(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6473786
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】インサート成形方法及びインサート成形用の金型
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20190207BHJP
B29C 33/12 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C33/12
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-158455(P2017-158455)
(22)【出願日】2017年8月21日
【審査請求日】2017年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】511181186
【氏名又は名称】カタニ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088133
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100210295
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 誠心
(72)【発明者】
【氏名】中島 孝浩
【審査官】
▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−131749(JP,A)
【文献】
特開2002−240077(JP,A)
【文献】
特開2002−276889(JP,A)
【文献】
特開2005−189401(JP,A)
【文献】
特開2004−202806(JP,A)
【文献】
特開2015−058655(JP,A)
【文献】
特開2016−000518(JP,A)
【文献】
特開2005−161542(JP,A)
【文献】
特開平02−227225(JP,A)
【文献】
特開平07−266372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00 − 45/84
B29C 33/00 − 33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動側金型又は固定型金型が当接する範囲及びその当接する範囲に囲まれた範囲からなる射出成形領域を有するインサート材において、射出成形領域のみが可動側金型と固定側金型に挟まれ、金型内部の射出成形領域以外の領域が可動側金型及び固定側金型に非接触状態で型締めを行う型締め工程と、
射出成形領域にのみ射出成形部が形成される射出成形工程とを有することを特徴とするインサート成形方法。
【請求項2】
射出成形領域を有するインサート材において、射出成形領域のみが可動側金型と固定側金型に挟まれ、金型内部の射出成形領域以外の領域が可動側金型及び固定側金型に非接触状態で型締めを行う型締め工程と、
射出成形領域の可動側金型側の面又は固定側金型側の面にのみ射出成形部が形成される射出成形工程とを有することを特徴とするインサート成形方法。
【請求項3】
可動側金型又は固定型金型が当接する範囲及びその当接する範囲に囲まれた範囲からなる射出成形領域を有するインサート材のインサート成形に使用される可動側金型と固定側金型であって、
可動側金型と固定側金型は、型締めされた際に、インサート材の射出成形領域のみを挟む当接面と、金型内部のインサート材の射出成形領域以外の領域を可動側金型及び固定側金型に非接触状態で収容可能な空間とを有することを特徴とするインサート成形用の金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート成形方法及びインサート成形用の金型に関し、特に、予備成形されたインサート材に金型内で射出成形を行うインサート成形方法、及び、そのインサート成形方法で使用する金型に関する。
【背景技術】
【0002】
デザイン性が高い成形品の製造方法として、インサート成形方法がある。
【0003】
インサート成形方法は、以下の工程で行われる。まず、インサート材を予備成形する。次いで、予備成形されたインサート材を、射出成形用の金型内に配置する。次いで、射出成形材料である加熱した樹脂をインサート材の周囲に注入する。次いで、樹脂が冷却・固化した後に、インサート成形品を離型させる。
【0004】
インサート成形品として、特許文献1に示すものがある。特許文献1では、インサート材に当たる透明部材の後面全体を樹脂が覆っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−182866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
予備成形されたインサート材の形状が複雑になると、インサート材が金型に当接して正確な位置に配置されるために、その複雑な形状に合わせて、金型を製作する必要がある。そのため、金型には、高い精度及び小さい表面粗さ等が要求される。また、インサート材の形状が変われば、金型も再度製作しなればならない。そのため、金型の製作のために時間とコストがかかるとともに、金型の作製に必要なエネルギーも増大するという問題がある。
【0007】
インサート成形品の用途によっては、予備成形によって立体的な形状となっている部分において、インサート材の表面が射出成形材で覆われなくてもよい場合がある。にもかかわらず、特許文献1のように、インサート材の表面全体を射出成形材が覆っていると、インサート成形品が重くなる。そのため、搬送コストが上昇するとともに、搬送におけるCO2排出量の削減が困難という問題がある。射出成形材の使用量が多いので、その使用量に合わせて射出成形材を溶かす必要があり、インサート成形におけるCO2排出量の削減が困難という問題がある。
【0008】
そこで、上記点より本発明は、金型の製作時間とコストを抑制するとともに、金型の加工に必要なエネルギーも抑制することができるインサート成形方法及びインサート成形用の金型、並びに、インサート成形品の軽量化及び射出成形材の使用量を大幅に削減可能なインサート成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1のインサート成形方法は、可動側金型又は固定型金型が当接する範囲及びその当接する範囲に囲まれた範囲からなる射出成形領域を有するインサート材において、射出成形領域のみが可動側金型と固定側金型に挟まれ、
金型内部の射出成形領域以外の領域が可動側金型
及び固定側金型に
非接触状態で型締めを行う型締め工程と、射出成形領域にのみ射出成形部が形成される射出成形工程とを有する
【0010】
請求項2のインサート成形方法は、射出成形領域を有するインサート材において、射出成形領域のみが可動側金型と固定側金型に挟まれ、
金型内部の射出成形領域以外の領域が可動側金型
及び固定側金型に
非接触状態で型締めを行う型締め工程と、射出成形領域の可動側金型側の面又は固定側金型側の面にのみ射出成形部が形成される射出成形工程とを有する。
【0011】
請求項1及び2のインサート成形方法によれば、予備成形されたインサート材の形状が複雑であったとしても、可動側金型と固定側金型の射出成形領域を挟む部分のみ、高い精度及び小さい表面粗さ等の要求を満たせばよい。また、
金型内部のインサート材の射出成形領域以外の領域の形状が変わっても、インサート材の射出成形領域の形状が変わらなければ、金型も再度製作する必要がない。
【0012】
また、請求項1及び2のインサート成形方法によれば、射出成形領域にのみ射出成形部が形成されるので、インサート材の表面の一部を樹脂が覆うこととなる。そのため、インサート成形品の軽量化、及び、射出成形材の使用量の削減を実現することができる。
【0013】
さらに、請求項1及び2のインサート成形方法によれば、型締め工程において、インサート材の射出成形領域のみが可動側金型と固定側金型で押圧されればよいので、型締力が低い射出成形装置を利用可能となる。よって、射出成形装置の小型化、インサート成形におけるCO2排出量の削減を実現できる。
【0014】
請求項3のインサート成形用の金型は、
可動側金型又は固定型金型が当接する範囲及びその当接する範囲に囲まれた範囲からなる射出成形領域を有するインサート材のインサート成形に使用される可動側金型と固定側金型であって、可動側金型と固定側金型は、型締めされた際に、インサート材の射出成形領域のみを挟む当接面と、金型内部のインサート材の射出成形領域以外の領域を可動側金型及び固定側金型に非接触状態で収容可能な空間とを有する。
【0015】
請求項3のインサート成形用の金型によれば、
金型内部のインサート材の射出成形領域以外の領域を収容可能な空間を構成する金型の面は、高い精度及び小さい表面粗さ等が要求されない。
【0016】
また、請求項3のインサート成形用の金型は、
金型内部のインサート材の射出成形領域以外の領域の形状が異なるが、インサート材の射出成形領域の形状が同一である多種類のインサート材に射出成形部を形成することができる。
【0017】
さらに、型締めにおいて、可動側金型と固定側金型がインサート材の射出成形領域のみを押圧すれよいので、請求項3のインサート成形用の金型は、型締力が低い射出成形装置で利用可能となる。よって、射出成形装置の小型化、インサート成形におけるCO2排出量の削減を実現できる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1,2のインサート成形方法、及び、請求項3のインサート成形用の金型は、金型の製作のために時間とコストを抑制するとともに、金型の加工に必要なエネルギーも抑制することができる。また、インサート成形品の軽量化によって、搬送コストが削減するとともに、搬送におけるCO2排出量を削減することができる。さらに、射出成形材の使用量の削減によって、インサート成形におけるCO2排出量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態であるインサート成形品の斜視図であり、射出成形部を形成した面を上向きにした状態を示す。
【
図2】本発明の一実施形態であるインサート成形方法の工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態であるインサート成形品1について説明する。
【0021】
インサート成形品1は、インサート材2と射出成形部3とを有する。本実施形態のインサート成形品1は、射出成形部3が形成されている側を裏面側とし、射出成形部3が形成されていない側を表面側とする。
【0022】
インサート材2の素材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の汎用プラスチック、ポリカーボネート樹脂等のエンジニアプラスチックから選択することができる。
【0023】
インサート材は2、素材単体又は、素材の表面上をラミネートした積層体であってもよい。
【0024】
インサート材2は、射出成形領域21と射出成形領域以外の領域22を有する。
【0025】
射出成形領域21及び射出成形領域以外の領域22は、後述するインサート材2の予備成形工程で形成される。
【0026】
インサート材2は、後述する予備成形工程前では、シート状となっており、その厚さは0.1mm〜1.0mmとなっている。予備成形工程前のシート状のインサート材2は可撓性を有する。
【0027】
射出成形領域21は平面となっている。
【0028】
射出成形領域以外の領域22は、三次元の立体形状を有する。三次元の立体形状は、インサート成形品1の裏面側から表面側に向かって突出している。
【0029】
射出成形領域以外の領域22は、インサート材2の表面が露出している状態となっている。
【0030】
インサート材2の射出形成部3を設けた裏面において、全表面積に対して射出成形領域21の面積が3%〜70%の範囲となっている。
【0031】
インサート材2は、射出成形領域21にのみ射出成形部3が設けられている。
【0032】
射出成形部3の素材は、例えば、ポリカーボネート樹脂等のエンジニアプラスチックや、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリプロピレン樹脂等の汎用プラスチックから選択することができる。
【0033】
射出成形部3は、例えば、インサート成形品1をネジ止めすることを可能とするボス等である。
【0034】
以下、本発明の一実施形態であるインサート成形用の金型について
図2を参照して説明する。
【0035】
インサート成形用の金型は、可動側金型5と固定側金型6とを備える。
【0036】
可動側金型5は、型締めされた際に、インサート材2の射出成形領域21のみを挟む当接面51と、インサート材2の射出成形領域以外の領域22を可動側金型5及び固定側金型6に挟むことなく収容可能な空間52とを有する。
【0037】
同様に、固定側金型6は、型締めされた際に、インサート材2の射出成形領域21のみを挟む当接面61と、インサート材2の射出成形領域以外の領域22を可動側金型5及び固定側金型6に挟むことなく収容可能な空間62とを有する。
【0038】
可動側金型5の当接面51及び固定側金型6の当接面61は、表面粗さRaが1.6以下となっている。
【0039】
可動側金型5の空間52を構成する面及び固定側金型6の空間62を構成する面は、表面粗さRaが3.2以上となっている。
【0040】
固定側金型6は、空洞部63と、ランナー64を更に有する。空洞部63の当接面61側の開口は、型締めされた際にインサート材2の射出成形領域21で閉塞されることとなる。
【0041】
空洞部63には、固定用金型6に形成されているランナー64を介して、溶融した射出成形材が注入・充填されるようになっている。
【0042】
可動側金型5の空間52及び固定側金型6の空間62には、溶融した射出成形材は注入されないようになっている。
【0043】
以下、本発明の一実施形態であるインサート成形方法について、
図2を参照して説明する。
【0044】
図2(a)から(c)は、インサート材2の予備成形を行う過程を示す。
図2(d)から(g)は、インサート材2に射出成形部3を形成する過程を示す。
【0045】
まず、
図2(a)に示すように、予備成形用の金型4,4の間にシート状のインサート材2を配置する。シート状のインサート材2を予め加熱して軟化させておいてもよい。
【0046】
次いで、
図2(b)に示すように、予備成形用の金型4,4の型締めを行って、インサート材2の予備成形を行う。
【0047】
次いで、
図2(c)に示すように、予備成形用の金型4,4から、インサート材2を離型させる。予備成形後のインサート材2は、射出成形領域21と立体形状の射出成形領域以外の領域22を有する。
【0048】
次いで、
図2(d)に示すように、インサート成形用の可動側金型5と固定側金型6との間にシート状のインサート材2を配置する。
【0049】
次いで、
図2(e)に示すように、インサート成形用の可動側金型5と固定側金型6の型締めを行う。型締めにおいて、可動側金型5と固定側金型6がインサート材2の射出成形領域21のみを押圧すれよい。そのため、インサート材の表面全体を射出成形材が覆っている場合に比べて、型締力が30%以上小さい射出成形装置でインサート成形を行うことができる。
【0050】
次いで、
図2(f)に示すように、ランナー64を介して、空洞部63に溶融した射出成形材が注入・充填される。固定側金型6が冷え、空洞部63に射出成形材が固化すると、射出成形部31となる。
【0051】
次いで、
図2(g)に示すように、インサート成形用の可動側金型5と固定側金型6から、インサート成形品1を離型させる。
【0052】
上記実施形態では、インサート成形品1は、射出成形部3が形成されている側を裏面側とし、射出成形部3が形成されてない側を表面側とする場合について説明したが、これに限定されることはない。インサート成形品は、射出成形部が形成されている側を表面側とし、射出成形部が形成されてない側を裏面側となっていてもよい。
【0053】
上記実施形態では、射出成形領域21は平面となっている場合について説明したが、これに限定されることはない。射出成形領域に射出成形部を形成することができるのであれば、射出成形領域が曲面となっていてもよい。
【0054】
上記実施形態では、三次元の立体形状は、裏面側から表面側に向かって突出している場合について説明したが、これに限定されることはない。三次元の立体形状は、表面側から裏面側に向かって突出していてもよい。
【0055】
上記実施形態では、
図1において、6か所に円筒状の射出成形部3が形成されているが、これに限定されることはない。インサート成形品は、射出成形部の個数、形状は、用途に合わせて自由に変更してもよい。
【0056】
上記実施形態では、インサート材2の素材及び射出成形部3の素材を例示したが、これに限定されることはない。インサート材の素材及び射出成形部の素材は、インサート成形可能なものであれば、自由に選択できる。
【符号の説明】
【0057】
1 インサート成形品
2 インサート材
3 射出成形部
4 予備成形用の金型
5 可動側金型
6 固定側金型
21 射出成形領域
22 射出成形領域以外の領域
31 射出成形部
51 当接面
52 空間
61 当接面
62 空間
63 空洞部
64 ランナー
【要約】
【課題】金型製作の時間とコストを抑制するとともに、金型の加工に必要なエネルギーも抑制することができるインサート成形方法を提供すること。
【解決手段】インサート成形方法は、射出成形領域22を有するインサート材2において、射出成形領域21のみが可動側金型5と固定側金型6に挟まれ、射出成形領域以外の領域22が可動側金型5と固定側金型6に挟まれていない状態で型締めを行う型締め工程と、射出成形領域21にのみ射出成形部31が形成される射出成形工程とを有する。
【選択図】
図2