【実施例】
【0052】
[実施例1]
[短鎖フッ素系界面活性剤の精製]
特定のフッ素系界面活性剤内に存在する不純物は、コーティング性能への悪い影響をもちうる。市販の短鎖フッ素系界面活性剤(Hexafor612N)内の知られている不純物の一つは、未反応の3−メルカプトプロピオン酸(3-mercaptopropionic acid)で、これは銀ナノワイヤーを不動態化する可能性があり、それゆえワイヤーとワイヤーの接触を低下させることでネットワークを非伝導性にする。流入する原料を精製することは、ナノワイヤーネットワーク生成に否定的に作用する全ての成分が、最終コーティング組成物を配合するより前に除かれることを確実にすることができる。これはまた、全てのコーティング成分の、ロット毎の一貫性についての信頼性を確かにするものでもある。
【0053】
Hexafor612Nは、酢酸塩を酸の形に変換することで精製された。強酸溶液は、はじめに、70%硝酸(EMD, Darmstadt Germany)110gを容器中の水12kgに加えることで調製した。その後、2kgのHexafor612N(Maflon, Bergamo Italy)が、脱イオン水(DI water)と酸を含んだ容器に50ml/分の割合で加えられ、140rpmで撹拌した。Hexafor612Nの酸の形は脱イオン水に不溶で、固形物として沈殿した。水と不純物はそれから、沈殿物からデカントされ、固形物は加えた3kgの脱イオン水によってさらに洗浄され、140rpmで15分混合され、続いて、酸性化工程時に導入した硝酸塩と同様に、不純物をさらに可溶化させるために流体をデカントした。次に、固形沈殿物は0.175kgのIPA(Ultrapure Solutions, Castroville CA)に溶かされ、IPAと溶解されたHexafor612Nの酸とわずかな水とを含む有機層と、脱イオン水とわずかなIPAとを含む分離水層の二相の溶液を形成した。脱イオン水層が除かれたのち、追加の0.864kgのIPAが加えられ、その後Hexafor612Nの酸を塩の形に戻すために、99.995%LiOH(Alfa Aesar, Ward Hill, MA)の5%の0.403kgを脱イオン水に加える。このプロセスは精製された25%のHexafor612Nリチウム塩と、残りが50%IPA/25%H
2Oである溶液を生成する。
【0054】
[実施例2]
[ヨウ化物添加剤付きの精製されたフッ素系界面活性剤配合物]
0.1341kgの99.995%ヨウ化リチウム(Aldrich, St Louis MO)は、実施例1における、精製された25%のHexafor612Nが50%IPA/25%H
2O中にある溶液に加えられ、140rpmで30分撹拌された。結果物のフッ素系界面活性剤配合物は4500ppmのLiIを含む。
【0055】
[実施例3]
[精製された25%のHexafor612Nと4500ppmのLiIを含むインク1配合物]
0.735kgのインク濃縮物は0.136%の銀(Ag)と0.28%のMethocell 311 バインダ(Dow Chemical, Midland Ml)と、175ppmのFS-3100(Dupont Wilmington, DE)とを含み、初めに1.264kgの脱イオン水を加えて希釈された。希釈溶液は500rpmで5分混合された。
【0056】
0.0028kgのフッ素系界面活性剤配合物は精製された25%のHexafor612N(Maflon, Bergamo Italy)と4500ppmのヨウ化リチウム(Sigma Aldrich, St Louis MO)を含んでおり、上記希釈溶液に加えられて500rpmで10分混合され、最終コーティング組成物(「インク1」)を形成した。
【0057】
[実施例4]
[未精製の25%のHexafor612Nと4500ppmのLiIを含むインク2配合物]
0.735kgのインク濃縮物は0.136%の銀(Ag)と0.28%のMethocell 311 バインダ(Dow Chemical, Midland Ml)と、175ppmのFS-3100(Dupont Wilmington, DE)とを含み、初めに1.264kgの脱イオン水を加えて希釈された。希釈溶液は500rpmで5分混合された。
【0058】
0.0028kgのフッ素系界面活性剤配合物は未精製の25%Hexafor612N(Maflon, Bergamo Italy)と4500ppmのヨウ化リチウム(Sigma Aldrich, St Louis MO)を含んでおり、上記希釈溶液に加えられて500rpmで10分混合され、最終コーティング組成物(「インク2」)を形成した。
【0059】
[実施例5]
[インク1およびインク2から形成した導電性フィルムの比較結果]
インク1とインク2は、PETフィルム(たとえば、MELINEX-454またはTORAY U483)上に、スロットダイ・ロールツーロールコーティング方式によって別々に塗布された。それぞれのインクはコーティング前に−28“Hgで30分脱気された。それぞれのインクは、それから15ml/分の流量で塗布され、40℃、60℃、そして90℃でそれぞれ1分乾燥させられた。乾燥後、試料は2MPaの圧力で薄層化された。
【0060】
それぞれのコーティングからのフィルム試料は非接触導電率計でシート抵抗が測定され、ヘイズ(%)は積分球を用いて測定された。結果は下表の通りである:
【表1】
示された通り、未精製のHexafor612Nを含むインク2から生成したフィルムは、不動態化させる不純物のために非導電性のフィルムとなった。対照的に、インク1は、配合前にHexafor612Nを精製したことのみがインク2と異なっていたが、十分なシート抵抗とヘイズ特性をもった導電性ネットワークを形成した。
【0061】
[実施例6]
[コーティング欠陥の減少]
本実施例は、短鎖フッ素系界面活性剤によって、欠陥レベルがZONYL(登録商標)FSAに比べて著しく減少したことを示す。
【0062】
透明導電体薄膜中の気泡欠陥と粒子欠陥は、非常に問題となりうる。タッチパネル製作において、パターン線内の欠陥はショートや信頼性の問題を引き起こすことがあり、このことは収量を減少させ、製作する価値に否定的な影響を与える。本明細書に記載された短鎖フッ素系界面活性剤(Hexafor612Nを含む)は、当該技術において、ZONYL(登録商標)FSAに比べ、ナノワイヤーインクの気泡欠陥に関してかなり低い傾向をもつ。加えて、精製済みHexafor612Nもまた、粒子欠陥レベルを下げる。
【0063】
インク1とインク2は、それぞれ実施例3と4に従って調製された。
【0064】
加えて、Zonyl FSAを用いたインク3が、まず、1.264kgの脱イオン水を0.735kgのインク濃縮物に4Lのナルゲン瓶(Nalgene bottle)内で加えて混合することで、0.136%の銀(Ag)と0.28%のMethocell 311 バインダ(Dow Chemical, Midland Ml)と175ppmのFS-3100(Dupont Wilmington, DE)とを含むインク濃縮物を希釈して調製された。その後、この希釈溶液(インク濃縮物と水)に、25%のZONYL(登録商標)FSA(Dupont Wilmington, DE)を含む溶液0.0021kgが加えられ、10分混合された。
【0065】
それぞれのインクは別々に、スロットダイ・ロールツーロールコーティング方式で塗布された。溶液はコーティング前に−28“Hgで30分脱気された。溶液は15ml/分の流量で塗布され、40℃、60℃、そして90℃でそれぞれ1分乾燥させられた。乾燥後、試料は2MPaの圧力で薄層化された。
【0066】
フィルム試料は、2メートル以上の長さのコーティングの300mmにわたり、黒の背景に対してビデオランプを用いて欠陥の調査がされ、欠陥レベルは下表にリストされた:
【表2】
【0067】
これらの結果は、気泡欠陥が短鎖フッ素系界面活性剤(たとえば、インク1およびインク2)の導入によって大いに減少されたことを示す。加えて、原材料の精製は、気泡の数を少なく保ちつつ粒子欠陥を一桁減少させた(インク1を見られたい)。
【0068】
Zonyl(登録商標)FSAは、本来ヨウ化物を含むことに留意する。しかし、短鎖フッ素系界面活性剤はZonyl(登録商標)FSAよりもフィルム形成において一層よく機能した。
【0069】
[実施例7]
[ヨウ化物添加剤の安定化効果]
この例は、ヨウ化物のようなアニオンが最終コーティング組成物に付加するとき、銀カチオンにヨウ化物イオンが結合し得るために、結果物の導電性フィルムが信頼性の向上を示すことを実証する。信頼性試験の条件は85℃、乾燥、周囲の室内照明および蛍光である。
【0070】
過剰の自由な銀カチオンは、光と熱の存在下において、バルクの銀ナノワイヤーの信頼性に有害となりうることを見いだした。ヨウ化物のようなアニオンの追加分は銀カチオンと結合でき、フィルムの信頼性を大きく向上させることができる。
【0071】
銀カチオン、銀、およびヨウ化物の相対量の計算は以下の通りである:
[Ag
+]含有量:1%の銀に対して0.014%のAg
+
コーティング組成物中の[Ag]は0.05%の銀、従って[Ag
+]含有量は0.014%×0.05%Ag/1%Ag=0.0007%
Ag
+モル=[Ag
+]/Ag分子量(M.W.)=0.0007%/108=6.5×10
−8
【0072】
LiIはHexafor612に4500ppmで加えられた;Hexafor612は353ppmでインクに加えられた;Hexafor612は25%の濃度であった。
[I
−]=0.000353/25%×0.004500=6.354×10
−6
I
−モル=[I
−]/I分子量=6.354×10
−6/127=5×10
−8
【0073】
異なるAg
+/I
−モル比の3つのインク組成物が調製され、その中で2つ(インク1とインク5)が等モル近くのAg
+とI
−を有し、その中でインク4はヨウ化物をもたなかった。
【0074】
さらに具体的には、上述の計算によって、実施例3のインク1は6.5×10
−8molの銀カチオン(Ag
+)と5×10
−8molのヨウ化物を含み、以下のモル比を生ずる:
Ag
+/I
−モル比=6.5×10
−8/5×10
−8=1.3/1
【0075】
インク4は、ヨウ化物を有さないが、まず0.136%の銀ナノワイヤーと6.5×10
−8molの銀カチオンと0.28%のMethocell 311 バインダ(Dow Chemical, Midland Ml)と175ppmのFS-3100(Dupont Wilmington, DE)とを含む0.735kgのインク濃縮物に、1.264kgの脱イオン水を加えたのちに希釈溶液を500ppmで5分混合することによって希釈し、調製された。その後、この希釈溶液に、精製された25%のHexafor612N(Maflon, Bergamo Italy)を含み、追加のヨウ化リチウムのないフッ素系界面活性剤溶液のうち0.0021kgが加えられ、500ppmで10分混合された。
【0076】
インク5は、インク1よりもヨウ化物を有するが、まず0.136%の銀ナノワイヤーと0.28%のMethocell 311 バインダ(Dow Chemical, Midland Ml)と175ppmのFS-3100(Dupont Wilmington, DE)とを含む0.735kgのインク濃縮物に、1.264kgの脱イオン水を加えたのちに希釈溶液を500ppmで5分混合することによって希釈し、調製された。その後、この希釈溶液に、精製された25%のHexafor612N(Maflon, Bergamo Italy)と6000ppmのヨウ化リチウム(6.6×10
−8モルのヨウ化物)とを含むフッ素系界面活性剤溶液のうち0.0021kgが加えられ、10分混合された。
【0077】
インク1、インク4およびインク5は別々に、スロットダイ・ロールツーロールコーティング方式で塗布された。それぞれのインクはコーティング前に−28“Hgで30分脱気された。各インクはそれから15ml/分の流量でコートされ、40℃、60℃、および90℃でそれぞれ1分乾燥させられた。乾燥後、試料は2MPaの圧力で薄層化された。
【0078】
それぞれのコーティングからの試料フィルムは、非接触導電率計でシート抵抗(R)が測定され、ヘイズ(%)は積分球を用いて測定された。それらの結果は下表の通りである:
【表3】
【0079】
これらの試料フィルムは信頼性試験チャンバー内で様々な条件に暴露された:制御(control)(20−25℃の範囲内の周囲温度、周囲蛍光);85℃/乾燥(dry);85℃/85%相対湿度(RH);および60℃/90%相対湿度(RH)である。
図1は、試験条件下におけるこれらの試料フィルムの、時間に対するシート抵抗変化を示している。示された通り、インク5(等モルのAg
+/I
−)で形成されたフィルムが最もよい信頼性を示し、全ての条件下で400時間よりも長い期間にわたり、無視できるほどのシート抵抗のドリフト(5%よりも小さい)を示している。同様に、インク1(等モルに近いAg
+/I
−)で形成されたフィルムは、それほどでもないが、匹敵する信頼性を示している。際だったことに、インク4(ヨウ化物をもたない)で形成されたフィルムは、急速に導電性のロス(すなわち、シート抵抗の急速な増加)が全ての条件で示された。
【0080】
インク1、インク4およびインク5から調製されたフィルム試料は、促進光条件下についてもテストされた。促進光条件下では、光の強度は典型的には、与えられたデバイスの作動光(operating light)の強度に比べて大幅に上昇させられる;導電性フィルムの信頼性テストのための光暴露の持続時間はそれゆえ、同じデバイスの通常の寿命と比較して大幅に圧縮される。典型的には、光強度はルーメン(Lumens)、光束の単位で測定される。促進光条件下において、光はデバイスの光条件の約30から100倍強い。
【0081】
図2は、促進光条件下において、インク5(等モルのAg
+/I
−)から調製された試料フィルムが、とりわけ500時間の水準の後、他の試料よりも大幅に良い性能であったことを示す。
【0082】
本明細書で参照された、及び/又は出願データシートに列挙された、上記米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願及び非特許刊行物のすべてを参照によりその全体を本明細書に援用する。