【実施例】
【0032】
[実施例1]
ABジブロック共重合体として、ポリスチレン−b−ポリ(2−ビニルピリジン)(以下、「PS−P2VP」という)を、Polymer Journal 18, 493-499(1986)に記載のブロック共重合体合成法(高真空ブレイカブルシール法)を参考にして合成した。具体的な手順を以下に示す。
【0033】
α−スチレンテトラマージナトリウムのTHF溶液で高真空反応釜内の洗浄を行った。クミルメチルエーテルと金属カリウムとを反応させて合成できるクミルカリウムのTHF溶液(1.92×10
-2M、5.5mL)を高真空反応釜に投入し、その後十分に精製されたTHF300mLを投入した。反応釜を−78℃に冷却し十分攪拌させたのちに、スチレンモノマーのTHF溶液(1.92M、25mL)を投入してアニオン重合を開始した。15分後、2−ビニルピリジンモノマーのTHF溶液(1.92M、25mL)を反応釜投入し、ブロック共重合を開始した。5時間後、停止剤となるイソプロパノールを添加して重合反応を停止させた。得られたPS−P2VPをヘキサン中で沈殿精製して回収した。
【0034】
精製したPS−P2VPをDMFに溶解して0.1wt%の溶液を調製し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、分子量分布(Mw/Mn)を決定した。溶出液はDMF、流速は1mL/minとし、東ソー製のTSK−GELカラムG4000HHRを3本連結させた状態で測定を行った。分子量の較正に標準ポリスチレンを用いたところ、分子量分布Mw/Mnは1.12であった。Varian製のUNITY−INOVA 500MHz核磁気共鳴装置による測定からPSの組成(体積分率φs)を決定したところ、0.50であった。また膜浸透圧測定によりブロック共重合体の
数平均分子量Mnを求めたところ、78kであった。こうして得られたPS−P2VPをSP01と称することとする。
【0035】
得られたSP01を1,4−ジオキサンに溶解させて7wt%の溶液を調製した。続いて、石英スライドガラスにこの溶液を滴下し、スピンコーター(ミカサ(株)製の1H−DX2)を用いて、スピンコート回転数500rpm、スピンコート時間60秒でスピンコート法により膜厚約2μmの薄膜を形成した。続いて、薄膜中のSP01のナノ相分離構造を最適化するために、溶媒蒸気でアニールを行った。具体的には、クロロホルムの蒸気を用い、40℃で12時間アニールを行った。続いて、アニールを終えた薄膜の上にイオン液体を滴下し、パスツールピペットでイオン液体を広げることにより膜全体にイオン液体が行き渡るようにし、ホットプレートを用いて40℃で約1時間温めて、薄膜が最大の膨潤状態となるようにした。このようにして実施例1のフォトニック膜を作製した。
【0036】
ここでは、イオン液体として、イミダゾールとビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドとをモル比7:3で混合して得られたプロトン性イオン液体ImHTFSI(化1参照)を用いた。このイオン液体は、ガラス転移温度Tgが約−77℃、融解温度Tmが約12℃、屈折率nDが1.44(20℃)であった。
【0037】
【化1】
【0038】
[実施例2]
クミルカリウムのTHF溶液(1.92×10
-2M、4.2mL)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてPS−P2VPを合成した。得られたPS−P2VPは、Mw/Mn=1.14、φs=0.47,Mn=108kであった。このPS−P2VPをSP02と称することとする。このSP02を用いて、実施例1と同様にして、実施例2のフォトニック膜を作製した。
【0039】
[実施例3]
クミルカリウムのTHF溶液(1.92×10
-2M、3.2mL)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてPS−P2VPを合成した。得られたPS−P2VPは、Mw/Mn=1.06、φs=0.50,Mn=158kであった。このPS−P2VPをSP03と称することとする。このSP03を用いて、実施例1と同様にして、実施例3のフォトニック膜を作製した。
【0040】
[実施例4]
クミルカリウムのTHF溶液(1.92×10
-2M、1.4mL)を用いたこと、THFの蒸気を用いてアニールを行ったこと以外は、実施例1と同様にしてPS−P2VPを合成した。得られたPS−P2VPは、Mw/Mn=1.10、φs=0.51,Mn=334kであった。このPS−P2VPをSP04と称することとする。このSP04を用いて、実施例1と同様にして、実施例4のフォトニック膜を作製した。
【0041】
[反射スペクトル]
実施例1〜4のフォトニック膜の可視光と紫外光、赤外光に対する反射率を以下の装置、条件で測定した。
光源:オーシャン・オプティクス社製のDH2000−BAL重水素・ハロゲンランプ
分光器:オーシャン・オプティクス社製のQE−65000
露光時間:8msec
測定環境:暗室内、室温
【0042】
図1(a)〜(d)に反射スペクトルを示す。実施例1のフォトニック膜は、406nmの青色の可視光を反射した。実施例2のフォトニック膜は、507nmの黄緑〜青緑色の光を反射した。実施例3のフォトニック膜は、579nmの黄色の光を反射した。また、302nmに2次ピークが見えており、ラメラ構造の存在が示唆された。実施例4のフォトニック膜は、861nmの近赤外光を反射した。また、436nmに2次ピーク、300nmに3次ピークが見えており、実施例3と同様にラメラ構造が示唆された。この実施例4のフォトニック膜は、外観上は青色に見えた。また、
図2の通り、実施例1のフォトニック膜は、大気中、室温で約100日放置した後も、放置前とほぼ同様の光を反射していることを確認した。実施例2〜4についても、放置後も放置前と同様の光を反射していることを確認した。
【0043】
[TEM観察]
イオン液体による膨潤前後の薄膜のナノ相分離構造を観察するため、実施例1のフォトニック膜を別途調製し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてそれを観察した。薄膜を形成するにあたって、石英スライドガラスの代わりにポリイミド膜を用いた。また、膜の表面を親水化するため、膜を40℃の1M KOH水溶液中で15分間浸すというアルカリ処理を行った。そして、イオン液体を添加する前の薄膜とイオン液体を添加した後の薄膜をそれぞれ切り取ってエポキシ樹脂に包埋した後、ミクロトームを用いて超薄切片(厚さ50nm)を作製し、Cuグリッドの上に載せた。その後、超薄切片をヨウ素により40分間染色し、以下の装置、条件でTEM観察を行った。
装置:日本電子(株)製のJEM−1400
加速電圧:120kV
【0044】
図3(a)はイオン液体添加前のTEM像、
図3(b)はイオン液体添加後のTEM像である。図
3において、白色部分がポリスチレン相(PS相)、黒色部分がポリ(2−
ビニルピリジン)相(P2VP相)である。イオン液体添加前は、
図3(a)から、白色部分の厚さが17nm、黒色部分の厚さが18nm、両方の和すなわち繰り返し周期Dが35nmであった。一方、イオン液体添加後は、
図3(b)から、白色部分の厚さが18nm、黒色部分の厚さが102nm、両方の和すなわち繰り返し周期Dが120nmであった。以上のことから、イオン液体添加前に比べて添加後は約3.4倍(=120nm/35nm)に膨らんだことがわかる。
【0045】
[FE−SEM観察]
イオン液体の膨潤前後の薄膜の膜厚を測定するために、実施例1でイオン液体を添加する前後の薄膜を別途調製し、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いてそれを観察した。ここでは、薄膜を形成するにあたって、石英スライドガラスの代わりにカバーグラスを用いた。観察に用いた装置、条件は以下のとおりである。
図4(a)はイオン液体添加前のSEM像、
図4(b)はイオン液体添加後のSEM像である。
図4から、イオン液体添加後は添加前の3.4倍(=7.9μm/2.3μm)に膨潤していることがわかった。
装置:日本電子(株)製のJSM−7500FA
加速電圧:1kV
【0046】
なお、TEM像やSEM像の観察ができたということは、真空内で測定できたということであるため、使用したイオン液体が不揮発だったことの証明となる。
【0047】
[SAXS測定]
イオン液体の膨潤前後の構造の大きさを求めるために、実施例1でイオン液体を添加する前後の薄膜をポリイミド基板上に別途調製し、小角X線散乱(SAXS)測定を行った。イオン液体によって膨潤したものと膨潤していない膜を作製し、膜を切り取りSAXS測定用試料とした。装置、条件は以下のとおりである。
図5(a)はイオン液体添加前のSAXSプロファイル、
図5(b)はイオン液体添加後のSAXSプロファイルである。イオン液体によって膨潤していないもののSAXSプロファイルには、奇数次ピークが観測されたため、2成分の組成が等しいラメラ構造を形成していると判断した。繰り返し周期Dは43nmであった。一方、イオン液体によって膨潤したもののSAXSプロファイルでは、最も低q値に見えるピークを2次と仮定すると、その後に見えるピークのq値の比が3:4:5:6になったことから、1次ピークは隠れて見えていないが、ラメラ構造を形成していると判断した。繰り返し周期は138nmであった。すなわちイオン液体添加後は添加前の3.2倍(=138nm/43nm)に膨潤していることがわかる。
装置:高エネルギー加速器研究機構(KEK)Photon Factory(PF) beamline 10C
X線波長:0.15nm
カメラ長:199cm
【0048】
[比較例1]
イオン液体として、ImHTFSIの代わりにEMITFSI(エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、化2参照)を用いた以外は、実施例1と同様にして薄膜を作製したが、近紫外光から近赤外光までの波長領域の光を反射しなかった。このような結果に終わった原因は、実施例1で用いたImHTFSIがプロトン性イオン液体だったのに対して、比較例1で用いたEMITFSIは非プロトン性イオン液体だったことによると考えられる。P2VPを溶解、膨潤するプロトン性イオン液体とP2VPとの間には、水素結合やイオン性相互作用などが生じていると考えられ、一方非プロトン性イオン液体ではそのような作用が生じず、P2VPを膨潤しなかったと考えられる。
【0049】
【化2】
【0050】
[実施例5〜9]
ABジブロック共重合体として、40.5k−41k、40k−44k、55k−50k、84k−69k、102k−97kの計5つのPS−P2VPをポリマー・ソース社(Polymer Source Inc.)から購入し、上述した実施例1と同様にしてフォトニック薄膜を作製した。それぞれのポリマーをSP05、SP06、SP07、SP08、SP09と命名し、フォトニック膜作製工程についてはそれぞれ実施例5〜実施例9とする。
図6(a)〜(e)にそれらの反射スペクトルを示す。実施例5のフォトニック膜は、393nmの青紫色の光を反射した。実施例6のフォトニック膜は、398nmの青紫色の光を反射した。実施例7のフォトニック膜は、455nmの青色の光を反射した。実施例8のフォトニック膜は、584nmの黄緑色の光を反射した。実施例9のフォトニック膜は、629nmの赤色の光を反射した。また、実施例9のフォトニック膜は、322nmに2次ピークが見えており、ラメラ構造の存在が示唆された。
【0051】
実施例1〜9のフォトニック膜の数平均分子量Mn、体積分率φs、反射スペクトルのピーク波長λ(nm)を表1にまとめた。表1に基づいて、横軸を数平均分子量Mn、縦軸を反射スペクトルのピーク波長λ(nm)とするグラフを作成した。そのグラフを
図7に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
[実施例10〜13,比較例2]
ABジブロック共重合体として、SP09を用い、上述した実施例1と同様にしてフォトニック薄膜を作製した。ここでは、イオン液体として、ImHTFSIとEMITFSIとの混合比(重量比)を表2に示すものを用いた。そして、これらの反射光の色や反射スペクトルを測定した。その結果を表2に示す。表2に示すように、EMITFSIを単独で用いた場合(比較例2)には可視光を反射しなかったが、ImHTFSIを単独で用いた場合(実施例9)やImHTFSIとEMITFSIとの混合溶媒を用いた場合(実施例10〜13)には可視光を反射した。こうしたことから、可視光を反射するフォトニック膜を得るためには、使用する溶媒に不揮発なプロトン性溶媒を含んでいればよいことがわかった。
図8は、ImHTFSIの濃度(wt%)と反射光スペクトルのピーク波長との関係を表すグラフである。Im
HTFSIの濃度(wt%)は、EMITFSIとIm
HTFSIとの混合溶媒に対するIm
HTFSIの重量割合である。このグラフから明らかなように、ImHTFSIの濃度が高くなるにつれて反射光スペクトルのピーク波長も高くなることがわかった。つまり、反射スペクトルのピーク波長は、不揮発なプロトン性溶媒であるImHTFSIの濃度によって制御できることがわかった。
【0054】
【表2】
【0055】
[実施例14,15]
実施例14では、イオン液体としてトリアゾ−ル塩であるTAZHTFSI(下記化3参照)を用いた以外は実施例1と同様にしてフォトニック膜を作製し、実施例15では、イオン液体としてメチルイミダゾリウム塩であるMImHTFSI(下記化3参照)を用いた以外は実施例1と同様にしてフォトニック膜を作製した。
図9(a)、(b)にそれらの反射スペクトルを示す。いずれのフォトニック膜も、イオン液体によって膨潤化した。また、実施例14では396nmの可視光を、実施例15では411nmの可視光を反射することを確認した。なお、TAZHTFSIはTm=22.8℃の無色透明の液体であり、MImHTFSIはTm=9℃の無色透明の液体である。
【0056】
【化3】
【0057】
[実施例16,17]
実施例16では、イオン液体として3級アミンのアンモニウム塩であるTEATFSI(下記化4参照)を用いた以外は実施例1と同様にしてフォトニック膜を作製し、実施例17では、イオン液体として3級アミンのアンモニウム塩であるtBATfO(下記化4参照)を用いた以外は実施例1と同様にしてフォトニック膜を作製した。
図10(a)、(b)にそれらの反射スペクトルを示す。いずれのフォトニック膜も、イオン液体によって膨潤化した。また、実施例16では341nmの光を、実施例17では361nmの光を反射することを確認した。なお、TEATFSIは無色透明の液体であり、tBATfOは無色透明の液体である。
【0058】
【化4】
【0059】
[実施例18,19]
実施例18では、イオン液体としてピリジニウム塩である2MPyTFA(下記化5参照)を用いた以外は実施例1と同様にしてフォトニック膜を作製し、実施例19では、エチルイミダゾリウム塩であるEImTfO(下記化5参照)を用いた以外は実施例1と同様にしてフォトニック膜を作製した。
図11(a)、(b)にそれらの反射スペクトルを示す。いずれのフォトニック膜も、イオン液体によって膨潤化した。また、実施例18では356nmの光を、実施例19では387nmの光を反射することを確認した。なお、2MPyTFAは淡黄色の液体であり、EImTfOは無色透明の液体である。
【0060】
【化5】
【0061】
[実施例20]
ABジブロック共重合体として、80k−80kのポリスチレン−ポリメチルメタクリレート(以下、「PS−PMMA」という)を、ポリマー・ソース社(Polymer Source Inc.)から購入した。このPS−PMMAを用いて、実施例1と同様にして、ImHTFSIを用いて実施例20のフォトニック膜を作製した。
図12に反射スペクトルを示す。637nmの光を反射することを確認した。このフォトニック膜は、赤色の可視光を反射した。
【0062】
[実施例21]
ABジブロック共重合体として、66k−63.5kのPS−PMMAを、ポリマー・ソース社(Polymer Source Inc.)から購入した。このPS−PMMAを用いて、実施例1と同様にして、ImHTFSIを用いて実施例21のフォトニック膜を作製した。
図13に反射スペクトルを示す。薄膜表面に乱れが見られたため、鋭い反射ピークを確認することはできなかったが、453m周辺の光を反射することを確認した。このフォトニック膜は、青色の可視光を反射した。
【0063】
[比較例3〜11]
実施例1において、ImHTFSIの代わりにEHIBr、EPyTFSI、EMIBF4、TOMAC(下記化6参照)を用いてフォトニック薄膜を作製しようとしたが(比較例3〜6)、可視光を反射しなかった。また実施例20において、ImHTFSIの代わりにEMITFSI、EHIBr、EPyTFSI、EMIBF4、TOMACを用いてフォトニック薄膜を作製しようとしたが(比較例7〜11)、これも可視光を反射しなかった。このような結果に終わった原因は、実施例1や実施例20で用いたImHTFSIがプロトン性イオン液体だったのに対して、比較例3で用いたEMITFSIは非プロトン性イオン液体だったことによると考えられる。P2VPやPMMAを膨潤化させるプロトン性イオン液体とP2VPやPMMAとの間には、水素結合やイオン性相互作用などが生じていると考えられる。一方非プロトン性イオン液体ではそのような作用は生じず、P2VPやPMMAを膨潤しなかったと考えられる。
【0064】
【化6】
【0065】
なお、上述したようにフォトニック膜の反射率は実施例によって異なったが、その理由はフォトニック膜の出来具合(ナノ構造が何周期の繰り返しを持つか、繰り返し単位はどれも同じで乱れていないか、表面は荒れていないか、界面は十分に狭いか等)によって反射率が変わるためと考えられる。ちなみに反射率は同一フォトニック膜内でも場所によって変化する。
【0066】
本出願は、2013年5月13日に出願された日本国特許出願第2013−101409号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【0067】
なお、上述した実施例は本発明を何ら限定するものでないことは言うまでもない。