特許第6473880号(P6473880)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473880
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】不揮発なフォトニック材料及びその製法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/26 20060101AFI20190218BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20190218BHJP
   C08K 5/34 20060101ALI20190218BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20190218BHJP
   C08J 7/02 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   G02B5/26
   C08L53/00
   C08K5/34
   C08J5/18CER
   C08J7/02 Z
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-517095(P2015-517095)
(86)(22)【出願日】2014年5月13日
(86)【国際出願番号】JP2014062747
(87)【国際公開番号】WO2014185426
(87)【国際公開日】20141120
【審査請求日】2017年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-101409(P2013-101409)
(32)【優先日】2013年5月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野呂 篤史
(72)【発明者】
【氏名】冨田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】松島 智
(72)【発明者】
【氏名】提嶋 佳生
(72)【発明者】
【氏名】松下 裕秀
(72)【発明者】
【氏名】ウォリッシュ ジョセフ ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス エドウィン エル
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−511138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 53/00− 53/02
C08F 293/00−297/08
C08J 5/18
C08K 5/16− 5/357
G02B 5/26
G02B 1/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近紫外光から近赤外光までの波長領域の一部の光を反射する不揮発なフォトニック材料であって、
複数の異なるポリマー鎖が繋がり、各ポリマー鎖が独立して凝集したナノ相分離構造を形成するブロック共重合体
を備え、
前記複数の異なるポリマー鎖のうちの少なくとも1つは、不揮発性溶媒によって膨潤され、前記不揮発性溶媒は、不揮発なプロトン性溶媒又はそれを含有する不揮発な溶媒である、
不揮発なフォトニック材料。
【請求項2】
可視光の波長領域の一部の光を反射する、
請求項1に記載の不揮発なフォトニック材料。
【請求項3】
前記不揮発性溶媒は、プロトン性イオン液体又はそれを含有する不揮発な溶媒である、
請求項1又は2に記載の不揮発なフォトニック材料。
【請求項4】
前記不揮発性溶媒は、含窒素ヘテロ環の窒素上にプロトンを持つ含窒素ヘテロ環の塩からなるイオン液体又は有機アミンの窒素上にプロトンを持つアンモニウム塩のイオン液体である、
請求項1〜のいずれか1項に記載の不揮発なフォトニック材料。
【請求項5】
前記含窒素ヘテロ環は、イミダゾール、トリアゾール又はピリジンである、
請求項に記載の不揮発なフォトニック材料。
【請求項6】
前記複数の異なるポリマー鎖は、第1ポリマー鎖と第2ポリマー鎖であり、
前記第2ポリマー鎖の方が前記第1ポリマー鎖に比べて前記不揮発性溶媒によって大きく膨潤されている、
請求項1〜のいずれか1項に記載の不揮発なフォトニック材料。
【請求項7】
前記第1ポリマー鎖は、ポリスチレン鎖であり、
前記第2ポリマー鎖は、ポリビニルピリジン鎖又はポリメタクリル酸エステル類である、
請求項に記載の不揮発なフォトニック材料。
【請求項8】
近紫外光から近赤外光までの波長領域の一部の光を反射する不揮発なフォトニック材料の製法であって、
複数の異なるポリマー鎖が繋がったブロック共重合体を含む溶液を用いて基板上に薄膜を形成し、該薄膜を不揮発性溶媒によって膨潤させる、
不揮発なフォトニック材料の製法。
【請求項9】
前記フォトニック材料は、可視光の波長領域の一部の光を反射する、
請求項に記載の不揮発なフォトニック材料の製法。
【請求項10】
前記不揮発性溶媒は、不揮発なプロトン性溶媒又はそれを含有する不揮発な溶媒である、
請求項又はに記載の不揮発なフォトニック材料の製法。
【請求項11】
前記不揮発性溶媒は、プロトン性イオン液体又はそれを含有する不揮発な溶媒である、
請求項10のいずれか1項に記載の不揮発なフォトニック材料の製法。
【請求項12】
前記不揮発性溶媒は、含窒素ヘテロ環の窒素上にプロトンを持つ含窒素ヘテロ環の塩からなるイオン液体又は有機アミンの窒素上にプロトンを持つアンモニウム塩のイオン液体である、
請求項11のいずれか1項に記載の不揮発なフォトニック材料の製法。
【請求項13】
前記含窒素ヘテロ環は、イミダゾール、トリアゾール又はピリジンである、
請求項12に記載の不揮発なフォトニック材料の製法。
【請求項14】
前記複数の異なるポリマー鎖は、第1ポリマー鎖と第2ポリマー鎖であり、
前記第2ポリマー鎖の方が前記第1ポリマー鎖に比べて前記不揮発性溶媒によって大きく膨潤されている、
請求項13のいずれか1項に記載の不揮発なフォトニック材料の製法。
【請求項15】
前記第1ポリマー鎖は、ポリスチレン鎖であり、
前記第2ポリマー鎖は、ポリビニルピリジン鎖又はポリメタクリル酸エステル類である、
請求項14に記載の不揮発なフォトニック材料の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不揮発なフォトニック材料及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、互いに非相溶な異種高分子が繋がれたブロック共重合体は、数ナノメートル〜数百ナノメートルの異種ドメインが相分離した規則的な周期構造、すなわちナノ相分離構造(ミクロ相分離構造、メソ相分離構造とも呼ぶ)を形成することが知られている(非特許文献1)。一方、フォトニック材料とは、異なる屈折率成分からなる周期構造を有するナノ構造体で、一次元的な構造の繰り返しを有する一次元フォトニック材料では特定波長の光を反射する。ゆえに、異なる誘電率成分、実質的には異なる屈折率成分からなるブロック共重合体からでもフォトニック材料を作製可能である(特許文献1、特許文献2)。しかし、小さくとも分子量50万程度の大きな重合体でないと可視光に対してのフォトニック結晶特性を示すナノ構造体、すなわち百数十ナノメートル以上のナノ相分離構造を得ることはできないので、実際の応用、作製は限定的であった。
【0003】
この問題の解決法として、トーマスらは分子量40万程度のブロック共重合体薄膜を水で膨潤させることで一次元フォトニックフィルムとする方法を提案している(特許文献3、非特許文献2)。具体的には、ブロック共重合体であるポリスチレン−b−ポリ(2−ビニルピリジン)の溶液をスライドガラス表面にスピンコートし、その後50℃でクロロホルムの蒸気に晒して溶媒アニールを行い、アニール終了後ジブロモプロパンでポリ(2−ビニルピリジン)ブロックを架橋し、架橋膜に対して水を作用させて架橋度により様々な波長の光(可視光を含む波長領域の光)を反射するフィルムを作製している。
【0004】
さらなる改良法として、トーマスらは分子量20万程度のブロック共重合体薄膜をメタノールで膨潤させることで一次元フォトニックフィルムとする方法を提案している(非特許文献3)。この方法では架橋の工程を必要としない。具体的には、ブロック共重合体であるポリスチレン−b−ポリ(2−ビニルピリジン)の溶液をスライドガラス表面にスピンコートし、その後40℃でクロロホルムの蒸気に晒して溶媒アニールを行い、アニール終了後にトリフルオロエタノールを作用させて青色に反射するフィルムを作製している。
【0005】
加えて、トーマスらは、分子量10万程度のブロック共重合体薄膜を1−ブロモエタン溶液中で四級塩化することで一次元フォトニックゲルとする方法を提案している(非特許文献4)。具体的には、ブロック共重合体であるポリスチレン−b−ポリ(2−ビニルピリジン)の溶液をスライド表面にスピンコートし、その後50℃でクロロホルムの蒸気に晒して溶媒アニールを行い、アニール終了後に薄膜を50℃の1−ブロモエタンのヘキサン溶液に浸漬して四級塩化させたうえで水を作用させてゲルフィルムを作製している。
【0006】
また、この種のブロック共重合体フォトニック薄膜は、メカノクロミック材料、サーモクロミック材料、エレクトロクロミック材料への応用も期待されている(非特許文献3,5,6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】高分子論文集(Kobunshi Ronbunshu)、2006年、63巻、205−218頁
【非特許文献2】ネイチャー マテリアルズ(Nature Materials)、2007年、6巻、957−960頁
【非特許文献3】アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials)、2009年、21巻、3078−3081頁
【非特許文献4】エーシーエス ナノ(ACS Nano)、2012年、6巻、8933−8939頁
【非特許文献5】アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials)、2011年、23巻、4702−4706頁
【非特許文献6】マクロモレキュールズ(Macromolecules)、2008年、41巻、4582−4584頁
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6433931号明細書
【特許文献2】米国特許第6671097号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2013/0015417号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献2〜6で作製されたフォトニックフィルムは、溶媒の蒸発によってナノ構造が元のサイズに戻ってしまうため、常温、大気雰囲気下では時間経過によってフォトニック材料の特性が失われるという問題があった。また、メカノクロミック材料、サーモクロミック材料あるいはエレクトロクロミック材料への応用に支障が出るという問題もあった。
【0010】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、長期間にわたって近紫外光から近赤外光までの波長領域の一部の光を反射する不揮発なフォトニック材料を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、ブロック共重合体を含む溶液を基板表面にスピンコートし、その後アニールを行い、アニール終了後に不揮発性溶媒を添加したところ、長期間にわたって近紫外光から近赤外光までの波長領域の一部の光を反射することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の不揮発なフォトニック材料は、近紫外光から近赤外光までの波長領域の一部の光を反射するフォトニック材料であって、複数の異なるポリマー鎖が繋がり、各ポリマー鎖が独立して凝集したナノ相分離構造を形成するブロック共重合体を備え、前記複数の異なるポリマー鎖のうちの少なくとも1つは、不揮発性溶媒によって膨潤されているものである。
【0013】
本発明の不揮発なフォトニック材料の製法は、近紫外光から近赤外光までの波長領域の一部の光を反射するフォトニック材料の製法であって、複数の異なるポリマー鎖が繋がったブロック共重合体を含む溶液を用いて基板上に薄膜を形成し、該薄膜を不揮発性溶媒によって膨潤させるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の不揮発なフォトニック材料は、ナノ相分離構造を有している。ナノ相分離構造を構成する各相は、異なるポリマー鎖で形成されている。そのうちの少なくとも1つのポリマー鎖は不揮発性溶媒によって膨潤されている(単なる浸漬や溶解ではない)。そのため、本発明のフォトニック材料は、いずれのポリマー鎖も膨潤されていない場合に比べて、反射光波長が大きくなり、近紫外光から近赤外光までの波長領域の一部の光を反射する。また、本発明のフォトニック材料は、ポリマー鎖を揮発性溶媒ではなく不揮発性溶媒を用いて膨潤させているため、保存中に溶媒が揮発してポリマー鎖が膨潤状態から膨潤していない元の状態に戻ってしまうことがない。したがって、長期間にわたって近紫外光から近赤外光までの波長領域の一部の光を反射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1〜4のフォトニック膜(石英基板上)の反射スペクトルである。
図2】約100日後の実施例1のフォトニック膜(石英基板上)の反射スペクトルである。
図3】TEM像であり、(a)はイオン液体添加前、(b)はイオン液体添加後を示す。
図4】SEM像であり、(a)はイオン液体添加前、(b)はイオン液体添加後を示す。
図5】小角X線散乱プロファイルであり、(a)はイオン液体添加前、(b)はイオン液体添加後を示す。
図6】実施例5〜9のフォトニック膜(ガラス基板上)の反射スペクトルである。
図7】反射スペクトルの一次ピークの波長と分子量の関係を表したグラフである。
図8】ImHTFSIの濃度(wt%)と反射光スペクトルの一次ピーク波長との関係を表すグラフである。
図9】実施例14,15のフォトニック膜(ガラス基板上)の反射スペクトルである。
図10】実施例16,17のフォトニック膜(ガラス基板上)の反射スペクトルである。
図11】実施例18,19のフォトニック膜(ガラス基板上)の反射スペクトルである。
図12】実施例20のフォトニック膜(ガラス基板上)の反射スペクトルである。
図13】実施例21のフォトニック膜(ガラス基板上)の反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の不揮発なフォトニック材料は、近紫外光から近赤外光までの波長領域の一部の光を反射するフォトニック材料であって、複数の異なるポリマー鎖が繋がり、各ポリマー鎖が独立して凝集したナノ相分離構造を形成するブロック共重合体を備え、前記複数の異なるポリマー鎖のうちの少なくとも1つは、不揮発性溶媒によって膨潤されているものである。
【0017】
本発明の不揮発なフォトニック材料において、ブロック共重合体は、複数の異なるポリマー鎖が繋がり、各ポリマー鎖が独立して凝集したナノ相分離構造を形成している。ここで、ブロック共重合体は、2つの異なるポリマー鎖が繋がったものや3つの異なるポリマー鎖が繋がったもの等が挙げられるが、2つの異なるポリマー鎖が繋がったものが好ましい。つまり、ブロック共重合体は、互いに異なる第1ポリマー鎖と第2ポリマー鎖とが繋がったものが好ましい。
【0018】
このとき、第1ポリマー鎖は、ポリスチレン類又はポリジエン類が好ましい。このうち、ポリスチレン類としては、例えば、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリジメチルスチレン、ポリトリメチルスチレン、ポリエチルスチレン、ポリイソプロピルスチレン、ポリクロルメチルスチレン、ポリメトキシスチレン、ポリアセトキシスチレン、ポリクロルスチレン、ポリジクロルスチレン、ポリブロムスチレン、ポリトリフルオロメチルスチレンなどが挙げられる。ポリジエン類としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどが挙げられる。
【0019】
また、第2ポリマー鎖は、ポリビニルピリジン類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル類、ポリメタクリル酸又はポリメタクリル酸エステル類、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾールであることが好ましい。このうち、ポリビニルピリジン類としては、例えば、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ(3−ビニルピリジン)、ポリ(4−ビニルピリジン)などが挙げられる。ポリアクリル酸エステル類としては、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸イソブチル、ポリアクリル酸ヘキシル、ポリアクリル酸−2−エチルヘキシル、ポリアクリル酸フェニル、ポリアクリル酸メトキシエチル、ポリアクリル酸グリシジルなどが挙げられる。ポリメタクリル酸エステル類としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸イソブチル、ポリメタクリル酸ヘキシル、ポリメタクリル酸−2−エチルヘキシル、ポリメタクリル酸イソデシル、ポリメタクリル酸ラウリル、ポリメタクリル酸フェニル、ポリメタクリル酸メトキシエチルなどが挙げられる。第2ポリマー鎖は、第1ポリマー鎖に比べて不揮発性溶媒によって大きく膨潤される。
【0020】
本発明の不揮発なフォトニック材料において、ブロック共重合体は、ポリスチレン−b−ポリ(2−ビニルピリジン)ブロック共重合体やポリスチレン−b−ポリメタクリル酸メチルブロック共重合体などが好ましい。
【0021】
本発明の不揮発なフォトニック材料において、ブロック共重合体は、各複数の異なるポリマー鎖が独立して凝集したナノ分離構造を形成している。ナノ相分離構造としては、スフィア構造やシリンダ構造、ラメラ構造が挙げられるが、このうちラメラ構造が好ましい。また、ブロック共重合体としては、非極性/極性、極性/極性、非高分子電解質/高分子電解質などの組み合わせが使用可能である。更に、ブロック共重合体は、共連続構造(bicontinuous structure)や準周期的な構造(quasiperiodic structure)であってもよい。なお、本発明の不揮発なフォトニック材料は、主となるブロック共重合体と不揮発性溶媒の他に、異なるブロック共重合体やホモポリマーを含んでいてもよい。複数のブロック共重合体を含む場合、それらの含有率は適宜設定すればよい。
【0022】
本発明の不揮発なフォトニック材料において、ブロック共重合体の全体分子量は、特に限定するものではないが、5万以上が好ましく、8万以上がより好ましい。分子量が5万未満になると、ポリマー鎖の1つを膨潤させたとしても、近紫外光から近赤外光までの波長領域の光を反射しないおそれがあるため、好ましくない。また、本発明のフォトニック材料の反射光の波長は、ブロック共重合体の分子量の大きさを調節することにより、調節することができる。ブロック共重合体として、コイル−コイル型(coil-coil)、ロッド−コイル型(rod-coil)、ロッド−ロッド型(rod-rod)のものを用いてもよい。
【0023】
本発明の不揮発なフォトニック材料において、ブロック共重合体は、複数の異なるポリマー鎖のうちの少なくとも1つが不揮発性溶媒によって膨潤されている。不揮発性溶媒とは、蒸気圧が極めて低く、常温(10〜50℃のいずれかの温度)、常圧(950〜1100hPaのいずれかの圧力)で液体の溶媒のことをいう。蒸気圧が極めて低いとは、常温常圧下で24時間放置しても99%以上の質量を保持することをいう。ポリマー鎖は、不揮発性溶媒との相互作用によって膨潤するものが好ましい。ここで、相互作用としては、例えば水素結合やイオン性相互作用などが挙げられる。不揮発性溶媒は、不揮発なプロトン性溶媒又はそれを含む不揮発な溶媒であってもよい。その場合、ポリマー鎖は、プロトン性溶媒からプロトンを受容して膨潤するものが好ましい。不揮発なプロトン性溶媒とは、O−H,N−Hなどのプロトン供与性基を含み、蒸気圧が極めて低く、常温、常圧で液体の溶媒のことをいう。あるいは、不揮発性溶媒は、プロトンを受容する不揮発性溶媒又はそれを含む不揮発な溶媒であってもよい。その場合、ポリマー鎖は、不揮発性溶媒へプロトンを供与するプロトン性のものであり、膨潤するものが好ましい。
【0024】
不揮発なプロトン性溶媒としては、プロトン性イオン液体が好ましい。プロトン性イオン液体としては、含窒素ヘテロ環の窒素上にプロトンを持つ含窒素ヘテロ環の塩からなるイオン液体や有機アミンの窒素上にプロトンを持つアンモニウム塩のイオン液体などが挙げられる。また、前者のイオン液体としては、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩、ピリジニウム塩、ピロリジニウム塩などが挙げられるが、このうちイミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩、ピリジニウム塩が好ましい。後者のイオン液体としては、アルキルアンモニウム塩などが挙げられる。イミダゾリウム塩としては、イミダゾリウムのビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TFSI、TFSAとも呼ぶが以下ではTFSIに統一する)塩、1−メチルイミダゾリウムの酢酸塩、TFSI塩又はビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(BETI)塩、1−エチルイミダゾリウムのトリフルオロメタンスルホン酸(TfO)塩又は過塩素酸塩、1−エチル−2−メチルイミダゾリウムのBETI塩又は過塩素酸塩、1,2−ジメチルイミダゾリウムのTFSI塩又はBETI塩などが挙げられる。トリアゾリウム塩としては、1,2,4−トリアゾリウムのTFSI塩などが挙げられる。ピリジニウム塩としては、2−メチルピリジニウムのトリフルオロ酢酸(TFA)塩などが挙げられる。ピロリジニウム塩としては、2−ピロリニウムの硝酸塩又はフェノールカルボン酸塩などが挙げられる。アルキルアンモニウム塩としては、例えば、エチルアンモニウムの硝酸塩、プロピルアンモニウムのTFA塩又は硝酸塩、ブチルアンモニウムのチオシアン酸塩又はTFSI塩、tert−ブチルアンモニウムのTfO塩、エタノールアンモニウムのテトラフルオロボロン酸(BF4)塩、アラニンメチルエステルのTFSI塩又はBF4塩、アラニンエチルエステルの硝酸塩、イソロイシンメチルエステルの硝酸塩、スレオニンメチルエステルの硝酸塩、ロリンメチルエステルの硝酸塩、ビス(プロリンエチルエステル)の硝酸塩、1,1,3,3−テトラメチルグアニジニウムの酪酸塩、ジプロピルアンモニウムのチオシアン酸塩、ジプロピルアンモニウムの硝酸塩、1−メチルプロピルアンモニウムのチオシアン酸塩、トリエチルアンモニウムのTFSI塩、トリエチルアンモニウムのメタンスルホン酸塩、トリブチルアンモニウムの硝酸塩、ジメチルエチルアンモニウムの硫酸塩などが挙げられる。
【0025】
なお、塩基(たとえば1−エチルイミダゾール)と酸(たとえばトリフルオロメタンスルホン酸)の混合により合成するプロトン性イオン液体の場合は、塩基と酸の比率が1対1でなくても常温常圧で不揮発性である場合はこれをプロトン性イオン液体とみなす。また塩(アラニンエチルエステル塩酸塩)と塩(たとえばトリフルオロメタンスルホン酸リチウム)との混合により作製するプロトン性イオン液体の場合は固体塩(上記の場合では塩化リチウム)が混合していても常温常圧で不揮発性である場合はこれをプロトン性イオン液体とみなす。
【0026】
一般に、異なる屈折率成分が100〜250nm周期で積層した材料は、特定波長の光を反射する。このような材料を1次元フォトニック結晶と呼ぶ。一方、ブロック共重合体は、ナノ相分離構造と呼ばれるnmオーダーの規則的周期構造を形成する。ゆえに、周期サイズの大きなナノ相分離構造(例えばラメラ構造)を発現させれば1次元フォトニック結晶として利用可能である。本発明のフォトニック材料は、ポリマー鎖の1つを不揮発性溶媒で膨潤させることにより、構造周期のサイズを比較的大きく(例えば130〜300nm)し、その結果可視光領域の光を反射するようにしたものである。ポリマー鎖を膨潤するのに不揮発性溶媒を用いているため、半永久的に近紫外光から近赤外光までの波長領域の一部の光を反射することができる。
【0027】
こうした本発明の不揮発なフォトニック材料の製法について、以下に説明する。まず、複数の異なるポリマー鎖が繋がったブロック共重合体を含む溶液を用いて基板上に薄膜を形成する。その後、その薄膜を不揮発性溶媒によって膨潤させる。こうすることにより、上述した本発明の不揮発なフォトニック材料を得ることができる。なお、薄膜を形成した後に溶媒蒸気中でアニールを行ってもよい。
【0028】
ブロック共重合体を含む溶液を用いて基板上に薄膜を形成する工程において、薄膜を形成する方法としては、薄膜が形成できれば特に限定されないが、例えば、スピンコート法、溶媒キャスト法、浸漬コーティング法、ロールコート法、カーテンコート法、スライド法、エクストリュージョン法、バー法、グラビア法などの一般的な方法を採用することができる。このうち、生産性などの観点から、スピンコート法が好ましい。スピンコート法の条件は、使用するブロック共重合体に応じて適宜設定すればよい。薄膜の厚さは、特に限定されないが、例えば0.5〜10μmとすればよい。
【0029】
薄膜を溶媒蒸気中でアニールを行う工程を採用する場合、溶媒はブロック共重合体に応じて適宜選択すればよいが、例えばクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶媒やTHFなどのエーテル系溶媒などが挙げられる。アニールの温度や時間もブロック共重合体に応じて適宜設定すればよいが、例えば30〜90℃で6〜48時間としてもよい。このアニールによって、ブロック共重合体は熱力学的に安定な構造であるナノ相分離構造(例えばラメラ構造)に落ち着く。
【0030】
薄膜を不揮発性溶媒によって膨潤させる工程において、不揮発性溶媒については、上述したものを使用可能である。この工程では、薄膜の上に不揮発性溶媒を滴下し、薄膜全体にその溶媒が行き渡るようにした後、30〜90℃で加熱することにより、ブロック共重合体を構成する複数の異なるポリマー鎖のうちの少なくとも1つを不揮発性溶媒によって膨潤させる。加熱温度と時間は、使用するブロック共重合体や不揮発性溶媒に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
ABジブロック共重合体として、ポリスチレン−b−ポリ(2−ビニルピリジン)(以下、「PS−P2VP」という)を、Polymer Journal 18, 493-499(1986)に記載のブロック共重合体合成法(高真空ブレイカブルシール法)を参考にして合成した。具体的な手順を以下に示す。
【0033】
α−スチレンテトラマージナトリウムのTHF溶液で高真空反応釜内の洗浄を行った。クミルメチルエーテルと金属カリウムとを反応させて合成できるクミルカリウムのTHF溶液(1.92×10-2M、5.5mL)を高真空反応釜に投入し、その後十分に精製されたTHF300mLを投入した。反応釜を−78℃に冷却し十分攪拌させたのちに、スチレンモノマーのTHF溶液(1.92M、25mL)を投入してアニオン重合を開始した。15分後、2−ビニルピリジンモノマーのTHF溶液(1.92M、25mL)を反応釜投入し、ブロック共重合を開始した。5時間後、停止剤となるイソプロパノールを添加して重合反応を停止させた。得られたPS−P2VPをヘキサン中で沈殿精製して回収した。
【0034】
精製したPS−P2VPをDMFに溶解して0.1wt%の溶液を調製し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、分子量分布(Mw/Mn)を決定した。溶出液はDMF、流速は1mL/minとし、東ソー製のTSK−GELカラムG4000HHRを3本連結させた状態で測定を行った。分子量の較正に標準ポリスチレンを用いたところ、分子量分布Mw/Mnは1.12であった。Varian製のUNITY−INOVA 500MHz核磁気共鳴装置による測定からPSの組成(体積分率φs)を決定したところ、0.50であった。また膜浸透圧測定によりブロック共重合体の数平均分子量Mnを求めたところ、78kであった。こうして得られたPS−P2VPをSP01と称することとする。
【0035】
得られたSP01を1,4−ジオキサンに溶解させて7wt%の溶液を調製した。続いて、石英スライドガラスにこの溶液を滴下し、スピンコーター(ミカサ(株)製の1H−DX2)を用いて、スピンコート回転数500rpm、スピンコート時間60秒でスピンコート法により膜厚約2μmの薄膜を形成した。続いて、薄膜中のSP01のナノ相分離構造を最適化するために、溶媒蒸気でアニールを行った。具体的には、クロロホルムの蒸気を用い、40℃で12時間アニールを行った。続いて、アニールを終えた薄膜の上にイオン液体を滴下し、パスツールピペットでイオン液体を広げることにより膜全体にイオン液体が行き渡るようにし、ホットプレートを用いて40℃で約1時間温めて、薄膜が最大の膨潤状態となるようにした。このようにして実施例1のフォトニック膜を作製した。
【0036】
ここでは、イオン液体として、イミダゾールとビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドとをモル比7:3で混合して得られたプロトン性イオン液体ImHTFSI(化1参照)を用いた。このイオン液体は、ガラス転移温度Tgが約−77℃、融解温度Tmが約12℃、屈折率nDが1.44(20℃)であった。
【0037】
【化1】
【0038】
[実施例2]
クミルカリウムのTHF溶液(1.92×10-2M、4.2mL)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてPS−P2VPを合成した。得られたPS−P2VPは、Mw/Mn=1.14、φs=0.47,Mn=108kであった。このPS−P2VPをSP02と称することとする。このSP02を用いて、実施例1と同様にして、実施例2のフォトニック膜を作製した。
【0039】
[実施例3]
クミルカリウムのTHF溶液(1.92×10-2M、3.2mL)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてPS−P2VPを合成した。得られたPS−P2VPは、Mw/Mn=1.06、φs=0.50,Mn=158kであった。このPS−P2VPをSP03と称することとする。このSP03を用いて、実施例1と同様にして、実施例3のフォトニック膜を作製した。
【0040】
[実施例4]
クミルカリウムのTHF溶液(1.92×10-2M、1.4mL)を用いたこと、THFの蒸気を用いてアニールを行ったこと以外は、実施例1と同様にしてPS−P2VPを合成した。得られたPS−P2VPは、Mw/Mn=1.10、φs=0.51,Mn=334kであった。このPS−P2VPをSP04と称することとする。このSP04を用いて、実施例1と同様にして、実施例4のフォトニック膜を作製した。
【0041】
[反射スペクトル]
実施例1〜4のフォトニック膜の可視光と紫外光、赤外光に対する反射率を以下の装置、条件で測定した。
光源:オーシャン・オプティクス社製のDH2000−BAL重水素・ハロゲンランプ
分光器:オーシャン・オプティクス社製のQE−65000
露光時間:8msec
測定環境:暗室内、室温
【0042】
図1(a)〜(d)に反射スペクトルを示す。実施例1のフォトニック膜は、406nmの青色の可視光を反射した。実施例2のフォトニック膜は、507nmの黄緑〜青緑色の光を反射した。実施例3のフォトニック膜は、579nmの黄色の光を反射した。また、302nmに2次ピークが見えており、ラメラ構造の存在が示唆された。実施例4のフォトニック膜は、861nmの近赤外光を反射した。また、436nmに2次ピーク、300nmに3次ピークが見えており、実施例3と同様にラメラ構造が示唆された。この実施例4のフォトニック膜は、外観上は青色に見えた。また、図2の通り、実施例1のフォトニック膜は、大気中、室温で約100日放置した後も、放置前とほぼ同様の光を反射していることを確認した。実施例2〜4についても、放置後も放置前と同様の光を反射していることを確認した。
【0043】
[TEM観察]
イオン液体による膨潤前後の薄膜のナノ相分離構造を観察するため、実施例1のフォトニック膜を別途調製し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてそれを観察した。薄膜を形成するにあたって、石英スライドガラスの代わりにポリイミド膜を用いた。また、膜の表面を親水化するため、膜を40℃の1M KOH水溶液中で15分間浸すというアルカリ処理を行った。そして、イオン液体を添加する前の薄膜とイオン液体を添加した後の薄膜をそれぞれ切り取ってエポキシ樹脂に包埋した後、ミクロトームを用いて超薄切片(厚さ50nm)を作製し、Cuグリッドの上に載せた。その後、超薄切片をヨウ素により40分間染色し、以下の装置、条件でTEM観察を行った。
装置:日本電子(株)製のJEM−1400
加速電圧:120kV
【0044】
図3(a)はイオン液体添加前のTEM像、図3(b)はイオン液体添加後のTEM像である。図において、白色部分がポリスチレン相(PS相)、黒色部分がポリ(2−ビニルピリジン)相(P2VP相)である。イオン液体添加前は、図3(a)から、白色部分の厚さが17nm、黒色部分の厚さが18nm、両方の和すなわち繰り返し周期Dが35nmであった。一方、イオン液体添加後は、図3(b)から、白色部分の厚さが18nm、黒色部分の厚さが102nm、両方の和すなわち繰り返し周期Dが120nmであった。以上のことから、イオン液体添加前に比べて添加後は約3.4倍(=120nm/35nm)に膨らんだことがわかる。
【0045】
[FE−SEM観察]
イオン液体の膨潤前後の薄膜の膜厚を測定するために、実施例1でイオン液体を添加する前後の薄膜を別途調製し、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いてそれを観察した。ここでは、薄膜を形成するにあたって、石英スライドガラスの代わりにカバーグラスを用いた。観察に用いた装置、条件は以下のとおりである。図4(a)はイオン液体添加前のSEM像、図4(b)はイオン液体添加後のSEM像である。図4から、イオン液体添加後は添加前の3.4倍(=7.9μm/2.3μm)に膨潤していることがわかった。
装置:日本電子(株)製のJSM−7500FA
加速電圧:1kV
【0046】
なお、TEM像やSEM像の観察ができたということは、真空内で測定できたということであるため、使用したイオン液体が不揮発だったことの証明となる。
【0047】
[SAXS測定]
イオン液体の膨潤前後の構造の大きさを求めるために、実施例1でイオン液体を添加する前後の薄膜をポリイミド基板上に別途調製し、小角X線散乱(SAXS)測定を行った。イオン液体によって膨潤したものと膨潤していない膜を作製し、膜を切り取りSAXS測定用試料とした。装置、条件は以下のとおりである。図5(a)はイオン液体添加前のSAXSプロファイル、図5(b)はイオン液体添加後のSAXSプロファイルである。イオン液体によって膨潤していないもののSAXSプロファイルには、奇数次ピークが観測されたため、2成分の組成が等しいラメラ構造を形成していると判断した。繰り返し周期Dは43nmであった。一方、イオン液体によって膨潤したもののSAXSプロファイルでは、最も低q値に見えるピークを2次と仮定すると、その後に見えるピークのq値の比が3:4:5:6になったことから、1次ピークは隠れて見えていないが、ラメラ構造を形成していると判断した。繰り返し周期は138nmであった。すなわちイオン液体添加後は添加前の3.2倍(=138nm/43nm)に膨潤していることがわかる。
装置:高エネルギー加速器研究機構(KEK)Photon Factory(PF) beamline 10C
X線波長:0.15nm
カメラ長:199cm
【0048】
[比較例1]
イオン液体として、ImHTFSIの代わりにEMITFSI(エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、化2参照)を用いた以外は、実施例1と同様にして薄膜を作製したが、近紫外光から近赤外光までの波長領域の光を反射しなかった。このような結果に終わった原因は、実施例1で用いたImHTFSIがプロトン性イオン液体だったのに対して、比較例1で用いたEMITFSIは非プロトン性イオン液体だったことによると考えられる。P2VPを溶解、膨潤するプロトン性イオン液体とP2VPとの間には、水素結合やイオン性相互作用などが生じていると考えられ、一方非プロトン性イオン液体ではそのような作用が生じず、P2VPを膨潤しなかったと考えられる。
【0049】
【化2】
【0050】
[実施例5〜9]
ABジブロック共重合体として、40.5k−41k、40k−44k、55k−50k、84k−69k、102k−97kの計5つのPS−P2VPをポリマー・ソース社(Polymer Source Inc.)から購入し、上述した実施例1と同様にしてフォトニック薄膜を作製した。それぞれのポリマーをSP05、SP06、SP07、SP08、SP09と命名し、フォトニック膜作製工程についてはそれぞれ実施例5〜実施例9とする。図6(a)〜(e)にそれらの反射スペクトルを示す。実施例5のフォトニック膜は、393nmの青紫色の光を反射した。実施例6のフォトニック膜は、398nmの青紫色の光を反射した。実施例7のフォトニック膜は、455nmの青色の光を反射した。実施例8のフォトニック膜は、584nmの黄緑色の光を反射した。実施例9のフォトニック膜は、629nmの赤色の光を反射した。また、実施例9のフォトニック膜は、322nmに2次ピークが見えており、ラメラ構造の存在が示唆された。
【0051】
実施例1〜9のフォトニック膜の数平均分子量Mn、体積分率φs、反射スペクトルのピーク波長λ(nm)を表1にまとめた。表1に基づいて、横軸を数平均分子量Mn、縦軸を反射スペクトルのピーク波長λ(nm)とするグラフを作成した。そのグラフを図7に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
[実施例10〜13,比較例2]
ABジブロック共重合体として、SP09を用い、上述した実施例1と同様にしてフォトニック薄膜を作製した。ここでは、イオン液体として、ImHTFSIとEMITFSIとの混合比(重量比)を表2に示すものを用いた。そして、これらの反射光の色や反射スペクトルを測定した。その結果を表2に示す。表2に示すように、EMITFSIを単独で用いた場合(比較例2)には可視光を反射しなかったが、ImHTFSIを単独で用いた場合(実施例9)やImHTFSIとEMITFSIとの混合溶媒を用いた場合(実施例10〜13)には可視光を反射した。こうしたことから、可視光を反射するフォトニック膜を得るためには、使用する溶媒に不揮発なプロトン性溶媒を含んでいればよいことがわかった。図8は、ImHTFSIの濃度(wt%)と反射光スペクトルのピーク波長との関係を表すグラフである。ImTFSIの濃度(wt%)は、EMITFSIとImTFSIとの混合溶媒に対するImTFSIの重量割合である。このグラフから明らかなように、ImHTFSIの濃度が高くなるにつれて反射光スペクトルのピーク波長も高くなることがわかった。つまり、反射スペクトルのピーク波長は、不揮発なプロトン性溶媒であるImHTFSIの濃度によって制御できることがわかった。
【0054】
【表2】
【0055】
[実施例14,15]
実施例14では、イオン液体としてトリアゾ−ル塩であるTAZHTFSI(下記化3参照)を用いた以外は実施例1と同様にしてフォトニック膜を作製し、実施例15では、イオン液体としてメチルイミダゾリウム塩であるMImHTFSI(下記化3参照)を用いた以外は実施例1と同様にしてフォトニック膜を作製した。図9(a)、(b)にそれらの反射スペクトルを示す。いずれのフォトニック膜も、イオン液体によって膨潤化した。また、実施例14では396nmの可視光を、実施例15では411nmの可視光を反射することを確認した。なお、TAZHTFSIはTm=22.8℃の無色透明の液体であり、MImHTFSIはTm=9℃の無色透明の液体である。
【0056】
【化3】
【0057】
[実施例16,17]
実施例16では、イオン液体として3級アミンのアンモニウム塩であるTEATFSI(下記化4参照)を用いた以外は実施例1と同様にしてフォトニック膜を作製し、実施例17では、イオン液体として3級アミンのアンモニウム塩であるtBATfO(下記化4参照)を用いた以外は実施例1と同様にしてフォトニック膜を作製した。図10(a)、(b)にそれらの反射スペクトルを示す。いずれのフォトニック膜も、イオン液体によって膨潤化した。また、実施例16では341nmの光を、実施例17では361nmの光を反射することを確認した。なお、TEATFSIは無色透明の液体であり、tBATfOは無色透明の液体である。
【0058】
【化4】
【0059】
[実施例18,19]
実施例18では、イオン液体としてピリジニウム塩である2MPyTFA(下記化5参照)を用いた以外は実施例1と同様にしてフォトニック膜を作製し、実施例19では、エチルイミダゾリウム塩であるEImTfO(下記化5参照)を用いた以外は実施例1と同様にしてフォトニック膜を作製した。図11(a)、(b)にそれらの反射スペクトルを示す。いずれのフォトニック膜も、イオン液体によって膨潤化した。また、実施例18では356nmの光を、実施例19では387nmの光を反射することを確認した。なお、2MPyTFAは淡黄色の液体であり、EImTfOは無色透明の液体である。
【0060】
【化5】
【0061】
[実施例20]
ABジブロック共重合体として、80k−80kのポリスチレン−ポリメチルメタクリレート(以下、「PS−PMMA」という)を、ポリマー・ソース社(Polymer Source Inc.)から購入した。このPS−PMMAを用いて、実施例1と同様にして、ImHTFSIを用いて実施例20のフォトニック膜を作製した。図12に反射スペクトルを示す。637nmの光を反射することを確認した。このフォトニック膜は、赤色の可視光を反射した。
【0062】
[実施例21]
ABジブロック共重合体として、66k−63.5kのPS−PMMAを、ポリマー・ソース社(Polymer Source Inc.)から購入した。このPS−PMMAを用いて、実施例1と同様にして、ImHTFSIを用いて実施例21のフォトニック膜を作製した。図13に反射スペクトルを示す。薄膜表面に乱れが見られたため、鋭い反射ピークを確認することはできなかったが、453m周辺の光を反射することを確認した。このフォトニック膜は、青色の可視光を反射した。
【0063】
[比較例3〜11]
実施例1において、ImHTFSIの代わりにEHIBr、EPyTFSI、EMIBF4、TOMAC(下記化6参照)を用いてフォトニック薄膜を作製しようとしたが(比較例3〜6)、可視光を反射しなかった。また実施例20において、ImHTFSIの代わりにEMITFSI、EHIBr、EPyTFSI、EMIBF4、TOMACを用いてフォトニック薄膜を作製しようとしたが(比較例7〜11)、これも可視光を反射しなかった。このような結果に終わった原因は、実施例1や実施例20で用いたImHTFSIがプロトン性イオン液体だったのに対して、比較例3で用いたEMITFSIは非プロトン性イオン液体だったことによると考えられる。P2VPやPMMAを膨潤化させるプロトン性イオン液体とP2VPやPMMAとの間には、水素結合やイオン性相互作用などが生じていると考えられる。一方非プロトン性イオン液体ではそのような作用は生じず、P2VPやPMMAを膨潤しなかったと考えられる。
【0064】
【化6】
【0065】
なお、上述したようにフォトニック膜の反射率は実施例によって異なったが、その理由はフォトニック膜の出来具合(ナノ構造が何周期の繰り返しを持つか、繰り返し単位はどれも同じで乱れていないか、表面は荒れていないか、界面は十分に狭いか等)によって反射率が変わるためと考えられる。ちなみに反射率は同一フォトニック膜内でも場所によって変化する。
【0066】
本出願は、2013年5月13日に出願された日本国特許出願第2013−101409号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【0067】
なお、上述した実施例は本発明を何ら限定するものでないことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、光学フィルタや偏光子、波長板などに利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13