は、塩基性側鎖、酸性側鎖、非極性脂肪族側鎖、非極性芳香族側鎖、非荷電極性側鎖、小側鎖、巨大側鎖等を含むアミノ酸である。
【0154】
点変異は、特に、1以上の単一の(非連続的)又は二つ組のアミノ酸の異なるアミノ酸に関する置換又は交換、欠失又は挿入において、操作されないアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列の発現を生じる、ポリヌクレオチドの操作と理解される。
【0155】
好ましい点変異は、同じ極性及び/又は電荷のアミノ酸の交換を指す。これに関連して、アミノ酸は、64の3つ組コドンによってコードされる20の天然存在アミノ酸を指す。これらの20アミノ酸は、中性電荷、陽性電荷、及び陰性電荷を有するものに分類できる。
【0156】
「
中性」アミノ酸を、それぞれの3文字及び1文字コード及び極性とともに、以下に示す:
アラニン:(Ala、A)非極性、中性;
アスパラギン:(Asn、N)極性、中性;
システイン:(Cys、C)非極性、中性;
グルタミン:(Gln、Q)極性、中性;
グリシン:(Gly、G)非極性、中性;
イソロイシン:(Ile、I)非極性、中性;
ロイシン:(Leu、L)非極性、中性;
メチオニン:(Met、M)非極性、中性;
フェニルアラニン:(Phe、F)非極性、中性;
プロリン:(Pro、P)非極性、中性;
セリン:(Ser、S)極性、中性;
スレオニン:(Thr、T)極性、中性;
トリプトファン:(Trp、W)非極性、中性;
チロシン:(Tyr、Y)極性、中性;
バリン:(Val、V)非極性、中性;及び
ヒスチジン:(His、H)極性、陽性(10%)中性(90%)。
【0157】
「
陽性」荷電アミノ酸は以下の通りである:
アルギニン:(Arg、R)極性、陽性;及び
リジン:(Lys、K)極性、陽性。
【0158】
「
陰性」荷電アミノ酸は以下の通りである:
アスパラギン酸:(Asp、D)極性、陰性;及び
グルタミン酸:(Glu、E)極性、陰性
【0159】
「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、抗体配列及び本明細書記載の相同体に関して、配列を整列させ、そして最大配列同一性パーセントを達成するために、必要であればギャップを導入した後、そしていかなる保存的置換も配列同一性の一部とは見なさずに、特定のポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である、候補配列中のアミノ酸残基の割合と定義される。当業者は、整列を測定するための適切なパラメータを決定することが可能であり、これには、比較しようとする配列の全長に渡って、最大整列を達成するために必要ないかなるアルゴリズムも含まれる。
【0160】
抗体変異体は、特に、例えば糖鎖工学によって産生される、機能性であり、そして機能的等価物として働きうる(例えば特定の標的に結合し、機能的特性を有する)、特異的グリコシル化パターンを持つ相同体、類似体、フラグメント、修飾又は変異体を含むと理解される。本明細書に記載する好ましい変異体は、抗原結合に関して機能的に活性であり、好ましくは黄色ブドウ球菌を中和する能力を有し、及び/又は防御抗体である。
【0161】
本発明の抗体は、Fcエフェクター機能を示してもよいし、又は示さなくてもよい。作用様式は、主に、Fcエフェクター機能を持たない中和抗体によって仲介されるが、Fcは、補体を補充し、そして免疫複合体の形成を通じて、循環からの標的抗原、例えば毒素の除去を補助することも可能である。
【0162】
特異的抗体は、活性Fc部分を欠き、したがって、抗体のFc部分を含有しないか、又はFcガンマ受容体結合部位を含有しない抗体ドメインで構成されてもよいし、あるいは例えばFcエフェクター機能を減少させる、特にADCC及び/又はCDC活性を抑止するか又は減少させる修飾によって、Fcエフェクター機能を欠く抗体ドメインを含んでもよい。代替抗体を操作して、Fcエフェクター機能を増加させる、特にADCC及び/又はCDC活性を増強する修飾を組み込むことも可能である。
【0163】
こうした修飾は、突然変異誘発、例えばFcガンマ受容体結合部位の変異によって、あるいは抗体形式のADCC及び/又はCDC活性に干渉する誘導体又は剤によって、達成可能であり、こうしてFcエフェクター機能の減少又は増加を達成することも可能である。
【0164】
Fcエフェクター機能の有意な減少は、典型的には、ADCC及び/又はCDC活性によって測定される、非修飾(野生型)形式の10%未満のFcエフェクター機能、好ましくは5%未満のFcエフェクター機能を指すと理解される。
【0165】
Fcエフェクター機能の有意な増加は、典型的には、ADCC及び/又はCDC活性によって測定される、非修飾(野生型)形式の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、30%、40%又は50%のFcエフェクター機能の増加を指すと理解される。
【0166】
用語「糖鎖操作」変異体は、抗体配列に関して、糖鎖工学の結果として、修飾された免疫原性特性、免疫調節性(例えば、抗炎症性)特性、ADCC及び/又はCDCを有するグリコシル化変異体を指すものとする。すべての抗体は、重鎖定常領域において、保存された位置で炭水化物構造を含有し、各アイソタイプは、N連結炭水化物構造の異なるアレイを所有し、これはタンパク質アセンブリ、分泌又は機能活性に可変的に影響を及ぼす。IgG1タイプの抗体は、各CH2ドメインのAsn297に保存されたN連結グリコシル化部位を有する糖タンパク質である。Asn297に付着した2つの複雑な二分岐オリゴ糖は、CH2ドメインの間に包埋され,ポリペプチド主鎖との広範な接触を形成し、そしてその存在は、抗体が抗体依存性細胞傷害性(ADCC)などのエフェクター機能を仲介するために必須である。例えば、N297の例えばAへの変異、又はT299を通じて、N297のN−グリカンを除去すると、典型的には、ADCCが減少した脱グリコシル化抗体形式が生じる。特に、本発明の抗体は、グリコシル化された、糖鎖操作された、又は脱グリコシル化された抗体であってもよい。
【0167】
抗体グリコシル化の大きな相違は細胞株間で生じ、そして異なる培養条件下で増殖された所定の細胞株に関してもわずかな相違が見られる。バクテリア細胞における発現は、典型的には、脱グリコシル化抗体を提供する。テトラサイクリンが制御する、二分GlcNAcの形成を触媒する糖転移酵素であるβ(1,4)-N-アセチルグルコサミン転移酵素III(GnTIII)の発現を伴うCHO細胞は、改善されたADCC活性を有すると報告された(Umana et al., 1999, Nature Biotech. 17:176-180)。宿主細胞の選択に加えて、抗体の組換え産生中のグリコシル化に影響を及ぼす要因には、増殖様式、培地処方、培養密度、酸素添加、pH、精製スキーム等が含まれる。
【0168】
用語「抗原結合部位」又は「結合部位」は、抗原結合に関与する抗体部分を指す。抗原結合部位は、重(H)鎖及び/又は軽(L)鎖のN末端可変(V)領域、あるいはその可変ドメインのアミノ酸残基によって形成される。「超可変領域」と称される、重鎖及び軽鎖のV領域内の3つの非常に多様なストレッチは、フレームワーク領域として知られる、より保存された隣接ストレッチの間に挿入される。抗原結合部位は、結合エピトープ又は抗原の三次元表面に相補的な表面を提供し、そして超可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」と称される。CDR中に組み込まれた結合部位は、本明細書において、「CDR結合部位」とも称される。
【0169】
具体的には、本明細書で言及されるCDR配列は、Kabat命名法(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5
th Ed. Public Health Service, U.S. Department of Health and Human Services.(1991)参照)に従って決定される、抗体のアミノ酸配列と理解される。
【0170】
本明細書で使用される「抗原」という用語は、用語「標的」又は「標的抗原」と互換的に用いられ、全標的分子又は抗体の結合部位によって認識されるこうした分子のフラグメントを指すものとする。具体的には、免疫学的に関連した、一般的に「エピトープ」、例えばB細胞エピトープ又はT細胞エピトープと称される、抗原の部分構造、例えばポリペプチド又は炭水化物構造は、こうした結合部位によって認識されうる。
【0171】
本明細書で使用される「エピトープ」という用語は、特に、抗体の結合部位に対する特異的結合パートナーを完全に構成してもよいし、又は特異的結合パートナーの一部であってもよい、分子構造を指すものとする。エピトープは、炭水化物、ペプチド性構造、脂肪酸、有機、生化学的又は無機物質又はその誘導体、及びその任意の組み合わせのいずれで構成されてもよい。エピトープが、ペプチド性構造、例えばペプチド、ポリペプチド又はタンパク質で構成される場合、通常、これには、少なくとも3つのアミノ酸、好ましくは5〜40のアミノ酸、そしてより好ましくは約10〜20の間のアミノ酸が含まれるであろう。エピトープは直鎖又は立体構造エピトープのいずれかであってもよい。直鎖エピトープは、ポリペプチド又は炭水化物鎖の一次配列の単一セグメントで構成される。直鎖エピトープは近接していても又は重複していてもよい。
【0172】
立体構造エピトープは、ポリペプチドをフォールディングして、三次構造を形成することによってまとめられたアミノ酸又は炭水化物で構成され、アミノ酸は、直鎖配列においては、互いに必ずしも隣接しない。具体的には、ポリペプチド抗原に関しては、立体構造エピトープ又は不連続エピトープは、一次配列中では分離されているが、ポリペプチドが天然タンパク質/抗原にフォールディングした際には分子表面上の一貫した構造を構築する、2以上の別々のアミノ酸残基の存在によって特徴付けられる。具体的には、立体構造エピトープは、非線形に整列する一連のアミノ酸残基から構成されたエピトープであり、当該残基は、ポリペプチド配列の長さに沿って非連続的様式で、間隔を空け又は集合している。そのような立体構造エピトープは、接触アミノ酸残基及び/又は結晶学的解析によって、例えば、特異抗体又はFabフラグメントに結合されたエピトープの免疫複合体によって形成される結晶の解析によって測定される、特異的構造座標を有する三次元構造を特徴とする。
【0173】
特に、エピトープに寄与する結合残基は、本明細書において、接触アミノ酸残基と理解される。
【0174】
用語「構造座標」は、結晶形の抗原又は免疫複合体の原子、すなわち散乱中心によるX線の単色ビームの回折で得られるパターンに関連がある数学的方程式から派生したデカルト原子座標を指す。回折データは、結晶の反復単位の電子密度マップを計算するために使用される。電子密度マップはその後、例えば特異抗体又はFabによって結合されるような、エピトープの個々の原子を確立するために使用される。抗原の一組の構造座標は、三次元の形状を規定する点の相対的な一組であると理解される。個々の座標のわずかな違いは、全体の形状にほとんど影響を与えないであろう。本発明の目的のために、抗原の構造座標によって記載された関連する骨格原子に重ね合わされた際、0.00Aと2.00Aの間の保存残基骨格原子の平均二乗偏差を有する三次元構造は、同一又は実質的に同一とみなされる。本発明の目的のために、構造座標は、たとえわずかな変化が個々の座標中に存在しても、これらが前記構造座標によって規定される全体形状に影響を与えない場合、同一又は実質的に同一とみなされる。
【0175】
本明細書において、用語「エピトープ」は、特に、抗体に認識される単一のエピトープ、又は、それぞれが交差反応性抗体によって認識されるエピトープ変異体を含むエピトープ混合物を指すものとする。
【0176】
本明細書に記載される交差反応性抗体は、毒素の縁(rim)領域、特に可溶性の毒素モノマー又は毒素成分を特異的に認識する。前記縁領域は、宿主細胞膜の外葉に並置される毒素のドメインと理解され、当該縁領域は、細胞膜結合に関与する。このように縁部分は、膜アンカーとして働く。本発明の抗体によって標的にされるエピトープは、前記縁部分又は縁領域に位置し、それゆえ、免疫に関連する、すなわち、能動的又は受動的免疫療法による防御に関連する可能性がある。
【0177】
本発明で同定されたエピトープに基づいて、さらにそれぞれのパラトープ、例えば本発明の抗体のパラトープ、例えばエピトープを認識する全長抗体の一部等、抗体の抗原結合部位を提供することも実現可能である。それは典型的には、抗体のFv領域の15〜22アミノ酸の狭い領域である。そのようなパラトープは、所望の交差反応性結合特性を有する特異的結合剤又は結合分子を得るために、適切なスキャホールド内に組み込まれて、スキャホールド-タイプの分子、例えば融合タンパク質又は人工スキャホールドを得てもよい。
【0178】
本明細書で使用される「結合分子」という用語は、標的を特異的に認識し、特に標的毒素への交差特異性を示す、エピトープ-結合分子又は抗原-結合分子と理解される。結合分子の具体例は、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、炭水化物、脂質、オリゴペプチド、アプタマー及び小分子化合物、好ましくは抗体、前記結合部位を含む少なくとも1つの抗体ドメインを含むその抗体フラグメント、又は前記結合部位を含む少なくとも1つの抗体ドメインを含む融合タンパク質、からなる群より選択される。
【0179】
結合分子は、例えば、結合剤の適切なライブラリー、例えば抗体ライブラリー、又は他の化合物あるいはスキャホールドのライブラリー、例えば、DARPin、HEATリピートタンパク質、ARMリピートタンパク質、テトラトリコペプチド・リピートタンパク質及び天然起源のリピートタンパク質に基づく他のスキャホールドから、候補化合物を得るために適切なスクリーニング法によって選択されてもよく、その後さらにその結合特性に関する特性を明らかにされる。
【0180】
用語「発現」は、以下のように理解される。発現産物(例えば本明細書に記載の抗体等)の望ましいコード配列を含有する核酸分子、及び制御配列(例えば機能可能なリンケージ内のプロモーター等)を、発現目的のために用いてもよい。これらの配列で形質転換されたか又はトランスフェクションされた宿主は、コードされるタンパク質を産生可能である。形質転換を達成するため、発現系はベクター中に含まれていてもよいが、適切なDNAは宿主染色体内に組み込まれてもよい。具体的には、当該用語は、例えばベクターによって所持され、そして宿主細胞に導入される、外来DNAによってコードされるタンパク質の発現のために適切な条件下にある、宿主細胞及び適合性ベクターを指す。
【0181】
コードDNAは、例えば抗体のような特定のポリペプチド又はタンパク質のための特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列である。プロモーターDNAは、コードDNAの発現を開始するか、制御するか、あるいは他の方式で仲介するか又は調節するDNA配列である。プロモーターDNA及びコードDNAは、同じ遺伝子由来であってもよく、又は異なる遺伝子由来であってもよく、そして同じ又は異なる生物由来であってもよい。組換えクローニングベクターには、しばしば、クローニング又は発現のための1以上の複製系、宿主における選択のための1以上のマーカー、例えば抗生物質耐性、及び1以上の発現カセットが含まれるであろう。
【0182】
本明細書で使用される「ベクター」は、適切な宿主生物において、クローン化組換えヌクレオチド配列、すなわち組換え遺伝子の転写、及びそのmRNAの翻訳に必要な、DNA配列と定義される。
【0183】
「発現カセット」は、規定される制限部位でベクター内に挿入可能な発現産物をコードする、DNAコード配列又はDNAセグメントを指す。カセット制限部位は、適切なリーディングフレームでのカセットの挿入を確実にするよう設計される。一般的に、外来DNAは、ベクターDNAの1以上の制限部位で挿入され、その後、ベクターによって、伝達性ベクターDNAとともに、宿主細胞内に運ばれる。挿入された又は付加されたDNAを有するDNAのセグメント又は配列、例えば発現ベクターは「DNA構築物」とも称される。
【0184】
発現ベクターは発現カセットを含み、さらに通常、宿主細胞又はゲノム組込み部位における自律複製起点、1以上の選択可能マーカー(例えばアミノ酸合成遺伝子、あるいは抗生物質、例えばゼオシン、カナマイシン、G418又はハイグロマイシンに対する耐性を与える遺伝子)、いくつかの制限酵素切断部位、適切なプロモーター配列及び転写終結因子を含み、これらの成分は、機能可能に共に連結される。本明細書で使用される「ベクター」という用語は、自己複製ヌクレオチド配列、ならびにゲノム組込みヌクレオチド配列を含む。ベクターの一般的なタイプは「プラスミド」であり、これは一般的に、さらなる(外来)DNAを容易に受け入れ可能であり、そして適切な宿主細胞内に容易に導入可能である、二本鎖DNAの自己完結型分子である。プラスミドベクターは、しばしば、コードDNA及びプロモーターDNAを含有し、そして外来DNAを挿入するのに適した1以上の制限部位を有する。具体的には、用語「ベクター」又は「プラスミド」は、宿主を形質転換し、そして導入した配列の発現(例えば転写及び翻訳)を促進するように、DNA又はRNA配列(例えば外来遺伝子)が宿主細胞内に導入可能であるビヒクルを指す。
【0185】
本明細書で使用される「宿主細胞」という用語は、特定の組換えタンパク質、例えば本明細書記載の抗体を産生するよう形質転換された一次対象細胞、及びその任意の子孫を指すものとする。すべての子孫が親細胞と正確に同一ではないが(計画的な又は偶発性の突然変異、あるいは環境の違いに起因する)、こうした改変された子孫は、子孫が元来形質転換された細胞のものと同じ機能性を保持する限り、これらの用語に含まれると理解されなければならない。用語「宿主細胞株」は、組換え抗体などの組換えポリペプチドを産生する組換え遺伝子を発現するために用いられる宿主細胞の細胞株を指す。 本明細書で使用される「細胞株」という用語は、長期間に渡って増殖する能力を獲得した、特定の細胞タイプの樹立されたクローンを指す。こうした宿主細胞又は宿主細胞株は細胞培養中で維持されてもよく、及び/又は組換えポリペプチドを産生するために培養されてもよい。
【0186】
組成物(例えば、抗原又はエピトープを含む、本明細書において「免疫原」とも称される免疫原性組成物)、あるいは本明細書に記載のワクチンに対する「免疫応答」は、関心の対象となる組成物又はワクチンに対する、細胞及び/又は抗体媒介性免疫応答の、宿主又は被験体における発展である。通常、こうした応答は、関心の対象となる組成物又はワクチン中に含まれる単数又は複数の抗原に対して特異的に向けられる、被験体が産生する抗体、B細胞、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、及び/又は細胞傷害性T細胞からなる。
【0187】
「防御免疫応答」は、非免疫集団のものと比較して、誘導されたあるいは天然の感染または毒素負荷に対し、有意に優れた結果を提供する免疫応答と理解される。毒素に対する防御免疫応答は、主に、高い親和性を有する(例えば10
-8M未満のKdを有する)中和抗体によって媒介される。毒素中和の利点は、標的細胞の保護及び炎症の防止である。Fc介在性免疫複合体形成は、循環から毒素を除去する(RES細胞を介する)ことによっても寄与できる。
【0188】
免疫原又は免疫原性組成物は、通常、抗原又はエピトープ及びキャリアーを含み、特にアジュバントを含んでもよい。用語「アジュバント」は、抗原と組み合わせて投与された際、抗原に対する免疫応答を増大及び/又は再指示するが、単独で投与された際には、抗原に対する免疫応答を生じない化合物を指す。アジュバントは、リンパ球補充、B及び/又はT細胞刺激、ならびにマクロファージ刺激を含む、いくつかのメカニズムによって、免疫応答を増大させうる。代表的なキャリアーは、リポソーム又は陽イオン性ペプチドであり;代表的なアジュバントは、リン酸アルミニウム又は水酸化アルミニウム、MF59又はCpGオリゴヌクレオチドである。
【0189】
核酸、抗体又は他の化合物に関して本明細書で使用される「単離された」又は「単離」という用語は、「実質的に純粋な」型で存在するように、こうした化合物が天然に会合するであろう環境から十分に分離されている化合物を指すものとする。「単離された」は、他の化合物又は物質との人工的な又は合成混合物、あるいは基本的活性に干渉せず、例えば不完全な精製のために存在しうる不純物の存在の排除を必ずしも意味しない。特に、本発明の単離された核酸分子は、化学的に合成されたものも含むことを意図している。
【0190】
本発明の核酸に関連して、用語「単離された核酸」が時に用いられる。この用語は、DNAに適用された際、由来する生物の天然存在ゲノムにおいて直接隣接している配列から分離されたDNA分子を指す。例えば「単離された核酸」は、ベクター、例えばプラスミド又はウイルスベクター内に挿入されたか、あるいは原核又は真核細胞又は宿主生物のゲノムDNA内に組み込まれたDNA分子を含むことも可能である。RNAに適用された際、用語「単離された核酸」は、主に、上に定義するような単離されたDNA分子によってコードされるRNA分子を指す。あるいは、当該用語は、天然状態で(すなわち細胞又は組織において)会合するであろう他の核酸から十分に分離されているRNA分子を指すことも可能である。「単離された核酸」(DNA又はRNAいずれか)は、さらに、生物学的又は合成的手段によって直接産生され、そしてその産生中に存在する他の成分から分離されている分子を表すことも可能である。
【0191】
ポリペプチド又はタンパク質、例えば本発明の単離抗体又はエピトープに関連して、用語「単離された」は、特に、天然環境において、あるいはこうした調製がインビトロ又はインビボで実施される組換えDNA技術による場合、調製される環境(例えば細胞培養)において、ともに見られる他の化合物などの、天然に会合している物質を含まないか又は実質的に含まない、化合物を指すものとする。単離された化合物を、希釈剤又はアジュバントとともに配合してもよく、そしてなお、単離される実際的な目的のため、例えば、診断又は治療に用いる際には、ポリペプチド又はポリヌクレオチドを薬学的に許容されるキャリアー又は賦形剤と混合してもよい。
【0192】
用語「中和性」又は「中和」は、本明細書において、最も広い意味で用いられ、そして中和が達成されるメカニズムに関わらず、病原体、例えば黄色ブドウ球菌に、被験体が感染するのを阻害するか、又は病原体が強力なタンパク質毒素を産生することによって感染を促進するのを阻害するか、又は毒素が被験体において標的細胞を損傷するのを阻害する、任意の分子を指す。中和は、例えば、標的細胞上の同族受容体と黄色ブドウ球菌毒素(単数又は複数)の結合及び/又は相互作用を阻害する抗体によって、達成可能である。特定の実施形態において、本明細書記載の抗体は、毒素活性を中和させることも可能であり、ここで、毒素と標的細胞(例えば赤血球)の間の相互作用のインビボ又はインビトロ効果は、減少するか又は除去される。中和はさらに、活性毒素の形成を阻害することによって、例えば黄色ブドウ球菌二成分細胞溶解素の場合、S及びF成分の結合、又は細胞膜におけるオリゴマー性孔の形成の阻害によって、生じることも可能である。
【0193】
細胞溶解毒素に対する抗体の中和能は、典型的には、所定の毒素に感受性である細胞の増加した生存能又は機能性を測定することによって、標準アッセイにおいて決定される。中和は、抗体を含む及び含まない生存細胞のパーセントによって表すことができる。強力な抗体に関しては、中和能を表す好ましい方式は、抗体:毒素モル比であり、ここで、より低い値はより高い効力に対応する。10未満の値は高い効力を、1未満の値は非常に高い効力を定義する。
【0194】
本明細書で使用される「交差中和性」という用語は、いくつかの毒素(例えば交差反応性又は多特異性抗体によって認識される交差反応性エピトープを有する毒素)の中和を指すものとする。
【0195】
用語「黄色ブドウ球菌」又は「S.アウレウス」又は「病原性黄色ブドウ球菌」は、以下のように理解される。黄色ブドウ球菌細菌は、通常、人間及び動物の皮膚上又は鼻中に見られる。当該細菌は、切り傷又は他の創傷を通じて体内に入らない限り、一般的には無害である。典型的には、感染は、健康な人々においては、重要でない皮膚の問題である。歴史的には、感染は、メチシリンのような広域抗生物質によって治療された。しかし、現在、メチシリン及び他のベータ−ラクタム抗生物質、例えばペニシリン及びセファロスポリンに耐性である特定の株が出現してきている。これらはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(多剤耐性黄色ブドウ球菌、あるいは「MRSA」としても知られる)と呼ばれる。
【0196】
黄色ブドウ球菌は、重要なヒト病原体であり、多数の分泌毒素(外毒素)を発現する。これらは、赤血球、好中性顆粒球及び他の免疫細胞、ならびに肺又は皮膚の上皮細胞を含む、多様な宿主細胞タイプを攻撃しうる。黄色ブドウ球菌毒素の主なメンバーは、リンパ球、マクロファージ、肺上皮細胞及び肺内皮細胞に対して細胞溶解機能を発揮する、アルファ溶血素(Hla)である。
【0197】
MRSAを含む黄色ブドウ球菌感染は、一般的には、面皰、おでき又はクモの咬傷に似た小さな赤い隆起として始まる。これらの隆起又は傷は、急速に、外科的排出を必要とする、深く有痛性の膿瘍に変わりうる。細菌は時に皮膚に限局されたままである。ときおり、これらは体内深くに掘り進み、皮膚、軟組織、骨、関節、外科的創傷、血流、心臓弁、肺、又は他の臓器を含む、広い範囲のヒト組織において、潜在的に生命を危うくする感染を引き起こしうる。このように、黄色ブドウ球菌感染は、潜在的に致死性の疾患、例えば壊死性筋膜炎、心内膜炎、敗血症、菌血症、腹膜炎、毒素性ショック症候群、及び壊死性肺炎を含む多様な型の肺炎、ならびにフルンケル症及びカルブンケル症における毒素産生といった、関連する疾患状態をもたらしうる。MRSA感染は、患者が開放性創傷、侵襲的デバイス、及び弱った免疫系のリスクにあるか、又はこうしたものに対する傾向があり、それゆえ、一般人よりも感染のリスクがより大きい、病院又は老人ホームの状況においては、特に厄介である。
【0198】
黄色ブドウ球菌毒素を中和する抗体は、病原体及び病原性反応に干渉し、したがって、感染を限定するか又は防止し、及び/又はこうした感染から生じる疾患状態を寛解させるか、あるいは黄色ブドウ球の発病、特に肺炎、腹膜炎、骨髄炎、菌血症及び敗血症の発病を阻害することが可能である。これに関連して、「防御抗体」は、本明細書において、能動免疫又は受動免疫において観察される、感染病原体に対する免疫を担う中和抗体と理解される。特に、本明細書に記載する防御抗体は、分泌される病原性因子(外毒素)の毒性効果(例えば細胞溶解、標的細胞による炎症促進性サイトカイン発現の誘導)を中和することが可能であり、それゆえ、黄色ブドウ球菌の病変形成能に干渉する。
【0199】
本明細書で使用される「組換え」という用語は、「遺伝子工学によって調製されるか又は遺伝子操作の結果」を意味するものとする。組換え宿主は、特に、発現ベクター又はクローニングベクターを含むか、あるいは特に宿主に対して外来性であるヌクレオチド配列を使用して、組換え核酸配列を含有するよう遺伝子操作されている。組換えタンパク質は、宿主においてそれぞれの組換え核酸を発現することによって産生される。本明細書で使用される「組換え抗体」という用語は、組換え手段によって調製されるか、発現されるか、生成されるか、又は単離される抗体、例えば(a)ヒト免疫グロブリン遺伝子を遺伝子導入又は染色体導入した動物(例えばマウス)あるいはそこから調製されたハイブリドーマから単離された抗体、(b)抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から、例えばトランスフェクトーマから単離された抗体、(c)組換えコンビナトリアル・ヒト抗体ライブラリーから単離された抗体、及び(d)ヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを伴う、任意の他の手段によって調製されるか、発現されるか、生成されるか又は単離される抗体が含まれる。こうした組換え抗体は、例えば抗体成熟中に生じる再編成及び変異を含むよう操作される抗体を含む。
【0200】
本明細書で使用される、用語「特異性」又は「特異的結合」は、分子の不均一集団において、関心対象の同族リガンドを決定する結合反応を指す。したがって、明示される条件(例えばイムノアッセイ条件)下で、抗体は,特定のターゲットに特異的に結合し、そして試料中に存在する他の分子には、有意な量では結合しない。特異的結合は、結合が、ターゲット同一性、高い、中程度又は低い結合親和性又は結合活性に関して選択性であることを意味する。選択的結合性は、通常、他の抗原と比較して、結合定数又は結合動力学が少なくとも10倍異なる場合(少なくとも1log異なると理解される)、好ましくは相違が少なくとも100倍である場合(少なくとも2log異なると理解される)、より好ましくは少なくとも1000倍である場合(少なくとも3log異なると理解される)、達成される。
【0201】
用語「特異性」又は「特異的結合」は、1以上の分子に結合する結合剤、例えば交差特異性結合剤にも適用されると理解される。少なくとも2つの異なる抗原を標的にするか、あるいは少なくとも2つの異なる抗原上の交差反応性エピトープを標的とする好ましい交差特異性(多特異性又は交差反応性とも呼ばれる)結合剤は、実質的に類似する結合親和性を有する抗原(例えば、100倍未満の差、あるいは10倍未満の差を有する)と特異的に結合する。
【0202】
例えば、交差-特異抗体は、交差反応性エピトープを保有する様々な抗原に結合できるであろう。少なくとも2つの異なる抗原又は少なくとも2つの異なる抗原の交差反応性エピトープに結合する特異性を有する抗体の結合部位及び抗体はそれぞれ、多特異性又は交差特異的結合部位及び抗体とも呼ばれる。例えば、抗体は、本質的に同じ構造の立体構造エピトープを提供できる、エピトープ内の配列相同性及び/又は構造的類似性を有する複数の異なる抗原に交差反応性である(例えば、黄色ブドウ球菌のHla及び二成分毒素に少なくとも交差反応性である)エピトープに特異的に結合する多特異性結合部位を有していてもよい。
【0203】
交差反応性結合配列に抗体が示す、抗体の免疫特異性、その結合能及び付随する親和性は、抗体が免疫反応する(結合する)交差反応性結合配列によって決定される。交差反応性結合配列特異性は、少なくとも部分的に、抗体の免疫グロブリンの重鎖可変領域のアミノ酸残基によって、及び/又は軽鎖可変領域アミノ酸残基配列によって、定義されうる。
【0204】
用語「同じ特異性を有する」、「同じ結合部位を有する」又は「同じエピトープに結合する」の使用は、同等のモノクローナル抗体が、同じ又は本質的に同じ、すなわち類似の免疫応答(結合)特性を示し、そしてあらかじめ選択された標的結合配列への結合に関して競合することを示す。特定の標的に対する抗体分子の相対的特異性は、競合アッセイによって、相対的に決定可能である(例えば、Harlow, et al., ANTIBODIES: A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1988に記載されるように)。
【0205】
本明細書で使用される「被験体」という用語は、温血哺乳動物、特にヒト又は非ヒト動物を指すものとする。MRSAは、非常に重要なヒト病原体であり、これはまた、獣医学においても新たに発生している懸念である。それは、広い範囲の非ヒト動物種に存在する。したがって、用語「被験体」は、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ウシ、ブタ及び家禽を含む動物もまた特に指す可能性がある。特に、本発明の医学的使用又はそれぞれの治療法は、黄色ブドウ球菌感染に関連する疾患状態の予防又は治療が必要な被験体に適用される。被験体は、黄色ブドウ球菌感染のリスクがあるか、あるいは初期又は後期疾患を含む疾患を患っている患者であってもよい。用語「患者」には、予防的又は治療的処置のいずれかを受けているヒト及び他の哺乳動物被験体が含まれる。用語「治療」は、したがって、予防的及び治療的処置の両方を含むと意図される。
【0206】
被験体は、例えば、黄色ブドウ球菌疾患状態の予防又は治療のために処置される。特に、感染の、あるいはこうした疾患又は疾患再発を発症するいずれかのリスクがある被験体、あるいはこうした感染及び/又はこうした感染に関連する疾患を患う被験体が治療される。
【0207】
特に、用語「予防」は、発病(病態形成)の開始の防止又は発病のリスクを減少させる予防的手段を含むよう意図される、防御手段を指す。
【0208】
特に、本明細書に記載する被験体における疾患状態を治療するか、防止するか、又は遅延させるための方法は、状態の原因病原体としての黄色ブドウ球菌の病態形成を妨げることにより、ここで病態形成には、例えば特定の病原性因子又は毒素による、被験体の細胞膜上のポア形成工程が含まれる。
【0209】
本明細書で使用される「毒素」という用語は、黄色ブドウ球菌のアルファ毒素(Hla)及び二成分毒素を指すものとする。本発明の抗体によって標的とされる毒素は、毒素(例えば黄色ブドウ球菌によって発現される、可溶性単量体毒素あるいはポア形成毒素の形態等)、又は毒素成分(二成分毒素の成分等)のいずれかであることが、特に理解される。それゆえ、本明細書で使用される「毒素」という用語は、免疫関連エピトープを有する毒素又は毒素成分の両方を指すものとする。
【0210】
黄色ブドウ球菌の病原性は、細菌が真核細胞膜に接着することを可能にする表面会合タンパク質、オプソニン化貪食作用から細菌を保護する莢膜多糖類、及びいくつかの外毒素を含む、多くの病原性因子の組み合わせに起因する。黄色ブドウ球菌は、主に、分泌される病原性因子、例えば溶血素、エンテロトキシン及び毒素性ショック症候群毒素の産生を通じて疾患を引き起こす。これらの分泌される病原性因子は、宿主における多くの免疫学的メカニズムを不活性化させることによって、免疫応答を抑制し、そして組織破壊を引き起こし、そして感染確立を補助する。後者は、ポア形成毒素群によって達成され、このうち最も顕著なものが、黄色ブドウ球菌肺炎の重要な病原性因子であるHlaである。
【0211】
黄色ブドウ球菌は、この細菌が様々な種類の免疫細胞、特に体の主な防御システムを構成する白血球の亜集団による攻撃に対抗及び抵抗することを可能にする、多様なアレイのさらなる病原性因子及び毒素を産生する。これらの病原性因子及び毒素の産生は、黄色ブドウ球菌が感染状態を維持することを可能にする。これらの病原性因子のうち、黄色ブドウ球菌は、いくつかの二成分ロイコトキシンを産生し、これは、2つの関連しないタンパク質又はサブユニットの相乗作用によって、宿主防御細胞及び赤血球の膜を損傷する。これらの二成分毒素のうち、ガンマ溶血素(HlgAB及びHlgCB)及びパントン-バレンタイン・ロイコシジン(PVL)が最もよく特徴が明らかになっている。
【0212】
哺乳動物細胞に対するロイコシジンの毒性は、二成分の作用を伴う。最初のサブユニットはクラスS成分と称され、そして第二のサブユニットはクラスF成分と称される。S及びFサブユニットは相乗的に作用して、単球、マクロファージ、樹状細胞及び好中球(まとめて、貪食細胞として知られる)を含む白血球上に孔を形成する。ガンマ溶血素、特にHlgAB及びHlgA-LukDは赤血球にも作用し、LukEDはT細胞に作用する。黄色ブドウ球菌によって産生される二成分ロイコトキシンのレパートリーは、F及びS成分の同族及び非同族対を含むことが知られ、これには、例えば本明細書に記載する好ましい標的である、ガンマ溶血素、PVL毒素及びPVL様毒素が含まれ、これにはHlgAB、HlgCB、LukSF、LukED、LukGH、LukS−HlgB、LukSD、HlgA−LukD、HlgA−LukF、LukG−HlgA、LukEF、LukE−HlgB、HlgC−LukD又はHlgC−LukFが含まれる。
【0213】
本明細書で使用される「実質的に純粋」又は「精製された」という用語は、少なくとも50%(w/w)、好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%又は95%の化合物、例えば核酸分子又は抗体を含む調製物を指すものとする。純度は、化合物に適した方法によって測定される(例えばクロマトグラフィ法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、HPLC分析等)。
【0214】
本明細書で使用される「治療的に有効な量」という用語は、化合物、例えば本発明の抗体又は免疫原の「有効量」又は「十分量」という用語のいずれとも互換的に用いられ、被験体に投与された際、有益な又は望ましい結果(臨床的な結果を含む)を達成するのに十分な量又は活性であり、そしてこうしたものとして、有効量又はその同義語は、適用される状況によって決まる。
【0215】
有効量は、こうした疾患又は障害を治療するか、予防するか又は阻害するのに十分である化合物の量を意味するよう意図される。疾患の状況において、本明細書に記載する抗体の治療的有効量は、特に、疾患又は状態を治療するか、調節するか、減弱させるか、逆転させるか、又は影響を及ぼすように用いられ、黄色ブドウ球菌又は黄色ブドウ球菌病態形成の阻害による恩恵を受ける。
【0216】
こうした有効量に対応する化合物の量は、多様な要因、例えば所定の薬剤又は化合物、製剤処方、投与経路、疾患又は障害のタイプ、治療される被験体又は宿主の同一性等に応じて変化するであろうが、にもかかわらず、当業者によってルーチン的に決定可能である。
【0217】
本発明の抗体又は免疫原は、黄色ブドウ球菌感染の開始を阻害するため予防的に用いられてもよく、又は黄色ブドウ球菌感染(特に、抵抗性であることが知られるか、又は特定の被験体において、他の慣用的な抗生物質療法での治療に抵抗性であることが立証されている、MRSAなどの黄色ブドウ球菌感染)を治療するために治療的に用いられてもよい。
【0218】
治療の必要があるヒト患者に提供される、本明細書記載の抗体の治療的有効量は、特に、0.5〜50mg/kg、好ましくは5〜40mg/kg、さらにより好ましくは最大20mg/kg、最大10mg/kg、最大5mg/kgの範囲であってもよいが、例えば、急性疾患状態を治療するために、より高い用量が指示されてもよい。
【0219】
さらに、治療的有効量の本発明の抗体での被験体の治療又は予防レジメンは、単回投与からなることも可能であるし、あるいは一連の処理を含んでもよい。例えば、抗体を少なくとも1年に1回、少なくとも半年に1回又は少なくとも1ヶ月に1回投与してもよい。しかし、別の態様において、所定の治療のため、1週間に約1回からほぼ毎日の投与で、抗体を被験体に投与してもよい。治療期間の長さは、多様な要因、例えば疾患の重症度、急性又は慢性疾患であるか、患者の年齢、抗体形式の濃度及び活性によって決まる。治療又は予防に用いられる有効投与量は、特定の治療又は予防レジメンの経過に渡って増加させても又は減少させてもよいことも、認識されるであろう。投与量変化は、当該技術分野に知られる標準的診断アッセイによって生じ、そして明らかになりうる。いくつかの例では、長期投与が必要かもしれない。
【0220】
黄色ブドウ球菌感染と関連する疾患状態を発症するリスクがある患者に提供される場合などの、本明細書に記載される免疫原の有効量は、特に、1用量あたり、1〜20mg/kgの範囲であってもよい。
【0221】
例えば、プライム-ブースト免疫化スキームにしたがって、免疫原を最初の用量として投与して、その後、特定の時間枠内で、1以上のブースター用量(単数又は複数)を投与して、黄色ブドウ球菌感染に対する長期持続性の有効な免疫応答を誘導してもよい。好ましいワクチン接種スケジュールは、3回の用量、例えば0日目の最初の用量、5〜40日目の第二の用量、及び10〜100日目の第三の用量、好ましくは0日目、28日目及び90日目の投与を含むであろう。好ましい加速スケジュールにしたがって、投与は0日目、7日目及び14日目であってもよい。加速スケジュールは、予防のため、例えば待機手術に直面している患者のために指示されうる。通常、ミョウバンがアジュバントとして、例えばリン酸塩又は水酸化物として、用いられる。
【0222】
それゆえ、本発明は特に、黄色ブドウ球菌のアルファ溶血素及び二成分毒素の両方を交差中和する抗体に言及する。配列相同性が低レベルであるため、これは驚くべきことであった。Hla及び少なくとも1つの二成分毒素を交差中和するmAbが生じる可能性は、低いと予期された。そのような交差中和抗体は、大きな潜在的価値がある。
【0223】
多重二成分特異性抗体を記載する唯一の刊行物(Laventie, PNAS, 2011, 108:16404)は、LukS及びHlgCのみを標的とするために設計されたため、本発明とは関連しないと見なされる。
【0224】
本発明は、特に、同じ結合部位によって複数の毒素を標的とする抗体に言及し、これは本明細書において多特異性結合部位と称され、異なる毒素、例えば4つの異なる毒素(四重反応性)であるアルファ毒素及びガンマ溶血素、パンテン・バレンタイン・ロイコシジン(PVL、LukSF)及びLukEDのF成分に結合可能である。LukED及びLukSFに対する高いアミノ酸相同性に基づいて、四重反応性mAbは、ウシLukMロイコシジンにも結合する可能性が高い。
【0225】
いくつかの実施形態において、Hla上のエピトープを認識し、そしてHlgBと交差反応する本発明の抗体は、LukF’-PV、LukF-PV、LukDv、LukD、LukF-I、及びLukGなどの、他のブドウ球菌ロイコシジンF成分とさらに交差反応性を有することも可能である。本発明の交差反応性抗HlgB抗体は、HlgB活性を阻害するか又は減少させることも可能である。いくつかの実施形態において、交差反応性抗HlgB抗体は、HlgB活性を中和する(例えば実質的に除去する)。
【0226】
特定の側面によれば、同じエピトープに結合する抗体が提供され、当該用語には、配列番号20のVHアミノ酸配列と配列番号39のVLアミノ酸配列によって、あるいは配列番号40のHCアミノ酸配列と配列番号52のLCアミノ酸配列によって形成される多特異性結合部位を特徴とする親抗体と、本質的に同じエピトープに結合する変異体が含まれる。そのような抗体は、例えば、親抗体のそれぞれのCDR又は抗体配列を修飾することによって得られる機能的に活性な変異抗体であってもよい。
【0227】
代表的な親抗体は、以下の実施例セクション及び
図1に記載される。#AB-28と称される抗体は、例えば、1以上の修飾CDR配列を有する機能的に活性なCDR変異体、及び1以上の修飾FR配列(例えばFR1、FR2、FR3あるいはFR4の配列)、又は定常ドメイン配列を有する、及び/又は1以上の修飾CDR配列を有する機能的に活性な抗体変異体を産生するための親抗体として使用される。突然変異誘発によって親抗体から誘導された変異抗体は、以下に例証され、#AB-28-3、#AB-28-4、#AB-28-5、#AB-28-6、#AB-28-7、#AB-28-8、#AB-28-9、#AB-28-10、#AB-28-11、#AB-28-12、又は#AB-28-13と称される(
図1参照)。これらの変異抗体は、共通のVL配列である配列番号39を共有するが、例えば、機能的に活性であり、各FR又はCDR配列内に修飾を有する変異VL鎖も使用可能である。
【0228】
同じ結合部位を含むさらなる抗体変異体も実現可能であり、当該用語には、#AB-28と称される抗体と本質的に同じ結合部位を含む変異体が含まれる。#AB-28抗体及び機能的に活性な変異体は、Hlaを強力に中和し、そしてLukS-LukF、LukE-LukD、及びHlgB-HlgCの少なくとも1つ、少なくとも2つ、又は少なくとも3つの同族毒素対、ならびに場合によってさらなる二成分毒素を交差中和する結合部位を特に含むであろう。
【0229】
具体的には、#AB-28と称される抗体の可変領域を含む抗体が提供され、特に、少なくとも1つのCDR配列、好ましくは少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、又は少なくとも6つのCDR配列を含む抗体、又は機能的に活性なそのCDR変異体が提供される。より具体的には、#AB-28、#AB-28-3、#AB-28-4、#AB-28-5、#AB-28-6、#AB-28-7、#AB-28-8、#AB-28-9、#AB-28-10、#AB-28-11、#AB-28-12、又は#AB-28-13と称される抗体が提供される。
【0230】
具体的には、#AB-28抗体又は機能的に活性なその変異体は、本明細書に提示される配列を使用して、組換え手段によって製造されることができ、任意にさらなる免疫グロブリン配列が、例えばIgG抗体を産生するために用いられる。
【0231】
ある側面では、本発明はこのような機能的に活性な変異抗体、好ましくはモノクローナル抗体、最も好ましくはヒト抗体を提供し、それらは重鎖及び軽鎖を含んでおり、ここで、重鎖あるいはVH可変領域又はそれぞれのCDRのいずれかは、#AB-28、#AB-28-3、#AB-28-4、#AB-28-5、#AB-28-6、#AB-28-7、#AB-28-8、#AB-28-9、#AB-28-10、#AB-28-11、#AB-28-12、又は#AB-28-13抗体の一つである親抗体から、少なくとも1つのFR又はCDR配列を修飾することによって、誘導されたアミノ酸配列を含む。
【0232】
ある側面では、本発明はこのような機能的に活性な変異抗体、好ましくはモノクローナル抗体、最も好ましくはヒト抗体を提供し、それらは重鎖及び軽鎖を含んでおり、ここで、任意の軽鎖あるいはVL可変領域又はそれぞれのCDRは、#AB-28である親抗体から、少なくとも1つのFR又はCDR配列を修飾することによって、誘導されたアミノ酸配列を含む。
【0233】
ある側面では、本発明はこのような変異抗体、好ましくはモノクローナル抗体、最も好ましくはヒト抗体を提供し、それらは重鎖及び軽鎖を含んでおり、ここで、任意の重鎖及び軽鎖、又はVH/VL可変領域、又はそれぞれのCDRは、#AB-28、#AB-28-3、#AB-28-4、#AB-28-5、#AB-28-6、#AB-28-7、#AB-28-8、#AB-28-9、#AB-28-10、#AB-28-11、#AB-28-12、又は#AB-28-13抗体の一つである親抗体から、少なくとも1つのFR又はCDR配列を修飾することによって、誘導されたアミノ酸配列を含む。
【0234】
ある面では、本発明は、上記親抗体から誘導された、可変配列及び/又はCDR配列等の、それぞれの結合配列を含む変異抗体も提供し、ここで、結合配列又はCDRは、親抗体から誘導されたアミノ酸配列と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも99%の同一性を有する配列を含み、当該変異体は機能的に活性な変異体である。
【0235】
特に、機能的な活性は、特定の毒素を標的とする交差反応性によって、例えば、それぞれの親抗体と同じエピトープ又は実質的に同じエピトープとの結合によって、測定される。
【0236】
抗体は、所定の時点で1つの抗体のみがエピトープに結合可能であるように、抗体が交差競合する場合、すなわち1つの抗体が他方の結合又は調節効果を妨げる場合、「同じエピトープに結合する」か、又は「同じ結合部位を含む」か、又は「本質的に同じ結合」特性を有すると言われる。
【0237】
本明細書で使用される「競合する」又は「交差競合する」という用語は、抗体に関して用いられる場合、同族エピトープと第一抗体の結合の結果が、第二抗体の非存在下での第一抗体の結合に比較して、第二抗体の存在下で、検出可能に減少するように、第一抗体、又はその抗原結合部分が、第二抗体、又はその抗原結合部分の結合に十分に類似の方式でエピトープに結合することを意味する。これとは別に、エピトープへの第二抗体の結合がまた、第一抗体の存在下で検出可能に減少する場合もありうるが、そうである必要はない。すなわち、第一抗体は、第二抗体がそれぞれのエピトープに対する第一抗体の結合を阻害することを伴わずに、そのエピトープへの第二抗体の結合を阻害可能である。しかしながら、各抗体が、同じ、より高い又はより低い程度のいずれであっても、同族エピトープとの他の抗体の結合を検出可能に阻害する場合、抗体は、それぞれのエピトープ(単数又は複数)の結合に関して互いに「交差競合する」と言われる。競合及び交差競合抗体はどちらも、本発明に含まれる。
【0238】
本明細書における競合は、例えば実施例セクションに記載されるように、競合ELISA分析又はForteBio分析で決定した際、約30%より大きい相対阻害を意味する。特定の状況において、例えば競合分析を用いて、黄色ブドウ球菌のさらなる又は他の毒素の結合に目的とする機能を持つように設計される新規抗体を選択するか又はスクリーニングする場合、何が競合の適切なレベルであるかの基準として、相対阻害のより高い閾値を設定することが望ましいかもしれない。したがって、例えば、競合結合に関して、基準を設定することが可能であり、ここで、抗体が十分に競合性であると見なされる前に、少なくとも40%の相対阻害が検出されるか、あるいは少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又はさらに少なくとも100%が検出される。
【0239】
本明細書に記載されるように、ある面では、本発明は、例えば、Hla、 LukSF、LukED及びHlgCBのいずれかとの結合に関して、又はHla、 LukF、LukD及びHlgBのそれぞれとの結合に関して、#AB-28、#AB-28-3、#AB-28-4、#AB-28-5、#AB-28-6、#AB-28-7、#AB-28-8、#AB-28-9、#AB-28-10、#AB-28-11、#AB-28-12、又は#AB-28-13抗体のいずれかと競合する能力によって特徴付けられる、抗体分子を提供する。
【0240】
本発明の好ましい抗体は、前記の個々の抗原に、高い親和性で、特に高いオン及び/又は低いオフ速度で、あるいは結合の高い結合活性で、結合する。抗体の結合親和性は、通常、解離定数(Kd又はK
D)として知られる、抗原結合部位の半数が占有される抗体濃度の観点から特徴付けられる。通常、結合剤は、Kd<10
-8M、好ましくはKd<10
-9Mで高親和性結合剤と見なされ、さらにより好ましくはKd<10
-10Mである。
【0241】
それにもかかわらず、特定の好ましい実施形態において、個々の抗原結合親和性は、例えば少なくとも2つの抗原に結合する際、中程度の親和性である(例えば10
-6未満、最大10
-8MのKdを有する)。
【0242】
本発明によれば、好ましくは、親和性成熟プロセスと組み合わせて(必要であれば)、中程度の親和性の結合剤を提供してもよい。
【0243】
親和性成熟は、標的抗原に対して増加した親和性を持つ抗体が産生されるプロセスである。本明細書に開示する、本発明の多様な実施形態にしたがって、親和性成熟抗体を生成するため、当該技術分野で入手可能な親和性成熟ライブラリーを調製し及び/又は用いる、任意の1以上の方法を使用してもよい。代表的な親和性成熟法及び使用法(例えばランダム突然変異誘発、細菌ミューテーター株継代、部位特異的突然変異誘発、変異ホットスポットターゲティング、簡潔(parsimonious)突然変異誘発、抗体シャフリング、軽鎖シャフリング、重鎖シャフリング、CDR1及び/又はCDR1突然変異誘発)、ならびに本明細書に開示する本発明の多様な実施形態にしたがった方法及び使用の実施を受け入れ可能な親和性成熟ライブラリーを作成し用いる方法は、例えば:Prassler et al. (2009); Immunotherapy, Vol. 1(4), pp. 571-583; Sheedy et al. (2007), Biotechnol. Adv., Vol. 25(4), pp. 333-352; WO2012/009568; WO2009/036379; WO2010/105256; US2002/0177170; WO2003/074679に開示されるものを含む。
【0244】
抗体の構造変化(アミノ酸突然変異誘発、又は免疫グロブリン遺伝子セグメントにおける体細胞変異の結果を含む)と共に、抗原に対する結合部位の変異体が産生され、より高い親和性のために選択される。親和性成熟抗体は、親抗体より数log倍大きい親和性を示しうる。単一の親抗体を親和性成熟に供してもよい。標的抗原に対して類似の結合親和性を持つ抗体の別のプールは、親和性成熟単一抗体又はこうした抗体の親和性成熟プールを得るために変化された親構造と見なされうる。
【0245】
本発明にかかる抗体の好ましい親和性成熟変異体は、結合親和性の少なくとも2倍増加、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも10、好ましくは少なくとも50、好ましくは少なくとも100倍増加を示す。親分子のそれぞれのライブラリーを使用する選択キャンペーンの経過において、結合親和性Kd<10
-8Mの特異的標的結合特性を有する本発明の抗体を得るため、中程度の結合親和性を有する任意の抗体とともに親和性成熟を使用してもよい。あるいは、本発明にかかる抗体の親和性成熟によって、親和性をさらにより増加させて、10
-9M未満、好ましくは10
-10M未満、又はさらに10
-11M未満、最も好ましくはピコモル範囲のKdに対応する高い値を得ることも可能である。
【0246】
ある実施形態では、結合親和性は、親和性ELISAアッセイによって測定される。ある実施形態では、結合親和性は、BIAcore、ForteBio又はMSDアッセイによって測定される。ある実施形態では、結合親和性は、キネティック法で測定される。ある実施形態では、結合親和性は、平衡/溶液法によって測定される。
【0247】
補体の活性化を使用する別の経路を通じて、食作用性エフェクター細胞を活性化してもよい。微生物上の表面抗原に結合する抗体は、Fc領域との補体カスケードの最初の成分を誘引し、そして「古典的」補体系の活性化を開始する。これらは、食作用性エフェクター細胞の刺激を生じ、これは最終的に、補体依存性細胞傷害性(CDC)によって標的を殺す。
【0248】
特定の実施形態によれば、本発明の抗体は、標準的ADCC又はCDCアッセイにおいて測定されるように、免疫エフェクター細胞の存在下で、細胞傷害性活性を有する。コントロールと比較した際、細胞溶解の割合に有意な増加があれば、ADCC又はCDCアッセイのいずれかによって決定される細胞傷害活性を、本発明の抗体に関して示してもよい。ADCC又はCDCに関連する細胞傷害活性は、好ましくは、絶対パーセント増加として測定され、これは好ましくは5%より高く、より好ましくは10%より高く、さらに好ましくは20%より高い。補体固定化は特に関係がある可能性があり、このメカニズムは、形成された免疫複合体の除去によって、感染部位又は血液から毒素を除去できる。
【0249】
特定の実施形態によれば、本発明の抗体は、IgGのFc部によって発揮される免疫調節機能を有する。シアリル化量を増加させる改変グリコシル化(例えば末端ガラクトース残基上の)は、場合によっては、DC-SIGNシグナル伝達を経て抗炎症作用を有する。Ia、IIa及びIII Fcガンマ受容体を超える、優先的なFcガンマ受容体IIb(抑制性)への結合は、場合によっては、抗炎症作用を提供する。
【0250】
本発明は、特に、多重特異性を持つ中和抗体を同定するプロセスによって、例えば交差反応性発見選択スキームによって得られる、交差反応性抗体を提供する。したがって、2つの標的、標的A及びBとの反応性を示す抗体を含む抗体ライブラリーをまず、標的の1つ、例えば標的Aとの反応性に関して選択し、その後、他方の標的、例えば標的Bとの反応性に関して選択してもよい。各連続選択ラウンドは、生じるプールの反応強度を、両方の標的に向けて強化する。したがって、この方法は、2つの異なる標的に対する交差反応性、及び病原体を交差中和する能力を持つ抗体を同定するために特に有用である。当該方法を拡張して、さらなる標的(単数又は複数)に向かう濃縮のさらなるラウンドを含めることによって、さらなる標的に対して反応性を示す抗体を同定することも可能である。
【0251】
交差反応性抗体は、いくつかの例で、単一の抗原に対するスクリーニングを通じて明らかになる。交差反応性クローンを単離する可能性を増加させるため、多数の抗原に対する前進性のスクリーニングによって、多数の選択圧が適用されるであろう。特別なmAb選択戦略は、交互の様式で、異なる毒素成分を使用する。例えば、中和抗Hla mAbは、黄色ブドウ球菌感染における二成分毒素の主な標的を代表する、ヒト好中球上のPVL及びPVL様毒素への結合に関して試験される。
【0252】
図7の各配列を使用する組換え技術によって産生される組換え毒素、又は黄色ブドウ球菌培養上清から単離された毒素は、抗体ライブラリー(例えば、酵母ディスプレイ抗体ライブラリー)から抗体を選択するために使用されることができる。これらは、例えば、Blaise L,Wehnert A,Steukers MP,Van den Beucken T,Hoogenboom HR,Hufton SEによる、"Construction and diversification of yeast cell surface displayed libraries by yeast mating: application to the affinity maturation of Fab antibody fragments. Gene. 2004 Nov 24;342(2):211-8";Boder ET,Wittrup KDによる"Yeast surface display for screening combinatorial polypeptide libraries. Nat Biotechnol. 1997 Jun;15(6):553-7";Kuroda K,UEDA Mによる"Cell surface engineering of yeast for applications in white biotechnology. Biotechnol Lett. 2011 Jan;33(1):1-9. doi: 10.1007/s10529-010-0403-9"参照。概説;Lauer TM,Agrawal NJ,Chennamsetty N,Egodage K,Helk B,Trout BLによる" Developability index: a rapid in silico tool for the screening of antibody aggregation propensity. J Pharm Sci. 2012 Jan;101(1):102-15";Orcutt K.D.及びWittrup K.D.による(2010), 207-233 doi: 10.1007/978-3-642-01144-3_15;Rakestraw JA,Aird D,Aha PM,Baynes BM,Lipovsek Dによる"Secretion-and-capture cell-surface display for selection of target-binding proteins. Protein Eng Des Sel. 2011 Jun;24(6):525-30";米国特許第6,423,538号、米国特許第6,696,251号;米国特許第6,699,658号;国際公開公報WO2008118476参照。
【0253】
どちらの場合でも、交差反応性は、当該技術分野で知られる抗体最適化法によって、さらに改善されうる。例えば、本明細書記載の免疫グロブリン鎖の可変領域の特定の領域を、軽鎖シャフリング、デスティネーショナル(destinational)突然変異誘発、CDR融合(amalgamation)、ならびに選択したCDR及び/又はフレームワーク領域の定方向突然変異誘発を含む、1以上の最適化戦略に供してもよい。
【0254】
所望の中和特性を持つ抗体を同定するためのスクリーニング法は、標的細胞への毒素結合の阻害、二量体又はオリゴマー形成の阻害、孔形成の阻害、細胞溶解の阻害、サイトカイン、リンホカイン、及び任意の炎症促進性シグナル伝達の誘導の阻害、及び/又は動物に対するインビボ効果(死亡、溶血、オーバーシュート炎症、臓器不全)の阻害であってもよい。例えば標準アッセイを用いて、所望の毒素への直接結合に基づいて、反応性を評価してもよい。
【0255】
所望の特性を有する交差中和抗体が同定されたら、抗体によって認識される単数又は複数のドミナントエピトープを決定してもよい。エピトープマッピングのための方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、"Epitope Mapping: A Practical Approach, Westwood and Hay, eds., Oxford University Press, 2001"に開示されている。
【0256】
エピトープマッピングは、抗体が結合するエピトープの同定に関する。タンパク質上のエピトープの位置を決定するために当業者に知られる多くの方法があり、これには、抗体−抗原複合体の結晶学分析、競合アッセイ、遺伝子断片発現アッセイ、及び合成ペプチドに基づくアッセイが含まれる。参照抗体と「同じエピトープに結合する」抗体は、本明細書において、以下の方式で理解される。2つの抗体が、同一であるか又は立体的に重複するエピトープを認識する場合、抗体は、同じ又は本質的に同じ、あるいは実質的に同じエピトープと結合すると称される。2つの抗体が、同一の又は立体的に重複するエピトープに結合するかどうかを決定するための、一般的に用いられる方法は、競合アッセイであり、当該方法は、標識抗原又は標識抗体のいずれかを用いて、多くの異なる形式のすべてに設計可能である。通常、抗原を96ウェルプレート上に固定して、そして放射性又は酵素標識を用いて、非標識抗体が、標識抗体の結合を遮断する能力を測定する。
【0257】
望ましい交差中和特性を有する抗体が同定されたら、抗体フラグメントを含むこうした抗体を、当該技術分野で周知の方法によって産生することも可能であり、例えば、こうした方法には、ハイブリドーマ技術又は組換えDNA技術が含まれる。
【0258】
ハイブリドーマ法では、マウス又は他の適切な宿主動物、例えばハムスターを免疫して、免疫化に用いたタンパク質に特異的に結合するであろう抗体を産生するか又は産生することが可能なリンパ球を誘発する。あるいは、リンパ球をインビトロで免疫化してもよい。その後、適切な融合剤、例えばポリエチレングリコールを用いて、リンパ球を骨髄腫細胞と融合させて、ハイブリドーマ細胞を形成する。
【0259】
ハイブリドーマ細胞が増殖している培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生に関して定量する。好ましくは、免疫沈降によって、又はインビトロ結合アッセイ、例えば放射免疫アッセイ(RIA)又は酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)によって、ハイブリドーマ細胞によって産生されるモノクローナル抗体の結合特異性を決定する。
【0260】
組換えモノクローナル抗体は、例えば、必要な抗体鎖をコードするDNAを単離し、そして周知の組換え発現ベクター、例えば抗体配列をコードするヌクレオチド配列を含む本発明のプラスミド又は発現カセット(単数又は複数)を用いて、発現のためのコード配列で、組換え宿主細胞をトランスフェクションすることによって産生可能である。組換え宿主細胞は、上述した原核及び真核細胞であってもよい。
【0261】
特定の側面によれば、遺伝子操作のためにヌクレオチド配列を用いて、抗体をヒト化するか、あるいは抗体の親和性又は他の特性を改善することも可能である。例えば、抗体を臨床試験及びヒトにおける治療に用いる場合、定常領域を操作して、免疫応答を回避するために、ヒト定常領域により似せてもよい。抗体配列を遺伝子操作して、標的毒素に対するより高い親和性及び黄色ブドウ球菌に対するより高い有効性を得ることが望ましい可能性もある。当業者には、1以上のポリヌクレオチド変化を抗体に作製して、なお、標的毒素に対する結合能を維持することが可能であることが明らかであろう。
【0262】
多様な手段による抗体分子産生は、一般的によく理解されている。米国特許6331415(Cabillyら)は、例えば、単一細胞において、単一のベクターから、又は2つの別個のベクターから、同時に重鎖及び軽鎖が発現される、抗体の組換え産生のための方法を記載する。Wibbenmeyerら(1999, Biochim Biophys Acta 1430(2):191-202)およびLeeとKwak(2003, J. Biotechnology 101 :189-198)は、大腸菌の別個の培養において発現されるプラスミドを用いた、別個に産生される重鎖及び軽鎖からのモノクローナル抗体の産生を記載する。抗体産生に関連する様々な他の技術は、例えば、Harlowらによる"ANTIBODIES: A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.,(1988)"において提示される。
【0263】
必要に応じて、本発明の抗体、例えば、#AB-28、#AB-28-3、#AB-28-4、#AB-28-5、#AB-28-6、#AB-28-7、#AB-28-8、#AB-28-9、#AB-28-10、#AB-28-11、#AB-28-12、又は#AB-28-13抗体のいずれかは、配列決定されてもよく、そして、当該ポリヌクレオチド配列はその後、発現あるいは増殖のためのベクター内でクローン化されてもよい。前記抗体をコードする配列は、宿主細胞内のベクター内で維持されてもよく、そして当該宿主細胞はその後、将来の使用のために、増やされ及び凍結されてもよい。細胞培養物における組換えモノクローナル抗体の産生は、当該技術分野において既知の手段によって、B細胞からの抗体遺伝子のクローニングを通じて実施されることができる。
【0264】
別の側面において、本発明は、本発明の組換え抗体の産生のためのコード配列を含む単離核酸を提供する。
【0265】
別の側面において、本発明は、本発明の組換えエピトープの産生のためのコード配列を含む単離核酸、又は本発明のこうしたエピトープを含む分子を提供する。しかしながら、本発明のエピトープはまた、例えば当該技術分野において周知の合成法のいずれかを通じて、合成的に産生されてもよい。
【0266】
抗体又はエピトープをコードする核酸は、任意の適切な特性を有し、そして任意の適切な特徴又はその組み合わせを含むことも可能である。したがって、例えば、抗体又はエピトープをコードする核酸は、DNA、RNA、又はそのハイブリッドの形であってもよく、そしてこれには、非天然存在塩基、修飾主鎖、例えば核酸の安定性を促進するホスホロチオエート主鎖、又はその両方が含まれてもよい。核酸は、好適には、標的宿主細胞(単数又は複数)において所望の発現、複製、及び/又は選択を促進する特徴を含む、本発明の発現カセット、ベクター又はプラスミド中に取り込まれてもよい。こうした特徴の例には、複製起点成分、選択遺伝子成分、プロモーター成分、エンハンサー要素成分、ポリアデニル化配列成分、終結成分等が含まれてもよく、これらの多くの適切な例は既知である。
【0267】
本開示はさらに、本明細書記載の1以上のヌクレオチド配列を含む組換えDNA構築物を提供する。これらの組換え構築物を、任意の開示する抗体をコードするDNA分子が挿入されているベクター、例えばプラスミド、ファージミド、ファージ又はウイルスベクターと組み合わせて用いる。
【0268】
培養中の連続細胞株によって抗体分子を産生する任意の方法を用いて、モノクローナル抗体を産生する。モノクローナル抗体を調製するために適した方法の例には、Kohlerらのハイブリドーマ法(1975, Nature 256:495-497)及びヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbor, 1984, J. Immunol. 133:3001;及びBrodeur et al.,1987, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, (Marcel Dekker, Inc., New York), pp. 51-63)が含まれる。
【0269】
本発明はさらに、本明細書に記載するような抗体又は免疫原及び薬学的に許容されるキャリアー又は賦形剤を含む、医薬組成物を提供する。これらの医薬組成物を、ボーラス注射又は注入として、あるいは持続注入によって、本発明にしたがって投与してもよい。投与のこうした手段を促進するのに適した薬学的キャリアーが当該技術分野において周知である。
【0270】
薬学的に許容されるキャリアーには、一般的に、本発明によって提供される抗体又は関連組成物又は組み合わせと生理学的に適合する、あらゆる適切な溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤等が含まれる。薬学的に許容されるキャリアーのさらなる例には、無菌水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等、及びその任意の組み合わせが含まれる。
【0271】
1つのこうした側面において、抗体を、所望の投与経路に適した1以上のキャリアーと組み合わせてもよく、抗体を、例えば、ラクトース、スクロース、デンプン、アルカン酸のセルロースエステル、ステアリン酸、タルク、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸及び硫酸のナトリウム及びカルシウム塩、アラビアゴム、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリジン、ポリビニルアルコールのいずれかと混合してもよく、そして場合によって、慣用的投与のため、さらに錠剤化するか又はカプセル化してもよい。あるいは、抗体を、生理食塩水、水、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースコロイド性溶液、エタノール、コーン油、ピーナツ油、綿実油、ゴマ油、トラガカントゴム、及び/又は多様な緩衝剤中に溶解してもよい。他のキャリアー、アジュバント、及び投与様式は、薬学分野において周知である。キャリアーには、徐放物質又は時間遅延物質、例えばモノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルのみ、又はワックスと合わせたもの、あるいは当該技術分野に周知の他の物質が含まれてもよい。
【0272】
さらなる薬学的に許容されるキャリアーが当該技術分野において既知であり、例えば、「REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES」に記載される。液体製剤は、溶液、エマルジョン又は懸濁物であることも可能であり、そしてこれには、懸濁剤、溶解剤、界面活性剤、保存剤、及びキレート剤などの賦形剤が含まれてもよい。
【0273】
医薬組成物は、その中に、本発明の抗体又は免疫原及び1以上の治療的活性薬剤が処方されていることが意図される。所望の程度の純度を有する前記免疫グロブリンを、場合によって薬学的に許容されるキャリアー、賦形剤又は安定化剤と、凍結乾燥調合物又は水溶液の形で混合することによって、本発明の抗体又は免疫原の安定な製剤を保存のために調製する。インビボ投与に用いる製剤は、特に、無菌であり、好ましくは無菌水溶液の形である。これは、無菌濾過膜又は他の方法を通じた濾過によって容易に達成される。本明細書に開示する抗体及び他の治療的活性薬剤は、イムノリポソームとして製剤化され、及び/又は微小カプセル中に封入されることも可能である。
【0274】
本発明の抗体又は免疫原を含む医薬組成物の投与を、経口、皮下、静脈内、鼻腔内、耳内(intraotically)、経皮、粘膜、局所(例えばジェル、軟膏、ローション、クリーム等)、腹腔内、筋肉内、肺内(例えば吸入技術又は肺送達系を使用して)、膣内、非経口、直腸、又は眼内を含む多様な経路で行ってもよい。
【0275】
非経口投与に用いられる代表的な製剤には、例えば無菌溶液、エマルジョン又は懸濁物のような、皮下、筋内又は静脈内注射に適したものが含まれる。
【0276】
1つの実施形態では、本発明の抗体又は免疫原は、例えば疾患を改変するか又は防止する単独療法として、被験体に投与される、唯一の治療的活性薬剤である。
【0277】
別の実施形態では、本発明の抗体又は免疫源は、例えば疾患を改変するか又は防止する併用療法として、カクテル中でさらなる抗体又は免疫原と併用され、例えば、前記カクテルが被検体に投与される二以上の治療的活性薬剤を含むように、黄色ブドウ球菌を標的とする混合物又はキット内で併用される。
【0278】
あるいは、本発明の抗体又は免疫原を、限定されるわけではないが、標準的治療(例えば抗生物質、ステロイド性及び非ステロイド性炎症阻害剤、及び/又は他の抗体に基づく療法、例えば抗菌又は抗炎症剤を使用する)を含む、1以上の他の治療又は予防剤と組み合わせて投与する。
【0279】
併用療法は、特に、例えばMRSA感染を治療するのに用いられる、標準レジメンを使用する。これには、抗生物質、例えばチゲサイクリン、リネゾリド、メチシリン及び/又はバンコマイシンが含まれうる。
【0280】
併用療法では、抗体を混合物として、あるいは1以上の他の治療レジメンと組み合わせて、例えば同時療法の前に、同時に、又は後にのいずれかで投与してもよい。
【0281】
いくつかの場合、免疫原の予防的投与は、本発明の免疫原を含むワクチン、すなわち一価ワクチンを使用してもよい。にもかかわらず、同じ又は異なる標的病原体に対する免疫応答を誘導するため、異なる免疫原を含む多価ワクチンを使用してもよい。
【0282】
本発明の抗体、免疫原又はそれぞれの医薬品の生物学的特性を、細胞、組織、及び全生物実験において、生体外で特徴付けてもよい。当該技術分野で知られるように、薬剤はしばしば、疾患又は疾患モデルに対する治療に関する薬剤の有効性を測定するため、あるいは薬剤の薬物動態、薬力学、毒性、及び他の特性を測定するため、動物(マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、及びサルを含むが、これらに限定されない)において、インビボで試験される。動物は、疾患モデルと称されることも可能である。治療法は、しばしば、限定されるわけではないが、ヌードマウス、SCIDマウス、異種移植マウス、及びトランスジェニックマウス(ノックイン及びノックアウトを含む)を含むマウスで試験される。こうした実験は、抗体が、能動又は受動免疫療法に際して、適切な半減期、エフェクター機能、(交差)中和活性及び/又は免疫応答を伴う治療剤として又は予防剤として、使用される能力の決定のための意義あるデータを提供しうる。任意の生物、好ましくは哺乳動物が、試験に使用可能である。例えば、ヒトに対する遺伝的類似性のため、霊長類、サルが適切な療法モデルである可能性もあり、したがって、これらを用いて、対象となる剤又は組成物の有効性、毒性、薬物動態学、薬力学、半減期、又は他の特性を試験することも可能である。ヒトにおける試験は、最終的には、薬剤としての認可に必要であり、したがって、もちろん、これらの実験が熟慮される。したがって、本発明の抗体、免疫原及びそれぞれの医薬組成物を、ヒトにおいて試験して、治療的又は予防的有効性、毒性、免疫原性、薬物動態学、及び/又は他の臨床特性を決定してもよい。
【0283】
本発明はまた、診断目的のため、例えば生物学的液体試料中の免疫試薬又は標的としての毒素又は抗体を検出し、そしてその濃度を定量的に決定する方法において使用するための、本発明の対象抗体も提供する。
【0284】
本発明はまた、生物学的試料、例えば体液において、毒素又は黄色ブドウ球菌感染のレベルを検出するための方法であって、本発明の抗体と試料を接触させる工程を含む方法も提供する。本発明の抗体を、任意の既知のアッセイ法、例えば競合的結合アッセイ、直接及び間接的サンドイッチアッセイ、免疫沈降アッセイ、ならびに酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)において使用してもよい。
【0285】
本発明に従って用いられる体液には、被験体の生物学的試料、例えば組織抽出物、尿、血液、血清、便及び痰が含まれる。
【0286】
1つの態様において、方法は、固体支持体を、標的(例えば本発明の抗体によって標的とされる毒素の少なくとも1つ)と複合体を特異的に形成する、特定のタイプの抗体フラグメントの過剰量と、抗体が前記固体支持体の表面に付着するのを可能にする条件下で、接触させる工程を含む。得られた抗体が付着している固体支持体を、次いで、生物学的液体中の標的が抗体に結合し、そして標的−抗体複合体を形成するように、生物学的液体試料と接触させる。複合体を検出可能マーカーで標識してもよい。あるいは、複合体の形成前に、標的又は抗体のいずれかを標識してもよい。例えば、検出可能マーカー(標識)を抗体に抱合させてもよい。その後、複合体を検出し、定量的に決定し、それによって、生物学的液体試料中の標的を検出し、そしてその濃度を定量的に決定することも可能である。
【0287】
特定の用途のため、本発明の抗体を、有機分子、酵素標識、放射性標識、着色標識、蛍光標識、発色標識、発光標識、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、金属錯体、金属、コロイド性金及びその混合物からなる群より選択される、標識又はレポーター分子に抱合させる。標識又はレポーター分子に抱合された抗体を、例えばアッセイ系又は診断法において用いて、例えば黄色ブドウ球菌感染又はそれに関連する疾患状態を診断してもよい。
【0288】
本発明の抗体を、例えば結合アッセイ(例えばELISA)及び結合研究において、前記抱合体の単純な検出を可能にする他の分子に抱合してもよい。
【0289】
本発明の別の側面は、1以上の抗体に加えて、多様な診断又は治療剤を含んでもよい、抗体含有キットを提供する。キットにはまた、診断又は治療法において使用するための説明書が含まれてもよい。こうした説明書は、例えば、キット中に含まれているデバイス、例えば診断目的のために生物学的試料を調製するための、例えば、疾患を診断するためにそれぞれの毒素(単数又は複数)を測定する前に、細胞及び/又はタンパク質含有分画を分離するためのツール又はデバイス上に提示されてもよい。好適には、こうしたキットには、本明細書記載の多様な診断法の1以上で使用できる抗体及び診断剤又は試薬が含まれる。別の好ましい実施形態では、キットには、抗体(例えば凍結乾燥型の)と、近い将来の投与のために使用前に混合して注射用組成物を形成する薬学的に許容されるキャリアー(単数又は複数)とが組み合わせて含まれる。
【0290】
#AB-28と称される抗体は、特に、
図1に示されるアミノ酸配列によって、具体的には、配列番号20のVH配列と配列番号40のHC配列それぞれによって、特にVH CDR配列である配列番号1のCDR1、配列番号2のCDR2、配列番号3のCDR3によって特徴付けられ、さらに、VH FR配列である配列番号13のFR1、配列番号15のFR2、配列番号17のFR3、配列番号19のFR4によって特徴付けられ、さらに配列番号39のVL配列と配列番号52のLC配列それぞれによって特徴付けられ、特に、VL CDR配列である配列番号32のCDR4、配列番号33のCDR5、配列番号34のCDR6によって、及びさらにVL FR配列である配列番号35のFR1、配列番号36のFR2、配列番号37のFR3、配列番号38のFR4によって特徴付けられる。
【0291】
#AB-28-3、#AB-28-4、#AB-28-5、#AB-28-6、#AB-28-7、#AB-28-8、#AB-28-9、#AB-28-10、#AB-28-11、#AB-28-12、又は#AB-28-13と称される抗体変異体は、
図1に示されるアミノ酸配列、具体的にはそれぞれのVH又はHC配列、及びさらにVL又はLC配列(
図1に記載のFR及びCDR配列を含む)によって特徴付けられる。
【0292】
#AB-24と称される抗体、特に抗体軽鎖及び/又は重鎖は、本明細書に示される寄託番号の下に、「DSMZ - Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen, Mascheroder Weg 1b / Inhoffenstraβe 7B, 38124 Braunschweig (DE)」に寄託される生物学的物質によって、さらに特徴付けられる。
【0293】
DSM 26747は、#AB-24重鎖(AB-24-HC)のコード配列を含むプラスミドで形質転換された大腸菌宿主細胞である:大腸菌DH5アルファAB-24-HC=DSM 26747、寄託日:2013年1月8日;寄託者:オーストリア・ウィーンのアルサニス・バイオサイエンスズ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング。
【0294】
DSM 26748は、#AB-24軽鎖(AB-24-LC)のコード配列を含むプラスミドで形質転換された大腸菌宿主細胞である:大腸菌DH5アルファAB-24-LC=DSM 26748、寄託日:2013年1月8日;寄託者:オーストリア・ウィーンのアルサニス・バイオサイエンスズ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング。
【0295】
以下の定義の主題は、本発明の実施形態と見なされる:
1.黄色ブドウ球菌のアルファ毒素(Hla)及び少なくとも1つの二成分毒素に結合する多特異性結合部位を少なくとも1つ含む交差中和抗体であって、当該抗体は、抗体重鎖可変領域(VH)の少なくとも3つの相補性決定領域(CDR1〜CDR3)を含み、ここで、
A)前記抗体は、
a)アミノ酸配列 YSISSGMGWG(配列番号1)を含むか又はそれからなるCDR1;及び
b)アミノ酸配列 SIDQRGSTYYNPSLKS(配列番号2)を含むか又はそれからなるCDR2;及び
c)アミノ酸配列 ARDAGHGVDMDV(配列番号3)を含むか又はそれからなるCDR3;
を含むか、又は
B)前記抗体は、
a)配列番号1のアミノ酸配列からなる親CDR1;又は
b)配列番号2のアミノ酸配列からなる親CDR2;又は
c)配列番号3のアミノ酸配列からなる親CDR3;
の少なくとも1つの機能的に活性なCDR変異体を含み、
ここで、前記機能的に活性なCDR変異体は、親CDR配列における少なくとも1つの点変異を含み、且つ親CDR配列と少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、当該アミノ酸配列からなる。
【0296】
2.前記機能的に活性なCDR変異体が、少なくとも以下の1つを含む、定義1の抗体;
a)親CDR配列中の1,2又は3つの点変異;又は
b)親CDR配列の4つのC末端あるいは4つのN末端、又は4つの中心アミノ酸位のいずれかにおける1又は2つの点変異。
【0297】
3.前記機能的に活性なCDR変異体が以下のいずれかである、定義1又は2の抗体:
a)YPISSGMGWG(配列番号4)、及びYSISSGMGWD(配列番号5)からなる群より選択されるCDR1配列;又は
b)SVDQRGSTYYNPSLKS(配列番号6)、RIDQRGSTYYNPSLKS(配列番号7)、RVDQRGSTYYNPSLKS(配列番号8)、SIDQRGSTYYNPSLEG(配列番号9)及びSIDQRGSTYYNPPLES(配列番号10)からなる群より選択されるCDR2配列;又は
c)ARDAGHGADMDV(配列番号11)、及びARDAGHAVDMDV(配列番号12)からなる群より選択されるCDR3配列
【0298】
4.以下からなる群より選択される、定義1〜3のいずれかの抗体;
a)以下を含む抗体
a.配列番号1のCDR1配列;及び
b.配列番号6のCDR2配列;及び
c.配列番号11のCDR3配列;
b)以下を含む抗体
a.配列番号4のCDR1配列;及び
b.配列番号7のCDR2配列;及び
c.配列番号3のCDR3配列;
c)以下を含む抗体
a.配列番号1のCDR1配列;及び
b.配列番号8のCDR2配列;及び
c.配列番号3のCDR3配列;
d)以下を含む抗体
a.配列番号1のCDR1配列;及び
b.配列番号2のCDR2配列;及び
c.配列番号12のCDR3配列;
e)以下を含む抗体
a.配列番号5のCDR1配列;及び
b.配列番号9のCDR2配列;及び
c.配列番号3のCDR3配列;
f)以下を含む抗体
a.配列番号5のCDR1配列;及び
b.配列番号10のCDR2配列;及び
c.配列番号3のCDR3配列;
【0299】
5.配列番号20〜31からなる群より選択されるVHアミノ酸配列を含む、定義1〜3のいずれかの抗体。
【0300】
6.配列番号40〜51からなる群より選択される抗体重鎖(HC)アミノ酸配列、又はC末端アミノ酸が欠失した配列番号40〜51のアミノ酸配列のいずれかを有する、定義1〜3のいずれかの抗体。
【0301】
7.抗体軽鎖可変領域(VL)の少なくとも3つの相補性決定領域(CDR4〜CDR6)をさらに含む定義1〜6のいずれかの抗体であって、好ましくはこの際
A)前記抗体が、
a)アミノ酸配列 RASQGIRWLA(配列番号32)を含むか又はそれからなるCDR4;及び
b)アミノ酸配列 AASSLQS(配列番号33)を含むか又はそれからなるCDR5;及び
c)アミノ酸配列 QQGYVFPLT(配列番号34)を含むか又はそれからなるCDR6;
を含むか、又は、
B)前記抗体が、
a)配列番号32のアミノ酸配列からなる親CDR4;又は
b)配列番号33のアミノ酸配列からなる親CDR5;又は
c)配列番号34のアミノ酸配列からなる親CDR6;
の少なくとも1つの機能的に活性なCDR変異体を含み、
ここで、当該機能的に活性なCDR変異体は、親CDR配列における少なくとも1つの点変異を含み、且つ親CDR配列と少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、当該アミノ酸配列からなる。
【0302】
8.1.配列番号39のVLアミノ酸配列又は配列番号52の抗体軽鎖(LC)アミノ酸を含む、定義7の抗体。
【0303】
8.2.任意でC末端リジンが欠失した、配列番号40〜51からなる群より選択されるHCアミノ酸配列を含む、及びさらに配列番号52のLCアミノ酸を含む、定義1〜3のいずれかの抗体。
【0304】
9.黄色ブドウ球菌のアルファ毒素(Hla)及び少なくとも1つの二成分毒素に結合する多特異性結合部位を少なくとも1つ含む交差中和抗体であって、当該抗体は、配列番号20のVHアミノ酸配列、及び配列番号39のVLアミノ酸配列の多特異性結合部位を含む親抗体の機能的に活性な変異抗体であり、当該機能的に活性な変異抗体は、配列番号20又は配列番号39のいずれかにおいて任意のフレームワーク領域(FR)又は定常ドメイン、又は相補性決定領域(CDR1〜CDR6)に少なくとも1つの点変異を含み、且つ、各毒素と、10
-8M未満、好ましくは10
-9M未満のKdで結合する親和性を有する、交差中和抗体。
【0305】
10.前記機能的に活性な変異抗体が、定義1〜3のいずれかに規定の機能的に活性なCDR変異体を少なくとも1つ含む、定義9の抗体。
【0306】
11.前記機能的に活性な変異抗体が、親抗体と同じエピトープに結合する特異性を有する、定義9又は10の抗体。
【0307】
12.前記少なくとも1つの点変異が、1以上のアミノ酸のアミノ酸置換、欠失及び/又は挿入のいずれかである、定義1〜11のいずれかの抗体。
【0308】
13.前記少なくとも1つの点変異は、以下のアミノ酸置換のいずれかである、定義1〜12のいずれかの抗体:
−CDR2におけるS51R又はS51K;又は
−CDR3におけるG103A、V104A又はV104S。
【0309】
14.Hla及び少なくとも1つの前記二成分毒素のF成分、好ましくはその少なくとも2つ又は3つに結合する交差特異性を有する、定義1〜13のいずれかの抗体。
【0310】
15.前記F成分が、HlgB、LukF及びLukDからなる群より選択されるか、又は、ガンマ溶血素、PVL毒素及びPVL様毒素のF及びS成分の同族及び非同族対(好ましくはHlgAB、HlgCB、LukSF、LukED、LukS−HlgB、LukSD、HlgA−LukD、HlgA−LukF、LukEF、LukE−HlgB、HlgC−LukD又はHlgC−LukF)の任意のF成分である、定義14の抗体。
【0311】
16.前記毒素の一以上がホスホコリンへ結合するのを阻害する、定義1〜15のいずれかの抗体。
【0312】
17.全長モノクローナル抗体、結合部位を含む少なくとも1つの抗体ドメインを含むその抗体フラグメント、又は、結合部位を含む少なくとも1つの抗体ドメインを含む融合タンパク質である、定義1〜16のいずれかの抗体。
【0313】
18.定義1〜17のいずれかの抗体の軽鎖及び/又は重鎖を発現するコード配列を含む発現カセット又はプラスミド。
【0314】
19.定義18の発現カセット又はプラスミドを含む宿主細胞。
【0315】
20.定義19の宿主細胞が、前記抗体を産生するための条件下で培養又は維持される、定義1〜17のいずれかに記載の抗体を産生する方法。
【0316】
21.親抗体の機能的に活性な変異体を産生する方法であって、親抗体は配列番号20〜31の任意のVHアミノ酸配列、及び配列番号39のVLアミノ酸配列の多特異性結合部位を含む任意の抗体であり、当該方法は、変異抗体を得るために配列番号20〜31又は配列番号39のいずれかの内の、任意のフレームワーク領域(FR)又は定常ドメイン、又は相補性決定領域(CDR1〜CDR6)において少なくとも1つの点変異を設計すること、及び以下のいずれかによって、前記変異抗体の機能的活性を測定することを含む;
−黄色ブドウ球菌のHla及び少なくとも1つの二成分毒素のそれぞれに、10
-8M未満、好ましくは10
-9M未満のKdで、結合する親和性、及び/又は
−親抗体と競合する、Hla及び/又は前記少なくとも1つの二成分毒素への前記変異抗体の結合、
ここで、前記機能的活性の測定により、機能的に活性な変異体が、組換え産生方法による産生のために選択される。
【0317】
22.黄色ブドウ球菌感染のリスクがあるか又は当該感染を患っている被験体を治療する際に使用するための、定義1〜16のいずれかの抗体であって、当該治療は、被験体における感染を限定するのに有効な量の抗体を被験体に投与して、前記感染から生じる疾患状態を寛解させるか、又は黄色ブドウ球菌疾患の発病(肺炎、敗血症、菌血症、創傷感染、膿瘍、手術部位感染、眼内炎、フルンケル症、カルブンケル症、心内膜炎、腹膜炎、骨髄炎又は関節感染等)を阻害することを含む。
【0318】
23.定義1〜16のいずれかの抗体を含む医薬品であって、好ましくは、非経口又は粘膜用製剤を含み、任意に薬学的に許容されるキャリアー又は賦形剤を含有する、医薬品。
【0319】
24.定義1〜16のいずれかの抗体であって、高毒素産生MRSA感染を含む任意の黄色ブドウ球菌感染、例えば壊死性肺炎、ならびにフルンケル症及びカルブンケル症における毒素産生を検出するための診断使用のための抗体。
【0320】
25.任意で、標識を含む抗体及び/又は標識を含むさらなる診断試薬を含む、定義1〜16のいずれかの抗体の診断用製剤。
【0321】
26.H1aモノマーによって形成される結晶であって、X線照射を回折し、定義1〜16のいずれかの抗体、又はその結合フラグメント、好ましくはFabフラグメントと接触しているHla縁領域の三次元構造を表す回折パターンを生じ、以下のセル定数を有する結晶:285.05Å、150.94Å、115.25Å、空間群P2
12
12、場合によって0.00Å及び2.00Åの間のずれを有する。
【0322】
27.LukDモノマーによって形成される結晶であって、X線照射を回折し、定義1〜16のいずれかの抗体、又はその結合フラグメント、好ましくはFabフラグメントと接触しているLukD縁領域の三次元構造を表す回折パターンを生じ、以下のセル定数を有する結晶:112.0Å、112.0Å、409.3Å、空間群H32、場合によって0.00Å及び2.00Åの間のずれを有する。
【0323】
28.定義1〜16のいずれかの抗体の単離パラトープ、又は当該パラトープを含む結合分子。
【0324】
29.定義1〜16のいずれかの抗体によって認識される単離立体構造エピトープであって、Hla、LukD、LukF又はHlgBの縁領域の三次元構造を特徴とするエピトープ。
【0325】
30.以下からなる群より選択される三次元構造を特徴とする、定義29のエピトープ:
a)配列番号54の接触アミノ酸残基179-191、194、200、269及び271の構造座標を特徴とする三次元Hla構造;
b)配列番号55の接触アミノ酸残基176-188、191、197及び267の構造座標を特徴とする三次元LukF構造、好ましくは配列番号58のアミノ酸残基176-179、181-184、186-188、191、197及び267を有する;
c)配列番号54の接触アミノ酸残基176-188、191、197及び267の構造座標を特徴とする三次元LukD構造、好ましくは配列番号62のアミノ酸残基176-179、181-184、186-188、191、197及び267を有する;
d)配列番号56のアミノ酸接触残基177-189、192、198及び268の構造座標を特徴とする三次元HlgB構造、好ましくは配列番号68のアミノ酸残基177-180、182-185、187-189、192、198及び268を有する;
e)定義26の結晶の三次元Hla縁領域構造;
f)定義27の結晶の三次元LukD縁領域構造;及び
g)a)〜f)のいずれかの相同体である三次元構造、ここで当該相同体は、接触アミノ酸残基の骨格原子からの平均二乗偏差0.00A〜2.00Aを有する結合部位を含む。
【0326】
31.結合分子によって結合される、定義29又は30のエピトープ。
【0327】
32.定義29又は30のエピトープに特異的に結合する結合分子であって、好ましくはタンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、炭水化物、脂質、オリゴペプチド、アプタマー及び小分子化合物、好ましくは抗体、前記結合部位を含む少なくとも1つの抗体ドメインを含むその抗体フラグメント、又は前記結合部位を含む少なくとも1つの抗体ドメインを含む融合タンパク質、からなる群より選択される結合分子。
【0328】
33.黄色ブドウ球菌のHla及び少なくとも1つの二成分毒素に結合する多特異性結合剤である、定義32の結合分子。
【0329】
34.毒素がホスホコリンに結合するのを妨げ、定義1〜16のいずれかの抗体と競合する、定義32又は33の結合分子。
【0330】
35.定義29又は30のエピトープに特異的に結合する結合剤を同定するためのスクリーニング法又はアッセイであって、
−候補化合物を定義29又は30の三次元構造と接触させる工程、及び、
−前記候補化合物と前記三次元構造間の結合を評価する工程、ここで、前記候補化合物と前記三次元構造間の結合は、当該候補化合物が、黄色ブドウ球菌のHla及び少なくとも1つの二成分毒素と結合する多特異性結合剤であることを特定する
を含むスクリーニング法又はアッセイ。
【0331】
36.免疫原であって、
(a)定義29又は30のエピトープ;
(b)任意で、(a)のエピトープと天然には会合しないさらなるエピトープ;及び
(c)キャリアー、好ましくは薬学的に許容されるキャリアーであって、好ましくはバッファー及び/又はアジュバント物質を含む
を含む、免疫原。
【0332】
37.ワクチン製剤中の、好ましくは非経口使用のための、定義36の免疫原。
【0333】
38.定義36又は37の免疫原であって、黄色ブドウ球菌感染から被験体を防御するか、前記感染から生じる疾患状態を阻止するか、又は黄色ブドウ球菌肺炎の発病を阻害するのに有効な量の前記免疫原を投与することによって、被験体を治療する際に使用するための、免疫原。
【0334】
39.防御免疫応答を誘発するための、定義38の免疫原。
【0335】
40.定義1〜16のいずれかの抗体又は定義29又は30のエピトープをコードする単離核酸。
【0336】
前述の説明は、以下の実施例を参照して、より完全に理解されるであろう。しかしながら、そのような実施例は、単に、本発明の1以上の実施形態を実施する方法の代表であり、本発明の範囲を限定すると理解してはならない。
【実施例】
【0337】
実施例1.個々の毒素成分に高親和性で結合するHla-二成分毒素交差反応性mAbの生成
方法:
組換え毒素の生成
S成分及びF成分の遺伝子が、TCH1516 USA300株から取り出され、大腸菌発現のためにコドン最適化され、遺伝子合成(米国、Genescript社)によって生成され(
図7参照)、pET44a中でクローン化され、シグナルペプチド配列(PrediSiプログラムを使用して決定; Hiller, Nucleic Acids Res., 2004, 32: W375-W379)を伴わないBL21 Rosetta又はTuner DE3株中で、タンパク質が産生された。
【0338】
LukS、LukF、LukE、LukD、HlgA、HlgC及びHlgBが、最初の精製工程後にタンパク質分解的に除去される、N末端NusA/His
6タグ付きの可溶型で発現された。精製は、典型的には、3つのクロマトグラフィ工程、1)IMAC(固定金属アフィニティカラム)、2)陽イオン交換又はIMAC、及び3)サイズ排除クロマトグラフィ、を含む。精製された細胞抽出物は、金属イオンアフィニティーカラム(IMAC 5ml, GE Healthcare、又はNi-IDA, 15 ml, Novagen)に充填され、融合タンパク質が、500mMのイミダゾールで溶出された。切断バッファー(20 mM Tris, pH 7.5, 200 mM NaCl, 2 mM CaCl
2)へのバッファー交換及びエンテロキナーゼ(New England Biolabs)による消化後、成熟タンパク質(N末端に2つの追加アミノ酸「SL」を含む)が、金属イオンアフィニティー又は陽イオン交換(SP-Sepharose FF, 5 ml, GE Healthcare、又はEMD SO
3-, XK16 column, Merk)クロマトグラフィーによって、NusA/His
6タグから分離された。50mMリン酸ナトリウムpH7.5+300mMのNaCl中で平衡化されたゲル濾過カラム(Superdex 75 16/60, GE Healthcare)での最終精製工程は、ドデシル硫酸ナトリム ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって純粋(>95%)と判断されるタンパク質をもたらした。前記タンパク質は、SDS-PAGEによって純度を、サイズ排除クロマトグラフィーによって単量体状態を、円偏光二色性によって二次構造を、インビトロ毒素効力アッセイで機能性を分析された。
【0339】
抗体選択のために、タンパク質が、製造者の説明書に従って、アミノ反応性試薬スルホ-NHS-LCビオチン(Thermo-Scientific)により標識され、1−2.5ビオチン/タンパク質のビオチンレベルが得られた。
【0340】
モノクローナル抗体の選択
毒素-特異的抗体は、インビトロ酵母選択システム及び関連方法を使用して、全長ヒトIgG1抗体ライブラリーから単離された(WO2009/036379A2;WO2010105256;WO2012009568)。毒素-結合mAbは、ビオチン標識Hla又はロイコシジンモノマーを、抗体発現酵母細胞と様々な濃度でインキュベートすること、続く磁気ビーズ選択、及びいくつかの連続する選択周期でストレプトアビジン二次試薬を使用する蛍光活性化細胞分取(FACS)によって同定された。Hla及び二成分毒素交差反応性mAbは、異なる毒素ベイトを交互に使用することによって選択された。抗体はその後、選択された酵母クローンによって産生され、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって精製された。
【0341】
mAbの様々な毒素への結合は、ForteBio Octet Red装置(Pall Life Sciences)を用いたインターフェロメトリー測定によって、確認された。ビオチン化抗原又は抗体をセンサー上に固定し、そして抗体Fabフラグメントの又は抗原の会合及び解離を、それぞれ(典型的には200nM)、溶液中で測定した。Fab KD親和性は、Sector Immager 240装置(Meso Scale Discovery)を用いたMSD法で測定した。典型的には、20pMのビオチン化抗原が、室温で16時間、様々な濃度のFabとインキュベートされ、非結合抗原は固定化IgG上に捕獲された。例えば、Estepらによる“High throughput solution-based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning”, MAbs, Vol. 5(2), pp. 270-278 (2013)も参照。
【0342】
結果:
毒素交差反応性mAbであるAB-28が、Hlaを用いた最初の選択の連続的な周期、続いて酵母の表面に発現される全長ヒトIgG1(多様性約〜10
-10)ライブラリーから得たHlgB、LukF及びLukDを抗原として用いた交互照合によって発見された。AB-28は、Hla及びHlgBへの高い親和性を示すが(<10pM)、LukF及びLukD結合親和性は1及び2log低い(それぞれ、>100pM及び>1nM)。それゆえ、AB-28は、AB-28CDR配列に基づいて産生されたヒトIgG1ライブラリーを使用する最適化に供された。親和性が向上した抗体が、低濃度で使用されたLukF、LukD、HlgB及びHlaを用いる連続的選択によって得られた。LukF及び/又はLukDへの向上した結合親和性を有する抗体が、ForteBio又はMSDに基づく結合アッセイによって同定された。いくつかの抗体は、LukF及びLukDの両方に対して有意な親和性向上を示す一方、Hla及びHlgBへの1桁ピコモルの親和性を維持した。そのような抗体の例が
図1に示される。親和性向上は、
図1に示すように、CDR領域中の単一アミノ酸置換によって達成された。
【0343】
実施例2.LukF及びLukDに対するHla-二成分毒素交差反応性mAbの結合親和性の向上は、インビトロ毒素中和能の高さと関連する。
方法:
毒素による細胞溶解を測定するためのインビトロアッセイ
標的細胞への毒素効力は、中毒細胞(多形核細胞[PMN]、分化型HL60又はA549細胞)のATPレベル又は赤血球への溶血活性を測定することによって評価された。手短に説明すると、Hla又はF成分及びS成分の等モル混合物は、アッセイ培地中で連続的に希釈されて、細胞の中毒のために使用された。PMN、分化型HL60及びA549細胞の細胞生存率がその後、製造者の説明書に従って、市販のキット(Cell Titer-Glo[登録商標] Luminescent Cell Viability Assay;米国、Promega社)を使用して検査された。生存率のパーセントは、偽処理コントロールと比較して計算された。
【0344】
Hlaのために、2つの異なるインビトロアッセイが、ヒト肺上皮細胞株A549又はウサギ赤血球のどちらかを使用して行われた。 A549細胞(HPACC #86012804)は、トリプシン処理され、前日に10%FCS及びPen/Strepを補充されたF12K培地(米国、Gibco社)中に、ウェル(96ウェル半面積発光プレート;オーストリア、Greiner社)あたり20,000細胞密度で蒔かれた。細胞を、5%FCS及びPen/Strepを補充されたF12K培地中で、37℃+5%CO
2にて6時間中毒させた。
【0345】
ウサギ赤血球アッセイのため、ニュージーランド・ホワイト・ウサギ(ドイツ、Preclinics社)からウサギEDTA−全血を得た。血液を1:1で、PBS Ca
++/Mg
++不含(オーストリア、PAA Laboratories社)で希釈し、そして50mlポリプロピレン試験管中、15mlのLSM 1077(オーストリア、PAA Laboratories社)上に15mlの希釈血液を重層することによって、勾配を調製した。680xg(RT、ブレーキなし)での遠心分離後、血小板、血漿、PBMC及びFicollを吸引によって除去し、廃棄した。残ったRBCペレットを40ml PBS Ca
++/Mg
++不含で、2回洗浄し(680xgで遠心分離、RT、ブレーキなし)、そして最後に、20ml PBS Ca
++/Mg
++不含に再懸濁した。赤血球の完全性及び細胞数を標準的血球計数器で決定した。溶血アッセイは、37℃+5%CO
2にてX時間、PBS Ca
++/Mg
++不含中に希釈された5×10
7のウサギ赤血球を用いて実施された。
【0346】
二成分毒素の殺白血球活性を測定するために、ヒトPMN細胞又は分化型HL-60細胞のどちらかが、組換え毒素あるいは黄色ブドウ球菌培養上清によって誘導される細胞溶解を測定するために使用された。PMN単離用の新鮮なヒト血液を、赤十字(ヘパリン処理済)から得るか、又は正常で健康なボランティアから静脈穿刺によって、K-EDTA又はヘパリンバキュテナー管(米国、BD)中に得た。赤血球を凝集させるため、1部のHetaSep溶液(フランス、Stem Cell Technologies社)を5部の血液に添加し、混合し、血漿/赤血球界面が総体積のおよそ50%になるまで、37℃でインキュベートした。白血球濃縮血漿層を、2工程Percoll勾配(HBSS中で希釈された73%及び63%Percollプラス、GE Healthcare)上に注意深く重層し、そして680xg、RTで30分間、ブレーキなしで遠心分離した。回転後の勾配の第一の層及び第二の層(主に血清及び単球)を吸引によって除去した。PMNを第二の不透明層から採取し、50ml HBSS(米国、Gibco社)+10mMグルコース中で2回洗浄した。血球計数器で、トリパンブルー色素排除を用いて、生存細胞数を計数した。PMN ATPアッセイのため、細胞を、10%FCS、2mMのL−グルタミン及び100U/mlのペニシリン、及び0.1mg/mlストレプトマイシン(PAA/GE Healthcare)を補充した好中球培地RPMI 1640(オーストリア、PAA Laboratories社)中に再懸濁した。前記したように(21,22)、HL-60(ATCC CCL-240
TM)ヒト前骨髄球性白血病細胞株を、好中球培地中で培養し、100mM DMF(N,N-ジメチルホルムアミド、Fisher BioReagents)又は4.3mM dbcAMP(ジブチリル環状AMP; Sigma-Aldrich)を用いて分化した。分化は、ブリリアント・バイオレット421抱合抗-CD11b(クローンICRF44、BioLegend)及びPE-抱合抗-CD71モノクローナル抗体(クローンOKT9、eBioscience)を用いたCD71の消失とCD11b染色の出現によって測定した。PMN/HL60溶解アッセイは、半面積発光プレート(オーストリア、Greiner社)中の好中球培地中の25,000細胞/ウェル希釈にて、37℃+5%CO
2で4時間行われた。
【0347】
抗体の毒素中和活性の測定
PMN/HL60細胞アッセイのために、抗体は、好中球培地中で連続的に希釈され、図の説明文に示される固定濃度の毒素と混合された。生存率アッセイは、抗体-毒素結合を可能にする1時間のプレ-インキュベーション工程の後に開始された。以下の式:阻害%=[(毒素のみの生存度−阻害された活性)/(毒素のみの生存度)]×100を用いて、毒素活性の阻害%が計算された。グラフ中の中和活性は、IC50 mAb濃度におけるmAb:毒素のモル比で表される。酵母細胞によって発現され、無関係の抗原(ニワトリ卵白リゾチーム)に対して産生されたヒトIgG1コントロールmAbは、全てのアッセイで含まれた。
【0348】
A459 Hla-中和アッセイのため、細胞はトリプシン処理され、前日に、10%FCS及びPen/Strepを補充されたF12K培地(USA、Gibco社)中に、ウェル(96ウェル半面積発光プレート、オーストリア、Greiner社)あたり20,000細胞密度で蒔かれた。抗体は、別の希釈プレートにおいて、5%FCS及びPen/Strepを補充したF12K培地(=A549細胞アッセイ培地)中で連続希釈され、そして固定された濃度[3.03nM]で、アルファ溶血素と混合された。室温での1時間のプレ-インキュベーション工程の後、接着性A549細胞上の植え付け培地を廃棄し、mAb:毒素混合物によって置換した。細胞は37℃+5%CO
2で6時間中毒され、次いで、ATP測定(PMN/HL60のために記載した通り)にかけられた。
【0349】
モノクローナル抗体を用いたRBC溶血抑制アッセイのために、抗体は、PBS中で連続的に希釈され、図の説明文に示す固定濃度の毒素と混合された。溶血アッセイは、抗体-毒素結合を可能にする1時間のプレインキュベーション工程の後に開始された。以下の式:阻害%=[(毒素のみの溶血−阻害された活性)/(毒素のみの溶血)]×100を用いて、毒素活性の阻害%が計算された。グラフ中の中和活性は、IC50 mAb濃度におけるmAb:毒素のモル比で表される。
【0350】
結果:
抗体の毒素中和能は、組換えLukSF、LukED及びHlgCBを用いたヒトPMNの中毒、又はHlgABを用いたヒト赤血球の中毒又はHlaを用いたヒト肺上皮細胞(A549細胞株)の中毒によって測定された。
図2に示すように、様々な毒素への結合親和性は、mAbの毒素中和能を非常に良好に予測した。AB-28-6、AB-28-7、AB-28-8及びAB-28-9によって例証された、LukDで<800pM及びLukFで<55pMのK
D値を有する最も良いHla-LukF-LukD-HlgB四重交差反応性抗体は、全ての標的毒素の中和に高い有効性を示した。
【0351】
F成分特異的mAbの効力は、4つの同族毒素対に限定されなかったが、HlgA-LukDのような非同族対形成によって形成されたロイコシジンに対して等しく明白であった。
【0352】
向上した毒素交差反応性の利益は、個々の毒素によって100%の細胞溶解を生じさせるのに十分な濃度で添加された、ある細胞型に対して活性な組換えロイコシジンの混合物を用いて行われた中毒アッセイの結果によって強調される。毒素の1つのみに対してさえ認識できる活性を欠く抗体は、細胞溶解に対する防御を提供しなかった。F成分とHlaに対する最も高い総合親和性を有するmAbは、−AB-28-6、AB-28-7、AB-28-8及びAB-28-9によって例証されるように−これらの組み合わせ毒素アッセイにおいて優れた効力を有することが見出された(
図3参照)。
【0353】
実施例3.LukF及びLukDに対するHla-二成分毒素交差反応性mAbの向上した結合親和性は、インビトロにおける防御の高さと関連する。
方法:
モノクローナル抗体を用いたマウスの受動的防御
抗-黄色ブドウ球菌毒素抗体の防御効果が、複数のマウスモデルで評価された。mAbでの受動免疫は、組換え毒素による致死性曝露の24時間前に、腹腔内で行われた。5匹のマウス(BALB/c)の群に、PBS中で希釈した個々のmAbを5又は10mg/kg量(それぞれ、100又は200μg/マウス)で投与した。コントロール群には、PBSのみ、又はアイソタイプマッチした非特異的mAbの同量を投与した。暴露は、それぞれ、マウスあたり0.2及び1μg量(各成分)のHlgA-HlgB又はHlgA-LukD毒素対を用いて静脈内で行われた。
【0354】
結果:
HlgBへの親和性が<20pMの交差反応性Hla mAb(
図4に示されるように、mAb AB-28-3(K
D=18pM)及びAB-28-9(K
D=5pM)を用いた)は、組換えHlgABへの暴露に起因する致死を防止するのに非常に有効であった。
【0355】
交差反応性mAbは、LukDに対して、85pM〜2.2nMの広範な範囲の親和性を示した。
図5に示すように、それぞれ、400、290及び780pMのK
D値及び75、100及び35%生存率を有するAB-28-9、AB-28-7及びAB-28-8によって例証されるように、CDR領域のあるアミノ酸を変更することによってAB-28親mAbから産生された、試験した子孫は、有意に防御的であり、親和性とインビボ有効性の間の強い相関性を伴う。
【0356】
実施例4:黄色ブドウ球菌TCH1516による鼻腔内細菌暴露に対するHla-二成分毒素交差反応性mAbによって媒介される防御
方法:
モノクローナル抗体を用いたマウスの受動的防御
抗-黄色ブドウ球菌毒素抗体の防御効果が、マウスの肺炎モデルで評価された。mAbでの受動免疫は、生細菌による致死性の鼻腔内曝露の24時間前に、腹腔内で行われた。5匹のマウス(BALB/c)の群に、PBS中で希釈した個々のmAbを5mg/kg量(100μg;0.2mg/ml)で投与した。コントロール群には、PBSのみを投与した。マウスを10%ケタミン-2%Rompunで麻酔した後、6×10
8cfuの細菌懸濁液40μlを鼻孔に塗布した。
【0357】
結果:
交差反応性Hla mAbは、肺炎モデルにおいて黄色ブドウ球菌TCH1516によって誘発される致死を防ぐのに非常に有効であった。全ての抗体は、ビヒクルのみを投与されたコントロール群(20%生存)と比較して、高レベルの防御を示した。
【0358】
実施例5.Hla:AB-28及びLukD:AB-28複合体の結晶構造及びホスホコリン結合アッセイを用いた抗体のエピトープ・マッピング/結合
AB-28のFabフラグメントとの複合体中のHla及びLukDそれぞれの結晶構造から、Hla及びLukD分子中のAB-28抗体のエピトープ残基が同定された。エピトープは、Fab残基と接触している(すなわち、Pymol[PyMOL Molecular Graphics System, Version 1.5.0.4 Schroedinger, LLC]で測定される、任意のそれらの非水素原子間の距離が、4.0Å以下である)、Fab-毒素界面での毒素残基と定義される。
【0359】
図9Aに示されるHlaエピトープは、Hlaの縁領域(球で表示)に見受けられ、AB-28 Fabの可変領域の軽鎖(黒色カートン)及び重鎖(灰色カートン)両方の残基に結合している。Hla結晶構造から決定されたHla接触残基(
図8B、球)はアミノ酸179-191、194、200、269及び271である。配列アラインメント及び利用可能な構造データに基づくと、これらの中で、アミノ酸179-182、184-186、191、200、269及び271(
図9B,黒球)は、Hla、 LukF、LukD及びHlgB間で完全に保存されており、アミノ酸183、190及び194は、LukF、LukD及びHlgB間で保存されており、アミノ酸189は、Hla、 LukD及びHlgB間で保存されている。アミノ酸179(Hla中のTrp)は、LukD及びLukF(Tyr)及びHlgB(Phe)中の別の芳香族残基と対応している。LukF及びLukD中の対応アミノ酸は、176-188、191、197、265及び267であり、HlgB中の対応アミノ酸は、177-189、192、198、266及び268である。
【0360】
LukD中の、LukD:AB-28結晶構造(
図10A、
図8Aと同じ表示)から決定された接触アミノ酸は;176-179、181-184、186-188、191、197及び267(
図10A、接触残基は球、完全保存残基は黒)であり、184(Hla及びHlgBでは異なる)、187及び191(Hlaでは異なる)を除いて、Hla、 LukF、LukD及びHlgB間で完全に保存されている。
【0361】
縁領域に結合しているホスホコリンは、Hla、LukF、LukD及びHlgB間で保存されたポケット内にあり、Hla(Science 1996, 274, 1859)、HlgB(Nat.Struct.Biol. 1999, 6, 134)及びLukF(Structure, 1999, 7, 277-287)について結晶学的に観察された。LukF内でホスホコリン結合に関与するアミノ酸は、Asn-173、Trp-176、Tyr-179、Glu-191及びArg-197であり、後者4つは、Hla、LukF、LukD及びHlgB間で完全に保存されており、結晶構造におけるLukD(及びHla)とAB-28間の接触残基も同様である。毒素へのホスホコリンの結合は、ForteBioに基づく測定において、ストレプトアビジンセンサー上にビオチン化毒素を固定化し、そして、溶液(PBS+1%BSA)中のホスホコリン-BSAアダクト(PC4-BSA, Biosearch Technologies)の結合を測定することによって評価された。ForteBio分析ソフトウェア・バージョン7を用いた応答値測定から判断されるように、PC4-BSAの、LukF、LukD及びHlgBへの測定可能な結合が存在し、しかしネガティブコントロールS成分HlgAには存在しない(
図11)。AB-28 IgG(10μg/ml)のビオチン化毒素への結合は、続くホスホコリンの結合を妨げ(
図11)、これはAB-28が、毒素とホスホコリンの結合を打ち負かすことを示す。
【0362】
実施例6.Hla:AB-28複合体及びLukD:AB-28複合体の結晶構造を使用した変異アミノ酸のインシリコ分析
1つ又は両方の毒素への結合が向上した変異体を予測するために、Hla及びLukDとの複合体におけるAB-28 Fabフラグメントの結晶構造を用いて、全ての接触位置のため、並びにFab接触残基のインシリコ突然変異誘発のため、結合エネルギーが計算された。
【0363】
構造体は、YASARA(Krieger E, Vriend G. YASARA View-molecular graphics for all devices-from smartphones to workstations. Bioinformatics. 2014 Oct 15;30(20):2981-2)を用いて調製され、イオン及び水分子が取り除かれ、水素が添加され最適化された(最急降下最小化が使用された)。総合結合エネルギーへの各残基の寄与が、Rosettaスコア12・ファンクション(Kaufmann KW, Lemmon GH, Deluca SL, Sheehan JH, Meiler J. Practically useful:what the Rosetta protein modeling suite can do for you. Biochemistry. 2010 Apr 13;49(14):2987-98)を使用して、さらなる最適化なしで計算された。
【0364】
各接触残基のエネルギー論が以下の表1に示される。接触には複数の位置があるが、特に突然変異誘発により親和性を増加する機会を提供できるVL CDR5では、総合結合エネルギーへの寄与は低い。複数の方法が、インシリコ突然変異誘発プロトコルのために試験され、AB-28変異体の既知の結合特性と最もよく定性的な一致を示す方法が選択された。選択された接触位置は、Cys及びProを除くすべてのアミノ酸に変異され、各変異の結合エネルギー変化が以下の表2.1及び2.2に示される。
【0365】
【表1】
【0366】
【表2.1】
【0367】
【表2.2】
【0368】
インシリコ突然変異誘発は、複数のAB-28接触残基の変更が、Hla及びLukDの両方への結合の改善をもたらしうることを示した(すなわち、VL CDR4中のS7R、及びVH CDR2中のS7Q、VH CDR3中のV8M、V8R)。多数の他の変異:VL CDR4中のS7W、S7M、S7L、VL CDR5中のS4Q、S4N、S4K、及びVH CDR1中のM7H、M7R、VH CDR2中のS7D、S7H、S7N、Y9Rは、LukDへの結合に影響を与えることなく、Hlaへの結合をより良くすると予測される。同様に、VL CDR5中のA1G置換、及びVH CDR1中のS5H、S5R、S5W、M7K置換、VH CDR2中のS7K置換は、Hlaへの結合に影響を与えることなく、LukDへの結合をより良くする可能性がある。他方、VL CDR5中のS4R置換及び、VH CDR3中のH6E、H6Q置換は、LukDへの結合を改善するが、Hlaへの結合を減少させると予期される。LukD又はHlaのどちらかへの結合に影響を与えない比較的多数の変異も存在し(ΔΔG値<0.5)、これらの変異体は、AB-28と同様の結合特性を示すことが予期される。