(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473821
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】移動可能な燃焼室を有する打込装置
(51)【国際特許分類】
B25C 1/08 20060101AFI20190207BHJP
【FI】
B25C1/08
【請求項の数】12
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-532938(P2017-532938)
(86)(22)【出願日】2015年12月16日
(65)【公表番号】特表2017-538595(P2017-538595A)
(43)【公表日】2017年12月28日
(86)【国際出願番号】EP2015079958
(87)【国際公開番号】WO2016096962
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2017年8月10日
(31)【優先権主張番号】14199197.6
(32)【優先日】2014年12月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】シュタウス−ライナー, ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ヘープ, ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】スペアーフェヒター, トマス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルナー, マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ディトリヒ, ティロ
【審査官】
亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−319549(JP,A)
【文献】
実開平04−028972(JP,U)
【文献】
特開2012−040617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25C 1/08 − 1/18
B25D 9/11
F16J 9/00 − 9/28
F16J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打込装置であって、
1つのシリンダ(3)にガイドされている、釘部材を加工対象物に打込むための1つの打込みピストン(4)と、
前記打込みピストン(3)の上に配設されている、燃焼ガスで充填可能な1つの燃焼室(1)と、
を備え、
前記燃焼室(1)は、1つの円筒状の燃焼室壁(2)と、当該燃焼室壁(2)に対して1つの軸に沿って移動可能な底部(7)を備え、
前記底部(7)は、周方向に延在する溝(12)の上に当該溝に設置されたシーリング(8)を有し、当該シーリングは径方向で前記燃焼室壁(2)に接しており、
軸方向の前記シーリング(8)の前側の面(11a)または後側の面(10a)は、それぞれ前記溝(12)の終端面(E2)または終端面(E1)の上に当該軸の方向に突出している、
ことを特徴とする打込装置
【請求項2】
前記シーリング(8)の前記前側の面(11a)または前記後側の面(10a)は、それぞれ前記底部(7)の終端面(A2)または終端面(A1)の上に前記軸の方向に突出していることを特徴とする、請求項1に記載の打込装置。
【請求項3】
前記前側の面(10a,11a)の径方向内側の端部は、1つの鋭いエッジの終端部(10b,11b)を備え、30°〜120°の角度を有する1つのエッジ(10b,11b)を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の打込装置。
【請求項4】
前記燃焼室底部(7)に、および/または前記燃焼室壁部(2)の領域に、前記シーリング(8)によって拭われた水の排出のための1つの凹部(16)が配設されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の打込装置。
【請求項5】
前記シーリング(8)は両側で前記軸の方向に、前記溝(12)の前記終端面(E1,E2)の上に突出していることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の打込装置。
【請求項6】
前記シーリング(8)は、周方向に開放された1つのシーリングリング(10,11)を備えることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の打込装置。
【請求項7】
前記シーリングリング(10,11)は、固いシーリング材からなっていることを特徴とする、請求項6に記載の打込装置。
【請求項8】
軸方向に前後に続いて配設された2つのシーリングリング(10,11)が設けられており、これら2つのシーリングリング(10,11)は、前記溝(12)に設置されていることを特徴とする、請求項6または7に記載の打込装置。
【請求項9】
前記シーリングリング(10,11)の下に1つの弾力性のある支持部材(14)が配設されていることを特徴とする、請求項6乃至8のいずれか1項に記載の打込装置。
【請求項10】
前記打込装置は、1つのハウジング(19)を備え、前記燃焼室壁(2)は当該ハウジング(19)と堅固に結合されていることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の打込装置。
【請求項11】
前記打込装置は、1つのハウジングを備え、前記底部は当該ハウジングと堅固に結合されていることを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の打込装置。
【請求項12】
前記底部は、前記燃焼室壁に対して、前記底部と前記燃焼室壁との間に、当該燃焼室の1つの吸/排気開口部を形成するまで、移動可能となっていることを特徴とする、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の打込装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1つの打込装置に関し、具体的には請求項1の上位概念部に記載の1つの携帯型打込装置である。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、加工対象物への釘の打込み用の打込装置を記載しており、この打込み装置では、燃焼室に燃焼ガスが供給され、ここで点火工程の後、打込みピストンがこの釘に向かって加速される。この燃焼室は、1つの移動可能な燃焼室底部を有し、ここで1つの移動棒がこの燃焼室のハウジングを貫通するフィードスルーを用いてガイドされており、上記の移動可能な燃焼室底部と結合されている。この燃焼室底部は、周回するシーリング部によって燃焼室壁に対してシーリングされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第10226878A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、低い環境温度でも、とりわけ信頼性の高い動作を可能とする打込み装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、最初に述べた請求項1に示す特徴を有する本発明による打込装置により解決される。溝の終端面の前に軸方向にシーリングが出ているすなわち突出していることにより、上記の燃焼室底部が移動する際に、燃焼室壁上に付着する水が効果的に拭ぐわれ、過度にこの溝の中に入り込むことがない。以上により、特に氷点下の温度で、溝領域における水が凍結することを防ぐことができる。
【0006】
本装置が適切に加工対象物の上に正常に着地されていない場合には、通常上記の燃焼室壁に対して移動可能な、この燃焼室の底部は、この燃焼室がたとえば安全装置の一部として潰れることを可能とする。このような装置では、燃焼室は、毎回打込工程の前にこの着地によって拡張し、こうして毎回燃焼室壁の滑りが起こる。
【0007】
本発明の通常好ましい実施形態では、上記のシーリングの前面は、軸方向において上記の燃焼室底部の終端面の上に突出している。これは上記の拭われた水を底部と燃焼室壁との間の間隙でとりわけ効果的に排出することを可能とする。
【0008】
通常有利には、この拭われた水の排出は、上記の前面の径方向内側の端部に1つの鋭いエッジの終端部を備えることにより支援される。好ましくは、この鋭いエッジの端部は、30°〜120°の角度を有し、とりわけ好ましくは70°〜110°の角度を有する。このようなエッジは、上記の拭われた水に対する堰を形成し、この水はこのエッジを回って上記の燃焼室底部と燃焼室との間の間隙の中へまったく侵入することができない。
【0009】
上記の水の排出をさらに改善するために、上記の燃焼室底部に、および/または上記の燃焼室壁部の領域に、上記のシーリングによって拭われた水の排出のための1つの凹部が配設されている。これはこの燃焼室壁に凝縮した大量の水の排出も可能とする。
【0010】
有利には原則として上記のシーリングは、上記の溝の終端面に渡って両側で突出しており、こうして上記の底部の軸方向の両移動方向において上記の間隙の中へ水が侵入することが避けられる。簡単な実施形態においては、このシーリングは、特に対称的に形成されていてよい。
【0011】
本発明の1つのとりわけ好ましい実施形態においては、上記のシーリングは、周方向に開放された1つのシーリングリングを備える。これにより剛性のある材料からなるシーリングリングも上記の溝の中に設置することができる。ここで原則として、好ましくはこのシーリングリングは1つの固いシーリング材からなっている。ここで固いシーリング材とは、シーリング状態において、弾性的に変形していないか、あるいは目視で弾性的に変形していない材料である。1つのこのような材料は、たとえばスチール、銅、またはアルミニウムのような金属であってよく、または固い、特にファイバー強化プラスチックであってもよい。このため区別されなければならないのは、ゴムやシリコーンのような柔らかいシーリング材であり、これらはシーリングとして使用された場合に、充分なシーリング効果を達成するためにそれ自体が変形する。
【0012】
高いシーリング効果の観点から、軸方向で前後に配設された少なくとも2つのシーリングリングが設けられる。とりわけ好ましくは、これら2つのシーリングリングが上記の溝に設置されることであり、こうして小さな構造高が達成される。この際大きな圧力でも良好なシーリング性を確実にするために、シーリングリングの開いた突当部(Stoesse)は、互いにずれて配向されている。
【0013】
ここでシーリング効果の改善のため、このシーリングリングの下に1つの弾力性のある支持部材が配設されている。このような支持部材は、具体的には1つの周回する、上記の溝に設置される1つの弾力性のある材料からなるリングであってよく、たとえば1つのエラストマーまたは1つの板ばねからなっていてよい。この支持部材は、1つの周回するリングの代わりに、複数の個別の弾力性のある部材から成っていてもよい。
【0014】
1つの好ましい実施形態においては、本打込装置は、1つのハウジングを備え、このハウジングと上記の燃焼室壁は堅固に結合されている。この場合上記の燃焼室底部が、この打込装置においては1つの可動な部品となっている。本打込装置の1つの代替の実施形態は、1つのハウジングを備え、このハウジングとこの底部は堅固に結合されている。この場合上記の燃焼室壁が、この打込装置においては1つの可動な部品となっている。
【0015】
好ましくは上記の燃焼室底部は、この底部と上記の燃焼室壁との間に、この燃焼室の空気および/または燃料用の、1つの吸/排気開口部を形成するまで、移動可能となっている。とりわけ好ましくは、この底部およびこの燃焼室壁は、この燃焼室の1つの吸/排気バルブを形成している。
【0016】
本発明のさらなる利点および特徴は、以下に記載する実施形態例ならびにこれらに関連する請求項で明らかになる。
【0017】
以下に、本発明の1つの好ましい実施形態例が記載され、これに付随する図を参照して詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明による1つの打込装置の3次元的な全体図を、切断された燃焼室と共に示す。
【
図3】
図1に示す燃焼室の、シーリングの領域における可動な底部の3次元的な断面を示す。
【0019】
図1の打込装置は、1つの手持装置であり、1つのハウジング19ならびに、このハウジング19と堅固に結合されている部分的に円筒状の1つの燃焼室壁2を有する1つの燃焼室1を備える。この燃焼室1には、1つのシリンダ3がこの中にガイドされている1つの打込ピストン4と共に接している。この装置の安全機構は、加工対象物(不図示)に着地され、ばねの圧力に対抗して押し付けられる1つの着地スリーブ(Aufsetzhuelse)5を備える。この状態においてのみ、上記の燃焼室における燃焼ガスの点火によって打込工程を開始することができる。さらにこの燃焼室1においては、1つの撹拌プレート(Wirbelplatte)6が配設されており、この撹拌プレートは、点火の前にこの燃焼室1を通って移動することができる。
【0020】
燃焼室1の底部7は、打込方向と一致する軸に沿って移動可能であり、こうしてこの燃焼室の容積は可変となっている。このためこの底部7は、周回するシーリング8を用いて円筒状の燃焼室壁2に対して密封されている。
図1および2においては、シーリング8は、概略的にのみ示されている。本発明でのシーリング8の詳細構成は、
図3においてのみ詳細に示されている。
【0021】
不図示の実施形態例では、上記の底部は、上記のハウジングと堅固に結合されており、そして上記の燃焼室壁は、軸方向に移動可能なスリーブとして形成されている。同様に、不図示の実施形態例では、上記の燃焼室壁は、上記の底部に対して、この底部とこの燃焼室壁との間に、空気および/または燃料用のこの燃焼室の1つの吸/排気開口部が形成されるまで、移動可能となっている。
【0022】
この底部7は、移動棒9を介して軸方向に移動することができ、ここでこの移動棒9は、この燃焼室の前側の第2の底部にある1つのフィードスルーを通り抜けている。上記の着地スリーブ5の押圧は、まず1つのばねを圧縮し、そして移動棒9に作用して今度は上記の底部7を移動させる。以上により点火に充分な上記の燃焼室の容積がまず拡張される。燃焼室壁に沿ったこの底部の動作では、凝縮した水が定期的に拭われる。この機構がうまく動かなくなることを避けるためには、シーリング8の領域に浸入して氷結する水ができるかぎり少なくなくなければならない。このため、底部7、燃焼室1、およびシーリング8は、特別な変形実施形態を備えており、これについて以下に説明する。
【0023】
シーリング8は、軸方向で上下に重なっている2つのシーリングリング10,11のセットとして形成されている。これら2つのシーリングリング10,11は、底部7の外周壁7aでの同じ溝12に収容されている。これらのシーリングリング10,11は、1つの固い材料、ここではスチールから成っている。これらのシーリングリング10,11は、溝12の中に設置することができるようにそれぞれ1つの開いた突当部13を有している。さらにこの突当部は、これらのシーリングリングを上記の燃焼室壁に所定に押圧することを可能とする。このためこれらのシーリングリングの下側には弾力性のある支持部材14が、この溝に配設されている。シーリングリング10,11の設置の際には、この支持部材14は、径方向に押圧され、そしてばね弾性的に力が印加される。これらのシーリングリング10,11の突当部13は、周方向で互いにずれて配向されている。
図3に示す実施形態では、前側のシーリングリング11の突当部13は断面にあり、このためここに見えている。
【0024】
ここではこれらのシーリングリング10,11は、それぞれL形状の断面を有し、この溝の中心面に対して鏡面対称に配設されている。具体的には、これらのシーリングリング10,11は同じ部品として形成されていてよい。このL形状の断面のそれぞれの1つの脚部は、溝12の中へ噛み込んでいる。それぞれのもう1つの脚部は、底部7の周壁7aと燃焼室壁2との間の間隙15において軸方向に延伸している。軸方向においてシーリングリング10,11のそれぞれの前側の面10a,11aは、溝12の終端面E1,E2からそれぞれ突出している。特にこれらの前側の面10a,11aは、軸方向において、底部2のそれぞれの終端面A1,A2からも突出している。これらの前側の面10a,11aのそれぞれの径方向内側の端部は、90℃の角度を有するエッジの形状の、鋭いエッジの1つの終端部10b,11bを有する。ここでこのエッジは、それぞれ底部2の終端面A1,A2の前にある。このエッジの曲率は、好ましくは0.5mmより小さく、具体的には0.2mmより小さい。
【0025】
上記の底部の移動によって拭われる水をより良好に排出するため、そして間隙15への水の侵入に伴う水詰まりを避けるために、底部7には1つの凹部16が設けられている。この凹部16は、底部7と1つの突当リング17との間に残る環状の空間として形成されている。完全に拡張された燃焼室では、この底部7は、この突当リング17によって支持されている。開口部18を通って、拭われた水がさらにこの突当リングを過ぎて他のハウジング領域へ排出される。